コロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子、レーザ発振装置およびその製造方法
【課題】 コロイド結晶ゲルを用いたチューナブルなレーザ発振素子、それを用いたレーザ発振装置、および、その製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明によるコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子は、コロイド結晶ゲルが、イオン液体および有機色素を含有する高分子ゲルと、高分子ゲル中に自己組織的に周期配列した粒子であって、粒子の配列は、非接触充填状態である、粒子とを含み、コロイド結晶ゲルのストップバンドは、少なくとも有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長より長波長領域、かつ、蛍光スペクトルの範囲内で可変である。
【解決手段】 本発明によるコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子は、コロイド結晶ゲルが、イオン液体および有機色素を含有する高分子ゲルと、高分子ゲル中に自己組織的に周期配列した粒子であって、粒子の配列は、非接触充填状態である、粒子とを含み、コロイド結晶ゲルのストップバンドは、少なくとも有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長より長波長領域、かつ、蛍光スペクトルの範囲内で可変である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子、レーザ発振装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子が液体媒質に分散された微粒子分散液において、微粒子の単分散性(粒径の均一性)が高く、かつ、粒子体積分率が所定の値を上回ると、微粒子分散液中の微粒子(コロイド粒子とも呼ぶ)は、自己組織的に周期配列した状態をとることが知られている。このような状態にある微粒子分散液はコロイド結晶と呼ばれる。コロイド結晶は、電磁波に対するBragg反射能に起因する特異な特性(フォトニックバンドギャップの形成、光群速度の異常分散等)を発現することから、フォトニック結晶の性質を利用した光学素子への応用が期待されている。
【0003】
色素を浸潤させたコロイド結晶を用いたレーザがある(例えば、非特許文献1を参照)。非特許文献1によれば、色素を浸潤させたシリカ粒子からなるオパールフォトニック結晶において、三次元方向を切り替えることによって、フォトニックバンドギャップを可変にできると報告している。詳細には、色素を浸潤させたシリカ粒子からなるオパールフォトニック結晶のストップバンドの方位νhklを適宜選択することにより、1種のオパールフォトニック結晶であっても、種々の色素に対応したレーザ発振が可能である。しかしながら、ストップバンドの方位を選択することなく、発振波長の微妙な調整あるいは線形なチューナビリティは達成されていない。
【0004】
色素を細孔に導入した多孔性シリカを用いたコロイド結晶レーザがある(例えば、非特許文献2を参照)。非特許文献2によれば、色素の蛍光波長とコロイド結晶ゲルのストップバンド波長とを整合させることにより、色素を細孔に導入した多孔性シリカからなるコロイド結晶レーザにおいて、レーザ発振が可能であることを報告している。しかしながら、コロイド結晶ゲルの溶媒として水を用いているため、水の蒸発に伴うストップバンド波長の変化によりレーザ発振の長期的な安定性が得られない。また、色素は、多孔性シリカの細孔に導入されているため、十分な発光強度が得られない場合がある。さらに、発振波長のチューナビリティは達成されていない。
【0005】
最近、イオン液体を含有したコロイド結晶ゲルが開発された(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、イオン液体を溶媒として用いることにより、コロイド結晶ゲルの溶媒が蒸発することはないので、長期的に安定なコロイド結晶ゲルを提供できる。このようなイオン液体を用いたコロイド結晶ゲルのさらなる用途が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、コロイド結晶ゲルを用いたチューナブルなレーザ発振素子、それを用いたレーザ発振装置、および、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子は、前記コロイド結晶ゲルが、イオン液体および有機色素を含有する高分子ゲルと、前記高分子ゲル中に自己組織的に周期配列した粒子であって、前記粒子の配列は、非接触充填状態である、粒子とを含み、前記コロイド結晶ゲルのストップバンドが、少なくとも前記有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長より長波長領域、かつ、前記蛍光スペクトルの範囲内で可変であり、これにより上記課題を達成する。
前記イオン液体は、親水性であり、かつ、末端にアリル基を有してもよい。
前記イオン液体は、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物、1−アリル−3−エチルイミダゾリウムハロゲン化物、および、1,3−ジアリルブチルイミダゾリウムハロゲン化物からなる群から選択されてもよい。
前記有機色素は、ローダミン誘導体、オキサジン誘導体、フルオレセイン誘導体、クマリン誘導体、スチリル誘導体および4−ジシアノメチレン−2−メチル−6(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)からなる群から少なくとも1種選択されてもよい。
本発明によるレーザ発振装置は、光源と、前記光源が発する光を受光し、前記光の波長を変換するレーザ発振素子と、前記レーザ発振素子に応力を印加する応力印加手段とを備え、前記レーザ発振素子は、上述のレーザ発振素子であり、前記応力印加手段は、前記レーザ発振素子に応力を印加し、前記レーザ発振素子における前記コロイド結晶ゲルのストップバンドを線形に変化させ、これにより上記課題を達成する。
本発明によるレーザ発振素子の製造方法は、自己組織的に周期配列した粒子が網目状高分子によって固定化されたコロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素を含浸させるステップを包含し、前記イオン液体および前記有機色素は、前記含浸させるステップによって得られたコロイド結晶ゲルのストップバンドが、少なくとも前記有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長より長波長領域、かつ、前記蛍光スペクトルの範囲内で可変となるように選択されて、これにより上記課題を達成する。
前記含浸させるステップは、水で膨潤した前記コロイド結晶ゲルにイオン液体を含浸させるステップと、前記イオン液体で膨潤したコロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素をさらに含浸させるステップとを包含してもよい。
前記含浸させるステップは、1時間〜14日の間、前記コロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素を含浸させてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によるコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子は、イオン液体および有機色素を含有する高分子ゲルと粒子とを含む。有機色素がコロイド結晶ゲル中に分散しているので、十分な発光強度が得られる。コロイド結晶ゲル中の粒子は、非接触状態にあるので、コロイド結晶ゲルのストップバンドは外力により可変である。また、コロイド結晶ゲルのストップバンドは、少なくとも有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長より長波長領域、かつ、蛍光スペクトルの範囲内で可変であるので、ストップバンドを外力により制御するだけで、有機色素の極大蛍光波長より長波長領域かつ蛍光スペクトルの範囲内において線幅の狭いレーザ発振をチューナブルに達成できる。
【0009】
本発明によるレーザ発振装置は、光源と、上記レーザ発振素子と、応力印加手段とを備え、応力印加手段は、レーザ発振素子に応力を印加し、レーザ発振素子におけるコロイド結晶ゲルのストップバンドを線形に変化させるので、容易にチューナブルなレーザ発振を可能にする。
【0010】
本発明によるレーザ発振素子の製造方法は、自己組織的に周期配列した粒子が網目状高分子によって固定化されたコロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素を含浸させるステップを包含し、イオン液体および有機色素は、含浸させるステップによって得られたコロイド結晶ゲルのストップバンドが、少なくとも有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長より長波長領域、かつ、蛍光スペクトルの範囲内で可変となるように選択される。コロイド結晶ゲルのストップバンドと有機色素の蛍光スペクトルとを適宜選択するだけで、1ステップの操作により本発明のレーザ発振素子を製造できるので、簡便かつ有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明によるレーザ発振素子の模式図
【図2】本発明によるレーザ発振素子のレーザ発振の様子を示す模式図
【図3】本発明によるレーザ発振素子に外力を印加した場合の変化を示す模式図
【図4】本発明によるレーザ発振素子に外力を印加した場合の発振波長のチューナビリティを示す模式図
【図5】本発明による別のレーザ発振素子の模式図
【図6】本発明による別のレーザ発振素子のレーザ発振の様子を示す模式図
【図7】本発明による別のレーザ発振素子に外力を印加した場合の変化を示す模式図
【図8】本発明による別のレーザ発振素子に外力を印加した場合の発振波長のチューナビリティを示す模式図
【図9】本発明によるコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子を製造するフローチャートを示す図
【図10】本発明によるコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子を製造する別のフローチャートを示す図
【図11】本発明によるレーザ発振装置を示す模式図
【図12】光学顕微鏡システムを示す模式図
【図13】応力印加手段を示す模式図
【図14】実施例1によるレーザ発振素子のストップバンドの外力依存性を示す図
【図15】実施例1のレーザ発振素子のストップバンドと圧縮率との関係を示す図
【図16】実施例1で用いたイオン液体ABImBrの吸収スペクトルを示す図
【図17】圧縮率Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子の反射スペクトルおよび発光スペクトルを示す図
【図18】圧縮率Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子の三次元ビームプロファイルを示す図
【図19】圧縮率Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子の一次元ビームプロファイルを示す図
【図20】圧縮率Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子の発光強度および線幅の励起エネルギーの依存性を示す図
【図21】実施例1のレーザ発振素子の発光スペクトルのチューナビリティを示す図
【図22】実施例2のレーザ発振素子の発光スペクトルのチューナビリティを示す図
【図23】実施例2のレーザ発振素子のレーザ発振の顕微鏡像を示す図
【図24】比較例1の従来型コロイド結晶ゲルの変化を示す図
【図25】比較例2の混合溶液の吸収スペクトルを示す図
【図26】実施例3および比較例2の混合溶液の発光スペクトルを示す図
【図27】比較例3の混合溶液の吸収スペクトルを示す図
【図28】実施例3および比較例3の混合溶液の発光スペクトルを示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0013】
(実施の形態1)
実施の形態1は、本発明によるレーザ発振素子に関する。
【0014】
図1は、本発明によるレーザ発振素子の模式図である。
【0015】
本発明によるレーザ発振素子100は、粒子(微粒子とも呼ぶ)110と、網目状高分子120と、イオン液体130と、有機色素140とを含むコロイド結晶ゲルからなる。なお、本明細書において、網目状高分子120は、イオン液体130および有機色素140を含んだ状態にあり、これを総称して「高分子ゲル」という。当然のことながら、粒子110は、高分子ゲル中において、結晶構造を構成する周期配列を自己組織的に成しており、結晶学の原理に基づいて光のBragg反射を示す。さらに、粒子110は、互いに接触することなく非接触充填状態にある。
【0016】
粒子110は、コロイド粒子とも呼ばれ、例えば、シリカ粒子、ポリスチレン粒子、高分子ラテックス粒子、二酸化チタン等の酸化物粒子、金属粒子、異なる材料を組み合わせた複合粒子であるが、これらに限定されない。なお、複合粒子とは、2種類以上の異なる材料(材質)を組み合わせて構成されており、例えば、一方の材料が他方の材料でカプセル化されて、1つの粒子を形成しているもの、一方の材料が他方の材料に貫入して1つの粒子を形成しているもの、半球状の異なる材料が結合して1つの粒子を形成しているもの等を意味する。
【0017】
コロイド結晶ゲルの粒子110が非接触充填状態であるか否かは、粒子体積分率から判別できる。同一粒径の剛体球状粒子が接触して最密充填構造をとる場合は、理論的に粒子体積分率は74%であることが知られている。実際の判定基準としては、理論的な最密充填状態より、粒子間距離が10%程度大きなところまでは、「実質的に接触している」とするのが現実的である。この場合の粒子体積分率は約55%である。そこで、本明細書において、粒子体積分率が55%未満である場合を非接触充填状態と判定する。イオン液体を含浸させたコロイド結晶ゲルの粒子体積分率は、イオン液体含浸前の出発状態のコロイド結晶ゲルからの体積変化から容易に決定できる。出発状態のコロイド結晶ゲルの粒子体積分率は、作製条件から決めておくことができる。
【0018】
図1では、粒子110は、外力が印加されていない状態において、格子面間隔dAを有し、粒子体積分率が最小値であり、ストップバンドが波長λAであるとする。粒子体積分率を適宜調整することによって、コロイド結晶ゲルのストップバンドを制御できる。例えば、粒子体積分率が小さいほど、ストップバンドは長波長となり、粒子体積分率が大きいほどストップバンドは短波長となる。
【0019】
本発明によるレーザ発振素子100において、以降で詳述するように、コロイド結晶ゲルのストップバンドは、後述する有機色素140の蛍光スペクトル150の極大蛍光波長λmaxより長波長領域、かつ、蛍光スペクトル150の範囲内で可変である。
【0020】
網目状高分子120は、重合性の水溶性分子(モノマーまたはマクロマー)が重合によって形成した高分子が架橋によって三次元的ネットワーク構造を構成した網目状の高分子である。網目状高分子120は、上述の粒子110の位置を固定し、維持するように機能する。このような水溶性分子は、例えば、アクリルアミド、各種アクリルアミド誘導体(N−メチロールメタアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−アクリロイソアミノエトキシエタノール、N−アクリロイソアミノプロパノール、N−イソプロピルアクリルアミドなど)、または、アクリル酸誘導体、エチレングリコール誘導体が使用可能であるが、これらに限定されない。なお、本明細書において、特に断りを入れない限り、「網目状高分子」とは、重合性の水溶性分子の重合体によって形成された網目状高分子を意図するものとすることに留意されたい。
【0021】
イオン液体130は、分散媒(単に溶媒とも呼ぶ)として機能する。イオン液体130は、実質的に蒸気圧が0であるため、蒸発しない。そのため、本発明のレーザ発振素子100を保管する場合、または、光学素子として実装する場合に、分散媒の蒸発を防ぐために、レーザ発振素子100を密閉容器等の密閉構造に封止する必要はない。
【0022】
イオン液体130は、好ましくは、親水性であり、かつ、末端にアリル基を有する。これにより、後述する有機色素140と良好に混和するので、安定したレーザ発振を可能にする。イオン液体130は、より好ましくは、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物、1−アリル−3−エチルイミダゾリウムハロゲン化物、および、1,3−ジアリルブチルイミダゾリウムハロゲン化物からなる群から選択される。これにより、後述する有機色素140と確実に混和するので、安定なレーザ発振および高発振強度を可能にする。また、イオン液体130と有機色素140とが反応することはないので、長期的に安定なレーザ発振素子を提供できる。なお、図1では簡単のため有機色素140は、1種の有機色素からなるものとする。
【0023】
例えば、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物は、水に対する親和性に優れているので、実施の形態3で説明する本発明のレーザ発振素子の製造において有利である。また、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物は、280nm以上の波長域において固有のモル吸収係数を有さないので、光学的に極めて透明である。さらに、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物は、後述する有機色素140、中でも、ローダミン誘導体を容易に溶解し得る。また、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物は、環境にやさしい材料として知られており、危険有害性物質識別システム(HMIS)において低リスク化学物質である。
【0024】
有機色素140は、ローダミン誘導体、オキサジン誘導体、フルオレセイン誘導体、クマリン誘導体、スチリル誘導体および−ジシアノメチレン−2−メチル−6(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)からなる群から少なくとも1種選択される。これらは、上述のイオン液体130と混和し得る。
【0025】
例えば、ローダミン誘導体としてローダミン6Gは、550nm〜620nmの発光波長を有し、緑色、黄色から橙色を発する。オキサジン誘導体としてフェノキサジンは、560〜700nmの発光波長を有し、緑色、黄色、橙色から赤色を発する。別のオキサジン誘導体としてオキサジン1は、692nm〜768nmの発光波長を有し、赤色を発する。フルオレセイン誘導体としてジソディウムフルオレセインは、530nm〜590nmの発光波長を有し、黄緑色、緑色から黄色を発する。別のフルオレセイン誘導体としてフルオレセイン27は、540nm〜589nmの発光波長を有し、黄緑色、緑色から黄色を発する。クマリン誘導体としてクマリン4は、460nm〜560nmの発光波長を有し、青色から緑色を発する。別のクマリン誘導体としてクマリン153は、522nm〜600nmの発光波長を有し、青緑色、緑色から黄色を発する。スチリル誘導体としてスチルベン1は、405nm〜446nmの発光波長を有し、青色を発する。DCMは、590nm〜710nmの発光波長を有し、赤色を発する。
【0026】
上述したように、有機色素140の蛍光スペクトル150の極大蛍光波長は、コロイド結晶ゲルのストップバンドよりも短波長領域、かつ、コロイド結晶のストップバンドが蛍光スペクトルの範囲内で可変となるように、有機色素140は選択される。より詳細には、図1に示すように、有機色素140の蛍光スペクトル150(図1)の極大蛍光波長はλmaxであり、コロイド結晶ゲルの反射スペクトル160(図1)のストップバンドはλAである場合、λA>λmaxであり、かつ、蛍光スペクトル150の範囲内にλAが位置する。
【0027】
例えば、コロイド結晶ゲルのストップバンドλAが700nmである場合、有機色素140としてフェノキサジン、オキサジン1等が使用可能であるが、スチルベン1は使用不可である。コロイド結晶ゲルのストップバンドλAが500nmである場合、有機色素140としてクマリン4、スチルベン1等が使用可能であるが、フェノキサジン、オキサジン1は使用不可である。
【0028】
次に、図1の本発明によるレーザ発振素子100のレーザ発振の動作原理を説明する。
【0029】
図2は、本発明によるレーザ発振素子のレーザ発振の様子を示す模式図である。
【0030】
図2に示すレーザ発振素子は、図1のレーザ発振素子100と同一であり、外力が印加されていない状態である。レーザ発振素子100の膜厚方向に励起光(波長λex)が入射すると、レーザ発振素子100は、励起光(波長λex)を変換光200(波長λemA)に変換し、出力する。
【0031】
より詳細には、レーザ発振素子100の有機色素140は、励起光を吸収し、蛍光スペクトル150に示す極大蛍光波長λmaxを有する蛍光を発し得る。なお、波長λexは、有機色素140の蛍光スペクトル150の波長よりも十分に短い波長であり得る。しかしながら、レーザ発振素子100は、実際には、蛍光スペクトル150を発することなく、レーザ発振素子100の反射スペクトル160のストップバンドλAよりも長波長であり、反射スペクトル160および有機色素140の蛍光スペクトル150の範囲内にある波長λemAを有する変換光200を発することができる。これは、反射バンド端近傍における発光フォトンにおける状態密度(DOS)の共鳴増強に起因する。すなわち、レーザ発振素子100の反射バンド(反射スペクトル160)がフォトニックバンドギャップ(PBG)として良好に機能していることを意味する。また、変換光200のレーザ線幅は極めて狭く、0.01nm〜5nmの範囲である。
【0032】
次に、図1の本発明によるレーザ発振素子100に外力を印加した場合のストップバンドの変化を説明する。
【0033】
図3は、本発明によるレーザ発振素子に外力を印加した場合の変化を示す模式図である。
【0034】
図3(A)に示すレーザ発振素子100は、図1のレーザ発振素子100と同一であり、外力が印加されていない状態である。レーザ発振素子100に外力(圧縮応力)を膜厚方向に印加すると、図3(B)に示すように、レーザ発振素子100はレーザ発振素子310と変化する。このとき、格子面間隔はdAからdB(dB<dA)へと変化するとともに、ストップバンドもまた、波長λAから波長λB(λB<λA)へと変化する。さらに、レーザ発振素子310に外力を膜厚方向に印加すると、図3(C)に示すように、レーザ発振素子310はレーザ発振素子320と変化する。このとき、格子面間隔はdBからdC(dC<dB)へと変化するとともに、ストップバンドもまた、波長λBから波長λC(λC<λB)へと変化する。レーザ発振素子320にさらに外力を膜厚方向に印加すると、図3(D)に示すように、レーザ発振素子320はレーザ発振素子330と変化する。このとき、格子面間隔はdCからdD(dD<dC)へと変化するとともに、ストップバンドもまた、波長λCから波長λD(λD<λC)へと変化する。ここで、レーザ発振素子330を構成するコロイド結晶ゲルは、接触充填状態にあり、これ以上外力を印加しても、格子面間隔が短くなることはなく、ストップバンドも短波長側にシフトしない。
【0035】
図3を参照して説明したように、本発明のレーザ発振素子100を構成するコロイド結晶ゲルは、非接触充填状態にあるので、外力を印加するにつれて、ストップバンドは短波長側へとブルーシフトする。外力の印加に伴う、ブルーシフトは、コロイド結晶ゲルが接触充填状態になるまで続き、それ以降はシフトしない。図3では、特定の非接触充填状態(図3(A)〜(C)等)を示したが、外力の印加の程度によっては、図3(A)〜(B)、図3(B)〜(C)または図3(C)〜(D)の間の任意の接触充填状態のコロイド結晶ゲルを達成できることに留意されたい。
【0036】
次に、本発明のレーザ発振素子100の発振波長のチューナビリティについて説明する。
【0037】
図4は、本発明によるレーザ発振素子に外力を印加した場合の発振波長のチューナビリティを示す模式図である。
【0038】
図4において、レーザ発振素子100、310、320および330、ならびに、それらのストップバンドは、いずれも、図3で説明したレーザ発振素子ならびにストップバンドと同様であるため、説明を省略する。また、図4の蛍光スペクトル150は、図1および図2の蛍光スペクトル150と同様である。
【0039】
図2を参照して説明したように、図4のレーザ発振素子100に膜厚方向に励起光(波長λex)が入射すると、レーザ発振素子100の有機色素140は、励起光を吸収し、蛍光スペクトル150に示す極大蛍光波長λmaxを有する蛍光を発し得るが、実際には、レーザ発振素子100は、蛍光スペクトル150を発することなく、レーザ発振素子100のストップバンドλAよりも長波長であり、かつ、レーザ発振素子100の反射スペクトルおよび有機色素140の蛍光スペクトル150の範囲内にある波長λemAを有する変換光を発することができる。
【0040】
図4のレーザ発振素子310に同様に励起光(波長λex)が入射すると、レーザ発振素子310の有機色素140は、励起光を吸収し、蛍光スペクトル150に示す極大蛍光波長λmaxを有する蛍光を発し得るが、実際には、レーザ発振素子310は、蛍光スペクトル150を発することなく、レーザ発振素子310のストップバンドλBよりも長波長であり、レーザ発振素子100のストップバンドλAよりも短波長であり、かつ、レーザ発振素子310の反射スペクトルおよび有機色素140の蛍光スペクトル150の範囲内にある波長λemBを有する変換光(λmax<λemB<λemA)を発することができる。
【0041】
図4のレーザ発振素子320に同様に励起光(波長λex)が入射すると、レーザ発振素子320の有機色素140は、励起光を吸収し、蛍光スペクトル150に示す極大蛍光波長λmaxを有する蛍光を発し得るが、実際には、レーザ発振素子320は、蛍光スペクトル150を発することなく、レーザ発振素子320のストップバンドλCよりも長波長であり、レーザ発振素子310のストップバンドλBよりも短波長であり、かつ、レーザ発振素子320の反射スペクトルおよび有機色素140の蛍光スペクトル150の範囲内にある波長λemCを有する変換光(λmax<λemC<λemB)を発することができる。
【0042】
図4のレーザ発振素子330に同様に励起光(波長λex)が入射すると、レーザ発振素子330の有機色素140は、励起光を吸収し、蛍光スペクトル150に示す極大蛍光波長λmaxを有する蛍光を発し得るが、実際には、レーザ発振素子330は、何らレーザ発振しない。これは、図4では、レーザ発振素子330のストップバンドλDが、蛍光スペクトル150の極大蛍光波長λmaxよりも短波長領域にあるためである。なお、図4においてレーザ発振素子330のストップバンドが蛍光スペクトル150の極大蛍光波長λmaxよりも長波長領域にあり、かつ、蛍光スペクトル150内にあれば、レーザ発振素子100、310および320と同様にレーザ発振し得ることを理解されたい。
【0043】
図3および図4を参照して説明したように、ストップバンドおよび有機色素を適宜選択すれば、コロイド結晶ゲルのストップバンドを制御することによって、コロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子の発振波長のチューナビリティが達成される。
【0044】
(実施の形態2)
実施の形態2は、本発明による別のレーザ発振素子に関する。実施の形態1では、有機色素140が一種の例を示したが、実施の形態2では、有機色素140が二種以上の例を示す。
【0045】
図5は、本発明による別のレーザ発振素子の模式図である。
【0046】
本発明によるレーザ発振素子500は、粒子(微粒子とも呼ぶ)110と、網目状高分子120と、イオン液体130と、有機色素510とを含むコロイド結晶ゲルからなる。粒子110、網目状高分子120およびイオン液体130は、図1を参照して上述したとおりであるため、説明を省略する。また、レーザ発振素子500の粒子110は、非接触充填状態にあり、外力が印加されていない状態である。
【0047】
有機色素510は、実施の形態1の有機色素140と同様に、ローダミン誘導体、オキサジン誘導体、フルオレセイン誘導体、クマリン誘導体、および、スチリル誘導体からなる群から少なくとも1種選択されるが、実施の形態2では、2種が混合されているものとする。実施の形態1の有機色素140と同様に、有機色素510もまた、イオン液体130と混和し得る。
【0048】
なお、有機色素510の組み合わせは、各有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長の異なるものが好ましい。これにより、レーザ発振素子500の発振波長のチューナビリティを拡げることができる。例えば、有機色素510は、蛍光スペクトル150を有する有機色素(実施の形態1の有機色素140と同様とする)と、蛍光スペクトル530を有する有機色素との組み合わせであるとする。蛍光スペクトル150は、極大蛍光波長λmaxを有し、蛍光スペクトル530は、極大蛍光波長λmax’を有する(λmax’<λmaxを満たす)。なお、実際の有機色素510の蛍光スペクトルは、蛍光スペクトル150と蛍光スペクトル530とを組み合わせた1つの蛍光スペクトル(図示せず)となり、その形状は有機色素の混合割合によって変化し得ることに留意されたい。
【0049】
実施の形態1と同様に、本発明によるレーザ発振素子500において、コロイド結晶ゲルのストップバンド160は、有機色素510の蛍光スペクトル150および530の極大蛍光波長λmaxおよびλmax’より長波長領域、かつ、蛍光スペクトル150および530の少なくともいずれか一方の範囲内で可変であればよい。
【0050】
次に、本発明によるレーザ発振素子500のレーザ発振の動作原理を説明する。
【0051】
図6は、本発明による別のレーザ発振素子のレーザ発振の様子を示す模式図である。
【0052】
レーザ発振素子500の膜厚方向に励起光(波長λex’)が入射すると、レーザ発振素子500は、励起光(波長λex’)を変換光600(波長λemA’)に変換し、出力する。
【0053】
より詳細には、レーザ発振素子500の有機色素510は、励起光を吸収し、蛍光スペクトル150および530に示す極大蛍光波長λmaxおよびλmax’を有する蛍光を発し得る。なお、波長λex’は、有機色素510の蛍光スペクトル150および530の波長よりも十分に短い波長であり得る。しかしながら、実際には、レーザ発振素子500は、蛍光スペクトル150および530を発することなく、レーザ発振素子500の反射スペクトル160のストップバンドλAよりも長波長であり、かつ、反射スペクトル160ならびに有機色素510の少なくとも蛍光スペクトル150の範囲内にある波長λemA’を有する変換光600を発することができる。また、変換光600のレーザ線幅は極めて狭く、0.01nm〜5nmの範囲である。ここで、ストップバンドλAおよび変換光600の波長λemA’は、図2を参照して説明したストップバンドλAおよび変換光200の波長λemAと同様の場合もあるし、有機色素510の組み合わせによっては異なる場合もある。
【0054】
次に、本発明の別のレーザ発振素子500に外力を印加した場合のストップバンドの変化を説明する。
【0055】
図7は、本発明による別のレーザ発振素子に外力を印加した場合の変化を示す模式図である。
【0056】
図7(A)に示すレーザ発振素子500は、図5のレーザ発振素子500と同一であり、外力が印加されていない状態である。レーザ発振素子500に外力(圧縮応力)を膜厚方向に印加すると、図7(B)に示すように、レーザ発振素子500はレーザ発振素子710と変化する。このとき、格子面間隔はdAからdB(dB<dA)へと変化するとともに、ストップバンドもまた、波長λAから波長λB(λB<λA)へと変化する。さらに、レーザ発振素子710に外力を膜厚方向に印加すると、図7(C)に示すように、レーザ発振素子710はレーザ発振素子720と変化する。このとき、格子面間隔はdBからdC(dC<dB)へと変化するとともに、ストップバンドもまた、波長λBから波長λC(λC<λB)へと変化する。レーザ発振素子720にさらに外力を膜厚方向に印加すると、図7(D)に示すように、レーザ発振素子720はレーザ発振素子730と変化する。このとき、格子面間隔はdCからdD(dD<dC)へと変化するとともに、ストップバンドもまた、波長λCから波長λD(λD<λC)へと変化する。ここで、レーザ発振素子730を構成するコロイド結晶ゲルは、接触充填状態にあり、これ以上外力を印加しても、格子面間隔が短くなることはなく、ストップバンドも短波長側にシフトしない。
【0057】
なお、ここでは、簡単のため、レーザ発振素子500に外力を印加した場合の格子面間隔およびストップバンドの変化は、図3を参照して説明したレーザ発振素子100のそれらと同様であるものとするが、これに限らない。
【0058】
次に、本発明のレーザ発振素子500の発振波長のチューナビリティについて説明する。
【0059】
図8は、本発明による別のレーザ発振素子に外力を印加した場合の発振波長のチューナビリティを示す模式図である。
【0060】
図8において、レーザ発振素子500、710、720および730、ならびに、それらのストップバンドは、いずれも、図7で説明したレーザ発振素子ならびにストップバンドと同様であるため、説明を省略する。また、図8の蛍光スペクトル150および530は、図5および図6の蛍光スペクトル150および530と同様である。
【0061】
図6を参照して説明したように、図5のレーザ発振素子500に膜厚方向に励起光(波長λex’)が入射すると、レーザ発振素子500の有機色素510は、励起光を吸収し、蛍光スペクトル150および530に示す極大蛍光波長λmaxおよびλmax’を有する蛍光を発し得るが、実際には、レーザ発振素子500は、蛍光スペクトル150および530を発することなく、レーザ発振素子500のストップバンドλAよりも長波長であり、かつ、レーザ発振素子500の反射スペクトルならびに有機色素530の少なくとも蛍光スペクトル150の範囲内にある波長λemA’を有する変換光600を発することができる。
【0062】
図8のレーザ発振素子710に同様に励起光(波長λex’)が入射すると、レーザ発振素子710の有機色素510は、励起光を吸収し、蛍光スペクトル150および530に示す極大蛍光波長λmaxおよびλmax’を有する蛍光を発し得るが、実際には、レーザ発振素子710は、蛍光スペクトル150および530を発することなく、レーザ発振素子710のストップバンドλBよりも長波長であり、レーザ発振素子500のストップバンドλAよりも短波長であり、かつ、レーザ発振素子710の反射スペクトルならびに有機色素510の蛍光スペクトル150および/または530の範囲内にある波長λemB’を有する変換光(λmax’<λmax<λemB’<λemA’)を発することができる。
【0063】
図8のレーザ発振素子720に同様に励起光(波長λex’)が入射すると、レーザ発振素子720の有機色素510は、励起光を吸収し、蛍光スペクトル150および530に示す極大蛍光波長λmaxおよびλmax’を有する蛍光を発し得るが、実際には、レーザ発振素子720は、蛍光スペクトル150および530を発することなく、レーザ発振素子720のストップバンドλCよりも長波長であり、レーザ発振素子710のストップバンドλBよりも短波長であり、かつ、レーザ発振素子720の反射スペクトルならびに有機色素510の蛍光スペクトル150および/または530の範囲内にある波長λemC’を有する変換光(λmax’<λmax<λemC’<λemB’)を発することができる。
【0064】
図8のレーザ発振素子730に同様に励起光(波長λex’)が入射すると、レーザ発振素子730の有機色素510は、励起光を吸収し、蛍光スペクトル150および530に示す極大蛍光波長λmaxおよびλmax’を有する蛍光を発し得るが、実際には、レーザ発振素子730は、蛍光スペクトル150および530を発することなく、レーザ発振素子730のストップバンドλDよりも長波長であり、レーザ発振素子720のストップバンドλCよりも短波長であり、かつ、レーザ発振素子730の反射スペクトルならびに有機色素510の蛍光スペクトル150および/または530の範囲内にある波長λemD’を有する変換光(λmax’<λemD’<λmax<λemC’)を発することができる。
【0065】
ここで注目すべきは、単一の有機色素140のみを用いた実施の形態1において、粒子110が接触状態まで外力を印加するとレーザ発振できなかった(図4のレーザ発振素子330)が、2種の有機色素510を用いることによって、粒子110が接触状態まで外力を印加した場合であっても、レーザ発振が可能になることである。すなわち、有機色素の組み合わせによって、レーザ発振のチューナビリティを拡げることができる。レーザ発振のチューナビリティの幅の、短波長側は、少なくとも1つの有機色素の極大蛍光波長に依存し、長波長側は、少なくとも1つの有機色素の蛍光スペクトルの範囲に依存している。
【0066】
図7および図8を参照して説明したように、ストップバンドおよび有機色素の組み合わせを適宜選択すれば、コロイド結晶ゲルのストップバンドを制御することによって、コロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子の発振波長のチューナビリティが達成されるとともに、チューナビリティを拡げることができる。また、実施の形態2では、簡単のため、有機色素510を2種の組み合わせに限定して説明したが、3種以上であっても同様であることは、当業者であれば容易に理解し得る。
【0067】
(実施の形態3)
実施の形態3は、実施の形態1および2で説明したレーザ発振素子の製造方法に関する。
【0068】
図9は、本発明によるコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子を製造するフローチャートを示す図である。
【0069】
ステップS910:粒子が網目状高分子によって固定化されたコロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素を含浸させる。ここで、粒子、網目状高分子、イオン液体および有機色素は、実施の形態1および2で説明したとおりである。ここで、イオン液体および有機色素を含浸させるべきコロイド結晶ゲルは、乾燥していてもよいし、分散媒を含有していてもよい。なお、分散媒を含有する場合には、イオン液体を除く、水、有機溶媒等既存の任意の分散媒である。コロイド結晶ゲルは、例えば、特開2006−124521号公報、Sawadaら,Jpn.J.Appl.Phys.2001,40,L1226、および、Kanaiら,Adv.Funct.Mater.2005,15,25等を参照して作製してもよい。本発明によるイオン液体および有機色素が含浸されたコロイド結晶ゲルと、イオン液体および有機色素が含浸されるべきコロイド結晶ゲルとを便宜上区別するため、以降では、イオン液体および有機色素が含浸されるべきコロイド結晶ゲルを“従来型コロイド結晶ゲル”と称する。
【0070】
ステップS910において、「含浸」とは、従来型コロイド結晶ゲルとイオン液体および有機色素とを接触させる任意の手段を意図し、例示的には、従来型コロイド結晶ゲルをイオン液体および有機色素に浸漬させること、従来型コロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素を滴下すること等である。好ましくは、含浸条件は、大気圧中室温にて1時間〜14日間である。このように、本発明の方法によれば、単に、従来型コロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素を含浸させるだけで、従来型コロイド結晶ゲルにおける分散媒と、イオン液体および有機色素とが自発的に置換する、あるいは、分散媒を含有しない従来型コロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素が自発的に浸透する。その結果、実施の形態1および2を参照して説明したコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子100および500が得られる。
【0071】
イオン液体および有機色素は、ステップS910によって得られたコロイド結晶ゲルのストップバンドが、少なくとも有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長より長波長領域、かつ、蛍光スペクトルの範囲内で可変となるように選択されることに留意されたい。コロイド結晶ゲルのストップバンドと有機色素の蛍光スペクトルとを適宜選択するだけで、1ステップの操作により本発明のレーザ発振素子を製造できるので、簡便かつ有利である。
【0072】
なお、製造効率の観点から、ステップS910において、加熱しながら含浸させてもよい。これにより、従来型コロイド結晶ゲルが分散媒を含有する場合には、分散媒の揮発を促進させるので、分散媒とイオン液体および有機色素との置換が加速し得る。加熱温度は、従来型コロイド結晶ゲルの分散媒の種類に応じて異なるが、例えば、分散媒として水を用いる場合には、40℃〜100℃の温度範囲が好ましい。この範囲であれば、粒子の配列を乱すことなく、分散媒のみが揮発し得る。
【0073】
また、製造効率の観点から、ステップS910において、減圧雰囲気下または除湿雰囲気下において含浸させてもよい。これにより、従来型コロイド結晶ゲルが分散媒を含有する場合には、分散媒の揮発を促進させるので、分散媒とイオン液体および有機色素との置換が加速し得る。圧力または湿度は、従来型コロイド結晶ゲルの分散媒の種類に応じて異なるが、例えば、分散媒として水を用いる場合には、4kPa以下の減圧雰囲気または40%以下の湿度範囲が好ましい。この範囲であれば、常圧で通常湿度の環境下に比べて、分散媒の揮発の加速について有効な効果が期待される。当然のことながら、ステップS910において、減圧雰囲気下または除湿雰囲気下にて従来型コロイド結晶ゲルを加熱してもよい。
【0074】
図10は、本発明によるコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子を製造する別のフローチャートを示す図である。
【0075】
図9のステップS910は、好ましくは、2つのステップS1010およびS1020からなる。
【0076】
ステップS1010:分散媒が水である従来型コロイド結晶ゲルにイオン液体を含浸させる。ここでも、好ましくは、含浸条件は、大気圧中室温にて1時間〜14日間である。また、上述したように、加熱および/または減圧・除湿雰囲気下で含浸させてもよい。
【0077】
ステップS1020:ステップS1010についで、イオン液体が含浸されたコロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素をさらに含浸させる。ここでも、好ましくは、含浸条件は、大気圧中室温にて1時間〜14日間である。
【0078】
このように、イオン液体および有機色素の従来型コロイド結晶ゲルへの含浸を2段階に分けることによって、有機色素が析出するのを防ぐことができるので、好ましい。有機色素は水に溶解しにくい性質を有し得る。したがって、ステップS1010において従来型コロイド結晶ゲル中の分散媒の水とイオン液体とを予め置換することにより、ステップS1020において、有機色素が析出することなくコロイド結晶ゲル中に浸透するので、イオン液体と有機色素とを含有するコロイド結晶ゲルを確実に得ることができる。
【0079】
(実施の形態4)
実施の形態4は、実施の形態1および2で説明したレーザ発振素子を用いたレーザ発振装置に関する。
【0080】
図11は、本発明によるレーザ発振装置を示す模式図である。
【0081】
レーザ発振装置1100は、光源1110と、光源1110が発する光を受光し、光の波長を変換するレーザ発振素子1120と、レーザ発振素子1120に応力を印加する応力印加手段1130とを含む。
【0082】
光源1110は、半導体材料あるいは結晶を用いた固体レーザ、CO2、ArFエキシマを用いたガスレーザ等任意のレーザ光源であり得、レーザ発振素子1120に採用された有機色素を励起し得る波長の光を発する。
【0083】
レーザ発振素子1120は、実施の形態1および2で説明したレーザ発振素子100、500であり得る。
【0084】
応力印加手段1130は、レーザ発振素子1120の粒子110(図1、図5等)の格子面間隔を制御し、ストップバンドを変化させるよう、レーザ発振素子1120の膜厚方向に応力を印加する。図示しないが、レーザ発振装置1100は、応力印加手段1130を制御するコンピュータ等の制御部を有してもよい。制御部が、レーザ発振素子1120の外力とストップバンドとの関係を予め有していれば、レーザ発振素子1120が所望のストップバンドを有するように、あるいは、レーザ発振素子1120のストップバンドを線形に変化するように、制御が容易になるので、チューナブルなレーザ発振を可能にする。
【0085】
次に、レーザ発振装置1100の動作を説明する。ここでは簡単のため、レーザ発振素子1120は、実施の形態1で説明したレーザ発振素子100と同様であるものとする。
【0086】
光源1110は、波長λexを有する励起光を発する。励起光の波長λexは、レーザ発振素子1120の有機色素を励起させるに十分な波長である。励起光は、レーザ発振素子1120に入射され、レーザ発振素子1120は励起光を受光する。
【0087】
レーザ発振素子1120の有機色素は、励起光により励起される。ここで、応力印加手段1130がレーザ発振素子1120に何ら応力を印加せず、レーザ発振素子1120のストップバンドがλAである場合、波長λexを波長λemAに変換し、出力する(図2あるいは図4)。
【0088】
一方、応力印加手段1130がレーザ発振素子1120に応力を印加し、レーザ発振素子1120のストップバンドがλCである場合、波長λexを波長λemCに変換し、出力する(図4)。このようにして、応力印加手段1130によりレーザ発振装置1100は、チューナブルなレーザ発振を可能にする。
【0089】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例1】
【0090】
実施例1では、イオン液体として1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物を、有機色素としてローダミン誘導体を用いたコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子を製造した。
【0091】
まず、分散媒として水を含有する従来型コロイド結晶ゲルを特開2006−124521号公報、Sawadaら,Jpn.J.Appl.Phys.2001,40,L1226、Kanaiら,Adv.Funct.Mater.2005,15,25を参照して製造した。
【0092】
詳細な手順は次のとおりである。単分散のポリスチレン粒子(直径120nm)の水溶性懸濁液をイオン交換樹脂で処理し、脱イオン化により懸濁液中にポリスチレンの多結晶構造を得た。次いで、N−メチロールアクリルアミド(0.70M)およびN,N’−メチレンビスアクリルアミド(40mM)の水溶性ゲル前駆体を2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](0.35mM)の光重合開始剤とともに、懸濁液に添加した。続いて、懸濁液をすばやく平板状キャピラリセル(厚さ約100μm)に流しいれ、大面積(100cm2)の単結晶ドメインからなるコロイド結晶を形成した。光重合により、コロイド結晶中の水溶性ゲル前駆体が架橋したネットワーク構造した網目状高分子でコロイド結晶を固定化し、従来型コロイド結晶ゲル(自己組織的に周期配列したポリスチレン粒子が網目状高分子によって固定化されたコロイド結晶ゲル)を得た。
【0093】
次に、従来型コロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素を含浸させた(図9のステップS910)。イオン液体は、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物のうち1−アリル−3−ブチルイミダゾリウム臭化物(以降では簡単のためABImBrと称する)であった。有機色素は、ローダミン誘導体のうちローダミン640(以降では簡単のためRhと称する)であった。
【0094】
具体的には、従来型コロイド結晶ゲルにABImBrを含浸させた(図10のステップS1010)。これにより、従来型コロイド結晶ゲル中の分散媒である水がABImBrに置換された。含浸は、直径3mmの円形シート状にカットした従来型コロイド結晶ゲルを、大気中室温において1週間、AbImBrに浸漬することによって行った。
【0095】
次いで、ABImBrで置換され、膨潤したコロイド結晶ゲルに、ABImBrとRhとの混合溶液(0.25wt%Rh)を含浸させた(図10のステップS1020)。コロイド結晶ゲル中のABImBrは、ABImBrとRhとの混合溶液と置換した。含浸は、コロイド結晶ゲルを、大気中室温において1週間、AbImBrおよびRhの混合溶液に浸漬することによって行った。その後、ABImBrおよびRhが含浸されたコロイド結晶ゲルを数十分間真空中に曝し、残留する分散媒(水)を除去した。このようにしてイオン液体(ABImBr)および有機色素(Rh)を含有するコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子を得た。
【0096】
実施例1のレーザ発振素子について、光学顕微鏡システムを用いて光学測定を行った。
【0097】
図12は、光学顕微鏡システムを示す模式図である。
【0098】
光学顕微鏡システムは、Q−スイッチNd:YAGレーザ光源(PolarisII20ST、New Wave Research)1210と、レーザ発振素子1220と、応力印加手段1230とを含むレーザ発振装置を備える。詳細には、光学顕微鏡システムは、レーザ発振装置に加えて、ダイクロイックミラー(Di1−R532−25×36、Semrock)1201、λ/2板1202、グランレーザプリズム1203、撮像レンズ(U−TLU、Olympus)1204、CMOSカメラ(Moticam2000、Shimadzu)1205、分光計1206、100Wハロゲンランプ1207、顕微鏡用電動式照明器具(BX−RLA2、Olympus)1208および対物レンズ(SLMPLanN×20、Olympus)1209を備える。
【0099】
図13は、応力印加手段を示す模式図である。
【0100】
図12の応力印加手段1230は、詳細には、精密制御可能なマイクロメータヘッド1310と、バネ1320と、ガラス基板1330とを含む。応力印加手段1230は、ガラス基板1330間にレーザ発振素子1220を保持する。図面では、2つのマイクロメータヘッド1310が示されるが、実際には、3つのマイクロメータヘッドを用いて、レーザ発振素子1220のコロイド結晶ゲルの膜厚方向に均一に外力を印加した。
【0101】
レーザ発振素子のコロイド結晶ゲルの反射スペクトルを、ハロゲンランプ1207を備えた顕微鏡用電動式照明器具1208を介して測定した。レーザ発振素子の発光スペクトルを、光源1210からのSHG光(波長532nm)を用いて測定した。光源1210のパルス幅は約3nsであり、繰り返し周波数は10Hzであった。光源1210からのSHG光は励起光としてレーザ発振素子1220の膜厚方向にそって伝播し、対物レンズ1209を介してフォーカスされる。その結果、レーザ発振素子1220の表面に直径約40μmの円形スポットを得た。レーザ発振素子1220からの共線伝達された発光スペクトルを、電荷結合素子(CCD)検出器(SR−303iおよびiDus DU420A、Andor Technology)を備えた分光計1206により測定した。レーザ発振のビーム品質を、CCDビームプロファイラ(BeamStar FX−33、Ophir)により解析した。反射および発光色の顕微鏡像を、相補型金属酸化物半導体カメラにより記録した。
【0102】
応力印加手段1230により実施例1のレーザ発振素子に外力をした場合の反射顕微鏡像、反射スペクトルおよびストップバンドの外力依存性を調べた。結果を図14および図15に示す。ABImBrの吸収スペクトルを測定した。結果を図16に示す。応力印加手段1230により実施例1のレーザ発振素子に外力を印加した場合の発光スペクトルおよびその際のビームプロファイルを測定した。これらの結果を図17〜図19に示す。応力印加手段1230により実施例1のレーザ発振素子に外力を印加した場合の発光線幅および発光強度の励起光のエネルギー(励起エネルギー)依存性を調べた。結果を図20に示す。応力印加手段1230により実施例1のレーザ発振素子に外力を印加した場合の発光スペクトルのチューナビリティを測定した。結果を図21に示す。
【実施例2】
【0103】
実施例2は、イオン液体として1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物を、有機色素としてローダミン誘導体の組み合わせを用いたコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子を製造した。なお、有機色素の組み合わせが、ローダミン誘導体のうちRhとスルフォローダミンB(以降では簡単のためSRと称する)とであり、ABImBrで置換され、膨潤したコロイド結晶ゲルに、ABImBrとRhおよびSRとの混合溶液(0.10wt%Rhおよび0.25wt%)を含浸させた以外は、実施例1と同様であるため、説明を省略する。
【0104】
応力印加手段1230により実施例2のレーザ発振素子に外力を印加した場合の発光スペクトルのチューナビリティおよびレーザ発光の顕微鏡像を調べた。これらの結果を図22および図23に示す。
【実施例3】
【0105】
実施例3では、実施例1および2と同様にイオン液体としてABImBrを、有機色素として4−ジシアノメチレン−2−メチル−6(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)と混合した混合溶液(0.25wt%DCM)を調製し、その発光スペクトルを測定した。結果を図26および図28に示す。
【比較例1】
【0106】
比較例1では、実施例1において従来型コロイド結晶ゲルを大気中24時間放置し、変化を調べた。結果を図24に示す。
【比較例2】
【0107】
比較例2は、実施例3において、イオン液体としてアセテート系の1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートを用いた以外は同様であった。混合溶液(0.25wt%DCM)の観察、吸収スペクトルおよび発光スペクトルを調べた。これらの結果を図25および図26に示す。
【比較例3】
【0108】
比較例3は、実施例3において、イオン液体としてアセテート系の1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートを用いた以外は同様であった。混合溶液(0.25wt%DCM)の観察、吸収スペクトルおよび発光スペクトルを調べた。これらの結果を図27および図28に示す。
【0109】
簡単のため、実施例1〜3および比較例1〜3の実験条件を表1に示す。
【表1】
【0110】
図14は、実施例1によるレーザ発振素子のストップバンドの外力依存性を示す図である。
【0111】
図14は、応力印加手段1230により実施例1のレーザ発振素子の膜厚方向に外力を印加した際のストップバンドの変化および反射顕微鏡像の変化を示す。図14において初期状態は、応力印加手段1230により外力を印加する前の実施例1のレーザ発振素子の状態である。初期状態では、実施例1のレーザ発振素子は、690nmを中心とするストップバンドを示し、反射顕微鏡像によれば暗褐色であった。
【0112】
段階的に応力印加手段1230により実施例1のレーザ発振素子に外力を印加すると、ストップバンドは、690nmから短波長側へとシフト(ブルーシフト)し、最終的には、最大圧縮状態において558nmとなった。同様に、反射顕微鏡像は、暗褐色から橙色を経て緑色まで変化した。なお、応力印加手段1230による外力の印加を取り去ると、ストップバンドは、558nmから690nmへと可逆的に変化した。このことから、実施例1のレーザ発振素子のストップバンドは、外力の印加によって可逆的に変化することが確認された。
【0113】
また、応力印加手段1230により実施例1のレーザ発振素子に外力を印加しても、単一のストップバンドのみが観察された。このことは、実施例1のレーザ発振素子において、外力が印加された状態であっても、コロイド結晶ゲル中のポリスチレン粒子の周期配列は良好に維持されており、歪み等が発生しないことを示す。
【0114】
なお、ストップバンドの外力によるブルーシフトは、格子面間隔d(例えば、図1〜図3のdA〜dD参照)の幾何学的な減少で説明される。
λ=2d√(n2−sin2θ)
ここで、λは、ストップバンドであり、dは、格子面間隔であり、nは、材料の有効屈折率であり、θは、入射光の角度である。
【0115】
図15は、実施例1のレーザ発振素子のストップバンドと圧縮率との関係を示す図である。
【0116】
図15において縦軸は、ストップバンドλPBG(nm)であり、横軸は、レーザ発振素子の膜厚方向の圧縮率Rcomである。Rcomは、Rcom=(T0−T)/T0で定義される。T0およびTは、それぞれ、圧縮前および圧縮後のレーザ発振素子の膜厚である。例えば、Rcom=0.1とは、レーザ発振素子の膜厚が10%減縮したことを意味する。
【0117】
図15によれば、圧縮率が増大するにつれて、ストップバンドが減少することが分かった。詳細には、最小二乗法を用いてストップバンドの挙動を解析すると、λPBG=686−406Rcomで表された。相関係数は0.99であった。このことから、本発明によるレーザ発振素子のストップバンドは、圧縮率、すなわち、外力の印加に対して、線形にシフトすることが確認された。
【0118】
以上の図15によれば、本発明によるレーザ発振素子は、それを構成するコロイド結晶ゲル中の粒子が周期配列しており、その配列が非接触充填状態であるため、ストップバンドが可変であることが示された。
【0119】
図16は、実施例1で用いたイオン液体ABImBrの吸収スペクトルを示す図である。
【0120】
ABImBrをジクロロメタンに溶解させた溶液を用いて吸収スペクトルを測定した。ABImBrは、228nmに吸収を有するが、280nm以上の波長域には何ら吸収を持たないことを確認した。
【0121】
図17は、圧縮率Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子の反射スペクトルおよび発光スペクトルを示す図である。
【0122】
図17のスペクトルaは、反射スペクトルであり、スペクトルbは、励起エネルギーが120nJ/パルスにおける発光スペクトルであり、スペクトルcは、励起エネルギーが330nm/パルスにおける発光スペクトルである。
【0123】
図17のスペクトルaによれば、Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子のストップバンドは645nmであった。このストップバンドは、Rhの極大蛍光波長(約610nm)よりも長波長領域であり、かつ、Rhの蛍光スペクトルの範囲内であった(図21のRhの蛍光スペクトル参照)。
【0124】
Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子に光源1210から532nmの励起光(励起エネルギー:120nJ/パルス、フォーカス径:約40μm)を照射した場合、図17の発光スペクトルbが得られた。発光スペクトルbによれば、発振波長は653nmであり、これは、Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子のストップバンド(645nm)よりも長波長領域であり、かつ、レーザ発振素子の反射スペクトルおよびRhの蛍光スペクトルの範囲内であることが確認された。
【0125】
Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子に光源1210から532nmの励起光(励起エネルギー:330nJ/パルス、フォーカス径:約40μm)を照射した場合、図17の発光スペクトルcが得られた。発光スペクトルcによれば、励起エネルギーの増大に伴い、発光スペクトルbに比べて発光強度が増大し、より明瞭な発光ピークを示した。発振波長は653nmであった。ここでも同様に、発振波長は、Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子のストップバンド(645nm)よりも長波長領域であり、かつ、レーザ発振素子の反射スペクトルおよびRhの蛍光スペクトルの範囲内であることが確認された。
【0126】
図17によれば、発光フォトンのDOS増強を介したPBGバンド端効果により、このような単一のレーザ発光ピークが、コロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子から得られることが分かった。
【0127】
図17の挿入図を参照すれば、単一レーザ発振の線幅(Δλ)は0.06nmであった。キャビティの線質係数(Q)は、Q=λ/Δλ(ここで、λはレーザ発振の波長である)で表される。発光スペクトルcからQ値を算出すると、1.09×104であった。このQ値は、既存のコロイド結晶を用いたレーザ発振素子の中でももっとも高い値であることが分かった。
【0128】
図18は、圧縮率Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子の三次元ビームプロファイルを示す図である。
図19は、圧縮率Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子の一次元ビームプロファイルを示す図である。
【0129】
図18および図19に示すビームプロファイルは、いずれも、励起エネルギーが330nJ/パルスの場合のレーザ発振である。図18および図19によれば、実施例1のレーザ発振素子によるレーザ発振(ビーム)は、高い対称性の形状を有することが分かった。図19のビームプロファイルは、理論的なGaussianフィッティングに91.2%の高い値で良好に一致した。このような対称性に優れたレーザ発振は、本発明によるレーザ発振素子においてポリスチレン粒子が良好に配列したコロイド結晶ゲルに起因する。図17で示す狭い線幅の単一モードのレーザ発振、ならびに、図18および図19で示す高いビームクオリティは、次世代光電子デバイスの製造に有利である。
【0130】
図20は、圧縮率Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子の発光強度および線幅の励起エネルギーの依存性を示す図である。
【0131】
圧縮率Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子において、レーザ発振波長653nmの発光強度および線幅の励起エネルギー依存性を調べることにより、レーザフィードバック効果を発生させるための閾値励起ピーク出力を見つけた。
【0132】
励起エネルギーが170nJ/パルスを超えると、発光強度は、顕著に増大するとともに、線幅は、45nmから0.06nmまで減少した。したがって、閾値励起ピーク出力は、4.5MWcm−2と算出された。
【0133】
以上の図17〜図20により、本発明のレーザ発振素子は、それを構成するコロイド結晶ゲルのストップバンドが、少なくとも有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長より長波長領域、かつ、蛍光スペクトルの範囲内で可変であれば、ストップバンドよりも長波長かつストップバンドの範囲内のレーザ発振することが示された。
【0134】
図21は、実施例1のレーザ発振素子の発光スペクトルのチューナビリティを示す図である。
【0135】
発光スペクトルa〜eは、それぞれ、圧縮率Rcomが、0.09、0.12、0.15、0.18および0.21におけるレーザ発振である。点線で示す蛍光スペクトルは、Rhの蛍光スペクトルである。
【0136】
圧縮率が増大するにつれて、すなわち、外力の印加が大きくなるにつれて、発光スペクトルは連続的に短波長側へシフトした。詳細には、発光スペクトルの発光ピークは、655nmから612nmまでシフトした。発光スペクトルの形状はいずれも単一の対称性に優れた形状を維持した。また、圧縮率Rcomが、0.09〜0.21の範囲であれば、実施例1のレーザ発振素子のストップバンドは、Rhの蛍光スペクトルの極大蛍光波長よりも長波長領域であり、かつ、蛍光スペクトルの範囲内であった(例えば、図15参照)。
【0137】
なお、圧縮率Rcomが、0.21を超えると、実施例1のレーザ発振素子は、レーザ発振しなかった。これは、圧縮率Rcomが0.21を超えると、実施例1のレーザ発振素子のストップバンドが、Rhの蛍光スペクトルの極大蛍光波長よりも短波長領域にあるためである(例えば、図15参照)。
【0138】
実施例1のレーザ発振素子によれば、ストップバンドが690nm〜600nmの範囲(圧縮率Rcomが0〜0.21の範囲に相当)において、レーザ発振波長を約50nmの範囲で適宜チューニングできることが分かった。
【0139】
以上の図21により、本発明によるレーザ発振素子は、それを構成するコロイド結晶ゲルのストップバンドが少なくとも有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長よりも長波長領域、かつ、蛍光スペクトルの範囲内で可変であれば、レーザ発振波長のチューナビリティを達成できることが確認された。また、このようなレーザ発振波長のチューナビリティは、図12の光学顕微鏡システムに含まれるレーザ発振装置によって容易に達成されることが分かった。
【0140】
図22は、実施例2のレーザ発振素子の発光スペクトルのチューナビリティを示す図である。
【0141】
図22において、発光スペクトルa〜gは、それぞれ、圧縮率Rcomが、0.09、0.12、0.15、0.18、0.21、0.22および0.25におけるレーザ発振である。蛍光スペクトルAは、RhとSRとを混合した蛍光スペクトルである。蛍光スペクトルBおよびCは、それぞれ、RhおよびSrの蛍光スペクトルである。
【0142】
RhにSRを添加することによって、蛍光スペクトルBおよびCは、蛍光スペクトルAに示すように、エネルギー移動により604nmを中心とするブロードな蛍光スペクトルとなった。
【0143】
圧縮率が増大するにつれて、すなわち、外力の印加が大きくなるにつれて、発光スペクトルは連続的に短波長側へシフトした。詳細には、発光スペクトルの発光ピークは、655nmから588nmまでシフトした。発光スペクトルの形状はいずれも単一の対称性に優れた形状を維持した。また、実施例2のレーザ発振素子のストップバンドは、圧縮率Rcomが、0.09〜0.21の範囲であれば、Rhの蛍光スペクトルBの極大蛍光波長よりも長波長領域であり、かつ、蛍光スペクトルBの範囲内であり、圧縮率Rcomが、0.22〜0.25の範囲であれば、SRの蛍光スペクトルCの極大蛍光波長よりも長波長領域であり、かつ、慶応スペクトルCの範囲内であることが分かった。
【0144】
なお、圧縮率Rcomが、0.25を超えると、実施例2のレーザ発振素子は、レーザ発振しなかった。これは、圧縮率Rcomが0.25を超えると、実施例2のレーザ発振素子のストップバンドが、RhおよびSrいずれの蛍光スペクトルBおよびCの極大蛍光波長よりも短波長領域にあるためである。
【0145】
実施例2のレーザ発振素子によれば、ストップバンドが690nm〜580nmの範囲(圧縮率Rcomが0〜0.25の範囲に相当)において、レーザ発振波長を約70nmの範囲で適宜チューニングできることが分かった。さらに、図21と比較すると、実施例2のレーザ発振素子のチューナビリティは、実施例1のそれよりも広い。すなわち、有機色素を適宜組み合わせることにより、レーザ発振のチューナビリティを拡げることができることが確認できた。
【0146】
図23は、実施例2のレーザ発振素子のレーザ発振の顕微鏡像を示す図である。
【0147】
655nm、610nmおよび588nmの顕微鏡像は、それぞれ、圧縮率Rcomが0.09、0.21および0.25の場合の実施例2のレーザ発振素子のレーザ発振を示す。図23によれば、圧縮率が増大するにつれて、すなわち、外力の印加が大きくなるにつれて、レーザ発光の色は、暗褐色からオレンジ色へと明瞭な変化を示した。なお、応力印加手段1230の外力を取り去ると、レーザ発振波長および発光色は、初期状態に戻った。
【0148】
以上の図22および図23により、本発明によるレーザ発振素子は、それを構成するコロイド結晶ゲルのストップバンドが、少なくとも1種の有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長よりも長波長領域、かつ、蛍光スペクトルの範囲内で可変であれば、レーザ発振波長のチューナビリティを達成できるとともに、有機色素の組み合わせによってチューナビリティの拡大が確認された。また、このようなレーザ発振波長のチューナビリティは、図12の光学顕微鏡システムに含まれるレーザ発振装置によって容易に達成されることが分かった。
【0149】
図24は、比較例1の従来型コロイド結晶ゲルの変化を示す図である。
【0150】
図24(A)および(B)は、それぞれ、比較例1の従来型コロイド結晶ゲルの製造直後、および、大気中24時間放置後の様子を示す。図24(A)に示されるように、製造直後、従来型コロイド結晶ゲルは、赤色の構造色を示した。しかしながら、図24(B)に示されるように、大気中24時間放置後、従来型コロイド結晶ゲルの赤色の構造色は消失し、透明であった。これは、従来型コロイド結晶ゲル中の分散媒である水が蒸発することにより、コロイド結晶構造に歪みが生じたためである。なお、図示しないが、本発明の実施例1および2のレーザ発振素子は、製造直後および大気中24時間放置のいずれも、構造色に変化はなかった。以上より、本発明のレーザ発振素子は、分散媒としてイオン液体を用いているので、分散媒が蒸発することなく、長期間安定であることが確認された。
【0151】
図25は、比較例2の混合溶液の吸収スペクトルを示す図である。
【0152】
比較例2の混合溶液は、図25の吸収スペクトルに示すように500nm以下にDCM固有の吸収バンドを示したが、図25の挿入図に示すように、濃い茶褐色を示した。一方、実施例3の混合溶液は、赤色を示した(図示せず)。このことは、比較例2の混合溶液中において、イオン液体とDCMとの間に何らかの反応が生じたことを示す。
【0153】
図26は、実施例3および比較例2の混合溶液の発光スペクトルを示す図である。
【0154】
図26の発光スペクトルaおよびbは、それぞれ、実施例3の混合溶液の発光スペクトルおよび比較例2の混合溶液の発光スペクトルである。図26より、比較例2の混合溶液は何ら発光を示さなかった。一方、実施例3の混合溶液は、DCMによる発光を示した。
【0155】
図27は、比較例3の混合溶液の吸収スペクトルを示す図である。
【0156】
比較例3の混合溶液は、図27の吸収スペクトルに示すように500nm以下にDCM固有の吸収バンドを示したが、図27の挿入図に示すように、濃い茶褐色を示した。一方、実施例3の混合溶液は、赤色を示した。このことから、比較例3の混合溶液中において、イオン液体とDCMとの間に何らかの反応が生じたことを示す。
【0157】
図28は、実施例3および比較例3の混合溶液の発光スペクトルを示す図である。
【0158】
図28の発光スペクトルaおよびbは、それぞれ、実施例3の混合溶液の発光スペクトルおよび比較例3の混合溶液の発光スペクトルである。図28より、比較例3の混合溶液は何ら発光を示さなかった。一方、実施例3の混合溶液は、DCMによる発光を示した。
【0159】
以上の図25〜図28によれば、本発明のレーザ発振素子を構成するコロイド結晶ゲルに用いられる、末端にアリル基を有するハロゲン系のイオン液体とDCMとは一切反応しないため、安定なレーザ発振を可能にすることが確認された。詳細には、本発明におけるレーザ発振素子において、末端にアリル基を有した1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物、1−アリル−3−エチルイミダゾリウムハロゲン化物、および、1,3−ジアリルブチルイミダゾリウムハロゲン化物からなる群から選択されるハロゲン系が好ましいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明のレーザ発振素子は、イオン液体を用いているので、耐環境性に優れる。また、本発明のレーザ発振素子は、連続的なチューナビリティを有しているので、可変レーザに好適である。また、本発明のレーザ発振素子は、極めて小型であり、微小レーザに好適である。本発明のレーザ発振素子は、単一微小光源、光増幅器、低閾値レーザ発振装置、高輝度ディスプレイ等への応用が期待される。
【符号の説明】
【0161】
100、310、320、330、500、710、720、730、1120、1220 レーザ発振素子
110 粒子
120 網目状高分子
130 イオン液体
140、510 有機色素
150、530 蛍光スペクトル
160 反射スペクトル
200、600 変換光
1100 レーザ発振装置
1110、1210 光源
1130、1230 応力印加手段
1201 ダイクロイックミラー
1202 λ/2板
1203 グランレーザプリズム
1204 撮像レンズ
1205 CMOSカメラ
1206 分光計
1207 100Wハロゲンランプ
1208 顕微鏡用電動式照明器具
1209 対物レンズ
1310 マイクロメータヘッド
1320 バネ
1330 ガラス基板
【先行技術文献】
【特許文献】
【0162】
【特許文献1】国際公開WO2009/148082号パンフレット
【非特許文献】
【0163】
【非特許文献1】Shkunovら,Adv.Funct.Mater.2002、12、1、January
【非特許文献2】Yamadaら,Adv.Mater.2009、21、4134−4138
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子、レーザ発振装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子が液体媒質に分散された微粒子分散液において、微粒子の単分散性(粒径の均一性)が高く、かつ、粒子体積分率が所定の値を上回ると、微粒子分散液中の微粒子(コロイド粒子とも呼ぶ)は、自己組織的に周期配列した状態をとることが知られている。このような状態にある微粒子分散液はコロイド結晶と呼ばれる。コロイド結晶は、電磁波に対するBragg反射能に起因する特異な特性(フォトニックバンドギャップの形成、光群速度の異常分散等)を発現することから、フォトニック結晶の性質を利用した光学素子への応用が期待されている。
【0003】
色素を浸潤させたコロイド結晶を用いたレーザがある(例えば、非特許文献1を参照)。非特許文献1によれば、色素を浸潤させたシリカ粒子からなるオパールフォトニック結晶において、三次元方向を切り替えることによって、フォトニックバンドギャップを可変にできると報告している。詳細には、色素を浸潤させたシリカ粒子からなるオパールフォトニック結晶のストップバンドの方位νhklを適宜選択することにより、1種のオパールフォトニック結晶であっても、種々の色素に対応したレーザ発振が可能である。しかしながら、ストップバンドの方位を選択することなく、発振波長の微妙な調整あるいは線形なチューナビリティは達成されていない。
【0004】
色素を細孔に導入した多孔性シリカを用いたコロイド結晶レーザがある(例えば、非特許文献2を参照)。非特許文献2によれば、色素の蛍光波長とコロイド結晶ゲルのストップバンド波長とを整合させることにより、色素を細孔に導入した多孔性シリカからなるコロイド結晶レーザにおいて、レーザ発振が可能であることを報告している。しかしながら、コロイド結晶ゲルの溶媒として水を用いているため、水の蒸発に伴うストップバンド波長の変化によりレーザ発振の長期的な安定性が得られない。また、色素は、多孔性シリカの細孔に導入されているため、十分な発光強度が得られない場合がある。さらに、発振波長のチューナビリティは達成されていない。
【0005】
最近、イオン液体を含有したコロイド結晶ゲルが開発された(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、イオン液体を溶媒として用いることにより、コロイド結晶ゲルの溶媒が蒸発することはないので、長期的に安定なコロイド結晶ゲルを提供できる。このようなイオン液体を用いたコロイド結晶ゲルのさらなる用途が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、コロイド結晶ゲルを用いたチューナブルなレーザ発振素子、それを用いたレーザ発振装置、および、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子は、前記コロイド結晶ゲルが、イオン液体および有機色素を含有する高分子ゲルと、前記高分子ゲル中に自己組織的に周期配列した粒子であって、前記粒子の配列は、非接触充填状態である、粒子とを含み、前記コロイド結晶ゲルのストップバンドが、少なくとも前記有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長より長波長領域、かつ、前記蛍光スペクトルの範囲内で可変であり、これにより上記課題を達成する。
前記イオン液体は、親水性であり、かつ、末端にアリル基を有してもよい。
前記イオン液体は、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物、1−アリル−3−エチルイミダゾリウムハロゲン化物、および、1,3−ジアリルブチルイミダゾリウムハロゲン化物からなる群から選択されてもよい。
前記有機色素は、ローダミン誘導体、オキサジン誘導体、フルオレセイン誘導体、クマリン誘導体、スチリル誘導体および4−ジシアノメチレン−2−メチル−6(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)からなる群から少なくとも1種選択されてもよい。
本発明によるレーザ発振装置は、光源と、前記光源が発する光を受光し、前記光の波長を変換するレーザ発振素子と、前記レーザ発振素子に応力を印加する応力印加手段とを備え、前記レーザ発振素子は、上述のレーザ発振素子であり、前記応力印加手段は、前記レーザ発振素子に応力を印加し、前記レーザ発振素子における前記コロイド結晶ゲルのストップバンドを線形に変化させ、これにより上記課題を達成する。
本発明によるレーザ発振素子の製造方法は、自己組織的に周期配列した粒子が網目状高分子によって固定化されたコロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素を含浸させるステップを包含し、前記イオン液体および前記有機色素は、前記含浸させるステップによって得られたコロイド結晶ゲルのストップバンドが、少なくとも前記有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長より長波長領域、かつ、前記蛍光スペクトルの範囲内で可変となるように選択されて、これにより上記課題を達成する。
前記含浸させるステップは、水で膨潤した前記コロイド結晶ゲルにイオン液体を含浸させるステップと、前記イオン液体で膨潤したコロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素をさらに含浸させるステップとを包含してもよい。
前記含浸させるステップは、1時間〜14日の間、前記コロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素を含浸させてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によるコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子は、イオン液体および有機色素を含有する高分子ゲルと粒子とを含む。有機色素がコロイド結晶ゲル中に分散しているので、十分な発光強度が得られる。コロイド結晶ゲル中の粒子は、非接触状態にあるので、コロイド結晶ゲルのストップバンドは外力により可変である。また、コロイド結晶ゲルのストップバンドは、少なくとも有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長より長波長領域、かつ、蛍光スペクトルの範囲内で可変であるので、ストップバンドを外力により制御するだけで、有機色素の極大蛍光波長より長波長領域かつ蛍光スペクトルの範囲内において線幅の狭いレーザ発振をチューナブルに達成できる。
【0009】
本発明によるレーザ発振装置は、光源と、上記レーザ発振素子と、応力印加手段とを備え、応力印加手段は、レーザ発振素子に応力を印加し、レーザ発振素子におけるコロイド結晶ゲルのストップバンドを線形に変化させるので、容易にチューナブルなレーザ発振を可能にする。
【0010】
本発明によるレーザ発振素子の製造方法は、自己組織的に周期配列した粒子が網目状高分子によって固定化されたコロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素を含浸させるステップを包含し、イオン液体および有機色素は、含浸させるステップによって得られたコロイド結晶ゲルのストップバンドが、少なくとも有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長より長波長領域、かつ、蛍光スペクトルの範囲内で可変となるように選択される。コロイド結晶ゲルのストップバンドと有機色素の蛍光スペクトルとを適宜選択するだけで、1ステップの操作により本発明のレーザ発振素子を製造できるので、簡便かつ有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明によるレーザ発振素子の模式図
【図2】本発明によるレーザ発振素子のレーザ発振の様子を示す模式図
【図3】本発明によるレーザ発振素子に外力を印加した場合の変化を示す模式図
【図4】本発明によるレーザ発振素子に外力を印加した場合の発振波長のチューナビリティを示す模式図
【図5】本発明による別のレーザ発振素子の模式図
【図6】本発明による別のレーザ発振素子のレーザ発振の様子を示す模式図
【図7】本発明による別のレーザ発振素子に外力を印加した場合の変化を示す模式図
【図8】本発明による別のレーザ発振素子に外力を印加した場合の発振波長のチューナビリティを示す模式図
【図9】本発明によるコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子を製造するフローチャートを示す図
【図10】本発明によるコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子を製造する別のフローチャートを示す図
【図11】本発明によるレーザ発振装置を示す模式図
【図12】光学顕微鏡システムを示す模式図
【図13】応力印加手段を示す模式図
【図14】実施例1によるレーザ発振素子のストップバンドの外力依存性を示す図
【図15】実施例1のレーザ発振素子のストップバンドと圧縮率との関係を示す図
【図16】実施例1で用いたイオン液体ABImBrの吸収スペクトルを示す図
【図17】圧縮率Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子の反射スペクトルおよび発光スペクトルを示す図
【図18】圧縮率Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子の三次元ビームプロファイルを示す図
【図19】圧縮率Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子の一次元ビームプロファイルを示す図
【図20】圧縮率Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子の発光強度および線幅の励起エネルギーの依存性を示す図
【図21】実施例1のレーザ発振素子の発光スペクトルのチューナビリティを示す図
【図22】実施例2のレーザ発振素子の発光スペクトルのチューナビリティを示す図
【図23】実施例2のレーザ発振素子のレーザ発振の顕微鏡像を示す図
【図24】比較例1の従来型コロイド結晶ゲルの変化を示す図
【図25】比較例2の混合溶液の吸収スペクトルを示す図
【図26】実施例3および比較例2の混合溶液の発光スペクトルを示す図
【図27】比較例3の混合溶液の吸収スペクトルを示す図
【図28】実施例3および比較例3の混合溶液の発光スペクトルを示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0013】
(実施の形態1)
実施の形態1は、本発明によるレーザ発振素子に関する。
【0014】
図1は、本発明によるレーザ発振素子の模式図である。
【0015】
本発明によるレーザ発振素子100は、粒子(微粒子とも呼ぶ)110と、網目状高分子120と、イオン液体130と、有機色素140とを含むコロイド結晶ゲルからなる。なお、本明細書において、網目状高分子120は、イオン液体130および有機色素140を含んだ状態にあり、これを総称して「高分子ゲル」という。当然のことながら、粒子110は、高分子ゲル中において、結晶構造を構成する周期配列を自己組織的に成しており、結晶学の原理に基づいて光のBragg反射を示す。さらに、粒子110は、互いに接触することなく非接触充填状態にある。
【0016】
粒子110は、コロイド粒子とも呼ばれ、例えば、シリカ粒子、ポリスチレン粒子、高分子ラテックス粒子、二酸化チタン等の酸化物粒子、金属粒子、異なる材料を組み合わせた複合粒子であるが、これらに限定されない。なお、複合粒子とは、2種類以上の異なる材料(材質)を組み合わせて構成されており、例えば、一方の材料が他方の材料でカプセル化されて、1つの粒子を形成しているもの、一方の材料が他方の材料に貫入して1つの粒子を形成しているもの、半球状の異なる材料が結合して1つの粒子を形成しているもの等を意味する。
【0017】
コロイド結晶ゲルの粒子110が非接触充填状態であるか否かは、粒子体積分率から判別できる。同一粒径の剛体球状粒子が接触して最密充填構造をとる場合は、理論的に粒子体積分率は74%であることが知られている。実際の判定基準としては、理論的な最密充填状態より、粒子間距離が10%程度大きなところまでは、「実質的に接触している」とするのが現実的である。この場合の粒子体積分率は約55%である。そこで、本明細書において、粒子体積分率が55%未満である場合を非接触充填状態と判定する。イオン液体を含浸させたコロイド結晶ゲルの粒子体積分率は、イオン液体含浸前の出発状態のコロイド結晶ゲルからの体積変化から容易に決定できる。出発状態のコロイド結晶ゲルの粒子体積分率は、作製条件から決めておくことができる。
【0018】
図1では、粒子110は、外力が印加されていない状態において、格子面間隔dAを有し、粒子体積分率が最小値であり、ストップバンドが波長λAであるとする。粒子体積分率を適宜調整することによって、コロイド結晶ゲルのストップバンドを制御できる。例えば、粒子体積分率が小さいほど、ストップバンドは長波長となり、粒子体積分率が大きいほどストップバンドは短波長となる。
【0019】
本発明によるレーザ発振素子100において、以降で詳述するように、コロイド結晶ゲルのストップバンドは、後述する有機色素140の蛍光スペクトル150の極大蛍光波長λmaxより長波長領域、かつ、蛍光スペクトル150の範囲内で可変である。
【0020】
網目状高分子120は、重合性の水溶性分子(モノマーまたはマクロマー)が重合によって形成した高分子が架橋によって三次元的ネットワーク構造を構成した網目状の高分子である。網目状高分子120は、上述の粒子110の位置を固定し、維持するように機能する。このような水溶性分子は、例えば、アクリルアミド、各種アクリルアミド誘導体(N−メチロールメタアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−アクリロイソアミノエトキシエタノール、N−アクリロイソアミノプロパノール、N−イソプロピルアクリルアミドなど)、または、アクリル酸誘導体、エチレングリコール誘導体が使用可能であるが、これらに限定されない。なお、本明細書において、特に断りを入れない限り、「網目状高分子」とは、重合性の水溶性分子の重合体によって形成された網目状高分子を意図するものとすることに留意されたい。
【0021】
イオン液体130は、分散媒(単に溶媒とも呼ぶ)として機能する。イオン液体130は、実質的に蒸気圧が0であるため、蒸発しない。そのため、本発明のレーザ発振素子100を保管する場合、または、光学素子として実装する場合に、分散媒の蒸発を防ぐために、レーザ発振素子100を密閉容器等の密閉構造に封止する必要はない。
【0022】
イオン液体130は、好ましくは、親水性であり、かつ、末端にアリル基を有する。これにより、後述する有機色素140と良好に混和するので、安定したレーザ発振を可能にする。イオン液体130は、より好ましくは、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物、1−アリル−3−エチルイミダゾリウムハロゲン化物、および、1,3−ジアリルブチルイミダゾリウムハロゲン化物からなる群から選択される。これにより、後述する有機色素140と確実に混和するので、安定なレーザ発振および高発振強度を可能にする。また、イオン液体130と有機色素140とが反応することはないので、長期的に安定なレーザ発振素子を提供できる。なお、図1では簡単のため有機色素140は、1種の有機色素からなるものとする。
【0023】
例えば、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物は、水に対する親和性に優れているので、実施の形態3で説明する本発明のレーザ発振素子の製造において有利である。また、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物は、280nm以上の波長域において固有のモル吸収係数を有さないので、光学的に極めて透明である。さらに、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物は、後述する有機色素140、中でも、ローダミン誘導体を容易に溶解し得る。また、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物は、環境にやさしい材料として知られており、危険有害性物質識別システム(HMIS)において低リスク化学物質である。
【0024】
有機色素140は、ローダミン誘導体、オキサジン誘導体、フルオレセイン誘導体、クマリン誘導体、スチリル誘導体および−ジシアノメチレン−2−メチル−6(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)からなる群から少なくとも1種選択される。これらは、上述のイオン液体130と混和し得る。
【0025】
例えば、ローダミン誘導体としてローダミン6Gは、550nm〜620nmの発光波長を有し、緑色、黄色から橙色を発する。オキサジン誘導体としてフェノキサジンは、560〜700nmの発光波長を有し、緑色、黄色、橙色から赤色を発する。別のオキサジン誘導体としてオキサジン1は、692nm〜768nmの発光波長を有し、赤色を発する。フルオレセイン誘導体としてジソディウムフルオレセインは、530nm〜590nmの発光波長を有し、黄緑色、緑色から黄色を発する。別のフルオレセイン誘導体としてフルオレセイン27は、540nm〜589nmの発光波長を有し、黄緑色、緑色から黄色を発する。クマリン誘導体としてクマリン4は、460nm〜560nmの発光波長を有し、青色から緑色を発する。別のクマリン誘導体としてクマリン153は、522nm〜600nmの発光波長を有し、青緑色、緑色から黄色を発する。スチリル誘導体としてスチルベン1は、405nm〜446nmの発光波長を有し、青色を発する。DCMは、590nm〜710nmの発光波長を有し、赤色を発する。
【0026】
上述したように、有機色素140の蛍光スペクトル150の極大蛍光波長は、コロイド結晶ゲルのストップバンドよりも短波長領域、かつ、コロイド結晶のストップバンドが蛍光スペクトルの範囲内で可変となるように、有機色素140は選択される。より詳細には、図1に示すように、有機色素140の蛍光スペクトル150(図1)の極大蛍光波長はλmaxであり、コロイド結晶ゲルの反射スペクトル160(図1)のストップバンドはλAである場合、λA>λmaxであり、かつ、蛍光スペクトル150の範囲内にλAが位置する。
【0027】
例えば、コロイド結晶ゲルのストップバンドλAが700nmである場合、有機色素140としてフェノキサジン、オキサジン1等が使用可能であるが、スチルベン1は使用不可である。コロイド結晶ゲルのストップバンドλAが500nmである場合、有機色素140としてクマリン4、スチルベン1等が使用可能であるが、フェノキサジン、オキサジン1は使用不可である。
【0028】
次に、図1の本発明によるレーザ発振素子100のレーザ発振の動作原理を説明する。
【0029】
図2は、本発明によるレーザ発振素子のレーザ発振の様子を示す模式図である。
【0030】
図2に示すレーザ発振素子は、図1のレーザ発振素子100と同一であり、外力が印加されていない状態である。レーザ発振素子100の膜厚方向に励起光(波長λex)が入射すると、レーザ発振素子100は、励起光(波長λex)を変換光200(波長λemA)に変換し、出力する。
【0031】
より詳細には、レーザ発振素子100の有機色素140は、励起光を吸収し、蛍光スペクトル150に示す極大蛍光波長λmaxを有する蛍光を発し得る。なお、波長λexは、有機色素140の蛍光スペクトル150の波長よりも十分に短い波長であり得る。しかしながら、レーザ発振素子100は、実際には、蛍光スペクトル150を発することなく、レーザ発振素子100の反射スペクトル160のストップバンドλAよりも長波長であり、反射スペクトル160および有機色素140の蛍光スペクトル150の範囲内にある波長λemAを有する変換光200を発することができる。これは、反射バンド端近傍における発光フォトンにおける状態密度(DOS)の共鳴増強に起因する。すなわち、レーザ発振素子100の反射バンド(反射スペクトル160)がフォトニックバンドギャップ(PBG)として良好に機能していることを意味する。また、変換光200のレーザ線幅は極めて狭く、0.01nm〜5nmの範囲である。
【0032】
次に、図1の本発明によるレーザ発振素子100に外力を印加した場合のストップバンドの変化を説明する。
【0033】
図3は、本発明によるレーザ発振素子に外力を印加した場合の変化を示す模式図である。
【0034】
図3(A)に示すレーザ発振素子100は、図1のレーザ発振素子100と同一であり、外力が印加されていない状態である。レーザ発振素子100に外力(圧縮応力)を膜厚方向に印加すると、図3(B)に示すように、レーザ発振素子100はレーザ発振素子310と変化する。このとき、格子面間隔はdAからdB(dB<dA)へと変化するとともに、ストップバンドもまた、波長λAから波長λB(λB<λA)へと変化する。さらに、レーザ発振素子310に外力を膜厚方向に印加すると、図3(C)に示すように、レーザ発振素子310はレーザ発振素子320と変化する。このとき、格子面間隔はdBからdC(dC<dB)へと変化するとともに、ストップバンドもまた、波長λBから波長λC(λC<λB)へと変化する。レーザ発振素子320にさらに外力を膜厚方向に印加すると、図3(D)に示すように、レーザ発振素子320はレーザ発振素子330と変化する。このとき、格子面間隔はdCからdD(dD<dC)へと変化するとともに、ストップバンドもまた、波長λCから波長λD(λD<λC)へと変化する。ここで、レーザ発振素子330を構成するコロイド結晶ゲルは、接触充填状態にあり、これ以上外力を印加しても、格子面間隔が短くなることはなく、ストップバンドも短波長側にシフトしない。
【0035】
図3を参照して説明したように、本発明のレーザ発振素子100を構成するコロイド結晶ゲルは、非接触充填状態にあるので、外力を印加するにつれて、ストップバンドは短波長側へとブルーシフトする。外力の印加に伴う、ブルーシフトは、コロイド結晶ゲルが接触充填状態になるまで続き、それ以降はシフトしない。図3では、特定の非接触充填状態(図3(A)〜(C)等)を示したが、外力の印加の程度によっては、図3(A)〜(B)、図3(B)〜(C)または図3(C)〜(D)の間の任意の接触充填状態のコロイド結晶ゲルを達成できることに留意されたい。
【0036】
次に、本発明のレーザ発振素子100の発振波長のチューナビリティについて説明する。
【0037】
図4は、本発明によるレーザ発振素子に外力を印加した場合の発振波長のチューナビリティを示す模式図である。
【0038】
図4において、レーザ発振素子100、310、320および330、ならびに、それらのストップバンドは、いずれも、図3で説明したレーザ発振素子ならびにストップバンドと同様であるため、説明を省略する。また、図4の蛍光スペクトル150は、図1および図2の蛍光スペクトル150と同様である。
【0039】
図2を参照して説明したように、図4のレーザ発振素子100に膜厚方向に励起光(波長λex)が入射すると、レーザ発振素子100の有機色素140は、励起光を吸収し、蛍光スペクトル150に示す極大蛍光波長λmaxを有する蛍光を発し得るが、実際には、レーザ発振素子100は、蛍光スペクトル150を発することなく、レーザ発振素子100のストップバンドλAよりも長波長であり、かつ、レーザ発振素子100の反射スペクトルおよび有機色素140の蛍光スペクトル150の範囲内にある波長λemAを有する変換光を発することができる。
【0040】
図4のレーザ発振素子310に同様に励起光(波長λex)が入射すると、レーザ発振素子310の有機色素140は、励起光を吸収し、蛍光スペクトル150に示す極大蛍光波長λmaxを有する蛍光を発し得るが、実際には、レーザ発振素子310は、蛍光スペクトル150を発することなく、レーザ発振素子310のストップバンドλBよりも長波長であり、レーザ発振素子100のストップバンドλAよりも短波長であり、かつ、レーザ発振素子310の反射スペクトルおよび有機色素140の蛍光スペクトル150の範囲内にある波長λemBを有する変換光(λmax<λemB<λemA)を発することができる。
【0041】
図4のレーザ発振素子320に同様に励起光(波長λex)が入射すると、レーザ発振素子320の有機色素140は、励起光を吸収し、蛍光スペクトル150に示す極大蛍光波長λmaxを有する蛍光を発し得るが、実際には、レーザ発振素子320は、蛍光スペクトル150を発することなく、レーザ発振素子320のストップバンドλCよりも長波長であり、レーザ発振素子310のストップバンドλBよりも短波長であり、かつ、レーザ発振素子320の反射スペクトルおよび有機色素140の蛍光スペクトル150の範囲内にある波長λemCを有する変換光(λmax<λemC<λemB)を発することができる。
【0042】
図4のレーザ発振素子330に同様に励起光(波長λex)が入射すると、レーザ発振素子330の有機色素140は、励起光を吸収し、蛍光スペクトル150に示す極大蛍光波長λmaxを有する蛍光を発し得るが、実際には、レーザ発振素子330は、何らレーザ発振しない。これは、図4では、レーザ発振素子330のストップバンドλDが、蛍光スペクトル150の極大蛍光波長λmaxよりも短波長領域にあるためである。なお、図4においてレーザ発振素子330のストップバンドが蛍光スペクトル150の極大蛍光波長λmaxよりも長波長領域にあり、かつ、蛍光スペクトル150内にあれば、レーザ発振素子100、310および320と同様にレーザ発振し得ることを理解されたい。
【0043】
図3および図4を参照して説明したように、ストップバンドおよび有機色素を適宜選択すれば、コロイド結晶ゲルのストップバンドを制御することによって、コロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子の発振波長のチューナビリティが達成される。
【0044】
(実施の形態2)
実施の形態2は、本発明による別のレーザ発振素子に関する。実施の形態1では、有機色素140が一種の例を示したが、実施の形態2では、有機色素140が二種以上の例を示す。
【0045】
図5は、本発明による別のレーザ発振素子の模式図である。
【0046】
本発明によるレーザ発振素子500は、粒子(微粒子とも呼ぶ)110と、網目状高分子120と、イオン液体130と、有機色素510とを含むコロイド結晶ゲルからなる。粒子110、網目状高分子120およびイオン液体130は、図1を参照して上述したとおりであるため、説明を省略する。また、レーザ発振素子500の粒子110は、非接触充填状態にあり、外力が印加されていない状態である。
【0047】
有機色素510は、実施の形態1の有機色素140と同様に、ローダミン誘導体、オキサジン誘導体、フルオレセイン誘導体、クマリン誘導体、および、スチリル誘導体からなる群から少なくとも1種選択されるが、実施の形態2では、2種が混合されているものとする。実施の形態1の有機色素140と同様に、有機色素510もまた、イオン液体130と混和し得る。
【0048】
なお、有機色素510の組み合わせは、各有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長の異なるものが好ましい。これにより、レーザ発振素子500の発振波長のチューナビリティを拡げることができる。例えば、有機色素510は、蛍光スペクトル150を有する有機色素(実施の形態1の有機色素140と同様とする)と、蛍光スペクトル530を有する有機色素との組み合わせであるとする。蛍光スペクトル150は、極大蛍光波長λmaxを有し、蛍光スペクトル530は、極大蛍光波長λmax’を有する(λmax’<λmaxを満たす)。なお、実際の有機色素510の蛍光スペクトルは、蛍光スペクトル150と蛍光スペクトル530とを組み合わせた1つの蛍光スペクトル(図示せず)となり、その形状は有機色素の混合割合によって変化し得ることに留意されたい。
【0049】
実施の形態1と同様に、本発明によるレーザ発振素子500において、コロイド結晶ゲルのストップバンド160は、有機色素510の蛍光スペクトル150および530の極大蛍光波長λmaxおよびλmax’より長波長領域、かつ、蛍光スペクトル150および530の少なくともいずれか一方の範囲内で可変であればよい。
【0050】
次に、本発明によるレーザ発振素子500のレーザ発振の動作原理を説明する。
【0051】
図6は、本発明による別のレーザ発振素子のレーザ発振の様子を示す模式図である。
【0052】
レーザ発振素子500の膜厚方向に励起光(波長λex’)が入射すると、レーザ発振素子500は、励起光(波長λex’)を変換光600(波長λemA’)に変換し、出力する。
【0053】
より詳細には、レーザ発振素子500の有機色素510は、励起光を吸収し、蛍光スペクトル150および530に示す極大蛍光波長λmaxおよびλmax’を有する蛍光を発し得る。なお、波長λex’は、有機色素510の蛍光スペクトル150および530の波長よりも十分に短い波長であり得る。しかしながら、実際には、レーザ発振素子500は、蛍光スペクトル150および530を発することなく、レーザ発振素子500の反射スペクトル160のストップバンドλAよりも長波長であり、かつ、反射スペクトル160ならびに有機色素510の少なくとも蛍光スペクトル150の範囲内にある波長λemA’を有する変換光600を発することができる。また、変換光600のレーザ線幅は極めて狭く、0.01nm〜5nmの範囲である。ここで、ストップバンドλAおよび変換光600の波長λemA’は、図2を参照して説明したストップバンドλAおよび変換光200の波長λemAと同様の場合もあるし、有機色素510の組み合わせによっては異なる場合もある。
【0054】
次に、本発明の別のレーザ発振素子500に外力を印加した場合のストップバンドの変化を説明する。
【0055】
図7は、本発明による別のレーザ発振素子に外力を印加した場合の変化を示す模式図である。
【0056】
図7(A)に示すレーザ発振素子500は、図5のレーザ発振素子500と同一であり、外力が印加されていない状態である。レーザ発振素子500に外力(圧縮応力)を膜厚方向に印加すると、図7(B)に示すように、レーザ発振素子500はレーザ発振素子710と変化する。このとき、格子面間隔はdAからdB(dB<dA)へと変化するとともに、ストップバンドもまた、波長λAから波長λB(λB<λA)へと変化する。さらに、レーザ発振素子710に外力を膜厚方向に印加すると、図7(C)に示すように、レーザ発振素子710はレーザ発振素子720と変化する。このとき、格子面間隔はdBからdC(dC<dB)へと変化するとともに、ストップバンドもまた、波長λBから波長λC(λC<λB)へと変化する。レーザ発振素子720にさらに外力を膜厚方向に印加すると、図7(D)に示すように、レーザ発振素子720はレーザ発振素子730と変化する。このとき、格子面間隔はdCからdD(dD<dC)へと変化するとともに、ストップバンドもまた、波長λCから波長λD(λD<λC)へと変化する。ここで、レーザ発振素子730を構成するコロイド結晶ゲルは、接触充填状態にあり、これ以上外力を印加しても、格子面間隔が短くなることはなく、ストップバンドも短波長側にシフトしない。
【0057】
なお、ここでは、簡単のため、レーザ発振素子500に外力を印加した場合の格子面間隔およびストップバンドの変化は、図3を参照して説明したレーザ発振素子100のそれらと同様であるものとするが、これに限らない。
【0058】
次に、本発明のレーザ発振素子500の発振波長のチューナビリティについて説明する。
【0059】
図8は、本発明による別のレーザ発振素子に外力を印加した場合の発振波長のチューナビリティを示す模式図である。
【0060】
図8において、レーザ発振素子500、710、720および730、ならびに、それらのストップバンドは、いずれも、図7で説明したレーザ発振素子ならびにストップバンドと同様であるため、説明を省略する。また、図8の蛍光スペクトル150および530は、図5および図6の蛍光スペクトル150および530と同様である。
【0061】
図6を参照して説明したように、図5のレーザ発振素子500に膜厚方向に励起光(波長λex’)が入射すると、レーザ発振素子500の有機色素510は、励起光を吸収し、蛍光スペクトル150および530に示す極大蛍光波長λmaxおよびλmax’を有する蛍光を発し得るが、実際には、レーザ発振素子500は、蛍光スペクトル150および530を発することなく、レーザ発振素子500のストップバンドλAよりも長波長であり、かつ、レーザ発振素子500の反射スペクトルならびに有機色素530の少なくとも蛍光スペクトル150の範囲内にある波長λemA’を有する変換光600を発することができる。
【0062】
図8のレーザ発振素子710に同様に励起光(波長λex’)が入射すると、レーザ発振素子710の有機色素510は、励起光を吸収し、蛍光スペクトル150および530に示す極大蛍光波長λmaxおよびλmax’を有する蛍光を発し得るが、実際には、レーザ発振素子710は、蛍光スペクトル150および530を発することなく、レーザ発振素子710のストップバンドλBよりも長波長であり、レーザ発振素子500のストップバンドλAよりも短波長であり、かつ、レーザ発振素子710の反射スペクトルならびに有機色素510の蛍光スペクトル150および/または530の範囲内にある波長λemB’を有する変換光(λmax’<λmax<λemB’<λemA’)を発することができる。
【0063】
図8のレーザ発振素子720に同様に励起光(波長λex’)が入射すると、レーザ発振素子720の有機色素510は、励起光を吸収し、蛍光スペクトル150および530に示す極大蛍光波長λmaxおよびλmax’を有する蛍光を発し得るが、実際には、レーザ発振素子720は、蛍光スペクトル150および530を発することなく、レーザ発振素子720のストップバンドλCよりも長波長であり、レーザ発振素子710のストップバンドλBよりも短波長であり、かつ、レーザ発振素子720の反射スペクトルならびに有機色素510の蛍光スペクトル150および/または530の範囲内にある波長λemC’を有する変換光(λmax’<λmax<λemC’<λemB’)を発することができる。
【0064】
図8のレーザ発振素子730に同様に励起光(波長λex’)が入射すると、レーザ発振素子730の有機色素510は、励起光を吸収し、蛍光スペクトル150および530に示す極大蛍光波長λmaxおよびλmax’を有する蛍光を発し得るが、実際には、レーザ発振素子730は、蛍光スペクトル150および530を発することなく、レーザ発振素子730のストップバンドλDよりも長波長であり、レーザ発振素子720のストップバンドλCよりも短波長であり、かつ、レーザ発振素子730の反射スペクトルならびに有機色素510の蛍光スペクトル150および/または530の範囲内にある波長λemD’を有する変換光(λmax’<λemD’<λmax<λemC’)を発することができる。
【0065】
ここで注目すべきは、単一の有機色素140のみを用いた実施の形態1において、粒子110が接触状態まで外力を印加するとレーザ発振できなかった(図4のレーザ発振素子330)が、2種の有機色素510を用いることによって、粒子110が接触状態まで外力を印加した場合であっても、レーザ発振が可能になることである。すなわち、有機色素の組み合わせによって、レーザ発振のチューナビリティを拡げることができる。レーザ発振のチューナビリティの幅の、短波長側は、少なくとも1つの有機色素の極大蛍光波長に依存し、長波長側は、少なくとも1つの有機色素の蛍光スペクトルの範囲に依存している。
【0066】
図7および図8を参照して説明したように、ストップバンドおよび有機色素の組み合わせを適宜選択すれば、コロイド結晶ゲルのストップバンドを制御することによって、コロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子の発振波長のチューナビリティが達成されるとともに、チューナビリティを拡げることができる。また、実施の形態2では、簡単のため、有機色素510を2種の組み合わせに限定して説明したが、3種以上であっても同様であることは、当業者であれば容易に理解し得る。
【0067】
(実施の形態3)
実施の形態3は、実施の形態1および2で説明したレーザ発振素子の製造方法に関する。
【0068】
図9は、本発明によるコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子を製造するフローチャートを示す図である。
【0069】
ステップS910:粒子が網目状高分子によって固定化されたコロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素を含浸させる。ここで、粒子、網目状高分子、イオン液体および有機色素は、実施の形態1および2で説明したとおりである。ここで、イオン液体および有機色素を含浸させるべきコロイド結晶ゲルは、乾燥していてもよいし、分散媒を含有していてもよい。なお、分散媒を含有する場合には、イオン液体を除く、水、有機溶媒等既存の任意の分散媒である。コロイド結晶ゲルは、例えば、特開2006−124521号公報、Sawadaら,Jpn.J.Appl.Phys.2001,40,L1226、および、Kanaiら,Adv.Funct.Mater.2005,15,25等を参照して作製してもよい。本発明によるイオン液体および有機色素が含浸されたコロイド結晶ゲルと、イオン液体および有機色素が含浸されるべきコロイド結晶ゲルとを便宜上区別するため、以降では、イオン液体および有機色素が含浸されるべきコロイド結晶ゲルを“従来型コロイド結晶ゲル”と称する。
【0070】
ステップS910において、「含浸」とは、従来型コロイド結晶ゲルとイオン液体および有機色素とを接触させる任意の手段を意図し、例示的には、従来型コロイド結晶ゲルをイオン液体および有機色素に浸漬させること、従来型コロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素を滴下すること等である。好ましくは、含浸条件は、大気圧中室温にて1時間〜14日間である。このように、本発明の方法によれば、単に、従来型コロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素を含浸させるだけで、従来型コロイド結晶ゲルにおける分散媒と、イオン液体および有機色素とが自発的に置換する、あるいは、分散媒を含有しない従来型コロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素が自発的に浸透する。その結果、実施の形態1および2を参照して説明したコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子100および500が得られる。
【0071】
イオン液体および有機色素は、ステップS910によって得られたコロイド結晶ゲルのストップバンドが、少なくとも有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長より長波長領域、かつ、蛍光スペクトルの範囲内で可変となるように選択されることに留意されたい。コロイド結晶ゲルのストップバンドと有機色素の蛍光スペクトルとを適宜選択するだけで、1ステップの操作により本発明のレーザ発振素子を製造できるので、簡便かつ有利である。
【0072】
なお、製造効率の観点から、ステップS910において、加熱しながら含浸させてもよい。これにより、従来型コロイド結晶ゲルが分散媒を含有する場合には、分散媒の揮発を促進させるので、分散媒とイオン液体および有機色素との置換が加速し得る。加熱温度は、従来型コロイド結晶ゲルの分散媒の種類に応じて異なるが、例えば、分散媒として水を用いる場合には、40℃〜100℃の温度範囲が好ましい。この範囲であれば、粒子の配列を乱すことなく、分散媒のみが揮発し得る。
【0073】
また、製造効率の観点から、ステップS910において、減圧雰囲気下または除湿雰囲気下において含浸させてもよい。これにより、従来型コロイド結晶ゲルが分散媒を含有する場合には、分散媒の揮発を促進させるので、分散媒とイオン液体および有機色素との置換が加速し得る。圧力または湿度は、従来型コロイド結晶ゲルの分散媒の種類に応じて異なるが、例えば、分散媒として水を用いる場合には、4kPa以下の減圧雰囲気または40%以下の湿度範囲が好ましい。この範囲であれば、常圧で通常湿度の環境下に比べて、分散媒の揮発の加速について有効な効果が期待される。当然のことながら、ステップS910において、減圧雰囲気下または除湿雰囲気下にて従来型コロイド結晶ゲルを加熱してもよい。
【0074】
図10は、本発明によるコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子を製造する別のフローチャートを示す図である。
【0075】
図9のステップS910は、好ましくは、2つのステップS1010およびS1020からなる。
【0076】
ステップS1010:分散媒が水である従来型コロイド結晶ゲルにイオン液体を含浸させる。ここでも、好ましくは、含浸条件は、大気圧中室温にて1時間〜14日間である。また、上述したように、加熱および/または減圧・除湿雰囲気下で含浸させてもよい。
【0077】
ステップS1020:ステップS1010についで、イオン液体が含浸されたコロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素をさらに含浸させる。ここでも、好ましくは、含浸条件は、大気圧中室温にて1時間〜14日間である。
【0078】
このように、イオン液体および有機色素の従来型コロイド結晶ゲルへの含浸を2段階に分けることによって、有機色素が析出するのを防ぐことができるので、好ましい。有機色素は水に溶解しにくい性質を有し得る。したがって、ステップS1010において従来型コロイド結晶ゲル中の分散媒の水とイオン液体とを予め置換することにより、ステップS1020において、有機色素が析出することなくコロイド結晶ゲル中に浸透するので、イオン液体と有機色素とを含有するコロイド結晶ゲルを確実に得ることができる。
【0079】
(実施の形態4)
実施の形態4は、実施の形態1および2で説明したレーザ発振素子を用いたレーザ発振装置に関する。
【0080】
図11は、本発明によるレーザ発振装置を示す模式図である。
【0081】
レーザ発振装置1100は、光源1110と、光源1110が発する光を受光し、光の波長を変換するレーザ発振素子1120と、レーザ発振素子1120に応力を印加する応力印加手段1130とを含む。
【0082】
光源1110は、半導体材料あるいは結晶を用いた固体レーザ、CO2、ArFエキシマを用いたガスレーザ等任意のレーザ光源であり得、レーザ発振素子1120に採用された有機色素を励起し得る波長の光を発する。
【0083】
レーザ発振素子1120は、実施の形態1および2で説明したレーザ発振素子100、500であり得る。
【0084】
応力印加手段1130は、レーザ発振素子1120の粒子110(図1、図5等)の格子面間隔を制御し、ストップバンドを変化させるよう、レーザ発振素子1120の膜厚方向に応力を印加する。図示しないが、レーザ発振装置1100は、応力印加手段1130を制御するコンピュータ等の制御部を有してもよい。制御部が、レーザ発振素子1120の外力とストップバンドとの関係を予め有していれば、レーザ発振素子1120が所望のストップバンドを有するように、あるいは、レーザ発振素子1120のストップバンドを線形に変化するように、制御が容易になるので、チューナブルなレーザ発振を可能にする。
【0085】
次に、レーザ発振装置1100の動作を説明する。ここでは簡単のため、レーザ発振素子1120は、実施の形態1で説明したレーザ発振素子100と同様であるものとする。
【0086】
光源1110は、波長λexを有する励起光を発する。励起光の波長λexは、レーザ発振素子1120の有機色素を励起させるに十分な波長である。励起光は、レーザ発振素子1120に入射され、レーザ発振素子1120は励起光を受光する。
【0087】
レーザ発振素子1120の有機色素は、励起光により励起される。ここで、応力印加手段1130がレーザ発振素子1120に何ら応力を印加せず、レーザ発振素子1120のストップバンドがλAである場合、波長λexを波長λemAに変換し、出力する(図2あるいは図4)。
【0088】
一方、応力印加手段1130がレーザ発振素子1120に応力を印加し、レーザ発振素子1120のストップバンドがλCである場合、波長λexを波長λemCに変換し、出力する(図4)。このようにして、応力印加手段1130によりレーザ発振装置1100は、チューナブルなレーザ発振を可能にする。
【0089】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例1】
【0090】
実施例1では、イオン液体として1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物を、有機色素としてローダミン誘導体を用いたコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子を製造した。
【0091】
まず、分散媒として水を含有する従来型コロイド結晶ゲルを特開2006−124521号公報、Sawadaら,Jpn.J.Appl.Phys.2001,40,L1226、Kanaiら,Adv.Funct.Mater.2005,15,25を参照して製造した。
【0092】
詳細な手順は次のとおりである。単分散のポリスチレン粒子(直径120nm)の水溶性懸濁液をイオン交換樹脂で処理し、脱イオン化により懸濁液中にポリスチレンの多結晶構造を得た。次いで、N−メチロールアクリルアミド(0.70M)およびN,N’−メチレンビスアクリルアミド(40mM)の水溶性ゲル前駆体を2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](0.35mM)の光重合開始剤とともに、懸濁液に添加した。続いて、懸濁液をすばやく平板状キャピラリセル(厚さ約100μm)に流しいれ、大面積(100cm2)の単結晶ドメインからなるコロイド結晶を形成した。光重合により、コロイド結晶中の水溶性ゲル前駆体が架橋したネットワーク構造した網目状高分子でコロイド結晶を固定化し、従来型コロイド結晶ゲル(自己組織的に周期配列したポリスチレン粒子が網目状高分子によって固定化されたコロイド結晶ゲル)を得た。
【0093】
次に、従来型コロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素を含浸させた(図9のステップS910)。イオン液体は、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物のうち1−アリル−3−ブチルイミダゾリウム臭化物(以降では簡単のためABImBrと称する)であった。有機色素は、ローダミン誘導体のうちローダミン640(以降では簡単のためRhと称する)であった。
【0094】
具体的には、従来型コロイド結晶ゲルにABImBrを含浸させた(図10のステップS1010)。これにより、従来型コロイド結晶ゲル中の分散媒である水がABImBrに置換された。含浸は、直径3mmの円形シート状にカットした従来型コロイド結晶ゲルを、大気中室温において1週間、AbImBrに浸漬することによって行った。
【0095】
次いで、ABImBrで置換され、膨潤したコロイド結晶ゲルに、ABImBrとRhとの混合溶液(0.25wt%Rh)を含浸させた(図10のステップS1020)。コロイド結晶ゲル中のABImBrは、ABImBrとRhとの混合溶液と置換した。含浸は、コロイド結晶ゲルを、大気中室温において1週間、AbImBrおよびRhの混合溶液に浸漬することによって行った。その後、ABImBrおよびRhが含浸されたコロイド結晶ゲルを数十分間真空中に曝し、残留する分散媒(水)を除去した。このようにしてイオン液体(ABImBr)および有機色素(Rh)を含有するコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子を得た。
【0096】
実施例1のレーザ発振素子について、光学顕微鏡システムを用いて光学測定を行った。
【0097】
図12は、光学顕微鏡システムを示す模式図である。
【0098】
光学顕微鏡システムは、Q−スイッチNd:YAGレーザ光源(PolarisII20ST、New Wave Research)1210と、レーザ発振素子1220と、応力印加手段1230とを含むレーザ発振装置を備える。詳細には、光学顕微鏡システムは、レーザ発振装置に加えて、ダイクロイックミラー(Di1−R532−25×36、Semrock)1201、λ/2板1202、グランレーザプリズム1203、撮像レンズ(U−TLU、Olympus)1204、CMOSカメラ(Moticam2000、Shimadzu)1205、分光計1206、100Wハロゲンランプ1207、顕微鏡用電動式照明器具(BX−RLA2、Olympus)1208および対物レンズ(SLMPLanN×20、Olympus)1209を備える。
【0099】
図13は、応力印加手段を示す模式図である。
【0100】
図12の応力印加手段1230は、詳細には、精密制御可能なマイクロメータヘッド1310と、バネ1320と、ガラス基板1330とを含む。応力印加手段1230は、ガラス基板1330間にレーザ発振素子1220を保持する。図面では、2つのマイクロメータヘッド1310が示されるが、実際には、3つのマイクロメータヘッドを用いて、レーザ発振素子1220のコロイド結晶ゲルの膜厚方向に均一に外力を印加した。
【0101】
レーザ発振素子のコロイド結晶ゲルの反射スペクトルを、ハロゲンランプ1207を備えた顕微鏡用電動式照明器具1208を介して測定した。レーザ発振素子の発光スペクトルを、光源1210からのSHG光(波長532nm)を用いて測定した。光源1210のパルス幅は約3nsであり、繰り返し周波数は10Hzであった。光源1210からのSHG光は励起光としてレーザ発振素子1220の膜厚方向にそって伝播し、対物レンズ1209を介してフォーカスされる。その結果、レーザ発振素子1220の表面に直径約40μmの円形スポットを得た。レーザ発振素子1220からの共線伝達された発光スペクトルを、電荷結合素子(CCD)検出器(SR−303iおよびiDus DU420A、Andor Technology)を備えた分光計1206により測定した。レーザ発振のビーム品質を、CCDビームプロファイラ(BeamStar FX−33、Ophir)により解析した。反射および発光色の顕微鏡像を、相補型金属酸化物半導体カメラにより記録した。
【0102】
応力印加手段1230により実施例1のレーザ発振素子に外力をした場合の反射顕微鏡像、反射スペクトルおよびストップバンドの外力依存性を調べた。結果を図14および図15に示す。ABImBrの吸収スペクトルを測定した。結果を図16に示す。応力印加手段1230により実施例1のレーザ発振素子に外力を印加した場合の発光スペクトルおよびその際のビームプロファイルを測定した。これらの結果を図17〜図19に示す。応力印加手段1230により実施例1のレーザ発振素子に外力を印加した場合の発光線幅および発光強度の励起光のエネルギー(励起エネルギー)依存性を調べた。結果を図20に示す。応力印加手段1230により実施例1のレーザ発振素子に外力を印加した場合の発光スペクトルのチューナビリティを測定した。結果を図21に示す。
【実施例2】
【0103】
実施例2は、イオン液体として1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物を、有機色素としてローダミン誘導体の組み合わせを用いたコロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子を製造した。なお、有機色素の組み合わせが、ローダミン誘導体のうちRhとスルフォローダミンB(以降では簡単のためSRと称する)とであり、ABImBrで置換され、膨潤したコロイド結晶ゲルに、ABImBrとRhおよびSRとの混合溶液(0.10wt%Rhおよび0.25wt%)を含浸させた以外は、実施例1と同様であるため、説明を省略する。
【0104】
応力印加手段1230により実施例2のレーザ発振素子に外力を印加した場合の発光スペクトルのチューナビリティおよびレーザ発光の顕微鏡像を調べた。これらの結果を図22および図23に示す。
【実施例3】
【0105】
実施例3では、実施例1および2と同様にイオン液体としてABImBrを、有機色素として4−ジシアノメチレン−2−メチル−6(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)と混合した混合溶液(0.25wt%DCM)を調製し、その発光スペクトルを測定した。結果を図26および図28に示す。
【比較例1】
【0106】
比較例1では、実施例1において従来型コロイド結晶ゲルを大気中24時間放置し、変化を調べた。結果を図24に示す。
【比較例2】
【0107】
比較例2は、実施例3において、イオン液体としてアセテート系の1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートを用いた以外は同様であった。混合溶液(0.25wt%DCM)の観察、吸収スペクトルおよび発光スペクトルを調べた。これらの結果を図25および図26に示す。
【比較例3】
【0108】
比較例3は、実施例3において、イオン液体としてアセテート系の1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートを用いた以外は同様であった。混合溶液(0.25wt%DCM)の観察、吸収スペクトルおよび発光スペクトルを調べた。これらの結果を図27および図28に示す。
【0109】
簡単のため、実施例1〜3および比較例1〜3の実験条件を表1に示す。
【表1】
【0110】
図14は、実施例1によるレーザ発振素子のストップバンドの外力依存性を示す図である。
【0111】
図14は、応力印加手段1230により実施例1のレーザ発振素子の膜厚方向に外力を印加した際のストップバンドの変化および反射顕微鏡像の変化を示す。図14において初期状態は、応力印加手段1230により外力を印加する前の実施例1のレーザ発振素子の状態である。初期状態では、実施例1のレーザ発振素子は、690nmを中心とするストップバンドを示し、反射顕微鏡像によれば暗褐色であった。
【0112】
段階的に応力印加手段1230により実施例1のレーザ発振素子に外力を印加すると、ストップバンドは、690nmから短波長側へとシフト(ブルーシフト)し、最終的には、最大圧縮状態において558nmとなった。同様に、反射顕微鏡像は、暗褐色から橙色を経て緑色まで変化した。なお、応力印加手段1230による外力の印加を取り去ると、ストップバンドは、558nmから690nmへと可逆的に変化した。このことから、実施例1のレーザ発振素子のストップバンドは、外力の印加によって可逆的に変化することが確認された。
【0113】
また、応力印加手段1230により実施例1のレーザ発振素子に外力を印加しても、単一のストップバンドのみが観察された。このことは、実施例1のレーザ発振素子において、外力が印加された状態であっても、コロイド結晶ゲル中のポリスチレン粒子の周期配列は良好に維持されており、歪み等が発生しないことを示す。
【0114】
なお、ストップバンドの外力によるブルーシフトは、格子面間隔d(例えば、図1〜図3のdA〜dD参照)の幾何学的な減少で説明される。
λ=2d√(n2−sin2θ)
ここで、λは、ストップバンドであり、dは、格子面間隔であり、nは、材料の有効屈折率であり、θは、入射光の角度である。
【0115】
図15は、実施例1のレーザ発振素子のストップバンドと圧縮率との関係を示す図である。
【0116】
図15において縦軸は、ストップバンドλPBG(nm)であり、横軸は、レーザ発振素子の膜厚方向の圧縮率Rcomである。Rcomは、Rcom=(T0−T)/T0で定義される。T0およびTは、それぞれ、圧縮前および圧縮後のレーザ発振素子の膜厚である。例えば、Rcom=0.1とは、レーザ発振素子の膜厚が10%減縮したことを意味する。
【0117】
図15によれば、圧縮率が増大するにつれて、ストップバンドが減少することが分かった。詳細には、最小二乗法を用いてストップバンドの挙動を解析すると、λPBG=686−406Rcomで表された。相関係数は0.99であった。このことから、本発明によるレーザ発振素子のストップバンドは、圧縮率、すなわち、外力の印加に対して、線形にシフトすることが確認された。
【0118】
以上の図15によれば、本発明によるレーザ発振素子は、それを構成するコロイド結晶ゲル中の粒子が周期配列しており、その配列が非接触充填状態であるため、ストップバンドが可変であることが示された。
【0119】
図16は、実施例1で用いたイオン液体ABImBrの吸収スペクトルを示す図である。
【0120】
ABImBrをジクロロメタンに溶解させた溶液を用いて吸収スペクトルを測定した。ABImBrは、228nmに吸収を有するが、280nm以上の波長域には何ら吸収を持たないことを確認した。
【0121】
図17は、圧縮率Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子の反射スペクトルおよび発光スペクトルを示す図である。
【0122】
図17のスペクトルaは、反射スペクトルであり、スペクトルbは、励起エネルギーが120nJ/パルスにおける発光スペクトルであり、スペクトルcは、励起エネルギーが330nm/パルスにおける発光スペクトルである。
【0123】
図17のスペクトルaによれば、Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子のストップバンドは645nmであった。このストップバンドは、Rhの極大蛍光波長(約610nm)よりも長波長領域であり、かつ、Rhの蛍光スペクトルの範囲内であった(図21のRhの蛍光スペクトル参照)。
【0124】
Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子に光源1210から532nmの励起光(励起エネルギー:120nJ/パルス、フォーカス径:約40μm)を照射した場合、図17の発光スペクトルbが得られた。発光スペクトルbによれば、発振波長は653nmであり、これは、Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子のストップバンド(645nm)よりも長波長領域であり、かつ、レーザ発振素子の反射スペクトルおよびRhの蛍光スペクトルの範囲内であることが確認された。
【0125】
Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子に光源1210から532nmの励起光(励起エネルギー:330nJ/パルス、フォーカス径:約40μm)を照射した場合、図17の発光スペクトルcが得られた。発光スペクトルcによれば、励起エネルギーの増大に伴い、発光スペクトルbに比べて発光強度が増大し、より明瞭な発光ピークを示した。発振波長は653nmであった。ここでも同様に、発振波長は、Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子のストップバンド(645nm)よりも長波長領域であり、かつ、レーザ発振素子の反射スペクトルおよびRhの蛍光スペクトルの範囲内であることが確認された。
【0126】
図17によれば、発光フォトンのDOS増強を介したPBGバンド端効果により、このような単一のレーザ発光ピークが、コロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子から得られることが分かった。
【0127】
図17の挿入図を参照すれば、単一レーザ発振の線幅(Δλ)は0.06nmであった。キャビティの線質係数(Q)は、Q=λ/Δλ(ここで、λはレーザ発振の波長である)で表される。発光スペクトルcからQ値を算出すると、1.09×104であった。このQ値は、既存のコロイド結晶を用いたレーザ発振素子の中でももっとも高い値であることが分かった。
【0128】
図18は、圧縮率Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子の三次元ビームプロファイルを示す図である。
図19は、圧縮率Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子の一次元ビームプロファイルを示す図である。
【0129】
図18および図19に示すビームプロファイルは、いずれも、励起エネルギーが330nJ/パルスの場合のレーザ発振である。図18および図19によれば、実施例1のレーザ発振素子によるレーザ発振(ビーム)は、高い対称性の形状を有することが分かった。図19のビームプロファイルは、理論的なGaussianフィッティングに91.2%の高い値で良好に一致した。このような対称性に優れたレーザ発振は、本発明によるレーザ発振素子においてポリスチレン粒子が良好に配列したコロイド結晶ゲルに起因する。図17で示す狭い線幅の単一モードのレーザ発振、ならびに、図18および図19で示す高いビームクオリティは、次世代光電子デバイスの製造に有利である。
【0130】
図20は、圧縮率Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子の発光強度および線幅の励起エネルギーの依存性を示す図である。
【0131】
圧縮率Rcom=0.1における実施例1のレーザ発振素子において、レーザ発振波長653nmの発光強度および線幅の励起エネルギー依存性を調べることにより、レーザフィードバック効果を発生させるための閾値励起ピーク出力を見つけた。
【0132】
励起エネルギーが170nJ/パルスを超えると、発光強度は、顕著に増大するとともに、線幅は、45nmから0.06nmまで減少した。したがって、閾値励起ピーク出力は、4.5MWcm−2と算出された。
【0133】
以上の図17〜図20により、本発明のレーザ発振素子は、それを構成するコロイド結晶ゲルのストップバンドが、少なくとも有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長より長波長領域、かつ、蛍光スペクトルの範囲内で可変であれば、ストップバンドよりも長波長かつストップバンドの範囲内のレーザ発振することが示された。
【0134】
図21は、実施例1のレーザ発振素子の発光スペクトルのチューナビリティを示す図である。
【0135】
発光スペクトルa〜eは、それぞれ、圧縮率Rcomが、0.09、0.12、0.15、0.18および0.21におけるレーザ発振である。点線で示す蛍光スペクトルは、Rhの蛍光スペクトルである。
【0136】
圧縮率が増大するにつれて、すなわち、外力の印加が大きくなるにつれて、発光スペクトルは連続的に短波長側へシフトした。詳細には、発光スペクトルの発光ピークは、655nmから612nmまでシフトした。発光スペクトルの形状はいずれも単一の対称性に優れた形状を維持した。また、圧縮率Rcomが、0.09〜0.21の範囲であれば、実施例1のレーザ発振素子のストップバンドは、Rhの蛍光スペクトルの極大蛍光波長よりも長波長領域であり、かつ、蛍光スペクトルの範囲内であった(例えば、図15参照)。
【0137】
なお、圧縮率Rcomが、0.21を超えると、実施例1のレーザ発振素子は、レーザ発振しなかった。これは、圧縮率Rcomが0.21を超えると、実施例1のレーザ発振素子のストップバンドが、Rhの蛍光スペクトルの極大蛍光波長よりも短波長領域にあるためである(例えば、図15参照)。
【0138】
実施例1のレーザ発振素子によれば、ストップバンドが690nm〜600nmの範囲(圧縮率Rcomが0〜0.21の範囲に相当)において、レーザ発振波長を約50nmの範囲で適宜チューニングできることが分かった。
【0139】
以上の図21により、本発明によるレーザ発振素子は、それを構成するコロイド結晶ゲルのストップバンドが少なくとも有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長よりも長波長領域、かつ、蛍光スペクトルの範囲内で可変であれば、レーザ発振波長のチューナビリティを達成できることが確認された。また、このようなレーザ発振波長のチューナビリティは、図12の光学顕微鏡システムに含まれるレーザ発振装置によって容易に達成されることが分かった。
【0140】
図22は、実施例2のレーザ発振素子の発光スペクトルのチューナビリティを示す図である。
【0141】
図22において、発光スペクトルa〜gは、それぞれ、圧縮率Rcomが、0.09、0.12、0.15、0.18、0.21、0.22および0.25におけるレーザ発振である。蛍光スペクトルAは、RhとSRとを混合した蛍光スペクトルである。蛍光スペクトルBおよびCは、それぞれ、RhおよびSrの蛍光スペクトルである。
【0142】
RhにSRを添加することによって、蛍光スペクトルBおよびCは、蛍光スペクトルAに示すように、エネルギー移動により604nmを中心とするブロードな蛍光スペクトルとなった。
【0143】
圧縮率が増大するにつれて、すなわち、外力の印加が大きくなるにつれて、発光スペクトルは連続的に短波長側へシフトした。詳細には、発光スペクトルの発光ピークは、655nmから588nmまでシフトした。発光スペクトルの形状はいずれも単一の対称性に優れた形状を維持した。また、実施例2のレーザ発振素子のストップバンドは、圧縮率Rcomが、0.09〜0.21の範囲であれば、Rhの蛍光スペクトルBの極大蛍光波長よりも長波長領域であり、かつ、蛍光スペクトルBの範囲内であり、圧縮率Rcomが、0.22〜0.25の範囲であれば、SRの蛍光スペクトルCの極大蛍光波長よりも長波長領域であり、かつ、慶応スペクトルCの範囲内であることが分かった。
【0144】
なお、圧縮率Rcomが、0.25を超えると、実施例2のレーザ発振素子は、レーザ発振しなかった。これは、圧縮率Rcomが0.25を超えると、実施例2のレーザ発振素子のストップバンドが、RhおよびSrいずれの蛍光スペクトルBおよびCの極大蛍光波長よりも短波長領域にあるためである。
【0145】
実施例2のレーザ発振素子によれば、ストップバンドが690nm〜580nmの範囲(圧縮率Rcomが0〜0.25の範囲に相当)において、レーザ発振波長を約70nmの範囲で適宜チューニングできることが分かった。さらに、図21と比較すると、実施例2のレーザ発振素子のチューナビリティは、実施例1のそれよりも広い。すなわち、有機色素を適宜組み合わせることにより、レーザ発振のチューナビリティを拡げることができることが確認できた。
【0146】
図23は、実施例2のレーザ発振素子のレーザ発振の顕微鏡像を示す図である。
【0147】
655nm、610nmおよび588nmの顕微鏡像は、それぞれ、圧縮率Rcomが0.09、0.21および0.25の場合の実施例2のレーザ発振素子のレーザ発振を示す。図23によれば、圧縮率が増大するにつれて、すなわち、外力の印加が大きくなるにつれて、レーザ発光の色は、暗褐色からオレンジ色へと明瞭な変化を示した。なお、応力印加手段1230の外力を取り去ると、レーザ発振波長および発光色は、初期状態に戻った。
【0148】
以上の図22および図23により、本発明によるレーザ発振素子は、それを構成するコロイド結晶ゲルのストップバンドが、少なくとも1種の有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長よりも長波長領域、かつ、蛍光スペクトルの範囲内で可変であれば、レーザ発振波長のチューナビリティを達成できるとともに、有機色素の組み合わせによってチューナビリティの拡大が確認された。また、このようなレーザ発振波長のチューナビリティは、図12の光学顕微鏡システムに含まれるレーザ発振装置によって容易に達成されることが分かった。
【0149】
図24は、比較例1の従来型コロイド結晶ゲルの変化を示す図である。
【0150】
図24(A)および(B)は、それぞれ、比較例1の従来型コロイド結晶ゲルの製造直後、および、大気中24時間放置後の様子を示す。図24(A)に示されるように、製造直後、従来型コロイド結晶ゲルは、赤色の構造色を示した。しかしながら、図24(B)に示されるように、大気中24時間放置後、従来型コロイド結晶ゲルの赤色の構造色は消失し、透明であった。これは、従来型コロイド結晶ゲル中の分散媒である水が蒸発することにより、コロイド結晶構造に歪みが生じたためである。なお、図示しないが、本発明の実施例1および2のレーザ発振素子は、製造直後および大気中24時間放置のいずれも、構造色に変化はなかった。以上より、本発明のレーザ発振素子は、分散媒としてイオン液体を用いているので、分散媒が蒸発することなく、長期間安定であることが確認された。
【0151】
図25は、比較例2の混合溶液の吸収スペクトルを示す図である。
【0152】
比較例2の混合溶液は、図25の吸収スペクトルに示すように500nm以下にDCM固有の吸収バンドを示したが、図25の挿入図に示すように、濃い茶褐色を示した。一方、実施例3の混合溶液は、赤色を示した(図示せず)。このことは、比較例2の混合溶液中において、イオン液体とDCMとの間に何らかの反応が生じたことを示す。
【0153】
図26は、実施例3および比較例2の混合溶液の発光スペクトルを示す図である。
【0154】
図26の発光スペクトルaおよびbは、それぞれ、実施例3の混合溶液の発光スペクトルおよび比較例2の混合溶液の発光スペクトルである。図26より、比較例2の混合溶液は何ら発光を示さなかった。一方、実施例3の混合溶液は、DCMによる発光を示した。
【0155】
図27は、比較例3の混合溶液の吸収スペクトルを示す図である。
【0156】
比較例3の混合溶液は、図27の吸収スペクトルに示すように500nm以下にDCM固有の吸収バンドを示したが、図27の挿入図に示すように、濃い茶褐色を示した。一方、実施例3の混合溶液は、赤色を示した。このことから、比較例3の混合溶液中において、イオン液体とDCMとの間に何らかの反応が生じたことを示す。
【0157】
図28は、実施例3および比較例3の混合溶液の発光スペクトルを示す図である。
【0158】
図28の発光スペクトルaおよびbは、それぞれ、実施例3の混合溶液の発光スペクトルおよび比較例3の混合溶液の発光スペクトルである。図28より、比較例3の混合溶液は何ら発光を示さなかった。一方、実施例3の混合溶液は、DCMによる発光を示した。
【0159】
以上の図25〜図28によれば、本発明のレーザ発振素子を構成するコロイド結晶ゲルに用いられる、末端にアリル基を有するハロゲン系のイオン液体とDCMとは一切反応しないため、安定なレーザ発振を可能にすることが確認された。詳細には、本発明におけるレーザ発振素子において、末端にアリル基を有した1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物、1−アリル−3−エチルイミダゾリウムハロゲン化物、および、1,3−ジアリルブチルイミダゾリウムハロゲン化物からなる群から選択されるハロゲン系が好ましいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明のレーザ発振素子は、イオン液体を用いているので、耐環境性に優れる。また、本発明のレーザ発振素子は、連続的なチューナビリティを有しているので、可変レーザに好適である。また、本発明のレーザ発振素子は、極めて小型であり、微小レーザに好適である。本発明のレーザ発振素子は、単一微小光源、光増幅器、低閾値レーザ発振装置、高輝度ディスプレイ等への応用が期待される。
【符号の説明】
【0161】
100、310、320、330、500、710、720、730、1120、1220 レーザ発振素子
110 粒子
120 網目状高分子
130 イオン液体
140、510 有機色素
150、530 蛍光スペクトル
160 反射スペクトル
200、600 変換光
1100 レーザ発振装置
1110、1210 光源
1130、1230 応力印加手段
1201 ダイクロイックミラー
1202 λ/2板
1203 グランレーザプリズム
1204 撮像レンズ
1205 CMOSカメラ
1206 分光計
1207 100Wハロゲンランプ
1208 顕微鏡用電動式照明器具
1209 対物レンズ
1310 マイクロメータヘッド
1320 バネ
1330 ガラス基板
【先行技術文献】
【特許文献】
【0162】
【特許文献1】国際公開WO2009/148082号パンフレット
【非特許文献】
【0163】
【非特許文献1】Shkunovら,Adv.Funct.Mater.2002、12、1、January
【非特許文献2】Yamadaら,Adv.Mater.2009、21、4134−4138
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子であって、
前記コロイド結晶ゲルは、
イオン液体および有機色素を含有する高分子ゲルと、
前記高分子ゲル中に自己組織的に周期配列した粒子であって、前記粒子の配列は、非接触充填状態である、粒子と
を含み、
前記コロイド結晶ゲルのストップバンドは、少なくとも前記有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長より長波長領域、かつ、前記蛍光スペクトルの範囲内で可変である、レーザ発振素子。
【請求項2】
前記イオン液体は、親水性であり、かつ、末端にアリル基を有する、請求項1に記載のレーザ発振素子。
【請求項3】
前記イオン液体は、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物、1−アリル−3−エチルイミダゾリウムハロゲン化物、および、1,3−ジアリルブチルイミダゾリウムハロゲン化物からなる群から選択される、請求項2に記載のレーザ発振素子。
【請求項4】
前記有機色素は、ローダミン誘導体、オキサジン誘導体、フルオレセイン誘導体、クマリン誘導体、スチリル誘導体および4−ジシアノメチレン−2−メチル−6(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)からなる群から少なくとも1種選択される、請求項1に記載のレーザ発振素子。
【請求項5】
光源と、
前記光源が発する光を受光し、前記光の波長を変換するレーザ発振素子と、
前記レーザ発振素子に応力を印加する応力印加手段と
を備えたレーザ発振装置であって、
前記レーザ発振素子は、請求項1〜4のいずれかに記載のレーザ発振素子であり、
前記応力印加手段は、前記レーザ発振素子に応力を印加し、前記レーザ発振素子における前記コロイド結晶ゲルのストップバンドを線形に変化させる、レーザ発振装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のレーザ発振素子の製造方法であって、
自己組織的に周期配列した粒子が網目状高分子によって固定化されたコロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素を含浸させるステップ
を包含し、
前記イオン液体および前記有機色素は、前記含浸させるステップによって得られたコロイド結晶ゲルのストップバンドが、少なくとも前記有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長より長波長領域、かつ、前記蛍光スペクトルの範囲内で可変となるように選択される、方法。
【請求項7】
前記含浸させるステップは、
水で膨潤した前記コロイド結晶ゲルにイオン液体を含浸させるステップと、
前記イオン液体で膨潤したコロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素をさらに含浸させるステップと
を包含する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記含浸させるステップは、1時間〜14日の間、前記コロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素を含浸させる、請求項6に記載の方法。
【請求項1】
コロイド結晶ゲルからなるレーザ発振素子であって、
前記コロイド結晶ゲルは、
イオン液体および有機色素を含有する高分子ゲルと、
前記高分子ゲル中に自己組織的に周期配列した粒子であって、前記粒子の配列は、非接触充填状態である、粒子と
を含み、
前記コロイド結晶ゲルのストップバンドは、少なくとも前記有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長より長波長領域、かつ、前記蛍光スペクトルの範囲内で可変である、レーザ発振素子。
【請求項2】
前記イオン液体は、親水性であり、かつ、末端にアリル基を有する、請求項1に記載のレーザ発振素子。
【請求項3】
前記イオン液体は、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウムハロゲン化物、1−アリル−3−エチルイミダゾリウムハロゲン化物、および、1,3−ジアリルブチルイミダゾリウムハロゲン化物からなる群から選択される、請求項2に記載のレーザ発振素子。
【請求項4】
前記有機色素は、ローダミン誘導体、オキサジン誘導体、フルオレセイン誘導体、クマリン誘導体、スチリル誘導体および4−ジシアノメチレン−2−メチル−6(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)からなる群から少なくとも1種選択される、請求項1に記載のレーザ発振素子。
【請求項5】
光源と、
前記光源が発する光を受光し、前記光の波長を変換するレーザ発振素子と、
前記レーザ発振素子に応力を印加する応力印加手段と
を備えたレーザ発振装置であって、
前記レーザ発振素子は、請求項1〜4のいずれかに記載のレーザ発振素子であり、
前記応力印加手段は、前記レーザ発振素子に応力を印加し、前記レーザ発振素子における前記コロイド結晶ゲルのストップバンドを線形に変化させる、レーザ発振装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のレーザ発振素子の製造方法であって、
自己組織的に周期配列した粒子が網目状高分子によって固定化されたコロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素を含浸させるステップ
を包含し、
前記イオン液体および前記有機色素は、前記含浸させるステップによって得られたコロイド結晶ゲルのストップバンドが、少なくとも前記有機色素の蛍光スペクトルの極大蛍光波長より長波長領域、かつ、前記蛍光スペクトルの範囲内で可変となるように選択される、方法。
【請求項7】
前記含浸させるステップは、
水で膨潤した前記コロイド結晶ゲルにイオン液体を含浸させるステップと、
前記イオン液体で膨潤したコロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素をさらに含浸させるステップと
を包含する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記含浸させるステップは、1時間〜14日の間、前記コロイド結晶ゲルにイオン液体および有機色素を含浸させる、請求項6に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2013−62450(P2013−62450A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201261(P2011−201261)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年9月1日 インターネットアドレス「http://onlinelibrary.wilcy.com/doi/10.1002/adma.201101825/abstract」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年9月1日 インターネットアドレス「http://onlinelibrary.wilcy.com/doi/10.1002/adma.201101825/abstract」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
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