説明

コンバインの藁処理排出装置

【課題】簡易な構成の藁処理排出装置により、隣接の未刈穀稈列に細断藁が掛かるのを防止するとともに、広範囲に及ぶ細断藁の拡散排出を可能とするコンバインの藁処理排出装置を提供する。
【解決手段】コンバインの藁処理排出装置は、脱穀部2から受けた排藁を細断する藁カッター6aと、この藁カッター6aによる細断藁を排出する排出口6bに設けて同細断藁を機体側方に移送する横移送螺旋7aとを備えて構成され、上記横移送螺旋7aを支持する螺旋支軸7cには、螺旋による送り先位置で移送方向角度を調節可能に軸支した調節羽根8aを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバインの機体後部に装備して脱穀後の排藁を細断しつつ圃場面に排出するコンバインの藁処理排出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のコンバインの藁処理排出装置は、藁カッターと横移送螺旋とを備えることにより、藁カッターによる細断藁を装置の排出幅について均一に拡散排出するものである。
【0003】
また、特許文献2に記載のコンバインの藁処理排出装置は、細断藁の排出案内をする可動案内板を設け、この可動案内板の張出位置をその外側方の植栽穀稈の有無に応じて切換えることにより、細断藁の排出範囲を自動切換えするものである。
【特許文献1】特開平10−56865号公報
【特許文献2】実開昭56−111748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記装置による細断藁の排出幅は、いずれもその装置幅内に限られることから、隣接の未刈穀稈列に細断藁が掛かって次工程の刈取作業時に、この細断藁を穀稈ごと刈取って脱穀部へ供給してしまい、選別不良の原因となっていた。そのほか、圃場のコーナー部分等の手作業の刈取りを要する場合に、コンバインを停車したまま脱穀すると排藁が一カ所に集中堆積され、その結果、堆積した藁が排出口に詰まって作業続行不能となる問題があった。
【0005】
解決しようとする問題点は、簡易な構成の藁処理排出装置により、隣接の未刈穀稈列に細断藁が掛かるのを防止するとともに、広範囲に及ぶ細断藁の拡散排出を可能とするコンバインの藁処理排出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、脱穀部(2)から受けた排藁を細断する藁カッター(6a)と、この藁カッター(6a)による細断藁を排出する排出口(6b)に設けて同細断藁を機体側方に移送する横移送螺旋(7a)とを備えるコンバインの藁処理排出装置において、上記横移送螺旋(7a)を支持する螺旋支軸(7c)には、螺旋による送り先位置で移送方向角度を調節可能に軸支した調節羽根(8a)を備えたことを特徴とする。
【0007】
上記藁カッターは脱穀部から受けた排藁を細断し、この細断藁を排出する排出口に設けた横移送螺旋は、その横移送作用により細断藁を機体側方に移送拡散し、この場合において、調節羽根は、横移送螺旋の送り先に到達した細断藁をその方向角度に応じて、螺旋の送り作用に対抗して押し戻す状態から、螺旋の送り作用に加えて機体の外側方まで横送りする状態まで、排出幅が調整される。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1の構成において、前記螺旋支軸(7c)は中空軸によって形成するとともに、その中空軸内部に調節羽根(8a)の向きを変更する伝動手段(9)を内設構成してなることを特徴とする。
上記横移送螺旋は螺旋支軸によって回動されることにより、受けた細断藁を横移送し、中空軸内部に設けた伝動手段は、細断藁の移送排出を阻害することなく、調節羽根の向きを変更する伝動機構を構成することが可能となる。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項2の構成において、前記螺旋支軸(7c)には、一端にその回動動力の伝動部(7d)を設け、他端に前記伝動手段(9)の取出口(7e)を形成してなることを特徴とする。
上記螺旋支軸の両端の構成を分けることにより、藁処理排出装置の一方側に藁カッターを含む伝動機構を集約しつつ他方側を有効活用することができる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の構成の藁処理排出装置は、調節羽根の角度に応じた排出幅調整作用により、機体幅内の集中排出状態から、機体外側方への拡散排出状態まで、細断藁の排出幅を広範囲に調節することが可能なので、簡易な構成によって刈取条件に応じた細断藁の排出が可能となり、特に、隣接する未刈穀稈側に細断藁が掛かって次工程の刈取作業時に、この細断藁を穀稈ごと刈取って脱穀部へ供給してしまうことが少なくなり、コンバインによる刈取脱穀作業を能率良く行うことができるとともに、手刈穀稈の脱穀時には、細断藁が集中して堆積するのを少なくして、この脱穀作業を能率良く継続することができる。
【0011】
請求項2の構成の藁処理排出装置は、螺旋支軸の中空軸内部に調整用の伝動手段を設けたことから、細断藁の移送排出を阻害することなく、伝動機構を構成することができる。
【0012】
請求項3の構成の藁処理排出装置は、螺旋支軸端の左右で構成を変えることにより、藁処理排出装置の一方側に藁カッターを含む伝動機構を集約しつつ他方側を調整機構側として有効活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。
図1、図2は、それぞれコンバインの脱穀部の要部構成の平面説明図および背面説明図である。
本発明に係る藁処理排出装置1を搭載したコンバインの脱穀部2は、機体後部にグレンタンク3と並んで配置され、その後部にはカッター装置としての藁処理排出装置1を取付けて構成される。上記脱穀部2は、刈取穀稈の株元側を上下に挟んで引き入れるフィードチェーン2aと脱穀後の排藁を藁処理排出装置1に搬送する排藁チェーン2bとを備える。
【0014】
脱穀部2は、エンジン4からベルトによって動力を受けるて、扱胴Kを介して排藁チェーン2bに伝動するとともに選別部を駆動するベルトVを介して藁処理排出装置1に伝動し、また、フィードチェーン2aは、エンジン4動力を無段変速するHSTを介して走行ミッション5からベルトにより動力を受ける。
【0015】
脱穀部2の要部拡大側面図を図3に示すように、K2は排塵処理胴、K3は二番処理胴、K4は排塵処理胴K2側からの漏下物を前方へ移送してから揺動棚上へ戻す戻し螺旋である。
藁処理排出装置1は、脱穀部2から受けた排藁を細断する平行2軸対向構成のディスクカッター式の藁カッター6aと、この藁カッター6aによる細断藁を排出する排出口6bに介設して同細断藁を左右の外側方向に移送する左右直列の横移送螺旋7a,7bによる横移送部とを備える。
【0016】
横移送部は、詳細には、その要部拡大図を図4(a)に示すように、左右の横移送螺旋7a,7bを支持する中空の螺旋支軸7cを車幅方向に架設し、その一端に伝動用のプーリー7dを備えるとともに、左右の横移送螺旋7a,7bによる送り先位置に移送方向角度を調節するための左右の調節羽根8a,8bによる可変ピッチプレート(ピッチ変更機構)をそれぞれの支軸8c、8cによって軸支する。上記左右の横移送螺旋7a,7bは、いずれもそれぞれの外方に移送するとともに、主として既刈取側に細断藁を送出するように既刈取側(図例では右側の横移送螺旋7a)を長く形成する。
【0017】
左右の調節羽根8a,8bを回動する駆動手段として進退動作が可能な伝動ロッド9を螺旋支軸7cの中空軸内部に設け、その一端の取出口7eから外側に突出した位置に進退動作用のスライダーとして係合溝等をリング状に形成した係合リング9aを取付け、この係合リング9aに係合してスライドシフトさせるフォークレバー9bを軸支する支持部9cをフレーム6cに取付け、これら突出部分を覆うカバー9dを設ける。フォークレバー9bにはモーター駆動スクリュー軸等による電動駆動部9mを取付け、また、必要により、手動用操作レバーや、コンバインの操縦部に配置した操作レバーと連結するワイヤ駆動レバーを取付ける。
【0018】
左右の調節羽根8a,8bのそれぞれは、螺旋支軸7cの外周に180度の角度差で互いに逆方向に回動可能に軸支した2つの羽根要素からなり、左右対称動作用の逆動リンク(不図示)を介設することにより、図4(b)に示すように、単一の伝動ロッド9の進退動作によって調節可能に構成することができる。
【0019】
上記構成の藁処理排出装置1による排藁処理動作は、脱穀部2から受けた排藁を藁カッター6aにより細断し、この細断藁を排出する排出口6bに介設する左右の横移送螺旋7a,7bの横移送作用により細断藁をそれぞれの機体側方に移送拡散する。この場合において、左右の調節羽根8a,8bは、その方向角度に応じて、左右の横移送螺旋7a,7bのそれぞれの送り先に到達した細断藁の流れを助長または規制し、螺旋の送り作用に加えて機体の外側方まで横送りすることによる広幅拡散排出状態から、螺旋の送り作用に対抗して押し戻すことによる収束排出状態まで、排出幅が広範囲に調整される。
【0020】
このように、上記藁処理排出装置は、左右の調節羽根の角度に応じた排出幅調整作用により、機体幅内の集中排出から、車側外方に及ぶ拡散排出まで、細断藁の排出幅を広範囲に調節することができるので、簡易な構成によって刈取条件に応じた細断藁の排出が可能となり、特に、機体幅を越えて拡散排出することにより、刈取走行の隣接経路との間に隙間を残すこと無く、圃場全面について均一な地力回復を図るべく効率よく細断藁の拡散排出が可能となる。
【0021】
また、上記藁処理排出装置の螺旋支軸は、側端部だけに調節羽根を設け、機体内側部は一体成形の移送螺旋であることから、安価に製作でき、且つ、拡散性を向上することができる。また、左右の調節羽根8a,8bによるピッチ変更機構をカッター装置本体に構成したことから構成が簡単にできるとともに、カッターオープン時に可変ピッチ機構を一体的にオープンすることができる。
【0022】
調節羽根の向きを変更する駆動手段としてのピッチ変更機構については、上記螺旋支軸の中空軸内部にピッチ変更機構を設けたことから、細断藁の排出を阻害することなく、ピッチ変更機構を構成することができる。また、伝動ロッドの軸線方向の進退動作によってピッチ変更するように構成したことから、上記同様に、細断藁の排出を阻害することなく、ピッチ変更機構を構成することができる。また、伝動ロッドを進退動作させるスライダーをカッター装置外側に設けたことから、上記スライダー部に細断藁が落下しないので、スライダー部に藁が巻き付くことがない。
【0023】
藁処理排出装置の外側部については、螺旋支軸の駆動をカッターの左側から入力し、可変ピッチ機構をカッター右端部に構成することにより、カッターの左側板は脱穀部からのベルト伝動でカッター回転歯、螺旋支軸を一連の伝動機構で構成でき、反対側の右側板部の空間部を有効に活用することができる。また、伝動ロッドのスライド機構をカッター装置本体であってその右及び、右後方に設け、アクチュエータ、スライド機構をカバーで覆うことにより、これらアクチュエータ、スライド機構に藁くずがたまることがない。
【0024】
ピッチ切替の操作機構については、ピッチ切替え用のレバーをカッター装置本体に設けることにより、構成が簡単にできる。また、上記レバーをコンバインの操縦部に設けることにより、操作が簡単にできる。
【0025】
次に、上記藁処理排出装置1の排藁排出幅調節の制御例について説明する。
図5の制御システム構成図に示すように、電動駆動部9mの可変ピッチモータを制御する制御部Cの入力側に中割スイッチ10a,廻り刈スイッチ10b、車速センサ10c等を接続し、それぞれの信号に応じて以下のような制御処理を構成する。
【0026】
中割スイッチ10a,廻り刈スイッチ10bはコンバインの操縦部に配置したモード切替スイッチであり、未刈取の圃場に割って入る「中割」の場合や、畦に沿って刈取りを開始する「廻り刈」の場合に、機体の両外側への排藁の拡散排出を抑えて機体の刈取幅内の収束排出とし、その他の場合、すなわち、前行程の刈取走行の後にその隣接部を刈取走行する場合については、機体の既刈取側に及ぶ範囲に排藁を広く拡散排出する広幅拡散排出とすることにより、スイッチ操作により容易に切替え操作をすることができる。
【0027】
また、藁処理排出装置1の螺旋支軸7cの回転数が一定駆動構成の場合は、車速センサ10cの信号に基づいて車速が速くなるほど拡散幅を広くすることにより、車速変化による処理量の変動があっても拡散幅を一定とすることができる。
【0028】
また、刈取穀稈の長さを検出する稈長センサ(不図示)を設け、稈長に応じて未刈取側の拡散幅を変更し、すなわち、稈長が長いときは未刈取側への拡散を抑えるように収束して排出することにより、脱穀部から搬出される横倒し状の排藁の株元側の細断藁が未刈取側に排出されて次行程の刈取走行の際に分草杆に引っ掛かる事態を回避することができ、逆に、稈長が短いときは細断藁を未刈取側へ拡散させて刈取幅内に均一に排出することができる。
【0029】
上述の電動駆動部9mの制御処理により、状況に応じて細断藁の排出幅を調節することができ、そのほかに、排出幅を手動調節するためのスイッチを操縦部に設けることにより、オペレータが作業条件に応じてスイッチ操作のみで任意に拡散状態を変更できる。また、モード切替スイッチにより、通常廻り刈時は拡散状態として拡散幅を広くすることにより、スイッチ操作で刈り幅全体に拡散して排出するように切替えが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】脱穀部の要部平面説明図である。
【図2】図1の脱穀部の背面説明図である。
【図3】脱穀部の要部拡大側面図である。
【図4】横移送部の要部拡大図(a)と角度調節動作説明図(b)である。
【図5】制御システム構成図である。
【符号の説明】
【0031】
1 藁処理排出装置(カッター装置)
2 脱穀部
6a 藁カッター
6b 排出口
6c フレーム
7a,7b 横移送螺旋
7c 螺旋支軸
7d プーリー(伝動部)
7e 取出口
8a,8b 調節羽根(可変ピッチ機構)
8c 支軸
9 伝動ロッド
9a 係合リング
9c 支持部
C 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱穀部(2)から受けた排藁を細断する藁カッター(6a)と、この藁カッター(6a)による細断藁を排出する排出口(6b)に設けて同細断藁を機体側方に移送する横移送螺旋(7a)とを備えるコンバインの藁処理排出装置において、上記横移送螺旋(7a)を支持する螺旋支軸(7c)には、螺旋による送り先位置で移送方向角度を調節可能に軸支した調節羽根(8a)を備えたことを特徴とするコンバインの藁処理排出装置。
【請求項2】
前記螺旋支軸(7c)は中空軸によって形成するとともに、その中空軸内部に調節羽根(8a)の向きを変更する伝動手段(9)を内設構成してなることを特徴とする請求項1記載のコンバインの藁処理排出装置。
【請求項3】
前記螺旋支軸(7c)には、一端にその回動動力の伝動部(7d)を設け、他端に前記伝動手段(9)の取出口(7e)を形成してなることを特徴とする請求項2記載のコンバインの藁処理排出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−109876(P2008−109876A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294133(P2006−294133)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】