説明

コク味付与剤

【課題】高性能で、安全かつ安価なコク味付与剤、コク味が付与された飲食品の製造方法及びコク味が付与された飲食品を提供する。
【解決手段】γ-Glu-Ala、γ-Glu-Gly、γ-Glu-Met、γ-Glu-Thr、γ-Glu-Val、γ-Glu-Orn、γ-Glu-Ser、γ-Glu-Tau、γ-Glu-Leu、γ-Glu-Ile、γ-Glu-t-Leu、γ-Glu-Met(O)、γ-Glu-γ-Glu-Val、γ-Glu-Val-NH2、γ-Glu-Val-ol、Asp-Gly、Cys-Gly、Cys-Met、Gly-Cys、Leu-Asp、D-Cysおよびγ-Glu-Val-Y (YはVal、Glu、Lys、Phe、Ser、Pro、Arg、Asp、Met、Thr、His、Orn、Asn、CysまたはGlnを表す)から選択される1種または2種以上を有効成分として含む、カルシウム受容体活性化作用を有するコク味付与剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コク味付与物質のスクリーニング方法、該スクリーニング方法によって得られるコク味付与物質を有効成分として含有するコク味付与剤、コク味が付与された食品、調味料、飲料等の飲食品の製造方法及びコク味が付与された飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
カルシウム受容体は、カルシウムセンシング受容体(Calcium Sensing Receptor:CaSR)とも呼ばれ、7回膜貫通型受容体(G蛋白質結合型受容体;GPCR)のクラスCに分類されるアミノ酸1078個からなる受容体である。このカルシウム受容体は、1993年に遺伝子のクロ−ニングが報告され(非特許文献1)、カルシウム等で活性化されると細胞内カルシウム上昇等を介して様々な細胞応答を引き起こすことが知られている。ヒトカルシウム受容体の遺伝子配列はGenBank Accession No NM_000388として登録されており、動物間でよく保存されている。
【0003】
上記カルシウム受容体は、生体内機能に促進的にはたらく場合もあれば、抑制的にはたらく場合もある。このため、現在、神経疾患、肝臓疾患、循環器疾患、消化器疾患、その他の疾患において、カルシウム受容体に対する活性化剤作用の治療薬と抑制剤作用の治療薬が病態に応じて使い分けられている。例えば、カルシウム受容体は、副甲状腺において血中カルシウム濃度の上昇を感知し、副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌を抑制し、血中カルシウム濃度を是正する働きを有する。従って、カルシウム受容体活性化剤は血中カルシウム濃度を低下させる効果が期待される。実際に、カルシウム受容体活性化剤を血液透析患者の続発性副甲状腺機能亢進症の治療に用いたとき、カルシウム濃度やリン濃度は上昇させずにPTH濃度を低下させることが明らかになっている。
【0004】
カルシウム受容体の機能解析は、主としてカルシウムホメオスタシスに関して行われてきたため、今日までの応用研究もカルシウム調節が関わる骨代謝性疾患が中心であった。しかし、遺伝子発現解析などの結果から、カルシウム受容体が副甲状腺や腎臓以外の生体内に広く分布していることが明らかになり(非特許文献2、3)、様々な生体機能、疾患病因に関わっている可能性が提起された。例えば、カルシウム受容体が、肝臓、心臓、肺、消化管、リンパ球、膵臓、の機能に関わることが推測されている。本発明者もラットの各組織から抽出したRNAを材料とした、RT−PCRによる解析から、生体内において広範囲の組織に発現していることを確認した。上記観点から、現在、カルシウム受容体の活性化剤や阻害剤の応用価値が急速に高まっている。
【0005】
また、カルシウム受容体活性化剤としてはカルシウムの他に、ガドリニウムなどのカチオン、ポリアルギニンなどの塩基性ペプチド、スペルミンなどのポリアミン、フェニルアラニンなどのアミノ酸、などが報告されている(非特許文献4)。
これまでカルシウム受容体活性化剤として、上記の如く多くの特異的活性化剤が開発されているが、生体内に存在する化合物は少なく、また、生体内に存在する化合物である場合はその活性が極めて低かった。そのため、これらの活性化剤を含有してなる各種疾患に対する治療薬は、副作用、透過性及び活性の点で大きな問題があった。例えば、カルシウム受容体にアミノ酸が作用することが知られているが、活性が極めて弱いので活性化剤として具体的な応用は困難と考えられていた。また、上述の如くポリアルギニンのような巨大分子が活性化剤として報告されているが、不定構造である多荷カチオンとしての作用によるものと推測されている。すなわち、特定の構造を持ったペプチドがカルシウム受容体活性化剤として有用であることは知られていない。
【0006】
一方、食品領域では呈味物質が古くから応用されてきた。特に、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味で表される5基本味を有する物質やこれらを増強する物質が調味料として広く利用されている。上記以外では表せない味覚として「コク味」がある。コク味とは、前記5基本味では表せない味を意味し、基本味だけではなく、厚み・ひろがり・持続性・まとまりなど基本味の周辺の味をも増強した味をいう。従来、コク味を付与するための方法はいくつか報告されており、グルタチオン(特許文献1)、ゼラチン及びトロポミオシンの加熱物(特許文献2)、スルホン基含有化合物(特許文献3)、Asn−His配列を含有するペプチド(特許文献4)などが報告されている。
【0007】
このように、各種コク味付与物質の開発が試みられ、天然物の抽出物を中心に商品化がなされてきたが、天然物抽出物からコク味成分を純粋に分離した例はグルタチオンやN−(4−methyl−5−oxo−1−imidazolin−2−yl)sarcosineなど極めて少ないのが現状である。
従って、今後、高性能で、安全かつ安価なコク味付与物質の開発が望まれ、そのために、簡便かつ高感度のコク味付与物質スクリ−ニング法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第1464928号公報
【特許文献2】特開平10−276709号公報
【特許文献3】特開平8−289760号公報
【特許文献4】WO2004/096836号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nature. 1993 Dec 9;366(6455):575-80.
【非特許文献2】J Endocrinol. 2000 May;165(2):173-7.
【非特許文献3】Eur J Pharmacol. 2002 Jul 5;447(2-3):271-8.
【非特許文献4】Cell Calcium. 2004 Mar;35(3):209-16.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、コク味付与物質の簡便かつ高感度なスクリ−ニング法、高性能で、安全かつ安価なコク味付与剤、コク味が付与された食品、調味料、飲料等の飲食品の製造方法及びコク味が付与された飲食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、カルシウム受容体の活性化剤を探索した結果、グルタチオンを含む低分子ペプチドにカルシウム受容体を活性化する働きがあることを見出した。また、グルタチオンはコク味付与物質として知られていることから、カルシウム受容体の活性化剤である低分子ペプチドがコク味を呈するか否かを評価した結果、該低分子ペプチドがコク味を呈することを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0012】
(1) カルシウム受容体活性を指標とすることを特徴とする、コク味付与物質のスクリ−ニング方法。
【0013】
(2) コク味付与物質が、塩味、うま味、甘味または酸味の少なくとも一種を増強するものである、(1)に記載のスクリーニング方法。
【0014】
(3) カルシウム受容体と被検物質とを反応させ、カルシウム受容体活性を検出する第
1工程と、第1工程でカルシウム受容体刺激活性が検出された被検物質のコク味付与効果を測定する第2工程とを含有する、(1)又は(2)に記載のスクリーニング方法。
【0015】
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載の方法により得られうるコク味付与物質を有効成分として含む、コク味付与剤。
【0016】
(5) コク味付与物質が、γ-Glu-X-Gly (XはCysを除くアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)、γ-Glu-Val-Y (Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)、γ-Glu-Ala、γ-Glu-Gly、γ-Glu-Cys、γ-Glu-Met、γ-Glu-Thr、γ-Glu-Val、γ-Glu-Orn、Asp-Gly、Cys-Gly、Cys-Met、Glu-Cys、Gly-Cys、Leu-Asp、D-Cys、γ-Glu-Met(O)、γ-Glu-γ-Glu-Val、γ-Glu-Val-NH2、γ-Glu-Val-ol、γ-Glu-Ser、γ-Glu-Tau、γ-Glu-Cys(S-Me)(O)、γ-Glu-Leu、γ-Glu-Ile、γ-Glu-t-Leuおよびγ-Glu-Cys(S-Me)、から選択される1種または2種以上である、(4)に記載のコク味付与剤。
【0017】
(6) 前記XがCys(SNO)、Cys(S-allyl)、Gly、Cys(S-Me)、AbuまたはSerであり、前記YがGly、Val、Glu、Lys、Phe、Ser、Pro、Arg、Asp、Met、Thr、His、Orn、Asn、CysまたはGlnである、(5)に記載のコク味付与剤。
【0018】
(7) コク味付与剤が、塩味、うま味、甘味または酸味のいずれかを増強するものである、(4)〜(6)のいずれかに記載のコク味付与剤。
【0019】
(8) (4)〜(7)のいずれかに記載のコク味付与剤から選択される、1種または2種以上、および、カルシウム受容体刺激活性を有する他の化合物から選択される1種または2種以上を含有する食品組成物。
【0020】
(9) カルシウム受容体刺激活性を有する他の化合物がカルシウム、プロタミン、ポリアルギニン、スペルミン、ポリリジン、グルタチオンおよびシナカルセットである、(8)に記載の食品組成物。
【0021】
(10) (4)〜(7)のいずれかに記載のコク味付与剤から選択される、1種または2種以上を、飲食品に対して1質量ppb〜99.9質量%含有させるように添加することを特徴とする、コク味が付与された飲食品の製造方法。
【0022】
(11) (4)〜(7)のいずれかに記載のコク味付与剤から選択される1種または2種以上を、1質量ppb〜99.9質量%含有してなる調味料を、飲食品に対して0.01〜10質量%含有させるように添加することを特徴とする、コク味が付与された飲食品の製造方法。
【0023】
(12) (10)又は(11)に記載の方法により得られうる、コク味が付与された飲食品。
【0024】
(13) γ-Glu-Val-Glyを1質量ppb〜99.9質量%と、カルシウム、プロタミン、ポリアルギニン、スペルミン、ポリリジン、グルタチオンおよびシナカルセットから選ばれる1種または2種類以上を1質量ppb〜99.9質量%とを含んでなる組成物。
【0025】
(14) グルタチオン、プロタミン、ポリリジン、GABA及びそれらの塩から選択される1種または2種以上を1質量ppb〜99.9質量%と、カルシウムまたはその塩を1質量ppb〜99.9質量%とを含んでなる組成物。
(15) 下記式を有する化合物。
γ-Glu-X-Gly (XはAsn, Gln, His, Lys, OrnまたはArgを表す)、又はγ-Glu-Val-Y (
YはLeu, Ile, Ser, Thr, Met, Cys, Asp, Asn, Gln, Lys, Orn, Arg, Phe, Tyr, Pro, Hyp, Trp, HisまたはAbuを表す)
(16) (1)〜(3)のいずれかに記載の方法により得られうるコク味付与物質のコク味付与剤としての使用。
(17) (1)〜(3)のいずれかに記載の方法により得られうるコク味付与物質を飲食品に添加することを含む、飲食品にコク味を付与する方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、コク味付与物質の簡便かつ高感度なスクリーニング法、当該スクリーニング法により得られうる、高性能で、安全かつ安価なコク味付与剤、コク味が付与された食品、調味料、飲料等の飲食品の製造方法及びコク味が付与された飲食品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】カルシウム受容体に対するカルシウムの作用を示す図。 アフリカツメガエル卵母細胞にヒトのカルシウム受容体cRNAをマイクロインジェクションした。任意の濃度の塩化カルシウム溶液を添加した時に、流れる細胞内応答電流値を記録した。細胞内電流の最大値を応答電流値とした。コントロールとして、蒸留水をマイクロインジェクションした卵母細胞では応答しないことを確認した。
【図2】カルシウム受容体に対するL型アミノ酸の作用を示す図。 アフリカツメガエル卵母細胞にヒトのカルシウム受容体cRNAをマイクロインジェクションした。10mMのL型アミノ酸溶液を添加した時に、流れる細胞内応答電流値を記録した。細胞内電流の最大値を応答電流値とした。コントロールとして、蒸留水をマイクロインジェクションした卵母細胞では応答しないことを確認した。
【図3】カルシウム受容体に対するD型アミノ酸の作用を示す図。 アフリカツメガエル卵母細胞にヒトのカルシウム受容体cRNAをマイクロインジェクションした。10mMのD型アミノ酸溶液を添加した時に、流れる細胞内応答電流値を記録した。細胞内電流の最大値を応答電流値とした。コントロールとして、蒸留水をマイクロインジェクションした卵母細胞では応答しないことを確認した。
【図4】カルシウム受容体に対するペプチドの作用を示す図。 アフリカツメガエル卵母細胞にヒトのカルシウム受容体cRNAをマイクロインジェクションした。任意の濃度のペプチド溶液を添加した時に、流れる細胞内応答電流値を記録した。細胞内電流の最大値を応答電流値とした。コントロールとして、蒸留水をマイクロインジェクションした卵母細胞では応答しないことを確認した。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書中において「カルシウム受容体」とは、カルシウムセンシング受容体もしくはCalcium Sensing Receptor(CaSR)と呼ばれる、7回膜貫通型受容体のクラスCに属するものを指す。本明細書中において「カルシウム受容体活性」とは、上記カルシウム受容体に結合し、グアニンヌクレオチド結合タンパク質を活性化して、シグナルを伝達することを意味する。また、本明細書中において「カルシウム受容体活性化剤」とは、上記カルシウム受容体に作用し、カルシウム受容体を活性化し、カルシウム受容体を発現している細胞の機能を調節するものをいう。
本明細書中において、「コク味」とは、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味で表される5基本味では表せない味を意味し、基本味だけではなく、厚み・ひろがり・持続性・まとまりなど基本味の周辺の味をも増強した味をいう。また、「コク味付与剤又はコク味付与物質」とは、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味で表される5基本味の増強と、それに伴う厚み・ひろがり・持続性・まとまりなど基本味の周辺の味を付与することができる剤又は物質をいう。従って、本発明のコク味付与剤は、甘味増強剤、塩味増強剤、酸味増強剤、苦味増強剤、うま味増強剤としても使用することができる。なお、コク味の強さとしての、
先中味とは喫食後0から4秒までに感じる呈味であり、後味とは喫食後5秒以降に感じる呈味のことを示す。
本明細書中において各アミノ酸及び各ペプチドを構成するアミノ酸は、特に断わらない限りいずれもL−体である。
【0029】
<1>コク味付与物質のスクリ−ニング方法
本発明のコク味付与物質のスクリ−ニング方法(以下、本発明のスクリ−ニング方法ともいう)は、カルシウム受容体活性を指標とすることを特徴とする。具体的には、本発明のスクリ−ニング方法は、カルシウム受容体と被検物質とを反応させ、カルシウム受容体活性を検出する第1工程と、第1工程でカルシウム受容体刺激活性が検出された被検物質のコク味付与効果を測定する第2工程とを含有する。
【0030】
以下に本発明のスクリ−ニング方法を例示するが、これらのステップに限定されるものではない。
1)カルシウム受容体活性を測定するためのカルシウム受容体活性測定系に被検物質を添加して、カルシウム受容体活性を測定する。
2)被験物質を添加したときのカルシウム受容体活性と、被験物質を添加しなかったときのカルシウム受容体活性を比較する。
3)被験物質を添加したときに高いカルシウム受容体刺激活性を示す被験物質を選択する。
4)選択された被験物質のコク味付与効果を測定し、コク味付与効果を有する被験物質を選択する。
【0031】
カルシウム受容体活性の測定は、例えば、カルシウム受容体を発現する細胞を用いた測定系を用いて行われる。上記細胞はカルシウム受容体を内在的に発現している細胞であっても、外来のカルシウム受容体遺伝子が導入された組み換え細胞であってもよい。上記カルシウム受容体活性測定系は上記カルシウム受容体を発現する細胞に、カルシウム受容体に特異的な細胞外リガンド(活性化剤)を加えたときに、活性化剤とカルシウム受容体との結合(反応)を検出することができるか、又は、活性化剤とカルシウム受容体との結合(反応)に応答して細胞内に検出可能なシグナルを伝達するものであれば、特に制限なく使用することができる。被検物質との反応によりカルシウム受容体活性が検出された場合、当該被検物質はカルシウム受容体刺激活性を有し、コク味付与物質であることが判別される。
一方、上記コク味付与効果は、ヒトによる味覚試験などの方法によって確認することができる。また、スクリ−ニングに用いる被験物質としては、特に制限はなく、低分子化合物、糖類、ペプチド、タンパク質などを用いることができる。
【0032】
上記カルシウム受容体としては、GenBank Accession No NM_000388で登録されているヒトカルシウム受容体遺伝子によってコ−ドされるヒトカルシウム受容体が好ましく例示できる。尚、カルシウム受容体は、上記配列の遺伝子によってコ−ドされるタンパク質に制限されず、カルシウム受容体機能を有するタンパク質をコ−ドする限りにおいて、上記配列と60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の相同性を有する遺伝子によってコ−ドされるタンパク質であってもよい。GPRC6A受容体や5.24受容体もまたカルシウム受容体のサブタイプとして知られており、本発明において利用可能である。なお、カルシウム受容体機能はこれらの遺伝子を細胞に発現させ、カルシウム添加時の電流の変化や細胞内カルシウムイオン濃度の変化を測定することによって調べることができる。
【0033】
上記カルシウム受容体は、その由来は特に制限されず、上記ヒトのカルシウム受容体のみならず、マウス、ラット、イヌなど含めた動物由来のカルシウム受容体が挙げられる。
【0034】
上述の如く、カルシウム受容体活性は、カルシウム受容体又はその断片を発現した生きた細胞、カルシウム受容体又はその断片を発現した細胞膜、カルシウム受容体又はその断片のタンパク質を含むインビトロの系などを利用して確認することが出来る。
以下に生きた細胞を用いた一例を示すが、この一例に限定されるものではない。
カルシウム受容体は、アフリカツメガエル卵母細胞やハムスタ−卵巣細胞やヒト胎児腎臓細胞等の培養細胞に発現させる。これは外来遺伝子を保持するプラスミドにカルシウム受容体遺伝子をクロ−ニングしたものを、プラスミドの状態もしくはそれを鋳型にしたcRNAを導入することで可能となる。反応の検出には電気生理学的手法や細胞内カルシウム上昇の蛍光指示試薬を用いることができる。
カルシウム受容体の発現は、初めにカルシウムもしくは特異的活性化剤による応答で確認する。5mM程度の濃度のカルシウムに対して、細胞内電流が見られた卵母細胞もしくは蛍光指示試薬の蛍光が見られた培養細胞を使用する。カルシウムの濃度を変えて濃度依存性を測定する。次に、ペプチド等の被験物質を1μM〜1mM程度に調製し、卵母細胞もしくは培養細胞に添加することで、上記ペプチド等の被験物質のカルシウム受容体活性を測定する。
【0035】
<2>コク味付与剤
本発明のコク味付与剤は、本発明のスクリ−ニング方法により得られうるコク味付与物質を有効成分として含有する。例えば、本発明のコク味付与剤は、γ-Glu-X-Gly (XはCysを除くアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)、γ-Glu-Val-Y (Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)、γ-Glu-Ala、γ-Glu-Gly、γ-Glu-Cys、γ-Glu-Met、γ-Glu-Thr、γ-Glu-Val、γ-Glu-Orn、Asp-Gly、Cys-Gly、Cys-Met、Glu-Cys、Gly-Cys、Leu-Asp、D-Cys、γ-Glu-Met(O)、γ-Glu-γ-Glu-Val、γ-Glu-Val-NH2、γ-Glu-Val-ol、γ-Glu-Ser、γ-Glu-Tau、γ-Glu-Cys(S-Me)(O)、γ-Glu-Leu、γ-Glu-Ile、γ-Glu-t-Leuおよびγ-Glu-Cys(S-Me)、(以下、本発明に用いられるペプチド及びアミノ酸ともいう)から選択される1種または2種以上を有効成分として含有する。これらのペプチド及びアミノ酸は、前述したスクリーニング方法によっても得られうる。ここに、アミノ酸とは、Gly, Ala, Val, Leu, Ile, Ser, Thr, Cys, Met, Asn, Gln, Pro, Hypなどの中性アミノ酸、Asp, Gluなどの酸性アミノ酸、Lys, Arg, Hisなどの塩基性アミノ酸、Phe, Tyr, Trpなどの芳香族アミノ酸や、ホモセリン、シトルリン、オルニチン、α-アミノ酪酸、ノルバリン、ノルロイシン、タウリンなども含有する。
本明細書においてアミノ基残基の略号は以下のアミノ酸を意味する。
(1)Gly:グリシン
(2)Ala:アラニン
(3)Val:バリン
(4)Leu:ロイシン
(5)Ile:イソロイシン
(6)Met:メチオニン
(7)Phe:フェニルアラニン
(8)Tyr:チロシン
(9)Trp:トリプトファン
(10)His:ヒスチジン
(11)Lys:リジン
(12)Arg:アルギニン
(13)Ser:セリン
(14)Thr:トレオニン
(15)Asp:アスパラギン酸
(16)Glu:グルタミン酸
(17)Asn:アスパラギン
(18)Gln:グルタミン
(19)Cys:システイン
(20)Pro:プロリン
(21)Orn:オルニチン
(22)Sar:サルコシン
(23)Cit:シトルリン
(24)N−Val:ノルバリン
(25)N−Leu:ノルロイシン
(26)Abu:α−アミノ酪酸
(27)Tau:タウリン
(28)Hyp:ヒドロキシプロリン
(29)t−Leu:tert−ロイシン
また、アミノ酸誘導体とは、上記アミノ酸の各種誘導体であって、例えば、特殊アミノ酸や非天然アミノ酸、アミノアルコール、或いは末端カルボニル基やアミノ基、システインのチオール基などのアミノ酸側鎖が各種置換基により置換したものが挙げられる。置換基としては、アルキル基、アシル基、水酸基、アミノ基、アルキルアミノ基、ニトロ基、スルフォニル基や各種保護基などが挙げられ、例えば、Arg(NO2):N−γ−ニトロアルギニン、Cys(SNO):S−ニトロシステイン、Cys(S−Me):S−メチルシステイン、Cys(S−allyl):S−アリルシステイン、Val−NH2:バリンアミド、Val−ol:バリノール(2−アミノ−3−メチル−1−ブタノール)などが含まれる。
【0036】
尚、本明細書において、γ−Glu−Cys(SNO)−Glyは下記の構造式を有するものであり、上記γ−Glu−Met(O)およびγ−Glu−Cys(S−Me)(O)式中の(O)はスルフォキシド構造であることを意味する。γ-Gluの(γ)とは、グルタミン酸のγ位のカルボキシ基を介して他のアミノ酸が結合していることを意味する。
【0037】
【化1】

【0038】
γ-Glu-X-Gly (XはCysを除くアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)、γ-Glu-Val-Y (Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)、γ-Glu-Ala、γ-Glu-Gly、γ-Glu-Cys、γ-Glu-Met、γ-Glu-Thr、γ-Glu-Val、γ-Glu-Orn、Asp-Gly、Cys-Gly、Cys-Met、Glu-Cys、Gly-Cys、Leu-Asp、D-Cys、γ-Glu-Met(O)、γ-Glu-γ-Glu-Val、γ-Glu-Val-NH2、γ-Glu-Val-ol、γ-Glu-Ser、γ-Glu-Tau、γ-Glu-Cys(S-Me)(O)、γ-Glu-Leu、γ-Glu-Ile、γ-Glu-t-Leuおよびγ-Glu-Cys(S-Me)はコク味を付与する。従って、γ-Glu-X-Gly (XはCysを除くアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)、γ-Glu-Val-Y (Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)、γ-Glu-Ala、γ-Glu-Gly、γ-Glu-Cys、γ-Glu-Met、γ-Glu-Thr、γ-Glu-Val、γ-Glu-Orn、Asp-Gly、Cys-Gly、Cys-Met、Glu-Cys、Gly-Cys、Leu-Asp、D-Cys、γ-Glu-Met(O)、γ-Glu-γ-Glu-Val、γ-Glu-Val-NH2、γ-Glu-Val-ol、γ-Glu-Ser、γ-Glu-Tau、γ-Glu-Cys(S-Me)(O)、γ-Glu-Leu、γ-Glu-Ile、γ-Glu-t-Leuおよびγ-Glu-Cys(S-Me)(以下、本発明に用いられるペプチド又はアミノ酸ともいう)はコク味付与剤として用いることができる。本発明に用いられるペプチド又はアミノ酸は単独で用いてもよく、また任意の2種又は3種以上を混合して用いることもできる。これらの中でも、γ-Glu-X-Gly (X はCys(SNO)、Cys(S-allyl)、Gly、Cys(S-Me)、AbuまたはSerである)、又はγ-Glu-Val-Y (YはGly、Val、Glu、Lys、Phe、Ser、Pro、 Arg、Asp、Met、Thr、His、Orn、Asn、CysまたはGlnである)の構造式を有する化合物が好ましい。
なお、これらのうち、γ-Glu-X-Gly (XはAsn, Gln, His, Lys, OrnまたはArgである)、及びγ-Glu-Val-Y (YはLeu, Ile, Ser, Thr, Met, Cys, Asp, Asn, Gln, Lys, Orn, Arg, Phe, Tyr, Pro, Hyp, Trp, HisまたはAbuである)については、本発明者らによって新たに合成された新規物質であって、本発明はこれらについての化合物の発明をも包含する。これら化合物のうち、中でも好ましい化合物は、γ-Glu-X-Gly (XはAsn, Gln, His, Lys, OrnまたはArgである)、及びγ-Glu-Val-Y (YはSer, Thr, Met, Cys, Asp, Asn, Gln, Lys, Orn, Arg, Pro または Hisである)である。
公知の呈味ペプチドは、約0.2%(MSGの閾値はその1/10)が閾値濃度(呈味を感知できる最低濃度)であって実用性に乏しかったが(J. Agr. Food Chem., vol.23, No.1, 49-53 (1975))、本発明の化合物は、0.0001%〜0.1%程度の極めて低濃度から実用的なコク味増強活性を示し、非常に活性が高い極めて有用な化合物である。
上記本発明に用いられるペプチド又はアミノ酸は、市販されているものであれば、市販品を用いることが可能である。また、ペプチドは、(1)化学的に合成する方法、又は(2)酵素的な反応により合成する方法等の公知手法を適宜用いることによって取得することができる。本発明において用いられるペプチドは、含まれるアミノ酸の残基数が2〜3残基と比較的短いので、化学的に合成する方法が簡便である。化学的に合成する場合は、該オリゴペプチドをペプチド合成機を用いて合成あるいは半合成することにより行うことができる。化学的に合成する方法としては、例えばペプチド固相合成法が挙げられる。そのようにして合成したペプチドは通常の手段、例えばイオン交換クロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等によって精製することができる。このようなペプチド固相合成法、およびそれに続くペプチド精製はこの技術分野においてよく知られたものである。
【0039】
また、本発明において用いられるペプチドを、酵素的な反応により生産することも出来る。例えば、国際公開パンフレットWO2004/011653号に記載の方法を用いることが出来る。即ち、一方のアミノ酸又はジペプチドのカルボキシル末端をエステル化又はアミド化したアミノ酸又はジペプチドと、アミノ基がフリーの状態であるアミノ酸(例えばカルボキシル基が保護されたアミノ酸)とを、ペプチド生成酵素の存在下において反応せしめ、生成したジペプチド又はトリペプチドを精製することによっても生産することもできる。ペプチド生成酵素としては、ペプチドを生成する能力を有する微生物の培養物、該培養物より分離した微生物菌体、又は、該微生物の菌体処理物、又は、該微生物に由来するペプチド生成酵素が挙げられる。
【0040】
本発明において用いられるペプチド及びアミノ酸は塩の形態をも包含する。本発明のペプチド及びアミノ酸が塩の形態を成し得る場合、その塩は薬理学的に許容されるものであればよく、例えば、式中のカルボキシル基等の酸性基に対しては、アンモニウム塩、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、トリエチルアミン、エタノールアミン、モルホリン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ジシクロへキシルアミン等の有機アミンとの塩、アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸との塩を挙げることができる。式中に塩基性基が存在する場合の塩基性基に対しては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、臭化水素酸などの
無機酸との塩、酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、タンニン酸、酪酸、ヒベンズ酸、パモ酸、エナント酸、デカン酸、テオクル酸、サリチル酸、乳酸、シュウ酸、マンデル酸、リンゴ酸等の有機カルボン酸との塩、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸との塩を挙げることができる。
【0041】
本発明のスクリ−ニング方法により得られるコク味付与物質、並びに本発明に用いられるペプチド及びアミノ酸から選ばれる1種または2種以上を有効成分として含有するコク味付与剤の使用方法としては、特に制限されず、調味料、食品、飲料等の飲食品に添加して用いることができる。
本発明のスクリ−ニング方法により得られるコク味付与物質は、単独で、又はその他の各種添加物等と組み合わせて、調味料、食品、飲料等の飲食品に添加して用いることができる。
【0042】
また、本発明のコク味付与剤は、例えば、上記本発明に用いられるペプチド及びアミノ酸から選ばれる1種または2種以上のみで構成されていても良く、さらにその他、コク味付与活性を有する既存の化合物 (グルタチオンやアリイン等)や各種添加物等を任意に添加され構成されることも可能である。この際、カルシウム受容体刺激活性を有する既存の化合物を1種または2種以上を添加してもよく、本発明はかかる組成物をも包含する。
カルシウム受容体活性を有する既存の化合物としては、カルシウム、カドリニウムなどのカチオン、ポリアルギニン、ポリリジンなどの塩基性ペプチド、プトレッシン、スペルミン、スペルミジンなどのポリアミン、プロタミンなどのタンパク質、フェニルアラニン、グルタチオンなどのペプチド、シナカルセットなどが挙げられる。これらの化合物も許容される塩の形態をとっても良い。なお、グルタチオンがカルシウム受容体刺激活性を有することは本発明者らにより発見された。
また、本発明者らは、本発明のコク味付与剤に加えて、グルタチオンなどの既存のコク味付与活性を有する化合物についても、カルシウム受容体活性化作用を有する化合物との併用により、コク味付与活性が向上されることをも見出した。即ち、本発明は、グルタチオンなどの既知のコク味付与活性を有する化合物とカルシウム受容体刺激活性を有する化合物とを含有する組成物をも包含する。
【0043】
上記添加物としては、調味料、食品、飲料等の飲食品に添加配合できることが知られているものであれば特に限定されることはなく用いることができる。そのような添加物としては、例えば、香料、糖類、甘味料、食物繊維類、ビタミン類、グルタミン酸ナトリウム(MSG)などのアミノ酸類、イノシン一リン酸(IMP)などの核酸類、塩化ナトリウムなどの無機塩類、水などが挙げられる。
【0044】
本発明のスクリ−ニング方法により得られるコク味付与物質、又は本発明のコク味付与剤の飲食品に対する使用量は、コク味の付与に有効な量であればよく、用途に応じて適宜調節されるが、例えば、調味料、食品又は飲料の場合、本発明のコク味付与剤、又はコク味付与物質の合計量として調味料、食品又は飲料中に1質量ppb〜99.9質量%であり、好ましくは10質量ppb〜99.9質量%、より好ましくは10質量ppm〜10質量%程度である。
従って、本発明のスクリ−ニング方法により得られるコク味付与物質又は本発明のコク味付与剤の1種または2種以上を、飲食品に対して1質量ppb〜99.9質量%、好ましくは10質量ppb〜99.9質量%、より好ましくは10質量ppm〜10質量%程度含有させるように添加することで、コク味が付与された飲食品を製造することができる。
【0045】
また、本発明のスクリ−ニング方法により得られるコク味付与物質又は本発明のコク味
付与剤の1種または2種以上を1質量ppb〜99.9質量%含有してなる上記コク味が付与された調味料を、飲食品に対して0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜10質量%含有させるように添加することでも、コク味が付与された飲食品を製造することができる。
【0046】
本発明のスクリ−ニング方法により得られるコク味付与物質又は本発明のコク味付与剤を、飲食品に添加する際の形態としては、乾燥粉末、ペースト、溶液などの物性に制限はない。
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
≪実施例1≫
<遺伝子(cRNA)の調製>
カルシウム受容体の遺伝子の調製は以下のように行った。NCBIに登録されたDNA配列(カルシウム受容体:NM_000388)を元に、PCRに使う合成オリゴDNA(フォワードプライマー(N)、及びリバースプライマー(C))を設計した(表1)(配列番号1及び2)。
【0049】
【表1】

【0050】
ヒト腎臓由来のcDNA(Clontech社製)を材料として、表1(hCASR_N:配列番号1及びhCASR_C:配列番号2)に示すプライマーを合成し、Pfu ultra DNA Polymerase(Stratagene社製)を用い、以下の条件でPCRを実施した。94℃で3分の後、94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で2分を35回繰り返した後、72℃で7分の反応をした。PCRによって増幅がなされたかをアガロ−ス電気泳動法を行い、DNA染色試薬で染色した後、紫外線照射によって検出した。同時に電気泳動したサイズ既知のDNAマ−カ−と比較することで、PCR産物の鎖長を確認した。プラスミドベクタ−pBR322を制限酵素EcoRV(Takara社製)によって切断した。その切断部位にPCRによって増幅された遺伝子断片をLigation Kit(Promega社製)を用いて連結した。この反応溶液でエシェリヒア・コリDH5α株を形質転換し、PCR増幅産物がクロ−ニングされたプラスミドを保持する形質転換体を選抜した。PCR増幅産物をDNA塩基配列解析によって確認した。この組換えプラスミドを鋳型とし、cRNA作製キット(Ambion社)を用いてカルシウム受容体遺伝子のcRNAを作製した。
【0051】
≪実施例2≫
<各種試料の調製>
L型アミノ酸試料として、各々特級グレ−ドのアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、オルニチン、タウリン(上記、味の素株式
会社)、ヒドロキシプロリン(ナカライテスク株式会社)の23種類を用いた。D−CysおよびD−Trp(ナカライテスク株式会社)及び塩化カルシウムは特級グレ−ドのものを用いた。また、ペプチド試料として、γ−Glu−Cys−Gly(シグマアルドリッチジャパン株式会社)、γ−Glu−Cys(SNO)−Gly(株式会社同仁化学研究所)、γ−Glu−Ala(Bachem Feinchemikalien AG)、γ−Glu−Gly(Bachem Feinchemikalien AG)、γ−Glu−Cys(シグマアルドリッチジャパン株式会社)、γ−Glu−Met(Bachem Feinchemikalien AG)、γ−Glu−Abu−Gly(Abu:α−アミノ酪酸、Bachem Feinchemikalien AG)、γ−Glu−Thr(国産化学株式会社)、γ−Glu−Val(国産化学株式会社)、γ−Glu−Leu(受託合成品)、γ−Glu−Ile(受託合成品)、γ−Glu−Orn(国産化学株式会社)、Asp−Gly(受託合成品)、Cys−Gly(受託合成品)、Cys−Met(受託合成品)、Glu−Cys(受託合成品)、Gly−Cys(受託合成品)、Leu−Asp(受託合成品)、γ−Glu−Val−Val(受託合成品)、γ−Glu−Val−Glu(受託合成品)、γ−Glu−Val−Lys(受託合成品)、γ−Glu−γ−Glu−Val(受託合成品)、γ−Glu−Gly−Gly(受託合成品)、γ−Glu−Val−Phe(受託合成品)、γ−Glu−Val−Ser(受託合成品)、γ−Glu−Val−Pro(受託合成品)、
γ−Glu−Val−Arg(受託合成品)、γ−Glu−Val−Asp(受託合成品)、γ−Glu−Val−Met(受託合成品)、γ−Glu−Val−Thr(受託合成品)、γ−Glu−Val−His(受託合成品)、γ−Glu−Val−Asn(受託合成品)、γ−Glu−Val−Gln(受託合成品)、γ−Glu−Val−Cys(受託合成品)、γ−Glu−Val−Orn(受託合成品)、γ−Glu−Ser−Gly(受託合成品)を用いた。グルタミン、システインは用事調製し、他の試料は調製後、−20℃に保存した。ペプチドは純度90%以上のものを用いた。γ−Glu−Cysのみ純度80%以上のものを用いた。各試料を溶解した後、pHが酸性、アルカリ性のものについては、NaOH、HClを用いて中性前後に調整した。アミノ酸、ペプチドの溶解液、アフリカツメガエル卵母細胞の調製用の溶液、卵母細胞の培養用の溶液は、以下の組成のものを使用した。NaCl 96mM / KCl 2mM / MgCl2 1mM
/ CaCl2 1.8mM / Hepes 5mM / pH=7.2。
【0052】
≪実施例3≫
<γ−Glu−Val−Glyの合成>
Boc−Val−OH(8.69 g, 40.0 mmol)とGly−OBzl・HCl(8.07 g, 40.0 mmol)を塩化メチレン(100 ml)に溶解し、溶液を0℃に保った。トリエチルアミン(6.13 ml, 44.0 mmol)、HOBt(1−Hydroxybenzotriazole, 6.74 g, 44.0 mmol)及びWSC・HCl(1−Ethyl−3−(3−dimethylaminopropyl)carbodiimide Hydrochloride, 8.44 g, 44.0 mmol)を溶液に加え、室温で一夜撹拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣を酢酸エチル(200 ml)に溶解した。溶液を水(50 ml)、5%クエン酸水溶液(50 ml x 2回)、飽和食塩水(50 ml)、5%炭酸水素ナトリウム水溶液(50 ml x 2回)、飽和食塩水(50 ml)で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、硫酸マグネシウムを濾過して除き、濾液を減圧濃縮した。残渣を酢酸エチル−n−ヘキサンから再結晶してBoc−Val−Gly−OBzl(13.2 g, 36.2 mmol)を白色結晶として得た。
Boc−Val−Gly−OBzl(5.47 g, 15.0 mmol)を4N−HCl/ジオキサン溶液(40 ml)に加え、室温で50分撹拌した。ジオキサンを減圧濃縮で除き、残渣にn−ヘキサン(30 ml)を加え減圧濃縮した。この操作を3回繰り返し、H−Val−Gly−OBzl・HClを定量的に得た。
上記H−Val−Gly−OBzl・HCl及びZ−Glu−OBzl(5.57 g, 15.0 mmol)を塩化メチレン(50 ml)に溶解し、溶液を0℃に保った。トリエチルアミン(2.30 ml, 16.5 mmol)、HOBt(1−Hydroxybenzotriazole, 2.53 g, 16.5 mmol)及びWSC・HCl(1−Ethyl−3−(3−dimethylaminopropyl)carbodiimide Hydrochloride, 3.16 g, 16.5mmol)を溶液に加え、室温で二夜撹拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣を加熱した酢酸エチル(1500 ml)に溶解した。溶液を水(200 ml)、5%クエン酸水溶液(200 ml x 2回)、飽和食塩水(150 ml)、5%炭酸水素ナトリウム水溶液(200 ml x 2回)、飽和食塩水(150 ml)で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、硫酸マグネシウムを濾過して除き、濾液を減圧濃縮した。析出した結晶を濾取、減圧乾燥してZ−Glu(Val−Gly−OBzl)−OBzl(6.51 g,10.5 mmol)を白色結晶として得た。
上記Z−Glu(Val−Gly−OBzl)−OBzl(6.20 g, 10.03
mmol)をエタノール(200 ml)に懸濁し、10%パラジウム炭素(1.50 g)を加え、水素雰囲気下に55℃で5時間還元反応を行った。この間、全量で100 mlの水を徐々に加えた。触媒を桐山ロートで濾過して除き、濾液を半分に減圧濃縮した。反応液を更にメンブランフィルターで濾過し、濾液を減圧濃縮した。残渣を少量の水に溶かした後にエタノールを加えて結晶を析出させ、結晶を濾過して集め減圧乾燥してγ−Glu−Val−Glyの白色粉末(2.85 g, 9.40 mmol)を得た。
ESI−MS:(M+H)+=304.1.
1H−NMR(400MHz, D2O)δ(ppm):0.87 (3H, d, J=6.8 Hz), 0.88 (3H, d, J=6.8 Hz), 1.99−2.09 (3H, m), 2.38−2.51 (2H, m), 3.72 (1H,t, J=6.35 Hz), 3.86 (1H, d, J=17.8 Hz),3.80 (1H, d, J=17.8 Hz), 4.07 (1H, d, J=6.8 Hz).
【0053】
≪実施例4≫
<γ−Glu−Cys(S−Me)−Glyの合成[Cys(S−Me):S−メチルシステイン]>
還元型グルタチオン(15.0 g, 48.8 mmol)を水(45 ml)に加え、窒素を吹き込みながら水酸化ナトリウム(4.52 g, 2.2当量, 107 mmol)を少しずつ加えた。ヨウ化メチル(4.56 ml, 1.5当量, 73 mmol)を加え、密栓して室温で2時間撹拌した。濃塩酸で反応液のpHを2〜3に調整し、エタノール(150 ml)を加え冷蔵庫に一夜保存した。油状物が分離したので、上澄みを除いた。残った油状物を水に溶かしエタノールを徐々に加えると、一部結晶を伴う油状物が析出したので再度上澄みを除いた。残渣を水(300 ml)に溶解し、イオン交換樹脂(Dowex 1−acetate, 400 ml)を充填したカラムに吸着させ、水洗した後に1N−酢酸水溶液で溶出した。溶出液を減圧濃縮し、水−エタノールから再沈殿させ、γ−Glu−Cys(S−Me)−Glyの白色粉末(5.08 g, 15.8 mmol)を得た。
FAB−MS:(M+H)+=322.
1H−NMR(400MHz, D2O)δ(ppm):2.14 (3H, s), 2.15−2.22 (2H, m), 2.50−2.58 (2H, m), 2.86 (1H, dd, J=9.0 Hz, J=14.0 Hz), 3.03 (1H, dd, J=5.0 Hz, J=14.0 Hz), 3.84 (1H, t, J=6.5 Hz), 3.99 (2H, s), 4.59 (1H, dd,J=5.0 Hz, J=9.0 Hz).
【0054】
≪実施例5≫
<その他ペプチドの合成>
γ−Glu−Met(O)、γ−Glu−Val−NH2、γ−Glu−Val−ol、γ−Glu−Ser、γ−Glu−Tau、γ−Glu−Cys(S−Me)(O)、γ−Glu−t−Leu、γ−Glu−Cys(S−allyl)−Gly、γ−Glu−Cys(S−Me)は実施例3および実施例4に準じて合成した。
【0055】
≪実施例6≫
<カルシウム受容体の活性化作用の評価>
カルシウム受容体の活性化作用の評価には、アフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いたCa濃度イオン依存性Clイオン電流測定法を用いた。カルシウム受容体を発現させたアフリカツメガエル卵母細胞に、各活性化剤を添加すると、細胞内のCaイオンが増加する。次にCa濃度イオン依存性Clチャネルが開き、イオン電流として細胞内電流値が変化する。この細胞内電流値の変化を測定することで、カルシウム受容体の活性化作用の有無を知り得ることができる。
【0056】
具体的には、アフリカツメガエル腹部を切開し、卵塊を取り出した後、1%コラゲナ−ゼ溶液により20℃で2時間処理することで個々の卵母細胞を得た。1個あたりの卵母細胞に、マイクロガラスキャピラリ−を用いて50nlの1μg/μl受容体cRNAもしくは50nlの滅菌水を導入し、18℃で2〜3日培養した。培養時には、実施例2で示した溶液に2mMピルビン酸と10U/mlペニシリンと10μg/mlストレプトマイシンを加えたものを使用した。培養後、cRNAを注入した卵母細胞もしくは滅菌水を注入した卵母細胞に対し、試験溶液を添加した。電気生理学的測定は、増幅器Geneclamp500(Axon社製)および記録用ソフトAxoScope9.0(Axon社製)を用いて行った。卵母細胞を2電極膜電位固定法により−70mVに膜電位固定し、Ca濃度イオン依存性Clイオンを介した細胞内電流を測定した。細胞内電流の最大値を応答電流値とした。
【0057】
≪実施例7≫
<カルシウム受容体に対するカルシウムの活性化作用の評価>
実施例6に記載した方法を用い、カルシウム受容体に対するカルシウムの活性化作用を評価した。すなわち、カルシウム受容体のcRNAもしくは滅菌水を注入した卵母細胞を調製し、2電極膜電位固定法により−70mVに膜電位固定した。膜電位固定された卵母細胞に、カルシウム(2mM、5mM、10mM、20mM)を添加し、Ca濃度イオン依存性Cl応答電流を測定した。結果は図1に示した。この結果より、卵母細胞に注入したカルシウム受容体のcRNAが機能的に発現していることが確認された。また、水を注入した卵母細胞は、高い濃度のカルシウムにも反応していないことから、卵母細胞自身にはカルシウム受容体が発現していないことが確認された。
【0058】
≪実施例8≫
<カルシウム受容体に対するL型アミノ酸の活性化作用の評価>
実施例6に記載した方法を用い、カルシウム受容体に対するL型アミノ酸の活性化作用を評価した。すなわち、カルシウム受容体のcRNAもしくは滅菌水を注入した卵母細胞を調製し、2電極膜電位固定法により−70mVに膜電位固定した。膜電位固定された卵母細胞に、アラニン(10mM)、アルギニン(10mM)、アスパラギン(10mM)、アスパラギン酸(10mM)、システイン(10mM)、グルタミン(10mM)、グルタミン酸(10mM)、グリシン(10mM)、ヒスチジン(10mM)、イソロイシン(10mM)、ロイシン(10mM)、リジン(10mM)、メチオニン(10mM)、フェニルアラニン(10mM)、プロリン(10mM)、セリン(10mM)、トレオニン(10mM)、トリプトファン(10mM)、チロシン(10mM)、バリン(10mM)、オルニチン(10mM)、タウリン(10mM)、又はヒドロキシプロリン(10mM)を添加し、Ca濃度イオン依存性Cl応答電流を測定した。結果は図2に示した。この結果より、システイン、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシンがカルシウム受容体に対する明瞭な活性化作用を有することが示された。なお、上記アミノ酸についてはProc Natl Acad Sci U S A. 2000 Apr 25;97(9):4814−9で活性化作用が報告されている。
【0059】
≪実施例9≫
<カルシウム受容体に対するD−システインの活性化作用の評価>
実施例6に記載した方法を用い、カルシウム受容体に対するD−システインの活性化作用を評価した。すなわち、カルシウム受容体のcRNAもしくは滅菌水を注入した卵母細胞を調製し、2電極膜電位固定法により−70mVに膜電位固定した。膜電位固定された卵母細胞に、D−システイン(10mM)、L−システイン(10mM)、D−トリプトファン(10mM)又はL−トリプトファン(10mM)を添加し、Ca濃度イオン依存性Cl応答電流を測定した。結果は図3に示した。この結果より、D−システインがカルシウム受容体に対する明瞭な活性化作用を有することが示された。
【0060】
≪実施例10≫
<カルシウム受容体に対するペプチドの活性化作用の評価>
実施例6に記載した方法を用い、カルシウム受容体に対するペプチドの活性化作用を評価した。すなわち、カルシウム受容体のcRNAもしくは滅菌水を注入した卵母細胞を調製し、2電極膜電位固定法により−70mVに膜電位固定した。膜電位固定された卵母細胞に、γ−Glu−Cys−Gly(50μM)、γ−Glu−Cys(SNO)−Gly(50μM)、γ−Glu−Ala(50μM)、γ−Glu−Gly(500μM)、γ−Glu−Cys(50μM)、γ−Glu−Met(500μM)、γ−Glu−Thr(50μM)、γ−Glu−Val(50μM)、γ−Glu−Orn(500μM)、Asp−Gly(1mM)、Cys−Gly(1mM)、Cys−Met(1mM)、Glu−Cys(50μM)、Gly−Cys(500μM)、Leu−Asp(1mM)を添加し、Ca濃度イオン依存性Cl応答電流を測定した。結果は図4に示した。この結果より、上記ペプチドは、カルシウム受容体に対する活性化作用を有することが示された。
【0061】
≪実施例11≫
<カルシウム受容体に対するペプチドの活性化作用の評価>
実施例10と同様に、カルシウム受容体に対するペプチドの活性化作用を評価した。膜に電位固定された卵母細胞に、表2の各ペプチドについて、1000μM、300μM、100μM、30μM、10μM、3μM、1μM、0.3μM、0.1μMを添加し、Ca濃度イオン依存性Cl応答電流を測定した。電流が検出された最低濃度を表2に活性として示した。この結果より、これら32種類のペプチドは、カルシウム受容体に対する活性化作用を有することが明らかとなった。
【0062】
【表2】

【0063】
≪実施例12≫
<本発明に用いられるペプチド及びアミノ酸のコク味付与活性>
カルシウム受容体活性化作用が見出された、γ-Glu-X-Gly (X はCys(SNO)、Cys(S-allyl)、Gly、Cys(S-Me)、AbuまたはSerである)、γ-Glu-Val-Y (YはGly、Val、Glu、Lys、Phe、Ser、Pro、Arg、Asp、Met、Thr、His、Orn、Asn、CysまたはGlnである)、γ-Glu-Ala、γ-Glu-Gly、γ-Glu-Cys、γ-Glu-Met、γ-Glu-Thr、γ-Glu-Val、γ-Glu-Orn、Asp-Gly、Cys-Gly、Cys-Met、Glu-Cys、Gly-Cys、Leu-Asp、D-Cys、γ-Glu-Met(O)、γ-Glu-γ
-Glu-Val、γ-Glu-Val-NH2、γ-Glu-Val-ol、γ-Glu-Ser、γ-Glu-Tau、γ-Glu-Cys(S-Me)(O)、γ-Glu-Leu、γ-Glu-Ile、γ-Glu-t-Leuおよびγ-Glu-Cys(S-Me)、の中から代表例を選んで、官能評価試験によりコク味付与活性の有無を調べた。
官能評価試験は以下のように実施した。グルタミン酸ナトリウム(0.05g/dl)、イノシン酸一リン酸(0.05g/dl)、塩化カルシウム(1mM)を含有する蒸留水に、試料としてアリイン(alliin: S-allyl-cysteine sulfoxide、コク味付与活性のコントロール)、γ−Glu−Cys−Gly、γ−Glu−Cys、γ−Glu−Ala、又はγ−Glu−Valをそれぞれ0.2g/dlで混合した場合の、コク味付与活性の有無を判定した。なお試料溶解後に酸性を呈したサンプルについては、NaOHでpH6.8〜7.2に合わせてから使用した。結果を表3に示した。
【0064】
【表3】

【0065】
≪実施例13≫
<本発明に用いられるペプチドのコク味付与活性>
カルシウム受容体活性化作用が見出されたペプチドについて定量的な官能評価試験によりコク味付与活性の強度を調べた。
定量的官能評価試験は以下のように実施した。グルタミン酸ナトリウム(0.05g/dl)、イノシン酸一リン酸(0.05g/dl)、塩化ナトリウム(0.5g/dl)を含有する蒸留水に、試料としてγ−Glu−Cys−Gly(グルタチオン)、γ−Glu−Ala、γ−Glu−Met、又はγ−Glu−Valをそれぞれ0.1g/dlにて混合した場合の、コク味付与活性の強度を測定した。なお試料溶解後に酸性を呈したサンプルについては、NaOHでpH6.8〜7.2に合わせて使用した。官能評点について、コントロール:0点、グルタチオン添加:3点として、n=3で実施し、結果を表4に示した。
【0066】
【表4】

【0067】
≪実施例14≫
<本発明に用いられるペプチドのコク味付与活性>
カルシウム受容体活性化作用が見出されたペプチドについて定量的な官能評価試験によりコク味付与活性の強度を調べた。
定量的官能評価試験は以下のように実施した。グルタミン酸ナトリウム(0.05g/dl)、イノシン酸一リン酸(0.05g/dl)、塩化ナトリウム(0.5g/dl)を含有する蒸留水に、試料としてγ−Glu−Cys−Gly(グルタチオン)、γ−Glu−Cys、γ−Glu−Val、又はγ−Glu−Val−Glyをそれぞれ0.1g/dl、必要に応じて0.01g/dlにて混合した場合の、コク味付与活性の強度を測定した。なお試料溶解後に酸性を呈したサンプルについては、NaOHでpH6.8〜7.2に合わせて使用した。官能評点について、コントロール:0点、グルタチオン添加:3点として、n=5で実施し、結果を表5に示した。
【0068】
【表5】

【0069】
≪実施例15≫
<本発明に用いられるペプチドのコク味付与活性>
カルシウム受容体活性化作用が見出されたペプチドについて定量的な官能評価試験によりコク味付与活性の強度を調べた。
定量的官能評価試験は以下のように実施した。グルタミン酸ナトリウム(0.05g/dl)、イノシン酸一リン酸(0.05g/dl)、塩化ナトリウム(0.5g/dl)
を含有する蒸留水に、試料としてγ−Glu−Cys−Gly(グルタチオン)、γ−Glu−Abu−Gly、又はγ−Glu−Val−Glyをそれぞれ0.1g/dl、もしくは0.01g/dlにて混合した場合の、コク味付与活性の強度を測定した。なお試料溶解後に酸性を呈したサンプルについては、NaOHでpH6.8〜7.2に合わせて使用した。官能評点について、コントロール:0点、グルタチオン添加:3点として、n=12で実施し、結果を表6に示した。
【0070】
【表6】

【0071】
≪実施例16≫
<本発明に用いられるペプチドの基本味に対する活性>
カルシウム受容体活性化作用が見出されたペプチドについて定量的な官能評価試験により基本味に対する活性の強度を調べた。
定量的官能評価試験は以下のように実施した。うま味標準液としてグルタミン酸ナトリウム(0.2g/dl)、甘味標準液としてショ糖(5g/dl)、塩味標準液として塩化ナトリウム(0.7g/dl)、酸味標準液としてクエン酸(0.05g/dl)を含有する蒸留水に、試料としてγ−Glu−Cys−Gly(グルタチオン)、又はγ−Glu−Val−Glyをそれぞれ0.0001〜1g/dlにて混合した場合の、それぞれ基本味に対する活性の強度を測定した。
なお試料溶解後に試料無添加標準液に対し酸性を呈したサンプルについては、NaOHで標準液のpHに対しpH±0.2の幅に合わせて使用した。官能評点について、コントロール:0点、やや強い:1点、強い:2点として、n=12で実施した。上記添加濃度で幅広く基本味に対し強化活性を示した。代表的な濃度での結果を表7に示した。
【0072】
【表7】

【0073】
≪実施例17≫
<本発明に用いられるペプチドのコンソメスープにおけるコク味付与活性>
カルシウム受容体活性化作用が見出されたペプチドについて定量的な官能評価試験によりコンソメスープにおけるコク味付与活性の強度を調べた。
定量的官能評価試験は以下のように実施した。コンソメスープ粉末(食塩 35%、グルタミン酸ナトリウム 18%、イノシン酸一リン酸 0.2%、白コショウパウダー 0.3%、黒コショウパウダー 0.5%、ビーフエキスパウダー 8.0%、白ワインパウダー 3.0%、セロリパウダー 2.0%、白菜エキスパウダー 8.0%、玉葱エキスパウダー 2.5%、乳糖 25.5%)を5g/dlで溶解し、コンソメスープを調製した。このコンソメスープに対し、試料としてγ−Glu−Cys−Gly(グルタチオン)、又はγ−Glu−Val−Glyをそれぞれ0.0001〜1g/dlにて混合した場合の、それぞれコク味付与活性の強度を測定した。なお試料溶解後に試料無添加コンソメスープに対し酸性を呈したサンプルについては、NaOHでコントロールに対しpH±0.2の幅に合わせて使用した。官能評点について、コントロール:0点、強い:3点、非常に強い:5点として、n=12で実施した。上記添加濃度で幅広くコク味付与活性を示したが、代表的な濃度での結果を表8に示した。
【0074】
【表8】

【0075】
≪実施例18≫
<本発明に用いられるペプチドのすまし汁におけるコク味付与活性>
カルシウム受容体活性化作用が見出されたペプチドについて定量的な官能評価試験によりすまし汁におけるコク味付与活性の強度を調べた。
定量的官能評価試験は以下のように実施した。かつお昆布だし(水3Lに乾燥昆布5gを加え加熱し、沸騰直前にかつお削り節25gを加えた後、ろ過した液部)に、濃口醤油0.5g/dl、食塩0.6g/dlを添加し、すまし汁を調整した。このすまし汁に対し、試料としてγ−Glu−Cys−Gly(グルタチオン)、又はγ−Glu−Val−Glyをそれぞれ0.0001〜1g/dlにて混合した場合の、それぞれコク味付与活性の強度を測定した。なお試料溶解後に試料無添加すまし汁に対し酸性を呈したサンプルについては、NaOHでコントロールに対しpH±0.2の幅に合わせて使用した。官能評点について、コントロール:0点、強い:3点、非常に強い:5点として、n=12で実施した。上記添加濃度で幅広くコク味付与活性を示したが、代表的な濃度での結果を表9に示した。
【0076】
【表9】

【0077】
≪実施例19≫
<本発明に用いられるペプチドのコーンスープにおけるコク味付与活性>
カルシウム受容体活性化作用が見出されたペプチドについて定量的な官能評価試験によりコーンスープにおけるコク味付与活性の強度を調べた。
定量的官能評価試験は以下のように実施した。市販コーンスープに対し、試料としてγ−Glu−Cys−Gly(グルタチオン)、又はγ−Glu−Val−Glyをそれぞれ0.0001〜1g/dlにて混合した場合の、それぞれコク味付与活性の強度を測定した。なお試料溶解後に試料無添加コーンスープに対し酸性を呈したサンプルについては、NaOHでコントロールに対しpH±0.2の幅に合わせて使用した。官能評点について、コントロール:0点、強い:3点、非常に強い:5点として、n=12で実施した。上記添加濃度で幅広くコク味付与活性を示したが、代表的な濃度での結果を表10に示した。
【0078】
【表10】

【0079】
≪実施例20≫
<本発明に用いられるペプチドのカレーソースにおけるコク味付与活性>
カルシウム受容体活性化作用が見出されたペプチドについて定量的な官能評価試験によりカレーソースにおけるコク味付与活性の強度を調べた。
定量的官能評価試験は以下のように実施した。市販カレールーを用い定法に従い調整したカレーソースに対し、試料としてγ−Glu−Cys−Gly(グルタチオン)、又はγ−Glu−Val−Glyをそれぞれ0.0001〜1g/dlにて混合した場合の、それぞれコク味付与活性の強度を測定した。なお試料溶解後に試料無添加カレーソースに対し酸性を呈したサンプルについては、NaOHでコントロールに対しpH±0.2の幅に合わせて使用した。官能評点について、コントロール:0点、強い:3点、非常に強い:5点として、n=12で実施した。上記添加濃度で幅広くコク味付与活性を示したが、代表的な濃度での結果を表11に示した。
【0080】
【表11】

【0081】
≪実施例21≫
<本発明に用いられるペプチドと他の既知のカルシウム受容体活性化剤等の添加物を併用した場合おけるコク味付与活性>
カルシウム受容体活性化作用が見出されたペプチドについて、他の既知のカルシウム受容体活性化剤等の添加物を併用した場合の定量的な官能評価試験によりコク味付与活性の強度を調べた。
定量的官能評価試験は以下のように実施した。グルタミン酸ナトリウム(0.05g/dl)、イノシン酸一リン酸(0.05g/dl)、塩化ナトリウム(0.5g/dl)を含有する蒸留水に、ペプチド試料としてγ−Glu−Cys−Gly(グルタチオン)又はγ−Glu−Val−Glyをそれぞれ0.0001〜1g/dlにて混合した場合と、更に他のカルシウム受容体活性化剤(乳酸カルシウム、プロタミン、ポリリジン)、GABAを併用した場合(添加濃度0.0001〜1g/dl)のコク味付与活性の強度を測定した。なお試料溶解後に酸性を呈したサンプルについては、NaOHでpH6.8〜7.2に合わせて使用した。官能評点について、コントロール:0点、強い(0.05 g/dl γ-Glu-Cys-Glyおよび0.005 g/dl γ-Glu-Val-Glyの力価として):3点、非常に強い(0.05 g/dl γ-Glu-Cys-Glyおよび0.005 g/dl γ-Glu-Val-Glyの2倍力価として):6点として、n=12で実施した。上記添加濃度で幅広くコク味付与活性を示したが、代表的な濃度での結果を表12に示した。この結果、本発明のコク味付与剤に加えて、既知のコク味付与活性を有する化合物であるグルタチオンにおいても、カルシウムなどの既知のカルシウム受容体活性化剤などとの併用により、コク味付与活性が向上した。
【0082】
【表12】

【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によって、カルシウム受容体活性化作用を有する特定のアミノ酸及びペプチドがコク味付与物質としても有用であることが明らかとなった。特に実施例12〜21で示したようにコク味付与物質として新たにジペプチド、トリペプチドが数種類発見されたが、ペプチドであることから、高い安全性の要求される食品領域における利用が可能である。加えて、カルシウム受容体活性化を指標としたコク味付与物質のスクリ−ニング方法が開発されたことにより、いわゆるハイスループットスクリーニングを用いることができるので、更に高性能のコク味物質の開発が可能となった。
本発明は、好ましい実施形態を参照して詳細に説明されているが、本発明の範囲から逸脱しないかぎり、多様な変更、均等物の使用が可能であることは当業者にとって明らかである。本明細書における全ての引用文献は本明細書の一部として参考のために示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ-Glu-Ala、γ-Glu-Gly、γ-Glu-Met、γ-Glu-Thr、γ-Glu-Val、γ-Glu-Orn、γ-Glu-Ser、γ-Glu-Tau、γ-Glu-Leu、γ-Glu-Ile、γ-Glu-t-Leu、γ-Glu-Met(O)、γ-Glu-γ-Glu-Val、γ-Glu-Val-NH2、γ-Glu-Val-ol、Asp-Gly、Cys-Gly、Cys-Met、Gly-Cys、Leu-Asp、D-Cysおよびγ-Glu-Val-Y (YはVal、Glu、Lys、Phe、Ser、Pro、Arg、Asp、Met、Thr、His、Orn、Asn、CysまたはGlnを表す)から選択される1種または2種以上を有効成分として含む、カルシウム受容体活性化作用を有するコク味付与剤。
【請求項2】
コク味付与剤が、塩味、うま味、甘味または酸味のいずれかを増強するものである、請求項1に記載のコク味付与剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のコク味付与剤から選択される1種または2種以上、および、カルシウム受容体刺激活性を有する他の化合物から選択される1種または2種以上を含有する食品組成物。
【請求項4】
前記カルシウム受容体刺激活性を有する他の化合物が、カルシウム、プロタミン、ポリアルギニン、スペルミン、ポリリジン、グルタチオンおよびシナカルセットである、請求項3に記載の食品組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載のコク味付与剤から選択される1種または2種以上を、飲食品に対して1質量ppb〜99.9質量%含有させるように添加することを特徴とする、コク味が付与された飲食品の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載のコク味付与剤から選択される1種または2種以上を、飲食品に対して0.0001〜0.1質量%含有させるように添加することを特徴とする、コク味が付与された飲食品の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載のコク味付与剤から選択される1種または2種以上を、1質量ppb〜99.9質量%含有してなる調味料を、飲食品に対して0.01〜10質量%含有させるように添加することを特徴とする、コク味が付与された飲食品の製造方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法により得られうる、コク味が付与された飲食品。
【請求項9】
下記式を有する化合物。
γ-Glu-Val-Y (YはLeu, Ile, Ser, Thr, Met, Cys, Asp, Asn, Gln, Lys, Orn, Arg, Phe, Tyr, Pro, Hyp, Trp, HisまたはAbuを表す)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−115186(P2011−115186A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66637(P2011−66637)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【分割の表示】特願2010−34162(P2010−34162)の分割
【原出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】