説明

コンクリート充填鋼管柱

【課題】火災時における耐力の急激な低下が抑制されたコンクリート充填鋼管柱を得ることを目的とする。
【解決手段】鋼管本体部12Bにおける鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14には、端部補強部材としての複数の補強鉄筋20が埋設されている。各補強鉄筋20は、軸方向を柱鋼管12の軸方向にすると共に、柱鋼管12の周方向に所定の間隔を空けて配列され、各々の上端部が内ダイアフラム18に溶接等で接合されている。また、鋼管本体部12Bの幅をDとしたときに、各補強鉄筋20の長さLは、鋼管本体部12Bの幅Dの1.0倍以上とされている。これらの補強鉄筋20によって鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14が補強されると共に、内ダイアフラム18及び補強鉄筋20を介して鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14と鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14との間で曲げモーメントが伝達されるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート充填鋼管柱に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管内にコンクリートが充填されたコンクリート充填鋼管(CFT(Concrete Filled Steel Tube))柱が知られている。CFT柱では、一般に、中空の鋼管柱と比較して負担可能な軸力(負担軸力)が大きく、またコンクリートが充填されている分、熱容量が増加するため、耐火性能に優れている。そのため、設計条件(例えば、柱の負担軸力が比較的小さく火災継続時間が短い場合など)によっては、CFT柱の耐火被覆を省略することが可能である。
【0003】
ここで、特許文献1に開示された技術では、鋼管の内周面に、当該鋼管の軸方向へ延びるリブ(フラットバー)が点溶接で取り付けられている。そして、火災時に、鋼管とコンクリートとの熱膨張差によってコンクリートに発生する軸方向の引張り力にリブを抵抗させ、コンクリートのひび割れを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−204993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、耐火性能(耐火時間)は向上するものの、鋼管に局部座屈が発生すると、CFT柱の耐力が急激に低下し、変形が過大となる。
【0006】
本発明は、上記の事実を考慮し、火災時における耐力の急激な低下が抑制されたコンクリート充填鋼管柱を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載のコンクリート充填鋼管柱は、水平部材が接合される上下の鋼管仕口部と、前記鋼管仕口部間に延びる鋼管本体部と、を有する柱鋼管と、前記柱鋼管内に充填された充填コンクリートと、前記充填コンクリートに埋設され、前記鋼管本体部における軸方向中間部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力に対し、該鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力が大きくなるように該充填コンクリートを補強する補強手段と、を備えている。
【0008】
請求項1に係るコンクリート充填鋼管柱によれば、充填コンクリートに埋設された補強手段によって、鋼管本体部における軸方向中間部内の充填コンクリートの曲げ耐力に対し、鋼管本体部における軸方向端部内の充填コンクリートの曲げ耐力が大きくなるように充填コンクリートが補強されている。これにより、鋼管本体部の軸方向端部に局部座屈が発生しても、当該軸方向端部内の充填コンクリートが曲げモーメントを負担すると共に、局部座屈によって生じる圧縮力に抵抗することで、充填コンクリートの圧壊を防ぐことができる。この結果、鋼管本体部の軸方向端部は、局部座屈後も軸力を負担することが可能となり、また、その軸力を鋼管の軸方向中央部に円滑に伝達することが可能となる。従って、火災時におけるコンクリート充填鋼管柱の局部座屈後の急激な耐力低下(崩壊)が抑制される。
【0009】
更に、鋼管本体部の全長に渡って充填コンクリートを同じ曲げ耐力で補強する構成と比較して、施工性の向上、及びコスト削減を図ることができる。
【0010】
請求項2に記載のコンクリート充填鋼管柱は、請求項1に記載のコンクリート充填鋼管柱において、前記補強手段が、前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートに埋設され、前記鋼管仕口部内の前記充填コンクリートとの間で曲げモーメントを伝達する端部補強部材を有し、前記端部補強部材の前記鋼管本体部の軸方向に沿った長さが、該鋼管本体部の幅以上とされている。
【0011】
請求項2に係るコンクリート充填鋼管柱によれば、端部補強部材の鋼管本体部の軸方向に沿った長さを鋼管本体部の幅以上としたことにより、材料コストを削減しつつ、鋼管本体部における軸方向端部の局部座屈の発生を抑制することができる。鋼管本体部の軸方向端部では、前述した端部補強部材の長さの領域内において局部座屈が発生し易いためである。
【0012】
請求項3に記載のコンクリート充填鋼管柱は、請求項2に記載のコンクリート充填鋼管柱において、前記端部補強部材が、前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力が前記鋼管仕口部から前記鋼管本体部の軸方向中間部に向うに従って小さくなるように該充填コンクリートに埋設されている。
【0013】
請求項3に係るコンクリート充填鋼管柱によれば、端部補強部材によって、鋼管本体部における軸方向端部内の充填コンクリートの曲げ耐力が、鋼管仕口部から鋼管本体部の軸方向中間部に向うに従って小さくなるように補強されている。これにより、応力状態に応じた最適な補強を行うことで、過剰な補強を無くすことができ、施工性の向上とコスト削減を図ることができる。
【0014】
なお、ここでいう「充填コンクリートの曲げ耐力が鋼管仕口部から鋼管本体部の軸方向中間部に向うに従って小さくなるように」は、充填コンクリートの曲げ耐力を鋼管仕口部から鋼管本体部の軸方向中間部に向けて段階的に小さくする構成や、徐々に小さくする構成を含む概念である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、上記の構成としたので、火災時における耐力の急激な低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るコンクリート充填鋼管柱を示す縦断面図である。
【図2】(A)は図1の一部拡大図であり、(B)は図2(A)の2B−2B線断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るコンクリート充填鋼管柱の応力状態を示す図1に相当する縦断面図である。
【図4】一般的なコンクリート充填鋼管柱と梁で構成された架構を示す立面図であり、(A)は火災前の状態を示し、(B)は火災後の状態を示している。
【図5】一般的なコンクリート充填鋼管柱の耐火性能評価に用いられる実験評価モデルを示すモデル図であり、(A)は水平力を載荷する前の状態を示し、(B)は水平力が載荷された際のコンクリート鋼管柱の変形状態、及び応力状態を示し、(C)はコンクリート鋼管柱の構成する鋼管に局部座屈が発生した状態を示している。
【図6】(A)及び(B)は、本発明の一実施形態における端部補強部材の変形例を示す図2(B)に相当する拡大図である。
【図7】(A)は、本発明の一実施形態における端部補強部材の変形例を示す図2(A)に相当する拡大図であり、(B)は図7(A)の7B−7B線断面図である。
【図8】(A)は、本発明の一実施形態における端部補強部材の変形例を示す図2(A)に相当する拡大図であり、(B)は図8(A)の8B−8B線断面図である。
【図9】(A)は、本発明の一実施形態における端部補強部材の変形例を示す図2(A)に相当する拡大図であり、(B)は図9(A)の9B−9B線断面図である。
【図10】(A)は、本発明の一実施形態における端部補強部材の変形例を示す図2(A)に相当する拡大図であり、(B)は図10(A)の10B−10B線断面図である。
【図11】(A)は、本発明の一実施形態における端部補強部材の変形例を示す図2(A)に相当する拡大図であり、(B)は図11(A)の11B−11B線断面図である。
【図12】(A)は、本発明の一実施形態における端部補強部材の変形例を示す図2(A)に相当する拡大図であり、(B)は図12(A)の12B−12B線断面図である。
【図13】(A)及び(B)は、本発明の一実施形態における端部補強部材の変形例を示す図1の一部拡大図に相当する拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るコンクリート充填鋼管柱について説明する。なお、各図において適宜示される矢印Zは、本実施形態における柱鋼管の軸方向(上下方向)を示している。
【0018】
図1には、一実施形態に係るコンクリート充填鋼管柱10が示されている。コンクリート充填鋼管柱10は、柱鋼管12と、柱鋼管12内に充填される充填コンクリート14と、補強手段としての補強鉄筋20と、を備えている。柱鋼管12は角形鋼管で構成されており、水平部材としての鉄骨梁16が接合される上下の鋼管仕口部12Aと、これらの鋼管仕口部12A間に延びる鋼管本体部12Bを有している。
【0019】
鉄骨梁16はH形鋼で構成され、上下一対のフランジ部16Aとフランジ部16Aを繋ぐウェブ部16Bを有し、その端部が鋼管仕口部12Aの外側面に突き当てられて溶接されている。一方、鋼管仕口部12Aの内壁面には、上下一対の内ダイアフラム18が設けられている。各内ダイアフラム18は、鉄骨梁16のフランジ部16Aと連続するように設けられており、この内ダイアフラム18によって鋼管仕口部12Aが補強されている。また、各内ダイアフラム18の中央部には充填孔18Aが形成されており、これらの充填孔18Aを通して柱鋼管12内に充填コンクリート14が充填されるようになっている。
【0020】
ここで、上下の鉄骨梁16の間にある鋼管本体部12B内に充填された充填コンクリート14は、複数の補強鉄筋20によって鋼管本体部12Bにおける軸方向中間部としての鋼管中間部12BM内の充填コンクリート14の曲げ耐力に対し、軸方向端部としての鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BL内の充填コンクリート14の曲げ耐力が大きくなるように補強されている。
【0021】
具体的には、図2(A)及び図2(B)に示されるように、鋼管本体部12Bにおける鋼管上端部(柱頭部)12BU内の充填コンクリート14には、端部補強部材としての複数(本実施形態では、4本)の補強鉄筋20が埋設されている。各補強鉄筋20は、軸方向を柱鋼管12の軸方向(矢印Z方向)にすると共に、柱鋼管12の周方向に所定の間隔を空けて配列され、各々の上端部が内ダイアフラム18に溶接等で接合されている。また、鋼管本体部12Bの幅(柱せい)をDとしたときに、各補強鉄筋20の長さL(鋼管本体部12Bの軸方向に沿った長さ)が、鋼管本体部12Bの幅Dの1.0倍以上とされている。これらの補強鉄筋20によって鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14が補強されると共に、内ダイアフラム18及び補強鉄筋20を介して鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14と鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14との間で曲げモーメントが伝達されるようになっている。これと同様に、図1に示されるように、鋼管下端部(柱脚部)12BL内の充填コンクリート14は、複数の補強鉄筋20によって補強されている。
【0022】
一方、鋼管本体部12Bにおける鋼管中間部12BM内の充填コンクリート14は、補強鉄筋20によって補強されていない。これにより、鋼管中間部12BM内の充填コンクリート14の曲げ耐力に対し、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BL内の充填コンクリート14の曲げ耐力が大きくなっている。
【0023】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0024】
図3に示されるように、例えば、火災時に鉄骨梁16が熱膨張によって軸方向(水平方向)へ伸張すると、鋼管仕口部12Aに水平力Fが作用し、鋼管本体部12Bに曲げモーメントMが発生する。この曲げモーメントMは、鋼管中間部12BMから鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLに向って徐々に大きくなる。一方、柱鋼管12は、火災時に熱膨張によって軸方向(矢印Z方向)へ伸張するが、温度上昇に伴う剛性の低下によって軸方向への伸張は徐々に小さくなり、ある温度に達すると軸方向への伸張変形は止まり、収縮変形に転じる。この状態で、鉄骨梁16から鋼管仕口部12Aへ水平力Fが作用すると、前述したように鋼管中間部12BMと比較して大きな曲げモーメントが発生する鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLの圧縮側(矢印C側)側面に局部座屈Kが発生し易くなる。特に、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLが鋼管仕口部12Aを介して鉄骨梁16に剛接合されていて、かつ、鉄骨梁16の軸方向への伸張量が大きい場合は、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLに大きな曲率を伴う変形が生じる。この変形により鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLの圧縮側(矢印C側)側面に大きな圧縮応力度が発生し、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLに局部座屈Kが生じる。
【0025】
鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLに局部座屈が発生すると、コンクリート充填鋼管柱10の曲げ剛性は著しく低下する。コンクリート充填鋼管柱10に作用する軸力(鉛直荷重)Vが大きい場合は、局部座屈Kの発生後、曲げモーメントMによる変形が急激に進展し、局部座屈K側の充填コンクリート14に圧壊を生じる。この結果、コンクリート充填鋼管柱10は荷重支持能力を喪失し、脆性的に崩壊に至る場合がある。
【0026】
この対策として本実施形態では、補強鉄筋20によって鋼管中間部12BM内の充填コンクリート14の曲げ耐力に対し、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BL内の充填コンクリート14の曲げ耐力が大きくなるように充填コンクリート14を補強している。これにより、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLに局部座屈Kが発生しても、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BL内の充填コンクリート14が曲げモーメントMを負担すると共に、局部座屈Kによって生じる圧縮力に抵抗することで、充填コンクリート14の圧壊が抑制される。この結果、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLが局部座屈Kの発生後も軸力Vを負担することが可能となり、また、その軸力Vを柱鋼管12の鋼管中間部12BMに円滑に伝達することが可能となる。従って、火災時におけるコンクリート充填鋼管柱10の局部座屈K発生後の急激な耐力低下(崩壊)が抑制される。なお、せん断力は、柱鋼管12及び充填コンクリート14の残存せん断耐力と補強鉄筋20のダボ効果によって伝達される。
【0027】
また、本実施形態に係るコンクリート充填鋼管柱10では、鋼管本体部12Bの全長に渡って充填コンクリート14を同じ曲げ耐力で補強する構成と比較して、施工性の向上、工期短縮、及びコスト削減を図ることができる。更に、補強鉄筋20を設ける範囲を鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLに限定することにより、工場等で内ダイアフラム18に補強鉄筋20を予め接合することができるため、現場での接合作業を省略することができる。
【0028】
ここで、図4(A)には、一般的なコンクリート充填鋼管柱からなる柱100と梁102A,102Bとで構成された架構の一例が示されている。この架構内で、例えば図4(B)に示されるように火災104が発生すると、梁102Aが水平方向(矢印J方向)に伸び出すため、柱100に同図に示されるような変形が生じる。
【0029】
また、図5(A)には、一般的なコンクリート充填鋼管柱からなる柱110の耐火性能評価に用いられる実験評価モデルが示されている。この実験評価モデルでは、加熱時に、図5(B)に示されるような変形状態、応力状態を示すことから、図4(B)に示される柱100の変形状態、応力状態を適切に模擬することができると言われている。そこで、図5(A)に示される実験評価モデルを用いて載荷加熱実験を行ったところ、以下に示す新たな知見が得られた。
【0030】
即ち、加熱された柱110の柱上端部に生じる水平変位(水平力F)が大きい場合や柱110に生じる軸力Vが大きい場合は、図5(C)に示されるように、柱110を構成する柱鋼管の上端部及び下端部に局部座屈Kを生じることが確認された。また、加熱時間が比較的短く、柱110の充填コンクリートが十分耐力を残している状態であっても、柱110は前述した柱鋼管の局部座屈Kによって荷重支持能力を喪失し、崩壊することが確認された。
【0031】
本実施形態に係るコンクリート充填鋼管柱10を例により具体的に説明すると、局部座屈Kに関しては以下のことが確認された。即ち、鋼管本体部12Bの幅をD(図2(B)参照)としたときに、鋼管上端部12BUにおける局部座屈Kは、その上端から2Dまでの領域内で発生し易く、特に、上端からDの領域内で発生し易い。これと同様に、鋼管下端部12BLにおける局部座屈Kは、その下端から2Dまでの領域内で発生し易く、特に、下端からDの領域内で発生し易い。
【0032】
従って、局部座屈Kの発生を抑制する観点からすると、補強鉄筋20の長さLはD以上が好ましく、2D以上がより好ましい。更に、施工性、材料コストを考慮すると、補強鉄筋20の長さLはD≦L≦2Dとすることが望ましい。これにより、補強鉄筋20の材料コストを削減しつつ、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLの局部座屈Kの発生を抑制することができる。
【0033】
なお、前述した局部座屈Kによる破壊はこれまで実験で確認されなかった現象である。これまでは柱110の断面を小断面(例えば、300mm×300mm程度)で実施してきたが、前述した局部座屈Kが確認された実験では、柱110の断面を大面積(600mm×600mm)で実施している。柱鋼管の上端部及び下端部に発生する圧縮ひずみは、柱110の中立軸位置から柱鋼管までの距離に比例して大きくなる。断面が大きくなれば、柱鋼管に生じる圧縮ひずみもこれに比例して大きくなる。このため、火災によって大断面の柱(例えば、600mm×600mm以上)の柱上端部に大きな水平力が生じると、柱の上端部及び下端部には大きな圧縮ひずみが発生する。前述の実験では、柱鋼管に生じた圧縮ひずみが当該柱鋼管の局部座屈に対する許容圧縮ひずみを超過したために発生したものと考えられる。この圧縮ひずみは、長期軸力に起因する長期圧縮ひずみε1と、梁の伸長による強制変形(水平力F)に起因する圧縮ひずみε2と、同梁の伸長による付加曲げモーメントに起因する圧縮ひずみε3の和と考えることも可能である。
【0034】
なお、本実施形態のように鋼管仕口部12Aの両側に鉄骨梁12が接合される構成では、各鉄骨梁12の伸長に伴って鋼管仕口部12Aの両側に反対向きの水平力が作用するため、これらの水平力が打ち消し合う。従って、前述した圧縮ひずみε2,ε3が小さくなり易い。一方、外周柱のように、鋼管仕口部12Aの片側にのみ鉄骨梁16が接合される構成では、上記圧縮ひずみε2,ε3が大きくなり易い。特に、鋼管仕口部12Aの片側に接合される鉄骨梁16の梁スパンが長くなると(例えば、10mm以上)、火災時における鉄骨梁16の伸長量が増加し、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLの水平変位(強制変形)が大きくなるため(例えば、1/50rad以上)、上記圧縮ひずみε2,ε3が過大となる可能性がある。本実施形態は、このように鋼管仕口部12Aの片側に、若しくは鋼管仕口部12Aに3方向から鉄骨梁16が接合されるコンクリート充填鋼管柱の補強に適している。
【0035】
なお、補強鉄筋20の本数や配置(ピッチ)は、適宜変更可能である。例えば、図6(A)に示されるように、平面視にて補強鉄筋20を円形状に配置しても良いし、図6(B)に示されるように、平面視にて補強鉄筋20を角形状に配置しても良い。
【0036】
次に、端部補強部材の変形例について説明する。なお、以下に説明する変形例では、柱鋼管12内に充填される充填コンクリート14(図1参照)の図示を適宜省略している。また、以下では、各種の変形例を鋼管上端部12BUに適用した場合を例に説明するが、これらの変形例は鋼管下端部12BLにも適用可能である。
【0037】
先ず、図7(A)及び図7(B)に示される変形例では、端部補強部材として、長さが異なる2種類の補強鉄筋22,24が用いられている。具体的には、補強鉄筋22は、その長さLが補強鉄筋24の長さLの略半分とされている。これらの補強鉄筋22,24は、軸方向を柱鋼管12の軸方向(矢印Z方向)にすると共に、柱鋼管12の周方向に所定の間隔を空けて交互に配列され、各々の上端部が内ダイアフラム18に溶接等で接合されている。これにより、鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14の曲げ耐力が、鋼管仕口部12Aから鋼管中間部12BMに向って段階的に小さくなっている。
【0038】
このように補強鉄筋22,24の長さを変え、鋼管上端部12BUに作用する曲げモーメントM(図3参照)に応じて鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14の曲げ耐力を鋼管仕口部12Aから鋼管中間部12BMに向って段階的に小さくすることにより、過剰な補強を無くすことができる。従って、補強鉄筋22,24の材料コストを削減することができる。
【0039】
また、全ての補強鉄筋20の長さLを略同じにした上記実施形態(図1参照)では、鋼管上端部12BUの曲げ剛性が鋼管中間部12BMの曲げ剛性に比べて大きくなるため、鋼管上端部12BUと鋼管中間部12BMの境界面付近(補強鉄筋20の先端付近)を中心とした回転変形(大きな曲率を伴う曲げ変形)が生じ、上記境界面付近の鋼管中間部12BMに応力が集中する。鉄骨梁16の軸方向(水平方向)への伸び出し量やコンクリート充填鋼管柱10の負担軸力が大きい場合は、上記境界面付近の鋼管中間部12BMに局部座屈を生じる場合がある。
【0040】
これに対して本変形例では、鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14の曲げ耐力を鋼管仕口部12Aから鋼管中間部12BMに向って段階的に小さくすることにより、鋼管上端部12BUと鋼管中間部12BMとの境界面付近(補強鉄筋24の先端付近)の鋼管中間部12BMの応力集中が低減される。従って、上記境界面付近の柱鋼管12の局部座屈の発生が抑制される。
【0041】
なお、本変形例では、鋼管上端部12BUに作用する曲げモーメントM(図3参照)に応じて、鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14の曲げ耐力を鋼管仕口部12Aから鋼管中間部12BMに向って段階的に小さくしたが、例えば、長さが異なる3種類以上の補強鉄筋を用いて、当該充填コンクリート14の曲げ耐力を鋼管仕口部12Aから鋼管中間部12BMに向って徐々に小さくしても良い。また、本変形例では、補強鉄筋22,24の長さを変えたが、補強鉄筋22,24の鉄筋径や材料強度を変えても良いし、長さ、鉄筋径、材料強度が異なる補強鉄筋を適宜組み合わせて用いても良い。
【0042】
次に、図8(A)及び図8(B)に示される変形例では、柱鋼管12の軸方向に間隔を空けて配列された複数のリング状のフープ筋26によって、補強鉄筋20が結束されている。これにより、鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14と鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14との間でより大きな曲げモーメントが伝達可能となる。従って、鋼管上端部12BUに作用する軸力が大きい場合や、鉄骨梁16の軸方向(水平方向)への伸び出しが過大となった場合でも、鋼管中間部12BMに軸力が円滑に伝達される。よって、上記実施形態(図1参照)と比較して、より高い軸力を負担することができる。
なお、フープ筋26の径や配置(ピッチ)は適宜変更可能である。また、フープ筋26はリング状ではなく、スパイラル状に配筋してもよい。
【0043】
次に、図9(A)及び図9(B)に示される変形例では、補強鉄筋20の先端部に、定着部材としての機械式定着34が設けられている。このように補強鉄筋20の先端部に機械式定着34を設けることにより、鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14と鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14との間で曲げモーメントがより円滑に伝達される。従って、上記実施形態(図1参照)と比較して、より高い軸力を負担することができる。
なお、定着部材としては、機械式定着34に替えて、例えば、定着板、プレートナット等を用いることができる。
【0044】
次に、図10(A)及び図10(B)に示される変形例では、端部補強部材として複数のL形鋼28が用いられている。各L形鋼28は、軸方向を柱鋼管12の軸方向(矢印Z方向)にすると共に、開口側を内側に向けて鋼管上端部12BUの各角部に配置されており、各々の上端部が内ダイアフラム18に溶接等で接合されている。また、各L形鋼28の長さLは、鋼管本体部12Bの幅Dの1.0倍以上とされている。
【0045】
このように端部補強部材をL形鋼28とすることにより、充填コンクリート14(図1参照)との接触面積を増加する。これにより、L形鋼28のダボ効果が向上するため、鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14と鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14との間でより大きな曲げモーメント、せん断力を伝達することができる。
【0046】
なお、L形鋼28の表面にスタッドや凹凸を設けたり、L形鋼28に貫通孔を形成したりして、L形鋼28と充填コンクリート14との一体性(付着力)を高めても良い。また、図11(A)及び図11(B)に示されるように、隣接するL形鋼28に渡された水平プレート30によって、これらのL形鋼28を連結しても良い。これにより、鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14と鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14との間で、更に大きな曲げモーメント、せん断力を伝達することができる。
【0047】
次に、図12(A)及び図12(B)に示される変形例では、端部補強部材として籠状に構成された籠状鉄筋32が用いられている。籠状鉄筋32は、複数の縦筋32Aと複数の横筋32Bとを格子状に連結して構成されている。また、籠状鉄筋32の長さLは、鋼管本体部12Bの幅Dの1.0倍以上とされている。このように縦筋32Aと横筋32Bとを格子状に連結することにより、籠状鉄筋32と充填コンクリート14(図1参照)との一体性が高まるため、鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14と鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14との間でより大きな曲げモーメント、せん断力を伝達することができる。
【0048】
なお、上記実施形態及び各種の変形例では、内ダイアフラム18に補強鉄筋20等を溶接で接合したが、例えば、補強鉄筋20の一端部にネジ部を設け、当該ネジ部を内ダイアフラム18に形成された取付孔にネジ留めしても良いし、ナットで固定しても良い。また、内ダイアフラム18に替えて通しダイアフラムに補強鉄筋20等を接合しても良い。
【0049】
更には、内ダイアフラム18を省略することも可能である。例えば、図13(A)に示される変形例では、鋼管仕口部12Aと鉄骨梁16とが外ダイアフラム36を介して接合されている。具体的には、鋼管仕口部12Aの外周面には、上下一対の外ダイアフラム36が設けられると共に、一対の外ダイアフラム36の間にガゼットプレート38が設けられている。各外ダイアフラム36には、鉄骨梁16のフランジ部16Aがそれぞれ溶接されている。また、ガゼットプレート38には、鉄骨梁16のウェブ部16Bが高力ボルト40で接合されている。
【0050】
このように内ダイアフラム18(図1参照)が存在しない構成では、鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14と鋼管上端部12BU内の充填コンクリートとにまたがって補強鉄筋20を埋設すれば良い。これにより、鋼管仕口部12Aに局部座屈が発生しても、当該鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14と鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14との間で曲げモーメントが伝達される。また、局部座屈によって生じる圧縮力に鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14が抵抗可能になるため、当該充填コンクリート14の圧壊が抑制される。
【0051】
なお、鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14に対する補強鉄筋20の定着長さは、鋼管上端部12BUに作用する曲げモーメントに応じて適宜調整すれば良い。また、図13(B)に示されるように、鋼管下端部12BL、鋼管仕口部12A、及び鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14にまたがって補強鉄筋42を埋設しても良い。これにより、施工性が向上すると共に、鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14と鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14との間でより大きな曲げモーメントを伝達することができる。なお、施工時には、図示しない保持金具等で補強鉄筋42を柱鋼管12に取り付けた状態で、柱鋼管12内に充填コンクリート14を充填すれば良い。
【0052】
更に、上記実施形態では、補強鉄筋20等の端部補強部材によって鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BL内の充填コンクリート14のみを補強したが、これに限らない。柱鋼管12内の充填コンクリート14は、鋼管中間部12BM内の充填コンクリート14の曲げ耐力に対し、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BL内の充填コンクリート14の曲げ耐力が大きくなるように補強されていれば良く、例えば、補強手段としての補強鉄筋20に加えて、柱鋼管12の全長に渡る補強手段としての鉄筋を充填コンクリート14に埋設しても良い。この場合、端部補強部材としての補強鉄筋20の分だけ、鋼管中間部12BM内の充填コンクリート14の曲げ耐力に対し、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BL内の充填コンクリート14の曲げ耐力が大きくなる。
【0053】
更にまた、柱鋼管12は、断面略正方形の角形鋼管に限らず、断面長方形の角形鋼管や丸形鋼管を用いても良い。なお、断面長方形の角形鋼管では、短辺の長さが鋼管本体部の幅Dに相当し、丸形鋼管では、その直径が鋼管本体部の幅Dに相当する。また、柱鋼管12には、耐火被覆を施しても良い。更に、上記実施形態では、水平部材として鉄骨梁16を例に説明したが、鉄骨梁16に替えてスラブ(例えば、RC床スラブやフラットスラブ)等を用いても良い。
【0054】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0055】
10 コンクリート充填鋼管柱
12 柱鋼管
12A 鋼管仕口部
12B 鋼管本体部
12BU 鋼管上端部(軸方向端部)
12BM 鋼管中間部
12BL 鋼管下端部(軸方向端部)
14 充填コンクリート
16 鉄骨梁(水平部材)
20 補強鉄筋(補強手段、端部補強部材)
24 補強鉄筋(補強手段、端部補強部材)
28 L形鋼(補強手段、端部補強部材)
32 籠状鉄筋(補強手段、端部補強部材)
42 補強鉄筋(補強手段、端部補強部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平部材が接合される上下の鋼管仕口部と、前記鋼管仕口部間に延びる鋼管本体部と、を有する柱鋼管と、
前記柱鋼管内に充填された充填コンクリートと、
前記充填コンクリートに埋設され、前記鋼管本体部における軸方向中間部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力に対し、該鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力が大きくなるように該充填コンクリートを補強する補強手段と、
を備えるコンクリート充填鋼管柱。
【請求項2】
前記補強手段が、前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートに埋設され、前記鋼管仕口部内の前記充填コンクリートとの間で曲げモーメントを伝達する端部補強部材を有し、
前記端部補強部材の前記鋼管本体部の軸方向に沿った長さが、該鋼管本体部の幅以上とされている請求項1に記載のコンクリート充填鋼管柱。
【請求項3】
前記端部補強部材が、前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力が前記鋼管仕口部から前記鋼管本体部の軸方向中間部に向うに従って小さくなるように該充填コンクリートに埋設されている請求項2に記載のコンクリート充填鋼管柱。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−255283(P2012−255283A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128513(P2011−128513)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】