説明

コンタクトレンズ用液剤

優れた殺菌効果と眼への安全性を確保しつつ、レンズのサイズ変化を防止すると共に、レンズにおける析出物の発生が有利に抑制されたコンタクトレンズ用液剤を提供する。 ビグアニド系殺菌剤及び4級アンモニウム塩系殺菌剤からなる群より選ばれた少なくとも1種の殺菌剤(A成分)と、グリコール酸及び/又はアスパラギン酸(B成分)と、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール又はその塩(C成分)とを添加し、且つ、B成分とC成分とが、所定のモル比となるように、コンタクトレンズ用液剤を調製した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズ用液剤に係り、特に、コンタクトレンズを消毒、洗浄、保存する際に、コンタクトレンズ用殺菌液やコンタクトレンズ用殺菌洗浄液、コンタクトレンズ用殺菌保存液、コンタクトレンズ用殺菌洗浄保存液等として、有利に用いられる液剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンタクトレンズは、その材質に応じて、非含水性コンタクトレンズと含水性コンタクトレンズとに分類されたり、また、ハードコンタクトレンズとソフトコンタクトレンズとに分類されたり、更には、非イオン性コンタクトレンズとイオン性コンタクトレンズとに分類されている。そして、それら何れのコンタクトレンズにあっても、それが継続して使用される場合において、コンタクトレンズを眼から外して保管してる間に、レンズ表面に付着した細菌等の微生物が増殖する恐れがあるところから、一般に、コンタクトレンズに対しては、その装用前において消毒を施すことが必要とされているのであり、特に、ソフトコンタクトレンズにあっては、細菌等の微生物が繁殖し易いために、装用前の消毒が極めて重要となっている。
【0003】
このため、従来より、所定の殺菌剤(防腐剤)を含有せしめてなるコンタクトレンズ用液剤が用いられ、かかる液剤に、コンタクトレンズが浸漬されて、目的とする消毒処理が実施されている。そして、そのようなコンタクトレンズ用液剤に添加せしめられる殺菌剤としては、例えば、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)にて代表されるビグアニド化合物や、塩化ベンザルコニウム及びポリクオタニウム(Polyquaternium)等にて代表される4級アンモニウム化合物が、他の殺菌剤に比して特に有用な殺菌特性を有するところから、広く使用されている。
【0004】
しかしながら、それらの有用な殺菌剤にあっても、殺菌(防腐)の観点より実用上の要求を満たすには、使用量を増大せしめて、液剤中の濃度を高める必要があったのである。ところが、殺菌剤の濃度を高めると、毒性が強くなったり、また、コンタクトレンズ、特にソフトコンタクトレンズに、殺菌剤が吸着され易くなり、これにより、眼刺激等の障害が惹起される恐れがあり、安全性の面で問題が生じることとなる。このため、従来から、コンタクトレンズ用液剤の組成について、より少ない殺菌剤の使用量で、より高い殺菌効果が得られるように、検討が行なわれてきているのである。
【0005】
例えば、特開平10−108899号公報(特許文献1)においては、0.1ppm〜10ppmのポリヘキサメチレンビグアニドと共に、非イオン性等張化剤を、所定濃度の塩化ナトリウムと同様な浸透圧を与える割合において含有するコンタクトレンズ用液剤が提案され、また、特開平11−249087号公報(特許文献2)においては、所定のポリクオタニウムと共に、非イオン性等張化剤及び/又はアミノ酸を含有するコンタクトレンズ用液剤が提案されている。そして、このような液剤構成を採用することによって、コンタクトレンズ用液剤の殺菌効力の向上が、確かに、図られ得たものの、使用する非イオン性等張化剤やアミノ酸によっては、コンタクトレンズ(特に、ソフトコンタクトレンズ)が膨潤乃至は収縮して、サイズ変化が起こり、コンタクトレンズの規格が変わってしまうといった問題を内在していたのである。
【0006】
このため、レンズのサイズ変化を実質的に装用に支障がない範囲に抑制するために、特開2001−242428号公報(特許文献3)や特開2002−136578号公報(特許文献4)においては、上記の成分の他に、更に、アミノ酸塩、具体的には、アミノ酸のナトリウム塩を添加することが有用であるとされている。
【0007】
また、本発明者にあっても、他の発明者と共に、先に、特開2003−160482号公報(特許文献5)において、ビグアニド系や4級アンモニウム塩系の殺菌剤と、所定のアミノ酸(塩)と、カルボキシル基又はリン酸基を有する所定の酸性化合物とを含有すると共に、塩化ナトリウム濃度が0〜0.2重量%とされたコンタクトレンズ用液剤を提案した。そして、そのようなコンタクトレンズ用液剤を用いることによって、殺菌剤のコンタクトレンズへの吸着が抑制されて、眼に対する安全性が高度に確保され得ると共に、コンタクトレンズの膨潤や収縮が防止されて、サイズ変化の問題が有利に解消され得ることを、明らかにしている。
【0008】
しかしながら、そのようなコンタクトレンズ用液剤について、本発明者が更に研究を進めたところ、使用する成分の組合せによっては、コンタクトレンズに結晶や粉状物が析出するといった問題が生じることが、新たに明らかとなったのである。具体的には、PHMBとアルギニンとグリコール酸又はアスパラギン酸とを組み合わせてなる液剤中に、コンタクトレンズ(特に、ソフトコンタクトレンズ)を、長期間に亘って浸漬したり、浸漬処理を何回も繰り返したりすると、コンタクトレンズ表面に、液剤成分に由来すると推測される白い結晶や白い粉状物が、ドット状に析出する場合があったのである。このようにして、液剤成分がコンタクトレンズに析出せしめられると、レンズの視野性が悪くなり、レンズの光学特性に悪影響が及ぼされると共に、結晶や粉状物等の析出物によって、眼刺激が惹起されたり、レンズに汚れが付着し易くなる等の問題が生じることとなる。このため、本発明者らが提案した上記コンタクトレンズ用液剤にあっても、液剤成分の析出防止の観点から、更なる改善が望まれている。
【0009】
本発明に関連する先行技術文献としては、以下のものを挙げることが出来る。
【特許文献1】特開平10−108899号公報
【特許文献2】特開平11−249087号公報
【特許文献3】特開2001−242428号公報
【特許文献4】特開2002−136578号公報
【特許文献5】特開2003−160482号公報
【特許文献6】特開平10−137327号公報
【特許文献7】特開平11−52308号公報
【特許文献8】特表2000−513001号公報
【特許文献9】特開昭57−132115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、優れた殺菌効果と眼への安全性を確保しつつ、レンズのサイズ変化を防止すると共に、レンズにおける析出物の発生が有利に抑制されたコンタクトレンズ用液剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、本発明者は、そのような課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ビグアニド系や4級アンモニウム塩系の殺菌剤を含有するコンタクトレンズ用液剤に、酸性化合物であるグリコール酸やアスパラギン酸を用い、これと、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール(塩)とを、所定の比率となるように併用することで、優れた殺菌効果と安全性が確保され得ると共に、レンズのサイズ変化が有利に抑制され、しかも、レンズに析出物が発生するようなことが効果的に防止され得ることを、見出したのである。
【0012】
従って、本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、その第一の態様とするところは、ビグアニド系殺菌剤及び4級アンモニウム塩系殺菌剤からなる群より選ばれた少なくとも1種の殺菌剤(A)と、グリコール酸及び/又はアスパラギン酸(B)と、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール又はその塩(C)とを含有すると共に、該B成分と該C成分が、1:20〜1.3:1のモル比となるように含有せしめられていることを特徴とするコンタクトレンズ用液剤にある。
【0013】
また、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤における第二の態様においては、塩化ナトリウム濃度が、0〜0.2w/w%となるように調整されている。
【0014】
さらに、本発明の第三の態様おいては、前記A成分が、0.1〜500ppmの濃度となるように含有せしめられる。
【0015】
加えて、本発明の第四の態様においては、前記B成分が、0.01〜5w/w%の濃度となるように含有せしめられる。
【0016】
また、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤の第五の態様では、中性アミノ酸が、更に含有せしめられる。
【0017】
さらに、本発明の好ましい第六の態様にあっては、前記中性アミノ酸が、0.1〜4w/w%の濃度となるように含有せしめられることとなる。
【0018】
更にまた、かかる本発明に従うコンタクトレンズ用液剤の第七の態様においては、前記中性アミノ酸として、グリシンが採用される。
【0019】
加えて、本発明の望ましい第八の態様においては、プロピレングリコールが、更に含有せしめられることとなる。
【0020】
また、本発明の第九の態様にあっては、前記プロピレングリコールが、0.1〜1w/w%の濃度となるように含有せしめられる。
【0021】
さらに、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤の第十の態様では、界面活性剤及びキレート化剤のうちの少なくとも何れか一方が、更に含有せしめられることとなる。
【0022】
加えて、本発明の第十一の態様においては、対象とするコンタクトレンズとして、ソフトコンタクトレンズが採用される。
【発明の効果】
【0023】
そして、本発明に従う、先述した第一の態様によれば、ビグアニド系や4級アンモニウム塩系の殺菌剤(A成分)と共に、水系媒体中で電離して有機アニオンを生ずるグリコール酸やアスパラギン酸(B成分)が用いられているところから、コンタクトレンズへの殺菌剤の吸着が有利に抑制されて、眼に対する安全性が優れたものとなっている。
【0024】
しかも、かかる第一の態様においては、上記A成分とB成分に加えて、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール又はその塩(C成分)が、上記したB成分に対して、所定のモル比となるように、更に、含有せしめられているところから、殺菌剤の殺菌効力が有利に発現され、優れた殺菌効果が得られる。また、B成分とC成分とが相俟って、コンタクトレンズのサイズ変化が有利に抑制され、しかも、レンズの表面に、液剤由来の析出物が生じるようなことも効果的に防止され得るようになっている。
【0025】
より具体的には、上記A成分は、水系媒体中において、カチオンの形態で存在するところから、コンタクトレンズ(特に、マイナスチャージを有するイオン性コンタクトレンズ)に付着乃至は吸着し易いのであるが、水系媒体中で電離して有機アニオンを生ずるB成分が添加されているところから、コンタクトレンズへのA成分の吸着が抑制され、眼に対する安全性が有利に高められているのである。しかしながら、上記の有機アニオン(B成分)はカチオン(A成分)に対しても影響を及ぼし、A成分の殺菌効力が阻害される傾向を有しているのであるが、本発明においては、水系媒体中で電離して有機カチオンを生ずるC成分が、B成分に対して所定の比率となるように、更に添加されているところから、B成分による殺菌阻害が有利に低減せしめられて、A成分の殺菌効力が有効に発現され得るのである。また、B成分及びC成分を単独で含有せしめた場合には、それぞれ、レンズの収縮及び膨潤が惹起される傾向があるもののが、それらB成分とC成分を組み合わせ、それらを、所定のモル比で使用するようにしているところから、レンズのサイズ変化が効果的に防止され、優れたレンズ適合性が実現され得ているのである。しかも、そのようなA〜C成分を含有するコンタクトレンズ用液剤中に、コンタクトレンズを、長期間に亘って浸漬したり、或いは、浸漬処理を何回も繰り返したり等しても、液剤に由来する成分が、コンタクトレンズ表面に、析出するようなこともないのである。
【0026】
また、本発明のコンタクトレンズ用液剤の第二の態様によれば、殺菌剤の殺菌作用が有効に発揮せしめられ、優れた殺菌効果を有利に実現することが出来る。
【0027】
さらに、本発明の第三の態様においては、殺菌剤の含有量が極めて小ならしめられている。このように、殺菌剤の含有量を低く抑えても、所望とする殺菌効力が有利に実現され得るようになっているのであり、眼に対する安全性も顕著に優れたものとなる。
【0028】
加えて、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤の上記した第四の態様によれば、必須成分であるB成分が、所定の濃度となるように含有せしめられているところから、析出物の発生等の問題がより一層効果的に解消される等、本発明による上記した作用効果が、更に有利に実現されるのである。
【0029】
また、本発明に従う第五〜第七の態様にあっても、本発明による上記した作用効果が、より一層有利に発揮せしめられることとなる。
【0030】
さらに、本発明の第八及び第九の態様によれば、コンタクトレンズ用液剤の親油性が上がり、眼刺激の発生が更に有利に抑制されて、より一層優れた使用感が得られると共に、液剤の低コスト化をも図ることが出来る。
【0031】
更にまた、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤の第十の態様によれば、含有せしめる成分に応じた更なる作用が、付与せしめられることとなる。
【0032】
加えて、本発明の第十一の態様によれば、ソフトコンタクトレンズが、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤にて処理されることとなる。このように、本発明にあっては、ソフトコンタクトレンズに対しても、上述せる如き本発明による作用効果が、有利に発揮せしめられるようになっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
ところで、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤は、水を主体とする水系媒体中に、所定の殺菌剤乃至は防腐剤(A成分)が含有され、更に、グリコール酸及び/又はアスパラギン酸(B成分)と、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール(AMPD)又はその塩(C成分)とが、所定のモル比となるように組み合わされて、含有せしめられることによって、構成されている。
【0034】
ここにおいて、上記所定の殺菌剤(A成分)としては、殺菌能力に優れると共に、コンタクトレンズや眼等への適合性に優れたもの、更には、アレルギー等の障害の要因となり難いものが望ましく、従来から公知の各種のビグアニド系殺菌剤及び4級アンモニウム塩系殺菌剤の中から、少なくとも1種、或いは2種以上が組み合わされて、用いられることとなる。中でも、ビグアニド系殺菌剤にあっては、4級アンモニウム塩系殺菌剤に比して、他の液剤成分(例えば、B成分)による殺菌阻害を受けにくく、少量であっても優れた殺菌効果を実現し得るところから、より一層有利に用いられる。
【0035】
なお、上記した殺菌剤のうち、ビグアニド系殺菌剤としては、例えば、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)や、下記の構造式(I)にて示されるビグアニドポリマー等を挙げることが出来る。
【0036】
【化1】

【0037】
一方、4級アンモニウム塩系殺菌剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド等のテトラアルキルアンモニウム塩や、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等のトリアルキルベンジルアンモニウム塩の如きアルキルアンモニウム塩類;ヒドロキシエチルアルキルイミダゾリンクロライドに代表されるアルキルヒドロキシアルキルイミダゾリン4級塩類;アルキルイソキノリニウムブロマイドに代表されるアルキルイソキノリニウム塩類;アルキルピリジニウム塩類;アミドアミン類等のカチオン性界面活性剤の他、下記の構造式(II)〜(IV)にて表される4級アンモニウムポリマーや、特許第2550036号明細書に開示の如き、ジアミン類とジハロゲン化合物との縮合体、特開平4−231054号公報、特表平8−512145号公報、特開平11−249087号公報等に開示されているポリカチオン性のものや、ポリクオタニウム−4、ポリクオタニウム−10のようなカチオン性セルロースポリマーや、ハロゲン化ベンザルコニウム等が挙げられる。
【0038】
【化2】

【0039】
【化3】

【0040】
【化4】

【0041】
また、上述せる如きA成分の含有量としては、特に制限されるものではなく、通常、0.1〜1000ppm程度の範囲で用いられることにより、充分な殺菌効果乃至は防腐効果が得られることとなるが、本発明においては、上記の濃度範囲の中でも、低い濃度、具体的には、0.1〜500ppm、更に好ましくは0.1〜200ppmの範囲の濃度が有利に採用され得る。このように、本発明にあっては、極めて低濃度であっても、有効な殺菌効果が得られるようになっているのである。なお、かかるA成分の含有量が上記した濃度範囲より小さい場合には、充分な殺菌効果(防腐効果)が得られない。また、上記濃度範囲の上限を超える場合には、毒性が高められる等して、例えば、眼等に対して悪影響を及ぼしたり、また、コンタクトレンズ表面へのA成分の吸着が促進される等、安全性の面で問題が生じる恐れがある。
【0042】
一方、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤には、B成分として、グリコール酸及びアスパラギン酸のうちの何れか一方、或いは両方が、含有せしめられる。また、これら2つの酸性化合物の中でも、グリコール酸は、アスパラギン酸に比して、A成分の殺菌効力を低下せしめないところから、より一層好適に用いられる。このB成分は、水系媒体中において、その一部乃至は全部が電離して、有機アニオンを生じ、これによって、水系媒体中でカチオンとなって存在するA成分の、コンタクトレンズへの吸着が極めて効果的に抑制されることとなる。これにより、炎症や角膜全面染色(フルオレセインによる角膜染色検査で、角膜の全面が染色される)等の眼障害の発生が有利に防止され、以て眼に対する安全性が高度に確保され得るようになる。
【0043】
また、かかるB成分の使用量としては、A成分がコンタクトレンズに吸着するようなことが有利に抑制され得るように、適宜決定されることとなるが、一般に、0.01〜5w/w%(重量%)、より好ましくは0.05〜1w/w%となる濃度範囲において、用いられることが望ましい。なぜなら、使用量が少なくなり過ぎると、A成分のレンズへの吸着を抑制する効果を期待出来なくなるからであり、また、使用量が多くなり過ぎると、コンタクトレンズが収縮してサイズ変化を生じ、装用において問題を生じることとなるからである。
【0044】
このように、上述せる如きB成分を採用することによって、A成分のコンタクトレンズへの付着が抑制されて、眼に対する優れた安全性が実現され得るものの、A成分とB成分とを組み合わせただけでは、コンタクトレンズが収縮してしまう上、有機アニオンを生じるB成分が、水系媒体中でカチオンを生じるA成分の殺菌作用を阻害して、殺菌効果を低減せしめてしまう傾向がある。このため、本発明においては、後述するC成分を、必須の構成成分の一つとして、コンタクトレンズ用液剤に含有せしめる。
【0045】
つまり、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤には、C成分として、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール(AMPD)又はその塩が含有せしめられることとなる。なお、ここで、AMPDの塩としては、例えば、塩酸塩等を挙げることが出来る。
【0046】
そして、かかるC成分を液剤中に添加すると、C成分は、水系媒体中において、その一部乃至は全部が電離して、有機カチオンを生じる。この有機カチオンが、上述せる如きB成分の有機アニオンに作用し、これにより、B成分に起因して招来される、殺菌効力の低下やレンズ収縮が有利に抑制され得るようになる。それ故、A成分の殺菌効力が有効に発現され得るようになると共に、レンズのサイズ変化が効果的に防止され得るようになる。
【0047】
因みに、サイズ変化が防止され得るのは、以下の如き作用によるものと推察される。即ち、C成分を含有せしめることなく、B成分を含有せしめたコンタクトレンズ用液剤にあっては、それに浸漬されたコンタクトレンズを収縮せしめる、つまり、レンズサイズを小さく変化させる傾向があるのに対して、B成分を含有せしめることなく、C成分を含有せしめたコンタクトレンズ用液剤にあっては、それに浸漬されたコンタクトレンズを膨潤する、つまり、レンズサイズを大きく変化させる傾向があるところから、それらB成分とC成分とを併用することによって、コンタクトレンズの収縮と膨潤が打ち消されて、サイズ変化が殆ど起こらなくなるものと推察される。
【0048】
なお、上記したC成分の使用量は、B成分の使用量に応じて、適宜に設定されることとなる。具体的に、B成分とC成分のモル比(B成分:C成分)が、1:20〜1.3:1となるように、用いられることとなる。けだし、C成分の使用量が、B成分の1モルに対して、20モルを超えるようになると、A成分のコンタクトレンズへの吸着を、効果的に防止することが出来なくなるからであり、また、C成分の使用量が、B成分の1.3モルに対して、1モル未満となる場合には、殺菌効果が低減すると共に、析出物の発生が惹起され易くなるからである。また、上記した範囲の中でも、本発明の目的をより効果的に達成するためには、B成分とC成分のモル比が、好ましくは、1:15〜1.2:1程度、更に好ましくは、1:14〜1:1程度であることが、望ましい。
【0049】
かくして、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤にあっては、B成分として、有機アニオンを生ずる酸性化合物の中でも、特に、グリコール酸及び/又はアスパラギン酸が採用されると共に、C成分として、有機カチオンを生ずる化合物の中でも、特に、AMPD又はその塩が採用されるようになっているところから、A成分(殺菌剤)の殺菌効力が有効に発現されて、低濃度でも充分な殺菌効果が確保される共に、コンタクトレンズのサイズ変化が防止されて、レンズ適合性に優れたものとなっているのである。しかも、特定のB成分と特定のC成分が組み合わされて、所定の比率で用いられているところから、このようなコンタクトレンズ用液剤を用いて、コンタクトレンズを処理しても、レンズに析出物が発生するようなことが、効果的に防止されている。要するに、上述せる如きA〜C成分を含有するコンタクトレンズ用液剤中に、コンタクトレンズを、長期間に亘って浸漬したり、浸漬処理を何回も繰り返したり等しても、コンタクトレンズ表面に、液剤成分の結晶や粉状物が析出し難くなっているのであり、これにて、レンズの視野性が良好に維持されるのである。
【0050】
なお、上述せる如きB成分及びC成分は、その添加によって、液剤の浸透圧を上昇せしめるところから、等張化剤としての作用をも奏することとなる。このため、B成分とC成分は、所期の浸透圧を超えない量的範囲において、それぞれ、添加、含有せしめられることとなる。
【0051】
また、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤にあっては、従来より、等張化剤として、浸透圧を調整するために用いられている塩化ナトリウムを、含有せしめないようにすることが望ましく、また、例え、塩化ナトリウムを含有せしめたとしても、その濃度は、0.2w/w%以下、好ましくは、0.1w/w%以下に抑える必要がある。つまり、塩化ナトリウムの含有量は、0〜0.2w/w%、好ましくは、0〜0.1w/w%とされることが望ましい。けだし、かかる塩化ナトリウムの含有量が、0.2w/w%を超えると、A成分の殺菌効力が極端に低下して、所望とする殺菌効力が得られなくなるからである。
【0052】
なお、コンタクトレンズ用液剤の浸透圧は、一般に、実質的に生理的浸透圧に等しい、250〜400mOsm/kg程度の範囲とされ、本発明にあっても、そのような浸透圧となるように、液剤の構成成分の濃度が適宜に設定されることとなる。
【0053】
そして、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤には、等張化剤として作用する上記B成分とC成分以外にも、更に必要に応じて、他の等張化剤、具体的には、中性アミノ酸(D成分)や非イオン性等張化剤(E成分)等を、添加、含有せしめることも可能であり、このような等張化剤を更に添加することによって、コンタクトレンズにおける結晶や粉状物の析出が更に効果的に抑制されたり、A成分の殺菌効力がより一層有効に発現されるようになる。なお、これらの等張化剤が添加される場合にあっても、使用量は、液剤の浸透圧が所期の値を超えない量的範囲において、用いられることは、勿論、言うまでもないところである。
【0054】
より具体的には、上記した中性アミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、タウリン、ε−アミノカプロン酸等を挙げることが出来、これら中性アミノ酸のうちの1種を単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることが出来る。これらの中でも、特に、グリシンにあっては、それを用いた場合に、コンタクトレンズにおける析出物の発生が更に効果的に抑制されると共に、殺菌作用が補助されたり、また、レンズ適合性が向上せしめられるところから、より好適に採用される。
【0055】
また、かかる中性アミノ酸が添加される場合、その使用量は、0.1〜4w/w%とされることが望ましい。なぜなら、かかる添加量が、0.1w/w%未満の場合、その添加効果(等張化効果)が得られ難いからであり、また、中性アミノ酸が4w/w%を超えて添加される場合には、コンタクトレンズに、結晶や粉状物が析出する恐れがあるからである。
【0056】
一方、前記した非イオン性等張化剤としては、例えば、プロピレングリコール、グリセリン、糖類等を挙げることが出来、これら非イオン性等張化剤うちの1種を単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることが出来る。これらの中でも、特に、プロピレングリコールにあっては、コンタクトレンズにおける析出物の発生を更に効果的に抑制し得ると共に、液剤の粘性を上げて、眼刺激の発生を有利に低減し得るところから、より好適に採用される。
【0057】
そして、このような非イオン性等張化剤が添加される場合、その使用量は、0.1〜1w/w%とされることが望ましい。けだし、かかる使用量が、0.1w/w%未満では、非イオン性等張化剤による等張化効果や眼刺激の低減効果等が得られ難いからであり、また、1w/w%を超えて添加されると、レンズ適合性に悪影響が及ぼされる恐れがあるからである。
【0058】
加えて、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤にあっては、その用途等に応じて、更に、界面活性剤、キレート化剤、pH調整剤や、緩衝剤、増粘剤等、従来からコンタクトレンズ用液剤に添加、含有せしめられている公知の各種の添加剤が、適宜に選択されて、含有せしめられても、何等差支えないのである。なお、そのような添加剤としては、生体への安全性が高く、またコンタクトレンズの形状又は物性に対する影響のないものであれば、従来から公知のものが、何れも採用可能であり、本発明の作用・効果を損なわない量的範囲内において、有利に添加、含有せしめられる。
【0059】
例えば、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤に、眼脂等の汚れの除去効果(洗浄効果)を有利に発揮させるためには、洗浄剤としての界面活性剤が添加せしめられることが望ましい。
【0060】
そして、そのような界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンエチレンジアミン、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンステロール、ポリオキシエチレン水素添加ステロール、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリソルベート等を挙げることが出来、単独で或いは複数を組み合わせて用いることが出来る。
【0061】
なお、かかる界面活性剤は、一般に0.001〜5w/w%程度、好ましくは0.005〜2w/w%程度、更に好ましくは0.01〜1w/w%程度の濃度において、有利に用いられる。けだし、その添加量が過小である場合には、洗浄効果が不充分となるからであり、また過大である場合には、更なる洗浄効果の向上が望めないのみならず、却って、眼刺激の原因となりかねないからである。
【0062】
また、涙液中のカルシウム等の金属イオンがコンタクトレンズ(特に、ソフトコンタクトレンズ)に吸着するのを防ぐためには、キレート化剤を含有せしめることが望ましい。かかるキレート化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びその塩、例えばエチレンジアミン四酢酸・2ナトリウム(EDTA・2Na)、エチレンジアミン四酢酸・3ナトリウム(EDTA・3Na)等を挙げることが出来る。また、キレート化剤の添加量としては、一般に、0.01〜0.5w/w%程度の濃度が採用される。
【0063】
さらに、コンタクトレンズ用液剤にあっては、そのpH値が大きくなり過ぎても、逆に小さくなり過ぎても、眼に対して刺激を与えたり、眼障害を招来する恐れがあるところから、通常、そのpH値が、4.0〜9.0、好ましくは、6.0〜8.0、中でも7.0付近に調整されることが、望ましい。このため、必要に応じて、適当なpH調整剤や緩衝剤が添加されても良い。
【0064】
なお、そのようなpHの調整のために用いられるpH調整剤としては、水酸化ナトリウムや塩酸等を挙げることが出来るが、そのようなpH調整剤にあっても、前述せる如き塩化ナトリウムと同様に、水系媒体中において、ナトリウムイオンや塩化物イオンを生じるところから、その使用量を可及的に低く抑える必要があるのであり、また、それら強アルカリや強酸の添加に起因して、液中に塩化ナトリウム等の強電解質無機塩を構成するイオンが含有せしめられることとなる場合には、そのようにして形成される塩化ナトリウムも含めて、前述せるように、液剤中の塩化ナトリウム濃度が0.2w/w%以下、好ましくは0.1w/w%以下とされることが望ましい。
【0065】
一方、コンタクトレンズ用液剤のpHを前記した範囲に有効に且つ眼に対して安全な範囲に保つための緩衝剤としては、従来から公知の各種のものの中から、適宜に選択されて、用いられることとなる。具体的には、クエン酸塩緩衝剤やリン酸塩緩衝剤、ホウ酸塩緩衝剤、炭酸塩緩衝剤、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)緩衝剤や、更にはビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis−Tris)等のGood−Buffer等を、特に、眼や対して安全であり且つコンタクトレンズへの影響を少なくすることが出来るという理由から、例示することが出来る。なお、かかる緩衝剤の添加量は、一般に、0.01〜2w/w%程度とされるのである。但し、水系媒体中に溶解せしめられることによって比較的大きなイオン強度を示す緩衝剤、例えば、リン酸塩やクエン酸塩等を用いる場合にあっては、それらの緩衝剤によって、A成分の殺菌作用が阻害される恐れがあるところから、その添加量を零とするか、可及的に低くする必要がある。
【0066】
加えて、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤には、必要に応じて、増粘剤も更に添加され得、例えば、ヘテロ多糖類等の種々のガム類、合成有機高分子化合物、例えばポリビニルアルコール、ポリ−N−ビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド等や、更にはヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、スターチ誘導体等の増粘剤を、適宜に用いることが出来る。
【0067】
ところで、上述の如きA〜C成分等を含有せしめてなる、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤を調製するにあたっては、何等特殊な方法を必要とせず、通常の水溶液を調製する場合と同様に、精製水、蒸留水等の水系媒体中に各成分を溶解させることにより、容易に得ることが出来る。
【0068】
そして、以上のようにして得られた本発明に従うコンタクトレンズ用液剤は、例えば、コンタクトレンズ用殺菌液(消毒液)やコンタクトレンズ用殺菌洗浄液、コンタクトレンズ用殺菌保存液、コンタクトレンズ用殺菌洗浄保存液等として、好適に用いられることとなる。また、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤にあっては、眼に対して、優れた安全性が確保され得ているところから、点眼剤として使用することも可能である。
【0069】
なお、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤を用いて、コンタクトレンズの手入れを行なうに際しては、例えば、先ず、眼から外したコンタクトレンズを、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤で満たした適当な容器中に、所定の時間、浸漬せしめることにより、消毒を行なうのである。そして、コンタクトレンズを再び装用する際には、該コンタクトレンズを液剤中より取り出し、洗浄した後、装用することとなるのであるが、かかる装用に際して、前記消毒したコンタクトレンズを生理食塩水等で濯ぐだけでもよく、更には、本液剤は、眼に対して安全であるところから、本液剤に浸漬されたコンタクトレンズを取り出して、そのまま、直接に、眼に装用することも可能である。
【0070】
また、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤の対象としているコンタクトレンズとしては、その種類が何等限定されるものではなく、例えば、非含水、低含水、高含水等の全てに分類されるソフトコンタクトレンズ、及びハードコンタクトレンズがその対象となり得るのであって、コンタクトレンズの材質等が、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤の適用に際して問われることはない。中でも、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤は、殺菌剤(A成分)がコンタクトレンズに付着し難く、優れたレンズ適合性を有していると共に、コンタクトレンズに対して結晶や粉状物を析出せしめるようなことが抑制されているところから、殺菌剤や汚れ等が取り込まれ易く、サイズ変化が惹起され易い、ソフトコンタクトレンズに対して、特に有利に適用することが可能となっているのである。
【実施例】
【0071】
以下に、本発明の実施例を含む幾つかの実験例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実験例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0072】
先ず、滅菌精製水に対して、所定の添加成分を、下記表1に示される各種割合においてそれぞれ添加せしめ、更に、必要に応じて、pH調整剤(塩酸又は水酸化ナトリウム)を適量において添加することにより、浸透圧が290mOsm/kg程度、及びpHが7.3程度とされた、実験例1〜19に係る液剤を、それぞれ、調製した。
【0073】
なお、かかるコンタクトレンズ用液剤の調製に際して、A成分としては、ビグアニド系殺菌剤たるPHMB、又は4級アンモニウム塩系殺菌剤たるポリクオタニウム−4、ポリクオタニウム−6、ポリクオタニウム−22を用いた。また、B成分としては、グリコール酸又はアスパラギン酸を用いる一方、C成分としては、AMPDを用いた。更に、中性アミノ酸(D成分)として、グリシンを用い、非イオン性等張化剤(E成分)として、プロピレングリコールを用いた。また更に、非イオン性界面活性剤としては、HCO−60(日本サーファクタント株式会社製:ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油)を用い、キレート化剤としては、EDTA・2Naを用いた。また、比較のために、B成分及びC成分に類似する構造乃至は性質を有する化合物、及び塩化ナトリウムを、それぞれ、用いた。なお、B成分に類似する化合物としては、乳酸、グルコン酸及びクエン酸を準備する一方、C成分に類似する化合物としては、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)及びアルギニンを準備した。
【0074】
そして、得られた各液剤について、それぞれ、下記の結晶や粉状物の析出の評価試験を行ない、得られた結果を、下記表1に示した。
【0075】
[析出評価]
メニコン製のソフトコンタクトレンズ「メニコンソフトMA」を、上記で得られた各液剤に、4時間浸漬する操作を、30回行なった後、コンタクトレンズ表面を目視で観察し、以下の評価基準で、評価を行なった。なお、各液剤は、1回の浸漬操作毎に、新しいものに取り替えた。
◎:処理前と殆んど変化無し。
○:部分的に結晶や粉状物等の析出物が観測されたが、使用に問題はない程度である。
×:レンズの大部分に析出物が観察された。或いは大きい析出物が観測された。
【0076】
【表1】

【0077】
かかる表1の結果からも明らかなように、A〜C成分が含有せしめられると共に、B成分とC成分が所定のモル比で配合された実験例1〜9に係る液剤にあっては、析出評価が、◎又は○となっており、コンタクトレンズに析出物が発生するようなことが有利に抑制されていることが、分かる。特に、A〜C成分に加えて、D成分とE成分が更に含有せしめられた実験例5〜9に係る液剤にあっては、析出評価が、◎となっており、特に優れた効果が発揮されている。
【0078】
これに対して、実験例10〜12に係る液剤は、A〜C成分が組み合わされて、用いられていても、B成分:C成分が、モル比で、1.4:1〜7:1となっているところから、レンズに析出物が発生している。また、B成分やC成分に類似する化合物が用いられた実験例13〜18にあっても、レンズに析出物が発生している。なお、塩化ナトリウムにて浸透圧が調整された実験例19にあっては、析出評価が、○となっている。
【0079】
また、上記析出評価において、◎又は○の結果が得られた実験例1〜9及び19の液剤について、それぞれ、下記の殺菌効果の評価試験を行ない、得られた結果を、下記表2に示した。
【0080】
[殺菌効果評価]
各液剤の各9.9mLを試験管に入れ、これに、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans IFO 1594)を10〜10cfu/mL含む菌液の0.1mLを加えて攪拌し、最終的に10〜10cfu/mLの菌数を含む菌懸濁液を、それぞれ調製した。その後、それらを23℃で、4時間放置した後に、かかる菌懸濁液の1mLを取り出し、ブドウ糖ペプトン寒天培地の20mLを用いて、平板希釈法によりサンプル1mL中の生菌数を測定した。そして、この生菌数から、処理液1mL中の生菌数を算出した後、下記の計算式に従って、対数に換算した菌減少数(log reduction)を求めた。
菌減少数=log(調製直後の菌懸濁液1mL中の生菌数)
−log(処理後の菌懸濁液1mL中の生菌数)
【0081】
そして、得られた菌減少数(log reduction)の値から、殺菌効力の評価を、以下の評価基準で行なった。
◎:菌減少数が2以上(殺菌効力がかなりある)
○:菌減少数が1以上2未満(殺菌効力がある)
×:菌減少数が1未満(殺菌効力が弱い)
【0082】
【表2】

【0083】
かかる表2の結果からも明らかなように、実験例1〜9に係る液剤にあっては、殺菌効力の評価が◎又は○となっており、殺菌剤の殺菌作用が有効に発現されていることが分かる。特に、殺菌剤として、PHMBを用いると共に、B:C(モル比)=1:1とされた実験例3,5,6に係る液剤にあっては、殺菌剤の濃度が1ppmであっても、優れた殺菌効果が実現され得ている。
【0084】
これに対して、塩化ナトリウムにて浸透圧が調整された実験例19にあっては、同量の殺菌剤が添加されているにも拘わらず、殺菌剤の殺菌作用が殆んど発現されていないことが、分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビグアニド系殺菌剤及び4級アンモニウム塩系殺菌剤からなる群より選ばれた少なくとも1種の殺菌剤(A)と、グリコール酸及び/又はアスパラギン酸(B)と、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール又はその塩(C)とを含有すると共に、該B成分と該C成分が、1:20〜1.3:1のモル比となるように含有せしめられていることを特徴とするコンタクトレンズ用液剤。
【請求項2】
塩化ナトリウム濃度が、0〜0.2w/w%となるように調整されている請求項1に記載のコンタクトレンズ用液剤。
【請求項3】
前記A成分が、0.1〜500ppmの濃度となるように含有せしめられている請求項1又は請求項2に記載のコンタクトレンズ用液剤。
【請求項4】
前記B成分が、0.01〜5w/w%の濃度となるように含有せしめられている請求項1乃至請求項3の何れかに記載のコンタクトレンズ用液剤。
【請求項5】
中性アミノ酸が、更に含有せしめられている請求項1乃至請求項4の何れかに記載のコンタクトレンズ用液剤。
【請求項6】
前記中性アミノ酸が、0.1〜4w/w%の濃度となるように含有せしめられている請求項5に記載のコンタクトレンズ用液剤。
【請求項7】
前記中性アミノ酸が、グリシンである請求項5又は請求項6に記載のコンタクトレンズ用液剤。
【請求項8】
プロピレングリコールが、更に含有せしめられている請求項1乃至請求項7の何れかに記載のコンタクトレンズ用液剤。
【請求項9】
前記プロピレングリコールが、0.1〜1w/w%の濃度となるように含有せしめられている請求項8に記載のコンタクトレンズ用液剤。
【請求項10】
界面活性剤及びキレート化剤のうちの少なくとも何れか一方が、更に含有せしめられている請求項1乃至請求項9の何れかに記載のコンタクトレンズ用液剤。
【請求項11】
対象とするコンタクトレンズが、ソフトコンタクトレンズである請求項1乃至請求項10の何れかに記載のコンタクトレンズ用液剤。

【国際公開番号】WO2005/018693
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【発行日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513242(P2005−513242)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007923
【国際出願日】平成16年6月7日(2004.6.7)
【特許番号】特許第3894945号(P3894945)
【特許公報発行日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】