説明

コンクリート構造体およびその施工方法

【課題】マンションやオフィスなどのエントランスやロビー等のコンクリート構造体の壁面、天井および床面等の表面に、天然石やタイルなどの仕上げ材を用いる場合に、下地のコンクリートがひずむことによるコンクリート表面の仕上げ材の、割れや剥離などの問題を改善し、美観を保つための水洗清掃が可能なコンクリート構造体を得ることおよびその施工方法を提供することを目的とする。
【解決手段】コンクリートの表面に、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層を形成する工程と、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層の表面に、モルタルを用いて仕上げ材を敷設する工程とをこの順番で含む、コンクリート構造体の施工方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種建築物のコンクリート構造体の表面を、石貼り仕上げまたはタイル貼り仕上げするコンクリート構造体の施工方法およびその施工方法により得られるコンクリート構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
マンションやオフィスなどの建築物外部および内部の表面を仕上げる場合に、天然石や陶板などのタイルを仕上げ材として用いて、美観や質感に優れた表面に仕上げる工法が採用されることがある。
【0003】
このような工法として、特許文献1には、磁器タイル、せっ器タイル、半磁器タイル、陶磁器タイル等の構築物仕上げ用のタイル(仕上げ材)を、ポルトランドセメント、アルミナセメント、石膏、ポリマーディスパージョン、骨材および水を主成分とするモルタル組成物を接着用に使用してタイル仕上げするタイル張り工法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、外壁材用ボード面に常温で伸び率50%以上でかつ引張強さが10kgf/cm以上の伸長性水和凝固型塗材による防水材層が形成され、該防水材層上にセメントモルタルを介してタイルその他の外壁構成材が貼着又は塗布されてなる防水壁構造が開示されている。
【0005】
一方、引用文献3には、施工の際には、ローラーでの施工でも熟練を要せず且つ作業性が良く、特性的には、角立ち、材料分離および皮張りが起こらずに塗膜の良好な仕上りが得られ、且つ耐水性、接着性、低温時の伸び、耐候性に優れた構造体を与える防水用ポリマーセメント組成物が開示されている。具体的には、このポリマーセメント組成物は、アルミナセメント、エマルジョンおよびフィロケイ酸塩鉱物を含む防水用ポリマーセメント組成物であって、エマルジョンは、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョンおよびアクリル系重合体エマルジョンを含有し、エチレン−酢酸ビニル共重合エマルジョンの固形分100質量部に対しアクリル系重合体エマルジョンの固形分を3〜20質量部の割合で含むことを特徴とする防水用ポリマーセメント組成物であることが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開昭61−261566号公報
【特許文献2】特開平10−317518号公報
【特許文献3】特開平2004−262748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
建築物外部および内部の壁や天井等の表面の仕上げにおいて、天然石や陶板などのタイルを仕上げ材として用いた仕上げ面の場合、数十年の供用期間を経た建築物では下地のコンクリートにクリープによるひずみが生じたり、あるいは地震などにより下地のコンクリートがひずむと、コンクリート表面の仕上げ材が、割れたり、剥離するなどの問題を生じることがある。さらに、コンクリート構造体の仕上げ面の美観を維持するために水洗清掃を行うと、天然石やタイルの目地部分からモルタルや接着剤を介して下地のコンクリートに水が浸透し、天然石やタイルの剥離を誘発することもある。
【0008】
そこで、本発明は、マンションやオフィスなどのコンクリート構造体の外壁や、コンクリート構造体内部のエントランスやロビー等の壁面、天井および床面等の表面に、天然石やタイルなどの仕上げ材を用いる場合に、下地のコンクリートがひずむことによるコンクリート表面の仕上げ材の、割れや剥離などの問題を改善し、美観を保つための水洗清掃が可能なコンクリート構造体を得ることおよびその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意試行錯誤を繰り返した結果、コンクリート構造体の壁面、天井および床面等の表面を天然石仕上げやタイル仕上げする場合に、所定のポリマーセメント系ひずみ応力吸収材を塗布施工してポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層を形成することにより、優れたひずみ応力吸収性能を発現することを見出した。さらに、このポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層の表面に、モルタルを用いて天然石やタイルを敷設施工することによって、下地のコンクリートがひずむことによるコンクリート表面の仕上げ材の、割れや剥離などの問題を改善した仕上げ面の美観を保持するための水洗清掃が可能な石貼り仕上げまたはタイル貼り仕上げコンクリート構造体が得られることを見出して本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、コンクリートの表面に、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層を形成する工程と、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層の表面に、モルタルを用いて仕上げ材を敷設する工程とをこの順番で含む、コンクリート構造体の施工方法である。
【0011】
また、本発明は、コンクリートの表面に、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材用プライマーを塗布して乾燥させることにより、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材用プライマー層を形成する工程と、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材用プライマー層の表面に、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材を塗布して硬化させることにより、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層を形成する工程と、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層の表面に、モルタルを用いて仕上げ材を固定する工程とをこの順番で含む、コンクリート構造体の施工方法である。
【0012】
本発明の施工方法の好ましい態様を以下に示す。本発明では、これらの態様を適宜組み合わせることができる。
(1)ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層が、水硬性組成物とポリマーエマルションとを混練して調製されるポリマーセメント系ひずみ応力吸収材を塗布して硬化させて形成される。
(2)水硬性組成物が、アルミナセメントを含み、ポリマーエマルションが、アクリル樹脂系エマルションおよび/またはエチレン・酢酸ビニル系エマルションである。
(3)仕上げ材が、長方形、正方形またはひし形の石材および/またはタイルであり、仕上げ材の各辺の長さが40〜900mmおよび厚さが5〜30mmである。
【0013】
また、本発明は、上記の施工方法により得られるコンクリート構造体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、マンションやオフィスなどのコンクリート構造体の外壁や、エントランスやロビー等のコンクリート構造体の内壁面、天井および床面等の表面に、天然石やタイルなどの仕上げ材を用いる場合に、下地のコンクリートがひずむことによるコンクリート表面の仕上げ材の、割れ、剥離などの問題を改善した、美観を保つための水洗清掃が可能なコンクリート構造体を得ることおよびその施工方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のコンクリート構造体は、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材を用いてコンクリート11の表面に下地層(ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21等)を形成した後に、石材またはタイルなどの仕上げ材14を用いてコンクリート構造体の表面を仕上げることを特徴とする。本発明のコンクリート構造体は、マンションやオフィスなどの外壁面や、エントランスやロビー等のコンクリート構造体の内壁面、天井および床面等の表面に、天然石やタイルなどの仕上げ材を用いることができる。以下、本発明のコンクリート構造体およびその施工方法について、図1(1)〜(4)に基づき実施形態の一例を説明する。
【0016】
<ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材用プライマー層>
本発明の施工方法では、まず図1(1)に示すように、コンクリート11の表面に、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材用プライマーを塗布し乾燥させ、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材用プライマー層20を形成する。
【0017】
ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材用プライマー層20を形成することにより、その上にポリマーセメント系ひずみ応力吸収材を塗布施工した際に、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材中の水分がコンクリート11に浸透する作用を防止することができ、コンクリート11とポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21とを強固に接着することができる。本発明で用いるポリマーセメント系ひずみ応力吸収材用プライマーとしては、アクリル重合樹脂、アクリル−スチレン共重合樹脂、または、エチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とする市販のプライマーが使用でき、特にアクリル−スチレン共重合樹脂を主成分とするものを好適に使用できる。
【0018】
また、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材用プライマーとして好ましいものは、アクリル樹脂系エマルションである。特に、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材用プライマーとして特に好ましいアクリル樹脂系エマルション(本明細書では、「AS原液(SP)」という)は、(1)メチル(メタ)アクリレートおよびエチル(メタ)アクリレートから選ばれる成分9〜35質量%、(2)炭素数4〜10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート50〜80質量%、および、(3)OH基を有する(メタ)アクリレート5〜10質量%とを含む単量体組成物から得られるものである。アクリル樹脂系エマルションは、上記(1)〜(3)に加えて、さらに(4)COOH基を有する(メタ)アクリレートから選ばれる成分0.6質量%未満を含む単量体組成物から得られるものであることが好ましい。
【0019】
<ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層>
次に、図1(2)に示すように、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材用プライマー層20の表面にポリマーセメント系ひずみ応力吸収材を施工して、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21を設ける。ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21は、優れた弾性効果を有し、コンクリート構造体の外壁や、コンクリート構造体内部のエントランスやロビー等の壁面、天井および床面等の表面に、天然石やタイルなどの仕上げ材を用いる場合に、下地のコンクリートにひずみが発生した場合のひずみ応力吸収層としての役割を果たす。また、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21は、防水性能も併せ持つため、美観を保つための水洗清掃が可能な石貼り仕上げまたはタイル貼り仕上げの床構造体を得ることができる。
【0020】
本発明で用いるポリマーセメント系ひずみ応力吸収材としては、水硬性組成物とポリマーエマルションとを混練して調製するもの、あるいは、水硬性組成物、再乳化樹脂粉末および水を混練して調製するものであれば、特に限定されることなく用いることができる。特に、水硬性組成物とポリマーエマルションとを混練して調製する宇部興産株式会社製の「アクアシャッター(登録商標)」、「アクアシャッター(登録商標)AC」および「アクアシャッター(登録商標)SP」などを好適に用いることができる。
【0021】
また、本発明で用いるポリマーセメント系ひずみ応力吸収材は、水硬性組成物とポリマーエマルションとを混練して調製されるポリマーセメント系ひずみ応力吸収材であって、水硬性組成物が、アルミナセメントを含み、ポリマーエマルションが、アクリル系重合体エマルションのようなアクリル樹脂系エマルションおよび/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体エマルションのようなエチレン・酢酸ビニル系エマルションであることが好ましい。
【0022】
本発明で用いるポリマーセメント系ひずみ応力吸収材としては、具体的には、所定の組成のアルミナセメントとポリマー組成物とを含む組成物(本明細書では、「AS混和材(SP・水硬性組成物)、AS原液(SP)」という)を好適に使用することができる。「AS混和材(SP・水硬性組成物)、AS原液(SP)」とは、アルミナセメントおよびエマルションを含むポリマーセメント組成物であって、エマルションは、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルションおよびアクリル系重合体エマルションを含有し、エチレン−酢酸ビニル共重合エマルションの固形分100質量部に対しアクリル系重合体エマルションの固形分を1〜30質量部の割合で含むポリマーセメント組成物である。
【0023】
また、上記のポリマーセメント組成物は、エマルションの固形分100質量部に対し、アルミナセメント20〜80質量部を含むことがさらに好ましい。また、上記のポリマーセメント組成物は、エマルションの固形分100質量部に対し、アルミナセメント20〜80質量部および珪砂20〜240質量部を含むことがさらに好ましい。また、上記のポリマーセメント組成物は、エチレン−酢酸ビニル共重合エマルションは、ポリビニルアルコールを保護コロイドとしたエチレン酢酸ビニル共重合エマルションであることがさらに好ましい。
【0024】
ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材が上記のような組成であると、硬化後に得られるポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層はタックの低減された、優れた弾性を有し、また防水性も有するものとなる。
【0025】
ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材の製造法の一例としては、攪拌容器にエマルションを所定量計量し、攪拌機でエマルションを攪拌しながら所定量の水硬性組成物を添加し、数分間攪拌・混合して、さらに必要に応じて水を添加し、所定の粘度を有するスラリー状の組成物を製造することができる。
【0026】
また、水硬性組成物と再乳化樹脂粉末とを予め所定量計量して均一に混合したプレミックス粉体を用いる場合、攪拌容器に所定量の混練水を計量し、攪拌機で水を攪拌しながら所定量のプレミックス粉体を添加し、数分間攪拌・混合して、所定の粘度を有するスラリー状の組成物を製造することができる。
【0027】
本発明で用いるポリマーセメント系ひずみ応力吸収材は、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材用プライマー層20の表面に、吹き付け、鏝塗り、ローラー塗工の塗布方法により施工することにより、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21を形成することができる。
【0028】
ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材が乾燥した後に更に同じ操作を繰り返し、複数層のポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21を形成させて、防水性能およびひずみ応力吸収性能がより高い構造体を得ることができ、防水性能もさらに良好なものとなる。
【0029】
また、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材を塗布した後に、ガラス繊維クロスや合成繊維クロスを敷設し、更に同じ操作を繰り返し、複合構造を有するポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21を形成させて、防水性能がより高く、機械的強度が高い構造体を得ることができる。
【0030】
本発明では、石貼り仕上げまたはタイル貼り仕上げのコンクリート構造体の下地のコンクリートにひずみがあった場合に、仕上げ材14である天然石や人工石、あるいはタイルなどの仕上げ材14にひび割れなどが発生し難いようにポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21を設ける。ひずみ応力を適切に吸収するために、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21の厚さが、好ましくは0.1〜15mmの範囲、さらに好ましくは0.2〜10mmの範囲、より好ましくは0.25〜5mmの範囲、特に好ましくは0.3〜0.7mmの範囲になるようにポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21を設ける。ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21の厚さが前記範囲の下限値より厚いと、ひずみ応力吸収性が充分なため好ましく、前記範囲の上限値より薄いと仕上げ材14にひずみ応力ではなく曲げ応力が負荷された場合でも変形量がそれほど大きくないことから好ましい。
【0031】
物体に力が加わると、これに対する応力が材料内部に発生することにより、この応力に比例したひずみが発生する。例えば、長さLの物体に圧縮力が加わり、物体の長さがL−ΔLに変形したとすると、ひずみは、LとΔLとの割合(ΔL/L)である。本発明のコンクリート構造体の下地のコンクリートと、仕上げ材14である天然石や人工石、あるいはタイルなどの仕上げ材14との間に設けるポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21は、下地のコンクリートのひずみを吸収する機能(ひずみ応力吸収性)を有する。具体的には、下地コンクリート表面のひずみをXおよびポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層表面のひずみをYとし、XとYとの間のひずみ応力吸収性を表す定数をaとすると、X、Yおよびaは式(1)の関係にある。
Y=a・X ・・・・・・式(1)
【0032】
本発明のコンクリート構造体の好ましい態様を式(1)を用いて表すと、Xが500×10−6以上、1500×10−6未満の範囲において、aが0.4〜0.7の範囲であることが好ましく、aが0.45〜0.65の範囲であることがさらに好ましい。また、Xが1500×10−6以上、2500×10−6未満の範囲において、aが0.3〜0.6の範囲であることが好ましく、aが0.35〜0.55の範囲であることがさらに好ましい。所定のXの範囲に対するaが上記の範囲であると、下地コンクリート表面のひずみが十分吸収されているために好ましい。このように、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層が、上記のひずみ応力吸収性能を有することによって、下地コンクリートのひずみが、石材またはタイルなどの仕上げ材に伝達することを緩衝することができる。
【0033】
<仕上げ材>
次に、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21が乾燥した後、図1(3)に示すように貼付けモルタル17を用いて、石材またはタイルなどの仕上げ材14をポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21の表面に敷設する。そして、図1(4)のように仕上げ材14の平坦性を微調整することで仕上げ材14の敷設作業が終了する。
【0034】
仕上げ材14を敷設する場合、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21の表面に、ほぼ均一に2〜10mmの厚さに貼付けモルタル17を塗布し、仕上げ材14を敷設するか、もしくは、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21の表面と、仕上げ材14の裏面との両方にほぼ均一に1〜5mmの厚さに貼付けモルタル17を塗布し、仕上げ材14を敷設することができる。特に、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21の表面と、仕上げ材14の裏面との両方に塗布する場合は、石材またはタイルの裏面に空隙が残りにくく、衝突物や落下物による破損を回避できることから好ましい。
【0035】
本発明で用いる貼付けモルタル17は、特に限定されるものではなく、一般に市販されている石材貼付け施工用モルタルやタイル貼付け施工用モルタル、または石材やタイル貼付け用ポリマーセメントモルタルなどから適宜選択して用いることができ、特にポリマーセメントモルタルを好適に用いることができる。
【0036】
貼付けモルタル17の硬化体層の厚さは、好ましくは1〜10mmの範囲、さらに好ましくは1.2〜5mmの範囲、特に好ましくは1.5〜3mmの範囲となることが好ましい。貼付けモルタル17の硬化体層の厚さが前記範囲の下限値より大きい場合、仕上げ材14の接着固定が均一になり易く、前記範囲の上限値より小さい場合にはひずみ応力を下層のポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21に伝達し易くなることから好ましい。
【0037】
本発明では、コンクリート構造体の表面の仕上げ材14として、石材および/またはタイルを用いることができる。
【0038】
石材としては特に限定されるものではなく、大理石や花崗岩等の天然石を各辺の長さが40〜900mm、すなわち縦の長さが40〜900mm、横の長さが40〜900mmであって、石板の厚さが5〜30mmに切断した長方形、正方形またはひし形の板状の石材を適宜選択して用いることができる。
【0039】
タイルについても特にその製法や種類について限定されるものではなく、長方形、正方形またはひし形の陶磁器タイルや陶板などを好適に使用することができる。タイルの寸法については、各辺の長さが40〜900mm、すなわち縦の長さが40〜900mm、横の長さが40〜900mmであって、タイルの厚さが5〜30mmのものを適宜選択して用いることができる。
【0040】
また、本発明では、仕上げ材14の敷設を終了し、貼付けモルタル17が硬化した後、目地モルタルなどの各種目地材を用いて、仕上げ材14の隙間を充填して仕上げることが好ましい。
【0041】
以上述べたように、本発明の施工方法によれば、マンションやオフィスなどのコンクリート構造体の外壁や、コンクリート構造体内部のエントランスやロビー等の壁面、天井および床面等であるコンクリート11の表面に、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材を塗布施工することで、ひずみ応力吸収性に優れ、防水性をも有する下地層を容易に形成することができる。下地層の表面にモルタルを使用して、石材またはタイル等の仕上げ材14を敷設することによって、石材やタイルがモルタルを介して下地層と密に接合したコンクリート構造体を得ることができる。その結果、コンクリート11と仕上げ材14との間の層に適正な弾性を有するひずみ応力吸収層(ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21)を有することから、下地のコンクリートがひずむことによるコンクリート表面の仕上げ材の、割れ、剥離などの問題を改善したコンクリート構造体を得ることができる。
【0042】
数十年の供用期間を経た建築物で、下地のコンクリートにクリープによるひずみが生じる、あるいは地震などによりコンクリート構造体がひずむ場合、垂直方向のコンクリート構造体に対してひずみが生じることがある。そのため、本発明の施工方法を、コンクリート構造体の外壁や、コンクリート構造体内部のエントランスやロビー等の壁面を石貼り仕上げまたはタイル貼り仕上げするために用いた場合には、本発明の特に優れた効果を奏することとなるため好ましい。
【0043】
また、優れた応力吸収性を有するポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層21は、良好な防水性も有していることから、石貼り仕上げまたはタイル貼り仕上げのコンクリート構造体の表面を水洗清掃することができ、仕上げ面の美観を恒常的に保つことができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0045】
(1)コンクリート構造体の評価:
コンクリートに、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材用プライマー層およびポリマーセメント系ひずみ応力吸収材を塗布施工し、貼付けモルタルを用いて陶磁器タイルを敷設して調製したコンクリート構造体について、ひずみ試験を行った。具体的には、コンクリートに圧力を加えることによって応力を発生させ、所定の位置に配置したひずみゲージを用いてひずみの大きさを測定した。所定の位置とは、コンクリート、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層、貼付けモルタルおよびタイル(仕上げ材)の表面である。
【0046】
(2)使用材料・装置
・コンクリート供試体:
(a)セメント : 普通ポルトランドセメント、宇部三菱セメント社製。
(b)細骨材1 : 砕砂、栃木県佐野市仙波町産。
(c)細骨材2 : 陸砂、千葉県成田市名木産。
(d)粗骨材 : 砕石、茨城県桜川市飯淵産。
(e)混和剤 : AE減水剤、ダーレックスF−1、グレースケミカルズ社製。
・ひずみゲージ : 東京測器研究所製、FLK−10−11−5LT。
・ひずみ測定装置: 東京測器研究所製、Portable DATA LOGGER TDS−302。
・耐圧機 : 東京衡機社製、200t耐圧機。
・ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材用プライマー:
変性エチレン酢酸ビニル共重合樹脂系エマルション(「AS原液(SP)」、宇部興産株式会社製)。
・ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材:
宇部興産株式会社製、「アクアシャッター(登録商標)SP」[AS混和材(SP・水硬性組成物)、AS原液(SP)]。
・貼付けモルタル: 日本プラスター社製、タイル圧着モルタル。
・タイル: INAX社製、YM−255、サイズ:6×95×45mm。
【0047】
コンクリート構造体のひずみ試験に用いるコンクリート供試体の作製には、表1および表2に示す条件で調製したコンクリートを用いた。調製したコンクリートを、100mm×100mm×400mmの型枠に打設し、打設1日後に脱型したのち28日間水中養生することによってコンクリート供試体を作製した。
【0048】
次に、タイル仕上げコンクリート構造体の作製手順について説明する。タイル仕上げコンクリート構造体は、図2(a)および図2(b)に示すように、タイル仕上げコンクリート構造体Aおよびタイル仕上げコンクリート構造体Bの2種類のタイル仕上げコンクリート構造体を用意した。タイル仕上げコンクリート構造体Aは、コンクリート供試体の表面に、ひずみ応力吸収材層を設けたのち、タイル貼り付けモルタルでタイルを配置したものである。また、タイル仕上げコンクリート構造体Bは、コンクリート供試体の表面に、ひずみ応力吸収材層を設けず、タイル貼り付けモルタルでタイルを配置したものである。
【0049】
タイル仕上げコンクリート構造体Aの場合、図2(a)に示すように、コンクリート供試体の表面にアクリル樹脂を用いてひずみゲージを貼り付けた(図2(a−1))。
【0050】
次に、ひずみゲージを貼り付けたコンクリート供試体表面に、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材用のプライマーを塗布して乾燥した。コンクリートの表面のポリマーセメント系ひずみ応力吸収材用プライマーが乾燥した後、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材のスラリーを調製して、左官鏝を用いて均一に0.5±0.1mmの厚さに塗布施工した。ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材スラリーは、AS混和材(SP・水硬性組成物)13kgとAS原液(SP)18kgとを容器に入れてハンドミキサーを用いて混練することによって、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材スラリーを調製した。ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材スラリーが乾燥したのち、ひずみ応力吸収材層の表面に、アクリル樹脂を用いてひずみゲージを貼り付けた(図2(a−2))。
【0051】
次に、ひずみゲージを貼り付けたひずみ応力吸収材層の表面に、タイル貼り付けモルタルを厚さ7mmになるように左官鏝をもちいて塗付けたのち、ひずみゲージをタイル貼り付けモルタル表面に設置した(図2(a−3))。
【0052】
引き続いて、タイル裏面にタイル貼り付けモルタルを薄く塗り付けたタイルを、コンクリート供試体のひずみゲージを設置したタイル貼り付けモルタル表面に、気泡を含ませないように貼り付け、さらにタイル表面にアクリル樹脂を用いてひずみゲージを貼り付けて、タイル仕上げコンクリート構造体Aを作製した(図2(a−4))。タイル仕上げコンクリート構造体Aは、材齢28日まで気中養生を行ったのちひずみ測定試験に用いた。
【0053】
タイル仕上げコンクリート構造体Bの場合、図2(b)に示すように、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層を設ける操作を除いて、上記と同様にコンクリート供試体の表面、タイル貼り付けモルタル層の表面およびタイル表面の3箇所に、アクリル樹脂を用いてひずみゲージを貼り付けた(図2(b−1〜3))。その後、材齢28日まで養生を行ったのち、ひずみ測定試験を行った。
【0054】
タイル仕上げコンクリート構造体を用いたひずみ測定試験は次の手順で行った。まず、タイル仕上げコンクリート構造体Aおよびタイル仕上げコンクリート構造体Bを、それぞれ、100×100mmの面が上面および下面になるように、耐圧試験機に固定した。次に、コンクリート圧縮強度試験を行う場合と同様の載荷速度でタイル仕上げコンクリート構造体に荷重(応力)を印加し、タイル仕上げコンクリート構造体に貼り付けた数箇所のひずみゲージの信号から各測定箇所のひずみをひずみ測定器で測定した。
【0055】
タイル仕上げコンクリート構造体AおよびBについて、加圧応力の印加に伴うひずみ測定の結果を図3および図4に示す。図3は、本発明のポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層を有するタイル仕上げコンクリート構造体Aのひずみ試験結果であって、コンクリートに対する応力と、各測定箇所に発生したひずみとの関係を示している。また、図4は、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層を有しない、比較例のタイル仕上げコンクリート構造体Bのひずみ試験結果であって、コンクリートに対する応力と、各測定箇所に発生したひずみとの関係を示している。
【0056】
図3から明らかなように、本発明のポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層を有するタイル仕上げコンクリート構造体Aの場合には、コンクリートに対する応力が大きくなっても、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層が応力に伴うひずみを吸収し、タイル表面においては小さいひずみしか生じなかった。また、図3に示すように、30N/mm以上の応力がコンクリートに負荷されて、コンクリート自体に大きなひずみが生じた場合にも、タイル仕上げコンクリート構造体Aの場合には、タイルの剥離は生じなかった。
【0057】
これに対し、図4に示すように、タイル仕上げコンクリート構造体Bの場合には、29.3N/mmのところでタイルのひずみが急低下した。これは29.3N/mmの応力が負荷されて、コンクリートにひずみが発生した際に、タイルが剥離したことを示すものと考えられる。
【0058】
以上の結果から、本発明の本発明のポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層を有するコンクリート構造体の場合には、下地のコンクリートに大きなひずみが生じた場合でも、コンクリート表面の仕上げ材の割れや剥離などの問題を大幅に改善することができることが確認できた。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明のタイル貼り仕上げコンクリート構造体の断面を模式的に示す部分断面図である。
【図2】タイル貼り仕上げコンクリート構造体の作製手順を示す模式図である。((a):ひずみ応力吸収材層あり、(b):ひずみ応力吸収材層なし)
【図3】本発明のポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層を有するコンクリート構造体のひずみ試験結果であって、コンクリートに対する加圧応力と、加圧応力の印加に伴うひずみとの関係を示す図である。
【図4】ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層を有しないコンクリート構造体のひずみ試験結果であって、コンクリートに対する加圧応力と、加圧応力の印加に伴うひずみとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
11 : コンクリート
14 : 仕上げ材
17 : 貼付けモルタル
20 : ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材用プライマー層
21 : ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの表面に、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層を形成する工程と、
ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層の表面に、モルタルを用いて仕上げ材を敷設する工程と
をこの順番で含む、コンクリート構造体の施工方法。
【請求項2】
コンクリートの表面に、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材用プライマーを塗布して乾燥させることにより、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材用プライマー層を形成する工程と、
ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材用プライマー層の表面に、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材を塗布して硬化させることにより、ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層を形成する工程と、
ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層の表面に、モルタルを用いて仕上げ材を固定する工程と
をこの順番で含む、コンクリート構造体の施工方法。
【請求項3】
ポリマーセメント系ひずみ応力吸収材層が、水硬性組成物とポリマーエマルションとを混練して調製されるポリマーセメント系ひずみ応力吸収材を塗布して硬化させて形成される、請求項1または2記載の施工方法。
【請求項4】
水硬性組成物が、アルミナセメントを含み、ポリマーエマルションが、アクリル樹脂系エマルションおよび/またはエチレン・酢酸ビニル系エマルションである、請求項3記載の施工方法。
【請求項5】
仕上げ材が、長方形、正方形またはひし形の石材および/またはタイルであり、仕上げ材の各辺の長さが40〜900mmおよび厚さが5〜30mmである、請求項1〜4のいずれか1項記載の施工方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の施工方法により得られるコンクリート構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−209594(P2009−209594A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54401(P2008−54401)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【出願人】(000150615)株式会社長谷工コーポレーション (94)
【Fターム(参考)】