説明

コロイド粒子を含む複合繊維の連続製造方法

【課題】溶剤中に、必要な場合には界面活性剤を用いて、コロイド粒子を分散させ、上記のコロイド粒子の分散液を凝固剤としてのポリマーから成る凝固溶液中の同方向流中に注入してプレファイバーを形成し、上記のプレファイバーをダクト中に循環させ、上記プレファイバーを取出し、必要に応じて上記プレファイバーを洗浄し、上記プレファイバーを乾燥して繊維とし、得られた繊維を巻き取ることから成る複合繊維の連続製造方法と、この方法で得られる複合繊維。
【解決手段】上記ダクトから抜き取るのに充分な機械強度をプレファイバーが有するように上記ダクト中でのプレファイバーの最少滞留時間を調節し且つプレファイバーを垂直方向に連続して取出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイド粒子、特にカーボンナノチューブをベースにした複合繊維を連続的に製造する方法に関するものである。
本発明はさらに、この方法で得られる複合繊維にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(またはCNT)は炭素から得られる5角形、6角形および/または7角形の規則的に配置された原子から成る中空かつ閉じた管状の結晶構造を有するということは知られている。一般にCNTは一枚または複数の巻かれたグラファイトのシートから成り、単一壁(Single Wall Nanotubes、SWNT)と多重壁(Multi Wall Nanotubes、MWNT)に別けられる。
【0003】
CNTは市販されており、また、公知の方法で製造できる。CNTの合成方法には電気放電法、レーザアブレーション法等があるが、化学的蒸着法(Chemical Vapor Deposition、CVD)を用いると大量生産に適したの多量のカーボンナノチューブを低コストで製造することができる。この方法の基本は比較的高温度で炭素源を触媒上に注入することにある。この触媒は無機固体、例えばアルミナ、シリカまたはマグネシアに担持された金属、例えば鉄、コバルト、ニッケル、モリブデンにすることができる。炭素源はメタン、エタン、エチレン、アセチレン、エタノール、メタノール、一酸化炭素と水素との混合物(HIPCO法)にすることができる。
【0004】
特許文献1(国際特許第WO 86/03455A1号公報、Hyperion Catalysis Internationl Inc)に記載のCNTの合成方法は金属、特に鉄、コバルトまたはニッケルをベースにした粒子と炭素ベースの化合物のガスとを850℃〜1200℃の温度で接触させる。金属ベースの化合物粒子に対する炭素ベースの化合物の乾燥重量比は少なくとも約100:1である。
【0005】
CNTは多くの顕著な特性すなわち電子的、熱的、化学的および機械的性質を有する。その用途としては特に自動車および航空産業用の複合材料、エレクトロ機械のアクチュエータ、ケーブル、抵抗ワイヤー、化学物質検出器、エネルギーの貯蔵および変換装置、電子発光ディスプレイ、電子部品および機能性織物等が挙げられる。
【0006】
一般に、CNTは合成時に不規則な粉末の形となるため、その特性を使用するのが難しい。特に、複合体系を製造する場合、CNTを多量かつ所定方向に配向させる必要がある。すなわち、CNTの濃度と配向はマクロなスケールでその特性を使用する際に考慮に入れる必要のある重要なパラメータである。
【0007】
この課題を解決するための一つの方法は複合繊維(fibres composites)を製造することである。そのためにナノチューブをマトリックス、例えば有機ポリマー中に入れることができる。これは延伸のような従来方法で実行できる。すなわち、引抜加工および/または剪断加工によってCNTを繊維の軸線に沿って配向することができる。しかし、多量のCNTがマトリックス中に分散し、凝集して存在するため、この方法は繊維中のCNT画分を高くすることはできず、繊維が脆くなり、破断する。
【0008】
他の解決方法は特許文献2(国際特許第WO 01/63028号公報)および特許文献3(国際特許第WO 2007/101936号公報)に記載されている。この方法ではコロイド粒子、特にCNTを水溶液または有機溶媒中に必要に応じて界面活性剤を用いて分散させ、その分散液を凝固溶液とよばれる他の液体中に注入して、分散液の周りのダクト中に流してプレファイバー(prefiber、予備繊維)を得る。こうして得られたるプレファイバーを乾燥して繊維に形成する。この方法によってナノチューブの重量画分が10%〜100%の繊維を得ることができる。
【0009】
しかし、この方法は2つの別々の段階、すなわち中間浴中でのプレファイバーの製造および回収と、プレファイバーの取出しおよび最終乾燥から成るため、速度が遅く、繊維の生産速度が制限され、工業スケールで実施するのは適していない。すなわち、回収浴への充填時にはプロセスを停止しなければならず、また、形成されたプレファイバーを抜き取り、中間回収浴中に貯蔵する必要がある。
【0010】
この方法のさらに他の不利な点はプレファイバーの凝固溶液中の滞在時間が制御されないことである。すなわち、最初に形成されたプレファイバーが凝固溶液の存在下に長時間留まるのに対して、運転終了時に形成されたプレファイバーはそれより短時間しか回収浴中に留まらない。この滞留時間の差が繊維の構造と特性に影響を及ぼすため、この方法では均一な繊維を連続的に製造することはできない。
【0011】
特許文献3に記載の方法ではポリマーの非溶媒から成る凝固剤中に導入する前にポリマーがコロイド粒子および溶剤中に予備混合されるためコロイド粒子をポリマー中で整列させた複合繊維はできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際特許第WO 86/03455A1号公報
【特許文献2】国際特許第WO 01/63028号公報
【特許文献3】国際特許第WO 2007/101936号公報およびが
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、コロイド粒子が均一に分布し、必要に応じて整列した複合繊維をコロイド粒子から工業的スケールで簡単、高速かつ経済的に製造するのに適した方法を提供するというニーズが残っている。
本発明者は、凝固剤としてポリマーを使用し、凝固溶液の流れ中でプレファイバーの滞在時間を制御できる連続法を使用し、ダクトの長さを調節し、プレファイバーを垂直形態で抜出すシステムを使用することができることによってこのニーズを満たすことができるということを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の対象は、下記(1)〜(7):
(1)溶剤中に、必要な場合には界面活性剤を用いて、コロイド粒子を分散させ、
(2)上記のコロイド粒子の分散液を凝固剤としてのポリマーから成る凝固溶液中の同方向流中に注入してプレファイバーを形成し、
(3)上記のプレファイバーをダクト中に循環させ、
(4)上記プレファイバーを取出し、
(5)必要に応じて上記プレファイバーを洗浄し、
(6)上記プレファイバーを乾燥して繊維とし、
(7)得られた繊維を巻き取る
ことから成る複合繊維の連続製造方法において、
上記ダクトから抜き取るのに充分な機械強度をプレファイバーが有するように上記ダクト中でのプレファイバーの最少滞留時間を調節し且つプレファイバーを垂直方向に連続して取出すことを特徴とする方法にある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明方法の好ましい実施例の設備の一般的概念図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明方法は一般にコロイド粒子に適用でき、特に異方性粒子、例えばナノチューブ、例えばカーボンナノチューブ、タングステンスルフィド、硫化モリブデン、窒化硼素、酸化バナジウム、セルロースウィスカー、炭化珪素ウィスカーおよびクレー板に適用できる。カーボンナノチューブを使用するのが好ましい。
【0017】
本発明で使用可能なカーボンナノチューブは単層壁、二重壁または多重壁タイプにすることができる。二重壁ナノチューブは下記非特許文献1に記載の方法で製造でき、多重壁ナノチューブは下記特許文献4に記載の方法で製造できる。
【非特許文献1】Flahaut et al. in Chem. Comm. (2003), 1442
【特許文献4】国際特許第WO 03/02456号公報
【0018】
本発明で通常使用されるナノチューブの平均直径は0.1〜200ナノメートル、好ましくは0.1〜100ナノメートル、さらに好ましくは0.4〜50ナノメートル、より好ましくは1〜30ナノメートルであり、その長さは0.1μm以上、好ましくは0.1μm〜20μm、例えば約60μmである。その長さ/直径比は10以上、より好ましくは一般に100以上にする。このナノチューブは気相成長法(Vapor Grown Carbon Fibers(VGCF)で得られる。その比表面積は100および300 m2/gであり、その嵩密度は0.05〜0.5g/cm3、好ましくは0.1〜0.2g/m3である。多重壁カーボンナノチューブは例えば5〜15枚のシートから成り、好ましくは7〜10枚のシートからなる。
【0019】
粗カーボンナノチューブは例えばアルケマ(Arkema)社から商品名グラフィストレングス(Graphistrength、登録商標)C100の名称で市販されている。
【0020】
ナノチューブは本発明方法で使用する前に精製および/または処理(特に、酸化処理)および/または粉砕することができる。また、例えばアミノ化またはカップリング剤を用いた化学的溶液反応方法によって官能化することもできる。
【0021】
ナノチューブの粉砕はコールド条件下または加熱条件下に公知の装置、例えばボールミル、ハンマーミル、ミル、ナイフカッタまたは気流ジェットミル、もつれたナノチューブのネットワークを寸法を低下させることができるその他任意の粉砕システムを用いて公知の方法で実行できる。この粉砕段階は気体粉砕、特に、空気ジェットミルまたはボールミルまたはボール摩砕機で実行するのが好ましい。
【0022】
ナノチューブの精製は硫酸、その他の酸溶液を用いた洗浄によって、無機残渣およびその製造方法に起因する金属不純物を除去することで行なうことができる。硫酸に対するナノチューブの重量比は1:2〜1:3にすることができる。この精製操作は90〜120℃の温度で、例えば5〜10時間の時間で実行できる。この操作の後に精製されたナノチューブを水ですすぎ洗いし、その後、乾燥させることができる。
【0023】
ナノチューブの酸化反応は0.5〜15重量%のNaOCl、好ましくは1〜10重量%のNaOC1を含むナトリウムハイポクロライド溶液と接触させて実行できる。ナトリウムハイポクロライドに対するのナノチューブの重量比は例えば1:0.1から1:1にすることができる。酸化反応は60℃以下の温度、好ましくは室温で数分から24時間行なうことができる。この酸化反応操作の後に酸化されたナノチューブを濾過および/または遠心分離、洗浄、乾燥する段階を行なうのが有利である。
【0024】
本発明方法の最初の段階は例えば下記文献に記載の方法で実行できる。
【特許文献5】国際特許第WO 01/63028号公報
【0025】
この方法はコロイド粒子(疎水性)を水溶液または有機溶媒、例えば水またはアルコール、例えばエタノール中に分散させることに本質がある。必要に応じて、疎水性の粒子をこの種の溶剤中の分散させるのに用いる従来の随意に界面活性剤を使用できる。
【0026】
使用する溶剤が水の場合、上記分散物は種々の分子またはアニオン性、カチオン性、中性なポリマー、例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、アルキルアリール・エステルまたはテトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド等を用いて得ることができる。その濃度は使用する薬剤の特徴に依存し、数ミリ%から数%まで変化する。
【0027】
分散液中のコロイド粒子の量は、懸濁液を均一にできると共に、出きる限り濃縮された懸濁液が使用できるような量にするのが好ましい。例えば溶剤が水の場合、ナノチューブの濃度は0.1〜2重量%にするのが有利であり、SDSの場合、0.5〜2重量%の濃度を使用するのが好ましい。
【0028】
本発明方法の第2段階は、第1段階で得られた分散液を少なくとも一つのオリフィスを介して凝固溶液中に凝固溶液の流れと共流または並流(co-flow)、好ましくは層流並流(laminar co−flow)で注入することに本質がある。凝固溶液の粘度は、剪断力によって凝固溶液の流れによって最初に与えられる方向へコロイド粒子を整合させるために、分散液の粘度より大きいのが好ましい。この粘度は同じ温度および圧力条件下で測定する。
【0029】
凝固(coagulation)溶液はフロキュレーション(floculation)溶液または凝集剤(coagulant)溶液とも呼ばれる。この凝集剤としては上記特許文献2に記載のようなポリマー、例えばポリオールまたは多価アルコール(ポリビニールアルコール(PVA)(粘度調節剤の役割をする)、アルギナートまたはセルロースを使用できる。溶剤としては特に水またはDMSO(ジメチルスルフォキシド)を挙げることができる。ポリビニールアルコール溶液が好ましい。特に、水またはDMSO(ジメチルスルフォキシド)中のポリビニールアルコールの溶液を使用するのが好ましく、濃度は分子量によって変わるが、凝固溶液の全重量に対して1〜10重量%にする。
【0030】
凝固溶液の流速はダクトの中央で測定して1メートル/分から100メートル/分、好ましくは2m/分から50m/分、より好ましくは5m/分から25m/分である。
【0031】
クエッテ(Couette)セル中で20℃で測定した凝固溶液の粘度は1mPa〜1000mPa、好ましくは30mPa〜300mPaである。
【0032】
コロイド粒子の分散液は無孔の円筒形または円錐形のニードルおよび/またはノズルを介して凝固溶液の共流(co−flow)中に注入するのが有利である。分散液の平均注入速度は0.1m/mm〜50m/mm、好ましくは0.5m/mm〜20m/mm、より好ましくはまだ1m/mm〜6m/mmである。凝固溶液はコロイド粒子の分散液を不安定化してプレファイバーの形で凝集させる。粒子を配向させるために分散液の注射速度は凝固溶液の流速以下にするのが好ましい。この速度差によってニードルまたはノズルの出口で剪断力が生じ、形成されるプレファイバーの軸線方向に粒子が優先的に配向する。20℃で注入される分散液の粘度は1mPa.s〜100mPa.s、好ましくは1mPa.s〜10mPa.sである。
【0033】
本発明の一つの実施例では、コロイド粒子上に凝固剤のポリマー鎖が吸着して凝集が起こる。
【0034】
形成されたプレファイバーと凝固溶液は式L=T最少×Vで定義される長さLを有する好ましくは円筒形のダクト中を流れる。ここで、のVはダクト中でのプレファイバーの循環速度で、この速度は凝固溶液の流れの中央すなわちダクト中央で測定される。T最少は最少滞在時間である。
【0035】
上記の式でダクト内での凝固溶液中にプレファイバーの「最少滞在時間T最少」とはプレファイバーの最少滞在時間を意味し、プレファイバーをダクトから抜き取るの十分な強度になるのに必要な時間である。この時間はプレファイバーが凝固溶液と相互作用する時間に対応する。このパラメータがプレファイバーの固さ(solidite)に関係する。
【0036】
すなわち、滞在時間があまりに短いと、プレファイバーを凝固溶液から抜き取るにはあまりに脆く、すぐに壊れることが肉眼で見ても分かる。
【0037】
この最少滞在時間とよばれる一定の滞在時間以降にプレファイバーは満足な強度を有し、破断のなく凝固溶液から抜き取ることができるようになる。
【0038】
当業者は単純なルーチン操作によってこの最少滞在時間を求めることができる。最少滞在時間は例えば数秒から数十秒までにすることができる。
【0039】
滞在時間、従ってダクトの長さは均一な繊維を連続的に生産するための重要なパラメータであり、滞在時間は繊維の構造および特性に影響を与える。
【0040】
寸法を短くするために最少長さのダクトを使用するのが工業的には有利であることは明らかである。従って、最少滞在時間を尊重する場合、ダクト内のプレファイバーの循環速度を最大限遅くする必要がある。
【0041】
本発明方法ではプレファイバーを取出す前の所定滞在時間に対する凝固溶液の流速を関数として一連のチューブによってダクトの長さを調節することができる。
【0042】
最少滞在時間はプレファイバーのポリマー鎖の拡散速度に依存する。この最少滞在時間を短くするために分子量がより低いポリマーまたはプレファイバー中でより速く拡散する分子量の異なるポリマーの混合物の溶液を用いることができる。
【0043】
最少滞在時間を短くする他の解決策は凝集を促進する薬剤を凝固溶液中に加える化学的な方法である。
【0044】
本発明方法の次の段階はプレファイバーを凝固溶液から連続的に抜き取ることに本質がある。
【0045】
この取出しは垂直方向に実行する。そうする限り、本発明方法を実行するための最初の装置としてどのようなの配置を選択するかとは無関係である。
【0046】
垂直配置にすることで、凝固溶液がダクトの外周に配置したチャンバ中に溢れ出る流れとなり、その凝固溶液からプレファイバーを連続的に取出すことができる。その後、プレファイバーはダクトの上方に配置したローラーによって線形速度で連続的に送られる。この線形速度は1m/分〜100m/分、好ましくは2m/分〜50m/分、より好ましくは5m/分〜25m/分である。
【0047】
垂直配置は工業スケールで繊維を生産する上で多くの利点がある。
【0048】
最初の利点は凝固溶液を外部タンクまたはチャンバへ再循環させることができる点にある。コロイド粒子の分散液中に界面活性剤を入れる実施例の場合には、使用した界面活性剤が化学分解したり劣化するのを防ぐために、このタンクでポリマー溶液を簡単に変えることができる。
【0049】
垂直配置にすることの他の利点は滞在時間を正確にすることができる点にある。すなわち、プレファイバーは中間浴中に貯蔵されず、その凝固溶液中の滞在時間は正確になり、実験の始めまたは終わりで同じになり、従って、均一なプレファイバーが得られる。
【0050】
しかし、チューブ中の凝固溶液の流速Vは高いので、凝固溶液が外部チャンバへ溢流する間にプレファイバーを取出すのは難しくなる。すなわち、凝固溶液はプレファイバーを外部チャンバ中へ運び込もうとする傾向がある。従って、ダクト出口の幾何形状を工夫して、例えば円錐部材または連続フレア部材にして、プレファイバーを遅くし、そのハンドリングおよびその取出しを容易にすることができる。
【0051】
垂直配置にする他の利点はダクト中をプレファイバーが通る時の重力効果から解放できる点にある。
【0052】
水平配置ではプレファイバーの密度は凝固溶液の密度と異なるので、プレファイバーは必ずしもダクト中の流れの中央にくるとは限らない。垂直に溢流させて取出すためにはダクトの終わり90度のエルボーを付ける必要がある。
【0053】
プレファイバーを運ぶダクトが水平配置にある時により多くのチューブをつなぐために180度に一回または複数回曲げることもできる。短い空間で実験を行う場合、この手段を用いてダクトの長さを調節して所定滞在時間を得ることができる。小さい曲率半径を選択した場合、プレファイバーがこれらの湾曲によって損傷されることはない。曲率半径を大きくした場合にはプレファイバーは長い距離を進み、湾曲部分中に長時間滞在する。それによって遠心力の作用下にチューブの軸線から徐々に離れて移動し、チューブの壁と擦れ合い、縺れおよび/または破断する危険が増える。
【0054】
しかし、一定の曲率半径を越えれた場合には、プレファイバーに損害を与えずに半分回転して、元に再び戻ることができなければならないであろう。すなわち、プレファイバーと凝固溶液との間の密度差が大きくなると遠心力が増加する。また曲率半径が小さくなるか凝固溶液およびプレファイバーの流速が増加すると、遠心力が増加する。同様に、曲率半径が減少するか、強固溶液およびプレファイバーの流速が増加すると、ベンドを通る通過時間が減る。従って、この半分のターンをうまく行なうには、プレファイバーに加わる遠心力の強度と通過時間との間をバランスさせることが必要である。
【0055】
ダクトからプレファイバーを連続的に取出した後、プレファイバーを水から成る洗浄浴中に送ることができる。この洗浄段階はプレファイバーの外周のポリマーの一部を除去するためと、プレファイバーの組成中のコロイド粒子の濃度を高くするためにある。さらに、洗浄浴でプレファイバーの組成を修正したり、相互作用する薬剤を化学的に反応させることもできる。特に、プレファイバーを強化するために化学物質または物理的架橋剤を浴に加えることができる。
【0056】
プレファイバーは少なくとも一つのローラーを用いて洗浄浴中に運ぶのが有利である。また、連動装置で駆動される多重ローラーから成るコンベヤーベルトによってプレファイバーを運ぶこともできる。洗浄にコンベヤーベルトを使用するとプレファイバーの自由な伸びを防止できる。
【0057】
本発明方法には乾燥段階が含まれる。この段階は、取出し後に直ちに行なうか、洗浄の後に続けて行なうこともできる。
【0058】
特に、ポリマーリッチな繊維を得るのが要求される場合には、取出し直後にプレファイバーを乾燥するのが望ましい。
【0059】
洗浄に続いて乾燥を行なう場合には、洗浄浴の出口に第2のローラーを存在させてプレファイバーを連続的にオーブンへ運ぶことができる。オーブンではオーブン内部を循環する加熱空気によって乾燥する。浴中にプレファイバーが蓄積するのを防ぐために、浴の入口に位置したローラの速度より第2のローラーの回転速度を増加させる必要がある。
【0060】
プレファイバーは少なくとも一つのローラーによってオーブンへ運ぶのが有利である。連動装置によって駆動される多重ローラーから成るコンベヤーベルトによって運ぶこともできる。
【0061】
本発明方法の最終的な段階は得られた繊維をボビンに巻く段階である。これは当業者に周知の操作で、スピニングラインの終わりに従来のワインダを配置して行なう。
【0062】
本発明方法では、乾燥段階と巻取り段階との間に熱間引抜き段階を置くことができる。
【0063】
得られる繊維の直径は0.005mm〜0.100mm、好ましくは0.02mm〜0.04mmである。繊維の長さは設備に依存し、繊維を連続生産する場合には無限である。
【0064】
上記方法は凝固溶液を収容した少なくとも一つのタンクと、コロイド粒子の分散液を収容した少なくとも一つのタンクと、凝固溶液を供給するための少なくとも一つの手段と、分散液を供給するための少なくとも一つの手段と、凝固溶液に分散液を注入するための少なくとも一つの手段と、凝固溶液と共流(coflow)でプレファイバーを循環させるための少なくとも一つの手段と、プレファイバーを抜取るための少なくとも一つの手段と、任意手段としての少なくとも一つの洗浄手段と、任意手段としての少なくとも一つの乾燥手段と、任意手段としての少なくとも一つの巻取り手段と、プレファイバーまたは繊維を移送するための少なくとも一つの手段とから成る装置で有利には実行できる。上記の循環させるための手段はダクトで、このダクトの長さLは式L=T最少×Vで定義される。T最少は抜取ることを可能にするのに十分なスチフネスをプレファイバーに与えるための凝固溶液中でのプレファイバーの最少滞在時間であり、Vは凝固溶液のダクトの中央で測定した流速である。取出し手段は垂直配置にする。
【0065】
上記のように、本発明方法を実行するための設備は垂直配置か水平配置を採用できる。
【0066】
本発明装置で使用可能なタンクは当業者に公知の任意タイプのタンクにできる。
【0067】
供給平均も当業者に公知の任意タイプの手段、例えばパイプ、ダクト、チューブまたは管状導管にすることができる。
【0068】
注入手段としては特に2つのポンプに連結したインジェクタにでき、その第1のポンプは凝固溶液流のために使い、第2のポンプはコロイド粒子の分散液を注入するために使うことができる。ポンプは容積型ポンプ、例えばギヤポンプにすることができる。共流(coflow)のためにガラス管とニードルを使用して注入する場合、ガラス管中のニードルの共軸性を調節することができる。特に、インジェクタの背後にあるネジを調節することでニードルを中心に設置することができる。
【0069】
プレファイバーを循環するための手段は当業者に公知の任意の手段、有利には円筒形ダクトにすることができる。このダクトは一連の円筒形のガラス管にするか,所定長さの単一チューブにすることができる。異なる横断面を有するチューブ、例えば2mmと4mmの内径を有するチューブを使うことができる。直径は小さい、すなわち0.5mm〜15mmの内径であるのが有利で、気泡に起因する不均一化を防ぐためは2mmのチューブにするのが好ましい。チューブの内径を小さくすると、ポンプを大きくする必要があるということは理解できよう。
【0070】
本発明の好ましい実施例では、垂直配置での抜取り手段はダクト出口の円錐部材または連続フレア部材から成る。
プレファイバーまたは繊維を運ぶ手段は少なくとも一つのローラーまたは連動装置によって駆動される多重ローラーから成るコンベヤーベルトにすることができる。
本発明装置はさらに、スピニングライン上の追加の機器、例えば特オーブンとワインダとの間に配置した熱間引抜きローラーを備えることもできる。
【0071】
本発明の他の対象は、本発明方法に従って得られる複合繊維にある。
本発明の上記以外の特徴,効果は下記の実施例の説明から明らかになるであろう。
以下、添付図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0072】
実施例1
複合繊維の連続製造方法
添付の概念図は本発明方法を実施するのに好ましい実施例を示している。
【0073】
この図はCNTをベースにした均一な繊維を連続的に製造する設備1を示している。この設備1は2つのタンク2、3を有し、各タンク2、3はパイプ5、6を介してそれぞれインジェクタ4に接続されている。インジェクタ4の出口には円筒形のガラス製のダクト8の中央に縦方向に延びたニードル7が設けられている。ダクト8の出口には垂直方向を向いた取出し領域(抜出し領域)9が位置している。この取出し領域9の外側には外部チャンバ10とダクト8を取り囲んだ円錐部材11が位置している。この外部チャンバ10はパイプ12を介してタンク3に連結している。得られたプレファイバー16はローラー13、14、15によって洗浄装置17、乾燥装置(またはオーブン)18および巻取り装置(またはワインダ)19へ向かって送られ。
【0074】
超音波を使用して0.3重量%の単一壁ナノチューブ(Thomas Swan社のエリカルブ(Elicarb、登録商標))を水と1重量%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)とから成る溶液中に分散させる。この分散液をタンク2中に入れる。タンク3中には凝固溶液を入れる。この凝固溶液としては5重量%のポリビニールアルコール(PVA)(Clariant社の分子量が195kDaのMowiolR 56−98)の溶液を使用する。
【0075】
CNTの分散液はタンク2からパイプ5を介してインジェクタ4へ送られる。一方、凝固ポリマー溶液はタンク3からパイプ6を通ってインジェクタ4へ送られる。分散液は0.3mmの直径を有するニードル7から4.2m/分の平均射出速度で円筒形ダクト8中に注入される。ダクト中でのポリマー凝固溶液の平均流速R'は4.4m/分で、これはダクト中央で8.8m/分の速度に対応する。こうしてダクト8中にプレファイバー16が形成される。
【0076】
ダクト8は複数のチューブから成り、各チューブの直径は6mmである。ダクト8の長さは滞在時間が最小となるように式L=Tmin×(2×R')で調節する。ここで、(2×R')はダクト中央での流速である。
【0077】
ダクト8の出口ではダクトの最上部にある円錐部材11の助けで溢れてプレファイバーが垂直な形状で連続的に取出される。凝固ポリマー溶液は外部チャンバ10に流れ、それからパイプ12を介してタンク3に戻される。それと同時に、プレファイバー16はローラー13によって連続的に洗浄浴17まで送られ、周囲のポリマーの一部が除去され、従って、プレファイバー組成中のCNTの濃度が高くなる。それからさらにプレファイバー16はローラー14によってオーブン18中に送られ、そこで加熱空気によって乾燥される。乾燥されたファイバー20はローラー15によってワインダ19へ送られ、ボビンに巻かれ、保存される。
【0078】
実施例2
minの評価
実施例1で得られたファイバーの固さ、安定性(solidite)を調べ、さらに所定条件下での最少滞在時間を評価するためにダクト8の長さLを変えて強度を調べた。結果は[表1]にまとめてある。
【0079】
【表1】

【0080】
長さL(行き4.5m+湾曲0.6m+戻し4.5m+垂直取出し1m)とL(行き3m+湾曲0.6m+戻し3m+垂直取出し1m)のダクトを使用法した場合、得られるプレファイバーは丈夫で、取扱い可能であることが確認でき、ローラーを用いて約11m/mmの速度で連続的に抜き取ることができた。
【0081】
長さL(行き1.5m+湾曲0.6m+戻し1.5+垂直取出し1m)の場合、プレファイバーは十分な強度は有するが、取扱いが難しく、連続的に取出すことはできるが、容易ではない。長さL(行き1.5m+垂直取出し1m)の場合、プレファイバーは強度が十分でなく、連続的に抜取ることができない。
これらの結果から、所定条件下での最少滞在時間Tminは30秒と評価された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(7):
(1)溶剤中に、必要な場合には界面活性剤を用いて、コロイド粒子を分散させ、
(2)上記のコロイド粒子の分散液を凝固剤としてのポリマーから成る凝固溶液中の同方向流中に注入してプレファイバーを形成し、
(3)上記のプレファイバーをダクト中に循環させ、
(4)上記プレファイバーを取出し、
(5)必要に応じて上記プレファイバーを洗浄し、
(6)上記プレファイバーを乾燥して繊維とし、
(7)得られた繊維を巻き取る
ことから成る複合繊維の連続製造方法において、
上記ダクトから抜き取るのに十分な機械強度をプレファイバーが有するように上記ダクト中でのプレファイバーの最少滞留時間を調節し且つプレファイバーを垂直方向に連続して取出すことを特徴とする方法。
【請求項2】
コロイド粒子をカーボンナノチューブのようなナノチューブ、タングステンスルフィド、硫化モリブデン、窒化硼素、酸化バナジウム、セルロースウィスカー、炭化珪素ウィスカーおよびクレー板の中から選択する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
コロイド粒子がカーボンナノチューブである請求項3に記載の方法。
【請求項4】
ナノチューブの長さが0.1〜20μmである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ナノチューブの直径が0.1〜100ナノメートル、好ましくは0.4〜50ナノメートル、より好ましくは1〜30ナノメートルである請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
上記ポリマーが多価アルコール、特にポリビニールアルコール、algmnateまたはセルロースである請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ポリマーがポリビニールアルコールである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ダクトの中央で測定した凝固溶液の流れ速度が1m/分〜100m/分、好ましくは2m/分〜50m/分、より好ましくは5m/分〜25m/分である請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
上記の取出しを凝固溶液の溢流によって連続的に行なう請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法で得られる複合繊維。

【公表番号】特表2010−539342(P2010−539342A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524559(P2010−524559)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際出願番号】PCT/FR2008/051679
【国際公開番号】WO2009/047456
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【出願人】(595040744)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (88)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】