説明

コイル部品、トランス、スイッチング電源装置、及びコイル部品の製造方法

【課題】組立てに係る工程数を削減することができるコイル部品、及びこのコイル部品を用いたトランス、スイッチング電源装置、及びコイル部品の製造方法を提供する。
【解決手段】コイル部品1は、コイル巻線2と、当該コイル巻線2の表面の一部領域を覆うように当該コイル巻線2と一体成形された電気絶縁性の絶縁部材である樹脂部40と、を備え、当該コイル巻線2が巻回される軸線方向において磁性体コア部材によって挟まれるコイル部品であって、コイル巻線2は、有端リング状で板状をなすコイル部材10,12を上下方向に間隙をおいて複数、所定の巻き方向に連なるように連結させてなり、絶縁部材である樹脂部40は、磁性体コア部材と対向する最外のコイル部材10,12の板面、隣接するコイル部材10,12の間、及びコイル部材10,12の内周縁を覆い、前記コイル巻線が巻回される軸線方向に沿って開口部52,54を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品、トランス、スイッチング電源装置、及びコイル部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の搭載部品として、高電圧を低電圧に変換、あるいは、低電圧を高電圧に変換するDC−DCコンバータ等のスイッチング電源装置が知られている。スイッチング電源装置に用いられるコイル部品としては、例えば特許文献1記載のものが知られている。特許文献1記載のコイル部品は、コイル巻線と筒状の絶縁性のコイル用ボビンとを備えるものであり、コイル用ボビンはコイル巻線の内側に挿通される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−217311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載のコイル部品を構成するためには、コイル巻線と筒状のコイル用ボビンとをそれぞれ準備し、さらに、コイル用ボビンをコイル巻線の内側に挿通する必要がある。すなわち、部品数が多く、組立てに係る作業が必要となる。
【0005】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、組立てに係る工程数を削減することができるコイル部品、及びこのコイル部品を用いたトランス、スイッチング電源装置、及びコイル部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係るコイル部品は、コイル巻線と、当該コイル巻線の表面の一部領域を覆うように当該コイル巻線と一体成形された電気絶縁性の絶縁部材と、を備え、当該コイル巻線が巻回される軸線方向において磁性体コア部材によって挟まれるコイル部品であって、前記コイル巻線は、有端リング状で板状をなすコイル部材を上下方向に間隙をおいて複数、所定の巻き方向に連なるように連結させてなり、前記絶縁部材は、前記磁性体コア部材と対向する最外の前記コイル部材の板面、隣接する前記コイル部材間、及び前記コイル部材の内周縁を覆い、前記コイル巻線が巻回される軸線方向に沿って開口部を有することを特徴とする。
【0007】
上記のコイル部品によれば、コイル巻線の表面のうち、磁性体コア部材と対向する最外の前記コイル部材の板面、隣接する前記コイル部材間、及び前記コイル部材の内周縁が絶縁材料により覆われる。これにより、コイル部品を挟む磁性体コア部材との絶縁及び隣接するコイル部材との絶縁が達成される。そして、この絶縁材料はコイル巻線と一体成形されているため、このコイル部品のみを用いて、コイル巻線の絶縁を達成することができることから、従来のように、コイル用ボビンをコイル巻線の内側に挿通する場合と比較して組立てに係る工程数を削減することができる。
【0008】
ここで、本発明に係るコイル部品において、前記コイル部材は、その外周縁のうちの一部が径方向に大きくなるように、外方へ膨らんだ突出部を備え、前記突出部の表面の一部領域は、前記絶縁部材に被覆されず露出している態様とすることが好ましい。
【0009】
このように、コイル部材において外周縁のうちの一部が径方向に大きくなるように、外方へ膨らんだ突出部を備え、この突出部の表面の一部領域が絶縁材料により被覆されず外部に露出する態様とすることにより、この露出された部分から、例えば伝熱性の部材を介して外部に設けられた放熱部材と接続することによりコイル巻線からの放熱効果を高めることができる。
【0010】
また、前記突出部が設けられる周方向位置は、複数の前記コイル部材において互いに異なっている態様とすることもできる。
【0011】
このように、突出部が設けられる周方向位置が複数のコイル部材において互いに異なる態様とすることにより、突出部に対する伝熱性の部材の配置が容易となり、放熱をより容易に行う構成とすることができる。また、コイル巻線と絶縁材料とをインサートモールド成形する場合には、成形時の圧力(例えば絶縁材料である樹脂を金型内に注入する際の圧力)によりコイル巻線が変形することを防止する目的で金型に対して機械的に固定することができる。このため、一体成形時のコイル巻線の変形を抑制することができる。
【0012】
さらに、絶縁部材は、前記磁性体コア部材と対向する一方の表面に、前記磁性体コア部材に対する位置決め用の凸部を備える態様とすることもできる。
【0013】
このように、磁性体コア部材と対向する一方の表面において、磁性体コア部材に対する位置決め用の凸部を設ける態様とすることにより、磁性体コア部材とコイル部品との位置ズレの発生を抑制することができる。
【0014】
本発明のトランスは、上記のコイル部品を備えることを特徴とする。この場合、コイル部品の組立てに係る工程数が削減されたコイル部品を用いたトランスを得ることができる。
【0015】
また、本発明に係るスイッチング電源装置は、上記のコイル部品を備えることを特徴とする。この場合、コイル部品の組立てに係る工程数が削減されたコイル部品を用いたスイッチング電源装置を得ることができる。
【0016】
また、本発明に係るコイル部品の製造方法は、コイル巻線と、当該コイル巻線の表面の一部領域を覆うように当該コイル巻線と一体にモールド成形された電気絶縁性の絶縁部材と、を備え、当該コイル巻線が巻回される軸線方向において磁性体コア部材によって挟まれるコイル部品を製造する方法であって、有端リング状で板状をなすコイル部材を上下方向に間隙をおいて複数、所定の巻き方向に連なるように連結させて前記コイル巻線を作製する工程と、前記磁性体コア部材と対向する最外の前記コイル部材の板面、隣接する前記コイル部材間、及び前記コイル部材の内周縁を覆い、前記コイル巻線が巻回される軸線方向に沿って開口部が設けられるように、電気絶縁性の材料によりモールド成形して前記絶縁部材を前記コイル巻線と一体成形する工程と、を備えることを特徴とする。
【0017】
上記のように、導電性のコイル巻線の表面のうち、磁性体コア部材と対向する最外の前記コイル部材の板面、隣接する前記コイル部材間、及び前記コイル部材の内周縁と、覆われるように電気絶縁性の材料によりモールド成形されてコイル部品が製造される。これにより、コイル部品を挟む磁性体コア部材との絶縁及び隣接するコイル部材との絶縁を、組立てに係る工程数を削減して達成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、組立てに係る工程数を削減することができるコイル部品、及びこのコイル部品を用いたトランス、スイッチング電源装置、そして、コイル部品の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るコイル部品を示す斜視図である。
【図2】図1のコイル部品の底面側からの斜視図である。
【図3】(a)は図1のコイル部品の平面図であり、(b)はコイル部品の底面図である。
【図4】(a)は図3(a)のコイル部品のIVA−IVA線における端面を示す図であり、(b)は図3(a)のコイル部品のIVB−IVB線における端面を示す図である。
【図5】図1のコイル部品を構成するコイル巻線及び接続部材を示す斜視図である。
【図6】(a)はコイル部品を構成するコイル巻線の平面図であり、(b)はコイル巻線の底面図である。
【図7】コイル巻線の側面図である。
【図8】磁性体コア部を更に備えるコイル部品の分解斜視図である。
【図9】本実施形態に係るスイッチング電源装置の回路図である。
【図10】本実施形態に係るスイッチング電源装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
(コイル部品)
まず、図1〜図7を参照して、本実施形態に係るコイル部品の構成を説明する。図1は、本実施形態に係るコイル部品を示す斜視図である。図2は、図1のコイル部品の底面側からの斜視図である。図3(a)は、図1のコイル部品の平面図であり、図3(b)は、図1のコイル部品の底面図である。図4(a)は、図3(a)のコイル部品のIVA−IVA線における端面を示す図であり、図4(b)は、図3(a)のコイル部品のIVB−IVB線における端面を示す図である(なお、図4(b)ではコイル部品1は接続部材3が取り付けられていない構成について示している)。また、図5は、図1のコイル部品を構成するコイル巻線及び接続部材を示す斜視図である。図6(a)は、コイル部品を構成するコイル巻線の平面図であり、図6(b)は、このコイル巻線の底面図である。また、図7は、コイル巻線の側面図である。
【0022】
図1に示すコイル部品1は、インダクタンス素子、コンバータ、インバータ等のスイッチング電源装置、ノイズフィルタ等に用いられるものである。コイル部品1は、導体板からなる2つのコイル巻線2と、この2つのコイル巻線2を接続する接続部材3と、コイル巻線2を覆う電気絶縁性の絶縁部材からなる樹脂部40と、を含んで構成される。以下、まずコイル部品1を構成するコイル巻線2について説明し、次に2つのコイル巻線2を接続部材3により接続した構成4について説明し、最後にこれを絶縁部材により覆ったコイル部品1について説明する。
【0023】
<コイル巻線>
コイル巻線2は、図5〜図7に示すように、間を隔てて並設された有端リング状であり且つ板状の第1及び第2のコイル部材10,12を、所定の巻き方向に連なるように連結させたものである。
【0024】
有端リング状の第1及び第2のコイル部材10,12はいわゆるC字状を呈しており、中央に円形状の開口14,16を有している。また、第1及び第2のコイル部材10,12の一端と他端との間は、内周から外周まで延びるスリット20,22になっている。第1コイル部材10と第2のコイル部材12とは、開口14,16が連通するように同軸上に重なり合っている。なお、第1コイル部材10と第2のコイル部材12とは、スリット20とスリット22との位置をずらした状態で(つまりこれらが連通しないように)重なり合っている。そのため、第1のコイル部材10の他端部が第2のコイル部材12の一端部と重なり合うことになる。なお第1及び第2のコイル部材10,12の形状は上記のC字状の有端リング状に限られず、例えば楕円形状や、四角形状等の他の形状であってもよい。
【0025】
第1のコイル部材10の一端部には、開口14の中心軸線に対し外方に向かって突出する第1の端子部24が一体的に設けられており、第1のコイル部材10の他端部はU字状の連結部18を介して第2のコイル部材12の一端部に連結されている。第2のコイル部材12の他端部には、開口16の中心軸線に対し外方に向かって突出する第2の端子部26が一体的に設けられている。
【0026】
このような構成のコイル巻線2では、第1の端子部24がコイル巻線2の始端、第2の端子部26がコイル巻線2の終端になっている。第1の端子部24に入力された電力は、第1のコイル部材10、連結部18、第2のコイル部材12の順で流れ、第2の端子部26から出力される。
【0027】
第1のコイル部材10の内周縁には、外方に向けて切り込まれた切込部30が形成されている。さらに、第1のコイル部材10の外周縁のうち、開口14の中心軸線と切込部30とを結ぶ線を延長した領域には、第1のコイル部材10の外周縁が径方向に大きくなるように、外方に膨らんだ突出部34が設けられる。
【0028】
一方、第2のコイル部材12の内周縁には、外方に向けて切り込まれた切込部32が形成されている。さらに、第2のコイル部材12の外周縁のうち、開口16の中心軸と切込部32とを結ぶ線を延長した領域には、第2のコイル部材12の外周縁が径方向に大きくなるように、外方に膨らんだ突出部36が設けられる。
【0029】
切込部30,32は、第1及び第2のコイル部材10,12の厚さ方向に貫通している。開口14,16の中心軸線方向から見ると、切込部30,32は、開口14,16の周縁に沿って所定の幅を有しており、開口14,16の径方向に所定の奥行きを有している。また、第1のコイル部材10に設けられる切込部30と、第2のコイル部材12に設けられる切込部32とは、開口14,16の中心軸線方向から見たときに、互いに異なる位置に設けられる。また、第1のコイル部材10に設けられる突出部34と、第2のコイル部材12に設けられる突出部36とは、それぞれ第1及び第2のコイル部材10,12の外周縁に沿って所定の幅を有しており、外周縁が外方へ所定の幅だけ突出するように設けられる。
【0030】
また、突出部34,36はそれぞれ開口14,16の中心軸線と切込部30,32とを結んだ直線を延長した外周縁に設けられる。これにより、切込部30,32の形成領域における第1及び第2のコイル部材10,12の幅(導体板の幅)を確保し、切込部30,32の周囲で第1及び第2のコイル部材10,12が細くなり、発熱等の原因となる電気抵抗が増加することを回避している。このように本実施形態では、切込部30,32の形成領域における第1及び第2のコイル部材10,12の幅を、突出部34,36を設けることにより確保して、導体板の幅と厚みとで決まる各コイル部材10,12の断面積の減少による電気抵抗の増加を抑えている。なお、突出部34,36は、開口14,16の中心軸線方向から見ると互いに異なる位置に設けられる。
【0031】
さらに、第1及び第2のコイル部材10,12はそれぞれ突出部34,36とは異なる突出部33,35を備える。突出部33は、第1のコイル部材10の外周のうち上述の突出部34とは異なる位置(例えば、図6(a)に示すように、コイル巻線2が巻回される軸線を基準として連結部18に対して90度となる位置)に設けられる。また、突出部35は、第2のコイル部材12の外周のうち上述の突出部36とは異なる位置(例えば、図6(b)に示すように、コイル巻線2が巻回される軸線を基準として連結部18に対して−90度となる位置)に設けられる。このように、第1及び第2のコイル部材10,12は、複数の突出部を備えていてもよい。
【0032】
以上の構成を有するコイル巻線2は、電気伝導性が高い一枚の基板を打ち抜き加工することで形成可能である。より具体的には、銅板、アルミニウム板等の基板から、第1の端子部24と、第1の端子部24に連続する第1のコイル部材10と、第2のコイル部材12と、第2のコイル部材12に連続する第2の端子部26と、第1及び第2のコイル部材10,12を連結するI字状の連結部18と、を打ち抜き加工により得る。そして、連結部18をU字状に屈曲させることによって第1のコイル部材10と第2のコイル部材12とを所定の間隙をもって重ね合わせる。これにより、導体板からなるコイル巻線2が完成する。なお、コイル巻線2はこのような折り曲げコイルに限られず、例えば、コイル部材と連結部とをねじ留めしたものであってもよいし、溶接したものであってもよい。また、リベットで固定してもよい。
【0033】
なお、本実施形態に係るコイル部品1では、図5に示すように、並置される2つのコイル巻線2(2A,2B)の双方の第2の端子部26が接続部材3を介して接続された構成4が用いられる。この接続部材3と2つのコイル巻線2の第2端子部26とは、それぞれネジ38により固定される。これにより、コイル巻線2Aの第1の端子部24に入力された電流は、第1のコイル部材10、連結部18、第2のコイル部材12の順で流れ、コイル巻線2Aの第2の端子部26まで流れた後、接続部材3を介してコイル巻線2Bの第2端子部26に入力される。そして、コイル巻線2Bの第2コイル部材12、連結部18、第1のコイル部材10の順で流れ、コイル巻線2Bの第1の端子24から出力される。
【0034】
(コイル部品)
次に、接続部材3により接続された2つのコイル巻線2に対して絶縁部材が一体成形されたコイル部品1について説明する。
【0035】
図1に示すように、コイル部品1には、2つのコイル巻線2の第1及び第2のコイル部材10,12の一部領域をそれぞれ覆うように絶縁材料である樹脂部40が設けられる。具体的には、後述の磁性体コア部材と対向する第1及び第2のコイル部材10,12の最外の板面、隣接する第1及び第2のコイル部材10,12の間、第1及び第2のコイル部材の内周縁が樹脂部40により覆われる。また、本実施形態に示すコイル部品1では、第1及び第2のコイル部材10,12の外周縁についても樹脂部40により覆われる。なお、樹脂部40に用いられる絶縁材料としては、例えばPBT(Poly Butylene Terephthalate)樹脂やPPS(Poly Phenylene Sulfide)樹脂等が、耐熱性、耐薬品性、難燃性、寸法安定性等の特性に優れていることから好適に用いられる。
【0036】
樹脂部40は、2つのコイル巻線2のうち、第1の端子部24及び第2の端子部26を除く第1及び第2のコイル部材10,12の表面を覆う。また、樹脂部40により、中央にはコイル巻線2の軸線方向に沿って開口52,54が形成される。すなわち、コイル部品1はコイル部材10,12と同様に中空状となる。この開口52,54は、後述の磁性体コア部材の脚部を挿通することができるように設けられる。
【0037】
また、図2、図3(b)に示すように、底面側には樹脂部40により構成された外部に突出する凸部50a,50bを備える。これは、後述の磁性体コア部との間の位置決めを行うために設けられたものである。さらに、樹脂部40は、図4(a),(b)等に示すように、第1のコイル部材10と第2のコイル部材12の間を埋めるように構成される。ただし、コイル巻線2の突出部34,36の表面の一部領域と、第2コイル部材12において、開口14,16の中心軸線に沿って第1のコイル部材10の切込部30に対応する領域の一部と、第1コイル部材10において、開口14,16の中心軸線に沿って第2のコイル部材12の切込部32に対応する領域の一部とでは、コイル巻線2の表面を樹脂部40が被覆する構成ではなく、コイル巻線2が外部に露出する構成となる。以下、このコイル巻線2が露出される領域について説明する。
【0038】
まず、コイル巻線2の突出部34,36は、その表面のうち、開口14,16の中心軸線に垂直な面(すなわち、図3(a)、(b)における表面34a,34b,36a,36b)は、外部に露出される。そして、突出部34,36の外周はそれぞれ樹脂部44,46により覆われる。このように、突出部34,36の表面の一部領域が外部に露出されることにより、この露出された部分から例えば熱伝導性の部材を介して外部に設けられた放熱部材と電気的には絶縁されて接続することにより、コイル巻線2からの放熱を行うことができる。また、突出部34,36の外周はそれぞれ樹脂部44,46により覆われることにより、コイル部品1の周囲に配置される他の装置等との接触した際の絶縁性を保つことができる。また、コイル巻線2の外周が樹脂部40に覆われており、且つ、突出部34,36の外周も樹脂部44,46により覆われることにより、本実施形態のようにコイル部品1が樹脂部40により覆われたコイル巻線2を2つ並置した構成となる場合には、コイル部品1の2つのコイル巻線2間の絶縁性を保つことができる。
【0039】
さらに、コイル部品1では、上述のように、第2コイル部材12において、開口14,16の中心軸線に沿って第1のコイル部材10の切込部30に対応する領域の一部と、第1コイル部材10において、開口14,16の中心軸線に沿って第2のコイル部材12の切込部32に対応する領域の一部と、が外部に露出される。具体的には、図1、図3、図4に示すように、切込部30に対しても他の内周縁と同様の厚さの樹脂部40により覆われる。これにより、図4(a)に示すように、第2コイル部材12において、開口14,16の中心軸線に沿って第1のコイル部材10の切込部30に対応する領域が、樹脂部40により覆われた切込部30と比較して、内周縁内方へ突出する構成となる。そして、この突出する領域(第1のコイル部材10の切込部30に対応する第2のコイル部材12の領域)の一部である面43aとその裏面43bとが外部に露出される。なお、外部に露出される面43a及びその裏面43bの内側(内周部分)は、図4(a)に示すように、第1及び第2のコイル部材10,12の他の内周部分と同様に樹脂部40により覆われる構成となる。これにより、コイル部品1の開口52,54の内周縁は全て樹脂部40により覆われる。これにより、開口52,54に挿入される磁性体コア部材とコイル巻線2との間での絶縁性を保つことができる。
【0040】
なお、第1のコイル部材10において、開口14,16の中心軸線に沿って第2のコイル部材12の切込部32に対応する領域についても同様の形状となる。すなわち、上述の第1のコイル部材10の切込部30に対応する第2コイル部材12の領域と同様に、図4(b)に示すように、第2のコイル部材12の切込部32に対応する領域に対応する第1コイル部材10の領域が、切込部32と比較して内周縁内方へ突出する構成となる。そして、この突出する領域の一部である面41aとその裏面41bとが外部に露出される。なお、外部に露出される面41a及びその裏面41bの内側(内周部分)は、図4(b)に示すように、第1及び第2のコイル部材10,12の他の内周部分と同様に樹脂部40により覆われる構成となる。
【0041】
さらに、コイル部品1では、コイル巻線2を構成する第1及び第2のコイル部材10,12に設けられた突出部33,35がそれぞれ外部に完全に露出する態様となっている(すなわち、突出部の外周も樹脂部40により覆われていない)。これらの突出部33,35のように、樹脂部40に覆われずに外部に露出される領域は、必ずしもその外周が樹脂部40に覆われる必要はない。
【0042】
以上のように、上述の外部に露出される領域(突出部33,35及び突出部34,36の面34a,34b,36a,36bと、切込部30,32に対応する領域である面41a,41b,43a,43b)が設けられることにより、当該領域が樹脂部40により覆われる場合と比較して、コイル巻線2の熱を外部に効率よく放出することができる。
【0043】
上述のコイル部品1は、例えば以下の方法により製造される。まず、第1のコイル部材10及び第2のコイル部材12が連結部18により接続されたコイル巻線2を準備する。次に、このコイル巻線2を樹脂部40の形状に構成された金型内に設置しインサート部品とし、樹脂を金型内に注入することによりモールド成形し、第1のコイル部材10及び第2のコイル部材12の周囲の一部を樹脂部40が一体成形されたコイル巻線2を得ることができる。次いで、この樹脂部40が一体成形された2つのコイル巻線2の第2端子部26同士を導電性の接続部材3に対してネジ38により固定することにより、コイル部品1が得られる。
【0044】
なお、成形時の成形圧力(すなわち金型内に樹脂を注入する際の圧力)により、コイル巻線2が変形して短絡が発生することがある。しかし、成形時にコイル巻線2が仮に変形した場合であっても、一体成形後にはコイル巻線2に短絡が発生しているかを確認することが困難である。このため、本実施形態のコイル部品1の成形時には、成形圧力によるコイル巻線2の変形を防止する目的から、第1及び第2のコイル部材10,12に設けられた突出部34,36と、第2コイル部材12において、開口14,16の中心軸線に沿って第1のコイル部材10の切込部30に対応する領域の一部と、第1コイル部材10において、開口14,16の中心軸線に沿って第2のコイル部材12の切込部32に対応する領域の一部と、を成形金型により機械的に固定する。これにより、成形時のコイル巻線2の変形の発生が抑制される。なお、機械的に固定する領域は樹脂により覆われることなく、外部に露出する領域(すなわち、突出部34,36の面34a,34b,36a,36bと、切込部30,32に対応する領域である面41a,41b,43a,43b)となる。
【0045】
(磁性体コア部材を備えるコイル部品)
次に、コイル部品70について説明する。このコイル部品70は、上記のコイル部品1が更に磁性体コア部材を備えるものである。コイル部品70は、例えば、後述するスイッチング電源装置のチョークコイルとして機能する。図8は、本実施形態に係るコイル部品70の分解斜視図である。
【0046】
図8に示すように、コイル部品1が好適に用いられるコイル部品70は、コイル巻線2の表面を樹脂部40により覆ったコイル部品1と、一対の磁性体コア部材8,9と、を備えている。図8に示すように、磁性体コア部材8,9は、コイル部品1の開口14,16の中心軸線に沿ってコイル部品1を挟むように配置される。一対の磁性体コア部材8,9で挟まれた状態において、第1及び第2の端子部24,26及び接続部材3は、磁性体コア部材8,9から突出された構成となる。
【0047】
磁性体コア部材8,9は、フェライト粉末を圧粉成形して得られるいわゆるU型コアとI型コアである。より具体的には、磁性体コア部材8は、長手方向を有する平板状の基部80と、基部80の一方の主面に突設された2本の円柱状の脚部81,82とからなっており、脚部81と脚部82とは、基部80に空間的に離間して接続されている。一方、磁性体コア部材9は、長手方向を有する平板状の基部90からなっている。
【0048】
磁性体コア部材8の脚部81,82はそれぞれコイル部品1の開口52,54に挿入される。開口52,54にそれぞれ挿入された脚部81,82は、磁性体コア部材9の基部90と当接する。
【0049】
また、磁性体コア部材8の基部80の一方の主面は、コイル部品1の一方の主面(図1に示される上面側)の樹脂部40に当接する。また、磁性体コア部材9の基部90の一方の主面は、コイル部品1の他方の主面(図2に示される底面)の樹脂部40に当接する。このとき、樹脂部40に設けられた凸部50a,50bが基部90の長手方向において対向する2つ側面とそれぞれ当接することにより、磁性体コア部材9とコイル部品1との間の幅方向の位置ズレの発生が抑制される。なお、本実施形態に係るコイル部品1の樹脂部40に設けられた凸部50a,50bは、それぞれ基部90の長手方向の外周に沿ってリブ状に形成されているが、凸部の形状は上記に限られず、例えば、基部90の外周に沿って短手方向を含む数箇所に設ける態様とすることもできるし、基部90に凹部を設けて、これと対応する位置に凸部を形成することによりコイル部品1と磁性体コア部材9との位置を当接位置を決定する態様とすることもできる。
【0050】
(スイッチング電源装置)
次に、本実施形態に係るコイル部品70が好適に用いられるスイッチング電源装置について説明する。図9は、スイッチング電源装置100の回路図である。また、図10は、スイッチング電源装置100の斜視図である。本実施形態に係るスイッチング電源装置100は、DC−DCコンバータとして機能するものであり、例えば100Vから500V程度の電圧を蓄電する高圧バッテリ等から供給される高圧の直流入力電圧Vinを低圧の直流出力電圧Voutに変換し、12〜16V程度の電圧を蓄電する低圧バッテリ等へ供給する。
【0051】
このスイッチング電源装置100は、図10に示すように、ベースプレート101を有し、このベースプレート上に、入力平滑コンデンサ(入力フィルタ)130と、スイッチング回路120と、メイントランス140と、整流回路150と、チョークコイル(コイル部品)70と、平滑コンデンサ162と、からなる平滑回路160と、が固定されている。
【0052】
このスイッチング電源装置100は、より具体的には、1次側高圧ライン121と1次側低圧ライン122との間に設けられたスイッチング回路120及び入力平滑コンデンサ130と、1次側及び2次側トランスコイル部141,142を有するメイントランス140と、2次側トランスコイル部142に接続された整流回路150と、整流回路150に接続された平滑回路160と、を備えている。
【0053】
スイッチング回路120は、スイッチング素子S1〜S4で構成されたフルブリッジ型の回路構成とされている。スイッチング回路120は、例えば駆動回路(不図示)から供給される駆動信号に応じて、入力端子T1,T2間に印加される直流入力電圧Vinを入力交流電圧に変換する。
【0054】
入力平滑コンデンサ130は、入力端子T1、T2から入力された直流入力電圧Vinを平滑化する。トランス140は、スイッチング回路120で生成された入力交流電圧を変圧し、出力交流電圧を出力する。1次側及び2次側トランスコイル部141,142の巻数比は、変圧比によって適宜設定されている。ここでは、1次側トランスコイル部141の巻数を、2次側トランスコイル部142の巻数よりも多くしている。2次側トランスコイル部142は、センタータップ型のものであり、接続部C及び出力ラインLOを介して出力端子T3に導かれている。
【0055】
整流回路150は、整流ダイオード5A,5Bからなる単層全波整流型のものである。各整流ダイオード5A,5Bのカソードは、2次側トランスコイル部142に接続されている一方、アノードは、接地ラインLGに接続され、出力端子T4に導かれている。これにより、整流回路150は、トランス140からの出力交流電圧の各半短波期間を、個別に整流して直流電圧を生成する。
【0056】
平滑回路160は、チョークコイル70と出力平滑コンデンサ162とを含んで構成されている。チョークコイル70は、出力ラインLOに挿入配置されている。出力平滑コンデンサ162は、出力ラインLOにおいてチョークコイル70と接地ラインLGとの間に接続されている。これにより、平滑回路160は、整流回路150で整流された直流電圧を平滑化して直流出力電圧Voutを生成し、この直流出力電圧Voutを出力端子T3,T4から低圧バッテリ等へ供給する。
【0057】
以上のように構成されたスイッチング電源装置100において、入力端子T1,T2から供給される直流入力電圧Vinがスイッチングされて入力交流電圧が生成され、トランス140の1次側トランスコイル部141へと供給される。そして、生成された入力交流電圧が変圧され、2次側トランスコイル部142から出力交流電圧として出力される。そして、この出力交流電圧が整流回路150によって整流されると共に平滑回路160によって平滑化され、出力端子T3,T4から直流出力電圧Voutとして出力されることとなる。
【0058】
以上のように、本実施形態に係るコイル部品1によれば、コイル巻線2の表面のうち、磁性体コア部材8,9と対向する最外のコイル部材10,12の板面、コイル部材10,12の間、そしてコイル部材10,12の内周縁が樹脂部40により覆われる。これにより、コイル部品1を挟む磁性体コア部材8,9との絶縁及び隣接するコイル部材10,12間における絶縁が達成される。また、絶縁を達成する樹脂部40はコイル部品1においてはコイル巻線2と一体成形されているため、このコイル部品1のみを用いて、コイル巻線2の絶縁を達成することができることから、従来のように、コイル用ボビンをコイル巻線の内側に挿通する場合と比較して組立てに係る工程数が削減される。
【0059】
また、上記のコイル部品1では、コイル部材10,12において外周縁のうちの一部が径方向に大きくなるように、外方へ膨らんだ突出部34,36が設けられ、この突出部34,36の表面の一部領域、すなわち、面34a,34b,36a,36bが樹脂部40により被覆されず外部に露出する態様となる。これにより、この露出された領域から、例えば熱伝導性を有する部材を介して外部に設けられた放熱部材と電気的に絶縁された状態で接続することによって、コイル巻線2からの放熱効果を高めることができる。
【0060】
また、上記のコイル部品1では、突出部34,36が設けられる周方向位置がコイル部材10,12において互いに異なる態様とすることにより、突出部34,36に対する伝熱性の部材の配置が容易となり、放熱をより容易に行う構成とすることができる。また、この構成は、上述のように、コイル巻線2と樹脂部40となる材料とをインサートモールド成形する場の成形時の圧力によりコイル巻線2の変形を防止する目的で金型に対して機械的に固定することができる。このため、一体成形時のコイル巻線2の変形を抑制することができる。
【0061】
また、上記のコイル部品1では、磁性体コア部材9と対向する底面側の表面に、磁性体コア部材の基部90に対する位置決め用の凸部50a,50bが設けられていることにより、磁性体コア部材とコイル部品1との位置ズレの発生が抑制される。
【0062】
さらに上記のコイル部品1をスイッチング電源装置100に用いることにより、組立てに係る工程数が削減されると共に適切な絶縁が達成されたコイル部品1を用いたスイッチング電源装置を得ることができる。なお、このコイル部品1をメイントランス140に用いる場合、組立てに係る工程数が削減されると共に適切な絶縁が達成されたコイル部品1を用いたトランスを得ることができる。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されず、種々の変更を行うことができる。
【0064】
例えば、第1のコイル部材10及び第2のコイル部材12に設けられた突出部34,36の位置は適宜変更することができる。また、突出部34,36の数についても変更することができる。
【0065】
また、上記実施形態において説明したコイル部品1は、並置した2つのコイル巻線2を接続部材3を介して接続し、その表面が樹脂部40により被覆された構成について説明したが、コイル巻線2を2つ用いる必要はなく、1つのコイル巻線2に対してその表面が樹脂部40により被覆された構成とすることもできる。
【0066】
また、上記実施形態では、突出部34,36の外周はそれぞれ樹脂部44,46により覆われて、突出部34,36の一部の表面が露出している態様について説明しているが、この樹脂部44,46は、他の装置等と接触した際の絶縁性を保つために設けられているものであり、必須ではない。すなわち、突出部34,36の表面の一部領域に限られず、突出部33,35のように全ての表面が露出している態様であってもよい。
【0067】
また、一対の磁性体コア部材8,9の形状は、上記実施形態に示すように一方の磁性体コア部材8が脚部81,82を備えるいわゆるUI型の形状に限られない。例えば、磁性体コア部材8,9の双方が脚部を備えるいわゆるUU型の形状や、脚部81,82を備えていない空芯コアとすることもできる。
【0068】
また、コイル巻線2のコイル部材の数は、2つ以上であればよい。なお、本実施形態のようにコイル部材が複数個連結されてなる場合、そのコイル部材に設けられる突出部は、例えば突出部34と突出部36との配置の差異のように、連結時(コイル巻線を構成する場合)には、コイル巻線の軸線方向において互いに異なる位置に設けられることが好ましい。
【0069】
また、スイッチング電源装置の構成は図9,10に限られない。すなわち、本実施形態に係るコイル部品1は、例えばインバータ等にも好適に用いられる。また、スイッチング電源装置100においてコイル部品1が用いられるのはチョークコイル70に限られず、メイントランス140に対しても好適に用いられる。
【符号の説明】
【0070】
1…コイル部品、2…コイル巻線、3…接続部材、8,9…磁性体コア部材、10…第1のコイル部材、12…第2のコイル部材、14,16…開口、18…連結部、20,22…スリット、30,32…切込部、34,36…突出部、40…樹脂部、70…チョークコイル、100…スイッチング電源装置、140…メイントランス。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル巻線と、当該コイル巻線の表面の一部領域を覆うように当該コイル巻線と一体成形された電気絶縁性の絶縁部材と、を備え、当該コイル巻線が巻回される軸線方向において磁性体コア部材によって挟まれるコイル部品であって、
前記コイル巻線は、有端リング状で板状をなすコイル部材を上下方向に間隙をおいて複数、所定の巻き方向に連なるように連結させてなり、
前記絶縁部材は、前記磁性体コア部材と対向する最外の前記コイル部材の板面、隣接する前記コイル部材間、及び前記コイル部材の内周縁を覆い、前記コイル巻線が巻回される軸線方向に沿った開口部を有する
ことを特徴とするコイル部品。
【請求項2】
前記コイル部材は、その外周縁のうちの一部が径方向に大きくなるように、外方へ膨らんだ突出部を備え、
前記突出部の表面の一部領域は、前記絶縁部材に被覆されず露出している
ことを特徴とする請求項1記載のコイル部品。
【請求項3】
前記突出部が設けられる周方向位置は、複数の前記コイル部材において互いに異なっていることを特徴とする請求項2記載のコイル部品。
【請求項4】
前記絶縁部材は、前記磁性体コア部材と対向する一方の表面に、前記磁性体コア部材に対する位置決め用の凸部を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のコイル部品を備えることを特徴とするトランス。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のコイル部品を備えることを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項7】
コイル巻線と、当該コイル巻線の表面の一部領域を覆うように当該コイル巻線と一体にモールド成形された電気絶縁性の絶縁部材と、を備え、当該コイル巻線が巻回される軸線方向において磁性体コア部材によって挟まれるコイル部品を製造する方法であって、
有端リング状で板状をなすコイル部材を上下方向に間隙をおいて複数、所定の巻き方向に連なるように連結させて前記コイル巻線を作製する工程と、
前記磁性体コア部材と対向する最外の前記コイル部材の板面、隣接する前記コイル部材間、及び前記コイル部材の内周縁を覆い、前記コイル巻線が巻回される軸線方向に沿って開口部が設けられるように、電気絶縁性の材料によりモールド成形して前記絶縁部材を前記コイル巻線と一体成形する工程と、
を備えることを特徴とするコイル部品の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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