説明

コンバイン

【課題】圃場の穀稈を刈取る刈取部及び穀稈の脱穀処理を行う脱穀部を備え、車体の前進走行時に刈取部を自動的に駆動させるコンバインにおいて、前進走行時に手扱ぎ作業を行うことが可能なコンバインを提供する。
【解決手段】刈取部、脱穀部、脱穀クラッチ、刈取クラッチ、刈取クラッチを断続作動させるアクチュエータ、車体の前進走行を検出する前進走行検出手段および脱穀クラッチの接続時に前進走行検出手段によって前進走行が検出された場合にはアクチュエータによって刈取クラッチを接続作動させる制御部とを備えたコンバインにおいて、手扱ぎスイッチを設け、手扱ぎスイッチの入状態時には脱穀クラッチが接続状態且つ前進走行状態の場合でも刈取クラッチの接続作動を規制するように制御部を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圃場の穀稈を刈取る刈取部及び穀稈の脱穀処理を行う脱穀部を備え、車体の前進走行時に刈取部を自動的に駆動させるコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
穀稈を刈取る刈取部と、刈取部で刈取られて搬送されてくる穀稈を脱穀処理する脱穀部と、脱穀部への動力伝動を断続させる脱穀クラッチと、刈取部への動力伝動を断続させる刈取クラッチと、刈取クラッチを断続作動させるアクチュエータとを備え、マイコン等からなる制御部の電気的な制御信号によって、刈取クラッチを断続作動させることが可能なコンバインが従来公知である。
【0003】
このようなコンバインにおいて、利便性等の観点から車体の前進走行時に刈取部を自動的に駆動させるため、車体の前進走行を検出する前進走行検出手段を設け、脱穀クラッチの接続時に前進走行検出手段によって前進走行が検出された場合にはアクチュエータによって刈取クラッチを自動的に接続作動させるように制御部を構成した特許文献1に示すコンバインが開発され、公知になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3853216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記コンバインでは、刈取処理を行うこと無く穀稈の脱穀処理をするいわゆる手扱ぎ作業を作業者が行うにあたり、前進走行時に脱穀部を駆動させるために脱穀クラッチを接続状態にすると、制御部によって刈取クラッチが自動的に接続作動され、刈取部による刈取作業が行われるので、前進走行時における手扱ぎ作業を行うことができないという課題がある。
本発明は、上記課題を解決し、圃場の穀稈を刈取る刈取部及び穀稈の脱穀処理を行う脱穀部を備え、車体の前進走行時に刈取部を自動的に駆動させるコンバインにおいて、前進走行時に手扱ぎ作業を行うことが可能なコンバインを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のコンバインは、第1に、穀稈を刈取る刈取部4と、刈取部4で刈取られて搬送されてくる穀稈を脱穀処理する脱穀部23と、脱穀部23への動力伝動を断続させる脱穀クラッチ41と、刈取部4への動力伝動を断続させる刈取クラッチ62と、刈取クラッチ62を断続作動させるアクチュエータ63と、車体の前進走行を検出する前進走行検出手段99と、脱穀クラッチ41の接続時に前進走行検出手段99によって前進走行が検出された場合にはアクチュエータ63によって刈取クラッチ62を接続作動させる制御部97とを備えたコンバインにおいて、手扱ぎスイッチ81を設け、手扱ぎスイッチ81の入状態時には脱穀クラッチ41が接続状態且つ前進走行状態の場合でも刈取クラッチ62の接続作動を規制するように前記制御部97を構成したことを特徴としている。
【0007】
第2に、掻込スイッチ79を設け、脱穀クラッチ41の接続状態時における掻込スイッチ79の入操作時には前進走行検出手段99によって前進走行が検出されない車体の停止時にもアクチュエータ63により刈取クラッチ62を接続作動させるように制御部97を構成し、一度入操作されると切操作されるまで入状態を保持するオルタネイトスイッチが前記手扱ぎスイッチ81になるとともに、入操作されている間だけ入状態になるモーメンタリスイッチが前記掻込スイッチ79になることを特徴としている。
【0008】
第3に、前記オルタネイトスイッチ81及びモーメンタリスイッチ79が、少なくとも前位置F、中立位置N及び後位置Rの3箇所に操作位置を有して操縦部8の左右の一方側に配置された単一のシーソースイッチ77からなり、該シーソースイッチ77を前位置Fに操作することによりモーメンタリスイッチ79が入操作される一方で該シーソースイッチ77を後位置Rに操作することによりオルタネイトスイッチ81が入操作されるようにモーメンタリスイッチ79及びオルタネイトスイッチ81を配置したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
以上のように構成される本発明のコンバインによれば、手扱ぎスイッチの接続状態時には脱穀クラッチが接続状態且つ前進走行状態の場合でも刈取クラッチの接続作動が規制されるため、刈取処理をせずに穀稈の脱穀処理をするいわゆる手扱ぎ作業を行いたい場合、手扱ぎスイッチを入操作しておくことにより、前進走行時にも刈取部の駆動が停止され、手扱ぎ作業を行うことできるという効果がある。
【0010】
また、車体の停止時に強制的に刈取部及び脱穀部を駆動させるいわゆる強制掻込作業を、操作している間のみ入状態になる掻込スイッチによって行う一方で、上記手扱ぎ作業を、一度入操作されると切操作されるまで入状態を保持する手扱ぎスイッチによって行うので、その作業感覚に合った操作を行うことができ、操作性が向上するという効果がある。
【0011】
さらに、オルタネイトスイッチ及びモーメンタリスイッチを単一のシーソースイッチによって構成するため、部品点数を減らして、製造コストを低く抑えることが可能になるという効果がある。くわえて、手扱ぎスイッチと掻込スイッチの操作をオペレータの左右の一方側に配置された1つのシートスイッチによって行うため、この操作を操作具を視認することなく手探りで行うことができる他、シートスイッチの前位置に掻込スイッチが配置され且つ後位置に手扱ぎスイッチが配置されているため、より作業感覚に合った操作を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用したコンバインの全体斜視図である。
【図2】本コンバインの動力伝動系統図である。
【図3】操縦部の平面図である。
【図4】刈取クラッチコントロールスイッチの構成を示す側面図である。
【図5】刈取クラッチモータの構成を示す斜視図である。
【図6】刈取クラッチモータの構成を示す分解斜視図である。
【図7】(A)は刈取クラッチモータによって刈取クラッチを切断作動させた状態を示す要部側面図であり、(B)は刈取クラッチモータによって刈取クラッチを接続作動させた状態を示す要部側面図である。
【図8】本コンバインに搭載された制御部のブロック図である。
【図9】制御部による刈取クラッチの断続制御状態を示す各部のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下図示する例に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明を適用したコンバインの全体斜視図であり、図2は、本コンバインの動力伝動系統図である。本コンバインは、機体フレーム1が左右一対のクローラ式走行装置(走行部)2L,2Rによって支持された走行機体3と、この走行機体3の前方に配置されて走行機体3に昇降駆動可能に連結された前処理部(刈取部)4と、を備えている。
【0014】
前処理部4は、刈刃6によって圃場の穀稈の刈取作業を行うとともに、搬送装置7によって刈取った穀稈の走行機体3側への搬送作業を行う。走行機体3の進行方向右(右)側の前半部にはオペレータが乗込んで各種操作を行う操縦部8が設けられている。
【0015】
走行機体3側に搬送された穀稈は、走行機体3の左側面側に設置された前後方向のフィードチェーン9の前端側に渡される。該穀稈は、走行機体3の内部左側に設けられた脱穀室(図示しない)内に穂先側が挿入された状態で、フィードチェーン9によって後方搬送される。この後方搬送過程で、穀稈は、扱室内の扱胴11等によって扱降(脱穀処理)され、排藁になる。排藁は、排藁搬送装置12によって走行機体3の後端部の後処理部13に搬送されて、そのまま又は後処理部13によって切断処理され、走行機体3の後端部から機外に排出される。
【0016】
一方、扱室で扱降された処理物は、扱室下方の選別室(図示しない)に落下し、揺動選別体14により揺動選別された後に唐箕ファン16等によって起風される後方斜め上方の選別風によって、選別風の影響を殆ど受けずに選別室の前側に落下する一番物と、選別風等の影響を若干受けて一番物の後方に落下する2番物と、選別風の影響を受けて後方斜め上方に吹上げられる藁屑等と、に選別される。
【0017】
一番物は、籾等の穀粒として一番ラセン17等により走行機体3の右側後半部に設置されたグレンタンク18内に搬送収容される。二番物は、二番ラセン19等によって選別室の前部上側に導入され、揺動選別体14及び選別風により再び選別される。藁屑等は、走行機体3の後端部から機外に排出される。
【0018】
グレンタンク18内の穀粒は、走行機体3の後部右側に基端部が左右旋回駆動且つ上下揺動駆動可能に支持されたオーガ21の先端部から機外に排出される。ちなみに、グレンタンク18の底部及びオーガ21内に設けられた複数の搬送ラセンから構成される穀粒排出装置22によって、グレイタンク18内の穀粒がオーガ21の先端部まで搬送される。
【0019】
以上のように、本コンバインでは、前処理部3の刈刃6によって刈取られた穀稈は搬送装置7によって走行機体3側搬送され、この穀稈は扱室の扱胴11等から構成される脱穀部23によって脱穀処理される。くわえて、選別室の1番ラセン17、2番ラセン19、揺動選別体14及び唐箕ファン16等によって脱穀部23で脱穀された処理物を穀粒と藁屑等とに選別する選別部24を構成している。
【0020】
次に、図2に基づき、本コンバインの動力伝動構造について説明する。
エンジン26の動力は、エンジン出力軸S1と一体回転する3つの伝動プーリ27,28,29に伝動される。3つの伝動プーリ27,28,29の内、走行系に動力を伝動するものが走行伝動プーリ27になり、穀粒排出装置22に動力を伝動するものが穀粒排出側伝動プーリ28になり、作業系に動力を伝動するものが作業伝動プーリ29になる。
【0021】
上記走行伝動プーリ27の動力は、ベルト伝動によって、油圧式無段階変速装置である走行HST31に伝動される。走行HST31による無段階変速後の動力は、トランスミッション32を介して、左右の各クローラ式走行装置2L,2Rに変速伝動される。すなわち、走行HST31が走行変速切換を行う主変速装置になり、トランスミッション内には走行変速切換を行う副変速装置が設けられている。
【0022】
上記穀粒排出側伝動プーリ28の動力は、伝動プーリ33側にベルト伝動される。伝動プーリ33及び穀粒搬出装置22を駆動する穀粒排出側駆動プーリ34には穀粒排出側駆動ベルト36が巻き掛けられ、穀粒排出側駆動ベルト36を介して穀粒排出装置22にエンジン動力が伝動される。上記穀粒排出側駆動ベルト36には、この穀粒排出側駆動ベルト36のテンションを調整するテンションプーリからなり、穀粒排出装置22への動力伝動を断続する手動式の排出クラッチ(クラッチ機構)37が設けられている。この排出クラッチ37によって、穀粒排出装置22の駆動が入切される。
【0023】
上記作業伝動プーリ29の動力によって、前処理部4、排出搬送装置12、後処理部13、脱穀部23及び選別部24が駆動される。具体的には、作業伝動プーリ29の動力が、作業伝動プーリ29及び分岐伝動軸S2と一体回転する分岐プーリ38に巻き掛けられる作業伝動ベルト39を介して、分岐伝動軸S2に伝動される。作業伝動ベルト39には、この作業伝動ベルト39のテンションを調整するテンションプーリからなり、エンジン出力軸S1から分岐伝動軸S2への動力伝動を断続する手動式の脱穀クラッチ(クラッチ機構)41が設けられている。
【0024】
分岐伝動軸S2の一方側端部にはベベルギヤ42が取付固定され、他方側端部には伝動プーリ43が取付固定されている。ベベルギヤ42の動力は、脱穀部23(扱胴11等)→排藁搬送装置12の順に伝動される。伝動プーリ43の動力は伝動ベルト44等を介して伝動軸S3に伝動され、この伝動軸S3の動力が、選別部24と、後処理部13と、前処理部3の刈刃6及び搬送装置7と、に伝動される。
【0025】
伝動軸S3から下流側への動力伝動の詳細を説明すると、この伝動軸S3の動力によって、二番ラセン19及び二番ラセン19からの二番物を再び選別室内の前側上部に向かって上方移送する揚穀ラセン46が駆動される他、この伝動軸S3と一体回転する2つの伝動プーリ47,48が回転駆動される。この2つの伝動プーリ47,48の一方は後処理部13を駆動し、他方は伝動ベルト49を駆動する。
【0026】
伝動ベルト49は、伝動プーリ48の他、一番ラセン17を駆動する駆動プーリ51と、揺動選別体14を駆動する駆動プーリ52と、伝動軸S4と一体回転する伝動プーリ53とに巻き掛けられている。このため、伝動ベルト49の動力は、一番ラセン17、揺動選別体14及び伝動軸S4に伝動される。ちなみに、一番ラセン17の動力は、一番ラセン17からの穀粒をグレンタンク18に向かって上方移送する揚穀ラセン54に伝動される。
【0027】
伝動軸S4は、唐箕ファン16の回転軸にもなり、その動力は、操縦部8の機体内側(左側)の側方に固定設置(固設)された伝動ケース56(図3参照)内に伝動される。伝動ケース56内に入力された動力は、伝動ケース56内に設置された複数の伝動ギヤからなる伝動機構57に伝動される。伝動機構57に入力された動力は、フィードチェーン9を搬送駆動させるフィードチェーン駆動軸S5と、伝動ケース56から操縦部8側側方に突出する刈取伝動軸S6とに、各別に異なる変速比で伝動される。
【0028】
刈取伝動軸S6の動力は、刈取伝動軸S6と一体回転する刈取側主動プーリ58と、刈取駆動軸S7と一体回転する刈取側従動プーリ59と、この刈取側主動プーリ58と刈取側従動プーリ59とに巻き掛けられる刈取伝動ベルト61とを介して、刈取駆動軸S7に伝動される。この刈取駆動軸S7の動力によって、刈刃6及び搬送装置7等の前処理部4を駆動させる。
【0029】
刈取伝動ベルト61には、この刈取伝動ベルト61のテンションを調整するテンションプーリから構成されて刈取側主動軸S6から刈取側従動軸S7への動力伝動を断続する刈取クラッチ(クラッチ機構)62が設けられ、この刈取クラッチ62によって前処理部4の駆動が入切される。ちなみに、この刈取クラッチ62は、後述する刈取クラッチモータ(アクチュエータ)63(図5乃至7参照)によって、断続作動される。
【0030】
すなわち、本コンバインでは、脱穀クラッチ41が前処理部4、排藁搬送装置12、後処理部13、脱穀部23及び選別部24へのエンジン31からの動力伝動を断続させるように構成され、脱穀クラッチ41の伝動下流側に設置された刈取クラッチ62が前処理部4への選別部24等(脱穀クラッチ41)からの動力伝動を断続させるように構成されている。
【0031】
次に、図3及び4に基づき、操縦部8の構成について説明する。
図3は、操縦部の平面図である。操縦部8は、オペレータが着座する座席64と、座席64の前方に形成された左右方向のフロントパネル66と、座席64の機体内側(左側)側方に位置する前後方向のサイドパネル67と、座席64とフロントパネル66と間に位置して座席64よりも低い位置に床面をなすフロアステップ68と、を備えている。
【0032】
上記座席64の下方には、機体外側(右側)側方が開放されてエンジン31を収容するエンジンルーム(図示しない)が形成されており、エンジンルームの上記開放端側が走行機体3の右側面の一部を構成するエンジンカバー69によって開閉可能に閉塞されている。
【0033】
上記フロントパネル66の機体内側(左側)端部はサイドパネル67の前端部と一体的に連接されており、フロントパネル66の右部には左右及び前後揺動操作可能にマルチステアリングレバー(操向レバー,昇降レバー)71が支持されている。マルチステアリングレバー71を前後揺動することにより、前処理部4の昇降操作を行い、マルチステアリングレバー71を左右揺動することにより、操向操作を行う。
【0034】
また、フロントパネル66の機体外側側方には、前後揺動操作可能に駐車ブレーキレバー72が支持されている。この駐車ブレーキレバー72を前後の一方側に揺動することにより駐車ブレーキが入操作され、本コンバインが制動されることにより、本コンバインの走行が規制された状態になる。一方、この駐車ブレーキレバー72を前後の他方側に揺動することにより駐車ブレーキが切操作され、本コンバインの走行規制が解除された状態になる。
【0035】
上記サイドパネル67は、下段パネル67aと、下段パネル67aに対して高い位置に形成された上段パネル67bとから構成されている。サイドパネル67前部の下段パネル67aの左右の一方側(図示する例では右側)には主変速レバー73が前後及び左右揺動操作可能に支持され、他方側には副変速レバー74が前後揺動操作可能に設けられている。サイドパネル67中途部及び後部の上段パネル67bの後半部には前後揺動操作可能に脱穀クラッチレバー76が設置され、上段パネル67bの前端部には前後に傾斜操作する単一のシーソースイッチからなる刈取クラッチコントロールスイッチ77が設けられている。
【0036】
主変速レバー73は、サイドパネル67に穿設されたガイド孔78に挿通され、このガイド孔78によって揺動案内される。主変速レバー73は、走行HST31の変速切換部材等と機械的に連結され、走行HST31をニュートラル状態とする前後中立位置で、左右揺動操作可能な状態になる。主変速レバー73を、左右の一方側(図示する例では右側)に揺動させて該一方側に傾斜させることにより中立位置から前方に揺動操作が可能な状態になる一方で、左右の他方側に揺動させて該他方側に傾斜させることにより中立位置から後方に揺動操作が可能な状態になる。すなわち、主変速レバー73は、走行変速操作具であるとともに、前後進切換操作具にもなる。
【0037】
そして、主変速レバー73は、前後中立位置からの前方揺動角が大きくなる程、本コンバインが走行HST31を介して前進走行側(進行方向側)に無段階増速される一方で、前後中立位置からの後方揺動角が大きくなる程、本コンバインが走行HST31を介して後進走行側に無段階増速される。
【0038】
副変速レバー74はトランスミッション32内の副変速装置のシフター等とに機械的に連結され、副変速レバー74の前後揺動によってトランスミッション32を介した走行変速切換操作を行う。
【0039】
脱穀クラッチレバー76は上述の脱穀クラッチ41と機械的に連結されている。そして、脱穀クラッチレバー76を前後の一方側(図示する例では前側)に揺動させることにより、分岐プーリ38に動力を伝動する脱穀クラッチ41の接続操作を行う一方で、脱穀クラッチレバー76を他方側に揺動させることにより、分岐プーリ38へ動力伝動を切断する脱穀クラッチ41の切断操作を行う。
【0040】
図4は、刈取クラッチコントロールスイッチの構成を示す側面図である。刈取クラッチコントロールスイッチ77は、上述したように操縦部8の左右の一方側に配置され、前後水平な水平姿勢になる中立位置Nと、前方に向かって下方傾斜した前方下降傾斜姿勢になる前位置Fと、後方に向かって下方傾斜した後方下降傾斜姿勢になる後位置Rと、の3箇所を操作位置に有している。
【0041】
具体的な位置切換について説明すると、中立位置Nの刈取クラッチコントロールスイッチ77の前部を押操作することにより、刈取クラッチコントロールスイッチ77の前位置Fへの切換が行われる一方で、前位置Fの刈取クラッチコントロールスイッチ77の後部を押操作することにより、刈取クラッチコントロールスイッチ77の中立位置Nへの切換が行われる他、中立位置Nの刈取クラッチコントロールスイッチ77の後部を押操作することにより、刈取クラッチコントロールスイッチ77の後位置Rへの切換が行われる一方で、後位置Rの刈取クラッチコントロールスイッチ77の前部を押操作することにより、刈取クラッチコントロールスイッチ77の中立位置Nへの切換が行われる。言換えると、刈取クラッチコントロールスイッチ77は、前位置Fから後位置Rへの位置切換及び後位置Rから前位置Fへの位置切換を行うにあたり、必ず一旦、中立位置Nに位置するように構成されている。
【0042】
刈取クラッチコントロールスイッチ77内の前部には、前位置Fに位置している間のみ入状態になるとともにそれ以外の位置N,Rでは切状態になるモーメンタリスイッチ79(図8参照)が構成配置される一方で、刈取クラッチコントロールスイッチ77内の後部には、後位置Rに位置している間のみ入状態になるとともにそれ以外の位置N,Fでは切状態になるオルタネイトスイッチ81(図8参照)が構成配置される。モーメンタリスイッチ79は、オペレータが入操作を行っている間のみ入状態になり、それ以外の時には切状態になる操作具であり、オルタネイトスイッチ81は、オペレータが一度入操作を行うと、次に切操作されるまで入状態を保持する操作具である。
【0043】
このため、刈取クラッチコントロールスイッチ77は、オペレータが前位置Fへの切換操作を行っている間のみ前位置Fに位置し、オペレータが刈取クラッチコントロールスイッチ77から手や指を離して前位置Fへの切換操作を終了させると、中立位置Nに自然に切換作動される。
【0044】
一方、刈取クラッチコントロールスイッチ77は、オペレータが後位置Fに切換操作すると、次に、オペレータが中立位置Nに切換操作を行うまでの間、刈取クラッチコントロールスイッチ77から手や指を離して前位置Fへの切換操作を終了させた場合でも、後位置Fで保持される。
【0045】
次に、図5乃至7に基づき、刈取クラッチモータの構成について説明する。
図5,6は、刈取クラッチモータの構成を示す斜視図及び分解斜視図である。刈取クラッチモータ63は、機体フレーム1側から上方に突出した状態で機体フレーム1に対して固設された側面視逆U字状のステー82と、ステー82側に取付固定されて上下及び前後に延設されたベース部材であるベースプレート83等とによって、走行機体3における操縦部8の搬送装置7側側方に固定されている。
【0046】
具体的には、刈取クラッチモータ63の出力軸側にはギヤボックス84が取付固定されており、このギヤボックス84からはベースプレート83側側方に向かって回動可能に左右方向の操作軸86が突出している。この操作軸86には、出力軸及びギヤボックス84内の複数のギヤを介して、刈取クラッチモータ63からの動力が伝動される。
【0047】
このギヤボックス84は、複数(図示する例では3本)のボルト87によって、ベースプレート83の一方側の面に取付固定されている。そして、平面視で操縦部8のサイドパネル67とベースプレート83との間に刈取クラッチモータ63を位置させた状態で、複数(図示する例では3本)のボルト88によってベースプレート83をステー82側に取付固定することにより、刈取クラッチモータ56が操縦部8の側方に固定される。
【0048】
上記操作軸86と、刈取クラッチを構成するテンションプーリ62とは、連動機構89を介して機械的に連結されている。連動機構89は、上述のベースプレート83と、ベースプレート83に基端部が前後揺動自在に支持された操作アーム91と、ベースプレート83の後方側に位置する刈取側主動プーリ58の回転軸心上に前後回動自在に支持されたリング状の支持部材92と、支持部材92から上方に一体的に突出して支持部材92と一体で前後揺動する作動アーム92aと、支持部材92から下方に一体的に突出して支持部材92と一体で前後揺動する刈取クラッチアーム92bと、前側の操作アーム91と後側の作動アーム92aを連結する前後方向の連結部材93と、を備えている。
【0049】
操作アーム91は、刈取クラッチモータ63及びギヤボックス84と、ベースプレート83との間に配置され、その基端部には左右方向に延びる円柱状の支持部91aが形成され、その中途部には連結部材93を連結させる連結部91bが設けられている。この支持部91aを、ベースプレート83に穿設された支持孔83aに、軸回りに前後回動自在に挿入することにより、操作アーム91がベースプレート83に前後揺動自在に支持される他、この支持部材91aを、操作軸86の一軸心に位置した状態で操作軸86に取付固定することにより、操作アーム91が操作軸86と一体的で前後揺動される。
【0050】
すなわち、操作アーム91は、刈取クラッチモータ63の動力によって前後揺動駆動され、この前後揺動駆動によって、最上方位置に揺動されて先端部が前方に位置した接続操作姿勢と、最下方位置に揺動されて先端部が後方に位置した切断操作姿勢と、の姿勢切換が行われる。
【0051】
連結部材93は、前後方向の連結ロッド93aと、連結ロッド93aの後端部と作動アーム92aとを連結する前後方向の弾性部材である引張スプリング93bと、連結ロッド93aの前端部に取付けられた接続部材93cとから構成されている。この連結部材93はベースプレート83を挟んで刈取クラッチモータ63の反対側に配置されている他、ベースプレー83には上記操作アーム91の姿勢切換時における上記連結部91bの移動軌跡に沿う支持孔83aを中心とした円弧状のガイド孔83bが穿設されている。そして、ベースプレート83の両面側にそれぞれ配置された上述の操作アーム91の連結部91aと連結部材93の接続部材93cとが、上記ガイド孔91bを介して、連結され、操作アーム91と作動アーム92aとが一体的に前後揺動される状態になる。
【0052】
刈取クラッチアーム92bの突出端部である先端部には、左右方向の支持軸94を介して、刈取クラッチを構成するテンションプーリ62が回転自在に支持されている。刈取クラッチアーム92bが後方位置に揺動された接続作動姿勢では、テンションを付加するようにテンションプーリ62が刈取伝動ベルト61に押付けられ、刈取側主動プーリ58から刈取側従動プーリ59に動力が伝動される。一方、刈取クラッチアーム92bが前方位置に揺動された切断作動姿勢では、テンションプーリ62が刈取伝動ベルト61から離間して刈取側主動プーリ58から刈取側従動プーリ59への動力伝動が切断される。ちなみに、刈取クラッチアーム92bは、引張スプリング96等の弾性部材によって常時、切断作動姿勢側に付勢されている。
【0053】
図7(A)は刈取クラッチモータによって刈取クラッチを切断作動させた状態を示す要部側面図であり、(B)は刈取クラッチモータによって刈取クラッチを接続作動させた状態を示す要部側面図である。以上のように構成される上記連動機構89によれば、刈取クラッチモータ63の動力によって操作アーム91を後方揺動させた切断操作姿勢に切換作動させることにより、作動アーム92aが操作アーム91と一体的に後方揺動され、この作動アーム92aの後方揺動によって刈取クラッチアーム92bが一体で前方に揺動されて切断作動姿勢に切換えられ、刈取クラッチ62が切断操作される(同図(A)参照)。
【0054】
一方、刈取クラッチモータ63の動力によって操作アーム91を前方揺動させた接続操作姿勢に切換作動させることにより、作動アーム92aが操作アーム91と一体的に前方揺動され、この作動アーム92aの前方揺動によって刈取クラッチアーム92bが一体で後方に揺動されて接続作動姿勢に切換えられ、刈取クラッチ62が接続操作される(同図(B)参照)。
【0055】
そして、この刈取クラッチモータ63の駆動は、マイコン等からなるECU(Engine Control Unit)である制御部97(図8参照)によって制御される。すなわち、刈取クラッチ62は、制御部97によって、断続制御される。
【0056】
次に、図8及び9に基づき、制御部の構成について説明する。
図8は、本コンバインに搭載された制御部のブロック図である。制御部97の入力側には上述のモーメンタリスイッチ79及びオルタネイトスイッチ81が接続されている他、脱穀クラッチレバー76による脱穀クラッチ41の断続操作を検出する断続状態検出手段である脱穀クラッチレバースイッチ98と、主変速レバー73の前後揺動角を検知することにより本コンバイン(車体)の前進走行を検出する前進走行検出手段である主変速レバーポテンショ99と、が接続されている。一方、制御部97の出力側には上述の刈取クラッチモータ63が接続されている。
【0057】
上記脱穀クラッチレバースイッチ98は、脱穀クラッチレバー76を前側に揺動させた脱穀クラッチ41の接続操作状態時に入状態になる一方で、脱穀クラッチレバー76を後側に揺動させた脱穀クラッチ41の切断操作状態時に切状態になる。また、上記主変速レバーポテンショ99は、走行HST31をニュートラル状態とする中立位置からの主変速レバー73の前方揺動操作を、主変速レバー73の前後揺動角から検知することにより、車体の前進走行検出を行うように構成されている。
【0058】
図9は、制御部による刈取クラッチの断続制御状態を示す各部のタイムチャートである。本コンバインでは、刈取クラッチコントロールスイッチ77が中立位置Nに位置してモーメンタリスイッチ79及びオルタネイトスイッチ81が切状態となる通常作業時、脱穀クラッチレバースイッチ98によって脱穀クラッチ41の接続状態が検出され且つ主変速レバーポテンショ99によって車体の前進走行が検出された場合には、刈取クラッチ62を接続作動させ、前処理部4(刈刃6及び搬送装置7)、脱穀部23、選別部24、排藁搬送装置12及び後処理部13を駆動させるように制御部97を構成している。
【0059】
また、刈取クラッチコントロールスイッチ77が前位置Fに位置してモーメンタリスイッチ79が入状態且つオルタネイトスイッチ81が切状態となる強制掻込作業時、脱穀クラッチレバースイッチ98によって脱穀クラッチ41の接続状態が検出された場合には、主変速レバーポテンショ99によって検出される車体の前進走行時のみならず車体の停止時等にも刈取クラッチ62を接続作動させ、前処理部4、脱穀部23、選別部24、排藁搬送装置12及び後処理部13を駆動させるように制御部97を構成している。
【0060】
このように制御部97を構成することによって、車体を停止させた状態で圃場の穀稈を刈取って脱穀・選別処理を行う強制掻込作業を行うことが可能になる。すなわち、刈取クラッチコントロールスイッチ77の前半部を構成する上記モーメンタリスイッチ79は、強制掻込作業を行うための掻込スイッチになる。
【0061】
さらに、刈取クラッチコントロールスイッチ77が後位置Rに位置してモーメンタリスイッチ79が切状態且つオルタネイトスイッチ81が入状態となる手扱ぎ作業時、脱穀クラッチレバースイッチ98によって脱穀クラッチ41の接続状態が検出された場合には、主変速レバーポテンショ99によって検出される車体の前進走行が検出されていても刈取クラッチ62の切断状態を保持(刈取クラッチ62の接続作業を規制)し、前処理部4の駆動を停止した状態で、脱穀部23、選別部24、排藁搬送装置12及び後処理部13を駆動させることが可能なように制御部97を構成している。
【0062】
このように制御部97を構成することによって、前所処理部4の駆動を停止した状態で、脱穀部23、選別部24、排藁搬送装置12及び後処理部13等を駆動させる手扱ぎ作業を行うことが可能になる。この手扱ぎ作業時には、作業者が自ら穀稈をフィードチェーン9に渡して、穀稈の脱穀・選別処理を行う。すなわち、刈取クラッチコントロールスイッチ77の後半部を構成する上記オルタネイトスイッチ81は、手扱ぎ作業を行うための手扱ぎスイッチになる。
【0063】
また、本コンバインでは、上記構成によって、車体の停止時のみならず、車体の前進走行時にも手扱ぎ作業を行うことが可能になり、走行機体4の後端部から排出された排藁や藁屑等が圃場の一箇所に集中的に落下することを防止できる。
【0064】
なお、脱穀クラッチレバースイッチ98が切状態になる脱穀クラッチ41の切断時には、上記動力伝動構造によって、前処理部4、脱穀部23、選別部24、排藁搬送装置12及び後処理部13側への動力伝動が切断されて、これらの駆動は停止される。このため、上述の制御部97による刈取クラッチ62の断続制御では、必ずしも脱穀クラッチ41の断続状態を検出する必要は無い。
【0065】
言換えれば、脱穀クラッチレバースイッチ98を設けることによって、前処理部4側への動力伝動経路と、フィードチェーン9、脱穀部23、選別部24、排藁搬送装置12及び後処理部13側への動力伝動経路とを、上述の例のように、脱穀クラッチ41の伝動下流側で分岐させる必要が無くなり、上記2つの動力伝動経路を脱穀クラッチ41の伝動上流側で分岐させることが可能になる。すなわち、脱穀クラッチレバースイッチ98を設けることにより、動力伝動レイアウトの自由度が増すことになる。
【符号の説明】
【0066】
4 前処理部(刈取部)
8 操縦部
23 脱穀部
41 脱穀クラッチ(クラッチ機構,テンションプーリ)
62 刈取クラッチ(クラッチ機構,テンションプーリ)
63 刈取クラッチモータ(アクチュエータ)
77 刈取クラッチコントロールスイッチ(シーソースイッチ)
79 掻込スイッチ(モーメンタリスイッチ)
81 手扱ぎスイッチ(オルタネイトスイッチ)
97 制御部(ECU)
99 主変速レバーポテンショ(前進走行検出手段)
F 前位置(前方下降傾斜姿勢)
N 中立位置(前後水平姿勢)
R 後位置(後方下降傾斜姿勢)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀稈を刈取る刈取部(4)と、刈取部(4)で刈取られて搬送されてくる穀稈を脱穀処理する脱穀部(23)と、脱穀部(23)への動力伝動を断続させる脱穀クラッチ(41)と、刈取部(4)への動力伝動を断続させる刈取クラッチ(62)と、刈取クラッチ(62)を断続作動させるアクチュエータ(63)と、車体の前進走行を検出する前進走行検出手段(99)と、脱穀クラッチ(41)の接続時に前進走行検出手段(99)によって前進走行が検出された場合にはアクチュエータ(63)によって刈取クラッチ(62)を接続作動させる制御部(97)とを備えたコンバインにおいて、手扱ぎスイッチ(81)を設け、手扱ぎスイッチ(81)の入状態時には脱穀クラッチ(41)が接続状態且つ前進走行状態の場合でも刈取クラッチ(62)の接続作動を規制するように前記制御部(97)を構成したコンバイン。
【請求項2】
掻込スイッチ(79)を設け、脱穀クラッチ(41)の接続状態時における掻込スイッチ(79)の入操作時には前進走行検出手段(99)によって前進走行が検出されない車体の停止時にもアクチュエータ(63)により刈取クラッチ(62)を接続作動させるように制御部(97)を構成し、一度入操作されると切操作されるまで入状態を保持するオルタネイトスイッチが前記手扱ぎスイッチ(81)になるとともに、入操作されている間だけ入状態になるモーメンタリスイッチが前記掻込スイッチ(79)になる請求項1のコンバイン。
【請求項3】
前記オルタネイトスイッチ(81)及びモーメンタリスイッチ(79)が、少なくとも前位置(F)、中立位置(N)及び後位置(R)の3箇所に操作位置を有して操縦部(8)の左右の一方側に配置された単一のシーソースイッチ(77)からなり、該シーソースイッチ(77)を前位置(F)に操作することによりモーメンタリスイッチ(79)が入操作される一方で該シーソースイッチ(77)を後位置(R)に操作することによりオルタネイトスイッチ(81)が入操作されるようにモーメンタリスイッチ(79)及びオルタネイトスイッチ(81)を配置した請求項2のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−220505(P2010−220505A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69262(P2009−69262)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】