説明

コンジュゲートワクチンの製造における多糖の活性化のための化学試薬

本発明は、多糖がタンパク質に直接またはスペーサーを介して共有結合し得るように水性溶液または部分的水性溶液中において当該多糖をシアノ化するための新規な試薬を提供する。これらの試薬としては、1−シアノ−4−ピロリジノピリジニウムテトラフルオロボレート(CPPT)、1−シアノ−イミダゾール(1-CI)、1−シアノベンゾトリアゾール(1-CBT)、もしくは2−シアノピリダジン−3(2H)オン(2-CPO)、またはそれらの機能的誘導体または改変物が挙げられる。実施例は、当該方法が広く適用可能であることを示す、様々な多糖およびタンパク質を用いたこれらの試薬の使用を例証するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2009年12月17日に出願された同じ名称の米国特許仮出願第61/287,593号の優先権を主張するものであり、当該仮出願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
背景
1.本発明の分野
本発明は、タンパク質を炭水化物にコンジュゲートする試薬および方法、特に、ワクチンの製造において使用されるプロセスおよび化学薬品、ならびに当該プロセスによって製造されるワクチンを対象とする。
【背景技術】
【0003】
2.背景の説明
炭水化物に共有結合しているタンパク質を含有するワクチンは、当該炭水化物部分に対する免疫反応を著しく良好に誘導することが分かっている。「コンジュゲート」として知られるこのようなワクチンの例は、次の菌に対して使用可能である:ヘモフィルス・インフルエンザb型菌(Haemophilus influenzae type b)(例えば、ActHib、Hiberix)、髄膜炎菌(Neisseria meningiditis)A型、C型、W型、およびY型(例えば、Menactra)、ならびに肺炎球菌(S. pneumoniae)(例えば、Prevnar、Synflorix)。タンパク質を炭水化物に連結させるために、直接またはスペーサーを介してタンパク質と反応し得るよう、一般に後者を活性化する必要がある(Dick, W.E. JrおよびBeurret, M. Glyconjugates of bacterial carbohydrate antigens. A survey and consideration of design and preparation factors、Conjugate Vaccines (Eds Cruse, J.M.およびLewis, R.E.). Karger, Basel, 1989.(非特許文献1))。活性化の手段の1つは、炭水化物の酸化によってアルデヒドを生成させ、次いで、当該アルデヒドを還元的アミン化によってタンパク質上のリシンに結合させる方法である。他の場合では、最初にタンパク質をヒドラジドまたはアミノオキシ基によって官能化し、続いて、炭水化物上のアルデヒドと反応させる(Lees, A. Use of amino-oxy functional groups in the preparation of protein-polysaccharide (PS) conjugate vaccines、米国特許出願公開第2005/0169941号(特許文献1);当該特許は、参照により本明細書に組み入れられる)。多糖を活性化するための別の方法は、臭化シアンの使用により多糖上にシアノ−エステルを形成し、続いてそれを、スペーサー分子、例えば、アジピン酸ジヒドラジド等と反応させる。次に、当該官能化された多糖をタンパク質と反応させる。多糖をシアノ化するための改良された方法では、1−シアノ−4−ジメチルアミノピリジンテトラフルオロボレート(CDAP)を使用する(Lees, A., Producing immunogenic constructs using soluble carbohydrates activated via organic cyanylating reagents、米国特許第5,651,971号(特許文献2);同第5,693,326号(特許文献3);および同第5,849,301号(特許文献4))。CDAPにより、タンパク質を多糖に直接結合させることが可能となる。CDAPはさらに、スペーサーを用いて多糖を官能化するためにも使用することができ、続いて、当該多糖は、タンパク質に連結される。ヒドラジドまたはアミノオキシにより官能化されたタンパク質はさらに、CDAP活性化多糖に連結させることも可能である(米国特許第5,849,301号(特許文献4);当該特許は、参照により本明細書に組み入れられる)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0169941号
【特許文献2】米国特許第5,651,971号
【特許文献3】米国特許第5,693,326号
【特許文献4】米国特許第5,849,301号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Dick, W.E. JrおよびBeurret, M. Glyconjugates of bacterial carbohydrate antigens. A survey and consideration of design and preparation factors、Conjugate Vaccines (Eds Cruse, J.M.およびLewis, R.E.). Karger, Basel, 1989.
【発明の概要】
【0006】
本発明は、ワクチンの製造における現在の戦略および設計に関連する問題および欠点を克服するものであり、ならびに、特にワクチン製造のためのタンパク質コンジュゲート化の新規のツールおよび方法を提供する。
【0007】
本発明の一態様は、化合物、例えば、1-CBT、1-CI、CPPT、もしくは2-CPO、またはそれらの機能的誘導体または改変物等と化学化合物と混合して、活性化された化学化合物を生成する工程と、当該活性化された化合物を第二の化合物と混合してコンジュゲートを生成する工程とを含む、炭水化物をコンジュゲート化するプロセスを対象とする。好ましくは、当該化学化合物は、天然または合成の炭水化物、多糖、オリゴ糖、またはそれらの組み合わせである。同様に好ましくは、当該第二の化合物は、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質であり、これらは、抗原分子であり得る。コンジュゲート化は、直接的なものであっても、またはコンジュゲート化を促進する官能基の追加を伴う間接的なものであってもよい。当該プロセスは、好ましくは、当該コンジュゲートよりも低い分子量を有する成分を、例えば、透析ろ過、クロマトグラフィ、またはそれらの組み合わせによって除去する工程をさらに含む。結果として得られたコンジュゲートは、好ましくは、ワクチンまたは診断剤である。当該プロセスは、活性化された化合物と第二の化合物との間に連結化合物を組み込む工程をさらに含んでいてもよい。好ましくは、当該プロセスの工程とリンカーの組み込みは一緒に実施されるが、それぞれを独立して実施してもよい。
【0008】
本発明の別の態様は、本発明のプロセスによって製造されたワクチンを対象とする。好ましくは、当該ワクチンは薬学的に許容される担体をさらに含み、当該担体は、これらに限定されるわけではないが、水、生理食塩水、アルコール、糖、多糖、油、またはそれらの組み合わせを含み得る。
【0009】
本発明の他の態様および利点については、一部は以下の説明において述べられ、一部はこの説明から明かとなり得、または本発明の実施から教示され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】Superdex200カラム(1×30cm)ゲルろ過カラムにおいて実施したBSA/CDAP/デキストランおよびBSA/CPPT/デキストランのクロマトグラムを重ね合わせたもの。
【図2】1-CIを使用して官能化した多糖に対する間接的な結合のSEC HPLC分析。
【図3】Superdex200によるCRM(1-CI/Ps6A)コンジュゲートのクロマトグラム。
【図4】Superdex200画分のSEC HPLC分析。
【図5】CPPT(1−シアノ−4−ピロリジノピリジニウムテトラフルオロボレート;CPIPとも呼ばれる)、1-CBT(1−シアノベンゾトリアゾール)、1-CI(1−シアノイミダゾール)、および2-CPO(2−シアノピリダジン−3(2H)オン)の化学構造。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の説明
本発明の一態様は、CPPT、1−CBT、1-CI、もしくは2-CPO、またはこれらの化合物の機能的誘導体または保存的改変物を化学化合物と混合して、活性化された化学化合物を生成する工程を含む、化学化合物をコンジュゲート化するプロセスを対象とする。当該活性化された化合物は、第二の化合物と混合されて、コンジュゲートを生成する。これらの工程は、独立してまたは一緒に実施してもよく、ならびに当該2つの間にリンカーとして別の化合物を組み込んでもよい。好ましくは、当該活性化された化合物は、リンカー分子と混合され、続いて第二の化合物と反応してコンジュゲートを生成する。好ましいリンカーとしては、ヘキサンジアミン、エチレンジアミン、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジド、または1,6−ジアミノオキシヘキサンが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0012】
コンジュゲート化は、直接的または間接的なものであってもよく、これは、コンジュゲート化を促進する官能基の追加を伴わないこと、または伴うことを意味する。好ましくは、当該化学化合物は、天然または合成の炭水化物、多糖、オリゴ糖、またはそれらの組み合わせである。好ましくは、当該第二の化合物は、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質であり、より好ましくは、当該第二の化合物は、診断剤としてのワクチンの調製のための抗原分子である。
【0013】
本発明は、多糖がタンパク質に直接またはスペーサーを介して共有結合し得るように、水性溶液または部分的水性溶液中において当該多糖をシアノ化するための新規の試薬を提供する。実施例は、当該方法が広く適用可能であることを示す、様々な多糖およびタンパク質を用いたこれらの試薬の使用を例証するものである。
【0014】
炭水化物、多糖、およびオリゴ糖は、本出願において互換的に使用される。当該方法は、天然または合成の炭水化物を用いることができる。
【0015】
タンパク質は、天然、遺伝子組換え、または合成の材料を意味し得る。それは、ペプチドを含み得る。活性化された炭水化物に直接的にまたは間接的に連結するための第二の部分として、タンパク質以外の他の分子を使用することができる。
【0016】
直接的なコンジュゲート化は、追加的な官能基を導入することなく、活性化された炭水化物にタンパク質を連結させることを意味する。間接的なコンジュゲート化は、コンジュゲート化を促進するために使用される官能基の追加を意味する。例えば、炭水化物はアミンによって官能化することができ、続いて、これをブロモアセチル基と反応させる。次いで、ブロモアセチル化された炭水化物を、チオール化されたタンパク質と反応させる(Hermanson, GT, Bioconjugate Techniques, Academic Press, 2nded, 2008)。「官能化」という用語は、一般的に、例えばコンジュゲート化を促進するため官能性を付与するために、基を化学的に結合させることを意味する。例としては、ヒドラジドまたはアミノオキシ基によるタンパク質の官能化、ならびにアミノ基による炭水化物の官能化が挙げられる。
【0017】
方法および試薬
炭水化物に対するタンパク質の結合ではその分子量が増加し、これは、分析サイズ排除クロマトグラフィ(SEC HPLC)を使用してモニターすることができる。より早く溶出する材料ほど、より高い分子量を有しており、タンパク質は、一般的に、280nmにおけるその吸光度によってモニターされる。したがって、より早い時間への吸光度のシフトは、分子量の増加の表れであり、従ってコンジュゲート化を示している。SEC HPLCのために、Empowerソフトウェアを備えるWaters 600システムにおいて、BioSep G4000 SECカラム(Phenomenex社)または同様のカラムを使用した。
【0018】
アミンおよびヒドラジドは、概して、「Spectrophotometric determination of hydrazine, hydrazides, and their mixtures with trinitrobenzenesulfonic acid」 Qi XY, Keyhani NO, Lee YC. Anal Biochem.1988 Nov 15;175(1):139-44(当該文献は、参照により本明細書に組み入れられる)、およびVidal and Franci, J Immun. Meth 86:155, 1986に記載されているように、TNBSを使用してアッセイした。
【0019】
タンパク質濃度は、280nmでのその吸光係数および吸光度から特定した。炭水化物は、Monsigny M.らの方法(Anal Biochem. 175(2):525-30, 1988;当該文献は、参照により本明細書に組み入れられる)によってアッセイした。
【0020】
1−シアノ−4−ピロリジノピリジニウムテトラフルオロボレート(CPPT)は、Wilmington PharmaTech社のロット番号1795−1536−10によって調製し、逆相HPLCによって測定したところ、純度97%を超えていた(図5を参照のこと)。1−シアノ−4−ジメチルアミノピリジンテトラフルオロボレート(CDAP)は、Merck Kga社から提供された。1−シアノ−イミダゾール(1-CI)は、Apin Chemicals社(アビンドン、イギリス)から購入した(図5を参照のこと)。1−シアノベンゼントリアゾール(1−CBT)は、Sigma Aldrich社から購入した(図5を参照のこと)。CRMおよび破傷風トキソイドは、インド(プネ)のSerum Institute社から提供された。BSAは、Amresco社(ソロン、オハイオ州)から購入した。肺炎球菌(Pneumococcal)の多糖は、インドのSerum Institute社またはATCC(マナッサス、ヴァージニア州)から得た。Hib PRPおよび髄膜炎菌多糖は、インドのSerum Institute社から得た。T2000デキストラン(GE Healthcare社)は、S400HRゲルろ過カラム(GE Healthcare社)を使用して分画して高分子量画分を調製した。N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ヘキサンジアミン・2HCl、およびトリエチルアミン(TEA)を含む、使用した他の試薬は、Sigma−Aldrich社製であった。アセトニトリルは、GFS Chemical社製であった。
【0021】
以下の実施例は、本発明の態様を例示するものであって、本発明の範囲を限定するものとして見なされるべきではない。
【実施例】
【0022】
実施例1:モデル系:モデル系として、直接的に、またはスペーサーを介して間接的に、BSAを多糖デキストランに共有結合させた
CDAPおよびCPPTを、それぞれ、アセトニトリル中において0.43Mとし、120ulを、デキストラン2mlに加えた(生理食塩水1 ml中6mg+0.02%のアジ化ナトリウム)。30秒後、トリエチルアミン(約7ul)をそれぞれに加えて、pHを約9.8に維持した。2分後、活性化されたデキストランの1mlを取り出して、ヘキサンジアミンの0.5M溶液1mlまたはBSA溶液(10mg/ml)1mlのどちらかに加えた。4時間後、ヘキサンジアミン誘導体化されたデキストラン溶液を、頻繁に交換しながら生理食塩水で一夜かけて透析した。さらに低分子量の試薬を除去するために、当該溶液を、それぞれ約6mlにして、Corningスピンフィルタ装置(Spin−X 10kDaカットオフ)を使用して濃縮し、当該プロセスを繰り返した。第二のスピンからの濾液を、トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を使用してアッセイしたところ、アミンに対して本質的に陰性であることが見出された。脱塩された濃縮水を、アミンおよびデキストランに対してアッセイした。当該BSA−デキストランコンジュゲートを、4℃で一夜かけてインキュベートし、次いで、PBSで平衡させたSuperdex200サイズ排除カラム(GE Healthcare社)で分画した。2つのコンジュゲートの溶出プロフィルを図1に示す。ボイドボリュームピークをプールして、BSAおよびデキストランに対してアッセイした(表1を参照のこと)。
【0023】
【表1】

【0024】
このデータは、CPPTが、CDAPと同様に、およびおそらくより良好に、デキストランを活性化することを示している。これは、CPPT活性化された多糖に対してタンパク質を直接的に結合することができるということを示している。
【0025】
実施例2:CPPTを使用した、アミンによる多糖の官能化
7.5mg/mlのヘモフィルス・インフルエンザ(Hib)、髄膜炎菌A型(MenA)、および髄膜炎菌C型(MenC)莢膜多糖の溶液を調製した。それぞれの1.35mlに、アセトニトリル1 ml中100mgのCPPT 75ulを加えた。30秒の時点で、TEA 5ulを、HibおよびMenA多糖に加えた。TEA 6ulをMenC溶液に加えた。2.5分の時点で、活性化されたPS 0.6mlを、0.5Mのヘキサンジアミン0.6mlに加えた。3時間後、それぞれを生理食塩水に対して十分に透析した。
【0026】
各溶液を、対応する多糖をMenAおよびMenCに対する基準として用いて、レゾルシノール硫酸アッセイを使用して多糖をアッセイした。Hib多糖に対する基準としてリボースを、繰り返しユニット1つあたりリボロース1モル、かつ243g/モルの繰り返しユニット分子量で使用した(表2を参照のこと)。
【0027】
【表2】

【0028】
この表はさらに、様々な多糖を官能化するためのCPPTの使用も例示している。
【0029】
実施例3:1−シアノイミダゾールを使用した、モデル多糖であるデキストランの誘導体化
1-CI 30mgを、T2000デキストラン(GE Healthcare社)の20mg/ml溶液2mlに加えた。pHを9〜9.2に維持するために、0.2Mのトリエチルアミンを100ul分け取って5回加えた。約3分後、0.5Mのヘキサンジアミン2mlを加え、0.5MのNaOHを用いてpHを9に調節した。2時間の反応後、当該溶液を生理食塩水で徹底的に透析した。遠心分離によって当該溶液から固形分を取り除き、デキストランおよびアミンについてアッセイした。当該生成物は、アミン27個/デキストラン100kDaを含有していることが見出され、これは、1-CIを使用することにより、アミンによって多糖を官能化することができるということを示している。
【0030】
実施例4:1-CI(BSA−デキストラン)を使用した、モデルPSに対するモデルタンパク質の直接的な結合
13.5mg/mlの、高分子量デキストランの溶液を調製した。NMP 1 ml中1-CI100mgの溶液67.5ulを1mlに加え、30秒後、0.2MのTEAをそれぞれ100ul分け取って4回加え、その後、0.5MのNaOH約20ulを加えた。約3.5分の時点で、BSAの20mg/ml溶液0.5mlを加えた。pH9.0である0.1Mのホウ酸ナトリウムをそれぞれ100ul分け取って2回加えることにより、pHが約8.5まで上がった。4℃で2日経過した後、当該反応混合物をSEC HPLCにより分析した。図は、BSA+1-CI活性化されたデキストランが、サイズ排除カラムから、かなり早い時期に溶出することを示しており、これは、多糖への結合による、より高い分子量を示している。
【0031】
実施例5:1-CIによる他のPSの活性化
肺炎球菌の血清型1 PS(Ps1)および6B PS(Ps6B)からの莢膜多糖を、生理食塩水1 ml中10mg+0.02%アジ化ナトリウムで調製した。NMP 93ulに1-CI 9.3mgを懸濁させたものをPs1 1mlに加え、続いて、0.2MのTEAを100ul分け取って8回加えた。2.5分の時点で、1Mのヘキサンジアミン0.5mlを加え、続いて、0.5MのNaOHをそれぞれ100ul分け取って2回加えた。pHはおよそ9であった。NMP 1 ml中1-CI 100mgの溶液100ulを、Ps6B溶液1mlに加えた。0.2MのTEAを100ul分け取って2回加え、続いて、0.5MのNaOHをそれぞれ50ul分け取って2回加えてpHを約9.5〜10.8に維持した。2.5分の時点で、1Mのヘキサンジアミン0.5mlを、0.5MのNaOH 50ulと一緒に加えた。約3時間後、それぞれを生理食塩水に対して十分に透析した。次いで、それぞれを、多糖に対してはレゾルシノール硫酸アッセイを使用して、ならびにアミンに対してはTNBSを使用してアッセイした(表3を参照のこと)。
【0032】
【表3】

【0033】
したがって、1-CIを使用することによって多糖を活性化および官能化することができることは明かである。
【0034】
実施例6:1-CIを使用して官能化した多糖に対する間接的結合
pH8である1MのHEPES 239ulを、実施例5において調製したPs6B−NH2 2.2ml中約9.5mgの溶液に加えた。NMP中0.1MのNHSブロモアセテート170ulを加えた。1時間後、当該溶液を、Amicon Ultra15 30 kDaカットオフスピンフィルターを使用して、10mMのNaPO4+5mMのEDTAのpH6.8緩衝液で繰り返し洗浄することによって脱塩した。当該濃縮水の最終量は約0.7mlとなった。破傷風トキソイドを以下のようにしてチオール化した。破傷風トキソイド(35mg/ml)571ulを、1MのHEPES 64ulを添加してpH8にした。NMP中0.1MのSPDP 27ulをゆっくりと加えた。約2時間後、pHは5.7まで下がり、0.5MのDTT 33ulを加えてチオールを脱保護した。30分後、当該溶液を、10mMのNaPO4+5mMのEDTAのpH6.8緩衝液で平衡させた1×15cm G25カラムで脱塩した。ボイドボリュームをプールし、最終濃度約62mg/mlまで濃縮した。チオール含有量は、DTNBを使用して特定した。破傷風は、約6モルのチオール/TTモルの比率を有していた。ブロモアセチル化された多糖およびチオ−ル化されたTTを次のように組み合わせた:Ps6B−BrAc 0.66ml+pH8である1MのHEPES 73ul+チオール化されたTT 230ul。
【0035】
当該反応を、4℃で一夜にわたって進行させ、その後、SEC HPLCによって分析した(図2)。コンジュゲートを、S400HRカラムサイズ排除(GE Healthcare社)によるゲルろ過によって分画した。高分子量の材料を含有するボイドボリューム画分をプールし、タンパク質および炭水化物についてアッセイした。当該コンジュゲートは、Ps6 1mgあたりTT約1mgを有していることが見出された。このことは、炭水化物に対するタンパク質の間接的結合に1-CIを使用することができることを示している。
【0036】
実施例7:1-CIを使用した、多糖に対するタンパク質の直接的な結合
肺炎球菌血清型6A(Ps6A)からの莢膜多糖を、10mg/mlで水に溶解させた。5本の1ml の管それぞれを80℃で2分加熱し、pH9の0.1Mのホウ酸ナトリウム1mlをそれぞれに加えた。2.5時間後、当該管を氷冷し、次いで透析した。TEA 25ulを、5mg/mlの加水分解されたPs6A 10mlに加え、ボルテックスしながら1-CI 50mgを加えた。2.5分の時点で、17.2mg/mlのCRM 30mlを加えて、pHを約9に維持した。一夜の反応の後、当該溶液を、Amicon Ultra 15 30 kDaカットオフスピン装置を使用して約1mlに濃縮した。0.5mlを、10mMのホウ酸ナトリウム、150mMのNaCl、pH9、カラム速度0.5ml/分で平衡させたSuperdex 200カラム(1x30cm)に充填した。クロマトグラムを図3に示す。0.5ml画分を収集し、選択した画分をSEC HPLCで分析した。図4にSECクロマトグラムを示しており、これは、すべての画分が、コンジュゲート化されていないCRMよりも高いMWであることを示している。示されているように、画分20〜28すべてが、コンジュゲート化されていないCRMよりも早く溶出しており、これは、それぞれがより高い分子量であることを示している。
【0037】
実施例8:1−シアノベンゾトラゾール(1−CBT)による多糖の官能化
1−CBT 12mgを、アセトニトリル240ul+NMP 120ulに懸濁させた。0.2M 120ulを、20mg/mlのT2000デキストラン0.5ml(デキストランは10mg)に加え、続いて1−CBT懸濁液120ulを加えた。約3分の時点で、0.5Mのアジピン酸ジヒドラジド0.5mlを加えた。2時間の反応の後、当該溶液を、2昼夜にわたって生理食塩水に対して十分に透析した。次いで、当該溶液を遠心分離し、デキストランおよびヒドラジドについてアッセイした。
【0038】
回収されたおよそ9.5mgのデキストランは、デキストラン100kDaあたり約11のヒドラジドの比率であった。ヒドラジドがデキストランに連結されていることを確認するために、TNBS標識されたヒドラジド−デキストランの一定分量を、TNBS−ヒドラジド付加体が吸着する500nmにおいてモニターしながら、SEC HPLCによって調べた。クロマトグラムは、トリニトロベンゼンが高分子量のデキストランを伴っていることを示しており、これは、ヒドラジドが実際にデキストランに連結されていることを示している。このことは、1−CBTを使用して多糖を官能化することが可能であることを示している。
【0039】
実施例9:1−CBTで活性化された多糖に対するタンパク質の直接的な結合
0.2MのTEA 120ulを、T2000デキストランの20mg/ml溶液500ulに加え、アセトニトリル1 ml中1−CBT 50mgの懸濁液160ulを加えた。約2分の時点で、生理食塩水1 ml中BSA 47mg溶液200ulを加えたところ、当該溶液はより粘性になった。一夜の反応の後、当該コンジュゲートをSEC HPLCによって分析した。BSAの大部分は、カラムのボイドボリュームにおいて溶出し、これは、それらが高分子量を有していたことを示している。このことは、1−CBTを使用することにより、タンパク質を多糖に対し直接結合することができるということを示している。
【0040】
実施例10:炭水化物をシアノ化するために、選択された2−シアノピリダジン−3(2H)−オン(Kimら、Tetrahedron 61:5889,2005を参照のこと)をKimらの文献に記載されているように合成した
炭水化物を、2-CPO(X=Cl、Y=Cl)を使用して活性化し、次いで、タンパク質と直接反応させるか、または、例えばアミノ基により官能化する。Reagent 2a(Kimらの文献のスキーム1を参照のこと)を、アセトニトリル1 ml中100mgで作製し、炭水化物1mgに対して試薬1mgの比率で、肺炎球菌14型多糖(Ps14)の10mg/ml溶液に加える。トリエチルアミンを使用してpHを9.5まで上げ、維持する。2.5分後、当該溶液の半分を、同体積の0.5Mのヘキサンジアミンに加え、pHを約8に調節する。当該溶液のもう半分を、10mg/ml溶液における同重量の破傷風トキソイドと混合する。4℃で一夜かけてインキュベートした後、ヘキサンジアミン多糖溶液を生理食塩水で十分に透析し、次いで、アミンおよび多糖についてアッセイする。多糖100kDaあたりアミンが10の比率であることが見出される。破傷風多糖溶液を、S400HRカラム(GE Healthcare社)で分画して、コンジュゲート化されていないタンパク質を除去する。当該タンパク質および多糖の濃度を測定する。多糖1mgあたりタンパク質約0.75mgの比率であることが見出される。
【0041】
本発明の他の態様および使用は、本明細書の考察および本明細書において開示される本発明の実施から当業者には明らかとなるであろう。本明細書において引用されるすべての参考文献は、すべての刊行物、米国および外国の特許および特許出願を含めて、参照により具体的かつ完全に本明細書に組み入れられる。「含む(comprising)」という用語は、いずれにおいて使用されようとも、「からなる(consisting of)」および「実質的に〜からなる(consisting essentially of)」という用語を含むことが意図される。さらに、「含む(comprising)」、「含む(including)」、および「含有する(containing)」という用語は、限定を意図しない。明細書および実施例は、単に例示にすぎないと見なされるべきであって、本発明の真の範囲および趣旨は、以下の請求項によって示されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1−シアノ−4−ピロリジノピリジニウムテトラフルオロボレート(CPPT)と化学化合物を混合して、活性化された化学化合物を生成する工程;および
該活性化された化合物を第二の化合物と混合してコンジュゲートを生成する工程
を含む、炭水化物をコンジュゲート化する方法。
【請求項2】
化学化合物が、天然または合成の炭水化物、多糖、オリゴ糖、またはそれらの組み合わせである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第二の化合物が、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
第二の化合物が抗原分子である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
コンジュゲート化が、直接的なものであるか、またはコンジュゲート化を促進する官能基の追加を伴う間接的なものである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
コンジュゲートより低い分子量の成分を、透析、ろ過、クロマトグラフィ、またはそれらの組み合わせによって除去する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
コンジュゲートが、ワクチンまたは診断剤である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記工程が一緒に実施される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
活性化された化合物と第二の化合物との間に連結化合物を組み込む工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
請求項1記載の方法によって製造されたワクチンまたは診断剤。
【請求項11】
1−シアノイミダゾール(1-CI)と化学化合物を混合して、活性化された化学化合物を生成する工程;および
該活性化された化合物を第二の化合物と混合してコンジュゲートを生成する工程
を含む、化学化合物をコンジュゲート化する方法。
【請求項12】
化学化合物が、天然または合成の炭水化物、多糖、オリゴ糖、またはそれらの組み合わせである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
第二の化合物が、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質である、請求項11記載の方法。
【請求項14】
第二の化合物が抗原分子である、請求項11記載の方法。
【請求項15】
コンジュゲート化が、直接的なものであるか、またはコンジュゲート化を促進する官能基の追加を伴う間接的なものである、請求項11記載の方法。
【請求項16】
コンジュゲートより低い分子量の成分を、透析、ろ過、クロマトグラフィ、またはそれらの組み合わせによって除去する工程をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項17】
コンジュゲートが、ワクチンまたは診断剤である、請求項11記載の方法。
【請求項18】
前記工程が一緒に実施される、請求項11記載の方法。
【請求項19】
活性化された化合物と第二の化合物との間に連結化合物を組み込む工程をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項20】
請求項11記載の方法によって製造されたワクチンまたは診断剤。
【請求項21】
1−シアノベンゾトリアゾール(1−CBT)と化学化合物を混合して、活性化された化学化合物を生成する工程;および
該活性化された化合物を第二の化合物と混合してコンジュゲートを生成する工程
を含む、化学化合物をコンジュゲート化する方法。
【請求項22】
化学化合物が、天然または合成の炭水化物、多糖、オリゴ糖、またはそれらの組み合わせである、請求項21記載の方法。
【請求項23】
第二の化合物が、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質である、請求項21記載の方法。
【請求項24】
第二の化合物が抗原分子である、請求項21記載の方法。
【請求項25】
コンジュゲート化が、直接的なものであるか、またはコンジュゲート化を促進する官能基の追加を伴う間接的なものである、請求項21記載の方法。
【請求項26】
コンジュゲートより低い分子量の成分を、透析、ろ過、クロマトグラフィ、またはそれらの組み合わせによって除去する工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項27】
コンジュゲートが、ワクチンまたは診断剤である、請求項21記載の方法。
【請求項28】
前記工程が一緒に実施される、請求項21記載の方法。
【請求項29】
活性化された化合物と第二の化合物との間に連結化合物を組み込む工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項30】
請求項21記載の方法によって製造されたワクチンまたは診断剤。
【請求項31】
2−シアノピリダジン−3(2H)オン(2-CPO)と化学化合物を混合して、活性化された化学化合物を生成する工程;および
該活性化された化合物を第二の化合物と混合してコンジュゲートを生成する工程
を含む、化学化合物をコンジュゲート化する方法。
【請求項32】
化学化合物が、天然または合成の炭水化物、多糖、オリゴ糖、またはそれらの組み合わせである、請求項31記載の方法。
【請求項33】
第二の化合物が、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質である、請求項31記載の方法。
【請求項34】
第二の化合物が抗原分子である、請求項31記載の方法。
【請求項35】
コンジュゲート化が、直接的なものであるか、またはコンジュゲート化を促進する官能基の追加を伴う間接的なものである、請求項31記載の方法。
【請求項36】
コンジュゲートより低い分子量の成分を、透析、ろ過、クロマトグラフィ、またはそれらの組み合わせによって除去する工程をさらに含む、請求項31記載の方法。
【請求項37】
コンジュゲートが、ワクチンまたは診断剤である、請求項31記載の方法。
【請求項38】
前記工程が一緒に実施される、請求項31記載の方法。
【請求項39】
活性化された化合物と第二の化合物との間に連結化合物を組み込む工程をさらに含む、請求項31記載の方法。
【請求項40】
請求項31記載の方法によって製造されたワクチンまたは診断剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−515003(P2013−515003A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544919(P2012−544919)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/061133
【国際公開番号】WO2011/084705
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(511248456)フィナ バイオソリューションズ リミテッド ライアビリティ カンパニー (2)
【Fターム(参考)】