説明

コイヘルペスウイルス(KHV)の検出法

【課題】
コイヘルペスウイルス(KHV)を特異的、高感度かつ迅速に検出する方法を提供すること。
【解決手段】
コイヘルペスウイルス(KHV)に由来する塩基配列から設計された任意の塩基配列と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、核酸増幅の検出によるコイヘルペスウイルス(KHV)検出方法、並びにコイヘルペスウイルス(KHV)検出用キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイヘルペスウイルス(KHV)の検出方法に関し、さらに詳しくは遺伝子の、高感度な検出法を利用したコイヘルペスウイルス(KHV)感染症の診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コイヘルペスウイルス(KHV)は感染コイの鰓(エラ)、腎臓、脾臓、腸管および肝臓と広い範囲に感染する。電子顕微鏡下での観察によると、ヘルペスウイルス科と一致する形態とサイズであり、直径100〜110nmの正二十面体のCapsidからウイルス粒子は構成されている。成熟粒子はEnvelopeを持ち、直径170〜230nmの大きさとなる。DNAウイルスであるコイヘルペスウイルス(KHV)のゲノムサイズは277Kbpと推定されているが、ヘルペスウイルス科ウイルスのゲノムサイズの上限250Kbpを越えているため、コイヘルペスウイルス(KHV)の分類学上の位置はまだ確定していない。DNA polymeraseと他の遺伝子の配列解析によると、コイヘルペスウイルス(KHV)はコイ成魚の皮膚腫瘍の原因ウイルスであるCyprinid herpesvirus-1(CyHV-1)およびキンギョ由来のCyprinid herpesvirus-2(CyHV-2)と最も近接しているため、コイヘルペスウイルス(KHV)はコイヘルペスウイルス科のCyprinid herpesvirus-3(CyHV-3)と考えるべきであると提言されている。
【0003】
コイヘルペスウイルス(KHV)は1998年5月、イスラエルで世界で初めて発見され、以後、アメリカ、イギリス、ドイツ、オランダ、ベルギーなど欧米諸国に感染拡大した。また、インドネシアや台湾などアジア圏でも発生が確認されている。イスラエルは日本と同様に観賞用としてニシキゴイの養殖が盛んに行われており、欧米向けに輸出されている。アメリカ、イギリスの発生例はイスラエル産のニシキゴイが原因と断定されている。インドネシアのジャワ島西部の養殖場で発生したコイヘルペスウイルス(KHV)による大量死は、中国から輸入したニシキゴイを島の東部から西部へ移したことがきっかけで、島全体に感染が拡大した。このように、コイヘルペスウイルス(KHV)に感染したコイの世界的流通が感染拡大に直接つながっている。日本は、持続的養殖生産確保法の特定疾病にコイヘルペスウイルス(KHV)を追加指定し、コイの輸入を許可制にして警戒態勢をとってきたにもかかわらず、大規模養殖池を中心に発生してしまった。日本で確認されたコイヘルペスウイルス(KHV)は、遺伝子の一部が海外のものとほぼ同じ塩基配列であること、国内ではそれまで大量死は確認されなかったことなどから、やはり海外から国内に入ってきたものと推測されている。コイヘルペスウイルス(KHV)は、家畜や魚類の感染症の国際的監視機関である国際獣疫事務局(OIE)への届け出対象外であるため、世界の流行状況が詳しくわかっていないのが現状であり、インドネシアにコイヘルペスウイルス(KHV)感染コイを輸出した中国は自国内での流行の有無を公にもしていない。
【0004】
コイヘルペスウイルス(KHV)の増殖には水温が密接に関与しており、15〜25℃の範囲では活発に増殖するが、4〜10℃に下がるとほとんど増えない。また、逆に30℃以上となると増殖しないため、体温が36℃付近のヒトにはコイヘルペスウイルス(KHV)の害が及ばない。この温度感受性は、水温が低下する冬季には活動を休止し、春になって水温が上がり始めると再び活動しはじめ、流行する可能性を示している。一方で、低水温期間が長いと、感染コイはコイヘルペスウイルス(KHV)に対して免疫を持つと考えられており、水温を上げても死亡する確率が低くなる。このような生存魚はコイヘルペスウイルス(KHV)を体内に潜ませたキャリアになる可能性があり、未感染の湖沼、河川など環境への持ち込みによる新たなコイヘルペスウイルス(KHV)事故の発生が起こりうる。完全な蔓延防止は困難であり、根絶は無理ではないかとの専門家による見解も聞かれる。なお、コイヘルペスウイルス(KHV)の由来については、もともとコイの体内にいたウイルスが突然変異して激しい病原性を獲得した、または、他の魚が持っていたウイルスがコイに感染して病原性を獲得したとの説が考えられているが、現状では決め手はない。
【0005】
コイヘルペスウイルス(KHV)感染コイの症状は、緩慢行動、平衡感覚失調、摂餌不良となり、外観としては鰓(えら)の変化が特徴的である。鰓の退色、びらん、巣状壊死、二次鰓弁の癒合が顕著に観察され、IchthyododoやTrichodinaなどの原虫や、Flavobacterium columnareなどの細菌による二次感染がしばしば見られる、その他には、胸鰭(ひれ)のうっ血および出血、体表の部分的退色、粘液の分泌異常、眼球の落ち込みなどが観察される。その他、特徴的な剖検所見は乏しく、内臓の癒着がみられる程度である。
【0006】
確定診断としてPCR法が使用されているが、ほとんどの検査対象はすでに死亡した固体である。しかし、固体同士の接触や、感染魚から尿やふんとともに排出されたウイルスによって感染すると考えられているため、ニシキゴイなど高価な観賞魚については、同居飼育した不要稚魚を検査対象とする方法が、ニシキゴイ養殖の盛んな新潟県などでで行われている。検査部位は外観異常のみられる鰓を使用することが検査チャートで指定されているが、腎臓、脾臓、心臓も検査部位とする場合もある。指針では、各都道府県の水産試験場など担当機関において、W. Grayらが開発したPCR(増幅産物:290bp、非特許文献1)を行い、コイヘルペスウイルス(KHV)と疑われる結果の場合に独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所に検体を送付し、さらにO. GiladやR. Hedrickが開発した別のPCR(増幅産物:484bp、非特許文献2)を行い、いずれも陽性となった場合にコイヘルペスウイルス(KHV)と確定される。培養株化細胞を用いたウイルス粒子の単離も行われるが、細胞の感受性が低いため、前述のふたつのPCRの結果をもってコイヘルペスウイルス(KHV)病の診断とされる。現在までに(2004年3月)7つのPCR法が世界で使用されているが、国内では上記のPCR法が実績のある方法として採用されているようである。
【0007】
このようにコイヘルペスウイルス(KHV)検査においてPCR法は信頼性の高い方法として認知されているが、さらなる感度の向上と迅速かつ簡便な遺伝子検出法が必要とされている。
本発明者らは、現在知られている方法、免疫学的測定法やPCR法より高感度で特異的かつ所要時間が短い検出方法、すなわちLAMP法を用いることで、本発明の目的を達成できた。
【0008】
【非特許文献1】W. L. Gray, et.al.,"Journal of Fish Diseases" 25 : 171-178 (2002)
【非特許文献2】O. Gilad, et.al.,"Diseases of Aquatic Organisms" 48 : 101-108 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、コイ(マゴイおよびニシキゴイ)のコイヘルペスウイルス(KHV)感染症の診断のために、その病原ウイルスであるコイヘルペスウイルス(KHV)を高感度に検出させることを目的とする。また媒介となりうる河川水および湖沼水など環境水におけるコイヘルペスウイルス(KHV)の有無を検査することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、コイヘルペスウイルス(KHV)に特異的な塩基配列と選択的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーを作製し、LAMP法によりコイヘルペスウイルス(KHV)に特異的な塩基配列を増幅することで、コイヘルペスウイルス(KHV)を高感度に検出できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)配列番号1で示されるコイヘルペスウイルス(KHV)に由来する塩基配列の、212番〜457番の塩基配列から選ばれた任意の塩基配列、又はそれらと相補的な塩基配列から設計されたオリゴヌクレオチドプライマー。
(2)コイヘルペスウイルス(KHV)に特異的なPCR増幅産物塩基配列から選ばれた配列番号2〜9で示される塩基配列又はそれらと相補的な塩基配列から選ばれた、少なくとも連続する12塩基を含む(1)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(3)コイヘルペスウイルス(KHV)の標的核酸上の3'末端側からF3c、F2c、F1cという塩基配列領域を、5'末端側からR3、R2、R1という塩基配列領域を選択し、それぞれの相補的塩基配列をF3、F2、F1、そしてR3c、R2c、R1cとしたときに、以下の(a)〜(d)から選ばれた少なくとも1種の塩基配列からなることを特徴とする(1)〜(2)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)標的核酸のF2領域を3'末端側に有し、5'末端側に標的核酸のF1c領域を有する塩基配列。
(b)標的核酸のF3領域を有する塩基配列。
(c)標的核酸のR2領域を3'末端側に有し、5'末端側に標的核酸のR1c領域を有する塩基配列。
(d)標的核酸のR3領域を有する塩基配列。
(4)コイヘルペスウイルス(KHV)に特異的な塩基配列を増幅でき、5'末端から3'末端に向かい以下の(e)〜(h)から選ばれた塩基配列から成ることを特徴とする(1)〜(3)記載のオリゴヌクレオチプライマー。
(e)5'−(配列番号2の塩基配列に相補的な塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号3の塩基配列)−3'
(f)5'−(配列番号6の塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号7の塩基配列に相補的な塩基配列)−3'
(5)(1)〜(4)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、コイヘルペスウイルス(KHV)の標的核酸領域の増幅反応を行うことを特徴とするコイヘルペスウイルス(KHV)の検出方法。
(6)コイヘルペスウイルス(KHV)の標的核酸領域の増幅反応がLAMP法であることを特徴とする(5)記載のコイヘルペスウイルス(KHV)の検出方法。
(7)(1)〜(4)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてコイヘルペスウイルス(KHV)の標的核酸領域の増幅を検出することにより、コイヘルペスウイルス(KHV)感染の有無を診断することを特徴とするコイヘルペスウイルス(KHV)感染症の診断方法。
(8)コイヘルペスウイルス(KHV)感染症の診断方法において、(1)〜(4)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを含むことを特徴とするキット。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、特異的、高感度かつ迅速にコイヘルペスウイルス(KHV)を検出できる。 以下、本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において使用される試料としては、コイ(マゴイおよびニシキゴイ)由来の検体、例えば鰓(エラ)、腎臓、脾臓、腸管および肝臓、あるいは河川水および湖沼水などの環境水などが挙げられる。
【0014】
鰓(エラ)、腎臓、脾臓、腸管および肝臓などコイ(マゴイおよびニシキゴイ)由来の組織を試料とする場合、タンパク質分解酵素等による組織細胞由来タンパク質を分解後、フェノールおよびクロロホルムを用いた方法など一般的なDNA抽出・精製法はもちろん、既に市販されている抽出キット(例えばキアゲン社のDNeasy Tissue Kitや、Gentra社のPureGene Cell and Tissue Kitなど)を用いて得られた抽出核酸を検体とする。もしくは、迅速な検出のため、未精製の状態のままの試料処理液を検体として使用できる場合も含む。
【0015】
河川水および湖沼水などの環境水を試料とする場合、フィルターによるろ過、あるいはコイヘルペスウイルス(KHV)粒子表面に特異的に吸着する粒子やフィルターなど固相担体による濃縮操作を行い、大量の環境水からコイヘルペスウイルス(KHV)を検出可能な濃度まで濃縮する。アルミニウムイオンなど陽イオンをコーティングしたろ過フィルターとの吸着作用を用いることで、高い回収率でコイヘルペスウイルス(KHV)を濃縮することが可能である。得られた濃縮試料を加熱処理など簡易な方法で抽出核酸を調製し検体とする。
【0016】
このような組織または環境由来の核酸を増幅するためには、近年、納富らが開発した、PCR法で不可欠とされる温度制御が不要な新しい核酸増幅法:LAMP(Loop-mediated Isothermal Amplification)法と呼ばれるループ媒介等温増幅法(特許公報国際公開第00/28082号パンフレット)で達成させられる。この方法は、鋳型となるヌクレオチドに自身の3'末端をアニールさせて相補鎖合成の起点とするとともに、このとき形成されるループにアニールするプライマーを組み合わせることにより、等温での相補鎖合成反応を可能とした核酸増幅法である。また、LAMP法では、プライマーの3'末端が常に試料に由来する領域に対してアニールするために、塩基配列の相補的結合によるチェック機構が繰り返し機能するため、その結果として、高感度にかつ特異性の高い核酸増幅反応を可能としている。
【0017】
LAMP反応で使用されるオリゴヌクレオチドプライマーは、鋳型核酸の塩基配列の計6領域、すなわち3'末端側からF3c、F2c、F1cという領域と、5'末端側からR3、R2、R1という領域の塩基配列を認識する少なくとも4種類のプライマーであって、各々インナープライマーF及びR、アウタープライマーF及びRと呼ぶ。また、F1c、F2c、F3cの相補配列をそれぞれF1、F2、F3、またR1、R2、R3の相補鎖をR1c、R2c、R3cと呼ぶ。インナープライマーとは、標的塩基配列上の「ある特定のヌクレオチド配列領域」を認識し、かつ合成起点を与える塩基配列を3'末端に有し、同時にこのプライマーを起点とする核酸合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を5'末端に有するオリゴヌクレオチドである。ここで、「F2より選ばれた塩基配列」及び「F1cより選ばれた塩基配列」を含むプライマーをインナープライマーF(以下IPF)、そして「R2より選ばれた塩基配列」と「R1cより選ばれた塩基配列」を含むプライマーをインナープライマーR(以下IPR)と呼ぶ。インナープライマーは、「F2より選ばれた塩基配列」と「F1cより選ばれた塩基配列」の間、あるいは「R2より選ばれた塩基配列」と「R1cより選ばれた塩基配列」の間に、塩基数0〜50の任意の塩基配列を持っても良い。一方、アウタープライマーとは、標的塩基配列上の『「ある特定のヌクレオチド配列領域」の3'末端側に存在するある特定のヌクレオチド配列領域』を認識かつ合成起点を与える塩基配列を有するオリゴヌクレオチドである。ここで、「F3より選ばれた塩基配列」を含むプライマーをアウタープライマーF(以下OPF)、「R3より選ばれた塩基配列」を含むプライマーをアウタープライマーR(以下OPR)と呼ぶ。ここで、各プライマーにおけるFとは、標的塩基配列のセンス鎖と相補的に結合し、合成起点を提供するプライマー表示であり、一方Rとは、標的塩基配列のアンチセンス鎖と相補的に結合し、合成起点を提供するプライマー表示である。ここで、プライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドの長さは、10塩基以上、好ましくは12塩基以上で、化学合成あるいは天然のどちらでも良く、各プライマーは単一のオリゴヌクレオチドであってもよく、複数のオリゴヌクレオチドの混合物であってもよい。
【0018】
LAMP法においては、インナープライマーとアウタープライマーに加え、さらにこれとは別のプライマー、すなわちループプライマーを用いる事ができる。ループプライマー(LPFまたはLPR)は、ダンベル構造の5'末端側のループ構造の一本鎖部分の塩基配列に相補的な塩基配列を持つプライマーである。このプライマーを用いると、核酸合成の起点が増加し、反応時間の短縮と検出感度の上昇が可能となる(特許文献国際公開第02/24902号パンフレット)。ループプライマーの塩基配列は上述のダンベル構造の5'末端側のループ構造の一本鎖部分の塩基配列に相補的であれば、標的遺伝子の塩基配列あるいはその相補鎖から選ばれても良く、他の塩基配列でも良い。また、ループプライマーは1種類でも2種類でも良い。
【0019】
本発明者らは、コイヘルペスウイルス(KHV)に由来する塩基配列より、配列番号1で示される塩基配列から、コイヘルペスウイルス(KHV)の特異的な塩基配列を迅速に増幅できるLAMP法のプライマーの塩基配列とその組み合わせを鋭意研究した結果、下記のプライマーセットを選定した。
IPF:5'-CCCAAACCCAAGAAGCAGAAACCCGTTGCCTGTAGCATAGAAGA-3'(配列番号10)
OPF:5'-CTGTATGCCCGAGAGTGC-3' (配列番号4)
IPR:5'-CACTCCTCCGATGGAGTGAAACTGCCCATGTGCAACTTTG-3' (配列番号11)
OPR:5'-AACTCCATCGCCGTCATG-3' (配列番号12)
LPF:5'-CCCGCCGCCGCA-3' (配列番号13)
LPR:5'-TGGAACTGTCTGATGAGCGT-3' (配列番号9)
【0020】
核酸合成で使用する酵素は、鎖置換活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素であれば特に限定されない。このような酵素としては、Bst DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント)、Bca(exo-)DNAポリメラーゼ、大腸菌DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント等が挙げられ、好ましくはBst DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント)が挙げられる。
【0021】
LAMP反応による核酸増幅産物の検出には公知の技術が適用できる。例えば、増幅された塩基配列を特異的に認識する標識オリゴヌクレオチドや蛍光性インターカレーター法(特許文献特開2001-242169号公報)を用いたり、あるいは反応終了後の反応液をそのままアガロースゲル電気泳動にかけても容易に検出できる。アガロースゲル電気泳動では、LAMP増幅産物は、塩基長の異なる多数のバンドがラダー(はしご)状に検出される。また、LAMP法では核酸の合成により基質が大量に消費され、副産物であるピロリン酸が、共存するマグネシウムと反応してピロリン酸マグネシウムとなり、反応液が肉眼で確認できる程度に白濁する。したがって、この白濁を、反応終了後あるいは反応中の濁度上昇を経時的に光学的に観察できる測定機器、例えば400nmの吸光度変化を通常の分光光度計を用いて確認することも可能である(特許文献国際公開第01/83817号パンフレット)。
【0022】
本発明のプライマーを用いて核酸増幅の検出を行う際に必要な各種の試薬類は、あらかじめパッケージングしてキット化する事ができる。具体的には、本発明のプライマーあるいはループプライマーとして必要な各種のオリゴヌクレオチド、核酸合成の基質となる4種類のdNTP、鎖置換活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素、酵素反応に好適な条件を与える緩衝液や塩類、酵素や鋳型を安定化する保護剤、さらに必要に応じて反応生成物の検出に必要な試薬類がキットとして提供される。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0024】
実施例1.試料及び試薬の調製
1)コイヘルペスウイルス(KHV)培養液
検討には、独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所から提供されたコイヘルペスウイルス(KHV)培養液を用いた。カリフォルニア大学デービス校のR. Hedrick教授から分与されたコイヘルペスウイルス(KHV)株、およびKHV培養のための株化細胞(KF-1)を用いて得られた培養液であり、ウイルス濃度は不明である。
培養液原液を10倍ずつTE緩衝液(ニッポンジーン社製)で段階的に希釈を行い、95℃・5分間加熱処理したものを鋳型DNAを含む検体として用いた。
【0025】
実施例2.プライマーの設計
1)PCR法に用いるプライマーと方法
PCR法で使用するプライマーとして、W. Grayらが開発したSphI−5セットを一部改変した病性鑑定指針(農林水産省消費安全局発)記載の上流側プライマー(配列番号14)と同下流側プライマー(配列番号15)、およびO. GiladやR. Hedrickが開発した9/5セットの上流側プライマー(配列番号16)と同下流側プライマー(配列番号17)をそれぞれ用いた。
2)LAMP法に用いるプライマー
プライマーとしてIPF(配列番号10)、OPF(配列番号4)、IPR(配列番号11)、OPR(配列番号12)、LPF(配列番号13)、LPR(配列番号9)を用いた。
【0026】
比較例1.PCR法による反応
改変SphI−5および9/5セットの各PCR反応は、それぞれ前述の病性鑑定指針および非特許文献に記載の方法で行った。
<改変SphI−5セット反応溶液組成および反応条件>
反応あたり各試薬が下記になるよう調製した。
・10 x Ex Taq buffer (+ Mg) 20.0 μL
・2.5mM dNTPs mixture 16.0 μL
・dDW(滅菌超純水) 154.0 μL
・100 pmol/μL SphI-5 F(配列番号14) 2.0 μL
・100 pmol/μL SphI-5 R(配列番号15) 2.0 μL
・5 U/μL TaKaRa Ex Taq HS 1.0 μL

反応溶液に各希釈段階の検体 5.0μLを加え、最終反応液量 200.0 μLとして各PCR反応を行った。PCR反応の温度サイクル条件は、94℃30秒静置後、熱変性94℃30秒、アニーリング63℃30秒、ポリメラーゼ伸長反応72℃30秒を1サイクルとして計40サイクル行い、最後に72℃7分間静置後、反応を終了した。所要時間は約2時間であった。反応終了後の反応溶液 10μLを 2%アガロースゲルで電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色した。

<9/5セット反応溶液組成および反応条件>
・10 x Ex Taq buffer (-Mg) 20.0 μL
・25mM MgCl2 16.0 μL
・2.5mM dNTPs mixture 8.0 μL
・dDW(滅菌超純水) 143.0 μL
・100 pmol/μL 9/5 F(配列番号16) 3.0 μL
・100 pmol/μL 9/5 R(配列番号17) 3.0 μL
・5 U/μL TaKaRa Ex Taq 2.0 μL

反応溶液に各希釈段階の検体 5.0μLを加え、最終反応液量 200.0 μLとして各PCR反応を行った。PCR反応の温度サイクル条件は、95℃5分静置後、熱変性94℃1分、アニーリング68℃1分、ポリメラーゼ伸長反応72℃30秒を1サイクルとして計40サイクル行い、最後に72℃7分間静置後、反応を終了した。所要時間は約2時間30分であった。反応終了後の反応溶液 10μLを 2%アガロースゲルで電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色した。
【0027】
実施例3.LAMP法による反応
LAMP法による増幅のため、最終反応溶液 25μL中の各試薬濃度が下記になるよう調製した。なお、プライマーの合成はオペロンバイオテクノロジー社に依頼し、HPLC(高速液体クロマトグラフィ)精製したものを使用した。
反応溶液組成
・20mM Tris-HCl pH8.8
・10mM KCl
・8mM MgSO4
・1.4mM dNTPs
・10mM (NH4)2SO4
・0.8M Betaine(SIGMA)
・0.1% Tween20
・1.6μM IPF
・1.6μM IPR
・0.4μM OPF
・0.4μM OPR
・0.8μM LPF
・0.8μM LPR
・8U Bst DNA polymerase (NEB)
【0028】
LAMP反応は上記試薬20μLに、各濃度の試料溶液 5μLを加え、最終反応溶液 25μLとして、0.2mLの専用チューブ内で65℃で60分間、リアルタイム濁度測定装置LA−200(栄研化学)を用いて、リアルタイムに反応を検出した。図1に示したように、LAMP法では検体中の培地成分による影響のため、培養液原液で反応の遅延があったが、コイヘルペスウイルス(KHV)培養液を100万倍(10の6乗倍)希釈したものを、60分以内に検出することが可能であった。比較として行ったふたつのPCRは、改変SphI−5セットで同じく100万倍(10の6乗倍)希釈(図2)、9/5セットで100倍(10の2乗倍)希釈したものまで検出可能であった(図3)。検出感度はLAMP法と改変SphI−5セットで同等であったが、約2時間の増幅反応とさらに電気泳動分析が必要なPCR法と比較して、迅速性でLAMP法が優れていた。
【0029】
実施例4:LAMP法増幅産物の確認
上記プライマーセットで増幅したLAMP産物について、電気泳動及び制限酵素BcnIでの確認を行った。制限酵素BcnIは鋳型となるコイヘルペスウイルス(KHV)に由来する標的塩基配列の一部を選択的に認識し切断するものであり、上記プライマーセットの各塩基配列を認識するものではない。図4は、電気泳動の結果を表す図である。LAMP反応終了後の反応溶液 1μLを 2%アガロースゲルで電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色した。図4のレーン2から明らかなように、LAMP産物特有のラダーパターンが確認された。また、BcnIで処理したサンプル(レーン3)では、消化が確認された。以上の結果から、標的塩基配列が特異的に増幅されていることが明らかとなった。
【0030】
実施例5:プライマーの評価(特異性試験)
コイヘルペスウイルス(KHV)と遺伝的に近縁である魚病ウイルスとの交差反応性を確認するため、CHV(carp herpesvirus、cyprinid herpesvirus-1、コイ乳頭腫由来)、GFHNV(Goldfish hematopoietic necrosis virus、cyprinid herpesvirus-2、キンギョ造血器壊死症病魚由来)、EHV(eel herpesvirus、anguillid herpesvirus-1、ヨーロッパウナギ病魚由来)の3種類の魚病ウイルスに対するLAMP法の特異性試験を行った。上記3種類の魚病ウイルスの精製DNAはそれぞれの培養液からインスタジーンマトリックス(バイオラッド社)によって精製されたもので、すべて独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所から提供されたものを用いた(濃度は不明であるが、十分量の精製DNAが含まれている)。実施例3に記載のLAMP試薬20μLに、それぞれの精製DNAを無希釈で95℃・5分間加熱処理したものを検体として5μLを添加し、最終反応溶液 25μLとして、0.2mLの専用チューブ内で65℃で60分間、リアルタイム濁度測定装置LA−200(栄研化学)を用いて、リアルタイムに反応を検出した。図5に示したように、陽性コントロール(コイヘルペスウイルス(KHV)特異配列を挿入したプラスミドDNA:60,000コピー)は、反応開始後25分過ぎから増幅反応を示す濁度の上昇が確認されたが、上記3種類の魚病ウイルスはまったく反応を示さなかった。以上の結果から、設計したプライマーセットはコイヘルペスウイルス(KHV)を特異的に認識し、近縁の魚病ウイルスとは交差性を示さないことが明らかとなった。

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、コイヘルペスウイルス(KHV)に特異的な塩基配列と選択的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーを作製し、LAMP法によりコイヘルペスウイルス(KHV)に特異的な塩基配列を増幅することで、コイヘルペスウイルス(KHV)を特異的、高感度かつ迅速に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】リアルタイム濁度法によるLAMP法の検出感度を示す。横軸は時間(分)、縦軸は400nmでの吸光度(濁度)である。
【図2】改変SphI−5セットPCR法による検出感度を示す電気泳動図。レーン1:マーカー(TaKaRa 100bp Ladder Marker)レーン2:1倍希釈(培養液原液)レーン3:10倍希釈レーン4:10の2乗倍希釈レーン5:10の3乗倍希釈レーン6:10の4乗倍希釈レーン7:10の5乗倍希釈レーン8:10の6乗倍希釈レーン9:10の7乗倍希釈レーン10:10の8乗倍希釈レーン11:10の9乗倍希釈レーン12:陽性コントロール(コイヘルペスウイルス(KHV)精製DNA)レーン13:陰性コントロール(希釈に用いたTE緩衝液(ニッポンジーン社))レーン14:マーカー(TaKaRa 100bp Ladder Marker)
【図3】9/5セットPCR法による検出感度を示す電気泳動図。レーン1:マーカー(TaKaRa 100bp Ladder Marker)レーン2:1倍希釈(培養液原液)レーン3:10倍希釈レーン4:10の2乗倍希釈レーン5:10の3乗倍希釈レーン6:10の4乗倍希釈レーン7:10の5乗倍希釈レーン8:10の6乗倍希釈レーン9:10の7乗倍希釈レーン10:10の8乗倍希釈レーン11:10の9乗倍希釈レーン12:陽性コントロール(コイヘルペスウイルス(KHV)精製DNA)レーン13:陰性コントロール(希釈に用いたTE緩衝液(ニッポンジーン社))レーン14:マーカー(TaKaRa 100bp Ladder Marker)
【図4】LAMP増幅産物および制限酵素BcnIによる消化物の電気泳動図レーン1:マーカー(TaKaRa 100bp Ladder Marker)レーン2:LAMP産物(BcnI未消化)レーン3:LAMP産物(BcnI消化)
【図5】リアルタイム濁度法によるLAMP法の特異性を示す。横軸は時間(分)、縦軸は400nmでの吸光度(濁度)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で示されるコイヘルペスウイルス(KHV)に由来する塩基配列の、212番〜457番の塩基配列から選ばれた任意の塩基配列、又はそれらと相補的な塩基配列から設計されたオリゴヌクレオチドプライマー。
【請求項2】
コイヘルペスウイルス(KHV)に特異的なPCR増幅産物塩基配列から選ばれた配列番号2〜9で示される塩基配列又はそれらと相補的な塩基配列から選ばれた、少なくとも連続する12塩基を含む請求項1記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
【請求項3】
コイヘルペスウイルス(KHV)の標的核酸上の3'末端側からF3c、F2c、F1cという塩基配列領域を、5'末端側からR3、R2、R1という塩基配列領域を選択し、それぞれの相補的塩基配列をF3、F2、F1、そしてR3c、R2c、R1cとしたときに、以下の(a)〜(d)から選ばれた少なくとも1種の塩基配列からなることを特徴とする請求項1〜2記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)標的核酸のF2領域を3'末端側に有し、5'末端側に標的核酸のF1c領域を有する塩基配列。
(b)標的核酸のF3領域を有する塩基配列。
(c)標的核酸のR2領域を3'末端側に有し、5'末端側に標的核酸のR1c領域を有する塩基配列。
(d)標的核酸のR3領域を有する塩基配列。
【請求項4】
コイヘルペスウイルス(KHV)に特異的な塩基配列を増幅でき、5'末端から3'末端に向かい以下の(e)および/または(f)から選ばれた塩基配列から成ることを特徴とする請求項1〜3記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(e)5'−(配列番号2の塩基配列に相補的な塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号3の塩基配列)−3'
(f)5'−(配列番号6の塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号7の塩基配列に相補的な塩基配列)−3'
【請求項5】
請求項1〜4記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、コイヘルペスウイルス(KHV)の標的核酸領域の増幅反応を行うことを特徴とするコイヘルペスウイルス(KHV)の検出方法。
【請求項6】
コイヘルペスウイルス(KHV)の標的核酸領域の増幅反応がLAMP法であることを特徴とする請求項5記載のコイヘルペスウイルス(KHV)の検出方法。
【請求項7】
請求項1〜4記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてコイヘルペスウイルス(KHV)の標的核酸領域の増幅を検出することにより、コイヘルペスウイルス(KHV)の存在の有無を検出することを特徴とするコイヘルペスウイルス(KHV)検出方法。
【請求項8】
コイヘルペスウイルス(KHV)検出方法において、請求項1〜4記載のオリゴヌクレオチドプライマーを含むことを特徴とするキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−254750(P2006−254750A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74531(P2005−74531)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000120456)栄研化学株式会社 (67)
【Fターム(参考)】