説明

コンクリート二次製品の製造方法

【課題】季節毎に汚泥焼却灰の比表面積に変動があるとしても、詳細な配合設計を行わずに、簡単にフレッシュコンクリートの物性値の均一化、ワーカビリティの一定化、コンクリート品質の一定化を図る。
【解決手段】下水汚泥を焼却して得られた汚泥焼却灰をコンクリート混和材として用いたコンクリート二次製品の製造方法において、汚泥焼却施設より年間を通して得られた、比表面積の異なる各汚泥焼却灰を使用した場合の配合設計により、前記汚泥焼却灰の比表面積とフレッシュコンクリートに添加される混和剤添加率との相関データを得ておき、以降は、前記コンクリート二次製品の製造にあたり、前記相関データに基づいて、フレッシュコンクリートに添加する混和剤の添加率を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥を焼却して得られた汚泥焼却灰をコンクリート混和材として用いたコンクリート二次製品の製造方法に係り、詳しくは季節毎に汚泥焼却灰の比表面積に変動があるとしても、詳細な配合設計を行わずに、簡単にフレッシュコンクリート物性値の均一化、ワーカビリティの一定化、コンクリート品質の一定化が図れるようにしたコンクリート二次製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、下水処理施設から発生する汚泥の内約6割が有効利用され、残りは埋立処分されている。しかし、大都市圏においては、埋め立て用用地を確保するのにも限界があり、有効利用の割合をさらに増大させることが望まれている。このような要求に伴って近年は、前記汚泥焼却灰をセメント原材料やヒューム管、マンホール等のコンクリート二次製品の製造に当たり混和剤として使用することが検討かつ実用化されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、再生骨材として硬化コンクリート、硬化モルタル又は硬化セメントペーストの解体材から得られる再生骨材と、都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料としてなる焼成物であって、C11CaCl、C11CaF、CAの一種以上を10〜40重量%およびCS、CSの一種以上を含む焼成物と石膏からなる水硬性組成物とを含有することを特徴とするセメント組成物が提案されている。
【0004】
また、下記特許文献2では、下水汚泥を焼却して得られる、二酸化ケイ素40〜55重量%、酸化カルシウム5〜10重量%、ブレーン値8000cm/g以上を含む焼却灰を骨材の一部に代えてセメント量に対して20重量%以内の量を添加し、且つ、水セメント比を35〜50重量%としたコンクリートをもって振動成形するコンクリート二次製品及びその製造方法が提案されている。
【0005】
本発明者等は上記汚泥焼却灰を前記高流動コンクリートに混和材として添加することを試み、前記汚泥焼却灰を添加した場合と、従来より使用されている石灰石微粉末を使用した場合のそれぞれのケースについて、スランプフローの経時変化(図2参照)を検討するとともに、凝結試験(図3参照)を行った。なお、各図に示されるグラフにおいて、管理値の上限値及び下限値を太線で示してある。
【0006】
その結果、図2〜図3のグラフからも明らかなように、混和材として汚泥焼却灰を用いた場合であっても、混和材として一般的に使用されている石灰石微粉末を使用した場合に比べて、スランプフローの経時変化、凝結試験結果の何れにおいても、フレッシュ性状が大きく劣るということは無く、高流動コンクリートにおいても、前記汚泥焼却灰を混和材として使用することが可能であることが判明した。なお、図示しないが強度特性については、両者間に大きな有意差は見られず、設計基準強度は十分に上回っていた。
【特許文献1】特開平11−180756号公報
【特許文献2】特開2001−181011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記汚泥焼却灰の比表面積は、同じ焼却施設より得たものを使用しても、季節によって変動することが判明した。上記図2〜図3の実験においては、汚泥焼却灰を混和材としたサンプル4種についての試験は、春夏秋冬の季節別に夫々採取したサンプルである。これらのグラフからも明らかな通り、季節毎に比表面積が異なることに起因して高流動コンクリートのフレッシュ性状にもバラツキが生じている。
【0008】
このため、製品を製造するに際し、各季節毎に得られる汚泥焼却灰に比表面積のバラツキがあるため、その都度毎に詳細な配合設計を行わなければならず、石灰石微粉末を混和材として用いた場合に比べて、その分余計な手間が掛かるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明の主たる課題は、下水汚泥を焼却して得られた汚泥焼却灰をコンクリート混和材として用いたコンクリート二次製品の製造方法において、季節毎に汚泥焼却灰の比表面積に変動があるとしても、詳細な配合設計を行わずに、簡単にフレッシュコンクリートの物性値の均一化、ワーカビリティの一定化、コンクリート品質の一定化が図れるようにしたコンクリート二次製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、下水汚泥を焼却して得られた汚泥焼却灰をコンクリート混和材として用いたコンクリート二次製品の製造方法において、
汚泥焼却施設より年間を通して得られた、比表面積の異なる各汚泥焼却灰を使用した場合の配合設計により、前記汚泥焼却灰の比表面積とフレッシュコンクリートに添加される混和剤添加率との相関データを得ておき、
以降は、前記コンクリート二次製品の製造にあたり、前記相関データに基づいて、フレッシュコンクリートに添加する混和剤の添加率を決定することを特徴とするコンクリート二次製品の製造方法が提供される。
【0011】
上記請求項1記載の本発明によれば、汚泥焼却灰の比表面積と前記焼却灰に添加する混和剤の添加率との関係を示す相関データに基づいて、前記焼却灰に添加する混和剤の添加率を決定するようにしたため、季節毎に汚泥焼却灰の比表面積に変動があるとしても、詳細な配合設計を行わずに、簡単にフレッシュコンクリートの物性値の均一化、ワーカビリティの一定化、コンクリート品質の一定化が図れるようになる。
【0012】
請求項2に係る本発明として、前記混和剤は、減水剤又はAE減水剤とする請求項1記載のコンクリート二次製品の製造方法が提供される。
【0013】
請求項3に係る本発明として、前記コンクリート二次製品は高流動コンクリートを用いた製品であり、前記混和剤の添加率は、スランプフローが65±5cm、空気量2±1%を満足するように配合決定された請求項1、2いずれかに記載のコンクリート二次製品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
以上詳説のとおり本発明によれば、季節毎に汚泥焼却灰の比表面積に変動があるとしても、詳細な配合設計を行わずに、簡単にフレッシュコンクリートの物性値の均一化、ワーカビリティの一定化、コンクリート品質の一定化が図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。
【0016】
下水汚泥を焼却して得られた汚泥焼却灰をコンクリート混和材として用いた高流動コンクリートにより、シールド工事用セグメント等のコンクリート二次製品を製作するに当たり、汚泥焼却施設より年間を通して得られた、比表面積の異なる各汚泥焼却灰を使用した場合の配合設計により、前記汚泥焼却灰の比表面積とフレッシュコンクリートに添加される混和剤添加率との相関データを得ておき、以降は、前記コンクリート二次製品の製造にあたり、前記相関データに基づいて、フレッシュコンクリートに添加する混和剤の添加率を決定するものである。
【0017】
以下、具体的詳述すると、
先ず、汚泥焼却施設より下水汚泥を焼却して得られた汚泥焼却灰をコンクリート混和材として用いるに当たり、少なくとも最初の1年は、汚泥焼却灰の比表面積を測定した上で、所要のワーカビリティー、凝結特性および強度特性が得られるように詳細な配合設計を行い、水セメント比、汚泥焼却灰混入量、細骨材量、粗骨材量、減水剤混入量を決定し、高流動コンクリートを製造する。
【0018】
前記焼却灰を採取する施設は、ある特定の若しくは類似の汚泥を扱う汚泥焼却施設に限定し、この施設の流動層炉から年間を通して汚泥焼却灰を採取するようにする。前記汚泥焼却灰は、何れの時期に採取したものであっても、乾燥密度及び化学成分については大きな差異は無いことが知見として得られている。具体的には、試験的に採取した特定の焼却施設から排出される汚泥焼却灰の例では、乾燥密度は約2.5g/cm前後であり、化学成分は蛍光X線分析によると、二酸化ケイ素31±3%、酸化アルミニウム17±2%、酸化第二鉄10±1%、酸化カルシウム13±2.5%、酸化マグネシウム2.6±0.3%、三酸化硫黄2.2±1.2%、酸化ナトリウム1.2±0.2%、酸化カリウム1.05±0.02%、五酸化リン16±2%、塩素0.03±0.02%程度の割合で夫々含有されていた。
【0019】
しかし、前記汚泥焼却灰の比表面積は、寒い時期に採取したもの程大きくなる傾向があり、年間を通し、概ね4900〜6900cm/gの範囲で規則的に変動することが知見された。
【0020】
一方、高流動コンクリートの製造に用いられる骨材は、レキ分や砂分を多く含むものであれば特に制限は無く、例えば天然の砂利や砕石等の粗骨材、細砂、川砂等の細骨材の他、コンクリート、アスファルト、レンガ、セラミック、ガラス等の廃棄物を粉砕した再生骨材等が挙げられる。再生骨材を多く利用すれば、リサイクル率が高くなるのでより望ましい。
【0021】
前記骨材の粉砕は、ジョークラッシャー、回転式破砕機、加熱式回転破砕機等が使用され、骨材は粉砕後さらに篩い分け等により砂利や砕石の含有量が多い粗骨材、砂の含有量が多い細骨材、ペースト部分が多い骨材微粉末に分けられる。概ね、粗骨材は粒径5mm以上、細骨材は0.15mm以上5mm未満、骨材微粉末は0.15mm未満であり、得られる骨材は破砕方法や使用する粉砕機、篩い分け方法等により粒度分布や付着するモルタル及びセメントペーストの量が異なってくる。
【0022】
原料セメントとしては、普通、早強、中庸熱、耐硫酸塩等の各種ポルトランドセメントや、ビーライトセメント、鉱物質微粉末である高炉水砕スラグ、フライアッシュ等を添加した混合セメント、アルミネート鉱物を添加した速硬性セメント等が挙げられるが、高流動コンクリートを得るためには、普通ポルトランドセメントを用いるのが望ましい。
【0023】
前記混和剤としては、AE剤、減水剤、AE減水剤、流動化剤、急結剤、促進剤、遅延剤等が挙げられるが、高流動コンクリートを得るためには、湿潤作用によりセメントの水和活性を高める効果を有し、所望の品質を満たすための単位水量、単位セメント量を減少させることのできる減水剤またはAE減水剤が好適に使用される。また、減水剤またはAE減水剤の添加量は前記汚泥焼却灰の比表面積と相関性を有することが分かっている。例えば、汚泥焼却灰の比表面積が小さくなると粘性(剪断抵抗性)が変動し、単位水量が同じであれば、減水剤又はAE減水剤を多く混入させなければならないことが判明している。
【0024】
なお、前記AE減水剤とは、減水剤のうち、コンクリート中に多数の微細な独立した空気泡を一様に分散させ、ワーカビリティ及び耐凍害性を向上させる効果を有するAE剤の作用をも兼ね備えたものをいう。
【0025】
前記減水剤、AE減水剤としては、リグニンスルホン酸系、アミノスルホン酸系、芳香族スルホン酸系、ポリカルボン酸系等のものが挙げられる。骨材の吸水率が大きい場合はスランプロスが大きくなる傾向があるので芳香族スルホン酸系またはポリカルボン酸系の減水剤を使用するのが望ましい。芳香族スルホン酸系減水剤としては、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物が、ポリカルボン酸系減水剤としては、分子構造中にカルボキシル基を持つ、アクリル酸誘導体の共重合物、無水マレイン酸共重合物が、夫々例として挙げられる。特に、ポリカルボン酸系減水剤は骨材中のセメントペースト部分への吸着量が少ないため、混和材への吸着量が増加し、少ない添加量で良好なワーカビリティが得られるので望ましい。
【0026】
前記ワーカビリティーは、高流動コンクリートとしての所望の品質を満たすようにするため、スランプフローが65±5cm、空気量2±1%の範囲内となるように配合を決定する。これら各指標値がこの範囲外であると、材料分離が生じたり未充填箇所が多くなるので好ましくない。前記スランプフローの求め方について補足的に説明すると、通常のフレッシュコンクリートのスランプ試験では、上端内径×下端内径×高さ=10×20×30cmのスランプコーンに試料を詰めた後、前記スランプコーンを引き上げて試料の頂部が当初に比して自重により沈下した値をスランプ値とする方法が採用されている。しかし、高流動コンクリートでは、この方法によりスランプ値を測定すると、スランプ値が上限を超えた範囲となる。したがって、スランプ試験時に試料が広がって円形状になったとき、長径方向とこれに直交する方向の径とを測定して両者の平均値を求め、これをスランプフローとして採用している。なお、配合設計の一例を表1に示す。無論高流動コンクリートの配合は表1に限定されるものでは無く、適宜配合設計の上で決定されるものである。
【0027】
【表1】

配合設計に当たっては、後の高流動コンクリートの製造時に詳細な配合設計を省略できるようにするために、年間を通して所要時期、例えば春夏秋冬毎に採取した汚泥焼却灰毎の比表面積と、フレッシュコンクリートに添加される混和剤の添加率との相関データを得ておく。このデータは、例えば春夏秋冬毎に計4種の汚泥焼却灰サンプルを用いた配合設計から得るようにしてもよい、さらに詳しく、月毎の汚泥焼却灰サンプルから得るようにしても良い。
【0028】
前記相関データが得られたならば、以降は、この相関データに基づいてフレッシュコンクリートに添加する混和剤の添加率を決定することにより高流動コンクリートを製造し、セグメント等のコンクリート二次製品を製造する。また、前記相関データ作成後においては、比表面積を測定しなくとも、採取した季節や月により、添加する混和剤の添加率を決定することとしても良い。
【実施例】
【0029】
(1)汚泥焼却灰の物理的試験と化学分析
特定の汚泥焼却施設より得られた汚泥焼却灰のうち、春(実施例1)、夏(実施例2)、秋(実施例3)、冬(実施例4)それぞれに得られたものをサンプルとして、物理試験及び化学分析を行った。その結果を物理試験結果については表2に、化学分析結果については表3に夫々示す。なお、同表において、JIS規格II級相当のフライアッシュ基準値を参考のために示しておく。
【0030】
【表2】

【表3】

表2及び表3の結果からも明らかな通り、乾燥密度及び化学成分に関してはどの季節における焼却灰においても大きな差異は無いが、比表面積に関しては寒い季節に採取したもの程大きくなる傾向があることが判明している。
(2)汚泥焼却灰の比表面積とフレッシュコンクリートに添加される混和剤添加率の相関性
前記各汚泥焼却灰を混和材として用いた場合のフレッシュコンクリートにおいて、各汚泥焼却灰を用いた場合の混和剤添加率を夫々求めておき、汚泥焼却灰の比表面積とフレッシュコンクリートに添加される混和剤の添加率の相関データを作成した。なお、混和剤としては、ポリカルボン酸系のAE減水剤を使用した。その結果を図1のグラフに示す。
【0031】
図1の結果からも明らかな通り、汚泥焼却灰の比表面積が大きくなるのに伴って混和剤の添加率を徐々に減らすべきであることが判明した。なお、本ケースでは、実試験において、汚泥焼却灰の比表面積が大きくなるのに伴って混和剤の添加率を徐々に減する傾向を示したが、配合条件によっては逆のケースもある。
【0032】
また、焼却灰の比表面積と混和剤の添加率との間には、混和剤の添加率をAdSA、比表面積をSSAとすると、下式(1)のような相関式が得られた。
【0033】
AdSA=−0.0001*SSA+1.9647(標準偏差R=0.6638)……(1)
続いて、この相関データに基づいて減水剤量を決定し、高流動コンクリートを製造した各ケースについて、スランプフロー、空気量を測定した結果を表4に示す。
【0034】
【表4】

表4の結果からも明らかな通り、相関データに基づいて混和剤添加率を決定し高流動コンクリートを製造した各ケースにおいて、詳細な配合設計を行わなくても、スランプフロー及び空気量の各管理項目を管理値内に収めることができ、大幅な省力化が図れるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】汚泥焼却灰の比表面積とフレッシュコンクリートに添加される混和剤添加率の相関データを示すグラフである。
【図2】汚泥焼却灰、石灰石微粉末のそれぞれを混和材とした場合のスランプフローの経時変化を示すグラフである。
【図3】汚泥焼却灰、石灰石微粉末のそれぞれを混和材とした場合の凝結試験結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水汚泥を焼却して得られた汚泥焼却灰をコンクリート混和材として用いたコンクリート二次製品の製造方法において、
汚泥焼却施設より年間を通して得られた、比表面積の異なる各汚泥焼却灰を使用した場合の配合設計により、前記汚泥焼却灰の比表面積とフレッシュコンクリートに添加される混和剤添加率との相関データを得ておき、
以降は、前記コンクリート二次製品の製造にあたり、前記相関データに基づいて、フレッシュコンクリートに添加する混和剤の添加率を決定することを特徴とするコンクリート二次製品の製造方法。
【請求項2】
前記混和剤は、減水剤又はAE減水剤とする請求項1記載のコンクリート二次製品の製造方法。
【請求項3】
前記コンクリート二次製品は高流動コンクリートを用いた製品であり、前記混和剤の添加率は、スランプフローが65±5cm、空気量2±1%を満足するように配合決定された請求項1、2いずれかに記載のコンクリート二次製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−1785(P2006−1785A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179576(P2004−179576)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000172813)佐藤工業株式会社 (73)
【出願人】(590002208)横浜市 (13)
【出願人】(000228660)日本コンクリート工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】