コンクリート構造体のせん断補強構造
【課題】コンクリート構造体自体の強度を向上させ、かつ、コストを抑えることができるコンクリート構造体のせん断補強構造を提供する。
【解決手段】コンクリート構造体4の一方の壁面3aから形成された環状の溝部5と、溝部5内に嵌合された変形板より成る補強部材6とを備えた。また、前記溝部5内に充填材35を充填した。また、前記補強部材6の変形板は円筒体30、又は、スリット付き円筒体、又は、孔付き円筒体、又は、両端にスリットを介して対向する複数の断面半円体、又は、円筒状メッシュ体等より成る。
【解決手段】コンクリート構造体4の一方の壁面3aから形成された環状の溝部5と、溝部5内に嵌合された変形板より成る補強部材6とを備えた。また、前記溝部5内に充填材35を充填した。また、前記補強部材6の変形板は円筒体30、又は、スリット付き円筒体、又は、孔付き円筒体、又は、両端にスリットを介して対向する複数の断面半円体、又は、円筒状メッシュ体等より成る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設のコンクリート構造体のせん断補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造体の補強面に、ドリル等の回転工具を用いて、内部に向けてせん断補強材挿入用長穴を形成し、このせん断補強材挿入用長穴に異形鉄筋等からなるせん断補強材を挿入し、前記長穴内に生じた残部空隙を流動性硬化性樹脂若しくはセメントモルタル等の充填材で充填固化し、一体化させることが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、鉄筋コンクリート部材に掘削孔を設け、この掘削孔に鋼管を挿入し、掘削孔内の空隙にグラウトを充填し、このグラウトが硬化することで、一体化させることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−113673号公報
【特許文献2】特開2007−204984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1によれば、せん断応力に対する耐力を向上させるためには、せん断補強材を挿入可能な、細径のせん断補強材挿入用長穴をコンクリート構造体の補強面に多数又は太径に形成する必要があるが、このように、多数のせん断補強材挿入用長穴をコンクリート構造体の補強面に形成することによりコンクリート構造体自体の強度が低下することがあり、太径の場合、補強部材も太径にする必要がありコスト高となる。更に、特許文献2では、鋼管挿入用の掘削孔を設けてから、この掘削孔にグラウトを充填して埋設するため、掘削孔内に充填させるためのグラウトの量が増加してしまうので、材料費が高価となる。また、鉄筋コンクリート部材の掘削孔に鋼管を挿入するために掘削孔の掘削範囲を大きくしなければならず、掘削により発生した廃棄物の量も増加してしまうので、廃棄物の処理コストが高くなるという問題もあった。そこで、本発明は、コンクリート構造体自体の強度を向上させ、かつ、コストを抑えることができるコンクリート構造体のせん断補強構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によるコンクリート構造体のせん断補強構造によれば、コンクリート構造体の一方の壁面から形成された環状の溝部と、溝部内に嵌合された変形板より成る補強部材とを備えたので、補強部材で囲まれた部分は、コア部として残し、除去する必要がないので、従来のようにグラウト等の充填材で満たさなくても良く、既在の剛性の高いコンクリート部分が芯材となり断面の大きな補強部材となるので、せん断応力に対する耐力が向上する。
溝部内に充填材を充填したので、充填材で円筒体等の変形板を溝部内の壁面と密接に結合することができるので、せん断応力が発生した初期の段階で補強部材にせん断応力を負担させることが可能となる。
補強部材の変形板は円筒体、又は、スリット付き円筒体、又は、孔付き円筒体、又は、両端にスリットを介して対向する複数の断面半円体、又は、円筒状メッシュ体等より成るので、溝部内の補強部材の周囲への充填材の充填が確実に行えるとともに充填材がスリット、又は、円筒体の孔、又は、断面半円体間のスリット、又は、円筒状メッシュ体の孔にも充分に充填されるので補強部材の変形板と充填材との摩擦力が上がるので結合をより強固とさせることにより引き抜き耐力が向上するので、せん断応力に対する耐力が更に向上する。
補強部材の変形板の後端部に、壁面に接して溝部を被う鍔部を備えたので、鍔部の面でコンクリート構造体及び補強部材をより強固に補強することができ、鍔部の開口周囲の剛性が上がるので、コンクリートの破砕を防ぐことができ、更に、補強部材の剛性を上げることができるので、せん断応力に対する耐力を向上させることができる。
鍔部に充填孔を備え、充填孔を介して充填材を充填するようにしたので、円筒体等の変形板を溝部内に設置した後に充填材を外から溝部内に容易に充填できるようになるため、充填材の充填作業時期を任意に決めることができ、工事の作業管理がし易く、更に、補強部材の全周に充填材を充填し易くなる。
複数の溝部内に嵌入される各変形板の後端部に設けられる鍔部同士を一体化したので、溝部の開口周囲における剛性の上がる範囲が拡がるので、せん断応力に対して耐力を更に向上させることができる。
補強部材の変形板の先端に溝部内の外面に圧接する拡開部を設けたので、補強部材の引き抜きに対する抵抗が増すので、せん断応力に対する耐力が更に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】切削装置をコンクリート構造体に取付けた状態を示す図。(実施の形態1)。
【図2】筒型の変形板を示す斜視図(実施の形態1)。
【図3】コンクリート構造体のせん断補強構造を示す断面図(実施の形態1)。
【図4】(a)は円筒体を示す斜視図、(b)はコンクリート構造体のせん断補強構造を示す断面図(実施の形態2)。
【図5】円筒体を示す斜視図(実施の形態2)。
【図6】(a)は円筒体を示す斜視図、(b)はコンクリート構造体のせん断補強構造を示す断面図(実施の形態3)。
【図7】コンクリート構造体のせん断補強方法を示す図(実施の形態3)。
【図8】円筒体を示す斜視図(実施の形態3)
【図9】円筒体と鍔部とを示す斜視図(実施の形態4)。
【図10】(a)は拡開部を備えた円筒体を示す斜視図、(b)は拡開部の要部拡大断面図、(c)はコンクリート構造体のせん断補強方法を示す図(実施の形態5)。
【図11】コンクリート構造体のせん断補強方法を示す断面図(実施の形態6)。
【図12】鍔部を備えた円筒体のコンクリート構造体への配置を示す斜視図(実施の形態8)。
【図13】円筒体を示す図(実施の形態9)。
【図14】円筒体を示す図(実施の形態9)。
【図15】円筒体を示す図(実施の形態9)。
【図16】円筒体を示す図(実施の形態9)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施の形態1
図1に示す切削装置2は、図3に示すように、せん断補強構造1をコンクリート構造体4に形成するための環状の溝部5を形成する装置である。せん断補強構造1は切削装置2によりコンクリート構造体4の一方の壁面から形成された環状の溝部5と、溝部5内に嵌合された補強部材6とを備える。
コンクリート構造体4は例えば、橋脚、ボックスカルバート等のコンクリートにより構築された既設のコンクリート構造物である。コンクリート構造体4は鉄筋コンクリート構造物、無鉄コンクリート構造物、鉄骨鉄筋コンクリート構造物でもよい。
切削装置2は、図1に示すように、コアドリル装置10により形成される。コアドリル装置10は、コアドリル装置10を支持するベース11と、ベース11と直交する方向に延長する支柱12と、支柱12の延長方向に沿って設けられたラック13と、ラック13と噛み合うことにより支柱12の延長方向に移動可能なピニオンを備えたドリルヘッド14と、ドリルヘッド14の出力軸15に着脱可能に接続される接続部材であるシャンク16を備えた筒型に形成された変形板7と、ドリルヘッド14に設けられ、筒型の変形板7を回転駆動させる減速機を備えたモータ21と、上記ピニオンと一体化された軸部17に連結されたピニオンを回動操作するためのハンドル18とを備える。図2,図3に示すように、シャンク16は筒型の変形板7の後端部の円盤部7aに連結される。円筒型の変形板7は先端に切削ビット8を備える。切削ビット8はダイヤモンドチップにより形成される。コンクリート構造体4の切り込み(切削)時には、ベース11をコンクリート構造体4にアンカーボルト19により固定し、筒型の変形板7をモータ21により回転させるとともにハンドル18を操作して筒型の変形板7の先端の切削ビット8をコンクリート構造体4の表面(壁面3a)よりコンクリート構造体4内部に押圧して貫通しないように切削させることでコンクリート構造体4に環状の溝部5を形成する(図3参照)。尚、橋脚等の両端側に作業空間が形成されたコンクリート構造体4にせん断補強構造1を構築する場合には、作業空間に跨るコンクリート構造体4を貫通するような孔部を形成してもよい。筒型の変形板7は、鋼等の金属等の材料により成形される。尚、筒型の変形板7は一体成形された鋼管等の円筒体を用いてもよいし、円筒の先端に切削ビット8が一体成形された筒状コアビット8を用いてもよい。円盤部7aは筒型の変形板7の後端部を塞ぐような円形の板により形成されて、筒型の変形板7と溶接等で一体化される。
本実施の形態1の特徴は、コンクリート構造体4の壁面3aに切り込みを入れて環状の溝部5を形成した場合に、この環状の溝部5により囲まれた円柱型のコア部9の底部側をコンクリート構造体4と一体のまま取除くことなく、残存させることである。
【0008】
環状の溝部5は、径が3cm〜10cm、幅が3mm〜5mm程度、深さが5cm〜100cm程度の長さとなるように形成される。溝部5の幅は、溝部5内の内周面21a(コア部9の外周面)と、その内周面21aと対面する溝部5内の外周面22との幅Wである。尚、切削装置2のシャンク16に切り込みの深さに応じた長さを有する筒型の変形板7を接続して、コアドリル装置10がコンクリート構造体4の一方の壁面3aから切り込む(切削)ことで溝部5を形成する。尚、溝部5の数、径、幅、深さは補強部材6が負担するせん断応力の大きさや、既在のコンクリート構造体の状況から適時決定すればよい。
溝部5はコンクリート構造体4に1つ以上形成される。例えば、コンクリート構造体4に複数の列の群、又は、複数の行の群を成すように形成される。例えば、複数の列と複数の行の群の間隔は等間隔のピッチ、又は、不等間隔のピッチで形成される。
コア部9は、コンクリート構造体4より取除かれずに残存されることによりせん断応力に対して高い耐力を有する。しかも、補強部材6で囲まれた部分は、コア部9として残し、除去する必要がないので、従来のようにグラウト等の充填材35で満たさなくても良く、既在の剛性の高いコンクリート部分が芯材となり断面の大きな補強部材6となるので、せん断応力に対する耐力が向上する。しかも、廃棄物の量を少なくでき、処理コストを低減できる。
【0009】
溝部5内には溝部5毎に補強部材6が設置される。補強部材6としては、切削装置2の筒型の変形板7が用いられる。
筒型の変形板7は、切削ビット8によりコンクリート構造体4の壁面3aよりコンクリート構造体4の内部に向けて環状の溝部5を形成するとともに、筒型の変形板7の切削ビット8側が溝部5の底部25に到達した状態でシャンク16を切削装置2より取外すことで、溝部5内に残置される。つまり、環状の溝部5を形成した筒型の変形板7を引抜かずに溝部5内に摩擦力を有して埋殺しされた状態とする。本実施形態では筒型の変形板7が本発明の補強部材6に相当する。
筒型の変形板7は、溝部5内に溝部5の内壁面26(コア部9の壁面21aと対向する溝部5内のコンクリート構造体4の外周面22)間には空隙が無い、又は、空隙が少ない状態で残置される。
【0010】
次に、図3に示すように、せん断補強方法を説明する。
まず、コンクリート構造体4の壁面3aと切削装置2のベース11とを接触させてアンカーボルト19をベース11を介してコンクリート構造体4に打ち込むことにより切削装置2をコンクリート構造体4に固定させる。次に、ハンドル18を操作して切削装置2の筒型の変形板7がコンクリート構造体4の壁面3aよりコンクリート構造体4の内部に所定深さまで切削することにより、コア部9を残存させたままコンクリート構造体4に環状の溝部5を形成させる。そして、モータ21の電源をOFFにした後、シャンク16を切削装置2の出力軸15より取外すことにより筒型の変形板7を溝部5の底部25に位置した状態で残置させることができる。
【0011】
筒型の変形板7が溝部5の底部25に到達した状態で切削装置2より取り外されて溝部5内に残置されるので、溝部5内に設置された筒型の変形板7と筒型の変形板7によって囲まれたコア部9とにより複合された複合補強部6Aを構築することができるので、せん断応力に対する耐力を向上させることができる。
尚、溝部5内に残置された筒型の変形板7と溝部5の内壁面26との間に隙間が発生した場合、例えば、筒型の変形板7が引抜ける程度の隙間が筒型の変形板7の外周面とコンクリート構造体4の外周面22との間、又は、筒型の変形板7の内周面とコア部9の壁面21aとの間にある場合には、この隙間に鋼材や棒材等の図外の間挿部材や充填材35を充填することにより、筒型の変形板7と溝部5内の内壁面26とをより密接な状態とする。従って、せん断応力が補強部材6としての筒型の変形板7と溝部5内の内壁面26との間の充填材35や間挿部材を介してコア部9に伝達されるのでせん断応力に対し更に耐力を向上させることができる。
【0012】
実施の形態1によれば、コア部9を取除かずに環状の溝部5内に補強部材6を設けるので、コア部9を折って撤去する作業とコア部9に充填材35を充填する作業をする必要がなく作業効率が向上するという効果を奏する。すなわち、補強部材6で囲まれた部分は、コア部9として残し、除去する必要がないので、従来のように掘削孔全体をグラウト等の充填材35で満たさなくても良く、既在の剛性の高いコンクリート部分が芯材となり断面の大きな補強部材6となるので、せん断応力に対する耐力が向上する。
溝部5を切削装置2の筒型の変形板7により形成し、当該筒型の変形板7を上記溝部5内に残置して上記補強部材6として用いたので、筒型の変形板7を引抜かずに溝部5内で埋殺しされた状態とすることができるので、施工効率を向上させることができる。
【0013】
実施の形態2
実施の形態1では、補強部材6を筒型の変形板7としたが、環状の溝部5内に嵌入される変形板7としての円筒体30を主体とし、この円筒体30と、溝部5内の内壁面26(コア部9の壁面21aとコンクリート構造体4の外周面22)と円筒体30の内面31,外面32との隙間に充填される充填材35とにより形成してもよい。
円筒体30はその後端部33が溝部5内に嵌入されることによりコンクリート構造体4の壁面3aに接して溝部5を被う鍔部34を備える。
図4(a)に示すように円筒体30は金属、グラスファイバー、樹脂等の材料により成形される。例えば、円筒体30は鋼管36を所定長さに切断したものを用いる。鋼管36は、溝部5の幅Wよりも小さな厚みW1で形成される。鋼管36の長さは、溝部5の深さと同程度の長さにより形成される。鋼管36の孔36aはコア部9を嵌入させる孔として機能する。鍔部34は鋼管36の環状断面よりも断面積の大きな矩形の平板により形成される。例えば、鋼管36と鍔部34とは、鍔部34の面の中心と鋼管の中心とが一致した位置で鋼管の後端部33側の端面33aと鍔部34の面34aとを溶接させることで結合される。鍔部34は、鋼管36との結合面に鋼管36の環状断面よりも大きな接合面37が形成される。尚、鍔部34の形状は矩形に限らず、正方形、円形、十字形等、どのような形でもよい。
充填材35は、グラウト、モルタル、セメントミルク、レジンコンクリート等により成り、図外の注入用ホース及びポンプ等の充填材充填装置により溝部5内に充填される。
【0014】
次に、実施の形態2のせん断補強方法を説明する。
実施の形態1と同様な方法でコンクリート構造体4に形成された溝部5内に、図外の充填材充填用ホースを挿入して、充填材充填装置のポンプを駆動することにより溝部5内に充填材35を充填させる。次に、充填材35が充填された溝部5内に鍔部34が無い側の先端部38より溝部5に鋼管36を嵌入させる。つまり、鋼管36の孔36aにコア部9を嵌入するとともに、溝部5内の内壁面26の隙間に鋼管36が嵌入される。鋼管36は、厚みが溝部5の幅Wよりも小さな厚みW1で形成されているので、がたつき無く溝部5内に嵌入させることができる。鋼管36は、鍔部34の接合面37がコンクリート構造体4の壁面3aと接触することで溝部5を被うように溝部5内に嵌入される。次に、充填材35が固化することにより、鋼管36が溝部5内に固定された状態で設置される。
【0015】
尚、鋼管36は、鋼管36の中心軸とコア部9の中心軸とを一致させるとともに鋼管36を回転させながら溝部5内に挿入するようにすれば、溝部5内の内壁面26と鋼管36の内,外面31,32との隙間に充填される充填材35が均等に充填されるので望ましい。
図示しないが、コンクリート構造体4の壁面3aと鍔部34の接合面37とが当接した状態で、鍔部34の接合面37とコンクリート構造体4の壁面3aとを図外の接着剤や接着部材により密接に結合するようにしてもよい。これによれば、コンクリート構造体4と接着された鍔部34によりせん断応力に対する耐力を更に向上させることができる。
【0016】
円筒体30を鋼管36により形成したが、充填材35との密着性を向上させる円筒体30を用いてもよい。例えば、図5(b)に示すように、メッシュ(網目)で円筒型に形成された筒状メッシュ体41や、図5(c)に示すように、鋼管36に複数の孔を形成した孔付き円筒体36Aが用いられる。筒状メッシュ体41を補強部材6として用いる場合には、充填材35が筒状メッシュ体41の空隙d中にも充填されるので、メッシュがより強固に一体化され、せん断応力に対する耐力が向上する。また、孔付き円筒体36Aを補強部材6として用いる場合には、充填材35が孔付き円筒体36Aの孔42中にも充填されるので、孔付き円筒体36Aと充填材35とが強固に一体化されるので、せん断応力に対する耐力が向上する。
【0017】
補強部材6としての円筒体30に鍔部34を備えなくてもよい。すなわち、補強部材6として、図5(a)に示す鋼管36や、図5(b)に示す筒状メッシュ体41や、図5(c)に示す孔付き円筒体36Aや、図5(d)に示す断面凹凸型の筒体36Dや、図5(e)に示す両端にスリットSを介して対向する複数の断面半円体36Eや、図5(f)に示すスリット付き円筒体36Fを充填材35が充填された溝部5内に嵌入して、溝部5内に円筒体30を配置するようにしてもよい。
【0018】
実施の形態2によれば、上記溝部5内に充填材35を充填したので、充填材35で円筒体30等の変形板7を溝部5内の壁面3aと密接に結合することができるので、せん断応力が発生した初期の段階で補強部材6にせん断応力を負担させることが可能となる。また、溝部5内部に設置された円筒体30、又は、スリット付き円筒体36F、又は、孔付き円筒体36A、又は、両端にスリットSを介して対向する複数の断面半円体36E、又は、円筒状メッシュ体41等によって囲まれたコア部9と溝部5内の内壁面26と円筒体30の内,外面31,32との隙間に充填材35が充填されたことにより、溝部5内の補強部材6の周囲への充填材35の充填が確実に行えるとともに、充填材35がスリットS、又は、円筒体の孔、又は、断面半円体36Eのスリット、又は、円筒状メッシュ体41の空隙d間にも充分に充填されるので補強部材6の変形板7と充填材35との摩擦力が上がるので結合をより強固とさせることにより引き抜き耐力が向上するので、せん断応力に対する耐力が更に向上する。
尚、円筒体30とコア部9と充填材35とにより複合された複合補強部6Bを構築することができるので、せん断応力に対する耐力を更に向上させることができる。
また、円筒体30は鍔部34を備えたので、鍔部34の開口周囲の剛性が上がるので、コンクリートの破砕を防ぐことができ、更に、コンクリート構造体4、及び、補強部材6の剛性を上げることができるので、せん断応力に対する耐力を向上させることができる。尚、鍔部34は円筒体30と一体となったものを溝部5に嵌入しなくても、円筒体30を嵌入後、円筒体30の外周と鍔部34とを溶接して一体化してもよい。また、円筒体30の外周と、円筒体30と当接する鍔部34にねじ加工を施して、ねじによって円筒体30と鍔部34とを一体化してもよい。
【0019】
実施の形態3
図6(a)に示すように、実施の形態2の円筒体30に軸方向に沿ってスリット44を備え、鍔部34にスリット44の後端と連接する充填孔45を備えて、充填材35を鍔部34の充填孔45を介してスリット方向に沿って充填材35を充填させて図6(b)に示すコンクリート構造体4のせん断補強構造1を構築する。
スリット44は円筒体30の軸方向に沿って円筒体30の両端に跨るように形成される。充填孔45は、図外の充填材充填用ホースを挿入可能な大きさに設定される。
【0020】
次に、実施の形態3のせん断補強方法を説明する。
実施の形態2では充填材35を溝部5内に充填した後に、充填された溝部5内に円筒体30を挿入したが、実施の形態3では充填材35を充填する前にスリット44を備えた円筒体30を溝部5内に挿入させる。すなわち、実施の形態1と同様な方法でコンクリート構造体4に形成された溝部5内に、鍔部34が無い側の先端部より溝部5に円筒体30を挿入させる。円筒体30は、鍔部34の接合面37がコンクリート構造体4の壁面3aと接触して溝部5が被われるまで嵌入される。次に、鍔部34の充填孔45に図外の充填材充填用ホースを挿入して、充填材充填装置のポンプを駆動することにより溝部5内に充填材35を充填させる。充填材35は円筒体30のスリット44より溝部5内の内壁面26と円筒体30の内,外面31,32の隙間W3,W4を埋めるように周方向の矢印a,bに向けて充填される。尚、充填材35を充填する際に、図7(a)、(b)に示すように、円筒体30を一方方向M、又は、他方方向N、若しくは、それぞれの方向を交互に回転させながら充填材35を充填させる。これによれば、溝部5内の内壁面26と円筒体30の内,外面31,32の隙間W3,W4に容易に充填材35を均等に行渡らせて充填することができる。次に、図7(c)に示すように、充填材35が固化することにより、鍔部34の接合面37がコンクリート構造体4の壁面3aと接触した状態で円筒体30が溝部5内に固定される。
【0021】
尚、円筒体30の溝部5内への挿入と、溝部5内への充填材35の充填を同時に行うようにしてもよい。これによれば、工期を短縮させることができる。
【0022】
尚、スリットを備えた円筒体30をスリット44を備えた鋼管36により形成してもよい。また、円筒体30を充填材35との密着性を向上させる円筒の補強体を用いてもよい。例えば、図8(a)に示すようなスリット44を備えたスリット付筒状メッシュ体41Aや、図8(b)に示すようなスリット44を備えた鋼管36に複数の孔42を形成したスリット付孔付鋼管36Bにより形成してもよい。
【0023】
実施の形態3によれば、上記鍔部34に充填孔45を備え、上記充填孔45を介して上記充填材35を充填するようにしたので、円筒体30等の変形板7を溝部5内に設置した後に充填材35を外から溝部5内に容易に充填できるようになるため、充填材35の量が少なくて済み、充填材35の充填作業時期を任意に決めることができるので、工事のコストが下がるとともに作業管理がし易くなる。更に、補強部材6の全周に充填材35を充填し易くなる。
【0024】
実施の形態4
図9に示すように、実施の形態2又は実施の形態3の溝部5毎に設置された鍔部34を、複数一体化させてもよい。
鍔部34は複数の溝部5内に嵌入される各円筒体30の後端部に設けられる鍔部34同士を一体化して形成される。つまり、複数の溝部5を被う長尺板により形成された複数管結合鍔部34Aを備える。複数管結合鍔部34Aと複数の円筒体30とが溶接により結合されることにより補強部材6が形成される。複数の円筒体30は、複数の溝部5と嵌合する位置で複数管結合鍔部34Aと結合させる。例えば、複数管結合鍔部34Aは隣接する2つの溝部5を被うような長さに設定されて、2つの円筒体30は後端部33側の端面33aが隣接する2つの溝部5と嵌合する位置となるように複数管結合鍔部の面34aと結合される。
【0025】
実施の形態4によれば、鍔部34は複数の溝部5内に嵌入される各円筒体30の後端部に設けられる鍔部34同士を一体化して形成されるので、溝部5の開口周囲における剛性の上がる範囲が拡がるので、せん断応力に対して耐力を更に向上させることができる。
【0026】
実施の形態5
円筒体30の先端に拡開部47を設け、円筒体30を溝部5内に嵌入したときに、この拡開部47が広がって溝部5の外面に圧接するようにした。
図10(a),図10(b)に示すように、拡開部47は根元部48から先端部49に向けて末広がりな環状の部材により形成され、円筒体30及びコンクリート構造体4よりも軟性な部材により形成される。すなわち、拡開部47は根元部48が円筒体30の先端の外面と同程度の内径で形成されて、先端部49は根元部48よりも径が大きく形成されたテーパ形状で形成される。拡開部47の幅W5は、コア部9の中心軸と円筒体30の中心軸とが同軸状に位置した状態において、円筒体30の外径と溝部5内の外面22a(コンクリート構造体4の外周面22)との隙間よりも短くなるように設定される。拡開部47は円筒体30と同じ材料でも広がれば問題ないが、鉛等の円筒体30より柔らかい材料により形成されて、円筒体30の先端部38と溶接により結合される。
【0027】
次に、実施の形態5のせん断補強方法を説明する。
実施の形態1と同様な方法でコンクリート構造体4に形成された溝部5内に、図外の充填材充填装置で充填材35を充填する。次に、充填材35が充填された溝部5内に拡開部47が設置された円筒体30の先端より円筒体30を溝部5に嵌入させる。そして、溝部5内の底面25aに拡開部47の先端部49が接触した状態で、更に、円筒体30を溝部5内に押し込むことにより拡開部47の先端部49が根元部48に対して拡径して溝部5内の外面22aに圧接される。つまり、円筒体30の拡開部47は、円筒体30又は鍔部34が図外のハンマーや押圧装置により打撃を受けることにより、先端部49が溝部5内の底面25aに沿って溝部5内の外面22aに向けて拡開変形することで溝部5内の外面22aを圧接する。次に、充填材35が固化することにより、円筒体30が溝部5内に固定された状態で設置される。尚、溝部5への円筒体30の変形板7を嵌入後、溝部5内に充填材35を充填してもよい。
【0028】
拡開部47は末広がりな環状の部材により形成したが、円筒体30を溝部5内に嵌入して溝部5の底面25aと接触時に変形可能な円筒体30により形成してもよい。尚、円筒体30に直接打撃を加えて溝部5の底面25aと接触時に円筒体30の先端を変形させて溝部5内の外面22aを圧接するようにしてもよい。また、スリット付き円筒体36Fを用いてもよい。このスリット付き円筒体36Fは、コア部9と接触する径で形成された場合でも、スリットSが拡がるように変形することにより、コア部9を囲むように溝部5内に嵌入することができる。また、スリット付き円筒体36Fが溝部5内の外面22aと接触する径で形成された場合でも、スリットSが縮まるようにスリット付き円筒体36Fが変形することにより溝部5内に嵌入できる。
拡開部47は、円筒体30の先端部38を円筒体30より柔らかい材料で形成してもよい。また、円筒体30全体を柔らかい材料で形成してもよい。
【0029】
実施の形態5によれば、円筒体30が拡開部47を備え、打撃を受けることにより溝部5内の内壁面26と密接した状態となるので充填材35が固化するまで円筒体30を支持する必要がなく施工性が向上する。また、変形板7の先端に溝部5内の外面22aに圧接する拡開部47を設けたので、補強部材6の引き抜きに対する抵抗が増すので、せん断応力に対する耐力が更に向上する。
【0030】
実施の形態6
実施の形態5では、拡開部47を円筒体30の先端に設けたが、溝部5の底部25に、底面方向25bに拡がるように傾斜するテーパ面50を設け、円筒体30を上記テーパ面50方向に押圧したとき上記テーパ面50をガイドとして円筒体30の先端が矢印25cに示すように拡開変形して溝部5内の外面22aに圧接するようにした。テーパ面50は、切削によって残されたコンクリート構造体4の内壁面26や、溝部5内に設置される拡開具51により形成される。テーパ面50は溝部5の底面25aより溝部5の開口に向けて縮径する断面直角三角形状の円錐形状の斜面により断面形状が形成される。拡開具51はテーパ面50を備える環状部材であって、断面三角形状の底部52が溝部5の底面25aと接触し、断面三角形状の背部53がコア部9の壁面21aと接触するように形成される。
テーパ面50が形成された溝部5内に挿入させる円筒体30としては、実施形態5の円筒体30が用いられる。すなわち、拡開部47を先端部38に備えた円筒体30や、スリット付き円筒体36Fや、先端部38を円筒体30より柔らかい材料で形成した円筒体30、全体を円筒体30より柔らかい材料で形成した円筒体30が用いられる。
【0031】
次に、実施の形態6のせん断補強方法を説明する。
図11に示すように、実施の形態1と同様な方法でコンクリート構造体4に形成された溝部5内に、拡開具51を設置させる。拡開具51は底部52が溝部5の底面25aに設置されることで溝部5内にテーパ面50を形成する。次に、図外の充填材充填装置で充填材35を溝部5内に充填する。次に、充填材35が充填された溝部5内に円筒体30の先端部38より円筒体30を挿入させる。そして、図11(b)に示すように、円筒体30の先端部38と拡開具51のテーパ面50とが接触した状態で、更に、円筒体30を溝部5内に押圧することにより円筒体30の先端部38が拡径して溝部5内の外面22aに圧接される。つまり、円筒体30の先端部38は、円筒体30又は鍔部34が図外のハンマーや押圧装置により打撃を受けることにより、円筒体30の先端部38が溝部5内のテーパ面50に沿って溝部5内の外面22aに向けて拡開変形することで溝部5内の外面22aを圧接する。次に、充填材35が固化することにより、円筒体30が溝部5内に固定された状態で設置される。尚、溝部5へ円筒体30等の変形板7を嵌入後、溝部5内に充填材35を充填してもよい。
【0032】
テーパ面50は溝部5の底面25aより溝部5の開口に向けて拡径する断面直角三角形状の円環体の斜面により形成してもよい。これによれば、このテーパ面50をガイドとして、円筒体30の先端部38が拡開変形することで溝部5内のコア部9の壁面21aに圧接させることができる。
【0033】
実施の形態6によれば、実施の形態5と同様な効果が得られる。
【0034】
実施の形態7
実施の形態5,実施の形態6の充填材35を溝部5内に充填しなくてもよい。
【0035】
実施の形態8
実施の形態4の複数管結合鍔部34Aの複数の円筒体30を、隣接する複数管結合鍔部34Aと位置がずれるように溝部5内に嵌入してコンクリート構造体4に配置した。複数管結合鍔部34Aと隣接する複数管結合鍔部34Aとの位置ずれは、コンクリート構造体4の水平線上、又は、垂直線上、又は、斜線線上を交差するように複数配置される。例えば、図12に示すように、コンクリート構造体4の壁面3aの水平線L上と交差するように複数管結合鍔部34Aを一定間隔で交互に位置をずらすことにより千鳥状に配置した。これにより、溝部5の開口周囲における剛性の上がる範囲が拡がるので、せん断応力に対して耐力を更に向上させることができる。
【0036】
実施の形態9
尚、円筒体30の製法については、次のものが考えられる。
すなわち、円筒体30は図13(a)に示すように、平板30iを湾曲させて、図13(b)に示すように、両端の継ぎ目30hを溶接して形成してもよい。
また、円筒体30は図14(a)に示すように平板を半円状に湾曲形成した湾曲片30m,30mを図14(b)に示すように継ぎ目30hを溶接して形成してもよい。
あるいは、図14(a)において両端にスリットSを有する湾曲片30m,30mを、スリットSを有したまま溝部5に個別に差し込むようにしてもよい。これによれば湾曲片30mの差込作業が容易となる。
あるいは、図14(a)に示す湾曲片30m,30mにおいて、図15に示すように一方だけスリットSを設け、他方のスリットSを継ぎ合わせて溶接するようにして、このスリットS付きの円筒体30を溝部5に差し込んでもよい。
又は、図16に示すように、円筒体30にスリ割りを入れることでスリットSを設けてもよい。
【0037】
尚、本発明のコンクリート構造体のせん断補強構造は、実施形態1の構成、即ち、変形板の構成は、実施の形態2乃至実施の形態9のいずれか1つ以上の実施形態の構成を加味したコンクリート構造体のせん断補強構造であればよい。
【符号の説明】
【0038】
1 せん断補強構造、2 切削装置、3a 壁面、4 コンクリート構造体、
5 溝部、6 補強部材、7 変形板、30 円筒体、33 円筒体の後端部、
34 鍔部、35 充填材、36 鋼管、36A 孔付き円筒体、
S,44 スリット、45 充填孔、47 拡開部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設のコンクリート構造体のせん断補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造体の補強面に、ドリル等の回転工具を用いて、内部に向けてせん断補強材挿入用長穴を形成し、このせん断補強材挿入用長穴に異形鉄筋等からなるせん断補強材を挿入し、前記長穴内に生じた残部空隙を流動性硬化性樹脂若しくはセメントモルタル等の充填材で充填固化し、一体化させることが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、鉄筋コンクリート部材に掘削孔を設け、この掘削孔に鋼管を挿入し、掘削孔内の空隙にグラウトを充填し、このグラウトが硬化することで、一体化させることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−113673号公報
【特許文献2】特開2007−204984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1によれば、せん断応力に対する耐力を向上させるためには、せん断補強材を挿入可能な、細径のせん断補強材挿入用長穴をコンクリート構造体の補強面に多数又は太径に形成する必要があるが、このように、多数のせん断補強材挿入用長穴をコンクリート構造体の補強面に形成することによりコンクリート構造体自体の強度が低下することがあり、太径の場合、補強部材も太径にする必要がありコスト高となる。更に、特許文献2では、鋼管挿入用の掘削孔を設けてから、この掘削孔にグラウトを充填して埋設するため、掘削孔内に充填させるためのグラウトの量が増加してしまうので、材料費が高価となる。また、鉄筋コンクリート部材の掘削孔に鋼管を挿入するために掘削孔の掘削範囲を大きくしなければならず、掘削により発生した廃棄物の量も増加してしまうので、廃棄物の処理コストが高くなるという問題もあった。そこで、本発明は、コンクリート構造体自体の強度を向上させ、かつ、コストを抑えることができるコンクリート構造体のせん断補強構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によるコンクリート構造体のせん断補強構造によれば、コンクリート構造体の一方の壁面から形成された環状の溝部と、溝部内に嵌合された変形板より成る補強部材とを備えたので、補強部材で囲まれた部分は、コア部として残し、除去する必要がないので、従来のようにグラウト等の充填材で満たさなくても良く、既在の剛性の高いコンクリート部分が芯材となり断面の大きな補強部材となるので、せん断応力に対する耐力が向上する。
溝部内に充填材を充填したので、充填材で円筒体等の変形板を溝部内の壁面と密接に結合することができるので、せん断応力が発生した初期の段階で補強部材にせん断応力を負担させることが可能となる。
補強部材の変形板は円筒体、又は、スリット付き円筒体、又は、孔付き円筒体、又は、両端にスリットを介して対向する複数の断面半円体、又は、円筒状メッシュ体等より成るので、溝部内の補強部材の周囲への充填材の充填が確実に行えるとともに充填材がスリット、又は、円筒体の孔、又は、断面半円体間のスリット、又は、円筒状メッシュ体の孔にも充分に充填されるので補強部材の変形板と充填材との摩擦力が上がるので結合をより強固とさせることにより引き抜き耐力が向上するので、せん断応力に対する耐力が更に向上する。
補強部材の変形板の後端部に、壁面に接して溝部を被う鍔部を備えたので、鍔部の面でコンクリート構造体及び補強部材をより強固に補強することができ、鍔部の開口周囲の剛性が上がるので、コンクリートの破砕を防ぐことができ、更に、補強部材の剛性を上げることができるので、せん断応力に対する耐力を向上させることができる。
鍔部に充填孔を備え、充填孔を介して充填材を充填するようにしたので、円筒体等の変形板を溝部内に設置した後に充填材を外から溝部内に容易に充填できるようになるため、充填材の充填作業時期を任意に決めることができ、工事の作業管理がし易く、更に、補強部材の全周に充填材を充填し易くなる。
複数の溝部内に嵌入される各変形板の後端部に設けられる鍔部同士を一体化したので、溝部の開口周囲における剛性の上がる範囲が拡がるので、せん断応力に対して耐力を更に向上させることができる。
補強部材の変形板の先端に溝部内の外面に圧接する拡開部を設けたので、補強部材の引き抜きに対する抵抗が増すので、せん断応力に対する耐力が更に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】切削装置をコンクリート構造体に取付けた状態を示す図。(実施の形態1)。
【図2】筒型の変形板を示す斜視図(実施の形態1)。
【図3】コンクリート構造体のせん断補強構造を示す断面図(実施の形態1)。
【図4】(a)は円筒体を示す斜視図、(b)はコンクリート構造体のせん断補強構造を示す断面図(実施の形態2)。
【図5】円筒体を示す斜視図(実施の形態2)。
【図6】(a)は円筒体を示す斜視図、(b)はコンクリート構造体のせん断補強構造を示す断面図(実施の形態3)。
【図7】コンクリート構造体のせん断補強方法を示す図(実施の形態3)。
【図8】円筒体を示す斜視図(実施の形態3)
【図9】円筒体と鍔部とを示す斜視図(実施の形態4)。
【図10】(a)は拡開部を備えた円筒体を示す斜視図、(b)は拡開部の要部拡大断面図、(c)はコンクリート構造体のせん断補強方法を示す図(実施の形態5)。
【図11】コンクリート構造体のせん断補強方法を示す断面図(実施の形態6)。
【図12】鍔部を備えた円筒体のコンクリート構造体への配置を示す斜視図(実施の形態8)。
【図13】円筒体を示す図(実施の形態9)。
【図14】円筒体を示す図(実施の形態9)。
【図15】円筒体を示す図(実施の形態9)。
【図16】円筒体を示す図(実施の形態9)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施の形態1
図1に示す切削装置2は、図3に示すように、せん断補強構造1をコンクリート構造体4に形成するための環状の溝部5を形成する装置である。せん断補強構造1は切削装置2によりコンクリート構造体4の一方の壁面から形成された環状の溝部5と、溝部5内に嵌合された補強部材6とを備える。
コンクリート構造体4は例えば、橋脚、ボックスカルバート等のコンクリートにより構築された既設のコンクリート構造物である。コンクリート構造体4は鉄筋コンクリート構造物、無鉄コンクリート構造物、鉄骨鉄筋コンクリート構造物でもよい。
切削装置2は、図1に示すように、コアドリル装置10により形成される。コアドリル装置10は、コアドリル装置10を支持するベース11と、ベース11と直交する方向に延長する支柱12と、支柱12の延長方向に沿って設けられたラック13と、ラック13と噛み合うことにより支柱12の延長方向に移動可能なピニオンを備えたドリルヘッド14と、ドリルヘッド14の出力軸15に着脱可能に接続される接続部材であるシャンク16を備えた筒型に形成された変形板7と、ドリルヘッド14に設けられ、筒型の変形板7を回転駆動させる減速機を備えたモータ21と、上記ピニオンと一体化された軸部17に連結されたピニオンを回動操作するためのハンドル18とを備える。図2,図3に示すように、シャンク16は筒型の変形板7の後端部の円盤部7aに連結される。円筒型の変形板7は先端に切削ビット8を備える。切削ビット8はダイヤモンドチップにより形成される。コンクリート構造体4の切り込み(切削)時には、ベース11をコンクリート構造体4にアンカーボルト19により固定し、筒型の変形板7をモータ21により回転させるとともにハンドル18を操作して筒型の変形板7の先端の切削ビット8をコンクリート構造体4の表面(壁面3a)よりコンクリート構造体4内部に押圧して貫通しないように切削させることでコンクリート構造体4に環状の溝部5を形成する(図3参照)。尚、橋脚等の両端側に作業空間が形成されたコンクリート構造体4にせん断補強構造1を構築する場合には、作業空間に跨るコンクリート構造体4を貫通するような孔部を形成してもよい。筒型の変形板7は、鋼等の金属等の材料により成形される。尚、筒型の変形板7は一体成形された鋼管等の円筒体を用いてもよいし、円筒の先端に切削ビット8が一体成形された筒状コアビット8を用いてもよい。円盤部7aは筒型の変形板7の後端部を塞ぐような円形の板により形成されて、筒型の変形板7と溶接等で一体化される。
本実施の形態1の特徴は、コンクリート構造体4の壁面3aに切り込みを入れて環状の溝部5を形成した場合に、この環状の溝部5により囲まれた円柱型のコア部9の底部側をコンクリート構造体4と一体のまま取除くことなく、残存させることである。
【0008】
環状の溝部5は、径が3cm〜10cm、幅が3mm〜5mm程度、深さが5cm〜100cm程度の長さとなるように形成される。溝部5の幅は、溝部5内の内周面21a(コア部9の外周面)と、その内周面21aと対面する溝部5内の外周面22との幅Wである。尚、切削装置2のシャンク16に切り込みの深さに応じた長さを有する筒型の変形板7を接続して、コアドリル装置10がコンクリート構造体4の一方の壁面3aから切り込む(切削)ことで溝部5を形成する。尚、溝部5の数、径、幅、深さは補強部材6が負担するせん断応力の大きさや、既在のコンクリート構造体の状況から適時決定すればよい。
溝部5はコンクリート構造体4に1つ以上形成される。例えば、コンクリート構造体4に複数の列の群、又は、複数の行の群を成すように形成される。例えば、複数の列と複数の行の群の間隔は等間隔のピッチ、又は、不等間隔のピッチで形成される。
コア部9は、コンクリート構造体4より取除かれずに残存されることによりせん断応力に対して高い耐力を有する。しかも、補強部材6で囲まれた部分は、コア部9として残し、除去する必要がないので、従来のようにグラウト等の充填材35で満たさなくても良く、既在の剛性の高いコンクリート部分が芯材となり断面の大きな補強部材6となるので、せん断応力に対する耐力が向上する。しかも、廃棄物の量を少なくでき、処理コストを低減できる。
【0009】
溝部5内には溝部5毎に補強部材6が設置される。補強部材6としては、切削装置2の筒型の変形板7が用いられる。
筒型の変形板7は、切削ビット8によりコンクリート構造体4の壁面3aよりコンクリート構造体4の内部に向けて環状の溝部5を形成するとともに、筒型の変形板7の切削ビット8側が溝部5の底部25に到達した状態でシャンク16を切削装置2より取外すことで、溝部5内に残置される。つまり、環状の溝部5を形成した筒型の変形板7を引抜かずに溝部5内に摩擦力を有して埋殺しされた状態とする。本実施形態では筒型の変形板7が本発明の補強部材6に相当する。
筒型の変形板7は、溝部5内に溝部5の内壁面26(コア部9の壁面21aと対向する溝部5内のコンクリート構造体4の外周面22)間には空隙が無い、又は、空隙が少ない状態で残置される。
【0010】
次に、図3に示すように、せん断補強方法を説明する。
まず、コンクリート構造体4の壁面3aと切削装置2のベース11とを接触させてアンカーボルト19をベース11を介してコンクリート構造体4に打ち込むことにより切削装置2をコンクリート構造体4に固定させる。次に、ハンドル18を操作して切削装置2の筒型の変形板7がコンクリート構造体4の壁面3aよりコンクリート構造体4の内部に所定深さまで切削することにより、コア部9を残存させたままコンクリート構造体4に環状の溝部5を形成させる。そして、モータ21の電源をOFFにした後、シャンク16を切削装置2の出力軸15より取外すことにより筒型の変形板7を溝部5の底部25に位置した状態で残置させることができる。
【0011】
筒型の変形板7が溝部5の底部25に到達した状態で切削装置2より取り外されて溝部5内に残置されるので、溝部5内に設置された筒型の変形板7と筒型の変形板7によって囲まれたコア部9とにより複合された複合補強部6Aを構築することができるので、せん断応力に対する耐力を向上させることができる。
尚、溝部5内に残置された筒型の変形板7と溝部5の内壁面26との間に隙間が発生した場合、例えば、筒型の変形板7が引抜ける程度の隙間が筒型の変形板7の外周面とコンクリート構造体4の外周面22との間、又は、筒型の変形板7の内周面とコア部9の壁面21aとの間にある場合には、この隙間に鋼材や棒材等の図外の間挿部材や充填材35を充填することにより、筒型の変形板7と溝部5内の内壁面26とをより密接な状態とする。従って、せん断応力が補強部材6としての筒型の変形板7と溝部5内の内壁面26との間の充填材35や間挿部材を介してコア部9に伝達されるのでせん断応力に対し更に耐力を向上させることができる。
【0012】
実施の形態1によれば、コア部9を取除かずに環状の溝部5内に補強部材6を設けるので、コア部9を折って撤去する作業とコア部9に充填材35を充填する作業をする必要がなく作業効率が向上するという効果を奏する。すなわち、補強部材6で囲まれた部分は、コア部9として残し、除去する必要がないので、従来のように掘削孔全体をグラウト等の充填材35で満たさなくても良く、既在の剛性の高いコンクリート部分が芯材となり断面の大きな補強部材6となるので、せん断応力に対する耐力が向上する。
溝部5を切削装置2の筒型の変形板7により形成し、当該筒型の変形板7を上記溝部5内に残置して上記補強部材6として用いたので、筒型の変形板7を引抜かずに溝部5内で埋殺しされた状態とすることができるので、施工効率を向上させることができる。
【0013】
実施の形態2
実施の形態1では、補強部材6を筒型の変形板7としたが、環状の溝部5内に嵌入される変形板7としての円筒体30を主体とし、この円筒体30と、溝部5内の内壁面26(コア部9の壁面21aとコンクリート構造体4の外周面22)と円筒体30の内面31,外面32との隙間に充填される充填材35とにより形成してもよい。
円筒体30はその後端部33が溝部5内に嵌入されることによりコンクリート構造体4の壁面3aに接して溝部5を被う鍔部34を備える。
図4(a)に示すように円筒体30は金属、グラスファイバー、樹脂等の材料により成形される。例えば、円筒体30は鋼管36を所定長さに切断したものを用いる。鋼管36は、溝部5の幅Wよりも小さな厚みW1で形成される。鋼管36の長さは、溝部5の深さと同程度の長さにより形成される。鋼管36の孔36aはコア部9を嵌入させる孔として機能する。鍔部34は鋼管36の環状断面よりも断面積の大きな矩形の平板により形成される。例えば、鋼管36と鍔部34とは、鍔部34の面の中心と鋼管の中心とが一致した位置で鋼管の後端部33側の端面33aと鍔部34の面34aとを溶接させることで結合される。鍔部34は、鋼管36との結合面に鋼管36の環状断面よりも大きな接合面37が形成される。尚、鍔部34の形状は矩形に限らず、正方形、円形、十字形等、どのような形でもよい。
充填材35は、グラウト、モルタル、セメントミルク、レジンコンクリート等により成り、図外の注入用ホース及びポンプ等の充填材充填装置により溝部5内に充填される。
【0014】
次に、実施の形態2のせん断補強方法を説明する。
実施の形態1と同様な方法でコンクリート構造体4に形成された溝部5内に、図外の充填材充填用ホースを挿入して、充填材充填装置のポンプを駆動することにより溝部5内に充填材35を充填させる。次に、充填材35が充填された溝部5内に鍔部34が無い側の先端部38より溝部5に鋼管36を嵌入させる。つまり、鋼管36の孔36aにコア部9を嵌入するとともに、溝部5内の内壁面26の隙間に鋼管36が嵌入される。鋼管36は、厚みが溝部5の幅Wよりも小さな厚みW1で形成されているので、がたつき無く溝部5内に嵌入させることができる。鋼管36は、鍔部34の接合面37がコンクリート構造体4の壁面3aと接触することで溝部5を被うように溝部5内に嵌入される。次に、充填材35が固化することにより、鋼管36が溝部5内に固定された状態で設置される。
【0015】
尚、鋼管36は、鋼管36の中心軸とコア部9の中心軸とを一致させるとともに鋼管36を回転させながら溝部5内に挿入するようにすれば、溝部5内の内壁面26と鋼管36の内,外面31,32との隙間に充填される充填材35が均等に充填されるので望ましい。
図示しないが、コンクリート構造体4の壁面3aと鍔部34の接合面37とが当接した状態で、鍔部34の接合面37とコンクリート構造体4の壁面3aとを図外の接着剤や接着部材により密接に結合するようにしてもよい。これによれば、コンクリート構造体4と接着された鍔部34によりせん断応力に対する耐力を更に向上させることができる。
【0016】
円筒体30を鋼管36により形成したが、充填材35との密着性を向上させる円筒体30を用いてもよい。例えば、図5(b)に示すように、メッシュ(網目)で円筒型に形成された筒状メッシュ体41や、図5(c)に示すように、鋼管36に複数の孔を形成した孔付き円筒体36Aが用いられる。筒状メッシュ体41を補強部材6として用いる場合には、充填材35が筒状メッシュ体41の空隙d中にも充填されるので、メッシュがより強固に一体化され、せん断応力に対する耐力が向上する。また、孔付き円筒体36Aを補強部材6として用いる場合には、充填材35が孔付き円筒体36Aの孔42中にも充填されるので、孔付き円筒体36Aと充填材35とが強固に一体化されるので、せん断応力に対する耐力が向上する。
【0017】
補強部材6としての円筒体30に鍔部34を備えなくてもよい。すなわち、補強部材6として、図5(a)に示す鋼管36や、図5(b)に示す筒状メッシュ体41や、図5(c)に示す孔付き円筒体36Aや、図5(d)に示す断面凹凸型の筒体36Dや、図5(e)に示す両端にスリットSを介して対向する複数の断面半円体36Eや、図5(f)に示すスリット付き円筒体36Fを充填材35が充填された溝部5内に嵌入して、溝部5内に円筒体30を配置するようにしてもよい。
【0018】
実施の形態2によれば、上記溝部5内に充填材35を充填したので、充填材35で円筒体30等の変形板7を溝部5内の壁面3aと密接に結合することができるので、せん断応力が発生した初期の段階で補強部材6にせん断応力を負担させることが可能となる。また、溝部5内部に設置された円筒体30、又は、スリット付き円筒体36F、又は、孔付き円筒体36A、又は、両端にスリットSを介して対向する複数の断面半円体36E、又は、円筒状メッシュ体41等によって囲まれたコア部9と溝部5内の内壁面26と円筒体30の内,外面31,32との隙間に充填材35が充填されたことにより、溝部5内の補強部材6の周囲への充填材35の充填が確実に行えるとともに、充填材35がスリットS、又は、円筒体の孔、又は、断面半円体36Eのスリット、又は、円筒状メッシュ体41の空隙d間にも充分に充填されるので補強部材6の変形板7と充填材35との摩擦力が上がるので結合をより強固とさせることにより引き抜き耐力が向上するので、せん断応力に対する耐力が更に向上する。
尚、円筒体30とコア部9と充填材35とにより複合された複合補強部6Bを構築することができるので、せん断応力に対する耐力を更に向上させることができる。
また、円筒体30は鍔部34を備えたので、鍔部34の開口周囲の剛性が上がるので、コンクリートの破砕を防ぐことができ、更に、コンクリート構造体4、及び、補強部材6の剛性を上げることができるので、せん断応力に対する耐力を向上させることができる。尚、鍔部34は円筒体30と一体となったものを溝部5に嵌入しなくても、円筒体30を嵌入後、円筒体30の外周と鍔部34とを溶接して一体化してもよい。また、円筒体30の外周と、円筒体30と当接する鍔部34にねじ加工を施して、ねじによって円筒体30と鍔部34とを一体化してもよい。
【0019】
実施の形態3
図6(a)に示すように、実施の形態2の円筒体30に軸方向に沿ってスリット44を備え、鍔部34にスリット44の後端と連接する充填孔45を備えて、充填材35を鍔部34の充填孔45を介してスリット方向に沿って充填材35を充填させて図6(b)に示すコンクリート構造体4のせん断補強構造1を構築する。
スリット44は円筒体30の軸方向に沿って円筒体30の両端に跨るように形成される。充填孔45は、図外の充填材充填用ホースを挿入可能な大きさに設定される。
【0020】
次に、実施の形態3のせん断補強方法を説明する。
実施の形態2では充填材35を溝部5内に充填した後に、充填された溝部5内に円筒体30を挿入したが、実施の形態3では充填材35を充填する前にスリット44を備えた円筒体30を溝部5内に挿入させる。すなわち、実施の形態1と同様な方法でコンクリート構造体4に形成された溝部5内に、鍔部34が無い側の先端部より溝部5に円筒体30を挿入させる。円筒体30は、鍔部34の接合面37がコンクリート構造体4の壁面3aと接触して溝部5が被われるまで嵌入される。次に、鍔部34の充填孔45に図外の充填材充填用ホースを挿入して、充填材充填装置のポンプを駆動することにより溝部5内に充填材35を充填させる。充填材35は円筒体30のスリット44より溝部5内の内壁面26と円筒体30の内,外面31,32の隙間W3,W4を埋めるように周方向の矢印a,bに向けて充填される。尚、充填材35を充填する際に、図7(a)、(b)に示すように、円筒体30を一方方向M、又は、他方方向N、若しくは、それぞれの方向を交互に回転させながら充填材35を充填させる。これによれば、溝部5内の内壁面26と円筒体30の内,外面31,32の隙間W3,W4に容易に充填材35を均等に行渡らせて充填することができる。次に、図7(c)に示すように、充填材35が固化することにより、鍔部34の接合面37がコンクリート構造体4の壁面3aと接触した状態で円筒体30が溝部5内に固定される。
【0021】
尚、円筒体30の溝部5内への挿入と、溝部5内への充填材35の充填を同時に行うようにしてもよい。これによれば、工期を短縮させることができる。
【0022】
尚、スリットを備えた円筒体30をスリット44を備えた鋼管36により形成してもよい。また、円筒体30を充填材35との密着性を向上させる円筒の補強体を用いてもよい。例えば、図8(a)に示すようなスリット44を備えたスリット付筒状メッシュ体41Aや、図8(b)に示すようなスリット44を備えた鋼管36に複数の孔42を形成したスリット付孔付鋼管36Bにより形成してもよい。
【0023】
実施の形態3によれば、上記鍔部34に充填孔45を備え、上記充填孔45を介して上記充填材35を充填するようにしたので、円筒体30等の変形板7を溝部5内に設置した後に充填材35を外から溝部5内に容易に充填できるようになるため、充填材35の量が少なくて済み、充填材35の充填作業時期を任意に決めることができるので、工事のコストが下がるとともに作業管理がし易くなる。更に、補強部材6の全周に充填材35を充填し易くなる。
【0024】
実施の形態4
図9に示すように、実施の形態2又は実施の形態3の溝部5毎に設置された鍔部34を、複数一体化させてもよい。
鍔部34は複数の溝部5内に嵌入される各円筒体30の後端部に設けられる鍔部34同士を一体化して形成される。つまり、複数の溝部5を被う長尺板により形成された複数管結合鍔部34Aを備える。複数管結合鍔部34Aと複数の円筒体30とが溶接により結合されることにより補強部材6が形成される。複数の円筒体30は、複数の溝部5と嵌合する位置で複数管結合鍔部34Aと結合させる。例えば、複数管結合鍔部34Aは隣接する2つの溝部5を被うような長さに設定されて、2つの円筒体30は後端部33側の端面33aが隣接する2つの溝部5と嵌合する位置となるように複数管結合鍔部の面34aと結合される。
【0025】
実施の形態4によれば、鍔部34は複数の溝部5内に嵌入される各円筒体30の後端部に設けられる鍔部34同士を一体化して形成されるので、溝部5の開口周囲における剛性の上がる範囲が拡がるので、せん断応力に対して耐力を更に向上させることができる。
【0026】
実施の形態5
円筒体30の先端に拡開部47を設け、円筒体30を溝部5内に嵌入したときに、この拡開部47が広がって溝部5の外面に圧接するようにした。
図10(a),図10(b)に示すように、拡開部47は根元部48から先端部49に向けて末広がりな環状の部材により形成され、円筒体30及びコンクリート構造体4よりも軟性な部材により形成される。すなわち、拡開部47は根元部48が円筒体30の先端の外面と同程度の内径で形成されて、先端部49は根元部48よりも径が大きく形成されたテーパ形状で形成される。拡開部47の幅W5は、コア部9の中心軸と円筒体30の中心軸とが同軸状に位置した状態において、円筒体30の外径と溝部5内の外面22a(コンクリート構造体4の外周面22)との隙間よりも短くなるように設定される。拡開部47は円筒体30と同じ材料でも広がれば問題ないが、鉛等の円筒体30より柔らかい材料により形成されて、円筒体30の先端部38と溶接により結合される。
【0027】
次に、実施の形態5のせん断補強方法を説明する。
実施の形態1と同様な方法でコンクリート構造体4に形成された溝部5内に、図外の充填材充填装置で充填材35を充填する。次に、充填材35が充填された溝部5内に拡開部47が設置された円筒体30の先端より円筒体30を溝部5に嵌入させる。そして、溝部5内の底面25aに拡開部47の先端部49が接触した状態で、更に、円筒体30を溝部5内に押し込むことにより拡開部47の先端部49が根元部48に対して拡径して溝部5内の外面22aに圧接される。つまり、円筒体30の拡開部47は、円筒体30又は鍔部34が図外のハンマーや押圧装置により打撃を受けることにより、先端部49が溝部5内の底面25aに沿って溝部5内の外面22aに向けて拡開変形することで溝部5内の外面22aを圧接する。次に、充填材35が固化することにより、円筒体30が溝部5内に固定された状態で設置される。尚、溝部5への円筒体30の変形板7を嵌入後、溝部5内に充填材35を充填してもよい。
【0028】
拡開部47は末広がりな環状の部材により形成したが、円筒体30を溝部5内に嵌入して溝部5の底面25aと接触時に変形可能な円筒体30により形成してもよい。尚、円筒体30に直接打撃を加えて溝部5の底面25aと接触時に円筒体30の先端を変形させて溝部5内の外面22aを圧接するようにしてもよい。また、スリット付き円筒体36Fを用いてもよい。このスリット付き円筒体36Fは、コア部9と接触する径で形成された場合でも、スリットSが拡がるように変形することにより、コア部9を囲むように溝部5内に嵌入することができる。また、スリット付き円筒体36Fが溝部5内の外面22aと接触する径で形成された場合でも、スリットSが縮まるようにスリット付き円筒体36Fが変形することにより溝部5内に嵌入できる。
拡開部47は、円筒体30の先端部38を円筒体30より柔らかい材料で形成してもよい。また、円筒体30全体を柔らかい材料で形成してもよい。
【0029】
実施の形態5によれば、円筒体30が拡開部47を備え、打撃を受けることにより溝部5内の内壁面26と密接した状態となるので充填材35が固化するまで円筒体30を支持する必要がなく施工性が向上する。また、変形板7の先端に溝部5内の外面22aに圧接する拡開部47を設けたので、補強部材6の引き抜きに対する抵抗が増すので、せん断応力に対する耐力が更に向上する。
【0030】
実施の形態6
実施の形態5では、拡開部47を円筒体30の先端に設けたが、溝部5の底部25に、底面方向25bに拡がるように傾斜するテーパ面50を設け、円筒体30を上記テーパ面50方向に押圧したとき上記テーパ面50をガイドとして円筒体30の先端が矢印25cに示すように拡開変形して溝部5内の外面22aに圧接するようにした。テーパ面50は、切削によって残されたコンクリート構造体4の内壁面26や、溝部5内に設置される拡開具51により形成される。テーパ面50は溝部5の底面25aより溝部5の開口に向けて縮径する断面直角三角形状の円錐形状の斜面により断面形状が形成される。拡開具51はテーパ面50を備える環状部材であって、断面三角形状の底部52が溝部5の底面25aと接触し、断面三角形状の背部53がコア部9の壁面21aと接触するように形成される。
テーパ面50が形成された溝部5内に挿入させる円筒体30としては、実施形態5の円筒体30が用いられる。すなわち、拡開部47を先端部38に備えた円筒体30や、スリット付き円筒体36Fや、先端部38を円筒体30より柔らかい材料で形成した円筒体30、全体を円筒体30より柔らかい材料で形成した円筒体30が用いられる。
【0031】
次に、実施の形態6のせん断補強方法を説明する。
図11に示すように、実施の形態1と同様な方法でコンクリート構造体4に形成された溝部5内に、拡開具51を設置させる。拡開具51は底部52が溝部5の底面25aに設置されることで溝部5内にテーパ面50を形成する。次に、図外の充填材充填装置で充填材35を溝部5内に充填する。次に、充填材35が充填された溝部5内に円筒体30の先端部38より円筒体30を挿入させる。そして、図11(b)に示すように、円筒体30の先端部38と拡開具51のテーパ面50とが接触した状態で、更に、円筒体30を溝部5内に押圧することにより円筒体30の先端部38が拡径して溝部5内の外面22aに圧接される。つまり、円筒体30の先端部38は、円筒体30又は鍔部34が図外のハンマーや押圧装置により打撃を受けることにより、円筒体30の先端部38が溝部5内のテーパ面50に沿って溝部5内の外面22aに向けて拡開変形することで溝部5内の外面22aを圧接する。次に、充填材35が固化することにより、円筒体30が溝部5内に固定された状態で設置される。尚、溝部5へ円筒体30等の変形板7を嵌入後、溝部5内に充填材35を充填してもよい。
【0032】
テーパ面50は溝部5の底面25aより溝部5の開口に向けて拡径する断面直角三角形状の円環体の斜面により形成してもよい。これによれば、このテーパ面50をガイドとして、円筒体30の先端部38が拡開変形することで溝部5内のコア部9の壁面21aに圧接させることができる。
【0033】
実施の形態6によれば、実施の形態5と同様な効果が得られる。
【0034】
実施の形態7
実施の形態5,実施の形態6の充填材35を溝部5内に充填しなくてもよい。
【0035】
実施の形態8
実施の形態4の複数管結合鍔部34Aの複数の円筒体30を、隣接する複数管結合鍔部34Aと位置がずれるように溝部5内に嵌入してコンクリート構造体4に配置した。複数管結合鍔部34Aと隣接する複数管結合鍔部34Aとの位置ずれは、コンクリート構造体4の水平線上、又は、垂直線上、又は、斜線線上を交差するように複数配置される。例えば、図12に示すように、コンクリート構造体4の壁面3aの水平線L上と交差するように複数管結合鍔部34Aを一定間隔で交互に位置をずらすことにより千鳥状に配置した。これにより、溝部5の開口周囲における剛性の上がる範囲が拡がるので、せん断応力に対して耐力を更に向上させることができる。
【0036】
実施の形態9
尚、円筒体30の製法については、次のものが考えられる。
すなわち、円筒体30は図13(a)に示すように、平板30iを湾曲させて、図13(b)に示すように、両端の継ぎ目30hを溶接して形成してもよい。
また、円筒体30は図14(a)に示すように平板を半円状に湾曲形成した湾曲片30m,30mを図14(b)に示すように継ぎ目30hを溶接して形成してもよい。
あるいは、図14(a)において両端にスリットSを有する湾曲片30m,30mを、スリットSを有したまま溝部5に個別に差し込むようにしてもよい。これによれば湾曲片30mの差込作業が容易となる。
あるいは、図14(a)に示す湾曲片30m,30mにおいて、図15に示すように一方だけスリットSを設け、他方のスリットSを継ぎ合わせて溶接するようにして、このスリットS付きの円筒体30を溝部5に差し込んでもよい。
又は、図16に示すように、円筒体30にスリ割りを入れることでスリットSを設けてもよい。
【0037】
尚、本発明のコンクリート構造体のせん断補強構造は、実施形態1の構成、即ち、変形板の構成は、実施の形態2乃至実施の形態9のいずれか1つ以上の実施形態の構成を加味したコンクリート構造体のせん断補強構造であればよい。
【符号の説明】
【0038】
1 せん断補強構造、2 切削装置、3a 壁面、4 コンクリート構造体、
5 溝部、6 補強部材、7 変形板、30 円筒体、33 円筒体の後端部、
34 鍔部、35 充填材、36 鋼管、36A 孔付き円筒体、
S,44 スリット、45 充填孔、47 拡開部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造体の一方の壁面から形成された環状の溝部と、溝部内に嵌合された変形板より成る補強部材とを備えたことを特徴とするコンクリート構造体のせん断補強構造。
【請求項2】
前記溝部内に充填材を充填したことを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造体のせん断補強構造。
【請求項3】
前記補強部材の変形板は円筒体、又は、スリット付き円筒体、又は、孔付き円筒体、又は、両端にスリットを介して対向する複数の断面半円体、又は、円筒状メッシュ体等より成ることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコンクリート構造体のせん断補強構造。
【請求項4】
前記補強部材の変形板の後端部に、前記壁面に接して前記溝部を被う鍔部を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のコンクリート構造体のせん断補強構造。
【請求項5】
前記鍔部に充填孔を備え、前記充填孔を介して前記充填材を充填するようにしたことを特徴とする請求項4に記載のコンクリート構造体のせん断補強構造。
【請求項6】
複数の溝部内に嵌入される各変形板の後端部に設けられる鍔部同士を一体化したことを特徴とする請求項4に記載のコンクリート構造体のせん断補強構造。
【請求項7】
前記補強部材の変形板の先端に前記溝部内の外面に圧接する拡開部を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のコンクリート構造体のせん断補強構造。
【請求項1】
コンクリート構造体の一方の壁面から形成された環状の溝部と、溝部内に嵌合された変形板より成る補強部材とを備えたことを特徴とするコンクリート構造体のせん断補強構造。
【請求項2】
前記溝部内に充填材を充填したことを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造体のせん断補強構造。
【請求項3】
前記補強部材の変形板は円筒体、又は、スリット付き円筒体、又は、孔付き円筒体、又は、両端にスリットを介して対向する複数の断面半円体、又は、円筒状メッシュ体等より成ることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコンクリート構造体のせん断補強構造。
【請求項4】
前記補強部材の変形板の後端部に、前記壁面に接して前記溝部を被う鍔部を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のコンクリート構造体のせん断補強構造。
【請求項5】
前記鍔部に充填孔を備え、前記充填孔を介して前記充填材を充填するようにしたことを特徴とする請求項4に記載のコンクリート構造体のせん断補強構造。
【請求項6】
複数の溝部内に嵌入される各変形板の後端部に設けられる鍔部同士を一体化したことを特徴とする請求項4に記載のコンクリート構造体のせん断補強構造。
【請求項7】
前記補強部材の変形板の先端に前記溝部内の外面に圧接する拡開部を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のコンクリート構造体のせん断補強構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図10】
【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−190612(P2011−190612A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57655(P2010−57655)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】
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