説明

コロイダルダンパ

【課題】高い消散エネルギ効率ηを得ることができる上に経済性、利用容易性に優れて、しかも、低温下でも正常に動作させることのできるコロイダルダンパを提供すること。
【解決手段】コロイダルダンパ1は、容器2と、容器2と協働して容器2内に密閉空間3を形成すると共に容器2に軸方向Xに往復動自在に案内支持されたピストン4と、密閉空間3に収容されていると共に多数の細孔5を有した多孔質体6と、密閉空間3に多孔質体6と混在して収容されていると共に減圧において細孔5から流出する一方、増圧において細孔5へ流入する液体7と、減衰させるべき軸方向Xの往復動の力Fをピストン4を介して液体7に伝達して液体7を加圧するピストンロッド8とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉空間にシリカゲル等の多孔質体と液体とを混在させて封入して、多孔質体の細孔へ液体を流出入させて機械的エネルギを消失させるようにしたコロイダルダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば国際公開第96/18040号パンフレット及び国際公開第01/55616号パンフレットに記載されているコロイダルダンパは、その動作周波数レンジが広い等の従来の流体ダンパと異なる種々の好ましい特性を有しているので、種々の分野への応用が期待されている。
【0003】
しかしながら、コロイダルダンパは、液体の表面張力に抗して多孔質体の細孔へ液体を流入させて機械的エネルギを消失させるという新規な原理を利用したものであるために、その機械的エネルギの消失効率については未だよく解明されていないのが現状である。
【0004】
本出願人は、容器と、この容器内に収容されていると共に多数の細孔を有した多孔質体と、容器内に多孔質体と混在して収容されていると共に無加圧時において実質的に多孔質体の細孔への流入が排除される一方、加圧時において多孔質体の細孔へ流入する液体と、減衰させるべき往復動力を液体に伝達して当該液体を減圧する伝達手段とを具備していると共に機械的エネルギを効率よく吸収できるコロイダルダンパを先に提案した(特願2002−204617号)。
【0005】
提案に係るコロイダルダンパでは、液体として、水、不凍液、極性流体、水銀、溶融鉛等を含む溶融金属、溶融ウッドメタル等を含む溶融合金、溶融塩及び溶融フラックスを用いた。
【0006】
ところで、用いる液体としては経済性、利用容易性の観点からは水が好ましいのであるが、水は通常0℃で凍結するために、液体として水を用いたコロイダルダンパは低温下では正常に動作しなくなる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第96/18040号パンフレット
【特許文献2】国際公開第01/55616号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、コロイダルダンパにおいて液体として水を用いても当該水に一定量以下のある種の不凍剤を混入させることにより−40℃までの低温下でも正常に動作することを見出したのであり、そこで本発明の目的とするところは、高い消散エネルギ効率ηを得ることができる上に経済性、利用容易性に優れて、しかも、低温下でも正常に動作させることのできるコロイダルダンパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様のコロイダルダンパは、容器と、この容器と協働して容器内に密閉空間を形成すると共に容器に往復動自在に案内支持されたピストンと、密閉空間に収容されていると共に多数の細孔を有した多孔質体と、密閉空間に多孔質体と混在して収容されていると共に減圧において多孔質体の細孔から流出する一方、増圧において多孔質体の細孔へ流入する液体とを具備しており、ここで、液体は、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリンから選ばれた少なくとも一種以上を多くとも50容量%混入させた水からなる。
【0010】
第一の態様のコロイダルダンパによれば、液体がエタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリンから選ばれた少なくとも一種以上を多くとも50容量%混入させた水からなるために、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリンから選ばれた少なくとも一種が水に対する不凍剤となり、一つの実施例によれば最大で−40℃近辺までの低温下でも液体が凍結しないようになり、而して、低温下でも正常に動作させることのできる上に液体として主に水を用いるために経済性、利用容易性に優れ、加えて、主に水の表面張力を利用できるために高い消散エネルギ効率ηを得ることができる。
【0011】
例えば、エタノールを水に50容量%混入させた場合には、−32℃近辺までの低温下でも液体が凍結しないようになるが、エタノールの20℃での表面張力σが22.8mN/mであって水の20℃での表面張力σ(=72.8mN/m)よりもかなり小さいために消散エネルギ効率ηが他の不凍剤であるエチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリンよりも低くなる。
【0012】
また、エチレングリコールを水に50容量%混入させた場合には、−35℃近辺までの低温下でも液体が凍結しないようになるが、エチレングリコールの20℃での表面張力σが48.4mN/mであってエタノールよりかなり大きいために消散エネルギ効率ηがエタノールよりも高くなる。
【0013】
一方、プロピレングリコールを水に50容量%混入させた場合には、エタノールと同様に−32℃近辺までの低温下でも液体が凍結しないようになるが、プロピレングリコールの20℃での表面張力σが42.3mN/mであってエタノールよりかなり大きくエチレングリコールとほぼ同等であるために消散エネルギ効率ηがエタノールよりも高く、エチレングリコールとほぼ同等である。
【0014】
グリセリンを水に50容量%混入させた場合には、−40℃近辺までの低温下でも液体が凍結しないようになり、グリセリンの20℃での表面張力σが63.4mN/mであってエタノール、エチレングリコール及びプロピレングリコールよりかなり大きく水とほぼ同等であるために消散エネルギ効率ηが他の不凍剤であるエタノール、エチレングリコール及びプロピレングリコールと比較してもっとも高く、水とほぼ同等の消散エネルギ効率ηが得られ、斯かる意味において不凍剤としてグリセリンがもっとも好ましい。
【0015】
液体は、本発明の第二の態様のコロイダルダンパのように、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリンから選ばれた少なくとも一種以上を多くとも40容量%含ませた水溶液からなっており、斯かるコロイダルダンパによれば、液体の凍結温度が−23℃付近となって上昇する一方、消散エネルギ効率ηが高くなる結果、消散エネルギ効率ηを重視する観点からは第二の態様のコロイダルダンパのようにすることが好ましい。
【0016】
本発明の第三の態様のコロイダルダンパでは、多孔質体の細孔を規定する表面は液体に対して疎液性を有しており、多孔質体と液体とは、多孔質体の細孔の容積をVとし、液体の体積をVとすると、その比V/Vが0.2以上であって2.5以下の範囲をもって密閉空間に収容されている。
【0017】
コロイダルダンパにおいて消散エネルギ効率ηは、密閉空間に収容された多孔質体の細孔の容積と液体の体積との比に依存し、多孔質体の細孔の容積をVとし、液体の体積をVとすると、比V/Vが0.2以上であって2.5以下であると高い消散エネルギ効率ηが得られる。
【0018】
比V/Vが0.2よりも小さくなると、急激に消散エネルギ効率ηが悪くなり、比V/Vが2.5を超えても消散エネルギ効率ηの向上を期待し難く、却って大きな往動距離を得ることができない結果、例えば大振幅の機械的振動エネルギを効率よく吸収することができなくなる。
【0019】
本発明の第四の態様のコロイダルダンパのように、比V/Vが0.35以上であって1.5以下の範囲にあれば、より高い消散エネルギ効率ηを得ることができる上に、比較的大きな振幅の振動エネルギを吸収することができて好ましく、本発明の第五の態様のコロイダルダンパのように、比V/Vが実質的に1であると、大きな振幅の振動を最大の消散エネルギ効率ηをもって減衰させることができる。
【0020】
多孔質体は、その表面における細孔の平均径(直径)をd1とすると、本発明の第六の態様のコロイダルダンパのように、細孔の平均径d1の10倍以上であって10000倍以下の範囲にある平均径(直径)d2を有する略球形粒状体からなっていると好ましく、本発明の第七の態様のコロイダルダンパのように、細孔の平均径d1の100倍以上であって5000倍以下の範囲にある平均径d2を有する略球形粒状体からなっているとさらに好ましい。具体的な例を示すと、富士シリシア化学社製の「Sylosphere C1504」(商品名)の平均径d2は4.0μm、平均径d1は13.4nmであり、富士シリシア化学社製の「Chromatorex BU0020」(商品名)の平均径d2は19.9μm、平均径d1は10.5nmであり、鈴木油脂工業社製の「ゴッドボールB−6C」(商品名)の平均径d2は2.3μm、平均径d1は13.1nmであり、鈴木油脂工業社製の「ゴッドボールB−25C」(商品名)の平均径d2は13.0μm、平均径d1は13.1nmである。
【0021】
多孔質体は、本発明の第八の態様のコロイダルダンパのように、複数個の略球形粒状体の塊であってよく、この場合、この塊が少なくとも一個密閉空間に収容されていてもよく、これに代えて、多孔質体は、本発明の第九の態様のコロイダルダンパのように、密閉空間に分散して収容されている複数個の略球形粒状体からなっていてもよい。
【0022】
多孔質体の細孔は、多孔質体内においてラビリンス(迷路)を構成するように配されていてもよいが、好ましくエネルギを消散させるには、多孔質体は、細孔の平均径d1よりも大きな径を有する少なくとも一個の中空部を有して、斯かる中空部に細孔が連通していることが好ましく、特に、本発明の第十の態様のコロイダルダンパのように、多孔質体は中空部を有した略球形粒状体からなり、細孔は、中空部を有した略球形粒状体において一端で中央中空部に開口し他端で略球形粒状体外に開口しているとよく、また斯かる多孔質体において、細孔は、本発明の第十一の態様のコロイダルダンパのように、中空部から放射方向に伸びているとよい。前者のラビリンス構造を有するものとしては、前述の富士シリシア化学社製の「Sylosphere」が、後者の中空部構造を有するものとしては、前述の鈴木油脂工業社製の「ゴッドボール」が例示される。
【0023】
本発明におけるコロイダルダンパの好ましい使用例では、通常、加圧された液体がその表面張力に抗して多孔質体の細孔に流入しており、液体が減圧されると、多孔質体の細孔に流入していた液体はその表面張力により多孔質体の細孔から流出するのであるが、高い消散エネルギ効率ηを得るためには、液体の細孔への流出入において、細孔を規定する多孔質体の表面を液体がスリップして連続的に流れることが好ましく、したがって、本発明の第十二の態様のコロイダルダンパのように、液体分子の平均自由行程をLpとすると、多孔質体の細孔は、クヌーセン数Kn=Lp/(d1・1/2)が0.01よりも大きく、0.1よりも小さくなる平均径d1を有していると好ましい結果が得られる。
【0024】
換言すれば、多孔質体の細孔の平均径d1は、0.01よりも大きく、0.1よりも小さい値のクヌーセン数Kn=Lp/(d1・1/2)となるように、液体との関連で決定するのがよい。
【0025】
細孔を規定する多孔質体の表面は、液体の細孔に対する流出入において濡れないこと、換言すれば、疎液性を有していることが、液体の細孔に対する流出入の可逆性を得る上で好ましいのであり、本発明では多孔質体として主として水を含んだ液体に対して疎液性を有する多孔質PTFEや多孔質ポリスチレンが好ましいのであるが、これに限定されない。このように多孔質体自身が液体に対して疎液性を有しない場合は、多孔質体に疎液性を付与するために、本発明の第十三の態様のコロイダルダンパのように、少なくとも細孔を規定する多孔質体の表面を、実際的には、本発明の第十四の態様のコロイダルダンパのように、細孔における表面を含めて多孔質体の全表面を使用する液体に対して疎液性を有する疎液性物質で被覆して疎液化処理するとよい。
【0026】
斯かる疎液性物質は、本発明の第十五の態様のコロイダルダンパのように、分子鎖が線形な物質、具体的には例えばSi(CH)2n+1(但し、n=1〜22)のような有機ケイ素化合物若しくは例えばSi(CH)2n+1(但し、n=1〜22)のような有機フッ素化合物からなるもの、又は本発明の第十六の態様のコロイダルダンパのように、分子鎖の長い物質、具体的には例えばSi(CH)2n+1(但し、n=4〜22)のような有機ケイ素化合物若しくは例えばSi(CH)2n+1(但し、n=4〜22)のような有機フッ素化合物からなるものが好ましいのであるが、いずれにしても本発明の第十七の態様のコロイダルダンパのように、有機ケイ素化合物又は有機フッ素化合物からなるものが好ましく、具体的には、トリメチルクロロシラン(Si(CH))若しくはジメチルオクタデシルクロロシラン(Si(CH)1837)等からなる。
【0027】
本発明において、多孔質体としては、その第十八の態様のコロイダルダンパのように、シリカゲル、アエロゲル、セラミックス、多孔質ガラス、ゼオライト、多孔質PTFE、多孔質蝋、多孔質ポリスチレン、アルミナ並びに黒鉛、木炭、フラーレン及びカーボンナノチューブを含むカーボンを好ましい例として挙げることができる。シリカゲルからなる多孔質体としては、具体的には、液体クロマトグラフィー用素材として用いられるシリカゲルが好適に使用でき、富士シリシア化学社製の「Sylosphere」、「スーパーマイクロビーズシリカゲル」、「マイクロビーズシリカゲル」、「Chromatorex」(いずれも商品名)、鈴木油脂工業社製の「ゴッドボール」(商品名)等が挙げられる。
【0028】
多孔質体としてシリカゲルを、液体として主として水を含んだ液体を夫々使用する場合、使用できるシリカゲルとして具体的に、ジメチルオクタデシルクロロシランで疎液化処理された富士シリシア化学社製の「Chromatorex ODS−BU0020MT」(商品名:d2=19.9μm、d1=7.0nm)、ジメチルオクタデシルクロロシランで疎液化処理された富士シリシア化学社製の「Sylosphere C1504−ODS」(商品名:d2=4.0μm、d1=8.9nm)、トリメチルクロロシランで疎液化処理された富士シリシア化学社製の「Sylosphere C1504−DBA4.5」(商品名:d2=4.0μm、d1=12.8nm)、鈴木油脂工業社製の「ゴッドボール B−6C」、「ゴッドボール B−25C」(いずれも商品名)をジメチルオクタデシルクロロシランで疎液化処理したもの(前者ではd2=2.3μm、d1=8.7nm、後者ではd2=13.0μm、d1=8.7nm)等が挙げられる。
【0029】
コロイダルダンパの好ましい使用例では、密閉空間に収容されている液体は、通常では所定の大きさで予め加圧されているのであるが、この加圧の程度は、あまり大きすぎると多孔質体の細孔に予め液体が多量に流入してしまって、却って消散エネルギ効率ηが悪くなる。好ましい例では、直径10mmのピストンの場合で7kNから10kN程度の力がピストンに生じるように液体を予め加圧しておくとよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、高い消散エネルギ効率ηを得ることができる上に経済性、利用容易性に優れて、しかも、低温下でも正常に動作させることのできるコロイダルダンパを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明の実施の形態の好ましい例の説明図である。
【図2】図2は、図1に示す例の略球形粒状体の断面説明図である。
【図3】図3は、図1に示す例の動作説明図である。
【図4】図4は、不凍剤(エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール又はグリセリン)混入率と液体の凍結温度との測定結果の説明図である。
【図5】図5は、エタノールについてのストロークと圧力との関係を示す説明図である。
【図6】図6は、エチレングリコールについてのストロークと圧力との関係を示す説明図である。
【図7】図7は、グリセリンについてのストロークと圧力との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に本発明及びその実施の形態を、図に示す例を参照して更に詳細に説明する。なお、本発明はこの例に何等限定されないのである。
【実施例】
【0033】
図1及び図2において、本例のコロイダルダンパ1は、容器2と、容器2と協働して容器2内に密閉空間3を形成すると共に容器2に軸方向Xに往復動自在に案内支持されたピストン4と、密閉空間3に収容されていると共に多数の細孔5を有した多孔質体6と、密閉空間3に多孔質体6と混在して収容されていると共に減圧において細孔5から流出する一方、増圧において細孔5へ流入する液体7と、減衰させるべき軸方向Xの往復動の力Fをピストン4を介して液体7に伝達して液体7を加圧するピストンロッド8とを具備しており、ここで、多孔質体6の細孔5を規定する表面9及び多孔質体6の外面10、即ち細孔5を規定する表面9を含めて多孔質体6の全外面は、液体7に対して疎液性を有している。
【0034】
容器2は、円板状の底部15を一体的に有するシリンダ形状の本体16と、一端が底部15で閉鎖された本体16の他端を閉鎖するように、ねじ、ピン等により本体16の他端に固着された円板状の蓋体17とを具備している。蓋体17には、貫通孔18が形成されている。ピストン4はシールリング19を具備しており、シールリング19は密閉空間3をシールして本体16の内周面に軸方向Xに摺動自在に接触している。ピストンロッド8は、ピストン4に一端で固着されていると共に蓋体17を軸方向Xに摺動自在に貫通して容器2外に伸長している。
【0035】
多孔質体6は、密閉空間3に分散して収容されている複数個、本例では多数個の略球形粒状体25からなり、各略球形粒状体25は、シリカゲルからなっていると共に複数の細孔5と略中央に中空部26とを有しており、細孔5は、一端で中空部26に開口し、他端で略球形粒状体25外に開口して、中空部26から放射方向に伸びており、斯かる複数の細孔5から多孔質体6の多数の細孔5が構成されている。
【0036】
多孔質体6を構成する多数の略球形粒状体25の夫々の外面10及び細孔5の表面9は、液体7に対して疎液性物質であって分子鎖が線形な物質である有機ケイ素化合物(例えばSi(CH)2n+1(但し、n=1〜22))若しくは有機フッ素化合物(例えばSi(CH)2n+1(但し、n=1〜22))、又は分子鎖の長い物質である有機ケイ素化合物(例えばSi(CH)2n+1(但し、n=4〜22))若しくは有機フッ素化合物(例えばSi(CH)2n+1(但し、n=4〜22))で被覆されており、細孔5の平均径をd1とすると、略球形粒状体25は、細孔5の平均粒径d1の10倍以上であって10000倍以下の範囲にある平均径d2を有している。略球形粒状体25の中空部26を規定する面27もまた、斯かる疎液性物質で被覆されていてもよい。
【0037】
液体7はエタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリンから選ばれた少なくとも一種以上を多くとも50容量%混入させた水からなっており、液体分子の平均自由行程をLpとすると、細孔5は、クヌーセン数Kn=Lp/(d1・1/2)が0.01よりも大きく、0.1よりも小さくなる平均径d1を有している。
【0038】
多孔質体6と液体7とは、多孔質体6の細孔5の全容積をVとし、液体7の体積をVとすると、その比V/Vが0.2以上であって2.5以下の範囲をもって、本例では比V/Vが実質的に1となるように密閉空間3に収容されている。
【0039】
以上のコロイダルダンパ1では、ピストンロッド8に力Fが加えられると、この力Fがピストン4を介して液体7に加えられて液体7が加圧され、この加圧でもって液体7は、その表面張力に抗して細孔5へ流入し、これにより、図3に示すように密閉空間3の容積を減少するようにピストン4は移動される一方、ピストンロッド8へ付与された力Fがなくなると、表面張力に抗して細孔5へ流入した液体7は、その表面張力により細孔5から流出されて、これにより、ピストン4は前記と逆に密閉空間3の容積を増大するように移動されて図1に示すように初期位置に復帰される。そしてコロイダルダンパ1では、力Fの仕事エネルギが細孔5への液体7の流入でもって消費されるために、ピストンロッド8を移動させる力Fを減衰させることになる。
【0040】
ところで、図4に示す測定結果から、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール又はグリセリンを50容量%混入させた水からなる液体7の凍結温度は、−30℃以下(エタノール及びプロピレングリコールでは約−32℃、エチレングリコールでは約−35℃、グリセリンでは約−40℃)となり、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール又はグリセリンを40容量%混入させた水からなる液体7の凍結温度は−20℃以下となる結果、斯かるコロイダルダンパ1は低温下でも動作させることのできることが判明した。
【0041】
また、実施例として、多孔質体としてシリカゲルを用い、エタノールを0容量%、25容量%及び50容量%混入させた水からなる各液体7、エチレングリコールを0容量%、10容量%、20容量%、30容量%、40容量%及び50容量%混入させた水からなる各液体7並びにグリセリンを0容量%、25容量%及び50容量%混入させた水からなる各液体7を夫々密閉空間3に収容したコロイダルダンパ1を準備し、これらの各種の液体7を収容したコロイダルダンパ1において周囲温度20℃でピストン4をストロークS(mm)だけ移動させた場合の液体7の圧力(内圧)Pを測定した。
【0042】
図5にエタノールの場合を、図6にエチレングリコールの場合を、そして図7にグリセリンの場合を夫々示す。
【0043】
図5に示すようにエタノールの場合には他の二者と比較してその混入比率を増大するにしたがって消散エネルギ(ストロークS−圧力P曲線で囲まれる面積に相当)が大きく減少し、図7に示すようにグリセリンの場合には他の二者と比較してその混入比率を増大しても消散エネルギが殆ど変化しなく、図6に示すようにエチレングリコールの場合にはその混入比率と消散エネルギとの関係において他の二者に対して中間の値を示すことが判明した。
【0044】
斯かる結果は、エタノールの場合にはその混入比率を増大するにしたがって液体7の表面張力σが大きく減少し、グリセリンの場合にはその混入比率を増大しても液体7の表面張力σが殆ど変化しないことによるものと考えられる。
【0045】
以上のようにコロイダルダンパ1によれば、液体7がエタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリンから選ばれた少なくとも一種以上を多くとも50容量%混入させた水からなるために、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリンから選ばれた少なくとも一種が水に対する不凍剤となり、而して、低温下でも正常に動作させることのできる上に液体7として主に水を用いるために経済性、利用容易性に優れ、加えて、主に水の表面張力を利用できるために高い消散エネルギ効率ηを得ることができる。
【0046】
なお、密閉空間3には複数個の略球形粒状体25の塊からなる多孔質体6を一個又は複数個収容してもよく、また、略球形粒状体25の塊からなる多孔質体6の一個又は複数個と、分散された複数個の略球形粒状体25とを混在させて密閉空間3に収容してコロイダルダンパ1を構成してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 コロイダルダンパ
2 容器
3 密閉空間
4 ピストン
5 細孔
6 多孔質体
7 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器と、この容器と協働して容器内に密閉空間を形成すると共に容器に往復動自在に案内支持されたピストンと、密閉空間に収容されていると共に多数の細孔を有した多孔質体と、密閉空間に多孔質体と混在して収容されていると共に減圧において多孔質体の細孔から流出する一方、増圧において多孔質体の細孔へ流入する液体とを具備しており、液体は、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリンから選ばれた少なくとも一種以上を多くとも50容量%混入させた水からなるコロイダルダンパ。
【請求項2】
液体は、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリンから選ばれた少なくとも一種以上を多くとも40容量%含ませた水溶液からなる請求項1に記載のコロイダルダンパ。
【請求項3】
多孔質体の細孔を規定する表面は液体に対して疎液性を有しており、多孔質体と液体とは、多孔質体の細孔の容積をVとし、液体の体積をVとすると、その比V/Vが0.2以上であって2.5以下の範囲をもって密閉空間に収容されている請求項1又は2に記載のコロイダルダンパ。
【請求項4】
比V/Vが0.35以上であって1.5以下の範囲にある請求項3に記載のコロイダルダンパ。
【請求項5】
比V/Vが実質的に1である請求項3に記載のコロイダルダンパ。
【請求項6】
多孔質体は、細孔の平均径d1の10倍以上であって10000倍以下の範囲にある平均径d2を有する略球形粒状体からなる請求項1から5のいずれか一項に記載のコロイダルダンパ。
【請求項7】
多孔質体は、細孔の平均径d1の100倍以上であって5000倍以下の範囲にある平均径d2を有する略球形粒状体からなる請求項1から5のいずれか一項に記載のコロイダルダンパ。
【請求項8】
多孔質体は、複数個の略球形粒状体の塊であり、この塊が少なくとも一個密閉空間に収容されている請求項1から7のいずれか一項に記載のコロイダルダンパ。
【請求項9】
多孔質体は、密閉空間に分散して収容されている複数個の略球形粒状体からなる請求項1から8のいずれか一項に記載のコロイダルダンパ。
【請求項10】
多孔質体は中空部を有した略球形粒状体からなり、細孔は、中空部を有した略球形粒状体において一端で中央中空部に開口し他端で略球形粒状体外に開口している請求項1から9のいずれか一項に記載のコロイダルダンパ。
【請求項11】
多孔質体の細孔は、中空部から放射方向に伸びている請求項10に記載のコロイダルダンパ。
【請求項12】
多孔質体の細孔は、液体分子の平均自由行程をLpとすると、クヌーセン数Kn=Lp/(d1・1/2)が0.01よりも大きく、0.1よりも小さくなる平均径d1を有している請求項1から11のいずれか一項に記載のコロイダルダンパ。
【請求項13】
多孔質体の細孔を規定する表面は疎液性物質で被覆されている請求項1から12のいずれか一項に記載のコロイダルダンパ。
【請求項14】
細孔における表面を含めて多孔質体の全表面は疎液性物質で被覆されている請求項1から12のいずれか一項に記載のコロイダルダンパ。
【請求項15】
疎液性物質は分子鎖が線形な物質からなる請求項13又は14に記載のコロイダルダンパ。
【請求項16】
疎液性物質は分子鎖の長い物質からなる請求項13から15のいずれか一項に記載のコロイダルダンパ。
【請求項17】
疎液性物質は有機ケイ素化合物又は有機フッ素化合物からなる請求項13から16のいずれか一項に記載のコロイダルダンパ。
【請求項18】
多孔質体は、シリカゲル、アエロゲル、セラミックス、多孔質ガラス、ゼオライト、多孔質PTFE、多孔質蝋、多孔質ポリスチレン、アルミナ並びに黒鉛、木炭、フラーレン及びカーボンナノチューブを含むカーボンのうちの少なくとも一つからなる請求項1から17のいずれか一項に記載のコロイダルダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−185577(P2010−185577A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106796(P2010−106796)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【分割の表示】特願2003−355039(P2003−355039)の分割
【原出願日】平成15年10月15日(2003.10.15)
【出願人】(598164784)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【出願人】(000237112)富士シリシア化学株式会社 (38)
【出願人】(505190415)
【Fターム(参考)】