説明

コバルトの電解採取方法

【課題】コバルト含有溶液からのコバルトの電解採取において、コバルトが電着した陰極板からのコバルト剥離回収作業の能率を向上させる。
【解決手段】本発明は、陽極板1と陰極板2とを備えたセル10中で、当該陽極板1から隔膜3を介して隔てられた陰極板2にてコバルトを電解採取するに際して、コバルトの電解採取を行いつつ、陰極板2側にコバルトを含む電解液を給液し、陰極板2側の電解液4のpHを1.5から2の間で保持することを特徴とするコバルトの電解採取方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルト含有溶液からコバルトを電解採取により製造する方法に関し、さらに詳しくは、電着したコバルトを容易に回収することができるコバルトの電解採取方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高純度コバルトの製造方法である電解採取法は、硫酸系の溶液を電解液として不溶性陽極を用いて目的金属を電解還元し、陰極面上に目的金属を析出させる方法である。
【0003】
このとき、陽極は導電体として働き、水素ガスを発生させ、電解液に侵されないものが望まれる。一方、陰極は還元反応により金属が析出するが、一般的に陰極材料としては目的金属と同じ純金属を母板として使用する場合と、異なる金属を使用して析出後に剥ぎ取る場合とがある。
【0004】
しかし、コバルトの電解採取において、目的金属を陰極材の母板とすると極めて高純度のコバルト極板を用意する必要があり実用上非常に困難であり、現在はSUS(ステンレス鋼)やチタン等の金属が用いられることが多い。
【0005】
陰極材としてSUS(ステンレス鋼)やチタン等の金属を用いると、電着したコバルトを回収するためにはコバルトを剥離する必要があり、一定量のコバルトを電着させた陰極母材を電解槽から抜き出し、コバルトの剥離作業が人手又は機械によって行われている。コバルトを剥離した陰極母板は電解槽へ戻され、繰り返し使用される。
【0006】
このとき陰極母板は、この剥離作業の際に剥離具によって傷つけられることがある。こうして、陰極母材の表面が荒れたり傷ついたりしていると、次の電着操作後におけるコバルトの剥離性が悪くなる。電着したコバルトの剥離性が悪いと作業能率の悪化及び操業全体の能率が低下するという点で望ましくない。また、コバルトは電着応力の大きな金属であり、電解液の液性、液温などの電解条件によっては電着応力が更に加速され、その結果通電中に電着物が自然剥離することがあり、これがショートの原因となる。そのため、陰極母板からコバルトを剥離処理する前に、電着操作時のショートの原因となる自然剥離を起こさない程度の剥離性を持たせることが求められている。
【0007】
電解採取における目的金属の剥離性向上のために、例えば、特許文献1(特開平5−65684)に記載される如く、陰極母板をロールブラシで研磨する方法や剥離剤を塗布する方法が提案され、
また、自然剥離を防止するために、特許文献2(特開平11−350179)に記載される如く、陰極母板にアルミニウム板を用い、採取したコバルトを水酸化ナトリウム溶液で洗浄する方法、
更には特許文献3(特開2008−308742)に記載される如く、陰極板の表面粗さを、5点標準粗さで(Rz)で表した値で10〜20μmになるように粗さ調整する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平05−065684号公報
【特許文献2】特開平11−350179号公報
【特許文献3】特開2008−308742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記文献に記載された技術では新たな設備や工程が必要で手間とコストがかかり、薬剤も使用するため回収したコバルトに不純物が混入する可能性があるという問題があった。
【0010】
本発明は、コバルト含有溶液からのコバルトの電解採取において、コバルトが電着した陰極板からのコバルト剥離回収作業の能率を向上させることのできる電解採取方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(5)にて記される。
(1)陽極板と陰極板とを備えたセル中で、当該陽極板から隔膜を介して隔てられた陰極板にてコバルトを電解採取するに際して、コバルトの電解採取を行いつつ、陰極板側にコバルトを含む電解液を給液し、陰極板側の電解液のpHを1.5から2の間で保持することを特徴とするコバルトの電解採取方法。
(2)(1)に記載の方法において、陰極板側に給液する電解液の量を一定とすることを特徴とするコバルトの電解採取方法。
(3)(2)に記載の方法において、陰極板側に給液する電解液の給液流量V(L/Hr)が
V=(D/20)*(0.8〜1.2)
D:1時間当り、陰極板1枚当りの理論電着量(g/Hr)
の式の範囲内であることを特徴とするコバルトの電解採取方法。
(4)(1)〜(3)のいずれか一項に記載の方法において、リチウムイオン電池の破砕、浸出処理を経て得られたコバルト含有電解液を、前記陰極板側に給液することを特徴とするコバルトの電解採取方法。
(5)(4)に記載の方法において、給液する電解液のpHが1.0〜2.5であることを特徴とするコバルトの電解採取方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、コバルト含有溶液からのコバルトの電解採取において、電着したコバルトを陰極板から容易に剥離することができ、通電中での自然剥離もせず、コバルトの剥離回収作業の能率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を実施するための装置の一態様の概略を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態であり、コバルト含有溶液からのコバルトの電解採取において、コバルト剥離回収作業の能率を向上させることのできる電解採取方法を以下に説明する。
【0015】
図1に、本発明を実施するための装置の概略を示す。
セル10には、陽極板1と陰極板2とを備え、陽極板1と陰極板2とは隔膜3を介して隔てて設けられており、電解液4は陽極板1と陰極板2との間でpHに差が生じると隔膜3を介してpHの低い方から高い方、すなわち液中の水素イオン濃度が高い方から低い方へ移動する。
【0016】
本実施形態で用いるコバルト含有溶液としては、リチウムイオン電池の処理を行って得られる主に硫酸を含むコバルト含有溶液、銅製錬で得られるコバルト含有溶液、電池リサイクルで得られるコバルト含有溶液が挙げられる。電解液中に含まれるコバルトの濃度は、特に限定されるわけではないが、おおよそ40〜90g/Lの範囲である。ここで、コバルト濃度が高すぎると、硫酸コバルトの溶解度以上になり、硫酸コバルトが析出し、逆にコバルト濃度が小さすぎると、長時間電解ができなくなることがある。
本発明の実施形態で用いられる陰極板は、SUS(ステンレス鋼)やチタン等の金属板全てが対象であり、その種類に左右されない。
【0017】
コバルトの電解採取において、陽極板1側で以下の反応が起こり、
2O→1/2O2+H++2e-
一方で陰極板2の表面にはコバルトが電着する。陽極板1側では、発生した水素イオンによって電解液の水素イオン濃度が上がり、電解液のpHが低下する。陰極板2側にpHの低い液が隔膜3を介して移動するとコバルトの電着状態に影響する。すなわち、イオン化傾向が水素イオンよりも大きいコバルトの方が水素イオンよりも陽イオンになりやすいため、陰極板2の表面に電着したコバルトがコバルトイオンになり、電解液に溶け出してしまう。そこで、陰極板2側での電解液のpHの低下を防止するために陰極板2側に、コバルト含有の電解液を給液する。このとき一定量の供給とすることが好ましく、例えば給液量は以下の式で計算される。
【0018】
V=D/20*(0.8〜1.2)
V:1時間当りの給液流量(L/Hr)
D:1時間当り、陰極板1枚当りの理論電着量(g/Hr)
【0019】
給液流量が上記の式の範囲を下回ると陰極板2側の電解液のpHが低下し、剥離性が低下することがある。また、給液流量が上記の式の範囲を上回ると、コバルトの陰極板からの剥離性が向上しすぎて、コバルトが自然剥離することがある。
なお、1時間当り、陰極板1枚当りの理論電着量D(g/Hr)は以下の式で計算される。
D=電流値(A)×通電時間(s)÷ファラデー定数÷Co価数2×Co分子量(58.93)
【0020】
給液する電解液のpHは1.0〜2.5、好ましくは1.5〜2に調整し、pHが小さすぎると剥離性が低下することがある。pHが大きすぎるとコバルトの陰極板からの剥離性が向上しすぎて、コバルトが自然剥離することがある。
【0021】
供給電解液の供給量およびpHを上述したように管理して、陰極板2側のpHを1.0〜2.5、好ましくは1.5〜2を維持する。
なお、コバルトを電解回収後の電解後液は、適宜電解槽から抜き取っておいてもよい。
【実施例】
【0022】
(実施例)電着コバルトの剥離性が良好な場合:
図1に示した装置を用いて、コバルト濃度が70g/Lであるコバルト含有溶液の電解処理を行った。
通電する際の電流密度を200A/m2とし、計算された理論電着量D=450(g/Hr)から1時間あたりの給液量を計算し、V=18〜27(L/Hr)という値を得た。
そこで、pH1.5の電解液の給液流量を20(L/Hr)で、図1に示す陰極板2側から給液し、陰極板2側の電解液のpHを1.5〜1.7の範囲で維持し、電解を行った。
尚陰極板2は、図1に示すように隔膜により覆われている。
【0023】
その結果、電着したコバルトは手でも簡単に剥がせる程剥離性がよく、電解処理のための通電中に自然剥離してショートすることもなかった。
【0024】
(比較例1)給液流量が少なく、給液pHも低い場合:剥離性が悪化
通電する際の電流密度を200A/m2とし、計算された理論電着量D=450(g/Hr)から1時間あたりの給液量を計算し、V=18〜27(L/Hr)という値を得た。
しかしpHが低いpH1.4の電解液であって、給液流量が10(L/Hr)と少ない場合は、電着したコバルトは、たがねなどの冶具を用いても剥離することはできないほど密着していた。
【0025】
(比較例2)給液のpHがpH1.8と高いが、給液流量が少ない場合:剥離性が悪化
通電する際の電流密度を200A/m2とし、計算された理論電着量D=450(g/Hr)から1時間あたりの給液量を計算し、V=18〜27(L/Hr)という値を得た。
しかしpHを高く、pH1.8とした場合であっても、その電解液の給液量が10(L/Hr)と低い場合は、電着したコバルトは、たがねなどの冶具を用いても剥離することはできないほど密着していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極板と陰極板とを備えたセル中で、当該陽極板から隔膜を介して隔てられた陰極板にてコバルトを電解採取するに際して、コバルトの電解採取を行いつつ、陰極板側にコバルトを含む電解液を給液し、陰極板側の電解液のpHを1.5から2の間で保持することを特徴とするコバルトの電解採取方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、陰極板側に給液する電解液の量を一定とすることを特徴とするコバルトの電解採取方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、陰極板側に給液する電解液の給液流量V(L/Hr)が
V=(D/20)*(0.8〜1.2)
D:1時間当り、陰極板1枚当りの理論電着量(g/Hr)
の式の範囲内であることを特徴とするコバルトの電解採取方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法において、リチウムイオン電池の破砕、浸出処理を経て得られたコバルト含有電解液を、前記陰極板側に給液することを特徴とするコバルトの電解採取方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、給液する電解液のpHが1.0〜2.5であることを特徴とするコバルトの電解採取方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−92447(P2012−92447A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218573(P2011−218573)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】