説明

コンクリートの遠心成形方法および遠心成形コンクリート

【課題】 使用するコンクリートの練り上げが容易であり、工業的にも安定して超高強度のコンクリート製品を製造しうるようなコンクリートの遠心成形方法を提供することを一の課題とする。
【解決手段】 水/結合材比が20質量%以下であるセメント組成物と高性能AE減水剤とを練り混ぜてスランプフローが50cm以上であるコンクリートを調製する工程と、遠心成形機の型枠を低速回転させながら該型枠内に調製されたコンクリートを投入する工程と、前記高性能AE減水剤と適合性の悪い混和剤を該コンクリートに添加して前記コンクリートの流動性を低下させる工程と、コンクリートの流動性が低下した後に前記型枠を高速回転させる工程とを有することを特徴とするコンクリートの遠心成形方法による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの遠心成形方法、および遠心成形されてなるコンクリートに関し、特に、高強度のコンクリートを製造する遠心成形方法、及び高強度の遠心成形コンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート管等のコンクリート製品の製造方法として、コンクリートまたはモルタルを型枠に充填し、これを高速回転させることによって遠心力を発生させ、この遠心力を締固めに利用するコンクリートの遠心成形方法が知られている。
該遠心成形方法では、一般に、高速の遠心力(30〜40G)によって締め固めが行われるため、高強度のコンクリート製品を得ることができるとされている。
【0003】
また、近年においては、通常の遠心成形によって得られる高強度コンクリートよりも、さらに強度の高い超高強度コンクリートが要望されつつある。
従来、このような超高強度コンクリートを製造する方法として、例えば、水粉体重量比が10〜22%であるようなコンクリートを、分散剤を用いて初期スランプ0〜2cmとなるように練り上げ、これを遠心成形方法によって成形する方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−36629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1で提案された方法では、水粉体重量比が10〜22%のコンクリートを分散剤を用いて0〜2cmのスランプに練り上げる必要があるが、そのような水粉体重量比のコンクリートを0〜2cmのスランプに練り上げることは試験室においても難しく、実際のプラントで製造する際には極めて困難となるものと予測され、工業的に安定してコンクリート製品を製造することができないという問題がある。
【0006】
また、上記特許文献1記載のような方法では、製造されるコンクリート製品の強度が必ずしも十分とは言えず、より一層高強度のコンクリート製品を製造することが望まれている。
【0007】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑み、使用するコンクリートの練り上げが容易であり、工業的にも安定して超高強度のコンクリート製品を製造しうるようなコンクリートの遠心成形方法を提供することを一の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するべく、本発明は、水/結合材比が20質量%以下であるセメント組成物と高性能AE減水剤とを練り混ぜてスランプフローが50cm以上であるコンクリートを調製する工程と、遠心成形機の型枠を低速回転させながら該型枠内に調製されたコンクリートを投入する工程と、前記高性能AE減水剤と適合性の悪い混和剤を該コンクリートに添加して前記コンクリートの流動性を低下させる工程と、コンクリートの流動性が低下した後に前記型枠を高速回転させる工程とを有することを特徴とするコンクリートの遠心成形方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、水/結合材比が20質量%以下であるセメント組成物と高性能AE減水剤とを練り混ぜてスランプフローが50cm以上であるコンクリートを調製する工程と、遠心成形機の型枠を低速回転させながら該型枠内に調製されたコンクリートを投入する工程と、前記高性能AE減水剤と適合性の悪い混和剤を該コンクリートに添加して前記コンクリートの流動性を低下させる工程と、コンクリートの流動性が低下した後に前記型枠を高速回転させる工程とを経て製造されたことを特徴とする遠心成形コンクリートを提供する。
【0010】
本発明によれば、スランプフローが50cm以上であるようなコンクリートを調製し、これを低速回転させた遠心成形機の型枠内に投入するようにしたため、スランプフローが50cmに満たないようなコンクリートを使用する場合と比較してコンクリートの練り混ぜが容易となり、しかも通常の高速回転時に比べて作用する遠心力が小さいため、該コンクリートでも型枠外へあふれ出すことなく投入することが可能となる。
そして、前記高性能AE減水剤と適合性の悪い混和剤を該コンクリートに添加して前記コンクリートの流動性を低下させ、コンクリートの流動性が低下した後に前記型枠を高速回転させるため、該コンクリートに十分な遠心力を作用させることができ、しかも、投入するコンクリートの水/結合材比を20質量%以下としたことにより、従来に比してより強度の高い、いわゆる超高強度のコンクリートを得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明に係るコンクリートの遠心成形方法によれば、使用するコンクリートの練り上げが容易となり、工業的にも安定して超高強度のコンクリート製品を製造することが可能となるだけでなく、水/結合材比が20質量%以下のであるセメント組成物に対して遠心成形による十分な締め固めを行うことができ、従来よりも強度の高い超高強度コンクリートを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、実施形態を挙げて本発明に係るコンクリートの遠心成形方法について説明する。
本発明の一実施形態であるコンクリートの遠心成形方法は、水結合材比が20%以下であるセメント組成物と高性能AE減水剤とを練り混ぜてスランプフローが50cm以上であるコンクリートを調製する工程と、遠心成形機の型枠を低速回転させながら該型枠内に調製されたコンクリートを投入する工程と、前記高性能AE減水剤に対して適合性の悪い混和剤を該コンクリートに添加して前記コンクリートの流動性を低下させる工程と、コンクリートの流動性が低下した後に前記型枠を高速回転させる工程とを備えるものである。
【0013】
前記セメント組成物及び高性能AE減水剤は、水/結合材比が20質量%以下においてスランプフローが50cm以上となるものであれば特に限定されるものではない。
セメント組成物としては、例えば、JISに規定されているポルトランドセメントや混合セメント等の一般的なセメントに、必要に応じて高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、石灰石微粉末又はけい石微粉末等の混和材や膨張材等を添加し、また、必要に応じて粗骨材や細骨材を添加したものを用いることができる。
本発明における結合材とは、セメントと、必要に応じて添加されるシリカヒュームや膨張材など、水和による硬化性状を示す材料を意味するものである。
【0014】
一方、高性能AE減水剤としては、例えば、ポリカルボン酸系、ナフタレン系、メラミン系、アミノスルホン酸系等の各種高性能AE減水剤を使用することができる。
ここで、ポリカルボン酸系の高性能AE減水剤としては、ポリカルボン酸エーテル系の複合体、ポリカルボン酸塩等のポリカルボン酸系化合物、マレイン酸共重合物、マレイン酸誘導体共重合物、マレイン酸エステル共重合物等のマレイン酸系化合物などを主成分とするものを例示でき、ナフタレン系の高性能AE減水剤としては、リグニン誘導体、アルキルアリルスルホン酸系化合物などを主成分とするものを例示でき、メラミン系の高性能AE減水剤としては、変性メチロールメラミン縮合物等を主成分として含有するものを例示でき、さらに、アミノスルホン酸系の高性能AE減水剤としては、芳香族スルホン酸縮合物とリグニンスルホン酸誘導体を主成分とするものを例示できる。
【0015】
セメント組成物と高性能AE減水剤とを練り混ぜた際のスランプフローは、50cm以上とするものとし、好ましくは60〜80cmとする。スランプフローが50cm未満であれば、流動性が劣るために遠心成形機の型枠内への投入に時間がかかるとともに、コンシステンシーを安定させるのが難しくなる虞がある。
また、スランプフローを60〜80cmとすることにより、流動性が良好となって遠心成形機の型枠内への投入が容易となり、コンシステンシーが安定し、さらに、材料分離を抑制して高品質な製品を製造しうるという効果がある。
尚、スランプフローは、JIS A1150「コンクリートのスランプフロー試験方法」に規定されたスランプ試験により、試験後のコンクリートの広がり(直径)として測定される値である。
【0016】
高性能AE減水剤の添加量は特に限定されず、上記セメント組成物を所定のスランプフローとしうる量であればよいが、適合性の悪い混和剤との混合によってセメントの流動性を低下させる観点から、前記セメント組成物中の結合材に対して0.3〜4.0質量%とすることが好ましい。
【0017】
次に、上記工程によって得られたコンクリートを、低速回転させた遠心成形機の型枠内に投入する。この際の遠心成形機の回転数は、特に限定されるものではなく、投入されたコンクリートが型枠から溢れ出ない程度とすればよい。低速回転時の回転数は、通常、コンクリートに1〜5Gの遠心力が作用する回転数とし、好ましくは2〜3Gの遠心力が作用する回転数とする。
【0018】
次に、投入されたコンクリートに、前記高性能AE減水剤に対して適合性の悪い混和剤を添加する。
【0019】
前記高性能AE減水剤に対して適合性の悪い混和剤としては、前記高性能AE減水剤と混合した際、凝集現象等によって例えばゲル状となり、コンクリートの流動性を悪化させるものであれば特に限定されるものではない。
具体的には、前記高性能AE減水剤のうち、種類の異なる高性能AE減水剤を併用して用いるか、あるいは前記高性能AE減水剤に対して適合性の悪い減水剤、AE減水剤、凝結促進剤、凝結遅延剤、あるいは増粘剤等を使用することができる。
但し、種類の異なる高性能AE減水剤を用いる際には、ナフタレン系とアミノスルホン酸系の高性能AE減水剤の組み合わせは除くものとする。
【0020】
また、前記増粘剤としては、例えば、セルロース系、アクリル系、グリコール系等の増粘剤を使用することができ、より具体的には、ポリカルボン酸系及びメラミン系の高性能AE減水剤に対しては、セルロース系及びグルコース系の増粘剤が好適であり、ナフタレン系、メラミン系及びアミノスルホン酸系の高性能AE減水剤に対しては、アクリル系の増粘剤が好適である。
【0021】
該混和剤の添加量については特に限定されるものではないが、該混和剤の添加によってコンクリートの流動性が悪化し、スランプが2〜5cmとなるような量とすることが好ましい。
【0022】
該混和剤の添加方法については特に限定されるものではないが、例えば、該混和剤の希釈液を、回転する型枠の内側から供給し、露出したコンクリート表面に噴霧する方法などを挙げることができる。
【0023】
コンクリートのスランプが2〜5cmとなる程度に流動性を低下させると、後述するような高速回転による締め固めが可能となり、得られるコンクリートの強度をより一層高めることが可能となる。
【0024】
次に、コンクリートの流動性が低下した後、型枠の回転数を上げ、高速回転による遠心成形を行う。この高速回転においては、コンクリートに15〜30Gの遠心力が作用する回転数とすることが好ましく、20〜25Gの遠心力が作用する回転数とすることがより好ましい。
【0025】
このようにして得られたコンクリートは、必要に応じて、水中養生、湿空養生、蒸気養生、オートクレーブ養生などの各種養生方法に従って養生される。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
(使用材料)
セメント(C):低熱ポルトランドセメント(住友大阪セメント社製、密度3.24g/cm3
シリカヒューム(SF):中国産シリカヒューム(輸入元:巴工業、密度2.24g/cm3
細骨材(S):茨城県結城産陸砂(密度2.58g/cm3
粗骨材(G):茨城県岩瀬産砕石(密度2.64g/cm3
水(W):水道水
高性能AE減水剤(SP):シーカメント1200N(日本シーカ社製、ポリカルボン酸系)
適合性の悪い混和剤(AD):マイティー150(花王社製、ナフタレン系高性能減水剤)
急結剤(Q):メイコ SA 161(BASFポゾリス社製)
【0028】
上記の材料を使用し、下記表1に示す配合でコンクリートを調製した。
【表1】

【0029】
(実施例1)
上記コンクリート15kgを、遠心力が2Gとなるように低速回転させた遠心成形機の型枠(内径20cmφ×長さ30cm)内へ投入して5分間維持するとともに、その間に適合性の悪い混和剤(AD)である「マイティー150」37g(結合材に対して0.5質量%)を該コンクリートの内側表面に噴霧した。その後、遠心力が6Gとなるよう回転数を上げて1分間維持し、さらに、遠心力が12Gとなるよう回転数を上げて1分間維持し、さらに、遠心力が20Gとなるよう回転数を上げて5分間維持することにより、遠心成形を行った。
得られた成形体は、内面にノロの発生が認められたが、製品として出荷が可能な程度の良好な仕上がりであった。
【0030】
そして、上記遠心成形によって得られたコンクリートの供試体(外径20cmφ、内径11cmφ×長さ30cmの円筒状)について、材齢7日における圧縮強度を測定した。上記試験結果を表2に示す。
【0031】
(実施例2)
混和剤(AD)である「マイティー150」の噴霧量を75g(結合材に対して1.0質量%)とすること除き、他は実施例1と同様にして遠心成形と圧縮強度の測定を行った。
尚、得られた成形体は、ノロの発生もなく、極めて良好な状態の仕上がりであった。
【0032】
(実施例3)
混和剤(AD)である「マイティー150」の噴霧量を300g(結合材に対して4.0質量%)とすること除き、他は実施例1と同様にして遠心成形と圧縮強度の測定を行った。尚、得られた成形体は、ノロの発生もなく、極めて良好な状態の仕上がりであった。
【0033】
(比較例1)
混和剤(AD)を噴霧しないこと除き、他は実施例1と同様にして遠心成形を行ったところ、コンクリートが型枠開口部(投入口)から流出してしまい、遠心成形を行うことができなかった。
【0034】
(比較例2)
前記混和剤(AD)である「マイティー150」に代えて、急結剤(Q)「メイコ SA 161」を75g(結合材に対して1.0質量%)噴霧すること除き、他は実施例1と同様にして遠心成形を行ったところ、コンクリートの流動性が完全に失われ、遠心成形を行うことができなかった。
【0035】
(比較例3)
混和剤(AD)である「マイティー150」の噴霧量を15g(結合材に対して0.2質量%)とすること除き、他は実施例1と同様にして遠心成形を行ったところ、 コンクリートの流動性の低下が十分ではなく、円筒内面が大きく波打ち、正常な遠心成形を行うことができなかった。
【0036】
【表2】

【0037】
表2に示したように、比較例の方法では高速回転での遠心成形を行うことができず、高強度コンクリートを得ることができなかった。一方、実施例の方法では、高速回転による遠心成形が可能となり、材齢7日の圧縮強度が140N/mm2を超えるような、いわゆる超高強度コンクリートを得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水/結合材比が20質量%以下であるセメント組成物と高性能AE減水剤とを練り混ぜてスランプフローが50cm以上であるコンクリートを調製する工程と、遠心成形機の型枠を低速回転させながら該型枠内に調製されたコンクリートを投入する工程と、前記高性能AE減水剤に対して適合性の悪い混和剤を該コンクリートに添加して前記コンクリートの流動性を低下させる工程と、コンクリートの流動性が低下した後に前記型枠を高速回転させる工程とを有することを特徴とするコンクリートの遠心成形方法。
【請求項2】
水/結合材比が20質量%以下であるセメント組成物と高性能AE減水剤とを練り混ぜてスランプフローが50cm以上であるコンクリートを調製する工程と、調製されたコンクリートを遠心成形機の型枠内に投入して該型枠を低速回転させる工程と、前記高性能AE減水剤と適合性の悪い混和剤を該コンクリートに添加して前記コンクリートの流動性を低下させる工程と、コンクリートの流動性が低下した後に前記型枠を高速回転させる工程を経て製造されたことを特徴とする遠心成形コンクリート。

【公開番号】特開2009−78478(P2009−78478A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−250355(P2007−250355)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】