説明

コグニティブ無線システムにおける無線通信方法および無線通信装置

【課題】アドホックコグニティブ無線通信システムにおいて、制御チャネルの飽和を回避する。
【解決手段】位置および時刻に応じて複数の初期制御チャネルのいずれを用いて通信を開始するかを規定する初期制御チャネルテーブルを保持した第1の無線通信装置が、利用可能な周波数を検出するステップと、位置情報および時刻情報を取得するステップと、取得した位置情報および時刻情報に基づいて決定される初期制御チャネルを用いて第2の無線通信装置との接続を確立するステップと、確立した初期制御チャネル上で情報をやりとりして動的制御チャネルを確立するステップと、確立した動的制御チャネルで情報をやりとりしてデータチャネルを確立するステップと、を実行する。初期制御チャネルは、動的制御チャネル確立が解放されるため、初期制御チャネルが専有される時間を短くできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コグニティブ無線システムにおける無線通信技術に関し、特に、あらかじめ定められた制御チャネルを持たないアドホックコグニティブ無線ネットワークにおいて無線接続を確立して通信を開始するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、未使用の周波数帯を検出して利用するコグニティブ無線システムの研究・開発が進められている。使用可能な周波数帯は、プライマリーユーザー(一次利用者)の通信や端末の移動などによって、時間的にも空間的にも随時変化する。したがって、通信に利用する適切な周波数帯を迅速に決定することが重要である。
【0003】
このようなコグニティブ無線システムに関する研究は、共通の制御チャネルの存在を前提とすることが多い。
【0004】
たとえば、非特許文献1では、共通スペクトラム調整チャネル(Common Spectrum Coordination Channel: CSCC)を利用する手法が提案されている。各無線ノードは、CSCC上で周波数使用情報(たとえば、IEEE MACアドレスなどのユーザーID、使用周波数帯や送信電力など)を定期的にブロードキャストする。隣接するノードは、これらの通知を観測することにより、新たにアクティブになったユーザーは、スペクトラム・アクティビティーのマップを作成し、利用可能な周波数があればそれを選択する。
【0005】
また、IEEE802.22のようなベースステーション(BS)が存在するシステムでは、各端末の周波数利用状況検出結果を基にBSが周波数チャネルを各端末に割り当てる。BSのような制御部が周波数チャネルの割当を行うので、接続確立時に送受信ノード間で利用する周波数チャネル等を交換する必要がなくなる。また、通信中に電波状況が変化して利用する周波数チャネルを切り替える場合も、BSから指示が送られるので切り替えが容易である。
【0006】
しかしながら、アドホック無線通信のようなインフラ(アクセスポイント等)を使用しない無線通信システムでは、このような共通の制御チャネルや中央集権的な制御部を利用できない。このような状況を考慮して、本発明者らは、固定の制御チャネルやインフラが存在しない状況で、利用可能な周波数を用いて通信を行う技術を既に提案済みである(特許文献1−3)。
【0007】
特許文献1では、通信を開始しようとする無線通信装置が、周波数をスキャンし利用可能な周波数のいずれか(一つでも複数でも全部でも可)を用いて接続要求を通知することを提案している。これにより、予め定められた固定の制御チャネルが存在しない状況でも通信を開始することができる。
【0008】
特許文献2,3では、利用可能な制御チャネルを検出する際に、スキャン対象とする周波数範囲を、位置情報と時刻情報に基づいて絞り込んでいる。この手法によれば高速な接続確立が実現できる。その理由の一つはスキャン範囲を絞り込むことによって、スキャン時間が短縮されるためである。もう一つの理由は通信を開始しようとする無線通信装置の位置や時刻が変われば利用する周波数が異なるので、利用周波数の衝突を抑制できるためである。そして、制御チャネルを確立した後は、制御チャネルで必要な情報をやりとりしてデータチャネルを決定する。データチャネルは、送受信者の両方で利用可能であり、かつアプリケーションの要求を満足できる周波数が選択される。データチャネル確立後も、
送受信者は制御チャネルを通じて情報をやりとりして、制御チャネルおよびデータチャネルが利用不可能になる場合には利用する周波数を切り替えている。これにより、通信開始後の状況変化に応じて適切な制御チャネルおよびデータチャネル周波数を選択できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−200582号公報
【特許文献2】特開2010−136290号公報
【特許文献3】特開2010−136291号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】X. Jing, D. Raychaudhuri, “Spectrum Co-existence of IEEE 802.11b and 802.16a Networks using the CSCC Etiquette Protocol”, Proceedings of IEEE DySPAN 2005, Nov. 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献2,3では、制御チャネルを確立する際に位置情報と時刻情報に基づいて決定される周波数範囲をスキャン対象とするため、異なる位置または時刻に通信を開始しようとする無線通信装置は異なる周波数範囲をスキャンすることになる。したがって、制御チャネルとして利用する周波数が重複することを避けられるとしている。
【0012】
しかしながら、特許文献2,3の手法では通信を開始した無線通信装置は、比較的狭い周波数範囲内の制御チャネルを使い続ける。したがって、制御チャネルとして利用可能な周波数資源と、通信を行う無線通信装置数の関係によっては、制御チャネル用の周波数が全て利用されてしまう(飽和する)ことが考えられる。飽和状態に近づくと新しい通信を開始することが困難になり、完全に飽和した場合は新しい通信を開始できなくなってしまう。
【0013】
このような問題点を考慮し、本発明は、固定された制御チャネルが存在しないコグニティブ無線通信システムにおいて、送受信ノード間で通信に適した周波数を選択して通信を確立するとともに、制御チャネルを専有せずに周波数資源を有効に利用できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明では、以下の手段または処理によってコグニティブ無線システムにおける無線通信を行う。
【0015】
本発明の無線通信方法では、位置および時刻に応じて予め定められた初期制御チャネルを確立し、初期制御チャネルで必要な情報をやりとりして利用可能な周波数の中から動的制御チャネルを確立する。その後は、動的制御チャネルで必要な情報をやりとりしてデータチャネルを確立する。
【0016】
このように、予め定められた初期制御チャネルを利用する期間を短くし、動的制御チャネルを利用可能な周波数の中から選択することで、比較的貴重な無線資源である初期制御チャネルの専有を防止できる。また、予め定められた初期制御チャネルは、必ずしも最適なものではなく、より適切な周波数を動的制御チャネルとして選択することで効率的な無線通信が実現できる。
【0017】
より具体的には、本発明においては、コグニティブ無線システムを構成する無線通信装
置が、位置および時刻に応じて複数の初期制御チャネルのいずれを用いて通信を開始するかを規定する初期制御チャネルテーブルを有している。そして、第1の無線通信装置が、利用可能な周波数を検出するステップと、位置情報および時刻情報を取得するステップと、取得した位置情報および時刻情報に基づいて決定される初期制御チャネルを用いて第2の無線通信装置との接続を確立するステップと、確立した初期制御チャネル上で情報をやりとりして動的制御チャネルを確立するステップと、確立した動的制御チャネルで情報をやりとりしてデータチャネルを確立するステップと、を実行する。ここで、動的制御チャネルが確立した後は、初期制御チャネルを解放することが好ましい。
【0018】
本発明において、前記初期制御チャネルテーブルには、いずれの初期制御チャネルを用いて通信を開始するかがエリアごとおよび時間ごとに定められており、異なるエリアで通信を開始する無線通信装置との間で利用する初期制御チャネルが干渉しないように設計されている、ことが好ましい。
【0019】
このように設計することで、同時刻に同じエリアに位置する無線通信装置同士は、同じ初期制御チャネルを使用するとともに、他のエリアに位置する無線通信装置との間で干渉が生じない。
【0020】
さらに、前記初期制御チャネルテーブルには、エリアに応じた初期制御チャネルの割当パターンがT通り定められており、所定の切替時間経過ごとに異なる割当パターンに従っていずれの初期制御チャネルを用いて通信を開始するか決定する。ここで、前記Tは、初期制御チャネルでの通信継続時間を前記所定の切替時間で除した数である、ことが好ましい。
【0021】
初期制御チャネルでの通信継続時間が所定切替時間のT倍なので、少なくともT通りの割当パターンが存在すれば、ある無線通信装置が初期制御チャネルで通信中に、他のエリアに位置する無線通信装置による初期制御チャネルから干渉を受けないようにできる。
【0022】
本発明において、前記初期制御チャネルは、前記動的制御チャネルおよび前記データチャネルの周波数範囲よりも低い周波数とすることが好ましい。
【0023】
周波数が低いほど、確実かつ到達距離の長い通信が実現できる。
【0024】
また、本発明において、前記動的制御チャネルおよび前記データチャネルは、同一の周波数範囲から選択されることが好ましい。なお、動的制御チャネルおよびデータチャネルの周波数範囲に上限を設ける必要はない。
【0025】
動的制御チャネルおよびデータチャネルを広い周波数範囲の中から選択することによって、多くの資源を利用することができる。すなわち、動的制御チャネルあるいはデータチャネルとして利用可能な周波数が増えるため、他の利用のために周波数が専有されてしまうことを避けられる。なお、周波数範囲を広げるとスキャン対象範囲も広くなるが、初期制御チャネルを通じて情報交換することで、互いにスキャンする範囲を絞り込むこともできるため、本発明ではこれは問題とならない。
【0026】
また、本発明において、前記動的制御チャネルを確立するステップでは、第1および第2の無線通信装置が利用可能な周波数と、第1および第2の無線通信装置の間の距離に基づいて、動的制御チャネルを決定することが好ましい。
【0027】
送受信間の距離に応じた通信距離を有する周波数を動的制御チャネルとして利用することで、他の通信ペアに対する干渉を極力避けて、効率的な周波数利用が可能となる。
【0028】
また、本発明における前記動的制御チャネルを確立するステップは、前記第1および第2の無線通信装置の間で、第1および第2の無線通信装置の間の距離に応じた周波数範囲内の利用可能な周波数を通知しあう工程と、前記第1の無線通信装置が、第1および第2の無線通信装置の両方で利用可能な周波数を利用して、プローブパケットを送信する工程と、前記第2の無線通信装置が、プローブパケットを受信した周波数において確認応答を送信する工程と、前記第1の無線通信装置が、確認応答を受信できた周波数の一部を動的制御チャネルとして選択する工程と、を含むことが好ましい。
【0029】
ある周波数が互いに利用可能、すなわち周囲で他の通信に利用されていないだけでは、なだけでは実際に通信ができるかどうかは保証されない。そこで、プローブパケットを用いて実際に通信できることを確認してから、動的制御チャネルを選択することでより確実なチャネル確立ができる。
【0030】
また本発明において、通信中に前記動的制御チャネルを介して前記第1および第2の無線通信装置が利用可能な周波数を互いに通知し合い、利用している動的制御チャネルまたはデータチャネルが利用できなくなった場合または利用できなくなると予測される場合に、動的制御チャネルまたはデータチャネルとして利用する周波数を切り替えるチャネル切替ステップをさらに含む、ことが好ましい。
【0031】
通信中に電波の状況が変わった場合には、動的制御チャネルやデータチャネルを変更する必要があるが、あらかじめ動的制御チャネルを介して互いが検知した利用可能な周波数を通知しあうことで、チャネル周波数を切り替える必要が生じたときに迅速にチャネルの切り替えることができる。
【0032】
また、本発明における前記チャネル切替ステップは、前記第1および第2の無線通信装置のそれぞれが、動的制御チャネルおよびデータチャネルに適した周波数範囲で利用可能な周波数を検出する工程と、前記第1および第2の無線通信装置の間で、動的制御チャネルを介して各周波数の利用状況を通知し合う工程と、前記第1の無線通信装置が、前記第1および第2の無線通信装置の両方で利用可能な周波数を利用して、プローブパケットを送信する工程と、前記第2の無線通信装置が、プローブパケットを受信した周波数において確認応答を送信する工程と、前記第1の無線通信装置が確認応答を受信できた周波数のうちから動的制御チャネルおよびデータチャネルの切り替え先の周波数を決定する工程と、を含むことが好ましい。
【0033】
ある周波数が互いに利用可能、すなわち周囲で他の通信に利用されていないだけでは、実際に通信ができるかどうかは保証されない。そこで、プローブパケットを用いて実際に通信できることを確認してから、切替先の動的制御チャネルやデータチャネルを選択することでより確実なチャネルの切替ができる。
【0034】
また、本発明における前記チャネル切替ステップは、さらに、前記第1の無線通信装置が、確認応答を受信できた周波数を、動的制御チャネルを介して前記第2の無線通信装置に通知する工程を含み、前記第1および第2の無線通信装置のそれぞれが、共通のポリシーにしたがって確認応答が受信できた周波数のうちから動的制御チャネルおよびデータチャネルの切り替え先の周波数を決定する、ことが好ましい。
【0035】
また、本発明において、通信品質の劣化により動的制御チャネルまたはデータチャネルが利用できなくなった場合または利用できなくなると予測される場合には、より低い周波数へ切替、送受信ノード以外のノードが通信を開始することにより動的制御チャネルまたはデータチャネルが利用できなくなった場合または利用できなくなると予測される場合に
は、通信品質に適した周波数へ切り替えるというポリシーが考えられる。
【0036】
通信品質が劣化した場合、送受信ノード間の距離が離れたことが予想されるため、より到達距離の長い低い周波数に切り替えることが好ましい。一方、他のノードが利用を開始する場合には、そのような制限はないため、互いに利用可能な周波数の中から要求に適した周波数を選択すればよい。
【0037】
通信品質が劣化した場合、送受信ノード間の距離が離れたことが予想されるため、より到達距離の長い低い周波数帯に切り替えることが好ましい。一方、他のノードが利用を開始する場合には、そのような制限はないため、互いに利用可能な周波数帯の中から要求に適した周波数帯を選択すればよい。
【0038】
なお、本発明は、上記処理の少なくとも一部を有するコグニティブ無線システムにおける無線通信方法、またはこの方法を実現するためのプログラムとして捉えることもできる。また、本発明は、上記処理を実行するための各手段を有する無線通信装置として捉えることもできる。上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、固定された制御チャネルが存在しないコグニティブ無線通信システムにおいて、送受信ノード間で通信に適した周波数を選択して通信を確立するとともに、初期制御チャネルを専有せずに周波数資源を有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本実施形態に係るコグニティブ無線システムにおける無線通信装置の機能ブロックを示す図である。
【図2】本実施形態における無線接続確立処理の概要を説明する図である。
【図3】初期制御チャネル、動的制御チャネル、データチャネルの周波数範囲を説明する図である。
【図4】初期制御チャネルテーブルの例を示す図である。
【図5】初期制御チャネル確立時の処理の流れを示す図である。
【図6】動的制御チャネル確立時の処理の流れを示す図である。
【図7】データチャネル確立時の処理の流れを示す図である。
【図8】周波数リストを説明する図である。
【図9】通信中に行う動的なチャネル切替のための処理を示す図である。
【図10】動的なチャネル切替の際の、切替方針を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0042】
本実施形態にかかるコグニティブ無線通信システムは、複数の無線通信装置から構成される。無線通信装置は車両に搭載されており、車車間通信無線ネットワークを構成する。これらの端末間での通信は周囲の電波状況を検出して利用する周波数(周波数チャネル)を動的に切り替えつつ行われる。本無線通信システムは、無線通信装置がアクセスポイント等のインフラの介在無しに相互に接続するアドホックネットワークである。したがって、通信に利用する周波数帯を割り当てる制御装置は存在しない。
【0043】
〈構成概要〉
図1は、本実施形態にかかるコグニティブ無線通信システムを構成する、無線通信装置の機能構成を示す概略図である。無線通信装置1は、アンテナ2、高周波部3、AD変換
部4、デジタル信号処理部5およびGPS装置6を備える。高周波部3は、無線信号を受信してデジタル信号処理が行いやすい周波数帯に変換したり、送信信号を実際に送信する周波数に変換したりする。AD変換部4は、受信したアナログ信号をデジタル信号に変換し、送信するデジタル信号をアナログ信号に変換する。なお、無線通信装置1は、アンテナ2から受信した広帯域の信号(例えば、900MHz〜5GHz)を、一括してAD変換して、チャネル選択などを含めて復調処理等はデジタル信号処理部5で実現する。
【0044】
デジタル信号処理部5は、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ダイナミック・リコンフィギュラブルプロセッサなどによっ
て構成することができる。デジタル信号処理部5は、その機能部として、通信制御部51、電波状況検出部52、周波数リスト53、および初期制御チャネルテーブル54を含む。デジタル信号処理部5は、その他にも変復調等のための機能部を要するが、これらは公知であるため詳しい説明は省略する。
【0045】
通信制御部51は、接続確立処理や、データの送受信処理、チャネルの使用状況を通信相手に通知する処理、利用するチャネルを選択する処理などを行う。
【0046】
電波状況検出部52は、自ノード周囲における電波状況を検出し、各周波数が使用中であるか未使用であるか(言い換えると、自ノードが利用可能であるか否か)を判断する。具体的なセンシング技術は既知の種々の手法を採用することができる。電波状況検出部52は、検出する無線通信方式に応じて、エネルギー検出、ウェーブレット分解技法、パイロットベースのスペクトラムセンシング、固有値に基づくスペクトラムセンシング、特徴(feature)検出、マッチドフィルター(matched filter)方法などによって、周波数が
使用中であるか未使用であるかを判別する。
【0047】
周波数リスト53には、自ノードおよび通信相手ノードについての、各周波数の利用可能状況(他者の使用状況)が格納される。自ノードについての利用可能状況は電波状況検出部52の検出結果から更新できる。さらに、通信相手側の利用可能状況は、制御チャネル(初期制御チャネルおよび動的制御チャネル)を通じて取得して、更新できる。さらに、後述するようにプローブパケットを送信して、実際にその周波数を使って通信可能であることを確認できる。
【0048】
周波数リスト53には、各ノードが装備している(ハードウェアとして対応可能な)周波数について、他のノードが利用しているため利用不可能、他ノードが利用していないがプローブに対する応答がない(通信不可)、他ノードが利用しておらずプローブに対する応答がある(通信可能)、という3つの状態に分けて管理する。ただし、装備周波数の全てについて、利用状況を把握する必要は必ずしもなく、実際に使用する可能性のある周波数範囲に絞って利用状況を把握するようにしてもかまわない。
【0049】
初期制御チャネルテーブル54には、エリアごとおよび時刻ごとに、予め定められた複数の初期制御チャネルのうち、どれを用いるかが規定されている。初期制御チャネルは複数有り、それぞれの周波数は予め定められている。各エリアの大きさは、2つのノードが同一エリア内に位置すればどの初期制御チャネルを使っても互いに通信できるように定められている。詳しくは後述するが、初期制御チャネルを用いて通信している間は、他のエリアで通信を開始したノード、あるいは同一エリアではあるが異なる時刻に通信を開始したノードとの間で干渉が生じないように、初期制御チャネルの割当が設計されている。
【0050】
GPS装置6は、GPS衛星からの信号を受信して、位置情報および時刻情報を取得する。位置情報および時刻情報の取得は、単にGPS衛星信号だけに頼るのだけではなく、ジャイロや加速度センサ、地図(道路)情報、基地局からの信号など種々の補助手段を用
いても良い。また、本実施形態ではGPS装置6が位置情報取得手段と時刻情報取得手段を兼ねているが、時刻情報はGPS装置6以外の別の手段によって取得してもかまわない。
【0051】
以下の説明では、無線通信を開始するノードを送信ノード(本発明における第1の無線通信装置に相当)、送信ノードからの要求に応じて通信を行うノードを受信ノード(本発明における第2の無線通信装置に相当)と称する。送信ノードおよび受信ノードのいずれも、上記で説明した機能構成を有する。
【0052】
〈処理概要〉
以下、本実施形態に係る無線通信方法の概要について説明する。本手法の特徴の一つは、制御チャネルとして、初期制御チャネル(ICC:Initial Control Channel)と動的
制御チャネル(DCC:Dynamic Control Channel)の2つを利用する点である。初期制
御チャネルは、予め定められた周波数であり、通信の開始時のみに用いられる。動的制御チャネルは、利用可能な周波数の中から適宜選択されるものである。本システムでは、まず初期制御チャネルで通信を確立すると、初期制御チャネル上で必要な情報を交換して動的制御チャネルを確立する。動的制御チャネル確立後は、初期制御チャネルを解放する。また、データチャネルは、動的制御チャネルを介して必要な情報をやりとりして確立される。
【0053】
このように、予め定められた周波数を有する初期制御チャネルの利用時間を短くすることで、無線通信装置が増加した場合であっても初期制御チャネルが飽和してしまうことが避けられ、通信開始の成功確率が向上する。
【0054】
また、初期制御チャネルで情報を交換して、その情報に基づいて動的制御チャネルの周波数を決定するので、例えば、送受信間の距離に応じた適切な通信範囲を有する周波数を動的制御チャネルとして選択できる。これにより、無駄な干渉を抑制でき、無線周波数の利用効率を向上させることもできる。
【0055】
また、動的制御チャネルおよびデータチャネルを決定した後に、周波数利用状況が変化する可能性もある。そこで、動的制御チャネルを用いて定期的に情報交換を行い、その結果に基づいて動的制御チャネルおよびデータチャネルを切り替える。このように定期的に情報交換を行っているので、チャネルを切り替える際に迅速な切替が可能となる。
【0056】
次に、図2を参照して、本実施形態に係る無線通信の概要を説明する。まず、通信を開始しようとするエリアと時刻に応じた初期制御チャネルを確立する(ステップS1)。なお、各ノードは周波数リスト53を適宜作成している。すなわち、各ノードが装備している(ハードウェアとして対応可能な)周波数の利用状況が検出されて、周波数リスト53に利用状況が格納される。
【0057】
次に、初期制御チャネルを介して必要な情報をやりとりして、動的制御チャネルを確立する(ステップS2)。送受信ノードの間で位置情報と利用可能な周波数に関する情報が交換され、利用可能な周波数のうちから、送受信ノード間距離に応じた周波数が動的制御チャネルとして選択される。動的制御チャネル決定後は、初期制御チャネルを解放する。また、動的制御チャネル決定後は、このチャネルを用いて周波数の利用状況を定期的に交換する。
【0058】
次に、送受信ノード間で交換する周波数リストを元に、利用可能、かつ、アプリケーション要求を満たす周波数をデータチャネルとして決定する(ステップS3)。
【0059】
動的制御チャネルおよびデータチャネルの決定後も周辺の電波状況が変化するため、定期的に周波数リストを交換して、動的なチャネル切替を行う(ステップS4)。
【0060】
〈処理詳細〉
以下では、本実施形態に係る無線通信方法の詳細について説明する。
【0061】
[初期制御チャネルテーブル]
図3に示すように、初期制御チャネルは、動的制御チャネルやデータチャネルと比較すると、より低い周波数を有する。これは、初期制御チャネルは通信開始の際に用いられるため、できるだけ確実に通信できかつ到達距離が長いことが好ましいためである。
【0062】
図4は、初期制御チャネルテーブルの概要を示す図である。図4は、初期制御チャネルが16個(0〜F)用意されている場合の例である。ここでは、チャネル0の周波数が最も低く、チャネルFの周波数が最も高い。従って、チャネル0の到達距離が最も長く、チャネルFの到達距離が最も短い。
【0063】
図4中における数字が付されて正方形は1つのエリアを表す。同一エリア内に位置するノード同士で通信を行う。エリアの大きさはアプリケーションの要求によっても変わるが、例えば半径約10m〜約1000m程度とすることができる。車両安全システムに関する車車間通信システムでは、例えば、エリアの大きさとして半径約100mを採用できる。このようにアプリケーションの要求を満たすためには、初期制御チャネルの到達距離が一つのエリアをカバーできるだけ十分な距離を有することが必要である。したがって、複数の初期制御チャネルが割り当てられている場合であっても、アプリケーションの要求によっては全ての周波数を用いずに、必要な到達距離を有する所定の周波数以下の初期制御チャネルのみを用いるようにしても良い。
【0064】
ここでは、図4A、4Bに示す2つのテーブルのうち、所定の切替時間(以下、単位時間という)ごとにどちらのテーブルを利用するかが決定される。単位時間で計測したときに、奇数時刻では図4Aのテーブルを用いて、偶数時刻では図4Bを用いる。なお、初期制御チャネルを利用する通信継続時間が2単位時間以内である場合を例にしている。したがって、通信継続時間が3単位時間以上である場合には、それに応じた数のテーブルを用意することが好ましい。
【0065】
ここで、任意の時刻において、同一周波数が指定されるエリア間の距離は、互いに干渉を生じないような間隔がとられる。例えば、チャネル0は奇数時刻(図4A)においてエリア41とエリア42で利用されており、このエリア間の距離43がチャネル0の到達距離以下となるように設計される。
【0066】
また、異なる時刻に通信を開始するノード間でも干渉が生じないようにする必要がある。そのため、奇数時刻と偶数時刻において同一の周波数が指定されるエリア間の距離も、互いに干渉を生じないような間隔がとられる。例えば、奇数時刻においてチャネル0が利用されるエリア42と、偶数時刻においてチャネル0が指定されるエリア44との間の距離45が、チャネル0の到達距離以下となるように設計される。
【0067】
なお、図4の例では、全てのチャネルにおいて、同一時刻内での同一周波数を利用するエリアの距離、および異なる時刻で同一周波数を利用するエリアの距離は、全て等しくなるように設計されている。チャネル0の到達距離が最も長いことから、チャネル0で干渉が生じないように設計されていれば、他のどのチャネルでも干渉が生じない。
【0068】
ここでは、初期制御チャネルが16個存在し、初期制御チャネルでの通信継続時間が2
単位時間である場合を例にして説明したが、初期制御チャネルの割当はより一般的に以下のようにすることが好ましい。まず、初期制御チャネルでの通信継続時間がT単位時間である場合には、T通りの割当パターンを用意して、単位時間が経過するごとに異なる割当パターンに従って制御チャネルを決定することが好ましい。言い換えると、(現在時刻 mod T)に対応する割当パターンに従って初期制御チャネルを決定することが好ましい。そして、T通りの割当パターンの全てを通して、同一チャネルが利用されるエリア間の距離が、そのチャネルの到達距離よりも長くなるように初期制御チャネルが割り当てられていることが好ましい。このようにすれば、あるノードが初期制御チャネルで通信中に、他のエリアに位置するノードによる初期制御チャネルからの干渉を受けないようにできる。
【0069】
なお、割当パターン数を少なくする場合(切替時間を長くする場合)には、一つのパターンを使用する時間が長くなるため、同一エリア内で通信を開始するノードが2以上現れる可能性が増え、干渉発生の可能性が高まる。一方、割当パターン数を多くする場合(切替時間を短くする場合)には、干渉が発生しないような多くのパターンを設計することが困難になり得る。
【0070】
初期制御チャネルの具体的な例として、初期制御チャネル数が16個で割当パターン2通り場合(図4A,4B)を説明したが、上記の条件を満たす図4以外の割当パターンを設計することは当業者であれば容易であろう。また、初期制御チャネル数や割当パターン数が異なる場合であっても、上記の条件を満たす割当パターンを設計することは、当業者であれば容易であろう。
【0071】
[初期制御チャネル確立処理]
次に、初期制御チャネルの確立処理(図2のステップS1)を、図5を参照して説明する。なお、以下の処理は通信制御部51が行うものであり、通信制御部51が本発明における初期制御チャネル確立手段に相当する。
【0072】
まず、通信を開始しようとする無線通信装置(送信ノード)は、GPS装置6から位置情報と時刻情報を取得する(ステップS11)。次に、通信制御部51は、取得した位置情報と時刻情報に対応する初期制御チャネルを、初期制御チャネルテーブル54から抽出する(ステップS12)。通信制御部51は、このようにして決定された初期制御チャネル上で、接続要求を送信する(ステップS13)。この接続要求を受信した無線通信装置(受信ノード)は、接続応答を送信し(ステップS14)、初期制御チャネルの確立が完了する。これ以降は、初期制御チャネル上で通信を開始して(ステップS15)、動的制御チャネルの確立処理を行う。
【0073】
初期制御チャネルは、位置と時刻とだけから求まるため、スキャン等を行わずに迅速に接続が行える。
【0074】
[動的制御チャネル確立処理]
動的制御チャネル確立処理(図2のステップS2)の詳細な処理について、図6を参照して説明する。なお、以下の処理は通信制御部51が電波状況検出部52等を制御して行うものであり、通信制御部51が本発明における動的制御チャネル確立手段に相当する。
【0075】
まず、送受信ノードのそれぞれが、電波状況検出部52によって自ノード周辺の電波状況をスキャンする(ステップS21,S22)。なお、電波状況のスキャンは、初期制御チャネル確立後に行う必要はなく、送受信ノードのそれぞれが適宜行うようにしても良い。あるいは逆に、初期制御チャネル確立後に送受信ノード間で位置情報などをやりとりして、得られる情報に基づいて決定される周波数範囲のみを対象として電波状況を検出する
ようにしても良い。
【0076】
次に、送受信ノードのそれぞれが、GPS装置6から得られる位置情報と、利用可能な周波数とを、初期制御チャネルを通じて互いに通知しあう(ステップS23,S24)。これにより、送受信ノードは、互いの距離と、それぞれが利用可能な周波数とを把握することができる。なお、ここでの処理はまず位置情報のみを先に通知し、その後に送受信ノード間の距離に応じて適切な周波数範囲内の利用可能周波数を通知するようにしても良い。
【0077】
次に、送信ノードは、互いに利用可能であり、かつ以下で説明する要件を満たす周波数を動的制御チャネルの候補として選択し、プローブパケットを送信する(ステップS25)。動的制御チャネルは安定していることが望まれるため低い周波数の方が好ましいが、不要な干渉を避けるためには、動的制御チャネルの電波到達距離は必要以上に長くない方がよい。そこで、送受信ノード間距離に所定のマージンを加えた値以上の到達距離を有する周波数のうちから、できるだけ高い周波数のものを動的制御チャネルとして選択する。
【0078】
プローブパケットを送信するのは、送受信ノードの両方で利用可能な周波数であるからといって、必ずしも通信に利用できるとは限らないためである。なお、プローブパケットは1つの周波数のみで送っても良いが、動的制御チャネルとしてふさわしい複数の周波数でプローブパケットを送信することも好ましい。
【0079】
プローブパケットを受信ノードが受信したら(ステップS26)、それに応答してACK(確認応答)を送信ノードに送信する(ステップS27)。複数のプローブパケットを受信した場合には、それぞれの周波数でACKを送信することが好ましい。
【0080】
送信ノードがACKを受け取った場合は、その周波数を用いて送受信ノード間で通信できることが分かる。したがって、ACKを受信できた周波数の中から、動的制御チャネルを選択する(ステップS28)。複数の周波数でACKを受信できた場合には、任意の一つを選択すれば良く、例えば、最も高い周波数を動的制御チャネルとして選択することが考えられる。なお、送信ノードがプローブパケットを送信した周波数のいずれにおいてもACKを受信できない場合には、ステップS25に戻って異なる周波数でプローブパケットを送信すればよい。
【0081】
以上の処理の結果、送受信ノード間に動的制御チャネルが確立され、通信を開始できる(ステップS29)。動的制御チャネルでは、データチャネル確立のために必要な情報がやりとりされる。具体的には、送受信ノードそれぞれにおける周波数の利用状況や、位置情報などが動的制御チャネルを通じて送信される。なお、動的制御チャネル確立後は、初期制御チャネルは解放する。このように初期制御チャネルを専有する時間は動的制御チャネルを確立する間だけであるので、通信中の送受信ノードペアの数が初期制御チャネル数に比較して多くなった場合であっても、初期制御チャネルが飽和することなく新たな通信の開始を開始することができる。
【0082】
[データチャネル確立処理]
次に、データチャネル確立処理(図2のステップS3)の詳細な処理について、図7を参照して説明する。なお、以下の処理は通信制御部51が電波状況検出部52等を制御して行うものであり、通信制御部51が本発明におけるデータチャネル決定手段に相当する。
【0083】
動的制御チャネルが決定すると、そのチャネルを用いて周波数情報の交換を行う(ステップS31)。ここで交換する周波数情報には、端末の装備周波数、プライマリーユーザ
ーや他のユーザーの通信により利用できない周波数、要求品質に適した周波数のリストが含まれる。なお、周波数情報は、受信ノードから送信ノードへ通知すれば十分であり、必ずしも送受信ノード間で情報を共有しなくても構わない。また、一時的に利用できない周波数についても、このタイミングでは必ずしも送信しなくても構わない。
【0084】
周波数情報の交換が完了すると、データチャネルを決定するために周波数範囲を狭めて調整を行う。広い周波数帯の中から実際に調整を行う範囲を、装備周波数と、アプリケーションの要求品質に適した周波数範囲、の2つの指標によって絞り込む。このうち、「アプリケーションの要求品質に適した周波数帯」は、通信を行うアプリケーションによって異なる場合がある。このような指標により、データチャネル決定のために行うスキャン範囲が定められる。送受信ノードは、それぞれ、この範囲内で自ノードが利用可能な周波数の検出を行う(ステップS32,S33)。
【0085】
次に、送信ノードは、スキャン範囲のうち自ノードが利用可能な周波数を利用してプローブパケットを送信する(ステップS34)。なお、ここで、自ノードが利用可能であると検出された周波数の全てを利用してプローブパケットを送信しても構わないが、周波数が高くなるほど到達距離は短くなるためプローブパケットは届きにくくなる。そこで、動的制御チャネルから得られる通信相手の位置情報とGPS装置6から得られる自ノードの位置情報から求まる送受信間距離と、各周波数の到達距離と比較して、確実にプローブパケットが届く範囲の周波数のみを利用してプローブパケットを送信する。これにより、データチャネルの決定処理の効率化する。
【0086】
一方、受信ノードは、スキャンの結果自ノードが利用可能な周波数で自ノード宛のパケットを受信し(ステップS35)、プローブパケットを受信した周波数のそれぞれでACKを送信する(ステップS36)。
【0087】
以上の処理の結果、送信ノード側でACKを受信できた周波数帯が、送受信ノード間の通信に実際に利用できることが判明する。プローブパケットの受信状況から、周波数リスト53の「状態」の項目を更新していく。ここでは、図8に示すように各周波数の利用状況を「1」「0」「−1」の3つに分類する。3つの状態をそれぞれ以下の意味を表す。
1:プローブパケットに対するACKを受信できる=いつでも通信に利用可能
0:ACKが返ってこない=通信可能な範囲ではない、もしくは受信側の周辺でプライマリーユーザー(一次利用者)や他のユーザーが使用している(今後使えるようになる可能性がある)
−1:送信側の周辺でプライマリーユーザーや他のユーザーが使用している=通信には利用できない
【0088】
送信ノードはACKを受信できた周波数からデータチャネルに利用する周波数を決定する。(ステップS37)。なお、一般には、データ通信に利用可能な周波数が複数存在することが考えられる。このような場合は、要求品質と周辺状況に応じてデータチャネル数を決定する。たとえば、他の端末が周囲に存在しない場合は、利用可能な全ての周波数をデータチャネルに使用してもよい。また、複数の端末が周囲に存在する場合には、利用可能は周波数のうちの一部の周波数をデータチャネルとして利用してもよい。このとき、実際にはスペクトラム共有を意識したデータチャネル数の決定が必要となるが、本実施形態においては単純に1つの周波数のみをデータチャネルとして利用する。図8の例では、通信に利用可能な周波数f3、f5、f6のうち最も高い周波数f6をデータチャネルとして決定している。
【0089】
[動的なチャネル切替処理]
以上の処理により、動的制御チャネルとデータチャネルが状況に応じて適切に決定され
て送受信ノード間で効率的な通信が可能となる。しかしながら、端末の移動に伴い、送受信ノードそれぞれの周辺状況は頻繁に変化する。したがって、送受信ノード間で通信を行っている最中も、周辺状況に応じて一度決定した動的制御チャネル・データチャネルを動的に切り替える必要がある。
【0090】
以下、動的なチャネル切替処理(図2のステップS4)について、図9,10を参照して説明する。なお、以下の処理は通信制御部51が電波状況検出部52等を制御して行うものであり、通信制御部51が本発明におけるチャネル切替手段に相当する。
【0091】
動的制御チャネル・データチャネル決定後も、送受信ノードはそれぞれ自ノード周辺の電波状況の検出を定期的に実行する(ステップS41,42)。なお、この時のスキャン範囲は、動的制御チャネル用の周波数帯と、データチャネル用の周波数帯のそれぞれを含む。各チャネル用のスキャン範囲の決定方法は、接続確立時処理の説明の中で説明したのでここでは省略する。
【0092】
スキャン結果に基づいて、送信ノードは自ノードが利用可能な周波数でプローブパケットを送信し(ステップS43)、受信ノードはプローブパケットを受信した周波数でACKを返信する(ステップS44,45)。なお、プローブパケットを送信する際には、受信ノードが利用不可能であると判明している周波数(周波数リストの状態が「−1」の周波数)ではプローブパケットを送信しないことで、処理の効率化が図れる。一方、受信ノードが利用可能である周波数であれば、状態が「1」であっても「0」であってもプローブパケットを送信する。
【0093】
そして、送信ノードはプローブパケットに対するACKの受信状況から、周波数リスト53を更新し(ステップS46)、現在の動的制御チャネルを利用して、更新した周波数リスト53を受信ノードへ通知する(ステップS47)。
【0094】
次に、周波数状況が変化して、動的制御チャネルまたはデータチャネルを切り替える必要があるか判断する(ステップS48)。周波数状況が変化していない場合(S48−NO)は、電波状況のスキャン処理に戻る。周波数状況が変化して動的制御チャネルやデータチャネルを切り替える必要がある場合(S48−YES)には、新たな周波数を利用した通信を行う(ステップS49)。
【0095】
なお、迅速にチャネルを切り替えることができるように、定期的にその時点での通信状況に基づいて、切り替え先の周波数をあらかじめ決定しておく。たとえば、ステップS49の周波数リストを受信ノードに通知する際に、切り替え先の周波数の候補を受信ノードに明示的に示しても良い。また、周波数リストに基づいて、送受信ノード間で共通したポリシーに基づいて切り替え先の周波数を決定しても良い(なおこの場合も、周波数リストが受信ノードに通知された時点で、切り替え先の周波数があらかじめ決定されたとみなすことができる)。
【0096】
切り替え先の周波数は、このように定期的に交換する周波数リスト53の情報をもとに、送受信ノード間で最も適したチャネルへ切り替える。ここで、動的制御チャネルを介して送受信間での情報の共有を行い、データチャネルの管理も行うため、制御チャネルの切断は極力避ける必要がある。そのため、通信が切れる前に品質の劣化を検知して利用する周波数を切り替えることが好ましい。また、事前に切り替え先の周波数を複数決定しておき、チャネル切替を確実に行うことも好ましい。データチャネルの場合も、動的制御チャネルと同様の手法によって適切なチャネルへ切り替えるが、チャネル変更の通知は動的制御チャネルを用いて行う。
【0097】
次に、具体的な周波数の切替方針について説明する。まず、プライマリーユーザーや他の通信を検知した場合は、通信品質が劣化したわけではないので、周波数の高い・低いに関係なく、通信品質に適した方へ切り替えればよい(図10A)。一方、通信品質が劣化した場合は、使用しているチャネルの到達距離が送受信間の距離より短くなったと考えられるため、到達距離のより長い、より低い周波数へ切り替える(図10B)。
【0098】
なお、通信品質の劣化は、フレーム再送回数情報などから検知できる。また、通信品質の劣化の検知は、GPS装置から取得した位置情報を元に送受信ノード間の距離を求め、各周波数の到達距離と比較することで、到達距離を超える移動を検知し、チャネル切替のタイミングを事前に予測することも可能である。
【0099】
〈本実施形態の作用・効果〉
本実施形態におけるコグニティブ無線システムによれば、通信開始時は位置と時刻だけから初期制御チャネルを決定することができ、スキャンなどの処理を行わずにすむので迅速に通信を開始できる。このように、利用可能であることが保証されている初期制御チャネルは貴重な資源である。本実施形態では、初期制御チャネルは動的制御チャネルを確立するためだけに用いられるので、貴重な初期制御チャネルを利用する時間が短くてすむ。つまり、通信を行うノードペアが増えた場合であっても初期制御チャネルの飽和が発生しない。したがって、初期制御チャネル数に比較して送受信ノードペアが増えた場合であっても、新たに通信を開始しようとするノードは初期制御チャネルが利用可能である。
【0100】
また、初期制御チャネルを通じて種々の情報をやりとりしてから動的制御チャネルを決定しているので、状況に応じて適切な周波数を動的制御チャネルとして利用することができる。車車間通信システムでは、車両は道路上を走行するという特性から、ある車両との距離が近い車両の数は限定される。ノード間距離が異なる場合には、異なる動的制御チャネルが利用されるため送受信ノードペア間の通信に対する干渉や衝突は発生しない。また、ノード間距離が近いペアの間では、高周波数を動的制御チャネルとして利用するため、他のエリアにおいては同一の周波数を利用可能であり、高周波数の空間的利用効率が向上する。
【符号の説明】
【0101】
1 無線通信装置
5 デジタル信号処理部
6 GPS装置
51 通信制御部
52 電波状況検出部
53 周波数リスト
54 初期制御チャネルテーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置および時刻に応じて複数の初期制御チャネルのいずれを用いて通信を開始するかを規定する初期制御チャネルテーブルを有する第1の無線通信装置が、
利用可能な周波数を検出するステップと、
位置情報および時刻情報を取得するステップと、
取得した位置情報および時刻情報に基づいて決定される初期制御チャネルを用いて第2の無線通信装置との接続を確立するステップと、
確立した初期制御チャネル上で情報をやりとりして動的制御チャネルを確立するステップと、
確立した動的制御チャネルで情報をやりとりしてデータチャネルを確立するステップと、
を実行するコグニティブ無線システムにおける無線通信方法。
【請求項2】
動的制御チャネルを確立した後は、初期制御チャネルを解放する、
請求項1に記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信方法。
【請求項3】
前記初期制御チャネルテーブルには、いずれの初期制御チャネルを用いて通信を開始するかがエリアごとおよび時間ごとに定められており、異なるエリアで通信を開始する無線通信装置との間で利用する初期制御チャネルが干渉しないように設計されている、
請求項1または2に記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信方法。
【請求項4】
前記初期制御チャネルテーブルには、エリアに応じた初期制御チャネルの割当パターンがT通り定められており、所定の切替時間が経過するごとに異なる割当パターンに従っていずれの初期制御チャネルを用いて通信を開始するか決定し、
前記Tは、初期制御チャネルでの通信継続時間を前記所定の切替時間で除した数である、
請求項3に記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信方法。
【請求項5】
前記初期制御チャネルは、前記動的制御チャネルおよび前記データチャネルの周波数範囲よりも低い周波数である、
請求項1〜4のいずれかに記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信方法。
【請求項6】
前記動的制御チャネルおよび前記データチャネルは、同一の周波数範囲から選択される、
請求項1〜5のいずれかに記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信方法。
【請求項7】
前記動的制御チャネルを確立するステップでは、第1および第2の無線通信装置が利用可能な周波数と、第1および第2の無線通信装置の間の距離に基づいて、動的制御チャネルを決定する、
請求項1〜6のいずれかに記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信方法。
【請求項8】
前記動的制御チャネルを確立するステップは、
前記第1および第2の無線通信装置の間で、第1および第2の無線通信装置の間の距離に応じた周波数範囲内の利用可能な周波数を通知しあう工程と、
前記第1の無線通信装置が、第1および第2の無線通信装置の両方で利用可能な周波数を利用して、プローブパケットを送信する工程と、
前記第2の無線通信装置が、プローブパケットを受信した周波数において確認応答を送信する工程と、
前記第1の無線通信装置が、確認応答を受信できた周波数の少なくとも一部を動的制御
チャネルとして選択する工程と、
を含む、請求項7に記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信方法。
【請求項9】
通信中に前記動的制御チャネルを介して前記第1および第2の無線通信装置が利用可能な周波数を互いに通知し合い、利用している動的制御チャネルまたはデータチャネルが利用できなくなった場合または利用できなくなると予測される場合に、動的制御チャネルまたはデータチャネルとして利用する周波数を切り替えるチャネル切替ステップをさらに含む、
請求項1〜8のいずれかに記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信方法。
【請求項10】
前記チャネル切替ステップは、
前記第1および第2の無線通信装置のそれぞれが、動的制御チャネルおよびデータチャネルに適した周波数範囲で利用可能な周波数を検出する工程と、
前記第1および第2の無線通信装置の間で、動的制御チャネルを介して各周波数の利用状況を通知し合う工程と、
前記第1の無線通信装置が、前記第1および第2の無線通信装置の両方で利用可能な周波数を利用して、プローブパケットを送信する工程と、
前記第2の無線通信装置が、プローブパケットを受信した周波数において確認応答を送信する工程と、
前記第1の無線通信装置が確認応答を受信できた周波数のうちから動的制御チャネルおよびデータチャネルの切り替え先の周波数を決定する工程と、
を含む、請求項9に記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信方法。
【請求項11】
前記チャネル切替ステップは、さらに、
前記第1の無線通信装置が、確認応答を受信できた周波数を、動的制御チャネルを介して前記第2の無線通信装置に通知する工程を含み、
前記第1および第2の無線通信装置のそれぞれが、共通のポリシーにしたがって確認応答が受信できた周波数のうちから動的制御チャネルおよびデータチャネルの切り替え先の周波数を決定する、
請求項10に記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信方法。
【請求項12】
前記チャネル切替ステップでは、
通信品質の劣化により動的制御チャネルまたはデータチャネルが利用できなくなった場合または利用できなくなると予測される場合には、より低い周波数を切り替え先の周波数として決定し、
一次利用者が通信を開始することにより動的制御チャネルまたはデータチャネルが利用できなくなった場合または利用できなくなると予測される場合には、通信品質に適した周波数を切り替え先の周波数として決定する、
請求項10または11に記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信方法。
【請求項13】
位置および時刻に応じて複数の初期制御チャネルのいずれを用いて通信を開始するかを規定する初期制御チャネルテーブルと、
利用可能な周波数を検出する電波状況検出手段と、
位置情報を取得する位置情報取得手段と、
時刻情報を取得する時刻情報取得手段と、
取得した位置情報および時刻情報に基づいて決定される初期制御チャネルを用いて通信相手との接続を確立する初期制御チャネル確立手段と、
確立した初期制御チャネル上で情報をやりとりして動的制御チャネルを確立する動的制御チャネル確立手段と、
確立した動的制御チャネルで情報をやりとりしてデータチャネルをデータチャネル確立
手段と、
を備えるコグニティブ無線システムにおける無線通信装置。
【請求項14】
動的制御チャネルを確立した後は、初期制御チャネルを解放する、
請求項13に記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信装置。
【請求項15】
前記初期制御チャネルテーブルには、いずれの初期制御チャネルを用いて通信を開始するかがエリアごとおよび時間ごとに定められており、異なるエリアで通信を開始する無線通信装置との間で利用する初期制御チャネルが干渉しないように設計されている、
請求項13または14に記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信装置。
【請求項16】
前記初期制御チャネルテーブルには、エリアに応じた初期制御チャネルの割当パターンがT通り定められており、所定の切替時間が経過するごとに異なる割当パターンに従っていずれの初期制御チャネルを用いて通信を開始するか決定し、
前記Tは、初期制御チャネルでの通信継続時間を前記所定の切替時間で除した数である、
請求項15に記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信装置。
【請求項17】
前記初期制御チャネルは、前記動的制御チャネルおよび前記データチャネルの周波数範囲よりも低い周波数である、
請求項13〜16のいずれかに記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信装置。
【請求項18】
前記動的制御チャネルおよび前記データチャネルは、同一の周波数範囲から選択される、
請求項13〜17のいずれかに記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信装置。
【請求項19】
前記動的制御チャネル確立手段は、自ノードおよび通信相手が利用可能な周波数と、自ノードおよび通信相手の間の距離に基づいて、動的制御チャネルを決定する、
請求項13〜18のいずれかに記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信装置。
【請求項20】
前記動的制御チャネル確立手段は、
自ノードおよび通信相手の間の距離に応じた周波数範囲内のうち自ノードが利用可能な周波数を通信相手に通知するとともに、当該周波数範囲内のうち通信相手が利用可能な周波数を通信相手から受信し、
自ノードおよび通信相手の両方で利用可能な周波数を利用して、プローブパケットを送信すし、
通信相手から送信される前記プローブパケットに対する確認応答を受信できた周波数の少なくとも一部を動的制御チャネルとして選択する、
請求項19に記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信装置。
【請求項21】
通信中に前記動的制御チャネルを介して、自ノードが利用可能な周波数を通信相手に通知するとともに、通信相手が利用可能な周波数を通信相手から受信し、利用している動的制御チャネルまたはデータチャネルが利用できなくなった場合または利用できなくなると予測される場合に、動的制御チャネルまたはデータチャネルとして利用する周波数を切り替えるチャネル切替手段をさらに備える、
請求項13〜20のいずれかに記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信装置。
【請求項22】
前記チャネル切替手段は、
動的制御チャネルおよびデータチャネルに適した周波数範囲で利用可能な周波数を検出し、
動的制御チャネルを介して、各周波数の利用状況を通信相手に通知するとともに、通信相手側の各周波数の利用状況を通信相手から受信し、
自ノードおよび通信相手の両方で利用可能な周波数を利用して、プローブパケットを送信し、
通信相手から送信される前記プローブパケットに対する確認応答を受信できた周波数のうちから動的制御チャネルおよびデータチャネルの切り替え先の周波数を決定する、
請求項21に記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信装置。
【請求項23】
前記チャネル切替手段は、さらに、
確認応答を受信できた周波数を、動的制御チャネルを介して通信相手に通知し、
通信相手と共通のポリシーにしたがって確認応答が受信できた周波数のうちから動的制御チャネルおよびデータチャネルの切り替え先の周波数を決定する、
請求項22に記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信装置。
【請求項24】
前記チャネル切替手段は、
通信品質の劣化により動的制御チャネルまたはデータチャネルが利用できなくなった場合または利用できなくなると予測される場合には、より低い周波数を切り替え先の周波数として決定し、
一次利用者が通信を開始することにより動的制御チャネルまたはデータチャネルが利用できなくなった場合または利用できなくなると予測される場合には、通信品質に適した周波数を切り替え先の周波数として決定する、
請求項22または23に記載のコグニティブ無線システムにおける無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−119768(P2012−119768A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265392(P2010−265392)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】