説明

コンクリート構造体の施工方法

【課題】 コンクリート構造物の表面に被覆層を備えたコンクリート構造体の施工時間を短縮する。
【解決手段】 コンクリート構造物2の表面3に光硬化性を有するプライマー4を設け、このプライマー4の表面5に光硬化性を有する樹脂溶剤9Aを塗布し、塗布した樹脂溶剤9Aによる樹脂層(一次樹脂層9a)の表面10aに光透過性を有するシート(繊維メッシュシート8)を設け、このシート及び樹脂層の表面にさらに樹脂溶剤を塗布することによって、シートの全体を樹脂溶剤で覆った後に、このシートの全体を覆った樹脂溶剤による樹脂層(二次樹脂層9b)の表面10b側から樹脂溶剤9Aとプライマー4とに光を照射して樹脂溶剤とプライマーとを硬化させたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工時間を短縮可能なコンクリート構造体の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の表面にプライマーを塗布し、このプライマーの表面上にメッシュ繊維シートと透明合成樹脂層とからなる透明性を有する被覆層を設けることによって、コンクリート構造物の表面のコンクリートの剥落防止、コンクリート構造物の表面状態の目視確認を可能としたコンクリート構造体が知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【特許文献1】特開2004−60359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来のコンクリート構造体では、プライマーや被覆層の透明合成樹脂は、温度依存性(低温時に硬化遅延する)があるため、硬化速度が遅く、コンクリート構造体の施工時間が長くなる。また、異なる樹脂材料で形成されるプライマーと被覆層とが混ざらないようにするため、前工程であるプライマーがある程度硬化した後でなければプライマーの表面に被覆層を設けることができない。よって、プライマーがある程度硬化するまで時間がかかるため、コンクリート構造体の施工時間が長くなる。また、コンクリート構造体を構成するプライマーは主剤と硬化剤とを混合した溶液剤である。つまり、主剤と硬化剤との2液を混合して作るものである。従って、現場にて、使用量と混合割合に応じて2液の量をそれぞれ計量して混ぜ合わせることでプライマーを作る必要がある。この作成作業における主剤や硬化剤の計量ミスや2液の攪拌不足によって、硬化不良を起こすプライマーとなってしまう場合がある。このような硬化不良を起こすプライマーを使用した場合には、コンクリート構造物の表面と被覆層との一体化が得られず、コンクリート構造物の表面を補強できないので、コンクリート構造物の表面のコンクリートの剥落防止及び劣化防止を図れないという事態を招く可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のコンクリート構造体の施工方法は、コンクリート構造物の表面に光硬化性を有するプライマーを設け、このプライマーの表面に光硬化性を有する樹脂溶剤の塗布による樹脂層を設けてから、この樹脂層の表面から光透過性を有するシートを樹脂層の樹脂溶剤中に埋めた後に、樹脂層の表面側から樹脂溶剤とプライマーとに光を照射して樹脂溶剤とプライマーとを硬化させたことを特徴とする。
また、コンクリート構造物の表面に光硬化性を有するプライマーを設け、このプライマーの表面に光硬化性を有する樹脂溶剤を塗布し、塗布した樹脂溶剤による樹脂層の表面に光透過性を有するシートを設け、このシート及び樹脂層の表面にさらに樹脂溶剤を塗布することによって、シートの全体を樹脂溶剤で覆った後に、このシートの全体を覆った樹脂溶剤による樹脂層の表面側から樹脂溶剤とプライマーとに光を照射して樹脂溶剤とプライマーとを硬化させたことを特徴とする。
1液により形成されたプライマーと1液により形成された樹脂溶剤とを使用したことも特徴とする。
シートとして繊維メッシュシートを使用したことも特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本形態1のコンクリート構造体の施工方法によれば、プライマーの硬化を待たずに次工程に進むことができるとともにプライマーと樹脂溶剤とを光により一緒に硬化させることができるので、硬化に要する時間を短くでき、コンクリート構造体の施工時間を短縮できる。
また、プライマーの表面にシートと樹脂とが一体化した強度の高いFRP構造のシート構造体を形成できるので、コンクリート構造物の表面のコンクリート片の剥落や劣化を防止できる。
また、1液により形成されたプライマーと1液により形成された樹脂溶剤を使用したので、硬化不良を起こすプライマーや硬化不良を起こす樹脂溶剤の使用を回避できるので、シートと樹脂とが一体化した強度の高いFRP構造のシート構造体を形成できるとともにコンクリート構造物の表面とプライマーとシート構造体との一体化が得られ、コンクリート構造物の表面のコンクリート片の剥落及び劣化を防止できる。
また、シートとして繊維メッシュシートを使用したので、繊維メッシュシートの孔内に樹脂が充填され、樹脂溶剤が繊維メッシュシートの格子の周囲を覆うので、繊維メッシュシートと樹脂とを強固に一体化させることができ、プライマーの表面に、強度の高い繊維メッシュシートと樹脂との強固な一体化によって強度の高いFRP構造のシート構造体を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1乃至図3は本発明の最良の形態を示し、図1はコンクリート構造体の施工方法を示し、図2はコンクリート構造体の施工方法により得られるコンクリート構造体の断面を示し、図3はシート構造体の断面を示す。
【0007】
図2に示すように、本形態の施工方法により施工されるコンクリート構造体1は、コンクリート構造物2と、コンクリート構造物2の表面3に設けられたプライマー4と、プライマー4の表面5に設けられた被覆層6とにより形成される。被覆層6は、光により硬化してプライマー4の表面5に一体化するシート構造体7により形成される。図3に示すように、シート構造体7は、光透過性を有する樹脂繊維により形成された繊維メッシュ(網状)シート8と、繊維メッシュシート8の全体を覆う樹脂溶液9Aの硬化した樹脂9とで形成されたFRP構造である。プライマー4と樹脂溶液9Aとが、光透過性及び光硬化性を有する材料で形成される。尚、光硬化性を有する材料は光を透過して硬化するので光透過性も有する。逆に、光透過性を有する材料が必ず光硬化性を有するとは限らない。プライマー4は、粘性の低い液剤であり、コンクリート構造物2や被覆層6との付着性に優れ、耐アルカリ性を有する。プライマー4を用いることで、コンクリート構造物2と被覆層6との一体性が高まり、コンクリート構造体1の強度が上がる。プライマー4と樹脂溶剤9Aとが太陽光、可視光、紫外線などの光により硬化することで、コンクリート構造物2とプライマー4と被覆層6とが一体化されてコンクリート構造体1が形成される。プライマー4は、例えば主たる材料がエポキシアクリレート系樹脂であって、1液の溶剤である。樹脂9を形成する樹脂溶剤9Aも、例えば主たる材料がエポキシアクリレート系樹脂であって、1液の溶剤である。樹脂9を形成する樹脂溶剤9Aの方がプライマー4の溶剤より一般的に粘度が高い。
【0008】
次に図1に基づいて本形態1のコンクリート構造体1の施工方法を説明する。まず、コンクリート構造物2の表面3にプライマー4を塗る(以上、図1(a)参照)。このプライマー4の塗布後、当該プライマー4の硬化を待たずに、この硬化していないプライマー4の表面5に樹脂溶剤9Aを塗布する。つまり、樹脂9を形成する樹脂溶剤9Aを前塗りし、一次樹脂層9aを形成する(以上、図1(b)参照)。この場合、プライマー4と樹脂溶剤9Aとが混ざるが、プライマー4と樹脂溶剤9Aとは同じ系統の樹脂なのでプライマー4と樹脂溶剤9Aの性能に影響はない。次に、一次樹脂層9aの硬化を待たずに、一次樹脂層9aの表面10aに繊維メッシュシート8を設ける(以上、図1(c)参照)。そして、一次樹脂層9aの硬化を待たずに、一次樹脂層9aの表面10a及び繊維メッシュシート8の表面8aにさらに樹脂溶剤9Aを塗布する。つまり、一次樹脂層9aを形成する樹脂溶剤9Aと同じ樹脂溶剤9Aを一次樹脂層9aの表面10a及び繊維メッシュシート8の表面8aに後塗りすることで、二次樹脂層9bを形成し、一次樹脂層9aと二次樹脂層9bとで繊維メッシュシート8を挟み込むようにして覆う。即ち、二次樹脂層9bを形成することで繊維メッシュシート8を樹脂溶剤9A中に埋める(以上、図1(d)参照)。そして、二次樹脂層9bの表面10b側から光を照射する。この光が繊維メッシュシート8の表面8aを覆っている二次樹脂層9bを透過して、さらに、繊維メッシュシート8、一次樹脂層9a、プライマー4を透過し、樹脂溶剤9A、プライマー4を硬化させる。これにより、繊維メッシュシート8の全体が光により硬化した樹脂9で覆われたシート構造体7による被覆層6が形成され(図3参照)、被覆層6とプライマー4とコンクリート構造物2とが一体化されたコンクリート構造体1を得る(図2参照)。プライマー4と被覆層6とによってコンクリート構造物2の表面3を保護する工事を表面保護工といい、コンクリート構造物2の表面3を保護するプライマー4と被覆層6との構造体を表面保護構造体という。
【0009】
本形態1のコンクリート構造体によれば、表面保護構造体を構成する被覆層6の一次樹脂層9aと二次樹脂層9b及びプライマー4とが、光透過性及び光硬化性を有する材料で形成されたので、一次樹脂層9aと二次樹脂層9bとプライマー4の硬化に要する時間を短くでき、施工時間を短縮できる。また、コンクリート構造物2の表面3の状態を目視で点検できる。
本形態1のコンクリート構造体の施工方法によれば、プライマー4の硬化を待たずに当該プライマー4の表面5に一次樹脂層9aを形成して、この一次樹脂層9aの表面10aに繊維メッシュシート8を設け、一次樹脂層9aの硬化を待たずに一次樹脂層9aの表面10a及び繊維メッシュシート8の表面8aにさらに二次樹脂層9bを形成した後に、二次樹脂層9b、一次樹脂層9a、プライマー4に光を照射して硬化させたので、二次樹脂層9bの樹脂溶剤9A、一次樹脂層9aの樹脂溶剤9A、プライマー4を一緒の硬化させることができて、硬化に要する時間を短くでき、コンクリート構造体1の施工時間をさらに短縮できる。
また、1液により形成されたプライマー4と1液により形成された樹脂溶剤9Aを使用したので、主剤と硬化剤との2液を混合してプライマーや樹脂溶剤を作成する場合のような、計量ミスや攪拌不足を無くすことができる。よって、硬化不良を起こすプライマーや硬化不良を起こす樹脂溶剤の使用を回避できるので、繊維メッシュシート8と樹脂9との一体化によるシート構造体7及びコンクリート構造物2の表面3とプライマー4とシート構造体7との一体化が得られ、コンクリート構造物2の表面3のコンクリート片の剥落を防止できる。
また、シートとして繊維メッシュシート8を使用したので、繊維メッシュシート8の孔80内に樹脂が充填され、樹脂溶剤9Aが繊維メッシュシート8の格子81の周囲を覆い(図1(c);(d)参照)、繊維メッシュシート8と樹脂9とを強固に一体化させることができる(図3参照)。よって、プライマー4の表面に、強度の高い繊維メッシュシート8と樹脂9との強固な一体化によって強度の高いシート構造体7を形成できるため、コンクリート構造物2の表面3のコンクリート片の剥落防止効果をさらに向上できる。
また、被覆層6を形成するシート構造体7として、光透過性を有する繊維メッシュシート8と、繊維メッシュシート8の全体を覆う樹脂9とで形成されたFRP構造体を用いたので、被覆層6の強度を向上でき、コンクリート構造物2の表面3のコンクリート片の剥落及び劣化を防止できる。
【0010】
最良の形態2
コンクリート構造物2の表面3に光硬化性を有するプライマー4を塗布し、プライマー4の硬化を待たずにプライマー4の表面5に光硬化性を有する樹脂溶剤9Aを塗布し、樹脂溶剤9Aの硬化を待たずにこの樹脂溶剤9Aの塗布による樹脂層の表面に光透過性を有する繊維メッシュシート8を押し付けて当該樹脂層の樹脂溶剤9A中に埋めた後に、樹脂層の表面側から樹脂溶剤9Aとプライマー4とに光を照射して樹脂溶剤9Aとプライマー4とを硬化させることによってコンクリート構造体1を形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0011】
上述のようにプライマー4の硬化を待たずに次の工程に進むようにすれば施工時間の短縮効果が大きい。しかしながら、プライマー4の硬化を待ってから次の工程に進むようにした場合でも、プライマー4が光硬化性を有する材料で形成されているため、硬化時間が短いので、光硬化性のプライマー4を使用しない従来工法と比べて施工時間を短縮できる。繊維メッシュシート8の代りに、繊維を含有した孔のない面状のシートを用いても良い。この場合、樹脂9の屈折率と同等の屈折率の面状のシートを用いることで、コンクリート構造物2の表面3の状態を目視で点検できる。コンクリート構造物2の表面3に被覆層6を複数積層してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】コンクリート構造体の施工方法を示す工程図(最良の形態1)。
【図2】コンクリート構造体の断面図(最良の形態1)。
【図3】シート構造体の断面図(最良の形態1)。
【符号の説明】
【0013】
1 コンクリート構造体、2 コンクリート構造物、
3 コンクリート構造物の表面、4 プライマー、5 プライマーの表面、
6 被覆層、7 シート構造体、8 繊維メッシュシート、
9 樹脂、9A 樹脂溶剤、9a 一次樹脂層、9b 二次樹脂層、
10a 一次樹脂層の表面、10b 一次樹脂層の表面、
80 繊維メッシュシートの孔、81 繊維メッシュシートの格子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の表面に光硬化性を有するプライマーを設け、このプライマーの表面に光硬化性を有する樹脂溶剤の塗布による樹脂層を設けてから、この樹脂層の表面から光透過性を有するシートを樹脂層の樹脂溶剤中に埋めた後に、樹脂層の表面側から樹脂溶剤とプライマーとに光を照射して樹脂溶剤とプライマーとを硬化させたことを特徴とするコンクリート構造体の施工方法。
【請求項2】
コンクリート構造物の表面に光硬化性を有するプライマーを設け、このプライマーの表面に光硬化性を有する樹脂溶剤を塗布し、塗布した樹脂溶剤による樹脂層の表面に光透過性を有するシートを設け、このシート及び樹脂層の表面にさらに樹脂溶剤を塗布することによって、シートの全体を樹脂溶剤で覆った後に、このシートの全体を覆った樹脂溶剤による樹脂層の表面側から樹脂溶剤とプライマーとに光を照射して樹脂溶剤とプライマーとを硬化させたことを特徴とするコンクリート構造体の施工方法。
【請求項3】
1液により形成されたプライマーと1液により形成された樹脂溶剤とを使用したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコンクリート構造体の施工方法。
【請求項4】
シートとして繊維メッシュシートを使用したことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のコンクリート構造体の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−51465(P2007−51465A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237323(P2005−237323)
【出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【出願人】(502281127)株式会社ファテック (83)
【Fターム(参考)】