説明

コンタクトレンズ用溶液

【課題】本発明の課題は、コンタクトレンズに持続性のある親水性と防汚性を付与できるコンタクトレンズ用溶液を提供することである。
【解決手段】本発明は、特定の構造式で表されるベタイン構造を有する高分子化合物を含むことを特徴とするコンタクトレンズ用溶液である。また、本発明は、前記ベタイン構造を有する高分子化合物、イオン性の界面活性剤、殺菌消毒成分を含むことを特徴とするコンタクトレンズ用溶液である。また、本発明は、前記殺菌消毒成分が5,5−ジメチルヒダントインであることを特徴とするコンタクトレンズ用溶液である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンタクトレンズ用溶液に関する。詳しくは、コンタクトレンズ表面に親水性および防汚性を付与できる洗浄剤や保存剤および洗浄保存剤として効果的なコンタクトレンズ用溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズを快適かつ適切に装用するためには、専用の洗浄剤や保存剤を用いた定期的なケアが必要である。従来のコンタクトレンズ用溶液は、装用によりレンズ表面に付着したタンパク質、脂質などを洗浄により除去することを主目的とし、コンタクトレンズの装用感を向上させる効果は少なかった。
【0003】
装用感を向上させる手段としては、コンタクトレンズ自体の表面を親水性化する方法と、レンズ表面を親水性化できる専用溶液で処理する方法が知られている。例えば、レンズ自体の表面を親水性化する方法としては、親水性高分子をレンズ材料の表面にグラフトする処理が挙げられる。この方法は表面の親水性化と共に汚れ付着の防止に対しても有効ではあるが、繰り返しの装用による経時的な性能の低下が課題となっている。
【0004】
一方、専用溶液で処理する方法としては、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等の水溶性高分子を含有する溶液での処理が挙げられる。しかし、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンは、高い親水性を有し、疎水性の高いレンズ表面とは反発し合うので、持続性のある親水性を付与することはできない。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーは、親水性部位と疎水性部位を有する非イオン性高分子であり、溶液のpHや共存するイオン性成分の影響を受け難く、その上任意のHLB(親水性/疎水性のバランス)を設定できるため一般的に利用されている。しかし、親水性部位であるポリオキシエチレンの保水力と、疎水性部位であるポリオキシプロピレンのレンズ表面への吸着力とは相反する関係にあるため、その水濡れ性の持続的効果には限界がある。
【0005】
他の専用溶液で処理する方法としては、例えば、特定の両性界面活性剤とイオン性界面活性剤を組合せた技術(特許文献1参照)、リン脂質極性基を有する(メタ)アクリレートを含む溶液を用いる方法などが開示されている(特許文献2参照)。いずれもコンタクトレンズに付着した汚れを洗浄除去すると共に、レンズ表面に親水性と防汚性の付与を目的とするが、その持続的な効果は期待できず装用感の改善という点で満足できるものではなく、また、殺菌や消毒効果の有効性についても課題がある。
【0006】
例えば、特許文献2で用いられるリン脂質極性基を有する(メタ)アクリレートは、ホスホリルコリン構造を有する両性高分子化合物であるが、中性付近(pH6.5以上)では、わずかに陰イオン性を示し、pHの上昇にともなって陰イオン性が強まると考えられる。そのため、通常のコンタクトレンズ溶液に適するpH領域(pH6.5〜7.5)の水溶液中に、殺菌や消毒効果を示す陽イオン性化合物を共存させる場合には、その効果が低下する。この両性高分子化合物を減量したり、pHを酸性側にすることで、陽イオン性化合物の効果への影響は抑制できるが、親水性と防汚性、および眼に対する安全性において有効ではない。すなわち、特許文献2で用いられる両性高分子化合物をコンタクトレンズ用溶液に用いるには課題を有する。
【0007】
また、三級アミノ基や四級アンモニウム基を有する陽イオン性の化合物を配合して、洗浄性と同時に防汚性を付与する発明(特許文献3、4参照)や疎水性モノマーと親水性モノマーとの共重合体を調製してレンズ表面に水膜を形成する発明が開示されている(特許文献5参照)。
【0008】
特許文献3、4では、正電荷を帯びた三級アミノ基系や四級アンモニウム基系高分子によって、レンズ表面に防汚性が付与されるため、タンパク質汚れの付着や蓄積を抑制できるが、レンズ表面に親水性を付与して装用感を向上させることは配慮されていない。
【0009】
また、特許文献5の場合、疎水性モノマーと親水性モノマーさらに第三成分として殺菌性モノマーを用いた共重合体によってレンズ表面に親水性と防汚性を付与し、かつ、殺菌や消毒効果を付与するものである。親水性モノマーとしてアニオン性モノマー、カチオン性モノマー、非イオン性モノマー、両性(ベタイン系)モノマーを例示しているが、アニオン性モノマーやカチオン性モノマーを用いた場合前述のように、殺菌や消毒作用を有する陽イオン性の化合物、洗浄作用を有する陰イオン界面活性剤の効果が発揮できない。
【0010】
また、特許文献5では殺菌効果を付与するために第三の共重合成分として陽イオン性化合物の殺菌性モノマーを用いるので、得られる高分子化合物も陽イオン性を示し、洗浄成分である陰イオン界面活性剤と共存させた場合は、殺菌効果が低下するだけでなく、水膜の形成も困難になるなど、コンタクトレンズ用溶液に通常配合されるべき界面活性剤との相性について検討すべき課題がある。さらに、殺菌性を有する高分子化合物の水膜が眼と長時間接触することは、眼刺激や眼障害の要因となることも考えられ、眼に対する安全性上好ましくない。
【特許文献1】特開平5−202383号公報
【特許文献2】特開平7−166154号公報
【特許文献3】特表2000−510186号公報
【特許文献4】特開2002−256030号公報
【特許文献5】特開2006−3827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、コンタクトレンズに持続性のある親水性と防汚性を付与できるコンタクトレンズ用溶液を提供することにある。さらに詳細には、持続性のある親水性と防汚性を付与でき、かつ、コンタクトレンズ用溶液に通常配合されるべき陰イオン界面活性剤や陽イオン界面活性剤などの諸成分とを特定の割合で配合できるコンタクトレンズ用溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記の問題点に鑑み、鋭意検討した結果、ベタイン構造を有する両性高分子化合物を用いることで、上記目的を達成できることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は下記構造式で表されるベタイン構造を有する高分子化合物を含むことを特徴とするコンタクトレンズ用溶液である。
【0014】
【化2】

(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は水素原子または炭素数1〜23の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を示し、R1は同一または異なる基であってもよい。R3は炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を示し、R4は水素原子または炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を示し、R3は同一または異なる基であってもよい。また、mおよびnは1〜4の整数であり、Z-はハロゲンイオンまたはCOO-を有する基を示す。a、b、cは正の整数である。)
【0015】
さらに本発明は、前記ベタイン構造を有する高分子化合物、イオン性の界面活性剤、殺菌消毒成分を含むことを特徴とするコンタクトレンズ用溶液である。
【0016】
さらに本発明は、前記殺菌消毒成分が5,5−ジメチルヒダントインであることを特徴とするコンタクトレンズ用溶液である。
【発明の効果】
【0017】
コンタクトレンズ用溶液としての洗浄、殺菌・抗菌などの基本的機能を保持し、かつレンズ表面に持続性のある親水性と防汚性を付与してコンタクトレンズの装用感を改善することができる。
【0018】
さらに、本発明で用いる両性高分子化合物は、高い界面活性能を有するのでコンタクトレンズ用洗浄剤として用いた場合には、洗浄効果と汚れ付着防止効果との相乗効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明ではベタイン構造を有する高分子化合物を用いる点に特徴がある。通常、ベタイン構造を有する親水性モノマーの単独重合体は、高い親水性を有することから、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンと同様、疎水性のコンタクトレンズ表面の持続的な親水性化には限界がある。
【0020】
本発明で用いるベタイン構造を有する高分子化合物は共重合体であり、下記構造式で示される。
【0021】
【化3】

(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は水素原子または炭素数1〜23の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を示し、R1は同一または異なる基であってもよい。R3は炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を示し、R4は水素原子または炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を示し、R3は同一または異なる基であってもよい。また、mおよびnは1〜4の整数であり、Z-はハロゲンイオンまたはCOO-を有する基を示す。a、b、cは正の整数である。)
【0022】
前記Z-で示されるハロゲンイオンとしてはCl-、Br-などが挙げられ、COO-を有する基としては−CH2COO-、−CH2CH(OH)COO-などが挙げられる。
【0023】
具体的には、(N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン/(メタ)アクリル酸アルキル)コポリマーなどが挙げられ、商業的にも容易に入手することができ好ましい。
【0024】
本発明に用いるベタイン構造を有する高分子化合物は、親水性部位と疎水性部位からなる共重合体であるが、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーと異なり、従来のポリオキシプロピレンよりも高い疎水性を有する疎水性部位を有するため、コンタクトレンズ表面と良好な相互作用を発揮し、一方のベタイン構造を有する親水性部位が、ポリオキシエチレンよりも高い水濡れ性をコンタクトレンズ表面に付与するため、持続性のある水濡れ性を発揮することができる。その上、高分子化合物自体が両イオン性を示すので他のイオン性化合物との共存も可能である。特に、本発明で用いるベタイン構造を有する高分子化合物は、イオン性を示す界面活性剤等との相性を、通常のコンタクトレンズ溶液に適するpH領域(pH6.5〜7.5)内で制御することができる。
【0025】
すなわち、洗浄効果を発揮させるために陰イオン界面活性剤を共存させた場合でも、相互作用によるイオンコンプレックスを形成しないため白濁することもなく、洗浄効果とレンズ表面の水濡れ性や防汚性を付与できる。また、殺菌や消毒効果を発揮させるために陽イオン性の化合物、例えば陽イオン界面活性剤を共存させた場合でも、殺菌・消毒効果を低下させることはない。
【0026】
配合量は、通常0.001〜20(W/V)%程度を添加すれば良いが、好ましくは、0.1〜10(W/V)%、より好ましくは0.1〜5(W/V)%、特に好ましくは0.3〜3(W/V)%である。配合量が少なすぎると、親水性および防汚性の付与効果が不十分となり、多すぎると他の成分との相互作用によって洗浄効果、殺菌や消毒効果、およびコンタクトレンズへの悪影響が生じる場合がある。
【0027】
本発明のコンタクトレンズ用溶液では、その用途に合わせて、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤の中から選択した各種低分子量の界面活性剤、殺菌消毒剤、抗菌防腐剤、緩衝剤、酵素、浸透圧調整剤、粘稠化剤、その他成分を本発明の効果を損なわない範囲において、各々1種単独、または2種以上を適宜組合せて用いることができる。
【0028】
例えば、洗浄液や保存液として用いる場合には、陰イオン界面活性剤単独、あるいは、陰イオン界面活性剤と非イオン界面活性剤を組合せることが好ましい。また、擦り洗いなどの物理的作用による洗浄効果を期待する洗浄消毒液の場合には、殺菌や消毒効果を阻害しない非イオン界面活性剤が好ましく用いられる。
【0029】
これらの界面活性剤の配合量は、本発明で用いる両性高分子化合物の親水性および防汚性の付与効果を阻害せず、コンタクトレンズの形状安定性などに悪影響を与えることなく、且つ眼に対する刺激のない濃度であれば特に制限はないが、好ましくは0.05〜20(W/V)%、より好ましくは0.1〜5(W/V)%の範囲である。
【0030】
陰イオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン等のアルキル硫酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム等のα−オレフィンスルホン酸ナトリウム、ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリルリン酸トリエタノールアミン等のアルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸トリエタノールアミン等のポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられる。
【0031】
非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミド等のアルキロールアマイド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60等のポリオキシエチレンオキシステアリン酸トリグリセライド、ポリソルベート80等のモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、アルキルポリグルコシド等が挙げられる。
【0032】
両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン等のアルキルベタイン型、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン等のアルキルアミドベタイン型、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等のグリシン型、N−[3−アルキル(12,14)オキシ−2−ヒドロキシプロピル]−L−アルギニン塩酸塩液等が挙げられる。
【0033】
本発明で用いるベタイン構造を有する高分子化合物は両性を示すため、一般的に殺菌や消毒剤として用いられる陽イオン性化合物の効果を低下させることなく用いることができることに特徴がある。これらの配合量は、目的とする効果と眼に対する安全性、コンタクトレンズに対する影響を考慮して決定するが、0.00001〜10(W/V)%が好ましく、より好ましくは0.00005〜6.5(W/V)%である。
【0034】
具体的には、塩酸ポリヘキサメチレンビグアニド、塩化ポリドロニウム、過酸化水素、ポビドンヨード、アルキルポリアミノエチルグリシン等、抗菌・防腐剤として、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、5,5−ジメチルヒダントイン、メチロール化ヒダントイン、ハロゲン化ヒダントイン、ソルビン酸(およびその塩)、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等が挙げられる。
【0035】
上記化合物のうち、5,5−ジメチルヒダントインは陰イオン界面活性剤の共存下で洗浄効果と抗菌防腐効果を両立させた洗浄保存剤に好ましく用いられる。また、塩酸ポリヘキサメチレンビグアニドは非イオン界面活性剤の共存下での殺菌消毒剤に好ましく用いられる。
【0036】
また、本発明のコンタクトレンズ用溶液は、使用目的に応じて眼に対する刺激やコンタクトレンズに対する影響を考慮して、pH5〜9の範囲内で調製されるが好ましくはpH5.5〜8.5程度の範囲での調整である。特に、イオン性の界面活性剤などの共存下では、本発明で用いる両性高分子化合物の特徴である親水性や防汚性付与の効果を低下しないpHにて調整すると好ましい。例えば、洗浄効果付与を目的として陰イオン界面活性剤を配合する場合には、pH6.5〜8.5の範囲内で調整するとよりいっそう効果が発揮でき、殺菌や消毒効果付与を目的として陽イオン性化合物を配合する場合には、pH5.5〜7.5程度に調整するとよりいっそう効果が発揮できる。
【0037】
緩衝剤としては、ホウ酸、ホウ砂、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、リン酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム等、従来から用いられているものの中から適宜選択して用いる。具体的には、トリスヒドロキシメチルアミノメタンと塩酸あるいはクエン酸とを組み合わせた緩衝剤や、ホウ酸及び/またはホウ砂を組み合わせた緩衝剤等が挙げられる。配合量は、好ましくは0.1〜10(W/V)%の範囲である。0.1(W/V)%未満では十分なpH安定性が得られず、また、10(W/V)%を越えてもpHの顕著な安定性が認められないばかりか、低温下で保存する場合に緩衝剤が析出する等の問題を生じる可能性がある。
【0038】
酵素としては、タンパク分解酵素、脂質分解酵素、糖質分解酵素などの中から適宜選択して用いる。具体的には、トリプシン、キモトリプシン、パンクレアチン、パパイン、コラゲナーゼ、プロメライン、アミノペプチダーゼ、アスペルギロ・ペプチダーゼ、プロナーゼE、ディスパーゼ、ズブチリシンA、ズブチリシンB、リパーゼ、グルコシダーゼ、ムタナーゼ、α−アミラーゼ、デキストラナーゼ等が挙げられる。特に、タンパク分解酵素は、コンタクトレンズ装用時にレンズ表面に付着するタンパク質汚れを除去するために、好ましく配合される。これら酵素の配合量は、洗浄効果に応じた有効量に基づいて適宜決定されるものであるが、好ましくは0.01〜10(W/V)%、より好ましくは0.05〜5(W/V)%の範囲である。
【0039】
また、タンパク分解酵素を配合する場合、界面活性剤、特に陰イオン界面活性剤の共存下での安定性を向上させるために、グリセリン、ソルビトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の水溶性多価アルコール、トリメチルグリシンを添加することもできる。
【0040】
水溶性多価アルコールとしては、その種類に特に制限はなく、グリセリン、ソルビトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等が挙げられる。
【0041】
その配合量は、洗浄効果、殺菌・消毒効果およびコンタクトレンズの形状安定性に影響のない濃度であれば特に制限はないが、タンパク分解酵素の安定性、並びに、性状および触感を考慮すると、好ましくは3〜65(W/V)%、より好ましくは10〜35(W/V)%の範囲である。3%未満ではタンパク分解酵素の安定性が十分ではなく、また65%を越えても安定性の顕著な向上は認められない。
【0042】
浸透圧調整剤は、眼科的に従来から公知の無機塩、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等のイオン性浸透圧調整剤の他に、グリセリン、プロピレングリコール等の水溶性多価アルコール、グリシン、アラニン等のアミノ酸、キシリトール、マンニトール等の糖アルコール、グルコース、フルクトース等の単糖類をはじめトレハロース等の二糖類、それ以上の多糖類(環状多糖類であるサイクロデキストリン等も含む)等の非イオン性、あるいはトリメチルグリシンなどの両性の浸透圧調整剤の中から適宜選択して使用することができる。また、その配合量は、目的とする浸透圧に調整するのに必要な量であり、コンタクトレンズの形状安定性などに悪影響を与えることなく、且つ眼に対する刺激のない濃度であれば特に制限はないが、含水性コンタクトレンズに用いる場合は、150〜500mmol/L、好ましくは200〜450mmol/L程度の浸透圧となるように調整するのに必要な量を使用する。
【0043】
粘稠化剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、無水マレイン酸とメチルビニルエーテルの共重合体、デキストラン、プルラン、ヒアルロン酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等が挙げられ、これらの中から単独あるいは適宜組合せて使用することができる。その配合量は、通常0.01〜10(W/V)%の範囲である。
【0044】
上記成分の他にも、本発明の目的を損なわない限り、保存剤、キレート剤、溶解補助剤等の各種添加剤を更に配合することができる。
【0045】
本発明のコンタクトレンズ用溶液の対象となるコンタクトレンズの種類は、含水(低含水、高含水)、非含水、イオン性などの素材・材質的な制限は特になく、全てのコンタクトレンズに適用することができる。
【0046】
また、本発明におけるコンタクトレンズ用溶液とは、コンタクトレンズの洗浄液、保存液、洗浄・保存液、消毒液、すすぎ液、溶解水、マルチパーパスソリューション、コンデショニングソリューション、リンスソリューション、コンタクトレンズ装着液などが挙げられる。
【0047】
さらに本発明は、目的に応じて用時調製用の顆粒、粉末、タブレット、ゲル等の剤形として用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。なお、実施例における単位は、特に断らない限りW/V%である。
【0049】
(実施例1〜5、比較例1〜3)
表1に記載した各配合成分を精製水中に混合し溶解して、実施例、および比較例のコンタクトレンズ用溶液を調製して親水性付与の効果と防汚性付与の効果を次の方法により評価した。
【0050】
1.親水性付与効果の評価
コンタクトレンズ材料(RGPCL材料:シード社製A−1、SCL材料:シード社製SX)から切削・研磨により試験用ディスクを作製した。A−1ディスクは5mm厚、SXディスクは1mm厚とし、SXディスクはダルベッコリン酸緩衝生理食塩水にて膨潤・含水させた後、試験に用いた。
【0051】
試験用ディスクの浸漬処理前の接触角を測定(初期値)した後、実施例1〜4および比較例1〜3のコンタクトレンズ用溶液にはA−1ディスク、実施例5および比較例4のコンタクトレンズ用溶液にはSXディスクを6時間浸漬処理した。
【0052】
6時間後、A−1ディスクは水道水の流水で、SXディスクはダルベッコリン酸緩衝生理食塩水で30秒間すすいだ後、各コンタクトレンズ用溶液による浸漬処理後の試験用ディスクの接触角を測定した。
【0053】
試験用ディスクの各コンタクトレンズ用溶液による浸漬処理前後の接触角の差(接触角変化量)により水濡れ性付与効果を評価した。接触角は、協和界面科学株式会社製、接触角計CA−D型を用いた気泡法により測定し、下記の計算式に従い、接触角変化量を算出した。
【0054】
接触角変化量(°)= (浸漬処理前の接触角)−(浸漬処理後の接触角)
算出した接触角変化量(°)から、以下に示すように5段階で親水性付与効果を評価した。その結果を表3に示す。
【0055】
◎;25°以上 ○;15°〜25°未満 △;10°〜15°未満 ▲;5°〜10°未満 ×;5°未満
【0056】
2.防汚性付与効果の評価
人工汚れ液に浸漬して汚れを付着させる操作と、コンタクトレンズ用溶液によるケア(洗浄・保存)操作を繰返し行ない、実際のコンタクトレンズ使用を模倣したサイクル処理によって付着していく汚れの増加量を、ヘーズ値(濁度)により測定することで、コンタクトレンズ用溶液の防汚性付与効果を評価した。
【0057】
公知の涙液成分(タンパク質、脂質、および無機塩)を含有する人工汚れ液に、試験用レンズ(RGPCL:シード社製A−1、SCL:シード社製SXブルー)を37℃で6時間浸漬する。
【0058】
6時間後のRGPCLは、レンズを人工汚れ液から取出して、実施例1〜5及び比較例1〜4のコンタクトレンズ用溶液に6時間浸漬する。6時間後は、水道水の流水ですすいだ後、再び人工汚れ液に浸漬する。
【0059】
SCLは、レンズを人工汚れ液から取出した時点で実施例5及び比較例4のコンタクトレンズ用溶液で擦り洗いとすすぎを行なった後、4時間浸漬した。4時間後、コンタクトレンズ溶液から取出して、そのまま人工汚れ液に浸漬した。
【0060】
上記の手順を1サイクルとして、その都度ヘーズ値(濁度)を測定して防汚性付与効果を評価した。
【0061】
ヘーズ値の測定には、スガ試験機株式会社製、全自動ヘーズコンピューター HGM−2DPを使用した。測定したレンズのヘーズ値から、以下に示すように5段階で防汚性付与効果を評価した。
【0062】
◎;10以下 ○;10〜20未満 △;20〜30未満 ▲;30〜40未満 ×;40以上
【0063】
実施例1〜5では親水性および防汚性が付与効果が確認でき、比較例1〜4では親水性付与効果が認められず、防汚性も長期間の使用により低下することが確認できる。
【0064】
以上の評価結果から、本発明のコンタクトレンズ用溶液では、毎日の処理によって親水性と防汚性が付与されるため、レンズ表面の水濡れ低下や汚れの付着による異物感、くもり等を原因とするコンタクトレンズ装用中の装用感の低下による不快な症状を解消することが期待できる。
【0065】
【表1】

*両性高分子化合物:(N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン/メタクリル酸アルキル)コポリマー(大阪有機化学工業(株):RAM-1000)
*界面活性剤の配合量は、純分換算後の配合量である。
【0066】
界面活性剤1:α-オレフィンスルホン酸ナトリウム((株)ライオン:リポランPJ-400)
界面活性剤2:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー
(BASFジャパン(株):ルトロールF-127)
*CHG :グルコン酸クロルヘキシジン
*PHMB :塩酸ポリヘキサメチレンビグアニド
*酵 素 :蛋白分解酵素(ノボザイムズ(株):CL-Pro2.5MG)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式で表されるベタイン構造を有する高分子化合物を含むことを特徴とするコンタクトレンズ用溶液。
【化1】

(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は水素原子または炭素数1〜23の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を示し、R1は同一または異なる基であってもよい。R3は炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を示し、R4は水素原子または炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を示し、R3は同一または異なる基であってもよい。また、mおよびnは1〜4の整数であり、Z-はハロゲンイオンまたはCOO-を有する基を示す。a、b、cは正の整数である。)
【請求項2】
前記ベタイン構造を有する高分子化合物、イオン性の界面活性剤、殺菌消毒成分を含むことを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ用溶液。
【請求項3】
前記殺菌消毒成分が5,5−ジメチルヒダントインであることを特徴とする請求項2記載のコンタクトレンズ用溶液。

【公開番号】特開2008−152094(P2008−152094A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341145(P2006−341145)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(000131245)株式会社シード (30)
【Fターム(参考)】