説明

コイル巻線装置及びコイル巻線方法

【課題】巻初めの線材をコイルの外周に這わすことを省く。
【解決手段】コイル巻線装置10は、コア11を把持するチャック12と、コアに向けて線材22を繰出すノズル23と、チャック12に対向しノズル23から繰出される線材22の端部を支持する支持部材24と、支持部材24をコアの中心軸を中心として回転させる支持部材回転手段41と、支持部材24の回転と同期してチャック12をコアの中心軸CCを中心としてコアとともに回転させノズル23から繰出される線材22をコアに巻回させるチャック回転手段61とを備える。コイル巻線方法は、コアの一方の鍔部に対向する支持部材24に端部が支持された線材22を一方の鍔部側から巻胴部に案内し、支持部材24とチャック12を同期して同方向に回転させてノズルから繰出される線材をコアの巻胴部に巻回させ、巻胴部に巻取られた後にノズルから繰出される線材を巻胴部から一方の鍔部側に引出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両端部に鍔部が形成されたコアの巻胴部に線材を巻回するコイル巻線装置及びコイル巻線方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、小型電子機器等に用いられるチップコイルとして、両端部に鍔部を有するコアの巻胴部に線材を巻回してコイルを得、そのコイルの端部における線材を鍔部に形成された電極に固定するものが知られている。そして、この電極がコアの一方の鍔部に一対形成され、この一対の電極に巻胴部に巻回された線材の両端部を接合するチップコイルの製造装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。このチップコイルの製造装置では、図14(a)に示すように、ノズル2から繰出された線材3の先端3aを保持する線材保持部材4を有し、その線材3の巻線にあっては、その線材保持部材4に先端3aが保持された線材3を最初にコア6における他方の鍔部6bの内壁に接触するように巻胴部に這わせ、その後、ノズル2を巻胴部の周囲に破線矢印で示すように旋回させるとしている。このノズル2の旋回によりコア6の巻胴部に線材3が所定数巻回されてコイルが得られ、その巻線が終了した後にノズル2の旋回を止めるとしている。
【0003】
一方、図14(b)に示すように、このチップコイルの製造装置における線材の処理は、その巻線が終了した後にノズル2を電極7が形成された一方の鍔部6a側に引出して、その巻終わりの線材3bをその一方の鍔部6aの電極7が形成された頂面に引出している。また、この巻終わりの線材3bの引出し動作と同時に、線材保持部材4を移動させて、他方の鍔部6b側から引出されている巻始めの線材3aを一方の鍔部6a側に移動させてその巻初めの線材3aをその一方の鍔部6aの電極7が形成された頂面にまで引き回している。
【0004】
そして、小型電子機器等に用いられるチップコイルにあっては、このような線材3の巻線工程の後において、図15に示すように、コア6の巻胴部6cに巻回された線材3からなるコイル5の外周に磁性粉が混入された樹脂8をコーティングすることが知られており、チップコイル1は、このような樹脂のコーティングにより所定の電気的特性を得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−266578号公報(段落番号「0035」,「0063」〜「0065」)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1におけるチップコイルの製造装置では、線材保持部材4に先端3aが保持された線材3を最初に電極7が形成されていない他方の鍔部6bの内壁に接触するように巻胴部6cに這わせ、線材3の巻回の後に線材保持部材4を移動させて、巻始めの線材3aを他方の鍔部6b側から電極7が形成されている一方の鍔部6a側に移動させている。このことから、その移動後の巻初めの線材3aは、巻胴部6cに巻回された線材3からなるコイル5の外周をその巻回方向に交差して他方の鍔部6bから一方の鍔部6aにまで案内されることになり、図15の拡大図に示すように、その巻初めの線材3aはコイル5の外周から突出する存在となる。
【0007】
すると、その後の工程において、磁性粉が混入された樹脂8によりコイル5の周囲をコーティングすると、コイル5の外周面に均一の厚さで樹脂8をコーティングできたとしても、巻初めの線材3aを覆うようにコーチングされた樹脂8は、その線材3aがコイル5の外表面から突出することに起因して薄くなる不具合があった。また、この巻初めの線材3aは、コイル5を構成する線材3と交差することから、コイル5外周における線材3と巻初めの線材3aとの間に比較的高い粘度を有する樹脂8は浸入し難く、その間に空隙9が生じ易いという不具合もあった。このため、上記特許文献1におけるチップコイルの製造装置により得られたコイル5では、その後の樹脂8によるコーティングにおいてムラを生じさせ易いという未だ解決すべき課題が残存していた。そして、このようなコーティングのムラは、得られるチップコイル1の電気的特性に影響を与える不具合があった。
【0008】
本発明の目的は、電極への接合のために、巻初めの線材を巻胴部に巻回されたコイルの外周に他方の鍔部から一方の鍔部にまで這わすことを省くことができるコイル巻線装置及びコイル巻線方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のコイル巻線装置は、コアを把持するチャックと、コアに向けて線材を繰出すノズルと、チャックに対向しノズルから繰出される線材の端部を支持する支持部材と、支持部材をコアの中心軸を中心として回転させる支持部材回転手段と、支持部材の回転と同期してチャックをコアの中心軸を中心としてコアとともに回転させノズルから繰出される線材をコアに巻回させるチャック回転手段とを備える。
【0010】
支持部材回転手段は、支持部材が先端に中心軸から偏倚して設けられた回転体と、中心軸を回転中心として回転体を回転させるサーボモータとを有し、支持部材は回転体の先端に中心軸方向に移動可能に設けられ、支持部材の回転体に対する移動を許容可能に禁止する支持部材移動制限機構が備えられる。チャックに対向して設けられチャックに把持されたコアをチャックに向けて押圧する押圧機構を更に備えることが好ましい。
【0011】
本発明の方法は、巻胴部の両端部に鍔部が形成されたコアであって、一方の鍔部に電極が形成され他方の鍔部がチャックに把持されたコアの巻胴部にノズルから繰出された線材を巻回するコイル巻線方法である。
【0012】
その特徴ある点は、コアの一方の鍔部に対向する支持部材に端部が支持された線材を巻初めの線材として一方の鍔部側から巻胴部に案内する線材導入工程と、支持部材とチャックを同期して同方向に回転させてノズルから繰出される線材をチャックとともに回転するコアの巻胴部に巻回させる線材巻回工程と、巻胴部に巻取られた後にノズルから繰出される線材を巻終わりの線材として巻胴部から一方の鍔部側に引出す線材引出し工程とを含むところにある。
【0013】
この場合、線材引出し工程が、支持部材に支持された巻初めの線材を支持部材から離脱させる巻初めの線材離脱動作と、巻終わりの線材を一方の鍔部側に引出して巻初めの線材が離脱した支持部材に巻終わりの線材を支持させる巻終わりの線材引出し動作と、コアと支持部材の間の線材を切断する線材切断動作とを有することが好ましい。そして、少なくとも線材巻回工程において、チャックに対向して設けられた押圧機構によりチャックに把持されたコアをチャックに向けて押圧することが更に好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のコイル巻線装置及びコイル巻線方法では、巻初めの線材を電極が形成された一方の鍔部側から巻胴部に案内することにより、巻胴部への巻線の後に、電極への接合のためにその巻初めの線材を他方の鍔部から一方の鍔部にまで引き回すようなことを省くことができる。このため、巻初めの線材が、他方の鍔部から一方の鍔部にまでコイルの外周をその巻回方向に交差して這うようなことはない。よって、巻胴部に線材を整列巻きすることによりその線材からなるコイルの外表面を比較的平坦とすることができる。すると、その後の工程において成されるそのコイル表面への樹脂コーチングを均一なものとすることができ、得られるチップコイルにおいて良好な電気特性を得ることができる。
【0015】
一方、巻胴部への線材の巻線にあっては、コアを把持するチャックを回転させてノズルから繰出される線材をチャックとともに回転するコアの巻胴部に巻回させることにより行うので、巻初めの線材の位置が問題となるけれども、コアを把持するチャックと同期して巻初めの線材を支持する支持部材を同方向に回転させるので、支持部材に支持された巻初めの線材とコアとの相対的な位置関係は変化しない。よって、巻初めの線材を電極が形成された一方の鍔部側から巻胴部に案内しても、巻胴部への線材の巻線に支障を来すようなことはない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明実施形態の巻線装置を示す側面図である。
【図2】その巻線装置の支持部材回転手段を示す側面図である。
【図3】その押圧機構における押圧ロッドが没入した状態を示す図2に対応する側面図である。
【図4】その支持部材移動制限機構におけるフックロッドが前進した状態を示す図2に対応する側面図である。
【図5】その支持部材の周囲を示す斜視図である。
【図6】そのチャックの構造を示す一部断面図である。
【図7】そのチャックにコアを把持させる状態を示す斜視図である。
【図8】その巻初めの線材を一方の鍔部側から巻胴部に案内する状態を示す斜視図である。
【図9】その線材の巻線から巻初めの線材の切断までを示す斜視図である。
【図10】その後の巻終わりの線材の切断までを示す斜視図である。
【図11】その巻線において線材が1層巻回されたコアの側面図である。
【図12】線材が巻終わったコアの図11に対応する側面図である。
【図13】線材が巻終わったコアを含む図10(c)のB−B線断面図である。
【図14】従来の巻線方法を示す斜視図である。
【図15】図14のA−A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
本発明の巻線装置を図1に示す。ここで、互いに直交するX、Y、Zの3軸を設定し、X軸が水平前後方向、Y軸が水平横方向、Z軸が垂直方向に延びるものとして本発明の巻線装置10について説明する。本発明の巻線装置10は、コア11を把持するチャック12を備える。図7に示すように、コア11は巻胴部11cの両端部に鍔部11a,11bが形成されたものであって、その一方の鍔部11aに一対の電極11dが形成され、他方の鍔部11bには電極11dが形成されないものを巻線の対象とする。そして、チャック12は、このようなコア11の他方の鍔部11bを把持可能に構成されたものである。
【0019】
図6に示すように、この実施の形態におけるチャック12は、X軸方向に伸びて水平に配置された円柱部材13と、その円柱部材13の先端に基端が設けられその円柱部材13と同軸のチャック本体14とを備える。更に図7に示すように、チャック本体14には、その中心軸に沿って先端から孔14aが形成され、その孔14aから放射状を成す3本のスリット14bが先端から軸方向に伸びて形成される。この3本のスリット14bによりチャック本体14の先端は周方向に3分割され、それらの各分割片の外周には円柱部材13に向かって外径が小さくなるテーパ面14cがそれぞれ形成される。そして、チャック本体14の先端縁には孔14aを中心としてコア11の他方の鍔部11bを収容する凹部14dが形成され、この凹部14dの周壁は他方の鍔部11bの外形に相応して形成される。
【0020】
図6に戻って、チャック本体14の外周にはチャック用スプリング16により軸方向に弾性支持されたチャック開閉部材17が嵌合される。チャック開閉部材17は筒状の部材であり、内周をチャック本体14における各分割片のテーパ面14cに摺接するように構成される。一方、チャック開閉部材17の外周には、後述するチャック開閉機構21(図7)が係合する凹溝17aが形成される。そして、チャック用スプリング16により円柱部材13から離間方向に付勢されたチャック開閉部材17は、チャック本体14のテーパ面14cを同方向に押圧し、結果としてチャック本体14のスリット14bにより分断された先端における各分割片の互いの間隔を狭め、先端の凹部14dに収容されたコア11の他方の鍔部11bを把持し、チャック12の中心軸にコア11の中心軸CCを一致させた状態でそのコア11を把持可能に構成される(図7(b))。
【0021】
図1に戻って、このチャック12における円柱部材13は基台18にその中心軸を中心として回転可能に枢支される。図1には単一のチャック12を示すけれども、チャック12は基台18にY軸方向に並んで複数設けられるものであり、複数のチャック12におけるそれぞれの円柱部材13は、単一の基台18にY軸方向に所定にピッチで枢支される。そのような複数のチャック12が設けられた基台18は、台座10aにY軸方向に伸びて設けられたレール19に沿ってY軸方向に移動可能に構成される。そして、レール19が設けられた台座10aには、Y軸方向にずれた位置にそれら複数のチャック12を同時に操作するチャック開閉機構21(図7)が設けられる(図1には図示せず)。
【0022】
図7に示すように、このチャック開閉機構21は、複数のチャック12におけるチャック開閉部材17の凹溝17aに同時に係合可能なチャック開閉バー21aと、そのチャック開閉バー21aを上下方向に駆動してチャック開閉バー21aをその凹溝17aに係合させ又は離脱させる上下方向アクチュエータ21bと、チャック開閉バー21aを円柱部材13の軸方向に駆動する軸方向アクチュエータ21cとを備える。そして、このチャック開閉機構21は、図7(a)に示すように、チャック開閉バー21aをチャック開閉部材17の凹溝17aに係合させた状態で、チャック開閉部材17をチャック用スプリング16(図6)に抗して円柱部材13(図6)方向に移動させて後退させることにより、チャック本体14の先端における各分割片の互いの間隔を拡げ、先端の凹部14dに収容されたコア11の他方の鍔部11bを把持を解消するように構成される。
【0023】
図1に示すように、本発明の巻線装置10は、チャック12に他方の鍔部11bが把持されたコア11に向けて線材22を繰出すノズル23と、そのノズル23から繰出される線材22の端部を支持する支持部材24とを備える。このノズル23と支持部材24は、複数のチャック12に対向するようにチャック12の数に相応して設けられるものである(図1ではそれぞれが単一のものからなる場合を示す。)。そして、このノズル23と支持部材24は、ノズル移動手段26及び支持部材移動手段31を介して台座10aにそれぞれ3軸方向に移動可能に取付けられる。
【0024】
この実施の形態におけるノズル移動手段26と支持部材移動手段31は同一構造であり、X軸、Y軸、及びZ軸方向伸縮アクチュエータ27〜29,32〜34の組み合わせによりそれぞれ構成される。支持部材移動手段31を代表して説明すると、この支持部材移動手段31を構成する各伸縮アクチュエータ32〜34は、細長い箱形ハウジング32d〜34dと、そのハウジング32d〜34d内部に長手方向に伸びて設けられサーボモータ32a〜34aによって回動駆動されるボールネジ32b〜34bと、このボールネジ32b〜34bに螺合して平行移動する従動子32c〜34c等によって構成される。そして、これらの各伸縮アクチュエータ32〜34は、サーボモータ32a〜34aが駆動してボールネジ32b〜34bが回転すると、このボールネジ32b〜34bに螺合する従動子32c〜34cがハウジング32d〜34dの長手方向に沿って移動可能に構成される。
【0025】
この実施の形態では、支持部材24が設けられる支持部材用移動台36をX軸方向に移動可能にX軸方向伸縮アクチュエータ32の従動子32cに取付け、そのX軸方向伸縮アクチュエータ32とともにその支持部材用移動台36をY軸方向に移動可能に、X軸方向伸縮アクチュエータ32のハウジング32dがY軸方向伸縮アクチュエータ33の従動子33cに取付けられる。また、そのX軸及びY軸方向伸縮アクチュエータ32,33とともにその支持部材用移動台36をZ軸方向に移動可能に、そのY軸方向伸縮アクチュエータ33のハウジング33dがL型ブラケット37を介してZ軸方向伸縮アクチュエータ34の従動子34cに取付けられる。そして、Z軸方向伸縮アクチュエータ34が台座10aに立設される。それらの各伸縮アクチュエータ32〜34におけるX軸サーボモータ32a、Y軸サーボモータ33a及びZ軸サーボモータ34aは、これらを制御する図示しないコントローラの制御出力に接続される。
【0026】
ノズル23は、ノズル移動手段26におけるノズル用移動台30にL型アングル38を介して鉛直方向に伸びて取付けられる。図1には単一のノズル23を示すけれども、ノズル23はチャック12の数に相応してL型アングル38にY軸方向に並んで複数設けられるものであり、それらのノズル23の上方には、図示しない線材供給源から供給される線材22をそれらのノズル23に案内するプーリ39が枢支される。一方、支持部材24は、ノズル23から繰出される線材22が絡げられることによりその線材22を支持する柱状物であって、この柱状物から成る支持部材24は、支持部材移動手段31における支持部材用移動台36に支持部材回転手段41を介して取付けられる。図1には単一の支持部材24と単一の支持部材回転手段41を示すけれども、この支持部材24と支持部材回転手段41はチャック12の数に相応して支持部材用移動台36にY軸方向に並んで複数設けられる。このような構造により、ノズル移動手段26及び支持部材移動手段31はコントローラからの指令により、各伸縮アクチュエータ27〜29,32〜34が駆動して、各移動台30,36とともにノズル23及び支持部材24を台座10aに対して3軸方向に任意に移動可能に構成される。
【0027】
図2に示すように、この実施の形態における支持部材回転手段41は、支持部材用移動台36に固定された固定台42にベアリング43を介してその中心軸RCをX軸方向に延ばしかつその中心軸RCを中心として回転可能に設けられた回転体44と、X軸方向に伸びて設けられたその回転体44をその中心軸RCを中心として回転させる支持部材回転用サーボモータ46とを有する。回転体44は固定台42にベアリング43を介してX軸方向に伸びて設けられた筒状本体44aと、その筒状本体44aのチャック12側における先端に設けられた蓋体44bと、その蓋体44bとともにベアリング43を挟むように筒状本体44aの基端側に設けられた回転体用プーリ44cとを備える。一方、支持部材回転用サーボモータ46は固定台42に取付けられ、その回転軸46aにはモータ用プーリ46bが取付けられる。このモータ用プーリ46bと回転体44における回転体用プーリ44cとの間にはベルト47が架設され、サーボモータ46が駆動してモータ用プーリ46bが回転軸46aとともに回転すると、その回転はベルト47を介して回転体44に伝達され、その回転体44を回転させるように構成される。
【0028】
支持部材24は、回転体44のチャック12に臨む先端にその中心軸RCから偏倚して設けられる。具体的に、回転体44の先端周囲には、その中心軸RCから偏倚して軸方向に移動可能なスライダ48が設けられ、回転体44には係止ピン49が設けられる。係止ピン49はスライダ48の後端近傍に設けられ、スライダ48と係止ピン49の間には、このスライダ48をチャック12から遠ざける方向に付勢する支持部材用スプリング51が架設される(図5)。スライダ48には、そのスライダ48がチャック12から遠ざかった状態で回転体44の端縁に当接する突当てピン52が設けられ、支持部材24はこのスライダ48の先端外側にそのスライダ48と交差するように立設される。支持部材回転用サーボモータ46は、図示しないコントローラの制御出力に接続され、コントローラからの指令により支持部材回転手段41は、回転体44の中心軸RCから偏倚して設けられた支持部材24とともにその回転体44を回転させるように構成される。このため、支持部材移動手段31により回転体44の中心軸RCをチャック12に把持されたコア11の中心軸CC(図6)に一致させることにより、支持部材回転手段41は、そのコア11の中心軸CCを中心として支持部材24を回転させるように構成される。そして、スライダ48を介して支持部材24を回転体44に設けることにより、支持部材24は回転体44の先端にその軸方向に移動可能に設けられる。
【0029】
一方、支持部材回転手段41には、その支持部材24の回転体44に対する軸方向の移動を許容可能に禁止する支持部材移動制限機構56が備えられる。支持部材移動制限機構56は、回転体44に軸方向に伸びて移動可能に設けられ先端に突当てピン52を回転体44の端縁とともに挟むフック57aが形成されたフックロッド57と、回転体44に移動可能に嵌入されそのフックロッド57の基端に固定された操作環58と、支持部材用移動台36又は固定台42に設けられその操作環58を回転体44の軸方向に移動させる操作環アクチュエータ59とを備える。この実施の形態における操作環アクチュエータ59は圧縮エアの吸排によりロッド59aを出没させるエアシリンダであって、そのロッド59aの突出端には操作環58が係合する係合片59bが設けられる。この操作環アクチュエータ59は、複数の支持部材回転手段41(図1ではその内の一つを示す。)を挟むようにY軸方向に離間して支持部材用移動台36又は固定台42に一対設けられ、その一対の操作環アクチュエータ59に係合片59bが架設される。そして、この係合片59bは複数の支持部材移動制限機構56におけるそれぞれの操作環58が係合可能に構成される。
【0030】
操作環アクチュエータ59は図示しないコントローラの制御出力に接続され、ロッド59aを出没させることにより操作環58を介してフックロッド57を回転体44に対して前進又は後退させるように構成される。そして、図2及び図3並びに図5の実線に示すように、フックロッド57が後退すると、その先端におけるフック57aが突当てピン52を回転体44の端縁とともに挟み、支持部材24が回転体44の軸方向に移動することを禁止するように構成される。一方、図4の実線並びに図5の一点鎖線に示すように、フックロッド57が前進すると、その先端におけるフック57aが回転体44の端縁から離間して突当てピン52の挟持を解消し、支持部材用スプリング51の付勢力に抗して支持部材24が回転体44の軸方向に移動することを許容するように構成される。
【0031】
図1に戻って、本発明の巻線装置10は、支持部材24の回転と同期してチャック12をコア11の中心軸CC(図6)を中心としてコア11とともに回転させるチャック回転手段61を備える。このチャック回転手段61は、チャック12における円柱部材13の後端に先端が係合可能な回転ロッド62と、その回転ロッド62を回転させるチャック回転用サーボモータ63とを有する。台座10aには支柱10bを介してX軸方向に伸びるチャック用エアシリンダ64が設けられ、このチャック用エアシリンダ64の可動スライダ64aにチャック回転用サーボモータ63が設けられる。チャック用エアシリンダ64は圧縮エアの供給の有無によりその可動スライダ64aをX軸方向に往復移動可能に構成され、チャック回転用サーボモータ63が設けられた可動スライダ64aにはそのチャック回転用サーボモータ63を挟むように一対の支持壁65が立設される。回転ロッド62はX軸方向に伸びてこの一対の支持壁65に回転可能に架設される。この回転ロッド62は複数のチャック12に対応するようにチャック12の数に相応して、一対の支持壁65にY軸方向の所定のピッチで複数設けられる(図1では単一の回転ロッド62を示す。)。
【0032】
チャック回転用サーボモータ63における回転軸63aにはチャック第1プーリ63bが設けられ、その第1プーリ63bに対向して回転ロッド62にはチャック第2プーリ62aが設けられ、その第1プーリと63bと第2プーリ62aの間にベルト66が架設される。この場合、図示しないが、単一のチャック回転用サーボモータ63におけるチャック第1プーリ63bと複数の回転ロッド62におけるそれぞれのチャック第2プーリ62aとは単一のベルト66により連結される。そして、複数のチャック12が設けられた単一の基台18はレール19に沿ってY軸方向に移動可能であるけれども、本発明の巻線装置10には、図1に示すように、それらのチャック12に把持されたコア11がノズル23と支持部材24に対向し、かつ、それらのチャック12おける円柱部材13の後端に回転ロッド62の先端が対向した位置で、その基台18のY軸方向の移動を禁止する図示しない基台移動制限機構が設けられる。
【0033】
このチャック回転手段61では、図示しない基台移動制限機構により基台18のY軸方向の移動が禁止された状態で、チャック用エアシリンダ64の可動スライダ64aが回転ロッド62とともにX軸方向に実線矢印で示すように移動して前進すると、その先端が円柱部材13の後端に係合し、逆にその可動スライダ64aが回転ロッド62とともに破線矢印で示すように後退すると回転ロッド62は円柱部材13から離間し、回転ロッド62の先端と円柱部材13の後端との係合が解消するように構成される。また、チャック回転用サーボモータ63が駆動すると回転ロッド62が回転し、その先端に円柱部材13の後端が係合している場合には、その円柱部材13も回転してチャック12全体がその中心軸、即ちそのチャック12に把持されたコア11の中心軸CCを回転中心として回転可能に構成される。このチャック回転用サーボモータ63は、支持部材回転手段41における支持部材回転用サーボモータ46に接続された図示しないコントローラにおける制御出力が接続され、このコントローラは双方のサーボモータ46,63を駆動して、支持部材24の回転と同期してチャック12を回転させ、ノズル23から繰出される線材22をチャック12に把持されたコア11に巻回させるように構成される。
【0034】
また、本発明の巻線装置10は、チャック12に把持されたコア11をチャック12に向けて押圧する押圧機構71がチャック12に対向して設けられる。この押圧機構71も複数のチャック12に対向するようにチャック12の数に相応して設けられるものであって、図2では、支持部材回転手段41に設けられた押圧機構71を示す。
【0035】
この図2に示す押圧機構71を説明すると、この押圧機構71は、回転体44の中央に貫通して長手方向に移動可能に設けられた押圧ロッド72と、その押圧ロッド72をチャック12側に突出させるように付勢する押圧用スプリング73とを備える。押圧ロッド72には、その中間に外径が拡大したストッパ部72aが形成される。押圧用スプリング73はコイルスプリングであって、一端がそのストッパ部72aに当接するように押圧ロッド72の基端側に嵌入される。押圧ロッド72が貫通する回転体44には、コア11に臨む先端側に押圧ロッド72が挿通される小径孔44dが形成され、その小径孔44dに連続して押圧用スプリング73とともにストッパ部72aを収容する大径孔44eが基端側に同軸に形成される。押圧用スプリング73は圧縮された状態で大径孔44eに収容され、その他端がその大径孔44eを封止する封止蓋44fに当接される。この押圧用スプリング73は、伸長しようとする弾性力によりその封止蓋44fとストッパ部72aとの間隔を拡げ、大径部44eと小径部44dの境の段部にストッパ部72aが当接するまで押圧ロッド72を回転体44に対して前進させ、それにより押圧ロッド72をチャック12側に突出させるように構成される。
【0036】
また、押圧機構71は、押圧ロッド72の基端に設けられた操作ローラ74と、支持部材用移動台36又は固定台42に設けられその操作ローラ74を回転体44の軸方向に移動させる押圧用アクチュエータ75とを備える。この実施の形態では、操作ローラ74は回転体44の基端側から突出した押圧ロッド72にその押圧ロッド72を挟むように一対設けられる。この一対の操作ローラ74は、その回転中心軸が押圧ロッド72と直交して設けられる。
【0037】
一方、押圧用アクチュエータ75は圧縮エアの吸排によりロッド75aを出没させるエアシリンダであって、そのロッド75aの突出端には操作板75bが設けられる。この押圧用アクチュエータ75は、複数の支持部材回転手段41(図2ではその内の一つを示す。)を挟むようにY軸方向に離間して支持部材用移動台36又は固定台42に一対設けられ、その一対の押圧用アクチュエータ75に操作板75bが架設される。そして、この操作板75bは複数の支持部材回転手段41に設けられた押圧機構71におけるそれぞれの操作ローラ74が当接可能に構成される。
【0038】
具体的に、この操作板75bには、押圧ロッド72に対応する位置に当接板76が設けられ、この当接板76には、押圧ロッド72の基端が挿通可能であって、その押圧ロッド72に設けられた操作ローラ74が挿通不能な孔76aが形成される。このため、この当接板76は押圧ロッド72に沿って操作ローラ74に向かって移動するとその操作ローラ74に当接し、逆方向に移動すると操作ローラ74から離間するように構成される。押圧用アクチュエータ75は図示しないコントローラの制御出力に接続され、図3に示すように、ロッド75aを突出させることにより操作板75bにおける当接板76が操作ローラ74に接触し、その後も更にロッド75aを突出させるとその操作ローラ74を介して押圧ロッド72を押圧用スプリング73の付勢力に抗して後退させ、チャック12側に突出した押圧ロッド72の先端を回転体44に没入させるように構成される。
【0039】
図1に戻って、更に、本発明の巻線装置10は、ノズル23より繰出された線材22を切断し及び把持するニッパクランプ装置81が設けられる(特願2010−87668)。このニッパクランプ装置81も複数のチャック12に対向するようにチャック12の数に相応して設けられるものである。このニッパクランプ装置81は、ノズル23の下方であって鉛直方向に伸びて設けられたボディ81aと、そのボディ81aの上端から上方に突出して設けられエア圧により開閉する一対の切断レバー体81bと、その切断レバー体81bに隣接するようにボディ81aの上端から上方に突出して設けられエア圧により開閉する一対の挟持レバー体81cとを備える。一対の切断レバー体81bは、開閉することにより線材22を切断可能に構成される。また、一対の挟持レバー体81cは、一対の切断レバー体81bにより切断されて分断された一方の線材22の端縁を把持可能に構成される。そして、このニッパクランプ装置81は、ニッパクランプ移動手段82を介して台座10aに3軸方向に移動可能に取付けられる。このニッパクランプ移動手段82はX軸、Y軸、及びZ軸方向伸縮アクチュエータ83〜85を備え、上述したノズル移動手段26及び支持部材移動手段31と同一構造であるので、繰り返しての説明は省略する。
【0040】
次に、上記巻線装置を用いた本発明の巻線方法について説明する。
【0041】
本発明の巻線方法は、巻胴部11cの両端部に鍔部11a,11bが形成されたコア11であって、一方の鍔部11aに電極11dが形成され他方の鍔部11bがチャック12に把持されたコア11の巻胴部11cにノズル23から繰出された線材22を巻回するコイル巻線方法である。即ち、本巻線方法による巻線の対象とするコア11は、図7に示すように、巻胴部11cの両端部に鍔部11a,11bが形成されたものであって、その一方の鍔部11aに一対の電極11dが形成されたものである。上記装置10におけるチャック12において、このコア11の他方の鍔部11bは、チャック本体14の先端縁に形成された凹部14dに収容される。そして、図6に示すチャック用スプリング16によりチャック開閉部材17がチャック本体14のテーパ面14cを同方向に押圧し、その凹部14dに収容されたコア11の他方の鍔部11bを把持する。このようにして、図7(b)に示すように、コア11はチャック12に把持された状態で支持される。
【0042】
そして、本発明の巻線方法の特徴ある点は、図8に示すように、コア11の一方の鍔部11aに対向する支持部材24に端部が支持された線材22を巻初めの線材22aとして一方の鍔部11a側から巻胴部11cに案内する線材導入工程と、図9(a),図11及び図12に示すように、支持部材24とチャック12を同期して同方向に回転させてノズル23から繰出される線材22を、チャック12とともに回転するコア11の巻胴部11cに巻回させる線材巻回工程と、図10に示すように、巻胴部11cに巻取られた後にノズル23から繰出される線材22を巻終わりの線材22bとして巻胴部11cから一方の鍔部11a側に引出す線材引出し工程とを含むところにある。以下に、各工程を詳説する。
【0043】
<線材導入工程>
この工程では、コア11の一方の鍔部11aに対向する支持部材24に端部が支持された線材22を巻初めの線材22aとして一方の鍔部11a側から巻胴部11cに案内する。即ち、図8(a)に示すように、ノズル23から繰出された線材22の端部は支持部材24に絡げられてその支持部材24に端部が支持された状態から始められる。この線材22の絡げは、ノズル移動手段26(図1)により支持部材24の周囲にそのノズル23を旋回させることにより行われる。このとき、その支持部材24が移動することを防止して線材22のからげを確実に行わせるために、図3に示すように、支持部材移動制限機構56によりフックロッド57を後退させておき、その先端におけるフック57aにより突当てピン52を回転体44の端縁とともに挟んで支持部材24の回転体44に対する軸方向の移動を禁止させておく。また、押圧機構71にあっては、押圧用アクチュエータ75におけるロッド75aを突出させることにより、操作ローラ74を介して押圧ロッド72を押圧用スプリング73の付勢力に抗して後退させ、チャック12側における押圧ロッド72の先端を回転体44に没入させておく。
【0044】
支持部材24に端部が支持された線材22は、先ず巻初めの線材22aとしてコア11における一方の鍔部11a側から巻胴部11cに案内される。即ち、ノズル23をコア11の上方に位置させた状態で、図8(b)に示すように、支持部材回転用サーボモータ46(図1〜図4)を駆動して支持部材回転手段41における回転体44を半回転させ、更に支持部材移動手段31(図1)によりコア11の上方にあった支持部材24をコア11の下方にまで移動させる。すると、コア11の上方から下方に円弧を描いて移動する支持部材24によりノズル23から線材22が引出され、このノズル23から繰出された線材22は巻初めの線材22aとしてコア11における巻胴部11cに案内される。このときも、支持部材24の移動を確実にするために、図3に示すように、支持部材移動制限機構56により支持部材24の回転体44に対する軸方向の移動は禁止され、押圧機構71により押圧ロッド72は後退させた状態で維持される。
【0045】
その後、図8(c)の破線矢印で示すように、支持部材移動手段31(図1)によりその支持部材24をチャック12から離れる方向に移動させるとともに、支持部材24の回転中心となる回転体44の中心軸RC(図2〜図4)をコア11の中心軸CC(図6)、即ち、そのコア11を把持するチャック12の中心軸に一致させる。これにより、コア11における一方の鍔部11a側から巻初めの線材22aが引出され、これによりその巻初めの線材22aは一方の鍔部11a側から巻胴部11cに案内されることになる。そして、その後、実線矢印で示すように、押圧機構71の押圧用アクチュエータ75におけるロッド75a(図2)を没入させ、押圧用スプリング73(図2)の付勢力により押圧ロッド72をコア11に押付けて、そのコア11がチャック12から離脱するようなことを防止する。
【0046】
<線材巻回工程>
この工程では、図8(c)のコア11における一方の鍔部11a側から巻初めの線材22aが引出され、押圧ロッド72がコア11に押付けられた状態から、支持部材24とチャック12を同期して同方向に回転させ、それによりノズル23から繰出される線材22をチャック12とともに回転するコア11の巻胴部11cに巻回させる。即ち、図1に示すチャック回転手段61におけるチャック用エアシリンダ64の可動スライダ64aを前進させて回転ロッド62の先端をチャック12における円柱部材13の後端に係合し、その状態で図示しないコントローラの指令によりチャック回転用サーボモータ63を駆動してチャック12全体をコア11の中心軸CC(図6)を回転中心として回転させる。これと同時に、このコントローラは支持部材回転手段41における支持部材回転用サーボモータ46も同時に駆動して支持部材24をコア11の中心軸CCを中心として回転させる(図11)。このようにして、支持部材24の回転と同期してチャック12を回転させ、ノズル23から繰出される線材22をチャック12に把持されたコア11の巻胴部11c(図8)に巻回させる。
【0047】
このとき、ノズル移動手段26によりそのノズル23を巻胴部11cのX軸方向における幅の範囲で往復移動させる。即ち、図11の一点鎖線で示すように、巻初めの状態でノズル23を一方の鍔部11aに対向させておく。そして、チャック12及び支持部材24を一点鎖線矢印で示すように回転させ、それらが同期して1回転する毎に、ノズル23を実線矢印で示すように他方の鍔部11bに向けてX軸方向にその線材22の線径に等しい量だけ移動させる。すると、図11に示すように、ノズル23から繰出される線材22は巻胴部11cに互いに密着した状態で整列に巻回されるいわゆる整列巻きがなされる。そして、移動するノズル23が他方の鍔部11bに対向する実線で示す状態で巻胴部11cにその幅方向の全てに線材22が整列巻きされることになる。
【0048】
一方、ノズル23が他方の鍔部11bに対向した後には、そのノズル23の移動方向を反対方向に変更し、先に巻回された線材22の上に更に巻線を行う。このように移動するノズル23が鍔部11a,11bに対向する毎にその移動方向を反対方向とすることにより線材22を巻胴部11cに複数層において整列に巻回することが可能になる。そして、図9(a)及び図12に示すように、線材22が所定数巻回された段階で、その巻回された線材22からなるコイル90が得られる。この巻終わりにあっては、ノズル23が一方の鍔部11aに対向する位置で所定数の巻線が終了するように線材22の線径及び巻数が調整されることが好ましい。
【0049】
ここで、この線材巻回工程においては、チャック12に対向して設けられた押圧機構71により押圧ロッド72をコア11に押付け、チャック12に把持されたコア11をチャック12に向けて押圧するので、この巻回時にコア11がチャック12に対してがたつくようなことは回避され、コア11のがたつきに起因する巻線不良は防止されることから、線材22の整列巻きを確実に行うことが可能となる。
【0050】
<線材引出し工程>
この工程では、図10に示すように、巻胴部11cに巻取られた後にノズル23から繰出される線材22を巻終わりの線材22bとして巻胴部11cから一方の鍔部11a側に引出す。この実施の形態では、巻終わりの線材22b引出しの前に、図9に示すように、支持部材24に絡げられて支持されている巻初めの線材22aを切断して支持部材24からその線材22を除去する場合を示す。従って、この実施の形態における線材引出し工程は、巻初めの線材離脱動作と、巻終わりの線材引出し動作がこの順序で行われることになる。
【0051】
巻初めの線材離脱動作は、ニッパクランプ装置81(図1)により行われる。そのため、支持部材移動手段31(図1)によりその支持部材24をコア11から離間させてその支持部材24とコア11の間にニッパクランプ装置81の切断レバー体81bが進入可能な空間を作成する。具体的な手順としては、先ず、図3に示すように、押圧機構71の押圧用アクチュエータ75におけるロッド75aを押圧用スプリング73の付勢力に抗して突出させ、図9(b)の実線矢印で示すように押圧ロッド72を後退させる。また、図4に示すように、支持部材移動制限機構56によりフックロッド57を前進させ、図9(b)の破線矢印で示すようにその先端におけるフック57aを回転体44の端縁から離間させて支持部材24の回転体44に対する軸方向の移動を許容させる。この状態で、図9(c)に示すように、支持部材移動手段31(図1)によりその支持部材24をコア11から離間させる。
【0052】
ここで、支持部材24をコア11から離間させる際に、支持部材24がコア11から必要以上に離間すると、その巻初めの線材22aに過剰な張力が加えられるおそれがある。けれども、本発明の方法では、支持部材24をコア11から離間させる際に、支持部材24が回転体44の軸方向に移動するので、その支持部材24がコア11から必要以上に離間するようなことは回避される。この結果、その巻初めの線材22aに過剰な張力が加えられるようなことを防止することができる。
【0053】
支持部材24がコア11から離間すると、その支持部材24は、支持部材用スプリング51(図4)の付勢力によりコア11から離間する方向に引っ張られることになり、その支持部材24に端部が絡げられた巻初めの線材22aはコア11と支持部材24の間に張設されることになる。この状態で、ニッパクランプ移動手段82(図1)により図9(c)の実線矢印で示すようにニッパクランプ装置81を移動させ、その支持部材24とコア11の間にニッパクランプ装置81の切断レバー体81bを進入させる。そして、その切断レバー体81bにより巻初めの線材22aを切断する。それとともに、その挟持レバー体81cにより支持部材24に絡げられている線材22を把持し、その状態でニッパクランプ装置81をニッパクランプ移動手段82により移動することにより支持部材24に絡げられていた線材22をその支持部材24から取り去る。そして、図示しないが、挟持レバー体81cにより挟持されて支持部材24から取り去られた線材22は、移動するニッパクランプ装置81により図示しない端材ケースにまで運ばれて、その端材ケースに貯蔵される。
【0054】
次に、巻終わりの線材22bの引出し動作にあっては、図3に示すように、押圧ロッド72は後退させた状態で行われるけれども、前進させていたフックロッド57は再び後退させ、その先端におけるフック57aにより突当てピン52を回転体44の端縁とともに挟んで支持部材24の回転体44に対する軸方向の移動を禁止させる。その状態で、図10(a)に示すように、ノズル移動手段26(図1)によりノズル23を一方の鍔部11a側に引出して、ノズル23から繰出される線材22を巻終わりの線材22bとして巻胴部11cから一方の鍔部11a側に引出す。そして支持部材24の周囲にそのノズル23を旋回させることにより、その巻終わりの線材22bを支持部材24に絡げる。その後、図10(b)に示すように、再びニッパクランプ装置81を移動させ、その支持部材24とコア11の間にその切断レバー体81bを進入させ、その切断レバー体81bにより巻終わりの線材22bを切断する。これにより、図10(c)及び図13に示すように、一対の電極11dが形成された一方の鍔部11a側から、巻初めの線材22aと巻終わりの線材22bの双方が引出されたコイル90となる。
【0055】
なお、図10(c)に示すように、ノズル23から繰出されて、その端部が支持部材24に絡げられた線材22は、次のコア11に巻線する場合の巻初めの線材22aとして用いられる。従って、上記線材引出し工程において、巻初めの線材離脱動作により巻初めの線材22aが離脱した支持部材24に、巻終わりの線材引出し動作により巻終わりの線材22bを支持させ、そのコア11と支持部材24の間の線材22を切断する線材切断動作を行うことにより、次のコア11に巻線する場合の支持部材24に絡げられた巻初めの線材22aを得ることができる。よって、巻線が成されていないコア11を把持するチャック12が設けられた基台18をレール19に沿って移動させ、その巻線が成されていないコア11を新たにこの支持部材24に対向させることにより、連続した巻線作業が可能になる。
【0056】
図13に示すように、一対の電極11dが形成された一方の鍔部11a側から巻初めの線材22aと巻終わりの線材22bの双方が引出されたコイル90を得た後には、図示しないが、そのコア11を把持するチャック12とともに基台18がレール19に沿って移動し、次の工程において、その巻初めの線材22aと巻終わりの線材22bは一方の鍔部11aに形成された電極11dにそれぞれ接合される。この接合にあっては、その巻初めの線材22aと巻終わりの線材22bは、図13の破線矢印で示すようにそれぞれ折曲げられて電極11dに重合され、その状態でそれぞれの電極11dに接合される。この場合、その巻初めの線材22aと巻終わりの線材22bをそのまま電極11dに接合しても良く、それらの線材22a,22bが比較的大径である場合には、その巻初めの線材22aと巻終わりの線材22bを潰し、その潰された部分を電極11dにそれぞれ接合するようにしても良い。このように線材22a,22bを潰して電極11dに接合するようにすれば、接合面積が増加することから、それらの線材22a,22bが比較的大径であっても、それらの線材22a,22bと電極11dとの接合状態を安定させることができる。なお、これらの線材22a,22bに電極11dを越えてその電極11dに接合されない余剰な部分がある場合には予め又は接合の後に切断される。そして、コア11の巻胴部11cに巻回された線材22からなるコイル90の外周には、その後に、磁性粉が混入された樹脂がコーティングされ、所定の電気的特性が得られる。
【0057】
ここで、上述したコイル巻線装置10及びコイル巻線方法では、図8に示すように、巻初めの線材22aを電極11dが形成された一方の鍔部11a側から巻胴部11cに案内するので、巻胴部11cへの巻線の後にあっては、図13に示すように、その巻初めの線材22aは、巻終わりの線材22bとともに一方の鍔部11a側から引出されることになる。このため、その後に、その巻初めの線材22aを他方の鍔部11bから一方の鍔部11aにまで引き回すようなことはなく、本発明により得られたコイル90では、その巻初めの線材22aが、他方の鍔部11bから一方の鍔部11aにまでコイル90の外周をその巻回方向に交差して這うようなことはない。よって、巻胴部11cに線材22を整列巻きして、その線材22からなるコイル90の外表面を比較的平坦とすることにより、その後におけるコイル90の表面への均一な樹脂コーティングが可能になる。
【0058】
また、コア11における巻胴部11cへの線材22の巻線にあっては、コア11を把持するチャック12を回転させてノズル23から繰出される線材22をチャック12とともに回転するコア11の巻胴部11cに巻回させることにより行うので、単一の基台18にY軸方向に並んで複数設けられるチャック12のピッチを、そのチャック12の外径を著しく越えて拡大させるようなことはない。
【0059】
そして、上述したコイル巻線装置10及びコイル巻線方法では、この巻線時にコア11を把持するチャック12と同期して巻初めの線材22aを支持する支持部材24をそのチャック12と同方向に同速度で回転させるので、その支持部材24に支持された巻初めの線材22aとコア11との相対的な位置関係は変化しない。よって、巻初めの線材22aを電極11dが形成された一方の鍔部11a側から巻胴部11cに案内しても、その巻初めの線材22aが巻胴部11cへの線材22の巻線に支障を来すようなことはない。
【0060】
なお、上述した実施の形態では、X軸、Y軸、及びZ軸方向伸縮アクチュエータの組み合わせにより構成されたノズル移動手段26、支持部材移動手段31及びニッパクランプ移動手段82を説明したけれども、これらの移動手段26,31,82はこの構造のものに限るものではなく、ノズル23、支持部材24及びニッパクランプ装置81が台座10aに対して3軸方向に移動可能である限り、他の形式のものであっても良い。
【0061】
また、上述した実施の形態では、巻初めの線材離脱動作において、ニッパクランプ装置81により巻初めの線材22aを切断した後、そのニッパクランプ装置81を移動させて支持部材24に絡げられている線材22をその支持部材24から取り去る場合を説明したが、この巻初めの線材離脱動作において、巻初めの線材22aを切断することなく、支持部材24を支持部材移動手段31により移動させて、支持部材24に絡げられている巻初めの線材22aをその支持部材24から解きほぐすことにより、その巻初めの線材22aを支持部材24から離脱させるようにしても良い。
【符号の説明】
【0062】
10 コイル巻線装置
11 コア
11a 一方の鍔部
11b 他方の鍔部
11c 巻胴部
11d 電極
12 チャック
22 線材
22a 巻初めの線材
22b 巻終わりの線材
23 ノズル
24 支持部材
41 支持部材回転手段
44 回転体
46 サーボモータ
56 支持部材移動制限機構
61 チャック回転手段
71 押圧機構
CC コアの中心軸
RC 回転体の中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア(11)を把持するチャック(12)と、
前記コア(11)に向けて線材(22)を繰出すノズル(23)と、
前記チャック(12)に対向し前記ノズル(23)から繰出される線材(22)の端部を支持する支持部材(24)と、
前記支持部材(24)を前記コア(11)の中心軸(CC)を中心として回転させる支持部材回転手段(41)と、
前記支持部材(24)の回転と同期して前記チャック(12)を前記コア(11)の中心軸(CC)を中心として前記コア(11)とともに回転させ前記ノズル(23)から繰出される前記線材(22)を前記コア(11)に巻回させるチャック回転手段(61)と
を備えたコイル巻線装置。
【請求項2】
支持部材回転手段(41)は、支持部材(24)が先端に中心軸(RC)から偏倚して設けられた回転体(44)と、前記中心軸(RC)を回転中心として前記回転体(44)を回転させるサーボモータ(46)とを有し、
前記支持部材(24)は前記回転体(44)の先端に中心軸(RC)方向に移動可能に設けられ、
前記支持部材(24)の前記回転体(44)に対する移動を許容可能に禁止する支持部材移動制限機構(56)が備えられた請求項1記載のコイル巻線装置。
【請求項3】
チャック(12)に対向して設けられ前記チャック(12)に把持されたコア(11)を前記チャック(12)に向けて押圧する押圧機構(71)を更に備えた請求項1又は2記載のコイル巻線装置。
【請求項4】
巻胴部(11c)の両端部に鍔部が形成されたコア(11)であって、一方の鍔部(11a)に電極(11d)が形成され他方の鍔部(11b)がチャック(12)に把持された前記コア(11)の前記巻胴部(11c)にノズル(23)から繰出された線材(22)を巻回するコイル巻線方法において、
前記コア(11)の前記一方の鍔部(11a)に対向する支持部材(24)に端部が支持された前記線材(22)を巻初めの線材(22a)として前記一方の鍔部(11a)側から前記巻胴部(11c)に案内する線材導入工程と、
前記支持部材(24)と前記チャック(12)を同期して同方向に回転させて前記ノズル(23)から繰出される前記線材(22)を前記チャック(12)とともに回転する前記コア(11)の前記巻胴部(11c)に巻回させる線材巻回工程と、
前記巻胴部(11c)に巻取られた後に前記ノズル(23)から繰出される線材(22)を巻終わりの線材(22b)として前記巻胴部(11c)から一方の鍔部(11a)側に引出す線材引出し工程と
を含むことを特徴とするコイル巻線方法。
【請求項5】
線材引出し工程が、
支持部材(24)に支持された巻初めの線材(22a)を前記支持部材(24)から離脱させる巻初めの線材離脱動作と、
巻終わりの線材(22b)を一方の鍔部(11a)側に引出して前記巻初めの線材(22a)が離脱した前記支持部材(24)に前記巻終わりの線材(22b)を支持させる巻終わりの線材引出し動作と、
コア(11)と前記支持部材(24)の間の線材(22)を切断する線材切断動作とを有する請求項4記載のコイル巻線方法。
【請求項6】
少なくとも線材巻回工程において、チャック(12)に対向して設けられた押圧機構(71)により前記チャック(12)に把持されたコア(11)を前記チャック(12)に向けて押圧する請求項4又は5記載のコイル巻線方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−80037(P2012−80037A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226563(P2010−226563)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000227537)日特エンジニアリング株式会社 (106)
【Fターム(参考)】