説明

コンクリート製用水路の補修方法

【課題】 本発明は繊維強化ポリマーセメントモルタルによる補修材層全体に高い防水性能を付与し、用水浸透による劣化を有効に防止して機械的強度及び耐久性を健全に維持できるコンクリート製用水路の補修方法を提供する。
【解決手段】 用水路を画成する底壁及び左右立ち上げ壁の各内面と左右立ち上げ壁上端面の劣化表層のコンクリートをウォータージェットの適用により埋設鉄筋に達する深さに連続してハツリ除去し、所定の配合比で配合した、0.1mm以下の微細なひび割れが無数に発生する繊維強化ポリマーセメントモルタル中に、該繊維強化ポリマーセメントモルタルの成分であるセメントに対し0.5〜10重量%のアルキルアルコキシシラン又はアルキルシラノールを配合した補修材を用意し、該補修材を上記底壁及び左右立ち上げ壁の各内面と左右立ち上げ壁上端面の表層コンクリート除去面域に塗布し補修材層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート製用水路の補修方法に係わり、殊に繊維強化ポリマーセメントモルタルを補修材として用いる補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製用水路においては用水と常時接する水路内面の劣化が著しく、その多くは劣化部分を除去してポリウレタン樹脂塗料又はエポキシ樹脂塗料を塗布し修復する方法が採られている。
【0003】
他方、特許文献1は上記コンクリート製用水路内面の経年劣化した表層コンクリートをウォータージェットで除去し、該除去面域に繊維強化ポリマーセメントモルタルを吹き付けし補修材層を形成する方法を示している。
【0004】
上記繊維強化ポリマーセメントモルタルはセメントと砂とポリマー樹脂から成るポリマーセメントモルタルにポリエチレン繊維又はビニロン繊維を配合し加水混練したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−120087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記繊維強化ポリマーセメントモルタルを補修材として用いる補修方法は、従来の補修方法に比べ、引張応力試験、曲げ荷重試験の何れにおいても著しい強度向上、高い靱性付与が得られ、特に0.1mm以下の微細なひび割れが無数に発生した場合でも強度低下を来さない補修を実現でき、極めて有効である。
【0007】
然るにコンクリート製用水路においては、用水と常時接する補修材層内に水分が浸透し劣化を来し前記機械的強度及び耐久性を低下せしめる問題を有している。
【0008】
本発明は繊維強化ポリマーセメントモルタルによる補修材層全体に高い防水性能を付与し、用水浸透による劣化を有効に防止して上記機械的強度及び耐久性を健全に維持できるコンクリート製用水路の補修方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前記特許文献1で示された、セメントと砂とポリマー樹脂から組成されるポリマーセメントモルタル中に、合成樹脂繊維から成る補強繊維を配合し加水混練して成る繊維強化ポリマーセメントモルタルを補修材として用いつつ、該繊維強化ポリマーセメントモルタル中にアルキルアルコキシシラン又はアルキルシラノールを配合して加水混練することによりアルキルアルコキシシラン又はアルキルシラノールとセメントとの反応を促し、これによって成層される補修材層全体に良好な防水性能を付与して上記機械的強度を健全に維持できるコンクリート製用水路の補修方法を提供するものである。
【0010】
上記アルキルアルコキシシラン又はアルキルシラノールの配合比は上記繊維強化ポリマーセメントモルタルの成分であるセメントに対し0.5〜10重量%、好ましくは1〜5重量%とする。
【0011】
上記繊維強化ポリマーセメントモルタルは、
1立方メートル当たり、
ポルトランドセメント :300〜900kg
砂 :400〜1200kg
ポリマー樹脂 :10〜120kg
合成樹脂繊維から成る補強繊維
(繊維長5〜20mm、太さ10〜200μm) :10〜60kg
の配合比で配合する。
【0012】
好ましくは、上記補強繊維としてビニロン繊維又はポリエチレン繊維又はビニロン繊維とポリエチレン繊維の混合繊維を用いる。
【0013】
又上記補強繊維としてビニロン繊維とポリエチレン繊維の混合繊維を用いる場合には、ビニロン繊維9〜40kg、ポリエチレン繊維1〜20kgで選択し、全体として上記10〜60kgになるように配合する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、繊維強化ポリマーセメントモルタルで修復された補修材層全体を高耐水層構造にし、農業用水浸透による劣化を有効に防止して同補修材層の優れた機械的強度と耐久性を健全に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】コンクリート製用水路の経年劣化状態を示す断面図。
【図2】Aは図1におけるコンクリート製用水路の劣化表層を除去した状態を示す断面図、Bは該除去面域に補修材層を形成した状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明を実施するための最良の形態を図1乃至図2に基づき説明する。
【0017】
本発明に係る補修方法はコンクリート製用水路1の補修に適用される。
【0018】
図1に示す水田の灌漑施設として用いられているコンクリート製用水路1は、コンクリート製底壁2と該底壁2の左右側縁から立ち上げられたコンクリート製立ち上げ壁3にてU字形の用水路を画成した構造を有している。開放形用水路の場合には上面を開放状態に施工し、閉鎖型用水路の場合には開放面をコンクリート製蓋で覆うか、又はU字形の用水路本体に蓋を一体に設けたロ字形のコンクリート製用水路とする。
【0019】
上記コンクリート製用水路1においては、灌漑用水と接するコンクリート製用水路1の内面の損傷、劣化が著しく、老朽化程度が比較的軽度なコンクリート製用水路1においては、コスト削減、環境負担軽減の見地から、全面改修せずに既設のコンクリート製用水路1に内面補修を施し延命する方法が採られている。図中9は劣化表層を示す。
【0020】
以下上記劣化表層9の補修方法について説明する。
【0021】
図2Aに示すように、上記コンクリート製用水路1を画成する底壁2及び左右立ち上げ壁3の各内面の劣化表層9のコンクリートをウォータージェットの適用により連続して除去すると共に、上記底壁2及び左右立ち上げ壁3の各内面の表層コンクリートに連続する左右立ち上げ壁3上端面の表層コンクリートをウォータージェットの適用により除去し、底壁2内面と左右立ち上げ壁3内面と左右立ち上げ壁3上端面に連続する表層コンクリート除去面域4を形成する。
【0022】
ウォータージェットにより超高圧水を噴射し劣化表層9のコンクリートを埋設鉄筋に達する深さにハツリ除去する。
【0023】
次に図2Bに示すように、上記コンクリート除去面域4の内面(健全なコンクリート表面)にエポキシ樹脂を塗布し含浸せしめる。即ちプライマー処理しプライマー層5を形成する。このプライマー処理は現場の状況に応じ選択的に実施する。
【0024】
次に上記表層コンクリート除去面域4を下記の繊維強化ポリマーセメントモルタル6′で修復し補修材層6を形成する。
【0025】
上記繊維強化ポリマーセメントモルタル6′はセメントと砂とポリマー樹脂から成るポリマーセメントモルタルにポリエチレン繊維又はビニロン繊維等の合成樹脂繊維から成る補強繊維7を配合し、更にアルキルアルコキシシラン又はアルキルシラノールを加えた加水混練材である。
【0026】
上記アルキルアルコキシシラン又はアルキルシラノールは相溶性、反応性を有し、水との溶解性、潤滑性を有する。
【0027】
上記アルキルアルコキシシラン又はアルキルシラノールの希釈剤としてはアルコール希釈剤又はセルロース希釈剤を適用する。
【0028】
具体例として、下記の配合比から成る繊維強化ポリマーセメントモルタル6′を用意し、該繊維強化ポリマーセメントモルタル6′を上記プライマー層5の表面、又はプライマー層5を形成していないコンクリート除去面域4のコンクリート表面に直接塗布し補修材層6を形成する。
【0029】
〈補修材1立方メートル当たりの配合比〉
セメント(ポルトランドセメント):300〜900kg
砂 :400〜1200kg
ポリマー樹脂 :10〜120kg
合成樹脂繊維から成る補強繊維 :10〜60kg
アルキルアルコキシシラン
又はアルキルシラノール :上記セメントに対し0.5〜10重量%
【0030】
更に上記繊維強化ポリマーセメントモルタル6′には減水剤を0.05〜0.4kgの範囲で配合することができる。
【0031】
上記配合材を主成分とし且つ上記配合比で加水混練して成る繊維強化ポリマーセメントモルタル6′を用意し、これを上記コンクリート製用水路1の上記表層コンクリート除去面域4に吹付け塗布、ローラー塗布等により塗布し上記補修材層6を形成する。
【0032】
上記アルキルアルコキシシランとアルキルシラノールはモルタル中の水分(モルタルの成分であるSi0)と反応してシラノール化合物((HO)Si−R、Rはアルキル基)を生成し、該シラノール化合物が補修材層(繊維強化ポリマーセメントモルタル層)6全体を強固な防水材層とする。この反応は上記補修材層6の形成後にも進行される。
【0033】
上記アルキルアルコキシシランとアルキルシラノールは補修材層6を組成する全ての補強繊維7及び砂(珪砂)の全ての粒子に防水被覆を形成し、補修材層6全体を防水材層に形成する。
【0034】
上記補強繊維7としては、繊維長5〜20mm、太さ10〜200μmのビニロン繊維、又は同ポリエチレン繊維、又は同ビニロン繊維と同ポリエチレン繊維の混合繊維が有効である。
【0035】
上記補強繊維7としてビニロン繊維とポリエチレン繊維の混合繊維を用いる場合には、ビニロン繊維9〜40kg、ポリエチレン繊維1〜20kgで選択し、全体として上記10〜60kgになるように配合する。配合例としてビニロン繊維15kg、ポリエチレン繊維9kgの混合繊維を用いる。
【0036】
上記ポリマー樹脂としては、スチレンブタジエン樹脂系、ポリアクリル酸エステル樹脂系(アクリル樹脂系)、エチレン酢ビ樹脂系、酢ビ・ベオバ樹脂系等を用いる。
【0037】
本発明に用いる砂として、珪石から製造した珪砂、人工軽量砂(例えばセラミック砂)、川砂、山砂、鉱滓、フライアッシュ等の単体、又は混合物を用いる。
【0038】
上記繊維強化ポリマーセメントモルタル6′から成る補修材層6中に上記表層コンクリート除去面域4に亘る合成樹脂製メッシュ8を埋設する補修構造とする場合には、上記アルキルアルコキシシランとアルキルシラノールを加えた繊維強化ポリマーセメントモルタル6′による下塗り6aを施す。
【0039】
次に上記繊維強化ポリマーセメントモルタル6′の下塗り6aの未硬化状態において、該下塗り6aの表面(膨出面)にポリエチレンメッシュシート又はアラミドメッシュシート等から成る編成構造の合成樹脂製メッシュ8を加圧貼付する。
【0040】
上記合成樹脂製メッシュ8の加圧貼付により、下塗り6aの繊維強化ポリマーセメントモルタル6′がメッシュ8の網目内へ侵入し、同時に補強繊維7が網目に進入し、後記する上塗り6bの塗布にてメッシュ8の形成線材と補強繊維7とが絡み合い結合した状態を形成する。
【0041】
次に上記下塗り6aの未硬化状態、即ち湿潤状態において同下塗り6aの表面、即ちメッシュ8の表面に上記アルキルアルコキシシランとアルキルシラノールを加えた繊維強化ポリマーセメントモルタル6′を重ね塗りして上塗り6bを施し、上記メッシュ8を繊維強化ポリマーセメントモルタル6′による下塗り6aと上塗り6bから成る補修材層6内に埋設する。
【0042】
上記下塗り6aと上塗り6bの各塗布厚は予定する厚みの補修材層6の略二分の一程度にする。
【0043】
上記補修材層6の形成により繊維強化ポリマーセメントモルタル6′で修復された補修材層6全体を高耐水層構造にし、農業用水浸透による劣化を有効に防止して同補修材層6の優れた機械的強度と耐久性を健全に維持できる。
【0044】
加えて上記コンクリート製用水路1におけるコンクリートの凍結融解を有効に防止できる。
【符号の説明】
【0045】
1…コンクリート製用水路、2…同用水路のコンクリート製底壁、3…同用水路のコンクリート製立ち上げ壁、4…表層コンクリート除去面域、5…プライマー層、6′…アルキルアルコキシシラン又はアルキルシラノールで防水性を付与した繊維強化ポリマーセメントモルタル、6…補修材層、6a…下塗り、6b…上塗り、7…補強繊維、8…合成樹脂製メッシュ、9…劣化表層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
用水路を画成する底壁及び左右立ち上げ壁の各内面と左右立ち上げ壁上端面の劣化表層のコンクリートをウォータージェットの適用により埋設鉄筋に達する深さに連続してハツリ除去し、他方1立方メートル当たり、
ポルトランドセメント :300〜900kg
砂 :400〜1200kg
ポリマー樹脂 :10〜120kg
合成樹脂繊維から成る補強繊維
(繊維長5〜20mm、太さ10〜200μm) :10〜60kg
の配合比で配合した、0.1mm以下の微細なひび割れが無数に発生する繊維強化ポリマーセメントモルタル中に、該繊維強化ポリマーセメントモルタルの成分であるセメントに対し0.5〜10重量%のアルキルアルコキシシラン又はアルキルシラノールを配合した補修材を用意し、該補修材を上記底壁及び左右立ち上げ壁の各内面と左右立ち上げ壁上端面の表層コンクリート除去面域に塗布し補修材層を形成したことを特徴とするコンクリート製用水路の補修方法。
【請求項2】
上記補強繊維としてビニロン繊維又はポリエチレン繊維又はビニロン繊維とポリエチレン繊維の混合繊維を用いることを特徴とする請求項1記載のコンクリート製用水路の補修方法。
【請求項3】
上記補強繊維としてビニロン繊維とポリエチレン繊維の混合繊維を用いる場合には、ビニロン繊維9〜40kg、ポリエチレン繊維1〜20kgで選択し、全体として上記10〜60kgになるように配合することを特徴とする請求項2記載のコンクリート製用水路の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−148695(P2011−148695A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50546(P2011−50546)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【分割の表示】特願2007−304295(P2007−304295)の分割
【原出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(305035093)株式会社ビルドランド (22)
【Fターム(参考)】