説明

コギングトルク測定装置および電動パワーステアリング装置

【課題】コギングトルク測定時の作業性がよく測定精度を低下させないコギングトルク測定装置および電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】被測定モータ側嵌合部10の爪部に当接する駆動モータ側嵌合部11の爪部の両面に、柔らかい緩衝部材12を貼り付けることにより、駆動モータからの振動を伝え難くし、互いの爪同士の共振を抑えることができ、精度の高いコギングトルクの測定ができる。さらに、嵌合部の爪同士の間に隙間14を設けることにより、測定時、容易に被測定モータ側嵌合部10を駆動モータ側嵌合部11に挿入できるため、爪の位相合わせが不要となり作業工数が削減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コギングトルク測定装置および電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発生するトルクをステアリング機構に与えて操舵補助を行う電動パワーステアリング装置に使用される永久磁石形のモータは、コギングトルクによるトルクの脈動が発生することが知られている。このコギングトルクが発生すると、モータの速度変動を生じて回転むらが大きくなったり、ロータの軸を伝わり振動や騒音の原因となるとともに操舵フィーリングに影響を与える。従来、モータのコギングトルクの測定は、被測定モータのステータを保持するための保持装置と、ロータを回転駆動する駆動装置と、駆動装置の回転軸に連結された回転トルクを検出するトルクセンサと、このトルクセンサの出力に基づきコギングトルクを測定している。
このコギングトルク測定装置は、ステータを回転不能に保持した状態で、被測定モータへの通電が無いときに、駆動装置を介してロータを回転駆動することで、トルクセンサにより、ロータを回転駆動するのに必要なトルクや微小なコギングトルクを測定することができる。(例えば、特許文献1参照)
ところが、誤差の少ないコギングトルクの測定を行うためには被測定モータとトルクセンサの軸の同軸度を保つ必要があり、このため被測定モータとトルクセンサの軸を接続する方法として、カップリングが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−37389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなコギングトルク測定装置において、測定精度の低下を抑えるため、被測定モータの軸先端部とカップリングの負荷側軸先端部の接続部もリジッドに固定する必要がある。このため、この接続部に双方の爪の隙間を埋める部品を配置しているが、嵌め合いが厳しく接続部の爪の回転位相がずれると被測定モータの挿入できないため、作業性が非常に悪い。しかしながら、上記接続部に隙間を設けた爪を配置すると、駆動装置の駆動モータからの振動等が接続部に伝わり爪同士の共振により微振動が発生して被測定モータのコギングトルクの正確な測定ができない場合がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、コギングトルク測定時の作業性がよく測定精度を低下させないコギングトルク測定装置および電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、被測定モータの回転軸と、前記被測定モータの回転軸を回転駆動させる回転駆動手段の駆動軸と、前記回転軸と前記駆動軸とを同心的に回転可能に結合する嵌合手段と、前記回転軸と前記駆動軸間の回転トルクを検出するトルクセンサと、を備え、前記トルクセンサからの出力に基づいてコギングトルクを測定する、コギングトルク測定装置において、前記嵌合手段は、前記回転軸側に設置された被嵌合部と、前記駆動軸側に、所定の隙間が形成された状態で前記被嵌合部に嵌合される嵌合部と、を有し、前記嵌合部は、前記駆動軸が回転駆動されることにより前記被嵌合部と回転方向に当接する凸部側面に緩衝部材が配置されることを要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、コギングトルク測定装置の嵌合部の爪の側面に緩衝部材を貼付することにより、駆動軸から発生し嵌合部に伝達される振動を吸収低減し、被測定モータの被嵌合部との回転方向の当接により発生する爪同士の共振を抑制できる。さらに嵌合部と被嵌合部の爪の間に隙間を設けることで容易に位相合わせができるためコギングトルク測定時の作業性がよくなるとともに、コギングトルクの測定精度を確保できる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、電動パワーステアリング装置において、請求項1に記載のコギングトルク測定装置を用いてコギングトルクを測定した被測定モータを用いてなることをその要旨とする。
請求項1に記載のコギングトルク測定装置によれば、コギングトルク測定時の検出誤差の低減が図られるので、車両の操舵フィーリングを向上した電動パワーステアリング装置にできる。
【発明の効果】
【0009】
コギングトルク測定時の作業性がよく測定精度を低下させないコギングトルク測定装置および電動パワーステアリング装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るモータのコギングトルク測定装置の実施の一形態を示す概略構成図。
【図2】(a)は駆動モータ側の嵌合部を示す平面図、(b)は同じく駆動モータ側の嵌合部を示す側面図。
【図3】本実施形態の嵌合部の状態を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図に基づいて具体的に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るコギングトルク測定装置の構成を示す概略図である。本実施形態の装置の構成は、コギングトルクを測定する被測定モータ2のセッティング部4と、被測定モータ2の図示しない回転軸を外部から回転させる駆動モータ13と駆動モータ13に連結されたトルクセンサ7とのモータ駆動部(回転駆動手段)5からなる。駆動モータ13は永久磁石形のサーボモータである。
【0012】
このコギングトルク測定装置1においては、被測定モータ2を回転不能に保持することができ、被測定モータ2への通電がないときに、モータ駆動部5を介して被測定モータ2の回転軸に回転運動を強制し、被測定モータ2の回転軸を外部から駆動することができる。さらに、トルクセンサ7を通じて、検出されたトルクはコギングトルク検出装置15へ出力され制御回路にて信号処理され、被測定モータ2の微小なコギングトルクを測定することができる。
【0013】
まず、被測定モータ2のセッティング部4は、セッティング部4上部にモータ支持板3を設置し、このモータ支持板3に被測定モータ2のハウジング部分を取り付ける。具体的な取り付け方法については特に例示しないが、例えばチャック装置によりワンタッチで取り外しが可能で、確実に固定される固定方法が望ましい。
【0014】
次に、セッティング部4に取り付けられる被測定モータ2の回転軸先端には、被測定モータ側嵌合部10が取り付けられている(被嵌合部、例えば、フランジボス)。モータ駆動部5は、この被測定モータ側嵌合部10と回転可能に接続される駆動モータ側嵌合部11と、この駆動モータ側嵌合部11に連結され、被測定モータ2の回転軸とトルクセンサ7の検出軸との接続のため取り付けられるカップリング6と、このカップリング6の駆動側軸(トルクセンサ出力軸)8に固定されるトルクセンサ7と、トルクセンサ7の入力側に駆動軸(トルクセンサ入力軸)9が連結される駆動モータ13からなる。トルクセンサ7は、セッティング部4に対して、回転不能、図示しないチャック装置により固定され配置されている。また、駆動モータ13も、同じくコギングトルク測定装置1に回転不能に配置されている。
【0015】
さらに、トルクセンサ7において、トルクセンサ出力軸(カップリング6の駆動側軸)8と、トルクセンサ入力軸(駆動モータ13により回転される駆動軸)9との間は、図示しないトルク伝達軸で連結されており、駆動モータ13の駆動力が伝達されるようになっている。検出トルクはトルク伝達軸の捩れ角から求められる。
【0016】
こうして、被測定モータ2にかかる負荷は、トルクセンサ7の入力軸および出力軸9,8間に発生するトルクから検出することができ、この検出トルクをコギングトルク検出装置15にて信号処理することによりコギングトルクが測定される。
【0017】
次に、このコギングトルク測定装置1の動作について説明する。(図1参照)
まず、コギングトルクを測定する被測定モータ2を、モータ支持板3に取り付ける。前述したように、取り付け方法は、種々の簡便で、確実な方法によればよい。
【0018】
次に、被測定モータ2の回転軸を被測定モータ側および駆動モータ側嵌合部10,11によりカップリング6に接続し、この状態で、例えば図示しないパソコンのような制御装置の指令により駆動モータ13に所定の直流電圧を印加して、駆動モータ13を回転させる。
【0019】
すると、駆動モータ13の駆動軸9と、これに連結されるトルクセンサ7の負荷側の回転軸(出力軸)8がカップリング6に連結され一体に回転する。さらに、カップリング6には、駆動モータ側嵌合部11が固定されており、この駆動モータ側嵌合部11も同時に回転し、被測定モータ側嵌合部10を介して連結された被測定モータ2の回転軸がゆっくり回転する。この結果、駆動モータ13の駆動力がトルクセンサ7、カップリング6を通して被測定モータ2の回転軸に伝達され、被測定モータ2のコギングトルクが測定される。
【0020】
被測定モータ側嵌合部10とこれと同軸上に配置される駆動モータ側嵌合部11とは互いの凹凸部により構成される勘合部の爪部に所定の隙間がある(後述、図3参照)。上記制御装置により所定の電圧を印加して、駆動モータ13を極低速(例えば、1r/min)で回転させると、被測定モータ2の回転軸が駆動モータ13と同期して極低速で回転をする。被測定モータ2の回転軸は回転を始めるとトルクセンサ7によりコギングトルクが測定される。
【0021】
なお、トルクセンサ7には、回転可能な入力軸および出力軸8,9があり、一方が駆動側(入力軸9)であり、一方が負荷側(出力軸10)である。そして、この駆動側と負荷側のトルクにより生じる捩れ量をひずみゲージ等により検出して、発生トルクを測定している。
【0022】
次に、図2(a),(b)は、コギングトルク測定装置1の駆動モータ側嵌合部11の構造を示す平面図および側面図である。
図3は、被測定モータ側および駆動モータ側嵌合部10,11の嵌合状態を示す概略図である。
コギングトルク測定装置1の駆動モータ側嵌合部(フランジボス)11の4箇所の爪部の両側面8箇所に緩衝部材12を焼き付ける。このとき緩衝部材として例えば、ウレタン・ショアA60が使用される。図3に示すように被測定モータ側嵌合部10と駆動モータ側嵌合部11とが接続されるとき、所定の爪部の隙間14が確保される。ここで、駆動モータ側嵌合部11と被測定モータ側嵌合部10との爪部の隙間14を所定の間隔(例えば、2mm以上)確保できるように緩衝部材12の厚さが選定される。
【0023】
次に、上記のように構成された本実施形態のコギングトルク測定装置1の作用および効果について説明する。
本実施形態においては駆動モータ13を所定の速度で回転させ、トルクセンサ7の駆動側の回転軸(入力軸)9を回転させる。それに対応して、負荷側の回転軸(出力軸)8を回転させ、被測定モータ2の回転軸を同一方向に回転させる。そして、この駆動側と負荷側の回転軸のトルクを検出して、発生トルクを測定している。
上述のように、駆動モータ側嵌合部11の爪部の被測定モータ側嵌合部10の爪部と当接する両面に、柔らかい緩衝部材12を貼り付けることにより、駆動モータ13からの振動を伝え難くし、互いの爪同士の共振を抑えることができ、精度の高いコギングトルクの測定ができる。さらに、嵌合部の爪同士の間に隙間14を設けることにより、測定時容易に被測定モータ側嵌合部10を駆動モータ側嵌合部11に挿入できるため、爪の位相合わせが不要となり作業工数が削減できる。また、従来、双方の嵌合部をリジッドに固定するために嵌合部間に設けていた接続部品が不要となる。
また、本実施形態のコギングトルク検出装置によれば、コギングトルク測定時の検出誤差の低減が図られる。このため、当該コギングトルク検出装置は、車両の操舵フィーリングの向上の観点などからコギングトルク低減に対する要望がある電動パワーステアリング装置に好適である。
【0024】
また、以下のような構成により設備を自動化することが可能となる。すなわち、被測定モータ側および駆動モータ側嵌合部10,11の下部とカップリング6との間にばね(例えば、コイルスプリング)を配置し、上記被測定モータ側および駆動モータ側嵌合部10,11が上下できる構造にする。爪の位相が合っていない場合、爪同士が重なるため被測定モータ側および駆動モータ側嵌合部10,11が下がった状態となり、その状態で駆動モータ13を回転させると、爪の位相が合ったときに被測定モータ側および駆動モータ側嵌合部10,11が上昇し爪が嵌合することが可能となる。これにより、被測定モータ側および駆動モータ側嵌合部に隙間を設けることにより作業者による位相合わせが不要となるため、作業を自動化できる。
【0025】
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。
本発明は、駆動モータ側嵌合部11の爪部に貼付ける緩衝部材12としてウレタンを用いた例を説明したが、他の部材、例えばゴムでも適用が可能である。
なお、実施例では、被測定モータ2はモータ単体であるが、これに限るものではなく、減速機付きであっても差し支えない。
【符号の説明】
【0026】
1:コギングトルク測定装置、2:被測定モータ、3:モータ支持板、
4:セッティング部、5:モータ駆動部、6:カップリング、7:トルクセンサ、
8:トルクセンサ出力軸、9:トルクセンサ入力軸(駆動軸)、
10:被測定モータ側嵌合部(被嵌合部)、11:駆動モータ側嵌合部(嵌合部)、
12:緩衝部材、13:駆動モータ、14:爪部隙間、
15:コギングトルク検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定モータの回転軸と、
前記被測定モータの回転軸を回転駆動させる回転駆動手段の駆動軸と、
前記回転軸と前記駆動軸とを同心的に回転可能に結合する嵌合手段と、
前記回転軸と前記駆動軸間の回転トルクを検出するトルクセンサと、を備え、
前記トルクセンサからの出力に基づいてコギングトルクを測定する、コギングトルク測定装置において、
前記嵌合手段は、
前記回転軸側に設置された被嵌合部と、
前記駆動軸側に、所定の隙間が形成された状態で前記被嵌合部に嵌合される嵌合部と、を有し、
前記嵌合部は、前記駆動軸が回転駆動されることにより前記被嵌合部と回転方向に当接する凸部側面に緩衝部材が配置されることを特徴とするコギングトルク測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のコギングトルク測定装置を用いてコギングトルクを測定した被測定モータを用いた電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−198186(P2012−198186A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67597(P2011−67597)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】