説明

コンタクトレンズ収納ケース

【課題】
安全性が高く、コンタクトレンズに付着したアカントアメーバの繁殖を確実に防止し、もってアカントアメーバに起因する角膜症の防止を図ることのできるコンタクトレンズケースを提供する。
【解決手段】
コンタクトレンズを収納する収納部9、10を有するケース本体6と、前記収納部を開閉可能に閉塞する蓋部11、12を備え、少なくとも前記ケース本体6における収納部の内面、例えばケース本体6の上層7部分を、銀系無機抗菌剤を含有する合成樹脂で構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンタクトレンズを着脱することに起因するアカントアメーバ角膜感染症を防止する銀系無機抗菌剤を含有したコンタクトレンズ収納ケースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズにはソフトタイプ、ハードタイプまたファッション性を重視したカラータイプなど多様なタイプのものが多数の人に使用され、今や日本では1600万人以上の人が使用していると言われている。装用可能な期間も一日限りのディスポーザブルタイプから2、3年の長期に亘るものまである。
【0003】
1974年頃から欧米においてアカントアメーバによる角膜感染症が報告されコンタクトレンズとアカントアメーバとの関連が明らかになった。
アカントアメーバは元来土壌、河川、湖沼など我々人間の生活環境の中で生息している原生生物の一種であり、細菌類を栄養分として取り込み増殖する。栄養分となる細菌数が減少するとシスト状態になって繁殖活動を停止し、また周りの環境が悪くなるとやがて死滅する。
【0004】
ソフトタイプのコンタクトレンズは水和性に富み、細菌類およびアカントアメーバにとっては付着増殖しやすい材料により作られている。
従ってアカウントアメーバ角膜感染症は特にソフトタイプのコンタクトレンズを使用している人が罹患しやすいと言われている。
【0005】
ソフトタイプのコンタクトレンズを使用している人のうち、一日のみ装用可能なタイプのディスポーザブルコンタクトレンズでも4、5日あるいはそれ以上の日数を使用する人が少なからずいる。
目から脱着したコンタクトレンズは水道水あるいはコンタクトレンズ用マルチパーパスソリューション(以下、MPSと呼ぶ)を満たしたレンズケースに収納し再び取り出して目に着装する。
【0006】
この脱着時に細菌類およびアカントアメーバが付着している汚染された手指でレンズを取り扱うと必然的にレンズ表面およびケース内の溶液は汚染されその結果、ケース内に収納されたレンズ表面はますます汚染が進む。
【0007】
感染症の多くは角膜に傷のある人が、汚染されたコンタクトレンズを再使用することが原因であり、清潔かつ適正な取り扱いをすることが感染防止の基本である。
【0008】
汚染されたレンズに付着した細菌類およびアカントアメーバは、煮沸により簡単に死滅する。ところがコンタクトレンズに高温の熱が加わるとレンズに歪みが生じレンズの機能が失われる。
アルコール系、ハロゲン系およびフェノール系の有機系殺菌剤、抗菌剤は目の細胞に対して毒性を示すことから、これらをMPSに入れて利用することは安全性に問題があり実用化されていない。また、多価陽イオンキレート剤を添加したMPSに関する提案もなされているが(例えば、特許文献1参照)、アカントアメーバに対する短時間での効果が十分であるとは言えない。
【0009】
ひとたびアカントアメーバによる角膜感染症に罹患すると、現状では特効薬が無くその治療は極めて困難だと言われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−177515
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、安全性が高く、コンタクトレンズに付着したアカントアメーバの繁殖を確実に防止し、もってアカントアメーバに起因する角膜症の防止を図ることのできるコンタクトレンズケースを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は樹脂製コンタクトレンズケースに銀系無機抗菌剤を添加し、銀基準の濃度が樹脂重量に対して0.005wt%以上の添加で細菌類およびアカントアメーバが死滅または活性を失うことを見出した。
【発明の効果】
【0013】
本発明に使用する銀系無機抗菌剤は安全性が高くまた抗菌スペクトルが広い、細菌に対して耐性獲得性が無い、永続性が高いなどの優れた特徴がある。
【0014】
銀系無機抗菌剤は無機担体に銀化合物を担持することにより製造される。
担持体はゼオライト、水溶性ガラス、リン酸ジルコニウム、シリカゲル、活性炭などがあり、また担持する銀化合物はAgNO、AgO、AgCl0、AgCHCOOなどの組み合わせで製造するが、本発明に使用する銀系抗菌剤はこれらの組み合わせを限定するものではない。また各担持体に保持する銀量も限定するものでない。
【0015】
銀系無機抗菌剤を添加した抗菌製品はまな板をはじめとする台所用品、衣類などの繊維製品、雑貨商品など多数の商品に利用され、市場に広く出回っており、その安全性は十分に確認されている。
【0016】
本発明のケースはケース中のMPS中に浮遊する細菌類およびアカントアメーバを死滅またはシスト状にする機能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るケースの実施例を示す断面図。
【図2】本発明に係るケースの他の実施例を示す断面図。
【図3】本発明に係るケースのさらに他の実施例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るケースは、例えば図1に示されるようにケース本体1の上部に左右のレンズをそれぞれ個別に収納する収納部2、3を独立して備え、各収納部を閉止する蓋部たるスクリューキャップ4、5を着脱可能に備えている。
【0019】
そして、ケース本体1、キャップ4、5ともに合成樹脂製のものとしてあって、少なくともケース本体1を構成する樹脂材料を、銀系無機抗菌剤を含有するもので構成してある。
【0020】
なお、キャップ4、5にもケース本体と同様に銀系無機抗菌剤を含有するものを使用する場合もある。
【0021】
しかして前記銀系無機抗菌剤は、ケース本体を構成する樹脂に対して0.005wt%以上の銀量となるように構成してある。
【0022】
上記銀量によって抗アカントアメーバ性が得られることを検証すべく、以下のとおり試験を行った。
【0023】
<試験1>
ポリプロピレン製コンタクトレンズケース(ケース本体1)にAg0.5wt%を含有するリン酸塩系抗菌剤をそれぞれ0.5wt%、1.0wt%、1.5wt%、2.0wt%、3.0wt%、5.0wt%、添加した試験サンプルケースを製作した。
【0024】
各試験サンプルケースの樹脂中に含まれるAg濃度を換算すると添加量はそれぞれ0.0025wt%、0.005wt%、0.0075wt%、0.01wt%、0.015wt%、0.025wt%となる。
【0025】
各試験サンプルケースの収納部に水道水4mlを入れ1.2×10個/mlに調整したE.coli(IFO3972)0.1mlを入れて植菌した。同時に5.3×10個/mlに調整したアカントアメーバカステラーニ(ATCC30011)0.1mlを加え25℃に保持し6時間放置したE.coliの増殖用培地および感受性培地はベクトン・ディッキンソン
アンド カンパニー社製のDifco(登録商標)NB培地(ニュートリエントブロス培地)を使用し、初発菌数および6時間経過後の菌数を測定した。
【0026】
アカントアメーバの測定は3%過酸化水溶液5ml加えて30分放置し、ピルビン酸ナトリウムを加えて中和処理したメンブランフィルターでろ過し、このフィルターをPYG(プロテオースペプトン−酵母エキス−グルコース)培地にて2週間培養した。培養後のアカントアメーバの生存を目視および顕微鏡で観察した。
結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
上表1に示される結果から、銀量(Ag添加量)がケース本体1を構成する樹脂に対して0.005wt%を超えると、アカントアメーバがほとんど検出されないことが理解でき、また銀量が0.0075wt%以上であるとより効果が高いことがわかる。
【0029】
<試験2>
ポリプロピレン製コンタクトレンズケース(ケース本体1)にAg1.0wt%ゼオライト系抗菌剤をそれぞれ0.25wt%、0.5wt%、0.75wt%、1.0wt%、2wt%、3wt%、5wt%、添加した試験サンプルケースを製作した。各試験サンプルケースの樹脂中に含まれるAg濃度を換算すると添加量はそれぞれ0.0025wt%、0.005wt%、0.0075wt%、0.01wt%、0.02wt%、0.03wt%、0.05wt%となる。
【0030】
各試験サンプルケースの収納部にロート製薬株式会社製ロートCキューブソフトワンモイスト(商品名)MPSを4ml入れ、1.5×10個/mlに調整したS.aureus(IFO12732)0.1mlを入れ植菌した。同時に5.3×10個/mlに調整したアカントアメーバカステラ−ニ(ATCC30011)0.1mlを加え25℃に保持し6時間放置した。S.aureusの増殖用培地および感受性培地はDifco(登録商標)NB培地を使用し初発菌数および6時間経過後の菌数を測定した。
【0031】
アカントアメーバの測定は3%過酸化水素溶液5mlを加えて30分放置しピルビン酸ナトリウムを加えて中和処理したメンブランフィルターでろ過し、このフィルターをPYG (プロテオースペプトン−酵母エキス−グルコース)培地で2週間培養した。培養後のアカントアメーバの生存を目視および顕微鏡で観察した。
結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
上表2に示される結果からも、銀量(Ag添加量)がケース本体1を構成する樹脂に対して0.005wt%を超えると、アカントアメーバがほとんど検出されないことが理解でき、また銀量が0.0075wt%以上であるとより効果が高いことがわかる。
【0034】
<試験3>
試験1で使用したAg0.5wt%リン酸塩系抗菌剤の添加量が同一かつ同一ロットの各試験サンプルケースを使用して、溶出銀イオン量を原子吸光光度計(日立製作所製Z−2310)を使用して以下の条件で測定した。
【0035】
試験サンプルケースに4mlの水道水を入れ20℃に保持し5時間毎に入れ替えて、1回目、3回目、5回目、7回目、10回目の各溶出銀濃度を測定した。
結果を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
上表3の結果から、銀量(Ag添加量)が0.005wt%を超えると、ケースに含まれる銀系無機抗菌剤から収納部内の水道水に、抗アカントアメーバ性に有効な銀が十分に溶出することが理解できる。
【0038】
上述した各試験結果から、銀系無機抗菌剤を含有するケース本体1から収納部2、3内の水道水またはMPSに十分な量の銀が溶出し、この溶出銀がレンズ表面に付着しあるいはレンズ表面から遊離したアカントアメーバに対し、その数を減少させる効果が十分に発揮されることがわかる。
【0039】
上述した実施例のケースは、ケース本体1の樹脂材料に対して銀系無機抗菌剤を添加したものであるが、必ずしもケース本体の樹脂材料全量に対して銀系無機抗菌剤を添加しなければならないものではなく、少なくとも収納部2、3の内面、すなわち水道水やMPS等の保存用に用いられる液に接する部分の樹脂に銀系無機抗菌剤が含まれていればよい。
【0040】
具体的には、図2に示されるようにケース本体6を上下2層構造のもので構成し、下層8には銀系無機抗菌剤を添加しないが、収納部9、10の内面を構成する上層7には銀系無機抗菌剤を添加したものを使用する。
【0041】
この場合、上層7のみに銀系無機抗菌剤を添加するので、同抗菌剤の総使用量を抑えることができ、製造コストの低減を期すことができる。
【0042】
なお、キャップ11、12にも銀系無機抗菌剤を添加する場合、これらキャップも接液側に銀系無機抗菌剤を含有する樹脂よりなる2層構造としてもよい。
また、ケース本体やキャップを2層以上の多層構造としたり、それぞれの表面のみを銀系無機抗菌剤を含有する層としたりする場合もある。
【0043】
また、前記上層7たる銀系無機抗菌剤の含有層を、例えば図3に示すように収納部9、10の内面のみに設ける場合やケース本体6の上面のみに設ける場合もあり、これらの場合には上層7を、銀系無機抗菌剤を含有せしめた、例えば100μm程度のシート材を下層8に融着あるいは接着する。
【0044】
かくすることにより、銀系無菌抗菌剤は図2に示した実施例のものよりも格段にその使用量を低減せしめることができるとともに製造時における素材管理の簡素化を期すことができ、また場合によっては上層7を交換可能にして、経時的に銀系無機抗菌剤からの銀の溶出量が低下しても、上層を交換することにより、使用時に収納部9、10内に満たされる水道水またはMPS中の銀の溶出量を常に高く維持することができるようにすることもできる。
【符号の説明】
【0045】
1 ケース本体
2、3 収納部
4、5 キャップ
6 ケース本体
7 上層
8 下層
9、10 収納部
11、12 キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンタクトレンズを収納する収納部を有するケース本体と、前記収納部を開閉可能に閉塞する蓋部を備え、少なくとも前記ケース本体における収納部の内面を、銀系無機抗菌剤を含有する合成樹脂で構成してなるコンタクトレンズ収納ケース。
【請求項2】
前記銀系無機抗菌剤中を含有する合成樹脂中の銀量を、同合成樹脂重量の0.005wt%以上としてなる請求項1に記載のコンタクトレンズ収納ケース。
【請求項3】
前記銀系無機抗菌剤中を含有する合成樹脂中の銀量を、同合成樹脂重量の0.0075wt%以上としてなる請求項1に記載のコンタクトレンズ収納ケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−48103(P2011−48103A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195964(P2009−195964)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(509024318)
【出願人】(391031764)株式会社シナネンゼオミック (20)
【出願人】(509241638)株式会社サンテック (1)
【出願人】(592168119)大照産業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】