説明

コンクリート構造物の補修方法

【課題】足場や支保材の設置が不要で、容易に効率よく補修を施すことができるようにしたコンクリート構造物の補修方法を提供する。
【解決手段】コンクリート構造物のコンクリート欠陥部を補修するに際し、欠陥部が生じている部位の両側にそれぞれ、欠陥部の近傍の位置から欠陥部から離れる方向に延びるFRP帯板を貼設し、FRP帯板貼設部位間の前記欠陥部を含む部位におけるコンクリートを除去して鉄筋が露出された空間部を形成し、該空間部を開放面または開放部を有する状態にて型枠または型枠相当部材で囲み、前記空間部に充填材を充填して硬化させることを特徴とするコンクリート構造物の補修方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物にクラック等のコンクリート欠陥部が生じた場合にそれを補修する方法に関し、とくに、軽量なFRP(繊維強化プラスチック、Fiber Reinforced Plastic)製の帯板を用いて容易に効率よく施工できるようにしたコンクリート構造物の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種建築構造物や土木構造物において、梁、スラブ、床版等を形成するコンクリート構造物に、クラック(割裂)等のコンクリート欠陥部が生じることがある。ある大きさ以上のクラック(割裂)等のコンクリート欠陥部が生じると、その欠陥部の両側間で部材の連続性が失われ、部材の連続性を失ったコンクリート構造物は、割裂部のかみ合わせによって部材形状を保持している程度になってしまい、危険な状態になるおそれがある。したがって、このような欠陥部が生じたコンクリート構造物に対しては、元のように連続性を持たせるよう補修する必要があり、場合によっては、併せて補強する必要がある。
【0003】
従来、上記のような有害なクラック等で部材のコンクリート部が断絶されたコンクリート構造物の補修は、通常、コンクリート構造物の下方に足場を組んだり、コンクリート構造物を下面から支保材で支えたりして、コンクリート構造物の欠陥部を補修、補強する方法によっている。
【0004】
すなわち、コンクリート構造物のコンクリート欠陥部を補修する際には、通常、その欠陥部周囲のコンクリートを一旦除去する必要があるが、コンクリートを除去すると、コンクリートを除去した部分では鉄筋が露出し、その両側にコンクリート構造部分が残された状態となる。この状態では、両側に位置するコンクリート構造部分が不安定な状態となり、各コンクリート構造部分の剛性が低下した状態となっているので各コンクリート構造部分の内部にモーメントが発生し、そのモーメントが上記露出した鉄筋部分にかかるため、露出した鉄筋部分が曲がりやすくなる。これを防止するために、上述の如く、支保材等を設置して両側のコンクリート構造部分をそれぞれ支え、両側のコンクリート構造部分の形態や剛性を維持できるようにして、その状態でコンクリート欠陥部を補修するようにしているのである。
【0005】
ところが、このような通常の方法は、例えば、港湾荷卸用バースなどでバース直下に海面が存在する場合など、足場を組んだり支保材を設置したりできない場合には、採用が困難になることがある。したがって、このような状況下においても、容易にかつ確実にコンクリート構造物の欠陥部を補修、補強できる方法の出現が望まれている。
【0006】
なお本発明に関連する従来技術として、特許文献1に、コンクリート構造物の周囲にFRP製の軽量型枠を形成し、この軽量型枠とコンクリート構造物との間に無収縮モルタルを充填するようにした補強・補修方法が記載されているが、この方法は、上記のような欠陥部周囲のコンクリートを一旦除去して補修する方法ではなく、単に、FRP製の軽量型枠をコンクリート構造物と一体化させて、コンクリート構造物を補強する方法である。
【特許文献1】特開平11−256839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記のような要望に鑑み、下方に足場を組んだり支保材で支えたりすることなく、欠陥発生部両側のコンクリート構造部分の形態や剛性を維持できるようにして、コンクリートを除去し鉄筋が露出された部分に対して容易に効率よく補修を施すことができるようにした、コンクリート構造物の補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係るコンクリート構造物の補修方法は、コンクリートと鉄筋からなるコンクリート構造物のコンクリート欠陥部を補修するに際し、前記欠陥部が生じている部位の両側にそれぞれ、前記欠陥部の近傍の位置から前記欠陥部から離れる方向に延びるFRP帯板を貼設し、FRP帯板貼設部位間の前記欠陥部を含む部位におけるコンクリートを除去して鉄筋が露出された空間部を形成し、該空間部を開放面または開放部を有する状態にて型枠または型枠相当部材で囲み、前記空間部に充填材を充填して硬化させることを特徴とする方法からなる。
【0009】
この方法においては、コンクリートを除去することにより形成された、鉄筋が露出された空間部の両側に位置する各コンクリート部分に、FRP帯板が貼設されることになり、FRP帯板が貼設された各コンクリート部分が補強されて高い剛性が確保される。その結果、各コンクリート部分が高剛性を有する部位として、さらに隣接するコンクリート部分に支持されることになり、各コンクリート部分自体の形態が、崩れることなく安定して保持されることになる。したがって、これら各コンクリート部分の内部ではモーメント等が発生しにくい状態となり、各コンクリート部分から露出された鉄筋へと伝達されるモーメントが軽減されて、露出された鉄筋が曲がりにくくなって、所定形状に維持される。この状態で空間部に充填材が充填され硬化されるので、充填材が充填された補修部も確実に目標とする形状に形成されることになる。
【0010】
上記本発明に係るコンクリート構造物の補修方法においては、上記FRP帯板は、補修すべきコンクリート構造物の一面に対して貼設すればよく、コンクリートを除去した、欠陥部両側のコンクリート部分を支えるという面からは、とくに、コンクリート構造物の上面に貼設するのが好ましい。
【0011】
このFRP帯板としては、予め成形されたFRP帯板を用いるのが便利である。予め成形されたFRP帯板は、軽量で取扱い、持ち運びも容易であり、所定箇所に接着等により簡単に貼設できる。ただし、施工現場で強化繊維部材にマトリックス樹脂を含浸させて硬化させるか、あるいは未硬化のFRPプリプレグからなる帯板を施工現場で硬化させる方法も採用可能である。
【0012】
FRP帯板としては、強度、剛性の面から、とくに炭素繊維強化プラスチック帯板が好ましい。ただし、本発明におけるFRP帯板としては、炭素繊維強化プラスチック帯板以外のFRP帯板も使用可能である。帯板を構成するFRPに使用可能な強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維など、およびこれらのハイブリッド構成が挙げられ、マトリックス樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などが挙げられる。
【0013】
上記充填材の硬化後には、基本的には上記型枠を除去する。ここで言う型枠は、充填材を充填する際の充填形態保持用のものである。充填材としては、周知のものを使用すればよく、例えば、無収縮モルタルやポリマーコンクリートを使用できる。
【0014】
本発明に係る方法は、コンクリート欠陥部の補修を主目的とした施工方法であるが、補修とともに、補強を併せて実施することが可能である。例えば、上記型枠除去後に、充填材の充填部の両側にわたるように補強板を貼設することができる。
【0015】
また、上記空間部を形成した後、該空間部の両側にわたるように補強板を貼設し、該補強板を型枠相当部材として上記空間部に充填材を充填することができる。つまり、別途、型枠を準備することなく、補強目的の補強板に型枠の機能も持たせ、型枠を設置する代わりに補強板を型枠設置位置を含む領域にわたって貼設し、施工後には補強板をコンクリート構造物と一体化された部材としてそのまま残す方法である。
【0016】
この場合、上記補強板の貼設前に、上記空間部の外形形状に沿って離型フィルムを張設し、補強板貼設後に該離型フィルムを除去した後、上記補強板を型枠相当部材として上記空間部に充填材を充填すると便利である。とくに補強板がFRP板の場合、該FRP板は施工現場で硬化成形されることが多いので、上記離型フィルムがあたかも成形型の一面を形成するように機能し、それによって不都合なうねり等を生じさせることなく、所望の面形態のFRP補強板を成形できる。離型フィルムは、FRP補強板成形後に除去すればよく、離型フィルム除去後に、FRP補強板を型枠相当部材として上記空間部に充填材を充填すればよい。
【0017】
このように、上記補強板としては、施工現場で硬化されるFRP板とすることができるが、補強板に鋼板を用いることも可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るコンクリート構造物の補修方法によれば、例えば、港湾荷卸用バースなどでバース直下に海面が存在する場合など、足場を組んだり支保材を設置したりできない場合においても、容易にかつ確実にコンクリート構造物の欠陥部を補修することが可能になり、必要に応じて、併せて容易に補強することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る補修方法の対象となるコンクリート構造物としての、港湾荷卸用バース1を示しており、とくに、バース1の下面側の梁部2から床版部3にかけて、有害な割裂(クラック)4が発生している状態を示している。下方には、海面5が存在するので、下方に足場を組むことはできず、また、下方に支保材を設置することもできない。このコンクリート構造物としてのバース1は、コンクリート(部分)6と鉄筋7とから構成されている。このような割裂4が、補修すべきコンクリート欠陥部として、次のように補修される。
【0020】
図2を参照して、本発明に係る補修方法の例を、2パターンを例示して説明する。
まず、パターン1においては、施工前の有害な割裂4が発生しているコンクリート構造物1に対し、ステップ1にて、割裂4の両側のコンクリート部11の上面にそれぞれ、FRP帯板12(例えば、炭素繊維強化プラスチック帯板)を貼設する。貼設は接着剤を使用して直接コンクリート部11の上面に対して行うことができ、接着剤としては、例えば日本シーカ社製のエポキシ系接着剤”シーカデュア30”を使用できる。このFRP帯板12貼設により、FRP帯板12貼設部下部の各コンクリート部11の剛性が高められ、形態が保持できるようになる。FRP帯板12には予め成形されたものを適切な長さに切断して使用すればよい。FRP帯板12は軽量であるから、取扱い、持ち運びが簡単であり、容易に貼設できる。また、FRP帯板12は高強度、高剛性であるから、所望の各コンクリート部11の補強効果が得られる。
【0021】
この状態から、ステップ2にて、割裂4の周囲のコンクリートを除去し、鉄筋13を露出させるとともに、両コンクリート部11間に空間部14を形成する。両コンクリート部11は、それぞれFRP帯板12貼設により高剛性に保たれているので、形態変化が抑えられて内部にモーメントが発生しにくい状況にあり、露出された鉄筋13には大きなモーメントが作用しないため、曲がったり変形したりすることが防止されている。
【0022】
ステップ3にて、両側のコンクリート部11間にわたって、横断面コ字状に型枠15が設置され、上面を開放面とした状態にて、空間部14が型枠15によって囲まれる。ステップ4にて、型枠15によって囲まれた(漏れが防止された)空間部14に充填材16が充填され、硬化される。充填材16としては、前述の如く、無収縮モルタルやポリマーコンクリートを使用できる。ステップ5にて、型枠15が除去される。
【0023】
このパターン1に示した例においては、さらにステップ6にて、充填材16の充填部(補修部)の両側にまたがって、FRP補強板または鋼板補強板17が貼設される。つまり、欠陥部の補修に加えて、補強が施される。補強板17は、三面全てに設けてもよく、任意の一面または二面に設けててもよい。
【0024】
このように、足場や支保材を設置することなく、容易にかつ確実にコンクリート構造物1の欠陥部が補修され、併せて補強も容易に行われる。
【0025】
次に、パターン2においては、パターン1のステップ2の次に、ステップ11において、空間部14の外形形状に沿って(図示例では、両側面と下面の三面に沿って)離型フィルム21が張設され、ステップ12において、両側のコンクリート部11間にわたって、補強板22が貼設される。この補強板22は、パターン1における補修後の補強板としての機能を有するとともに、充填材充填時の型枠としての役目も果たし、型枠相当部材としての機能を有する。補強板22には、FRP補強板または鋼板補強板を使用できるが、上記離型フィルム21は主としてFRP補強板を用いる場合に有効なものであり、鋼板補強板を用いる場合には、基本的に不要である。したがって、次のステップ13に移る際に離型フィルム21は除去されるが、鋼板補強板の場合にはこの除去作業は不要になる。
【0026】
ステップ13において、上記補強板22を型枠相当部材として空間部14に充填材23が充填され、硬化される。この状態では、補強板22がコンクリート構造物1と一体化された状態となり、補修と同時に補強も効率よく行われることになる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係るコンクリート構造物の補修方法は、あらゆるコンクリート構造物に対しててきようでき、とくに足場や支保材の設置が困難な場合に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る補修方法の対象となるコンクリート構造物としての、港湾荷卸用バースの、コンクリート欠陥部としての割裂発生部の概略斜視図である。
【図2】図1の欠陥部の補修・補強を行うための、本発明に係るコンクリート構造物の補修方法の例(パターン1、2)を示す工程フロー図である。
【符号の説明】
【0029】
1 コンクリート構造物としての港湾荷卸用バース
2 梁部
3 床版部
4 有害な割裂
5 海面
6 コンクリート(部分)
7 鉄筋
11 コンクリート部
12 FRP帯板
13 露出された鉄筋
14 空間部
15 型枠
16 充填材
17 補強板
21 離型フィルム
22 型枠相当部材としての機能を有する補強板
23 充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートと鉄筋からなるコンクリート構造物のコンクリート欠陥部を補修するに際し、前記欠陥部が生じている部位の両側にそれぞれ、前記欠陥部の近傍の位置から前記欠陥部から離れる方向に延びるFRP帯板を貼設し、FRP帯板貼設部位間の前記欠陥部を含む部位におけるコンクリートを除去して鉄筋が露出された空間部を形成し、該空間部を開放面または開放部を有する状態にて型枠または型枠相当部材で囲み、前記空間部に充填材を充填して硬化させることを特徴とする、コンクリート構造物の補修方法。
【請求項2】
前記FRP帯板を、コンクリート構造物の上面に貼設する、請求項1に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項3】
前記FRP帯板が、予め成形されたFRP帯板からなる、請求項1または2に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項4】
前記FRP帯板が、炭素繊維強化プラスチック帯板からなる、請求項1〜3のいずれかに記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項5】
前記充填材の硬化後に前記型枠を除去する、請求項1〜4のいずれかに記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項6】
前記型枠除去後に、充填材の充填部の両側にわたるように補強板を貼設する、請求項5に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項7】
前記空間部を形成した後、該空間部の両側にわたるように補強板を貼設し、該補強板を型枠相当部材として前記空間部に充填材を充填する、請求項1〜4のいずれかに記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項8】
前記補強板の貼設前に、前記空間部の外形形状に沿って離型フィルムを張設し、補強板貼設後に該離型フィルムを除去した後、前記補強板を型枠相当部材として前記空間部に充填材を充填する、請求項7に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項9】
前記補強板が、施工現場で硬化されるFRP板からなる、請求項6〜8のいずれかに記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項10】
前記補強板が、鋼板からなる、請求項6または7に記載のコンクリート構造物の補修方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−332541(P2007−332541A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161998(P2006−161998)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】