説明

コンクリート構造物補修工法の適性判定方法、補修工法判定チャート作成方法、及び、コンクリート構造物補修工法の簡易適性判定方法

【課題】 コンクリート構造物の劣化進行過程に応じた適切な補修効果を確保でき、かつ、施工コストの低減も図ることができる補修工法を選定するに際して用いられる、コンクリート構造物補修工法の適性判定方法、補修工法判定チャート作成方法、及び、コンクリート構造物補修工法の簡易適性判定方法を提供すること。
【解決手段】 補修工法判定チャート70(図11(a)参照)によれば、その補修工法判定チャート70上の補修有効領域71内に、コンクリート構造物に関する表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)があれば、そのコンクリート構造物に対して補修部11の厚さWが1.0cm及び補修部11の初期防錆成分量G0が55.0kg/m3であるコンクリート表面塗着工法を施工することで、将来的に鉄筋の発錆を防止可能である旨の判定をすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の劣化進行過程に応じた適切な補修効果を確保でき、かつ、施工コストの低減も図ることができる補修工法を選定するに際して用いられる、コンクリート構造物補修工法の適性判定方法、補修工法判定チャート作成方法、及び、コンクリート構造物補修工法の簡易適性判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既設の鉄筋コンクリート製の構造物(以下「コンクリート構造物」という。)については、その建設環境に応じて海水や、大気や、凍結防止剤などの様々な塩分を含む媒質に曝されており、このような塩分がコンクリート表面から深部(内部)へ浸透して鉄筋を腐食させてしまう塩害が問題となっている。このため、既設のコンクリート構造物に対しては、塩害を予防のための補修工や、或いは、腐食等の塩害による悪影響を除去又は低減するための補修工が必要となる。
【0003】
塩害を受けたコンクリート構造物に対する補修工法には、例えば、塗装などの表面処理工法、電気化学的脱塩工法、電気防食工法、又は、断面修復工法などがあり、塩害による劣化進行過程によって適用する工法が異なってくる。例えば、「コンクリート標準示方書(維持管理編)」(土木学会編・社団法人土木学会発行)によれば、塩害による劣化進行過程を潜伏期・進展期・加速期・劣化期に区分し、劣化進行過程が潜伏期から劣化期へ進行するに応じて、表面処理工法、電気化学的脱塩工法、電気防食工法、断面修復工法を、この順番で順々に適用することが標準的な補修工法とされている。
【0004】
なかでも最も低廉な表面処理方法とそれ以外の補修工法との間には施工コストにおいて大きな格差が見られるため、塩害の劣化進行過程が初期の潜伏期にあたるためコンクリート構造物への塩化物イオン(塩分)の浸透量が少ない場合は、塗装などの表面処理工法によってコンクリート構造物の内部への塩化物イオンの浸透を遮断することによって、鉄筋位置での塩化物イオン量(塩化物イオン濃度)の増加を食い止め、鉄筋腐食を予防することが最も有効な補修工法とされている。
【0005】
ところが、塩害の劣化進行過程が初期段階であっても潜伏期から進展期にかけては塩化物イオンの浸透量が過多となることがあり、状況によっては、既にコンクリート構造物に浸透している塩化物イオン量が発錆限界値を超えているため、塗装による表面処理工法を施して将来的な塩化物イオンの浸入を遮断したとしても、表面処理工法による効果が期待できず、いずれは鉄筋腐食を発生してしまうことがある。
【0006】
このような場合、標準的補修工法に従えば、電気化学的脱塩工法、電気防食工法、又は、鉄筋背面まで表層コンクリートをはつり取って断面修復するような鉄筋背面断面修復工法などをコンクリート構造物に対して施工する必要があるが、これらの工法に至っては、本願出願人が建設後70年間の補修コストについて試算したところ、塗装による表面処理工法に比べて、約4倍もの施工コストが必要とされる事例も確認されている。
【0007】
これに対して、表面処理工法に比べて施工コストが嵩むものの、電気化学的脱塩工法、電気防食工法、又は、鉄筋背面断面修復工法に比べれば低廉であって施工コストを削減できる経済的な補修工法として、本願出願人は、防錆剤混入モルタルを用いた補修工法を提案している。この防錆剤混入モルタルを用いた補修工法は、劣化進行過程が潜伏期から進展期にあるコンクリート構造物に適しており、表面処理工法と電化学的脱塩法又は電気防食工法との中継ぎ的な工法として位置づけられる。
【0008】
本願出願人が提案する防錆剤混入モルタルを用いた補修工法は、劣化進行過程に応じて幾つかのバリエーションがあり、大別すると、劣化進行過程が軽度な状況に対応するものから順に、コンクリート表面塗着工法と、コンクリート表面断面修復工法と、鉄筋表面断面修復工法とに区分されている。なお、これらの各工法により形成される補修部(表面塗着部又は断面修復部)の表面はいずれも塗装等の表面処理によって塩化物イオンの浸入が遮断される。
【0009】
ここで、コンクリート表面塗着工法は、コンクリート構造物の表面に防錆剤混入モルタルを直接塗着して表面塗着部を形成するものであり、コンクリート表面断面修復工法は、コンクリート構造物から表層コンクリートを鉄筋位置まで到達しない深さではつり取った凹陥部に防錆剤混入モルタルを充填して断面修復部を形成するものであり、鉄筋表面断面修復工法は、コンクリート構造物から表層コンクリートを鉄筋表面位置まではつり取った凹陥部に防錆剤混入モルタルを充填して断面修復部を形成するものである。
【0010】
ここで、特に、コンクリート表面塗着工法やコンクリート表面断面修復工法は、補修材と既設コンクリートとの継目が鉄筋部分にできないので、鉄筋のマクロセル腐食を防止できる点で極めて有効な補修工法である。なお、上記した防錆剤は、その防錆成分として亜硝酸イオンが使用されることが多く、亜硝酸イオンをコンクリート構造物に浸透拡散させて鉄筋周囲に防錆雰囲気を形成させるものである。
【特許文献1】特開2002−21338公報
【特許文献2】特開2002−340782公報
【特許文献3】特開2003−222622公報
【特許文献4】特開2004−52413公報
【特許文献5】特開2004−233243公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記した防錆剤混入モルタルを用いた補修工法を選定する場合、コンクリート構造物の劣化進行過程に応じた適切な補修効果を発揮可能であって、なおかつ、経済的にも適切な補修工法を選定する基準が未だ存在しないという問題点があった。当然のことながら、コンクリート構造物から表層コンクリートをはつり取る深さ(はつり深さ)が小さければ、その分、施工コストが一層削減可能であり、工期短縮も可能であり、その他の建設副産物の低減を図ることが可能であり、施工者としては極力はつり深さを小さく抑えた補修工法を選定することを希求するところである。
【0012】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、コンクリート構造物の劣化進行過程に応じた適切な補修効果を確保でき、かつ、施工コストの低減も図ることができる補修工法を選定するに際して用いられる、コンクリート構造物補修工法の適性判定方法、補修工法判定チャート作成方法、及び、コンクリート構造物補修工法の簡易適性判定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するために請求項1記載のコンクリート構造物補修工法の適性判定方法は、コンクリート構造物の既設表面に、所定の初期混合量で防錆成分が混合される補修材を塗着して、所定厚さの表面塗着部を形成する補修材塗着工法と、その補修材塗着工法により形成される表面塗着部の表面を塗装材により被覆して、塩化物イオンの浸入を遮断する塗装工法とを用いる補修工法について、その適性を判定するための方法であって、表面塗着部の表面からコンクリート構造物の既設表面までの深さ範囲についての初期時間における塩化物イオン量として補修材に予め含まれている塩化物イオン量を設定し、コンクリート構造物の既設表面から鉄筋埋設位置までの深さ範囲についての初期時間における塩化物イオン量を、次式(1):
F(xi,t)=F0・[1−erf{[xi−xB]/[2・√(DF・t)]}]+Fint ……(1)
(但し、上記式(1)において、F:塩化物イオン量、i:深さ位置の番号(0≦i≦P,Pは整数,P≧1)、xi:i番目の深さ位置、t:0番目の時点での時間(初期時間)、F0:コンクリート構造物の既設表面における塩化物イオン量(表面塩化物イオン量)、erf:誤差関数、xB:コンクリート構造物の既設表面の深さ位置(但し、xB≧xとする)、DF:塩化物イオンの見掛け拡散係数、Fint:初期含有全塩化物イオン量を示す)によって計算する塩化物イオン量現状推定工程と、その塩化物イオン量現状推定工程により定まる初期時間における塩化物イオン量を初期値として、初期時間から目標時間までの時間変化に伴う、表面塗着部の表面から鉄筋埋設位置までの深さ範囲についての塩化物イオン量の変化を、次式(2)及び(3):
F(xi,tj+1)=DF・{α/(Δx)}・Δt+F(xi,tj) ……(2)
α=F(xi−1,tj)−2・F(xi,tj)+F(xi+1,tj) ……(3)
(但し、上記式(2)及び(3)において、F:塩化物イオン量、j:時点の番号(0≦j≦Q,Qは整数,Q≧1)、xi+1:i+1番目の深さ位置、xi−1:i−1番目の深さ位置、tj:j番目の時点での時間、tj+1:j+1番目の時点での時間、Δx:各深さ位置の間隔(深さ間隔)、Δt:各時点の間隔(時間間隔)を示す)によって計算する塩化物イオン量将来予測工程と、その塩化物イオン量将来予測工程により計算した目標時間における鉄筋埋設位置での塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えるか否かを判断する発錆雰囲気判断工程とを備えており、その発錆雰囲気判断工程によって、目標時間における鉄筋埋設位置での塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えると判断される場合において、表面塗着部の表面からコンクリート構造物の既設表面までの深さ範囲についての初期時間における防錆成分量の値を、防錆成分の初期混合量に設定し、コンクリート構造物の既設表面から鉄筋埋設位置までの深さ範囲についての初期時間における防錆成分量を、コンクリート構造物に既存する防錆成分量に設定する防錆成分量初期設定工程と、その防錆成分量初期設定工程により設定される初期時間における防錆成分量を初期値として、初期時間から目標時間までの時間変化に伴う、表面塗着部の表面から鉄筋埋設位置までの深さ範囲についての防錆成分量の変化を、次式(4)及び(5):
G(xi,tj+1)=DG・{β/(Δx)}・Δt+G(xi,tj) ……(4)
β=G(xi−1,tj)−2・G(xi,tj)+G(xi+1,tj) ……(5)
(但し、上記式(4)及び(5)において、G:防錆成分量、DG:防錆成分の見掛け拡散係数を示す)によって計算する防錆成分量将来予測工程と、前記塩化物イオン量将来予測工程による計算結果から、塩化物イオン量の値が発錆限界塩化物イオン量未満の状態から発錆限界塩化物イオン量を超過した状態に切り替わる発錆時間を求める発錆時間導出工程と、その発錆時間導出工程により求められる発錆時間における鉄筋埋設位置での防錆成分量及び塩化物イオン量を、前記防錆成分量将来予測工程及び塩化物イオン量将来予測工程による結果から求めて、その防錆成分量を塩化物イオン量で割った比率をモル換算した判定モル比が、防錆雰囲気モル比の値を超えているか否かを判断するモル比判断工程とを備えている。
【0014】
なお、上記式(1)から(5)で用いた「・」は乗算演算子を、「/」は除算演算子を、上記式(1)で用いた「√()」は括弧内の値の平方根を、それぞれ示している(以下、他の数式ついても同様とする。)。
【0015】
この請求項1記載のコンクリート構造物補修工法の適性判定方法によれば、コンクリート表面塗着工法がコンクリート構造物に施されたときに、そのコンクリート構造物内の塩化物イオン量の分布状況の変化と、そのコンクリート構造物内の防錆成分量の分布状況の変化とを、それぞれ予測して、その予測結果からコンクリート構造物の鉄筋埋設位置における将来的な発錆の有無や防錆効果の適否について判定される。
【0016】
具体的には、塩化物イオン量現状推定工程において、式(1)を用いることで、コンクリート構造物内における現状の塩化物イオン量の分布状況が推定される。そして、この推定された現状の塩化物イオン量の分布状況と式(2)とを用いることで、塩化物イオン量将来予測工程によって、コンクリート表面塗着工法が施されたときのコンクリート構造物に関する、塩化物イオン量の分布状況の長期的な変化、例えば、このさき数十年間以上の期間にわたる変化が予測される。
【0017】
そして、この塩化物イオン量将来予測工程の計算結果に基づき、発錆雰囲気判断工程によって、コンクリート構造物の鉄筋埋設位置における塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えるか否かが判断される。この判断の結果、鉄筋埋設位置における塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量以下となれば、将来的にみて鉄筋埋設位置が発錆雰囲気に変化しないことを意味しており、これは鉄筋が将来的に発錆しないことを意味する。
【0018】
つまり、敢えて防錆成分を補修材に混合してコンクリート構造物に防錆効果を付与せずとも、例えば、防錆成分未混合の補修材を使用した表面塗着工法と塗装工法とを備えたコンクリート表面塗着工法を施工するだけでも、コンクリート構造物に対する補修効果が発揮されるものとの判定できる。
【0019】
一方、発錆雰囲気判断工程による判断の結果、鉄筋埋設位置での塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えれば、将来的にみて鉄筋埋設位置が発錆雰囲気となることを意味しており、これは鉄筋が将来的に発錆することを意味する。よって、かかる場合は、コンクリート構造物の鉄筋に対する防錆成分の防錆効果を確認するため、防錆成分がコンクリート表面塗着工法により施される表面塗着部からコンクリート構造物内部へ浸透拡散したときの、コンクリート構造物内における防錆成分量の分布状況の変化を予測する。
【0020】
防錆成分の分布状況の変化を予測する場合は、防錆成分量初期設定工程によって、表面塗着部を含めたコンクリート構造物内部の防錆成分量の初期分布状況が設定される。そして、この防錆成分量初期設定工程による初期設定と式(4)及び式(5)とを用いることで、防錆成分量将来予測工程によって、コンクリート表面塗着工法が施されたときのコンクリート構造物に関する、防錆成分量の分布状況の長期的な変化、例えば、このさき数十年間以上の期間にわたる変化が予測される。
【0021】
一方、防錆成分の浸透拡散に伴って防錆雰囲気が鉄筋埋設位置に形成されれば鉄筋の発錆を多少なりとも抑制することはできるが、かかる防錆雰囲気が形成される時点で、既に鉄筋埋設位置の塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えていれば、鉄筋が発錆して腐食が進行している虞がある。このため、防錆成分による鉄筋埋設位置での防錆効果を判定するには、鉄筋埋設位置が発錆雰囲気となる時点と、鉄筋埋設位置に防錆雰囲気が形成される時点との前後関係を明確にする必要がある。
【0022】
そこで、発錆時間導出工程では、鉄筋埋設位置が発錆雰囲気となる時点をまずは明確にしている。つまり、発錆時間導出工程においては、上記した塩化物イオン量将来予測工程の計算結果に基づき、鉄筋埋設位置における塩化物イオン量の値が発錆限界塩化物イオン量未満の状態から発錆限界塩化物イオン量を超過した状態に切り替わる発錆時間が求められる。そして、この求められた発錆時間において、鉄筋埋設位置が防錆雰囲気となっているか否かの判断が、モル比判断工程によってなされる。
【0023】
このモル比判断工程によれば、発錆時間における鉄筋埋設位置での防錆成分量及び塩化物イオン量を、上記した防錆成分量将来予測工程及び塩化物イオン量将来予測工程による結果から求めて、その防錆成分量を塩化物イオン量で割った比率をモル換算した判定モル比を求めて、その判定モル比が防錆雰囲気モル比の値を超えているか否かが判断される。
【0024】
ここで、発錆時間における鉄筋位置での判定モル比が防錆雰囲気モル比の値以下ならば、鉄筋埋設位置には発錆時間において防錆雰囲気が形成されていないことを意味し、このことは、既に発錆雰囲気となっている鉄筋埋設位置に防錆雰囲気が形成されるという点で、防錆効果としては不十分であることを意味する。一方、発錆時間における鉄筋位置での判定モル比が防錆雰囲気モル比の値を超えるならば、鉄筋埋設位置には発錆時間において防錆雰囲気が形成されていることを意味し、このことは、発錆雰囲気となる前の鉄筋埋設位置に防錆雰囲気が形成されるという点で、防錆効果として有効であることを意味する。
【0025】
よって、モル比判断工程による判断の結果、判定モル比が防錆雰囲気モル比の値を超えるならば、防錆成分を混合した補修材を使用した表面塗着工法と塗装工法とを備えたコンクリート表面塗着工法をコンクリート構造物に施すことで、かかるコンクリート構造物の鉄筋埋設位置の将来的な発錆を予防することができるものと判定できる。
【0026】
請求項2記載のコンクリート構造物補修工法の適性判定方法は、コンクリート構造物の既設表面から表層コンクリートを所定のはつり深さだけ除去して凹陥部を形成し、所定の初期混合量で防錆成分が混合される補修材を、その凹陥部に充填して硬化させて、所定厚さの断面修復部を形成し、コンクリート構造物の欠陥部を修復する断面修復工法と、その断面修復工法により形成される断面修復部の表面を塗装材により被覆して塩化物イオンの浸入を遮断する塗装工法とを用いる補修工法について、その適性を判定するための方法であって、断面修復部の表面から凹陥部の底面までの深さ範囲についての初期時間における塩化物イオン量として補修材に予め含まれている塩化物イオン量を設定し、凹陥部の底面から鉄筋埋設位置までの深さ範囲についての初期時間における塩化物イオン量を、次式(1):
F(xi,t)=F0・[1−erf{[xi−xB]/[2・√(DF・t)]}]+Fint ……(1)
(但し、上記式(1)において、F:塩化物イオン量、i:深さ位置の番号(0≦i≦P,Pは整数,P≧1)、xi:i番目の深さ位置、t:0番目の時点での時間(初期時間)、F0:コンクリート構造物の既設表面における塩化物イオン量(表面塩化物イオン量)、erf:誤差関数、xB:凹陥部の底面の深さ位置(但し、xB≧xとする)、DF:塩化物イオンの見掛け拡散係数、Fint:初期含有全塩化物イオン量を示す)によって計算する塩化物イオン量現状推定工程と、その塩化物イオン量現状推定工程により定まる初期時間における塩化物イオン量を初期値として、初期時間から目標時間までの時間変化に伴う、断面修復部の表面から鉄筋埋設位置までの深さ範囲についての塩化物イオン量の変化を、次式(2)及び(3):
F(xi,tj+1)=DF・{α/(Δx)}・Δt+F(xi,tj) ……(2)
α=F(xi−1,tj)−2・F(xi,tj)+F(xi+1,tj) ……(3)
(但し、上記式(2)及び(3)において、F:塩化物イオン量、j:時点の番号(0≦j≦Q,Qは整数,Q≧1)、xi+1:i+1番目の深さ位置、xi−1:i−1番目の深さ位置、tj:j番目の時点での時間、tj+1:j+1番目の時点での時間、Δx:各深さ位置の間隔(深さ間隔)、Δt:各時点の間隔(時間間隔)を示す)によって計算する塩化物イオン量将来予測工程と、その塩化物イオン量将来予測工程により計算した目標時間における鉄筋埋設位置での塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えるか否かを判断する発錆雰囲気判断工程とを備えており、その発錆雰囲気判断工程によって、目標時間における鉄筋埋設位置での塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えると判断される場合において、断面修復部の表面から凹陥部の底面までの深さ範囲についての初期時間における防錆成分量の値を、防錆成分の初期混合量に設定し、凹陥部の底面から鉄筋埋設位置までの深さ範囲についての初期時間における防錆成分量を、コンクリート構造物に既存する防錆成分量に設定する防錆成分量初期設定工程と、その防錆成分量初期設定工程により設定される初期時間における防錆成分量を初期値として、初期時間から目標時間までの時間変化に伴う、断面修復部の表面から鉄筋埋設位置までの深さ範囲についての防錆成分量の変化を、次式(4)及び(5):
G(xi,tj+1)=DG・{β/(Δx)}・Δt+G(xi,tj) ……(4)
β=G(xi−1,tj)−2・G(xi,tj)+G(xi+1,tj) ……(5)
(但し、上記式(4)及び(5)において、G:防錆成分量、DG:防錆成分の見掛け拡散係数を示す)によって計算する防錆成分量将来予測工程と、前記塩化物イオン量将来予測工程による計算結果から、塩化物イオン量の値が発錆限界塩化物イオン量未満の状態から発錆限界塩化物イオン量を超過した状態に切り替わる発錆時間を求める発錆時間導出工程と、その発錆時間導出工程により求められる発錆時間における鉄筋埋設位置での防錆成分量及び塩化物イオン量を、前記防錆成分量将来予測工程及び塩化物イオン量将来予測工程による結果から求めて、その防錆成分量を塩化物イオン量で割った比率をモル換算した判定モル比が、防錆雰囲気モル比の値を超えているか否かを判断するモル比判断工程とを備えている。
【0027】
この請求項2に記載のコンクリート構造物補修工法の適性判定方法によれば、コンクリート断面修復工法がコンクリート構造物に施されたときに、そのコンクリート構造物内の塩化物イオン量の分布状況の変化と、そのコンクリート構造物内の防錆成分量の分布状況の変化とを、それぞれ予測して、その予測結果からコンクリート構造物の鉄筋埋設位置における将来的な発錆の有無や防錆効果の適否について判定される。
【0028】
具体的には、塩化物イオン量現状推定工程において、式(1)を用いることで、コンクリート構造物内における現状の塩化物イオン量の分布状況が推定される。そして、この推定された現状の塩化物イオン量の分布状況と式(2)とを用いることで、塩化物イオン量将来予測工程によって、コンクリート断面修復工法が施されたときのコンクリート構造物に関する、塩化物イオン量の分布状況の長期的な変化、例えば、このさき数十年間以上の期間にわたる変化が予測される。
【0029】
そして、この塩化物イオン量将来予測工程の計算結果に基づき、発錆雰囲気判断工程によって、コンクリート構造物の鉄筋埋設位置における塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えるか否かが判断される。この判断の結果、鉄筋埋設位置における塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量以下となれば、将来的にみて鉄筋埋設位置が発錆雰囲気に変化しないことを意味しており、これは鉄筋が将来的に発錆しないことを意味する。
【0030】
つまり、敢えて防錆成分を補修材に混合してコンクリート構造物に防錆効果を付与せずとも、例えば、防錆成分未混合の補修材を使用した断面修復工法と塗装工法とを備えたコンクリート断面修復工法を施工するだけでも、コンクリート構造物に対する補修効果が発揮されるものとの判定できる。
【0031】
一方、発錆雰囲気判断工程による判断の結果、鉄筋埋設位置での塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えれば、将来的にみて鉄筋埋設位置が発錆雰囲気となることを意味しており、これは鉄筋が将来的に発錆することを意味する。よって、かかる場合は、コンクリート構造物の鉄筋に対する防錆成分の防錆効果を確認するため、防錆成分がコンクリート断面修復工法により施される断面修復部からコンクリート構造物内部へ浸透拡散したときの、コンクリート構造物内における防錆成分量の分布状況の変化を予測する。
【0032】
防錆成分の分布状況の変化を予測する場合は、防錆成分量初期設定工程によって、断面修復部を含めたコンクリート構造物内部の防錆成分量の初期分布状況が設定される。そして、この防錆成分量初期設定工程による初期設定と式(4)及び式(5)とを用いることで、防錆成分量将来予測工程によって、コンクリート断面修復工法が施されたときのコンクリート構造物に関する、防錆成分量の分布状況の長期的な変化、例えば、このさき数十年間以上の期間にわたる変化が予測される。
【0033】
一方、防錆成分の浸透拡散に伴って防錆雰囲気が鉄筋埋設位置に形成されれば鉄筋の発錆を多少なりとも抑制することはできるが、かかる防錆雰囲気が形成される時点で、既に鉄筋埋設位置の塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えていれば、鉄筋が発錆して腐食が進行している虞がある。このため、防錆成分による鉄筋埋設位置での防錆効果を判定するには、鉄筋埋設位置が発錆雰囲気となる時点と、鉄筋埋設位置に防錆雰囲気が形成される時点との前後関係を明確にする必要がある。
【0034】
そこで、発錆時間導出工程では、鉄筋埋設位置が発錆雰囲気となる時点をまずは明確にしている。つまり、発錆時間導出工程においては、上記した塩化物イオン量将来予測工程の計算結果に基づき、鉄筋埋設位置における塩化物イオン量の値が発錆限界塩化物イオン量未満の状態から発錆限界塩化物イオン量を超過した状態に切り替わる発錆時間が求められる。そして、この求められた発錆時間において、鉄筋埋設位置が防錆雰囲気となっているか否かの判断が、モル比判断工程によってなされる。
【0035】
このモル比判断工程によれば、発錆時間における鉄筋埋設位置での防錆成分量及び塩化物イオン量を、上記した防錆成分量将来予測工程及び塩化物イオン量将来予測工程による結果から求めて、その防錆成分量を塩化物イオン量で割った比率をモル換算した判定モル比を求めて、その判定モル比が防錆雰囲気モル比の値を超えているか否かが判断される。
【0036】
ここで、発錆時間における鉄筋位置での判定モル比が防錆雰囲気モル比の値以下ならば、鉄筋埋設位置には発錆時間において防錆雰囲気が形成されていないことを意味し、このことは、既に発錆雰囲気となっている鉄筋埋設位置に防錆雰囲気が形成されるという点で、防錆効果としては不十分であることを意味する。一方、発錆時間における鉄筋位置での判定モル比が防錆雰囲気モル比の値を超えるならば、鉄筋埋設位置には発錆時間において防錆雰囲気が形成されていることを意味し、このことは、発錆雰囲気となる前の鉄筋埋設位置に防錆雰囲気が形成されるという点で、防錆効果として有効であることを意味する。
【0037】
よって、モル比判断工程による判断の結果、判定モル比が防錆雰囲気モル比の値を超えるならば、防錆成分を混合した補修材を使用した断面修復工法と塗装工法とを備えたコンクリート断面修復工法をコンクリート構造物に施すことで、かかるコンクリート構造物の鉄筋埋設位置の将来的な発錆を予防することができるものと判定できる。
【0038】
請求項3記載のコンクリート構造物補修工法の適性判定方法は、請求項1又は2に記載のコンクリート構造物補修工法の適性判定方法において、建設時点から時間が経過しているコンクリート構造物について、その既設表面からの深さが異なる複数の測定点を設定し、これら測定点のそれぞれについて塩化物イオン量を測定する塩化物イオン量測定工程と、その塩化物イオン量測定工程による各測定点の塩化物イオン量の測定値を説明するモデル関数として次式(6):
F=F0・[1−erf{x/[2・√(DF・tE)]}]+Fint ……(6)
(但し、上記式(6)において、F:塩化物イオン量、F0:コンクリート構造物の既設表面における塩化物イオン量(表面塩化物イオン量)、x:コンクリート構造物の既設表面からの深さ位置、erf:誤差関数、DF:塩化物イオンの見掛け拡散係数、tE:建設時点からの経過時間である建設経過時間、Fint:初期含有全塩化物イオン量を示す)を用いるとともに、各測定点までの深さを説明変数とし、各測定点の塩化物イオン量を目的変数として、上記式(6)中の未知パラメータである表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数とを、回帰分析によって推定する係数推定工程とを備えており、この係数推定工程により推定した表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数とを用いて、前記塩化物イオン量現状推定工程と前記塩化物イオン量将来予測工程とを行うものである。
【0039】
この請求項3記載のコンクリート構造物補修工法の適性判定方法によれば、請求項1又は2に記載のコンクリート構造物補修工法の適性判定方法と同様に作用する上、塩化物イオン量測定工程によって、実際のコンクリート構造物に関する複数の測定点について塩化物イオン量が実測され、この各測定点に関する塩化物イオン量の値と式(6)とを用いることで、係数推定工程の回帰分析によって、実際のコンクリート構造物に関する、表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数とが推定される。そして、この係数推定工程により推定した表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数とを用いることで、上記した塩化物イオン量現状推定工程と塩化物イオン量将来予測工程とが実行される。
【0040】
よって、コンクリート表面塗着工法又はコンクリート断面修復工法が実際に施工されるコンクリート構造物について塩化物イオン量を測定すれば、それを用いて実際の施工対象となるコンクリート構造物に即した表面塩化物イオン量及び塩化物イオンの見掛け拡散係数を推定でき、その推定値を用いて塩化物イオン量現状推定工程と塩化物イオン量将来予測工程とを実行できるので、現状のコンクリート構造物に即した、将来的な塩化物イオン量の分布状況の変化をより正確に予測できるのである。
【0041】
請求項4記載の補修工法判定チャート作成方法は、請求項1記載のコンクリート構造物補修工法の適性判定方法を備えており、コンクリート構造物の発錆限界塩化物イオン量を所定値に設定し、コンクリート構造物の既設表面から鉄筋埋設位置までのかぶり厚さを所定値に設定し、コンクリート構造物の建設時点からの建設経過時間を所定値に設定し、その建設経過時間の値を前記初期時間として設定し、表面塩化物イオン量を所定の最小値から所定の最大値まで所定幅ずつ変化させ、且つ、塩化物イオンの見掛け拡散係数を所定の最小値から所定の最大値まで所定幅ずつ変化させて、前記請求項1記載のコンクリート構造物補修工法の適性判定方法を繰り返し行って、その結果を用いて、表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数との相関を表す相関図上に、前記モル比判断工程によって求められる判定モル比が防錆雰囲気モル比より大きくなる補修有効領域と、その判定モル比が防錆雰囲気モル比の値より小さくなる補修無効領域とを区画形成することで補修工法判定チャートを作成するものである。
【0042】
この請求項4記載の補修工法判定チャート作成方法によれば、コンクリート構造物に関する発錆限界塩化物イオン量と、かぶり厚さと、建設経過時間とを所定値に定めた上で、コンクリート構造物の表面塩化物イオン量及び塩化物イオンの見掛け拡散係数の値を所定範囲で変化させながら、請求項1記載のコンクリート構造物補修工法の適性判定方法を繰り返し実行することで、補修工法判定チャートが作成される。
【0043】
この補修工法判定チャートは、コンクリート構造物に関する発錆限界塩化物イオン量と、かぶり厚さと、建設経過時間とを固定パラメータとした上で、表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数との相関を表す相関図上に補修有効領域と補修無効領域とを区画して形成したものである。
【0044】
この補修工法判定チャートによれば、例えば、この補修工法判定チャートの固定パラメータと値が一致する発錆限界塩化物イオン量と、かぶり厚さと、建設経過時間とを有するコンクリート構造物について、表面塩化物イオン量及び塩化物イオンの見掛け拡散係数の値が既知ならば、その表面塩化物イオン量の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数の値とが示す座標位置を、補修工法判定チャート上に定める。
【0045】
そして、このとき、その座標位置が補修有効領域内にあれば、コンクリート表面塗着工法が当該コンクリート構造物に対して適切な補修工法であるものと判定することができる。一方、その座標位置が補修無効領域内にあれば、コンクリート表面塗着工法が当該コンクリート構造物に対して不適切な補修工法であるものと判断することができる。
【0046】
請求項5記載の補修工法判定チャート作成方法は、請求項4記載の補修工法判定チャート作成方法を備えており、その補修工法判定チャート作成方法を補修部の仕様条件が異なる場合についてそれぞれ行って、それらの結果を用いて補修部の仕様条件が異なる場合について補修工法判定チャートをそれぞれ作成し、その作成された各補修工法判定チャートを、それらの座標軸のスケールを一致させて重畳するものである。
【0047】
この請求項5記載の補修工法判定チャート作成方法によれば、表面塗着部の厚さなど補修部の仕様条件が異なる二種類以上のコンクリート表面塗着工法に関する補修工法判定チャートが重畳されて、1つの補修工法判定チャートが作成されるので、かかる1つの補修工法判定チャートを用いるだけで、二種類以上のコンクリート表面塗着工法についての適性を判断することができる。
【0048】
請求項6記載の補修工法判定チャート作成方法は、請求項2記載のコンクリート構造物補修工法の適性判定方法を備えており、コンクリート構造物の発錆限界塩化物イオン量を所定値に設定し、コンクリート構造物の既設表面から鉄筋埋設位置までのかぶり厚さを所定値に設定し、コンクリート構造物の建設時点からの建設経過時間を所定値に設定し、その建設経過時間の値を前記初期時間として設定し、表面塩化物イオン量を所定の最小値から所定の最大値まで所定幅ずつ変化させ、且つ、塩化物イオンの見掛け拡散係数を所定の最小値から所定の最大値まで所定幅ずつ変化させて、前記請求項2記載のコンクリート構造物補修工法の適性判定方法を繰り返し行って、その結果を用いて、表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数との相関を表す相関図上に、前記モル比判断工程によって求められる判定モル比が防錆雰囲気モル比より大きくなる補修有効領域と、その判定モル比が防錆雰囲気モル比の値より小さくなる補修無効領域とを区画形成することで補修工法判定チャートを作成するものである。
【0049】
この請求項6記載の補修工法判定チャート作成方法によれば、コンクリート構造物に関する発錆限界塩化物イオン量と、かぶり厚さと、建設経過時間とを所定値に定めた上で、コンクリート構造物の表面塩化物イオン量及び塩化物イオンの見掛け拡散係数の値を所定範囲で変化させながら、請求項2記載のコンクリート構造物補修工法の適性判定方法を繰り返し実行することで、補修工法判定チャートが作成される。このように作成された補修工法判定チャートは、コンクリート構造物に関する発錆限界塩化物イオン量と、かぶり厚さと、建設経過時間とを固定パラメータとした上で、表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数との相関を表す相関図上に補修有効領域と補修無効領域とを区画して形成したものである。
【0050】
この補修工法判定チャートによれば、例えば、この補修工法判定チャートの固定パラメータと値が一致する発錆限界塩化物イオン量と、かぶり厚さと、建設経過時間とを有するコンクリート構造物について、表面塩化物イオン量及び塩化物イオンの見掛け拡散係数の値が既知ならば、その表面塩化物イオン量の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数の値とが示す座標位置を、補修工法判定チャート上に定める。このとき、その座標位置が補修有効領域内ならば、コンクリート断面修復工法が当該コンクリート構造物に対して適切な補修工法であるものと判定できる一方、その座標位置が補修無効領域内ならば、コンクリート断面修復工法が当該コンクリート構造物に対して不適切な補修工法であるものと判断できる。
【0051】
請求項7記載の補修工法判定チャート作成方法は、請求項6記載の補修工法判定チャート作成方法を備えており、その補修工法判定チャート作成方法を補修部の仕様条件が異なる場合についてそれぞれ行って、それらの結果を用いて補修部の仕様条件が異なる場合について補修工法判定チャートをそれぞれ作成し、その作成された各補修工法判定チャートを、それらの座標軸のスケールを一致させて重畳するものである。
【0052】
この請求項7記載の補修工法判定チャート作成方法によれば、断面修復部の厚さなど補修部の仕様条件が異なる二種類以上のコンクリート断面修復工法に関する補修工法判定チャートが重畳されて、1つの補修工法判定チャートが作成されるので、かかる1つの補修工法判定チャートを用いるだけで、二種類以上のコンクリート断面修復工法についての適性を判断することができる。
【0053】
請求項8記載の補修工法判定チャート作成方法は、請求項4又は5に記載の補修工法判定チャート作成法と、請求項6又は7に記載の補修工法判定チャート作成法とを備えており、その請求項4又は5に記載の補修工法判定チャート作成法を用いて作成される補修工法判定チャートに対して、請求項6又は7に記載の補修工法判定チャート作成法を用いて作成される補修工法判定チャートを、それらの座標軸のスケールを一致させて重畳するものである。
【0054】
この請求項8記載の補修工法判定チャート作成方法によれば、コンクリート表面塗着工法に関する補修工法判定チャートと、コンクリート断面修復工法に関する補修工法判定チャートとが重畳されて、1つの補修工法判定チャートが作成されるので、かかる1つの補修工法判定チャートを用いるだけで、二種類以上の異なる補修工法についての適性を判断することができる。
【0055】
請求項9記載のコンクリート構造物補修工法の簡易適性判定方法は、請求項4から8のいずれかに記載の補修工法判定チャート作成方法を備えており、その補修工法判定チャート作成方法において所定値に設定した発錆限界塩化物イオン量、かぶり厚さ及び建設経過時間の値と比べて、発錆限界塩化物イオン量、かぶり厚さ及び建設経過時間の値が一致するコンクリート構造物について、そのコンクリート構造物の既設表面からの深さが異なる複数の測定点を設定し、これら測定点のそれぞれについて塩化物イオン量を測定する塩化物イオン量測定工程と、その塩化物イオン量測定工程による各測定点の塩化物イオン量の測定値を説明するモデル関数として次式(6):
F=F0・[1−erf{x/[2・√(DF・tE)]}]+Fint ……(6)
(但し、上記式(6)において、F:塩化物イオン量、F0:コンクリート構造物の既設表面における塩化物イオン量(表面塩化物イオン量)、x:コンクリート構造物の既設表面からの深さ位置、erf:誤差関数、DF:塩化物イオンの見掛け拡散係数、tE:建設時点からの経過時間である建設経過時間、Fint:初期含有全塩化物イオン量を示す)を用いるとともに、各測定点までの深さを説明変数とし、各測定点の塩化物イオン量を目的変数として、上記式(6)中の未知パラメータである表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数とを、回帰分析によって推定する係数推定工程と、その係数推定工程により推定した表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数とから決定される座標位置が、前記補修工法判定チャート作成方法により作成した補修工法判定チャートにおける補修有効領域又は補修無効領域のいずれに属するかを判断する補修効果判断工程とを備えている。
【0056】
この請求項9記載のコンクリート構造物補修工法の簡易適性判定方法によれば、コンクリート表面塗着工法又はコンクリート断面修復工法が実際に施工されるコンクリート構造物について塩化物イオン量を測定し、その測定値を用いて施工対象となるコンクリート構造物に即した表面塩化物イオン量及び塩化物イオンの見掛け拡散係数を式(6)から推定でき、その推定値を用いて補修工法判定チャートを利用した補修工法の適性判定を行うことができる。
【発明の効果】
【0057】
請求項1から9のいずれかに記載の発明によれば、コンクリート構造物の劣化進行過程に応じた適切な補修効果を発揮することが可能な補修工法を選定することができ、なおかつ、経済的にも適切な補修工法を選定して施工コストの低減も図ることができるという効果がある。
【0058】
特に、請求項4から9のいずれかに記載の発明によれば、コンクリート構造物に関する発錆限界塩化物イオン量、かぶり厚さ、建設経過時間、表面塩化物イオン量、及び、塩化物イオンの見掛け拡散係数の値が分かっていれば、これらのデータのみから、補修工法判定チャートを用いてコンクリート構造物に対して適切な補修効果を発揮する補修工法を容易に判定することができるという効果がある。
【0059】
また、補修工法判定チャートを利用する場合は、その補修工法判定チャート上に表面塩化物イオン量の値及び塩化物イオンの見掛け拡散係数の値に基づく座標位置を指し示すだけで補修工法の適否を判定できるので、視覚的にも補修工法の適否の判断結果を明確に理解でき、補修工法の選定時の判断ミスを防止できるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
以下、本発明の好ましい実施例について、添付図面を参照して説明する。本発明の一実施例である補修工法の適性判定方法(以下「補修工法適性判定方法」という。)は、塩害の環境下にあるコンクリート構造物に対して補修工法を施す場合に、その補修工法により発揮される将来的な補修効果が、当該コンクリート構造物の塩害劣化進行過程に適したものであるか否かを判定するための方法である。
【0061】
なお、以下で説明する、コンクリート構造物に対する各種の補修工法に関しては、特に言及しない限り、その工程の一部に必ず塗装工法が含まれていることを前提として説明しているものとする。
【0062】
図1は、コンクリート表面塗着工法による補修が施されたコンクリート構造物10の断面図である。このコンクリート表面塗着工法は、本実施例の補修工法適性判定方法によって判定される補修工法の一種である。なお、コンクリート構造物10の既設表面10aとは、補修工法が施される以前におけるコンクリート構造物10に既存している外表面のことをいう。
【0063】
図1に示すように、コンクリート表面塗着工法は、コンクリート構造物10の既設表面10aに、防錆成分が所定の初期混合量G0(kg/m3)混合される補修材を塗着して、厚さW(cm)の補修部(表面塗着部)11を形成する表面塗着工法と、その補修部11の表面(以下「補修部表面」ともいう。)11aを塗装材12により被覆して塩化物イオンの浸入を遮断する塗装工法とを備えている。
【0064】
なお、防錆成分の初期混合量GOは、補修工法の施工当初に補修材(補修部11)に混合される防錆成分量(防錆成分濃度)であって、以下「初期防錆成分量」ともいう。また、この初期防錆成分量G0の値は、補修工法の補修部11の仕様条件に応じて適宜調整することができるものである。
【0065】
なお、このコンクリート表面塗着工法について、補修材の初期防錆成分量をG0=0kg/m3とすれば、それは表面塗着工法において防錆成分未混合の補修材を使用することを意味することとなり、また、補修部11の厚さをW=0cmとすれば、それはコンクリート構造物10の既設表面10aに上記塗装工法のみを施すことを意味することとなる。
【0066】
図2は、コンクリート断面修復工法による補修が施されたコンクリート構造物10の断面図であって、特に、図2(a)は、コンクリート表面断面修復工法に関するものであり、図2(b)は鉄筋表面断面修復工法に関するものである。このコンクリート断面修復工法も、コンクリート表面塗着工法と同様に、本実施例の補修工法適性判定方法によって判定される補修工法の一種である。なお、図2では、図1と同一の部分には同一の符号を付している。
【0067】
図2に示すように、コンクリート断面修復工法は、コンクリート構造物10の既設表面10aから、表層コンクリート10bを所定のはつり深さW'(cm)だけ除去して凹陥部13を形成してから、所定の初期防錆成分量G0(kg/m3)の補修材を、その凹陥部13に充填して硬化させて、所定厚さW(cm)の補修部(断面修復部)11を形成し、コンクリート構造物10の欠陥部を修復する断面修復工法と、その断面修復工法により形成される補修部11の表面11aを塗装材12により被覆して塩化物イオンの浸入を遮断する塗装工法とを備えている。
【0068】
なお、このコンクリート断面修復工法において、補修部11の厚さWとはつり深さW'とは必ずしも等しくある必要はなく、各種の状況に応じて、はつり深さW'に対して補修部11の厚さWを大きくしたり、或いは、その逆に小さくしたりしても良い。
【0069】
また、ここに説明したコンクリート断面修復工法は、図2(a)に示すコンクリート表面断面修復工法と、図2(b)に示す鉄筋表面断面修復工法と、に分類される。具体的に、コンクリート表面断面修復工法は、コンクリート構造物10の既設表面10aから鉄筋14の埋設位置までの距離であるかぶり厚さΔWよりもはつり深さW'が小さい(ΔW>W')場合におけるコンクリート断面修復工法であり、これに対して、鉄筋表面断面修復工法は、かぶり厚さΔWとはつり深さW'がほぼ等しい(ΔW≒W')場合におけるコンクリート断面修復工法である。なお、本明細書で用いる「かぶり厚さ」とは、「日本工業規格」における「コンクリート用語(JIS−A0203)」によれば、「かぶり」と同義語である。
【0070】
なお、このコンクリート断面修復工法について、補修材の初期防錆成分量をG0=0kg/m3とすれば、それは断面修復工法において防錆成分未混合の補修材を使用することを意味することとなり、また、はつり深さW'=0cmとして補修部11の厚さW=0cmとすれば、それはコンクリート構造物10の既設表面10aに上記塗装工法のみを施すことを意味することとなる。
【0071】
図1及び図2に示す補修部11に使用される補修材は、例えば、セメント系モルタルを主成分としており、それに添加物としてコンクリート構造物10の内部へ浸透拡散する性質のある防錆成分が混合されている。具体的に、この防錆成分は、鉄筋14の表面に不動態被膜を形成するイオン成分を有する防錆剤であって、補修材に混合された状態でアルカリ性を示すものである。このため、防錆成分である防錆剤に含まれるイオン成分の作用によって鉄筋14の表面に不動態被膜を形成して鉄筋14の腐食を防止できる。
【0072】
防錆剤としては、補修材の主成分であるセメント系モルタルに混合されて溶解される水溶性防錆剤が適しており、その中でも、鉄筋14の表面に不動態被膜を形成するイオン成分を有する点で亜硝酸塩系の水溶性防錆剤、特に、亜硝酸リチウムを使用することが好適である。なお、防錆剤は、コンクリート構造物10の既設表面10aに塗着される前、又は、コンクリート構造物10の凹陥部13に充填される前、における未硬化状態のままの補修材に予め混合される。
【0073】
また、念のために言及しておくと、以下説明する本実施例において図6、図7、図9から図11、図14、及び、図15に例示している計算例は、初期含有全塩化物イオン量Fintを0kg/m3とし、補修材塩化物イオン初期量f0を0kg/m3とし、発錆限界塩化物イオン量Fcを1.2kg/m3とし、防錆雰囲気モル比R0を0.8として作成されるものである。なお、初期含有全塩化物イオン量Fint、補修材塩化物イオン初期量f0、発錆限界塩化物イオン量Fc、及び、防錆雰囲気モル比の詳細については後述する。
【0074】
次に、図3から図10を参照して、コンクリート構造物10に関する補修工法適性判定方法について説明する。この補修工法適性判定方法は、主として、上記したコンクリート表面塗着工法、又は、コンクリート断面修復工法が施されることによってコンクリート構造物10内で生じる将来的な変化を予測し、その予測結果から当該コンクリート構造物10に適した補修工法を判定する方法である。
【0075】
ここで、念のために説明しておくと、本実施例の補修工法適性判定方法によってコンクリート表面塗着工法の適性を判定する場合は、以下の説明における「既設コンクリートと補修部11との境界位置」が「コンクリート構造物10の既設表面10a」を意味するものとなり、これに対して、本実施例の補修工法適性判定方法によってコンクリート断面修復工法の適性を判定する場合は、以下の説明における「既設コンクリートと補修部11との境界位置」が「凹陥部13の底面13a」を意味するものとなる。
【0076】
図3は、補修工法適性判定方法の処理手順を示すフローチャートである。なお、以下で説明する補修工法適性判定方法に備わる各工程は、塩化物イオン量測定工程(S4)を除いて、主として、パーソナルコンピュータなどに代表される電子計算機を用いた数値演算処理によって短時間で実行可能なものである。
【0077】
図3に示すように、補修工法適性判定方法は、補修工法を選定する工程(S1)と、コンクリート構造物10の表面塩化物イオン量F0及び塩化物イオンの見掛け拡散係数DFが既知か否かを判断する工程(S2,S3)と、塩化物イオン量測定工程(S4)と、係数推定工程(S5)と、塩化物イオン量現状推定工程(S6)と、塩化物イオン量将来予測工程(S7)と、発錆雰囲気判断工程(S8)と、防錆成分量初期設定工程(S9)と、防錆成分量将来予測工程(S10)と、発錆時間導出工程(S11)と、モル比判断工程(S12)と、補修工法の種別を確認する工程(S13)と、採用する補修工法を決定する工程(S14,S15,S16)とを備えている。
【0078】
この補修工法適性判定方法によれば、まず、コンクリート構造物10に対して適用される補修工法が選定される(S1)。具体的には、コンクリート表面塗着工法又はコンクリート断面修復工法のうち、いずれか一方の補修工法が選定され、その選定された補修工法によって形成される「補修部11に関する仕様条件」、具体的には、補修部11(補修材)の初期防錆成分量G0の値、及び、補修部11の厚さWの値などが設定される。
【0079】
なお、S1の処理により選定される補修工法がコンクリート断面修復工法の場合は、「補修部11に関する仕様条件」として、はつり深さW'も設定される。
【0080】
S1の処理によって判定対象となる「補修工法」及び「補修部11に関する仕様条件」が選定されると、その次に、補修工法の施工対象となるコンクリート構造物10の既設表面10aにおける塩化物イオンの濃度である表面塩化物イオン量F0(kg/m3)が既知(推定済みである場合を含む。)であるか否かを判断し(S2)、併せて、そのコンクリート構造物10内における塩化物イオンの見掛け拡散係数DF(cm2/sec)が既知(推定済みである場合を含む。)であるか否かを判断する(S3)。
【0081】
このとき、コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0及び塩化物イオンの見掛け拡散係数DFが既知の場合は(S2,S3:Yes)、塩化物イオン量測定工程(S4)及び係数推定工程(S5)をスキップして、次工程の塩化物イオン量現状推定工程(S6)へ移行する。一方、コンクリート構造物10の表面塩化物イオン量F0が未知であるか(S2:No)、又は、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFが未知ならば(S3:No)、塩化物イオン量測定工程(S4)及び係数推定工程(S5)を実行してから、塩化物イオン量現状推定工程(S6)へ移行する。
【0082】
そこで、これより以降では、図4を参照して、塩化物イオン量測定工程(S4)を、図5及び図6を参照して、塩化物イオン量現状推定工程(S6)及び塩化物イオン量将来予測工程(S7)を、図7を参照して、発錆雰囲気判断工程(S8)を、図5及び図8を参照して、防錆成分量初期設定工程(S9)及び防錆成分量将来予測工程(S10)を、図9を参照して、発錆時間導出工程(S11)を、図10を参照して、モル比判断工程(S12)を、それぞれ説明する。
【0083】
まずは、図4を参照して、塩化物イオン量測定工程(S4)について説明する。
【0084】
図4は、塩化物イオン量測定工程(S4)を説明するためのコンクリート構造物10の断面図である。図4に示すコンクリート構造物10は、その建設時点から時間(以下「建設経過時間」という。)tE(sec)が経過している既存するものであり、塩化物イオン量測定工程(S4)は、このように建設経過時間tEが判明している既存のコンクリート構造物10について、その既設表面10aから深さ方向(矢印x方向)に位置が異なる4箇所の測定点MP1〜MP4を設定し、これら測定点MP1〜MP4について塩化物イオン量F'をそれぞれ測定する工程である。
【0085】
なお、塩化物イオン量測定工程(S4)で設定する測定点の個数は、必ずしも4箇所に限定されるものではなく、例えば、4箇所以上であっても良い。
【0086】
この塩化物イオン量測定工程(S4)は、補修対象となるコンクリート構造物10に対して、その既設表面10aから深さ方向にドリル60によって削孔することで採取されるドリル粉末をコンクリート試料として用いるものであって、各測定点MP1〜MP4に関するコンクリート試料をそれぞれ採取して、その各測定点MP1〜MP4から採取されるコンクリート試料に含まれる塩化物イオン量F'(kg/m3)を、塩化物イオン電極を用いた電位差滴定法、チオシアン酸水銀(II)吸光光度法、硝酸銀滴定法、又は、イオンクロマトグラブ法を用いて測定するものである。
【0087】
ここで、この塩化物イオン量測定工程(S4)では、ドリル粉末の採取区間L1〜L4が、コンクリート構造物10の既設表面10aから深さ方向へ略一定の間隔ΔDおきに区画されており、この各採取区間L1〜L4における深さ方向の中間点を各測定点MP1〜MP4として設定している。
【0088】
ところで、コンクリート構造物10には、その建設時点から既に塩化物イオンが混入している場合があり、このような建設時点から予めコンクリート構造物10内に含有している塩化物イオン量のことを初期含有全塩化物イオン量Fintと称している(下記式(1)及び(6)参照)。このような建設時点から含有する塩化物イオンはコンクリート構造物10の深さ方向に略一定分布になるものと仮定されており、このため、初期含有全塩化物イオン量Fintは既設表面10aからの深さと無関係に一定値として、下記式(1)及び(6)は導かれている。
【0089】
また、本実施例では、この初期含有全塩化物イオン量Fintの値として、上記した塩化物イオン量測定工程(S4)により測定されたコンクリート構造物10の最深部にある測定点以深であって、コンクリート構造物10の外部から浸透拡散してきた塩化物イオンが到達していない深さ位置における測定値が、下記する係数推定工程(S5)及び塩化物イオン量現状推定工程(S6)において用いられる。
【0090】
なお、塩化物イオン量測定工程(S4)は、「コンクリート標準示方書[規準編]JIS規格集」(土木学会編・日本規格協会発行)における「硬化コンクリート中に含まれる塩化物イオンの試験方法(JIS−A1154)」と、「コンクリート標準示方書[規準編]土木学会規準および関連規準」(土木学会発行)における「実構造物におけるコンクリート中の塩化物イオン分布の測定方法(案)(JSCE−G_573−2003)」とに準拠したものである。
【0091】
係数推定工程(S5)は、補修対象となるコンクリート構造物10に関する、表面塩化物イオン量F0の値、及び、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値を、Fickの拡散方程式の近似解である下記式(6)を用いた数値計算によって推定するものである。具体的には、各測定点MP1〜MP4の塩化物イオン量Fを目的変数とし、各測定点MP1〜MP4までの深さx(cm)を説明変数とした上で、初期含有全塩化物イオン量Fintと建設経過時間tEとを用いて、次式(6):
F=F0・[1−erf{x/[2・√(DF・tE)]}]+Fint ……(6)
(但し、erf:誤差関数である(以下同じ。))の未知パラメータであるコンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFとを、回帰分析によって推定するものである。
【0092】
具体的に、係数推定工程(S5)で用いる回帰分析は、上記式(6)を回帰式(モデル関数)として、塩化物イオン量測定工程(S4)により測定した各測定点MP1〜MP4の塩化物イオン量の測定値F'(kg/m3)と、上記式(6)及び各測定点MP1〜MP4までの深さx(cm)を用いて求められる塩化物イオン量の推定値F"(kg/m3)とから演算される残差二乗和Σ(F'−F")(但し、式中のΣは全測定点MP1〜MP4についての総和である。)が最小となるように、最小二乗法による回帰分析によって、コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0及び塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの各値を推定するものである。
【0093】
次に、図5を参照して、コンクリート構造物10の断面に関する断面モデル20について説明する。
【0094】
図5は、補修工法をコンクリート構造物10に施工する場合の断面モデル20を示す図であって、塩化物イオン量現状推定工程(S6)、塩化物イオン量将来予測工程(S7)、防錆成分量初期設定工程(S9)及び防錆成分量将来予測工程(S10)を処理するために構築されるものである。特に、図5(a)は、コンクリート表面塗着工法を施工する場合の断面モデル20を示す図であり、図5(b)は、コンクリート断面修復工法を施工する場合の断面モデル20を示す図である。
【0095】
図5に示すように、コンクリート構造物10の断面モデル20は、
(a) コンクリート構造物10の既設表面10a及び補修部表面11aの双方よりも外方(図5左方向)に設けられる基準点を0番目の深さ位置である深さxとし、
(b) その深さxからコンクリート構造物10の深部側(図5右側)へ向けて一定の深さ間隔Δxずつ変化する距離を深さxi(0≦i≦P,Pは整数,P≧1)とし、
(c) 深さxから補修部表面11a位置までの距離を深さ(以下「補修部表面深さ」ともいう。)xAとし、
(d) 深さxから既設コンクリートと補修部11との境界位置までの距離を深さ(以下「既設境界深さ」ともいう。)xBとし、
(e) 深さxから鉄筋14が埋設されている位置(鉄筋埋設位置)までの距離を深さ(以下「鉄筋埋設深さ」ともいう。)xCとし、
(f) 深さxからコンクリート構造物10の既設表面10aまでの距離を深さ(以下「既設表面深さ」ともいう。)xSとする、
ことで構築されており、
更に、コンクリート構造物10の将来的な変化を予測するためのシミュレーション上の開始時間である初期時間tから、シミュレーション上の終了時間である目標時間tQまで一定の時間間隔Δtずつ変化する時間経過を時間tj(但し、0≦j≦Q,Qは整数,Q≧1とする。)とすることで、各時間tjにおける各深さxiでの塩化物イオンの濃度を、塩化物イオン量F(xi,tj)という形式で表現することができる。
【0096】
ただし、上記したP番目の深さxPと鉄筋埋設深さxCとの関係は、次式(7):
xP≧xC ……(7)
を満たすものとする。なぜなら、鉄筋埋設位置における将来的な発錆雰囲気や防錆雰囲気に状況についての予測が求められるため、少なくとも鉄筋埋設位置までは塩化物イオン量や防錆成分量の分布状況を予測する必要があるからである。
【0097】
また、図5(a)に示す断面モデル20を用いて、「コンクリート表面塗着工法」をコンクリート構造物10に適用する場合、補修部11の厚さWと、かぶり厚さΔWと、各深さxA,xB,xC,xSとの関係は、次式(8)、(9)、(10):
W=xB−xA ……(8)
ΔW=xC−xS ……(9)
xB=xS ……(10)
で表されるものとなる。この関係式(8)、(9)、(10)の内容を換言すれば、補修部11の厚さWは既設境界深さxBから補修部表面深さxAを差し引いた差分に等しく、かぶり厚さΔWは鉄筋埋設深さxCから既設表面深さxSを差し引いた差分に等しく、その既設表面深さxSは既設境界深さxBと一致することを意味している。
【0098】
これに対して、図5(b)に示す断面モデル20を用いて、「コンクリート断面修復工法」をコンクリート構造物10に適用する場合、補修部11の厚さWと、はつり深さW'と、かぶり厚さΔWと、各深さxA,xB,xC,xSとの関係は、上記した式(8)、(9)、及び、次式(11):
W=xB−xA ……(8)
ΔW=xC−xS ……(9)
W'=xB−xS ……(11)
で表されるものとなる。この関係式(8)、(9)、(11)の内容を換言すれば、補修部11の厚さW及びかぶり厚さΔWについては「コンクリート表面塗着工法」による場合と同様であり、はつり深さW'は既設境界深さxBから既設表面深さxSを差し引いた差分に等しいことを意味している。
【0099】
次に、図5及び図6を参照して、塩化物イオン量現状推定工程(S6)及び塩化物イオン量将来予測工程(S7)について説明する。
【0100】
塩化物イオン量現状推定工程(S6)では、まず、深さxから補修部表面深さxAまでの深さ範囲(x≦xi<xA)、及び、深さxPを超える深さ範囲(xi>xP)についての、初期時間tにおける塩化物イオン量F(xi,t)の値を、次式(12):
F(xi,t)=0 ……(12)
(但し、x≦xi<xAの範囲と、xi>xPの範囲とに限る。)
に示すように全て0kg/m3に設定する。なぜなら、コンクリート構造物10に対して塗装工法が施工される場合、その塗装材12によってコンクリート構造物10への塩化物イオンの浸入が遮断されることを計算条件として考慮するためである。
【0101】
また、塩化物イオン量現状推定工程(S6)では、補修部表面深さxAから既設境界深さxBまでの深さ範囲(xA≦xi<xB)についての初期時間tにおける塩化物イオン量F(xi,t)の値を、下記式(13)に示すように、補修材に予め含まれている塩化物イオンの量である補修材塩化物イオン初期量f0に設定する。
F(xi,t)=f0 (但し、xA≦xi<xBの範囲に限る。) ……(13)
【0102】
更に、塩化物イオン量現状推定工程(S6)では、コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0及び塩化物イオンの見掛け拡散係数DFと、深さxiと、既設境界深さxBと、初期時間tと、初期含有全塩化物イオン量Fintとを用いて、既設境界深さxBから深さxPまでの深さ範囲(xB≦xi≦xP)についての初期時間tにおける塩化物イオン量F(xi,t)の値を、次式(1):
F(xi,t)=F0・[1−erf{[xi−xB]/[2・√(DF・t)]}]+Fint ……(1)
(但し、xB≦xi≦xPの範囲に限るものとし、xB≦xC≦xPの条件を満たすものとする。)
によって数値計算することで求める。
【0103】
なお、この塩化物イオン量現状推定工程(S6)によれば、初期時間tとして建設経過時間tEが用いられば(t=tE)、コンクリート構造物10の建設時点から建設経過時間tEが経過した時点における、当該コンクリート構造物10内の塩化物イオンの拡散分布状況を推定することができる。このとき、初期時間tとして代入される建設経過時間tEは、コンクリート構造物10の建設時点から塩化物イオン量測定工程(S4)の実施時点までの経過時間や、コンクリート構造物10の建設時点から補修工法の施工時点までの経過時間などとしても良い。
【0104】
塩化物イオン量将来予測工程(S7)では、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFと、深さ間隔Δxと、時間間隔Δtとを用いて、上記の塩化物イオン量現状推定工程(S6)により求められる各深さxiの塩化物イオン量F(xi,t)を初期値として、補修部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)についての、初期時間tの次時点tから目標時間tQまでの各時間tjにおける塩化物イオン量F(xi,tj)を、次式(2)及び(3):
F(xi,tj+1)=DF・{α/(Δx)}・Δt+F(xi,tj) ……(2)
α=F(xi−1,tj)−2・F(xi,tj)+F(xi+1,tj) ……(3)
(但し、xA≦xi≦xPの範囲に限る。)
によって数値計算することで求める。
【0105】
ここで、補修部11と既設のコンクリート構造物10とでは、一般的に内部構造がそれぞれ異なるため、自ずと塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が異なってくるものと考えられる。したがって、原則的には、塩化物イオン量将来予測工程(S7)においても、補修部表面深さxAから既設境界深さxBまでの深さ範囲(xA≦xi<xB)に関する塩化物イオンの見掛け拡散係数DFと、既設境界深さxBから深さxPまでの深さ範囲(xB≦xi≦xP)に関する塩化物イオンの見掛け拡散係数DFとに、それぞれ異なる数値が代入されることとなる。
【0106】
ただし、本実施例において下記する図6、図7、図9及び図10に示す数値計算例では、便宜上、補修部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)の塩化物イオンの見掛け拡散係数DFを一定値とみなして計算されている。
【0107】
なお、この塩化物イオン量将来予測工程(S7)によれば、その前工程である塩化物イオン量現状推定工程(S6)で初期時間tに建設経過時間tEが用いられる場合(t=tE)、かかる建設経過時間tEの時点から時間Q・Δtが更に経過した目標時間tQ(=t+Q・Δt=tE+Q・Δt)の時点における、当該コンクリート構造物10内の塩化物イオンの拡散分布状況を予測することができる。
【0108】
図6は、塩化物イオン量F(xi,tj)と深さxiとの関係をグラフで表した図であって、塩化物イオン量現状推定工程(S6)による計算結果の一例と、塩化物イオン量将来予測工程(S7)による計算結果の一例とを表したものである。
【0109】
図6に示すグラフには、塩化物イオン量F(xi,tj)(kg/m3)を示す縦軸と、深さxI(cm)を示す横軸と、発錆限界塩化物イオン量Fcの値が1.2kg/m3であることを示す破線状の横線と、補修部表面深さxAを示す1点鎖線状の縦線と、既設境界深さxBを示す2点鎖線状の縦線と、鉄筋埋設深さxCを示す破線状の縦線とが図示されている。
【0110】
なお、発錆限界塩化物イオン量Fcは、一般的に「塩化物イオンの鋼材腐食発錆限界」と称されており、コンクリート構造物10のコンクリート成分の特性などに応じて変化する、コンクリート構造物10(既設コンクリート)の特性値である。
【0111】
また、図6に示すグラフには、塩化物イオン量現状推定工程(S6)により求めた塩化物イオン量F(xi,t)の値を黒丸印(図中●)でプロットして作成した現状推定線21と、塩化物イオン量将来予測工程(S7)により求めた塩化物イオン量F(xi,tQ)の値を白丸印(図中○)でプロットして作成した将来予測線22とが図示されている。ここで、現状推定線21では、補修部11内の塩化物イオン量F(xi,t)と既設コンクリート(コンクリート構造物10)内の塩化物イオン量F(xi,t)との間に大きな格差があるため、既設境界深さxBの前後で不連続となっている。
【0112】
なお、図6に示した現状推定線21及び将来予測線22は、初期含有全塩化物イオン量Fint=0kg/m3とし、かぶり厚さΔW=4.0cmとし、補修部11の厚さW=1.0cmとし、深さ間隔Δx=0.5cmとし、建設経過時間tE=5.363712×10sec(=17年)を初期時間tとし、初期時間tから時間(Q・Δt)=1.5768×10sec(≒50年)が経過した時点を目標時間tQ=2.1131712×10sec(≒67年)とし、時間間隔Δt=3.64×10sec(=10日)とし、表面塩化物イオン量FO=6.0kg/m3とし、塩化物イオンの見掛け拡散係数DF=7.8×10−9cm2/secとし、補修材塩化物イオン初期量f0=0kg/m3として計算したものである。
【0113】
次に、図7を参照して、発錆雰囲気判断工程(S8)について説明する。
【0114】
図7は、発錆雰囲気判断工程(S8)を説明するための図であって、そのうち、図7(a)は、現状推定線31を示すグラフを表した図であり、図7(b)は、図7(a)に示す現状推定線31が時間経過に伴って変化した結果、目標時間tQで鉄筋埋設深さxCにおける塩化物イオン量F(xC,tQ)が発錆限界塩化物イオン量Fc以下であったときの将来予測線32の一例をグラフで表した図であり、図7(c)は、図7(a)に示す現状推定線31が時間経過に伴って変化した結果、目標時間tQで鉄筋埋設深さxCにおける塩化物イオン量F(xC,tQ)が発錆限界塩化物イオン量Fcを超えたときの将来予測線33の一例をグラフで表した図である。
【0115】
ここで、図7(a)に示す現状推定線31は、図6に示した現状推定線31と同一条件で作成されたものであり、図7(c)に示す将来予測線33は、図6に示した将来予測線22と同一条件で作成されるものである。すなわち、現状推定線31と現状推定線21とは同一のものであり、将来予測線33と将来予測線22とは同一のものである。
【0116】
具体的には、図7に示す各グラフには、塩化物イオン量F(xi,tJ)(kg/m3)を示す縦軸と、深さxi(cm)を示す横軸と、発錆限界塩化物イオン量Fcの値が1.2kg/m3であることを示す破線状の横線と、補修部表面深さxAを示す1点鎖線状の縦線と、既設境界深さxBを示す2点鎖線状の縦線と、鉄筋埋設深さxCを示す破線状の縦線とが図示されている。なお、図7(b)は目標時間tQを約22年とした場合に求められたものであり、図7(c)は目標時間tQを約67年とした場合に求められたものである。
【0117】
また、図7(a)には、塩化物イオン量現状推定工程(S6)により求めた塩化物イオン量F(xi,t)の値を黒丸印(図中●)でプロットして作成された現状推定線31が図示され、図7(b)及び図7(c)には、異なる条件の下に塩化物イオン量将来予測工程(S7)により求められた塩化物イオン量F(xi,tQ)の値を白丸印(図中○)でプロットした将来予測線32,33がそれぞれ図示されている。ここで、現状推定線31では、補修部11内の塩化物イオン量F(xi,t)と既設コンクリート(コンクリート構造物10)内の塩化物イオン量F(xi,t)との間に大きな格差があるため、既設境界深さxBの前後で不連続となっている。
【0118】
発錆雰囲気判断工程(S8)は、その前処理である塩化物イオン量将来予測工程(S7)により計算した目標時間tQの時点における鉄筋埋設深さxCについての塩化物イオン量F(xC,tQ)の値が、発錆限界塩化物イオン量Fcを超えるか否かを判断する工程である。具体的には、図7(a)に示した状態にある現状推定線31が、図7(b)又は図7(c)のどちらの将来予測線32,33に変化したかを判断する工程である。
【0119】
例えば、図3に示す発錆雰囲気判断工程(S8)において、目標時間tQの時点における鉄筋埋設深さxCでの塩化物イオン量F(xC,tQ)の値が発錆限界塩化物イオン量Fcを超えれば(S8:F(xC,tQ)>Fc)、図7(c)に示すように将来予測線33が鉄筋埋設深さxCの位置で発錆限界塩化物イオン量Fcを示す横線上又はそれよりも上側となる。
【0120】
このことは、塩化物イオン量将来予測工程(S7)を実施した結果、目標時間tQの時点に至るとコンクリート構造物10の鉄筋14の埋設位置が発錆雰囲気となることを示唆しており、故に、防錆成分未混合の補修部を形成すると共に塗装工法を施して塩化物イオンの外部からの侵入を遮断するだけでは、目標時間tQの時点で鉄筋14が腐食する危険性が高いものと判断することができる。よって、かかる場合は、防錆成分による防錆効果を確認すべく、後述する防錆成分量初期設定工程(S9)、防錆成分量将来予測工程(S10)、発錆時間導出工程(S11)、モル比判断工程(S12)を順番に実行して、補修部11を施工することによる補修効果について判定を行うのである。
【0121】
これに対し、図3に示す発錆雰囲気判断工程(S8)において、目標時間tQの時点における鉄筋埋設深さxCでの塩化物イオン量F(xC,tQ)の値が発錆限界塩化物イオン量Fc以下であれば(S8:F(xC,tQ)≦Fc)、図7(b)に示すように将来予測線32が鉄筋埋設深さxCの位置で発錆限界塩化物イオン量Fcを示す横線よりも下側となる。
【0122】
このことは、塩化物イオン量将来予測工程(S7)を実施した結果、目標時間tQの時点に至ってもコンクリート構造物10の鉄筋14の埋設位置は発錆雰囲気とならないことを示唆しており、防錆成分未混合の補修部を形成すると共に塗装工法を施して塩化物イオンの外部からの侵入を遮断するだけでも、目標時間tQの時点で鉄筋14が腐食する危険性は低いものと判断することができる。
【0123】
ここで、図3に戻って、発錆雰囲気判断工程(S8)における「F(xC,tQ)≦Fc)」の分岐処理について説明する。
【0124】
発錆雰囲気判断工程(S8)において塩化物イオン量F(xC,tQ)の値が発錆限界塩化物イオン量Fc以下となる場合には(S8:F(xC,tQ)≦Fc)、まず、判定対象となる補修工法がコンクリート表面塗着工法であるのか、或いは、コンクリート断面修復工法であるのかを判断し(S13)、その判断の結果、コンクリート表面塗着工法であるならば(S13:表面塗着)、コンクリート構造物10の既設表面10aに、防錆成分未混合(G0=0kg/m3)の補修材を塗着して、厚さWの補修部11を形成する表面塗着工法と、その補修部表面11aを塗装材12により被覆して塩化物イオンの浸入を遮断する塗装工法とを採用することに決定して(S14)、この補修工法適性判定方法の実行を終了するのである。
【0125】
一方、判定対象となる補修工法がコンクリート断面修復工法であるならば(S13:断面修復)、コンクリート構造物10の既設表面10aから、表層コンクリート10bを所定のはつり深さW'だけ除去して凹陥部13を形成してから、防錆成分未混合の(G0=0kg/m3)補修材を、その凹陥部13に充填して硬化させて、所定厚さWの補修部11を形成し、コンクリート構造物10の欠陥部を修復する断面修復工法と、その断面修復工法により形成される補修部11の表面11aを塗装材12により被覆する塗装工法とを採用することに決定して(S15)、この補修工法適性判定方法の実行を終了するのである。
【0126】
次に、図5及び図8を参照して、防錆成分量初期設定工程(S9)及び防錆成分量将来予測工程(S10)について説明する。
【0127】
防錆成分量初期設定工程(S9)では、まず、深さxから補修部表面深さxAまでの深さ範囲(x≦xi<xA)、及び、深さxPを超える深さ範囲(xi>xP)についての、初期時間tにおける防錆成分量G(xi,t)の値を、次式(14):
G(xi,t)=0 ……(14)
(但し、x≦xi<xAの範囲と、xi>xPの範囲とに限る。)
に示すように全て0kg/m3に設定する。なぜなら、コンクリート構造物10に対して各種補修工法における塗装工法が施工された場合、かかる塗装による遮断によってコンクリート構造物10の外部から内部へ新たに防錆成分が再供給され得ないことを計算条件として考慮するためである。
【0128】
また、防錆成分量初期設定工程(S9)では、補修部表面深さxAから既設境界深さxBまでの深さ範囲(xA≦xi<xB)についての初期時間tにおける防錆成分量G(xi,t)の値を、下記式(15)に示すように、施工前の補修材の初期防錆成分量G0に設定する。
G(xi,t)=G0 (但し、xA≦xi<xBの範囲に限る。) ……(15)
【0129】
更に、防錆成分量初期設定工程(S9)では、既設境界深さxBから深さxPまでの深さ範囲(xB≦xi≦xP)についての初期時間tにおける防錆成分量G(xi,t)の値を、次式(16):
G(xi,t)=g0 ……(16)
(但し、xB≦xi≦xPの範囲に限るものとし、xB≦xC≦xPの条件を満たすものとする。)
に示すように、コンクリート構造物10の既設コンクリート内に予め既存している防錆成分の量である既設コンクリート防錆成分初期量g0に設定する。
【0130】
なお、この防錆成分量初期設定工程(S9)において建設経過時間tEが初期時間tに代入されると(t=tE)、当該建設経過時間tEの時点が補修工法の施工時点として、次処理の防錆成分量将来予測工程(S10)による数値計算が実行されることとなる。このとき、初期時間tとして代入される建設経過時間tEは、コンクリート構造物10の建設時点から塩化物イオン量測定工程(S4)の実施時点までの経過時間とすればも良いが、塩化物イオン量測定工程(S4)の実施時点から補修工法の施工時点まで一定期間がある場合など事情がある場合は、建設経過時間tEとしてコンクリート構造物10の建設時点から補修工法の施工時点までの経過時間も用いても良い。
【0131】
そして、防錆成分量将来予測工程(S10)では、防錆成分の見掛け拡散係数DGと、深さ間隔Δxと、時間間隔Δtとを用いて、上記した防錆成分量初期設定工程(S9)により設定される各深さxiの防錆成分量G(xi,t)を初期値として、補修部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)についての、初期時間tの次時点tから目標時間tQまでの各時間tjにおける各深さxiの防錆成分量G(xi,tj)を、次式(4)及び(5):
G(xi,tj+1)=DG・{β/(Δx)}・Δt+G(xi,tj) ……(4)
β=G(xi−1,tj)−2・G(xi,tj)+G(xi+1,tj) ……(5)
(但し、xA≦xi≦xPの範囲に限る。)
によって数値計算することで求めるのである。
【0132】
ここで、補修部11と既設のコンクリート構造物10とでは、一般的に内部構造がそれぞれ異なるため、自ずと防錆成分の見掛け拡散係数DGの値が異なってくるものと考えられる。したがって、原則的には、防錆成分量将来予測工程(S10)においても、補修部表面深さxAから既設境界深さxBまでの深さ範囲(xA≦xi<xB)に関する防錆成分の見掛け拡散係数DGと、既設境界深さxBから深さxPまでの深さ範囲(xB≦xi≦xP)に関する防錆成分の見掛け拡散係数DGとに、それぞれ異なる数値が代入されることとなる。
【0133】
ただし、本実施例において下記する図8及び図10に示す数値計算例では、便宜上、補修部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)の防錆成分の見掛け拡散係数DGを一定値とみなして計算されている。
【0134】
図8は、防錆成分量G(xi,tj)と深さxiとの関係を表すグラフで示した図であって、防錆成分量初期設定工程(S9)による初期設定の一例と、防錆成分量将来予測工程(S10)による計算結果の一例とを表したものである。
【0135】
図8に示すグラフには、防錆成分量G(xi,tj)(kg/m3)を示す縦軸と、深さxI(cm)を示す横軸と、補修部表面深さxAを示す1点鎖線状の縦線と、既設境界深さxBを示す2点鎖線状の縦線と、鉄筋埋設深さxCを示す破線状の縦線とが図示されている。
【0136】
また、図8に示すグラフには、防錆成分量初期設定工程(S9)により設定した防錆成分量G(xi,t)の値を黒丸印(図中●)でプロットして作成した初期設定線41と、防錆成分量将来予測工程(S10)により求めた防錆成分量G(xi,tQ)の値を白丸印(図中○)でプロットして作成した将来予測線42とが図示されている。ここで、初期設定線41では、補修部11内の防錆成分量G(xi,t)と既設コンクリート(コンクリート構造物10)内の防錆成分量G(xi,t)との間に大きな格差があるため、既設境界深さxBの前後で不連続となっている。
【0137】
なお、図8に示した初期設定線41及び将来予測線42は、コンクリート構造物10の初期含有全塩化物イオン量Fint、発錆限界塩化物イオン量Fc、補修部11の厚さW、補修部表面深さxA、既設コンクリートと補修部11との境界深さxB、鉄筋埋設深さxC、深さ間隔Δx、建設経過時間tE、初期時間t、目標時間tQ、及び、時間間隔Δtについては、図6に示した塩化物イオン量に関する現状推定線21及び将来予測線22の計算例で用いたものと同じ数値を使用しており、これらを除くものについては初期防錆成分量GO=55.0kg/m3とし、防錆成分の見掛け拡散係数DG=7.8×10−9cm2/secとし、既設コンクリート防錆成分初期量g0=0kg/m3として計算したものである。
【0138】
次に、図9を参照して、発錆時間導出工程(S11)について説明する。
【0139】
図9は、発錆時間導出工程(S11)を説明するための図であって、図7(a)に示す状態から時間経過に伴って図7(c)に示す状態へ変化する途中のある時間(発錆時間)tKで、鉄筋埋設深さxCにおける塩化物イオン量F(xC,tK)が発錆限界塩化物イオン量Fcと略等しくなったときの将来予測線51を表したグラフの一例を示した図である。
【0140】
図9に示すグラフには、塩化物イオン量F(xi,tj)(kg/m3)を示す縦軸と、深さxI(cm)を示す横軸と、発錆限界塩化物イオン量Fcの値が1.2kg/m3であることを示す破線状の横線と、補修部表面深さxAを示す1点鎖線状の縦線と、既設境界深さxBを示す2点鎖線状の縦線と、鉄筋埋設深さxCを示す破線状の縦線とが図示されており、更に、塩化物イオン量将来予測工程(S7)により求められた塩化物イオン量F(xi,tK)の値を二重丸印(図中◎)でプロットした将来予測線51とが図示されている。
【0141】
発錆時間導出工程(S11)は、塩化物イオン量将来予測工程(S7)による計算結果を用いて、鉄筋埋設深さxCにおける塩化物イオン量F(xC,tj)の値が、発錆限界塩化物イオン量Fc未満の状態から発錆限界塩化物イオン量Fcを超過した状態に切り替わる時間である発錆時間tKを求める工程である。例えば、図9に示すように、将来予測線51が鉄筋埋設深さxCを示す縦線と発錆限界塩化物イオン量Fcを示す横線との交点上に位置するときに、鉄筋埋設深さxCでの塩化物イオン量F(xC,tj)が発錆限界塩化物イオン量Fcの値が略1.2kg/m3となったことを示しており、かかる場合における時間tjが即ち発錆時間tKなのである。
【0142】
なお、時間間隔Δtの設定条件によっては、塩化物イオン量将来予測工程(S7)による計算で、塩化物イオン量F(xC,tj)の値が厳密に発錆限界塩化物イオン量Fcと等しくはならない場合もあるが、かかる場合には、塩化物イオン量F(xC,tj)の値が最初に発錆限界塩化物イオン量Fcを超えた時間tjを発錆時間tKとすれば良い。
【0143】
次に、図10を参照して、モル比判断工程(S11)について説明する。
【0144】
図10は、モル比判断工程(S12)を説明するための図であって、初期時間tから目標時間tQまで時間tjが変化するときの、鉄筋埋設深さxCにおける塩化物イオン量F(xC,tj)、防錆成分量G(xC,tj)及び判定モル比R(xC,tj)の変化を表したグラフの一例を示した図である。なお、本実施例において、防錆雰囲気モル比R0の値は、工学的な判断に基づいて略0.6〜1.0の範囲で適宜設定される特性値である。
【0145】
図10に示すグラフには、塩化物イオン量F(xC,tj)、防錆成分量G(xC,tj)及び判定モル比R(xC,tj)を示す縦軸と、初期時間tから目標時間tQまで変化する時間tjを示す横軸と、発錆限界塩化物イオン量Fcの値が1.2kg/m3であることを示す破線状の横線と、防錆雰囲気モル比R0の値が0.8であることを示す一点鎖線状の横線とが図示されている。
【0146】
また、図10に示すグラフには、鉄筋埋設深さxCにおける塩化物イオン量F(xC,tj)の値を白抜き四角印(図中□)を用いて各時間tj毎にプロットした塩化物イオン量変化線61と、鉄筋埋設深さxCにおける防錆成分量G(xC,tj)の値を黒塗り四角印(図中■)を用いて各時間tj毎にプロットした防錆成分量変化線62とが図示されている。
【0147】
更に、図10に示すグラフには、鉄筋埋設深さxCにおける防錆成分量G(xC,tj)及び塩化物イオン量F(xC,tj)を、上記した防錆成分量将来予測工程(S10)及び塩化物イオン量将来予測工程(S7)による結果から求めて、その防錆成分量G(xC,tj)を塩化物イオン量F(xC,tj)で割った比率(G(xC,tj)/F(xC,tj))をモル換算した判定モル比R(xC,tj)の値を、星印(図中☆)を用いて各時間tj毎にプロットした判定モル比変化線63も図示されている。
【0148】
モル比判断工程(S12)では、上記した発錆時間導出工程(S11)により求められる発錆時間tKにおける鉄筋埋設深さxCでの防錆成分量G(xC,tK)及び塩化物イオン量F(xC,tK)を、上記した防錆成分量将来予測工程(S10)及び塩化物イオン量将来予測工程(S7)による結果から求めて、その防錆成分量G(xC,tK)を塩化物イオン量F(xC,tK)で割った比率をモル換算した判定モル比R(xC,tK)が、防錆雰囲気モル比R0の値を超えているか否かを判断する。
【0149】
ここで、図10に示すように、塩化物イオン量変化線61は、発錆限界塩化物イオン量Fcの値を示す横線と発錆時間tKにおいて交差している(F(xC,tK)≒1.2kg/m3)。一方、鉄筋埋設深さxCでのモル比変化線63は、発錆時間tK以前の時間(以下「防錆化時間」ともいう。)tMにおいて既に防錆雰囲気モル比R0の値を示す横線と交差しており、発錆時間tKにおける判定モル比R(xC,tK)の値についても、防錆雰囲気モル比R0の値を超過している(S12:R(xC,tK)>R0)。
【0150】
これらのことは、各種補修工法による補修を施した場合に、コンクリート構造物10の鉄筋14の埋設位置が発錆雰囲気となる以前に、その鉄筋14の埋設位置に防錆成分による防錆雰囲気が前もって形成されることを予測しており、故に、当該補修工法が施されることで当該コンクリート構造物10の塩害劣化進行過程に適合した補修効果が少なくとも目標時間tQに至るまで発揮されるものと判定することができる。
【0151】
次に、図3に戻って、モル比判断工程(S12)の分岐処理について説明する。
【0152】
図3に戻ると、発錆時間tKにおける判定モル比R(xC,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値を超過する場合(S12:R(xC,tK)>R0)には、上記したS1の処理において設定された「補修部11に関する仕様条件」の各数値に適合した補修部11をコンクリート構造物10の既設コンクリートに対して形成して、その補修部表面11aを塗装材12により被覆して塩化物イオンの浸入を遮断する補修工法を、当該コンクリート構造物10に対して採用することを決定して(S16)、この補修工法適性判定方法を終了する。
【0153】
ここで、S16の処理で採用される補修工法が、例えば、コンクリート表面塗着工法である場合は、表面塗着工法によって、防錆成分が初期防錆成分量G0だけ混合された補修材をコンクリート構造物10の既設表面10aに塗着して厚さWの補修部11を形成してから、塗装工法によって、その補修部表面11aを塗装材12により被覆して塩化物イオンの浸入を遮断することで、当該コンクリート構造物10を補修することとなる。
【0154】
これに対して、S16の処理で採用される補修工法が、例えば、コンクリート断面修復工法である場合は、断面修復工法によって、コンクリート構造物10の既設表面10aから表層コンクリート10bをはつり深さW'だけ除去して凹陥部13を形成し、防錆成分が初期防錆成分量G0だけ混合された補修材を凹陥部13に充填して硬化させて厚さWの補修部11を形成して、コンクリート構造物10の欠陥部を修復してから、塗装工法によって、補修部表面11aを塗装材12により被覆して塩化物イオンの浸入を遮断することで、当該コンクリート構造物10を補修することとなる。
【0155】
一方、図10に示す場合とは違って、発錆時間tKにおける判定モル比R(xC,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値以下であれば(S12:R(xC,tK)≦R0)、上記したS1の処理において設定された「補修部11に関する仕様条件」の各数値に基づく補修工法では、当該コンクリート構造物10の塩害劣化進行過程に適合した補修効果を発揮できないものと判定することができる。
【0156】
このことは、当該補修工法による補修を施した場合に、コンクリート構造物10の鉄筋14の埋設位置が発錆雰囲気となる以前に、その鉄筋14の埋設位置に防錆成分による防錆雰囲気が前もって形成できないことを予測しており、故に、当該補修工法が施されることで当該コンクリート構造物10の塩害劣化進行過程に適合した補修効果が将来的に発揮できないものと判定されるのである。
【0157】
かかる場合(S12:R(xC,tK)≦R0)には、処理をS1へ移行して、「補修工法」及び「補修部11に関する仕様条件」の数値を変更しながら、S1からS12までの各処理を適宜再実行して、モル比判断工程(S12)において発錆時間tKにおける判定モル比R(xC,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値を超過するまで(S12:R(xC,tK)>R0)、このS1からS12までの処理を繰り返して、適正な「補修工法」及び「補修部11に関する仕様条件」の数値を求めるのである。
【0158】
ただし、コンクリート構造物10に対する補修工法の適性を補修工法適性判定方法により判定する場合において、「補修工法」及び「補修部11に関する仕様条件」の各数値の変更をいくら繰り返してみても、モル比判断工程(S12)において判定モル比R(xC,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値以下となる場合は(S12:R(xC,tK)≦R0)、この補修工法適性判定方法の実行を強制終了して、当該コンクリート構造物10に対する補修工法として、電気化学的脱塩工法、電気防食工法又は、鉄筋背面断面修復工法などを採用することを検討するものとする。
【0159】
次に、図11から図16を参照して、上記したコンクリート構造物10に関する補修工法適性判定方法の変形例について説明する。
【0160】
そこで、まずは図11から図14を参照して、コンクリート構造物10に適した補修工法を判定するために利用される補修工法判定チャート70,80,90,100,110について説明する。
【0161】
図11(a)は、補修工法がコンクリート表面塗着工法である場合に関する補修工法判定チャート70の一例であり、図11(b)は、補修工法がコンクリート断面修復工法である場合に関する補修工法判定チャート80の一例であり、図11(c)は、補修工法が塗装工法のみである場合に関する補修工法判定チャート90の一例であり、図11(d)は、防錆成分未混合の補修材を用いたコンクリート断面修復工法が補修工法である場合に関する補修工法判定チャート100の一例である。
【0162】
図11に示すように、各補修工法判定チャート70,80,90,100はそれぞれ、表面塩化物イオン量F0(kg/m3)を示す縦軸と、塩化物イオンの見掛け拡散係数DF(cm2/sec)を示す横軸とを備えており、そのグラフ(チャート)枠内が、補修効果境界線73,83,93,103によって、コンクリート構造物10に対して各補修工法を施工した場合に補修効果が有効に発揮されることを示す補修有効領域71,81,91,101と、その補修効果が発揮されずに無効となることを示す補修無効領域72,82,92,102と区画されることで、形成されている。
【0163】
すなわち、これらの補修工法判定チャート70,80,90,100は、各種の補修工法による補修効果の有無について、表面塩化物イオン量F0と見掛け拡散係数DFとの相関関係を表した相関図である。また、各補修工法判定チャート70,80,90,100によれば、コンクリート構造物10についての発錆限界塩化物イオン量Fcと、かぶり厚さΔWと、建設経過時間tEとが所定の値に固定されており、かかる発錆限界塩化物イオン量Fc、かぶり厚さΔW及び建設経過時間tEを有するコンクリート構造物10に対する補修工法の効果の有無を判定するために利用される。
【0164】
図11(a)に示す補修工法判定チャート70は、発錆限界塩化物イオン量Fcが1.2kg/m3で、かぶり厚さΔWが6.0cmで、建設経過時間tEが5.363712×10sec(=17年)であるコンクリート構造物10に対して、コンクリート表面塗着工法を施工したときの補修効果の有無を判定するために利用されるものである。
【0165】
なお、この補修工法判定チャート70の作成に際する初期設定条件は、初期含有全塩化物イオン量Fintが0kg/m3、補修部11の厚さWが1.0cm、補修材塩化物イオン初期量f0が0kg/m3、補修部11の初期防錆成分量G0が55.0kg/m3、防錆成分の見掛け拡散係数DGが塩化物イオンの見掛け拡散係数DFに等しく、7.8×10−9cm2/sec、既設コンクリート防錆成分初期量g0が0kg/m3、初期時間tが建設経過時間tEに等しく、目標時間tQ(=t+Q・Δt=tE+Q・Δt)が2.1131712×10sec(≒67年)、表面塩化物イオン量F0に関する最小値F0minが0kg/m3、最大値F0maxが16.0×1.3kg/m3、変化量ΔF0が1.0kg/m3、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFに関する最小値DFminが0.2×10−8cm2/sec、最大値DFmaxが1.4×10−8cm2/sec、変化量ΔDFが0.1×10−8cm2/sec、とされている。
【0166】
図11(b)に示す補修工法判定チャート80は、発錆限界塩化物イオン量Fcとかぶり厚さΔWと建設経過時間tEとが図11(a)の場合と等しいコンクリート構造物10に対して、コンクリート断面修復工法を施工したときの補修効果の有無を判定するために利用されるものである。なお、この補修工法判定チャート80の作成に際する初期設定条件は、補修部11の厚さWが1.0cmとされる点、及び、コンクリート構造物10から除去される表層コンクリート10bのはつり深さW'が1.0cmとされる点を除いて、上記した図11(a)に関する初期設定条件と同様である。
【0167】
図11(c)に示す補修工法判定チャート90は、発錆限界塩化物イオン量Fcとかぶり厚さΔWと建設経過時間tEとが図11(a)及び図11(b)の場合と等しいコンクリート構造物10に対して、塗装工法のみを施工したときの補修効果の有無を判定するために利用されるものである。なお、この補修工法判定チャート90の作成に際する初期設定条件は、表層塗着部の厚さWが0cm、及び、補修部11の初期防錆成分量G0が0kg/m3とされる点を除いて、上記した図11(a)に関する初期設定条件と同様である。
【0168】
図11(d)に示す補修工法判定チャート100は、発錆限界塩化物イオン量Fcとかぶり厚さΔWと建設経過時間tEとが図11(a)から図11(c)の場合と等しいコンクリート構造物10に対して、防錆成分未混合の補修材を用いてなされるコンクリート断面修復工法を施工したときの補修効果の有無を判定するために利用されるものである。なお、この補修工法判定チャート100の作成に際する初期設定条件は、補修部11の初期防錆成分量G0が0kg/m3とされる点を除いて、上記した図11(b)に関する初期設定条件と同様である。
【0169】
次に、図12を参照して、補修工法判定チャート作成方法について説明する。
【0170】
図12は、防錆成分を使用したコンクリート表面塗着工法に関する補修工法判定チャート70、又は、防錆成分を使用したコンクリート断面修復工法に関する補修工法判定チャート80の作成方法についてのフローチャートである。なお、図12に関する説明では、図3中にあるのと同じ工程については同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分を説明する。
【0171】
図12に示すように、補修工法判定チャート作成方法は、上記した補修工法適性判定方法におけるS6からS12までの処理、即ち、塩化物イオン量現状推定工程(S6)から、塩化物イオン量将来予測工程(S7)、発錆雰囲気判断工程(S8)、防錆成分量初期設定工程(S9)、防錆成分量将来予測工程(S10)、発錆時間導出工程(S11)、モル比判断工程(S12)までの一連の処理を備えている。
【0172】
なお、この補修工法判定チャート作成方法によれば、モル比判断工程(S12)は、上記した補修工法適性判定方法の場合とは異なり、判定モル比R(xC,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値と等しいか否かを判断するものに変更されており、その「R(xC,tK)=R0」の分岐がS25の処理に、その「R(xC,tK)≠R0」の分岐がS26の処理に接続されている。
【0173】
この補修工法判定チャート作成方法では、まず、コンクリート構造物10の発錆限界塩化物イオン量Fcを所定の値に設定し、コンクリート構造物10の既設表面深さxSから鉄筋埋設深さxCまでの距離に相当するかぶり厚さΔWを所定の値に設定し、コンクリート構造物10の建設時点からの建設経過時間tEを所定の値に設定する(S21)。これによって、この補修工法判定チャート作成方法で作成される補修工法判定チャート70又は補修工法判定チャート80を利用した判定の対象となる、コンクリート構造物10の特性を決定するのである。
【0174】
それから、補修工法判定チャート70、又は、補修工法判定チャート80か作成するためのシミュレーション上の開始時間及び終了時間である初期時間tと目標時間tQとを設定し(S22)、更に、コンクリート構造物10に施工される補修工法に関する基本的な仕様データとして「補修部11の仕様条件」が設定される(S23)。
【0175】
この「補修部11に関する仕様条件」の設定では(S23)、コンクリート表面塗着工法に関する補修工法判定チャート70を作成する場合、補修部11の厚さWと、補修部11の初期防錆成分量G0とが、それぞれ設定される。一方、コンクリート断面修復工法に関する補修工法判定チャート80を作成する場合は、補修部11の厚さWと、はつり深さW'と、補修部11の初期防錆成分量G0とが、それぞれ設定される。
【0176】
このS23の処理の後は、表面塩化物イオン量F0に最小値F0minの値が代入されて、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFに最小値DFminの値が代入される(S24)。この後は、塩化物イオン量FOの値を最小値F0minから最大値F0maxまで一定の変化量ΔF0ずつ変化させ、なおかつ、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値も最小値DFminから最大値DFmaxまで一定の変化量ΔDFずつ変化させて、処理S6〜S12及びS25〜S30が繰返し実行されて、判定モル比R(xC,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値と等しくなるときの、塩化物イオン量FOの値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値との組み合わせが求められ、その組み合わせが示す座標位置(F0,DF)を、表面塩化物イオン量F0(縦軸)と塩化物イオンの見掛け拡散係数DF(横軸)との相関図上にプロットしていくのである(S25)。
【0177】
ここで、処理S6〜S12及びS25〜S30までの具体的な処理の流れを説明すると、まず、塩化物イオン量現状推定工程(S6)が実行され、その後、塩化物イオン量将来予測工程(S7)及び、発錆雰囲気判断工程(S8)の処理が実行され、発錆雰囲気判断工程(S8)によって、目標時間tQにおける鉄筋埋設深さxCでの塩化物イオン量F(xC,tQ)が発錆限界塩化物イオン量Fcを超えているか否かが判断される。
【0178】
この判断の結果、目標時間tQにおける鉄筋埋設深さxCでの塩化物イオン量F(xC,tQ)が発錆限界塩化物イオン量Fcを超えていれば(S8:F(xC,tQ)>Fc)、次に続く防錆成分量初期設定工程(S9)、防錆成分量将来予測工程(S10)、発錆時間導出工程(S11)、及び、モル比判断工程(S12)の処理を実行し、モル比判断工程(S12)によって、判定モル比R(xC,tK)の値と防錆雰囲気モル比R0の値とが等しいか否かを判断する。
【0179】
なお、モル判断工程(S12)における判断処理では、判定モル比R(xC,tK)の値と防錆雰囲気モル比R0の値とが完全に等しいか否かを判断することが必ずしも要求されるものではなく、その判断処理には種々のアルゴリズムが適用可能である。例えば、判定モル比R(xC,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の前後数%の範囲内となる場合、具体的に例示すれば、判定モル比R(xC,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の前後5%の範囲内にある場合(0.95・R0≦R(xC,tK)≦1.05・R0)をもって、判定モル比R(xC,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値に等しいものとして処理するものであっても良い。
【0180】
モル比判断工程(S12)による今回の判断結果が、判定モル比R(xC,tK)の値と防錆雰囲気モル比R0の値とが等しいとするものならば(S12:R(xC,tK)=R0)、今回のS6及びS7の計算処理で用いられた表面塩化物イオン量F0の値及び見掛け拡散係数DFの値が示す座標位置(F0,DF)を、表面塩化物イオン量F0(縦軸)と塩化物イオンの見掛け拡散係数DF(横軸)との相関図上にプロットする(S25)。
【0181】
一方、モル比判断工程(S12)による今回の判断結果として判定モル比R(xC,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値と不等となるか(S12:R(xC,tK)≠R0)、又は、上記した発錆雰囲気判断工程(S8)による今回の判断結果として塩化物イオン量F(xC,tQ)が発錆限界塩化物イオン量Fcの値以下となるならば(S8:F(xC,tQ)≦Fc)、今回のS6及びS7における計算処理で用いられた塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値に変化量ΔDFを加算して、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値を更新する(S26)。
【0182】
このS26により更新された塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が最大値DFmaxの値を超過していなければ(S27:No)、処理をS6へ移行する。そして、塩化物イオン量F(xC,tQ)が発錆限界塩化物イオン量Fcの値を超過し、且つ、判定モル比R(xC,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値と等しくなるまで(S8:F(xC,tQ)>Fc,S12:R(xC,tK)=R0)、又は、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が最大DFmaxの値を超過するまで(S27:Yes)、表面塩化物イオン量F0の値を一定に保持したまま、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFを変化量ΔDFずつ更新して、処理S6〜S12及びS26,S27の処理で構成されるループ処理を繰返し実行するのである。
【0183】
また、S25の処理によるプロット後、又は、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が最大DFmaxの値を超過する場合は(S27:Yes)、S6〜S12及びS26,S27の処理で構成されるループ処理において一定保持されてきた表面塩化物イオン量F0の値に変化量ΔF0を加算して、表面塩化物イオン量F0の値を更新する(S28)。
【0184】
そして、このS28により更新された表面塩化物イオン量F0の値が最大値F0maxの値を超過していなければ(S29:No)、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値を最小値DFminにリセットして(S30)、処理をS6へ移行する。この結果、表面塩化物イオン量F0の値が最大値F0maxの値を超過するまで(S29:Yes)、表面塩化物イオン量F0が変化量ΔF0ずつ更新されて、処理S6〜S30の処理で構成されるループ処理が繰返し実行されるのである。
【0185】
そして、表面塩化物イオン量F0の値が最大値F0maxの値を超過すると(S29:Yes)、塩化物イオン量FOの値が最小値F0minから最大値F0maxまで変化されたので、この補修工法判定チャート作成方法に関する一連の処理を終了するのである。
【0186】
この後は、上記したS25の処理によって、表面塩化物イオン量F0と見掛け拡散係数DFとの相関を表す相関図上にプロットされた各座標位置(F0,DF)を繋げば、補修効果境界線(R(xC,tK)=R0)が相関図上に描画される。
【0187】
すると、この補修効果境界線によって、判定モル比R(xC,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値より大きくなる補修有効領域(R(xC,tK)>R0)と、その判定モル比R(xC,tK)が防錆雰囲気モル比R0の値より小さくなる補修無効領域(R(xC,tK)<R0)とが区画形成されて、補修工法判定チャート70(図11(a)参照)又は補修工法判定チャート80(図11(b)参照)が作成されるのである。
【0188】
次に、図13を参照して、上記した補修工法判定チャート作成方法の変形例について説明する。
【0189】
図13は、塗装工法のみに関する補修工法判定チャート90、又は、防錆成分不使用のコンクリート断面修復工法に関する補修工法判定チャート100の作成方法についてのフローチャートである。なお、図13に関する説明では、図3及び図12中にあるのと同じ工程については同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分を説明する。
【0190】
図13に示すように、補修工法判定チャート作成方法は、上記した図12に示した補修工法判定チャート作成方法に対して、防錆成分量初期設定工程(S9)からモル比判断工程(S12)までを削除し、発錆雰囲気判断工程(S8)を塩化物イオン量F(xC,tQ)の値が発錆限界塩化物イオン量Fcの値と等しいか否かを判断するものに変更し、その「F(xC,tQ)=Fc」の分岐をS25の処理に、その「F(xC,tQ)≠Fc」の分岐をS26の処理に接続したものである。
【0191】
この図13に示す補修工法判定チャート作成方法では、図12の場合と同様に、S21〜S24までの処理を実行した後、塩化物イオン量FOの値を最小値F0minから最大値F0maxまで一定の変化量ΔF0ずつ変化させ、なおかつ、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値も最小値DFminから最大値DFmaxまで一定の変化量ΔDFずつ変化させて、処理S6〜S8及びS25〜S30が繰返し実行されて、目標時間tQにおける鉄筋埋設深さxCについての塩化物イオン量F(xC,tQ)の値が発錆限界塩化物イオン量Fcの値と等しくなるときの、塩化物イオン量FOの値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値との組み合わせが求められ、その組み合わせが示す座標位置(F0,DF)を、表面塩化物イオン量F0(縦軸)と塩化物イオンの見掛け拡散係数DF(横軸)との相関図上にプロットしていくのである(S25)。
【0192】
ここで、処理S6〜S8及びS25〜S30までの具体的な処理の流れを説明すると、まず、塩化物イオン量現状推定工程(S6)が実行され、その後、塩化物イオン量将来予測工程(S7)及び、発錆雰囲気判断工程(S8)の処理が実行され、発錆雰囲気判断工程(S8)によって、目標時間tQにおける鉄筋埋設深さxCについての塩化物イオン量F(xC,tQ)が発錆限界塩化物イオン量Fcと等しいか否かが判断される。
【0193】
なお、発錆雰囲気判断工程(S8)における判断処理では、塩化物イオン量F(xC,tQ)の値と発錆限界塩化物イオン量Fcの値とが完全に等しいか否かを判断することが必ずしも要求されるものではなく、その判断処理には種々のアルゴリズムが適用可能である。例えば、塩化物イオン量F(xC,tQ)の値が発錆限界塩化物イオン量Fcの前後数%の範囲内となる場合、具体的には、塩化物イオン量F(xC,tQ)の値が発錆限界塩化物イオン量Fcの前後5%の範囲内にある場合(0.95・Fc≦F(xC,tQ)≦1.05・Fc)をもって、塩化物イオン量F(xC,tQ)の値が発錆限界塩化物イオン量Fcの値に等しいものとして処理するものであっても良い。
【0194】
発錆雰囲気判断工程(S8)による今回の判断結果が、塩化物イオン量F(xC,tQ)の値と発錆限界塩化物イオン量Fcの値とが等しいとするものならば(S8:F(xC,tQ)=Fc)、今回のS6及びS7の計算処理で用いられた表面塩化物イオン量F0の値及び見掛け拡散係数DFの値が示す座標位置(F0,DF)を、表面塩化物イオン量F0(縦軸)と塩化物イオンの見掛け拡散係数DF(横軸)との相関図上にプロットする(S25)。
【0195】
一方、発錆雰囲気判断工程(S8)による今回の判断結果として塩化物イオン量F(xC,tQ)の値が発錆限界塩化物イオン量Fcの値と不等となるならば(S8:F(xC,tQ)≠Fc)、今回のS6及びS7における計算処理で用いられた塩化物イオンの見掛け拡散DFの値に変化量ΔDFを加算して、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値を更新する(S26)。
【0196】
このS26により更新された塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が最大値DFmaxの値を超過していなければ(S27:No)、処理をS6へ移行する。そして、塩化物イオン量F(xC,tQ)が発錆限界塩化物イオン量Fcの値と等しくなるまで(S8:F(xC,tQ)=Fc)、又は、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が最大DFmaxの値を超過するまで(S27:Yes)、表面塩化物イオン量F0の値を一定に保持したまま、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFを変化量ΔDFずつ更新して、処理S6〜S8及びS26,S27の処理で構成されるループ処理を繰返し実行するのである。
【0197】
また、S25の処理によるプロット後、又は、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が最大DFmaxの値を超過する場合は(S27:Yes)、S6〜S8及びS26,S27の処理で構成されるループ処理において一定保持されてきた表面塩化物イオン量F0の値に変化量ΔF0を加算して、表面塩化物イオン量F0の値を更新する(S28)。
【0198】
そして、このS28により更新された表面塩化物イオン量F0の値が最大値F0maxの値を超過していなければ(S29:No)、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値を最小値DFminにリセットして(S30)、処理をS6へ移行する。この結果、表面塩化物イオン量F0の値が最大値F0maxの値を超過するまで(S29:Yes)、表面塩化物イオン量F0が変化量ΔF0ずつ更新されて、処理S6〜S30の処理で構成されるループ処理が繰返し実行されるのである。
【0199】
そして、表面塩化物イオン量F0の値が最大値F0maxの値を超過すると(S29:Yes)、塩化物イオン量FOの値が最小値F0minから最大値F0maxまで変化されたので、この補修工法判定チャート作成方法に関する一連の処理を終了するのである。
【0200】
この後は、上記したS25の処理によって、表面塩化物イオン量F0と見掛け拡散係数DFとの相関を表す相関図上にプロットされた各座標位置(F0,DF)を繋げば、補修効果境界線(F(xC,tQ)=Fc)が相関図上に描画される。
【0201】
すると、この補修効果境界線によって、塩化物イオン量F(xC,tQ)の値が発錆限界塩化物イオン量Fcの値より大きくなる補修有効領域(F(xC,tQ)<Fc)と、その塩化物イオン量F(xC,tQ)が発錆限界塩化物イオン量Fcの値より小さくなる補修無効領域(F(xC,tQ)>Fc)とが区画形成されて、補修工法判定チャート90(図11(c)参照)、又は、補修工法判定チャート100(図11(d)参照)が作成されるのである。
【0202】
次に、図14を参照して、上記した補修工法判定チャート110の変形例について説明する。
【0203】
図14は、複数の補修工法に関する補修工法判定チャートを重畳した作成された補修工法判定チャート110の一例である。この図14に示す補修工法判定チャート110は、上記した図11に示す各チャート70,80,90,100と同様に、発錆限界塩化物イオン量Fcが1.2kg/m3で、かぶり厚さΔWが6.0cmで、建設経過時間tEが5.36112×10sec(=17年)であるコンクリート構造物10に対して、補修工法を施工したときの補修効果の有無を判定するために利用されるものである。
【0204】
図14に示す補修工法判定チャート110は、上記作成方法により作成される合計5種類の補修工法判定チャート110の座標軸のスケールを一致させて重畳することで作成されたものであって、塗装工法のみによる場合と、補修部11の厚さWが1.0cmであるコンクリート表面塗着工法による場合と、補修部11の厚さWが1.0cm及びはつり深さW'が1.0cmであるコンクリート断面修復工法による場合と、補修部11の厚さが2.0cm及びはつり深さW'が2.0cmであるコンクリート断面修復工法による場合と、電気化学的脱塩工法と塗装工法とを組み合わせた場合とについて同時に比較検討することができるものである。
【0205】
なお、この補修工法判定チャート110の作成に際する初期設定条件は、図11に示す各チャート70,80,90,100を作成する場合と同様に、初期含有全塩化物イオン量Fintが0kg/m3、補修材塩化物イオン初期量f0が0kg/m3、補修部11の初期防錆成分量G0が55.0kg/m3、防錆成分の見掛け拡散係数DGが7.8×10−9cm2/sec、既設コンクリート防錆成分初期量g0が0kg/m3、初期時間tが建設経過時間tE、目標時間tQが2.1131712×10sec(≒67年)、表面塩化物イオン量F0に関する最小値F0minが0kg/m3、最大値F0maxが16.0×1.3kg/m3、変化量ΔF0が1.0kg/m3、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFに関する最小値DFminが0.2×10−8cm2/sec、最大値DFmaxが1.4×10−8cm2/sec、変化量ΔDFが0.1×10−8cm2/sec、とされている。
【0206】
図14に示すように、この補修工法判定チャート110は、4本の補修効果境界線116〜119によって合計5つの領域に区画されており、これら5つの領域は、グラフ枠内の基準点側(図14の左下側)から対角線方向(図14の右上方向)に向かって順番に、第1種領域111と、第2種領域112と、第3種領域113と、第4種領域114と、第5種領域115とに区画されている。
【0207】
第1種領域111は、塗装工法のみを施すことで、目標時間tQになるまで鉄筋埋設深さxCでの発錆を防止することが可能なことを示す領域である。また残る、第2種領域112は補修部11の厚さWが1.0cmであるコンクリート表面塗着工法を施すことで、第3種領域113は補修部11の厚さWが1.0cm及びはつり深さW'が1.0cmであるコンクリート断面修復工法を施すことで、第4種領域114は補修部11の厚さWが2.0cm及びはつり深さW'が2.0cmであるコンクリート断面修復工法を施すことで、第5種領域115は電気化学的脱塩工法及び塗装工法を施すことで、目標時間tQになるまで鉄筋埋設深さxCでの発錆を防止することが可能なことを示す領域である。
【0208】
つまり、コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0の値及び塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が属する領域が、
(a) 第1種領域111ならば当該コンクリート構造物10に対して塗装工法を施工することが適切であり、
(b) 第2種領域112ならば当該コンクリート構造物10に対して補修部11の厚さWが1.0cm及び補修部11の初期防錆成分量G0が55.0kg/m3であるコンクリート表面塗着工法を施工することが適切であり、
(c) 第3種領域113ならば当該コンクリート構造物10に対して補修部11の厚さWが1.0cm、はつり深さW'が1.0cm及び補修部11の初期防錆成分量G0が55.0kg/m3であるコンクリート断面修復工法を施工することが適切であり、
(d) 第4種領域114ならば当該コンクリート構造物10に対して補修部11の厚さWが2.0cm、はつり深さW'が2.0cm及び補修部11の初期防錆成分量G0が55.0kg/m3であるコンクリート断面修復工法を施工することが適切であり、
(e) 第5種領域115ならば当該コンクリート構造物10に対して電気化学的脱塩工法及び塗装工法を施工することが適切である、
と判定することができる。
【0209】
なお、図14に示すような複数種類の補修工法に関する補修工法判定チャート110を重畳する場合は、上記した発錆限界塩化物イオン量Fcやかぶり厚さΔWや建設経過時間tEなどのコンクリート構造物10に関する数値条件や、上記した補修部11の厚さWやはつり深さW'などの各補修工法に関する数値条件に限定されるものではなく、上記した数値条件を除くものを対象として複数の補修工法に関する補修工法判定チャートを重畳したものを作成しても良い。
【0210】
次に、上記した補修工法判定チャート70,80,90,100,110を用いた補修工法の簡易適性判定方法について説明する。
【0211】
この補修法判定チャート70、80,90,100,110を用いた補修工法の簡易適性判定方法では、まず、これらの各補修工法判定チャートを用いた補修工法の簡易適性判定方法を行う前に、補修工法が施される対象であるコンクリート構造物(以下「被判定コンクリート構造物」ともいう。)50について、発錆限界塩化物イオン量Fc、かぶり厚さΔW、建設経過時間tE、表面塩化物イオン量FO、及び、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が既知であるか否かを確認する。
【0212】
この確認の結果、例えば、かぶり厚さΔWが未知である場合は、RCレーダなどの探査機器を用いて被判定コンクリート構造物10の補修箇所のかぶり厚さΔWの測定値を確認する。また、発錆限界塩化物イオン量Fcに関するデータが不明ならば、発錆限界塩化物イオン量Fcの値として、1.2kg/m3を設定する。更に、表面塩化物イオン量FO、及び、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が未知である場合は、上記した塩化物イオン量測定工程(S4)及び係数推定工程(S5)と同様の手段によって、初期含有全塩化物イオン量Fintを測定及び決定し、表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とを推定する。
【0213】
そして、被判定コンクリート構造物10に関する、発錆限界塩化物イオン量Fc、かぶり厚さΔW、建設経過時間tE、表面塩化物イオン量FO、及び、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が既知となれば、補修工法判定チャート70,80,90,100,110を用いて補修工法の簡易適性判定方法を実施する。
【0214】
この補修工法判定チャート70,80,90,100,110を用いた補修工法の簡易適性判定方法では、まず、これらの補修工法判定チャート70,80,90,100,110の作成に用いた発錆限界塩化物イオン量Fc、かぶり厚さΔW、及び、建設経過時間tEの値と、被判定コンクリート構造物10に関する発錆限界塩化物イオン量Fc、かぶり厚さΔW、及び、建設経過時間tEの値とが一致するか否かを判断する。そして、かかる両者が一致するなら、被判定コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量FOの値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)を補修工法判定チャート70,80,90,100,110上に求めるか、又は、その座標位置(F0,DF)を補修工法判定チャート70,80,90,100,110上に直接プロットする。
【0215】
そして、被判定コンクリート構造物についてプロットした座標(F0,DF)が、補修工法判定チャート70,80,90,100の補修有効領域71,81,91,101又は補修無効領域72,82,92,102のいずれかに属するか、或いは、補修工法判定チャート110の第1種領域111乃至第5種領域115のいずれかに属するか、を判断するするのである(補修効果判断工程)。
【0216】
具体的には、図11(c)に示す補修工法判定チャート90上の補修有効領域91内に、被判定コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)があれば、被判定コンクリート構造物10に塗装工法を施工することで、初期時間tQから目標時間tQになるまで鉄筋14の発錆を防止可能である旨の判定をすることができる。
【0217】
これに対して、図11(c)に示す補修工法判定チャート90上の補修無効領域92内に、被判定コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)があれば、被判定コンクリート構造物10に塗装工法のみでは、初期時間tQから目標時間tQになるまでに鉄筋14が発錆してしまう旨の判定がなされる。
【0218】
かかる場合は、図11(d)に示す補修工法判定チャート100を用いて更なる判定を行い、その補修工法判定チャート100上の補修有効領域101内に、被判定コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)があれば、被判定コンクリート構造物10に対して補修部11の厚さWが1.0cm、はつり深さW'が1.0cm及び補修部11の初期防錆成分量G0が0kg/m3であるコンクリート断面修復工法を施工することで、初期時間tQから目標時間tQになるまで鉄筋14の発錆を防止可能である旨の判定をすることができる。
【0219】
これに対して、図11(d)に示す補修工法判定チャート100上の補修無効領域102内に、被判定コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)があれば、被判定コンクリート構造物10に対して補修部11の厚さWが1.0cm、はつり深さW'が1.0cm及び補修部11の初期防錆成分量G0が0kg/m3であるコンクリート断面修復工法を施工することでは、初期時間tQから目標時間tQになるまでに鉄筋14が発錆してしまう旨の判定がなされる。
【0220】
かかる場合は、図11(a)に示す補修工法判定チャート70を用いて更なる判定を行い、その補修工法判定チャート70上の補修有効領域71内に、被判定コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)があれば、被判定コンクリート構造物10に対して補修部11の厚さWが1.0cm及び補修部11の初期防錆成分量G0が55.0kg/m3であるコンクリート表面塗着工法を施工することで、初期時間tQから目標時間tQになるまで防錆成分の機能によって鉄筋14の発錆が防止可能である旨の判定をすることができる。
【0221】
これに対して、図11(a)に示す補修工法判定チャート70上の補修無効領域72内に、被判定コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)があれば、被判定コンクリート構造物10に対して補修部11の厚さWが1.0cm及び補修部11の初期防錆成分量G0が55.0kg/m3であるコンクリート表面塗着工法を施工することでは、初期時間tQから目標時間tQになるまでに鉄筋14が発錆してしまう旨の判定がなされる。
【0222】
かかる場合は、図11(b)に示す補修工法判定チャート80を用いて更なる判定を行い、その補修工法判定チャート80上の補修有効領域81内に、被判定コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)があれば、被判定コンクリート構造物10に対して補修部11の厚さWが1.0cm、はつり深さW'が1.0cm及び補修部11の初期防錆成分量G0が55.0kg/m3であるコンクリート断面修復工法を施工することで、初期時間tQから目標時間tQになるまで防錆成分の機能によって鉄筋14の発錆が防止可能である旨の判定をすることができる。
【0223】
これに対して、図11(b)に示す補修工法判定チャート80上の補修無効領域82内に、被判定コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)があれば、被判定コンクリート構造物10に対して補修部11の厚さWが1.0cm、はつり深さW'が1.0cm及び補修部11の初期防錆成分量G0が55.0kg/m3であるコンクリート断面修復工法を施工することでは、初期時間tQから目標時間tQになるまでに鉄筋14が発錆してしまう旨の判定がなされる。
【0224】
かかる場合は、補修部11の厚さWやはつり深さW'の値を更に1.0cmを超えるものとしたコンクリート断面修復工法に関する補修工法判定チャートを作成して、その補修効果の有効性を上記の如く判定するか、或いは、電気化学的脱塩工法、電気防食工法又は、鉄筋背面断面修復工法などを採用することを検討するのである。
【0225】
図14に示す補修工法判定チャート110を、図11に示す各補修工法判定チャート70,80,90,100に代えて用いる場合は、被判定コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)が、
(a) 第1種領域111内にあれば当該被判定コンクリート構造物10に対して塗装工法を施工することで、
(b) 第2種領域112内にあれば当該被判定コンクリート構造物10に対して補修部11の厚さWが1.0cm及び補修部11の初期防錆成分量G0が55.0kg/m3であるコンクリート表面塗着工法を施工することで、
(c) 第3種領域113内にあれば当該被判定コンクリート構造物10に対して補修部11の厚さWが1.0cm、はつり深さW'が1.0cm及び補修部11の初期防錆成分量G0が55.0kg/m3であるコンクリート断面修復工法を施工することで、
(d) 第4種領域114内にあれば当該被判定コンクリート構造物10に対して補修部11の厚さWが2.0cm、はつり深さW'が2.0cm及び補修部11の初期防錆成分量G0が55.0kg/m3であるコンクリート断面修復工法を施工することで、
(e) 第5種領域115内にあれば当該被判定コンクリート構造物10に対して電気化学的脱塩工法及び塗装工法を施工することで、
初期時間tQから目標時間tQになるまで鉄筋14の発錆を防止可能である旨の判定をすることができる。
【0226】
なお、被判定コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量の値F0と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)が、各補修工法判定チャート70,80,90,100,110上の補修効果境界線73,83,93,103,116,117,118,119上にある場合には、その状況に応じた判断をすることも可能であるが、補修工法判定チャート70,80,90,100,110の精度を考慮して安全率を大きくする観点から、被判定コンクリート構造物10に対して有効な防錆効果を発揮不能である旨の判定をするようにしても良い。
【0227】
更に、念のため説明を補足すれば、コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0の値及び塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が属する領域が、
(a) 第1種領域111ならば、第1乃至第5種領域111〜115のいずれかの領域に対応する補修工法を、
(b) 第2種領域112ならば、第2乃至第5種領域112〜115のいずれかの領域に対応する補修工法を、
(c) 第3種領域113ならば、第3乃至第5種領域113〜115のいずれかの領域に対応する補修工法を、
(d) 第4種領域114ならば、第4又は第5種領域114,115のいずれかの領域に対応する補修工法を、
当該コンクリート構造物10に対して施工することもできる。
【0228】
このように、図11及び図14に例示する補修工法判定チャート70,80,90,100,110を用いた補修工法簡易適性判定方法によれば、被判定コンクリート構造物10に関する、発錆限界塩化物イオン量Fc、かぶり厚さΔW、建設経過時間tE、表面塩化物イオン量F0、及び、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が分かっていれば、これらのデータのみから、補修工法判定チャート70,80,90,100,110を用いて当該被判定コンクリート構造物10に対して適切な補修効果を発揮する補修工法を容易に判定することができる。
【0229】
次に、図15を参照して、上記した実施例の変形例について説明する。図15は、補修工法の施工時期を判定するために用いられる補修工法判定チャート120の一例である。
【0230】
上記実施例では、数値計算上の初期時間tに建設経過時間tEを代入して計算したが、例えば、建設経過時間tEの5年後、建設経過時間tEの10年後、建設経過時間の20年後を初期時間tとして、上記した補修工法適性判定方法、補修工法判定チャート作成方法、又は、補修工法判定チャートを用いる補修工法の簡易適性判定方法を行うこともできる。さすれば、現時点(建設経過時間tEの時点)ではなく、それよりも更に、5年後、10年後、20年後に、補修工法を施工すると想定した場合における将来的な補修効果の有無や適否を予測することができる。
【0231】
例えば、図15に示す補修工法判定チャート120は、コンクリート構造物に関する、発錆限界塩化物イオン量Fcを1.2kg/m3、かぶり厚さΔWを5.0cm、及び、建設経過時間tEを建設時点から6.045408×10sec(≒19年2ヶ月)として設定した場合に、初期時間tを建設経過時間tEと同じ19年2ヶ月、初期時間tを建設経過時間tEから約24年2ヶ月後、初期時間tを建設経過時間tEから29年2ヶ月後、及び、初期時間tを建設経過時間tEから39年2ヶ月後とした場合について、それぞれ補修工法判定チャート作成方法を行うことで、作成されたものである。
【0232】
なお、この補修工法判定チャート120の作成に際する、その他の初期設定条件は、図11及び図14に示す各チャート70,80,90,100,110を作成する場合と同様である。
【0233】
図15に示すように、この補修工法判定チャート120は、5本の補修効果境界線127〜131によって合計6つの領域に区画されており、これら6つの領域は、グラフ枠内の基準点側(図15の左下側)から対角線方向(図15の右上方向)に向かって順番に、第1種領域121と、第2種領域122と、第3種領域123と、第4種領域124と、第5種領域125と、第6種領域126とに区画されている。
【0234】
ここで、第1種領域121は、建設経過時間tEから20年間塗装工法を施工せずとも目標時間tQになるまで鉄筋埋設深さxCで発錆しないことを示す領域である。第2種領域122は、建設経過時間tEから20年以内に塗装工法を施工しなければ目標時間tQになるまで鉄筋埋設深さxCで発錆してしまうことを示す領域である。第3種領域123は、建設経過時間tEから10年以内に塗装工法を施工しなければ目標時間tQになるまで鉄筋埋設深さxCで発錆してしまうことを示す領域である。
【0235】
また、第4種領域124は、建設経過時間tEから5年以内に塗装工法を施工しなければ目標時間tQになるまで鉄筋埋設深さxCで発錆してしまうことを示す領域である。第5種領域125は、建設経過時間tE(現時点)においてコンクリート表面塗着工法を施工しなければ目標時間tQになるまで鉄筋埋設深さxCで発錆してしまうことを示す領域である。第6種領域126は、建設経過時間tE(現時点)において電気化学的脱塩工法及び塗装工法を施工しなければ目標時間tQになるまで鉄筋埋設深さxCで発錆してしまうことを示す領域である。
【0236】
この補修工法判定チャート120によれば、被判定コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0の値及び塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が属する領域が、
(a) 第1種領域121ならば現時点から20年間は塗装工法すら不要であり、
(b) 第2種領域122ならば現時点から20年以内に塗装工法の必要があり、
(c) 第3種領域123ならば現時点から10年以内に塗装工法の必要があり、
(d) 第4種領域124ならば現時点から5年以内に塗装工法の必要があり、
(e) 第5種領域125ならば今すぐにコンクリート表面塗着工法の必要があり、
(f) 第6種領域126ならば今すぐに電気化学的脱塩工法及び塗装工法の必要がある旨、判定できる。
【0237】
次に、図16を参照して、補修工法判定方法の変形例について説明する。
【0238】
図16は、補修工法適性判定方法の変形例を示すフローチャートであって、図3におけるモル比判定工程を変更したものである。以下、図3に示す補修工法判定方法と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略し、異なる部分のみを説明する。
【0239】
図16に示す、モル比判断工程(S12’)は、防錆時間導出工程(S11)で発錆時間tKを求めた後、塩化物イオン量将来予測工程(S7)及び防錆成分量将来予測工程(S10)の双方の結果を用いて、各時間tjにおける鉄筋埋設深さxCでの判定モル比R(xC,tj)の値を求めた上で、それらの判定モル比R(xC,tj)の値が防錆雰囲気モル比R0の値を最初に超えた時間tjを防錆化時間tMとして求めて、この防錆化時間tMと発錆時間tKとの前後関係を判断する工程である。
【0240】
このモル比判断工程(S12’)の判断によって、防錆化時間tMが発錆時間tKよりも小さいならば(S12’:tM<tK)、鉄筋のある鉄筋埋設深さxCでは、発錆雰囲気となる前に防錆雰囲気に変化しているので、S1の処理において設定された「補修部11に関する仕様条件」の各数値に適合した補修部11をコンクリート構造物10の既設コンクリートに対して形成して、その補修部表面11aを塗装材12により被覆して塩化物イオンの浸入を遮断する補修工法を、当該コンクリート構造物10に対して採用することを決定して(S16)、補修工法適性判定方法を終了するのである。
【0241】
一方、モル比判断工程(S12’)の判断によって、防錆化時間tMが発錆時間tK以上ならば(S12’:tM≧tK)、鉄筋のある鉄筋埋設深さxCでは、発錆雰囲気となった後に防錆雰囲気に変化しているので、S1の処理において設定された「補修部11に関する仕様条件」の各数値に基づく補修工法では、当該コンクリート構造物10の塩害劣化進行過程に適合した補修効果を発揮できないものと判定することができるのである。
【0242】
かかる場合(S12’:tM≧tK)には、処理をS1へ移行して、「補修工法」及び「補修部11に関する仕様条件」の数値を変更しながら、S1からS12’までの各処理を適宜再実行して、モル比判断工程において防錆化時間tMが発錆時間tKより小さくなるまで(S12’:tM<tK)、このS1からS12’までの処理を繰り返して、適正な「補修工法」及び「補修部11に関する仕様条件」の数値を求めるのである。
【0243】
ただし、コンクリート構造物10に対する補修工法の適性を補修工法適性判定方法により判定する場合において、「補修工法」及び「補修部11に関する仕様条件」の各数値の変更をいくら繰り返してみても、モル比判断工程(S12’)において防錆化時間tMが発錆時間tK以上ならば(S12’:tM≧tK)、この補修工法適性判定方法の実行を強制終了して、当該コンクリート構造物10に対する補修工法として、電気化学的脱塩工法、電気防食工法又は、鉄筋背面断面修復工法などを採用することを検討するものとするのである。
【0244】
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、例えば、各種の数値条件、数値計算に必要となる境界条件の変更などの、種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、本実施例では、数値計算に用いた具体的数値を示してあるが、これはあくまでも例示であって、「コンクリート構造物の各種条件」や「補修部の仕様条件」に応じて具体的な数値は適宜変更されるものである。
【0245】
また、本実施例では、補修部を含めたコンクリート構造物内の塩化物イオン量F(xi,tj)の総合計量を、初期時間tから目標時間tQまで一定に維持するというシミュレーション上の条件を充足するものであった。かかる場合、コンクリート部材の寸法や数値計算の都合によっては、以下のようにすることで、上記した補修部を含めたコンクリート構造物内の塩化物イオン量F(xi,tj)の総合計量を一定に維持するという条件を充足するようにしても良い。
【0246】
具体的には、上記式(2)及び(3)を用いて補修部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)に関する時間tjについての塩化物イオン量F(xi,tj)の値を求めるときに、深さ範囲(xA≦xi≦xP)中の1点である深さxμの塩化物イオン量F(xμ,tj)の値を求める場合についてのみ、時間tjの1時点前の時間tj-1における補修部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)に関する塩化物イオン量F(xi,tj-1)の総合計値から、時間tjにおける補修部表面深さxAから深さxμ-1までの深さ範囲(xA≦xi≦xμ-1)に関する塩化物イオン量F(xi,tj)の総合計値を差し引き、更に、時間tjにおける深さxμ+1から深さxPまでの深さ範囲(xμ+1≦xi≦xP)に関する塩化物イオン量F(xi,tj)の総合計値を差し引くという、計算処理を行うのである。
【0247】
なお、かかる場合には、深さxμとして、上記した深さ範囲(xA≦xi≦xP)内に属する第1番目の深さ位置を用いると良い。
【0248】
また、上記式(4)及び(5)を用いて補修部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)に関する時間tjについての防錆成分量G(xi,tj)の値を求めるときに、深さ範囲(xA≦xi≦xP)中の1点である深さxμの防錆成分量G(xμ,tj)の値を求める場合についてのみ、時間tjの1時点前の時間tj-1における補修部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)に関する防錆成分量G(xi,tj-1)の総合計値から、時間tjにおける補修部表面深さxAから深さxμ-1までの深さ範囲(xA≦xi≦xμ-1)に関する防錆成分量G(xi,tj)の総合計値を差し引き、更に、時間tjにおける深さxμ+1から深さxPまでの深さ範囲(xμ+1≦xi≦xP)に関する防錆成分量G(xi,tj)の総合計値を差し引くという、計算処理を行うのである。
【0249】
なお、かかる場合において、深さxμとしては、既設境界深さxBから深さxPまでの深さ範囲(xB≦xi≦xP)内に属する第1番目の深さ位置、又は、深さxPなどを用いると良い。
【0250】
さすれば、数値計算の処理能力の都合上、補修部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)を充分に長く設定することが困難なとき、例えば、補修部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)を数十cm程度の短い範囲に設定せざるを得ないときでも、補修部を含めたコンクリート構造物内の防錆成分量G(xi,tj)の総合計量を一定に維持するという条件も充足できる。
【0251】
また、本実施例の塩化物イオン量将来予測工程(S7)では、補修部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)に関する各時間tjの塩化物イオン量F(xi,tj)を、上記式(2)及び(3)によって数値計算することで求めた。なぜなら、補修工法を施工した後に塩化物イオンが補修部11へ再拡散することを考慮するためである。
【0252】
しかしながら、塩化物イオン量将来予測工程によって数値計算を行う深さ範囲は、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、補修部11への塩化物イオンの再拡散を考慮せずに、既設境界深さxBから深さxPまでの深さ範囲(xB≦xi≦xP)について各時間tjの塩化物イオン量F(xi,tj)を、次式(2’)及び(3’)によって数値計算するようにしても良い。
F(xi,tj+1)=DF・{α/(Δx)}・Δt+F(xi,tj) ……(2’)
α=F(xi−1,tj)−2・F(xi,tj)+F(xi+1,tj) ……(3’)
(但し、xB≦xi≦xPの範囲に限る。)
【0253】
なぜなら、このようにすることで、数値計算上、塩化物イオンの補修部11への再拡散が無視されるため、既設境界深さxBよりも深い箇所での塩化物イオンの総量が増えて、より一層厳しい条件で、補修工法の適性判定を行えるからである。
【0254】
なお、かかる場合における塩化物イオン量将来予測工程では、補修部表面深さxAから既設境界深さxBまでの深さ範囲(xA≦xi<xB)についての各時間tjにおける塩化物イオン量F(xi,tj)を、次式(13’)に示すように、補修材に予め含まれている塩化物イオンの量である補修材塩化物イオン初期量f0の固定値とする。
F(xi,tj)=f0 (但し、xA≦xi<xBの範囲に限る。) ……(13’)
【0255】
また、本実施例では、便宜上、コンクリート構造物10及び補修部11に関する塩化物イオンの見掛け拡散係数DFをそれぞれ同一値とし、コンクリート構造物10及び補修部11に関する防錆成分の見掛け拡散係数DGをそれぞれ同一値として、図6から図10に示す数値計算例を説明したが、当然のことながら、各コンクリート成分の特性に応じて、塩化物イオンに関するコンクリート構造物内の見掛け拡散係数DFの値と補修部内の見掛け拡散係数DFの値とを相互に異なる数値に設定しても良く、防錆成分に関するコンクリート構造物内の見掛け拡散係数DGの値と補修部内の見掛け拡散係数DGの値とを相互に異なる数値に設定しても良い。
【0256】
また、本実施例では、塩化物イオン量測定工程(S4)におけるコンクリート試料としてドリル粉末を用いたが、かかるコンクリート試料は必ずしもこれに限定されるものではなく、上記した「コンクリート標準示方書[規準編]土木学会規準および関連規準」(土木学会発行)における「実構造物におけるコンクリート中の塩化物イオン分布の測定方法(案)(JSCE−G_573−2003)」に準拠して採取されるコンクリートコアをスライスカットしてコンクリート試験片を製作し、その各コンクリート試験片を粉末にしたものをコンクリート試料としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0257】
【図1】コンクリート表面塗着工法による補修が施されたコンクリート構造物の断面図である。
【図2】コンクリート断面修復工法による補修が施されたコンクリート構造物の断面図であって、(a)は、コンクリート表面断面修復工法に関するものであり、(b)は鉄筋表面断面修復工法に関するものである。
【図3】補修工法適性判定方法の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】塩化物イオン量測定工程を説明するためのコンクリート構造物の断面図である。
【図5】コンクリート構造物の断面モデルを示す図である。
【図6】塩化物イオン量と深さとの関係を表すグラフで示した図であって、塩化物イオン量現状推定工程及び塩化物イオン量将来予測工程による計算結果の一例とそれぞれ表したものである。
【図7】発錆雰囲気判断工程を説明するための図であって、(a)は、現状推定線の一例をグラフで表した図であり、(b)は、(a)に示す現状推定線が時間経過に伴って変化した結果、目標時間で鉄筋埋設深さにおける塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量以下であったときの将来予測線の一例をグラフで表した図であり、(c)は、(a)に示す現状推定線が時間経過に伴って変化した結果、目標時間で鉄筋埋設深さにおける塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えたときの将来予測線の一例をグラフで表した図である。
【図8】防錆成分量と深さとの関係を表すグラフで示した図であって、防錆成分量初期設定工程による初期設定の一例と、防錆成分量将来予測工程による計算結果の一例とを表したものである。
【図9】発錆時間導出工程を説明するための図であって、発錆時間のときに鉄筋埋設深さにおける塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量と略等しくなったときの将来予測線を表したグラフの一例を示した図である。
【図10】モル比判断工程を説明するための図であって、初期時間から目標時間まで時間が変化するときの、鉄筋埋設深さにおける塩化物イオン量、防錆成分量及び判定モル比の変化を表したグラフの一例を示した図である。
【図11】補修工法判定チャートの一例であって、(a)は、補修工法がコンクリート表面塗着工法である場合に関する補修工法判定チャートの一例であり、(b)は、補修工法がコンクリート断面修復工法である場合に関する補修工法判定チャートの一例であり、(c)は、補修工法が塗装工法のみである場合に関する補修工法判定チャートの一例であり、(d)は、防錆成分未混合の補修材を用いたコンクリート断面修復工法が補修工法である場合に関する補修工法判定チャートの一例である。
【図12】防錆成分を使用したコンクリート表面塗着工法に関する補修工法判定チャート、又は、防錆成分を使用したコンクリート断面修復工法に関する補修工法判定チャートの作成方法についてのフローチャートである。
【図13】塗装工法のみに関する補修工法判定チャートの作成方法、又は、防錆成分不使用のコンクリート断面修復工法に関する補修工法判定チャートの作成方法についてのフローチャートである。
【図14】複数の補修工法に関する補修工法判定チャートを重畳した作成された補修工法判定チャートの一例である。
【図15】補修工法の施工時期を判定するために用いられる補修工法判定チャートの一例である。
【図16】補修工法適性判定方法の変形例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0258】
10 コンクリート構造物
10a 既設表面
10b 表層コンクリート
11 補修部(表面塗着部、断面修復部)
11a 補修部の表面(表面塗着部の表面、断面修復部の表面)
12 塗装材
13 凹陥部
13a 凹陥部の底面
14 鉄筋
70,80,90,100 補修工法判定チャート
71,81,91,101 補修有効領域
72,82,92,102 補修無効領域
110 補修工法判定チャート
S4 塩化物イオン量測定工程
S5 係数推定工程
S6 塩化物イオン量現状推定工程
S7 塩化物イオン量将来予測工程
S8 発錆雰囲気判断工程
S9 防錆成分量初期設定工程
S10 防錆成分量将来予測工程
S11 発錆時間導出工程
S12 モル比判断工程
MP1〜MP4 測定点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の既設表面に、所定の初期混合量で防錆成分が混合される補修材を塗着して、所定厚さの表面塗着部を形成する補修材塗着工法と、その補修材塗着工法により形成される表面塗着部の表面を塗装材により被覆して、塩化物イオンの浸入を遮断する塗装工法とを用いる補修工法について、その適性を判定するためのコンクリート構造物の適性判定方法において、
表面塗着部の表面からコンクリート構造物の既設表面までの深さ範囲についての初期時間における塩化物イオン量として補修材に予め含まれている塩化物イオン量を設定し、コンクリート構造物の既設表面から鉄筋埋設位置までの深さ範囲についての初期時間における塩化物イオン量を、次式(1):
F(xi,t)=F0・[1−erf{[xi−xB]/[2・√(DF・t)]}]+Fint ……(1)
(但し、上記式(1)において、F:塩化物イオン量、i:深さ位置の番号(0≦i≦P,Pは整数,P≧1)、xi:i番目の深さ位置、t:0番目の時点での時間(初期時間)、F0:コンクリート構造物の既設表面における塩化物イオン量(表面塩化物イオン量)、erf:誤差関数、xB:コンクリート構造物の既設表面の深さ位置(但し、xB≧xとする)、DF:塩化物イオンの見掛け拡散係数、Fint:初期含有全塩化物イオン量を示す)によって計算する塩化物イオン量現状推定工程と、
その塩化物イオン量現状推定工程により定まる初期時間における塩化物イオン量を初期値として、初期時間から目標時間までの時間変化に伴う、表面塗着部の表面から鉄筋埋設位置までの深さ範囲についての塩化物イオン量の変化を、次式(2)及び(3):
F(xi,tj+1)=DF・{α/(Δx)}・Δt+F(xi,tj) ……(2)
α=F(xi−1,tj)−2・F(xi,tj)+F(xi+1,tj) ……(3)
(但し、上記式(2)及び(3)において、F:塩化物イオン量、j:時点の番号(0≦j≦Q,Qは整数,Q≧1)、xi+1:i+1番目の深さ位置、xi−1:i−1番目の深さ位置、tj:j番目の時点での時間、tj+1:j+1番目の時点での時間、Δx:各深さ位置の間隔(深さ間隔)、Δt:各時点の間隔(時間間隔)を示す)によって計算する塩化物イオン量将来予測工程と、
その塩化物イオン量将来予測工程により計算した目標時間における鉄筋埋設位置での塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えるか否かを判断する発錆雰囲気判断工程とを備えており、
その発錆雰囲気判断工程によって、目標時間における鉄筋埋設位置での塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えると判断される場合において、
表面塗着部の表面からコンクリート構造物の既設表面までの深さ範囲についての初期時間における防錆成分量の値を、防錆成分の初期混合量に設定し、コンクリート構造物の既設表面から鉄筋埋設位置までの深さ範囲についての初期時間における防錆成分量を、コンクリート構造物に既存する防錆成分量に設定する防錆成分量初期設定工程と、
その防錆成分量初期設定工程により設定される初期時間における防錆成分量を初期値として、初期時間から目標時間までの時間変化に伴う、表面塗着部の表面から鉄筋埋設位置までの深さ範囲についての防錆成分量の変化を、次式(4)及び(5):
G(xi,tj+1)=DG・{β/(Δx)}・Δt+G(xi,tj) ……(4)
β=G(xi−1,tj)−2・G(xi,tj)+G(xi+1,tj) ……(5)
(但し、上記式(4)及び(5)において、G:防錆成分量、DG:防錆成分の見掛け拡散係数を示す)によって計算する防錆成分量将来予測工程と、
前記塩化物イオン量将来予測工程による計算結果から、塩化物イオン量の値が発錆限界塩化物イオン量未満の状態から発錆限界塩化物イオン量を超過した状態に切り替わる発錆時間を求める発錆時間導出工程と、
その発錆時間導出工程により求められる発錆時間における鉄筋埋設位置での防錆成分量及び塩化物イオン量を、前記防錆成分量将来予測工程及び塩化物イオン量将来予測工程による結果から求めて、その防錆成分量を塩化物イオン量で割った比率をモル換算した判定モル比が、防錆雰囲気モル比の値を超えているか否かを判断するモル比判断工程とを備えていることを特徴とするコンクリート構造物補修工法の適性判定方法。
【請求項2】
コンクリート構造物の既設表面から表層コンクリートを所定のはつり深さだけ除去して凹陥部を形成し、所定の初期混合量で防錆成分が混合される補修材を、その凹陥部に充填して硬化させて、所定厚さの断面修復部を形成し、コンクリート構造物の欠陥部を修復する断面修復工法と、その断面修復工法により形成される断面修復部の表面を塗装材により被覆して塩化物イオンの浸入を遮断する塗装工法とを用いる補修工法について、その適性を判定するためのコンクリート構造物の適性判定方法において、
断面修復部の表面から凹陥部の底面までの深さ範囲についての初期時間における塩化物イオン量として補修材に予め含まれている塩化物イオン量を設定し、凹陥部の底面から鉄筋埋設位置までの深さ範囲についての初期時間における塩化物イオン量を、次式(1):
F(xi,t)=F0・[1−erf{[xi−xB]/[2・√(DF・t)]}]+Fint ……(1)
(但し、上記式(1)において、F:塩化物イオン量、i:深さ位置の番号(0≦i≦P,Pは整数,P≧1)、xi:i番目の深さ位置、t:0番目の時点での時間(初期時間)、F0:コンクリート構造物の既設表面における塩化物イオン量(表面塩化物イオン量)、erf:誤差関数、xB:凹陥部の底面の深さ位置(但し、xB≧xとする)、DF:塩化物イオンの見掛け拡散係数、Fint:初期含有全塩化物イオン量を示す)によって計算する塩化物イオン量現状推定工程と、
その塩化物イオン量現状推定工程により定まる初期時間における塩化物イオン量を初期値として、初期時間から目標時間までの時間変化に伴う、断面修復部の表面から鉄筋埋設位置までの深さ範囲についての塩化物イオン量の変化を、次式(2)及び(3):
F(xi,tj+1)=DF・{α/(Δx)}・Δt+F(xi,tj) ……(2)
α=F(xi−1,tj)−2・F(xi,tj)+F(xi+1,tj) ……(3)
(但し、上記式(2)及び(3)において、F:塩化物イオン量、j:時点の番号(0≦j≦Q,Qは整数,Q≧1)、xi+1:i+1番目の深さ位置、xi−1:i−1番目の深さ位置、tj:j番目の時点での時間、tj+1:j+1番目の時点での時間、Δx:各深さ位置の間隔(深さ間隔)、Δt:各時点の間隔(時間間隔)を示す)によって計算する塩化物イオン量将来予測工程と、
その塩化物イオン量将来予測工程により計算した目標時間における鉄筋埋設位置での塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えるか否かを判断する発錆雰囲気判断工程とを備えており、
その発錆雰囲気判断工程によって、目標時間における鉄筋埋設位置での塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えると判断される場合において、
断面修復部の表面から凹陥部の底面までの深さ範囲についての初期時間における防錆成分量の値を、防錆成分の初期混合量に設定し、凹陥部の底面から鉄筋埋設位置までの深さ範囲についての初期時間における防錆成分量を、コンクリート構造物に既存する防錆成分量に設定する防錆成分量初期設定工程と、
その防錆成分量初期設定工程により設定される初期時間における防錆成分量を初期値として、初期時間から目標時間までの時間変化に伴う、断面修復部の表面から鉄筋埋設位置までの深さ範囲についての防錆成分量の変化を、次式(4)及び(5):
G(xi,tj+1)=DG・{β/(Δx)}・Δt+G(xi,tj) ……(4)
β=G(xi−1,tj)−2・G(xi,tj)+G(xi+1,tj) ……(5)
(但し、上記式(4)及び(5)において、G:防錆成分量、DG:防錆成分の見掛け拡散係数を示す)によって計算する防錆成分量将来予測工程と、
前記塩化物イオン量将来予測工程による計算結果から、塩化物イオン量の値が発錆限界塩化物イオン量未満の状態から発錆限界塩化物イオン量を超過した状態に切り替わる発錆時間を求める発錆時間導出工程と、
その発錆時間導出工程により求められる発錆時間における鉄筋埋設位置での防錆成分量及び塩化物イオン量を、前記防錆成分量将来予測工程及び塩化物イオン量将来予測工程による結果から求めて、その防錆成分量を塩化物イオン量で割った比率をモル換算した判定モル比が、防錆雰囲気モル比の値を超えているか否かを判断するモル比判断工程とを備えていることを特徴とするコンクリート構造物補修工法の適性判定方法。
【請求項3】
建設時点から時間が経過しているコンクリート構造物について、その既設表面からの深さが異なる複数の測定点を設定し、これら測定点のそれぞれについて塩化物イオン量を測定する塩化物イオン量測定工程と、
その塩化物イオン量測定工程による各測定点の塩化物イオン量の測定値を説明するモデル関数として次式(6):
F=F0・[1−erf{x/[2・√(DF・tE)]}]+Fint ……(6)
(但し、上記式(6)において、F:塩化物イオン量、F0:コンクリート構造物の既設表面における塩化物イオン量(表面塩化物イオン量)、x:コンクリート構造物の既設表面からの深さ位置、erf:誤差関数、DF:塩化物イオンの見掛け拡散係数、tE:建設時点からの経過時間である建設経過時間、Fint:初期含有全塩化物イオン量を示す)を用いるとともに、各測定点までの深さを説明変数とし、各測定点の塩化物イオン量を目的変数として、上記式(6)中の未知パラメータである表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数とを、回帰分析によって推定する係数推定工程とを備えており、
この係数推定工程により推定した表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数とを用いて、前記塩化物イオン量現状推定工程と前記塩化物イオン量将来予測工程とを行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリート構造物補修評価方法。
【請求項4】
請求項1記載のコンクリート構造物補修工法の適性判定方法を備えており、
コンクリート構造物の発錆限界塩化物イオン量を所定値に設定し、
コンクリート構造物の既設表面から鉄筋埋設位置までのかぶり厚さを所定値に設定し、
コンクリート構造物の建設時点からの建設経過時間を所定値に設定し、
その建設経過時間の値を前記初期時間として設定し、
表面塩化物イオン量を所定の最小値から所定の最大値まで所定幅ずつ変化させ、且つ、塩化物イオンの見掛け拡散係数を所定の最小値から所定の最大値まで所定幅ずつ変化させて、前記請求項1記載のコンクリート構造物補修工法の適性判定方法を繰り返し行って、
その結果を用いて、表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数との相関を表す相関図上に、前記モル比判断工程によって求められる判定モル比が防錆雰囲気モル比より大きくなる補修有効領域と、その判定モル比が防錆雰囲気モル比の値より小さくなる補修無効領域とを区画形成することで補修工法判定チャートを作成することを特徴とする補修工法判定チャート作成方法。
【請求項5】
請求項4記載の補修工法判定チャート作成方法を備えており、
その補修工法判定チャート作成方法を補修部の仕様条件が異なる場合についてそれぞれ行って、
それらの結果を用いて補修部の仕様条件が異なる場合について補修工法判定チャートをそれぞれ作成し、
その作成された各補修工法判定チャートを、それらの座標軸のスケールを一致させて重畳することを特徴とする補修工法判定チャート作成方法。
【請求項6】
請求項2記載のコンクリート構造物補修工法の適性判定方法を備えており、
コンクリート構造物の発錆限界塩化物イオン量を所定値に設定し、
コンクリート構造物の既設表面から鉄筋埋設位置までのかぶり厚さを所定値に設定し、
コンクリート構造物の建設時点からの建設経過時間を所定値に設定し、
その建設経過時間の値を前記初期時間として設定し、
表面塩化物イオン量を所定の最小値から所定の最大値まで所定幅ずつ変化させ、且つ、塩化物イオンの見掛け拡散係数を所定の最小値から所定の最大値まで所定幅ずつ変化させて、前記請求項2記載のコンクリート構造物補修工法の適性判定方法を繰り返し行って、
その結果を用いて、表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数との相関を表す相関図上に、前記モル比判断工程によって求められる判定モル比が防錆雰囲気モル比より大きくなる補修有効領域と、その判定モル比が防錆雰囲気モル比の値より小さくなる補修無効領域とを区画形成することで補修工法判定チャートを作成することを特徴とする補修工法判定チャート作成方法。
【請求項7】
請求項6記載の補修工法判定チャート作成方法を備えており、
その補修工法判定チャート作成方法を補修部の仕様条件が異なる場合についてそれぞれ行って、
それらの結果を用いて補修部の仕様条件が異なる場合について補修工法判定チャートをそれぞれ作成し、
その作成された各補修工法判定チャートを、それらの座標軸のスケールを一致させて重畳することを特徴とする補修工法判定チャート作成方法。
【請求項8】
請求項4又は5に記載の補修工法判定チャート作成法と、請求項6又は7に記載の補修工法判定チャート作成法とを備えており、
その請求項4又は5に記載の補修工法判定チャート作成法を用いて作成される補修工法判定チャートに対して、請求項6又は7に記載の補修工法判定チャート作成法を用いて作成される補修工法判定チャートを、それらの座標軸のスケールを一致させて重畳することを特徴とする補修工法判定チャート作成方法。
【請求項9】
請求項4から8のいずれかに記載の補修工法判定チャート作成方法を備えており、
その補修工法判定チャート作成方法において所定値に設定した発錆限界塩化物イオン量、かぶり厚さ及び建設経過時間の値と比べて、発錆限界塩化物イオン量、かぶり厚さ及び建設経過時間の値が一致するコンクリート構造物について、そのコンクリート構造物の既設表面からの深さが異なる複数の測定点を設定し、これら測定点のそれぞれについて塩化物イオン量を測定する塩化物イオン量測定工程と、
その塩化物イオン量測定工程による各測定点の塩化物イオン量の測定値を説明するモデル関数として次式(6):
F=F0・[1−erf{x/[2・√(DF・tE)]}]+Fint ……(6)
(但し、上記式(6)において、F:塩化物イオン量、F0:コンクリート構造物の既設表面における塩化物イオン量(表面塩化物イオン量)、x:コンクリート構造物の既設表面からの深さ位置、erf:誤差関数、DF:塩化物イオンの見掛け拡散係数、tE:建設時点からの経過時間である建設経過時間、Fint:初期含有全塩化物イオン量を示す)を用いるとともに、各測定点までの深さを説明変数とし、各測定点の塩化物イオン量を目的変数として、上記式(6)中の未知パラメータである表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数とを、回帰分析によって推定する係数推定工程と、
その係数推定工程により推定した表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数とから決定される座標位置が、前記補修工法判定チャート作成方法により作成した補修工法判定チャートにおける補修有効領域又は補修無効領域のいずれに属するかを判断する補修効果判断工程とを備えていることを特徴とするコンクリート構造物補修工法の簡易適性判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−82049(P2008−82049A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264240(P2006−264240)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名 EXTEC No.77 発行年月日 平成18年6月15日発行 発行所 財団法人高速道路技術センター
【出願人】(592082893)株式会社クエストエンジニア (6)
【Fターム(参考)】