説明

コハク酸を含む鼻腔内医薬品組成物

本発明は、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳虚血、及び脳卒中による神経障害からなる群から選択される疾病を予防及び/又は治療するための鼻腔内医薬品組成物であり、コハク酸又はコハク酸の薬学的に許容可能な塩の治療的有効量、及び薬学的に許容可能で、鼻腔内に許容可能なキャリヤを含む鼻腔内医薬品組成物に関する。さらに、本発明は、本発明の組成物を用いることによって、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳虚血、及び脳卒中による神経障害からなる群から選択される疾病を予防及び/又は治療するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経変性病の予防及び/又は治療のための、コハク酸又はコハク酸の薬学的に許容可能な塩を含む鼻腔内医薬品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インスリンは、学習と記憶を含む脳の機能の多様性を調節するために、脳内で働くという十分な証拠がある。アルツハイマー病やパーキンソン病のような神経変性病は、中枢インスリン抵抗性を伴う(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)。このように、神経変性病を治療するためには、中枢インスリン感受性を改善する必要がある。
【0003】
特許文献1には、コハク酸又はコハク酸の薬学的に許容可能な塩の有効量を治療を必要としている哺乳類に投与することを含むインスリン抵抗性の治療方法が開示されており、ここでは、前記コハク酸又はコハク酸の薬学的に許容可能な塩は経口投与、非経口投与、局所投与、又は直腸内投与される。しかしながら、特許文献1に開示された投与経路では、血液脳関門(BBB)を通過する炭素が4つのジカルボン酸塩の輸送能力が非常に低いために、コハク酸は中枢作用を示さなかった(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6521665号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Craft S,Neurobiol Aging 2005,26(Suppl 1):65−9
【非特許文献2】Hoyer S,Eur J Pharmacol 2004,490(1−3):115−25
【非特許文献3】Steen E et al.,J Alzheimers Dis 2005,7:63−80
【非特許文献4】Moroo I et al.,Acta Neuropathol(Berl).1994;87(4):343−8
【非特許文献5】Hassel B et al,J Neurochem 2002;82(2):410−9
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
驚いたことに、本発明では、鼻腔内投与でコハク酸が中枢作用を示すことが実証された。
【0007】
本発明の目的は、神経変性病を予防及び/又は治療するための、コハク酸又はコハク酸の薬学的に許容可能な塩の治療的有効量を含む鼻腔内医薬品組成物を提供することである。
【0008】
本発明の目的は、コハク酸又はコハク酸の薬学的に許容可能な塩の治療的有効量を含む医薬品組成物を鼻腔内投与することを含む神経変性病を治療する方法を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳虚血、及び脳卒中による神経障害からなる群から選択される疾患を予防及び/又は治療するための、コハク酸又はコハク酸の薬学的に許容可能な塩の治療的有効量、及び薬学的に許容可能で、鼻腔内に許容可能なキャリヤを含む鼻腔内医薬品組成物を提供する。
【0010】
「薬学的に許容可能な塩」という用語は、非毒性の塩基の添加塩を指す。本発明の薬学的に許容可能な塩は、当技術分野で公知の方法により、コハク酸と薬学的に許容可能な塩基の反応により調製される。前記の塩基は、アンモニア;ナトリウム塩基;カリウム塩基;トリエチルアミン、エタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミンのような有機アミン;2−エチル−6−メチル−3−ヒドロキシピリジン;及びアルギニン、オルニチン、及びリジンのような塩基性アミノ酸を含むが、これらに限定されない。
【0011】
「治療的有効量」という用語は、非毒性であるが、コハク酸又はコハク酸の薬学的に許容可能な塩が望ましい治療効果をもたらすのに十分な量を指す。好ましくは、コハク酸又はコハク酸の薬学的に許容可能な塩の前記治療的有効量は、本発明の組成物の単位投与形態当たり0.01から30mgであり、さらに好ましくは、単位投与形態当たり5から15mgである。
【0012】
「鼻腔内投与」という用語は、鼻上皮のあらゆる部分に前記組成物を送達することを指す。
【0013】
「薬学的に許容可能で、鼻腔内に許容可能なキャリヤ」という用語は、哺乳類、好ましくはヒトの鼻上皮のあらゆる部分への投与に適する1種類以上の混合可能な固体又は液体賦形希釈剤又は封入物質を指す。典型的には、前記キャリヤは液体、溶液、懸濁液、ゲル、軟膏、ローション、又はそれらの組み合わせでもよい。好ましくは、前記キャリヤは薬学的に許容可能な水性のキャリヤである。
【0014】
本発明の前記組成物は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,seventeenth edition,ed.Alfonso R. Gennaro,Mack Publishing Company,Easton,Pa.,Eighteenth edition(1990)に記載されたような一般に認められた薬学的手法に従って当技術分野で公知の方法により調製できる。
【0015】
本発明の前記組成物は、様々な単位投与形態に応じて調製される。前記の形態は、点鼻薬、鼻腔用スプレー、鼻腔用ゲル、鼻腔用軟膏、及び鼻腔用パウダーを含むがこれらに限定されない。コハク酸又はコハク酸の薬学的に許容可能な塩の含有量は、前記組成物の0.1から90重量%、好ましくは0.5から10重量%である。
【0016】
さらに、本発明は、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳虚血、及び脳卒中による神経障害からなる群から選択される疾病を予防及び/又は治療するための方法を提供するものであり、前記方法は、コハク酸又はコハク酸の薬学的に許容可能な塩の治療的有効量、及び薬学的に許容可能で、鼻腔内に許容可能なキャリヤを含む医薬品組成物を治療を必要とする哺乳類に鼻腔内投与することを含む。
【0017】
本明細書で用いられるところの「疾病を治療すること」という用語は、治療を必要とする哺乳類の疾病の1つ以上の臨床兆候(つまり、症状)を治療すること、制御すること、予防すること、及び/又は緩和させることを意味する。
【0018】
好ましくは、本発明の前記方法での治療的有効量は、哺乳類の体重の1キログラム当たり0.01から5mgであり、さらに好ましくは1キログラム当たり0.1から1mgである。
【0019】
本発明の哺乳類の例は、ヒト、及び猫や犬のようなコンパニオンアニマルを含む。好ましくは、前記哺乳類はヒトである。
【0020】
以下の実施例は、本発明を説明するために記載される。これらの実施例は例示目的のみであり、本発明の範囲を限定する意図は全くない。
【実施例1】
【0021】
本実施例では、コハク酸又はコハク酸の薬学的に許容可能な塩を含む鼻腔内投与組成物を説明する。
【0022】
【表1】

【0023】
コハク酸を注入用の水に溶解し、望ましい体積とし、0.4Mのリン酸ナトリウムを添加し、pHを5.0とした。このようにして、50mg/mlの濃度のコハク酸の溶液を調製した。前記溶液を滅菌グレードのろ紙(0.2μm)でろ過し、USP/Ph Eur 1型ガラスバイアルに充填し(呼びスプレー体積100μL)、クロロブチルストッパーで封をした。前記バイアルを商業的に入手可能な単位用量鼻腔用スプレー装置に組み立てる。前記の組み立てた装置は、1回の投与で5.0mgのコハク酸の単位用量を送達するために用いられてもよい。前記の充填した鼻腔用スプレー装置は、光から保護するために、プラスチックのトレイで包装し、カートン内に載置する。
【0024】
患者がコハク酸の殺菌した溶液を含む鼻腔用スプレー装置から包装を除去した後、前記装置のノズルを鼻孔内に挿入し、1回の用量を投与する。
【実施例2】
【0025】
本実施例は、治療を必要とする哺乳類の神経変性疾患を治療する方法を説明する。
【0026】
ヒトアルツハイマー病に関する疾患は、Harkany T et al. in Behav Brain Res.1998 90(2):133−45に記載されているように、ベータ−アミロイドペプチド25−35(ベータ−アミロイド)をラットの脳の基底核大細胞(nucleus basalis magnocellularis)(NBM)に注入することによって誘発された。雄のウィスター系ラットのNBMの左右両方に、各側に2μg用量のベータ−アミロイドを投与した。アミロイドを注入した16日後に、ラットの鼻腔内又は腹腔内にコハク酸の1mg/kgの水溶液を含む組成物を、1日1回、7日間投与した。対照ラットには、鼻腔内に生理食塩水を投与した。治療の最終日の翌日に、連続2日間、ラットで受動的回避試験を行った。明室(25×40×25cm)と、電気の流れるグリッドの床を取り付け、ギロチンドア(8×8cm)で分けた暗室(25×40×25cm)とを備えた通り抜けられる2つの部屋を有する受動的回避装置を用いた。習得試験では、装置に慣れるまで2分間、ラットの尾が閉じられたドアに向くように、ラットを明室に入れた。前記ギロチンドアを開き、暗室に入るまでの時間を記録した。ラットが暗室に完全に入ったとき(暗室に4歩入ったとき)、前記ギロチンドアを閉め、ラットに前記グリッドの床を通して0.8mAで3分間、電気ショックを与えた。電気ショックの後、ラットをすぐにホームケージに入れた。前記習得試験の24時間後に行った保持試験では、ラットを明室に入れ、暗室に入るまでの保持遅延時間を、180秒が経過するまで記録した。もしラットが暗室に180秒間で入らない場合、遅延時間は180秒間とした。データは、保持遅延時間の平均±SD(n=8)で表した。
【0027】
【表2】

【0028】
このように、コハク酸を含む組成物の鼻腔内投与は、腹腔内投与に比べ、非常に効果的である。鼻腔内で治療したラットは対照ラットに比べ学習と記憶とで顕著な改善を示したが、腹腔内で治療したラットでは改善は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルツハイマー病、パーキンソン病、脳虚血、及び脳卒中による神経障害からなる群から選択される疾病を予防及び/又は治療するための鼻腔内医薬品組成物であり、コハク酸又はコハク酸の薬学的に許容可能な塩の治療的有効量、及び薬学的に許容可能で、鼻腔内に許容可能なキャリヤを含むことを特徴とする鼻腔内医薬品組成物。
【請求項2】
アルツハイマー病、パーキンソン病、脳虚血、及び脳卒中による神経障害からなる群から選択される疾病を予防及び/又は治療するための方法であり、コハク酸又はコハク酸の薬学的に許容可能な塩の治療的有効量、及び薬学的に許容可能で、鼻腔内に許容可能なキャリヤを含む医薬品組成物を治療を必要とする哺乳類に鼻腔内投与することを含むことを特徴とする方法。

【公表番号】特表2010−535199(P2010−535199A)
【公表日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519170(P2010−519170)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際出願番号】PCT/RU2007/000421
【国際公開番号】WO2009/022934
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(510024237)ブッダ バイオファーマ オイ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】