説明

コイル巻芯の絶縁膜形成キットとこれを用いた絶縁膜形成方法および時計

【課題】時計用コイルの生産において巻芯に絶縁テープや、絶縁材料を塗布することなく、角にも絶縁膜を容易に形成でき保管ができる巻芯を提供し、更に、シートを使用することなくコイル巻芯絶縁膜を形成するキットおよび絶縁膜を形成する方法およびこれを用いた時計を提供する。
【解決手段】(A)溶媒に少なくとも融点が100℃以上のイミダゾール誘導体を含有する塗布剤と(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液とからなるコイル巻芯の絶縁膜形成キットまたは前記(A)の塗布液に、更にバインダーとして融点が100℃以上のエポキシ樹脂を含有する塗布剤と、(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液とからなるコイル巻芯の絶縁膜形成キットを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコイル巻芯の絶縁膜を形成するための絶縁膜形成キットとこれを用いた絶縁膜の形成方法に関し、特に時計用コイルを作成するために使用するコイル巻芯の絶縁膜形成キットとこれを用いた絶縁皮膜の形成方法およびこれを用いた時計に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器は急速に小型化が進み、携帯の小型端末が開発された。小型電子機器に含まれる電子式時計分野においてもデザインや、重量、大きさ等を考慮して小型化が進んでいる。
【0003】
電子式時計の基本構造は、電池を含む電子回路と、時刻を表示するための指針を動かす為の輪列部と、電力を動力に変換するためのモータ部分とから出来ている。モーター部分には、軟磁性体から成る巻芯に線材を巻いたコイルを部品として使用している。発電を行う電子式時計では機械エネルギーを電気エネルギーに変換するためのコイルを有している。
【0004】
このような従来のコイルの構造を図1に示したコイルの断面図を用いて説明する。コイル100は軟磁性体材料でできている巻芯105に、銅等の導電性のある細い導線材109を巻き重ねた構造をしている。このため、導線材109が物理的な衝撃によって崩れないように、巻き重ねた導線材109の両端部の巻芯105に巻き枠103を嵌着している。巻き枠103は、ポリエステルや、ポリプロピレン等の高分子材料を、目的とする形に打ち抜く方法で作成し、切断面に残されたバリを除去するためにバレル処理を行った物などが使用できる。
【0005】
導線材109の2本の端末109aは、他の部品との導通をとるための端子シート107上の配線パターン107aに接続されている。また、コイル100を時計に組み込むときや、修理のためにコイルを時計から外したりするときに、むき出しになった導線材109の断線を予防するため、巻き重ねた導線材109の外周及び端末部分に保護層101を被覆している。保護層101は、コイル100全体の大きさが大きすぎないように考慮して巻き枠の側面103aで接するようにしている。保護層101は保護剤(紫外線硬化型接着剤)をコイル上の必要な部分に塗布した後、紫外線を照射することにより硬化させて形成している。
【0006】
このようなコイルを作成するに当たっては、一般に導線材109は外周に絶縁皮膜を有する線を巻芯105に巻くことになる。巻芯105はプレスなど加工上の問題から導線材109を巻く竿の部分にもバリが残ることもあり巻いている途中に絶縁皮膜が破れショートして機能しなくなることがある。
【0007】
これを解決するために、巻芯の周りに絶縁テープを巻き、絶縁と導線材の保護を同時に実現する手法を現在とっている。
【0008】
また、これを解決するために、例えば特許文献1には、導線材を巻き取るコイル巻芯の部分を面取りしてバリをなくすことが提案されている。
【0009】
また一方、コイル巻芯の絶縁方法としては、繊維などで編まれたり多孔質材でできている素材のシートに、イミダゾールなどのエポキシと反応する促進剤を塗布し、これをコイル巻芯に巻いた後、これをエポキシと酸無水物を含有する液に浸漬し、硬化させ絶縁皮膜
を形成させる方法が、特許文献2、特許文献3に開示されている。
【0010】
また、コイルの絶縁方法として特許文献4には、テフロン(登録商標)のスプレーをしたり、接着剤を巻芯に塗ったり、カチオン電着塗装を施すなどの提案がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実開昭62−065591号公報
【特許文献2】特開昭60−026441号公報
【特許文献3】特開昭63−131554号公報
【特許文献4】特開昭59−132741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、コイル巻芯に絶縁テープを巻くと、大変な手間がかかるだけでなく、一度貼った絶縁テープが経時的にテープが剥離してしまうといった問題があり、製造上作りだめができないといった課題がある。
【0013】
また、特許文献1に記載された面取りを行うと、テープを巻く以上に手間がかかり、加工費用がかかり高価になるといった課題がある。
【0014】
特許文献2から特許文献3に記載された、シートに促進剤を含浸させ主剤と硬化剤が混合されたエポキシ中で硬化させると、硬化させるエポキシの浴槽に主剤と硬化剤がすでに混合されているので、使い回しができなく、毎回新しい材料に交換するといった課題がある。また、シートに促進剤を含浸させ、シートを巻くといった手間がかかる。
【0015】
また、特許文献4には、巻芯に各種の絶縁性を有する接着剤やスプレーや塗装を施すことが記載されているが、このような塗装は、角の部分に付着しにくく、バリを覆うこともできず巻き線をしたときにショートをしてしまう課題がある。
【0016】
以上のように、本発明は巻芯に絶縁テープや、絶縁材料を塗布することなく、角にも絶縁膜を容易に形成でき保管ができる巻芯を提供し、更に、シートを使用することなくコイル巻芯絶縁膜を形成するキットおよび絶縁膜を形成する方法およびこれを用いた時計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで、コイル巻芯の絶縁膜形成キットは、(A)溶媒に少なくとも融点が100℃以上のイミダゾール誘導体を含有する塗布剤と(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液とからなることを特徴とする。
【0018】
または、前記(A)の塗布液に、更にバインダーとして融点が100℃以上のエポキシ樹脂を含有する塗布剤と、(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液とからなることを特徴とする。
【0019】
または、(C)エポキシ基とシラノール基を有するシランカップリング剤と、(A)溶媒に少なくとも融点が100℃以上のイミダゾール誘導体を含有する塗布剤と(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液とからなることを特徴とする。
【0020】
または、(C)エポキシ基とシラノール基を有するシランカップリング剤と、前記(A)の塗布剤に、更にバインダーとして融点が100℃以上のエポキシ樹脂を含有する塗布液
と、(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液とからなることを特徴とする。
【0021】
または、前記イミダゾールが2位にメチル基、エチル基等の炭素数が1から17個の2-アルキルイミダゾール、2位に置換基を有しても良いフェニル基を有する2−フェニルイミダゾール誘導体、または、2位に置換基を有するイミダゾールに更に4位にメチル基、エチル基等の炭素数が1から7の2−アルキル−4−アルキルイミダゾール、2−フェニルー4−アルキルイミダゾール誘導体であることを特徴とする。
【0022】
または、前記イミダゾールが、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールから選ばれることを特徴とする。
【0023】
または、(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液のエポキシモノマーが、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、または、前記エポキシモノマーに融点がこれを上回るトリメチロールプロパンの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物、2-(4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル)−2−(4−(1,1−ビス(4-((2,3-エポキシプロポキシ)フェニル)エイル)フェニル)プロパンを加えて混和体とした融点が20℃以下のエポキシモノマーであることを特徴とする。
【0024】
または、(A)溶媒と少なくとも融点が100℃以上のイミダゾール誘導体を含有する塗布剤の溶媒がどのケトン類、アルコール類、エステル類、エーテル類、テトラヒドロフラン、アセトニトリルから選ばれることを特徴とする。
【0025】
または、前記、溶媒が、アセトンMEK、IPA、メタノール、酢酸エチル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトニトリルから選ばれることを特徴とし、または、(A)溶媒と少なくとも融点が100℃以上のイミダゾール誘導体を含有する塗布剤の溶媒に対するイミダゾールの濃度が5wt%以上70wt%以下であることを特徴とする。
【0026】
または、(C)エポキシ基とシラノール基を有するシランカップリング剤が、(GE-R)nSi(O-Ak)m 〔Ak: CH3-またはC2H5- GE:グリシジルエーテル基 R: −(CH2)x− xは1から4の整数 n、mは1から3の整数で、n+m=4〕 または (CH-R)nSi(O-Ak)m 〔Ak: CH3-またはC2H5- CH: エポキシシクロヘキシル基
R: −(CH2)x− xは1から4の整数 n、mは1から3の整数で、n+m=4〕であることを特徴とする。
【0027】
または、(A)の塗布液のバインダーが、イミダゾールに対して5wt%以上15wt%以下であることを特徴とする。
【0028】
また、本発明のコイル巻芯の絶縁膜形成方法は、(A)溶媒に少なくとも融点が100℃以上のイミダゾール誘導体を含有する塗布剤をコイル巻芯の絶縁したい部位に塗布し、乾燥させた後(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液中で100℃以上で維持して絶縁膜を重合によって形成することを特徴とする。
【0029】
または、前記(A)の塗布液に、更にバインダーとして融点が100℃以上のエポキシ樹脂を含有する塗布剤をコイル巻芯の絶縁したい部位に塗布し、乾燥させた後、(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液中で100℃以上で維持して絶縁膜を重合によって形成することを特徴とする。
【0030】
または、(C)エポキシ基とシラノール基を有するシランカップリング剤で表面処理し
た後、(A)溶媒に少なくとも融点が100℃以上のイミダゾール誘導体を含有する塗布剤をコイル巻芯の絶縁したい部位に塗布し、(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液中で100℃以上で維持して絶縁膜を重合によって形成することを特徴とする。
【0031】
または、(C)エポキシ基とシラノール基を有するシランカップリング剤で表面処理した後、前記(A)の塗布剤に、更にバインダーとして融点が100℃以上のエポキシ樹脂を含有する塗布剤をコイル巻芯の絶縁したい部位に塗布し、(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液中で100℃以上で維持して絶縁膜を重合によって形成することを特徴とする。
【0032】
これらにより、コイル巻芯の絶縁膜形成方法を実施し、時計を生産することでできる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、巻芯に絶縁テープを巻くことが無いので、テープが剥離せず長期にわたって保存が可能な巻芯を作成できる。また、コイル巻芯の面取りをしないため余計な加工が不要で手間やコストがかからないといった効果がある。また、促進剤を含浸するシートや、反応層にエポキシと硬化剤との混合材料を使用しないため、絶縁膜形成層の材料を複数回使用することができ、さらに不要なシートも使わなくてすむといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】従来のコイルの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明のコイル巻芯の絶縁膜形成キットは、(A)少なくとも融点が100℃以上のイミダゾール誘導体を含有する塗布剤と(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液とからなる。
また、本発明のコイル巻芯の絶縁膜形成キットは、前記(A)の塗布液に、更にバインダーとして融点が100℃以上のエポキシ樹脂を含有する塗布液と、(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液とからなる。
また、本発明の第2のコイル巻芯の絶縁膜形成キットは、(C)エポキシ基とシラノール基を有するシランカップリング剤と、(A)少なくとも融点が100℃以上のイミダゾール誘導体を含有する塗布剤と(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液とからなる。
また、本発明のコイル巻芯の絶縁膜形成キットは、(C)エポキシ基とシラノール基を有するシランカップリング剤と、前記(A)の塗布液に、更にバインダーとして融点が100℃以上のエポキシ樹脂を含有する塗布液と、(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液とからなる。
【0036】
本発明のコイル巻芯の絶縁膜形成キットを用いた絶縁膜の形成方法を説明する。
【0037】
まず、(A)少なくとも融点が100℃以上のイミダゾール誘導体を含有する塗布剤を用意する。融点が100℃以上のイミダゾールとしては2位にメチル基、エチル基等の炭素数が1から17個の2-アルキルイミダゾール、2位に置換基を有しても良いフェニル基を有する2−フェニルイミダゾール誘導体、前記2位に置換基を有するイミダゾールに更に4位にメチル基、エチル基等の炭素数が1から7の2−アルキル−4−アルキルイミダゾール、2−フェニルー4−アルキルイミダゾール誘導体などが使用できる。例えば2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどがあげられる。
【0038】
(A)のイミダゾールをコイル巻芯に塗布する方法としては、イミダゾールを低沸点の
溶媒に溶解させて、絶縁膜を形成したい部分に塗布して溶媒を乾燥させることでできる
。溶媒としては、アセトンMEKなどのケトン類、IPA、メタノールなどのアルコール類 、酢酸エチルなどのエステル類、ジエチルエーテルなどのエーテル類やテトラヒドロフ ランや、アセトニトリルなどが使用できる。
【0039】
溶媒に溶解させるイミダゾールの量は、巻芯に十分塗布層が形成されるまで繰り返し塗布することができるので特に指定は無いが、溶媒に対するイミダゾールの量は5wt%以上70wt%以下がもっとも好ましい。濃度が薄いと重ね塗りが必要となり、濃いと塗布液の粘度が上がり、塗布層が分厚く形成されすぎて、適切な塗布層が形成されない。このことから、塗布液の濃度は5wt%以上70wt%以下が好ましい。
【0040】
コイル巻芯にイミダゾールを塗布する方法は、筆塗りや、スタンプ、脱脂綿で塗布するなど種々の方法で塗布することができる。
【0041】
(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液は、常温で液状で、塗布剤を塗布したコイル巻芯を浸漬することができる。浸漬するエポキシは、常温で固体のエポキシでも液状のエポキシに溶解すれば使用することができる。種々のエポキシを溶解させた重合液が全体として融点が20℃以下であることを満たせば使用することができる。このようなエポキシモノマーとしてはビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂があげられる。また、前記エポキシモノマーに融点がこれを上回るトリメチロールプロパンの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物や2-(4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル)−2−(4−(1,1−ビス(4-((2,3-エポキシプロポキシ)フェニル)エイル)フェニル)プロパン等の多官能エポキシ樹脂などを加えて混和体とした融点が20℃以下のエポキシモノマーとして用いることができる。
融点が100℃以上のイミダゾールを用いる理由は、(A)のイミダゾールを(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液中で、重合させるときに、加温して反応を促進することになる。イミダゾールとエポキシの反応は100℃以上になると早くなり、重合層が短時間で形成される。それゆえ、融点が100℃未満のイミダゾールを使用すると100℃中の重合液の中でイミダゾールが溶解して重合膜を形成する前にコイル巻芯から取れてしまうといった現象が発生する。この様に融点が100℃以上のイミダゾールを使用することで100℃以上の重合反応条件でも膜は分離することなく維持される。
【0042】
重合反応において、本発明の塗布液はイミダゾール誘導体で、重合液はエポキシ樹脂からなっている。重合液がエポキシ樹脂からだけなることで、繰り返し使用することができるようになる。重合反応は、塗布層のイミダゾールが立体的にむくむくと成長するように絶縁層を形成してゆく。この様に立体的に反応することによってコイル巻芯の平面部から角の部分までしっかりと覆うことができる。また、塗布時に塗布剤の付着していないピンホールが存在していたとしても、重合過程で左右上下に立体的に重合が進行するのでこれを覆うことができる。この様にして重合反応して得られた膜は絶縁性を有しており、コイル巻芯の絶縁膜として使用することができる。
【0043】
また、重合して成長することで得られた絶縁膜をコイル巻芯により密着性良く形成させるには、前述の塗布剤と重合液の処理を行う前に、(C)エポキシ基とシラノール基を有するシランカップリング剤で表面を前処理しておくことが好ましい。(C)中のエポキシ基とシラノール基からなるシランカップリング剤としては、(GE-R)nSi(O-Ak)m Ak: CH3-またはC2H5- GE:グリシジルエーテル基 R: −(CH2)x− xは1から4の整数 n、mは1から3の整数で、n+m=4 または (CH-R)nSi(O-Ak)m
Ak: CH3-またはC2H5- CH: エポキシシクロヘキシル基 R: −(CH2)x− xは1から4の整数 n、mは1から3の整数で、n+m=4を指すを使用することができる。
【0044】
シラノール基を生成させるための水と併用して使用する溶媒としては炭素数が1から3の低級アルコールが好ましい。水とアルコールの比率は水のアルコールに対する含有量が5wt%から20wt%であることが好ましい。
【0045】
前処理の方法は、シランカップリング剤を水とアルコールの混合溶媒中に1wt%以上8wt%以下の濃度で溶解させ、約3時間以上室温(約25℃)で放置し、シラノール基を生成させる。その後、この液にコイル巻芯を浸漬して溶媒を加温もしくは風乾させることで処理ができる。シランカップリング剤の濃度が1wt%より小さいと効きが悪く、8wt%を超えるとシランカップリング剤が表面に多く残りコイル巻芯がべたつき好適でない。以上のことからシランカップリング剤の濃度は1wt%以上8wt%以下が好ましい。
シランカップリング剤の具体例としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルエトキシシラン。2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどがあげられる。
【0046】
また、本発明の前記(A)の塗布液に、更にバインダーとして融点が100℃以上のエポキシ樹脂を含有する塗布剤を使用することができる。表面が荒れていて塗布剤が付着しやすい表面の場合(例えば、アルミホイルの非光沢面のような表面)は、イミダゾール単体でも皮膜形成しやすいが、表面が平坦な形状の場合には更にバインダーを含有させるとイミダゾール層(塗布層)を密着性良く形成することができる。
【0047】
加えるバインダーは、イミダゾールに対して5wt%以上15wt%以下が好ましい。また、バインダーとして加えるエポキシの融点(軟化点)は100℃以上が好ましい。これよりも低いと重合液中で反応させるときにエポキシが溶け出し、塗布層が重合せずに取れてしまい、絶縁層が形成されなくなる。
【0048】
一方、100℃以上の場合は、重合反応温度になっても溶解することなくイミダゾールを保持するので、良好に絶縁膜を得ることができる。ここで融点と軟化点を併記したが、樹脂が柔らかくなったり、溶ける温度が本発明には重要である為、ここでは軟化点と融点を同様の性質として取り扱っている。
【0049】
以下実施例を基に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(実施例)
イミダゾールとして(Z-1)2−メチルイミダゾール、(Z-2)2−フェニルイミダゾール、(Z-3)2−フェニル−4−メチルイミダゾールを用意した。
イミダゾール(Z-1)、(Z-2)、(Z-3)をメタノールとアセトンにそれぞれ溶解し、1wt%、5wt%、50wt%、70wt%、90wt%の濃度の液体とした。これをコイル巻芯に筆を用いて塗布したところ5wt%から70wt%範囲では良好にコイル巻芯上に塗布層を形成できた。一方、1wt%の場合は、複数回塗布して塗布層を形成することができた。また、90wt%の場合には液の粘度が高くなり厚くは塗布できるが、薄く塗布することはできなかった。
【0050】
以上の結果から、塗布剤のイミダゾールの濃度は5wt%以上70wt%以下であることが好ましいことが判った。
【0051】
イミダゾールとして(Z-1)2−メチルイミダゾール、(Z-2)2−フェニルイミダゾール、(Z-3)2−フェニル−4−メチルイミダゾールを用意した。また、(A-1)融点(軟化点)が144℃のビスフェノールA型エポキシ樹脂、(A-2)融点(軟化点)が135℃のビスフェノールF型エポキシ樹脂を用意した。
【0052】
イミダゾール(Z-1)、(Z-2)、(Z-3)と高融点(高軟化点)のエポキシ樹脂バインダー(A-1)、(A-2)をそれぞれイミダゾールに対して1wt%、5wt%、10wt%、15wt%30wt%混合し、THF(テトラヒドロフラン)溶液(濃度50%)を作成し、塗布剤を得た。これをコイル巻芯に筆を用いて塗布したところいずれも良好に塗布できた。
【0053】
これを、常温で液体のビスフェノールF型エポキシ樹脂に浸して110℃に加温して60分間保持したところ、バインダーの量が、5wt%以上15wt%以下の場合はいずれも良好にエポキシ含有の強固な絶縁膜が形成できた。また、1wt%の場合は、イミダゾール単体で得られる絶縁層とほぼ同様の絶縁膜が形成できた。一方、バインダー量が30wt%の場合は絶縁が成長することが無かった。
以上の結果から、イミダゾールに加えるバインダーの量は5wt%以上15wt%以下であることが好ましいことが判った。
【0054】
また、併せて絶縁膜を形成したコイル巻芯を用いてコイルを作成し、時計に組み込んだところいずれも正常に動作した。
【0055】
イミダゾールとして(Z-1)2−メチルイミダゾール、(Z-2)2−フェニルイミダゾール、(Z-3)2−フェニル−4−メチルイミダゾールを用意した。また、(A-1)融点(軟化点)が144℃のビスフェノールA型エポキシ樹脂、(A-2)融点(軟化点)が135℃のビスフェノールF型エポキシ樹脂を用意した。
【0056】
イミダゾール(Z-1)、(Z-2)、(Z-3)と高融点(高軟化点)のエポキシ樹脂バインダー(A-1)、(A-2)をそれぞれイミダゾールに対して10wt%混合し、THFを用いて1wt%、5wt%、50wt%、70wt%、90wt%の濃度の塗布剤とした。これをコイル巻芯に筆を用いて塗布したところ5wt%から70wt%範囲では良好にコイル巻芯上に塗布層を形成できた。一方、1wt%の場合は、複数回塗布して塗布層を形成することができた。また、90wt%の場合には液の粘度が高くなり厚くは塗布できるが、薄く塗布することはできなかった。
【0057】
以上の結果から、塗布剤のイミダゾールとバインダーを混合した場合も濃度は5wt%以上70wt%以下であることが好ましいことが判った。
また、イミダゾールとバインダーを混合した場合も濃度が5wt%から70wt%のコイル巻芯を用いて、常温で液体のビスフェノールF型エポキシ樹脂と融点(軟化点)が64℃のビスフェノールF型樹脂の常温で液体の混合エポキシ(9:1)に浸して110℃に加温して60分間保持したところ、いずれも良好な絶縁膜を得ることができた。
また、併せて絶縁膜を形成したコイル巻芯を用いてコイルを作成し、時計に組み込んだところいずれも正常に動作した。
【0058】
シランカップリング剤として、(S-1)3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、(S-2)3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、(S-3)3−グリシドキシプロピルメチルエトキシシラン、(S-4)2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランを用意した。これを水とメタノール(1:9)の混合溶媒に溶解させ、0.1wt%、1wt%、5wt%、8wt%、15wt%の濃度で、室温にて12時間放置し、前処理液を得た。
【0059】
この溶液にコイル巻芯を常温で30秒間浸漬したのち、風乾した。この結果、15wt%のものは、表面にカップリング剤が多く残留しべたついて使用できなかった。残りに、(Z-2)2−フェニルイミダゾール、(A-2)融点(軟化点)が135℃のビスフェノールF型エポキシ樹脂(9:1)のTHF溶液50wt%用いて、塗布層形成した。つづいて、常温で液体のビスフェノールF型エポキシ樹脂と融点(軟化点)が64℃のビスフェノールF型樹脂の常温で液体の混合エポキシ(9:1)に浸して110℃に加温して60分間保持したところ、いずれも良好な絶縁膜を得ることができた。
【0060】
この絶縁膜を、ピンセットでつついて密着力を見たところ、0.1wt%の前処理液で処理したものは剥離した。また他の濃度のものは密着性が高く剥離できなかった。
以上のことから、前処理液のシランカップリング剤の濃度は、1wt%以上8wt%以下が好ましいことが判った。
【0061】
また、併せて絶縁膜を形成したコイル巻芯を用いてコイルを作成し、時計に組み込んだところいずれも正常に動作した。
【0062】
シランカップリング剤として、(S-1)3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、(S-2)3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、(S-3)3−グリシドキシプロピルメチルエトキシシラン、(S-4)2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランを用意した。これを水とメタノールの混合溶媒(水の含有量が、0.1wt%、5wt%、20wt%、50wt%のものを用意した。)に溶解させ、5wt%の濃度で、室温にて12時間放置し、前処理液を得た。これの溶液にコイル巻芯を常温で30秒間浸漬したのち、風乾した。この結果、水の含有量が50wt%のものは水の蒸発に時間がかかり、工業的に使用は難しかった。
【0063】
残りに、(Z-2)2−フェニルイミダゾール、(A-2)融点(軟化点)が135℃のビスフェノールF型エポキシ樹脂(9:1)のTHF溶液50wt%用いて、塗布層を形成した。つづいて、常温で液体のビスフェノールF型エポキシ樹脂と融点(軟化点)が64℃のビスフェノールF型樹脂の常温で液体の混合エポキシ(9:1)に浸して110℃に加温して60分間保持したところ、いずれも良好な絶縁膜を得ることができた。
この絶縁膜を、ピンセットでつついて密着力を見たところ、0.1wt%の前処理液で処理したものは剥離した。また他の濃度のものは密着性が高く剥離できなかった。
以上のことから、前処理液の水の濃度は、5wt%以上20wt%以下が好ましいことが判った。
【0064】
シランカップリング剤として、(S-1)3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、(S-2)3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、(S-3)3−グリシドキシプロピルメチルエトキシシラン、(S-4)2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランを用意した。これを水とメタノールの混合溶媒(水の含有量が、10wt%のものを用意した。)に溶解させ、5wt%の濃度で、室温にて12時間放置し、前処理液を得た。これの溶液にコイル巻芯を常温で30秒間浸漬したのち、風乾した。続いて、コイル巻芯にZ-2)2−フェニルイミダゾール、(A-2)融点(軟化点)が135℃のビスフェノールF型エポキシ樹脂(9:1)のTHF溶液50wt%用いて、塗布層を形成した。
【0065】
このとき、前処理を行っていない巻芯にも塗布層を形成した。
次に、常温で液体のビスフェノールF型エポキシ樹脂と融点(軟化点)が64℃のビスフェノールF型樹脂の常温で液体の混合エポキシ(9:1)、常温で液体のビスフェノールF型エポキシ樹脂とトリメチロールプロパンの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シ
クロヘキサン付加物(融点100℃以下)(9:1)、常温で液体のビスフェノールF型エポキシ樹脂と融点(軟化点)が100℃以下の2-(4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル)−2−(4−(1,1−ビス(4-((2,3-エポキシプロポキシ)フェニル)エイル)フェニル)プロパン(9:1)に浸して110℃に加温して60分間保持したところ、いずれも良好な絶縁膜を得ることができた。
【0066】
また、この巻芯を用いてコイルを作成し、時計を動作したところ良好に動作した。
更に、同じ重合液を用いて繰り返し、作業を行ったところ同様の結果を得た。以上のことから、重合液を繰り返し使用できることがわかった。
【0067】
以上のように本発明によれば、コイル巻芯の絶縁膜形成キットを用いることでコイル巻芯に絶縁膜を形成することができ、時計を良好に動作させることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)溶媒に少なくとも融点が100℃以上のイミダゾール誘導体を含有する塗布剤と(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液とからなるコイル巻芯の絶縁膜形成キット。
【請求項2】
(C)エポキシ基とシラノール基を有するシランカップリング剤と、(A)溶媒に少なくとも融点が100℃以上のイミダゾール誘導体を含有する塗布剤と(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液とからなるコイル巻芯の絶縁膜形成キット。
【請求項3】
前記(A)の塗布剤に、更にバインダーとして融点が100℃以上のエポキシ樹脂を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコイル巻芯の絶縁膜形成キット。
【請求項4】
前記イミダゾール誘導体が2位にメチル基、エチル基等の炭素数が1から17個の2-アルキルイミダゾール、2位に置換基を有しても良いフェニル基を有する2−フェニルイミダゾール誘導体、または、2位に置換基を有するイミダゾールに更に4位にメチル基、エチル基等の炭素数が1から7の2−アルキル−4−アルキルイミダゾール、2−フェニルー4−アルキルイミダゾール誘導体であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載のコイル巻芯の絶縁膜形成キット。
【請求項5】
前記イミダゾール誘導体が、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールから選ばれることを特徴とする請求項4に記載のコイル巻芯の絶縁膜形成キット。
【請求項6】
前記(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液のエポキシモノマーが、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、または、前記エポキシモノマーに融点がこれを上回るトリメチロールプロパンの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物、2-(4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル)−2−(4−(1,1−ビス(4-((2,3-エポキシプロポキシ)フェニル)エイル)フェニル)プロパンを加えて混和体とした融点が20℃以下のエポキシモノマーであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載のコイル巻芯の絶縁膜形成キット。
【請求項7】
前記(A)溶媒に少なくとも融点が100℃以上のイミダゾール誘導体を含有する塗布剤の溶媒がケトン類、アルコール類、エステル類、エーテル類、テトラヒドロフラン、アセトニトリルから選ばれることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載のコイル巻芯の絶縁膜形成キット。
【請求項8】
前記溶媒が、アセトンMEK、IPA、メタノール、酢酸エチル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトニトリルから選ばれることを特徴とする請求項7に記載のコイル巻芯の絶縁膜形成キット。
【請求項9】
前記(A)溶媒に少なくとも融点が100℃以上のイミダゾール誘導体を含有する塗布剤の溶媒に対するイミダゾールの濃度が5wt%以上70wt%以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載のコイル巻芯の絶縁膜形成キット。
【請求項10】
前記(C)エポキシ基とシラノール基を有するシランカップリング剤が、(GE-R)nSi(O-Ak)m 〔Ak: CH3-またはC2H5- GE:グリシジルエーテル基 R: −(CH2)x− xは1から4の整数 n、mは1から3の整数で、n+m=4〕 または (CH-
R)nSi(O-Ak)m 〔Ak: CH3-またはC2H5- CH: エポキシシクロヘキシル基 R:
−(CH2)x− xは1から4の整数 n、mは1から3の整数で、n+m=4〕であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のコイル巻芯の絶縁膜形成キット。
【請求項11】
前記シランカップリング剤が、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルエトキシシラン。2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランから選ばれることを特徴とする請求項10に記載のコイル巻芯の絶縁膜形成キット。
【請求項12】
前記(A)の塗布剤のバインダーが、前記イミダゾール誘導体に対して5wt%以上15wt%以下であることを特徴とする請求項3に記載のコイル巻芯の絶縁膜形成キット。
【請求項13】
(A)溶媒に少なくとも融点が100℃以上のイミダゾール誘導体を含有する塗布剤をコイル巻芯の絶縁したい部位に塗布し、乾燥させた後、(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液中で100℃以上で維持して絶縁膜を重合によって形成するコイル巻芯の絶縁膜形成方法。
【請求項14】
(A)溶媒に少なくとも融点が100℃以上のイミダゾール誘導体を含有する塗布剤に、更にバインダーとして融点が100℃以上のエポキシ樹脂を含有する塗布剤をコイル巻芯の絶縁したい部位に塗布し、乾燥させた後、(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液中で100℃以上で維持して絶縁膜を重合によって形成するコイル巻芯の絶縁膜形成方法。
【請求項15】
(C)エポキシ基とシラノール基を有するシランカップリング剤で表面処理した後、(A)溶媒に少なくとも融点が100℃以上のイミダゾール誘導体を含有する塗布剤をコイル巻芯の絶縁したい部位に塗布し、(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液中で100℃以上で維持して絶縁膜を重合によって形成するコイル巻芯の絶縁膜形成方法。
【請求項16】
(C)エポキシ基とシラノール基を有するシランカップリング剤で表面処理した後、(A)溶媒に少なくとも融点が100℃以上のイミダゾール誘導体を含有する塗布剤に、更にバインダーとして融点が100℃以上のエポキシ樹脂を含有する塗布剤をコイル巻芯の絶縁したい部位に塗布し、(B)少なくとも融点が20℃以下のエポキシモノマーからなる重合液中で100℃以上で維持して絶縁膜を重合によって形成するコイル巻芯の絶縁膜形成方法。
【請求項17】
請求項1から請求項16に記載したコイル巻芯の絶縁膜形成キットとコイル巻芯の絶縁膜形成方法により作成したコイルを用いることを特徴とする時計。

【図1】
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【公開番号】特開2013−42029(P2013−42029A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178924(P2011−178924)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【出願人】(307023373)シチズン時計株式会社 (227)
【Fターム(参考)】