説明

コリンエステラーゼ賦活剤

本発明はコリンエステラーゼ賦活剤を提供する。GAを有効成分とする賦活剤は、種々の薬物の副作用によるコリンエステラーゼ阻害または肝障害に起因するコリンエステラーゼ活性低下の治療または予防に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラビアゴム(GA)を有効成分とする、コリンエステラーゼ賦活剤に関する。より詳しくは、肝障害によるコリンエステラーゼの活性低下や、各種薬剤の副作用によるコリンエステラーゼ阻害作用の予防若しくは治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国の農業では有機農薬の使用を極力抑える方向にあるが、外国から輸入された野菜にはしばしば大量の農薬が含まれていることがあり、問題となっている。有機リン農薬を摂取した場合、血液中や脳のコリンエステラーゼが長期にわたって阻害され、中枢神経系のムスカリン受容体の作用発現を低下させることが知られている(後記非特許文献1参照)。
コリンエステラーゼは生体内に広く分布しているが、ネオスチグミン等のコリンエステラーゼ阻害剤によって阻害される他、種々の薬剤、特に抗ガン剤や有機リン剤によっても阻害を受け、コリンエステラーゼ活性の低下が各種薬剤の副作用発現の要因とも考えられている(後記特許文献1参照)。
【0003】
一方、GAはマメ科(Leguminosae)植物アカシア・セネガル(Acacia senegal)又はその他同属植物の幹及び枝から得られる分泌物である。
アカシア・セネガルはアフリカのセネガルからエチオピアの乾燥熱滞にかけて原産し、インドには野性に広く分布する落葉の小高木で、高さ6mほどに達する。樹皮は灰色で平滑、枝はジグザグ状をなす。葉腋につく3本のとげのうち、中央部の1本が湾曲するという特徴をもち、クリーム色の花をつける。GAは無色〜淡黄褐色の透明又は多少乳濁した球塊として採取される天然樹脂のひとつである。
現在、産業的に扱われる大部分のアラビアゴムはこの種から採取した形のままの球状分泌物が用いられる。同属植物のうち、同目的に用いるものにアカシア・セヤル(Acacia seyal)及びその他がある。
【0004】
アカシア属植物の幹及び枝から得た分泌物は古く、紀元前からのりとして用いられた。アラビアゴムの名称はアフリカ産のものがアラビアを経て、外国に輸出されたからである。
本品は無色〜淡黄褐色の透明又多少乳濁した球状塊又は破片で、その外面に多数の割れ目があり、砕きやすく、砕面はガラスのようで、しばしば光彩を現す。本品はにおいがなく、味はないが粘滑性である。
主成分は多糖のアラブ酸(arabic acid)79〜81%で、Ca、Mgおよび/またはKの塩として存在する。加水分解すると、L−アラビノース、D−ガラクトース、L−ラムノース及びD−グルクロン酸を生じる。加水分解酵素及び酸化酵素を含む。他に少量のミネラルや蛋白を含む。
【0005】
GAは、古くから色素を定着するバインダーとして使われてきた。現在の透明水彩及び不透明水彩のバインダーに用いられている。水彩絵具の他にも、キャンデーの製造やソフトドリンクの乳化剤として食品関係に使われたり医薬品の糖衣錠やシロップに使われたり、比較的身近な材料として用いられている。
濃度35%前後のアラビアゴムバインダーは透明水彩の製造に使われるだけでなく、水彩絵具により透明性を与える効果や水彩作品に光沢を与えるメディウムとしての役割にも用いられる。また、3%程度の溶液を作り、筆を洗った後のまとまりを良くするための固着剤としても利用できる。
【0006】
GAは古代エジプトでは薬用として広く用いられ、歯周病や歯槽膿漏(歯茎からの出血を治療し、歯茎の潰瘍を取り除き、歯を成長させるための薬)、肺の治療薬または肝臓の治療薬として用いられていた。
現在は、ジュース、アイスクリームの成分を均一に保つ乳化香料として、チョコレート、キャラメル製品の形を整える添加物として、医薬品においては薬の錠剤を固めたり、液状の薬品の成分の分離を防ぐ安定剤として用いられる。
【0007】
アラビアゴムにはヒト血中コレステロール、中性脂肪の低下作用(後記非特許文献2参照)、腸内菌叢改善効果(後記非特許文献3参照)、アセトアミノフェン誘発肝障害に対する改善作用(後記非特許文献4参照)などが報告されている。しかし、農薬やその他の薬物によるコリンエステラーゼ活性低下を抑制し、またはコリンエステラーゼ活性を賦活化する作用は知られていない。
【特許文献1】特開平7−228529号公報
【非特許文献1】J.E.Gibson, R.K.D. Peteerson and B.A .Shurdut, Environ. Health Perspect. 106(1998),303-305; Toxic effect of pesticides: in C.D.Klaassen (Ed.), Casarett and Doull's Toxicology, The BasicScience of Poisons, McGrawHill, New York 1996, 643-689, D.J.Ecobichon
【非特許文献2】Ross AH, Eastwood MA, Brydon WG, Anderson JR, Anderson DM., Am J Clin Nutr., 37, 368-75, 1983.
【非特許文献3】Phillips, G.O., Food Addit. Contam. 15, 251-264, 1998.
【非特許文献4】Gamal el-din AM, Mostafa AM, Al-Shabanah OA, Al-Bekairi AM, Nagi MN., Pharmacological Research, 48, 631-635, 2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、農薬やその他の薬物によるコリンエステラーゼ活性低下を抑制し、またはコリンエステラーゼ活性を賦活化する、安全性の高い薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、古来、アラブ/アフリカの民間薬として用いられていたGAに注目し、有機リン農薬の一種であるクロロピリホスによるコリンエステラーゼ活性低下がGAにより著しく阻害されることを見出して本発明を完成した。
【発明の効果】
【0010】
従前より、肝障害の予防または治療におけるGAの有効性を示唆する報告が存在するが、これらはいずれもGAが有する抗酸化作用または肝障害起因物質の吸収阻害作用によるものである。
本発明の場合後記実施例に示す如く、クロロピリホスとGAを併せて投与するとコリンエステラーゼ活性低下は有意に抑制されたが、LDH等の上昇に対しては有意な作用が認められなかった。このことは、AGがクロロピリホスの吸収を阻止しているのではなく、クロロピリホスによるコリンエステラーゼ活性低下を特異的に抑制していることを示している。即ち、本発明ではコリンエステラーゼ活性に対し特異的に作用する、肝障害の予防または治療薬としての有用性が窺える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明における天然水溶性ゴムとしては、マメ科(Leguminosae)アカシア(Acacia)属植物、例えばアカシア・セネガルやアカシア・セーヤルの幹及び/または枝から得られる分泌物をそのまま使用することができるが、使用性、製剤化等の点から乾燥粉末、溶媒抽出物を用いることが好ましい。
好ましい抽出溶媒としては、水が挙げられる。得られた抽出液はそのまま、またはさらに濃縮したり、希釈したり、精製したりして用いることもできる。
【0012】
さらに、抽出液や粉末をカラムクロマトグラフィーなどを用いて精製することにより、単一成分としたものを用いることもできる。
このようにして得られる本発明の作用増強剤は、例えば経口的に投与することができる。投与の形態としては、剤形、投与されるヒトの性別、年齢、体重等にもよるが、通常、一日あたり1gから100g、好ましくは10gから50gg、更に好ましくは10gから20gの天然水溶性ゴムを、例えば水または湯に溶解若しくは懸濁してドリンク剤として摂取することができる。
【0013】
ドリンク剤には、砂糖、ハチミツ、グリセリン、アスパルテーム等の甘味料、ガーリック、ジンジャー等の香辛料、フルーツ系フレーバー等の着香料、エデト酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等の抗酸化剤、ロイシン、メチオニン、リジン、タウリン等のアミノ酸、ビタミンA、B、C、D、E、ニコチン酸アミド等のビタミン類を必要に応じて適宜添加することができる。
また、天然果汁(グレープフルーツ、オレンジ等)や野菜汁(ケール、大麦若葉)、ニンジンエキス、ロクジョウ等の生薬および抽出物を添加し、ジュースその他の飲料として摂取することも可能である。
【実施例】
【0014】
有機リン農薬による血清コリンエステラーゼ活性の低下に及ぼすGAの作用を試験した。
1.動物
清水実験材料から入手したddY系雄性マウス(25〜30g)を用いた。温度、湿度を調節した飼育環境下で、飼料と水は自由に摂取させた。
2.試薬
GAは三協食品工業から入手した。クロロピリホス(CP)、コリンエステラーゼ(ChE)、乳酸脱水素酵素(LDH)、グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)、グルタミン酸-ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)測定用キットは和光純薬から入手した。その他の薬品類はすべて市販品を使用した。
【0015】
3.試験方法
マウスを1群5匹として、以下の4グループに分けた。
1)グループI(対照群):生理食塩水と綿実油を4週間、経口投与した。
2)グループII(GA投与群):生理食塩水に溶解したGA(1200mg/kg/day)を4週間、経口投与した。
3)グループIII(CP投与群):綿実油に溶解したCP(8mg/kg/day/0.2ml)を4週間、経口投与した。
4)グループIV(CP+GA投与群):綿実油に溶解したCP(8mg/kg/day/0.2ml)と、生理食塩水に溶解したGA(1200mg/kg/day)を4週間、併用投与した。
【0016】
4.血清酵素測定法
各群のマウスは薬物の最終投与24時間後に、ペントバルビタール麻酔下で採血した。血液試料は直接心穿刺によって得た全血を4℃、15分間遠心分離(2000 x g)して血清酵素測定用試料とした。各酵素(ChE、LDH、GOT、GPT)は酵素測定用キットを用いて測定した。
【0017】
5.統計的分析
実験結果は各群の平均値±標準誤差で示した。各グループ間の比較はStudentのt-test検定により評価した。統計上の有意差はp<0.01とした。
6.結果
表1に示した。
【0018】
【表1】

【0019】
GAの連日投与は各種血清酵素活性に影響を与えなかった(グループII)。CPを投与するとコリンエステラーゼ活性は著しく低下し、他方、血清LDH,GOT、およびGPT活性は上昇する傾向を示した(グループIII)。CPとGAの投与群(グループIV)ではコリンエステラーゼ活性の低下が有意に抑制されたが、血清LDH,GOT、およびGPT活性の上昇に対しては有意な作用が認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0020】
GAがLDH等に影響することなくコリンエステラーゼ活性低下のみを特異的に抑制していることから、本発明はコリンエステラーゼ活性に対し特異的に作用する、肝障害の予防または治療薬として期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アカシア(Acacia)属植物の幹及び/または枝から得た天然水溶性ゴムを含有してなる、コリンエステラーゼ賦活剤。
【請求項2】
コリンエステラーゼに特異的な、肝障害治療のための請求項1に記載の賦活剤。
【請求項3】
天然水溶性ゴムがアラビアゴムである請求項1または2に記載の賦活剤。
【請求項4】
アカシア(Acacia)属植物がアカシア・セネガル(Acacia senegal)である、請求項1から3のいずれかに記載の賦活剤。

【公表番号】特表2009−508806(P2009−508806A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515777(P2008−515777)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際出願番号】PCT/JP2006/319219
【国際公開番号】WO2007/034982
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(503194819)ベリトロン・リミテッド (10)
【氏名又は名称原語表記】VERITRON LIMITED
【Fターム(参考)】