説明

コンタクトレンズ用流通保存液およびそれを用いたコンタクトレンズの流通保存方法

【課題】コンタクトレンズのウェット保存流通時に、そのベースカーブの変化をいちじるしく低減させることができる流通保存液およびそれを用いた流通保存方法を提供すること。
【解決手段】重量平均分子量が500〜200000であるポリビニルピロリドンを含有してなり、界面活性剤を含有しないコンタクトレンズ用流通保存液、および該コンタクトレンズ用流通保存液にコンタクトレンズを浸漬させることを特徴とするコンタクトレンズの流通保存方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズ用流通保存液およびそれを用いたコンタクトレンズの流通保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コンタクトレンズ、とくに酸素透過性硬質コンタクトレンズでは、シリコーン成分が含有されていることがほとんどであるため、レンズ表面が疎水性となり、初期装用時の濡れ性がわるく、このことによって装用感が低下したり、充分な視力が得られないといった問題が発生しやすくなる。
【0003】
そこで、前記酸素透過性硬質コンタクトレンズは、製造されてから患者が装用するまでのあいだ、その表面水濡れ性を保持するために、表面処理が施されたり、あらかじめ生理食塩水などの流通保存液に浸漬されるなどしてウェット保存され、流通される。
【0004】
しかしながら、このような生理食塩水などを用いたウェット保存流通を行なった場合は、その流通過程において、コンタクトレンズの重要な規格の1つであるベースカーブが変化してしまう場合があるといった問題がある。
【0005】
また、従来の流通保存液の多くには、通常界面活性剤が含有されているため、前記のごときコンタクトレンズのベースカーブ変化などのサイズ変化が起こりやすいといった問題もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、コンタクトレンズ、とくに酸素透過性硬質コンタクトレンズのウェット保存流通時に、そのベースカーブの変化をいちじるしく低減させることができる流通保存液およびそれを用いたコンタクトレンズの流通保存方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(1)重量平均分子量が500〜200000であるポリビニルピロリドンを含有してなり、界面活性剤を含有しないコンタクトレンズ用流通保存液、(2)重量平均分子量が500〜200000であり、K値が20〜100であるポリビニルピロリドン0.2〜3w/v%、ポリヘキサメチレンビグアニド0.000005〜0.0002w/v%およびエチレンジアミン四酢酸またはエチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩またはエチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩の水和物0.02〜0.3w/v%を含有してなり、界面活性剤を含有しないコンタクトレンズ用流通保存液、および(3)前記各コンタクトレンズ用流通保存液にコンタクトレンズを浸漬させることを特徴とするコンタクトレンズの流通保存方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のコンタクトレンズ用流通保存液は、溶解性および外観にすぐれ、臭気がほとんどないものであり、かかるコンタクトレンズ用流通保存液を用いてコンタクトレンズ、とくに酸素透過性硬質コンタクトレンズのウェット保存流通を行なうと、コンタクトレンズの重要な規格の1つであるベースカーブの変化がいちじるしく低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のコンタクトレンズ用流通保存液は、前記したように、重量平均分子量が500〜200000であるポリビニルピロリドンを含有し、界面活性剤を含有しないものである。
【0010】
本発明のコンタクトレンズ用流通保存液において、ウェット保存流通時に、コンタクトレンズのベースカーブの変化を低減させるための有効成分として、ポリビニルピロリドンが用いられる。
【0011】
ポリビニルピロリドンの重量平均分子量は、コンタクトレンズのベースカーブの安定化効果を充分に得るには、ある程度の分子量が必要であることを考慮すると、500以上、好ましくは1000以上であり、また水などの媒体に対する溶解性が低下し、均一なコンタクトレンズ用流通保存液が得られにくくなるおそれが生じることや、粘度の上昇による取扱い性の問題などを考慮すると、200000以下、好ましくは150000以下である。
【0012】
また、ポリビニルピロリドンのK値(日本薬局方に記載)は、コンタクトレンズのベースカーブの安定化効果を充分に得るには、20以上、好ましくは25以上であることが望ましく、また水などの媒体に対する溶解性が低下し、均一なコンタクトレンズ用流通保存液が得られにくくなるおそれが生じることや、粘度の上昇による取扱い性の問題などを考慮すると、100以下、好ましくは90以下であることが望ましい。かかる範囲のK値を有するポリビニルピロリドンとしては、たとえばポリビニルピロリドンK25、ポリビニルピロリドンK30、ポリビニルピロリドンK90などが例示される。
【0013】
ポリビニルピロリドンのコンタクトレンズ用流通保存液中の含有量は、かかるポリビニルピロリドンを用いたことによるウェット保存流通時のコンタクトレンズのベースカーブの変化を低減させる効果を充分に発現させるためには、0.1w/v%以上、好ましくは0.2w/v%以上であることが望ましく、またコンタクトレンズ用流通保存液の粘度が上昇しすぎ、乾燥時にコンタクトレンズが汚れやすくなるなどの取扱い上の問題が生じるおそれをなくすためには、10w/v%以下、好ましくは3w/v%以下であることが望ましい。
【0014】
本発明のコンタクトレンズ用流通保存液には、前記ポリビニルピロリドンのほかに、たとえば防腐剤、キレート化剤などが含有されていることが好ましい。
【0015】
前記防腐剤は、コンタクトレンズ用流通保存液が細菌に汚染されるのを防ぎ、かつ流通保存時にコンタクトレンズが雑菌で汚染されるのを防止するという性質を有するものである。
【0016】
防腐剤は、眼科生理学的に許容し得るものであればよく、とくに限定がないが、たとえば第4級アンモニウム基、ビグアニド基および第4級ホスホニウム基の少なくとも1種を含有した化合物などがあげられ、かかる化合物の代表例やその他の例としては、たとえば一般式(I):
【0017】
【化1】

(式中、Zはたとえば炭素数2〜18のポリオキシアルキレン基などの2価の有機基、fは3以上の整数を示す(ただし、Zはポリマー全体で同一であってもよく、異なっていてもよい))で表わされる繰り返し単位を有するポリマー(I)、式(II):
【0018】
【化2】

で表わされる繰り返し単位を有するポリマー(II)、一般式(III):
【0019】
【化3】

(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は炭素数1〜8のアルキレン基、R3は炭素数1〜18のアルキル基、X1はたとえば塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子を示す)で表わされる繰り返し単位を有するポリマー(III)、一般式(IV):
【0020】
【化4】

(式中、R4は水素原子またはメチル基、R5は炭素数1〜8のアルキレン基、R6は炭素数1〜18のアルキル基、X2はたとえば塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子を示す)で表わされる繰り返し単位を有するポリマー(IV)などの化合物;硝酸フェニル水銀、酢酸フェニル水銀、チメロサールなどの水銀系防腐剤;塩化ベンザルコニウム、臭化ピリジニウムなどの界面活性剤系防腐剤;クロロヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアニド、クロロブタノールなどのアルコール系防腐剤;メチルパラベン、プロピルパラベン、ジメチロールジメチルヒダントイン、イミダゾリウムウレアなどのほか、たとえば一般式(V):
【0021】
【化5】

(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は炭素数1〜8のアルキレン基、R3は炭素数1〜18のアルキル基、X1はたとえば塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子を示す)で表わされるモノマー(V)、一般式(VI):
【0022】
【化6】

(式中、R4は水素原子またはメチル基、R5は炭素数1〜8のアルキレン基、R6は炭素数1〜18のアルキル基、X2はたとえば塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子を示す)で表わされるモノマー(VI)などと、たとえばヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどの水溶性モノマーとの共重合体などがあげられる。
【0023】
さらに、その他ビグアニド誘導体として公知の各種形態のものが市販されていることから、本発明においては、かかる市販品のなかから適宜選択し、防腐剤として用いることができる。
【0024】
前記防腐剤のなかでは、細菌や雑菌による汚染の防止効果がより大きく有効であるという点から、ポリマー(I)、ポリマー(II)、ポリマー(III)および ポリマー(IV)から選ばれた少なくとも1種の化合物や、ポリヘキサメチレンビグアニドや、モノマー(V)またはモノマー(VI)と水溶性モノマーとの共重合体がとくに好ましい。
【0025】
前記防腐剤のコンタクトレンズ用流通保存液中の含有量は、充分な防腐効果を発現させるためには、0.000005w/v%(0.05ppm)以上、好ましくは0.00005w/v%(0.5ppm)以上であることが望ましく、またかかる防腐剤の含有量があまりにも多い場合には、かかる防腐剤が直接目に入ってしまった場合に目に障害を与えるおそれが生じるようになったり、防腐剤の種類によってはコンタクトレンズの規格や性質に悪影響を与えるおそれが生じるようになる傾向があるので、0.5w/v%(5000ppm)以下、好ましくは0.0005w/v%(5ppm)以下、さらに好ましくは0.0002w/v%(2ppm)以下であることが望ましい。
【0026】
前記キレート化剤は、コンタクトレンズ用流通保存液や付着した涙液中に含まれるカルシウムなどがコンタクトレンズに沈着するのを防ぐという性質を有するものである。
【0027】
キレート化剤は、眼科生理学的に許容し得るものであればよく、とくに限定がないが、その代表例としては、たとえばエチレンジアミン四酢酸、そのナトリウム塩などのエチレンジアミン四酢酸塩、該エチレンジアミン四酢酸塩の水和物;フィチン酸、クエン酸などがあげられる。これらのなかでは、カルシウムの沈着防止効果がより大きく有効であるという点から、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸塩およびエチレンジアミン四酢酸塩の水和物がとくに好ましい。
【0028】
前記キレート化剤のコンタクトレンズ用流通保存液中の含有量は、カルシウムなどがコンタクトレンズに沈着するのを防ぐ効果を充分に発現させるためには、0.01w/v%以上、好ましくは0.02w/v%以上であることが望ましく、またかかるキレート化剤の含有量があまりにも多い場合には、それ以上含有させることによる効果の向上が小さく、かえって不経済となるので、0.5w/v%以下、好ましくは0.3w/v%以下であることが望ましい。
【0029】
さらに、本発明のコンタクトレンズ用流通保存液には、前記防腐剤およびキレート化剤のほかにも、たとえば緩衝剤、等張化剤などの配合剤が含有されていてもよい。
【0030】
前記緩衝剤は、得られるコンタクトレンズ用流通保存液のpHを、涙液に近い約5〜9の範囲で一定にし、また外的要因によるpHの変化を抑え、流通保存時のコンタクトレンズの形状、光学性を保護するという性質を有するものである。
【0031】
緩衝剤は、眼科生理学的に許容し得るものであればよく、とくに限定がないが、その代表例としては、たとえばホウ酸とそのナトリウム塩、リン酸とそのナトリウム塩、クエン酸とそのナトリウム塩、乳酸とそのナトリウム塩、グリシン、グルタミン酸などのアミノ酸とそのナトリウム塩、リンゴ酸とそのナトリウム塩などがあげられる。
【0032】
前記緩衝剤のコンタクトレンズ用流通保存液中の含有量は、充分な緩衝効果を付与せしめるためには、0.005モル/リットル以上、好ましくは0.01モル/リットル以上であることが望ましく、またかかる緩衝剤の含有量があまりにも多い場合には、緩衝効果があまり高くならず、かえって浸透圧を高めるなどコンタクトレンズの形状に影響を及ぼすようになる傾向があるので、0.5モル/リットル以下、好ましくは0.15モル/リットル以下であることが望ましい。
【0033】
前記等張化剤は、得られるコンタクトレンズ用流通保存液の浸透圧を、涙液の浸透圧(280〜300mOs/kg)に近づけ、流通保存時に、コンタクトレンズの形状がより維持されやすくなるようにするという性質を有するものである。
【0034】
等張化剤は、眼科生理学的に許容し得るものであればよく、とくに限定がないが、その代表例としては、たとえば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどの無機塩および前記緩衝剤があげられる。
【0035】
前記等張化剤のコンタクトレンズ用流通保存液中の含有量は、充分な浸透圧を付与せしめるためには、0.01モル/リットル以上、好ましくは0.05モル/リットル以上であることが望ましく、またかかる等張化剤の含有量があまりにも多い場合には、浸透圧が高くなり、コンタクトレンズの形状に影響を及ぼすようになる傾向があるので、0.5モル/リットル以下、好ましくは0.15モル/リットル以下であることが望ましい。
【0036】
なお、前記防腐剤、キレート化剤、緩衝剤および等張化剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0037】
本発明のコンタクトレンズ用流通保存液は、前記したように、特定の重量平均分子量を有するポリビニルピロリドンを有効成分として含有し、さらに必要に応じて、防腐剤、キレート化剤、そのほかの配合剤などの成分を含有したものであるが、これらの媒体として、たとえば蒸留水、精製水などの水などが配合されていればよい。なお、かかる水などの水性媒体は、コンタクトレンズ用流通保存液の全量が100%となるようにして用いればよい。
【0038】
本発明のコンタクトレンズ用流通保存液は、たとえば所定量の水性媒体中にポリビニルピロリドンを入れ、さらに必要に応じて防腐剤、キレート化剤、緩衝剤、等張化剤などの配合剤を入れ、充分に混合撹拌して溶解させ、濾過することによって調製することができる。
【0039】
なお、本発明のコンタクトレンズ用流通保存液の粘度にはとくに限定がないが、コンタクトレンズを流通保存する際の取扱い性などを考慮すると、25℃で200cP程度以下であることが好ましい。
【0040】
また、コンタクトレンズ用流通保存液のpHは、涙液のpHと同程度の5〜9であることが好ましく、とくにかかる流通保存液が直接眼に装用される可能性はほとんどないが、もし眼に装用された場合を考慮すると、6.6〜7.6であることがより好ましい。
【0041】
なお、本発明のコンタクトレンズ用流通保存液のなかでも、重量平均分子量が500〜200000であり、K値が20〜100であるポリビニルピロリドン0.2〜3w/v%、ポリヘキサメチレンビグアニド0.000005〜0.0002w/v%(0.05〜2ppm)およびエチレンジアミン四酢酸またはエチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩またはエチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩の水和物0.02〜0.3w/v%を含有してなり、界面活性剤を含有しない流通保存液は、コンタクトレンズのウェット保存流通時にそのベースカーブの変化を低減させる作用がより大きいという点からとくに好ましい。
【0042】
かくして得られる本発明のコンタクトレンズ用流通保存液にコンタクトレンズを浸漬させることにより、種々のコンタクトレンズを、そのベースカーブをほとんど変化させることなく流通保存することができる。
【0043】
なお、本発明のコンタクトレンズの流通保存方法においては、たとえば所定の容器に、コンタクトレンズと、該コンタクトレンズが浸漬され得る量の前記コンタクトレンズ用流通保存液とを入れ、密封するなどして流通保存すればよい。
【0044】
また、本発明の流通保存方法に用いられるコンタクトレンズにはとくに限定がなく、含水性、非含水性、また軟質、硬質にかかわらず、いかなる種類のものも適用することができるが、なかでも、たとえばシロキサニル(メタ)アクリレート系モノマー、シロキサニルスチレン系モノマー、シロキサニルフマレート、シロキサニルイタコネートなどのシリコーン化合物を含有した重合成分を重合させて得られた酸素透過性硬質コンタクトレンズの場合であっても、ウェット保存流通時に、そのベースカーブの変化がいちじるしく低減される。
【実施例】
【0045】
つぎに、本発明のコンタクトレンズ用流通保存液およびそれを用いたコンタクトレンズの流通保存方法を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
実施例1
ポリビニルピロリドンK30(重量平均分子量:45000、K値:30)、ポリヘキサメチレンビグアニドおよびエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム塩・二水和物を蒸留水に添加し、室温で約60分間撹拌してこれらの成分を溶解させ、さらにこれを濾過し、コンタクトレンズ用流通保存液300mlを調製した。各成分の含有量は以下のとおりである。
【0047】
ポリビニルピロリドンK30:1.0w/v%
ポリヘキサメチレンビグアニド:1.0ppm
エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム塩・二水和物:0.10w/v%
【0048】
実施例2
実施例1において、ポリビニルピロリドンK30のかわりにポリビニルピロリドンK90(重量平均分子量:110000、K値:90)を用い、該ポリビニルピロリドンK90の含有量が0.5w/v%、ポリヘキサメチレンビグアニドの含有量が0.5ppmとなるようにしたほかは実施例1と同様にしてコンタクトレンズ用流通保存液300mlを調製した。
【0049】
実施例1〜2で得られたコンタクトレンズ用流通保存液の溶解性、外観、臭気、pHおよび粘度を以下の方法にしたがって調べた。その結果を表1に示す。
【0050】
(イ)溶解性
コンタクトレンズ用流通保存液中の不溶物の有無を目視にて調べ、以下の評価基準に基づいて評価した。
【0051】
(評価基準)
A:不溶物がまったくない。
B:わずかに不溶物が認められる。
C:不溶物がいちじるしい。
【0052】
(ロ)外観
コンタクトレンズ用流通保存液の外観を目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
【0053】
(評価基準)
A:均一で透明である。
B:わずかに白濁している。
C:白濁がいちじるしい。
【0054】
(ハ)臭気
5cmの距離から、コンタクトレンズ用流通保存液の臭気を調べ、以下の評価基準に基づいて評価した。
【0055】
(評価基準)
A:臭気がまったくない。
B:わずかに臭気が認められる。
C:臭気がいちじるしい。
【0056】
(ニ)pH
ガラス電極型pHメーター(HORIBA pH METER F−13、(株)堀場製作所製)にて25℃でのコンタクトレンズ用流通保存液のpHを測定した。
【0057】
(ホ)粘度
B型粘度計にて25℃でのコンタクトレンズ用流通保存液の粘度(cP)を測定した。
【0058】
つぎに、シロキサニルメタクリレート50重量部、トリフルオロエチルメタクリレート40重量部、メチルメタクリレート10重量部およびエチレングリコールジメタクリレート5重量部からなる重合成分を共重合させたのち成形し、厚さ0.12mmの酸素透過性硬質コンタクトレンズを製造した。
【0059】
この酸素透過性硬質コンタクトレンズを、実施例1〜2で得られた各コンタクトレンズ用流通保存液について5枚ずつ用意し、それぞれのベースカーブをあらかじめ測定した。
【0060】
つぎに、コンタクトレンズ用流通ケースに、前記酸素透過性硬質コンタクトレンズおよびコンタクトレンズ用流通保存液を入れ、この酸素透過性硬質コンタクトレンズをコンタクトレンズ用流通保存液に浸漬させ、密封して40℃で保存し、2週間後および4週間後に、それぞれのベースカーブを測定した。
【0061】
保存後のベースカーブとあらかじめ測定したベースカーブとの差からベースカーブの変化量を求め、5枚のコンタクトレンズの平均変化量を算出し、保存前の5枚のコンタクトレンズのベースカーブの平均値から、以下の式に基づいてベースカーブの変化率(%)を求めた。その結果を表1に示す。
【0062】
ベースカーブの変化率(%)
={(ベースカーブの平均変化量)/(保存前のベースカーブの平均値)}×100
【0063】
比較例1
実施例1〜2のコンタクトレンズ用流通保存液のかわりに生理食塩水を用い、実施例1〜2と同様にしてベースカーブの変化率を求めた。その結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1に示された結果から、実施例1〜2で得られたコンタクトレンズ用流通保存液は、いずれも適切なpHおよび粘度を有し、溶解性および外観にすぐれ、臭気がまったくないものであることがわかる。
【0066】
また、実施例1〜2で得られたコンタクトレンズ用流通保存液を用いてコンタクトレンズを保存した場合には、比較例1の生理食塩水を用いた場合と比べて、2週間保存したときはもちろんのこと、4週間保存したときであっても、いずれもコンタクトレンズのベースカーブの変化率がいちじるしく小さいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が500〜200000であり、K値が20〜100であるポリビニルピロリドン、0.05〜5ppmのポリヘキサメチレンビグアニドまたは一般式(V)
【化1】

(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は炭素数1〜8のアルキレン基、R3は炭素数1〜18のアルキル基、X1はハロゲン原子を示す)で表わされるモノマー(V)もしくは一般式(VI):
【化2】

(式中、R4は水素原子またはメチル基、R5は炭素数1〜8のアルキレン基、R6は炭素数1〜18のアルキル基、X2はハロゲン原子を示す)で表わされるモノマー(VI)と水溶性モノマーとの共重合体である防腐剤、およびキレート剤を含有してなり、酸化剤および界面活性剤を含有しないコンタクトレンズ用流通保存液にコンタクトレンズを浸漬する、コンタクトレンズの流通保存方法。
【請求項2】
コンタクトレンズが酸素透過性硬質コンタクトレンズである請求項1記載のコンタクトレンズの流通保存方法。
【請求項3】
防腐剤の量が0.05〜2ppmである請求項1または2記載のコンタクトレンズの流通保存方法。
【請求項4】
ポリビニルピロリドンの量が0.2〜3w/v%である請求項1または2記載のコンタクトレンズの流通保存方法。
【請求項5】
浸透圧が280〜300mOs/kgである請求項1〜4のいずれかに記載のコンタクトレンズ流通保存方法。
【請求項6】
25℃における粘度が200cP以下である請求項1〜5のいずれかに記載のコンタクトレンズの流通保存方法。
【請求項7】
キレート化剤がエチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸塩またはエチレンジアミン四酢酸塩の水和物である請求項1〜6のいずれかに記載のコンタクトレンズの流通保存方法。
【請求項8】
キレート剤の量が0.02〜0.3w/v%である請求項1〜7のいずれかに記載のコンタクトレンズの流通保存方法。
【請求項9】
pHが6.6〜7.6である請求項1〜8のいずれかに記載のコンタクトレンズの流通保存方法。

【公開番号】特開2008−139895(P2008−139895A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322047(P2007−322047)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【分割の表示】特願平10−218991の分割
【原出願日】平成10年8月3日(1998.8.3)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】