説明

コンクリート着色用シートおよびそれを用いたコンクリート表面の着色化粧法

【課題】カラー転写性に優れ、複雑な凹凸模様の転写面を有する型枠に対しても容易に被設させることが可能なコンクリート着色用シートおよびそれを用いたコンクリート表面の着色化粧法を提供する。
【解決手段】凹凸ないし平らに転写成形するための転写面を備えた型枠の、転写面に被設させるコンクリート着色用シート1であって、水溶性ウレタン樹脂層2と、層2の片面に構成される着色層3とからなり、着色用シート1を、水溶性ウレタン樹脂層2側の面が型枠の凹凸模様の転写面と対峙するよう載置し、着色用シート1の上から水分を噴霧して、転写面の凹凸模様に沿うよう着色用シート1を被設した後、被設面を接触面としてコンクリート材料を打設し、コンクリート材料の水分により水溶性ウレタン樹脂層2の粘着力を低減させて着色用シート1の着色層3をコンクリート表面に移行埋設させ、コンクリート表面を凹凸模様に形成するコンクリート表面の着色化粧法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート着色用シートおよびそれを用いたコンクリート表面の着色化粧法に関するものであって、詳しくは、コンクリート壁等を型成形する際に用いる型枠の、そのコンクリート打設面となる転写面に被設し用いられるコンクリート着色用シートおよびそれを用いたコンクリート表面の着色化粧法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート表面に着色化粧を施す場合、例えば、そのコンクリート表面に、塗料を吹き付け等し、塗装が行われる。ところが、上記塗装に用いられる塗料には有機系のものが多く、変色・褪色しやすいうえ、塗料中の有機材の劣化も生じやすいことから、無機系の材質(例えば天然石等)を用いて模様成形したものと比べると、長期にわたる耐久性に劣る。そのため、定期的に塗り変え(リフレッシュ)等のメンテナンスを要し、これが、コストアップにつながっていた。
【0003】
このような不都合をなくすため、本出願人は、コンクリート材料を打設する際に使用する型枠として、そのコンクリート材料との接触面(転写面)に、予め、ポリビニルアルコール(PVA)等を主成分とする水溶解性の粘着剤(コンクリート材料中の水分やアルカリ成分等によって粘着力が低下する粘着剤)を用いて着色粒状物を定着させておいたものを用い、コンクリート材料の打設時に、上記着色粒状物を、硬化しつつあるコンクリート材料表面に移行埋設させ(上記粘着剤はコンクリート材料中の水分によって溶融させ)、この着色粒状物によりコンクリート表面への着色を行い、経時劣化等に対する耐久性に優れた着色層をコンクリート表面に形成するといった技術を、既に提案している(特許文献1)。このようにして、コンクリート表面層に埋設された着色粒状物は、コンクリートによる被覆効果と相まって、変色・褪色したり、劣化することもなく、長期の耐久性に優れる。したがって、従来のように一定期間後に塗り変え等する必要もなく、メンテナンスに要する費用が少なくて済む。他方、本出願人は、これをシート化したものも既に提案している。すなわち、塩化ビニル樹脂等からなる基材シートと、PVA等からなる粘着層と、着色粒状物等からなる着色層とが、この順で積層してなるコンクリート着色用シートである。そして、これの基材シート側の面を、コンクリート材料を打設する際に用いる型枠の転写面と対峙するよう貼着(両面テープ等による貼着)し、上記と同様の、コンクリート表面への着色を行うことができる(特許文献2)。
【特許文献1】特開平6−71623号公報
【特許文献2】特開平6−81436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のように、型枠自体に粘着層および着色層が予め形成されたものは、その型枠自体の形状により、その転写面を任意の凹凸模様にすることが可能であった。しかしながら、この方法では、作業効率等の観点から、上記型枠への粘着剤の塗工や着色粒状物の定着が施工現場で行われることは殆どなかったため、通常、上記型枠は1回限りの使用で使い捨てされていた。そのため、この方法では、製造コストが高くつくといった問題がある。また、上記特許文献2のコンクリート着色用シートは、その粘着層の機械的物性の弱さから、先述のように基材シートを構成材料としているが、上記基材シートが、複雑な凹凸面に隙間なく貼着し得るほどの柔軟性を有していなかったことから、このような凹凸模様の転写面を有する型枠への貼着は困難であった。したがって、このような場合には、特許文献2に記載の図5に示されるように、上記基材シート自体を凹凸面に形成する等して対処するしかなかった。
【0005】
また、上記特許文献1および2では、いずれも、その粘着層がPVA等によって形成されているが、PVA等の粘着力は、温度や湿度といった環境変化により変動しやすく、そのために、上記粘着層に固定される着色粒状物(着色層を形成するための着色粒状物)の定着性が不安定であるといった問題もある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、コンクリート表面へのカラー転写性に優れ、複雑な凹凸模様の転写面を有する型枠に対しても容易に被設させることが可能なコンクリート着色用シートおよびそれを用いたコンクリート表面の着色化粧法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、コンクリート表面を凹凸ないし平らに転写成形するための転写面を備えた型枠の、その転写面に被設させるコンクリート着色用シートであって、下記(A)および(B)を用いて形成される水溶性ウレタン樹脂層と、その層の片面に構成される着色層とからなるコンクリート着色用シートを第1の要旨とする。
(A)ポリエチレングリコール類。
(B)ジイソシアネート類。
【0008】
また、上記第1の要旨のコンクリート着色用シートを、その水溶性ウレタン樹脂層側の面が上記型枠の凹凸模様の転写面と対峙するよう載置し、上記着色用シートの上から水分を噴霧して、上記転写面の凹凸模様に沿うよう上記着色用シートを被設した後、その被設面を接触面としてコンクリート材料を打設し、コンクリート材料の水分により上記水溶性ウレタン樹脂層の粘着力を低減させて上記着色用シートの着色層をコンクリート表面に移行埋設させるとともに、コンクリート表面を上記型枠の転写により凹凸模様に形成するコンクリート表面の着色化粧法を第2の要旨とする。
【0009】
すなわち、本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、ポリエチレングリコール類とジイソシアネート類とを用いた水溶性ウレタン樹脂の特性に関する知見を得、これを、コンクリート着色用シートの粘着層の構成材料として用いることを想起した。そして、各種試験を行った結果、この水溶性ウレタン樹脂層が、コンクリート材料中の水分により適度に粘着力が減少し、また、従来の粘着層に比べると、温度や湿度による粘着性の低下も少ないことから、着色層を構成する着色粒状物等の定着性も良いことが、研究により明らかとなった。しかも、上記水溶性ウレタン樹脂層は、従来の粘着層に比べ機械的物性が高いことから、基材シートを構成材料とする必要がない。また、本発明の着色用シートを、コンクリート用型枠の凹凸模様の転写面に載置し、そのシートの上から水分を噴霧等し、上記水溶性ウレタン樹脂層に水分を接触させることにより、上記水溶性ウレタン樹脂層が徐々に溶け出し、凹凸模様の転写面に沿う(密着する)よう上記着色用シートを被設し得ることも、研究により明らかとなった。これらの結果から、所期の目的が達成できることを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明のコンクリート着色用シートは、水溶性ウレタン樹脂層と、その層の片面に構成される着色層とからなるものである。このように、着色用シートの粘着層が水溶性ウレタン樹脂層であるため、基材シートを構成材料とする必要がなく、型枠の転写面への被設(貼着)が容易で、また、コンクリートの打設と同時に、その着色層のコンクリート表面への移行埋設を良好に行うことができる。さらに、従来の着色用シートと比べると、その着色層を構成する着色粒状物等の、粘着層面への定着性も良いことから、温度や湿度といった環境変化に対し品質が安定しており、取り扱い易いといった利点を有する。そして、この着色用シートの使用により、カラーの着色にばらつきがなくなる。また、上記着色用シートは、型枠に載せていくだけでよいため、型枠をそのまま複数回使用することが可能となる。
【0011】
特に、上記水溶性ウレタン樹脂層の厚みが特定の範囲に設定されていると、その着色用シートを被設する際等において、取り扱い性に優れるとともに、その着色層のコンクリート表面への移行埋設等も良好に成し得る。
【0012】
また、本発明のコンクリート表面着色化粧法では、上記着色用シートを、その水溶性ウレタン樹脂層側の面が型枠の凹凸模様の転写面と対峙するよう載置し、上記着色用シートの上から水分を噴霧して、上記型枠の凹凸模様の転写面に沿うよう上記着色用シートを被設させているため、その被設面に対しコンクリート材料を打設し、これを養生硬化後、脱型してなるコンクリート表面には、上記型枠の転写面に形成された複雑な凹凸模様を、忠実に転写形成することができ、それと同時に、上記着色用シートの着色層がコンクリート表面に移行埋設されて、コンクリート表面に、耐久性に優れた、ばらつきのない着色模様を形成することができる。さらに、本発明のコンクリート表面着色化粧法では、上記使用後の型枠の転写面に、別途新たに準備した着色用シートを上記の要領で再度被設することにより、上記型枠を複数回転用することができるため、産業廃棄物の減少や製造コストの低下を達成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
本発明のコンクリート着色用シート1は、図1に示すように、水溶性ウレタン樹脂層2と、その層2の片面に構成される着色層3とからなるものである。また、上記着色用シート1は、通常、図2に示すように、その水溶性ウレタン樹脂層2側の面(裏面)に、ポリプロピレン等からなる剥離シート10を貼着させて、取り扱われる。そして、この剥離シート10は、通常、上記着色用シート1を被設する際には剥がされる。
【0015】
上記水溶性ウレタン樹脂層2の形成材料である「水溶性ウレタン樹脂」とは、水にほぼ完全に溶解し得るウレタン樹脂のことをいい、オキシエチレン基を50重量%以上含有した樹脂のことをいう。そして、通常は、ポリエチレングリコール類とジイソシアネート類とを反応させて得られるポリウレタン化化合物のことを指す。なお、この発明では、水不溶性の樹脂をエマルジョン化したものは除かれる。そして、本発明では、上記のような水溶性ウレタン樹脂層を構成することにより、所期の目的が達成されるようになる。
【0016】
上記ポリエチレングリコール類としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等があげられ、ポリオキシエチレン鎖が全体の50%以上のもので重量平均分子量が1000以上のもの等があげられる。そして、これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。
【0017】
上記ジイソシアネート類としては、特に限定されるものではなく、例えば、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート(2,6−TDI)、3,3′−ビトリレン−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジメチルジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートウレチジンジオン(2,4−TDIの二量体)、1,5−ナフチレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、カルボジイミド変性MDI、オルトトルイジンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートメチルエステル等があげられる。そして、これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。
【0018】
ところで、上記水溶性ウレタン樹脂は、市販品では、例えば、大原パラヂウム化学社製のパラミオンAF−36をあげることができる。また、ここで、水溶性ウレタン樹脂の溶解性を、トリオール(グリセリン、トリメチロールプロパン、これらにアルキレンオキサイドを数モル付加したもの等)、テトラオール(ペンタエリスリトール等)、アミノアルコール(トリエタノールアミン等)、ジメチロールアルカン酸(ジメチロールブタン酸、ジメチロールプロピオン酸等)等の架橋剤で調整したものを併用することもできる。このようなものは、市販品では、例えば、大原パラヂウム化学社製のパラミオンKF−19をあげることができる。
【0019】
なお、上記水溶性ウレタン樹脂層2の形成材料として、仮に水不溶性の樹脂をエマルジョン化したタイプのものを用いた場合では、その乾燥により形成される皮膜は、水不溶性のものとなるため、本発明のように水で再溶解させることができない。しかしながら、その主成分を水溶性ウレタン樹脂とした場合は、この限りではない。すなわち、粘度調整や皮膜強度等の他の目的として、水不溶性の樹脂をエマルジョン化したもの等(エチレン酢酸ビニルエマルジョン、ポリアクリル酸ナトリウム等)を併用することが可能である。ただし、このように水不溶性樹脂のエマルジョン等を併用する場合、その水不溶成分が、水溶性ウレタン樹脂の皮膜の乾燥後における水の分散性(再溶解性)を妨げないことが要求されるため、上記水溶性ウレタン樹脂に対する上記水不溶成分の割合は、20重量%以下に設定することが望ましい。
【0020】
このように、上記水溶性ウレタン樹脂層2の形成材料には、その水溶性を損なわない範囲で、所定の架橋剤により部分的に架橋させたり、エチレン酢酸ビニルエマルジョン、ポリアクリル酸ナトリウムのように他の樹脂を添加しても差し支えない。これにより、上記水溶性ウレタン樹脂層2の機械的物性、例えば、凹凸面に沿わせるときのシート物性の保持や安定した着色層の定着性が得られるようになる。
【0021】
なお、上記水溶性ウレタン樹脂層2の形成材料には、上記以外にも、例えば、含硫黄系化合物等の防かび剤、酸化防止剤、水等を併用することが可能である。
【0022】
そして、上記水溶性ウレタン樹脂層2の形成材料を混合し、これを、例えば、剥離シート10上に略均厚に塗布し、乾燥することにより、上記水溶性ウレタン樹脂層2を形成することができる。なお、上記水溶性ウレタン樹脂層2の形成方法は、これに限定されるものではない。
【0023】
ここで、上記水溶性ウレタン樹脂層2の厚みは、30〜60μmの範囲に設定されていることが好ましく、より好ましくは、40〜50μmの範囲である。すなわち、上記水溶性ウレタン樹脂層2の厚みが30μm未満であると、その水溶性ウレタン樹脂層2の機械的物性が低くなるため、例えば、剥離シート10から剥がす段階で破けたり、また、水を噴霧して着色材を添付する際やコンクリート型枠に沿わせる際に破けたりする不都合が生じやすくなるからであり、逆に、上記水溶性ウレタン樹脂層2の厚みが60μmを超えると、コンクリート型枠の凹凸面に沿い難くなる部分が発生したり、また、コンクリート材料打設後に不溶部分が残りやすく、それがコンクリート表面を汚染して見栄えを悪くするため、洗い出し等が必要となる等の不都合があるからである。
【0024】
上記水溶性ウレタン樹脂層2の片面に構成される着色層3は、例えば、水溶性ウレタン樹脂層2の片面に分布される多数の着色粒状物からなるものや、水溶性ウレタン樹脂層2の片面に印刷される無機トナーからなるものがあげられる。
【0025】
上記着色粒状物としては、天然石の着色砕石粒、セラミック粒子、ガラス粒子等が用いられる。そして、上記着色粒状物の平均粒径は、通常、10μm〜15mmの範囲内に設定され、好ましくは10μm〜10mmの範囲内である。
【0026】
また、上記着色粒状物として、例えば図3に示すような、セラミック粒21を核とし、その外周面に微細な顔料粒子22やセメント粒子23を吸着させてなるものを用いてもよい。これを用いると、コンクリートを打設する際に、セメント粒子23より大きなセラミック粒21が、セメントに包み込まれ、また、その顔料粒子22がセメント粒子23より細かいために分散しやすく、その結果、コンクリート表面に良好な着色層が形成されるようになる。なお、上記セラミック粒21の平均粒径は、2〜15mmの範囲に設定され、顔料粒子22の平均粒径は、5〜150μmの範囲に設定され、セメント粒子23の平均粒径は、50〜500μmの範囲に設定される。
【0027】
そして、上記着色粒状物を多数、上記水溶性ウレタン樹脂層2に分布させる方法としては、上記水溶性ウレタン樹脂層2に多数の着色粒状物を圧力吹付けにより接着させる方法、上記水溶性ウレタン樹脂層2に多数の着色粒状物を散布し、プレス等により埋込みアンカー処理する方法、または、両方法を組み合わせたもの等があげられる。
【0028】
一方で、上記着色層3が、水溶性ウレタン樹脂層2の片面に印刷される無機トナーからなるものの場合、その印刷方法は、特に限定されるものではなく、インクジェットプリンター等による従来公知の方法に準じ、任意の模様の印刷が行われる。
【0029】
ここで、上記コンクリート着色用シート1を用いた、本発明の、コンクリート表面の着色化粧法を具体的に説明する。すなわち、まず、上記着色用シート1と、コンクリート材料を打設する際に用いる型枠とを準備する。そして、上記型枠内周面(コンクリート材料を打設し、コンクリート表面を凹凸ないし平らに転写成形するための転写面)に、上記着色用シート1を、その着色層3側がコンクリート打設面となるよう被設する。つぎに、セメントと水とを混練してなるコンクリート材料を調製し、これを、上記型枠を用いて打設し、コンクリート材料の水分により上記着色用シート1の水溶性ウレタン樹脂層2の粘着力を低減(あるいは溶解により消失)させて、上記着色層3をコンクリート表面に移行埋設させるとともに、コンクリート表面を凹凸ないし平らに転写形成し、コンクリート表面の着色化粧が行われる。
【0030】
上記型枠内周面への着色用シート1の被設は、図2のように剥離シート10が積層されている場合には、通常、それを剥がし、その型枠内周面の被設個所にそのままか、あるいは上記型枠内周面を多少濡らした状態で、行われる。ここで、上記型枠内周面が平らである場合には、上記剥離シート10を剥がさずに、接着剤、粘着剤、両面テープ等によって、その剥離シート10側を上記型枠内周面に貼着し、被設処理を行ってもよい。
【0031】
ところで、上記型枠内周面が複雑な凹凸模様の転写面である場合に、上記方法では、コンクリート着色用シート1の型枠転写面への被設がうまくいかないことがあるため、この場合には以下のようにして行われる。すなわち、まず、図4に示すようにして、型枠12の凹凸模様の転写面13に、上記着色用シート1を、その水溶性ウレタン樹脂層2側の面が上記型枠の凹凸模様の転写面13と対峙するよう載置し、ついで、図5に示すように、上記着色用シート1の上から噴霧器11等により水分を噴霧する。これにより、上記水溶性ウレタン樹脂層2がゲル化し、着色層3の模様を崩すことなく、図6に示すように、上記転写面13の凹凸模様に沿う(密着する)よう上記着色用シート1を被設することができる。このようにして被設した後、図7に示すように、その被設面を接触面としてコンクリート材料15を打設する(図7において、16および17は別途準備した板材であり、図示されてないが、側方も板材により塞がれている)。そして、上記コンクリート材料15を養成硬化させるとともに、上記コンクリート材料15の水分により上記水溶性ウレタン樹脂層2の粘着力を低減(あるいは溶解により消失)させて、上記着色用シート1の着色層3をコンクリート表面に移行埋設させる。このようにして養生硬化させた後、上記板材を全て取りのぞき、さらに図8に示すように脱型する。これにより得られたコンクリート18の表面19には、上記型枠12の転写面13に形成された複雑な凹凸模様を、忠実に転写形成することができ、それと同時に、上記着色用シート1の着色層3がコンクリート18の表面19に移行埋設されて、コンクリート18の表面19に、耐久性に優れた、ばらつきのない着色模様を形成することができる。なお、このようにして行われる本発明のコンクリート表面の着色化粧法では、上記使用後の型枠12の転写面13に、別途新たに準備した着色用シート1を上記の要領で再度被設することにより、上記型枠12を複数回転用することができるため、産業廃棄物の減少や製造コストの低下を達成することが可能となる。
【0032】
また、以上のように、本発明のコンクリート着色用シート1は、その粘着層が水溶性ウレタン樹脂層2であるため、上記のように基材シートを構成材料とせずとも、それのみで型枠の転写面へ容易に被設(貼着)することができ、上記のように凹凸面への被設も容易である。そのため、施工現場での型枠への被設も容易で、さらに、重ね貼りも可能なため、デザインの自由度も高い。さらに、現場において着色剤を準備し、上記着色用シート1を作製すれば、その場で任意の色彩を設定することも可能となり、多彩な模様を形成することが可能となる。また、従来の着色用シートと比べると、その着色層を構成する着色粒状物等の、粘着層面への定着性も良いことから、温度や湿度といった環境変化に対し品質が安定しており、取り扱い易いといった利点も有する。そして、上記のように、コンクリートの打設と同時に、その着色層3のコンクリート表面への移行埋設を良好に行うことができ、ばらつきのない着色をコンクリート表面に施すことができる。
【0033】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。
【実施例1】
【0034】
〔粘着層形成材料の調製〕
水溶性ウレタン樹脂(パラミオンAF−36、大原パラヂウム化学社製)100重量部(以下、「部」と略す)と、エチレン酢酸ビニルエマルジョン(固形分50%)10部とを混合し、粘着層形成材料を調製した。なお、この粘着層形成材料は、20℃での粘度が約10000mPa・sであった。
【0035】
〔コンクリート着色用シートの作製〕
上記調製の粘着層形成材料を、厚み50μmのポリプロピレン製シート(剥離シート)上に均厚に塗布し、乾燥することにより、上記ポリプロピレン製シート上に厚み40μmの粘着層を形成した。つぎに、上記粘着層の層面に対し、粒径1〜3mmの天然石の着色砕石粒を多数、圧力吹付けし、目的とするコンクリート着色用シート(剥離シート付き)を作製した。
【実施例2】
【0036】
上記粘着層の厚みを55μmに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして目的とするコンクリート着色用シート(剥離シート付き)を作製した。
【実施例3】
【0037】
上記粘着層の厚みを65μmに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして目的とするコンクリート着色用シート(剥離シート付き)を作製した。
【実施例4】
【0038】
上記粘着層の厚みを35μmに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして目的とするコンクリート着色用シート(剥離シート付き)を作製した。
【実施例5】
【0039】
上記粘着層の厚みを25μmに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして目的とするコンクリート着色用シート(剥離シート付き)を作製した。
【実施例6】
【0040】
上記粘着層の層面に対する着色砕石粒の圧力吹付けに代え、無機トナーを用いてのインクジェットプリンターによる印刷を行った。それ以外は、実施例1と同様にして目的とするコンクリート着色用シート(剥離シート付き)を作製した。
【0041】
〔比較例〕
実施例1にて調製した粘着層形成材料に代え、PVA水溶液を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして目的とするコンクリート着色用シート(剥離シート付き)を作製した。
【0042】
このようにして得られたコンクリート着色用シート(剥離シート付き)を用い、下記の基準に従い、その特性評価を行った。そして、これらの結果を、後記の表1に示した。
【0043】
〔剥離強さ〕
コンクリート着色用シート(剥離シート付き)から、剥離シートを剥がし、その際に、コンクリート着色用シートに破れ等がみられなかったものを○、若干破れ等がみられたが問題のない程度であったものを△、破れ等が明確にあらわれたものを×と評価した。
【0044】
【表1】

【0045】
つぎに、所定の凹凸模様転写面が形成された、発泡スチロール製の型枠を準備した。その凹凸模様転写面上に、コンクリート着色用シートを、その粘着層側の面が上記型枠の凹凸模様転写面と対峙するよう載置し、上記着色用シートの上から水分を噴霧して、上記転写面の凹凸模様に沿うよう上記着色用シートを被設した(図4〜6参照)。なお、比較例の着色用シートは、上記表1の結果から、剥離シートから剥がすと破れが生じたため、剥離シート付きで貼着しようとしたが、剥離シートの硬さから上記凹凸模様転写面に密着させることが困難であった。そのため、比較例では、上記凹凸模様転写面に直接、PVA水溶液を塗布して粘着層(45μm)を形成し、その後、上記粘着層の層面に着色砕石粒を圧力吹付けし、被設処理を行った。
【0046】
このようにして被設処理を行った型枠を用い、下記の基準に従い、その特性評価を行った。各特性評価の試験は、5℃、25℃、40℃の温度環境下でそれぞれ実施した。そして、これらの結果を、後記の表2〜表4に示した。
【0047】
〔定着性〕
型枠の背面から、加振機にて100〜500Hzの振動を3時間与え、それにより脱落した着色粒状物の重量を測定し、定着性の評価を行った。すなわち、脱落した着色粒状物の重量が、初期の型枠総重量に対し10重量%未満であったものを○、10重量%以上20重量%未満であったものを△、20重量%を超えたものを×として評価した。
【0048】
〔転写率〕
型枠の凹凸模様転写面を、コンクリート表面に対する接触面にしてコンクリート材料(セメントと水とを混練したもの。pH:12〜14)を打設し、ついで、コンクリート材料を養生,硬化させ、その後、上記型枠等を取り外した(図7、図8参照)。そして、コンクリート板表面(凹凸模様面)への着色粒状物の転写状況を、目視により観察した。すなわち、着色粒状物の転写により全面着色した場合の転写率を「100%」とし、これを基準として転写率(概数)を評価した。
【0049】
〔外観〕
型枠の凹凸模様転写面を、コンクリート表面に対する接触面にしてコンクリート材料(セメントと水とを混練したもの。pH:12〜14)を打設し、ついで、コンクリート材料を養生,硬化させ、その後、上記型枠等を取り外した(図7、図8参照)。そして、コンクリート板の表面(凹凸模様面)の外観を、目視により評価した。すなわち、コンクリート表面が、粘着剤により汚染されていないものを○、若干汚染が確認されたが、洗い出しで容易にとれる程度であったものを△、粘着剤により汚染されているものを×として評価した。
【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
上記表の結果から、実施例の被設処理を行った型枠は、いずれも、環境温度に左右されず定着性の評価に優れていることから、取り扱い易く、高品質で信頼性の高いものであることがわかる。また、上記型枠を用いたコンクリート表面の着色化粧法に関しても、その着色粒状物等の転写率や、コンクリート表面の外観評価において、環境温度に左右されずに良好な結果が得られていることがわかる。
【0054】
これに対し、比較例の被設処理を行った型枠は、環境温度が20℃の領域(25℃)では定着性が良好なものの、夏季や冬季を想定した条件(40℃,5℃)にすると問題があることがわかる。このことからも、現場における取り扱い性に難があり、実施例品と比べて品質の劣るものであることがわかる。また、この型枠を用いたコンクリート表面に対する模様成形状況(転写率・外観)に関しても、実施例にみられるように良好なものとなっていないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明のコンクリート着色用シートの一例を示す断面図である。
【図2】剥離シートが貼着された上記コンクリート着色用シートを示す断面図である。
【図3】着色粒状物の一例を示す説明図である。
【図4】本発明のコンクリート着色用シートを型枠に被設する際の一工程を示す説明図である。
【図5】本発明のコンクリート着色用シートを型枠に被設する際の一工程を示す説明図である。
【図6】本発明のコンクリート着色用シートが型枠に被設された状態を示す説明図である。
【図7】上記型枠を用いてコンクリート材料を打設した状態を示す説明図である。
【図8】上記打設により形成されたコンクリートを離型しているところを示す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1 コンクリート着色用シート
2 水溶性ウレタン樹脂層
3 着色層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート表面を凹凸ないし平らに転写成形するための転写面を備えた型枠の、その転写面に被設させるコンクリート着色用シートであって、下記(A)および(B)を用いて形成される水溶性ウレタン樹脂層と、その層の片面に構成される着色層とからなることを特徴とするコンクリート着色用シート。
(A)ポリエチレングリコール類。
(B)ジイソシアネート類。
【請求項2】
上記水溶性ウレタン樹脂層が、その必須成分とともに下記(C)を用いて形成されている請求項1記載のコンクリート着色用シート。
(C)トリオール、テトラオール、アミノアルコールおよびジメチロールアルカン酸からなる群から選ばれた少なくとも一つの架橋剤。
【請求項3】
上記水溶性ウレタン樹脂層が、その必須成分とともに下記(D)を用いて形成されている請求項1または2記載のコンクリート着色用シート。
(D)エチレン酢酸ビニルエマルジョンおよびポリアクリル酸ナトリウムの少なくとも一つ。
【請求項4】
上記着色層が、水溶性ウレタン樹脂層の片面に分布される多数の着色粒状物からなるものである請求項1〜3のいずれか一項に記載のコンクリート着色用シート。
【請求項5】
上記着色層が、水溶性ウレタン樹脂層の片面に印刷される無機トナーからなるものである請求項1〜3のいずれか一項に記載のコンクリート着色用シート。
【請求項6】
上記水溶性ウレタン樹脂層の厚みが30〜60μmの範囲に設定されている請求項1〜5のいずれか一項に記載のコンクリート着色用シート。
【請求項7】
上記コンクリート着色用シートの水溶性ウレタン樹脂層側の面に、剥離シートが貼着されてなる請求項1〜6のいずれか一項に記載のコンクリート着色用シート。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のコンクリート着色用シートを、その水溶性ウレタン樹脂層側の面が上記型枠の凹凸模様の転写面と対峙するよう載置し、上記着色用シートの上から水分を噴霧して、上記転写面の凹凸模様に沿うよう上記着色用シートを被設した後、その被設面を接触面としてコンクリート材料を打設し、コンクリート材料の水分により上記水溶性ウレタン樹脂層の粘着力を低減させて上記着色用シートの着色層をコンクリート表面に移行埋設させるとともに、コンクリート表面を上記型枠の転写により凹凸模様に形成することを特徴とするコンクリート表面の着色化粧法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−256057(P2006−256057A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−75699(P2005−75699)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(504241297)株式会社ビュープランニング (8)
【Fターム(参考)】