説明

コンクリート製塔状構造物及びその製造方法

【課題】 例えば高さが10〜30m程度のプレストレストコンクリート製の塔状構造物において、経済性の高い安価な塔状構造物を実現する技術を提供する。
【解決手段】 PC緊張材の定着部として複数段の超高強度モルタル製のセグメントリング20,30,40,50普通コンクリートからなる塔本体コンクリート70,80,90,100,110の端部に備えたプレキャストプレストレストコンクリート製塔状構造物である。塔本体コンクリート80,90,100,110は超高強度モルタル製の複数のセグメントリング20,30,40,50を水平な中空円筒型枠の端部に取付け、該型枠内を通るPC緊張材を各セグメントリングの部分に定着して塔本体型枠を固定し、型枠内にコンクリートを打設し、セグメントリングとの接合面をマッチキャスト面とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製塔状構造物及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、風力発電用の柱体などの内、比較的高さの低い構造物の構造及びこれを安価容易に製造する技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
鋼製の塔状構造物に比べ、耐久性および経済性において優れた超高強度モルタル製の塔状構造物が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
超高強度モルタル製の塔状構造物は、工場で製作した超高強度モルタル製のプレキャストセグメントを現場に運搬し、鉛直方向のプレストレスを導入することによってでセグメントを一体化して構築するものである。超高強度モルタル製とすることにより、鋼製と同等の高さの塔状構造物を、鋼製と同程度の断面寸法で実現することができる。
【0004】
しかしながら、塔状構造物の高さが比較的低い場合には塔状構造物の塔体のすべてを超高強度モルタルにすることは不経済になると考えられる。
【特許文献1】特願2006−221407号出願
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は比較的高さが低い、例えば高さが10〜30m程度のプレストレストコンクリート製の塔状構造物において、経済性を高めるために、大部分は普通コンクリートを使用し、一部分のみに超高強度モルタルを使用することによって、安価な塔状構造物を実現する技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、次の技術手段を講じたことを特徴とする。すなわち本発明は、PC緊張材の定着部として複数段の超高強度モルタル製のセグメントを長手方向中間部に介装したプレキャストプレストレストコンクリート柱体からなることを特徴とするコンクリート製塔状構造物である。
【0007】
比較的高さが低いプレストレストコンクリート製の塔状構造物においては、超高強度モルタルは高価であるため、PC緊張材定着部や塔体基部など、高い強度が必要とされる部分のみに高強度モルタルを使用し、その他の部分には普通コンクリートを使用することによって、安価な塔状構造物を実現することができる。
【0008】
上記本発明の塔状構造物は、超高強度モルタル製の複数の短尺セグメントを製作し、水平に連設した塔本体コンクリート用中空円筒型枠の各端部に該矩尺セグメントを取付け、型枠内にコンクリートを打設し、セグメントと塔本体コンクリートとの接合面をマッチキャスト面とするプレキャスト塔本体コンクリートを製造することを特徴とする塔状構造物の製造方法によって製造した部材を用いて塔状構造物を好適に施工することができる。
【0009】
この方法ではPC緊張材定着部セグメント及び塔体基部部材を先行して製作し、これらを塔本体コンクリートの型枠に取付けてマッチキャスト方式で塔本体コンクリートを製作することにより、セグメントと塔本体コンクリートとの継目部の集中応力の防止、角欠けの防止、製作精度の向上が可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、比較的高さが低いプレストレストコンクリート製の塔状構造物においては、PC緊張材定着部や塔体基部など、高い強度が必要とされる部分のみに高価な超高強度モルタルを使用し、その他の部分には安価な普通コンクリートを使用することによって、安価な塔状構造物を実現することができる。
【0011】
また、PC緊張材定着部セグメント及び塔体基部部材を超高強度モルタルによって先行して製作し、これらを普通コンクリート筒体の型枠として、接合面をマッチキャスト方式で塔体を製作することにより、セグメント継目部の手入や角欠けを防止することが出来、製作精度の向上も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
本発明では、PC緊張材の定着部に、部分的に超高強度繊維補強モルタルを使用することによって、経済性のすぐれた塔状構造物を普通のコンクリートで構築する。
【0014】
図1は本発明の塔状構造物の実施例の側面図、図2〜図7はそれぞれ図1のA−A、B−B、C−C、D−D、E−E、F−F矢視図である。図2、図4〜7は、定着部の超高強度モルタル製のセグメントを示している。
【0015】
塔状構造物1は基礎60上に立設され、筒状の塔本体コンクリート70,80,90,100,110を積重して形成されている。塔状構造物1には基礎60から頂上までPC緊張材120を内蔵しており、筒状の塔本体コンクリート80,90,100,110の継目部には定着部が設けられている。この定着部として超高強度繊維補強モルタル製のセグメントリング10,20,30,40,50が用いられている。
【0016】
図2は最下段のセグメントリング10の平面図(図1のA−A矢視図)で16個のPC緊張材挿通孔(シース)11を備えている。
【0017】
図3は図1のB−B矢視図で、最下段筒体セグメントリング70の端面を示している。16個のPC緊張材挿通孔(シース)71が示されている。
【0018】
図4は図1のC−C矢視図でセグメントリング20の平面図である。16個のPC緊張材挿通孔21のうち4個の挿通孔22に配置された定着板23にPC緊張材が定着される。
【0019】
図5は図1のD−D矢視図でセグメントリング30の平面図である。PC緊張材挿通孔31は12個となっており、その中の4個の挿通孔32は定着板33を備えている。
【0020】
図6は図1のE−E矢視図でセグメントリング40の平面図で8個のPC緊張材挿通孔41のうち4個の挿通孔42は定着板43を備えており、図7は図1のF−F矢視図で4個のPC緊張材挿通孔51は定着板53を備えている。
【0021】
図8,図9は、普通コンクリートの場合の定着板と、超高強度繊維補強モルタルの場合の定着板の大きさを例示して示したものである。例えばセグメントリング20が普通コンクリートの場合の図8に示す定着板25の寸法aに対して、セグメントリング20を超高強度繊維補強モルタル製とした場合の定着板の寸法bは図9に示すように、上記寸法aの半分となる。従って、セグメントリング20の肉厚も薄くてよい。
【0022】
図10は、本発明に係る塔状構造物の筒体コンクリートの製造工程を示す説明図である。超高強度繊維補強モルタル製のセグメントリング20,30,40,50を予め製造し、これらを各塔本体コンクリート型枠の端面に配設し、形枠内にコンクリートを打設して塔本体コンクリート80,90,110を製造する。このようにして、端面が各セグメントリングの端面とマッチキャスト成形された筒体コンクリートを製造することができる。
【0023】
図11はセグメントリングのうちの1個のセグメントリング40を斜視図で示したもの
である。
【0024】
次に本発明の実施例(設計例)について説明する。
【0025】
実施例は、PC緊張材の定着部のみに設計基準強度120N/mmの超高強度繊維補強モルタルのセグメントを使用し、その他の部分には設計基準強度60N/mmの普通コンクリートを使用したプレストレストコンクリート製の塔状構造物である。
1.設計条件
1)柱高 :H=25,000m
2)柱径 頂部 :D1=0.70m(外径)
基部 :D2=1.100m(外径)
3)構造形式 :プレストレストコンクリート構造
(設計基準強度60N/mm、PC緊張材定着部のみに超高強度繊維補強モルタルセグメントを使用)
5)使用材料 :
塔本体およびPC緊張材定着部に使用する材料の特性値を表1に示す。塔本体には設計基準強度が60N/mmのコンクリートを、PC緊張材定着部には設計基準強度が120N/mmの超高強度繊維補強モルタルを使用する。
【0026】
【表1】

【0027】
6)荷重及び制限値:
荷重及び制限値は表2のとおりである。表2中の荷重の符号は次の通りである。
G:固定荷重、P:積載荷重、W:風荷重、K:地震荷重、Co:標準せん断力係数(水平震度)
【0028】
【表2】

【0029】
7)PC緊張材の定着部:
設計基準強度が120N/mmの超高強度繊維補強モルタル製セグメントリングを使用することによって、PC緊張材定着部の支圧板の一辺を135mmから75mmにまで小さくすることができる。これに伴い、PC緊張材定着部の部材厚も195mmから150mmに薄くすることができ、塔状構造物全体の部材厚を25%程度薄くすることができる。(図8及び図9参照)。
8)プレキャスト塔本体コンクリートの製造方法:
PC緊張材を定着する定着部(超高強度繊維補強モルタル製セグメントリング)は設計基準強度が120N/mmの超高強度繊維補強モルタルで製作する。この定着部(セグメントリング)は先行して製作し、塔本体コンクリートを打設する際の型枠として使用する。セグメントリングと塔本体コンクリートとの接合面はマッチキャストとなる。これにより、プレストレス導入時の塔本体コンクリートとセグメントリングとの継目に集中応力や角欠けが発生するのを防止することができ、製作精度も同上する。
2.照査結果
常時荷重、地震荷重および風荷重に対する照査を行った。ここでは最もクリティカルであった風荷重に対する照査結果を示す。
1)基準風速時(G+P+W)の照査
表3及び図12,図13に示すように、基準風速時のコンクリートの圧縮応力度およびPC緊張材の引張応力度はともに、制限値以下である。
【0030】
【表3】

【0031】
2)暴風時(G+P+1.6W)の照査
表4及び図14に示すように、暴風時に塔本体に作用する曲げモーメントは、制限値である曲げ耐力Mu以下である。
【0032】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例の塔状構造物の側面図である。
【図2】図1のA−A矢視図である。
【図3】図1のB−B矢視図である。
【図4】図1のC−C矢視図である。
【図5】図1のD−D矢視図である。
【図6】図1のE−E矢視図である。
【図7】図1のF−F矢視図である。
【図8】普通コンクリートの支圧板の平面図である。
【図9】実施例の支圧板の平面図である。
【図10】実施例の製造工程の説明図である。
【図11】超高強度モルタル製セグメントリングの斜視図である。
【図12】基準風速時のコンクリートの応力線図である。
【図13】基準風速時のPC緊張材の応力線図である。
【図14】暴風時の曲げモーメント線図である。
【符号の説明】
【0034】
1 塔状構造物
10,20,30,40,50 セグメントリング
11,21,31,41,51,71 PC緊張材挿通孔(シース)
22,32,42 挿通孔
23,33,43,53 定着板
60 基礎
70,80,90,100,110 塔本体コンクリート
120 PC緊張材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PC緊張材の定着部として複数段の超高強度モルタル製のセグメントを長手方向中間部に介装したプレキャストプレストレストコンクリート柱体からなることを特徴とするコンクリート製塔状構造物。
【請求項2】
超高強度モルタル製の複数の短尺セグメントを製作し、水平に連設した塔本体コンクリート用中空円筒型枠の各端部に該矩尺セグメントを取付け、型枠内にコンクリートを打設し、セグメントと塔本体コンクリートとの接合面をマッチキャスト面とするプレキャスト塔本体コンクリートを製造することを特徴とする塔状構造物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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