コンドロイチン生産細菌及びコンドロイチンの製造法
エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K4株由来のkfoA遺伝子とエシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子が導入され、コンドロイチン生産能を有するUDP-グルクロン酸生産細菌を培養し、該細菌からコンドロイチンを回収することにより、コンドロイチンを製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンドロイチン生産細菌及びコンドロイチンの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンドロイチンは、グルクロン酸(GlcUA)残基とN-アセチル-D-ガラクトサミン(GalNAc)残基の二糖の繰り返し構造(-GlcUAβ(1-3)-GalNAcβ(1-4)-;本明細書において、コンドロイチン糖鎖骨格ともいう)を有する多糖である。コンドロイチン硫酸はコンドロイチンが硫酸化されることにより成る多糖である。
【0003】
従来法では、コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸は動物の軟骨、臓器等から抽出及び精製されていた。しかし、近年、軟骨や臓器等の原料の不足により、コンドロイチンやコンドロイチン硫酸に共通する糖鎖骨格を人工的に合成する技術が研究されてきた。
【0004】
GlcUAとGalNAcをそれらの供与体基質から交互に受容体オリゴ糖に転移してコンドロイチンを合成するコンドロイチン合成酵素は報告されており、該酵素を用いたコンドロイチンの製造法が提案されている。
【0005】
非特許文献1には、パスツレラ・マルトシダ(Pasteurella multocida)由来のコンドロイチン合成酵素が開示されている。
【0006】
また、特許文献1及び特許文献2には、ヒト由来のコンドロイチン合成酵素が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献3では、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K4株が産生する新規なコンドロイチン合成酵素(KfoC)が開示されている。
【0008】
しかしながら、酵素法によりコンドロイチンを製造する場合、受容体としてオリゴ糖、GlcUAとGalNAcの供与体として糖ヌクレオチドといった高価な原料を用意する必要があり、そのため、より安価な原料を用いたコンドロイチンの製造法の開発が望まれてきた。
【0009】
エシェリヒア・コリK4株はコンドロイチン骨格構造を有する多糖体を莢膜として産生することが知られている。しかしながら、その構造はGalNAc残基、GlcUA残基、及びGlcUA残基のC3のヒドロキシル基に結合したフルクトース残基の三糖を有する繰り返し構造からなる。加えて、化学的に異なる100を超える莢膜多糖がエシェリヒア・コリに検出されている。例えば、エシェリヒア・コリK5株はヘパリン/ヘパラン硫酸の糖鎖骨格を有する莢膜多糖K5を産生する(非特許文献2)。しかしながら、コンドロイチンそのものを産生するエシェリヒア属の細菌は知られていない。ゆえに、エシェリヒア属の細菌を用いたコンドロイチンの製造法は未知である。
【0010】
特許文献4には、パスツレラ・マルトシダ由来のコンドロイチン合成酵素が導入された、組み換えグラム陽性バチルス(Bacillus)属細菌を用いたコンドロイチンの製造法が開示されているが、コンドロイチンの発酵生産におけるさらなる発展が望まれてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2003/102193号
【特許文献2】国際公開第2003/102194号
【特許文献3】米国特許出願公開2003/0109693号公報(特開2003-199583)
【特許文献4】米国特許出願公開2007/0281342号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリ(J.Biol.Chem.)第275巻、第31号、p.24124-24129、2000年
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリ(J.Biol.Chem.)第272巻、第5号、p. 2682-2687、1997年
【発明の概要】
【0013】
本発明の目的は、コンドロイチン生産能を有する新規な微生物を提供すること、及び該微生物を用いたコンドロイチンの新規な製造法を提供することである。
【0014】
本願発明者らは鋭意検討の結果、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子及びkfoC遺伝子が導入されたエシェリヒア・コリK5株等のUDP-グルクロン酸生産細菌がコンドロイチンを高効率に産生することを見出し、本発明を完成した。
【0015】
本発明の目的は、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子及びエシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子が導入され、コンドロイチン生産能を有するUDP-グルクロン酸生産細菌を提供することである。
【0016】
ここで、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子は、好ましくは、以下の(A)及び(B)からなるグループから選択されたタンパク質をコードする遺伝子である。
(A)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつUDP-グルコース-4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質。
【0017】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子は、好ましくは、以下の(a)及び(b)からなるグループから選択されたDNAである。
(a)配列番号1の塩基配列を含むDNA。
(b)配列番号1に相補的な塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-グルコース-4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0018】
さらに、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子は、好ましくは、以下の(C)及び(D)からなるグループから選択されたタンパク質をコードする遺伝子である。
(C)配列番号4のアミノ酸配列を含むタンパク質。
(D)配列番号4において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質。
【0019】
また、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子が以下の(c)又は(d)のDNAであることが好ましい。
(c)配列番号3の塩基配列を含むDNA。
(d)配列番号3に相補的な塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0020】
さらに、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子は、好ましくは、以下の(E)及び(F)からなるグループから選択されたタンパク質をコードする遺伝子である。
(E)配列番号6のアミノ酸配列を含むタンパク質。
(F)配列番号6において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミ
ノ酸配列を含み、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質。
【0021】
また、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子が以下の(e)又は(f)のDNAであることが好ましい。
(e)配列番号5の塩基配列を含むDNA。
(f)配列番号5に相補的な塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0022】
UDP-グルクロン酸生産細菌は好ましくはエシェリヒア・コリK5株である。
【0023】
本発明の他の目的は、少なくとも以下のステップ(1)及び(2)を含むコンドロイチンの製造法を提供することである。
(1)前記細菌を培養すること。
(2)培養物からコンドロイチンを回収すること。
【0024】
本発明の他の目的は、前記方法によりコンドロイチンを製造すること、及び続いて該コンドロイチンを硫酸化してコンドロイチン硫酸を得ることを含む、コンドロイチン硫酸の製造法を提供することである。
【0025】
本発明の他の目的は、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子及びエシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子を有するベクターを提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】kfoA遺伝子とkfoC遺伝子の発現ベクターの構造を示す図。
【図2】KfoAタンパク質とKfoCタンパク質の発現を示す図(写真)。レーン1はプラスミド非導入株(コントロール)、レーン2はpTrcHis-kfoCA導入株を示し、Mは分子量マーカーを示す。
【図3】画分LをコンドロイチナーゼABC(cABC)で処理したもの(A)、cABCで処理しないもの(B)、熱失活させたcABCで処理したもの(C)の、蛍光HPLCシステムを用いた二糖組成分析の結果を示す。
【図4】画分EをcABCで処理したもの(A)、cABCで処理しないもの(B)、熱失活させたcABCで処理したもの(C)の、蛍光二糖分析の結果を示す。
【図5】画分SをcABCで処理したもの(A)、cABCで処理しないもの(B)、熱失活させたcABCで処理したもの(C)の、蛍光二糖分析の結果を示す。
【図6】コンドロイチン標品をcABCで処理したもの(A)、コンドロイチン標品をcABCで処理したもの及び画分LをcABCで処理したものの混合物(B)の、蛍光二糖分析の結果を示す。
【図7】(A)一次抗体として抗KfoC抗体(EK-C)、(B)一次抗体として抗KfoA抗体(EK-A)、(C)標準的ウサギ血清を用いた、KfoA、KfoC、及びKfoΔCタンパク質の発現を示す図。レーン1及び5は分子量マーカーであるMagicMarkXP standard(Invitrogen)、レーン2はpTrcHis-kfoCA導入株、レーン3はpTrcHis-kfoΔCA導入株、レーン4はpTrcHis-kfoA導入株を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳説する。
【0028】
<1>本発明の細菌
本発明の細菌は、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子とkfoC遺伝子が導入され、コンドロイチン生産能を有するUDP-グルクロン酸生産細菌である。
【0029】
「UDP-グルクロン酸生産細菌」は、グルクロン酸から成る多糖の生産に用いられる、UDP-グルクロン酸を提供する。「UDP-グルクロン酸生産細菌」は、UDP-グルクロン酸を生産しさえすればよく、その例としてはグルコノアセトバクター・ハンセニー(Gluconacetobacter hansenii)及びグルコノアセトバクター・キシリナス(Gluconacetobacter xylinus)等のグルコノアセトバクター属細菌、リゾビウム・メフロティ(Rhizobium meffloti)等のリゾビウム属細菌、アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)等のアセトバクター属細菌、エルヴィニア・アミロボーラ(Erwinia amylovora)等のエルヴィニア属細菌、チオバチルス・フェロキシダンス(Thiobacillus ferrooxidans)等のチオバチルス属細菌、ザイレラ・ファスチジオーサ(Xylella fastidiosa)等のザイレラ属細菌、シノリゾビウム・メリロティ(Sinorhizobium meliloti)等のシノリゾビウム属細菌、ロドコッカス・ロドクラス(Rhodococcus rhodochrous)等のロドコッカス属細菌、クレブシエラ・アエロゲネス(Klebsiella aerogenes)等のクレブシエラ属細菌、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)等のエンテロバクター属細菌、及びエシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌が挙げられる。
【0030】
「UDP-グルクロン酸生産細菌」は、エシェリヒア属細菌であって、かつUDP-グルクロン酸を生産するのが好ましく、エシェリヒア・コリに属する細菌であって、かつUDP-グルクロン酸を生産するのがより好ましい。
【0031】
その具体例としては、エシェリヒア・コリK5株が挙げられる。K5株はAmerican Type Culture Collection (ATCC)(P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)にATCC23506の寄託番号で寄託されており、ATCCのカタログ又はホームページから入手可能である。
【0032】
なお、kfoA遺伝子とkfoC遺伝子を導入する株は、エシェリヒア・コリK5株の派生株であってもよく、当該派生株は、エシェリヒア・コリK5株に遺伝子変異を導入することで、又はエシェリヒア・コリK5株に遺伝子組換えによって遺伝子を導入することで得ることができる。すなわち、本発明の細菌の一態様としては、エシェリヒア・コリK5株にエシェリヒア・コリK4株由来のkfoA及びkfoC遺伝子を導入することで得られる株、エシェリヒア・コリK5株にエシェリヒア・コリK4株由来のkfoA及びkfoC遺伝子を導入し、さらに遺伝子変異を導入することで得られる株、及びエシェリヒア・コリK5株にエシェリヒア・コリK4株由来のkfoA及びkfoC遺伝子を導入し、さらに他の遺伝子を導入することで得られる株を含む。
【0033】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子としては、配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び配列番号1の塩基配列を含むDNAを含む。
【0034】
一般的に、タンパク質を構成する1又は数個のアミノ酸における置換、欠失、挿入又は付加によっては当該タンパク質の活性は影響を受けず、従って多くの場合には、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子は、配列番号2において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつUDP-グルコース-4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
【0035】
本明細書における「1又は数個のアミノ酸」という語句は、UDP-グルコース-4-エピメラーゼを損なうことなく置換、欠失、挿入又は付加を起こしうるアミノ酸の個数を示す。例えば具体的には、当該個数は1〜20の整数、好ましくは1〜10の整数、より好ましくは1〜5の整数である。
【0036】
一方、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子は、配列番号2の全配列に対して90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含
み、かつUDP-グルコース-4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
【0037】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子は、エシェリヒア・コリK4株の染色体DNAを鋳型として用いたPCR法により取得することができる。
【0038】
エシェリヒア・コリK4株は、American Type Culture Collection (ATCC)にATCC23502の寄託番号で寄託されており、ATCCのカタログ又はホームページから入手可能である。
【0039】
配列番号2において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列又は配列番号2の全配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつUDP-グルコース-4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、部位特異的変異導入法(Kramer,W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350(1987);Kunkel, T.A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367(1987))等により、配列番号1の塩基配列を、配列番号2のアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入若しくは付加が導入されるように改変することにより得られる。
【0040】
当該遺伝子はまた、配列番号1の塩基配列に相補的な塩基配列又はその一部の配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせることにより、UDP-グルコース-4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子をスクリーニングすることによっても得られる。
【0041】
「ストリンジェントな条件」という用語は、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、かつ非特異的なハイブリッドが形成されない条件を示す(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning A Laboratory Manual, second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)等参照)。「ストリンジェントな条件」の具体例としては、50%ホルムアミド、4×SSC、50mM HEPES(pH7.0)、10×Denhardt's solution、100μg/mlサケ精子DNAを含有する溶液中、42℃でハイブリダイズさせ、次いで室温で2×SSC、0.1%SDS溶液、60℃下で0.1×SSC、0.1%SDS溶液で洗浄する条件が挙げられる。
【0042】
上記のようにして得られた遺伝子がUDP-グルコース-4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするか否かは、得られた遺伝子を適当な宿主に導入して当該タンパク質を発現させ、J. Biol. Chem., 277(24), p21567-21575, 2002に記載の方法にしたがってUDP-グルコース-4-エピメラーゼ活性を測定することにより判定できる。
【0043】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子としては、配列番号4のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び配列番号3の塩基配列を含むDNAを含む。エシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子としてはまた、配列番号6のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び配列番号5の塩基配列を含むDNAも含む。
【0044】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子は、配列番号4又は6において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
【0045】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子は、配列番号4又は6の全配列に対して90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
【0046】
本明細書における「コンドロイチン合成酵素活性」という用語は、GlcUA供与体からGlc
UAを、GalNAc供与体からGalNAcを、交互に糖鎖の非還元末端に転移する活性を示す。
【0047】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子は、エシェリヒア・コリK4株の染色体DNAを鋳型として用いたPCR法により取得することができる。さらに、例えば配列番号5の塩基配列を含むDNA等の、配列番号6のアミノ酸配列をコードするkfoC遺伝子は、国際公開第2007/145197号明細書に記載の方法にしたがって得られる。
【0048】
配列番号4又は6において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列又は配列番号4又は6の全配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、部位特異的変異導入法等により、配列番号3又は5の塩基配列を、配列番号4又は6のアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入若しくは付加が導入されるように改変することにより得られる。
【0049】
当該遺伝子はまた、配列番号3又は5の塩基配列に相補的な塩基配列又はその一部の配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせることにより、コンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子をスクリーニングすることによっても得られる。
【0050】
「1又は数個」、「ストリンジェントな条件」という用語の定義は上述の通りである。
【0051】
上記のようにして得られた遺伝子がコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質をコードするか否かは、得られた遺伝子を適当な宿主に導入して当該タンパク質を発現させ、米国特許出願公開2003/0109693号公報(特開2003-199583)に記載の方法にしたがってコンドロイチン合成酵素活性を測定することにより判定できる。
【0052】
本発明の細菌は、上述のように、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子及びエシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子をUDP-グルクロン酸生産細菌に導入することによって得られる。
【0053】
本発明において、「導入」という語句は、プラスミド又はファージなどのベクターによって両遺伝子をUDP-グルクロン酸生産細菌に導入すること、及び相同組換え等によって両遺伝子をUDP-グルクロン酸生産細菌の染色体上に導入することを含む。
【0054】
本明細書で用いられるプラスミド又はファージなどのベクターは、エシェリヒア・コリへの遺伝子導入に用いることができればよく、その例としてはpTrcHis(Invitrogen社)、pETベクター(Novagen社)やpGEXベクター(Amersham Pharmacia社)が挙げられる。
【0055】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子及びkfoC遺伝子を導入する際は、各遺伝子のネイティブプロモーターを用いてもよいが、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、PRプロモーター、lacUVプロモーター等のエシェリヒア・コリで強力に働くプロモーターを用いるのが好ましい。
【0056】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子及びkfoC遺伝子は別々に導入してもよいし、単一のベクターを用いて同時に導入してもよい。遺伝子導入及び発現が簡便に行えるため、kfoA及びkfoC遺伝子の両方を保持するプラスミド又はファージ等のベクターを使用するのがより好ましい。
【0057】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA及びkfoC遺伝子は他のペプチドとの融合タンパク質として発現するように導入されてもよい。
【0058】
他のペプチドの例としては、ポリヒスチジンタグやGST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)タグが挙げられる。融合タンパク質としての遺伝子産物の発現は、遺伝子産物の検出(発現確認)が容易に行えるため好ましい。
【0059】
遺伝子の導入は、公知の形質転換法により行うことができる。方法例としては、エレクトロポレーション法、DEAEデキストラン法、リン酸カルシウム法が挙げられる。
【0060】
遺伝子の導入は、RT-PCRやノーザンブロッティング等の遺伝子の検出法、ウエスタンブロッティング等の組み換えタンパク質の発現を特に検出する方法、及び上述したような活性測定法により、確認できる。
【0061】
導入されたエシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子及びエシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子がUDP-グルクロン酸生産細菌で機能すれば、当該細菌は莢膜多糖としてコンドロイチンを産生する能力を獲得する。
【0062】
<2>コンドロイチンの製造法
本発明のコンドロイチンの製造法は、少なくとも以下のステップ(1)及び(2)を含む。
(1)本発明の細菌を培養すること。
(2)培養物からコンドロイチンを回収すること。
【0063】
培養は通常のエシェリヒア属細菌の培養法により行うことができる。
【0064】
培地はエシェリヒア属細菌の培養に使用できるものであれば特に制限されないが、好ましい例としては、LB培地(Luria-Bertani培地)(1リットルあたり Bacto-tryptone 10.0 g. Bacto-yeast extract 5.0 g. 及びNaCl 5.0 g)、CYG培地(カザミノ酸2.0%、Yeast extract 0.5%、及びグルコース0.2%、オートクレーブ前にpHを7.0に調整)が挙げられる。抗生物質耐性遺伝子を含むベクターを用いて遺伝子を導入した際は、培地には当該耐性遺伝子に対応する抗生物質を含むのが好ましい。
【0065】
培養条件は、エシェリヒア属細菌が生育する限りにおいて特に制限されず、高効率にコンドロイチンを産生するために、20〜40℃で、8〜72時間培養することが好ましい。
【0066】
高効率にコンドロイチンを産生するために、細菌を平板培地や液体培地で前培養してもよい。
【0067】
培養物からのコンドロイチン回収法は、コンドロイチンが回収されうる限りにおいて特に制限されないが、例としては、以下の実施例に記載する方法が挙げられる。具体的には、集菌した組み換え菌体をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)等に懸濁し、リゾチーム、DNAseI及びプロテイナーゼKで処理し、タンパク質を除去する。コンドロイチンは、例えば、得られた画分をコンドロイチナーゼで処理し、二糖組成分析を行うことにより検出できる。
【0068】
<3>コンドロイチン硫酸の製造法
本発明の開示する組み替え細菌より調製されたコンドロイチンをさらに硫酸化することによりコンドロイチン硫酸を製造できる。
【0069】
硫酸化は、公知のグリコサミノグリカン硫酸化法により行うことができ、特に限定されるものではないが、例としては特開昭61−47701号公報に記載の方法が挙げられる
。
【0070】
また、コンドロイチンに硫酸基を転移する酵素(スルホトランスフェラーゼ)を用いて硫酸化がなされてもよい。硫酸基供与体として3'-ホスホアデノシン 5'-ホスホ硫酸(PAPS)の存在下で、スルホトランスフェラーゼは、本発明の開示する組み替え細菌により産生されたコンドロイチンと反応することによりコンドロイチン硫酸を生成できる。コンドロイチンに硫酸基を転移する公知のスルホトランスフェラーゼとしては、例えばコンドロイチン6−O−硫酸基転移酵素(J. Biol. Chem., 275(28), 21075-21080 (2000))、ガラクトサミノグリカン4−硫酸基転移酵素(特開2000-4877号公報)が挙げられる。
【0071】
以下、実施例をもとに本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0072】
実施例1:KfoC/KfoA共発現ベクターの作製
<kfoA遺伝子の増幅>
J. Biol. Chem., Vol. 277, Issue 24, 21567-21575に記載の方法により、エシェリヒア・コリK4株の染色体DNAを鋳型にしてPCRを行い、得られたPCR産物をpTrcHis(ヒスチジン融合タンパク質発現ベクター、Invitrogen)に挿入し、pTrcHis-kfoAを得た。
【0073】
用いたプライマーは以下の通りである。
K4A-SP 5'-CGGGATCCCGATGAGTATTCTTAATCAAGC-3'(配列番号7)及び
K4A-AS 5'-GGAATTCCGGCCAGTCTACATGTTTATCAC-3'(配列番号8)
【0074】
<kfoC遺伝子の増幅>
特開2003-199583に記載の方法により、エシェリヒア・コリK4株の染色体DNAを鋳型にしてPCRを行い、得られたPCR産物をpTrcHisに組み込んで、pTrcHis-kfoCを得た。
【0075】
用いたプライマーは以下の通りである。
K4C-SP 5'-CGGGATCCCGATGAGTATTCTTAATCAAGC-3'(配列番号9)及び
K4C-AS 5'-GGAATTCCGGCCAGTCTACATGTTTATCAC-3'(配列番号10)
【0076】
<pTrcHis-kfoCAの作製>
pTrcHis-kfoCAは前記pTrcHis-kfoA, pTrcHis-KfoCより以下の通りに作製した。
【0077】
まず、PCR法によりpTrcHis-kfoCのC末配列へNotI-SalI制限サイトを導入した。kfoCのC末側よりpTrcHis-kfoCの全長を増幅するよう以下に示すプライマーを用いてPCRを行い、得られたPCR産物をセルフライゲーションし、プラスミドpTrcHis-kfoC-NotI-SalIを得た。
【0078】
用いたプライマーは以下の通りである。
NotSal-pTrcHisC-rev 5'-GCGGCCGCAAAACAGCCAAGCTTCGAATTC-3'(配列番号11)及び
NotSal-pTrcHisC-for 5'-ACGCGTCGACGGCGGATGAGAGAAGATTTTCA-3'(配列番号12)
【0079】
次にpTrcHis-kfoAのkfoAについてリボソーム結合領域(RBS)の上流及びC末領域にそれぞれプライマー(NotI-RBS-KfoA-N 5'-GCGGCCGCAAAATTAAAGAGGTATATATTAATGTATCGA-3'
(配列番号13)及びSalI-KfoA-C 5'-GTCGACCTCTCATCCGCCAAAACA-3'(配列番号14))を設計し、pTrcHis-kfoAをテンプレートとして用いたPCRに用いた。続いて、得られたPCR産物をPCR4-TOPO(Invitrogen)へ挿入し、PCR4-TOPO-kfoAを得た。
【0080】
PCR4-TOPO-kfoAからkfoAを含むインサートをNotI-SalIで切り出し、pTrcHis-kfoC-NotI
-SalIのNotI-SalIサイトへ導入し、得られたプラスミドをpTrcHis-kfoCAと名づけた(図1)。
【実施例2】
【0081】
実施例2:組み換えKfoC及び組み換えKfoAの共発現
発現ベクターであるpTrcHis-kfoCAをエシェリヒア・コリK5株へエレクトロポレーション(Cell; 100 μL, 200Ω、25 μF, 2.5 kV、キュベット; 0.1 mL)により導入し、エシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoCA株を得た。コロニーを100 ppmアンピシリン添加LB培地に継代し、続いて、当該種菌を37℃、一晩培養した。1mLの種菌を20 mLの100 ppmアンピシリン添加CYG培地に継代した。組み換え細菌を37℃、3時間培養し(OD600=1.8、1.7-2.0)、その後、培養液へIPTGを終濃度1.0 mMで添加した。当該培養液をさらに37℃、5時間培養し、組み換えタンパク質の発現を誘導した。
【0082】
培養液900 μLから遠心により細菌菌体を集菌した。得られた菌体は90 μLのLaemmili緩衝液(x1)へ懸濁した。沸騰水浴中で10分間加熱した後、上清10 μLを5/20%濃度勾配ゲルによるSDS-PAGEに供し、PVDF膜へ転写、続いてウエスタン解析により組み換えタンパク質の発現を検出した。1/2000に希釈したAnti-Penta-His-HRP(QIAGEN)をヒスチジン融合組み換えタンパク質の検出に用いた。その結果、組み換えタンパク質KfoA及びKfoCの発現を確認した(図2)。
【実施例3】
【0083】
実施例3:多糖の調製と二糖分析による検出
<細菌菌体の調製>
種菌としてエシェリヒア・コリK5 (pTrcHis-kfoCA)株を100 ppmアンピシリン添加LB培地で培養した。種菌(750 μL)を100 ppmアンピシリン添加CYG培地(15 mL)に継代し、続けて37℃、3時間培養した。培養液へIPTG(終濃度1 mM)を添加し、培養はさらに5時間おこなった。細菌菌体は遠心により集菌した。
【0084】
<培養上清の調製>
種菌(1 mL)を100 ppmアンピシリン添加CYG培地(20 mL)に継代し、続けて37℃、3時間培養した。培養液へIPTG(終濃度1 mM)を添加し、培養はさらに5時間おこなった。培養上清は遠心により回収した。
【0085】
<多糖画分の調製>
多糖は、組み換え菌体及び培養上清から以下の3つの方法により調製した。
【0086】
調製1)得られた上記細菌菌体をPBSに再懸濁し、リゾチーム、DNAseIで37℃、1時間処理し、続けてプロテイナーゼKで37℃、1時間処理した。次に、酵素を熱失活させ、70%硫安沈殿によりタンパク質を除去した。得られた上清画分を10 mM Tris-HCl (pH8.0)で透析して試料Lを得た。
【0087】
調製2)得られた上記細菌菌体を使用説明書に従いプラスミド精製用試薬:P1(リゾチーム含有)、P2、P3(QIAGEN)で順に処理した。遠心回収後、上清をエタノール沈殿に供した。遠心により沈殿を回収し、100 μLの滅菌水へ再懸濁した。懸濁液をDNAseIで37℃、1時間処理してDNAを消化し、さらにプロテイナーゼKで37℃、1時間処理した。次いで、酵素を熱失活させ、70%硫安沈殿によりタンパク質を除去した。得られた上清画分を10 mM
Tris-HCl (pH8.0)で透析して試料Eを得た。
【0088】
調製3)培養上清(20 mL)を蒸発乾固させた。乾燥試料は2 mLの蒸留水に再溶解した。得られた溶液を10 mM Tris-HCl (pH8.0)で透析して試料Sを得た。
【0089】
<二糖分析によるコンドロイチン検出>
試料L、E及びS(各100 μL)を50 mM NaOAcを含有する50 mM Tris-HCl緩衝液(pH 8.0)中で37℃、一晩、cABC(コンドロイチナーゼABC:生化学工業製)により処理した。
【0090】
対照として、cABC無添加で処理した試料L、E及びS、並びに熱失活cABCで処理した試料L、E及びSを調製した。限外濾過により10,000以上の高分子を除去し、試料を蛍光HPLCシステム(J Biol Chem. 2000 Jul 21;275(29):2269-2275.)を用いた二糖組成分析により解析した(図3、4及び5)。HPLCシステムの分離カラムとしてはSenshu Pak Decosil C22
(4.6 I.D. ×150mm)を用い、蛍光検出器の励起波長及び発光波長はそれぞれ346 nm及び410 nmに設定した。
【0091】
その結果、cABCで処理した試料の場合のみ、特異的なピークが検出された。図6(A)に示すように、各試料の二糖組成プロファイルは、コンドロイチン標品をcABCで処理することで得られた試料のプロファイルと厳密に一致した。一方、cABC処理したコンドロイチン標品とcABC処理した試料Lを混合したところ、1つのピークのみが検出され、従って、試料Lはコンドロイチンを含むと確認された(図6(B))。試料E及びSの場合にも、同一の結果が得られた(データ示さず)。
【実施例4】
【0092】
実施例4:KfoΔC/KfoA共発現ベクターの作製
<kfoΔC遺伝子の増幅>
国際公開第2007/145197号パンフレットに記載の方法により、配列番号5の塩基配列を含み、N末を欠くkfoCをコードするDNA(kfoΔC遺伝子)をクローニングした。kfoΔ
C遺伝子をpTrcHisに挿入し、pTrcHis-kfoΔCを得た。
【0093】
<pTrcHis-kfoΔCAの作製>
実施例1で調製したプラスミドpTrcHis-kfoCAを制限酵素SphI及びSmaIを用いて開裂した。
【0094】
同制限酵素によりプラスミドpTrcHis-kfoΔCを切断し、DNA断片(2.9 kDa)を得た
。常法により、開裂したプラスミドのSphI-SmaIサイトに挿入し、次いで、得られたプラスミドをpTrcHis-kfoΔCAと名付けた。
【実施例5】
【0095】
実施例5:抗KfoA抗体及び抗KfoC抗体の作製
<抗KfoA抗体の作製>
配列番号15のペプチド配列を含むオリゴペプチド(CIVSR RDGDI AESWS SPEKA NK, Purity: > 70 %)を合成し、4 mgのオリゴペプチドを常法によりKLH(keyhole limpet hemocyanin)にコンジュゲートさせた。完全アジュバントを混合して抗原溶液を調製し、2週間の間隔で5回、免疫付与をおこなった。抗体力価を確認した後、全血を回収した。各ウサギ血液から、抗KfoA血清がそれぞれ48 ml(試料A)、60 ml(試料B)得られた。Protein Aカラムを用いて精製した後、IgG画分EK-Aが試料Aから32 ml(IgG濃度: 5.30 mg/mL)得られた。
【0096】
<抗KfoC抗体の作製>
配列番号16のペプチド配列を含むオリゴペプチド(CQEPP GKENE TDRAA GK, Purity:
> 70 %)を合成し、4 mgのオリゴペプチドを常法によりKLH(keyhole limpet hemocyanin)にコンジュゲートさせた。完全アジュバントを混合して抗原溶液を調製し、2週間の間隔で5回、免疫付与をおこなった。抗体力価を確認した後、全血を回収した。各ウサギ血
液から、抗KfoA血清がそれぞれ65 ml(試料A)、39 ml(試料B)得られた。Protein Aカラムを用いて精製した後、IgG画分EK-Aが試料Aから39 ml(IgG濃度: 4.41 mg/mL)得られた。
【実施例6】
【0097】
実施例2に示すのと同じ方法で、プラスミドpTrcHis-kfoΔCAをエシェリヒア・コリK5
株に導入してエシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoΔCA株を得、当該組み換え株を培養して組み換えタンパク質の発現を評価した。
【0098】
100 ppmアンピシリン添加LB培地で培養した種菌(0.5 ml)を100 ppmアンピシリン添加CYG培地(10 mL)に継代し、続けて37℃、1.5時間培養した。IPTG(終濃度1 mM)添加後、培養はさらに4時間おこなった。培養液900 μLから細菌菌体を集菌し、90 μLのLaemmili緩衝液(x1)へ懸濁した。沸騰水浴中で10分間加熱した後、上清10 μLを7.5%ゲルによるSDS-PAGEに供し、PVDF膜へ転写、続いてウエスタン解析により組み換えタンパク質の発現を検出した。1/1000に希釈した抗KfoA抗体(EK-A)及び抗KfoC抗体(EK-C)を、組み換えタンパク質KfoA、KfoC、KfoΔCを検出するための一次抗体として用いた。抗ウサギ免疫グロブリンHRP(DAKO、#P0448)を二次抗体として用いた。さらに、エシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoCA及びエシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoAの培養液を用いて同様の試験をおこない、組み換えタンパク質の発現量を比較した。結果として、エシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoCAとエシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoAの間で、KfoA及びKfoC(KfoΔC)の発現量に大きな差はなかった(図7)。
【実施例7】
【0099】
実施例7:多糖の調製と二糖分析での検出
<細菌菌体の調製>
実施例3に示すのと同じ方法で、エシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoΔCA株、エシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoCA株、及びエシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoA株の培養液から121℃、5分間のオートクレーブ後に細菌菌体と上清を調製した。
【0100】
<多糖画分の調製>
上清(1 ml)を一晩、水道水を流して透析し、次いで透析された溶液を凍結乾燥した。凍結乾燥した試料は100 μLの50 mM Tris-HCl (pH8.0)に溶解し、多糖画分として用いた。
【0101】
<二糖分析によるコンドロイチン検出>
実施例3に示すのと同じ方法で、得られた画分を二糖組成分析により解析した。
コンドロイチン標品溶液(200μg/mL及び100μg/mL)を蛍光HPLCで解析し、コンドロイチンの検量線を作製した。
コンドロイチン濃度と不飽和二糖ΔDi-0Sのピーク面積の相関を式1に示した。
【0102】
【数1】
【0103】
不飽和二糖ΔDi-0Sに一致するピークが、エシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoΔCA及び
エシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoCAから調製された試料で検出された。表1は式1を用いて算出された組み換え培養物中のコンドロイチン濃度の結果を示す。
【0104】
【表1】
【0105】
エシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoΔCAとエシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoCAでのコンドロイチン生産性を比較すると、エシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoΔCA組み換え株は、発酵法によるコンドロイチン製造により適している。この結果は、N末欠損KfoCをコードするkfoΔ遺伝子を利用することで、コンドロイチン生産が強化されうると示唆する
ものである。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の細菌を用いることにより、コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸を高効率かつ安価に製造することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンドロイチン生産細菌及びコンドロイチンの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンドロイチンは、グルクロン酸(GlcUA)残基とN-アセチル-D-ガラクトサミン(GalNAc)残基の二糖の繰り返し構造(-GlcUAβ(1-3)-GalNAcβ(1-4)-;本明細書において、コンドロイチン糖鎖骨格ともいう)を有する多糖である。コンドロイチン硫酸はコンドロイチンが硫酸化されることにより成る多糖である。
【0003】
従来法では、コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸は動物の軟骨、臓器等から抽出及び精製されていた。しかし、近年、軟骨や臓器等の原料の不足により、コンドロイチンやコンドロイチン硫酸に共通する糖鎖骨格を人工的に合成する技術が研究されてきた。
【0004】
GlcUAとGalNAcをそれらの供与体基質から交互に受容体オリゴ糖に転移してコンドロイチンを合成するコンドロイチン合成酵素は報告されており、該酵素を用いたコンドロイチンの製造法が提案されている。
【0005】
非特許文献1には、パスツレラ・マルトシダ(Pasteurella multocida)由来のコンドロイチン合成酵素が開示されている。
【0006】
また、特許文献1及び特許文献2には、ヒト由来のコンドロイチン合成酵素が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献3では、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K4株が産生する新規なコンドロイチン合成酵素(KfoC)が開示されている。
【0008】
しかしながら、酵素法によりコンドロイチンを製造する場合、受容体としてオリゴ糖、GlcUAとGalNAcの供与体として糖ヌクレオチドといった高価な原料を用意する必要があり、そのため、より安価な原料を用いたコンドロイチンの製造法の開発が望まれてきた。
【0009】
エシェリヒア・コリK4株はコンドロイチン骨格構造を有する多糖体を莢膜として産生することが知られている。しかしながら、その構造はGalNAc残基、GlcUA残基、及びGlcUA残基のC3のヒドロキシル基に結合したフルクトース残基の三糖を有する繰り返し構造からなる。加えて、化学的に異なる100を超える莢膜多糖がエシェリヒア・コリに検出されている。例えば、エシェリヒア・コリK5株はヘパリン/ヘパラン硫酸の糖鎖骨格を有する莢膜多糖K5を産生する(非特許文献2)。しかしながら、コンドロイチンそのものを産生するエシェリヒア属の細菌は知られていない。ゆえに、エシェリヒア属の細菌を用いたコンドロイチンの製造法は未知である。
【0010】
特許文献4には、パスツレラ・マルトシダ由来のコンドロイチン合成酵素が導入された、組み換えグラム陽性バチルス(Bacillus)属細菌を用いたコンドロイチンの製造法が開示されているが、コンドロイチンの発酵生産におけるさらなる発展が望まれてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2003/102193号
【特許文献2】国際公開第2003/102194号
【特許文献3】米国特許出願公開2003/0109693号公報(特開2003-199583)
【特許文献4】米国特許出願公開2007/0281342号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリ(J.Biol.Chem.)第275巻、第31号、p.24124-24129、2000年
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリ(J.Biol.Chem.)第272巻、第5号、p. 2682-2687、1997年
【発明の概要】
【0013】
本発明の目的は、コンドロイチン生産能を有する新規な微生物を提供すること、及び該微生物を用いたコンドロイチンの新規な製造法を提供することである。
【0014】
本願発明者らは鋭意検討の結果、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子及びkfoC遺伝子が導入されたエシェリヒア・コリK5株等のUDP-グルクロン酸生産細菌がコンドロイチンを高効率に産生することを見出し、本発明を完成した。
【0015】
本発明の目的は、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子及びエシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子が導入され、コンドロイチン生産能を有するUDP-グルクロン酸生産細菌を提供することである。
【0016】
ここで、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子は、好ましくは、以下の(A)及び(B)からなるグループから選択されたタンパク質をコードする遺伝子である。
(A)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつUDP-グルコース-4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質。
【0017】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子は、好ましくは、以下の(a)及び(b)からなるグループから選択されたDNAである。
(a)配列番号1の塩基配列を含むDNA。
(b)配列番号1に相補的な塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-グルコース-4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0018】
さらに、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子は、好ましくは、以下の(C)及び(D)からなるグループから選択されたタンパク質をコードする遺伝子である。
(C)配列番号4のアミノ酸配列を含むタンパク質。
(D)配列番号4において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質。
【0019】
また、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子が以下の(c)又は(d)のDNAであることが好ましい。
(c)配列番号3の塩基配列を含むDNA。
(d)配列番号3に相補的な塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0020】
さらに、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子は、好ましくは、以下の(E)及び(F)からなるグループから選択されたタンパク質をコードする遺伝子である。
(E)配列番号6のアミノ酸配列を含むタンパク質。
(F)配列番号6において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミ
ノ酸配列を含み、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質。
【0021】
また、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子が以下の(e)又は(f)のDNAであることが好ましい。
(e)配列番号5の塩基配列を含むDNA。
(f)配列番号5に相補的な塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0022】
UDP-グルクロン酸生産細菌は好ましくはエシェリヒア・コリK5株である。
【0023】
本発明の他の目的は、少なくとも以下のステップ(1)及び(2)を含むコンドロイチンの製造法を提供することである。
(1)前記細菌を培養すること。
(2)培養物からコンドロイチンを回収すること。
【0024】
本発明の他の目的は、前記方法によりコンドロイチンを製造すること、及び続いて該コンドロイチンを硫酸化してコンドロイチン硫酸を得ることを含む、コンドロイチン硫酸の製造法を提供することである。
【0025】
本発明の他の目的は、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子及びエシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子を有するベクターを提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】kfoA遺伝子とkfoC遺伝子の発現ベクターの構造を示す図。
【図2】KfoAタンパク質とKfoCタンパク質の発現を示す図(写真)。レーン1はプラスミド非導入株(コントロール)、レーン2はpTrcHis-kfoCA導入株を示し、Mは分子量マーカーを示す。
【図3】画分LをコンドロイチナーゼABC(cABC)で処理したもの(A)、cABCで処理しないもの(B)、熱失活させたcABCで処理したもの(C)の、蛍光HPLCシステムを用いた二糖組成分析の結果を示す。
【図4】画分EをcABCで処理したもの(A)、cABCで処理しないもの(B)、熱失活させたcABCで処理したもの(C)の、蛍光二糖分析の結果を示す。
【図5】画分SをcABCで処理したもの(A)、cABCで処理しないもの(B)、熱失活させたcABCで処理したもの(C)の、蛍光二糖分析の結果を示す。
【図6】コンドロイチン標品をcABCで処理したもの(A)、コンドロイチン標品をcABCで処理したもの及び画分LをcABCで処理したものの混合物(B)の、蛍光二糖分析の結果を示す。
【図7】(A)一次抗体として抗KfoC抗体(EK-C)、(B)一次抗体として抗KfoA抗体(EK-A)、(C)標準的ウサギ血清を用いた、KfoA、KfoC、及びKfoΔCタンパク質の発現を示す図。レーン1及び5は分子量マーカーであるMagicMarkXP standard(Invitrogen)、レーン2はpTrcHis-kfoCA導入株、レーン3はpTrcHis-kfoΔCA導入株、レーン4はpTrcHis-kfoA導入株を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳説する。
【0028】
<1>本発明の細菌
本発明の細菌は、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子とkfoC遺伝子が導入され、コンドロイチン生産能を有するUDP-グルクロン酸生産細菌である。
【0029】
「UDP-グルクロン酸生産細菌」は、グルクロン酸から成る多糖の生産に用いられる、UDP-グルクロン酸を提供する。「UDP-グルクロン酸生産細菌」は、UDP-グルクロン酸を生産しさえすればよく、その例としてはグルコノアセトバクター・ハンセニー(Gluconacetobacter hansenii)及びグルコノアセトバクター・キシリナス(Gluconacetobacter xylinus)等のグルコノアセトバクター属細菌、リゾビウム・メフロティ(Rhizobium meffloti)等のリゾビウム属細菌、アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)等のアセトバクター属細菌、エルヴィニア・アミロボーラ(Erwinia amylovora)等のエルヴィニア属細菌、チオバチルス・フェロキシダンス(Thiobacillus ferrooxidans)等のチオバチルス属細菌、ザイレラ・ファスチジオーサ(Xylella fastidiosa)等のザイレラ属細菌、シノリゾビウム・メリロティ(Sinorhizobium meliloti)等のシノリゾビウム属細菌、ロドコッカス・ロドクラス(Rhodococcus rhodochrous)等のロドコッカス属細菌、クレブシエラ・アエロゲネス(Klebsiella aerogenes)等のクレブシエラ属細菌、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)等のエンテロバクター属細菌、及びエシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌が挙げられる。
【0030】
「UDP-グルクロン酸生産細菌」は、エシェリヒア属細菌であって、かつUDP-グルクロン酸を生産するのが好ましく、エシェリヒア・コリに属する細菌であって、かつUDP-グルクロン酸を生産するのがより好ましい。
【0031】
その具体例としては、エシェリヒア・コリK5株が挙げられる。K5株はAmerican Type Culture Collection (ATCC)(P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)にATCC23506の寄託番号で寄託されており、ATCCのカタログ又はホームページから入手可能である。
【0032】
なお、kfoA遺伝子とkfoC遺伝子を導入する株は、エシェリヒア・コリK5株の派生株であってもよく、当該派生株は、エシェリヒア・コリK5株に遺伝子変異を導入することで、又はエシェリヒア・コリK5株に遺伝子組換えによって遺伝子を導入することで得ることができる。すなわち、本発明の細菌の一態様としては、エシェリヒア・コリK5株にエシェリヒア・コリK4株由来のkfoA及びkfoC遺伝子を導入することで得られる株、エシェリヒア・コリK5株にエシェリヒア・コリK4株由来のkfoA及びkfoC遺伝子を導入し、さらに遺伝子変異を導入することで得られる株、及びエシェリヒア・コリK5株にエシェリヒア・コリK4株由来のkfoA及びkfoC遺伝子を導入し、さらに他の遺伝子を導入することで得られる株を含む。
【0033】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子としては、配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び配列番号1の塩基配列を含むDNAを含む。
【0034】
一般的に、タンパク質を構成する1又は数個のアミノ酸における置換、欠失、挿入又は付加によっては当該タンパク質の活性は影響を受けず、従って多くの場合には、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子は、配列番号2において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつUDP-グルコース-4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
【0035】
本明細書における「1又は数個のアミノ酸」という語句は、UDP-グルコース-4-エピメラーゼを損なうことなく置換、欠失、挿入又は付加を起こしうるアミノ酸の個数を示す。例えば具体的には、当該個数は1〜20の整数、好ましくは1〜10の整数、より好ましくは1〜5の整数である。
【0036】
一方、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子は、配列番号2の全配列に対して90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含
み、かつUDP-グルコース-4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
【0037】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子は、エシェリヒア・コリK4株の染色体DNAを鋳型として用いたPCR法により取得することができる。
【0038】
エシェリヒア・コリK4株は、American Type Culture Collection (ATCC)にATCC23502の寄託番号で寄託されており、ATCCのカタログ又はホームページから入手可能である。
【0039】
配列番号2において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列又は配列番号2の全配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつUDP-グルコース-4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、部位特異的変異導入法(Kramer,W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350(1987);Kunkel, T.A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367(1987))等により、配列番号1の塩基配列を、配列番号2のアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入若しくは付加が導入されるように改変することにより得られる。
【0040】
当該遺伝子はまた、配列番号1の塩基配列に相補的な塩基配列又はその一部の配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせることにより、UDP-グルコース-4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子をスクリーニングすることによっても得られる。
【0041】
「ストリンジェントな条件」という用語は、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、かつ非特異的なハイブリッドが形成されない条件を示す(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning A Laboratory Manual, second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)等参照)。「ストリンジェントな条件」の具体例としては、50%ホルムアミド、4×SSC、50mM HEPES(pH7.0)、10×Denhardt's solution、100μg/mlサケ精子DNAを含有する溶液中、42℃でハイブリダイズさせ、次いで室温で2×SSC、0.1%SDS溶液、60℃下で0.1×SSC、0.1%SDS溶液で洗浄する条件が挙げられる。
【0042】
上記のようにして得られた遺伝子がUDP-グルコース-4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするか否かは、得られた遺伝子を適当な宿主に導入して当該タンパク質を発現させ、J. Biol. Chem., 277(24), p21567-21575, 2002に記載の方法にしたがってUDP-グルコース-4-エピメラーゼ活性を測定することにより判定できる。
【0043】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子としては、配列番号4のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び配列番号3の塩基配列を含むDNAを含む。エシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子としてはまた、配列番号6のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び配列番号5の塩基配列を含むDNAも含む。
【0044】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子は、配列番号4又は6において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
【0045】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子は、配列番号4又は6の全配列に対して90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
【0046】
本明細書における「コンドロイチン合成酵素活性」という用語は、GlcUA供与体からGlc
UAを、GalNAc供与体からGalNAcを、交互に糖鎖の非還元末端に転移する活性を示す。
【0047】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子は、エシェリヒア・コリK4株の染色体DNAを鋳型として用いたPCR法により取得することができる。さらに、例えば配列番号5の塩基配列を含むDNA等の、配列番号6のアミノ酸配列をコードするkfoC遺伝子は、国際公開第2007/145197号明細書に記載の方法にしたがって得られる。
【0048】
配列番号4又は6において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列又は配列番号4又は6の全配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、部位特異的変異導入法等により、配列番号3又は5の塩基配列を、配列番号4又は6のアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入若しくは付加が導入されるように改変することにより得られる。
【0049】
当該遺伝子はまた、配列番号3又は5の塩基配列に相補的な塩基配列又はその一部の配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせることにより、コンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子をスクリーニングすることによっても得られる。
【0050】
「1又は数個」、「ストリンジェントな条件」という用語の定義は上述の通りである。
【0051】
上記のようにして得られた遺伝子がコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質をコードするか否かは、得られた遺伝子を適当な宿主に導入して当該タンパク質を発現させ、米国特許出願公開2003/0109693号公報(特開2003-199583)に記載の方法にしたがってコンドロイチン合成酵素活性を測定することにより判定できる。
【0052】
本発明の細菌は、上述のように、エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子及びエシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子をUDP-グルクロン酸生産細菌に導入することによって得られる。
【0053】
本発明において、「導入」という語句は、プラスミド又はファージなどのベクターによって両遺伝子をUDP-グルクロン酸生産細菌に導入すること、及び相同組換え等によって両遺伝子をUDP-グルクロン酸生産細菌の染色体上に導入することを含む。
【0054】
本明細書で用いられるプラスミド又はファージなどのベクターは、エシェリヒア・コリへの遺伝子導入に用いることができればよく、その例としてはpTrcHis(Invitrogen社)、pETベクター(Novagen社)やpGEXベクター(Amersham Pharmacia社)が挙げられる。
【0055】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子及びkfoC遺伝子を導入する際は、各遺伝子のネイティブプロモーターを用いてもよいが、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、PRプロモーター、lacUVプロモーター等のエシェリヒア・コリで強力に働くプロモーターを用いるのが好ましい。
【0056】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子及びkfoC遺伝子は別々に導入してもよいし、単一のベクターを用いて同時に導入してもよい。遺伝子導入及び発現が簡便に行えるため、kfoA及びkfoC遺伝子の両方を保持するプラスミド又はファージ等のベクターを使用するのがより好ましい。
【0057】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA及びkfoC遺伝子は他のペプチドとの融合タンパク質として発現するように導入されてもよい。
【0058】
他のペプチドの例としては、ポリヒスチジンタグやGST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)タグが挙げられる。融合タンパク質としての遺伝子産物の発現は、遺伝子産物の検出(発現確認)が容易に行えるため好ましい。
【0059】
遺伝子の導入は、公知の形質転換法により行うことができる。方法例としては、エレクトロポレーション法、DEAEデキストラン法、リン酸カルシウム法が挙げられる。
【0060】
遺伝子の導入は、RT-PCRやノーザンブロッティング等の遺伝子の検出法、ウエスタンブロッティング等の組み換えタンパク質の発現を特に検出する方法、及び上述したような活性測定法により、確認できる。
【0061】
導入されたエシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子及びエシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子がUDP-グルクロン酸生産細菌で機能すれば、当該細菌は莢膜多糖としてコンドロイチンを産生する能力を獲得する。
【0062】
<2>コンドロイチンの製造法
本発明のコンドロイチンの製造法は、少なくとも以下のステップ(1)及び(2)を含む。
(1)本発明の細菌を培養すること。
(2)培養物からコンドロイチンを回収すること。
【0063】
培養は通常のエシェリヒア属細菌の培養法により行うことができる。
【0064】
培地はエシェリヒア属細菌の培養に使用できるものであれば特に制限されないが、好ましい例としては、LB培地(Luria-Bertani培地)(1リットルあたり Bacto-tryptone 10.0 g. Bacto-yeast extract 5.0 g. 及びNaCl 5.0 g)、CYG培地(カザミノ酸2.0%、Yeast extract 0.5%、及びグルコース0.2%、オートクレーブ前にpHを7.0に調整)が挙げられる。抗生物質耐性遺伝子を含むベクターを用いて遺伝子を導入した際は、培地には当該耐性遺伝子に対応する抗生物質を含むのが好ましい。
【0065】
培養条件は、エシェリヒア属細菌が生育する限りにおいて特に制限されず、高効率にコンドロイチンを産生するために、20〜40℃で、8〜72時間培養することが好ましい。
【0066】
高効率にコンドロイチンを産生するために、細菌を平板培地や液体培地で前培養してもよい。
【0067】
培養物からのコンドロイチン回収法は、コンドロイチンが回収されうる限りにおいて特に制限されないが、例としては、以下の実施例に記載する方法が挙げられる。具体的には、集菌した組み換え菌体をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)等に懸濁し、リゾチーム、DNAseI及びプロテイナーゼKで処理し、タンパク質を除去する。コンドロイチンは、例えば、得られた画分をコンドロイチナーゼで処理し、二糖組成分析を行うことにより検出できる。
【0068】
<3>コンドロイチン硫酸の製造法
本発明の開示する組み替え細菌より調製されたコンドロイチンをさらに硫酸化することによりコンドロイチン硫酸を製造できる。
【0069】
硫酸化は、公知のグリコサミノグリカン硫酸化法により行うことができ、特に限定されるものではないが、例としては特開昭61−47701号公報に記載の方法が挙げられる
。
【0070】
また、コンドロイチンに硫酸基を転移する酵素(スルホトランスフェラーゼ)を用いて硫酸化がなされてもよい。硫酸基供与体として3'-ホスホアデノシン 5'-ホスホ硫酸(PAPS)の存在下で、スルホトランスフェラーゼは、本発明の開示する組み替え細菌により産生されたコンドロイチンと反応することによりコンドロイチン硫酸を生成できる。コンドロイチンに硫酸基を転移する公知のスルホトランスフェラーゼとしては、例えばコンドロイチン6−O−硫酸基転移酵素(J. Biol. Chem., 275(28), 21075-21080 (2000))、ガラクトサミノグリカン4−硫酸基転移酵素(特開2000-4877号公報)が挙げられる。
【0071】
以下、実施例をもとに本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0072】
実施例1:KfoC/KfoA共発現ベクターの作製
<kfoA遺伝子の増幅>
J. Biol. Chem., Vol. 277, Issue 24, 21567-21575に記載の方法により、エシェリヒア・コリK4株の染色体DNAを鋳型にしてPCRを行い、得られたPCR産物をpTrcHis(ヒスチジン融合タンパク質発現ベクター、Invitrogen)に挿入し、pTrcHis-kfoAを得た。
【0073】
用いたプライマーは以下の通りである。
K4A-SP 5'-CGGGATCCCGATGAGTATTCTTAATCAAGC-3'(配列番号7)及び
K4A-AS 5'-GGAATTCCGGCCAGTCTACATGTTTATCAC-3'(配列番号8)
【0074】
<kfoC遺伝子の増幅>
特開2003-199583に記載の方法により、エシェリヒア・コリK4株の染色体DNAを鋳型にしてPCRを行い、得られたPCR産物をpTrcHisに組み込んで、pTrcHis-kfoCを得た。
【0075】
用いたプライマーは以下の通りである。
K4C-SP 5'-CGGGATCCCGATGAGTATTCTTAATCAAGC-3'(配列番号9)及び
K4C-AS 5'-GGAATTCCGGCCAGTCTACATGTTTATCAC-3'(配列番号10)
【0076】
<pTrcHis-kfoCAの作製>
pTrcHis-kfoCAは前記pTrcHis-kfoA, pTrcHis-KfoCより以下の通りに作製した。
【0077】
まず、PCR法によりpTrcHis-kfoCのC末配列へNotI-SalI制限サイトを導入した。kfoCのC末側よりpTrcHis-kfoCの全長を増幅するよう以下に示すプライマーを用いてPCRを行い、得られたPCR産物をセルフライゲーションし、プラスミドpTrcHis-kfoC-NotI-SalIを得た。
【0078】
用いたプライマーは以下の通りである。
NotSal-pTrcHisC-rev 5'-GCGGCCGCAAAACAGCCAAGCTTCGAATTC-3'(配列番号11)及び
NotSal-pTrcHisC-for 5'-ACGCGTCGACGGCGGATGAGAGAAGATTTTCA-3'(配列番号12)
【0079】
次にpTrcHis-kfoAのkfoAについてリボソーム結合領域(RBS)の上流及びC末領域にそれぞれプライマー(NotI-RBS-KfoA-N 5'-GCGGCCGCAAAATTAAAGAGGTATATATTAATGTATCGA-3'
(配列番号13)及びSalI-KfoA-C 5'-GTCGACCTCTCATCCGCCAAAACA-3'(配列番号14))を設計し、pTrcHis-kfoAをテンプレートとして用いたPCRに用いた。続いて、得られたPCR産物をPCR4-TOPO(Invitrogen)へ挿入し、PCR4-TOPO-kfoAを得た。
【0080】
PCR4-TOPO-kfoAからkfoAを含むインサートをNotI-SalIで切り出し、pTrcHis-kfoC-NotI
-SalIのNotI-SalIサイトへ導入し、得られたプラスミドをpTrcHis-kfoCAと名づけた(図1)。
【実施例2】
【0081】
実施例2:組み換えKfoC及び組み換えKfoAの共発現
発現ベクターであるpTrcHis-kfoCAをエシェリヒア・コリK5株へエレクトロポレーション(Cell; 100 μL, 200Ω、25 μF, 2.5 kV、キュベット; 0.1 mL)により導入し、エシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoCA株を得た。コロニーを100 ppmアンピシリン添加LB培地に継代し、続いて、当該種菌を37℃、一晩培養した。1mLの種菌を20 mLの100 ppmアンピシリン添加CYG培地に継代した。組み換え細菌を37℃、3時間培養し(OD600=1.8、1.7-2.0)、その後、培養液へIPTGを終濃度1.0 mMで添加した。当該培養液をさらに37℃、5時間培養し、組み換えタンパク質の発現を誘導した。
【0082】
培養液900 μLから遠心により細菌菌体を集菌した。得られた菌体は90 μLのLaemmili緩衝液(x1)へ懸濁した。沸騰水浴中で10分間加熱した後、上清10 μLを5/20%濃度勾配ゲルによるSDS-PAGEに供し、PVDF膜へ転写、続いてウエスタン解析により組み換えタンパク質の発現を検出した。1/2000に希釈したAnti-Penta-His-HRP(QIAGEN)をヒスチジン融合組み換えタンパク質の検出に用いた。その結果、組み換えタンパク質KfoA及びKfoCの発現を確認した(図2)。
【実施例3】
【0083】
実施例3:多糖の調製と二糖分析による検出
<細菌菌体の調製>
種菌としてエシェリヒア・コリK5 (pTrcHis-kfoCA)株を100 ppmアンピシリン添加LB培地で培養した。種菌(750 μL)を100 ppmアンピシリン添加CYG培地(15 mL)に継代し、続けて37℃、3時間培養した。培養液へIPTG(終濃度1 mM)を添加し、培養はさらに5時間おこなった。細菌菌体は遠心により集菌した。
【0084】
<培養上清の調製>
種菌(1 mL)を100 ppmアンピシリン添加CYG培地(20 mL)に継代し、続けて37℃、3時間培養した。培養液へIPTG(終濃度1 mM)を添加し、培養はさらに5時間おこなった。培養上清は遠心により回収した。
【0085】
<多糖画分の調製>
多糖は、組み換え菌体及び培養上清から以下の3つの方法により調製した。
【0086】
調製1)得られた上記細菌菌体をPBSに再懸濁し、リゾチーム、DNAseIで37℃、1時間処理し、続けてプロテイナーゼKで37℃、1時間処理した。次に、酵素を熱失活させ、70%硫安沈殿によりタンパク質を除去した。得られた上清画分を10 mM Tris-HCl (pH8.0)で透析して試料Lを得た。
【0087】
調製2)得られた上記細菌菌体を使用説明書に従いプラスミド精製用試薬:P1(リゾチーム含有)、P2、P3(QIAGEN)で順に処理した。遠心回収後、上清をエタノール沈殿に供した。遠心により沈殿を回収し、100 μLの滅菌水へ再懸濁した。懸濁液をDNAseIで37℃、1時間処理してDNAを消化し、さらにプロテイナーゼKで37℃、1時間処理した。次いで、酵素を熱失活させ、70%硫安沈殿によりタンパク質を除去した。得られた上清画分を10 mM
Tris-HCl (pH8.0)で透析して試料Eを得た。
【0088】
調製3)培養上清(20 mL)を蒸発乾固させた。乾燥試料は2 mLの蒸留水に再溶解した。得られた溶液を10 mM Tris-HCl (pH8.0)で透析して試料Sを得た。
【0089】
<二糖分析によるコンドロイチン検出>
試料L、E及びS(各100 μL)を50 mM NaOAcを含有する50 mM Tris-HCl緩衝液(pH 8.0)中で37℃、一晩、cABC(コンドロイチナーゼABC:生化学工業製)により処理した。
【0090】
対照として、cABC無添加で処理した試料L、E及びS、並びに熱失活cABCで処理した試料L、E及びSを調製した。限外濾過により10,000以上の高分子を除去し、試料を蛍光HPLCシステム(J Biol Chem. 2000 Jul 21;275(29):2269-2275.)を用いた二糖組成分析により解析した(図3、4及び5)。HPLCシステムの分離カラムとしてはSenshu Pak Decosil C22
(4.6 I.D. ×150mm)を用い、蛍光検出器の励起波長及び発光波長はそれぞれ346 nm及び410 nmに設定した。
【0091】
その結果、cABCで処理した試料の場合のみ、特異的なピークが検出された。図6(A)に示すように、各試料の二糖組成プロファイルは、コンドロイチン標品をcABCで処理することで得られた試料のプロファイルと厳密に一致した。一方、cABC処理したコンドロイチン標品とcABC処理した試料Lを混合したところ、1つのピークのみが検出され、従って、試料Lはコンドロイチンを含むと確認された(図6(B))。試料E及びSの場合にも、同一の結果が得られた(データ示さず)。
【実施例4】
【0092】
実施例4:KfoΔC/KfoA共発現ベクターの作製
<kfoΔC遺伝子の増幅>
国際公開第2007/145197号パンフレットに記載の方法により、配列番号5の塩基配列を含み、N末を欠くkfoCをコードするDNA(kfoΔC遺伝子)をクローニングした。kfoΔ
C遺伝子をpTrcHisに挿入し、pTrcHis-kfoΔCを得た。
【0093】
<pTrcHis-kfoΔCAの作製>
実施例1で調製したプラスミドpTrcHis-kfoCAを制限酵素SphI及びSmaIを用いて開裂した。
【0094】
同制限酵素によりプラスミドpTrcHis-kfoΔCを切断し、DNA断片(2.9 kDa)を得た
。常法により、開裂したプラスミドのSphI-SmaIサイトに挿入し、次いで、得られたプラスミドをpTrcHis-kfoΔCAと名付けた。
【実施例5】
【0095】
実施例5:抗KfoA抗体及び抗KfoC抗体の作製
<抗KfoA抗体の作製>
配列番号15のペプチド配列を含むオリゴペプチド(CIVSR RDGDI AESWS SPEKA NK, Purity: > 70 %)を合成し、4 mgのオリゴペプチドを常法によりKLH(keyhole limpet hemocyanin)にコンジュゲートさせた。完全アジュバントを混合して抗原溶液を調製し、2週間の間隔で5回、免疫付与をおこなった。抗体力価を確認した後、全血を回収した。各ウサギ血液から、抗KfoA血清がそれぞれ48 ml(試料A)、60 ml(試料B)得られた。Protein Aカラムを用いて精製した後、IgG画分EK-Aが試料Aから32 ml(IgG濃度: 5.30 mg/mL)得られた。
【0096】
<抗KfoC抗体の作製>
配列番号16のペプチド配列を含むオリゴペプチド(CQEPP GKENE TDRAA GK, Purity:
> 70 %)を合成し、4 mgのオリゴペプチドを常法によりKLH(keyhole limpet hemocyanin)にコンジュゲートさせた。完全アジュバントを混合して抗原溶液を調製し、2週間の間隔で5回、免疫付与をおこなった。抗体力価を確認した後、全血を回収した。各ウサギ血
液から、抗KfoA血清がそれぞれ65 ml(試料A)、39 ml(試料B)得られた。Protein Aカラムを用いて精製した後、IgG画分EK-Aが試料Aから39 ml(IgG濃度: 4.41 mg/mL)得られた。
【実施例6】
【0097】
実施例2に示すのと同じ方法で、プラスミドpTrcHis-kfoΔCAをエシェリヒア・コリK5
株に導入してエシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoΔCA株を得、当該組み換え株を培養して組み換えタンパク質の発現を評価した。
【0098】
100 ppmアンピシリン添加LB培地で培養した種菌(0.5 ml)を100 ppmアンピシリン添加CYG培地(10 mL)に継代し、続けて37℃、1.5時間培養した。IPTG(終濃度1 mM)添加後、培養はさらに4時間おこなった。培養液900 μLから細菌菌体を集菌し、90 μLのLaemmili緩衝液(x1)へ懸濁した。沸騰水浴中で10分間加熱した後、上清10 μLを7.5%ゲルによるSDS-PAGEに供し、PVDF膜へ転写、続いてウエスタン解析により組み換えタンパク質の発現を検出した。1/1000に希釈した抗KfoA抗体(EK-A)及び抗KfoC抗体(EK-C)を、組み換えタンパク質KfoA、KfoC、KfoΔCを検出するための一次抗体として用いた。抗ウサギ免疫グロブリンHRP(DAKO、#P0448)を二次抗体として用いた。さらに、エシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoCA及びエシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoAの培養液を用いて同様の試験をおこない、組み換えタンパク質の発現量を比較した。結果として、エシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoCAとエシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoAの間で、KfoA及びKfoC(KfoΔC)の発現量に大きな差はなかった(図7)。
【実施例7】
【0099】
実施例7:多糖の調製と二糖分析での検出
<細菌菌体の調製>
実施例3に示すのと同じ方法で、エシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoΔCA株、エシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoCA株、及びエシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoA株の培養液から121℃、5分間のオートクレーブ後に細菌菌体と上清を調製した。
【0100】
<多糖画分の調製>
上清(1 ml)を一晩、水道水を流して透析し、次いで透析された溶液を凍結乾燥した。凍結乾燥した試料は100 μLの50 mM Tris-HCl (pH8.0)に溶解し、多糖画分として用いた。
【0101】
<二糖分析によるコンドロイチン検出>
実施例3に示すのと同じ方法で、得られた画分を二糖組成分析により解析した。
コンドロイチン標品溶液(200μg/mL及び100μg/mL)を蛍光HPLCで解析し、コンドロイチンの検量線を作製した。
コンドロイチン濃度と不飽和二糖ΔDi-0Sのピーク面積の相関を式1に示した。
【0102】
【数1】
【0103】
不飽和二糖ΔDi-0Sに一致するピークが、エシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoΔCA及び
エシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoCAから調製された試料で検出された。表1は式1を用いて算出された組み換え培養物中のコンドロイチン濃度の結果を示す。
【0104】
【表1】
【0105】
エシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoΔCAとエシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoCAでのコンドロイチン生産性を比較すると、エシェリヒア・コリK5/pTrcHis-kfoΔCA組み換え株は、発酵法によるコンドロイチン製造により適している。この結果は、N末欠損KfoCをコードするkfoΔ遺伝子を利用することで、コンドロイチン生産が強化されうると示唆する
ものである。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の細菌を用いることにより、コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸を高効率かつ安価に製造することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K4株由来のkfoA遺伝子とエシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子が導入され、コンドロイチン生産能を有する、UDP-グルクロン酸生産細菌。
【請求項2】
前記kfoA遺伝子が(A)及び(B)からなるグループから選択されたタンパク質をコードする、請求項1に記載の細菌。
(A)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつUDP-グルコース-4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項3】
前記kfoA遺伝子が(a)及び(b)からなるグループから選択されたDNAである、請求項1に記載の細菌。
(a)配列番号1の塩基配列を含むDNA。
(b)配列番号1に相補的な塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-グルコース-4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項4】
前記kfoC遺伝子が(C)及び(D)からなるグループから選択されたタンパク質をコードする、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の細菌。
(C)配列番号4のアミノ酸配列を含むタンパク質。
(D)配列番号4において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質。
【請求項5】
前記kfoC遺伝子が(c)及び(d)からなるグループから選択されたDNAである、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の細菌。
(c)配列番号3の塩基配列を含むDNA。
(d)配列番号3に相補的な塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項6】
前記kfoC遺伝子が(E)及び(F)からなるグループから選択されたタンパク質をコードする、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の細菌。
(E)配列番号6のアミノ酸配列を含むタンパク質。
(F)配列番号6において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質。
【請求項7】
前記kfoC遺伝子が(e)及び(f)からなるグループから選択されたDNAである、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の細菌。
(e)配列番号5の塩基配列を含むDNA。
(f)配列番号5に相補的な塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項8】
前記細菌がエシェリヒア・コリK5株である、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の細菌。
【請求項9】
少なくとも以下のステップ(1)及び(2)を含む、コンドロイチンの製造法。
(1)請求項1ないし8のいずれか一項に記載の細菌を培養すること。
(2)培養物からコンドロイチンを回収すること。
【請求項10】
請求項9に記載の方法によりコンドロイチンを製造すること、及び該コンドロイチンを硫酸化してコンドロイチン硫酸を得ることを含む、コンドロイチン硫酸の製造法。
【請求項11】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子とエシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子を含むベクター。
【請求項1】
エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K4株由来のkfoA遺伝子とエシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子が導入され、コンドロイチン生産能を有する、UDP-グルクロン酸生産細菌。
【請求項2】
前記kfoA遺伝子が(A)及び(B)からなるグループから選択されたタンパク質をコードする、請求項1に記載の細菌。
(A)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつUDP-グルコース-4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項3】
前記kfoA遺伝子が(a)及び(b)からなるグループから選択されたDNAである、請求項1に記載の細菌。
(a)配列番号1の塩基配列を含むDNA。
(b)配列番号1に相補的な塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-グルコース-4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項4】
前記kfoC遺伝子が(C)及び(D)からなるグループから選択されたタンパク質をコードする、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の細菌。
(C)配列番号4のアミノ酸配列を含むタンパク質。
(D)配列番号4において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質。
【請求項5】
前記kfoC遺伝子が(c)及び(d)からなるグループから選択されたDNAである、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の細菌。
(c)配列番号3の塩基配列を含むDNA。
(d)配列番号3に相補的な塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項6】
前記kfoC遺伝子が(E)及び(F)からなるグループから選択されたタンパク質をコードする、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の細菌。
(E)配列番号6のアミノ酸配列を含むタンパク質。
(F)配列番号6において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質。
【請求項7】
前記kfoC遺伝子が(e)及び(f)からなるグループから選択されたDNAである、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の細菌。
(e)配列番号5の塩基配列を含むDNA。
(f)配列番号5に相補的な塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつコンドロイチン合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項8】
前記細菌がエシェリヒア・コリK5株である、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の細菌。
【請求項9】
少なくとも以下のステップ(1)及び(2)を含む、コンドロイチンの製造法。
(1)請求項1ないし8のいずれか一項に記載の細菌を培養すること。
(2)培養物からコンドロイチンを回収すること。
【請求項10】
請求項9に記載の方法によりコンドロイチンを製造すること、及び該コンドロイチンを硫酸化してコンドロイチン硫酸を得ることを含む、コンドロイチン硫酸の製造法。
【請求項11】
エシェリヒア・コリK4株由来のkfoA遺伝子とエシェリヒア・コリK4株由来のkfoC遺伝子を含むベクター。
【図1】
【図2】
【図3(A)】
【図3(B)】
【図3(C)】
【図4(A)】
【図4(B)】
【図4(C)】
【図5(A)】
【図5(B)】
【図5(C)】
【図6(A)】
【図6(B)】
【図7(A)】
【図7(B)】
【図7(C)】
【図2】
【図3(A)】
【図3(B)】
【図3(C)】
【図4(A)】
【図4(B)】
【図4(C)】
【図5(A)】
【図5(B)】
【図5(C)】
【図6(A)】
【図6(B)】
【図7(A)】
【図7(B)】
【図7(C)】
【公表番号】特表2010−524431(P2010−524431A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545755(P2009−545755)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際出願番号】PCT/JP2008/058323
【国際公開番号】WO2008/133350
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際出願番号】PCT/JP2008/058323
【国際公開番号】WO2008/133350
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】
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