説明

コンタクトレンズ装着液

【課題】コンタクトレンズ装着時の異物感・ゴロゴロ感の低減とレンズの安定な保持を可能にし、かつ視界不良を起こさないコンタクタクトレンズ装着液を提供する。
【解決手段】(A)ヒドロキシエチルセルロース、(B)アミノ酸類を含有し、実質的に(Z)ポリビニルピロリドン又はポリビニルアルコールを含まない、コンタクトレンズ装着液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズが眼に及ぼす影響を軽減するためのコンタクトレンズ装着液に関し、さらに詳しくは、コンタクトレンズ装着時の使用感及び安全性が向上されたコンタクトレンズ装着液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、視力矯正や美容を目的として、コンタクトレンズが目覚しく普及している。コンタクトレンズは、涙液の存在下とは言え角膜に直接接触させて使用しなければならない特性から、装着時にコンタクトレンズと角膜との間でクッションとしての役割を果たすコンタクトレンズ装着液(以下、単に「装着液」と表記する事もある)を使用する人も多い。一方、コンタクトレンズ装着液を使用する事によって生じる問題点も提起されている。例えば、装着時の不快感(ベタベタ感など)や、装着直後に視界がぼやける事などの問題点が知られている(特許文献1、特許文献2)。また、多くのコンタクトレンズ使用者は、手指でコンタクトレンズを目に装着するが、コンタクトレンズ装着液の液性によっては、指先からレンズが離れ難くなって適切に装着できなかったり、逆にレンズが指から滑り落ちてしまう、あるいは指先からレンズを介してゴミや汚れ等が目に入ってしまう等の問題点もある。
【0003】
【特許文献1】特開2005−187345
【特許文献2】特開2003−66383
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、優れたコンタクトレンズ装着液を開発するために研究を重ねる過程で、装着液を使用してコンタクトレンズを装着した際に生じるゴロゴロ感や異物感、さらにはコンタクトレンズの装着し難さ等の問題の一因が、コンタクトレンズ装着液自体の液性や、コンタクトレンズとコンタクトレンズ装着液との組み合わせに関係しているという知見を得た。
そこで、本発明は、コンタクトレンズ装着液を使用してコンタクトレンズを装着した際の異物感・ゴロゴロ感が低減されており、コンタクトレンズ装着直後の視界が良好であり、かつ、使用者に、コンタクトレンズが角膜上に安定に保持されているとの自覚を与えるようなコンタクタクトレンズ装着液を提供することを目的としている。
また、本発明は、コンタクトレンズの眼への装着を容易にするという、コンタクトレンズ装着液の機能をより高めたコンタクタクトレンズ装着液を提供することを目的とするものである。
さらに、本発明は、手指の汚れがコンタクトレンズに付着し難く、安全性が高いのみならず、装着後に指に残る液の感触も良好なコンタクトレンズ装着液を提供することをも目的とするものである。
要するに、本発明は、コンタクトレンズの装着を円滑かつ安全に行うことができ、装着後もレンズを気持ちよく安定的に保持することができ、しかもレンズへの汚れの付着が抑制され、使用しやすいコンタクトレンズ装着液を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、(A)ヒドロキシエチルセルロース、(B)アミノ酸類を含有し、実質的に(Z)ポリビニルピロリドン又はポリビニルアルコールを含まない、コンタクトレンズ装着液が、上記の課題を解決する優れた特性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、下記に掲げる発明である。
(1)(A)ヒドロキシエチルセルロース、(B)アミノ酸類を含有し、実質的に(Z)ポリビニルピロリドン又はポリビニルアルコールを含まない、コンタクトレンズ装着液。
(2)(A)成分を0.0001〜25(w/v)%の割合で含有する、(1)に記載のコンタクトレンズ装着液。
(3)(B)成分が、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、アスパラギン酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロンアミノカプロン酸、及びそれらの塩からなる群より選択される1種以上である、(1)又は(2)に記載のコンタクトレンズ装着液。
(4)(B)成分を0.0001〜10(w/v)%の割合で含有する、(1)〜(3)のいずれかに記載のコンタクトレンズ装着液。
(5)さらに(C)成分として非イオン性界面活性剤を含有する、(1)〜(4)のいずれかに記載のコンタクトレンズ装着液。
(6)(C)成分が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体からなる群より選択される1種以上である、(5)に記載のコンタクトレンズ装着液。
(7)(C)成分が、ポリソルベート80である、(5)に記載のコンタクトレンズ装着液。
(8)(C)成分を0.001〜5(w/v)%の割合で含有する、(5)〜(7)のいずれかに記載のコンタクトレンズ装着液。
(9)コンタクトレンズが、ソフトコンタクトレンズである、(1)〜(8)のいずれかに記載のコンタクトレンズ装着液。
(10)ソフトコンタクトレンズが、原則としてソフトコンタクトレンズ分類グループIVのソフトコンタクトレンズである、(9)に記載のコンタクトレンズ装着液。
(11)ソフトコンタクトレンズが、シリコーンハイドロゲルレンズ素材のソフトコンタクトレンズである、(9)に記載のコンタクトレンズ装着液。
【発明の効果】
【0007】
本発明のコンタクトレンズ装着液によれば、コンタクトレンズ装着時の異物感・ゴロゴロ感が低減されており、コンタクトレンズ装着直後の視界が良好であり、かつ、使用者は、レンズが角膜上に安定に保持されているとの自覚を得ることができる。また、本発明のコンタクトレンズ装着液はコンタクトレンズの眼への装着を容易にする機能に優れており、円滑にコンタクトレンズを装着することができる。さらに、本発明のコンタクトレンズ装着液によれば、手指の汚れがコンタクトレンズに付着し難く、安全性が高いのみならず、装着後に指に残る液の感触も良好である。
要するに、本発明のコンタクトレンズ装着液は、コンタクトレンズの装着を円滑かつ安全に行うことができ、装着後もレンズを気持ちよく安定的に保持することができ、しかもレンズへの汚れの付着が抑制され、使用しやすい等の優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書中、「装着」と言う表記は、コンタクトレンズを「目に着ける」行為(操作)を表し、「装用」と言う表記は、コンタクトレンズが「角膜上にある」状態を表す。
また、本明細書中、「%」と言う表記は、特記しない限りw/v%、即ち溶液100mLに溶けている各成分(溶質)の重量gを意味するものである。
さらに、「コンタクトレンズ」という語句は、特記しない限り、ハード、酸素透過性ハード、ソフト等のあらゆるタイプのコンタクトレンズを包含する意味で用いる。以下、「コンタクトレンズ」を単に「レンズ」と表記する事もある。
また、本明細書において、「ソフトコンタクトレンズ分類」とは、平成11年3月31日付医薬審第645号厚生労働省(当時の厚生省)医薬安全局審査管理課長通知「ソフトコンタクトレンズ及びソフトコンタクトレンズ用消毒剤の製造(輸入)承認申請に際し添付すべき資料の取り扱い等について」において規定された「ソフトコンタクトレンズの分類方法について」に基づくSCLの分類である。ここでは、ソフトコンタクトレンズは、含水率や陰イオンを有するモノマーのモル%等を基準として分類される。例えば、グループIVに属するSCLは、含水率が50%以上であり、原材料ポリマーの構成モノマーのうち陰イオンを有するモノマーのモル%が1%以上であることを共通の性質として有する。尚、本分類はFDA(米国食品医薬品局)が行なっているソフトコンタクトレンズの分類方法に従っている。
【0009】
また、「原則として」とは、材質、機能等の点で、当業者が該分類に属するものと同等と理解しうるソフトコンタクトレンズを包含することを意味する。
【0010】
また、シリコーンハイドロゲル素材のコンタクトレンズとは、シリコーンを含有する素材(例えばシリコーンとアクリレートの重合体であるTRIS又はTRIS誘導体等)に親水性モノマー(例えばヒドロキエシエチルメタクリレート、ジメチルアクリルアミド等)を共重合させた素材を用いたコンタクトレンズであり、USAN(United State Adopted Name)に基づく素材の名称としては、例えばLotrafilconA、LotrafilconB、BalafilconA、GalyfilconA、SenofilconAなどが挙げられる。
さらに、本明細書において、「コンタクトレンズ装着液」とは、基本的にコンタクトレンズの装着を容易にし、かつ角膜とレンズの間のクッション作用を有する眼科用組成物を意味する。本明細書中「コンタクトレンズ装着液」は、単に「装着液」と表記する事もある。
【0011】
本発明におけるコンタクトレンズ装着液は、(A)ヒドロキシエチルセルロース、(B)アミノ酸類を含有し、実質的に(Z)ポリビニルピロリドン又はポリビニルアルコールを含まないことで、コンタクトレンズを眼に入れる際(装着時)の異物感・ゴロゴロ感が低減されており、且つ、レンズが角膜上に安定に保持されているという自覚が得られると共に、コンタクトレンズ装着直後の視界を良好に保つことができる。さらには、コンタクトレンズを眼に入れ易い(装着し易い)上、手指からコンタクトレンズへの汚れが付着し難く、装着後に指に残った液の感触も良好である。
【0012】
本発明のコンタクトレンズ装着液は、ヒドロキシエチルセルロース(以下、単にHEC又は(A)成分と表記することもある)を含有する。
本発明に用いるヒドロキシエチルセルロースは、種々の分子量や粘度のものが例示され、好ましくは、ヒドロキシエチルセルロース のうち20℃、2%水溶液の粘度が100mPa・s〜50000mPa・sのものが用いられ、より好ましくは1000mPa・s〜50000mPa・s、特に好ましくは1000mPa・s〜30000mPa・sのヒドロキシエチルセルロースである。かかるヒドロキシエチルセルロース は市販のものを利用することができ、例えば住友精化株式会社から販売されているHEC−CF−G(20℃、2%水溶液の粘度が300mPa・s〜600mPa・s)、HEC−CF−V(20℃、2%水溶液の粘度が5000mPa・s〜10000mPa・s)、HEC−CF−W(20℃、2%水溶液の粘度が10000mPa・s〜16000mPa・s)等が利用できる。これらのヒドロキシエチルセルロースを1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0013】
本発明におけるコンタクトレンズ装着液中のヒドロキシエチルセルロースの含有量は、化合物の種類や分子量によっても異なるので限定されるものではないが、コンタクトレンズ装着液の総量に対し、これらの化合物が総量で、通常0.0001〜25%、好ましくは0.001〜10%、より好ましくは0.005〜7%、更に好ましくは0.01〜5%、特に好ましくは0.01〜1%である。
【0014】
本発明のコンタクトレンズ装着液は、さらにアミノ酸類(以下、単に(B)成分と表記することもある)を含有する。
本発明に用いるアミノ酸類とは、アミノ酸又はその塩、及びアミノ酸類似体を包含し、分子内にアミノ基とカルボキシル基又はスルホン基を有する化合物又はその誘導体を意味する。具体的にはアミノ酸又はその塩、ムコ多糖又はその誘導体又はそれらの塩が例示される。
【0015】
アミノ酸類は、例えば、グリシン、アラニン、アミノ酪酸、アミノ吉草酸、アミノカプロン酸等のモノアミノモノカルボン酸;アスパラギン酸、グルタミン酸等のモノアミノジカルボン酸又はそれらの塩;アルギニン、リジン等のジアミノモノカルボン酸又はそれらの塩;アミノエチルスルホン酸(タウリン);コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸などのムコ多糖又はその誘導体又はそれらの塩(ムコ多糖類とも言う。)等である。具体例として、グリシン、アラニン、γ―アミノ酪酸、γ―アミノ吉草酸、イプシロンアミノカプロン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、アミノエチルスルホン酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸又はそれらの塩等が挙げられる。アミノ酸の塩又はムコ多糖類は、医薬上、薬理学的に又は生理学的に許容される塩を含む。そのような塩としては、有機酸との塩[例えば、モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩など)、多価カルボン酸塩(フマル酸塩、マレイン酸塩など)、オキシカルボン酸塩(乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩など)、有機スルホン酸塩(メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩など)など]、無機酸との塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩など)、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリンなどの有機アミンとの塩など)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウムなど)、アルミニウムなどの金属との塩など]などが例示でき、化合物によって適宜選択される。例えば、モノアミノジカルボン酸の場合は、無機塩基との塩が好ましく、特にアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩が好ましい。
【0016】
好ましいアミノ酸類は、グリシン、アラニン、γ―アミノ酪酸、γ―アミノ吉草酸、イプシロンアミノカプロン酸、アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カルシウム、アスパラギン酸マグネシウム・カリウム(等量混合物)、グルタミン酸、塩酸グルタミン酸、グルタミン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム等である。より好ましくは、イプシロンアミノカプロン酸、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム・カリウム(等量混合物)、アミノエチルスルホン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウムである。なお、本発明のアミノ酸類は、D体、L体、DL体のいずれでもよい。また、本発明のアミノ酸類は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
本発明におけるコンタクトレンズ装着液中のアミノ酸類の含有量は、化合物の種類や分子量によっても異なるので限定されるものではないが、コンタクトレンズ装着液の総量に対し、これらの化合物の総量で、通常0.0001〜10%、好ましくは0.001〜10%、より好ましくは0.005〜8%、さらに好ましくは0.02〜5重量%、特に好ましくは0.02〜3重量%、さらに特に好ましくは、0.05〜2%である。
【0018】
本発明のコンタクトレンズ装着液は、必要に応じて適当な非イオン性界面活性剤(以下、単に(C)成分と表記することもある)を含有することができる。
本発明に用いる非イオン性界面活性剤としては、通常当業者がコンタクトレンズ用眼科組成物に利用しうるものを用いることができ、例えばポロクサマー407 、ポロクサマー235 、ポロクサマー188 などのポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー (以下、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体とも言う。);ポロキサミンなどのエチレンジアミンのPOE-POPブロックコポリマー付加物;モノラウリル酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20) ,モノオレイン酸POE(20)ソルビタン (ポリソルベート80) ,POEソルビタンモノステアレート(ポリソルベート60),POEソルビタントリステアレート(ポリソルベート65) などのPOEソルビタン脂肪酸エステル類;POE硬化ヒマシ油5 ,POE硬化ヒマシ油10 ,POE硬化ヒマシ油20 ,POE硬化ヒマシ油40 ,POE硬化ヒマシ油50、POE硬化ヒマシ油60 ,POE硬化ヒマシ油100などのPOE硬化ヒマシ油類;POE(9) ラウリルエーテルなどのPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4) セチルエーテルなどのPOE・POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテルなどのPOEアルキルフェニルエーテル類などが挙げられる。なお、POEはポリオキシエチレンを示し、POPはポリオキシプロピレンを示し、括弧内の数字は付加モル数を示す。
【0019】
なかでも好ましくは、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、POEソルビタン脂肪酸エステル類又はPOE硬化ヒマシ油類であり、中でも特に好ましくは、ポロクサマー407、ポリソルベート80、POE硬化ヒマシ油60である。
本発明におけるコンタクトレンズ装着液中の非イオン性界面活性剤の含有量は、界面活性剤の種類などによって異なるので一概に規定できないが、コンタクトレンズ装着液の総量に対し、これらが総量で、通常0.001〜5%、好ましくは0.001〜1.5%、より好ましくは0.001〜1%、さらに好ましくは0.005〜0.5%、特に好ましくは0.05〜0.3%である。
【0020】
本発明のコンタクトレンズ装着液には、必要に応じて適当な緩衝剤を配合することが好ましい。本発明に用いる緩衝剤としては、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、HEPES緩衝剤、MOPS緩衝剤などが挙げられる。より具体的には、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、ホウ砂、メタホウ酸カリウム、リン酸、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、炭酸、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、HEPES、MOPSなどの化合物、これらの水和物、これらの群から選ばれる2種以上の化合物の組み合わせ等が挙げられる。
【0021】
好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤及びクエン酸緩衝剤である。特に好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤またはリン酸緩衝剤である。特に好ましい緩衝剤は、より具体的には、ホウ酸緩衝剤としてはホウ酸、ホウ酸アルカリ金属塩,ホウ酸アルカリ土類金属塩などのホウ酸塩、ホウ酸とホウ酸塩との組み合わせが挙げられ、特にホウ酸、ホウ砂が好ましく、リン酸緩衝剤としては、リン酸、リン酸アルカリ金属塩,リン酸アルカリ土類金属塩などのリン酸塩、それらの水和物、リン酸とリン酸塩との組み合わせが挙げられ、特にリン酸水素ナトリウム、リン酸ニ水素ナトリウム、それらの水和物が好ましい。
【0022】
本発明におけるコンタクトレンズ装着液中の緩衝剤の含有量は、緩衝剤の種類などによって異なるので一概に規定できないが、コンタクトレンズ装着液の総量に対し、これらが総量で、通常0.001〜5%、好ましくは0.001〜3%、より好ましくは0.005〜2.0%、さらに好ましくは0.005〜1.5%、特に好ましくは0.05〜1.5%である。
【0023】
本発明のコンタクトレンズ装着液には、必要に応じて適当な無機塩類を配合することが好ましい。無機塩類としては、塩化カリウム、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムが挙げられ、これらの1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明におけるコンタクトレンズ装着液中の無機塩類の含有量は、無機塩類の種類などによって異なるので一概に規定できないが、コンタクトレンズ装着液の総量に対し、これらが総量で、通常0.001〜5%、好ましくは0.01〜1.5%、より好ましくは0.1〜0.7%で用いられる。
【0024】
本発明のコンタクトレンズ装着液には、必要に応じて適当なエチレンジアミン酢酸誘導体またはその塩を配合することが好ましい。かかるエチレンジアミン酢酸誘導体またはその塩としては、例えば、エデト酸(エチレンジアミン四酢酸,EDTA)、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)またはそれらの塩などが例示できる。エチレンジアミン酢酸誘導体の塩は、薬理学的に又は生理学的に許容される塩を含み、例えばアルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)との塩、アルカリ土類金属(カルシウムなど)との塩などが挙げられる。なかでも好ましくは、エチレンジアミン四酢酸またはその塩であり、例えばエチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム・二水和物(以下、エデト酸ナトリウムともいう。)であり、特に好ましくはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム・二水和物である。これらは、1種又は2種以上を組み合わせて用いる事ができる。
【0025】
本発明におけるコンタクトレンズ装着液中のエチレンジアミン酢酸誘導体またはその塩の含有量は分子量や種類などによって異なるので一概に規定できないが、コンタクトレンズ装着液の総量に対し、これらが総量で、好ましくは0.0001〜1%、より好ましくは0.0005〜0.5%、さらに好ましくは0.001〜0.3%、特に好ましくは0.001〜0.05%である。
【0026】
また、さらに本発明の効果を発揮するために、エチレンジアミン酢酸誘導体またはその塩、非イオン性界面活性剤、無機塩類、緩衝剤を組み合わせて配合することがより好ましい。
本発明におけるコンタクトレンズ装着液中のエチレンジアミン酢酸誘導体またはその塩、非イオン性界面活性剤、無機塩類、緩衝剤の含有量は、コンタクトレンズ装着液の総量に対し、これらが総量で、0.01〜5%が好ましく、特に好ましくは0.05〜3%である。
【0027】
本発明のコンタクトレンズ装着液は、コンタクトレンズのなかでも特に、ソフトコンタクトレンズ用に用いるのが好適である。ソフトコンタクトレンズは、面積が大きく、柔軟性が高い為、前述のような問題点が生じ易く、本発明の装着液がより好適に使用され得る。中でも、柔軟性が高く眼に入れ難いソフトコンタクトレンズ分類グループIVのソフトコンタクトレンズや、異物感の高いシリコーンハイドロゲル素材のソフトコンタクトレンズにおいて、顕著な効果を発揮するため、これらのコンタクトレンズ用としてより好適に用いる事ができる。
【0028】
本発明のコンタクトレンズ装着液は、種々の成分(薬理活性成分や生理活性成分を含む)を組み合わせて含有するのに適している。眼科組成物に通常用いられる充血除去成分、眼筋調節薬成分、抗炎症薬成分または収斂薬成分、抗ヒスタミン薬成分又は抗アレルギー薬成分、ビタミン類、局所麻酔薬成分などが例示できる。具体的には、以下に挙げる成分が例示できる。
【0029】
充血除去成分:例えば、α−アドレナリン作動薬、具体的にはエピネフリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸オキシメタゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、塩酸フェニレフリン、塩酸メチルエフェドリン、酒石酸水素エピネフリン、硝酸ナファゾリンなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
眼筋調節薬成分:例えば、アセチルコリンと類似した活性中心を有するコリンエステラーゼ阻害剤、具体的にはメチル硫酸ネオスチグミン、トロピカミド、ヘレニエン硫酸アトロピンなど。
【0030】
抗炎症薬成分または収斂薬成分:例えば、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、アラントイン、インドメタシン、塩化リゾチーム、硝酸銀、プラノプロフェン、アズレンスルホン酸ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、ジクロフェナクナトリウム、ブロムフェナクナトリウム、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリンなど。
抗ヒスタミン薬成分又は抗アレルギー薬成分:例えば、アシタザノラスト、アンレキサノクス、イブジラスト、トラニラスト、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸レボカバスチン、フマル酸ケトチフェン、クロモグリク酸ナトリウム、ペミロラストカリウム、マレイン酸クロルフェニラミンなど。
【0031】
ビタミン類:例えば、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、リン酸ピリドキサール、シアノコバラミン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム、アスコルビン酸、酢酸トコフェロールなど。
【0032】
局所麻酔薬成分:例えば、クロロブタノール、塩酸オキシブプロカイン、塩酸コカイン、塩酸コルネカイン、塩酸ジブカイン、塩酸テトラカイン、塩酸パラブチルアミノ安息香酸ジエチルアミノエチル、塩酸ピペロカイン、塩酸プロカイン、塩酸プロパラカイン、塩酸ヘキソチオカイン、塩酸リドカインなど。
【0033】
また、本発明のコンタクトレンズ装着液には、発明の効果を損なわない範囲でその用途や形態に応じて、常法に従い、様々な成分や添加物を適宜選択し、一種またはそれ以上を含有させてもよい。それらの成分または添加物として、例えば、半固形剤や液剤などの調製に一般的に使用される担体(水、水性溶媒、水性または油性基剤など)、増粘剤、糖類、糖アルコール類、界面活性剤、防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤、pH調整剤、等張化剤、香料または清涼化剤、安定剤などの各種添加剤を挙げることができる。
【0034】
以下に本発明のコンタクトレンズ装着液に使用される代表的な成分を例示するが、これらに限定されない。
増粘剤:例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロースまたはこれらの塩などのセルロース系高分子化合物、デキストラン、ポリエチレングリコールなど。
糖類:例えば、グルコース、シクロデキストリンなど。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。
界面活性剤:例えば、上記した非イオン性界面活性剤以外にも、アルキルジアミノエチルグリシンなどのグリシン型両性界面活性剤;アルキル4級アンモニウム塩(具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなどの陽イオン界面活性剤など。)など。
【0035】
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニド又はその塩酸塩など)、塩化ポリドロニウム、グローキル(ローディア社製 商品名)など。
【0036】
pH調整剤:例えば、塩酸、ホウ酸、イプシロン−アミノカプロン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミンなど。
等張化剤:例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコールなど。
【0037】
安定剤:ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウムなど。
香料又は清涼化剤:テルペン類(例えば、アネトール、オイゲノール、カンフル、ゲラニオール、シネオール、ボルネオール、メントール、リモネン、リュウノウなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。)、精油(ウイキョウ油、クールミント油、ケイヒ油、スペアミント油、ハッカ水、ハッカ油、ペパーミント油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油など)など。
【0038】
尚、本発明のコンタクトレンズ装着液は、ポリビニルアルコール(完全又は部分ケン化物)及び/又はポリビニルピロリドン(以下、単に(Z)成分と表記する事もある)を含有しない。これは、本発明者らが、これらの化合物が、成分(A)及び成分(B)を含有するよう構成された本発明の効果に負の影響を及ぼすとの知見を得たことによる。特に、コンタクトレンズ装着後、指に残存する液が好ましくない感触(ベタベタ感)を与え、使用感が良好でないという問題点を有することを見出した。その他、ポリビニルピロリドンはコンタクトレンズの直径(サイズ)への影響が大きく、またポリビニルアルコールは、ホウ酸緩衝剤の共存によりゲル化する事が知られており、製造上や使用感等の点で問題があるなど、処方上の制約がある。従来のコンタクトレンズ装着液は、多くの場合、クッション性を確保する為にこれら(Z)成分を含有していたが、成分(A)及び(B)を必須成分として含有する本発明のコンタクトレンズ装着液は、(Z)成分を積極的に排除して従来の装着液の上記問題点を解消し、且つ、装着液としての優れた機能を維持することに成功したものである。
【0039】
本発明のコンタクトレンズ装着液は、所望の効果を得るために適切な粘度に初期設定して設定粘度を長期的に安定に保持することができる。コンタクトレンズ装着液の粘度を設定する場合において、20℃における粘度が1.1mPa・s以上に保持して設計することが好ましく、通常1.1〜300mPa・s、好ましくは、1.3〜100mPa・s、特に好ましくは1.5〜80mPa・sに設計することができる。
【0040】
粘度の測定は、円すい一平板形回転粘度計を用いる方法(第十四改正日本薬局法に記載の、一般試験法、45.粘度測定法、第2法回転粘度計法、「(3)円すい−平板形回転粘度計」の項に記載の方法)に従い、具体的には、市販の円すい−平板形回転粘度計と適宜選択されたロータとを用いて測定することができる。例えば、市販のE型粘度計[トキメック(TOKIMEC)製、東機産業(日本)から販売]と適宜選択されたローターを用い、披検試料測定毎にJIS Z8809により規定されている石油系の炭化水素油(ニュートン流体)を校正用標準液として調整することにより、20℃における粘度を測定することができる。具体的には、特開2006-348055に記載の粘度測定方法に従う(測定条件については後述)
【0041】
本発明のコンタクトレンズ装着液は、必要に応じて、生体に許容される範囲内の浸透圧に調整して用いる。浸透圧は、生理食塩液に対する浸透圧比として、通常、0.3〜4.1、好ましくは0.4〜4.1、より好ましくは0.3〜2.1、特に好ましくは0.5〜1.4である。浸透圧比の測定方法は、第15改正日本薬局方 一般試験法 浸透圧測定法を参考にする。
【0042】
本発明のコンタクトレンズ装着液は、必要に応じて、生体に適用可能な範囲内のpHに調整して用いる。pHは、通常、pH4.0〜9.0、好ましくは5.0〜8.5、特に好ましくは5.5〜8.5である。pHの調整は、前記緩衝剤、pH調整剤などを用いて行うことができる。
【0043】
本発明のコンタクトレンズ装着液は、公知の方法により製造でき、必要により、ろ過滅菌処理工程や、容器への充填工程等を加えることができる。
【0044】
本発明のコンタクトレンズ装着液の使用方法としては、コンタクトレンズ装着時(装着する直前)に、コンタクトレンズ装着液を直接コンタクトレンズに滴下し、コンタクトレンズの両面もしくは片面を適量(例えば、好適には1回1〜3滴)で濡らしたのち、該コンタクトレンズを装着して使用する方法などが挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
尚、各実施例及び比較例の粘度は、E型粘度計の1種であるTVE−20L形粘度計コーンプレートタイプ(トキメック(TOKIMEC)製、東機産業(日本))を用いて、以下の測定条件の下で測定を行った。特記する以外は、特開2006-348055に記載の粘度測定方法に従う。ただし、測定条件は以下の通りである。
使用ローター:標準ローター(1°34′、R=2.4cm)
回転数 :100rpm (尚、粘度により回転数の許容範囲が異なる為、各処方に応じて測定可能な回転数のうち、最も高い回転数で測定する。)
試料量 :1ml
測定温度 :20℃
時間 :3分後の粘度を測定値とした。
【0046】
試験1:使用感試験(1)
表1に記載の処方に従い、各コンタクトレンズ装着液を点眼液等の調製方法(常法)に従って調製し、ポリエチレンテレフタレート製容器(容量10mL)に充填し、施栓した。コンタクトレンズの両面を各コンタクトレンズ装着液1〜3滴でぬらした後、目に装着し、使用感を評価した。被験者は、日常的にコンタクトレンズを使用している8〜10名とした。評価項目は、(1)眼への装着し易さ(眼に入り易さ)、(2)装着直後のレンズ安定感・異物感・ゴロゴロ感、(3)装着直後の視界良好性の3項目で、実施例2の処方と、比較例1、3、4、5、6の各処方とをそれぞれ比較し、より使用感が良いと思われる方を選択する方法で行った。また、追加の評価項目として、(4)指に残った液の感触(ベタベタ感)について、実施例2の処方と、比較例4、5、6とをそれぞれ比較し、より使用感が良いと思われる方を選択した。結果を表2〜6に示す。表中、結果の表記は、全体の人数に対する、それぞれの回答を選んだ人数の割合(%)である。「同じ」は実施例と比較例とに差異がないとの回答を意味する。尚、被験者の使用したコンタクトレンズの種類は、以下の通りである。
・SCL1:商品名:メダリスト、ボシュロム社製、主素材:Poly-HEMA、ソフトコンタクトレンズ分類グループI
・SCL2:商品名:ワンデーアキュビュー、ジョンソン&ジョンソン社製、主素材:EtafilconA、ソフトコンタクトレンズ分類グループIV
・SCL3:商品名:オーツーオプティクス、チバビジョン社製、主素材:LotrafilconA(シリコーンハイドロゲル素材)、ソフトコンタクトレンズ分類グループI
・SCL4:商品名:メニコンZ、メニコン社製、主素材:シロキサニルスチレン、フルオロメタクリレート等、酸素透過性ハードコンタクトレンズ
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
【表6】

【0053】
いずれの試験においても、実施例は比較例と比べて、眼への装着し易さ、レンズの安定感・異物感・ゴロゴロ感、装着直後の視界良好性、指に残った液の感触等の全ての点で優れていた。即ち、コンタクトレンズを装着した際に生じる異物感やゴロゴロ感が低減されており、コンタクトレンズが安定に保持されていると感じ、コンタクトレンズ装着直後の視界が良好であった。尚、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンを含有する処方は、上記実施例と比較し、明らかに装着直後のレンズ安定性・異物感・ゴロゴロ感が悪いことに加えて、レンズ装着直後の視界が実施例と比較して顕著に劣り、さらに、指に残った液の感触(ベタベタ感)が良好でない等の問題点があった。
以上の傾向は、コンドロイチン硫酸ナトリウムに換えてアスパラギン酸カリウム(実施例1、比較例2)を用いた場合も同様の結果であった。また同様に、コンドロイチン硫酸ナトリウムに替えてアミノエチルスルホン酸、イプシロンアミノカプロン酸を用いることも可能であった。
【0054】
試験2:レンズ形状への影響(1)
ソフトコンタクトレンズ(SCL5:商品名:2ウィークアキュビュー、J&J社、主素材:EtafilconA、ソフトコンタクトレンズ分類グループIV)を生理食塩水に一晩以上浸漬(4mL/枚)したのち、レンズ直径を万能投影機 V−12A(株式会社ニコン)にて測定し、浸漬前直径とした。試験1で用いた各コンタクトレンズ装着液に前記ソフトコンタクトレンズを一晩以上浸漬(4mL/枚)したのち、同様にレンズ直径を測定し、浸漬後直径とした。次いで、直径変化を算出し、評価した。

浸漬後直径変化(mm)=浸漬後直径−浸漬前直径

【表7】

以上の結果から、ポリビニルピロリドンを含有する処方では、実施例と比較してレンズサイズの変化が激しいことが分かる。サイズ変化が大きいほど、ゴロゴロ感や異物感を与えやすく、レンズの安定感が乏しい。これらの結果は、官能試験の結果を裏付けるものである。
【0055】
試験3:脂質汚れ付着防止効果
ソフトコンタクトレンズ(前述のSCL3)を生理食塩液に一晩以上浸漬(4mL/枚)したのち、試験1で用いた各コンタクトレンズ装着液に一晩以上浸漬(4mL/枚)した。さらに、該ソフトコンタクトレンズを脂質汚れ液に8時間浸漬(4mL/枚)したのち、生理食塩液で軽くすすぎ、レンズに付着した脂質を溶出させて定量した。その結果、実施例における脂質付着量は僅かであり、脂質の付着が防止されていた。
以上の結果は、実施例処方が、手指などからの脂質がコンタクトレンズに付着することを防止する効果を有することを示している。脂質付着の防止効果は、本発明のコンタクトレンズ装着液の、ゴロゴロ感や異物感の抑制作用に寄与していると考えられる。
【0056】
試験4:使用感試験(2)
表1の実施例1、2、比較例1〜3、表8の実施例3、4、比較例7、8に従い、各コンタクトレンズ装着液処方を点眼液等の調製方法(常法)に従って調製し、ポリエチレンテレフタレート製容器(容量10mL)に充填し、施栓した。コンタクトレンズの両面を各コンタクトレンズ装着液1〜3滴でぬらした後、目に装着し、使用感を評価した。被験者は、日常的にコンタクトレンズを使用している8〜9名とした。評価項目は、試験1と同様の項目を含む以下の6項目である。(1)目に装着する時のレンズの指からの離れ易さ、(2)レンズの眼への装着し易さ(眼に入り易さ)、(3)装着直後のレンズ安定感・異物感・ゴロゴロ感、(4)レンズ装着直後の視界良好性、(6)指に残った装着液の感触(ベタベタ感)、(6)レンズを装着し直す時の操作性(レンズが開き易い等)の6項目である。各表に示す組み合わせで実施例の処方と、比較例の各処方とをそれぞれ比較し、より使用感が良いと思われる方を選択する方法で評価を行った。結果を表9〜15に示す。表中、結果の表記は、全体の人数に対する、それぞれの回答を選んだ人数の割合(%)である。「同じ」は実施例と比較例とに差異がないとの回答を意味する。尚、被験者の使用したコンタクトレンズの種類は、SCL1、SCL2、SCL3、SCL4である。
【0057】
【表8】

【0058】
【表9】

【0059】
【表10】

【0060】
【表11】

【0061】
【表12】

【0062】
【表13】

【0063】
【表14】

【0064】
【表15】

【0065】
いずれの比較試験においても、実施例は比較例と比較し、全ての評価項目において優れた結果を示した。また、表には詳しく結果を示していないが、装着液を滴下した時のレンズの形状保持 についても、表9〜15の比較試験全てについて実施例のほうが良い結果となった。特に、表12(実施例3と比較例1の比較)では、実施例3のほうが良いと回答した被験者が75%以上と、効果が高かった。
尚、ポリビニルピロリドンを含む比較例では、ポリビニルピロリドンを含まない実施例と比較して明らかに試験結果が劣っており、ポリビニルピロリドンを含有しない事が好ましい、という事が明らかとなった。
【0066】
試験5:レンズ形状への影響(2)
前述のSCL2を生理食塩水に一晩以上浸漬(4mL/枚)したのち、レンズ直径を万能投影機 V−12A(株式会社ニコン)にて測定し、浸漬前直径とした。表1及び表8で使用した実施例1〜4及び比較例9の各試験液を用い、これらのコンタクトレンズ装着液に前記ソフトコンタクトレンズを一晩以上浸漬(4mL/枚)したのちレンズ直径を測定し、浸漬後直径とした。その後再び生理食塩液に前記ソフトコンタクトレンズを一晩以上浸漬(4mL/枚)したのち同様にレンズ直径を測定し、溶出後直径とした。直径変化を算出し、評価した。

浸漬後直径変化(mm)=浸漬後直径−浸漬前直径
溶出後直径変化(mm)=溶出後直径−浸漬前直径

【表16】

以上の結果から、ポリビニルピロリドンを含有する処方では、各実施例と比較して試験液浸漬後のレンズサイズの変化が激しく、生理食塩液に再浸漬した後も元のサイズに戻り難いことが分かった。コンタクトレンズ装着液は、直接レンズに滴下して使用する事から、試験液浸漬後のレンズサイズの変化が大きいことは、装着液使用後にレンズを装着する際に、通常想定されるレンズの規格から離れていることを意味する。そのようなレンズサイズの変化は目への安全性を損ない、視機能の低下などの不都合を招き得る。さらに、レンズサイズの変化が大きいほど、ゴロゴロ感や異物感を与えやすく、レンズの安定感が乏しくなる等、使用感に影響する事が示唆された。これらの結果は、試験1及び試験4における使用感試験の結果を裏付けるものである。
また、生理食塩液に再浸漬した後、実施例処方ではレンズサイズがほぼ元に戻っており、サイズ変化が可逆的であったことを示している。これに対して、比較例8ではレンズサイズが戻り難く、サイズ変化が不可逆的であったと考えられる。このような不可逆的なサイズ変化は、特に、繰り返し使用するタイプのコンタクトレンズの場合、変化の累積による影響が問題となる。しかし、本発明のコンタクトレンズ装着液ではサイズ変化が小さいうえ、可逆的であるため、繰り返し使用するタイプのコンタクトレンズに対しても、好適に使用する事が可能である。実際、例示のSCL2(使い捨てタイプ)と同一素材のSCL5(非使い捨て(2週間交換)タイプ)を用いて同様の試験を行ったところ、SCL2と同様の結果が得られた。
【0067】
試験3:脂質汚れ付着防止効果
表1の実施例1及び比較例2、及び、表8の実施例3、4、比較例7、8及び9に記載された処方に従い、各コンタクトレンズ装着液を調製した。ソフトコンタクトレンズ(前述のSCL3)を生理食塩液に一晩以上浸漬(4mL/枚)したのち、各コンタクトレンズ装着液に、4時間浸漬(2mL/枚)した。さらに、該ソフトコンタクトレンズを脂質汚れ液に4時間浸漬(2mL/枚)したのち、レンズを精製水で軽くすすぎ、室温で減圧下に16時間以上乾燥した。レンズに付着した脂質をエタノール:エーテル=3:1溶液にて室温で1時間抽出したのち(1mL/枚)、抽出溶媒を90度の湯浴で加熱して除去した。残留物に無水エタノール0.1mLおよび濃硫酸5mLを加えて90℃の湯浴で30分間加熱した。室温まで冷却した後、0.4mLを採取してバニリン溶液0.6mL(バニリン0.6gを無水エタノール8mLに溶解させたのち、精製水にて100mLに調製した液から50mLを採取し、リン酸200mLに添加する)を加えて37℃で15分間加温した。200μLを96ウェルマルチプレートに取り、分光光度計にて525nm吸光度を測定した。尚、オリーブ油(日光ケミカル製)を標準品として別途検量線を作成して求められた下記式により、脂質付着量を算出した。
【数1】

【表17】


以上の通り、実施例処方において、脂質付着抑制効果が確認された。またデータは示さないが、実施例2(表1)においても、実施例3と同等の効果が確認された。この結果は、本発明のコンタクトレンズ装着液が、手指などからの脂質がコンタクトレンズに付着することを防止する効果を有することを示している。脂質付着は、コンタクトレンズの見え易さにも影響する事から、脂質付着を防止することにより、コンタクトレンズが本来有している視機能を十分に発揮させる事が可能である。また、脂質付着によるコンタクトレンズ材質への影響も軽減される事から、材質劣化によるコンタクトレンズの寿命短縮を抑制し、安全にレンズを装用する事が可能となる。さらに、これらの機能的側面のみならず、コンタクトレンズ装着液の、ゴロゴロ感や異物感の抑制作用にも寄与していると考えられる。
【0068】
処方例1−87
表18−23に記載の処方で、コンタクトレンズ装着液(処方例1−87)を調製した。処方例に記載するヒドロキシエチルセルロースは、商品名:CF-V (住友精化株式会社製)を使用し、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2906は、商品名:65SH-4000 (信越化学工業株式会社製)を使用した。なお、表18−23中、各配合成分の単位はg/100mLである。
【0069】
【表18】

【0070】
【表19】

【0071】
【表20】

【0072】
【表21】

【0073】
【表22】

【0074】
【表23】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ヒドロキシエチルセルロース、(B)アミノ酸類を含有し、実質的に(Z)ポリビニルピロリドン又はポリビニルアルコールを含まない、コンタクトレンズ装着液。
【請求項2】
(A)成分を0.0001〜25(w/v)%の割合で含有する、請求項1に記載のコンタクトレンズ装着液。
【請求項3】
(B)成分が、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、アスパラギン酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロンアミノカプロン酸、及びそれらの塩からなる群より選択される1種以上である、請求項1又は2に記載のコンタクトレンズ装着液。
【請求項4】
(B)成分を0.0001〜10(w/v)%の割合で含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のコンタクトレンズ装着液。
【請求項5】
さらに(C)成分として非イオン性界面活性剤を含有する、請求項1〜4のいずれかに記載のコンタクトレンズ装着液。
【請求項6】
(C)成分が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体からなる群より選択される1種以上である、請求項5に記載のコンタクトレンズ装着液。
【請求項7】
(C)成分が、ポリソルベート80である、請求項5に記載のコンタクトレンズ装着液。
【請求項8】
(C)成分を0.001〜5(w/v)%の割合で含有する、請求項5〜7のいずれかに記載のコンタクトレンズ装着液。
【請求項9】
コンタクトレンズが、ソフトコンタクトレンズである、請求項1〜8のいずれかに記載のコンタクトレンズ装着液。
【請求項10】
ソフトコンタクトレンズが、原則としてソフトコンタクトレンズ分類グループIVのソフトコンタクトレンズである、請求項9に記載のコンタクトレンズ装着液。
【請求項11】
ソフトコンタクトレンズが、シリコーンハイドロゲル素材のソフトコンタクトレンズである、請求項9に記載のコンタクトレンズ装着液。

【公開番号】特開2009−86619(P2009−86619A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41710(P2008−41710)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】