コンバイン
【課題】 刈取り部の前部に複数の引起し装置を左右に並列配備するとともに、所定の引起し装置を振り上げ揺動可能に支持したコンバインにおいて、伝動系への特別な注意を何ら払うことなく引起し装置を簡単に振り上げおよび振り降ろし操作できるようにする。
【解決手段】 引起し装置13を、その上部に横架支承されたカウンタ軸35にギヤ連動するとともに、カウンタ軸35の軸心Qを中心にして振り上げ揺動可能に支持し、カウンタ軸35とこれにギヤ連動された引起し駆動軸41との伝動系に、引起し装置13の振り上げ角度α以上の回転融通を備えた係合伝動手段として爪クラッチ50を介在してある。
【解決手段】 引起し装置13を、その上部に横架支承されたカウンタ軸35にギヤ連動するとともに、カウンタ軸35の軸心Qを中心にして振り上げ揺動可能に支持し、カウンタ軸35とこれにギヤ連動された引起し駆動軸41との伝動系に、引起し装置13の振り上げ角度α以上の回転融通を備えた係合伝動手段として爪クラッチ50を介在してある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刈取り部の前部に複数の引起し装置を左右に並列配備するとともに、所定の引起し装置を振り上げ揺動可能に支持したコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
自脱型のコンバインにおいては、一般に、引起し装置で所定の姿勢に引起した複数条の穀稈を刈り取り、刈取り穀稈を刈幅の中間箇所に合流搬送した後、供給搬送装置に送り込み、供給搬送装置で後方に搬送した横倒れ姿勢の穀稈を、脱穀装置に備えられたフィードチェーンの始端部に受け渡し供給する穀稈搬送形態が採用されている。
【0003】
上記穀稈搬送形態においては、刈取り穀稈の合流搬送経路や刈取り装置が引起し装置の背部にあるので、穀稈の詰まりを除去作業や、刈取り装置の点検整備作業が行い難いものとなる。そこで、例えば、特許文献1に開示されているように、刈取り部の前部に並列立設された複数の引起し装置のうちの中央側の一部を振り上げ揺動可能に構成し、引起し装置の振り上げによって開放された広い空間から、詰まり除去作業や各種の点検整備作業を行うことができるように構成したものが提案されている。
【特許文献1】特開2004−81006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
引起し装置を振り上げ開放する上記構造は、刈取り穀稈の合流搬送経路や刈取り装置における詰まり除去や点検整備作業を容易に行う上で有用な手段であるが、振り上げ揺動される引起し装置の駆動構造において改良の余地があった。
【0005】
つまり、並列配備された複数の引起し装置は、その上部に横架支承されたカウンタ軸にそれぞれギヤ連動されており、上記従来構造では、引起し装置の振り上げ揺動支点がカウンタ軸の軸心から外れた位置に設定されていた。そのために、ベベルギヤ連動された引起し駆動軸の連動系に、回転軸心方向に係脱可能なピン係合式のクラッチが介在され、引起し装置を振り上げ揺動するとクラッチが自動的に分離されてカウンタ軸との連動が断たれ、また、引起し装置を元の位置まで下げてクラッチをつなぐことで、カウンタ軸に再び連動連結されるようになっていた。
【0006】
このために、分離された前記クラッチを構成する伝動部材同士を適正に芯合わせして係合連結させるためには、精度および剛性の高い接続分離構造が必要であり、製作コストが高くつくきらいがあった。また、引起し装置を振り上げた際に、内装した引起しチェーンが回動されると、引起し装置を振り降ろした際にクラッチにおける伝動部材同士の回動位相がすれて所定の係合連結が不能となるものであり、クラッチにおける伝動部材同士の回動位相に注意して引起し装置を振り降ろし操作する必要があり、取扱い性の面でも改良の余地があった。
【0007】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、伝動系への特別な注意を何ら払うことなく引起し装置を簡単に振り上げおよび振り降ろし操作できるようにすることを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、刈取り部の前部に複数の引起し装置を左右に並列配備するとともに、所定の引起し装置を振り上げ揺動可能に支持したコンバインにおいて、
前記引起し装置を、その上部に横架支承されたカウンタ軸にギヤ連動するとともに、前記カウンタ軸の軸心を中心にして振り上げ揺動可能に支持し、前記カウンタ軸とこれにギヤ連動された引起し駆動軸との伝動系に、引起し装置の振り上げ角度以上の回転融通を備えた係合伝動手段を介在してあることを特徴とする。
【0009】
上記構成によると、引起し装置を振り上げ揺動させても伝動系で分離する箇所はなく、特別な芯合わせ構造を備える必要はない。また、引起し装置を振り上げ揺動させると、引起し装置と共に振り上げ移動される従動側のギヤが、停止しているカウンタ軸に固着された駆動側のギヤによって相対的に逆回動されることになるが、カウンタ軸と引起し駆動軸との伝動系に介在した回転融通がその逆回動を吸収し、引起し駆動軸が逆回動されてしまうことが回避される。なお、引起し装置が元の位置まで振り下げられて運転が再開されると、回転融通が吸収されて正転方向への伝動が再開される。
【0010】
従って、第1の発明によると、引起し装置の揺動支点の設定、および、伝動系の改造によって、伝動系への特別な注意を何ら払うことなく引起し装置を簡単に振り上げおよび振り降ろし操作できるようになった。
【0011】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記係合伝動手段を、噛み合い融通を備えた爪クラッチで構成してあるものである。
【0012】
上記構成によると、一対の爪付きクラッチ部材を用いて上記第1の発明を好適に、かつ、構造簡単に実施することができる。
【0013】
第3の発明は、上記第1または2の発明において、
前記引起し装置の下部に配備される分草具を引起し装置と一体に振り上げ移動可能に支持してあるものである。
【0014】
上記構成によると、引起し装置を振り上げ揺動した際の刈取り部前端部がさらに広く開放されることになり、詰まり除去作業や点検整備作業を一層容易に行うことができる。
【0015】
第4の発明は、上記第1〜3のいずれか一つの発明において、
前記引起し装置の下部後方に配備される合流搬送部を引起し装置と一体に振り上げ移動可能に支持してあるものである。
【0016】
上記構成によると、引起し装置を振り上げ揺動することで作業空間が空けられるとともに、穀稈詰まり箇所の一部も開放されることになり、詰まり除去作業が一層容易なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1に、自脱型コンバインの前部の側面図が、また、図2にその平面図がそれぞれ示されている。この自脱型コンバインは、左右一対のクローラ走行装置1を備えた走行機体2の前部に6条刈り仕様の刈取り部3が昇降自在に連結されるとともに、走行機体2に運転部4、脱穀装置5、および、図示されていない穀粒回収タンク、等が搭載された構造となっている。
【0018】
刈取り部3には刈取り部フレーム10が前下がり傾斜姿勢で備えられており、この刈取り部フレーム10の後端基部が、走行機体2の前端部に立設された支持台11の上部に横向きの支点Pを中心として上下揺動可能に連結支持されるとともに、油圧シリンダ12で上下に駆動揺動されるようになっている。刈取り部フレーム10には、植立穀稈を所定の刈取り姿勢に引起す6個の引起し装置13、引起した植立穀稈を切断するバリカン型の刈取り装置14、刈取り穀稈を後方に軽く掻き込む補助搬送ベルト15、刈取り穀稈の株元を後方に掻き込み搬送する回転パッカ16、刈取り穀稈を2条づつ刈幅内の中間部位に搬送して合流する3組の合流搬送装置17,18,19、および、合流された穀稈を脱穀装置5の横外側に備えられたフィードチェーン6の始端部にまで搬送する供給搬送装置20、等が支持されている。
【0019】
左側の前記合流搬送装置17は、左2条の刈取り穀稈の株元を挟持搬送する株元搬送機構17aと穂先を係止搬送する穂先搬送機構17bとで構成され、中央部の前記合流搬送装置18は、中2条用の株元搬送機構18aと穂先搬送機構18bとで構成され、また、右側の前記合流搬送装置19は、右2条用の株元搬送機構19aと穂先搬送機構19bとから構成されている。そして、各株元搬送機構17a、18a,19aの前端に前記補助搬送ベルト15および回転パッカ16がそれぞれ装備されるとともに、2条単位で臨設する回転パッカ16同士が噛み合い連動されている。
【0020】
前記供給搬送装置20は、右2条の穂先搬送機構19bをフィードチェーン6の前方まで延長してなる穂先係止搬送機構21と、前記合流搬送装置17,18,19による穀稈合流箇所から後方に延出された株元挟持搬送機構22と、フィードチェーン6の前方に配備された横回し型の中継搬送機構23とで構成されている。そして、合流搬送装置17,18,19で合流された立姿勢の穀稈は供給搬送装置20の始端部に受取られ、後方上方に搬送されながら穀稈を横倒れ姿勢に変更されてフィードチェーン6の始端部に受け渡されるのである。
【0021】
ここで、前記株元挟持搬送機構22は、前部支点を中心に上下揺動して搬送終端位置を変更することで、フィードチェーン6への穀稈受け渡し位置を稈長方向に変更して脱穀装置6への穀稈挿入長さを変更調節する機能、いわゆる扱き深さ調節機能が備えられている。
【0022】
なお、刈取り部フレーム10は、内部に伝動軸を挿通した筒型の伝動ケースとしての機能が備えられており、詳細な伝動構造についての説明は省略するが、支点Pに伝達されたエンジン動力がこの刈取り部フレーム10を介して刈取り部前部に伝達され、前記引起し装置13、刈取り装置14、補助搬送ベルト15、回転パッカ16、合流搬送装置17,18,19、および、供給搬送装置20の株元挟持搬送機構22が駆動されるようになっている。また、供給搬送装置20の穂先係止搬送機構21と中継搬送機構23は、支点Pで分岐された動力で駆動されるようになっている。
【0023】
図7,8に示すように、前記刈取り装置14は、刈刃作動方向が相反する2組のバリカン機構14A,14Bが横一列に突合せ配備されて、刈刃往復作動に起因する駆動振動の低減が図られている。つまり、左右の各バリカン機構14A,14Bの刈刃14a,14bは、刈幅の中央近くに左右に並べて配備された一対の駆動アーム24a,24bにそれぞれナイフヘッド25a,25bを介して係合連動されており、両駆動アーム24a,24bが相反する方向に一定ストロークで左右揺動することで左右の刈刃14a,14bが相反する方向で左右移動するようになっている。また、両駆動アーム24a,24bは一対のギヤ26a,26bを介して噛み合い連動されるとともに、一方の駆動アーム24aが刈取り部フレーム10の前端部において縦向き軸心x周りで駆動回転可能に配備されたクランクアーム27に連係ロッド28を介して連動連結されており、クランクアーム27が一定方向に連続回転することで一方の駆動アーム24aが所定角度で往復揺動され、これに連動して他方の駆動アーム24bが逆位相で往復揺動されるのである。ここで、前記クランクアーム27は、前記合流搬送装置17,18,19の合流箇所の下方に位置して配備されており、このクランクアーム27の回転作動によって穀稈搬送径路の下部でワラ屑やゴミが滞留しにくいように構成されている。なお、クランクアーム27の上端には傘状のフランジ部27aが備えられており、降りかかるワラ屑などが巻き付くことが防止されている。
【0024】
図4に示すように、引起し装置13は、引起しケース31の内部に巻回張設した引起しチェーン32に多数本の引起し爪33を起伏自在に枢着して構成されたものであり、その上部に備えられた駆動スプロケット支軸34が、引起し装置13群の上部近くに横架支承されたカウンタ軸35に以下のように連動連結されている。
【0025】
前記刈取り部フレーム10の前端に直交して横架連設した横長の駆動ケース36の左右両端近くからパイプ支柱37が立設され、このパイプ支柱37の上端間に亘って架設した筒状のカウンタケース38に前記カウンタ軸35が挿通支持されており、図示されていないが、刈取り部フレーム10の内装伝動軸によって駆動ケース36の内装伝動軸に伝達された動力が一方の支柱37の内装伝動軸を介してカウンタ軸35に伝達されるようになっている。
【0026】
前記引起しケース31の上端背部から上方に向けて筒状の引起し駆動ケース40が延出され、この引起し駆動ケース40の上端部が前記カウンタケース38に嵌合連結され、また、引起し駆動ケース40に挿通した引起し駆動軸41の上端部と前記カウンタ軸35とがベベルギヤ42,43を介して連動連結されるとともに、引起し駆動軸41の下端部と引起しケース31の駆動スプロケット支軸34とがベベルギヤ44,45を介して連動連結されている。
【0027】
ここで、引起し装置13の背部における穀稈搬送経路での詰まり除去作業や搬送手段の点検整備作業を容易にするために、並列配備された6つの前記引起し装置13の内、両端の引起し装置13(L),13(R)を除く内側4つの引起し装置13を振り上げ揺動できるよう構成されている。
【0028】
つまり、内側4つの引起し装置13における前記引起し駆動ケース40は、カウンタ軸35の軸心Q周りに約90°の範囲で上方に回動可能にカウンタケース38に外嵌支持されている。また、引起しケース31の下部は、前記駆動ケース36から前方に延出された分草フレーム46の前部支持ブラケット47に分離可能に連結されており、前部支持ブラケット47と引起しケース31との連結を解除するとともに、分草フレーム46の前端に差込み連結された分草具55を取り外すことで、この引起し装置13を大きく上方に振り上げ揺動することが可能となっているのである。なお、振り上げた引起し装置13は、図示されていないロック手段によってその振り上げ姿勢に固定することができる。
【0029】
図5に示すように、前記引起し駆動軸41に装着された従動側のベベルギヤ43は引起し駆動軸41に遊嵌支持されるとともに、ベベルギヤ43と引起し駆動軸41との間には融通付きの爪クラッチ50が介在されている。この爪クラッチ50は、ベベルギヤ43におけるボス部端面の対角位置に突設された一対の爪51と、引起し駆動軸41の端部にキー連結したクラッチ部材52の外周対角位置に突設された一対の爪53とを噛み合わせるよう構成されたものであり、図6に示すように、正規の回転方向Fへの伝動状態では、逆転方向での噛み合い回転融通sが形成されている。そして、この噛み合い回転融通sは、引起し装置13の振り上げ角度α以上の大きさに設定されている。
【0030】
従って、カウンタ軸35が回転停止された状態で引起し装置13がカウンタ軸35の軸心Q周りに振り上げ揺動されると、固定された駆動側のベベルギヤ42に対して従動側のベベルギヤ43が振り上げ角度だけ正規の引起し駆動方向と逆方向に相対回動されることになるが、爪クラッチ50に予め与えられている回転融通sによって引起し駆動軸41の逆回動はなく、引起しチェーン32が逆転回動されることはない。
【0031】
〔他の実施例〕
【0032】
(1)図10に示すように、前記引起し装置13の下部前方に配備した分草具55を、引起し装置13と一体に振り上げ移動可能に構成すると、分草具55の脱着の手間が無くなるとともに、引起し装置13を振り上げ揺動した際の刈取り部前端部がさらに広く開放されることになり、詰まり除去作業や点検整備作業を一層容易に行うことができる。
【0033】
(2)図11に示すように、前記引起し装置13の下部後方に配備されている合流搬送部、つまり、中2条の補助搬送ベルト15と回転パッカ16、および、中2条の合流搬送装置18を引起し装置13と一体の振り上げ移動可能に構成すると、引起し装置13を振り上げ揺動することで作業空間が空けられるとともに、穀稈詰まり箇所の一部も開放されることになり、詰まり除去作業が一層容易なものとなる。
【0034】
(3)回転融通sを備えた係合伝動手段としては、引起し装置13の振り上げ角度α以上の周方向範囲のキー溝を介したキー伝動構造とすることもできる。
【0035】
(4)回転融通sを備えた係合伝動手段としては、引起し装置13の振り上げ角度α以上の周方向範囲に形成した円弧状長孔と伝動ピンを係合させる形態を利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】コンバインの全体側面図
【図2】刈取り部の平面図
【図3】引起し装置を開放した刈取り部の側面図
【図4】引起し装置駆動構造の縦断側面図
【図5】引起し装置駆動構造の縦断正面図
【図6】引起し装置駆動構造における爪クラッチの横断平面図
【図7】刈取り装置駆動構造の全体平面図
【図8】刈取り装置駆動構造の要部を示す平面図
【図9】刈取り装置駆動構造の要部を示す正面図
【図10】引起し装置を開放した刈取り部の別実施例を示す側面図
【図11】引起し装置を開放した刈取り部の更に別の実施例を示す側面図
【符号の説明】
【0037】
3 刈取り部
13 引起し装置
35 カウンタ軸
41 引起し駆動軸
50 爪クラッチ
55 分草具
Q 軸心
s 回転融通
【技術分野】
【0001】
本発明は、刈取り部の前部に複数の引起し装置を左右に並列配備するとともに、所定の引起し装置を振り上げ揺動可能に支持したコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
自脱型のコンバインにおいては、一般に、引起し装置で所定の姿勢に引起した複数条の穀稈を刈り取り、刈取り穀稈を刈幅の中間箇所に合流搬送した後、供給搬送装置に送り込み、供給搬送装置で後方に搬送した横倒れ姿勢の穀稈を、脱穀装置に備えられたフィードチェーンの始端部に受け渡し供給する穀稈搬送形態が採用されている。
【0003】
上記穀稈搬送形態においては、刈取り穀稈の合流搬送経路や刈取り装置が引起し装置の背部にあるので、穀稈の詰まりを除去作業や、刈取り装置の点検整備作業が行い難いものとなる。そこで、例えば、特許文献1に開示されているように、刈取り部の前部に並列立設された複数の引起し装置のうちの中央側の一部を振り上げ揺動可能に構成し、引起し装置の振り上げによって開放された広い空間から、詰まり除去作業や各種の点検整備作業を行うことができるように構成したものが提案されている。
【特許文献1】特開2004−81006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
引起し装置を振り上げ開放する上記構造は、刈取り穀稈の合流搬送経路や刈取り装置における詰まり除去や点検整備作業を容易に行う上で有用な手段であるが、振り上げ揺動される引起し装置の駆動構造において改良の余地があった。
【0005】
つまり、並列配備された複数の引起し装置は、その上部に横架支承されたカウンタ軸にそれぞれギヤ連動されており、上記従来構造では、引起し装置の振り上げ揺動支点がカウンタ軸の軸心から外れた位置に設定されていた。そのために、ベベルギヤ連動された引起し駆動軸の連動系に、回転軸心方向に係脱可能なピン係合式のクラッチが介在され、引起し装置を振り上げ揺動するとクラッチが自動的に分離されてカウンタ軸との連動が断たれ、また、引起し装置を元の位置まで下げてクラッチをつなぐことで、カウンタ軸に再び連動連結されるようになっていた。
【0006】
このために、分離された前記クラッチを構成する伝動部材同士を適正に芯合わせして係合連結させるためには、精度および剛性の高い接続分離構造が必要であり、製作コストが高くつくきらいがあった。また、引起し装置を振り上げた際に、内装した引起しチェーンが回動されると、引起し装置を振り降ろした際にクラッチにおける伝動部材同士の回動位相がすれて所定の係合連結が不能となるものであり、クラッチにおける伝動部材同士の回動位相に注意して引起し装置を振り降ろし操作する必要があり、取扱い性の面でも改良の余地があった。
【0007】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、伝動系への特別な注意を何ら払うことなく引起し装置を簡単に振り上げおよび振り降ろし操作できるようにすることを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、刈取り部の前部に複数の引起し装置を左右に並列配備するとともに、所定の引起し装置を振り上げ揺動可能に支持したコンバインにおいて、
前記引起し装置を、その上部に横架支承されたカウンタ軸にギヤ連動するとともに、前記カウンタ軸の軸心を中心にして振り上げ揺動可能に支持し、前記カウンタ軸とこれにギヤ連動された引起し駆動軸との伝動系に、引起し装置の振り上げ角度以上の回転融通を備えた係合伝動手段を介在してあることを特徴とする。
【0009】
上記構成によると、引起し装置を振り上げ揺動させても伝動系で分離する箇所はなく、特別な芯合わせ構造を備える必要はない。また、引起し装置を振り上げ揺動させると、引起し装置と共に振り上げ移動される従動側のギヤが、停止しているカウンタ軸に固着された駆動側のギヤによって相対的に逆回動されることになるが、カウンタ軸と引起し駆動軸との伝動系に介在した回転融通がその逆回動を吸収し、引起し駆動軸が逆回動されてしまうことが回避される。なお、引起し装置が元の位置まで振り下げられて運転が再開されると、回転融通が吸収されて正転方向への伝動が再開される。
【0010】
従って、第1の発明によると、引起し装置の揺動支点の設定、および、伝動系の改造によって、伝動系への特別な注意を何ら払うことなく引起し装置を簡単に振り上げおよび振り降ろし操作できるようになった。
【0011】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記係合伝動手段を、噛み合い融通を備えた爪クラッチで構成してあるものである。
【0012】
上記構成によると、一対の爪付きクラッチ部材を用いて上記第1の発明を好適に、かつ、構造簡単に実施することができる。
【0013】
第3の発明は、上記第1または2の発明において、
前記引起し装置の下部に配備される分草具を引起し装置と一体に振り上げ移動可能に支持してあるものである。
【0014】
上記構成によると、引起し装置を振り上げ揺動した際の刈取り部前端部がさらに広く開放されることになり、詰まり除去作業や点検整備作業を一層容易に行うことができる。
【0015】
第4の発明は、上記第1〜3のいずれか一つの発明において、
前記引起し装置の下部後方に配備される合流搬送部を引起し装置と一体に振り上げ移動可能に支持してあるものである。
【0016】
上記構成によると、引起し装置を振り上げ揺動することで作業空間が空けられるとともに、穀稈詰まり箇所の一部も開放されることになり、詰まり除去作業が一層容易なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1に、自脱型コンバインの前部の側面図が、また、図2にその平面図がそれぞれ示されている。この自脱型コンバインは、左右一対のクローラ走行装置1を備えた走行機体2の前部に6条刈り仕様の刈取り部3が昇降自在に連結されるとともに、走行機体2に運転部4、脱穀装置5、および、図示されていない穀粒回収タンク、等が搭載された構造となっている。
【0018】
刈取り部3には刈取り部フレーム10が前下がり傾斜姿勢で備えられており、この刈取り部フレーム10の後端基部が、走行機体2の前端部に立設された支持台11の上部に横向きの支点Pを中心として上下揺動可能に連結支持されるとともに、油圧シリンダ12で上下に駆動揺動されるようになっている。刈取り部フレーム10には、植立穀稈を所定の刈取り姿勢に引起す6個の引起し装置13、引起した植立穀稈を切断するバリカン型の刈取り装置14、刈取り穀稈を後方に軽く掻き込む補助搬送ベルト15、刈取り穀稈の株元を後方に掻き込み搬送する回転パッカ16、刈取り穀稈を2条づつ刈幅内の中間部位に搬送して合流する3組の合流搬送装置17,18,19、および、合流された穀稈を脱穀装置5の横外側に備えられたフィードチェーン6の始端部にまで搬送する供給搬送装置20、等が支持されている。
【0019】
左側の前記合流搬送装置17は、左2条の刈取り穀稈の株元を挟持搬送する株元搬送機構17aと穂先を係止搬送する穂先搬送機構17bとで構成され、中央部の前記合流搬送装置18は、中2条用の株元搬送機構18aと穂先搬送機構18bとで構成され、また、右側の前記合流搬送装置19は、右2条用の株元搬送機構19aと穂先搬送機構19bとから構成されている。そして、各株元搬送機構17a、18a,19aの前端に前記補助搬送ベルト15および回転パッカ16がそれぞれ装備されるとともに、2条単位で臨設する回転パッカ16同士が噛み合い連動されている。
【0020】
前記供給搬送装置20は、右2条の穂先搬送機構19bをフィードチェーン6の前方まで延長してなる穂先係止搬送機構21と、前記合流搬送装置17,18,19による穀稈合流箇所から後方に延出された株元挟持搬送機構22と、フィードチェーン6の前方に配備された横回し型の中継搬送機構23とで構成されている。そして、合流搬送装置17,18,19で合流された立姿勢の穀稈は供給搬送装置20の始端部に受取られ、後方上方に搬送されながら穀稈を横倒れ姿勢に変更されてフィードチェーン6の始端部に受け渡されるのである。
【0021】
ここで、前記株元挟持搬送機構22は、前部支点を中心に上下揺動して搬送終端位置を変更することで、フィードチェーン6への穀稈受け渡し位置を稈長方向に変更して脱穀装置6への穀稈挿入長さを変更調節する機能、いわゆる扱き深さ調節機能が備えられている。
【0022】
なお、刈取り部フレーム10は、内部に伝動軸を挿通した筒型の伝動ケースとしての機能が備えられており、詳細な伝動構造についての説明は省略するが、支点Pに伝達されたエンジン動力がこの刈取り部フレーム10を介して刈取り部前部に伝達され、前記引起し装置13、刈取り装置14、補助搬送ベルト15、回転パッカ16、合流搬送装置17,18,19、および、供給搬送装置20の株元挟持搬送機構22が駆動されるようになっている。また、供給搬送装置20の穂先係止搬送機構21と中継搬送機構23は、支点Pで分岐された動力で駆動されるようになっている。
【0023】
図7,8に示すように、前記刈取り装置14は、刈刃作動方向が相反する2組のバリカン機構14A,14Bが横一列に突合せ配備されて、刈刃往復作動に起因する駆動振動の低減が図られている。つまり、左右の各バリカン機構14A,14Bの刈刃14a,14bは、刈幅の中央近くに左右に並べて配備された一対の駆動アーム24a,24bにそれぞれナイフヘッド25a,25bを介して係合連動されており、両駆動アーム24a,24bが相反する方向に一定ストロークで左右揺動することで左右の刈刃14a,14bが相反する方向で左右移動するようになっている。また、両駆動アーム24a,24bは一対のギヤ26a,26bを介して噛み合い連動されるとともに、一方の駆動アーム24aが刈取り部フレーム10の前端部において縦向き軸心x周りで駆動回転可能に配備されたクランクアーム27に連係ロッド28を介して連動連結されており、クランクアーム27が一定方向に連続回転することで一方の駆動アーム24aが所定角度で往復揺動され、これに連動して他方の駆動アーム24bが逆位相で往復揺動されるのである。ここで、前記クランクアーム27は、前記合流搬送装置17,18,19の合流箇所の下方に位置して配備されており、このクランクアーム27の回転作動によって穀稈搬送径路の下部でワラ屑やゴミが滞留しにくいように構成されている。なお、クランクアーム27の上端には傘状のフランジ部27aが備えられており、降りかかるワラ屑などが巻き付くことが防止されている。
【0024】
図4に示すように、引起し装置13は、引起しケース31の内部に巻回張設した引起しチェーン32に多数本の引起し爪33を起伏自在に枢着して構成されたものであり、その上部に備えられた駆動スプロケット支軸34が、引起し装置13群の上部近くに横架支承されたカウンタ軸35に以下のように連動連結されている。
【0025】
前記刈取り部フレーム10の前端に直交して横架連設した横長の駆動ケース36の左右両端近くからパイプ支柱37が立設され、このパイプ支柱37の上端間に亘って架設した筒状のカウンタケース38に前記カウンタ軸35が挿通支持されており、図示されていないが、刈取り部フレーム10の内装伝動軸によって駆動ケース36の内装伝動軸に伝達された動力が一方の支柱37の内装伝動軸を介してカウンタ軸35に伝達されるようになっている。
【0026】
前記引起しケース31の上端背部から上方に向けて筒状の引起し駆動ケース40が延出され、この引起し駆動ケース40の上端部が前記カウンタケース38に嵌合連結され、また、引起し駆動ケース40に挿通した引起し駆動軸41の上端部と前記カウンタ軸35とがベベルギヤ42,43を介して連動連結されるとともに、引起し駆動軸41の下端部と引起しケース31の駆動スプロケット支軸34とがベベルギヤ44,45を介して連動連結されている。
【0027】
ここで、引起し装置13の背部における穀稈搬送経路での詰まり除去作業や搬送手段の点検整備作業を容易にするために、並列配備された6つの前記引起し装置13の内、両端の引起し装置13(L),13(R)を除く内側4つの引起し装置13を振り上げ揺動できるよう構成されている。
【0028】
つまり、内側4つの引起し装置13における前記引起し駆動ケース40は、カウンタ軸35の軸心Q周りに約90°の範囲で上方に回動可能にカウンタケース38に外嵌支持されている。また、引起しケース31の下部は、前記駆動ケース36から前方に延出された分草フレーム46の前部支持ブラケット47に分離可能に連結されており、前部支持ブラケット47と引起しケース31との連結を解除するとともに、分草フレーム46の前端に差込み連結された分草具55を取り外すことで、この引起し装置13を大きく上方に振り上げ揺動することが可能となっているのである。なお、振り上げた引起し装置13は、図示されていないロック手段によってその振り上げ姿勢に固定することができる。
【0029】
図5に示すように、前記引起し駆動軸41に装着された従動側のベベルギヤ43は引起し駆動軸41に遊嵌支持されるとともに、ベベルギヤ43と引起し駆動軸41との間には融通付きの爪クラッチ50が介在されている。この爪クラッチ50は、ベベルギヤ43におけるボス部端面の対角位置に突設された一対の爪51と、引起し駆動軸41の端部にキー連結したクラッチ部材52の外周対角位置に突設された一対の爪53とを噛み合わせるよう構成されたものであり、図6に示すように、正規の回転方向Fへの伝動状態では、逆転方向での噛み合い回転融通sが形成されている。そして、この噛み合い回転融通sは、引起し装置13の振り上げ角度α以上の大きさに設定されている。
【0030】
従って、カウンタ軸35が回転停止された状態で引起し装置13がカウンタ軸35の軸心Q周りに振り上げ揺動されると、固定された駆動側のベベルギヤ42に対して従動側のベベルギヤ43が振り上げ角度だけ正規の引起し駆動方向と逆方向に相対回動されることになるが、爪クラッチ50に予め与えられている回転融通sによって引起し駆動軸41の逆回動はなく、引起しチェーン32が逆転回動されることはない。
【0031】
〔他の実施例〕
【0032】
(1)図10に示すように、前記引起し装置13の下部前方に配備した分草具55を、引起し装置13と一体に振り上げ移動可能に構成すると、分草具55の脱着の手間が無くなるとともに、引起し装置13を振り上げ揺動した際の刈取り部前端部がさらに広く開放されることになり、詰まり除去作業や点検整備作業を一層容易に行うことができる。
【0033】
(2)図11に示すように、前記引起し装置13の下部後方に配備されている合流搬送部、つまり、中2条の補助搬送ベルト15と回転パッカ16、および、中2条の合流搬送装置18を引起し装置13と一体の振り上げ移動可能に構成すると、引起し装置13を振り上げ揺動することで作業空間が空けられるとともに、穀稈詰まり箇所の一部も開放されることになり、詰まり除去作業が一層容易なものとなる。
【0034】
(3)回転融通sを備えた係合伝動手段としては、引起し装置13の振り上げ角度α以上の周方向範囲のキー溝を介したキー伝動構造とすることもできる。
【0035】
(4)回転融通sを備えた係合伝動手段としては、引起し装置13の振り上げ角度α以上の周方向範囲に形成した円弧状長孔と伝動ピンを係合させる形態を利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】コンバインの全体側面図
【図2】刈取り部の平面図
【図3】引起し装置を開放した刈取り部の側面図
【図4】引起し装置駆動構造の縦断側面図
【図5】引起し装置駆動構造の縦断正面図
【図6】引起し装置駆動構造における爪クラッチの横断平面図
【図7】刈取り装置駆動構造の全体平面図
【図8】刈取り装置駆動構造の要部を示す平面図
【図9】刈取り装置駆動構造の要部を示す正面図
【図10】引起し装置を開放した刈取り部の別実施例を示す側面図
【図11】引起し装置を開放した刈取り部の更に別の実施例を示す側面図
【符号の説明】
【0037】
3 刈取り部
13 引起し装置
35 カウンタ軸
41 引起し駆動軸
50 爪クラッチ
55 分草具
Q 軸心
s 回転融通
【特許請求の範囲】
【請求項1】
刈取り部の前部に複数の引起し装置を左右に並列配備するとともに、所定の引起し装置を振り上げ揺動可能に支持したコンバインにおいて、
前記引起し装置を、その上部に横架支承されたカウンタ軸にギヤ連動するとともに、前記カウンタ軸の軸心を中心にして振り上げ揺動可能に支持し、前記カウンタ軸とこれにギヤ連動された引起し駆動軸との伝動系に、引起し装置の振り上げ角度以上の回転融通を備えた係合伝動手段を介在してあることを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記係合伝動手段を、噛み合い融通を備えた爪クラッチで構成してある請求項1記載のコンバイン。
【請求項3】
前記引起し装置の下部に配備される分草具を引起し装置と一体に振り上げ移動可能に支持してある請求項1または2記載のコンバイン。
【請求項4】
前記引起し装置の下部後方に配備される合流搬送部を引起し装置と一体に振り上げ移動可能に支持してある請求項1〜3のいずれか一項に記載のコンバイン。
【請求項1】
刈取り部の前部に複数の引起し装置を左右に並列配備するとともに、所定の引起し装置を振り上げ揺動可能に支持したコンバインにおいて、
前記引起し装置を、その上部に横架支承されたカウンタ軸にギヤ連動するとともに、前記カウンタ軸の軸心を中心にして振り上げ揺動可能に支持し、前記カウンタ軸とこれにギヤ連動された引起し駆動軸との伝動系に、引起し装置の振り上げ角度以上の回転融通を備えた係合伝動手段を介在してあることを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記係合伝動手段を、噛み合い融通を備えた爪クラッチで構成してある請求項1記載のコンバイン。
【請求項3】
前記引起し装置の下部に配備される分草具を引起し装置と一体に振り上げ移動可能に支持してある請求項1または2記載のコンバイン。
【請求項4】
前記引起し装置の下部後方に配備される合流搬送部を引起し装置と一体に振り上げ移動可能に支持してある請求項1〜3のいずれか一項に記載のコンバイン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−6822(P2007−6822A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193835(P2005−193835)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]