説明

ココア材料の発酵のための微生物組成

本発明は、このような材料の発酵の調節のための、微生物組成の使用に関する、詳細には、少なくとも3つのラクトバチルス属およびイースト種を含む微生物の特定の組み合わせを含む組成を用いたもの。本発明は、本明細書中に定義されるような微生物組成を用いることにより豆および/またはパルプなどのココア材料の発酵を調節するための方法と、その結果得られた発酵したココア材料とにさらに関する。本発明はまた、ココア生成物の調製のための得られた発酵したココア材料およびそこに由来するチョコレートを含む生成物の使用にも関する。本発明は、本明細書中に定義されるような微生物組成によって発酵されたココア豆の下流処理の方法と、その結果得られた下流生成物とにさらに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ココア豆および/またはココアパルプなどのココア材料の発酵の分野に関する。本発明は、このような材料の発酵の調節のための微生物組成の使用、詳細には、少なくとも3つのラクトバチルス属を含む微生物の特定の組み合わせを含む組成の使用、に関する。本発明は、豆および/またはパルプなどのココア材料の発酵を調節する方法と、その結果得られた発酵したココア材料とにさらに関する。本発明はまた、ココア生成物の調製のための得られた発酵したココア材料およびそこに由来する、チョコレートを含む生成物の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
ココア豆は、チョコレート製造の主な原材料である。これらの種子は、テオブロマカカオの木の果実鞘から抽出される。テオブロマカカオの木は、例えば、アイボリーコースト、ガーナおよびインドネシアなどの赤道域におけるプランテーションにおいて耕作されている。ココア豆は、鞘内の粘着性パルプ中にある。生のココア豆は渋味のあるオフフレーバーおよびフレーバーであるため、生のココア豆を発酵、乾燥およびローストすることで、所望の特徴的なココアフレーバーおよび味が得られる。チョコレートフレーバーは、ココア豆の原産地、ココア品種、農場において行われる発酵および乾燥処理、ならびにチョコレート製造業者によって行われるロースティングおよびさらなる処理による影響を受ける。
【0003】
鞘から豆を取り外した後、ココア処理における第1の工程において、例えばココアの種類がフォラステレオである場合、堆積した状態、箱、バスケットまたはトレイ中の豆およびパルプを6〜10日間自然発酵させる。このような工程において、粘着性パルプから豆が外れる。この期間の終わりには、腐敗したパルプを主に水で洗い落とし、豆を乾燥させて、その結果、商用ココア豆が得られる。
【0004】
イースト、乳酸菌(LAB)および酢酸菌(AAB)の微生物遷移は、発酵時に発生する。イーストによってパルプからペクチンを除去し、酸および炭水化物に富む環境内において嫌気性条件下で糖類およびクエン酸からエタノールを生成する。洗い落とされるパルプが多いほど、より多くのエタノールが発生し、温度およびpHがどちらとも上昇して、LABおよびAABの成長に理想的な条件となる。LABにより、糖類および有機酸が乳酸へと変化する。流入空気が多いほど、AABが成長し始め、初期にイーストによって発生したエタノールが酢酸へと酸化する。エタノールおよび酢酸は豆の中へと拡散し、その結果、この発熱生物変換によって発生した熱とあいまって、種子胚が死滅する。その後、豆の中で生化学的変化が発生して、前駆体分子が形成されて、豆の特徴的なアロマ、フレーバーおよび色が発生する。十分に発酵したココア豆を乾燥、ロースティングおよび最終処理にかけると、これらの特徴はさらに大きくなる。そのため、イースト、LABおよびAABの活性は、高品質のココアの製造に必須のものである。
【0005】
しかし、ココアの自然発酵処理は極めて不均一であり、微生物数および種組成ならびによって代謝物のいずれに応じて、大きく変動する。これらの変動は、多数の要素(例えば、国、農場、鞘成熟度、収穫後の鞘年齢および保存、鞘の病気、ココアの種類、パルプ/豆比の変動、発酵方法、バッチサイズ、季節および天候条件、回転周波数または回転無し、発酵時間などを含む)に依存しているようにみえる。そのため、発酵を再現することが特に困難になっている。このように、発酵処理は本質的に制御することが不可能であり、特に、処理時における微生物および代謝産物の発生および成長に対する制御が限られるため、最終的なココア豆の品質にばらつきがある。従来技術において、発酵パラメータを制御する試みが行われている。
【0006】
例えば、WO2007/031186において、ココア豆および/またはココアパルプからなる植物材料の発酵を調節する方法についての開示がある。この方法は、少なくとも1つの乳酸菌および/または少なくとも1つの酢酸菌を含む特定の細菌培養物を発酵プロセスにおける異なる時点において植物材料へと付加することにより、行われる。
【0007】
GB2059243には、ココア豆の発酵処理が記載される。この処理では、ペクチン分解イーストおよび酢酸菌を水性溶媒中に連続的に用い、攪拌および曝気を行う。GB2241146の記載の場合、ココア豆のパルプを機械的に除去した後、発酵させる。
【0008】
Schwan(1998、Appl Environ Microbiol64:1477−83)およびSchwan&Wheals(2004、Critical Reviews in Food Science44:205−221)において、ココア豆発酵におけるスターター培養物(特に、サッカロマイセス・セレヴィシエ変異株チェバリエリ、Lラクティス、L.プランタラム、アセトバクター・アセチおよびグルコノバクターオキシダンス亜種スボキシダンスの株からなる接種材料)の使用についての開示がある。一方、Samahら(1993、Asean Food Journal、Asean Food Handling Bureau、Kuala Lumpur、MY、vol.8、no.1、pg。22−25)において、ココア豆発酵時における接種材料としてのアセトバクター・キシリナムの使用についての開示がある。
【0009】
Bhumibhamonら(1997a、KasetsartJ.Nat.Science31:327−341)およびBhumibhamonら(1997b、Kasetsart J.Nat.Science31:419−428)双方において、ココア発酵の向上のための特定のスターター培養物の利用について記載がある。Bhumibhamonら(1997a)において記載されている好適な培養物は、例えばサッカロミセス・チェバリエリ、サッカロマイセス・セレヴィシエおよびアセトバクター・アセチを含む。
【0010】
しかし、従来技術方法の場合、発酵パラメータの制御は依然として困難なままであり、業界においては、処理後のココア豆バッチの組成の大きな変動に対応せざるをえない状態である。また、味に関連する問題も発生し得る(例えば、(多すぎる)酸味、ココア味が足りない、オフフレーバーがしすぎるなど)。よって、従来技術において、より一貫したまたは向上した特徴のココア豆を得る(例えば、フレーバーの良いココア豆を高品質かつ再現性よく得る)ための発酵処理のさらなる制御が必要とされている。また、当該分野において、ココア材料の発酵のための再現可能な方法も必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ココア材料の発酵の制御のための向上した微生物組成を提供することを意図する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の側面において、本発明は、テオブロマカカオ種の果実鞘から抽出された豆および/またはパルプから本質的になる植物材料の発酵を調節するための微生物組成の使用に関する。前記組成は、少なくとも3つのラクトバチルス属および少なくとも1つのアセトバクター属を含む。より詳細には、本発明は、微生物組成の使用に関する。前記微生物組成は、
−ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、およびアセトバクター属酢酸菌、
−ラクトバチルス・パラファラギニス、ラクトバチルス・ファラギニス、ラクトバチルス・ディオリボランス、ラクトバチルス・フェニおよびラクトバチルス・パラカゼイからなる群から選択された、少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属、および
−サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択された属のイースト種の少なくとも1つの株
を含む。
【0013】
好適な実施形態において、本発明は、本明細書中に定義されるような微生物組成の使用に関する。前記イースト種は、サッカロマイセス・セレヴィシエである。
【0014】
別の実施形態において、本発明は、本明細書中に定義されるような微生物組成の使用に関する。前記組成はスターター培養物または高密度培養物であり、植物材料1gあたり少なくとも10個のCFU(コロニー形成単位)の菌株を含む。
【0015】
別の側面において、本発明は、テオブロマカカオ種の果実鞘から抽出された豆および/またはパルプから本質的になる植物材料の発酵を調節する方法に関する。前記方法は、本明細書中に定義されるような微生物組成を前記植物材料に付加する工程を含む。
【0016】
さらに別の側面において、本発明は、本発明による方法によって得られるかまたは得ることが可能な、テオブロマカカオ種の果実鞘から抽出された豆および/またはパルプから本質的になる発酵した植物材料に関し、好適には、本発明による方法によって得られるかまたは得ることが可能な、発酵したココア豆に関する。
【0017】
別の側面において、本発明は、ココア生成物の調製のための、本発明による発酵したココア豆の使用に関する。前記ココア生成物は、ココアニブ、ココアパウダー、ココアエキス、ココアリカー、ココアマス、ココアフレーク、ココアバター、およびココアケークを含むかまたはこれらからなる群から選択される。本発明はまた、ココア生成物に関する。前記ココア生成物は、本発明による発酵したココア豆を1つ以上用いて調製された、ココアニブ、ココアパウダー、ココアエキス、ココアリカー、ココアマス、ココアバターおよびココアケークを含むかまたはこれらからなる群から選択される。
【0018】
予期せぬことに、本発明による微生物組成を用いて発酵させて豆は、光中断効果を示した。すなわち、本発酵処理の実施によって得られた発酵した豆は、従来的発酵を行ったココア豆(がより茶色ぽいのに対し)、より明るい色を示した。
【0019】
よって、好適な実施形態において、本発明は、発酵したココア豆を提供し、特に、パウダーまたはココアリカーの形態の発酵したココア豆を提供する。前記発酵したココア豆のL値は14よりも高く、例えば15よりも高く、好適には16よりも高く、例えば17よりも高く、より好適には18よりも高く、例えば極めて好適には19よりも高くまたは20よりも高く、例えばL値は14〜20、好適には16〜20、より好適には17〜20または18〜20であり、例えば、18〜19である。
【0020】
別の好適な実施形態において、本発明は、上記において定義されたようなココア生成物、特に、パウダーまたはココアリカーの形態のココア生成物をさらに提供する。前記ココア生成物のL値は14よりも高く、例えば、15よりも高く、好適には16よりも高く、例えば、17よりも高く、より好適には18よりも高く、例えば極めて好適には19よりも高くまたは20よりも高く、例えば、L値が14〜20、好適には16〜20、より好適には17〜20または18〜20、例えば、18〜19である。
【0021】
本明細書の他の箇所において説明するように、本明細書中に記載される微生物組成、方法および使用により、発酵した状態において、明るい色(例えば、L値が20よりも高い)で知られているジャワ原産豆の色に匹敵するかまたは近い色を有する、非ジャワ原産豆を得ることができる。その結果、実施形態において、前記発酵したココア豆またはココア生成物、特に、パウダーまたはココアリカーの形態のものは、上記したようなL値を有し、非ジャワ原産である。
【0022】
より詳細には、ジャワ原産豆は、テオブロマカカオ亜種カカオクローンDR2、DRC16、ICRRI01またはICRRI02から一般的に得られることが知られている。よって、実施形態において、上記したようなL値を有する前記発酵したココア豆またはココア生成物、特に、パウダーまたはココアリカーの形態のものは、テオブロマカカオ亜種カカオクローンDR2、DRC16、ICRRI01およびICRRI02ならびに任意選択的にこれらの交配種から得られたものではない(すなわち、テオブロマカカオ亜種カカオクローンDR2、DRC16、ICRRI01およびICRRI02ならびに任意選択的にこれらの交配種以外のものである)。
【0023】
よって、本明細書中開示される微生物組成、方法および使用は、上記したようなL値を有するかまたは光中断効果を示す、発酵したココア豆またはココア生成物、特に、パウダーまたはココアリカーの形態のものの生成に特に適しており、用いられる。例えば、本明細書中開示される微生物組成、方法および使用は、発酵したココア豆またはココア生成物、特に、パウダーまたはココアリカーの形態のもののL値の増加のために用いられ得る。
【0024】
より一般的には、本明細書中開示される微生物組成、方法および使用により、発酵したココア豆またはココア生成物、特に、パウダーまたはココアリカーの形態のもののL値の制御、調整または操作が可能になる。詳細には、より明色であるかまたは光中断効果のある豆を出発材料として生成することにより、広範なL値(例えば、4〜21のL値の)ココア生成物、例えば、ココアパウダー、ココアリカーまたはさらにはチョコレートが得られるように、下流処理工程(例えば、ロースティングの度合い、ロースター中の水の量など)を適合させることができる。本発明による微生物組成、方法および使用によれば、ココア豆およびココア生成物、例えば、ココアパウダー、リカーまたはチョコレートのL値の制御において、非常に高価なジャワ原産豆を含む豆ブレンドにたよる必要無く、この柔軟性が得られる。
【0025】
非ジャワ原産の豆が発酵した場合、当該非ジャワ原産の豆の色は、ジャワ原産豆の色に匹敵するかまたは近い色となり、これは本明細書中に記載の微生物スターター組成を用いることによって得られる。また、本明細書中に記載の微生物スターター組成を用いて発酵した豆に由来するココア生成物、例えば、ココアパウダーまたはリカーを用いることによって得られたチョコレートまたはチョコレート製品も、「ダーク」チョコレートに典型的な組成を持つのにかかわらず、多くの顧客が望んでいる比較的より明るい色を持ち得る。
【0026】
よって、本明細書中開示される微生物組成、方法および使用ならびにこれによって発酵したココア豆は、前記ココア豆によって構成された乾燥固体を含むチョコレートのL値の増加に特に適し、用いることができる。
【0027】
より一般的には、上述したように、本明細書中に開示される微生物組成、方法および使用により、発酵したココア豆またはココア生成物、特に、パウダーまたはココアリカーの形態のもののL値の制御、調整または操作が可能となり、これにより、前記ココア豆または生成物によって構成された乾燥固体を含むチョコレートのL値の制御、調整または操作も可能となる。
【0028】
よって、乾燥ココア固体を含む明るい色のチョコレートも提供される。詳細には、前記乾燥ココア固体は非ジャワ原産である(すなわち、非ジャワ原産のココア豆から抽出または調製される)。より詳細には、前記乾燥ココア固体は、テオブロマカカオ亜種カカオクローンDR2、DRC16、ICRRI01およびICRRI02、ならびに任意選択的にこれらの交配種由来ではない(すなわち、テオブロマカカオ亜種カカオクローンDR2、DRC16、ICRRI01およびICRRI02、ならびに任意にこれらの交配種以外のものである)。
【0029】
好適には、前記チョコレートは粉乳固体を含まない、すなわち、前記チョコレートはダークチョコレートである。また、好適には、前記チョコレートは、35%w/w以上の乾燥ココア固体を含む(すなわち、ココアバターおよび乾燥無脂肪ココア固体を含み)、例えば、40%w/w以上の、より好適には45%w/w以上の、例えば50%w/w以上の、より好適には60%w/w以上の、例えば70%w/w以上の、さらにより好適には80%w/w以上の、例えば、85%または90%または95%w/w以上の、乾燥ココア固体を含む。前記チョコレートのL値は4〜21であり得るが、好適にかつ非限定的には、前記チョコレートのL値は14よりも高くすることができ、例えば、15よりも高くすることができ、好適には16よりも高くすることができ、例えば、17よりも高くすることができ、より好適には18よりも高くすることができ、例えば極めて好適には19よりも高くすることができるかまたは20よりも高くすることができ、例えば、L値を14〜20にすることができ、好適には16〜20にすることができ、より好適には17〜20または18〜20にすることができ、例えば、18〜19にすることができる。
【0030】
前記チョコレートを含むか、前記チョコレートから本質的になるかまたは前記チョコレートからなる下流チョコレート製品も開示される。
【0031】
さらに、以下の例の部分に示すように、特に表4および表4aによって実証されるように、本明細書中に教示される微生物組成、方法および使用により、発酵したココア豆の製造が可能となる。前記発酵したココア豆は、カット試験によって実証可能な特に有利な特徴を有し、より詳細には、カット試験によって決定されるような、特定の比較的低い割合のスレートおよび/または欠陥豆ならびに/または特定の比較的高い割合の紫色の豆を有する。
【0032】
よって、本明細書中、以下のような発酵したココア豆も開示される。前記ココア豆は、
(a)3%未満のスレート豆、好適には2%未満のスレート豆、より好適には1%以下のスレート豆、例えば0〜1%のスレート豆、および/または
(b)3%未満の欠陥豆、好適には2%未満の欠陥豆、より好適には1%以下の欠陥豆、例えば0〜1%の欠陥豆、および/または
(c)11%を超える紫色の豆、例えば、12%、13%または14%を越える紫色の豆、好適には15%以上の紫色の豆、例えば、20%以上の紫色の豆、より好適には30%以上の紫色の豆、例えば、40%以上の紫色の豆、および任意に45%以下または50%以下または60%以下の紫色の豆を含む。前記紫色の豆は、完全に発酵している。詳細には、前記豆は、本明細書中他の箇所において明記されているように、非ジャワ原産豆または非ジャワクローンであり得る。
【0033】
所与の特性を有するココア豆を本明細書中において割合によって規定する場合、ココア豆についての言及は、特に複数のココア豆を意味する、例えば、ココア豆の集団、ココア豆の集合または一組のココア豆、例えば、例を非限定的に挙げると、50〜500個の豆または100〜300個の豆からなるサンプルまたは試験セットを意味することが理解される。
【0034】
詳細には、開示されるのは、発酵したココア豆であり、前記発酵したココア豆は、少なくとも上記の特徴(a)または少なくとも上記の特徴(c)によるか、あるいは、上記の特徴(a)および(b)の組み合わせ、または好適には(a)および(c)の組み合わせ、または(b)および(c)の組み合わせ、または好適には(a)および(b)および(c)の組み合わせによる。
【0035】
前記発酵したココア豆はさらに、
(d)3%未満のカビ豆、好適には2%未満のカビ豆、より好適には1%以下のカビ豆、例えば、0〜1%のカビ豆、および/または
(e)3%未満の破損豆、好適には2%未満の破損豆、より好適には1%以下の破損豆、例えば、0〜1%の破損豆、および/または
(f)3%未満の発芽豆、好適には2%未満の発芽豆、より好適には1%以下の発芽豆、例えば、0〜1%の発芽豆、
を含みうる。
【0036】
例の部分においてさらに記載するように、本発明者らは、本明細書中に教示のような様態で発酵させた豆により、豆の下流処理において多くの点で向上が可能となることを実現した。よって、本明細書中開示される微生物組成、方法および使用は、発酵したココア豆またはココア生成物の製造において、特に適し、用いられ得る。前記発酵したココア豆またはココア生成物は、前記豆または生成物の処理効率を向上させ、例えば、詳細には、微粒子化、選穀、混合、ロースティング、冷却、粉砕および/またはリカー圧搾の速度を上昇させる。
【0037】
要旨を述べると、本出願人らは、ココア材料の発酵において本明細書中に定義されるような特定のスターター培養物を用いた場合、これによって発酵速度、ならびに発酵豆および発酵豆から製造されるチョコレートの品質、外観、栄養および感覚刺激特性および/または下流処理効率に大きな効果があることを示す。例えば、本出願人らによれば、本明細書中に開示される特定のスターター培養物を用いた場合、前記発酵した豆中の一般的にはポリフェノール、詳細にはエピカテキンのレベルが維持されていたため、ココア生成物およびそこに由来するチョコレート製品におけるその劣化が回避または低減したことを示す。一般的にはポリフェノール、詳細にはエピカテキンは抗酸化物質として知られており、健康増進効果例えば、心臓の健康増進効果を有する。
【0038】
よって、本出願人らは、天然の予測不可能な発酵処理を良好に制御された処理へと調節する方法を提供する。この良好に制御された処理は、本明細書中に定義されるような微生物スターター培養物の付加によって開始され、これにより、より高速かつ向上した発酵が得られる。本微生物組成を用いることで、発酵処理の高速化が可能になるだけでなく、得られた発酵した豆およびココア生成物またはこれらに由来するチョコレート製品の品質、味および/または外観にも影響を与える。その上、より高速の発酵処理により、ココア発酵の制御をより大きなスケールで実行することが可能となることで、ココアに対する需要の増加に応えるために必要なより高い製造能力が得られるため、重要かつ有益な効果も得られる。
【0039】
本明細書中に定義されるような微生物組成を用いた豆発酵による別の特に有益な効果として、発酵した豆を比較的均一かつ再現可能な品質で得られる点がある。
【0040】
別の側面において、本発明は、本明細書中に定義されるような微生物組成によって発酵されたココア豆の下流処理方法を提供する。
【0041】
実施形態において、本発明は、発酵した豆から赤色または紫色のココア由来材料を製造する方法を提供する。前記方法は、
a)本明細書中に定義されるような微生物組成によって発酵されたココア豆を準備する工程と、
b)工程a)の前記発酵した豆からココア由来材料を調製する工程と
c)工程b)の前記ココア由来材料を酸または酸性水溶液によって処理する工程と、
を含む。
前記ココア由来材料は、ココアニブ、ココアフレーク、ココアケーク、ココアパウダー、ココアリカーおよびチョコレートを含むかまたはこれらからなる群から選択される。好適には、前記ココア由来材料は、ココアニブまたはココアリカーである。
【0042】
本発明はまた、本明細書中に定義されるような微生物組成によって発酵されたココア豆から得られた赤色または紫色のココア由来材料に関する。前記ココア由来材料は、ココアニブ、ココアフレーク、ココアケーク、ココアパウダー、ココアリカーおよびチョコレートを含むかまたはこれらからなる群から選択され、好適にはココアニブまたはココアリカーである。好適には前記赤色または紫色のココア由来材料は、本明細書中に記載のような方法を実行することにより入手されるかまたは入手可能である。
【0043】
本発明は、食品、好適には、チョコレート製品の調製のための、本発明による発酵したココア豆の使用にさらに関する。別の実施形態において、本発明は、1つ以上の本発明による発酵したココア豆および/または本発明による1つ以上のココア生成物によって調製された食品、好適には、チョコレート製品に関する。発酵したココア豆から食品、例えば、チョコレート製品への下流処理時において、前記発酵した豆に対し、下流処理工程、例えば、本出願中に定義されるようなものを行うことができることが明らかである。
【0044】
本発明の特徴をより深く示すために、本明細書中、以下、いくつかの好適な実施形態および例について、添付図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】天然発酵処理によって得られたココア豆サンプルと、本発明による微生物組成を用いて発酵させたココア豆とを比較する食味パネル実験を行った結果を示す。
【図2】i)天然発酵したココア豆から調製したチョコレート、ii)従来技術のスターター培養物の利用によって発酵されたココア豆から調製されたチョコレート、およびiii)本発明によるスターター培養物の利用によって発酵されたココア豆から調製されたチョコレートに対して食味パネル実験を行った結果を示す。
【図3】本発明による微生物組成を用いて発酵されたココア豆サンプルについて、ココアについての標準的な最低および最高の受容可能な味の範囲と比較して食味パネル実験を行った結果を示す。
【図4】本発明による微生物組成を用いて発酵されたココア豆サンプルについて得られた3つの異なるトライアルについて食味パネル実験を行った結果を示す。
【図5】天然発酵処理によって得られたココア豆と、本発明による微生物組成を用いて発酵されたココア豆とについて比較のためにポリフェノールレベルおよびエピカテキンレベルを得た結果を示す。本図において、ポリフェノールを%で示し、エピカテキンをmg/gで示す。
【図6】本発明による微生物組成を用いて発酵されたココア豆の4つの異なるトライアルについての、発酵時における温度プロファイル結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、ココア植物材料(ココア豆および/またはココアパルプを含む)の発酵を調節するための、微生物スターター培養物ならびに使用および方法に関する。
【0047】
本スターター培養物および方法により、所望の特徴の発酵したココア豆および前記発酵したココア豆の調製によって得られたココア生成物の生成の制御または操作が可能になる。例示的かつ非制限的に、本発明のスターター培養物による方法により、ココア豆の発酵インデックス(カット試験、着色)、発酵した豆の外観特性および感覚特性(例えば、感覚特性)、有機酸、糖アルコール、ポリフェノール、テオブロミン、またはロースト豆のカフェイン含有量、または感覚刺激特徴(味、フレーバー、アロマ、テクスチャー、色、レオロジー、結晶化挙動など)、栄養特性、技術的特性、ココア生成物(例えば、特にチョコレート)の品質価値(アロマ、味、フレーバー、脂肪酸組成、ポリフェノール含有量、テオブロミン含有量、カフェイン含有量など)の制御が可能になる。
【0048】
より詳細には、本発明は、ココア発酵の調節のためのスターター培養物の使用に関する。前記スターター培養物は、微生物の特定の株の組み合わせを含む。
【0049】
「微生物組成」という用語は、本明細書中に定義されるような微生物組成を指す。この微生物組成は、有機材料(詳細にはココア植物材料)に、好適にはその発酵処理開始時において付加される。
【0050】
本明細書中用いられる「株」という用語は、主に同一種の有機体の閉鎖集団を指す。よって、「乳酸菌および/または酢酸菌の株」という用語は、主に乳酸菌および/または酢酸菌のある一種の株を指す。より詳細には、「株」という用語は、微生物種の一員(例えば、異なる遺伝子型および/または表現型を有する一員)を指す。本明細書中、「遺伝子型」という用語は、微生物のゲノムおよび組み換えDNA内容物をどちらとも含む。本明細書中、「表現型」という用語は、微生物の遺伝子構成に依存する、観測可能な物理的特徴を指す。当業者であれば理解するように、このように、微生物株は、共通の遺伝子型および/または表現型を有する個々の微生物細胞によって構成される。さらに、個々の微生物細胞は、特定の特徴(例えば、特定のrep−PCRパターン)を持ち得る。このような特定の特徴により、個々の細胞が属している特定の株を特定することが可能になる。
【0051】
微生物株は、微生物の1つ以上の分離株を含み得る。本明細書中用いられる「分離株」という用語は、一次分離プレートから得られた単一コロニーから成長した培養微生物を指す。分離株は、単一の微生物から抽出されたものとする。
【0052】
本明細書中用いられる、「微生物」または「微生物の」という用語は、研究室において増殖および操作することが可能な任意の単細胞有機体を含み得る。本発明において、これらの用語は好適には、細菌および/またはイーストおよび/または菌類に関連する。本発明において、「微生物」という用語は典型的には、生きた微生物(すなわち、増殖可能でありかつ/または代謝活性を有する微生物)を指す。
【0053】
本明細書中用いられる「有機材料」という用語は、生きた有機体またはその残骸を指し、詳細には、植物材料に関連する。「植物材料」という用語は、生きているかまたは生きていた任意の植物を含み、詳細には、植物およびその任意の部分を含む。後者を非限定的に挙げると、葉、花、根、種子、茎、果実、鞘、豆、液果、穀物粒、パルプなどがある。
【0054】
本発明において、植物材料は好適には、テオブロマ属またはヘラニア属の任意の種あるいはその種間交雑および種内交雑から抽出され、より好適にはテオブロマカカオ種およびテオブロマグランディフローラム種から抽出される。本明細書中用いられるテオブロマカカオ種は、全ての変種植物を含み、特に、商業的に有用な変種植物(非限定的に例を挙げると、クリオロ、フォラステレオ、トリニタリオ、アリバ、およびこれらの雑種および交配種がある)全てを含む。テオブロマカカオの果実鞘から抽出されたココア豆は、チョコレート製造の主要原材料である。ココア豆は、鞘内の粘着性パルプの中にある。鞘を収穫した後、ココア豆(通常は周囲のパルプのうち少なくとも一部を含む)を鞘から取り外す。よって、本発明の方法において用いられる植物材料は好適には、テオブロマカカオの果実鞘から抽出されたココア豆を含み、当該果実鞘から抽出されたパルプをさらに含み得る。実施形態において、植物材料は、テオブロマカカオの果実鞘から抽出されたココア豆およびパルプから本質的になり得る。
【0055】
本明細書中用いられる「ココア」および「カカオ」という用語は、類義語として用いられる点に留意されたい。
【0056】
本明細書中用いられる、「発酵」という用語は、微生物による有機材料の酵素分解(消化)関連活性または処理全てを指す。「発酵」という用語は、嫌気性および好気性処理と、1つ以上の嫌気性段階および/または好気性段階の組み合わせまたは遷移を伴う処理との双方を含む。本発明において、発酵は好適には、上記において定義されたような植物材料の分解(消化)を含む。
【0057】
よって、本明細書中用いられる「制御された発酵」という用語は、本明細書中に定義されるような微生物組成を用いて調節される発酵処理を指すことを意図する。
【0058】
「従来の」発酵あるいは「自然」発酵または「天然」発酵という用語は、微生物組成またはスターター培養物を付加しない天然発酵処理を指すことを意図する。本明細書中用いられる「自然」発酵または「天然」発酵とは、当該発酵の開始時または当該発酵時において、発酵した有機材料中に天然に存在しかつ/または発酵した有機材料中に非意図的に入り込んだ微生物を用いた発酵である。例示的かつ非限定的に、ココア豆およびパルプの自然発酵において、鞘から豆およびパルプが放出された後に、存在する天然の微生物叢(例えば、作業者の手、器具(ナイフ、シャベル、未洗浄のバスケットなど)、先行発酵の場など)からの微生物が導入され得る。よって、上記の方法において、本明細書中に定義されるような微生物組成の付加により、通常なら自然発酵とされる発酵を調節することが可能である。ここで、前記材料中に存在する微生物を変化させ、これによりその発酵を調節(制御または調整)する。
【0059】
別の実施形態において、方法は、調節無しでは開始しない発酵の調節にも関連する。典型例において、これは、本明細書中に定義されるような微生物組成を付加する前に、有機材料から天然(固有)微生物叢を除去または抑制する際に、行われ得る。例示的かつ非限定的に、ココア発酵中に存在する天然微生物叢のうちの多くが、回収された豆を当該分野における多様な方法(例えば、GB2241146から公知のもの)を用いてパルプから除去することにより、除去可能である。
【0060】
好適な実施形態において、本発明は、テオブロマカカオから抽出された豆を含む植物材料および/またはテオブロマカカオから抽出された豆およびパルプから本質的になる植物材料を含む植物材料の発酵に関連する。上述したように、カカオ製造においては、豆(および周囲のパルプ)を鞘から取り外した後、豆およびパルプは典型的には自然発酵されることが多い。自然発酵は、得られるココアの特徴(例えば、ココアのアロマ、フレーバーおよび色)にとって重要である。よって、本発明の目的は、有機材料(好適には植物材料、さらにより好適にはテオブロマカカオから抽出された豆を含む植物材料および/またはテオブロマカカオから抽出された豆およびパルプから本質的になる植物材料(本明細書中、後者の二つの植物材料を「ココア豆およびパルプ」と総称する)の発酵を調節する方法を提供することである。
【0061】
本明細書中用いられる、有機材料の発酵に関連して「調節(する)」という用語は、発酵処理を開始しかつ/または発酵処理の特定の段階を開始すること、発酵処理を加速させることおよび/または発酵処理の特定の段階を加速させること、発酵処理の1段階から発酵処理の別の段階への遷移を開始および/または加速させること(例えば、ココア豆およびパルプの発酵処理時における、主にイースト媒介による発酵から主にLAB媒介による発酵への遷移、または主にLAB媒介による発酵から主にAAB媒介による発酵への遷移)、発酵条件の変更(例えば、温度またはpH)、発酵した材料の組成の変更(例えば、発酵した材料中に存在する特定物質の分解または生成の変更)、発酵処理において存在しかつ/または実行する微生物株の同一性および/または数量の変更、特定の微生物の成長の促進または抑制などを非限定的に含む。
【0062】
本発明によれば、発酵の上記の側面および他の側面を調節することにより、例示的かつ非限定的に、発酵速度、発酵範囲、発酵の迅速性および生産性、発酵した材料中に存在する好ましい物質および好ましくない物質双方の品質および/または数量、ならびに発酵した材料および/または発酵した材料のさらなる処理によって得られた生成物の特徴の制御または操作が可能となる。
【0063】
特定の実施形態において、本明細書中に定義されるようなココア材料の発酵のための本発明による微生物組成により、発酵の大幅な加速が可能となり、例えば、天然発酵処理の場合と比較して、発酵を1.3倍、1.5倍、1.8倍、2倍、2.5倍またはさらには3倍まで加速することが可能になる。別の実施形態において、本発明による微生物組成の使用により、本明細書中に定義されるようなココア植物材料の発酵において、1つ以上の発酵処理/段階、よって発酵生産性に大きく影響を与えることができ、また、天然発酵処理の場合と比較して、生産性を好適には少なくとも5%、好適には少なくとも10%、少なくとも15%、またはさらには少なくとも20%上昇させることが可能になる。
【0064】
特定の実施形態において、本発明において、本発明による微生物組成の培養を本明細書中に定義されるようなココア材料によって雰囲気温度において行う。雰囲気温度は例えば、20〜40℃の間であり得る。
【0065】
さらに別の特定の実施形態において、本発明によれば、本発明による微生物組成の培養を、本明細書中に定義されるようなココア材料によって4日間未満または3日間未満あるいは2日間未満または1日間未満(24時間)にわたって行う。
【0066】
別の実施形態において、本明細書中に定義されるようなココア材料の発酵のための本発明による微生物組成により、発酵したココア豆の組成を大幅に変化させることができる。
【0067】
好適な実施形態において、本明細書中に定義されるようなココア材料の発酵のための本発明による微生物組成を用いることにより、天然発酵処理から得られた豆の場合と比較して、残留ポリフェノールの量を少なくとも2倍以上(例えば3倍以上、5倍以上、7倍以上または9倍以上)にすることが可能になる。別の好適な実施形態において、本明細書中に定義されるようなココア材料の発酵のための本発明による微生物組成を用いることにより、天然発酵プロセスから得られた豆の場合と比較して、発酵したココア豆中のエピカテキン量を少なくとも1.5倍以上(例えば、2倍以上)にすることが可能になる。
【0068】
好適な実施形態において、本発明による組成を用いることにより、発酵したココア豆中の有機酸の量および組成を変化させることができる。従来の(制御されていない)発酵処理の場合と比較して、有機酸(例えば、乳酸)の量を5%(好適には少なくとも10%、少なくとも15%、またはさらには少なくとも20%)とすることができる。
【0069】
微生物組成および制御された発酵方法
一側面において、本発明は、テオブロマカカオ種の果実鞘から抽出された豆および/またはパルプから本質的になる植物材料の発酵を調節するための微生物組成の使用に関する。当該組成は、少なくとも3つのラクトバチルス属および少なくとも1つのアセトバクター属および少なくとも1つのイースト種を含む。
【0070】
別の側面において、本発明は、テオブロマカカオ種の果実鞘から抽出された豆および/またはパルプから本質的になる植物材料の発酵を調節する方法に関する。当該方法は、本明細書中に定義されるような微生物組成を植物材料に付加する工程を含む。
【0071】
ここで、本発明に従って用いられる微生物組成の実施形態について、より詳細に説明する。
【0072】
より詳細には、本発明は、微生物組成の使用に関する。当該微生物組成は、
−ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、およびアセトバクター属酢酸菌、ならびに
−ラクトバチルス・パラファラギニス、ラクトバチルス・ファラギニス、ラクトバチルス・ディオリボランス、ラクトバチルス・フェニおよびラクトバチルス・パラカゼイからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属、ならびに
−サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択される属のイースト種の少なくとも1つの株、
を含む。
【0073】
詳細には、本明細書中において意図される微生物組成は、
−ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタムおよびアセトバクター属酢酸菌、ならびに
−ラクトバチルス・パラファラギニス、ラクトバチルス・ファラギニス、ラクトバチルス・ディオリボランス、ラクトバチルス・フェニおよびラクトバチルス・パラカゼイからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属であって、好適にはラクトバチルス・パラファラギニスである、ならびに
−サッカロミセスおよびカンジダからなる群、から選択される属のイースト種の少なくとも1つの株であって、好適にはサッカロミセスであって、より好適には、当該イースト種はサッカロマイセス・セレヴィシエである、少なくとも1つの株、
を含むか、これらから本質的になるかまたはこれらからなる。
【0074】
より詳細には、本明細書中において意図される微生物組成は、
−ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・パラファラギニスおよびアセトバクター属酢酸菌、ならびに
−サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択される属のイースト種の少なくとも1つの株であって、好適にはサッカロミセスであって、より好適には、当該イースト種はサッカロマイセス・セレヴィシエである、少なくとも1つの株、
を含むか、これらから本質的になるかまたはこれらからなる。
【0075】
別の実施形態において、本発明は、微生物組成の使用に関する。当該微生物組成は、
−ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・パラファラギニス、ならびに
−ラクトバチルス・ファラギニス、ラクトバチルス・ディオリボランス、ラクトバチルス・フェニおよびラクトバチルス・パラカゼイからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属、ならびに
−サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択される属のイースト種の少なくとも1つの株、
を含む。
【0076】
実施形態において、本明細書中において意図される微生物組成は、
−ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・パラファラギニスおよびアセトバクター属酢酸菌、ならびに
−サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択される属のイースト種の少なくとも1つの株であって、好適にはサッカロミセスであって、より好適には当該イースト種はサッカロマイセス・セレヴィシエである、1つの株、ならびに
−任意選択的におよび好適には、ラクトバチルス・ファラギニス、ラクトバチルス・ディオリボランス、ラクトバチルス・フェニおよびラクトバチルス・パラカゼイからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属、
を含むか、これらから本質的になるかまたはこれらからなる。
【0077】
さらに別の実施形態において、本発明は、微生物組成の使用に関する。当該微生物組成は、
−ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・ファラギニス、ならびに
−ラクトバチルス・パラファラギニス、ラクトバチルス・ディオリボランス、ラクトバチルス・フェニおよびラクトバチルス・パラカゼイからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属、ならびに
−サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択される属のイースト種の少なくとも1つの株、
を含む。
【0078】
実施形態において、本明細書中において意図される微生物組成は、
−ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・ファラギニス、ならびに
−サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択される属のイースト種の少なくとも1つの株であって、好適にはサッカロミセス、より好適には、当該イースト種はサッカロマイセス・セレヴィシエである、少なくとも1つの株、ならびに
−任意選択的におよび好適には、ラクトバチルス・パラファラギニス、ラクトバチルス・ディオリボランス、ラクトバチルス・フェニおよびラクトバチルス・パラカゼイからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属であって、好適にはラクトバチルス・パラファラギニスである、
を含むか、これらから本質的になるかまたはこれらからなる。
【0079】
さらに別の実施形態において、本発明は、微生物組成の使用に関する。当該微生物組成は、
−ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・ディオリボランス、ならびに
−ラクトバチルス・パラファラギニス、ラクトバチルス・ファラギニス、ラクトバチルス・フェニおよびラクトバチルス・パラカゼイからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属、ならびに
−サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択される属のイースト種の少なくとも1つの株、
を含む。
【0080】
実施形態において、本明細書中において意図される微生物組成は、
−ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・ディオリボランス、ならびに
−サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択される属のイースト種の少なくとも1つの株であって、好適にはサッカロミセスであって、より好適には当該イースト種はサッカロマイセス・セレヴィシエである、少なくとも1つの株、ならびに
−任意選択的におよび好適には、ラクトバチルス・パラファラギニス、ラクトバチルス・ファラギニス、ラクトバチルス・フェニおよびラクトバチルス・パラカゼイからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属であって、好適にはラクトバチルス・パラファラギニスである、
を含むか、これらから本質的になるかまたはこれらからなる。
【0081】
本発明に従って用いられる微生物組成の別の実施形態は、組成を含む。当該組成は、
−ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・フェニ、ならびに
−ラクトバチルス・パラファラギニス、ラクトバチルス・ファラギニス、ラクトバチルス・ディオリボランスおよびラクトバチルス・パラカゼイからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属、ならびに
−サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択される属のイースト種の少なくとも1つの株、
を含む。
【0082】
実施形態において、本明細書中において意図される微生物組成は、
−ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・フェニ、ならびに
−サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択される属のイースト種の少なくとも1つの株であって、好適にはサッカロミセスであって、より好適には当該イースト種はサッカロマイセス・セレヴィシエである、少なくとも1つの株、ならびに
−任意選択的におよび好適には、ラクトバチルス・パラファラギニス、ラクトバチルス・ファラギニス、ラクトバチルス・ディオリボランスおよびラクトバチルス・パラカゼイからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属であって、好適にはラクトバチルス・パラファラギニスである、
を含むか、これらから本質的になるかまたはこれらからなる。
【0083】
本発明に従って用いられる微生物組成のさらに別の実施形態は、組成を含む。当該組成は、
−ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・パラカゼイ、ならびに
−ラクトバチルス・パラファラギニス、ラクトバチルス・ファラギニス、ラクトバチルス・ディオリボランスおよびラクトバチルス・フェニからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属、ならびに
−サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択される属のイースト種の少なくとも1つの株、
を含む。
【0084】
実施形態において、本明細書中において意図される微生物組成は、
−ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・パラカゼイ、ならびに
−サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択される属のイースト種の少なくとも1つの株であって、好適にはサッカロミセスであって、より好適には当該イースト種はサッカロマイセス・セレヴィシエであり、ならびに
−任意選択的におよび好適には、ラクトバチルス・パラファラギニス、ラクトバチルス・ファラギニス、ラクトバチルス・ディオリボランスおよびラクトバチルス・フェニからなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属であって、好適にはラクトバチルス・パラファラギニスである、
を含むか、これらから本質的になるかまたはこれらからなる。
【0085】
本発明に従って用いられる微生物組成のさらに別の実施形態は、組成を含む。当該組成は、
−ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・パラファラギニス、およびラクトバチルス・ファラギニス、ならびに
−ラクトバチルス・ディオリボランス、ラクトバチルス・フェニおよびラクトバチルス・パラカゼイからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属、ならびに
−サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択される属のイースト種の少なくとも1つの株、
を含む。
【0086】
実施形態において、本明細書中において意図される微生物組成は、
−ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・パラファラギニス、およびラクトバチルス・ファラギニス、ならびに
−サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択される属のイースト種の少なくとも1つの株であって、好適にはサッカロミセスであって、より好適には当該イースト種はサッカロマイセス・セレヴィシエである、少なくとも1つの株、ならびに
−任意選択的におよび好適には、ラクトバチルス・ディオリボランス、ラクトバチルス・フェニおよびラクトバチルス・パラカゼイからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属、
を含むか、これらから本質的になるかまたはこれらからなる。
【0087】
本発明に従って用いられる微生物組成の別の例は、組成を含む。当該組成は、
−ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・パラファラギニス、およびラクトバチルス・ディオリボランス、ならびに
−ラクトバチルス・ファラギニス、ラクトバチルス・フェニおよびラクトバチルス・パラカゼイからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属、ならびに
−サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択される属のイースト種の少なくとも1つの株、
を含む。
【0088】
実施形態において、本明細書中において意図される微生物組成は、
−ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルスファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・パラファラギニス、およびラクトバチルス・ディオリボランス、ならびに
−サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択される属のイースト種の少なくとも1つの株であって、好適にはサッカロミセス、より好適には当該イースト種はサッカロマイセス・セレヴィシエである、少なくとも1つの株、ならびに
−任意選択的におよび好適には、ラクトバチルス・ファラギニス、ラクトバチルス・フェニおよびラクトバチルス・パラカゼイからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属、
を含むか、これらから本質的になるかまたはこれらからなる。
【0089】
本発明による微生物組成に付加することが可能な他の細菌を非限定的に挙げると、ラクトバチルス・ブフネリ、ラクトバチルス・ファビファーメンタンス、ラクトバチルス・カカオナム、およびラクトバチルス・ヒルガルディー。
【0090】
上記したように、本発明は、本明細書中に定義されるような微生物組成の使用に関する。本発明の微生物組成は、少なくとも1つのイースト株を含む。本明細書中用いられる、「イースト」という用語は、単細胞菌類の群を指し、そのうちほとんどは子のう菌綱に属し、他は担子菌綱に属す。
【0091】
実施形態において、当該イーストの少なくとも1つの株は、サッカロミセスおよびカンジダからなる群からなる群から選択される属の種に属する。
【0092】
好適な実施形態において、当該イーストの少なくとも1つの株は、カンジダ・ボンビ、カンジダ・ペリクロサ、カンジダ・ルゴペリクロサ、カンジダ・ルゴサ、カンジダ・インターメディア、カンジダ・クルセイ、カンジダ・パラシローシス、カンジダ・クエルシトルーサ、カンジダ・シルビコラ、カンジダ・ステリマリコラ、カンジダ・ボイジニイ、カンジダ・カコアイ、カンジダ・ギリエルモンディ、カンジダ・ロイカウフィ、カンジダ・アマパエ、カンジダ・ディッデンシェ、カンジダ・フリードリッチ、カンジダ・フミコラ、カンジダ・マイコデルマ、カンジダ・ネオデンドラ、カンジダ・タマニエンシス、カンジダ・トロピカリス、カンジダ・バリダ、カンジダ・ゼムプリニナ、サッカロマイセス・セレヴィシエ、およびサッカロマイセス・セレヴィシエ・変種・チェバリエリ、および好適にはカンジダ・ボンビ、カンジダ・ペリクロサ、カンジダ・ルゴサ、カンジダ・インターメディア、カンジダ・クルセイ、カンジダ・カコアイ、カンジダ・ギリエルモンディ、およびサッカロマイセス・セレヴィシエ、およびより好適にはサッカロマイセス・セレヴィシエを含む群またはこれらからなる群から選択される種に属する。
【0093】
別の実施形態において、本微生物組成は、上記したようなサッカロミセスおよびカンジダからなる群からなる群から選択される属の種と異なる少なくとも1つの他のイースト株をさらに含む。例えば、実施形態において、このようなイーストの少なくとも1つの他の株は、ブレタノマイセス、クリプトコッカス、デバリオミケス、ゲオトリクム、ハンセニアスポラ、ハンゼヌラ、イサタケンキア、クロエケラ、クルイベロミセス、ロデロマイセス、ピチア、ロドトルラ、サッカロミコプシス、スキゾサッカロミセス、スキタリジウム、トルラスポラ、トルロプシスまたはトリコスポロン(好適にはクリプトコッカス、ハンセニアスポラ、ハンゼヌラ、クルイベロミセス、またはピチア(より好適にはハンセニアスポラ、クルイベロミセス、またはピチア))を含む群またはこれらからなる群から選択される属の種に属し得る。イースト属のさらなる例を非限定的に挙げると、アーキシオジマ、シテロマイセス、デッケラ、ホレヤ、コダメアエ、サターニスポラ、スタ−メラ、テトラピシスポラ、ウィリオプシスまたはチゴサッカロミセスがある。
【0094】
別の実施形態において、本微生物組成は、L.ファーメンタム、L.プランタラム、L.パラファラギニス、L.ファラギニス、L.ディオリボランス、L.フェニ、L.パラカゼイ、L.カゼイ、L.ヒルガルディー、L.ブフネリ、アセトバクター属酢酸菌、サッカロマイセス・セレヴィシエから本質的になる。
【0095】
別の実施形態において、本微生物組成は、L.ファーメンタム、L.プランタラム、L.パラファラギニス、L.カゼイ、L.ブフネリ、アセトバクター属酢酸菌、およびサッカロマイセス・セレヴィシエ(微生物組成A)から本質的になる。別の実施形態において、本微生物組成は、L.ファーメンタム、L.プランタラム、L.ファラギニス、L.ヒルガルディー、アセトバクター属酢酸菌およびサッカロマイセス・セレヴィシエ(微生物組成B)から本質的になる。別の実施形態において、本微生物組成は、L.ファーメンタム、L.プランタラム、L.ディオリボランス、L.ヒルガルディー、アセトバクター属酢酸菌およびサッカロマイセス・セレヴィシエ(微生物組成C)から本質的になる。別の実施形態において、本微生物組成は、L.ファーメンタム、L.プランタラム、L.フェニ、L.カゼイ、L.ブフネリ、アセトバクター属酢酸菌およびサッカロマイセス・セレヴィシエ(微生物組成D)から本質的になる。別の実施形態において、本微生物組成は、L.ファーメンタム、L.プランタラム、L.パラカゼイ、L.カゼイ、アセトバクター属酢酸菌およびサッカロマイセス・セレヴィシエ(微生物組成E)から本質的になる。別の実施形態において、本微生物組成は、L.ファーメンタム、L.プランタラム、L.パラファラギニス、L.ファラギニス、L.ヒルガルディー、アセトバクター属酢酸菌およびサッカロマイセス・セレヴィシエ(微生物組成F)から本質的になる。別の実施形態において、本微生物組成は、L.ファーメンタム、L.プランタラム、L.ファラギニス、L.ディオリボランス、L.カゼイ、L.ヒルガルディー、L.ブフネリ、アセトバクター属酢酸菌およびサッカロマイセス・セレヴィシエ(微生物組成G)から本質的になる。別の実施形態において、本微生物組成は、L.ファーメンタム、L.プランタラム、L.ディオリボランス、L.フェニ、アセトバクター属酢酸菌およびサッカロマイセス・セレヴィシエ(微生物組成H)から本質的になる。別の実施形態において、本微生物組成は、L.ファーメンタム、L.プランタラム、L.フェニ、L.パラカゼイ、L.ヒルガルディー、アセトバクター属酢酸菌およびサッカロマイセス・セレヴィシエ(微生物組成I)から本質的になる。別の実施形態において、本微生物組成は、L.ファーメンタム、L.プランタラム、L.パラファラギニス、L.ディオリボランス、L.カゼイ、L.ヒルガルディー、L.ブフネリ、アセトバクター属酢酸菌およびサッカロマイセス・セレヴィシエ(微生物組成J)から本質的になる。別の実施形態において、本微生物組成は、L.ファーメンタム、L.プランタラム、L.ファラギニス、L.フェニ、L.カゼイ、アセトバクター属酢酸菌およびサッカロマイセス・セレヴィシエ(微生物組成K)から本質的になる。別の実施形態において、本微生物組成は、L.ファーメンタム、L.プランタラム、L.ディオリボランス、L.パラカゼイ、L.ヒルガルディー、アセトバクター属酢酸菌、およびサッカロマイセス・セレヴィシエ(微生物組成L)から本質的になる。別の実施形態において、本微生物組成は、L.ファーメンタム、L.プランタラム、L.パラファラギニス、L.ディオリボランス、L.パラカゼイ、L.ブフネリ、アセトバクター属酢酸菌、サッカロマイセス・セレヴィシエ(微生物組成M)から本質的になる。別の実施形態において、本微生物組成は、L.ファーメンタム、L.プランタラム、L.パラファラギニス、L.ファラギニス、L.ディオリボランス、L.フェニ、L.パラカゼイ、L.カゼイ、L.ヒルガルディー、L.ブフネリ、アセトバクター属酢酸菌およびサッカロマイセス・セレヴィシエ(微生物組成N)から本質的になる。別の実施形態において、本微生物組成は、L.ファーメンタム、L.プランタラム、L.パラファラギニス、アセトバクター属酢酸菌およびサッカロマイセス・セレヴィシエ(微生物組成O)から本質的になる。
【0096】
表1は、本発明において適切に用いられる微生物組成のさらなる非限定的例を示す。
【0097】
【表1】

【0098】
本発明の別の実施形態において、テオブロマカカオから抽出された豆を含む植物材料および/またはテオブロマカカオから抽出された豆およびパルプからなるかまたは、好適にはこれらから本質的になる植物材料(「ココア豆およびパルプ」と総称する)の発酵は、堆積した状態、箱(例えば、木の箱またはスチール製の箱)、バスケット、トレイ、およびその他当該分野において一般的に用いられる手段において実行することが可能である。好適な実施形態において、当該発酵は、堆積した状態または箱において実行することが可能である。
【0099】
別の実施形態において、本発明は、発酵処理の早期段階における、最初の1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、7時間、10時間、12時間、15時間、18時間、20時間、22時間または24時間の発酵時の、上記において定義されたような微生物組成の使用に関する。よって、別の実施形態において、本発明により、有機材料(より詳細には植物材料、さらにより詳細にはココア豆およびパルプ)の発酵を調節する方法が提供される。当該方法は、当該発酵の開始段階および/またはより早期の段階、例えば、当該発酵の開始および/または最初の24時間および例えば当該発酵の最初の1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、7時間、10時間、12時間、15時間、18時間、20時間または22時間において、本明細書中に定義されるような組成を材料に付加する工程を含む。
【0100】
実施形態において、本発明の微生物組成は、スターター培養物であり得る。「培養物」という用語は、1つ以上の微生物を含むかまたは含むと考えられることで知られている任意のサンプルまたは試料を指す。本明細書中用いられるこの用語は、スターター培養物および共培養物も含む。「スターター培養物」という用語は、高密度培養物を得るための別個のスターター媒体中において任意選択的に栽培された後に有機材料の発酵を開始させるかまたは発生させることが可能な生きた微生物を含む組成を指す。よって、実施形態において、本発明の微生物組成は、適切な媒体中におけるスターター培養物の増殖によって得られる高密度培養物であり得る。
【0101】
スターター培養物は、例えば、液体培養物、液体圧縮培養物、冷凍形態または乾燥形態、例えば、フリーズドライ形態およびスプレー/流動床乾燥形態、または冷凍またはフリーズドライ濃縮、であり得る。当該培養物は、真空下においてパッキングしてもよいし、あるいは、例えばN、COなどの雰囲気下でパッキングしてもよい。例えば、スターター培養物は、気密筺体、好適には、非発熱性のもの、の中において生成および分配され得る。当該気密筺体は、剛性のある非可撓性または可撓性の適切なプラスチックまたはその他の材料で構成され得る。この筐体中のスターター培養物を発酵位置へと配置し、その後、発酵させようとする有機材料にスターター培養物を付加してもよいし、あるいは、任意に先ずスターター培養物を別個のスターター媒体中にて培養して高密度培養物を得てもよい。
【0102】
スターター培養物は、前記微生物に加えて、緩衝剤および成長促進栄養素(例えば、同化炭水化物または窒素源)、または保存料(例えば、抗凍結化合物)または所望であれば他のキャリア(例えば、粉乳または糖類)も含み得る。
【0103】
スターター培養物または高密度培養物は、少なくとも10個のコロニー形成単位(CFU)の菌株および任意に本発明の1つ以上のイースト株、例えば、少なくとも10個のCFU/g、少なくとも10個のCFU/g、例えば、少なくとも10個のCFU/g、少なくとも10個のCFU/g、例えば、少なくとも10個のCFU/g、少なくとも10個のCFU/g、例えば、少なくとも10個のCFU/g、少なくとも1010個のCFU/g、例えば、少なくとも1011個のCFU/g、少なくとも1012個のCFU/g、または少なくとも1013個のCFU/gを含むと好適であり得る。
【0104】
実施形態において、上記において定義されたような微生物組成は、スターター培養物または高密度培養物であり得る。当該スターター培養物または高密度培養物は、植物材料1gあたり少なくとも10個のCFU(コロニー形成単位)の菌株を含み、例えば少なくとも10個のCFU/g、少なくとも10個CFU/g、例えば、少なくとも10個のCFU/g、少なくとも10個のCFU/g、例えば、少なくとも10個のCFU/g、少なくとも10個のCFU/g、例えば、少なくとも10個のCFU/g、少なくとも1010個のCFU/g、例えば、少なくとも1011個のCFU/g、少なくとも1012個のCFU/g、または少なくとも1013個のCFU/gの有機材料を含む。
【0105】
非限定的に、本明細書中に教示されるような好適な微生物組成は、
−10〜10個のCFU/gの植物材料、好適には10〜10、より好適には10〜10、例えば、極めて好適には5×10〜5×10個のCFU/gの植物材料ラクトバチルス・プランタルム、
−10〜10個のCFU/gの植物材料(好適には10〜10個、より好適には10および10個、例えば、極めて好適には5×10個〜5×10個のCFU/gの植物材料ラクトバチルス・ファーメンタム、
−10個〜10個のCFU/gの植物材料、好適には10個〜10個、より好適には10個〜10個、例えば、極めて好適には5×10個〜5×10個のCFU/gの植物材料アセトバクター属酢酸菌、
−10個〜10個のCFU/gの前記植物材料、好適には10個〜10個、より好適には10個〜10個、例えば、極めて好適には5×10個〜5×10個のCFU/gの植物材料の少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属であって、少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属は、ラクトバチルス・パラファラギニス、ラクトバチルス・ファラギニス、ラクトバチルス・ディオリボランス、ラクトバチルス・フェニおよびラクトバチルス・パラカゼイからなる群から選択され、好適にはラクトバチルス・パラファラギニスである、少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属、および
−10個〜10個のCFU/gの植物材料、好適には10個〜10個、より好適には10個〜10個、例えば、極めて好適には5×10個〜5×10個のCFU/gの植物材料のイースト種の少なくとも1つの株であって、イースト種の少なくとも1つの株は、サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択される属であって、好適にはサッカロミセスであって、より好適には当該イースト種はサッカロマイセス・セレヴィシエである、少なくとも1つの株、
を含むか、これらから本質的になるかまたはこれらからなる。
【0106】
テオブロマカカオ種の果実鞘から抽出された豆および/またはパルプから本質的になる植物材料の発酵を調節するための微生物組成の使用がさらに開示される。当該組成は、
−10個〜10個のCFU/gの植物材料、好適には10個〜10個、より好適には10個〜10個、例えば、極めて好適には5×10個〜5×10個のCFU/gの植物材料ラクトバチルス・プランタルム、
−10個〜10個のCFU/gの植物材料、好適には10個〜10個、より好適には10個〜10個、例えば、極めて好適には5×10個〜5×10個のCFU/gの植物材料ラクトバチルス・ファーメンタム、
−10個〜10個のCFU/gの植物材料、好適には10個〜10個、より好適には10個〜10個、例えば、極めて好適には5×10個〜5×10個のCFU/gの植物材料アセトバクター属酢酸菌、および
−10個〜および10個CFU/gの植物材料、好適には10個〜10個、より好適には10個〜10個、例えば、極めて好適には5×10個〜5×10個のCFU/gの植物材料のイースト種の少なくとも1つの株であって、イースト種の少なくとも1つの株は、サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択される属であって、好適にはサッカロミセスであって、より好適には当該イースト種はサッカロマイセス・セレヴィシエである、
を含むか、これらから本質的になるかまたはこれらからなる。
【0107】
テオブロマカカオ種の果実鞘から抽出された豆および/またはパルプから本質的になる植物材料の発酵を調節するための微生物組成の使用がさらに開示される。当該組成は、
−10個〜10個のCFU/gの植物材料、好適には10個〜10個、より好適には10個〜10個、例えば、極めて好適には5×10個〜5×10個のCFU/gの植物材料ラクトバチルス・プランタルム、
−10個〜10個のCFU/gの植物材料、好適には10個〜10個、より好適には10個〜10個、例えば、極めて好適には5×10個〜5×10個のCFU/gの植物材料ラクトバチルス・ファーメンタム、および
−10個〜10個のCFU/gの前記植物材料、好適には10個〜10個、より好適には10個〜10個、例えば、極めて好適には5×10個〜5×10個のCFU/gの前記植物材料アセトバクター属酢酸菌、
を含むか、これらから本質的になるかまたはこれらからなる。
【0108】
本発明によれば、本明細書中に定義されるような組成のうちのいずれかをココア豆の発酵時において用いれば、発酵したココア豆の物理的特性(例えば、外観(色を含む))または感覚刺激特性(例えば、フレーバー)および(生)化学組成に影響する。
【0109】
一実施形態において、本組成の使用により、より多数の発酵したココア豆を得ることが可能になる。当該発酵したココア豆は、天然発酵処理よりも高品質であり、例えば、高品質の、例えば、感染および/または破損しておらずかつ十分な色および外観を有する、発酵したココア豆が、10%まで、好適には20%まで増量する。豆の品質は、例えば、外観およびカット試験などの標準的な方法、(以下の記載を参照)を用いて評価することが可能である。
【0110】
別の実施形態において、本組成の使用により、最適なレベルの(生)化学成分、例えば、例を非限定的に挙げると、有機分子、例えば乳酸、酢酸、クエン酸、エタノール、マンニトールおよびエリトリトールを含む糖アルコール、エステルを含むアルコール、エピカテキンを含むポリフェノール、アルカロイド(テオブロミン、カフェイン)など、またはより低レベルまたはゼロのレベルのマイコトキシンを有する、発酵したココア豆を得ることが可能になる。
【0111】
発酵した植物材料
別の側面において、本発明は、例えばココア生成物の調製および/または食品の調製のための本発明の方法の実行およびその使用によって入手されるかまたは入手可能なココア豆にも関連する。本方法によって入手されるかまたは入手可能なココア豆は、処理が驚くほど容易であり、例えば豆を容易に乾燥することができる。
【0112】
本発明により、以下の特徴のうち1つ以上を有する発酵したココア豆が提供される。
【0113】
本発明によるココア豆は、フレーバーの良いココア生成物であり、かつ、再現可能な品質、フレーバーおよび/または感覚刺激特性を有する。さらに、本方法によって入手されるかまたは入手可能なココア豆は、そのフレーバーおよび/または感覚刺激特性を長期間にわたって保持する。
【0114】
別の実施形態において、本組成により、より多量のポリフェノールを有する発酵した豆の入手が可能になる。別の好適な実施形態において、本発明は、天然発酵処理を通じて得られた豆の測定量よりもポリフェノールの総量が少なくとも1.5倍、例えば、少なくとも2倍多い、発酵したココア豆に関連する。
【0115】
別の好適な実施形態において本発明は、天然発酵処理を通じて得られた豆の測定量よりもエピカテキン量が少なくとも2倍、例えば少なくとも3倍、5倍または7倍多い、発酵したココア豆に関する。例えば、本発明によって提供される発酵したココア豆のエピカテキン量は、1000ppmよりも高く、好適には2000ppmよりも高い。
【0116】
実施形態において、本発明は、一定量の遊離アミノ酸(FAA)を有するココア豆に関する。当該一定量の遊離アミノ酸(FAA)は、アラニン、フェニルアラニン、トリプトファン、ロイシンおよびバリンを含むかまたはこれらからなる群から選択され、好適には、アラニン、フェニルアラニンおよびトリプトファンを含むかまたはこれらからなる群から選択され、自然発酵処理を通じて得られたココア豆の場合よりも少なくとも10%少ない量である。本文脈における「遊離」という用語は、別の部分と共有結合していないアミノ酸を指す。
【0117】
別の実施形態において、ココア豆の発酵のための本微生物組成を用いると、豆に特定の色変化を生じさせる効果が得られる。
【0118】
詳細には、実施形態において、本発明は、特に色の明るいココア豆、およびパウダーまたはリカー、を提供する。ココアパウダーなどのパウダーまたはリカーの色測定のための客観的方法が複数知られている。1つの方法において、ハンターカラー方式またはCIE1976(CIELAB)および同様のシステムにおいて、色は、座標L、「a」および「b」によって表される。L座標は明度値を表し、「a」および「b」座標から彩度および色相を算出することが可能である。L値が低いほど、ココアパウダーの色はより暗くなる。彩度(C)は、明るい色または灰色が識別される際の色の濃度を表す。C値が高いほど、パウダーの色が明るくなる。色相(H)は、日常用いられる色、例えば、赤色、黄色または青色、を指す。
【0119】
より詳細には、ハンターカラー方式は、所与の材料の色を規定する際の周知の方法である。ハンターカラー方式の技術的詳細については、ハンターによる著書「Photoelectric Color Difference Meter」(Journal of the Optical Society of America、1958、vol.48、985−95)中に記載されている。さらに説明すると、ハンターカラー方式は、3次元色立体によって説明することができる。この3次元色立体には可能な色全てが含まれ、幾何学的中心を通過する3本の垂直な軸がある。立体の任意の点の位置は、これら3本の軸上の座標によって決定することができる。よって、これら3つの座標により、任意の色を規定することができる。ハンターカラー方式において、「L」スケールは、100個の均等な分割単位を含む。絶対黒はスケールの底部(L=O)にあり、絶対白はスケールの上部(L=100)にある。よって、ハンター色値の測定においては、「L」スケール値が低いほど、当該色は暗い。ハンターカラー方式において、「a」スケールは、赤色と緑色との間の色相および彩度を示す。「b」スケールは、青色と黄色との間の色相および彩度を示す。色相は主波長に類似し、彩度は色純度に関連する。よって、ハンターカラー方式を用いることで、色測定を高精度かつ再現可能な様態で行うことが可能になる。この色測定システムを実質的に全ての形状、サイズおよび組成の材料に適用することを可能にする技術が開発されている。ハンターカラー方式に基づいた色の測定に合わせて設計されたデバイスについて、具体的に米国特許第3,003,388号に記載がある。
【0120】
本発明に従って発酵された豆から調製されたココアパウダーまたはココアリカーのL色座標値は好適には14よりも高く、例えば、15よりも高く、好適には16よりも高く、例えば17よりも高く、より好適には18よりも高く、例えば、極めて好適には19よりも高いかまたは20以上である、例えば、L色座標値は14〜20、好適には16〜20、より好適には17〜20または18〜20、例えば、18〜19である。驚くべきことに、このより明色である色は、従来的に発酵した豆または従来技術微生物組成を用いて発酵を行った豆には観察されなかった(例1および例5も参照)。
【0121】
本発明によれば、ココア豆またはココア豆から抽出されたココア生成物の色は、以下のようにして測定することが可能である。ココア豆またはココア生成物に対して好適には脱脂を行って脂肪分が5wt%未満になるようにした後、洗浄および遠心分離を行う。好適な実施形態において、パウダーまたはリカーは、当該生成物によって形成される。例えば室温において乾燥を行った後、サンプルをペトリ皿に入れ、当該ペトリ皿の底部を通じて比色計を用いて測定する。この比色計は、周知のハンターL、a、b方式を用いる。適切な比色計としては、例えばミノルタCM−2002分光光度計がある。色測定条件としては、以下が用いられ得る:CIELABIII:D65、Obs:10度、フラッシュ3回、モード:SCEおよび外部色を20°C。
【0122】
予期せぬことに、本発明による微生物組成を用いて発酵された豆は、光中断効果を示した。本明細書中に記載のような微生物組成を用いて発酵された豆は、従来的に発酵した豆よりもより明色であり、詳細には明るい茶色だった。従って、本発明に従って発酵された豆の色は、天然のココアの茶色による影響がより少ない。実際、本発明に従って発酵された豆の色は、明るい色を持つことで知られるジャワ産豆の色に匹敵する。よって、本発明により、非ジャワ原産豆が発酵した場合、ジャワ産豆に匹敵する色を持つことが可能になる(例えば例5を参照)。
【0123】
本発明によって得られる、明るい色の発酵したココア豆の詳細な利点として、このような豆を用いて、ダークチョコレート、すなわち、比較的大量のココア固体を有しかつ従来のダークチョコレートよりもより明るい色を示すチョコレート(さらに下記を参照)を製造することが可能である点がある。
【0124】
本発明に従って発酵されたココア豆の下流処理
実施形態において、本明細書中に記載の制御された発酵方法によって得られた発酵したココア豆に対し、本明細書中に定義されるような微生物組成の付加の前および/または後に、さらなる処理を行うことができる。
【0125】
別の側面において、本発明は、本発明に従って発酵されたココア豆を処理してココア生成物を得る方法と、これによって得られた下流のココア生成物またはココア由来材料とに関する。本明細書中用いられる「ココア生成物」および「ココア由来材料」という用語は類義語であり、ココア豆を用いて調製された製品を指す。製品または材料とは、本明細書中に記載のような制御された発酵を通じて得られたココア豆から開始した調製によって得られた材料を指す。ココア生成物は、液体形態であってもよいし、あるいは乾燥形態または凍結乾燥形態であってもよく、例えば、顆粒状、ペレット状または粉状であってもよい。
【0126】
好適な実施形態において、「ココア生成物」または「ココア由来材料」とは、ココアニブ、ココアフレーク、ココアケーク、ココアパウダー、ココアリカーおよびチョコレートを含む。チョコレートはダークチョコレート、ミルクチョコレートまたはホワイトチョコレートを含む。これらの用語は、当業者にとって全て周知であるため、以下の記載においては記述をわずかにとどめる。
【0127】
「ココアニブ」という用語は、殻の無い状態のココア豆を指す。
【0128】
「ココアリカー」という用語は、粉砕されたココアニブを指す。ココアリカーは、ココアニブを粉砕してダークペーストとして知られている形態にすることにより、調製される。冷却後、ココアリカーからココアマスが得られる。ココアニブを粉砕して粗粒の均一なペースト状にすると、「ココアフレーク」として知られるものが得られる。「ココアフレーク」という用語は、固体フレーク状のココアリカーを指す。
【0129】
ココアリカーを処理することで、2つの異なる成分、すなわち、ココアパウダーおよびココアバターを得ることができる。ほとんどのココアバターを除去することにより、ココアリカーを圧縮すると、ココアケークが得られる「ココアケーク」という用語は、圧搾によって脂肪分(ココアバター)を含む抽出した後に残っているココア固体またはココアマスを指す。ココアケークを破壊および粉砕すると、微細なココアパウダーを得ることができる。「ココアパウダー」とは、ココア固体を指す。
【0130】
「ココアバター」とは、チョコレートリカーの脂肪成分を指し、チョコレートリカーの残り部分はココア固体またはココアマスである。例えば、ダークチョコレートを製造するには、ココアニブまたはココアマスを砂糖および十分なココアバターと混合し、チョコレートを成形可能な状態とする。ミルクチョコレートを製造するには、ココアマスおよびココアバターを砂糖およびミルクパウダーと混合する。ホワイトチョコレートを製造するには、ココアバター(ココアマスは無し)を砂糖およびミルクパウダーと混合する。
【0131】
別の側面において、本発明は、赤色または紫色のココア生成物を製造する方法を含む。この目的のため、本発明は、本明細書中に定義されるような微生物組成によって発酵されたココア豆に由来するココア生成物を酸または酸性水溶液によってさらに処理する方法を提供する。
【0132】
出願人らによれば、本明細書中に定義されるような微生物組成を用いてココア豆の制御された発酵を行った後、これらの発酵した豆から調製されたココア由来材料に対して酸処理を行った場合、着色されたココア由来材料、例えば、着色されたココアニブ、ココアフレーク、ココアケーク、ココアリカー、ココアパウダーまたはチョコレート製品、が得られることが予想外に分かった。より詳細には、出願人らはによれば、本明細書中に定義されるような微生物組成を用いてココア豆の制御された発酵を行った後、これらの発酵した豆から調製されたココア由来材料に対して酸処理を行った場合、上記したような赤色または紫色のココア由来材料が得られることが分かった。さらに、当該酸条件を用いて当該赤色または紫色のココア由来材料の製造を制御した場合、詳細には、例えばpH、水含有量、温度および反応の長さを制御した場合、当該生成物中に存在するポリフェノールのレベルを維持することが可能になり、赤色または紫色の着色ココア由来材料を製造することが可能になる。
【0133】
出願人らによれば、本明細書中に記載のような発酵処理の終了時において、ココア豆はより明色でありかつ光中断効果を示した。それにもかかわらず、これらの発酵した豆から得られたココア材料(例えば、ココアニブまたはココアリカー)に対して酸処理を行ったところ、赤色/紫色の材料が得られることもさらに分かった。驚くべきことに、発酵したココア豆の色は暗い茶色ではなかったのにもかかわらず、本明細書中に定義されるような酸処理工程を施すことによって、美しい赤色/紫色を示す下流ココア材料となるように処理することができる。
【0134】
別の予期せぬ効果として、本明細書中に定義されるような発酵した豆に由来するココア材料を用いることで、当該ココア材料の酸処理を通じて得られた酸味を低減または実質的に隠蔽することができた点がある。赤色または紫色のココア生成物の製造のための出発材料として良好に発酵した豆を用いることにより、驚くべきことに、酸味が勝ちすぎるという欠陥の無い、高品質の製品を得ることができた。
【0135】
赤色または紫色のココア生成物の製造のために本発明に従って発酵された豆を用いることによって得られる別の重要な有益な効果として、標準化された出発材料、すなわち、再現可能な品質および組成の良好に発酵した豆を用いて、赤色または紫色のココア生成物の調製を行うことが可能となる点がある。
【0136】
よって、特定の実施形態において、本発明は、赤色または紫色のココア由来材料を提供する。当該赤色または紫色のココア由来材料は、ココアニブ、ココアフレーク、ココアリカー、ココアケーク、ココアパウダー、または食品、例えば、これらのココア生成物のうち1つ以上によって調製されたチョコレート製品、を含むかまたはこれらからなる群から選択される。
【0137】
実施形態において、本発明は、赤色または紫色のココア由来材料を製造する処理を提供する。当該処理は、
a)本明細書中に定義されるような微生物組成によって発酵されたココア豆を提供する工程と、
b)工程a)の発酵したココア豆からココア由来材料を調製する工程と、
c)工程b)のココア由来材料を酸または酸性水溶液によって処理する工程と、
を含む。
【0138】
ココア由来材料は、ココアニブ、ココアフレーク、ココアケーク、ココアパウダー、ココアリカーおよびチョコレートを含むかまたはこれらからなる群から選択され得る。好適な実施形態において、当該ココア由来材料は、ココアニブまたはココアリカーを指す。
【0139】
ココアニブ、ココアフレーク、ココアケーク、ココアパウダー、ココアリカーおよびチョコレートを上記の方法の工程b)において調製した場合、特定の生成物を得るために、上記の方法において記載した工程以外のさらなる工程が必要となることが明らかである。ココア豆に由来する生成物の調製に用いられる技術は、当該分野において周知であり、本明細書中においては詳述を控える。それにもかかわらず、例示目的のため、実施形態を以下に記載する。
【0140】
実施形態において、ココア由来材料はココアニブであり、上記方法は、発酵したココア豆の殻を除去する工程をさらに含む。
【0141】
別の実施形態において、ココア由来材料はココアフレークであり、上記方法は、ニブを破砕してフレーク状にする工程をさらに含む。
【0142】
当該処理の別の実施形態において、ココア由来材料はココアリカーであり、上記方法は、ニブを粉砕してココアリカー状にする工程をさらに含む。
【0143】
さらに別の実施形態において、ココア由来材料は赤色または紫色のチョコレート製品であり、上記方法は、(i)当該ニブを粉砕してココアリカーを形成する工程と、(ii)当該ココアリカーをココアバターまたは脂肪代替品と組み合わせて、赤色または紫色のチョコレート製品を形成する工程をさらに含む。さらに、前記赤色または紫色のチョコレートを製造する方法は、コンチング工程、テンパリング工程および成形工程をさらに含み得る。
【0144】
以下、先ず、本明細書中に開示される発酵方法に従って発酵されたココア豆に由来するココアニブに対して酸処理を行う方法について詳述する。次に、ココアリカーなどのココア由来材料の酸処理について説明する。
【0145】
実施形態において、本発明は、赤色または紫色のココアニブを製造する方法に関する。当該方法は、
a)本明細書中に定義されるような微生物組成によって発酵されたココア豆を提供する工程と、
b)工程a)の発酵した豆からココアニブを調製する工程と、
c)工程b)のココアニブを酸または酸性水溶液で処理する工程と、
を含む。
【0146】
工程c)において得られたココアニブに対し、任意に洗浄および/または乾燥を行った後、さらに処理を行うことができる。ココア豆からココアニブを調製する技術は当該分野において周知であるため、本明細書中について詳述を控える。
【0147】
実施形態において、上記の方法において用いられるココアニブに対し、酸処理の前にロースト処理またはアルカリ処理を行わない。赤色または紫色のココアニブを得るために用いられるココアニブは、本明細書中に定義されるように発酵され、任意に水で洗浄され、(例えば、太陽下において)乾燥され、かつ/またはサイズ低減を経た後に、本明細書中に記載のような酸処理を受ける。特に好適な実施形態において、当該方法は、本明細書中に記載の酸処理の前および/または後のいずれかにおいて、アルカリ化工程またはロースティング工程を含まない。
【0148】
酸性水溶液によるココアニブの処理は、酸または酸性水溶液をココアニブと接触させる工程を含む。この工程は、任意の方法、例えば、酸性水溶液によるココアニブの浸漬、沈漬または洗浄ならびに/またはニブ上への酸性水溶液の噴霧により、行うことが可能である。
【0149】
任意に、ココアニブは、本明細書中に記載のような酸性水溶液と接触される前に乾燥され得る。ココアニブの乾燥は、従来の乾燥技術、例えば、当該分野において公知の太陽、マイクロ波熱風によって行うことができる。このような場合、当該混合物中の水分含有量が10%未満になるまで、特に、水分含有量が9%、8%、7%、6%または5%になるまでココアニブを乾燥させると好適である。
【0150】
本発明に従ってココアニブを処理する際に用いることが可能な酸は、鉱酸であり得る。鉱酸は、例えば、塩酸、リン酸および硫酸を含むかまたはこれらからなる群から選択される。別の実施形態において、本発明に従ってココアニブを処理する際に用いることが可能な酸は、有機酸であり得る。有機酸は、例えば、クエン酸、乳酸、酒石酸、アスコルビン酸および酢酸を含むかまたはこれらからなる群から選択される。本発明の好適な実施形態において、酸は、食品レベルで受容可能な酸である。酸を選択する際には、当該酸がココア豆のフレーバーを損なうことが無くかつ当該ココア豆中に容易に浸透可能であるべきことを念頭におく必要がある。本発明の好適な実施形態において、当該酸は、リン酸、乳酸、クエン酸、アスコルビン酸または酢酸であって、好適にはリン酸である。
【0151】
一実施形態において、酸は、固体状、例えば、粉状の形態でココアニブに付加され得る。一例において、酸は、粉状のクエン酸または酒石酸として付加され得る。
【0152】
別の実施形態において、酸は、酸性水溶液の形態、すなわち、酸を水と組み合わせることによって得られた形態でココアニブに付加され得る。好適には、酸性水溶液は、pHが6よりも低い溶液であって、好適にはpHが5よりも低い溶液、好適にはpHが4よりも低い溶液、例えばpHが1〜4または2〜3である溶液である。
【0153】
酸または酸溶液は好適には、溶液の重量に基づいて、0.5wt%〜20wt%の酸、より好適には1〜10wt%の酸、最も好適には2〜5wt%の酸を含み得る。
【0154】
ココアニブは、例えば、マグネチックスターラーまたはロッドを用いることにより、攪拌下において酸/酸溶液によって処理することが可能である。
【0155】
ココアニブの酸処理は、十分な酸が当該材料に浸透するように、十分な期間にわたって行うべきである。従って、別の実施形態において、当該方法は、酸または酸性水溶液によるココアニブの処理を24時間までの期間、例えば、12時間までの期間にわたって行う工程を含む。一例において、酸または酸性水溶液によるココアニブの処理は、約2〜8時間、好適には約3〜6時間の期間にわたって行われ得る。特に好適な例において、酸または酸性水溶液によるココアニブの処理は、約4〜5時間の期間にわたって行われ得る。さらに別の例において、浸漬時間は数分間、例えば、少なくとも5分間であってもよい。別の好適な実施形態において、接触および反応期間は、20〜60分間である。
【0156】
別の実施形態において、酸処理時における温度は、50°C未満、好適には5〜30°Cである。
【0157】
特に好適な実施形態において、ココアニブは、酸性水溶液によって処理される。当該酸性水溶液のpHは好適には1〜3である。酸性水溶液による処理は、3〜6時間にわたる期間にわたり、5〜30°Cの温度において行われる。
【0158】
予期せぬことに、反応条件をこのようにして制御した場合、着色(赤色/紫色の)ココアニブを得ることができ、その後ココアニブ中に存在するポリフェノールのレベルが実質的に維持されたことが判明した。その後、得られたココアニブを上述したようにさらに処理することが可能である。ココアニブ中の色はその結果実質的に維持され、これにより、ニブが例えばさらに処理されてココアフレーク状、ココアケーク状、ココアパウダー状、ココアリカー状および/またはチョコレート状にされた際、得られた赤色/紫色のココアニブから赤色/紫色のココアフレーク、赤色/紫色のココアケーク、赤色/紫色のココアパウダー、赤色/紫色のココアリカーおよび/または赤色/紫色のチョコレートを得ることが可能になる。
【0159】
別の実施形態において、本発明は、赤色または紫色のココアリカーを製造する方法を提供する。前記方法は、
a)本明細書中に定義されるような微生物組成によって発酵されたココア豆を提供する工程と、
b)工程a)の発酵したココア豆からココアリカーを調製する工程と、
c)工程b)のココアリカーまたは工程b)のココアリカーを含む組成を酸または酸性水溶液で処理する工程と、
を含む。
【0160】
一例において、本明細書中に記載のような微生物組成によって発酵されたココア豆に由来するココアリカーであって、酸による処理を事前に受けていないココアリカーを、本明細書中に記載のような酸または酸性溶液によって処理することができる。好適には、これにより、赤色または紫色のココアリカーが製造される。その後、当該酸によって処理されたココアリカーを、チョコレート、詳細には赤色または紫色のチョコレートの製造において用いることができる。
【0161】
ココアリカーは、酸または酸性水溶液によって直接処理することが可能である。あるいは、ココアリカーを含む組成、例えば、チョコレートリカー、チョコレートまたはチョコレートの様態の製品を酸によって処理することができる。好適な実施形態において、ココアリカーを含む組成の処理を、精製工程の後、好適には、コンチングプロセスの前、コンチングプロセス時、またはコンチングプロセスの後に行う。
【0162】
酸による処理は、ココアニブについて上記した実施形態のうちのいずれかにおいて、規定され得る。酸処理をココアリカーに適用する場合、同様の条件、例えば、酸濃度、pH条件、酸の種類、処理、温度の期間などをココアニブについて上述したように適用する。
【0163】
本方法に従って発酵されたココア豆またはココア豆に由来するココア材料に対し、上記した酸処理に加えて一以上のさらなる処理を施すことができる。例えば、実施形態において、本明細書中に記載した酸処理の前に、ココア豆に対して事前乾燥および/または加熱を行うことができる。好適には、処理された材料中の天然ポリフェノールが損傷を受けないよう、事前乾燥条件および/または加熱条件を制御するとよい。例えば、加熱および/または事前乾燥により、選穀、すなわち、ココア豆からの殻の除去を補助することができる。
【0164】
別の実施形態において、さらなる工程を行うことができる。当該さらなる工程は、酸または酸性水溶液による処理前にココアニブのサイズを機械的手段により低減する工程を含む。上記目的のために用いることが可能な技術および装置は、当該分野において周知である。このさらなる工程により、ニブの処理および/または乾燥を促進できるという利益が得られる。
【0165】
本発明は、本明細書中に定義されるような微生物組成によって発酵されたココア豆から得られた赤色または紫色のココア由来材料にも関する。ココア由来材料は、ココアニブ、ココアフレーク、ココアケーク、ココアパウダー、ココアリカーおよびチョコレートを含むかまたはこれらからなる群から選択される。ココア由来材料は好適には、ココアニブまたはココアリカーである。
【0166】
ココア由来材料、例えば、本発明に従って得られたココアニブまたはココアリカーの色は、周知の技術を用いて測定または決定することが可能である。適切な技術については、上記に記載している。
【0167】
例えば、ココアパウダーの色は、色座標によって指定することができる。一般的に用いられる方式が、R.S.Hunterによって開発されている(Hunter,R.S.、The Measurement of Appearance、John Wiley and Sons、New York、1975参照)。この方式において、座標L、aおよびb、Cおよびh度により、色を記述することができる。L座標は明度値に対応し、a座標およびb座標から、彩度および色相を算出することができる。L座標は、0(黒色)〜100(白色)の値をとり得る。L値が低いほど、Lがゼロに近くなり、より色の暗いココアパウダーが得られる。a座標の値が高い場合、ココアパウダーの色中に赤色成分が突出して多いことを示す。b座標の値が高い場合、黄色成分が多く存在していることを示す。赤色については、a:bの比が高いほど、ココアの色もより赤みを増す。Cは色の飽和を指し、h度=arctgb/aは色相値である。
【0168】
当該分野において公知の適切な測定システムおよび装置を用いて、色座標値を決定することができる。ココアパウダーのL値、a値およびb値は、例えばHunterlab Digital Colour Difference Meter(type D 25 D2 A)を用いて決定することが可能である。
【0169】
本明細書中に定義されるような「赤色」という用語は好適には、上記において定義されたようなココア由来材料が、粉状にされた場合(任意に脱脂を経た後に)、以下を有することを意味する。
−L値が39〜48、好適には40〜45、より好適には40〜43、最も好適には40〜42、
−aとbとの比が1.6よりも高い、例えば1.8よりも高い、より好適には2.0よりも高い、例えば2.2〜3.2、または2.4〜3.1、
−C値が22よりも高い、好適には25よりも高い、例えば25〜34、または28〜33、または30〜33、および
h度値が16〜32、例えば17〜30、または17〜25。
上記の値は、上記の方法に従って測定される。
【0170】
あるいは、「赤色」という用語は、好適には以下を意味する。
−L値が40〜57、好適には42〜52、より好適には44〜48であること、
−C値が18〜40、好適には25〜35、より好適には18〜30であること、
h度値が7〜40、好適には10〜35であること、より好適には7を越えること、および
任意にaとbとの比が1〜8、好適には3〜6、より好適には4〜5であること。
上記の値は、上記の方法に従って測定される。
【0171】
本明細書中に定義されるような「紫色」という用語は好適には、上記において定義されたようなココア由来材料が粉状にされた場合、任意に脱脂を経た後に、以下を有することを意味する。
−L値が46を越える、好適には47〜57、より好適には48〜56、最も好適には50〜56、例えば、52〜56、
−任意にaとbとの比が2.3未満、例えば、1.8未満、より好適には1〜2.1、例えば、1.5〜2.1、
−C値が18未満、好適には10〜17、例えば、11〜15、および
−h度値が20〜50、好適には25〜40、または25〜30、
上記の値は、上記の方法に従って測定される。
【0172】
「赤色」および「紫色」という用語は、これらの色と波長が実質的に同じである他の色合いのもの、例えば、ピンク、モーブ、バイオレットおよびパルムも含むことが明らかである。
【0173】
よって、本発明は、上記において定義されたようなココア由来材料を提供する。当該ココア由来材料は、粉状であり、上記において定義されたようなL値、aC値、h度値、および任意にaとbとの比を有する。一例において、本発明は、粉状でありかつ表2に示すような座標値を有する脱脂ココアリカーを提供する。
【0174】
【表2】

【0175】
下流生成物
本発明の方法に従って得られる、本明細書中に定義されるようなココア生成物またはココア由来材料は、食品に導入することが可能である。本発明によるフレーバーの良いココア豆は、フレーバーの良い食品の製造に特に適している。
【0176】
良好に規定された微生物組成を用いることにより、特定の味、フレーバー、栄養および/または感覚刺激特性を有する発酵したココア豆およびココア由来材料を得ることが可能になる。
【0177】
例えば、実施形態において、本発明により、渋味および苦みが少ない、発酵したココア豆およびココア由来材料を得ることが可能になる。
【0178】
また、本発明により、強いアロマを有する発酵したココア豆およびココア由来材料が得られる。よって、ココア豆およびココア由来材料は、「ぼやけた」味のココア材料と混合するのに特に適している。
【0179】
別の実施形態において、本発明による良好に規定された微生物組成を用いることにより、任意の処理段階において人工香味添加物または天然香味添加物ならびに/あるいは植物/果実材料または植物/果実抽出物を付加する必要無く、フルーティな味、例えば、ビール、バナナ、かんきつ類、ラズベリーなどの味のココア豆およびココア由来材料を得ることが可能になる。
【0180】
さらに別の実施形態において、豆の発酵において用いられる微生物組成中において良好に規定された微生物株を用いることにより、いくつかの場合において、ココア発酵により、当該発酵した豆中のビタミン含有量、例えば、ビタミンB12の含有量を増加させることが可能になる。
【0181】
さらに別の実施形態において、発酵に用いられる微生物組成中において良好に規定された微生物株を用いることにより、殻が少なくとも部分的に分解したココア豆を得ることが可能になる。有利なことに、このような状態になったココア豆は処理がより容易になるため、ココアリカーの収率が増加する。豆の発酵に用いられる良好に規定された微生物組成を用いることにより、このような特徴が達成可能であることは、予期せぬことである。
【0182】
本発明は、1つ以上のココア豆によってかつ/または本明細書中に定義されるような1つ以上のココア生成物またはココア由来材料によって調製された食品、好適には、チョコレート製品をさらに提供し、また、このような食品の多様な用途も提供する。
【0183】
食品、例えば、チョコレートまたはチョコレート製品は、本明細書中に定義されるようなココア豆またはココア生成物あるいはこれらに由来するココア由来材料を含み、本発明に従って事前処理されなかったココア豆から得られた相当する製品と比較して、向上した特性、例えば、向上した保存安定性、向上した感覚刺激特性、例えば、より良好なフレーバープロファイル、より良好なフレーバー放出、より長持ちするフレーバー、および向上した外観))を有する。本明細書中用いられる「チョコレート」という用語は、ダークチョコレート、ミルクチョコレートまたはホワイトチョコレートを含むことを意図する。「チョコレート製品」という用語は、本明細書中に定義されるようなチョコレートを含む製品を指す。
【0184】
例えば、チョコレート製品の調製において本発明に従って発酵した豆を用いれば、特に恩恵が得られ、予期せぬ効果も得られる。
【0185】
例えば、実施形態において、本発明による発酵した豆から出発して、味が良くかつフラバノールを豊富に含むミルクチョコレートを製造することが可能になる。本発明によれば、本明細書中に記載のような制御された発酵プロセスを適用した場合、ココア豆中のポリフェノールをより多量に保存することができる。フラバノールの量を従来のミルクチョコレートと比較して1.5倍〜2倍にも増やすことが可能になる。ポリフェノールは、渋味の原因となることが知られている。しかし、驚くべきことに、本発明に従って発酵した、非常においしく香りが良い豆を用いた場合、高ポリフェノール含有量に起因する渋味を豆の優れたフレーバーにより十分に隠蔽することができる。
【0186】
別の実施形態において、本発明により、明るい色と良好なカカオの味を有するダークチョコレートを得ることができる。この種のチョコレートは、本明細書中に記載のような微生物組成を用いて発酵された豆による光中断効果によって、すなわち、豆の明るい茶色の外観によって得ることができる。本発明により、非ジャワ原産のココア豆であるにもかかわらず、L座標値およびa/b色座標値が(上述したように)ジャワ原産のココア豆に類似する、非ジャワ原産のココア豆が得られる。ジャワ産豆は一般的には、より明るい色の遺伝子型を有する。
【0187】
本発明に従って発酵された豆から調製されたココアパウダーは、味の良いパウダーであり、しかも、従来のココアパウダーよりも明るい色を有する。この種の「より色の明るい」パウダーは、高ポリフェノール含有量を有することの色の暗いココアパウダーと有利に混合することができる。その後、得られたココアパウダー混合物を用いて、より明るい色であるにもかかわらず高ポリフェノール含有量を有する食品、詳細には飲料またはドリンク類を調製することができる。
【0188】
さらに別の実施形態において、良い味でありかつ天然の味をしたココアバターを、本発明に従って発酵された豆から調製することができる。ココアバターは典型的には、その処理時において脱臭されることが多い。しかし、脱臭を行った場合、ココアバターの損失が発生し得るため、不利である。驚くべきことに、本発明に従って発酵された豆を用いてココアバターを調製した場合、ココアバターの必要脱臭量が有意に低減したことが分かった。
【0189】
別の実施形態において、本発明により、発酵した豆の再現可能性および品質安定性により、再現可能なアロマを有する優れたフレーバーのチョコレートを得ることができる。その上、比較的均一でありかつ再現可能な発酵した材料から出発してチョコレートを製造する場合でも、広範囲の味を得ることが可能である。実際、本明細書中に記載のような優れた発酵条件を制御された様態で行った結果、大量の前駆物質が発酵したココア豆中に存在する。豆のロースティング条件を調節することにより、これらの前駆物質を最適に用いることができる。換言すれば、本発明により、基本的に発酵した豆のロースティング条件を調節することにより、広範囲の異なる味を得ることが可能になる。
【0190】
ココアリカーを考えた場合も、同様の効果が得られる。比較的均一でありかつ再現可能な発酵した材料から出発してココアリカーを製造した場合でも、多くの異なる味のリカーを製造することができる。
【0191】
また、本発明により、従来知られているココアバターと比較して、他の脂肪成分のFFAがより少ない高品質ココアバターが得られる点にも留意されたい。
【0192】
以下、本発明について、下記の記載と共により詳細に説明する。言うまでもなく、これらの例は本発明の例示のために記載するものであり、本発明をいかようにも限定するものではない。
【0193】

例1:ココア豆の発酵のための、本発明による微生物組成の使用
本例は、本発明による微生物組成を用いたココア豆を発酵させる方法を天然発酵方法と比較して示す。本実験において用いられる、本発明による微生物組成は、以下の菌株を含む:ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・パラファラギニス、およびイーストサッカロマイセス・セレヴィシエ。
【0194】
本発明による微生物組成によって発酵された豆に対し、未発酵のアイボリーコースト豆(例えば、100kg)を100mlの微生物組成と混合した。その2日後、この混合物を回転させ、さらに2日間発酵させた。本実験において用いた他の実験条件を表3に示す。
【0195】
【表3】

【0196】
豆組成
本例の結果によれば、本明細書中に定義されるような微生物組成の使用によるココア豆の発酵は、従来の発酵処理よりもずっと高速であり、しかも、予期せぬことに、このように発酵がより高速であったのにも関わらず、発酵した豆中の成分の量、例えば、糖類、酸などの量は十分保たれており、従来的に発酵した豆の場合に匹敵する量であった(表3を参照)。
【0197】
さらに、前記結果によれば、本発明による微生物組成によって発酵された豆は、従来的に発酵した豆または従来技術のスターター培養物を用いて発酵された豆と比較して、ポリフェノール含有量がずっと多かった。
【0198】
豆外観および品質
得られた豆の外観については、以下が観察された。驚くべきことに、本発明による微生物組成を用いて発酵された豆は、光中断効果を示した。光中断効果があると考えられるのは、詳細には色のL値が18以上であるとき、好適には約20以上であるときである。驚くべきことに、従来的に発酵した豆または従来技術のスターター培養物を用いて発酵された豆の場合には、この光中断効果が観察されなかった。ココア豆の発酵の際に本発明による微生物組成を用いることによって得られる別の特に有益な効果として、従来的に発酵した豆または従来技術のスターター培養物を用いて発酵された豆と比較して、より少数の微生物が得られた点がある。換言すれば、本発明に従って発酵されたココア豆の場合、豆に残留している細菌量が従来的に発酵したココア豆(6日間発酵)または従来技術の微生物組成を用いて4日間発酵された豆の場合よりも少量であった。これにより、例えば、本発明に従って発酵された豆に対し、さらなる処理の前に細菌汚染を除去するために必要な細菌除去処理を減らすことができかつ/またはより浅くローストすることができるので、有利である。
【0199】
加えて、以下の品質分析を行った:豆の外観、カット試験(発酵の指標)、および感覚分析。乾燥ココア豆中の発酵レベルは典型的には、「カット試験」によって決定されることが多い。カット試験は、発酵の指標であり、色変化に基づいている。カット試験は、チョコレート製造用のココア豆の安定性評価において用いられる標準的な試験である。合計で300g豆を長手方向に沿って中央から切断して、子葉の最大切断面を露出させた。このようにして二分された豆部分双方を白昼に以下のカテゴリーに分類して調査した:完全に茶色(発酵している);部分的に茶色、部分的に紫色(部分的に発酵している);紫色(未発酵、しかし、以下を参照);スレート(過発酵);虫害あり;カビあり;または発芽あり。
【0200】
3種類の豆に対してカット試験を行った結果の概要をを表4に示す。この結果によれば、本発明による微生物組成を用いて発酵された豆の場合、その他の2種類の豆と比較して欠陥が少なく、均一性がずっと高かった。表4中、「スレート」とは、灰色の豆を指し、他の欠陥を挙げると、とくに虫の胞子または寄生虫侵入があり、豆数とは、サンプル300グラム中の豆数を指す。
【0201】
【表4】

【0202】
本スターター培養物を用いて別の実験において発酵されたココア豆に対してさらなるカット試験を行った結果の概要を表4aに示す。表4a中、並んで記載されているのは、いわゆる「グレード1」の豆に適用される基準である。グレード1の豆は極めて需要が高く、供給量が少ない(例えば、グレード1の豆が全豆収穫量に占める割合は約0.4%に過ぎない)点に留意されたい。
【0203】
有利なことに、いくつかの関連品質パラメータ、例えば、欠陥豆、カビ豆またはスレート豆の割合については、本明細書中において教示されるように発酵された豆はグレード1の豆に対しても明らかに優れている。これに関連して、豆数は発酵よりも天候によってより大きく影響を受けることが理解される。
【0204】
また、特筆すべきことに、表4および表4aから、本明細書中において教示されるように発酵された豆は、従来的に発酵した豆よりもずっと高い割合で紫色の豆を含み得る。「紫色」というパラメータは通常は豆の発酵が十分ではないことを示唆するものであるが、本明細書中の場合はこれにあてはまらない。すなわち、上述のように、本明細書中において教示されるような発酵を通じて得られた豆の色は、従来的に発酵した豆よりも明るい色(より淡色)である。実際、表4aのカット試験において「紫色」として記入されている豆の発酵を構造またはテクスチャー(図示せず)についての検査で判断したところ、当該豆の発酵は良好であった。よって、「紫色」の高いスコアが、本発明者の豆が有益な明るい色を有することを示している。
【0205】
【表4a】

【0206】
例2:ココア豆の食味実験
例1に記載のような本発明による微生物組成を用いて発酵した豆および従来的に発酵した豆に対して、味分析を行った。
【0207】
次に、真空下における60°Cよりも低い温度での緩やかな加熱時における水蒸発により、上記の表3中に記載のように調製された豆を水分含有量が10%未満になるまで乾燥させた。その後、豆をオーブン内において120°Cで30分間ローストした。その後、ロースティングによって発生したフレーバーを、このようなフレーバーの評価に精通した少なくとも5人のパネルによって評価した。スコアは、0点〜5点の点数制に基づいて評価した。あるカテゴリーにおける高スコアは、特定のフレーバーが強いことを示す。各サンプルは、「酸味」、「渋味」、「苦味」、「チョコレート」「フルーティ」、「アロマティック」、「ワイン」、「土臭さ」、「カビ」、「スモーキー」、「たるみ」、(すなわち、「オフフレーバー」)という知覚に基づいて評価をした。表5および図1は、本例に従って調製された豆に対する、食味パネルによる評価結果を示す。
【0208】
客観食味パネルによれば、本発明の方法に従って発酵された豆の結果は、例えば「ジャワ」原産の特性品質と比較して、再現可能でありかつ高品質であった。これらの結果から、豆が容易かつ高速に得られた、すなわち、従来の発酵プロセスを用いた場合よりもずっと高速である、約4日間で得られたにも関わらず、受容可能な味および品質を予期せず得ることができたことが分かる。さらに、従来の方法による豆を比較して、本発明の方法に従って発酵された豆は、オフフレーバー、例えば、土臭さ、カビ、スモーキーおよびたるみの点数が低かった。
【0209】
【表5】

【0210】
例3:チョコレートの食味実験
例1中に示す豆を用いて、チョコレートを調製した。得られたチョコレートは、52%のココア固体を含んでいた。このチョコレートに対し、少なくとも5人の食味パネルによる評価を行った。評価は、「強さ」、「苦味」、「ココアフレーバー」、「フルーティ」、「酸味」、「花のような香り」、「後味の強さ」という知覚に基づいて0〜100点のスケールで行った。この食味試験の結果を図2に示す。
【0211】
図2から理解されるようにまた食味パネルによる報告から分かるように、本発明による微生物組成を用いて発酵された豆を用いて調製されたチョコレートの場合、味が極めて均一であり、オフフレーバーは知覚されず、フルーティさおよび花のような香りが際立っていた。
【0212】
これとは対照的に、従来的に発酵した豆によって調製されたチョコレートまたは上記した微生物によって発酵された豆によって調製されたチョコレートの場合、フルーティさおよび花のような香りが低かった。また、上記した微生物によって発酵された豆によって調製されたチョコレートの場合、より酸味が高かった。
【0213】
また、本発明による微生物組成を用いて発酵された豆によって調製されたチョコレートの場合、ポリフェノール含有量が高かったと報告された。
【0214】
例4:本発明による微生物組成を用いて発酵されたココア豆
本例において、豆の発酵を箱中において行った。100kgのアイボリーコースト(Forestaro種)からの未発酵のココア豆を、以下の菌株、すなわち、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、およびラクトバチルス・パラファラギニス、ならびにイーストサッカロマイセス・セレヴィシエを含む100mlの微生物組成混合物と混合した後、2日間放置して発酵させた。その後、豆を回転させ、さらに2日間発酵させた。
【0215】
発酵時において、pHおよび温度をオンラインで管理し、4日後、乾燥され発酵された豆を回収した。pHおよび温度の測定は、デジタルセンサー(例えば、pH340iセンサー、WTWGmbl、Weilheim、ドイツ)を用いて行うことができる。このセンサーは、箱中の発酵用バイオマスの中央に配置した。
【0216】
その後、豆を(例えば、太陽乾燥により)乾燥させた。その後、乾燥した豆を120°Cで30分間ローストした。
【0217】
比較のため、アイボリーコースト(Forestaro種)からの未発酵のココア豆を従来的に6日間発酵させた後、上記と同様に乾燥およびローストさせた。
【0218】
その後、以下の特徴を測定した:終了時pH、総ポリフェノール含有量、脂肪含有量、遊離脂肪酸(FFA)の含有量、カット試験、ココアマスの色および味。
【0219】
本出願人らは、本明細書中に定義されるような微生物組成を用いたココア豆の発酵は、豆の処理を向上される有益な効果があったと判断した。特に、得られた豆の場合、多大な労力を必要とする乾燥工程を減らすことができた。また、乾燥時のカビ成長も無く、乾燥後にきれいな豆が得られた。その上、得られた豆は良好な茶色をしており、十分に発酵していることも分かった。
【0220】
図3は、食味パネル実験の結果を示す。図3は、本明細書中に定義されるような微生物組成による発酵を4日間行った結果得られたココア豆は、良好な味を示し、受容可能なココアの味の最低レベルから最高レベルにわたる範囲内であった。図3に示すようにおよび客観食味パネルによれば、短めの発酵期間(例えば、4日間)を経て得られた豆の場合でも、得られた豆は良好なフレーバーであり、オフフレーバーは全く知覚されなかった。
【0221】
図4は、本明細書中に定義されるような微生物組成による発酵を4日間行った3つの異なる豆サンプルそれぞれに対して食味パネル実験を行った結果を比較したものである。理解されるように、各食味試行時において、ココア豆は良好な食味を示し、受容可能なココアの味の最低レベルから最高レベルにわたる範囲内であった。図4を参照して、本方法および得られた豆の食味の再現性は高いと結論付けることができる。
【0222】
図3および図4から分かるように、本明細書中に定義されるような微生物組成の使用により、再現性が高くかつ高品質の豆が得られ、わずか4日間の発酵だけで良好な食味のココアマスを得ることができ、本例における3つの別個のトライアル中において、オフフレーバーは実質的に検出されなかった。
【0223】
さらに、本出願人らによれば、本発明による微生物組成を用いて発酵した豆は、従来的に発酵した豆と比較してFFA含有量が格段に低かったことが分かった。自然発酵した豆中では8%を越えるFFA値が測定されたが、本発明による微生物組成を用いて発酵された豆中で測定されたFFAレベルは0.3〜0.6%(±0.3%)であった。
【0224】
加えて、欠陥については、本出願人らによれば、自然発酵豆中で検出された欠陥、例えば、平坦な豆、感染豆などが4%を超えていたのに対し、本発明による微生物組成を用いて発酵された乾燥豆中で検出された欠陥は0.5%を超えなかったことがわかった。
【0225】
また、図5は、本発明による微生物組成を用いて発酵された豆において、従来的に発酵した豆と比較すると、一般的にポリフェノールの量(%で示す)、詳細にはエピカテキンの量(mg/gで示す)が格段に多く測定されたことを示す。詳細には、図5に示すように、本発明による微生物組成を用いて発酵された乾燥豆を従来的に発酵および乾燥を行った豆と比較したところ、本発明による微生物組成を用いて発酵された乾燥豆中の天然ポリフェノールの保持含有量が2倍高く、また、本発明による微生物組成を用いて発酵された乾燥豆中のエピカテキン含有量も大きく増加していた。
【0226】
最後に、本出願人らによれば、適用された発酵方法(例えば、箱中、堆積された状態、バスケット)から独立して、同様の結果を得ることができたことが分かった。すなわち、全ての方法から、同じ結果および品質を得ることができた。どの発酵方法を用いた場合でも、豆欠陥は実質的に見つからず、豆の品質も高かった。また、図6に示すように、堆積バスケット発酵の場合において、4つの異なるトライアルを実施した結果、発酵の温度およびpHプロファイルの再現性は高かった。
【0227】
概要を述べると、本明細書中に定義されるような微生物組成をココア豆の発酵の操作のために用いることにより、以下の特徴を有する発酵豆を得ることが可能である。
−状態がきれいでありかつ保存が容易な豆であって、実質的な欠陥が無く、実質的な菌成長が検出されず、顕著な発芽も無い豆、
−遊離脂肪酸含有量の少ない豆(FFA値が0.5wt%未満)、
−処理性の高い、高品質の豆、
−顕著なオフフレーバーの無い、再現可能なアロマ食味の豆。
【0228】
例5:本発明による微生物組成を用いて発酵されたココア豆の外観
例1において説明したような条件と同様の条件下において、ココア豆を発酵させた。その結果得られた発酵豆は、光中断効果を示した。驚くべきことに、この光中断効果は、従来的に発酵した豆においては観察されなかった。表6は、本発明に従って発酵されたココア豆サンプルと、本明細書中に定義されるような微生物組成を用いずに従来的に発酵したココア豆サンプルとについて、ハンターカラー方式座標を比較した結果である。
【0229】
【表6】

【0230】
上記の結果から、L値が大幅に異なっており、本発明に従って発酵された豆の方が、従来的に発酵した豆よりもL値が高いことが明らかである。そのため、本発明に従って発酵した豆をチョコレートに加工した場合、チョコレート業界および顧客からの需要が高い、より明るい色のチョコレートを得ることが可能になる。比較のため、本発明に従って発酵された豆のL値は、ジャワ産豆のL値に匹敵する。ジャワ産豆は、色がより明るく、値が20付近であることが従来から知られている。典型例において、ジャワ産豆の値は、L=20、a=17およびb=20である。
【0231】
例6:本発明による微生物組成を用いて発酵されたココア豆の処理可能性
発明者によれば、本明細書中に教示のように発酵された豆により、豆の下流処理において多くの点で改善がみられたことがさらにわかった、例えば、従来のBuhlerラインまたはBarthラインを用いる場合があげられる。Barthラインを用いたパイロットトライアルにおいて、従来的に発酵した豆と比較して全般的処理効率を30〜50%上げることができ、それに付随して、エネルギーコストおよびメンテナンスコストも低減できた。このような処理効率の全般的向上において、下流処理の個々の段階における向上もみられた。例えば、マイクロナイズ処理および選穀の処理速度を約28%上げることができ、混合およびロースティングの処理速度をそれぞれ約100%上げることができ、さらなる最適化への余地が生まれた。冷却処理速度も約200%上がった。このトライアルにおいて、粉砕は約30〜40%向上した。
【0232】
さらに、本明細書中に教示のように発酵された豆により、リカー圧搾の高速化も可能になる。さらに、本明細書中に教示のように発酵された豆により、向上したチョコレートレオロジーが得られ、その結果、チョコレート製品中のココアバター量の低減が可能になり、その結果コスト削減に繋がる。
【0233】
BarthラインおよびBuhlerラインそれぞれに関する表7および表8に示すように(平均出力値および最高出力値を参照)、本発明者らによれば、粉砕処理の出力が大幅に向上していることも分かった。
【0234】
【表7】

【0235】
【表8】

【0236】
例7:本発明の他の微生物組成を用いた実験
以下の菌株およびイースト株を含む微生物培養物を用いた以外は例1の一般的条件と同一条件下において、ココア発酵を行った。
組成I:ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・ファラギニス、サッカロマイセス・セレヴィシエ。
組成II:ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・ディオリボランス、サッカロマイセス・セレヴィシエ。
組成III:ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・フェニ、サッカロマイセス・セレヴィシエ。
組成IV:ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・パラカゼイ、サッカロマイセス・セレヴィシエ。
組成V:ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・パラファラギニス、ラクトバチルス・ファラギニス、サッカロマイセス・セレヴィシエ。
組成Vl:ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・パラファラギニス、ラクトバチルス・ディオリボランス、サッカロマイセス・セレヴィシエ。
【0237】
スターター組成I〜VIを用いて発酵させた豆を調査したところ、例1の微生物組成を用いた場合の発酵豆に匹敵する利点が、例2〜例6に示すように見られた。詳細には、スターター組成I〜Vlを用いて発酵させた豆の場合も、ココア豆の発酵指標(カット試験基準、着色)、発酵豆の外観および/または感覚特性、例えば、感覚特性、ロースト豆の有機酸、糖アルコール、ポリフェノール、テオブロミンまたはカフェイン含有量、ならびに/あるいは感覚刺激特性(味、フレーバー、アロマ、テクスチャー、色、レオロジー、結晶化挙動など)、栄養的特性、技術的特性、ココア生成物、特にチョコレートの品質特性(アロマ、食味、フレーバー、脂肪酸組成、ポリフェノール含有量、テオブロミン含有量、カフェイン含有量など)の制御が可能となる。スターター組成I〜VIを用いて発酵された豆において、例5に示される光中断効果に匹敵するものがみられ、例6に教示されるような処理の向上に匹敵するものがみられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テオブロマカカオ種の果実鞘から抽出された豆および/またはパルプから本質的になる植物材料の発酵の調節のための微生物組成の使用であって、前記組成は、
−ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、およびアセトバクター属酢酸菌と、
−少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属であって、ラクトバチルス・パラファラギニス、ラクトバチルス・ファラギニス、ラクトバチルス・ディオリボランス、ラクトバチルス・フェニおよびラクトバチルス・パラカゼイからなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属と、
−サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択される属のイースト種の少なくとも1つの株と、
を含む、使用。
【請求項2】
前記組成は、
−ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ファーメンタム、アセトバクター属酢酸菌、ラクトバチルス・パラファラギニスと、
−サッカロミセスおよびカンジダからなる群から選択された属のイースト種の少なくとも1つの株と、
を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記組成は、ラクトバチルス・ファラギニス、ラクトバチルス・ディオリボランス、ラクトバチルス・フェニおよびラクトバチルス・パラカゼイからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるラクトバチルス属をさらに含む、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記イーストはサッカロマイセス・セレヴィシエである、請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
前記組成は、表1に示すような組成A〜Oのうちのいずれかである、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記組成は、スターター培養物または高密度培養物であり、植物材料1gあたり少なくとも10個のCFU(コロニー形成単位)の菌株を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
テオブロマカカオ種の果実鞘から抽出された豆および/またはパルプから本質的になる植物材料の発酵を調節する方法であって、前記方法は、請求項1〜6のいずれかに記載の微生物組成を前記植物材料に付加する工程を含む、方法。
【請求項8】
テオブロマカカオ種の果実鞘から抽出された豆および/またはパルプから本質的になる発酵した植物材料であって、前記植物材料は好適には発酵したココア豆であり、請求項7に記載の方法を実施することによって得られる、植物材料。
【請求項9】
テオブロマカカオ種の果実鞘から抽出された豆および/またはパルプから本質的になる発酵した植物材料であって、前記植物材料は好適には発酵したココア豆であり、請求項7に記載の方法を実施することによって得ることが可能である、植物材料。
【請求項10】
赤色または紫色のココア由来材料を発酵した豆から精製する方法であって、
a)請求項1〜6のいずれかに記載のような微生物組成と共に発酵されたココア豆を準備する工程と、
b)工程a)の前記発酵した豆からココア由来材料を調製する工程と、
c)工程b)の前記ココア由来材料を酸または酸性水溶液によって処理する工程と、
を含み、
前記ココア由来材料は、ココアニブ、ココアフレーク、ココアケーク、ココアパウダー、ココアリカーおよびチョコレートからなる群から選択され、好適にはココアニブまたはココアリカーからなる群から選択される、
方法。
【請求項11】
発酵したココア豆であって、前記発酵したココア豆は好適にはパウダー状またはココアリカー状の発酵したココア豆であり、ハンターカラー方式によるL値が18を超える、発酵したココア豆。
【請求項12】
発酵したココア豆であって、前記発酵したココア豆は好適には請求項11に記載のパウダー状またはココアリカー状の発酵したココア豆であり、非ジャワ原産である、発酵したココア豆。
【請求項13】
発酵したココア豆、前記発酵したココア豆は好適には請求項11に記載のパウダー状またはココアリカー状の発酵したココア豆であり、テオブロマカカオ亜種カカオクローンDR2、DRC16、ICRRI01およびICRRI02ならびに任意にこれらの交配種からのものではない、発酵したココア豆。
【請求項14】
発酵したココア豆であって、
(a)3%未満のスレート豆、好適には2%未満のスレート豆、より好適には1%以下のスレート豆、例えば、0〜1%のスレート豆、および/または
(b)3%未満の欠陥豆、好適には2%未満の欠陥豆、より好適には1%以下の欠陥豆、例えば、0〜1%の欠陥豆、および/または
(c)11%を超える紫色の豆、好適には15%以上の紫色の豆、より好適には30%以上の紫色の豆または好適には40%以上の紫色の豆、
を含むことを特徴とする、発酵したココア豆。
【請求項15】
前記の特徴(a)および(c)または(a)および(b)および(c)の組み合わせによって特徴付けられる、請求項14に記載の発酵したココア豆。
【請求項16】
発酵したココア豆であって、
(d)3%未満のカビ豆、好適には2%未満のカビ豆、より好適には1%以下のカビ豆、例えば、0〜1%のカビ豆、および/または
(e)3%未満の破損豆、好適には2%未満の破損豆、より好適には1%以下の破損豆例えば、0〜1%の破損豆、および/または
(f)3%未満の発芽豆、好適には2%未満の発芽豆、より好適には1%以下の発芽豆、例えば、0〜1%の発芽豆、
をさらに含む点において特徴付けられる、請求項14または15に記載の発酵したココア豆。
【請求項17】
乾燥ココア固体を含む明るい色のチョコレートであって、前記乾燥ココア固体は非ジャワ原産であり、好適にはテオブロマカカオ亜種カカオクローンDR2、DRC16、ICRRI01およびICRRI02ならびに任意にこれらの交配種からのものではない、チョコレート。
【請求項18】
35%w/w以上の乾燥ココア固体を含み、粉乳固体を含まない、請求項17に記載のチョコレート。
【請求項19】
ハンターカラー方式によるL値が18を超える、請求項17または18に記載のチョコレート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−500031(P2013−500031A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522173(P2012−522173)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/061043
【国際公開番号】WO2011/012680
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(508157299)バリー カレボー アーゲー (10)
【Fターム(参考)】