説明

コエンザイムQ−10の向上した産生

パラコッカス・ゼアキサンチニファシエンスのメバロネートオペロンによって形質転換されたRhodobacter属微生物の発酵によるCoQ10の調製の改良方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物によるコエンザイムQ−10の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、形質転換された微生物及び形質転換体それ自身によるコエンザイムQ−10の産生増加方法に関する。形質転換体は、異なる微生物からの、好ましくはParacoccus属からの、より好ましくはP. zeaxanthinifaciens種からのメバロネートオペロンによって形質転換されたRhodobacter属の、好ましくはR. sphaeroides種の微生物である。
【0002】
コエンザイムQ−10(2,3−ジメトキシ−ジメチル−6−デカプレニル−1,4−ベンゾキノン)、別名ユビキノン−10は、10個のC−5イソプレノイド単位からなるイソプレノイド側鎖を有する脂溶性ベンゾキノンである。コエンザイムQ−10(以下、CoQ10と略記される)は、微生物及び植物並びに動物において見出される。それは、ヒト及び大部分の哺乳類のユビキノンで最も一般的な形態である。CoQ10がヒトの健康状態及び疾患からのヒトの保護における重要な要因であるという確立した進展しつつある証拠がある。CoQ10の医学及び健康上の有益な効果は、その2つの主な生理機能、すなわちミトコンドリア電子伝達系(これは、アデノシン三リン酸の合成と共役する)の必須のコファクターとして機能することと、脂溶性抗酸化剤として作用することとに関係している。
【0003】
CoQ10の健康上の利点により、この化合物の商業的な重要性が増加するに至った。CoQ10は、化学合成によるか又は微生物を使用する発酵により生産できる。これらの微生物は、遺伝子工学によってCoQ10産生が改良された天然のCoQ10産生体であってもよく、又はそれらは、CoQ10を自然に産生することができないが、遺伝子工学によって操作されてそれを合成することが可能なってもよい。
【0004】
バクテリアにおいて、ユビキノンのキノイド環はコリスマート(芳香族化合物の生合成の中心的中間体)に由来する。その一方で、ユビキノンのイソプレノイド・テイルはC−5化合物のイソペンテニルピロリン酸(IPP)に由来する。キノイド環に付加されるイソプレノイド・テイルの長さは、バクテリアの中に存在する特定のプレニルトランスフェラーゼ酵素に依存する。例えば、大腸菌で、オクタプレニルピロリン酸シンターゼは、ファルネシルピロリン酸(FPP、C−15)と5個のIPP単位からオクタプレニルピロリン酸(C−40)が形成されるのを触媒する。この分子のキノイド環への付加によって、ユビキノン−8が形成される。Paracoccus属及びRhodobacter種において、デカプレニルピロリン酸(DPP)シンターゼは、FPP(C−15)と7個のIPP単位からDPP(C−50)が形成されるのを触媒する。キノイド環へのDPPの付加によって、ユビキノン−10(CoQ10)が形成される。
【0005】
自然界において、2つの異なる経路がIPPの生合成として知られている(図1)。メバロン酸経路は、その名前が意味するとおり、中心中間体としてメバロネートを利用するもので、真核生物においてよく研究されてきた。メバロン酸経路は、長年、天然のIPP合成の汎用経路であると考えられてきた。しかしながら、最近の10年で、非メバロン酸経路とも称するIPP生合成の第2の経路、すなわちMEP経路(中間体として2C−メチル−D−エリスリトール4−ホスフェートを有することによる)が発見された。MEP経路は、今までに、多くの真性細菌に及び高等植物のプラスチド分画に存在することが示されてきた。
【0006】
US 4,070,244は、同化可能な炭素源と消化可能な窒素源とを含んでいる培地でSporidiobolus及びOosporidium属のある種の微生物を培養することによってCoQ10を産生する方法を開示している。
【0007】
Zhu、X.他は、ユビキノン生合成に関係する遺伝子を含んでいるプラスミドを構成し、これらの遺伝子を大腸菌において過剰発現させてユビキノンを産生させたことを最初に記載した(J. Fermentation及びBioengin.(79,493-5)1995)。
【0008】
アグロバクテリウム属からのデカプレニル二リン酸シンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAで、宿主微生物、特に大腸菌を形質転換し、この形質転換生物を培養することによってCoQ10を産生する方法が、EP 1 070 759Alにおいて開示されている。
【0009】
EP 1 072 683 Alは、形質転換された微生物によってイソプレノイド化合物、なかでもユビキノンを産生する方法を開示している。列記された約70の宿主種の中で、Rhodobacter capsulatus及びR. sphaeroidesが特に言及された。しかしながら、実施例は、大腸菌の形質転換体のCoQ8の産生を例示するだけである。
【0010】
EP 1 123 979 Alは、Saitoella属の真菌類株からのデカプレニル二リン酸シンターゼをコードするDNAを含有する発現ベクターによって大腸菌を形質転換することによって、効率が向上したCoQ10の産生を開示している。
【0011】
WO 02/099095 A2は、最後に、バクテリア、特にParacoccus属のバクテリアを操作して、メバロン酸経路の遺伝子を過剰発現させることによってイソプレノイド化合物、特にゼアキサンチンを産生する方法を開示している。
【0012】
グラム陰性菌Rhodobacter sphaeroidesは、CoQ10の天然の産生体であって、そのためCoQ10の工業産生用に開発が試みられた。ヨシダ他は、CoQ10の産生及びCoQ10含量を増やしたR. sphaeroidesの非組換変異体の単離に対するエアレーションの影響を記載し(J. Gen. Appl. Microbiol. 44,19-26, 1998)、そして、サカト他は、培養(発酵)条件を最適化することによってR.sphaeroidesの非組換変異体のCoQ10産生を増やす方法を記載する(Biotechnol. Appl. Biochem. 16,19-28, 1992)。近年、分子遺伝学的技術は、R. sphaeroidesによるCoQ10の産生増強に利用されている。
【0013】
EP 1 227 155 Alは、CoQ10を産生することができる微生物、なかでも、Rhodobacter属微生物によるこの化合物の産生増強を開示している。CoQ10産生の増加は、減少若しくは不完全ゲラニルゲラニルトランスフェラーゼ活性、増強したデカプレニル二リン酸シンセターゼ、及び増強したp−ヒドロキシ安息香酸デカプレニルトランスフェラーゼ活性からなる群より選択される一つ以上の特性を微生物に導入することによって成し遂げられる。
【0014】
1−デオキシ−D−キシルロース5−ホスフェート・レダクトイソメラーゼをコードしているyaeM遺伝子(現在、ispCと呼ばれる)のR. sphaeroidesにおける存在と、R. sphaeroidesのほとんど完了されたゲノム・シーケンスの点検とに基づいて、このバクテリアがIPPの生合成のためにMEP経路だけを使用するように思われる。R. sphaeroidesではMEP経路が専ら使用されていることを支持するさらなる証拠は、密接に関連した種のRhodobacter capsulatusがイソプレノイド生合成のためにMEP経路だけを使用するという知見である。
【0015】
WO 02/26933 Alは、MEP経路のいくつかの酵素をコードしている数種の生来の及び/又は異種の遺伝子を過剰発現させることによってRhodobacter sphaeroidesのCoQ10の産生を増やす方法を開示している。しかしながら、これらの遺伝子の過剰発現は、単にCoQ10産生の非常に適度の改善だけという結果になった。これは、MEP経路の酵素の少数だけの活性が増加したという事実、及びさらなる遺伝子の過剰発現がR. sphaeroidesのIPP生合成を有意に増加させるのに必要であるという事実に起因すると思われる。
【0016】
上記したように、若干のバクテリアは、IPPの生合成のためにメバロン酸経路のみを使用する。Paracoccus zeaxanthinifaciensは、このようなバクテリアの一例である。P. zeaxanthinifaciensにおいて、メバロン酸経路の5つの酵素をコードしている遺伝子は、IPPイソメラーゼをコードしている遺伝子(図1参照)に加えて、染色体、すなわち、以下メバロネートオペロン(Humbelin他、Gene 297, 129-139、2002)というオペロン上の単一の転写単位において、一緒にクラスター形成している。アセトアセチルCoAのIPPへの転換のために必要な全ての遺伝子のこの独特なクラスター形成は、クローニングされたメバロネートオペロンを細胞に挿入することによっていかなるバクテリアにもIPP産生を増加させる効率的な遺伝的手段を提供することができる。これは天然にIPP生合成のためのメバロン酸経路を有するバクテリアにおいてだけでなく、MEP経路のみを利用するバクテリアにおいても成し遂げられることができる。それは、メバロン酸経路の前駆体のアセトアセチルCoAが共通の代謝産物だからである。アセトアセチルCoAは、β−ケトチオラーゼと称する酵素の幅広いファミリーの作用によって、アセチルCoAの2つの分子から産生される。このように、アセトアセチルCoAの供給は、IPP生合成のためにメバロン酸経路を使用しないバクテリアにおいてさえ存在する。
【0017】
天然のCoQ10産生体の遺伝子工学の方法によって微生物のCoQ10の産生をさらに増加させる試みにおいて、これがParacoccus属微生物からクローニングされたメバロネートオペロンをRhodobacter属微生物に導入することによって達成され得ることが見出された。Paracoccus属からのメバロネートオペロンを導入することによって、Rhodobacter属のIPP供給及びCoQ10産生増加を改善するという概念は、アプリオリに単純のように思えるが、Paracoccus属からのこれらの遺伝子がRhodobacter属において機能的に発現され得るという従来の証拠はないし、IPP生合成に関係するParacoccus属の酵素がRhodobacter属において適切に機能できるという既存の証拠もない。さらに、全ての利用できる証拠が、Rhodobacter属が自然にはメバロン酸経路の中間体を含まないことを示すことから、これらの非在来の化合物が分解されるか又はさもないと非相同的に発現されたParacoccus属酵素に利用されないようにするという異なった可能性があった。
【0018】
本発明は、Paracoccus属微生物の、特にParacoccus zeaxanthinifaciensのメバロネートオペロンを、Rhodobacter株に導入して、形質転換体を培養することによって、Rhodobacter属微生物の、特にRhodobacter sphaeroidesのCoQ10産生を増加させる方法に関する。このように、本発明は、Paracoccus属に属する微生物の、特にParacoccus zeaxanthinifaciensのメバロネートオペロンを、Rhodobacter属に属する微生物に、特にRhodobacter sphaeroidesに導入することと、改変されたRhodobacter株を培養することとを含み、それによってCoQ10産生増加を導く、CoQ10産生方法を提供する。
【0019】
換言すれば、本発明は、Paracoccus属微生物のメバロネートオペロンが導入されたRhodobacter属微生物を培地中で培養すること、CoQ10を形成させ培地中に蓄積させること、及びそこからCoQ10を回収することを含む、CoQ10を産生する方法に関する。
【0020】
本発明は、Paracoccus属微生物の、特にParacoccus zeaxanthinifaciensのメバロネートオペロンを含有する、Rhodobacter属微生物、特にRhodobacter sphaeroidesにも関する。
【0021】
本発明は、Rhodobacter属微生物の、特にRhodobacter sphaeroidesのCoQ10産生を増加させる方法又は工程における、Paracoccus属微生物の、特にParacoccus zeaxanthinifaciensのメバロネートオペロンの使用にも関する。
【0022】
本発明は、Paracoccus属微生物のメバロネートオペロンをRhodobacter属の宿主生物に導入して形質転換宿主を培養することによって、後者がより高い収率でCoQ10を発現できるという発見に基づく。
【0023】
実際には本発明を成し遂げるために実施されなければならない全ての産生工程は当業者がよく知られている従来の産生工程であり、それは特別な説明を必要としない。
【0024】
本発明において使用されるメバロネートオペロンは、9066個のヌクレオチドのDNA配列からなり、また制御配列(オペレータ)から離れてアセトアセチル−CoAのDMAPPへの変換のために必要な以下の酵素:MvaA(ヒドロキシメチルグルタリル−CoAレダクターゼ)、Idi(イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ)、Hcs(ヒドロキシメチルグルタリル−CoAシンターゼ)、Mvk(メバロン酸キナーゼ)、Pmk(ホスホメバロン酸キナーゼ)及びMvd(ジホスホメバロネート・デカルボキシラーゼ)をこの順序でコードしている構造遺伝子を含有する。このオペロンのDNA配列はWO 02/099095において開示される(例えば、配列番号42を参照)。この配列は、ゼアキサンチン−産生株(P. zeaxanthinifaciens)であって、2001年4月24日付けでPatent Deposit Designation PTA-3335でATCCにブダペスト条約の下で寄託されたParacoccus sp. R114に由来する。オペロンの構造遺伝子の順序が、それらがコードする酵素が連続的な代謝経路反応を触媒する順序とは異なる点に注意しなければならない。
【0025】
Paracoccusの又はParacoccus属微生物の用語メバロネートオペロンは、本発明において使用されるオペロンが実際にParacoccus生物から単離されるか又は由来することを意味せず、むしろParacoccus属生物中に存在しているメバロネートオペロンと同一であることを意味する。それは、従って、完全にParacoccus属から単離されてもよく、全体として合成されてもよく、又は部分的に単離され合成されてもよい。完全に機能的であるオペロンのDNA配列の対立遺伝子変異及び突然変異は、上記の用語に包含される。
【0026】
他のParacoccus種及び株、ならびにParacoccus属としてのFlavobacteritrum sp.の分類学的再分類に関して、WO 02/099095、ページ47ffを参照のこと。微生物「Paracoccus zeaxanthinifaciens」及び「Rhodobacter sphaeroides」も、原核生物の国際的な命名規約に定義されたとおりに、同じ物理的−化学的性質を有するこのような種のシノニム又はバソニムを含むと理解される。
【0027】
用語「導入する」は、Rhodobacter属微生物又は宿主生物の形質転換と関連して、本明細書及び特許請求の範囲において、遺伝形質、特にメバロネートオペロンを宿主生物に効率的に運ぶのに、すなわちそれが生物によって発現されるようにするのに使用されうる当業者に周知のいかなる方法も含むように使用される。導入は、標準的方法に従う、例えばベクター、好ましくは発現プラスミドによるか又は宿主のゲノムへの組込みによって遂行されることができる。
【0028】
本発明のCoQ10の向上した産生のための好適な宿主生物はRhodobacter sphaeroidesであるが、CoQ10産生ができるRhodobacter属の他の種も、例えば、R. adriaticus、R. capsulantus、R. sulfidophilus、及びR. veldkampiiが宿主として使用されてもよい。全ての宿主微生物は、野生株の突然変異体を又は遺伝的に操作された株をすでに表してもよく、これらは野生株とCoQ10産生性を比較したとき、向上したCoQ10産生性によって特徴づけられる。
【0029】
宿主微生物へのメバロネートオペロンの導入が成功した後、形質転換した宿主を、既知の方法に従って、すなわち、宿主によって同化され得る炭素及び窒素源、無機塩などを含む培地で、効率的に生育させ、所望の生成物のCoQ10を発現させるのに適した温度、pH及びエアレーションの条件の下で培養する。
【0030】
発酵ブロス及び/又は形質転換体(すなわちParacoccus属に属している微生物のメバロネートオペロンが導入された微生物)からの単離、ならびに所望の場合の得られたCoQ10の精製は、ヒト又は動物の用途用にそれを配合することも併せて、当該技術において周知の方法に従って遂行されることができる。しかしながら、動物の健康及び栄養に使用するために、特有の精製は必要でなくてもよい。この場合、CoQ10をバイオマス及び/又は発酵ブロスの他の成分とともに、商業的に魅力的な生成物を得るために、更に処理してもよい。
【0031】
図1はR. sphaeroidesのCoQ10生合成のための経路を表し、それはIPP形成のためにMEP経路を使用する。囲み領域は、IPPイソメラーゼ過程に加えてメバロン酸経路(IPPの形成を導く)を含む反応シーケンスを示す。メバロン酸経路は、自然にはR. sphaeroidesでは起きない。P. zeaxanthinifaciensにおいて、メバロン酸経路の5つの酵素、さらにIPPイソメラーゼをコードしている遺伝子はオペロンを形成するが、これを以下メバロネートオペロンという。
【0032】
以下の実施例は、いかなる形であれ、本発明を制限することのなく説明する。
実施例
この実施例は、Paracoccus zeaxanthinifaciens由来のクローニングされたメバロネートオペロンの導入によって、R. sphaeroides DSM158のCoQ10産生が改善されたことを示す。
【0033】
バクテリア及び培養条件
Rhodobacter sphaeroides株DSM 158(ドイツ細胞バンクから入手した)を、CoQ10の向上した産生を有する組換え株の作製のための基本宿主として使用した。全てのR. sphaeroides株を、RS100培地中、28℃で生育させた。RS100培地の組成及び調製を表1にまとめる。50mg/lのカナマイシンを組換え株の生育用培地に加えた。大腸菌株を、LB培地(ベクトンディキンソン、スパークス、MD、米国)中、37℃で生育させた。組換え型大腸菌株のプラスミドの保持のために、アンピシリン(100mg/l)及び/又はカナマイシン(プラスミドに応じて25〜50mg/l)を培地に加えた。大腸菌及びR. sphaeroidesの液体培養は、回転振盪機中で200回転数/分にて好気的にルーチン的に生育させた。固形培地が必要なときは、寒天(最終濃度1.5%)を加えた。
【0034】
【表1】

【0035】
プラスミドpBBR−K−Nde及びpBBR−K−mev−opR114の作製
プラスミドpBBR−K−Nde(空のプラスミド)及びpBBR−K−mev−op−up−4(メバロネートオペロンの最初の4つの遺伝子を含んでいるプラスミド)の作製は、それぞれWO 02/099095の実施例6(91ページ、12〜17行)及び13(105ページ、10行〜106ページ、8行)において詳述されている。
【0036】
PCRプライマーhcs−5326(配列番号1)は、P. zeaxanthinifaciens hcs遺伝子の配列(コドン214から始まりコドン220の2番目のヌクレオチドで終了する)に対応し、一方PCRプライマーmvd−9000(配列番号2)は、P. zeaxanthinifaciens mvd遺伝子のヌクレオチド104から終止コドンの後の123までの配列の逆相補鎖に対応する(WO 02/099095、SEQ ID No.46及び52をそれぞれ参照)。プラスミドTOPO−pCR2.1−mev−op−d−3wtは、pCR2.1−TOPOのプライマhcs−5326及びmvd−9000(鋳型としてP. zeaxanthinifaciens ATCC 21588のゲノムDNAを使用する)を用いて得られたPCRフラグメントをクローニングすることによって作製された。かくして、このプラスミドは、hcs及び最後の3つの遺伝子、mvk、pmk、及びmvdの3′末端を含んでいるメバロネートオペロンの下流の半分を含む。プラスミドpBBR−K−mev−op−up−4及びTOPO−pCR2.1−mev−op−d−3wtを制限エンドヌクレアーゼSacI及びNdeIによって切断して、後者の切断からのより短いフラグメントをpBBR−K−mev−op−up−4からのより大きいフラグメントに連結させた。得られたプラスミドpBBR−K−mev−op−wtは、その(推定の)プロモータを含んでいるP. zeaxanthinifaciens ATCC 21588からの完全メバロネートオペロンを含む。P. zeaxanthinifaciens ATCC21588株(野生型)とR114との間のメバロネートオペロン配列の唯一の相違点は、アラニンからバリンへの残基265の変更(A265V)という結果を生じさせる、mvkにおける突然変異である。P. zeaxanthinifaciens ATCC21588のゲノムDNAをプラスミドTOPO−pCR2.1−mev−op−d−3wtの作製用のPCR鋳型として使用したので、それは野生型mvk遺伝子を含む。部位特異的突然変異によるmvkの突然変異の導入(コドン265は、GCCからGTCに変化した)によって、プラスミドpBBR−K−mev−op−R114を得た。
【0037】
R. sphaeroidesのための形質転換手順
プラスミドによる大腸菌S17−1の形質転換、続く接合によるS17−1からR. sphaeroides DSM 158へのプラスミドの移入は、標準的方法を使用して成し遂げられた(Nishimura et al., Nucl. Acids Res. 18, 6169,1990 ; Simon et al., Bio/Technology 1983, 784-91)。最初に、R. sphaeroides DSM 158の自然発生的なリファンピシン耐性変異株を、100mg/lのリファンピシンを補充したRS100液体培地中でDSM 158を生育させ、細胞を100mg/lのリファンピシン含有RS100プレート上に播き、そして単一のコロニーを単離することによって、単離した。接合のために、100mg/lのリファンピシンを含有するRS100培地で生育させたレシピエント細胞(リファンピシン耐性R. sphceroides DSM 158)の培地の1ミリリットルのアリコートと、ドナー細胞(移入されるべきプラスミドを運搬する大腸菌S17−1。50mg/lカナマイシンを含有するLBブロスで生育させた)を、遠心分離によってペレット化した。上澄みを捨て、細胞を新鮮なRS100培地によって二回洗浄して抗生物質を除去した。それから、各々のペレットを1mlの新鮮なRS100培地中に再懸濁させた。50マイクロリットルのドナー細胞及び0.45mlのレシピエント細胞を混合し、遠心分離によってペレット化し、0.03mlの新しいRS100培地中に再懸濁し、そしてRS100プレート上にスポットした。28℃で一晩インキュベーションした後、細胞を接種用白金ループによって収集して、0.3mlのRS100培地中に再懸濁させた。この懸濁液の希釈液を、100mg/lのリファンピシン及び50mg/lのカナマイシンを含有するRS100プレート上に塗り広げて、28℃でインキューベートした。そのプレートからコロニー(R. sphaeroides DSM158の推定形質転換細胞)を拾い上げ、50mg/lのカナマイシンを含有する液体RS100培地中で生育させ、そしてプラスミドの存在を適切なプライマーを使用してPCRによって試験した。陽性クローンを、50mg/lのカナマイシンを含有するRS100プレート上に縞状に播き、単一のコロニーを得た。各々のクローンからの1個の単一コロニーを、50mg/lのカナマイシンを含有する液体RS100培地において再度生育させて、予想されるプラスミドの存在をPCRによって確認した。R. sphaeroides DSM 158の最終形質転換株を、培養液にグリセリンを添加(15%v/v)して−80℃で凍結することによって保存した。
【0038】
R. sphaeroidesのCoQ10産生を評価するための培養条件
RS100培地をR. sphaeroidesを用いる全実験に使用された(50mg/lカナマイシンを、組換え型R. sphaeroides株の生育のために添加した)。25ミリリットルの培養液を、250mlのバッフル付きエルレンマイヤーフラスコ中で、28℃、200回転数/分で振盪して生育させた。CoQ10産生を試験するために、R.sphaeroides株の凍結グリセロール添加保存培養液を、25mlの種培地に接種するために使用した。24〜28時間の種培地の生育の後、660ナノメートル(OD660)の最初の光学濃度が0.16になるように、培地の適切な容量を使用して実験用フラスコに接種した。2ミリリットルのサンプルを、24時間間隔で無菌的に取り出した。分析は、生育(OD660として測定された)、pH、培地上清中のブドウ糖、ならびにCoQ10及びのカロチノイド(高速液体クロマトグラフィー[HPLC]で測定した−以下の分析法の部を参照)を含んだ。
【0039】
分析法
試薬:
アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、tert−ブチルメチルエーテル(TBME)、及びブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)は、puriss. p.a.又はHPLCグレードであり、Fluka(スイス)から入手した。
CoQ10もまたFlukaから購入した。メタノール(Lichrosolv)はメルク(ダルムシュタット)から購入した。カロチノイドの標準は、ロシュビタミン社のケミストリーリサーチ部(スイス)から入手した。
【0040】
試料調製及び抽出:
400マイクロリットルの全ブロスを、使い捨ての15mlのポリプロピレン遠心管に移した。4ミリリットルの安定化抽出溶液(1:1(v/v)のDMSO/THF中の0.5g/lのBHT)を添加し、そしてサンプルを実験室用振盪機(IKA、ドイツ)で20分間混合して抽出を促進させた。最後に、サンプルを遠心分離し、そして上澄みをHPLCによって分析するためにアンバーガラスバイアルに移した。
【0041】
HPLC:
逆相HPLC法を、ユビキノン及びそれらの対応するヒドロキノンの同時定量のために開発した。この方法は、カロチノイドのフィトエン、スフェロイデノン、スフェロイデン、及びノイロスポレンをCoQ10から明確に分離することができる。クロマトグラフィーは、温度制御型オートサンプラー及びダイオードアレイ検出器を備えたAgilent1100HPLCシステムを使用して行った。
方法パラメータは、以下の通りだった:
【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
選択性:
方法の選択性は、関連した参照化合物の標準溶液を注入することによって検証された。目標化合物(CoQ10及びユビキノール−10)は、完全に分離されて、干渉を示さなかった。
【0045】
直線性及び検出限界:
安定化抽出溶液(上記参照)のCoQ10の希釈系列を調製して分析した。直線範囲は5mg/lから50mg/lまで見いだされた。相関係数は0.9999であった。このHPLC法によるCoQ10の検出限界は4mg/lであると決定された。
【0046】
再現性:
抽出手順を含む方法の再現性を点検した。10個の個々の試料調製を比較した。相対標準偏差を4%と決定した。
【0047】
R. sphaeroides株によるCoQ10産生の測定
R. sphaeroides株DSM 158、DSM 158/pBBR-K-Nde(空のベクター対照)、及びDSM 158/pBBR-K-mev-opR114を上記で特定した条件下で振とうフラスコ培養において生育させてCoQ10産生を測定した。結果を表3にまとめる。示される値は2つの独立した実験の平均であり、そして各々の独立実験の範囲内で各々の株を二回反復して試験した。これらの結果は、P. zeaxanthinifaciensからクローニングされたメバロネートオペロンの発現が有意にR. sphaeroidesのCoQ10産生を改良したことを明確に示す。
【0048】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】R. sphaeroidesにおけるCoQ10生合成経路を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラコッカス(Paracoccus)属に属する微生物のメバロネートオペロンをロドバクター(Rhodobacter)属に属する微生物に導入すること、及び改変されたロドバクター(Rhodobacter)株を培養することを含む、CoQ10の産生方法。
【請求項2】
ロドバクター・スファエロイデス(R. sphaeroides)をCoQ10産生微生物として使用する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
パラコッカス・ゼアキサンチニファシエンス(Paracoccus zeaxanthinifaciens)のメバロネートオペロンをロドバクター(Rhodobacter)株に導入する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
パラコッカス(Paracoccus)属微生物のメバロネートオペロンが導入されたロドバクター(Rhodobacter)属微生物を培地中で培養すること、CoQ10を形成させて培地中に蓄積させること、及びそこからCoQ10を回収することを含む、CoQ10の産生方法。
【請求項5】
パラコッカス(Paracoccus)属微生物のメバロネートオペロンを含有する、ロドバクター(Rhodobacter)属微生物。
【請求項6】
ロドバクター・スファエロイデス(Rhodobacter sphaeroides)である、請求項5記載の微生物。
【請求項7】
パラコッカス・ゼアキサンチニファシエンス(Paracoccus zeaxanthinifaciens)のメバロネートオペロンを含有する、請求項5又は6記載の微生物。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載された方法における、パラコッカス(Paracoccus)属微生物のメバロネートオペロンの使用。
【請求項9】
パラコッカス(Paracoccus)属微生物のメバロネートオペロンをロドバクター(Rhodobacter)株に導入すること及び形質転換体を培養することによる、ロドバクター(Rhodobacter)属微生物のCoQ10産生増加方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−513104(P2009−513104A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518050(P2006−518050)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007025
【国際公開番号】WO2005/005650
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】