説明

コンクリート体の補修方法

【課題】コンクリート体のひび割れに対するより信頼性の高い補修方法、就中、漏水が発生している場合であっても補修剤が溶解したり流出したりし難く、補修剤を充填し易くし、補修剤が硬化した後もひび割れ部分の内部で強固にコンクリートと付着する補修方法を提供すること。
【解決手段】ひび割れ部分11を有するコンクリート体10の補修方法であって、コンクリート体10のひび割れ部分11の近傍の表面から始まってコンクリート体10内部でひび割れ部分11を貫通する注入孔を設定する工程と、液状化したホットメルト接着剤を注入孔から注入してひび割れ部分の内部にまで充填する工程と、充填したホットメルト接着剤を冷却固化する工程と、を有する前記補修方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート体の補修方法に関する。より詳しくは、本発明は、コンクリート体に発生したひび割れ部分を適切に補修することができる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート体のひび割れを補修する方法に関する従来技術として、特許文献1および非特許文献1によれば、コンクリート体のひび割れ部分の上に、間隔をあけてシールを施し、未シール箇所に注入用パイプを固設し、予め補修剤を充填した注入器のノズルを注入用パイプに連結させ、注入器に充填された補修剤をバネやゴム等の反発力を利用して注入用パイプを介してひび割れ内に補修剤を導入する方法が提案されている。この場合、補修剤としては、粘度が低いエポキシ樹脂、アクリル樹脂、セメントスラリー、珪酸塩系水溶液が多く用いられる。
【0003】
別の従来技術として、特許文献2によれば、コンクリート体のひび割れによる漏水を止水することを主目的とする補修技術が提案されている。コンクリート体のひび割れに対して、コンクリート体表層から所定の角度に止水剤注入孔をひび割れに貫通するように削孔し、続いてその注入孔に注入プラグを設置し、補修剤をその注入プラグを介して加圧注入し、補修剤をひび割れに導入する。この場合の補修剤としては、主に親水性一液型ポリウレタンプレポリマーが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第1387479号公報
【特許文献2】特開2004−251010号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】東洋経済新報社発行「接着剤の実際知識」、132頁、9.10.4コンクリートの亀裂補修
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および非特許文献1の技術に関して、補修剤としてエポキシ樹脂やアクリル樹脂を使用した場合は、ひび割れ内のコンクリートと強固に接着し補強効果は高い。しかし、ひび割れ部分におけるコンクリート面が湿潤していたり、漏水している場合には、硬化する前に補修剤が溶解したり流出してしまうこともある。また、そういった補修剤は、ひび割れ内のコンクリートに強固に接着するが、コンクリート体全体として考慮した場合、コンクリートの凝集力を大きく超える接着力は必要がなく過剰品質である。また、コンクリート体にひび割れを発生させた原因が応力の場合、補修後、再度その応力を受けた場合、補修箇所以外の新たな箇所で、ひび割れが再度発生してしまう恐れがある。さらに、補修剤のエポキシ樹脂やアクリル樹脂の硬化時間は半日以上掛かる。補修剤が硬化するまでは、シールや注入器を除去することができず、補修完了まで多くの時間を費やすので、経済的では無い。
【0007】
特許文献2の技術に関して、漏水するコンクリート体のひび割れに対して、親水性一液型ポリウレタンプレポリマーを充填し止水する方法は、一時的な止水のみを目的とした場合は優れた効果がある。しかし、親水性一液型ポリウレタンプレポリマーは水と反応して発泡し、セル状に硬化する。そのため、凝集力およびコンクリートに対する接着力が弱く、長期的安定性に問題がある。また、漏水の流水量が大きい場合は、親水性一液型ポリウレタンプレポリマーが発泡する前に押出されてしまったり、発泡しても初期的付着力が無く、泡の物理的強度が乏しい為に破壊され、漏水が止まらない場合がある。
【0008】
上記の問題を鑑み、本発明は、コンクリート体のひび割れに対するより信頼性の高い補修方法、就中、漏水が発生している場合であっても補修剤が溶解したり流出したりし難く、補修剤を充填し易くし、補修剤が硬化した後もひび割れ部分の内部で強固にコンクリートと付着する補修方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、以下のような本発明を完成した。
(1)ひび割れ部分を有するコンクリート体の補修方法であって、コンクリート体のひび割れ部分の近傍の表面から始まってコンクリート体内部でひび割れ部分を貫通する注入孔を設定する工程と、液状化したホットメルト接着剤を注入孔から注入してひび割れ部分の内部にまで充填する工程と、充填したホットメルト接着剤を冷却固化する工程と、を有する前記補修方法。
(2)ホットメルト接着剤が反応性ホットメルト接着剤である(1)の補修方法。
(3)反応性ホットメルト接着剤が主成分としてイソシアネート末端ポリウレタンを含む(2)の補修方法。
(4)液状化したホットメルト接着剤の粘度が120℃において6000mPa・s以下である(1)〜(3)のいずれかの補修方法。
(5)注入孔が直径6mm以上の円筒状である(1)〜(4)のいずれかの補修方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ひび割れ部分が漏水している場合でも、ホットメルト接着剤自体の凝集力によりひび割れ部分に留まるため、溶解したり、流失してしまい難く、止水効果に優れる。ホットメルト接着剤は大きく発泡せず、凝集力と接着力が高く、ひび割れ補修効果に優れる。ホットメルトアプリケーションからホットメルト接着剤が押出される際の一時的な高圧によるひび割れ部分への加圧充填に加えて、ホットメルト接着剤が加圧された状態で注入孔の内部に蓄積される為に生じるエントロピー弾性によって、ホットメルト接着剤の可使時間内において、低圧でひび割れ深部までホットメルト接着剤が加圧充填される。ホットメルト接着剤を加圧充填した後、コンクリート体のひび割れ部分から流出するホットメルト接着剤は直ちに冷却して固化するから、作業時間および補修完了までの時間が短く経済的である。
【0011】
ホットメルト接着剤が反応性ホットメルト接着剤である場合には、コンクリート体のひび割れに対して、時間が経過するほど強固に接着し、ひび割れにおける長期的な止水効果、ひび割れ補修効果に優れる。さらに、反応性ホットメルト接着剤がイソシアネート末端ポリウレタンを主成分として含む場合には、プレポリマーであるイソシアネート末端ポリウレタンのイソシアネート基が、コンクリートひび割れ中に存在する水分と反応して第1級アミンを生成し、さらにイソシアネート基が第1級アミンと反応して尿素結合を介して架橋して、高分子量化するために、接着強度に優れる。
【0012】
液状化したホットメルト接着剤の粘度が120℃にて6000mPa・s以下であれば、コンクリート体に生じた微細なひび割れ部分の深部にまで加圧充填され易いから、補修効果に優れる。
【0013】
注入孔が6mm以上の直径を有する円筒状であれば、注入孔に充填されるホットメルト接着剤の体積に比べて注入孔の壁面の表面積が小さいので、液状化したホットメルト接着剤に蓄熱された熱が注入孔周囲のコンクリート体に急激には奪われず、コンクリート体のひび割れ部分へ、ホットメルト接着剤が充分に充填され補修効果に優れるるとともに、注入孔に充填されるホットメルト接着剤の体積が、ひび割れへ充填されるホットメルト接着剤より十分に大きい為に、注入孔に加圧充填されたホットメルト接着剤のエントロピー弾性の作用がはたらいて、コンクリートひび割れの深部までホットメルト接着剤が充填され補修効果に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の補修方法による補修の対象物である、ひび割れ部分を有するコンクリート体の模式図である。図1(A)は断面図であり、図1(B)は正面図である。
【図2】注入孔を設定したコンクリート体の模式図である。図2(A)は断面図であり、図2(B)は正面図である。
【図3】ホットメルト接着剤を注入孔へ注入する工程の模式断面図である。
【図4】充填したホットメルト接着剤を冷却固化する工程の模式断面図である。
【図5】本発明による補修方法を適用した後のコンクリート体の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明を詳述する。しかし、本発明は図示された態様に限定されない。
【0016】
図1は本発明の補修方法による補修の対象物である、ひび割れ部分11を有するコンクリート体10の模式図である。図1(A)は断面図であり、図1(B)はその正面図である。
【0017】
本発明の補修方法を適用するコンクリート体10の種類は特に限定無く、種々の材質、用途のものに対して適用することができ、コンクリート体10が設けられている場所や環境なども特に限定は無い。また、本発明の補修方法によって補修するひび割れ部分11についても特に限定は無く、コンクリート体10に生じるひび割れ部分11全般を対象とすることができる。
【0018】
ひび割れ部分11のひびの幅が例えば0.5〜1.0mmになるように調節してもよく、そのために、従来公知のスペーサー12など差し込んでもよい。上記のような幅のひび割れ部分11には、ホットメルト接着剤を充填し易い。
【0019】
図2は注入孔20を設定したコンクリート体10の模式図である。図2(A)は断面図であり、図2(B)は正面図である。
【0020】
注入孔20はコンクリート体10のひび割れ部分11の近傍の表面から始まる。注入孔20はコンクリート体10の内部でひび割れ部分11を貫通する。言い換えると、コンクリート体10の内部で、注入孔20とひび割れ部分11とが交差して、注入孔20の空間部分とひび割れ11の空間部分とが互いに通じている。後述するホットメルト接着剤を注入することができれば、注入孔20の形状は特に限定はない。注入孔20は好ましくは円筒状であり、その断面の直径は好ましくは6mm以上であり、より好ましくは6〜30mmである。注入孔の直径が大きければ、注入孔の体積に対するコンクリート体10との表面積が小さくなり、注入孔20に注入されるホットメルト接着剤の熱は徐々にコンクリート体10に吸収されるからホットメルト接着剤が不所望に早く冷却固化する懸念が少ない。一方、補修後に注入孔20に残留するホットメルト接着剤の量が少なくて経済的に有利であるという観点からは、注入孔20の直径が小さいことが好ましい。
【0021】
注入孔20は公知の削孔機を用いて削孔することにより設定できる。コンクリート体10の表面上でひび割れ部分11と注入孔20とが一体化せず、後述するホットメルトアプリケーターを設置し得る範囲内で、ひび割れ部分11になるべく近いところから注入孔20を設定し始めることが好ましい。注入孔20がひび割れ部分11を貫通していることを確認するために、注入孔20に水を加圧注入してみることも好適である。
【0022】
注入したホットメルト接着剤が直ちに固化してしまわぬように、高温の空気や蒸気を通入して注入孔20、ひび割れ部分11に面しているコンクリート体10を昇温させることが好ましい。とりわけ、コンクリート体10が低温である場合には上記のような処理がより好ましい。
【0023】
図3はホットメルト接着剤を注入孔へ注入する工程の模式断面図である。ホットメルトアプリケーター30を用いて、液状化したホットメルト接着剤40を注入孔20から注入する。ゴム弾性を有するパッキング材等を介してホットメルトアプリケーター30の注入口を注入孔20に直接押し付けることによって注入孔20とホットメルトアプリケーター30とを接続してもよいし、注入したホットメルト接着剤40が逆流しないように、公知の注入プラグ(図示せず)を予め注入孔20に接続しておくことも可能である。ホットメルトアプリケーターは公知のものを特に制限なく用いることができる。ホットメルト接着剤40は液状化した状態で注入孔20の中へ加圧充填され、コンクリート体10の内部で交差しているひび割れ部分11にも充填される。
【0024】
本発明で用いるホットメルト接着剤は、常温では固形または半固形であり、加熱すると液状化し、用時には加熱して液状化した際に適用されて、冷却により固化し接着が完了する接着剤であり、一般的には熱可塑性樹脂を主成分としており、通常は溶剤フリーである。ホットメルト接着剤の種類や主成分などは特に限定されず、例えば、ウレタン系、シリコン系、オレフィン系、エチレン酢酸ビニル共重合体系、各種ゴム系などが挙げられる。
【0025】
好ましくは、ホットメルト接着剤は反応性ホットメルト接着剤である。反応性ホットメルト接着剤は、ホットメルト接着剤のうち、化学反応による硬化をさらに利用するものである。化学反応による硬化は、例えば湿気・光・触媒などによって開始される。反応性ホットメルト接着剤は公知のものを利用することができ、典型例は、主成分としてイソシアネート末端ポリウレタンを含むものである。他に、アルコキシシリル基末端や、アクリロイル基末端などがある。
【0026】
液状化したホットメルト接着剤の粘度は120℃において好ましくは10000mPa・s以下であり、より好ましくは6000mPa・s以下である。粘度が低いと、注入孔20やひび割れ部分11の内部へと充填されやすい。一方、止水性や、接着剤硬化後の皮膜物性の観点からは、液状化したホットメルト接着剤の粘度は120℃において好ましくは2000mPa・s以上である。上記範囲内の粘度をもつホットメルト接着剤としては、市販されているものとして、ハイボンXU057−1(日立化成ポリマー社製)、ハイボンXU057−2(日立化成ポリマー社製)、ハイボンYR043−1(日立化成ポリマー社製)などが挙げられる。
【0027】
充填したホットメルト接着剤40が、コンクリート体10の表面のひび割れ部分11から流出することを確認することが好ましい。その後、ホットメルト接着剤40の注入を止め、ひび割れ部分11内に充填したホットメルト接着剤40を冷却して固化させる。図4は充填したホットメルト接着剤を冷却固化する工程の模式断面図である。冷却の方法は特に限定無く、好ましくは、金属冷却板50を押し付けることによって行う。ホットメルト接着剤40を冷却固化させる方法は、金属冷却板50を押し付け固化させる方法の他に、冷水(図示せず)をホットメルト接着剤に直接的に接触させたり、冷水が循環するホース等を押し付けたりする方法も可能であり、状況に応じて、適宜、種々の方法を選択して実施することが可能である。ホットメルト接着剤40を加圧充填する前に金属冷却板50等を予め設置しておくことも可能である。ひび割れ部分11からコンクリート体10の外部に流出するホットメルト接着剤40を自然冷却によって固化させることも可能である。注入した補修剤をひび割れから流出させない公知のシールを予め施しておいてもよい。但し、特開平6-212812「ホットメルトタイプ接着剤の目止めに依る接着剤注入工法」に記載されている技術は、流出するホットメルト接着剤40の熱によりシール材が溶融してしまう恐れがあるため好ましくない。
【0028】
図5は本発明による補修方法を適用した後のコンクリート体10の模式断面図である。ホットメルト接着剤40が固化し、ひび割れ部分11からホットメルト接着剤40が流出しないことを確認したら、金属冷却板を外してもよく、これによってひび割れの補修を完了することができる。注入孔20に充填したホットメルト接着剤40が、コンクリート表面より凹んでいる場合や、漏出してしまいコンクリート表面に付着してしまっている場合は、速硬セメントにより凹部を充填して平滑にしたり、ディスクサンダーにより付着物を除去する等、適時、公知のコンクリート表面を平滑にする技術により平滑に処理することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によればひび割れ部分を有するコンクリート体の補修が容易かつ効果的になり、補修工事等への利用が期待される。
【符号の説明】
【0030】
10 コンクリート体
11 ひび割れ部分
12 スペーサー
20 注入孔
30 ホットメルトアプリケーター
40 ホットメルト接着剤
50 金属冷却板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ひび割れ部分を有するコンクリート体の補修方法であって、
コンクリート体のひび割れ部分の近傍の表面から始まってコンクリート体内部でひび割れ部分を貫通する注入孔を設定する工程と、
液状化したホットメルト接着剤を注入孔から注入してひび割れ部分の内部にまで充填する工程と、
充填したホットメルト接着剤を冷却固化する工程と、を有する前記補修方法。
【請求項2】
ホットメルト接着剤が反応性ホットメルト接着剤である請求項1記載の補修方法。
【請求項3】
反応性ホットメルト接着剤が主成分としてイソシアネート末端ポリウレタンを含む請求項2記載の補修方法。
【請求項4】
液状化したホットメルト接着剤の粘度が120℃において6000mPa・s以下である請求項1〜3のいずれかに記載の補修方法。
【請求項5】
注入孔が直径6mm以上の円筒状である請求項1〜4のいずれかに記載の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−270534(P2010−270534A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124479(P2009−124479)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【出願人】(000233170)日立化成ポリマー株式会社 (75)
【出願人】(508009493)有限会社アズモ技研 (6)
【Fターム(参考)】