説明

コラーゲン材及びその製法

【課題】 コラーゲンが本来有する生化学的特性を保持しながらも縫合可能な程度の物性を有し、生体への適用後もある程度の期間その形状を保持することのできるコラーゲン材、その製造方法、及びそれに基づく医用材料を提供する。
【解決手段】 コラーゲン材であって、コラーゲンの超微細線維を基本単位とする不織布状多元構造体のマトリックス中に、生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質を充填してなる又は介在させてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲン超微細線維性不織布状多層体のマトリックス中、又は生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質の不織布状のマトリックス中に、生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質を含有してなるコラーゲン材、該コラーゲン材を含む特定形態の材料、該材料からなる医用材料及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医用材料として用いられる各種素材のうち動物由来のコラーゲンは、生体親和性及び組織適合性に優れ、抗原性が低く、宿主細胞の分化・増殖を促進させる作用を有し、止血作用を有し、生体内で完全に分解吸収されることから、医用材料の素材として特に優れた特性を有している。動物由来のコラーゲンとしては、現在、I〜XIX 型までが発見されており、このうちI〜V型コラーゲンが、医用材料として多様な方法で使用されている。なかでも細胞外マトリックスとして有用なI型コラーゲンが最も多く使用されている。これらのコラーゲンは、ウシ、ブタ、トリ、カンガルーなどの動物の皮膚、骨、軟骨、腱、臓器などの各種器官の結合組織から、酸可溶化法、アルカリ可溶化法、中性可溶化法、酵素可溶化法などによって抽出及び精製されたものである。従来使用されている抽出コラーゲンは、分子レベルでは、モノマー〜オリゴマー程度にまで分解されたものであり、粉末状又は液状で保存される。これらの抽出コラーゲンは、コラーゲン分子がモノマー〜オリゴマー程度に分解された状態であるため、水、体液又は血液などと接触すると、極めて早くゾル化してしまう。このため、これらのコラーゲンを医用材料として成形して用いる際には、加工時にある程度の強度を持たせるために、ナイロン、シリコーンなどの合成高分子材料の表面をコラーゲンで被覆して使用するか、あるいは生体に適用した場合にある程度の期間その形状を保持させるために、抽出コラーゲンの成形物を、架橋剤による化学的架橋処理、あるいは、放射線、電子線、紫外線、又は熱などによる物理的架橋処理に付して使用している。また、これらの抽出コラーゲンは、糸状に加工されて、医療用の糸としても使用されるが、その紡糸には、湿式紡糸法が採用されている。
【0003】
しかし、コラーゲンを合成高分子材料と組み合わせた材料の場合、合成高分子材料が生体内に異物として残存し、肉芽形成、炎症などの障害を引き起こし易く、また、このような材料を全ての細胞や臓器に適用することはできない。また、コラーゲン材料に架橋処理を行っても、コラーゲン材料の物性、特に引き裂き強度はほとんど上昇しないため、これを加工して、縫合を必要とする医用材料にすることは不可能であった。また、グルタールアルデヒド又はエポキシなどの架橋剤を用いると、架橋剤自体の生体に対する毒性が問題になるばかりでなく、コラーゲンが本来有する生化学的特性、特に、細胞増殖に対する促進効果が失われるという欠点もある。また物理的架橋処理では、架橋率が不安定で、十分な物性を付与することができず、また生体内での吸収速度をコントロールできるよう架橋処理することも困難であった。一方、紡糸したコラーゲンも、十分な強度を有さないため、縫合糸としては不十分であった。
【0004】
また一方、各種疾患又は外傷などのため、脳や、各種臓器の外科手術を行い、術創を閉じる際に、切開した脳硬膜、心膜、胸膜、腹膜又は漿膜などを再縫合して閉鎖する必要があるが、縫いしろによる短縮分が生じたり、膜が部分的に切除されるために術創を完全に閉鎖しきれず、膜に欠損部が生じることが多い。このような欠損部をそのまま放置すると、膜の欠損した箇所から脳、心臓、肺、腸などの臓器が脱出して重大な障害をおこしたり、臓器や臓器周辺から水や空気が漏出して術創が治癒しない。また臓器が周囲の組織との癒着を起こすため、組織が損傷し、良好な予後が得られない。このため従来は、この欠損部分の補填材として使用することのできる医用代替膜として、死体より採取した凍結乾燥ヒト脳硬膜や、多孔性の延伸ポリテトラフルオロエチレンフィルム材(EPTFE)(組織用ゴアテックス、登録商標)、ポリプロピレンメッシュ、テフロンシート、ダクロンシートなどが使用されており、また乳酸とε−カプロラクトンとの共重合体(50:50)が現在開発されつつある。また自己の大腿筋膜や自己の心膜、皮膚、筋肉などを用いる方法もやむなく行われている。
【0005】
しかし、ヒト脳硬膜の使用については、補填したヒト脳硬膜と脳実質組織とが癒着を生じ、術後にテンカンの発作を惹起する恐れがあるという難点があるばかりでなく、ヒトの死体から採取するという倫理上の問題や、供給量が非常に限定されているという問題があり、更にまた最近では、脳硬膜を移植された患者における、移植脳硬膜が原因のCreutzfeldt-JakobDisease(CJD)の発生が報告され(脳神経外科、21(2):167-170, 1993)、日本では、現在はヒト脳硬膜は使用されていない。また、EPTFE材などは、生体内で分解されず、異物として残存するため、感染をおこしやすく、また生体組織と接触すると、組織細胞が脂肪変性を起こしてしまうなど、術後合併症を起こすことが多いことが知られている。乳酸とε−カプロラクトンとの共重合体は、生体内分解性であり、生体への適用後、徐々に分解するが、分解吸収されるまでにほぼ2年という長期間を要する。そのため、やはり異物として生体内にしばらくの間残存して、分解過程で組織に炎症を惹起し、肉芽腫を形成することがある。この共重合体はモノマーとして、(L)体の乳酸を使用しているため、共重合体中で乳酸が結晶化して、炎症を惹起することがある。更に、EPTFE、乳酸とε−カプロラクトンとの共重合体のいずれにも、生体膜の再生を促す作用はない。また自己の大腿筋膜などを用いる方法は患者、医師の両方にとって大きな負担である。
【0006】
心膜の補填材としては、上記のEPTFE、ポリプロピレンメッシュ(マーレックス)、ヒト乾燥脳硬膜、グルタールアルデヒド(GA)処理ウシ心膜などが従来用いられてきたが、EPTFEとヒト乾燥脳硬膜は上述の欠点を有する。また、ポリプロピレンメッシュは、心臓との間に強い癒着を起こす。GA処理ウシ心膜は、生体内で吸収分解されずに残存するため、石灰沈着による劣化を起こし、またウシ心膜に対する免疫反応による間質性肺炎の合併症が観察されている。
【0007】
また肺手術後の手術箇所からの空気漏れを軽減するために、ポリグリコール酸不織布やウシ心膜が、胸膜補填材として、又はオートスーチャー用に使用されているが、ポリグルコール酸は不透明であるためオートスーチャーでは使用しにくい。またウシ心膜は、上述したような欠点を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の理由から、コラーゲンが本来有する生化学的特性を保持しながらも、縫合可能な程度の物性を有し、更に生体への適用後もある程度の期間その形状を保持することのできるコラーゲン材、その製造方法、及びそれに基づく医用材料、例えば、人工神経管、人工脊髄、人工食道、人工気管、人工血管、人工弁、代替脳硬膜などの人工医用代替膜、人工靭帯、人工腱、外科用縫合糸、外科用補填材、外科用補強材、創傷保護材、人工皮膚、又は人工角膜などの開発が求められてきた。そして各種医用材料のなかでも特に、倫理上の問題もなく、安定して供給され、生体への適用後は、術後の術創の癒着を防止し、感染の恐れがなく、組織の変性を起こさず、適用後の分解速度をコントロールでき、更に生体膜、特に脳硬膜、心膜、胸膜、腹膜又は漿膜に対して再生促進作用がある、医用代替膜として使用することができる材料の開発も臨床現場で強く求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、コラーゲンの超微細線維を基本単位とする不織布状多元構造体のマトリックス中に、生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質を充填してなる又は介在させてなるコラーゲン材、又は生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質の不織布状のマトリックス中に、生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質を充填してなるコラーゲン材が、医用材料として特に優れた特性を有するとともに、縫合可能な物性を有することを見いだして本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、コラーゲン材であって、コラーゲンの超微細線維を基本単位とするコラーゲン線維の不織布状多元構造体のマトリックス中に、生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質を充填してなる又は介在させてなることを特徴とする。
【0011】
本発明のコラーゲン材は、図1に示すような基本構造を有しており、その中心をなすコラーゲン線維の不織布状多元構造体のマトリックスは、以下に説明するようにサイズ及び形態を異にする各種の線維性コラーゲンから多元的に構成されている。
【0012】
すなわち、コラーゲン線維の不織布状多元構造体は、コラーゲン分子数個からなる直径3〜7nmの超微細線維15をその基本単位とし、該超微細線維がバンドルとなって直径30〜70nmの微細線維14を形成し、該微細線維が更なるバンドルとなって直径1〜3μmの細線維13a、13bを形成し、次いで該細線維のバンドル列が縦横互い違いに積層されて直径5〜8μmの線維12を形成し、次に該線維が同軸方向に重なりあって直径20〜50μmの板状線維11を形成している。最終的にこの板状線維11が、ランダムに絡み合ってコラーゲン超微細線維性不織布状多層体10中の最大単位としての線維性コラーゲンを形成しているのである。
【0013】
本発明のコラーゲン材は、この板状線維11が不織布状に集合した線維化コラーゲンの多元構造体のマトリックス中に、生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質を含有してなるものである。ここで、該生体適合性と生体内分解吸収性を有する物質としては、該マトリックス中に導入された抽出コラーゲンの塩酸溶液を、凍結と凍結乾燥処理に付し、それによって新たに該マトリックス中で線維化させたコラーゲンの超微細線維を含むコラーゲン線維が代表的なものであるが、該マトリックス中に該抽出コラーゲンの溶液又はヒアルロン酸溶液を導入し、該溶液を風乾せしめたもの(以下、コラーゲン由来のそれを、アモルファスコラーゲンという)も候補として挙げられる。
【0014】
更に、本発明のコラーゲン材は、前記のコラーゲン材の表面の所定部位に抽出コラーゲンの溶液を風乾せしめたものからなる層を更に形成せしめたものであってもよい。
【0015】
また本発明のコラーゲン材は、図1の構造を基本とするが、該材料の用途によっては、前記のコラーゲン線維の不織布状多元構造体の内部に生体内分解吸収性材料からなるシート状又は筒状のメッシュ様中間材を更に有するものにしてもよい。
【0016】
更に、本発明のコラーゲン材は、前記のマトリックスを、生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質、例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸と乳酸の共重合体、ポリジオキサノン、グリコール酸とトリメチレンカーボネートの共重合体、又はポリグリコール酸とポリ乳酸の混合物の群から選択される材料からなる不織布状のシート又は筒状体とし、該マトリックス中に充填される生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質を、前記のマトリックス中に充填したものと同様のコラーゲン(コラーゲン線維又はアモルファスコラーゲン)又はヒアルロン酸とするものであってもよい。
【0017】
このような本発明のコラーゲン材は、以下のステップからなるプロセスにて製造し得る。
【0018】
〔基本プロセス〕
ステップa
抽出コラーゲンの塩酸溶液を所望の厚みにキャスティングしてコラーゲン溶液層を形成する。ここで、キャスティングは、目的とするコラーゲン材の形状に応じて適宜公知の方法を選択して行えばよい。例えば、膜状のコラーゲン材を求める場合には、バット等をその型として、また管状のコラーゲン材を求める場合には、その壁部となる部分を空洞にした型を用いて、それぞれ行えばよい(以下、同様)。
【0019】
ステップb
該コラーゲン溶液層を一旦凍結し、所望時間その状態を保持し、次いで凍結乾燥する(この時点で、コラーゲンの超微細線維を基本単位とするコラーゲン線維の多元構造体が形成される。但し、該コラーゲン線維の多元構造体はマトリックス故その中には多数の空隙−溶液が侵入し得る空間という意味であり、いわゆる孔ではない−が存在している)。
【0020】
ステップc
該凍結乾燥されたものに熱脱水架橋を施す(マトリックスを構成する線維化コラーゲンに次ステップにおける所定の耐水溶解性を付与する)。
【0021】
ステップd
該熱脱水架橋が施こされたもののマトリックス中に抽出コラーゲンの塩酸溶液を導入する(結果として、該マトリックス中の空隙が非線維化コラーゲンにて埋められる。ここで、この操作にて埋められる空隙は、該マトリックス中の空隙の全容積である必要はない。尚、導入の具体的方法としては、弱い真空で吸引する方法が例示される。勿論、微少空間へ液を効果的に導入し得るものであれば同方法に限定されない)。
【0022】
ステップe
該抽出コラーゲンの溶液を導入されたものを再度凍結し、所望時間その状態を保持し、次いで凍結乾燥する(この操作にて、前記のマトリックス中の空隙の少なくとも一部が新たに線維化せしめられたコラーゲンの超微細線維を含むコラーゲン線維にて埋められる。ここで“埋められる”とは、正確には、該マトリックス中の空隙内で新たに線維化せしめられたコラーゲンの超微細線維を含むコラーゲン線維が該マトリックスを構成する線維化コラーゲンの各線維と絡みつくように存在せしめられていることをいう)。
【0023】
ステップg
該凍結乾燥されたものを圧縮する。
【0024】
ステップi
そして、該圧縮されたものに熱脱水架橋を施す(新たに線維化せしめられたコラーゲンの超微細線維を含むコラーゲン線維に最終製品としての、又は変法として行われる更なるステップにおける、所定の耐水溶解性を付与する)。
【0025】
更に、前記のステップeとステップgの間で下記のステップを順に行ってもよい(前記のマトリックス中の空隙を更に新たに線維化せしめられたコラーゲンの超微細線維を含むコラーゲン線維にて、でき上がったコラーゲン材に要求される強度以外の特性、例えば“風合い”とか“しなやかさ”等、が許容されるかぎり所望の強度を得るために該空隙を極力埋めるのが好ましい。因に、空隙率で表した該空隙の容積率は、一般的にマトリックスのそれが50〜60%、ステップeの後で10%程度、ステップdとステップeの繰り返し1回目のステップeの後で5%程度であり、該コラーゲン材の通常の用途、例えば医用代替膜においては、このステップf1及びf2は1回行うだけで十分である)。
【0026】
ステップf1
前記の凍結乾燥されたもののマトリックス中に該抽出コラーゲンの塩酸溶液を導入する。
【0027】
ステップf2
該抽出コラーゲンの塩酸溶液を導入されたものを、再度一旦凍結し、所望時間その状態を保持し、次いで凍結乾燥する。
【0028】
また更に、前記のステップgとステップiの間で、下記のステップを行ってもよい。
【0029】
ステップh1
前記の圧縮されたものの表面の所定部位に、コラーゲン溶液層を形成する(具体的には、該圧縮されたものを、少なくとも1回、抽出コラーゲンの塩酸溶液−好ましくはコラーゲン濃度が2.0%以下−に、所定の時間、浸漬・風乾すればよい。当該部位からの体液の侵入による強度低下を極力抑えたいコラーゲン材の用途を志向する場合。尚、“所定の部位”へのコラーゲン溶液層の形成は、抽出コラーゲンの塩酸溶液への浸漬において、該コラーゲン溶液層の形成を必要としない部分を公知の適当な手段にてブロックすればよい)。
【0030】
このステップh1を行う場合において、更に次ステップであるステップiを行う前に下記のステップh2、すなわち『前記のコラーゲン層を再度圧縮する』という操作を行ってもよい(コラーゲン材の表面の凹凸をなくす、又は少なくして、“風合い”や“肌さわり”の向上を所望する場合)。
【0031】
尚、前記のマトリックス中に充填する物質として該マトリックス中に抽出コラーゲンの塩酸溶液又はヒアルロン酸溶液(前記のステップdにおける「抽出コラーゲンの塩酸溶液」を「ヒアルロン酸溶液」と読み替える)を導入・風乾せしめたものを用いる場合には、前記のステップe〜ステップiの操作を省き、前記の抽出コラーゲンの塩酸溶液又はヒアルロン酸溶液をその中に導入されたマトリックスを加圧しつつ該マトリックスに所定の時間、熱脱水架橋を施せばよい。ここで、該マトリックスを加圧するのは、該マトリックス中に残存している空気の影響、すなわちコラーゲン材の局部的な“ふくれ”の発生を極力抑制するためである)。
【0032】
一方、前記のマトリックス中に介在させる生体適合性を有し、且つ生体内で分解され得る物質として、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸と乳酸の共重合体、ポリジオキサノン、グリコール酸とトリメチレンカーボネートの共重合体、又はポリグリコール酸とポリ乳酸の混合物の群から選択される材料(以下、ポリグリコール酸等、という)を用いる場合には、前記のステップaにおいて、抽出コラーゲンの塩酸溶液のキャスティングを2回に分けて行い、両キャスティング操作の間で、前記の材料からなるシート状又は筒状のメッシュ様物を単に介在させればよい(具体的には1回目のキャスティングされたコラーゲン溶液層の上に該材料を載置−膜状物を得る場合−すればよい)。尚、これらの材料は親水性に乏しいので、介在の直前にプラズマ等でその表面を改質させておくことが好ましい)。尚、該マトリックス中にこのような材料を介在させる場合には、これらの材料とマトリックスとの複合効果にて所定の強度が得られるため、原則として該マトリックス中への線維化せしめられたコラーゲンの超微細線維を含むコラーゲン線維の新たなる増強は不要である(システム構成:一部変更したステップa→ステップb→ステップc→ステップg)。但し、圧縮されたものの表面の生化学的状態を整える意味でコラーゲン溶液層又はゼラチン溶液層の形成を行うことは好ましい。
【0033】
また、本発明のコラーゲン材として、前記のマトリックスを、生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質、例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸と乳酸の共重合体、ポリジオキサノン、グリコール酸とトリメチレンカーボネートの共重合体、又はポリグリコール酸とポリ乳酸の混合物の群から選択される材料からなる不織布状のシート又は筒状体とし、該マトリックス中に充填される生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質を、前記のマトリックス中に充填したものと同様のコラーゲン(コラーゲン線維又はアモルファスコラーゲン)又はヒアルロン酸とするものの場合には、以下に示すようにして製造すればよい。尚、説明の都合上、該マトリックス中に導入される物質がコラーゲンの場合であって、作成されるコラーゲン材が膜状のものである場合を例として以下に説明する。
【0034】
ステップj
ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸と乳酸の共重合体、ポリジオキサノン、グリコール酸とトリメチレンカーボネートの共重合体、又はポリグリコール酸とポリ乳酸の混合物の群から選択される材料からなる不織布状のシートからなるマトリックス中に抽出コラーゲンの塩酸溶液を導入した後、風乾する。この抽出コラーゲンの塩酸溶液の導入操作は、若干の減圧環境、例えば水流アスピレータ等でその中の空気が排除され大気圧より多少低い圧力雰囲気に置かれた容器内に、該マトリックスをその中に浸漬した所定濃度の抽出コラーゲンの塩酸溶液(別の容器に入れておく)を入れ、所定時間、その状態を保持することによってなされる。具体的には、該マトリックス中に該抽出コラーゲンの塩酸溶液がしみ込んでいくことによってなされる。尚、この操作から明らかなように、該マトリックスの内部のみならずその表面にも該抽出コラーゲンの塩酸溶液からなる薄層が必然的に形成されている。
【0035】
ステップl
該抽出コラーゲンの塩酸溶液が導入・風乾されたものの少なくとも一方の面にコラーゲン溶液層を形成する。具体的には、前記と同様の抽出コラーゲンの塩酸溶液へ該抽出コラーゲンの塩酸溶液が導入・風乾されたものを浸漬・風乾すればよい(好ましくは1〜5回程度繰り返す。その結果物がコラーゲン溶液層である。尚、片面だけにこのコラーゲン溶液層を形成させるには、もう一方の面を適当な手段にてブロックしてこのステップを行えばよい)。
【0036】
ステップo
該コラーゲン溶液層の上にゼラチン溶液層を形成する。具体的には、所定濃度のゼラチン水溶液の塗布又は該ゼラチン水溶液への浸漬を行えばよい。尚、このステップは、最終製品として癒着防止能が求められる場合に必要となる任意ステップである。
【0037】
ステップp
該ゼラチン溶液層が形成されたものに、所定の時間、熱脱水架橋を施す(目的は、先に述べた方法におけるコラーゲン線維等へのそれと同様耐水溶解性の付与である)。
【0038】
ここまでがこの方法における基本ステップであるが、この方法にも変法が存在する。その内の一つが、ステップjとステップlの間及びステップlとステップoの間でそれぞれ行う、コラーゲン溶液の線維化である。具体的には、先に述べた方法と同様、マトリックス中に導入された抽出コラーゲン及びコラーゲン溶液層に凍結→保持→凍結乾燥という一連の操作を加える(前者に対するそれ:付加ステップk、後者に対するそれ:付加ステップm1である)。尚、この付加ステップは用いる強度発現部材としてのマトリックスの強度が弱い(具体的には不織布状マトリックスの厚さが薄い)場合に採用するステップである。ここで、付加ステップm1に引き続き、該凍結乾燥されたものを圧縮する(付加ステップm2)ことが好ましい。全体としての強度が増すからである。
【0039】
更なる付加ステップとしては、熱脱水架橋が挙げられる。その実行場所としては、ステップlとステップoとの間、又はステップm2とステップoとの間である(付加ステップn。目的は先の方法にて述べたものと同様結果物の耐水溶解性の付与である)。
【0040】
本発明のコラーゲン材は、人工神経管、人工脊髄、人工食道、人工気管、人工血管、人工弁、人工靭帯、人工腱、外科用補填材、外科用補強材、創傷保護材、人工皮膚などの医用材料の主構成材料としても用い得るが、殆どそのままの形態にて使用し得るし、更にそれへの要望が大きいという点において生体膜、就中、脳硬膜、心膜、胸膜、腹膜、漿膜又は角膜などの人工医用代替膜用途に好適である。
【0041】
尚、外科用補填材、外科用補強材、創傷保護材などの膜様物においては、本発明のコラーゲン材の片面又は両面に架橋処理されたゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層を更に有するものであってもよい。
【0042】
本発明のコラーゲン材は、更にまた、糸状材料及び該糸状材料からなる医用材料、例えば外科用縫合糸としても使用し得る。該糸状材料は、前記のステップaにおけるコラーゲン溶液層の形成に代え、湿式紡糸を行ってコラーゲン糸を先ず得る操作を行う点を除き、その他の材料と同様の操作にて製造し得る。
【発明の効果】
【0043】
本発明のコラーゲン材は、コラーゲンが本来有する生化学的特性を保持しながらも、縫合可能な程度の物性を有するため、各種医療材料として広く使用することができる。また本発明の医用代替膜は、倫理上の問題もなく、安定して供給され、生体膜の欠損部分を補填する材料又は癒着防止材として術創に縫合することができる。また縫合後、生体膜が再生するまでの期間残存して、癒着防止効果を示す一方、徐々に分解吸収されるため、生体組織に長期間残存して炎症などを惹起することがなく、安全に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のコラーゲン材の構造を示す。
【符号の説明】
【0045】
10・・・・・・・コラーゲン超微細線維性不織布状多層体
11・・・・・・・板状線維
12・・・・・・・線維
13a、13b・・細線維
14・・・・・・・微細線維
15・・・・・・・超微細線維
20・・・・・・・新たに形成せしめた線維化コラーゲン
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明のコラーゲン材の原料として使用するコラーゲンとしては、従来から用いられている各種コラーゲン、好ましくは中性可溶化コラーゲン、酸可溶化コラーゲン、アルカリ可溶化コラーゲン又は酵素可溶化コラーゲンを使用することができる。これらのうち、酵素可溶化コラーゲンは、不溶性コラーゲンを、酵素(例えば、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、プロナーゼなど)処理したもので、これらの処理によりコラーゲン分子中の抗原性の強いテロペプチド部分が除去されて抗原性が低減されるので、特に好ましい。これらコラーゲンの由来は、特に限定されず、一般に、ウシ、ブタ、ウサギ、ヒツジ、カンガルー、鳥、魚などの動物の皮膚、骨、軟骨、腱、臓器などから抽出及び精製によって得られるI型コラーゲン、又はI型及びIII 型の混合コラーゲンを用いることができる。
【0047】
上述したようなコラーゲンの超微細線維を基本単位とするコラーゲン線維の不織布状多元構造体をマトリックスとして有する本発明のコラーゲン材を、従来各種医用材料として使用されてきたコラーゲン分子がモノマー〜オリゴマーの状態で分散しているアモルファス構造の非線維化コラーゲンのみからなる材料と比較すると、前者は、コラーゲンが本来有する生体に対する作用は保持しながらも、後者に比べて、優れた物性、特に優れた引き裂き強度を有するばかりでなく、生体内での吸収速度も十分に延長されている。また、本発明のコラーゲン材を含む糸状材料は、その形態が糸状であるという点を除けば、その構成においては先に述べたものと同じものであり、また、本発明のコラーゲン材を含む医用材料とは、同様のマトリックスとその中に生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質を充填してなるコラーゲン材を、各種医用材料に加工したものである。医用材料の形態としては、膜状、管状、袋状、塊状などが挙げられる。本医用材料の用途としては、特に医用代替膜を挙げることができ、更に特にその片面又は両面に架橋処理されたゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層を有する医用代替膜を好適に挙げることができる。この場合のその厚さは、好ましくは約0.1〜5mmである。
【0048】
本発明の医用代替膜がその表面に有していることのできるゼラチンゲル層は、ゼラチンの有する細胞の接着及び増殖を妨げる作用のため、癒着を防止する必要のある箇所において、周辺の生体組織からの細胞の伸展を防ぐための癒着防止層として作用する。また、ヒアルロン酸は、コラーゲンの安定性を向上させる効果を有し、また癒着防止能も有する。本発明の医用代替膜では、生体に適用後、約3〜4週間、ゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層が分解吸収されずに残存する必要があるため、このゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層もまた、架橋処理されている。
【0049】
本発明のコラーゲン材を調製するには、上記のような抽出コラーゲン(勿論、精製後)の約1N 塩酸溶液(pH約3)(コラーゲン分子がモノマー〜オリゴマーの状態で分散している非線維化コラーゲンの溶液である。以下、同様。コラーゲン濃度は、好ましくは約0.5〜3重量%、特に約1重量%)を調製し、流し込みなどの慣用の方法にて、シャーレなどの容器に、液層が任意の均一な厚さとなるようコラーゲン塩酸溶液の層を形成する(管状のものを求める場合には、例えば、その壁部が中空となった型を用いればよいし、場合によっては、マンドレルなどの基材の表面に塗布・風乾などして形成すればよい。コラーゲン以外のものであって、生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質(コラーゲンマトリックス中への介在材料として)となり得るものとして、ポリグリコール酸等を用いる場合には、この操作の中で、該材料のシート状又は筒状のメッシュ様物そのものを該コラーゲン塩酸溶液の層中に介在せしめておけばよく、またそのような材料をマトリックスとして用いる場合(不織布様のシート状物又は筒状体)には、該マトリックス中にアモルファスコラーゲンや繊維化コラーゲン等のコラーゲン(場合によってはヒアルロン酸等)を該マトリックス中に充填(陰圧下でしみ込ませる等)すればよい。尚、以下の説明において、マトリックス中にコラーゲン等を充填すること及び該充填されたコラーゲン等に対する更なる処置並びにそのような処置を施されたマトリックスに対する更なる処置に関する説明は、特記しない限り、この非コラーゲン材料であって、生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質をマトリックスとして用い、該マトリックス中にコラーゲン等を充填する形態のコラーゲン材の場合についても適用される)。コラーゲン塩酸溶液の層の厚さは、本発明のコラーゲン材の用途に応じて決定するが、例えば医用代替膜である脳硬膜として使用する場合、好ましくは約1〜5cm、特に約1〜3cmとする。これを、好ましくは約−10〜−196℃、特に約−20℃で、少なくとも約6時間、好ましくは約6〜48時間、特に約24時間凍結する。凍結することによって、塩酸溶液中に分散しているコラーゲン分子の間に微細な氷が形成され、コラーゲン塩酸溶液が層分離を起こし、コラーゲン分子が再配列することによって微細線維化する。凍結時間が6時間未満であると、コラーゲン塩酸溶液が十分に凍結しないため、コラーゲン分子の微細線維化が不十分であり、十分な物性が得られない。次に、上記の凍結させたコラーゲン塩酸溶液を、真空下、好ましくは約−40〜−80℃、特に約−80℃で、好ましくは約24〜48時間、特に約48時間凍結乾燥する。凍結乾燥することによって、コラーゲン分子間の微細な氷が気化するとともに、コラーゲン分子からなる超微細線維が基本単位となって、上述したような微細線維、細線維、線維、板状線維から多元的に構成された不織布状のコラーゲン構造体が得られる。尚、このコラーゲン塩酸溶液に凍結→(保持)→凍結乾燥という操作を施すことは、ポリグリコール酸等の非コラーゲン材料を併せ用いるコラーゲン材の場合においても線維化コラーゲンを求める場合には必須の操作である。
【0050】
次に、上記で得られた不織布状のコラーゲン構造体のマトリックス中に生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質となり得るものの一つとしての非線維化コラーゲン、具体的には抽出コラーゲンの塩酸溶液を導入する(生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質(コラーゲンマトリックス中への介在材料として)となり得るものとして、ポリグリコール酸等を用いる場合には、この操作は原則不要である)。ここで、該溶液のコラーゲン濃度としては0.5重量%以下のものを用いるのが好ましい。該導入がスムース且つ該導入された溶液の該マトリックス中での拡散がより均一に行われ、結果として該マトリックス内残存空気の排除がスムースに行われるからである。該溶液導入の具体的方法としては、該マトリックスはそれほど大きな抵抗を有さないので、50cmH2O程度の弱い真空、例えばアスピレータを利用して該コラーゲン塩酸溶液を吸引する方法が簡単である(勿論、その他の方法、例えば、この前の操作である凍結乾燥における真空雰囲気を利用し、該マトリックスの中に該コラーゲン塩酸溶液を自然に滲み込ませる方法によってもよい)。尚、先の操作で形成された該マトリックス中のコラーゲン線維が該コラーゲン塩酸溶液(当然にその中には水を含んでいる)にて溶解されることを防止するため、該コラーゲン塩酸溶液の導入に先立ち該不織布状のコラーゲン層に対し熱脱水架橋(真空下、好ましくは約105〜150℃、特に約140℃で、好ましくは約6〜48時間、特に約24時間該マトリックスを加熱する。ここで、約105℃未満では十分な架橋反応が起きないし、一方、約150℃を超えるとコラーゲンが変性してしまう。尚、本発明のコラーゲン材を含む医用材料を生体への適用後、所望の期間残存させるように調節することがこの操作の本来の目的である)を施こしておくことが好ましい。
【0051】
次に、コラーゲン塩酸溶液がマトリックス中に導入された不織布状のコラーゲン構造体を一旦凍結し、その状態を所定時間保持した後、凍結乾燥し、該導入されたコラーゲン塩酸溶液を線維化コラーゲンに転換する(結果として、該マトリックスの空隙の所定空間が新たに線維化せしめられたコラーゲンにて埋められる、すなわち該マトリックスを構成している線維化コラーゲンに該新たに線維化されたコラーゲンが絡みつくように該マトリックス中の空隙が該新たに線維化されたコラーゲンにて充填される。尚、条件は、前記の凍結・凍結乾燥に同じ。生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質(コラーゲンマトリックス中への介在材料として)となり得るものとして、ポリグリコール酸等を用いる場合には、この操作も原則不要である)。次いで、該新たに線維化されたコラーゲンにてその空隙の所定空間が充填された該マトリックスを圧縮(例えば、500kgf/cm2 ×15sec.)した後で熱脱水架橋を施す(条件は前記の熱脱水架橋に同じ)。
【0052】
以上のようにして製造された本発明のコラーゲン材は、乾燥状態で少なくとも30N の一点支持張力及び少なくとも65N の耐破断張力、湿潤状態で少なくとも1.4N の一点支持張力及び少なくとも6.5N の耐破断張力を有し(厚さ1mmの場合であって、マトリックス中に充填してなる生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質−以下、生体分解吸収性物質、という−がマトリックス中で新たに微細線維化させたコラーゲンの超微細線維を含むコラーゲン線維−以下、充填コラーゲン線維、という−の場合)、又は乾燥状態で少なくとも10N の一点支持張力及び少なくとも25N の耐破断張力、湿潤状態で少なくとも5N の一点支持張力及び少なくとも15N の耐破断張力を有し(厚さ1mmの場合であって、マトリックス中に介在させてなる生体分解吸収性物質がポリグリコール酸等の場合。該マトリックスとして非コラーゲン材料を用いる場合には当然に該数値以上の能力を示す)、従来のコラーゲン材と比べて優れた強度を有するため、各種医用材料に加工することができ、縫合も可能である(特に後者のコラーゲン材においては、湿潤状態での強度がより優れたものとなるため術者の縫合技術の巧拙を問わない、という点において好都合である)。また生体内に適用された場合に約3〜8週間その形状を保持することができる。更に、コラーゲンが本来有する医用材料としての特性も保持している。
【0053】
尚、更なる強度の増強を所望の場合には、この、該コラーゲン塩酸溶液の該マトリックス中への導入(条件は前記に同じ)→凍結・凍結乾燥(条件は前記に同じ)という操作を少なくとも1回(通常は、1回で十分である)繰り返してもよい。
【0054】
一応、前記迄のステップにて本発明のコラーゲン材が得られるが、必要に応じて次に、前記のコラーゲン材の表面の所定の部位に非線維化コラーゲンの層を形成せしめる。その具体的方法は次の通りである。
(1) 該圧縮されたコラーゲン材を抽出コラーゲンの塩酸溶液(コラーゲン濃度:約0.5〜3重量%、特に約2重量%)へ浸漬・風乾する(少なくとも1回。通常の用途においては1回で十分である);そして
(2) 該表面の所定の部位に非線維化コラーゲンの層を有するコラーゲン材に対し熱脱水架橋を施す(前記と同様の条件にて可)。
【0055】
ここで、前記の操作(1)と(2)との間で更に該表面の所定の部位に非線維化コラーゲンの層を有するコラーゲン材を圧縮してもよい。最終的に得られるコラーゲン材の表面の凸凹が小さくなり、“風合い”や“手触り感”が向上するからである。
【0056】
尚、これまでは前記のマトリックス中に充填する生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質となり得るものとしてコラーゲン塩酸溶液を原料とし、該マトリックス中に該溶液を導入した後新たに該コラーゲンを繊維化させたものにて説明してきたが、用途によっては他のもの、例えば該溶液又はヒアルロン酸の溶液を該マトリックス中に導入した後単に風乾せしめたものであってもよい。これら導入後単に風乾せしめたものを充填物とするのは、本発明のコラーゲン材からなる医用材料を生体に適用した際の体液の空隙への更なる侵入によって湿潤状態の強度が低下することを多少なりとも該空隙をなくすことで抑制しようとするもの故、該マトリックス中への導入・風乾操作の後の操作としては、原則として熱脱水架橋の適用のみ(但し、この操作においては200kg/cm2の圧力での加圧下に行うのがよい)、場合によっては圧縮と前記の追加操作(1)を熱脱水架橋の適用に先立ち行えばよい。
【0057】
更に必要に応じて次に、上記の基本ステップ又は基本ステップ+追加ステップにて得られたコラーゲン材を、エチレンオキシドガス処理又は紫外線もしくはγ線照射などにより滅菌する。
【0058】
上記のようにして調製した本発明のコラーゲン材を、その片面又は両面に架橋処理されたゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層を有する医用代替膜に加工する場合には、ゼラチンゲル層の場合では、好ましくは約2〜70重量%、特に約60重量%のゼラチン水溶液を用いてゼラチンゲル層を形成するが、約60重量%のゼラチン水溶液を用いる場合、湿潤時で好ましくは約0.1〜5mm、特に約1mm、乾燥時で好ましくは約0.06〜3mm、特に約0.6mmになるように、ゼラチンゲル層を形成する。ゼラチンゲル層は、塗布、浸漬など、どのような方法によって形成してもよいが、例えば、シャーレなどの容器にゼラチン水溶液を注入して必要な厚さになるようにし、その上に上記のようにして得た本発明のコラーゲン材を置いて放置し、ゼラチンをゲル化させる。その両面にゼラチンゲル層を形成する場合は、もう一方の面についても、同様の処置を行って、両面にゼラチンゲル層を形成させる。
【0059】
次に、このようにして得たその片面又は両面にゼラチンゲル層を形成させたコラーゲン材を、架橋処理に付す。架橋処理を行うことによって、ゼラチンゲル層の分解吸収速度をコントロールする。架橋方法としては、熱脱水架橋が好ましい。ゼラチンゲル層を生体に適用後約3〜4週間残存させるには、該ゼラチンゲル層を形成させたコラーゲン材を、真空下、好ましくは約105〜150℃、特に約140℃で、好ましくは約6〜48時間、特に約24時間熱脱水架橋処理に付す(約105℃未満では、架橋反応が十分に起きず、約150℃を超えると、コラーゲンが変性してしまうので好ましくない)。
【0060】
このようにして形成された架橋処理されたゼラチンゲル層は、各生体膜が再生するまで、本医用代替膜のコラーゲン部分が周辺組織と癒着するのを防止する役割を有し、膜欠損部の周辺から生体膜が伸びて再生して、膜の欠損部分を塞ぐまでの約3〜4週間、ゼラチンゲル層は分解吸収されずに残存する。
【0061】
一方、ヒアルロン酸層を形成する場合には、好ましくは約0.5〜2.0mg/ml、特に約1.0mg/ml のヒアルロン酸ナトリウム水溶液を用いて、上記のようにして得た本発明のコラーゲン材の片面又は両面に、塗布又は浸漬などの方法によって、ヒアルロン酸ナトリウム水溶液層を形成し、この水溶液層を風乾することによってヒアルロン酸層とする。ヒアルロン酸ナトリウム水溶液層は、修復すべき膜の欠損部分の周辺から生体膜が伸びて再生して、膜の欠損部分を塞ぐまでの約3〜4週間ヒアルロン酸層が分解吸収されずに残存することができるよう、湿潤時で好ましくは約0.5〜4.0mm、特に約2mm、乾燥時で好ましくは約0.1〜2.0mm、特に約1.0mmの厚さとなるように形成する(約1.0mg/ml の水溶液の場合)。コラーゲン材の表面にヒアルロン酸を固定して、ヒアルロン酸層とするために、更に第2の架橋処理を行うが、ヒアルロン酸の場合は、水溶性カルボジイミド(WSC)で架橋処理を行うのが好ましい。この場合、ヒアルロン酸ナトリウム水溶液にあらかじめWSCを混合しておき、ヒアルロン酸ナトリウムと共に、コラーゲン材に適用することによって、コラーゲンのカルボキシル基とヒアルロン酸のアミノ基とを架橋させることが好ましい。ヒアルロン酸ナトリウム水溶液に含有させるWSCの濃度は、好ましくは約5〜20mg/ml、特に約8〜15mg/ml とする。このヒアルロン酸ナトリウム及びWSCを含有する水溶液を調製し、十分に撹拌し、厚さが好ましくは約1mmとなるように、コラーゲン材の両面又は片面に塗布し、風乾して、ヒアルロン酸層を形成する。
【0062】
本発明のコラーゲン材は、優れた強度を有するため、手術用縫合糸としても使用することができる。本発明のコラーゲン材を含む糸状材料は、前記のコラーゲン材の調整法の最初のステップを、抽出(勿論精製後の)コラーゲンの約1N 塩酸溶液(pH約3)(コラーゲン濃度は、好ましくは約0.5〜3重量%、特に約1重量%)を調製し、これを孔径が好ましくは約50〜300μm、特に約100μmのノズルから凝固浴中に噴出させることによって湿式紡糸する、ことに代え、その他のステップは前記のコラーゲン材の調整法と同様に行うことによって調製することができる。
【0063】
上記のように調製した本発明のコラーゲン材は、従来の抽出コラーゲン材料に比べて、優れた物性、特に優れた引き裂き強度を有するため、合成高分子材料などに積層せずにそれのみで、各種医用材料に加工することができ、縫合することもできる。また、本発明のコラーゲン材は、生体内に適用した場合、すぐには溶解せずに、約3〜8週間その形状を保持することができる。これらの理由から、本発明のコラーゲン材は、更に用途に応じて膜状、管状、袋状、塊状などの形態に加工することによって、各種医用材料として使用することができる。例えば、人工神経管、人工脊髄、人工食道、人工気管、人工血管、人工弁、人工脳硬膜などの人工医用代替膜、人工靭帯、人工腱、外科用縫合糸、外科用補填材、外科用補強材、創傷保護材、人工皮膚又は人工角膜などとして使用して、傷害を受けた生体組織が回復、再生するのを促すことができる。あるいは、圧迫止血材、あるいは細胞培養における三次元培地としても使用することができる。
【0064】
また、上記のようにして得られた本発明の医用材料からなる医用代替膜は、各種外科手術後の膜欠損部分を補填することによって、膜欠損部分における臓器と周辺組織との癒着を予防するために使用することができる。本発明の医用代替膜においては、癒着を防止する必要のある周辺組織と接する側に架橋したゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層が向くように、その片面又は両面にゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層を形成した本発明の医用代替膜を使用する。本医用代替膜を、心膜の代替膜として使用する場合は、両面にゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層を形成した代替膜を、また胸膜、腹膜又は漿膜の代替膜として使用する場合は、片面にゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層を形成した代替膜を、ゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層が周辺組織と接する側に向くように使用する。脳硬膜の代替膜として使用する場合は、両面又は片面にゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層を形成した代替膜のいずれも使用することができる。片面にゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層を形成した代替膜を使用する場合は、ゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層が、脳実質組織と接する側に向くように使用する。更にまた、上記の用途のほか、血管、消化管、気管、尿管、膀胱、粘膜、歯根膜などの縫合に、補強材としても使用することができる。
【0065】
上記のように生体膜の欠損部分を補填する材料としての本発明の医用代替膜は、脳硬膜、心膜、胸膜、腹膜又は漿膜の代替膜として使用することができる。本代替膜を術創に適用すると、術創周辺に残存している脳硬膜、心膜、胸膜、腹膜又は漿膜などの生体膜が、本代替膜との接触箇所から本代替膜のコラーゲン部分を再生の足場として伸展して再生する一方、生体組織がゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層と接する箇所では、細胞の侵入・伸展が予防されるために癒着が防止され、最終的には欠損部分が、再生した生体膜によって塞がれ、本代替膜は、生体によって分解吸収され、完全に消失する。
【0066】
上述のように、本発明のコラーゲン材、及び本発明のコラーゲン材を含む医用材料、特に医用代替膜は、従来のコラーゲン材及びそれを含む医用材料に比べて、優れた引き裂き強度を有するが、本医用材料を、例えば人工膀胱などとして使用する際には、更に強度が必要とされる場合がある。このため、本発明のコラーゲン材、及び本発明のコラーゲン材を含む医用材料としては、前記のマトリックス中に生体内分解吸収性材料からなるシート状のメッシュ様中間材を介在せしめてもよい。生体内分解吸収性材料としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸と乳酸の共重合体、ポリジオキサノン、グリコール酸とトリメチレンカーボネートの共重合体、又はポリグリコール酸とポリ乳酸の混合物を挙げることができる。これらの材料からなるシート状のメッシュ様中間材は、例えば約50〜2,000μmの孔径を有する、例えばメッシュシート、織布、不織布、パンチ穴を形成したシートなどの形態であり、その厚さは、例えば約100〜2,000μmであるが、メッシュ様中間材の孔径とその厚さは、用途に応じて適宜変更すればよい。
【0067】
このような、マトリックス中に生体内分解吸収性材料からなるシート状のメッシュ様中間材を介在せしめたコラーゲン材を調製するには、前記のコラーゲン材の調整法の最初のステップであるコラーゲン塩酸溶液層を形成する際にキャスティングしたコラーゲンの塩酸溶液の中に上記のようなシート状のメッシュ様中間材を浸したまま、該コラーゲン塩酸溶液層の凍結・凍結乾燥など以降のステップに付せばよい。但し、この形態の場合には、マトリックス中に新たなコラーゲンの超微細線維を充填することは原則不要故、該充填に要するステップ、例えば、抽出コラーゲンの塩酸溶液の追加導入→再凍結→再凍結乾燥というステップ及び最終的な熱脱水架橋ステップは行わなくてよい。一方、その他の追加ステップ、すなわち該コラーゲン材の表面(片面又は両面)への追加層の形成、例えば、コラーゲン溶液層とか、ゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層の形成(原則としてこれらの操作の後では熱脱水架橋を行う)は、必要に応じて適宜行えば良い。
【0068】
以下に本発明を膜状のコラーゲン材を製造した実施例を1例として説明する。
【0069】
実施例1
豚皮由来のコラーゲンを用いて、抽出コラーゲンの1N 塩酸溶液(コラーゲン濃度:1重量%)を調製し、シャーレに注いで、18mmの厚さのコラーゲン溶液層とした。これを、−20℃で24時間凍結し、次に−80℃で48時間凍結乾燥した。次に該凍結乾燥させたコラーゲン線維の多元構造体(以下、単に多元構造体という)を真空下、140℃で24時間熱脱水架橋処理に付した後、流水アスピレータにて該多元構造体の内部に負圧 (50cmH2O)を発生させて抽出コラーゲンの1N 塩酸溶液(コラーゲン濃度:0.5重量%)を該多元構造体中に導入し、該多元構造体の内部の空隙を非線維化コラーゲンにて埋め、次いで前記のそれと同一条件下、凍結と凍結乾燥を行った(新たに形成された線維化コラーゲンにより該多元構造体の内部の空隙を減らす操作)後、厚みが1mmまで圧縮(500kgf/cm2 )し、次いで該圧縮されたものを抽出コラーゲンの1N 塩酸溶液(コラーゲン濃度:2重量%)へ浸漬・風乾(コラーゲン溶液層の形成。回数は1回)し、前記のそれと同一条件下の熱脱水架橋処理を施して、本発明のコラーゲン材を得た。
【0070】
上記で調製した本発明のコラーゲン材について、以下に記載する方法により、その一点支持張力と耐破断張力を乾燥状態及び湿潤状態で測定した。その結果を表1に示す。
【0071】
大きさ10×25mmの短冊型の試験片を作製した。以下の方法で25℃、湿度50%の恒温恒湿室中でデジタルプッシュプルゲージ(AIKOHENGINEERING製CPUゲージ)を用いて試験片の長軸方向にISOのB速度(5mm/min) で均一に張力をかけ、膜が破断するまでの最大張力を乾燥状態及び湿潤状態(37℃の生理食塩水中で1分間又は30分間の水和を行ったもの)の両者で測定した。
【0072】
1.一点支持張力
試験片の片端の中央より5mm内側の部位を糸(4−Oプロリン又は2デキソン)で縫合固定し、他方の端はクリップで均一に把持して張力をかけた。
【0073】
2.耐破断張力
試験片の両端をクリップで均一に把持して張力をかけた。
結果を表1に示す(表中、「湿潤状態A」は水和時間が1分間のデータを、「湿潤状態B」は水和時間が30分間のデータである)。
【0074】
実施例2
前記の圧縮されたものへのコラーゲン溶液層の形成の回数を5回にしたことを除き実施例1と同様にして、本発明のコラーゲン材を得た。該コラーゲン材について、実施例1と同様の方法により、その一点支持張力と耐破断張力を乾燥状態及び湿潤状態で測定した。その結果を表1に示す。
【0075】
実施例3
前記の2回目の凍結乾燥操作と圧縮操作との間で、前記のそれと同一条件下、熱脱水架橋処理と新たに形成された線維化コラーゲンにより多元構造体の内部の空隙を減らす操作をこの順に行ったこと、及び前記の圧縮されたものへのコラーゲン溶液層の形成を行わなかったことを除き実施例1と同様の方法により、その一点支持張力と耐破断張力を乾燥状態及び湿潤状態で測定した。その結果を表1に示す。
【0076】
実施例4
前記の圧縮されたものへのコラーゲン溶液層の形成を行わなかったことを除き実施例1と同様にして、本発明のコラーゲン材を得た。該コラーゲン材について、実施例1と同様の方法により、その一点支持張力と耐破断張力を乾燥状態及び湿潤状態で測定した。その結果を表1に示す。
【0077】
実施例5
最初のコラーゲン溶液層の形成時に、予めその表面にプラズマ放電処理を施したポリグリコール酸のメッシュシート(目開き:1mm)を介在せしめたこと、及び新たに形成された線維化コラーゲンにより該多元構造体の内部の空隙を減らす操作を行わなかったことを除き実施例1と同様にして、本発明のコラーゲン材を得た。該コラーゲン材について、実施例1と同様の方法により、その一点支持張力と耐破断張力を乾燥状態及び湿潤状態で測定した。その結果を表1に示す。
【0078】
実施例6
前記の圧縮されたものへのコラーゲン溶液層の形成に代えて該圧縮されたものの片面にゼラチンゲル層を形成(15%ゼラチン水溶液を当該面に塗布・乾燥)したことを除き実施例5と同様にして、本発明のコラーゲン材を得た。該コラーゲン材について、実施例1と同様の方法により、その一点支持張力と耐破断張力を乾燥状態及び湿潤状態で測定した。その結果を表1に示す。
【0079】
実施例7
ゼラチンゲル層の形成を前記の圧縮されたものの両面に行ったことを除き実施例6と同様にして、本発明のコラーゲン材を得た。該コラーゲン材について、支持張力と耐破断張力を乾燥状態及び湿潤状張力と耐破断張力を乾燥状態及び湿潤状態で測定した。その結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
表1に示す通り、本発明のコラーゲン材は、縫合に耐える優れた物性を有することが確認された。尚、同表において参考とは、ポリグリコール酸のメッシュシートのみのデータである。
【0082】
実施例8
容器内にプラズマ放電処理を施したポリグリコール酸の不織布(2plies −厚さ:0.20mm、空隙率:88.75%−)とそれを浸漬可能な十分量の抽出コラーゲン塩酸溶液(コラーゲン濃度:1%)とを入れ、該容器をデシケータ中に収容し、該デシケータ内を水流アスピレータにて減圧(−50cmH2O)し、所定時間(1〜2分間)その状態を保持して該不織布中に該抽出コラーゲン塩酸溶液を十分にしみ込ませた後、該不織布を該デシケータより取り出し風乾させた。該風乾させた不織布に実施例1と同様の条件にて凍結→保持→凍結乾燥→熱脱水架橋の各操作を行い、次いで、抽出コラーゲン塩酸溶液(コラーゲン濃度:1%)への浸漬と風乾を2回繰り返し、その中に線維化コラーゲンを充填された不織布の表面にアモルファスコラーゲンの溶液層を形成した。次いで、該アモルファスコラーゲンの溶液層の表面にゼラチンゲル層を形成させた(20%ゼラチン水溶液への浸漬と風乾を2回繰り返すことによって実行)後、実施例1と同様の条件にて熱脱水架橋を施して本発明のコラーゲン材を得た。
【0083】
実施例9
ポリグリコール酸の不織布として4plies (厚さ:0.55mm、空隙率:75.1%)のものを用いたこと及びその中に抽出コラーゲン塩酸溶液を十分にしみ込ませた該不織布に対し凍結→保持→凍結乾燥→熱脱水架橋という一連の操作を行わなかったことを除き実施例8と同様にして本発明のコラーゲン材を得た。尚、予備試験にて強度が得られることを確認し得たので実施例8のそれと同様、更なる詳細な強度試験を行わなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲンの超微細線維を基本単位とするコラーゲン線維の不織布状多元構造体のマトリックス中に、生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質を充填して又は介在させてなるコラーゲン材。
【請求項2】
前記のマトリックス中に充填してなる、生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質が、前記のマトリックス中に導入した抽出コラーゲンの塩酸溶液から凍結と凍結乾燥操作によって新たに線維化させたコラーゲンの超微細線維を含むコラーゲン線維である請求項1に記載のコラーゲン材。
【請求項3】
前記のマトリックス中に介在させてなる、生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質が、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸と乳酸の共重合体、ポリジオキサノン、グリコール酸とトリメチレンカーボネートの共重合体、又はポリグリコール酸とポリ乳酸の混合物の群から選択されるものであり、メッシュ状のシートもしくは筒状体又は不織布状のシートもしくは筒状体として用いられるものである請求項1に記載のコラーゲン材。
【請求項4】
前記のコラーゲン線維の不織布状多元構造体が、その直径が20〜50μmのコラーゲンの板状線維がランダムに絡み合ったものからなり、該板状線維が、その直径が5〜8μmのコラーゲンの線維が同軸方向に重なり合ったものからなり、該線維が、その直径が1〜3μmのコラーゲンの細線維のバンドル列が縦横互い違いに積層されたものからなり、該細線維が、その直径が30〜70nmのコラーゲンの微細線維がバンドルとなったものからなり、該微細線維が、コラーゲンの分子数個からなるその直径が3〜7nmのコラーゲンの超微細線維がバンドルとなったものからなるものである請求項2又は3に記載のコラーゲン材。
【請求項5】
生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質の不織布状のマトリックス中に、生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質を充填してなるコラーゲン材。
【請求項6】
前記の不織布状のマトリックスを構成する、生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質が、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸と乳酸の共重合体、ポリジオキサノン、グリコール酸とトリメチレンカーボネートの共重合体、又はポリグリコール酸とポリ乳酸の混合物の群から選択されるものである請求項5に記載のコラーゲン材。
【請求項7】
前記のマトリックス中に充填してなる、生体適合性を有し、且つ生体内で分解吸収され得る物質が、前記のマトリックス中に導入した抽出コラーゲンの塩酸溶液を風乾せしめたアモルファスコラーゲン、又は該抽出コラーゲンの塩酸溶液から凍結と凍結乾燥操作によって繊維化させたコラーゲンの微細線維を含むコラーゲン線維である請求項5に記載のコラーゲン材。
【請求項8】
前記のコラーゲン線維が、その直径が20〜50μmのコラーゲンの板状線維がランダムに絡み合ったものからなり、該板状線維が、その直径が5〜8μmのコラーゲンの線維が同軸方向に重なり合ったものからなり、該線維が、その直径が1〜3μmのコラーゲンの細線維のバンドル列が縦横互い違いに積層されたものからなり、該細線維が、その直径が30〜70nmのコラーゲンの微細線維がバンドルとなったものからなり、該微細線維が、コラーゲンの分子数個からなるその直径が3〜7nmのコラーゲンの超微細線維がバンドルとなったものからなるものである請求項7に記載のコラーゲン材。
【請求項9】
乾燥状態で少なくとも30N の一点支持張力と少なくとも65N の耐破断張力を、湿潤状態で少なくとも1.4N の一点支持張力と、少なくとも6.5N の耐破断張力(厚さ1mmの場合)を有する請求項2又は4に記載のコラーゲン材。
【請求項10】
乾燥状態で少なくとも10N の一点支持張力と少なくとも25N の耐破断張力を、湿潤状態で少なくとも5N の一点支持張力と、少なくとも15N の耐破断張力(厚さ1mmの場合)を有する請求項3、4又は6乃至8のいずれか1に記載のコラーゲン材。
【請求項11】
少なくとも下記のステップを記載の順に行うコラーゲン材の製造方法:
a.抽出コラーゲンの塩酸溶液を所望の厚みにキャスティングしてコラーゲン溶液層を形成する;
b.該コラーゲン溶液層を一旦凍結し、所望時間その状態を保持し、次いで凍結乾燥する;
c.該凍結乾燥されたものに、所定の時間、熱脱水架橋を施す;
d.該熱脱水架橋を施されたもののマトリックス中に該抽出コラーゲンの塩酸溶液を導入する;
e.該抽出コラーゲンの溶液を導入されたものを一旦凍結し、所望時間その状態を保持し、次いで凍結乾燥する;
g.該凍結乾燥されたものを圧縮する;そして
i.該圧縮されたものに、所定の時間、熱脱水架橋を施す。
【請求項12】
前記のステップeとステップgの間で下記のステップを順に行う、請求項11に記載の方法。
f1.該凍結乾燥されたもののマトリックス中に該抽出コラーゲンの塩酸溶液を再度、導入する;
f2.該抽出コラーゲンの溶液を導入されたものを一旦凍結し、所望時間その状態を保持し、次いで凍結乾燥する。
【請求項13】
前記のステップgとステップiの間で下記のステップを行う、請求項11又は12に記載の方法。
h1.該圧縮されたものの表面の所定部位に、コラーゲン溶液層を形成する。
【請求項14】
前記のステップh1とステップiの間で下記のステップを行う、請求項13に記載の方法。
h2.該コラーゲン溶液層を圧縮する。
【請求項15】
前記のステップb、e及びf2における凍結操作時の凍結保持時間が6〜48時間である請求項11乃至14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記のステップd及びf1における抽出コラーゲンの塩酸溶液のコラーゲン濃度が0.5%以下である請求項11乃至14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記のステップh1におけるコラーゲン溶液層を形成するための抽出コラーゲンの塩酸溶液のコラーゲン濃度が2.0%以下である請求項13又は14に記載の方法。
【請求項18】
前記のステップaにおいて、抽出コラーゲンの塩酸溶液のキャスティングを2回に分けて行い、両キャスティング操作の間で、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸と乳酸の共重合体、ポリジオキサノン、グリコール酸とトリメチレンカーボネートの共重合体、又はポリグリコール酸とポリ乳酸の混合物の群から選択される材料からなるメッシュ状のシート又は筒状体を介在させると共に、前記のステップcに次いで前記のステップgを行い、更に前記ステップiを行わない、請求項11又は15に記載の方法。
【請求項19】
前記のステップgの後で下記のステップを更に行う請求項18に記載の方法。
h3.該圧縮されたものの少なくとも一方の面にコラーゲン溶液層又はゼラチン溶液層を形成する;
h4.該コラーゲン溶液層又はゼラチン溶液層を形成されたものに、熱脱水架橋を施す。
【請求項20】
前記のコラーゲン溶液層を形成するための抽出コラーゲンの塩酸溶液のコラーゲン濃度が2%以下である請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記のゼラチン溶液層を形成するためのゼラチン水溶液のゼラチン濃度が5〜25%である請求項19に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも下記のステップを記載の順に行うコラーゲン材の製造方法:
j.ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸と乳酸の共重合体、ポリジオキサノン、グリコール酸とトリメチレンカーボネートの共重合体、又はポリグリコール酸とポリ乳酸の混合物の群から選択される材料からなる不織布状のシート又は筒状体のマトリックス中に抽出コラーゲンの塩酸溶液を導入した後、風乾する;
l.該抽出コラーゲンの塩酸溶液が導入・風乾されたものの少なくとも一方の面にコラーゲン溶液層を形成する;
o.該コラーゲン溶液層の上にゼラチン溶液層を形成する;そして
p.該ゼラチン溶液層が形成されたものに、所定の時間、熱脱水架橋を施す。
【請求項23】
前記のステップjとステップlの間で下記のステップkを、前記のステップlとステップoの間で下記のステップmを、それぞれ行う請求項22に記載の方法:
k.該抽出コラーゲンを導入されたものを一旦凍結し、所望時間その状態を保持し、次いで凍結乾燥する;及び
m1.該コラーゲン溶液層が形成されたものを一旦凍結し、所望時間その状態を保持し、次いで凍結乾燥する;そして
m2.該凍結乾燥されたものを圧縮する。
【請求項24】
前記のステップlとステップoの間、又は前記のステップm2とステップoの間で下記のステップnを行う請求項22又は23に記載の方法:
n.該コラーゲン溶液層が形成されたもの、又は該凍結乾燥されたものに所定の時間、熱脱水架橋を施す。
【請求項25】
前記のステップj及びlにおける抽出コラーゲンの塩酸溶液のコラーゲン濃度が2.0%以下である請求項22乃至24のいずれか1に記載の方法。
【請求項26】
前記のステップoにおけるゼラチン水溶液のゼラチン濃度が5〜25%である請求項22乃至24のいずれか1に記載の方法。
【請求項27】
製造されたコラーゲン材が、乾燥状態で少なくとも30Nの一点支持張力と少なくとも65N の耐破断張力を、湿潤状態で少なくとも1.4N の一点支持張力と、少なくとも6.5N の耐破断張力(厚さ1mmの場合)を有する請求項11乃至17のいずれか1に記載の方法。
【請求項28】
製造されたコラーゲン材が、乾燥状態で少なくとも10Nの一点支持張力と少なくとも25N の耐破断張力を、湿潤状態で少なくとも5Nの一点支持張力と、少なくとも25N の耐破断張力(厚さ1mmの場合)を有する請求項18乃至26のいずれか1に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−29684(P2010−29684A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227351(P2009−227351)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【分割の表示】特願平10−201405の分割
【原出願日】平成10年7月16日(1998.7.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(591101825)
【Fターム(参考)】