説明

コンバイン

【課題】速やかにセルモータを介してエンジンを始動させて、作業を再開すること。
【解決手段】直進用無段変速機と旋回用無段変速機により駆動制御して直進走行と旋回走行とが行えるようにした走行部と、刈取部・脱穀部・選別部・排藁処理部等の作業部とを有して、これら走行部と作業部をエンジンからの駆動力により作動させるとともに、走行部と作業部に発生する過負荷の検出結果に基づいて、エンジンの停止信号を発信することでエンジンを停止させるように制御しているコンバインであって、直進用無段変速機が有する可動斜板は、エンジンの停止信号に連動して中立姿勢に強制的に復帰されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スムーズにエンジンを始動させることができるコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンバインは、左右一対の走行クローラを有する走行部と、刈取部や脱穀部や選別部等を有する作業部をエンジンで作動させるようにしている。作業部における作業負荷が増大したときには、走行部の走行速度を減速させることによって過負荷作業を防げるようにしている。例えば、特許文献1には、操向操作と連動して走行速度を減速させる減速機構に、作業負荷の増大によって走行速度を減速させる減速部材を設けた構造が開示されている。このようにして、作業中にエンジンに過大な負荷が作用して、エンジンがストップ(いわゆるエンスト)することがないようにしている。
【0003】
また、特許文献1は、直進用無段変速機により駆動制御される直進変速機構と、旋回用無段変速機により駆動制御される旋回変速機構とを備えている。そして、直進変速機構から出力される動力と旋回変速機構から出力される動力とを合成して合成動力となしている。この合成動力は左右一対の走行クローラを有する走行部にそれぞれ出力することで、走行部による直進走行や旋回走行が行えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−113045
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、例えば、排藁処理部における排藁の詰まりが突発的に発生した場合のように、エンジンへの過負荷が避けられないことがある。そのような場合には、止むおうえずエンジンを強制的に停止させるように制御している。
【0006】
この場合、直進用無段変速機の可動斜板は、エンジン停止と同時に中立姿勢を採ればいいが、傾斜姿勢を採っていることが多い。そのため、セルモータを介して再度エンジンを始動させる際に、可動斜板が傾斜姿勢を採っている直進用無段変速機がセルモータの大きな負担となって、エンジンがスムーズに始動しないという不具合がある。
【0007】
したがって、現状では、次のような煩わしい操作を行っている。すなわち、エンジンを始動させるセルモータの負荷を軽減させるために、まず、副変速レバーを中立位置に手動操作して、走行部とエンジンとの連動を切断状態となす。また、主変速レバーはクラッチペダルを踏み込み操作することで中立位置に復元させておき、かかる状態にてセルモータを介してエンジンを始動させる。そして、チャージポンプを作動させることで作動油を油圧回路中に循環させて、主変速レバーと連動させている直進用無段変速機の可動斜板を強制的に中立姿勢に戻す。その後、副変速レバーと主変速レバーを所望の操作位置に操作することで、作業を続行させる。
【0008】
そこで、本発明は、上記した煩わしい操作を回避して、スムーズにエンジンを始動させることができるコンバインを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、直進用無段変速機と旋回用無段変速機により駆動制御して直進走行と旋回走行とが行えるようにした走行部と、刈取部・脱穀部・選別部・排藁処理部等の作業部とを有して、これら走行部と作業部をエンジンからの駆動力により作動させるとともに、走行部と作業部に発生する過負荷の検出結果に基づいて、エンジンの停止信号を発信することでエンジンを停止させるように制御しているコンバインであって、直進用無段変速機が有する可動斜板は、エンジンの停止信号に連動して中立姿勢に強制的に復帰されるようにしたことを特徴とする。
【0010】
かかるコンバインでは、走行部と作業部に発生する過負荷の検出結果に基づいて、エンジンの停止信号が発信された場合には、エンジンの停止信号に連動して直進用無段変速機の可動斜板が中立姿勢に強制的に復帰される。そのため、オペレータは速やかにセルモータを介してエンジンを始動させて、作業を再開することができる。その結果、セルモータの負荷を解消するための従来のような煩雑な操作を回避することができて、作業能率を向上させることができる。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明であって、前記直進用無段変速機の可動斜板は、アクチュエータにより姿勢を変更可能としたことを特徴とする。
【0012】
かかるコンバインでは、アクチュエータにより直進用無段変速機の可動斜板の姿勢を変更可能としているため、特に、エンジン停止信号が発信された際には、可動斜板を堅実に中立位置に強制復帰させることができる。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明であって、前記直進用無段変速機の可動斜板は、前記エンジンに連動するチャージポンプから圧送される圧油により比例弁を介して前記アクチュエータを作動させることで姿勢を変更可能としたことを特徴とする。
【0014】
かかるコンバインでは、チャージポンプから圧送される圧油により比例弁を介してアクチュエータを作動させることで、直進用無段変速機の可動斜板の姿勢を変更することができる。そのため、エンジン停止信号が発信された際には、チャージポンプから圧送される圧油を最大限に有効利用して可動斜板を堅実に中立位置に強制復帰させることができる。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明であって、前記エンジンの停止信号が発信されてからエンジンが完全停止されるまでの短時間に、チャージポンプから圧送される圧油により比例弁を介してアクチュエータを作動させることで、前記直進用無段変速機の可動斜板を中立姿勢に強制的に復帰させるようにしたことを特徴とする。
【0016】
かかるコンバインでは、エンジンの停止信号が発信されてからエンジンが完全停止されるまでの短時間、すなわち、エンジンが慣性力で作動している短時間(例えば、1秒間)を最大限に有効利用して、エンジンに連動して作動するチャージポンプから圧送される圧油により比例弁を介してアクチュエータを作動させることで、直進用無段変速機の可動斜板を中立姿勢に強制復帰させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、セルモータの負荷を解消するために行う従来のような煩雑な操作を回避することができて、スムーズにエンジンを始動させることができる。ここで、セルモータの負荷解消は、直進用無段変速機の可動斜板を中立姿勢に強制復帰させることで行うようにしているため、作業の再開時にエンジンを始動させた際には機体が突然動き出すという不具合もない。その結果、安全性と作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るコンバインの全体構成を示す左側面図。
【図2】走行機体の前部の一部切欠側面図。
【図3】運転部の右側面図。
【図4】運転部の平面説明図。
【図5】動力伝達全体を示す説明図。
【図6】システム全体を示す説明図。
【図7】油圧回路の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
本発明に係るコンバインは、直進用の静油圧式無段変速機(以下に、「直進用HST」という。)により駆動制御される直進変速機構と、旋回用の静油圧式無段変速機(以下に、「旋回用HST」という。)により駆動制御される旋回変速機構を備えている。そして、直進変速機構から出力される動力と旋回変速機構から出力される動力とを合成して合成動力となしている。この合成動力は左右一対のクローラ式の走行部にそれぞれ出力することで、直進変速機構と旋回変速機構の動力が常時接続された状態(常時動力接続状態)にて、走行部による直進走行や旋回走行が滑らかな速度推移で行えるようにしている。
【0021】
そして、直進用HSTにはステアバイワイヤ方式の制御機構を介して変速手段を接続している。また、旋回用HSTにはステアバイワイヤ方式の制御機構を介して操向手段を接続している。
【0022】
このようにして、変速手段により制御機構を介して直進用HSTを変速操作して直進変速機構を駆動制御する。一方、操向手段により制御機構を介して旋回用HSTを変速操作して旋回変速機構を駆動制御する。そうすることで、最終的に走行部を前後に直進走行させることも、左右方向に旋回操向させることもできる。すなわち、操向手段の操作量(例えば、ハンドル切れ角度)が増大するにしたがって、左右の走行部の速度差が徐々に大きくなり、機体中心速度が自動的に減速される。その結果、機体は緩旋回される。この際、左右の走行部の速度は、それぞれ機体中心速度からプラスマイナスされた値になる。そして、操向手段が所定の操作量まで操作された時点(例えば、ハンドル切れ角度の4分の3あたり)で、機体は急旋回であるスピンターンに入り込む。スピンターンでは、それまで同一回転方向に駆動されていた左右の走行部が相互に反対回転方向に駆動される。
【0023】
このように、本発明に係るコンバインは、変速手段と操向手段を操作することで、直進及び旋回用HSTを電気的に制御して直進及び旋回調整を繊細かつ円滑に行うことができる。そのため、特に操向手段による旋回操作性を良好に確保することができる。
【0024】
しかも、本発明に係るコンバインは、走行部と作業部に発生する過負荷の検出結果に基づいて、エンジンの停止信号を発信することでエンジンを停止させるように制御している。そして、直進及び旋回用HSTが有する可動斜板は、エンジンの停止信号に連動して中立姿勢に強制的に復帰されるようにしている。このようにして、走行部と作業部に発生する過負荷の検出結果に基づいて、エンジンの停止信号が発信された場合には、エンジンの停止信号に連動して直進及び旋回用HSTが有する可動斜板が中立姿勢に強制的に復帰されるようにしている。そのため、オペレータは速やかにセルモータを介してエンジンを始動させて、作業を再開することができる。その結果、セルモータの負荷を解消するための従来のような煩雑な操作を回避することができて、作業能率を向上させることができる。
【実施例】
【0025】
[全体構成]
本発明の一実施例に係るコンバインAの全体構成について、図1を参照しながら説明する。すなわち、コンバインAは、左右一対のクローラ式の走行部1を備え、この走行部1上に機体本体aを設けている。機体本体aの左側前端部には、刈取フレーム3を介して刈取部4を昇降自在に取り付けている。刈取部4には搬送部5を設けている。機体本体a上の左側部には、脱穀部7と選別部8を上下段に配設すると共に、機体本体aの後部には、排藁処理部9を配設している。6は脱穀部7の側方に配設した穀稈移送部である。一方、機体本体a上の右側前部には、キャビン10を配設すると共に、機体本体aの右側中途部には、穀粒貯留部11を配設している。穀粒貯留部11は、穀粒般出用のオーガ12を有する。また、コンバインAは、機体本体aの前部に、駆動源としてのエンジン14を含む原動機部13を備える。原動機部13は、エンジン14の動力を各部の装置に供給する。
【0026】
また、原動機部13の前方には、ミッション部15を設けている。ミッション部15は、原動機部13が有するエンジン14の動力を走行部1や刈取部4等に伝達する前に調整(変速)する。
【0027】
以上のような構成を備えるコンバインAは、刈取部4により穀稈を刈り取り、刈り取った穀稈を搬送部5により後上方の穀稈移送部6まで搬送して、穀稈移送部6に穀稈を受け渡す。穀稈移送部6に受け渡された穀稈は、穀稈移送部6により株元を挟扼されると共に穂先を脱穀部7内に挿入させた状態で後方へ移送される。
【0028】
これにより、穀稈は、脱穀部7によって脱穀される。脱穀により得られた穀粒は、選別部8により選別されて、精粒のみが穀粒貯留部11に搬送されて貯留され、必要に応じてオーガ12を介して搬出される。
【0029】
また、脱穀された穀稈は、排藁として排藁処理部9に搬送され、この排藁処理部9にて細断・排出処理される。
【0030】
そして、キャビン10は、図1〜図4に示すように、全体として略四角形箱型に形成している。キャビン10の内部には、運転部19を設けている。運転部19においては、キャビン10の前面下半部を形成する前壁18に、ステアリングケース21を取り付けている。ステアリングケース21の上端部には、操向手段としてのステアリングホイール22を取り付けている。ステアリングホイール22の後方位置には、運転席23を配置し、運転席23の前方から左側方にかけて、サイドコラム24を配設している。サイドコラム24の上部には、変速手段としての主変速レバー26及び副変速レバー27を含む各種操作具を取り付けている。また、図1に示すように、キャビン10においては、前側にキャビン10の前面上半部を形成するフロントガラス31を設け、左側には左側開閉窓32を設け、右側には乗降用開閉扉33を設けている。
【0031】
ステアリングホイール22は、ステアリングケース21の上端部から立ち上げて形成した棒状のスポーク体22aと、スポーク体22aの上端に取り付けたリング状のホイール体22bとから丸型ハンドルに形成している。ホイール体22bの左右側部には支持片22c,22dを内方に膨出させて形成している。左側の支持片22cには機体本体aに対して左右の走行部1をそれぞれ昇降操作するための走行部昇降スイッチ22eを設けている。右側の支持片22dには旋回量微調節手段としての旋回量微調節スイッチ22fを取り付けている。
【0032】
主変速レバー26は、サイドコラム24内に左右方向に軸線を向けて設けたレバー枢支軸(図示せず)に、上下方向に伸延させて形成したレバー本体26aの下端部を取り付けいる。そして、主変速レバー26の上端部は、サイドコラム24の上面部からレバーガイド孔24aを介して上方へ突出させて把持部26bとなしている。主変速レバー26は、レバー枢支軸を中心に前後方向に揺動自在となしている。そして、主変速レバー26は、直立した中立姿勢から前(後)傾姿勢に姿勢変更操作することで、前(後)進側に変速操作することができるようにしている。
【0033】
[ステアバイワイヤ方式の操作構造]
本実施形態に係るコンバインAにおけるステアリングホイール22と主変速レバー26は、いわゆるステアバイワイヤ方式の操作構造により構成している。すなわち、本実施形態のコンバインAにおけるステアリングホイール22と主変速レバー26は、機械的な連動機構を採用せずにステアバイワイヤ方式を採用して電気的に制御して操向調整や操向微調整や走行調整を行うように構成している。以下にステアリングホイール22を操向装置に、また、主変速レバー26を走行装置にそれぞれ電気的に接続したステアバイワイヤ方式について説明する。
【0034】
図6に示すように、ステアバイワイヤ方式においては、主変速レバー26の操作量は、第一変速ポテンショメータ100a及び第二変速ポテンショメータ100bにより検出されて、その検出結果が電気信号に変換される。また、ステアリングホイール22の操作量は、第一操向ポテンショメータ110a及び第二操向ポテンショメータ110bにより検出されて、その検出結果が電気信号に変換される。各ポテンショメータ100a,100b,110a,110bにより得られた電気信号は、専用の第一・第二I/Oドライバ28,29を介して専用のコントローラである第一コントローラ34及び第二コントローラ35に送信される。旋回量微調節スイッチ22fは、左右いずれかの方向に操作してスイッチON作動されると、電気信号が専用の第一I/Oドライバ28を介して専用のコントローラである第一コントローラ34に送信される。各コントローラ34,35に送信された電気信号は、各コントローラ34,35からの制御情報として出力され、直進用HST40及び旋回用HST50を駆動制御し、最終的に左右の走行部1による直進走行や旋回操向(急旋回操向であるスピンターンも含む)や旋回量微調節の操作を可能とする。
【0035】
ミッション部15の構成について説明する。図5に示すように、ミッション部15は、直進用HST40と、旋回用HST50と、トランスミッション60とを備える。これら直進用HST40、旋回用HST50、及びトランスミッション60は、ミッションケース内に収容され、コンバインAの走行系の伝動機構を構成する。
【0036】
(直進用HST)
直進用HST40は、図7のミッション部15の油圧回路図に示すように、可変容積型の直進ポンプ40Pと、可変容積型の直進モータ40Mとを備える。直進ポンプ40Pと直進モータ40Mは、閉塞油圧回路40Kを介して互いに流体接続している。図7中、63は刈取操作切換バルブ仕組、64はタンク、65はストレーナ、66はオイルフィルタである。
【0037】
直進ポンプ40Pは、図7に示すように、容積量を変更するための機構として、可動斜板43を有している。可動斜板43にはアクチュエータとしての直進ポンプ用サーボ機構44を連動連結している。そして、直進ポンプ用サーボ機構44により可動斜板43を傾転させることにより、容積量を変更するように構成している。直進ポンプ40Pは、図5に示すように、エンジン14の出力軸に連動連結される直進ポンプ軸41を有する。つまり、直進用HST40は、直進ポンプ40Pの直進ポンプ軸41がエンジン14の出力軸に連動連結されることで、エンジン14からの動力の伝達を受ける。なお、エンジン14の出力軸には、脱穀部7、選別部8、排藁処理部9、穀粒貯留部11等に対してエンジン14の動力を伝達するための回転軸を、クラッチ等を介して連動連結している。
【0038】
直進モータ40Mは、図7に示すように、容積量を変更するための機構として、可動斜板45を有している。可動斜板45にはアクチュエータとしての直進モータ用サーボ機構46を連動連結している。そして、直進モータ用サーボ機構46により可動斜板45を傾転させることにより、容積量を変更するように構成している。直進モータ40Mは、図5に示すように、副変速機構80の出力軸と連動連結される直進モータ軸42を有する。つまり、直進用HST40は、直進モータ40Mの直進モータ軸42が副変速機構80の入力軸に連動連結されることで、副変速機構80に対して動力を伝達する。
【0039】
直進用HST40は、変速操作装置によって操作可能としている。この変速操作装置には、主変速レバー26等の人為的な操作が可能な変速操作具と、直進ポンプ用サーボ機構44と、直進モータ用サーボ機構46とが含まれる。直進ポンプ用サーボ機構44は、比例弁ドライバ163及び直進ポンプ用電磁弁47を介して第一コントローラ34により作動制御される。直進モータ用サーボ機構46は、副変速ソレノイド115を介して第一コントローラ34により作動制御される。
【0040】
図6及び図7に示すように、直進ポンプ用サーボ機構44は、直進ポンプ40Pの可動斜板43に連動機構51を介して油圧シリンダ52のピストン52aを連動連結している。油圧シリンダ52には直進ポンプ用電磁弁47を介して後述するチャージポンプ53を流体接続している。直進ポンプ用電磁弁47は、変速操作を検出する第一変速ポテンショメータ100aからの検出情報に基づいて、第一コントローラ34により作動制御される。油圧シリンダ52は、第一コントローラ34による直進ポンプ用電磁弁47の作動制御に応じて作動油の給排が切り替えられることで作動する。直進ポンプ40Pの可動斜板43は、油圧シリンダ52の作動に連動して傾斜姿勢が制御され、制御された傾斜姿勢で傾転されることで、直進ポンプ40Pの容積量を変化させる。
【0041】
また、直進モータ用サーボ機構46は、直進モータ40Mの可動斜板45に連動機構54を介して油圧シリンダ55のピストン55aを連動連結している。油圧シリンダ55には直進モータ用電磁弁48を介して後述するチャージポンプ53を流体接続している。直進モータ用電磁弁48は、副変速スイッチ112からの操作情報に基づいて、第一コントローラ34により副変速ソレノイド115を介して制御される。油圧シリンダ55は、第一コントローラ34による副変速ソレノイド115を介した直進モータ用電磁弁48の制御に応じて作動油の給排が2段副変速に切り替えられることで作動する。直進モータ40Mの可動斜板45は、油圧シリンダ55の作動に連動して傾斜姿勢が制御され、制御された傾斜姿勢で傾転されることで、直進モータ40Mの容積量を変化させる。
【0042】
このように、直進用HST40においては、直進ポンプ40Pの駆動時に、可動斜板43の傾斜姿勢に応じて直進ポンプ40Pの容積量が変更される。それによって、直進ポンプ40Pから直進モータ40Mへ吐出される作動油の吐出量及び吐出方向が変更される。その結果、直進モータ軸42の回転方向が正転方向又は逆転方向に変更されると共に、直進モータ軸42の回転数が無段階に変更される。さらに、直進モータ40Mにおいて、可動斜板45の傾斜姿勢に応じて直進モータ40Mの容積量が変更されることで、直進モータ軸42の回転数が変更(2段副変速)される。直進変速機構はこのように構成している。
【0043】
(旋回用HST)
旋回用HST50は、図7のミッション部15の油圧回路図に示すように、可変容積型の旋回ポンプ50Pと、固定容積型の旋回モータ50Mとを備える。旋回ポンプ50Pと旋回モータ50Mは、閉塞油圧回路50Kを介して互いに流体接続している。旋回ポンプ50Pにはチャージポンプ53を連動連結している。チャージポンプ53は、チャージ油路67を介して前記した直進ポンプ用サーボ機構44と直進モータ用サーボ機構46と後記する旋回ポンプ用サーボ機構57に流体接続して、各サーボ機構44,46,57を油圧作動させるようにしている。
【0044】
旋回ポンプ50Pは、図7に示すように、容積量を変更するための機構として、可動斜板56を有している。可動斜板56にはアクチュエータとしての旋回ポンプ用サーボ機構57を連動連結している。そして、旋回ポンプ用サーボ機構57により可動斜板56を傾転させることにより、容積量を変更するように構成している。旋回ポンプ50Pは、図5に示すように、エンジン14の出力軸に連動連結される旋回ポンプ軸61を有する。つまり、旋回用HST50は、旋回ポンプ50Pの旋回ポンプ軸61がエンジン14の出力軸に連動連結されることで、エンジン14からの動力の伝達を受ける。
【0045】
旋回モータ50Mは、容積量を固定するための機構として、固定斜板を有し、この固定斜板により、容積量が一定となるように構成している。
【0046】
旋回用HST50は、操向操作装置によって操作可能としている。この操向操作装置には、ステアリングホイール22等の人為的な操作が可能な操向操作具と、旋回ポンプ用サーボ機構57とが含まれる。旋回ポンプ用サーボ機構57は、第一コントローラ34により作動制御される。
【0047】
図6及び図7に示すように、旋回ポンプ用サーボ機構57は、旋回ポンプ50Pの可動斜板56に連動機構58を介して油圧シリンダ59のピストン59aを連動連結している。油圧シリンダ59には旋回ポンプ用電磁弁60を介してチャージポンプ53を流体接続している。旋回ポンプ用電磁弁60は、操向操作を検出する第一操向ポテンショメータ110aからの検出情報ないしは後述する調節量変更スイッチ124により設定された設定情報に基づいて、第一コントローラ34により制御される。油圧シリンダ59は、第一コントローラ34による旋回ポンプ用電磁弁60の作動制御に応じて作動油の給排が切り替えられることで作動する。旋回ポンプ50Pの可動斜板56は、油圧シリンダ59の作動に連動して傾斜姿勢が制御され、制御された傾斜姿勢で傾転されることで、旋回ポンプ50Pの容積量を変化させる。
【0048】
このように、旋回用HST50においては、旋回ポンプ50Pの駆動時に、可動斜板56の傾斜姿勢に応じて旋回ポンプ50Pの容積量が変更される。それによって、旋回ポンプ50Pから旋回モータ50Mへ吐出される作動油の吐出量及び吐出方向が変更される。その結果、旋回モータ軸62の回転方向が正転方向又は逆転方向に変更されると共に、旋回モータ軸62の回転数が無段階に変更される。操向変速機構はこのように構成している。
【0049】
(トランスミッション)
図5に示すように、トランスミッション180は、遊星歯車機構部70と、副変速機構80と、クラッチ装置90とを備える。
【0050】
遊星歯車機構部70は、一対の遊星歯車機構を含む遊星歯車群として構成し、一対の遊星歯車機構として、第一遊星歯車機構71aと第二遊星歯車機構71bとを有する。遊星歯車機構部70においては、一対の遊星歯車機構71a,71bから、左右に出力軸を延出している。すなわち、第一遊星歯車機構71aから、第一出力軸72aを延出し、第二遊星歯車機構71bから、第二出力軸72bを延出している。各出力軸72a,72bは、それぞれ左右方向で対応する走行部1のクローラの駆動輪に回転動力を伝達する。これにより、左右の走行部1の走行駆動が行われる。
【0051】
副変速機構80は、直進モータ軸42に連結される回転軸を有し、この回転軸を介して直進モータ40Mの直進モータ軸42に連動連結している。副変速機構80は、直進モータ軸42の回転動力を多段変速させることができるように構成している。なお、直進モータ軸42には、刈取プーリ用電磁クラッチ91(図6)を介して刈取プーリを固定し、この刈取プーリから直進モータ40Mの回転動力を刈取部4の伝動機構に伝達する。
【0052】
クラッチ装置90は、旋回用HST50における旋回モータ50Mの旋回モータ軸62に対して連動連結している。クラッチ装置90は、旋回用HST50の旋回モータ50Mからの回転動力を、遊星歯車機構部70に対して伝達又は遮断することができるように構成している。
【0053】
以上のような構成を備えるトランスミッション180において、旋回用HST50の旋回モータ50Mが停止し、直進用HST40の直進モータ40Mが駆動する場合、直進モータ40Mの回転動力が、直進モータ軸42から、副変速機構80を介して遊星歯車機構部70に伝達され、第一出力軸72a及び第二出力軸72bから出力される。
【0054】
この直進モータ40Mから第一出力軸72a及び第二出力軸72bに対する回転動力の伝達によって、第一出力軸72a及び第二出力軸72bが正回転方向または逆回転方向の同一方向に回転させられる。これにより、左右のクローラ式の走行部1が有する駆動輪が、同一回転方向に同一回転数で回転する。その結果、左右の走行部1が駆動され、コンバインAの機体前後方向についての直進走行が行われる。
【0055】
また、直進用HST40の直進モータ40Mが停止し、旋回用HST50の旋回モータ50Mが駆動する場合、旋回モータ50Mの回転動力が、旋回モータ軸62から、クラッチ装置90を介して遊星歯車機構部70に伝達され、第一出力軸72a及び第二出力軸72bから出力される。
【0056】
この旋回モータ50Mから第一出力軸72a及び第二出力軸72bに対する回転動力の伝達によって、第一出力軸72a及び第二出力軸72bが互いに反対方向に回転させられる。これにより、左右のクローラ式の走行部1が有する駆動輪が、互いに反対方向に回転する。その結果、左右の走行部1が駆動され、コンバインAの機体の急旋回であるスピンターンが行われる。スピンターンによれば、例えば圃場や枕地での急速・小半径での方向転換が可能となる。また、いずれか一方の走行部1が有する駆動輪が停止状態となった場合には、停止状態の走行部1側を中心に旋回されるターンが行われる。
【0057】
また、直進用HST40の直進モータ40Mが駆動すると共に、旋回用HST50の旋回モータ50Mが駆動する場合、直進モータ40Mから副変速機構80を介して遊星歯車機構部70に伝達される回転動力と、旋回モータ50Mからクラッチ装置90を介して遊星歯車機構部70に伝達される回転動力とが、遊星歯車機構部70において合成されて合成動力が生成される。そして、その合成動力が第一出力軸72a及び第二出力軸72bから出力される。
【0058】
この直進モータ40M及び旋回モータ50Mから第一出力軸72a及び第二出力軸72bに対する回転動力(合成動力)の伝達によって、第一出力軸72a及び第二出力軸72bが互いに異なる回転数で回転される。その結果、左右の走行部1が相互に速度差をもって駆動され、コンバインAの走行機体の直進走行と左方向又は右方向への旋回操向とが同時に行われて、緩旋回がなされる。なお、コンバインAの旋回方向及び旋回半径は、左右の走行部1の速度差に応じて決定される。そして、ステアリングホイール22が所定の操作量まで操作された時点(例えば、ハンドル切れ角度の4分の3あたり)では、旋回側の走行部1が停止される。さらに、ステアリングホイール22が旋回操作されると左右の走行部1が相互に反対方向に駆動されて、走行機体は急旋回であるスピンターンに入り込む。
【0059】
続いて、図6を用いて、本実施形態に係るコンバインAの制御システムの構成について説明する。図6に示すように、コンバインAの制御システムは、第一変速ポテンショメータ100aと、第二変速ポテンショメータ100bと、第一操向ポテンショメータ110aと、第二操向ポテンショメータ110bと、第一コントローラ34と、第二コントローラ35と、エンジンコントローラ36とを備える。
【0060】
第一変速ポテンショメータ100a及び第二変速ポテンショメータ100bは、オペレータによる主変速レバー26の変速操作状態、つまり主変速レバー26の変速操作位置を検出する。第一操向ポテンショメータ110a及び第二操向ポテンショメータ110bは、オペレータによるステアリングホイール22の操向操作状態、つまりステアリングホイール22の操向操作位置を検出する。調節量変更スイッチ124の操作量は、旋回量微調節スイッチ22fによる走行機体の旋回量の調節量に対応している。したがって、調節量変更スイッチ124の操作量を調節することで走行機体の旋回量の調節量を有段階ないしは無段階に変更することができる。
【0061】
第一コントローラ34は、第一変速ポテンショメータ100a、第一操向ポテンショメータ110a及び調節量変更スイッチ124からの入力情報(検出情報)に基づいて制御情報を生成し、直進ポンプ用電磁弁47、直進モータ用電磁弁48、及び旋回ポンプ用電磁弁60を制御する。第二コントローラ35は、第二変速ポテンショメータ100b及び第二操向ポテンショメータ110bからの入力情報(検出情報)に基づいて制御情報を生成する。エンジンコントローラ36は、エンジン回転数センサ175や温度センサや油温センサ(いずれも図示せず)等からの入力情報(検出情報)に基づいて、エンジン14の運転状態を制御する。
【0062】
第一コントローラ34には、比例弁ドライバ163を介して、直進ポンプ用電磁弁47、直進モータ用電磁弁48、及び旋回ポンプ用電磁弁60を電気的に接続している。また、第一コントローラ34には、コンバインAの走行状態を検出するための手段として、直進回転センサ113及び旋回回転センサ114を接続している。直進回転センサ113は、トランスミッション60におけるコンバインAの前後進(直進)に係る回転部分の回転を検出し、その検出信号を第一コントローラ34に送信する。旋回回転センサ114は、トランスミッション60におけるコンバインAの旋回に係る回転部分の回転を検出し、その検出信号を第一コントローラ34に送信する。
【0063】
また、第一コントローラ34には、副変速ソレノイド115を接続している。副変速ソレノイド115は、トランスミッション60が有する切換部を作動させて、低速出力と高速出力とを切り換える。また、第一コントローラ34には、第一I/Oドライバ28を介して、第一変速ポテンショメータ100a、第一操向ポテンショメータ110a、調節量変更スイッチ124、旋回量微調節スイッチ22f、刈取スイッチ117、脱穀スイッチ118、及び穀稈詰まり検出スイッチ190を電気的に接続している。図3に示すように、第一コントローラ34は、ミッション部15の後方に位置する機体本体a上の刈取部支持台150上に立設した支持ケース153の内側面に設けている。
【0064】
第二コントローラ35には、第二I/Oドライバ29を介して、第二変速ポテンショメータ100b、第二操向ポテンショメータ110bを電気的に接続している。また、第二コントローラ35には、刈取プーリ用電磁クラッチ91及びPTOプーリ用電磁クラッチ93を電気的に接続している。刈取プーリ用電磁クラッチ91は、刈取スイッチ117がON・OFF操作されることで、刈取部4への回転動力を伝達又は遮断する。PTOプーリ用電磁クラッチ93は、脱穀スイッチ118がON・OFF操作されることで、脱穀部7への回転動力を伝達又は遮断する。
【0065】
また、第二コントローラ35には、第三I/Oドライバ30を介して、副変速位置センサ111及び副変速スイッチ112を電気的に接続している。副変速位置センサ111は、副変速レバー27の前後回動操作位置(操作量)を検出する。副変速スイッチ112は、副変速ソレノイド115を介して前記のとおりトランスミッション60が有する切換部を作動させて、トランスミッション60における低速出力と高速出力とを切り換えるための操作部である。図3に示すように、第二コントローラ35は、刈取部支持台150上に立設した支持柱(図示せず)の内側面に設けている。
【0066】
第一I/Oドライバ28と第一コントローラ34とエンジンコントローラ36と比例弁ドライバ163とは、CAN(Controller Area Network)130により電気的に接続している。同様に、第一コントローラ34と第二コントローラ35とは、CAN131により接続し、第二I/Oドライバ29と第三I/Oドライバ30と第二コントローラ35とは、CAN132により接続している。そして、第一コントローラ34、第二コントローラ35、及びエンジンコントローラ36は、第一変速ポテンショメータ100aや第一操向ポテンショメータ110a等を含む各種検出機器からの検出情報を共有するように構成している。図2及び図3に示すように、エンジンコントローラ36は、ミッション部15の前方の位置であって機体本体aの前端部に設けている。
【0067】
本実施形態では、第一変速ポテンショメータ100aと第二変速ポテンショメータ100bとは、互いに異なる検出方法によって主変速レバー26の変速操作位置を検出するように構成している。同様に、第一操向ポテンショメータ110aと第二操向ポテンショメータ110bとは、互いに異なる検出方法によってステアリングホイール22の操向操作位置を検出するように構成している。
【0068】
具体的には、第一変速ポテンショメータ100aは、主変速レバー26の変速操作位置の検出において、主変速レバー26の傾倒操作による傾倒角が大きくなるに従って検出信号としての電気信号を増幅させる。これに対し、第二変速ポテンショメータ100bは、主変速レバー26の変速操作位置の検出において、主変速レバー26の傾倒操作による傾倒角が大きくなるにしたがって検出信号としての電気信号を減少させる。
【0069】
また、第一操向ポテンショメータ110aは、ステアリングホイール22の操向操作位置の検出において、ステアリングホイール22の右旋回時の切れ角が大きくなるに従って検出信号としての電気信号を増幅させる(左旋回時の切れ角が大きくなるに従って電気信号を減少させる)。これに対し、第二操向ポテンショメータ110bは、ステアリングホイール22の操向操作位置の検出において、ステアリングホイール22の右旋回時の切れ角が大きくなるに従って検出信号としての電気信号を減少させる(左旋回時の切れ角が大きくなるにしたがって電気信号を増幅させる)。
【0070】
このような検出構成により、第一コントローラ34及び第二コントローラ35は、主変速レバー26やステアリングホイール22の操作にともない、異なる検出方法によって得られた複数の検出情報をそれぞれ入力情報として得る。そして、第一コントローラ34への入力情報と第二コントローラ35への入力情報を、第一コントローラ34及び第二コントローラ35のそれぞれにおいて比較することにより、入力情報が適切であるか否かを判別する。これにより、第一変速ポテンショメータ100aや第一操向ポテンショメータ110a等の検出機器の異常の発生が精度良く検知され、入力情報の信頼性が向上する。
【0071】
第一コントローラ34は、オペレータの変速操作や操向操作や操向微調節操作に応じてコンバインAの走行状態を制御するメインコントローラである。第一コントローラ34は、第一変速ポテンショメータ100a、第一操向ポテンショメータ110a及び調節量変更スイッチ124からの入力情報に基づいて直進用HST40及び旋回用HST50を制御するための制御情報を生成し、かかる制御情報により、直進用HST40及び旋回用HST50を制御する。
【0072】
第二コントローラ35は、メインコントローラである第一コントローラ34に対するサブコントローラである。第二コントローラ35は、第一コントローラ34との間で随時通信を行なって、第一コントローラ34の作動状態(作動しているか否か)を監視する。これと同時に、第一コントローラ34は、第二コントローラ35の作動状態を監視する。つまり、第一コントローラ34と第二コントローラ35は、相互に作動状態を監視するように構成している。なお、第一コントローラ34と第二コントローラ35の電源ラインは別々にしている。
【0073】
また、第一コントローラ34及び第二コントローラ35では、主変速レバー26の操作に応じて第一変速ポテンショメータ100aから入力される入力情報またはステアリングホイール22の操作に応じて第一操向ポテンショメータ110aから入力される入力情報と、同様にして第二変速ポテンショメータ100bまたは第二操向ポテンショメータ110bから入力される入力情報を互いに比較する。
【0074】
さらに、第一コントローラ34及び第二コントローラ35では、第一コントローラ34において前記各ポテンショメータ100a,100b,110a,110bからの入力情報に基づいて生成される制御情報と、第二コントローラ35において前記各ポテンショメータ100a,100b,110a,110bからの入力情報に基づいて生成される制御情報を比較する。この比較の結果、前記各ポテンショメータ100a,100b,110a,110bの作動状態について、正常に作動しているか否かを判定する。
【0075】
第一コントローラ34に接続される直進回転センサ113は、コンバインAの走行状態について、コンバインAが走行中か否かを検出するものである。同じく第一コントローラ34に接続される旋回回転センサ114は、コンバインAが旋回中か否かを検出するものである。ここで、直進回転センサ113は、トランスミッション60における副変速機構80を含む直進用出力伝動機構に設けて、この伝動機構を構成する適宜の軸やギア等の回転を検出する。また、旋回回転センサ114は、トランスミッション60におけるクラッチ装置90を含む旋回用出力伝動機構に設けて、この伝動機構を構成する適宜の軸やギア等の回転を検出する。
【0076】
第一コントローラ34は、直進回転センサ113や旋回回転センサ114からの検出情報に基づいて、コンバインAが目標の走行状態となるようにフィードバック制御を行う。これとともに、第一コントローラ34は、第二コントローラ35からエンジン14の運転状態に係る情報を取得して常にオペレータの要求に応じた走向状態を実現するように制御情報を生成し、直進用HST40及び旋回用HST50の制御を行う。
【0077】
以上のような構成において、主変速レバー26が操作されることで、主変速レバー26の変速操作位置が第一変速ポテンショメータ100a及び第二変速ポテンショメータ100bにより検出され、かかる検出情報が用いられ、第一コントローラ34及び第二コントローラ35によって、直進用HST40が制御される。つまり、主変速レバー26の操作により、エンジン14からの回転動力を変速してトランスミッション60に伝達する直進用HST40が制御される。そして、第一出力軸72a及び第二出力軸72bが同一方向に正逆回転駆動して、左右の走行部1によるコンバインAの前後の直進走行が行われる。
【0078】
また、ステアリングホイール22が操作されることで、ステアリングホイール22の操向操作位置が第一操向ポテンショメータ110a及び第二操向ポテンショメータ110bにより検出され、かかる検出情報に基づいて、第一コントローラ34及び第二コントローラ35によって、旋回用HST50が制御される。つまり、ステアリングホイール22の操作により、エンジン14からの回転動力を変速してトランスミッション60に伝達する旋回用HST50が制御される。そして、第一出力軸72a及び第二出力軸72bが反対方向に回転駆動して、左右の走行部1によるコンバインAの緩・急旋回操向が行われる。
【0079】
図6に示す穀稈詰まり検出スイッチ190は、排藁処理部9に設けて排藁の詰まりを検出するスイッチであり、穀稈詰まり検出スイッチ190による検出信号が第一コントローラ34に送信されると、第一コントローラ34からエンジンコントローラ36に制御情報が送信される。そして、エンジンコントローラ36からエンジン14に緊急停止信号が発信されて、エンジン14は緊急停止される。このように、エンジンコントローラ36はエンジン14を駆動制御している。
【0080】
この際、エンジンコントローラ36からエンジン14に緊急停止信号が発信されてからエンジン14が完全停止されるまでの短時間、すなわち、エンジン14が慣性力で作動している短時間(例えば、1秒間)に、チャージポンプ53からチャージ油路67を介して作動油が圧送される。そして、この作動油(圧油)により比例弁としての直進ポンプ用電磁弁47、副変速ソレノイド115及び旋回ポンプ用電磁弁60を介してアクチュエータとしての直進ポンプ用サーボ機構44、直進モータ用サーボ機構46及び旋回ポンプ用サーボ機構57を作動させることで、各可動斜板43,45,56を中立姿勢に強制的に復帰させるように第一コントローラ34で作動制御している。
【0081】
このように、エンジン14が完全停止されるまでの短時間におけるエンジン14の慣性力を有効利用して、チャージポンプ53を作動させることができる。そして、チャージポンプ53を作動させることで、各可動斜板43,45,56を中立姿勢に強制復帰させることができる。その結果、スムーズにエンジン14を始動させることができる。そして、各可動斜板43,45,56は中立姿勢に強制復帰されているため、エンジン14を始動させた際には機体が突然動き出すという不具合もない。したがって、安全性と作業性を向上させることができる。
【0082】
また、エンジン14の緊急停止信号の発信は、ステアバイワイヤ方式の制御機構に関するセンサ及び制御でトラブルが発生した場合にもエンジンコントローラ36になされるようにしている。
【符号の説明】
【0083】
A コンバイン
1 走行部
2 走行機体
3 刈取フレーム
4 刈取部
5 搬送部
6 穀稈移送部
7 脱穀部
8 選別部
9 排藁処理部
10 キャビン
11 穀粒貯留部
12 オーガ
13 原動機部
14 エンジン
24 サイドコラム
28 第一I/Oドライバ
29 第二I/Oドライバ
30 第三I/Oドライバ
40 直進用HST
50 旋回用HST

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直進用無段変速機と旋回用無段変速機により駆動制御して直進走行と旋回走行とが行えるようにした走行部と、刈取部・脱穀部・選別部・排藁処理部等の作業部とを有して、これら走行部と作業部をエンジンからの駆動力により作動させるとともに、走行部と作業部に発生する過負荷の検出結果に基づいて、エンジンの停止信号を発信することでエンジンを停止させるように制御しているコンバインであって、
直進用無段変速機が有する可動斜板は、エンジンの停止信号に連動して中立姿勢に強制的に復帰されるようにしたことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記直進用無段変速機の可動斜板は、アクチュエータにより姿勢を変更可能としたことを特徴とする請求項1記載のコンバイン。
【請求項3】
前記直進用無段変速機の可動斜板は、前記エンジンに連動するチャージポンプから圧送される圧油により比例弁を介して前記アクチュエータを作動させることで姿勢を変更可能としたことを特徴とする請求項2記載のコンバイン。
【請求項4】
前記エンジンの停止信号が発信されてからエンジンが完全停止されるまでの短時間に、チャージポンプから圧送される圧油により比例弁を介してアクチュエータを作動させることで、前記直進用無段変速機の可動斜板を中立姿勢に強制的に復帰させるようにしたことを特徴とする請求項3記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−10679(P2012−10679A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153123(P2010−153123)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】