説明

コンタクトレンズ用洗浄剤

【課題】
コンタクトレンズの眼球接触側に付着したタンパク質や脂質などの汚れを洗浄し、かつこの汚れの再付着を防止する洗浄剤を提供する。
【解決手段】
下記一般式(1)で表されるメルカプトアルキルカルボン酸塩(A)を必須成分とすることを特徴とするコンタクトレンズ用洗浄剤。
HS−(CH2)n−CO2-・B+ (1)
(式中、nは1〜24の整数を表し、Bは塩基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズの洗浄剤に関する。さらに詳しくは、コンタクトレンズの眼球接触側に付着したタンパク質や脂質などの汚れを洗浄し、かつこの汚れの再付着を防止する洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズは、装着中やその取り扱いにおいて、涙液中や取り扱い時の指先に存在するタンパク質、脂質、無機質等の汚れがコンタクトレンズの表面に付着堆積してコンタクトレンズの透明性の低下を引き起こしたり、汚れの付着により装着中に異物感を覚えたり、レンズ表面の汚れがひどくなると角膜に炎症を引き起こしたりするようになる。そのために、コンタクトレンズの装着においては、定期的にコンタクトレンズの表面に付着する汚れを洗浄して清潔にする必要がある。
【0003】
コンタクトレンズの汚れを効率よく除去するために、酵素をコンタクトレンズ用洗浄液に含有させる方法が広く用いられている。
一般的に酵素を洗浄液に溶解させると、長期保存中に酵素の活性が低下していき、洗浄性は著しく低下するが、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトールなどの多価アルコールを加えることで酵素の安定性が向上することが知られている。(たとえば、特許文献1)。
しかし、洗浄液に多価アルコールを50重量%以上含有させる必要があり、これらの溶液に直接コンタクトレンズを浸漬するとレンズの強度、弾力性などの物性値に対する悪影響があるため、使用するに当たっては多価アルコールを多量に含有させた溶液を使用直前に精製水など別の溶液で希釈する必要があり、簡便性に問題があった。
【0004】
酵素活性の安定性と洗浄力の問題を解決する方法として、酵素の含有量を増やすことが考えられる。
しかしながら、強い付着汚れの場合には、汚れの除去が不十分であったり、脱離(剥離)した汚れ成分が再びレンズに再付着し、蓄積するとコンタクトレンズが変色および変形する問題がある。
また、本来、酵素というものは最適な状態であればごく少量で十分な能力を発揮できるものであり、逆に必要以上に酵素の含有量を増やすと、酵素そのものあるいはその分解物と眼球および手指の皮膚が接触した際にアレルギー反応が起こりやすくなる。また、酵素によるたんぱく質や脂質の分解物を栄養源として雑菌が繁殖しやすくなるおそれがある。
【0005】
また、洗浄力を高めるために、さらに界面活性剤を加えるような組成物コンタクトレンズ用洗浄液も知られており、タンパク質分解酵素、多価アルコール、アルカリ金属塩、及び界面活性剤を含むコンタクトレンズ用洗浄液が開示されている(例えば、特許文献2)。
しかしこの公報に記載されているように酵素を0.01重量%以上加えると、酵素を多量に含むことにより、先に述べたように手指等に触れた際に皮膚に対して刺激が出るおそれがある。しかも陰イオン界面活性剤以外の界面活性剤を用いた場合は洗浄力が不十分であり、また陰イオン界面活性剤の種類によってはクラフト点が高く、特に冬期では十分な洗浄性が得られないため、洗浄性を維持するために保管条件が限られるといった欠点があった。
また、塩化ナトリウムを含有する洗浄液にレンズを入れ、塩化物塩、亜塩素酸塩、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩、システイン等を含有する溶液で洗浄する方法も知られている(特許文献3)が、依然洗浄性が不十分である。また洗浄に時間を要することから非常に手間がかかる。
【0006】
【特許文献1】特開平1−180515号公報
【特許文献2】特開平4−51015号公報
【特許文献3】特表平8−504346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、 酵素を使うことなく、また従来の界面活性剤では到達し得なかった、コンタクトレンズに付着した汚れに対する洗浄力が高く、かつ汚れを再付着させないコンタクトレンズ用洗浄剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表されるメルカプトアルキルカルボン酸塩(A)を必須成分とすることを特徴とするコンタクトレンズ用洗浄剤、および前記洗浄剤を使用する洗浄方法である。
HS−(CH2)n−CO2-・B+ (1)
(式中、nは1〜24の整数を表し、Bは塩基を表す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明のコンタクトレンズ用洗浄剤は、コンタクトレンズに付着したタンパク汚れの除去性に優れ、かつ、汚れの再付着防止性にも優れる。さらに、酵素を含有していないので刺激性がなく、保存安定性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、コンタクトレンズに付着した汚れを洗浄する過程において使用される、下記一般式(1)で表されるメルカプトアルキルカルボン塩(A)を必須成分とすることを特徴とするコンタクトレンズ用洗浄剤である。
HS−(CH2)n−CO2-・B+ (1)
(式中、nは1〜24の整数を表し、Bは塩基を表す。)
【0011】
すなわち、酵素を使用しない方法で汚れを洗浄すると、タンパク質に対する洗浄性が不十分である問題点があるが、本発明では、特定の化学構造を有する上記の化合物(A)を洗浄剤の必須成分として使用することにより解決することを見出した。
【0012】
また、本発明の洗浄剤は、メルカプトアルキルカルボン酸塩(A)を構成する塩基のpKb(25℃)が0〜5.0であるコンタクトレンズ用洗浄剤である。ここで、pKbとは塩基解離定数を表す。多段階解離する場合は、最も低い塩基解離定数のことをpKbとする。
【0013】
pKbが5.0以下の塩基とは、本質的に強塩基を表し、無機塩基と有機塩基が挙げられる。 無機塩基としては、具体的にナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ金属が挙げられる。
有機塩基としては具体的に、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン等の有機アミン、グアニジン、アルギニン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)等のアミジン系化合物、があげられる。
【0014】
本発明におけるメルカプトアルキルカルボン塩(A)の添加量は、イオン水100部に対して0.01部〜30部が好ましく、洗浄性の観点から0.1部〜5部がさらに好ましい。 添加量が0.01部未満の場合、洗浄性が不十分で、30部より多い場合、コンタクトレンズに残存しやすくなるため適さない。
【0015】
本発明の別の態様は、前記洗浄剤を使用してコンタクトレンズ上のタンパク汚れを洗浄する洗浄方法にある。従来の洗浄剤で洗浄した場合、タンパク汚れの洗浄性が不十分で、コンタクトレンズ上に付着してしまうことに対して、本方法は、酵素を使用しないでもタンパク汚れの洗浄性に優れているのでコンタクトレンズの洗浄に有効に使用することができる。
【0016】
本発明の洗浄方法の一例を以下に説明するが、これに限らない。本発明のコンタクトレンズ用洗浄剤にコンタクトレンズを浸漬ないし接触させ、さらに目に装着する前に、水、生理食塩水および適当な洗浄液ですすぐなどの方法があり、これによりコンタクトレンズについたタンパク汚れを効率よく除去することができる。また、本発明のコンタクトレンズ用洗浄剤は、コンタクトレンズを洗浄する前に、精製水、生理食塩水などで希釈することなく、そのまま用いることができる。
【0017】
以下の実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
製造例1 (メルカプトプロピオン酸ナトリウム塩の合成)
メルカプトプロピオン酸5.3gを200mLのビーカーに入れ、イオン水100gを加えて溶解させ、水酸化ナトリウム2.0gを少量ずつ加え、マグネチック攪拌子を用いて40℃で10分間攪拌した。その後、エバポレーターで乾固させて、本発明のメルカプトプロピオン酸ナトリウム塩(A−1)を得た。
【0019】
製造例2 (メルカプトプロピオン酸グアニジン塩の合成)
メルカプトプロピオン酸5.3gを200mLのビーカーに入れ、イオン水100gを加えて溶解させ、炭酸グアニジン4.05gを少量ずつ加え、マグネチック攪拌子を用いて40℃で10分間攪拌した。その後、エバポレーターで乾固させて、本発明のメルカプトプロピオン酸グアニジン塩(A−2)を得た。
【0020】
実施例1 (メルカプトプロピオン酸ナトリウム塩)
タンパク汚れのモデル物質として、攪拌してときほぐした卵白を7.6cm×2.1cm×2mmの全面にガラスプレートに薄く塗布し、120℃の減圧乾燥機で1時間乾燥させて卵白を付着させた。水で1分間軽く洗い、再度120℃の減圧乾燥機で1時間乾燥させ、タンパク汚れが約0.2g付着したガラスプレートを作製した。
200mLビーカーに、製造例1で調製したメルカプトプロピオン酸ナトリウム塩0.10gとイオン水199.90gを入れて溶解させ、ガラスプレート1枚とマグネティック攪拌子を入れ、25℃、200rpmの回転数でマグネチックスターラーで10分攪拌させた。
攪拌後、ガラスプレートを取り出し、水で軽くすすぎ、再度減圧乾燥機で120℃、30分乾燥させ、ガラスプレートを洗浄した。
【0021】
実施例2 (メルカプトプロピオン酸グアニジン塩)
メルカプトプロピオン酸ナトリウム塩0.10gを、製造例2で調製したメルカプトプロピオン酸グアニジン塩0.13gに変更した以外は実施例1と同様におこない、タンパク汚れが付着したガラスプレートを洗浄した。
【0022】
比較例1 (ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)
メルカプトプロピオン酸ナトリウム塩0.10gを、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(TWEEN80:和光純薬製)1.04gに、イオン水を199.9gから198.9gに変更した以外は実施例1と同様に、タンパク汚れが付着したガラスプレートを洗浄した。
【0023】
比較例2 (ラウリル硫酸ナトリウム)
メルカプトプロピオン酸ナトリウム塩0.10gを、ラウリル硫酸ナトリウム0.22gに、イオン水を199.9gから199.8gに変更した以外は実施例1と同様に、タンパク汚れが付着したガラスプレートを洗浄した。
【0024】
比較例3 (システイン塩酸塩)
メルカプトプロピオン酸ナトリウム塩0.10gを、システイン塩酸塩0.12gに変更した以外は実施例1と同様におこない、タンパク汚れが付着したガラスプレートを洗浄した。
【0025】
比較例4 (ラウリル硫酸ナトリウムとシステインの併用)
メルカプトプロピオン酸ナトリウム塩0.10gを、ラウリル硫酸ナトリウム0.22gとシステイン塩酸塩0.12gに、イオン水を199.9gから199.6gに変更した以外は実施例1と同様におこない、タンパク汚れが付着したガラスプレートを洗浄した。
【0026】
タンパク汚れの除去率は以下の式で算出した。
除去率(%) ={[(A)−(C)]/[(A)−(B])}×100
但し、A:卵白付着後のガラスプレートの重量(g)
B:最初のガラスプレートの重量(g)
C:洗浄後のガラスプレートの重量(g)
実施例と比較例のタンパク汚れの除去率の評価結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のコンタクトレンズ用洗浄剤は、タンパク質や脂質などの汚れに対する洗浄性が高く、かつこの汚れの再付着を防止できる。また、洗浄力が長期的に低下しないので、特にコンタクトレンズを極めて清浄にできる洗浄剤として使用できる。
また、透析装置の洗浄剤やカテーテルの洗浄剤などの医療用具の洗浄剤として使用することができるほか、食器洗い洗浄器用洗浄剤や洗濯用洗浄剤などの生活用洗浄剤としても使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるメルカプトアルキルカルボン酸塩(A)を必須成分とすることを特徴とするコンタクトレンズ用洗浄剤。
HS−(CH2)n−CO2-・B+ (1)
(式中、nは1〜24の整数を表し、Bは塩基を表す。)
【請求項2】
該メルカプトアルキルカルボン酸塩(A)を構成する塩基BのpKb(25℃)が0〜5.0である請求項1記載のコンタクトレンズ用洗浄剤。
【請求項3】
請求項1または2記載のコンタクトレンズ用洗浄剤でコンタクトレンズを洗浄する洗浄方法。

【公開番号】特開2008−203357(P2008−203357A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37005(P2007−37005)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】