説明

コンタクトレンズ洗浄用シート

本発明の目的は、コンタクトレンズに付着乃至は沈着したタンパク質等の汚れを簡単な洗浄操作で効果的に除去でき、洗浄後のコンタクトレンズをそのまま装用しても眼に対する刺激が実質的にないコンタクトレンズ洗浄用シートを提供することにある。すなわち、本発明は、ヘキサメチレンビグアニド誘導体を含有する洗浄液を、不織布又は織編物に含浸せしめてなることを特徴とするコンタクトレンズ洗浄用シートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズ洗浄用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、コンタクトレンズとしては、装用感に優れた含水性ソフトコンタクトレンズ、高酸素透過性を有するハードコンタクトレンズなどが一般に広く用いられている。これらのコンタクトレンズは、いずれも装用後に洗浄などの手入れを必要とし、特に含水性ソフトコンタクトレンズは、細菌、黴等の微生物による汚染を防ぐために消毒処理を必要とする。コンタクトレンズを洗浄する方法としては、界面活性剤や研磨剤等を含む洗浄液あるいは近年ソフトコンタクトレンズ用として普及しているマルチパーパスタイプの洗浄・消毒・保存液を用いて手指でこすり洗いする方法や、過酸化水素やタンパク質分解酵素を含有する洗浄液に浸け置き洗浄する方法が知られている。
【0003】
しかしながら、手指でのこすり洗いで十分な洗浄効果を得るためには、数回〜数十回のこすり回数が必要であり、手指を洗浄液で濡らさなければならず、操作が煩雑で面倒である。また、こすり洗いの際にレンズを爪等で傷つけたり破損したりする場合がある。このため、手指でのこすり洗いを怠る者が多く、タンパク質等の汚れの蓄積や消毒効果の低下を引き起こす恐れがある。
【0004】
過酸化水素やタンパク質分解酵素を含有する洗浄液での浸け置き洗浄は、洗浄効果が現れるまでに長時間かかるため、急を要する場合には使用できず不便である。
【0005】
そこで、これらのタンパク質汚れ等の洗浄を改善するため、不織布ウエブや吸水性材料に界面活性剤や防腐剤を含む洗浄液を含浸させたコンタクトレンズ洗浄シート(例えば特許文献1、2、3参照)が提案されている。しかしながら、これらの技術では、洗浄液に含まれる眼に刺激を及ぼす成分、防腐剤等、特に防腐剤、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロルヘキシジン塩、ソルビン酸及びそのナトリウム塩等がコンタクトレンズに付着したり吸着したりするという問題がある。
【0006】
また、タンパク質に対して親和性のある繊維からなる不織布又は織布体に、界面活性剤、防腐剤、タンパク質溶解剤、タンパク軟化剤、研磨粒子、酵素、還元剤、過酸化物、キレート剤、塩類(無機塩、有機塩)、pH調整剤、緩衝剤等を配合した洗浄液を含浸処理した洗浄シート(例えば特許文献4、5、6、7、8参照)が開示されている。しかしながら、これらの洗浄シートでは、眼に刺激を及ぼす防腐剤、例えば、安息香酸ナトリウム、4−ヒドロキシ安息香酸メチル、ソルビン酸カリウム等がコンタクトレンズに付着したり吸着したりするため、洗浄液成分をすすぎ水により充分にすすぎ洗いする必要があり、水を使えない場合には使用できないという問題がある。
【0007】
さらに、吸水性シート材に、塩化ナトリウムと塩化カリウムの少なくともいずれかと、防腐剤若しくは防腐剤及びエタノール水を含有する清浄液を含浸させたことを特徴とするコンタクトレンズ用クリーナー(例えば特許文献9、10参照)が開示されている。しかしながら、これらの技術では、該防腐剤として、一般に防腐成分として知られるパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸ナトリウム等、一般に殺菌成分として知られるクロロヘキシジン酸塩、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム等が使用されている。これらの防腐剤は、該クリーナーに使用される吸水性シート材の静菌性、無菌性を確保するために用いられているが、コンタクトレンズに防腐剤が移行してしまい、眼刺激を惹き起こしていた。
【特許文献1】特公平1−46047号公報
【特許文献2】特開平6−317769号公報
【特許文献3】特公平7−74865号公報
【特許文献4】特開2000−19464号公報
【特許文献5】特開2000−19465号公報
【特許文献6】特開2000−19466号公報
【特許文献7】特開2000−19467号公報
【特許文献8】特開2000−19468号公報
【特許文献9】特開2002−296550号公報
【特許文献10】特開2002−296551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかして、本発明の目的は、コンタクトレンズに付着乃至は沈着したタンパク質等の汚れを簡単な洗浄操作で効果的に除去でき、洗浄後のコンタクトレンズをそのまま装用しても眼に対する刺激が実質的にないコンタクトレンズ洗浄用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、コンタクトレンズ洗浄用シートに使用される不織布又は織編物の無菌性を確保でき、かつ洗浄用シートでコンタクトレンズを洗浄する際、コンタクトレンズに移行しないような防腐剤や殺菌剤について鋭意検討したところ、後述の一般式(I)で示されるヘキサメチレンビグアニド誘導体が、意外にも不織布又は織編物の素材に対して吸着しやすい性質を有しており、該誘導体を含む洗浄液と不織布又は織編物とを組み合わせて洗浄用シートを作製したところ、不織布又は織編物の無菌性を確保でき、しかも該洗浄用シートでコンタクトレンズを洗浄する際、該誘導体がコンタクトレンズに移行し難いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1]以下の一般式(I):
【化1】

で示されるヘキサメチレンビグアニド誘導体を含有する洗浄液を、不織布又は織編物に含浸せしめてなることを特徴とするコンタクトレンズ洗浄用シート;
[2]洗浄液中のヘキサメチレンビグアニド誘導体の含有量が0.1〜10ppmである上記[1]記載のシート;
[3]ヘキサメチレンビグアニド誘導体がポリヘキサメチレンビグアニドである上記[1]又は[2]記載のシート;
[4]不織布又は織編物が、その材質にポリオレフィン、ポリエステル及びポリアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものである、上記[1]〜[3]いずれか記載のシート;
[5]不織布又は織編物が、その材質にポリエステルとポリアミドとを含むものである上記[4]記載のシート;
[6]不織布又は織編物が、平均繊維径0.3〜10μmの繊維を含むものである上記[4]又は[5]記載のシート;
[7]不織布又は織編物が、非丸型断面の繊維を含むものである上記[4]〜[6]いずれか記載のシート;
[8]不織布又は織編物が、芯鞘構造を有するバインダー繊維を含むものである上記[4]〜[7]いずれか記載のシート;
[9]上記[1]に記載の洗浄液と不織布又は織編物とを備えてなるコンタクトレンズ洗浄用キット
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コンタクトレンズを軽くこするだけで、コンタクトレンズ表面上に沈着乃至付着したタンパク質等の汚れを効果的に除去でき、しかも洗浄後のコンタクトレンズをそのまま装用しても眼に対して実質的に刺激を与えることのないコンタクトレンズ洗浄用シートが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明について詳細に説明する。本発明のコンタクトレンズ洗浄用シート(以下、洗浄用シートという場合がある)は、洗浄液を不織布又は織編物に含浸せしめてなるものであり、該洗浄液が前記一般式(I)で示されるヘキサメチレンビグアニド誘導体を含有してなるものであることを1つの大きな特徴とする。
【0013】
まず、洗浄液の詳細について説明する。本発明の洗浄液は、溶媒である水に以下に述べるような各種成分を常法により混合して溶解させることにより調製することができる。水としては、特に限定されるものではなく、水道水、蒸留水、精製水等の任意の水を用いることができる。なお、溶媒としての水には、眼刺激を実質的に起こさない範囲であれば、水以外の溶媒成分が含まれていてもよい。溶媒は、洗浄液中、各種成分を除いた残部を構成する。
【0014】
前記一般式(I)で示されるヘキサメチレンビグアニド誘導体は、本発明において防腐剤又は殺菌剤として用いられる。
【0015】
該ヘキサメチレンビグアニド誘導体には、ヘキサメチレンビグアニド及びヘキサメチレンビグアニドのポリマー(すなわち、ポリヘキサメチレンビグアニド)が含まれる。ここで、ポリマーとは、ヘキサメチレンビグアニド誘導体の重合度を表わす、前記一般式(I)におけるnが2以上のものをいう。当該nとしては、好ましくは2〜500の範囲であり、より好ましくは2〜300の範囲であり、さらに好ましくは4〜200の範囲である。nは、コンタクトレンズを構成する樹脂のポリマー鎖間への該誘導体の取り込みが実質的にないことから2以上であるのが好ましく、一方、良好な殺菌性能を得る観点から、500以下であるのが好ましい。よって、本発明
のヘキサメチレンビグアニド誘導体としては、ポリヘキサメチレンビグアニドであるのが好ましい。なお、該誘導体は、塩酸塩、ホウ酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩、スルホン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等の塩であってもよい。
【0016】
本発明で使用するヘキサメチレンビグアニド誘導体は市販されているので、それを用いることができる。市販品としては、例えば、[ArlagardE」、[CosmocilCQ」、「ProxelIB」、「VantocilIB」〔以上、アビシア(株)製、商品名〕、「Mikrokill」、「Mikrokill20」〔以上、ブルックス(Brooks)社製、商品名〕等が挙げられる。なお、これらの市販品中のヘキサメチレンビグアニド誘導体のnは約12である。
【0017】
前記ヘキサメチレンビグアニド誘導体は、任意のものを単独で若しくは2種以上を混合して用いることができる。
【0018】
本発明の洗浄液中の前記ヘキサメチレンビグアニド誘導体の含有量としては、良好な殺菌作用を発現させ、かつ充分に眼刺激を抑制する観点から、好ましくは0.1〜10ppmの範囲であり、より好ましくは0.5〜5ppmの範囲である。なお、「ppm」とは、洗浄液100万重量部中の該誘導体の重量部で表した該誘導体の濃度を表わす。
【0019】
本発明のヘキサメチレンビグアニド誘導体は本発明に用いる不織布あるいは織編物に対して吸着作用を示し、ひいては不織布あるいは織編物の減菌作用を発現する。また、吸着した該誘導体は本発明に用いる不織布あるいは織編物から脱着し難いため、本発明の洗浄用シートを構成する不織布あるいは織編物からの溶出が少なく、従って、本発明の洗浄用シートで洗浄した後に水ですすぎ洗いすることなく直ちにコンタクトレンズを装用しても眼刺激は実質的に生じない。また、該誘導体がコンタクトレンズに蓄積することも実質的にない。
【0020】
本発明の洗浄液には、コンタクトレンズと洗浄用シートとの摩擦を少なくしてレンズの破損の防止をより充分なものとする観点から、増粘性を高める性質を有する高分子化合物を添加してもよい。該高分子化合物としては、ポリビニルピロリドン系重合体、ポリビニルアルコール系重合体等のビニル系重合体、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体、ゼラチンなどの水溶性高分子が挙げられる。これらの高分子化合物は単独で若しくは2種以上を混合して用いることができる。本発明の洗浄液中の該高分子化合物の含有量としては、好ましくは0.01〜1重量%、より好ましくは0.05〜0.3重量%である。
【0021】
一般に人間の涙液のpHは約7、浸透圧は約290mOsmである。本発明の洗浄用シートで洗浄したコンタクトレンズをそのまま装用する場合、少量の洗浄液が眼に入ることになる。それゆえ、洗浄液は涙液に近いpH及び/又は浸透圧に調節しておくのが好ましい。
【0022】
本発明の洗浄液のpHとしては、眼に対する充分な安全性を確保する観点から、好ましくは6〜8の範囲であり、より好ましくは6.5〜7.5の範囲である。洗浄液のpHの調整には少なくとも1種の緩衝剤を用いるのが好ましい。かかる緩衝剤としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択すればよい。緩衝剤としては、例えば、ホウ酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、トリス緩衝剤〔トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝剤〕、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤等が挙げられる。これらの中でも眼に対する刺激が低いこと及びコンタクトレンズへの影響が少ないことからリン酸緩衝剤が好ましい。リン酸緩衝剤としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムが、一般に広く用いられており、入手が容易であるので、本発明において好適に使用される。これらの緩衝剤は単独で若しくは2種以上を混合して用いることができる。洗浄液中の緩衝剤の含有量は、所望の効果が得られるように適宜選択すればよい。
【0023】
一方、本発明の洗浄液の浸透圧としては、pHと同様の観点から、好ましくは200〜400mOsmの範囲であり、より好ましくは250〜350mOsmの範囲である。洗浄液の浸透圧の調整には等張化剤を用いるのが好ましい。かかる等張化剤としては、眼科的に許容できる化合物であれば特に制限はなく、塩化ナトリウム、塩化カリウム、重炭酸ナトリウム等の無機塩類;グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール等のグリコール類;これらのグリコール類の平均分子量1000以下の重合体等の非イオン性有機化合物;及びこれらを組み合わせたものが挙げられる。洗浄液中の等張化剤の含有量は、所望の効果が得られるように適宜選択すればよい。
【0024】
また、装用されたコンタクトレンズの表面上に、本発明の洗浄用シートによる洗浄前に沈着している多価金属イオンを取り除く目的で、本発明の洗浄液に金属イオン封鎖剤を添加しても良い。金属イオン封鎖剤としては、眼科的に許容される化合物であれば特に制限はなく、例えば、エチレンジアミン四酢酸、グルコン酸、クエン酸、酒石酸等の多価カルボン酸及びそれらのナトリウム塩、カリウム塩等の塩等を挙げることができる。これらの金属イオン封鎖剤は単独で若しくは2種以上を混合して用いることができる。洗浄液中の金属イオン封鎖剤の含有量は、所望の効果が得られるように適宜選択すればよい。
【0025】
コンタクトレンズに付着した汚れをより効果的に洗浄・除去する等の観点から、本発明の洗浄液に、コンタクトレンズとの適合性が許容される範囲で適宜界面活性剤を添加することができる。ここで、「コンタクトレンズとの適合性が許容される範囲」とは、眼刺激が実質的になく、レンズへの吸着やレンズの形状変化が実質的に生じない範囲をいう。添加可能な界面活性剤としては任意の非イオン性界面活性剤が挙げられる。中でも、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドのブロック共重合体が好適に使用される。非イオン性界面活性剤はそれぞれ単独で若しくは2種以上を混合して用いることができる。洗浄液中の非イオン性界面活性剤の含有量は、所望の効果が得られるように適宜選択すればよい。なお、本発明の所望の効果の発現を阻害しない範囲であれば、カチオン性界面活性剤やアニオン性界面活性剤が含まれていてもよい。
【0026】
また、本発明の洗浄液に、洗浄力をより向上させるために、酵素やタンパク軟化剤を添加してもよい。コンタクトレンズの表面に沈着したタンパク質等の汚れは洗浄液に含有された酵素やタンパク軟化剤により分解され得、コンタクトレンズの清浄性が向上する。かかる酵素やタンパク軟化剤としては、眼科的に許容される化合物であれば特に制限はなく、例えば、眼科領域において公知のプロテアーゼ、リパーゼ、尿素、グリシン等を挙げることができる。酵素やタンパク軟化剤はそれぞれ単独で若しくは2種以上を混合して用いることができる。洗浄液中のそれらの含有量は、所望の効果が得られるように適宜選択すればよい。
【0027】
また、本発明の洗浄液には、上記成分の他、所望により、公知の香料、清涼化剤、研磨剤等を適宜添加してもよい。
【0028】
次に、本発明に用いられる不織布又は織編物について説明する。不織布又は織編物は、本発明の洗浄液の支持体として機能することから、以下においては、両者をまとめて支持体という場合がある。
【0029】
本発明の不織布又は織編物は、一般的には主体繊維、又は主体繊維とバインダー繊維との混合物から構成される。主体繊維とは、本発明の不織布又は織編物を構成する繊維中、バインダー繊維以外の繊維をいう。また、本明細書において繊維との記載は、特にバインダー繊維と記載する以外は、通常、主体繊維を指すものとする。
【0030】
本発明の洗浄用シートの支持体の形状としては、特に限定されるものではないが、使用の利便性を考慮すると、薄手のシート状、例えば、厚さが、好ましくは0.001〜3mm、より好ましくは0.01〜1mm、縦の長さが、好ましくは10〜200mm、より好ましくは30〜100mm、横の長さが、好ましくは10〜200mm、より好ましくは30〜100mmのシート状であるのが好ましい。また、支持体の目付としては、通常、10〜100g/m程度であるのが好ましい。
【0031】
支持体としては、公知の任意の不織布又は織編物を使用することができ、その製造方法は特に限定されるものではない。大量に且つ安価に支持体を製造する観点から、支持体としては不織布が好ましい。
【0032】
主体繊維単独または主体繊維およびバインダー繊維の混合物を機械的に編み込むことにより、又は織り込むことにより織編物を、繊維を積層し接着又は絡合することにより不織布を得ることができる。
【0033】
不織布を製造する際に、繊維(主体繊維とバインダー繊維との混合物の場合を含む)を積層させる方法としては、乾式法〔短繊維(25〜100m/m)を、カードと呼ばれる機械やエアレイと呼ばれる空気流で繊維を一定方向又はランダムに並べて積層体を形成する方法〕、湿式法(紙を作る場合と同じように、ガラス繊維やパルプ原料のような極短い繊維を水中に分散し網状のネットを漉き上げて積層体を形成する方法)、スパンボンド法又はメルトブロー法(溶かした原料樹脂をノズルの先から溶出・紡糸させ、ネット上で連続した長い繊維の積層体を直接形成する方法)等が挙げられる。
【0034】
また、ウェブ(繊維からなる積層体)同士を接着する方法としては、ケミカルボンド法(エマルジョン系の接着樹脂を含浸あるいはスプレー等の方法でウェブに付着させ、加熱して繊維の交点を接着する方法)、サーマルボンド法(熱融着の1つで、熱融着繊維を混合したウェブを熱圧着又は熱処理して繊維同士を接着させる方法であり、具体的には、エアスルー法、フラットカレンダー法、エンボスカレンダー法等が挙げられる)、ニードルパンチ法(ウェブを梗塞で上下するニードル(針)で繰り返し突き刺し、繊維を絡ませて結合する方法であるが、この方法だけで製品化するものは少なく、通常、別の接着法と組み合わせて用いられる)、水流絡合法(ウェブに高圧の水流を柱状に噴射して繊維を絡ませて結合する方法)等が挙げられる。
【0035】
支持体を構成する繊維の材質も特に限定されるものではない。本発明の支持体の材質としては、例えば、コットン、レーヨン、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン)、ポリビニルアルコール系重合体(ポリビニルアルコール、エチレン変性ポリビニルアルコール等)、ポリアミド(PA6、PA66、PA6−12、各種ナイロン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリ乳酸等)、ポリアクリロニトリル、ポリウレタンの1もしくは2種以上からなるものを挙げることができる。本発明の支持体は、これらの材質からなる繊維を単独で又は任意の割合で混合して調製することができる。なお、それらの材料は任意に変性処理されたものであってもよい。
【0036】
ポリオレフィン、ポリアミド及びポリエステルは前記ヘキサメチレンビグアニド誘導体をより容易に吸着することから、支持体の材質としては、ポリオレフィン、ポリアミド及びポリエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むのが好ましい。よって、かかる好ましい材質の繊維からなる不織布又は織編物に対しヘキサメチレンビグアニド誘導体を含有する洗浄液を含浸せしめて本発明の洗浄用シートを作製するのがより好ましい。それにより、洗浄用シートを構成する不織布又は織編物を衛生的に保つことができ、また、前記ヘキサメチレンビグアニド誘導体の不織布又は織編物からの溶出量を著しく低減でき、眼刺激をより効果的に抑制することができる。なお、支持体の材質中に含まれる、ポリオレフィン、ポリアミド及びポリエステルの合計含有量としては、好ましくは10〜100重量%、より好ましくは30〜100重量%である。
【0037】
また、洗浄用シート及びそれを構成する不織布又は織編物をさらに高いレベルで衛生的に保つためには、不織布又は織編物に洗浄液を含浸させた後、滅菌処理を行ってもよい。滅菌方法としては限定されないが、簡便性等の観点から、オートクレーブ滅菌が一般的に用いられる。その際の不織布又は織編物の材質としては、良好な耐滅菌性を発揮させる観点から、ポリアミド及び/又はポリエステルを含むのが好ましい。ポリアミド及びポリエステルの合計含有量としては、好ましくは20〜100重量%、より好ましくは50〜100重量%である。
【0038】
さらに、支持体に洗浄液をより容易に含浸させ、かつ得られる洗浄用シートの強度を高める観点から、支持体の材質としてはポリアミドとポリエステルとを含むのがより好ましい。ポリアミドとポリエステルの合計含有量としては、好ましくは20〜100重量%、より好ましくは50〜100重量%である。また、不織布又は織編物に含まれるポリエステルとポリアミドの重量比(ポリエステル:ポリアミド)としては4:1〜1:4であるのが好ましく、2:1〜1:2であるのがより好ましい。
【0039】
なお、支持体の耐滅菌性、吸水性及び強度の向上の観点から、ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート等が、ポリアミドとしては、PA6、PA66等が好ましい。
【0040】
また、支持体を構成する繊維に平均繊維径が、好ましくは0.3〜10μm、より好ましくは0.3〜7μmの極細繊維を用いることにより、支持体への洗浄液の含浸量を多くすることができ、支持体により高い柔軟性を付与できる。極細繊維を製造する方法としては、海島構造の繊維の海成分を除去する方法、又は分割性繊維を水流等で割繊して得る方法が知られているが、後者の方法が一般的に使用される。なお、平均繊維径は、繊維断面積と同一面積を有する円の直径に換算して求める。支持体中の該極細繊維の含有量としては、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは70〜100重量%である。
【0041】
さらに支持体のワイピング性(汚れを除去する能力)を高くする観点から、支持体を構成する繊維に非丸型断面の繊維を含むのが好ましく、非丸型断面の前記極細繊維を含むのがより好ましい。ここで、「非丸型断面」とは厳密なものではなく、例えば、電子顕微鏡(倍率:3000倍程度)により繊維断面を観察した際に一見して丸型ではなく、例えば角を少なくとも3つ以上有する形状であり、より具体的には三角形、四角形等の多角形、または楕円等の扁平形状と判断し得る程度の形状をいう。支持体中の非丸型断面の繊維の含有量としては、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは70〜100重量%である。
【0042】
本発明の洗浄用シートにおいては、コンタクトレンズの汚れを拭き取った際、洗浄用シートから脱離した繊維(リント)がコンタクトレンズに付着することを避けるほうが好ましい。この目的のためには支持体として長繊維からなる織編物又はスパンボンド不織布を用いるのが好ましい。また、短繊維からなる不織布を用いる場合は、水流絡合等の絡合処理や、バインダー繊維を用いることにより、拭き取り時のリントの発生を抑えることができる。
【0043】
バインダー繊維としては、芯鞘構造(芯:繊維形成性樹脂、鞘:バインダー樹脂)を有しているものが好ましく、また、鞘成分樹脂としては、芯成分より低い融点を持つ樹脂、またはガラス転移温度が低く、かつ熱接着性を有するものが好ましい。バインダー繊維は特に限定されないが、芯成分がポリエチレンテレフタラート、かつ鞘成分が変性ポリエチレンテレフタラートであるものや、芯成分がポリプロピレン、かつ鞘成分がポリエチレンであるもの等が一般に用いられる。バインダー繊維として具体的には、(株)クラレ社製「ソフィットN720」(商品名)等が挙げられる。
【0044】
バインダー繊維は、支持体に任意に混合して用いればよいが、洗浄用シートの強度を良好に保ち、かつリントの発生を充分に抑える観点から、バインダー繊維の含有量としては、支持体中、好ましくは5〜30重量%、より好ましくは5〜25重量%である。よって、この場合、支持体中の主体繊維の含有量としては、好ましくは70〜95重量%、より好ましくは75〜95重量%である。なお、支持体にバインダー繊維が含まれる、含まれないに関わりなく、前記の通り、オートクレーブ滅菌等の処理を適宜行ってもよい。
【0045】
本発明の不織布又は織編物としては、主体繊維が、その材質にポリエステルとポリアミドとを含む平均繊維径0.3〜10μm、特に非丸型断面の極細繊維からなり、さらに、芯鞘構造を有するバインダー繊維を含有するものが特に好適である。
【0046】
本発明の洗浄用シートの吸水性としては、特に限定されるものではないが、支持体に洗浄液を含浸させて得られる洗浄用シートの柔軟性の向上の観点から、好ましくは100〜5000%、より好ましくは700〜1400%程度である。なお、洗浄用シートの吸水性とは、具体的には支持体の吸水性をいう。吸水性は後述の実施例に記載の方法により求められる。
【0047】
本発明の洗浄用シートは、前記ヘキサメチレンビグアニド誘導体を含有する洗浄液を所望の形状を有する不織布又は織編物に公知の方法により含浸せしめることにより得られる。含浸の形態としては、洗浄液が不織布又は織編物の全体に均一に含浸されているのが好ましい。洗浄用シートにおける洗浄液の含有量は、使用する不織布又は織編物の上記吸水性等を考慮して適宜設定することができる。
【0048】
以上のようにして得られる本発明の洗浄用シートは、コンタクトレンズに直接あてて、軽くこすることにより使用される。それにより、該コンタクトレンズに付着乃至は沈着したタンパク質等の汚れを効果的に除去することができ、しかも洗浄後はそのまま眼に装用することができる。また、所望であれば、コンタクトレンズを本発明の洗浄用シートに挟んだ状態で保存したり、引き続き市販のレンズケースと洗浄液等を用いて消毒や保存などを行うことができる。
【0049】
本発明の洗浄用シートに対し、所望により、滅菌操作や包装などを行うことができる。本発明の洗浄用シートは、包装材に収納し密封された形態とし、使用の際に開封して取り出すことができるようなものとすれば、含浸された洗浄液の洗浄用シートからの乾燥が防止され、使用の簡便性に優れ、携帯性もよく便利である。かかる洗浄用シートとそれを収納する包装材からなる洗浄用具において、包装材の形態は、特に限定されるものではないが、袋状物であることが携帯性の点で好ましく、また、包装材の素材としては、洗浄用シートの乾燥防止の点及び開封のしやすさの点から、水蒸気透過性の低いフィルムであることが好ましい。上記の洗浄用シートを包装材に収納してなる洗浄用具では、包装材中の洗浄液の全量が、前記の洗浄用シートの吸水性を超えるような量であってもよい。包装材中に洗浄液が洗浄用シートの吸水性を超えるような量で含まれる場合、該包装材は、本発明の洗浄用シート(支持体及び洗浄液)と余剰の洗浄液を収納することとなる。したがって、上記洗浄用具において、包装材中に存在する洗浄液の全量は、広い範囲から任意に選択することができるが、通常、洗浄用シートの支持体(不織布又は織編物)100重量部に対し100〜10000重量部が好ましく、100〜5000重量部がより好ましく、300〜2000重量部がさらに好ましい。かかる洗浄用具の製造方法としては、特に制限されないが、例えば、1.ヘキサメチレンビグアニド誘導体を含有する洗浄液を所望の形状を有する不織布又は織編物に予め添加し、含浸させた後に包装する方法、2.所望の形状を有する不織布又は織編物を予め包装材に充填した後に、包装材にヘキサメチレンビグアニド誘導体を含有する洗浄液を添加する方法等が挙げられる。
【0050】
また、本発明の一態様として、前記洗浄液と、不織布又は織編物(好ましくはシート状)とを備えてなるコンタクトレンズ洗浄用キットを提供する。かかるキットは、その使用時に、洗浄液を不織布又は織編物に適量含浸せしめて本発明の洗浄用シートを得、使用される。なお、該キットには、使用方法等を記載した説明書等を任意に含ませてもよい。
【0051】
本発明の洗浄用シート又はキットの使用対象であるコンタクトレンズとしては、特に限定されず、装用感に優れたソフトコンタクトレンズ、高酸素透過性を有するハードコンタクトレンズ、非含水コンタクトレンズ等を挙げることができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例等により具体的に説明するが、本発明はそれらにより何ら限定されない。以下の実施例等において使用した測定方法又は評価方法をまとめて示す。
【0053】
(1)眼刺激性
コンタクトレンズ協会自主基準に準じて、ソフトコンタクトレンズ(クラレメディカル社製、商品名「クララソフトファシル」;度数−3.00、直径14.0mm、ベースカーブ8.70mm)及びハードコンタクトレンズ(クラレメディカル社製、商品名「クララスーパーオーEX」;度数−3.00、直径8.8mm、ベースカーブ7.75mm)(以下、両者を併せてコンタクトレンズという場合がある)に対し、作製した洗浄用シートで1ヶ月間洗浄を行なった状態に相当する状態を形成する処理を行った。処理後のコンタクトレンズを生理食塩水による抽出操作に供し、得られた抽出液についてドレーズ法による家兎眼刺激試験を行った。
【0054】
(2)洗浄用シート保存中の菌の発生
日本薬局方無菌試験、及び保存効力試験に準じて洗浄用シート保存中の菌の発生を評価した。
【0055】
(3)タンパク質汚れの洗浄効果
(タンパク質汚染コンタクトレンズの作製)
バイアル瓶(5mL容)の中に以下の組成となる人工涙液(2mL)及びコンタクトレンズを入れ、2時間にわたり浸漬及び加熱(100℃)処理を行なってタンパク質汚染コンタクトレンズを作製した。
【0056】
人工涙液組成(人工モデル混合汚れ液):
卵白アルブミン0.38重量%、リゾチーム0.12重量%、牛血清γ−グロブリン0.16重量%、精製水 残部。
【0057】
(洗浄力試験)
タンパク質汚染コンタクトレンズを洗浄用シートで挟み、洗浄用シートの上から5秒間こすって洗浄した後、タンパク質抽出試薬(1%SDS/1%NaCO)に該コンタクトレンズを18時間にわたって浸漬してタンパク質を抽出し、得られた抽出液のタンパク質濃度(μg/mL)をBCA法で測定した。次いで、以下の式:
洗浄力(%)=
〔1−(洗浄後レンズでのタンパク質濃度/汚染レンズでのタンパク質濃度)〕×100
により、洗浄用シートによるコンタクトレンズの洗浄力(%)を求め、得られた洗浄力の値により、以下の評価基準に従って洗浄用シートのタンパク質汚れの洗浄効果を評価した。
〔評価基準〕
×:洗浄力(%)が0〜50%
△:洗浄力(%)が51〜80%
○:洗浄力(%)が80%以上
【0058】
(4)洗浄用シート中の殺菌成分又は防腐成分の含有量及び溶出量
洗浄用シート中の殺菌成分又は防腐成分の含有量は、以下の式:
含有量(μg)=
洗浄液中の殺菌成分又は防腐成分の濃度(ppm)×含浸洗浄液量(mL)
により求めた。また、作製した洗浄用シートを開放系にて室温(25℃)で2時間保存後、各洗浄用シートを10mLの生理食塩水中に入れて2時間にわたって室温で攪拌した。該生理食塩水に対し紫外可視吸光度測定(吸光度:237nm)を行ない、予め作成しておいた検量線をもとに生理食塩水中の殺菌成分又は防腐成分の濃度を求めた。次いで、以下の式:
溶出量(μg)=
生理食塩水中の殺菌成分又は防腐成分の濃度(ppm)×生理食塩水量(mL)
により殺菌成分又は防腐成分の溶出量を求めた。
【0059】
(5)耐滅菌性
洗浄用シートを耐オートクレーブ性を有する包装資材で包装し、121℃、1.2×10Paで40分間、オートクレーブ滅菌処理を行い、以下の評価基準によって耐滅菌性を評価した。
〔評価基準〕
×:洗浄用シートに変形が認められる
△:洗浄用シートに変形は認められないが、包装容器への貼り付きが認められる
○:洗浄用シートに変形も包装容器への貼り付きも認められない
【0060】
(6)吸水性
洗浄用シートに支持体として用いるシート素材を約0.1gずつに裁断し、その重量(W)を測定した。裁断したシート素材に対し、裁断前の該シート素材1cmあたり1.2mL相当量の蒸留水を加え、室温(25℃)で平衡になるまで湿度調整なしの開放系で放置した(約30分間程度)。その後、ピンセットでシートの角を持ち上げて液切り(約30秒程度)した後、膨潤したシート素材の重量(W)を測定した。なお、吸水性は以下の式により算出した。
吸水性(%)=((W−W)/W)×100
【0061】
(7)傷つき性
コンタクトレンズ協会自主基準に準じて、ハードコンタクトレンズ(クラレメディカル社製、商品名「クララスーパーオーEX」;度数−3.00、直径8.8mm、ベースカーブ7.75mm)に対し、作製した洗浄用シートで1ヶ月間洗浄を行なった状態に相当する状態を形成する処理を行った。以下の評価基準によって、洗浄用シートでの洗浄によるコンタクトレンズの傷つき性を評価した。
〔評価基準〕
×:肉眼で傷が確認できる
△:ルーペ(倍率:10倍)で傷が観察される
○:傷が認められない
【0062】
(8)洗浄用シートの破損
コンタクトレンズ協会自主基準に準じて、ハードコンタクトレンズ(クラレメディカル社製、商品名「クララスーパーオーEX」;度数−3.00、直径8.8mm、ベースカーブ7.75mm)に対し、作製した洗浄用シートで1ヶ月間洗浄を行なった状態に相当する状態を形成する処理を行った。以下の評価基準によって、洗浄に使用した後の洗浄用シートの破損の程度について評価した。
〔評価基準〕
×:肉眼で破損が確認できる
△:ルーペ(倍率:10倍)で微小な破れが観察される
○:破損が認められない
【0063】
(9)リントの付着
ソフトコンタクトレンズ(ジョンソン アンド ジョンソン社製、商品名「2weekアキュビュー」;度数−3.00、直径14.0mm、ベースカーブ8.70mm)を10分間、洗浄用シートで擦った。以下の評価基準によってレンズに対する洗浄用シートから脱落した繊維(リント)の付着の程度を評価した。
〔評価基準〕
×:肉眼でリントの付着が観察される
△:ルーペ(倍率:10倍)でリントの付着が観察される
○:リントの付着が認められない
【0064】
参考例1
エチレン変性ポリビニルアルコール(EVAL)〔(株)クラレ製、E112YS、エチレン含量44モル、MI 12g/10分〕とポリプロピレン(PP)〔出光石油化学(株)製、Y3002G、MI 30g/10分〕を表1に示した割合で混合したものを原料とした11層の張合わせ型分割繊維のショートカット(繊維径10μm、カット長5mm)を用い、抄紙後水流絡合処理を施し、平均繊維径が約0.9μm、目付約60g/mの湿式スパンレース(EVAL/PP)を作製した。なお、構成繊維の断面は非丸型(より詳細には、扁平な四角形)であった。
【0065】
参考例2
ポリプロピレン(PP)〔出光石油化学(株)製、Y3002G、MI 30g/10分〕を島成分、熱可塑性ポリビニルアルコール〔(株)クラレ製、エクセバールCP4104B2〕を海成分とし、海島重量比率が70:30である36島の海島複合繊維のフィラメント(繊維径20μm、カット長5mm)を製糸し、編地とした後に90℃の熱水で海成分を溶解除去して平均繊維径約0.4μmの極細ポリプロピレン繊維からなる、目付85g/mの編地(pp)を作製した。
【0066】
参考例3
参考例2に用いたポリプロピレンの代わりに、ポリエチレンテレフタラート〔固有粘度0.51(フェノール/テトラクロロエタンの等重量混合溶媒にて30℃で測定)〕、また、熱可塑性ポリビニルアルコールの代わりに低密度ポリエチレン(三井化学(株)製、ミラソンFL60、MI 70g/10分)を用いたこと以外は参考例2と同様にして編地とし、90℃のトルエンで海成分を溶解除去して平均繊維径約0.4μmの極細ポリエチレンテレフタラート繊維からなる、目付85g/mの編地(PET)を作製した。
【0067】
参考例4
参考例2に用いたポリプロピレンの代わりにナイロン6(宇部興産社製、UBEナイロン、1013BK1)を用い、また、熱可塑性ポリビニルアルコールの代わりに固有粘度0.51(フェノール/テトラクロロエタンの等重量混合溶媒にて30℃で測定)でスルホイソフタル酸5モル%、エチレングリコール4モル%変性のポリエチレンテレフタラートを用いたこと以外は参考例2と同様にして編地とした後に、98℃の40g/Lの水酸化ナトリウム水溶液で海成分を溶解除去して平均繊維径約0.4μmの極細ナイロン6繊維からなる、目付85g/mの編地(Ny)を作製した。
【0068】
参考例5
参考例1のエチレン変性ポリビニルアルコール及びポリプロピレンを用いる代わりに、参考例3と4でそれぞれ用いたポリエチレンテレフタラート及びナイロン6を表1に示した割合で用い、紡糸条件を適宜変更したこと以外は参考例1と同様にして11層の張合わせ型分割繊維のショートカット(繊維径20μm、カット長5mm)を用い、抄紙後水流絡合処理を施し、平均繊維径が約1.8μm、目付約60g/mの湿式スパンレース(PET/Ny)を作製した。なお、構成繊維の断面は非丸型(より詳細には扁平な四角形)であった。
【0069】
参考例6
参考例5に準じて、ポリエチレンテレフタラートとナイロン6とを表1で示す各割合で用いて作製したポリエチレンテレフタラートとナイロン6の11層の張合わせ型分割繊維、及びバインダー繊維〔(株)クラレ社製、ソフィットN720〕を表1に示す割合で用い、抄紙後水流絡合処理を施し、平均繊維径が約1.8μm、目付約60g/mの湿式スパンレース(PET/Ny)を作製した。なお、構成繊維の断面は非丸型(より詳細には扁平な四角形)であった。
【0070】
参考例7
参考例6に用いたポリエチレンテレフタラートとナイロン6の11層の張合わせ型分割繊維の代わりにポリエチレンテレフタラートと参考例2と同様のポリプロピレンの11層の張合わせ型分割繊維を用いたこと以外は参考例6に準じて、抄紙後水流絡合処理を施し、平均繊維径が約1.8μm、目付約60g/mの湿式スパンレース(PET/PP)を作製した。なお、構成繊維の断面は非丸型(より詳細には扁平な四角形)であった。
【0071】
参考例8
コットンを原料とした不織布〔旭化成せんい(株)製、ベンリーゼSP−204〕を支持体として用いた。
【0072】
実施例1〜18及び比較例1〜7
以下の表1に示す参考例の各シート素材(5cm×5cm、厚さ0.5mm)に、以下の表2に示す組成〔表中、水1(L)とは洗浄液の全体を水で1Lとしたことを意味し、PHMBとはポリヘキサメチレンビグアニドを示し、アビシア(株)製、商品名「CosmocilCQ」を用いた〕を有する洗浄液各1mLを含浸させて、実施例1〜18及び比較例1〜7の洗浄用シートをそれぞれ作製した。該洗浄用シートにつき、(1)眼刺激性、(2)洗浄用シート保存中の菌の発生、(3)タンパク質汚れの洗浄効果、及び(4)洗浄用シート中の殺菌成分又は防腐成分の含有量及び溶出量について測定又は評価した。これらの結果を以下の表3に示す。なお、表中、「SCL」とはソフトコンタクトレンズを、「HCL」とはハードコンタクトレンズを示す。
【0073】
また、実施例9〜18の洗浄用シートについて、(5)耐滅菌性、(6)吸水性、(7)傷つき性、(8)シートの破損、(9)リントの付着について測定又は評価した。これらの結果を以下の表4に示す。
【0074】
比較例8
以下の表2に示す組成を有する殺菌成分又は防腐成分を含まない洗浄液を調製し、不織布又は織編物に含浸させていない状態で用いて該洗浄液の(1)眼刺激性を評価した。また、不織布又は織編物を使用せず、該洗浄液3mLでタンパク質汚染コンタクトレンズをすすぎ洗いした後、洗浄液3mLに室温にて4時間浸漬し、(3)タンパク質汚れの洗浄効果を評価した。これらの結果を以下の表3に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
表3の結果より、本発明品である実施例1〜18のヘキサメチレンビグアニド誘導体(PHMB)を含有する洗浄液を不織布又は織編物に含浸せしめてなる洗浄用シートは、PHMBの溶出量が少なく眼刺激がなく、菌の発生がなく、洗浄性能にも優れることが分かる。
【0080】
一方、洗浄液中に塩化ベンザルコニウムを50μg含む比較例1及び5では、コンタクトレンズに殺菌成分が移行してしまい、眼刺激を惹き起こしてしまう。さらに、比較例1より塩化ベンザルコニウムの含有量を5μgまで低下させた比較例2においても、コンタクトレンズに塩化ベンザルコニウムが移行してしまい、眼刺激を惹き起こしてしまう。また、洗浄液中にソルビン酸ナトリウムを700μg含む比較例3及び6では、コンタクトレンズにソルビン酸ナトリウムが移行してしまい、眼刺激を惹き起こしてしまうばかりでなく、不織布又は織編物の無菌性も確保されない。さらに、洗浄液中に殺菌成分や防腐成分がふくまれていない比較例4及び比較例7では、眼刺激はないものの、不織布又は織編物の無菌性が確保されない。なお、比較例8のものでは、洗浄効果が得られなかった。
【0081】
さらに、表4の結果より、PET/Nyの極細繊維を用いた実施例9〜15においては、高い耐滅菌性を示した。PET/Nyの組成比が2/1〜1/2である実施例9、11、12、14および15は、優れた吸水性を示すとともに、シートの破損も認められず、洗浄用シートとして優れた性能を示した。さらに、バインダー繊維を10〜20重量%配合した実施例11、12および14は、リントの付着も認められず、傷つき性も良好であり、洗浄用シートとしては最も優れた性能を示した。
【0082】
以上より、本発明の洗浄用シートはコンタクトレンズの洗浄手段として非常に優れたものであることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明により、コンタクトレンズに付着乃至は沈着したタンパク質等の汚れを簡単な洗浄操作で効果的に除去でき、洗浄後のコンタクトレンズをそのまま装用しても眼に対する刺激が実質的にないコンタクトレンズ洗浄用シートが提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(I):
【化1】

で示されるヘキサメチレンビグアニド誘導体を含有する洗浄液を、不織布又は織編物に含浸せしめてなることを特徴とするコンタクトレンズ洗浄用シート。
【請求項2】
洗浄液中のヘキサメチレンビグアニド誘導体の含有量が0.1〜10ppmである請求項1記載のシート。
【請求項3】
ヘキサメチレンビグアニド誘導体がポリヘキサメチレンビグアニドである請求項1又は2記載のシート。
【請求項4】
不織布又は織編物が、その材質にポリオレフィン、ポリエステル及びポリアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものである、請求項1〜3いずれか記載のシート。
【請求項5】
不織布又は織編物が、その材質にポリエステルとポリアミドとを含むものである請求項4記載のシート。
【請求項6】
不織布又は織編物が、平均繊維径0.3〜10μmの繊維を含むものである請求項4又は5記載のシート。
【請求項7】
不織布又は織編物が、非丸型断面の繊維を含むものである請求項4〜6いずれか記載のシート。
【請求項8】
不織布又は織編物が、芯鞘構造を有するバインダー繊維を含むものである請求項4〜7いずれか記載のシート。
【請求項9】
請求項1に記載の洗浄液と不織布又は織編物とを備えてなるコンタクトレンズ洗浄用キット。

【国際公開番号】WO2005/071467
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【発行日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517309(P2005−517309)
【国際出願番号】PCT/JP2005/000956
【国際出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(301069384)クラレメディカル株式会社 (110)
【Fターム(参考)】