説明

コンバイン

【課題】燃料消費を抑制し且つ騒音を低減することが可能なものでありながら、低コストで脱穀処理性能を向上させることが可能なコンバインを提供する。
【解決手段】車体を走行させる走行装置1と、車体の走行に伴って作物を刈り取って後方に搬送する刈取処理装置3と、刈り取った作物を脱穀処理する脱穀装置とを備えて構成され、脱穀装置が、作物を扱き処理する扱胴20と、扱胴20で扱き処理された脱穀処理物を穀粒と塵埃とに選別する選別部17とを備えて構成され、扱胴20を駆動する扱胴用の電動モータM2、選別部17を駆動する選別部用の電動モータM3、各電動モータM2,M3に電力を供給する電力供給手段、及び、各電動モータM2,M3の作動状態と電力供給手段の作動状態を制御する制御手段Hが備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体を走行させる走行装置と、車体の走行に伴って作物を刈り取って後方に搬送する刈取処理装置と、回転駆動される扱胴により刈り取った作物を扱き処理する脱穀部と、前記脱穀部で扱き処理された脱穀処理物を穀粒と塵埃とに選別する選別部とを備えて構成されているコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコンバインでは、各部を駆動するための動力源として電動モータを用いる構成のものが提案されており、具体的には、走行装置を駆動するための走行用電動モータと、脱穀部及び選別部を含む脱穀装置を駆動するための脱穀用電動モータ、及び、刈取処理部を駆動するための刈取用電動モータを備えて、各電動モータに対してバッテリーから電力供給を行うように構成されたものがあった(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−35号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したコンバインは、電動モータにより、走行装置、脱穀装置及び刈取装置を駆動することで、それらの駆動を車体に搭載されたエンジンの動力のみにより行っていた従来のコンバインに比べて、エンジンによる燃料消費を抑制することができるとともに、騒音の低減を図ることができるようにしたものである。
【0005】
ところで、コンバインでは、収穫対象となる作物の種類が異なると脱粒のし易さ等の作物の性状が異なることから、扱胴の回転数は作物の種類の違いに応じて適宜変更させることが好ましい。又、作物が水分を多く含む場合と水分が少ない場合とでは扱胴の回転数を異ならせた方がよい場合もある。
【0006】
しかし、上記従来構成では、脱穀部及び選別部を含む脱穀装置が1つの脱穀用電動モータにより駆動される構成であるから、例えば、選別部において所望の選別性能を発揮することができるように選別作業に適した回転数となり、又、扱胴が扱処理に適した回転数となるように、脱穀用電動モータを駆動することになる。つまり、選別部及び扱胴は一定の回転数で回転駆動される構成となる。その結果、上記従来構成では、脱穀用電動モータを選別作業に適した回転数に設定しておくと、扱胴は一定の回転数で回転駆動されるので、作物の種類が異なる等、作業状況が変化すると、脱穀処理が良好に行えないものとなる不利がある。
【0007】
本発明の目的は、燃料消費を抑制し且つ騒音を低減することが可能なものでありながら、脱穀処理性能を向上させることが可能なコンバインを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るコンバインは、車体を走行させる走行装置と、車体の走行に伴って作物を刈り取って後方に搬送する刈取処理装置と、回転駆動される扱胴により刈り取った作物を扱き処理する脱穀部と、前記脱穀部で扱き処理された脱穀処理物を穀粒と塵埃とに選別する選別部とを備えて構成されているものであって、その第1特徴構成は、前記扱胴を駆動する扱胴用の電動モータ、前記選別部を駆動する選別部用の電動モータ、前記各電動モータに電力を供給する電力供給手段、及び、前記各電動モータの作動状態と前記電力供給手段の作動状態を制御する制御手段が備えられている点にある。
【0009】
第1特徴構成によれば、電力供給手段から各電動モータに対して電力が供給されて、扱胴用の電動モータによって扱胴が駆動され、選別部用の電動モータによって選別部が駆動される。そして、制御手段によって、例えば、そのときの作業状況に適した作動状態となるように、各電動モータの作動状態と電力供給手段の作動状態が制御されるのである。
【0010】
つまり、扱胴用の電動モータと選別用の電動モータとによって、扱胴と選別部とが各別に駆動されるので、選別部の作動状態を変化させることなく、作物の種類の違い等に応じて扱胴の回転数を適宜変更することが可能となる。その結果、収穫対象となる作物の種類等、作業状況が異なる場合であっても脱穀処理を良好に行うことが可能となる。
【0011】
従って、燃料消費を抑制し且つ騒音を低減することが可能なものでありながら、脱穀処理性能の向上を図ることが可能なコンバインを提供できるに至った。
【0012】
本発明の第2特徴構成は、前記扱胴用の電動モータが、前記脱穀装置の天板の上部側に位置する状態で配備されている点にある。
【0013】
第2特徴構成によれば、扱胴用の電動モータが脱穀装置の天板の上部側に位置することになるが、脱穀装置の天板の上部は、外物にて遮られることなく外気が流動し易い場所であり、扱胴用の電動モータは外気に晒される状態になり易い。
【0014】
そして、扱胴用の電動モータには扱胴を駆動するために大電流が流れるので、この扱胴用の電動モータは温度が上昇することになるが、上記したように、外物にて遮られることなく流動する外気が扱胴用の電動モータの周囲を通過するので、温度上昇する扱胴用の電動モータを流動する外気により放熱させ易いものとなる。
【0015】
本発明の第3特徴構成は、前記扱胴用の電動モータが、前記脱穀装置の車体前部側に位置する状態で配備されている点にある。
【0016】
第3特徴構成によれば、扱胴用の電動モータが、脱穀装置の車体前部側に位置することになる。脱穀装置の車体前部側の下方側箇所には、刈り取った作物を後方に搬送する作物搬送部が存在するが、脱穀装置の車体前部側の上方側箇所は空きスペースとなっているので、この空きスペースを利用して扱胴用の電動モータを他物の邪魔にならない状態で配備することができる。又、扱胴の回転軸が機体前後向きに設けられるので、脱穀装置の車体前部側に位置する扱胴用の電動モータの出力軸と、車体前後向きに設けられる扱胴の回転軸とを、簡易な伝動構造により連動連結させることができる。
【0017】
本発明の第4特徴構成は、前記選別部用の電動モータが、前記扱胴用の電動モータよりも小容量の電動モータにて構成されている点にある。
【0018】
扱胴は刈取穀稈を脱穀処理するものであり、投入される作物の量が変動したり、雨等の水分を多く含む場合等、そのときの作業状況の違いによっては、駆動負荷が大きく変動する場合がある。これに対して、選別部は、作物の種類が異なっても、駆動負荷はそれほど大きくならず変動も少ないと考えられる。
【0019】
そこで、第4特徴構成によれば、駆動負荷が大きくなるおそれがある扱胴用の電動モータとして、予測される駆動負荷を賄える程度の容量の電動モータにて構成され、選別部用の電動モータが扱胴用の電動モータよりも小型で小容量の電動モータにて構成される。
このようにすることで、必要とされる駆動力を出力させることが可能でありながらも、選別部用の電動モータとして小型で小容量の電動モータを用いることにより、扱胴用の電動モータと選別部用の電動モータとを同一容量のものを用いる場合に比べて低コストにすることが可能となる。
【0020】
本発明の第5特徴構成は、前記脱穀装置と車体横幅方向に沿って並ぶ状態で、前記選別部にて選別した穀粒を貯留する穀粒タンクが備えられ、
前記選別部用の電動モータが、前記脱穀装置と前記穀粒タンクとの間に配備されている点にある。
【0021】
第5特徴構成によれば、脱穀装置では、扱胴により作物を扱き処理され、且つ、扱き処理された脱穀処理物が選別部にて穀粒と塵埃とに選別されるが、選別部にて選別された穀粒は、脱穀装置と車体横幅方向に沿って並ぶ状態で備えられた穀粒タンクにて貯留されることになる。
【0022】
そして、脱穀装置と穀粒タンクとの間には、脱穀装置において選別された穀粒を穀粒タンクの内部に搬送するための穀粒搬送装置が設けられるので、脱穀装置と穀粒タンクとの間には、その穀粒搬送装置を設けるための隙間が形成されることになる。そこで、脱穀装置と穀粒タンクとの間における隙間を利用して選別部用の電動モータを配備するようにしている。
【0023】
従って、脱穀装置と穀粒タンクとの間の空きスペースを利用して他物の邪魔にならない状態で扱胴用の電動モータを配備することができる。
【0024】
本発明の第6特徴構成は、前記穀粒タンクに貯留される穀粒を外部に排出させる穀粒排出装置が備えられ、
前記選別部用の電動モータの動力が前記選別部に伝達される状態と前記選別部用の電動モータの動力が前記穀粒排出装置に伝達される状態とに切り換え自在な伝動切換手段が備えられている点にある。
【0025】
第6特徴構成によれば、伝動切換手段によって、選別部用の電動モータの動力が選別部に伝達される状態と、選別部用の電動モータの動力が穀粒排出装置に伝達される状態とに切り換えることができる。
【0026】
つまり、刈取作業中には、選別部用の電動モータにより選別部を駆動することにより、扱胴で扱き処理された脱穀処理物を穀粒と塵埃とに選別する選別処理を行うことができ、この刈取作業中には穀粒排出処理を行うことはない。
【0027】
又、刈取作業が終了したのち、穀粒タンク内に貯留されている穀粒を外部に排出させるときは、選別部用の電動モータにより穀粒排出装置を駆動する状態に切り換えることにより、穀粒の排出を行うことができ、このときは、選別部を駆動する必要はない。
【0028】
このように、選別部と穀粒排出装置とは同時に使用することがないので、選別部用の電動モータを使い分けることにより、電動モータの個数を増やすことなく、選別部と穀粒排出装置とを夫々駆動することが可能となった。
【0029】
本発明の第7特徴構成は、前記穀粒タンクに貯留される穀粒を外部に排出させる穀粒排出装置が備えられ、
前記扱胴用の電動モータの動力が前記扱胴に伝達される状態と前記扱胴用の電動モータの動力が前記穀粒排出装置に伝達される状態とに切り換え自在な伝動切換手段が備えられている点にある。
【0030】
第7特徴構成によれば、伝動切換手段によって、扱胴用の電動モータの動力が扱胴に伝達される状態と、扱胴用の電動モータの動力が穀粒排出装置に伝達される状態とに切り換えることができる。
【0031】
つまり、刈取作業中には、扱胴用の電動モータにより扱胴を駆動することにより、刈取処理装置で刈り取った作物を扱き処理することができ、この刈取作業中には穀粒排出処理を行うことはない。
【0032】
又、刈取作業が終了したのち、穀粒タンク内に貯留されている穀粒を外部に排出させるときは、扱胴用の電動モータにより穀粒排出装置を駆動する状態に切り換えることにより、穀粒の排出を行うことができ、このときは、扱胴を駆動する必要はない。
【0033】
このように、扱胴と穀粒排出装置とは同時に使用することがないので、扱胴用の電動モータを使い分けることにより、電動モータの個数を増やすことなく、扱胴と穀粒排出装置とを夫々駆動することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】コンバインの全体側面図である。
【図2】コンバインの全体平面図である。
【図3】脱穀装置の縦断側面図である。
【図4】伝動構成図である。
【図5】走行用駆動構造を示す図である。
【図6】発電機の設置箇所の正面図である。
【図7】制御ブロック図である。
【図8】別実施形態の伝動構成図である。
【図9】別実施形態の脱穀装置の縦断側面図である。
【図10】別実施形態の電力供給状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面に基づいて、本発明に係るコンバインの実施形態について説明する。
〔全体構成〕
図1及び図2に示すように、コンバインは、左右一対のクローラ式の走行装置1,1の駆動により走行機体2が走行自在に構成され、その走行機体2の前部に、圃場の植立穀稈を刈り取るとともに刈り取った穀稈を後方に搬送する刈取処理装置としての刈取処理部3が油圧シリンダCYの操作により横軸芯P1周りに昇降揺動自在に備えられ、走行機体2には、刈取処理部3にて刈り取られた作物を脱穀処理する脱穀装置4と、脱穀装置4にて得られた穀粒を貯留する穀粒タンク5とが備えられている。
【0036】
走行機体2は、左側に脱穀装置4が位置し且つ右側に穀粒タンク5が位置する状態で、脱穀装置4と穀粒タンク5とが機体フレーム6に搭載されるとともに、機体フレーム6に支持される状態で穀粒タンク5の機体前部側に搭乗運転部7が設けられている。言い換えると、コンバインの車体の前部における横幅方向右側箇所に搭乗運転部7が備えられる構成となっている。
【0037】
刈取処理部3は、車体前部に位置する刈取部8と、その刈取部8にて刈り取った作物を車体後方上方側に向けて搬送する作物搬送部としての縦搬送装置9とを備えて構成され、刈取部8は、刈取対象穀稈を分草する分草具10、倒伏姿勢の植立穀稈を立姿勢に引起す引起し装置11、引起された植立穀稈の株元を切断するバリカン型の刈取装置12を備えて構成されている。
【0038】
又、刈取処理部3は、横軸芯P1周りに昇降揺動自在に機体フレーム6に支持されるとともに、走行機体2の前部に位置する通常作業姿勢と走行機体2の車体前方側を開放するように車体横外方に退避するメンテナンス用姿勢とに亘って縦向き軸芯Y1周りで姿勢変更可能に支持される構成となっている。
【0039】
すなわち、刈取処理部3に備えられる刈取部フレーム13が、機体フレーム6から立設された左右両側の支持体14R,14Lにより受止め支持されている中継用支持部材15にて横軸芯P1周りに昇降揺動自在に支持されるとともに、刈取部フレーム13を支持する中継用支持部材15が、左側に位置する支持体14Lに縦向き軸芯Y1周りで回動自在に支持される構成となっており、刈取処理部3全体が縦向き軸芯Y1周りで揺動自在に支持されるようになっている。つまり、図2に示すように、刈取処理部3が姿勢変更のために回動操作される縦向き軸芯Y1は、縦搬送装置9における搭乗運転部7とは反対側の車体横幅方向外端側箇所に位置することになる。
【0040】
脱穀装置4は、刈り取った穀稈を脱穀処理する脱穀部16と、脱穀部16で脱穀処理された処理物を穀粒と塵埃とに選別する選別部17とを備えて構成されている。
【0041】
図3に示すように、脱穀部16は、刈取穀稈の株元側をフィードチェーン18により挟持して刈取穀稈を横向きの姿勢で搬送するように構成され、且つ、刈取穀稈の穂先側が通過する扱室19に、機体前後向き軸芯周りで回転駆動されることで刈取穀稈の穂先側に扱き処理を施す扱胴20、及び、この扱き処理で得られた処理物を下方に向けて漏下させる受網21を備えて構成されている。又、受網21の処理物移送方向下手側には、受網21を漏下しなかった処理物を選別部17の選別方向下手側(後部側)に向けて流下させる送塵口22が形成されている。
【0042】
図3に示すように、選別部17は、脱穀部16の下方に位置して受網21から漏下した処理物を揺動選別する揺動選別機構23、選別風を生起する唐箕24、選別された穀粒(1番物)を回収するとともに、回収した1番物をその底部に車体横幅方向(左右方向)に沿って配備した1番スクリュー25によってその右端に連通接続した揚送スクリューコンベア26に向けて搬送する1番回収部27、枝梗付き穀粒やワラ屑などの混在物(2番物)を回収するとともに、回収した2番物をその底部に車体横幅方向に沿って配備した2番スクリュー28によって、その右端に連通接続した2番還元装置29に向けて搬送する2番回収部30等を備えて構成されている。
【0043】
揺動選別機構23は、機体前部側が揺動アーム31にて吊り下げ支持され且つ機体後部側が回転駆動される偏芯クランク機構32によって駆動されることによって前後揺動する揺動選別ケース33が備えられ、この揺動選別ケース33の内部に、脱穀処理物の粗選別を行うチャフシーブ34、チャフシーブ34を漏下した処理物から穀粒を選別する精選別用のグレンシーブ35、ワラ屑を後方に向けて揺動移送するストローラック36等を備えて構成されている。
【0044】
1番スクリュー25によって搬送された1番物は、揚送スクリューコンベア26により揚送されて穀粒タンク5に供給されて貯留される。又、2番スクリュー28によって搬送された2番物は、2番還元装置29により再脱穀処理を施した後に揚送して揺動選別機構23に還元される。
【0045】
穀粒タンク5に貯留される穀粒を外部に排出させる穀粒排出装置37が備えられている。この穀粒排出装置37は、図1に示すように、穀粒タンク5下部における凹溝状の底部5aに沿って設けられた底部スクリュー38と、その底部スクリュー38の搬送終端部から上方に向けて穀粒を搬送する縦スクリューコンベア39と、この縦スクリューコンベア39の上部から穀粒を横方向に搬送して先端の排出口40からトラックの荷台等(図示せず)に排出する横スクリューコンベア41とを備えて構成されている。
【0046】
又、縦スクリューコンベア39と横スクリューコンベア41とに亘って設けた油圧シリンダ42を操作することで横スクリューコンベア41の昇降位置を変更操作自在で、且つ、縦スクリューコンベア39の下部に作用するように設けられた旋回モータ43によって縦軸芯Y2周りで旋回操作自在に構成されている。
【0047】
この穀粒排出装置37は、底部スクリュー38と縦スクリューコンベア39との間、及び、縦スクリューコンベア39と横スクリューコンベア41との間が、夫々、ベベルギア機構44,45により連動連結されており、底部スクリュー38の前部側端部に設けられた入力プーリ46から動力が入力されることにより一体的に回転駆動されて、穀粒タンク5内の穀粒を外部に搬出することができるように構成されている。
【0048】
〔伝動構造〕
以下、コンバインの伝動構造について説明する。
図4に示すように、左右一対の走行装置1,1と刈取処理部3とを夫々駆動する走行刈取用の電動モータM1と、扱胴20を駆動する扱胴用の電動モータM2と、選別部17を駆動する選別部用の電動モータM3とが備えられ、それら各電動モータM1,M2,M3により各部が駆動される構成となっている。
【0049】
図5に示すように、車体横幅方向中央部であって且つ搭乗運転部7の横幅方向の他方側箇所に、左右一対の走行装置1,1に動力を伝える走行ミッション47が備えられ、図 1及び図2に示すように、走行ミッション47に動力を入力する走行刈取用の電動モータM1が搭乗運転部7における運転部ステップ48の下方側箇所に位置する状態で備えられている。そして、図5に示すように、走行刈取用の電動モータM1の出力軸49と走行ミッション47の入力軸50とが自在継手51を介して連動連結される状態で備えられ、走行刈取用の電動モータM1の動力により左右の走行装置1,1を駆動するように構成されている。
【0050】
走行ミッション47は、従来のエンジン駆動式のコンバインにおいて走行用伝動機構として使用されていたものをそのまま使用して、走行駆動用のエンジンの代わりに走行刈取用の電動モータM1を用いて駆動するようにしたものである。
つまり、この走行ミッション47は、図5に示すように、ミッションケース52内に、ギア式の減速機構53やギア咬み合い式の副変速装置54、及び、旋回走行させるための旋回用伝動機構55等が備えられている。
【0051】
副変速装置54は、図5に示すように、シフトギア式の変速部54Aと油圧操作式の変速部54Bとからなり、高速、中速、低速の3段に切り換え自在であり、標準的な圃場で刈取作業する場合には中速状態とし、作物が倒伏しているときや深い湿田で走行負荷が大きいときは低速状態とし、路上走行する場合には高速状態とするように、作業状況に応じて変速状態を使い分ける構成となっており、搭乗運転部7に備えられた副変速レバー56により切り換えるようになっている。又、この副変速レバー56の操作位置を検出する副変速センサS1が設けられている。
【0052】
旋回用伝動機構55は、図5に示すように、一方の走行装置1に減速動力を伝えるための緩旋回用クラッチ58、一方の走行装置1に制動力を付与する減速用ブレーキ59、一方の走行装置1に対する動力伝達状態を直進状態と旋回状態(減速状態や制動状態)に切り換える操向クラッチ60等を備えて構成されている。
【0053】
そして、搭乗運転部7に備えられた操作レバー61を中立位置から左右に倒し角を大きくすることで、直進状態から右方向又は左方向への旋回角度を大きい旋回状態が得られるように、操作レバー61と旋回用伝動機構55が連動連係されている。操作レバー61の中立位置から左右への倒し角の大きさを検出する旋回状態検出手段としての旋回レバーセンサS3が設けられている。尚、詳述はしないが、操作レバー61は、前後方向へも揺動操作自在であり、前後方向の操作により刈取処理部3の上昇操作及び下降操作を指令することができるように構成されている。
【0054】
又、図5に示すように、走行ミッション47の伝動経路途中から前進走行状態でのみ動力伝達自在なワンウェイクラッチ63及び動力伝達を断続自在なベルトテンション式の刈取クラッチ64を介して刈取処理部3に動力が伝えられるように構成されている。刈取クラッチ64は、刈取用クラッチモータ65により入り状態と切り状態とに切り換え操作自在な構成となっている。
【0055】
従って、走行刈取用の電動モータM1が、左右一対の走行装置1,1と刈取処理部3とを夫々駆動する構成となっている。
【0056】
走行刈取用の電動モータM1の出力制御構成については後述するが、搭乗運転部7に備えられた前後揺動操作自在な主変速レバー66が中立位置にあれば停止状態となり、主変速レバー66の前側への倒し角が大きいほど前進走行速度が大となり、主変速レバー66の後側への倒し角が大きいほど後進走行速度が大となるように出力制御される構成となっている。
【0057】
図5に示すように、走行ミッション47の伝動経路中に、走行刈取用の電動モータM1の駆動停止状態で制動作用するネガティブブレーキ67が、走行ミッション47の入力軸50における走行刈取用の電動モータM1の接続箇所とは反対側の端部に作用する状態で備えられている。
【0058】
このネガティブブレーキ67は、図示しないバネにより制動状態に付勢され、且つ、電気式あるいは油圧式アクチュエータにてバネの付勢力に抗して制動状態を解除することができるように構成されており、走行刈取用の電動モータM1が作動しているときは制動解除状態となり、走行刈取用の電動モータM1が自由回転状態(走行用トルクが発生していない状態)であるときは、制動状態となるように作動が制御されるように構成されている。
【0059】
そして、制御装置Hは、走行刈取用の電動モータM1が作動停止状態であるときは制動状態になり、走行刈取用の電動モータM1が作動状態になると制動解除状態に切り換わるように、ネガティブブレーキ67の作動を制御するように構成されている。又、ネガティブブレーキ67を制動解除状態から制動状態に切り換えるときは、制動力を漸増させる形態で制御するようにして、制動時に衝撃が発生しないようにしている。
【0060】
図1〜図3に示すように、扱胴用の電動モータM2は、出力軸68が機体前後方向に向く状態で且つ脱穀装置4の天板69の上部側における機体前部側箇所に位置する状態で配備されており、この扱胴用の電動モータM2の動力がベルト伝動機構70を介して扱胴20に伝達されるように構成されている。
【0061】
図1〜図3に示すように、選別部用の電動モータM3は、脱穀装置4と穀粒タンク5との間に位置する状態で配備されている。そして、選別部用の電動モータM3は、脱穀装置4が作動している刈取作業中は選別部17を駆動することができ、刈取作業が行われていない状態においては、穀粒排出装置37を駆動することができるように構成されている。
【0062】
つまり、図1及び図2に示すように、選別部用の電動モータM3は、脱穀装置4と穀粒タンク5との間の隙間における機体前部側に位置する箇所に、機体フレーム6よりも上方に位置する状態で、機体フレーム6から立設された縦フレーム6aにより支持される状態で設けられている。
【0063】
そして、選別部用の電動モータM3の動力が選別部17に伝達される状態と穀粒排出装置37に伝達される状態とに切り換え自在な伝動切換手段Kが備えられている。
具体的な構成について説明を加えると、図4に示すように、選別部用の電動モータM3の動力が、ベルトテンション式の選別入切用クラッチ71を介して選別部17、具体的には、唐箕24の駆動軸24aに動力が伝えられるように構成され、唐箕24の駆動軸24aから、伝動ベルト72を介して、1番スクリュー25、2番スクリュー28、揺動選別機構23、フィードチェーン18等に動力が伝達されるように構成されている。
【0064】
又、選別部用の電動モータM3の動力が、ベルトテンション式の排出入切用クラッチ73、ベベルギア機構74、及び、ベルト伝動機構75を介して、穀粒排出装置37、具体的には、底部スクリュー38の前部側端部に設けられた入力プーリ46に動力が伝えられるように構成されている。入力プーリ46から動力が入力されることにより、底部スクリュー38、縦スクリューコンベア39、及び、横スクリューコンベア41が回転駆動されて穀粒タンク5内の穀粒を外部に搬出することができる。
【0065】
選別入切用クラッチ71は、選別用クラッチモータ76(図7参照)により入り状態と切り状態とに切り換え操作自在な構成となっており、排出入切用クラッチ73は、排出用クラッチモータ77(図7参照)により入り状態と切り状態とに切り換え操作自在な構成となっている。
【0066】
従って、選別入切用クラッチ71、選別用クラッチモータ76、排出入切用クラッチ73及び排出用クラッチモータ77により、伝動切換手段Kが構成されている。
【0067】
扱胴20は刈取穀稈を脱穀処理するものであり、作物の種類の違い、あるいは、雨等の水分を多く含む場合や乾燥している場合等、そのときの作業状況の違いによっては、駆動負荷が大きく変動する場合がある。これに対して、選別部17や穀粒排出装置37は、作物の種類が異なっても、駆動負荷はそれほど大きくならず変動も少ないと考えられる。
【0068】
そこで、駆動負荷が大きくなるおそれがある扱胴用の電動モータM2が予測される駆動負荷を賄える程度の大きめの容量の電動モータにて構成され、選別部用の電動モータM3が扱胴用の電動モータM2よりも小容量の電動モータにて構成されている。このようにすることで、必要とされる駆動力を出力させることが可能でありながらも、選別部用の電動モータM3を小型化して、脱穀装置4と穀粒タンク5との間の隙間に配置し易いものにしている。尚、刈取走行用の電動モータM1は、走行装置1における大きい走行負荷が掛かるものであるから、扱胴用の電動モータM2よりも大容量の電動モータにて構成されている。
【0069】
上述したように、コンバイン各部を駆動するための動力用の電動モータとして、走行刈取用の電動モータM1、扱胴用の電動モータM2、及び、選別部用の電動モータM3の夫々が備えられている。以下、それらを総称するときは動力用の電動モータ(M1〜M3)という。
【0070】
〔電力供給構成〕
次に、上記した動力用の電動モータ(走行刈取用の電動モータM1、扱胴用の電動モータM2、及び、選別部用の電動モータM3)夫々に対する駆動用電力の供給構成について説明する。
図7に示すように、各動力用の電動モータ(M1〜M3)の夫々に対する駆動用電力を供給する電力供給手段PSとして、エンジン80とそのエンジン80により駆動される発電機81とが備えられ、発電機81にて発電した電力を動力用の電動モータ(M1〜M3)に供給するように構成されている。
【0071】
各動力用の電動モータ(M1〜M3)は、例えば車両の走行駆動用のモータとして用いられる周知の三相交流式誘導電動モータにて構成されており、図7に示すように、発電機81にて発電された交流電力が発電用インバータ82により直流電力に変換され、その変換された直流電力が、3つのモータ用インバータ83,84,85の夫々により交流電力に変化されて各動力用の電動モータ(M1〜M3)に供給されるように構成されている。
【0072】
エンジン80に対する燃料供給量を変更することによりエンジン80の出力を変更調整自在な出力調整手段としての出力調整器86と、エンジン回転数を検出するエンジン回転センサS2が備えられ、発電機81を駆動するためのエンジン回転数を所望の値に調整することができるように構成されている。
【0073】
又、モータ用インバータ83,84,85より動力用の電動モータ(M1〜M3)に供給される電力を制御することにより、前記各動力用の電動モータ(M1〜M3)の出力(回転数及びトルク)を変更調整することができるように構成されている。
【0074】
そして、このコンバインでは、発電機81により発電された電力のうち動力用の電動モータ(M1〜M3)で消費されない余剰の電力を蓄えるための大容量のバッテリーは搭載されておらず、発電機81は必要な電力だけを発電するように構成されている。但し、図示はしないが、車体に搭載された電装品を駆動するための小容量のバッテリー(12V)は備えられている。
【0075】
図1、図2及び図6に示すように、搭乗運転部7における運転座席97の下方側箇所に位置する状態で、且つ、車体横幅方向に向かう軸芯周りで回転する出力軸80aを備える状態でエンジン80が備えられている。又、発電機81が、車体横幅方向に向かう軸芯周りで回転する発電用回転軸81aを備えるとともに、エンジン80と車体横幅方向に沿って並ぶ状態で備えられている。
【0076】
具体的には、図6に示すように、エンジン80の出力軸80aと発電機81の発電用回転軸81aとが中継用伝動部材としての自在継手87を介して連動連結される状態で、エンジン80と発電機81とが、車体横幅方向に間隔をあけて並列配備されている。
【0077】
発電機81は、縦搬送装置9における搬送終端側箇所の下方に位置する状態で備えられている。すなわち、発電機81は、縦搬送装置9における搬送終端側箇所において、刈取処理部3を支持するために機体フレーム6から立設された左右両側の支持体14R,14Lの間に位置して機体フレーム6に載置支持される状態で配備されている。
【0078】
つまり、発電機81が縦向き回動軸芯Y1よりも車体横幅方向内方側に位置する状態で、縦向き回動軸芯Y1と発電機81とが車体横幅方向に沿って並ぶ状態で備えられている。そして、この発電機81が設置される箇所は、刈取穀稈の搬送経路の下方側の空き領域であり、このような刈取穀稈の搬送経路の下方側の空き領域を有効利用して発電機81を配備するようにしている。
【0079】
このように構成することで、メンテナンス作業を行うために、刈取処理部3を縦向き回動軸芯Y1周りで回動させて通常作業姿勢からメンテナンス用姿勢に姿勢変更すると、走行機体2の車体前方側を開放させることができるとともに、発電機81が外方に露出する状態となり、発電機81のメンテナンス作業も容易に行えるものとなる。
【0080】
3つのモータ用インバータ83,84,85は、脱穀装置4の天板69の上部側における機体後部側箇所に位置して、3つのモータ用インバータ83,84,85が機体前後方向に適宜間隔をあけて並ぶ状態で脱穀装置4の上部における風通しのよい場所に配備されている。このように機体外方側の高い位置に設けるようにしたので、周囲を外気が通流することにより冷却効果を発揮できるようにしている。
【0081】
一方、発電用インバータ82は、脱穀装置4と穀粒タンク5の間の隙間に位置する状態で配備されている。この発電用インバータ82は、3つの動力用の電動モータ(M1〜M3)の全ての電力を賄うものであり、大きな電流が流れるので発熱も大きいものとなる。そこで、この発電用インバータ82を冷却させるための油冷式の冷却構造を採用している。すなわち、図示はしないが、発電用インバータ82は、そのケース内に油通過経路を形成してあり、ミッションケース52内に貯留されている潤滑油を、図示しないポンプにより、油通過経路とオイルクーラ(図示せず)とを経由して循環通流させることにより、発電用インバータ82を冷却させる構成となっている。尚、循環通流する潤滑油は油圧シリンダCYの作動等に用いられることになる。
【0082】
〔制御構成〕
各動力用の電動モータ(走行刈取用の電動モータM1、扱胴用の電動モータM2、及び、選別部用の電動モータM3)の作動状態と電力供給手段PS(エンジン80と発電機81)の作動状態を制御する制御手段としてのマイクロコンピュータ利用の制御装置Hが備えられている。
【0083】
次に、制御装置Hによる各動力用の電動モータ(M1〜M3)の制御について説明する。
搭乗運転部7に備えられた主変速レバー66の前後操作によって出力値が変更操作される速度設定器88が備えられ、この速度設定器88の指令情報が制御装置Hに入力され、車速を指令することができるように構成され、制御装置Hは、指令された車速にて車体を走行させるように、走行刈取用の電動モータM1を制御するように構成されている。
【0084】
すなわち、制御装置Hは、モータ用インバータ83を制御することにより走行刈取用の電動モータM1に供給する電力を変更調整するように構成されている。具体的には、モータ用インバータ83における三相(u相,v相,w相)の各相に設けられる図示しないスイッチングトランジスタをオンオフ制御することにより、走行刈取用の電動モータM1の出力(回転数及びトルク)を変更調整するように構成されている。
【0085】
尚、図7に示すように、各動力用の電動モータ(M1〜M3)の夫々について、3相(u相,v相,w相)の各相の励磁用コイルに流れている電流値を計測する電流センサS4〜S6が備えられ、その電流センサS4〜S6の検出値が制御装置Hに入力され、その電流値の検出結果に基づいて、制御装置Hが、走行刈取用の電動モータM1の実駆動状態(回転数及びトルク)を演算にて求めることができるようになっている。
【0086】
そして、制御装置Hは、搭乗運転部7に備えられた刈取入切レバー90が操作されることにより刈取入切スイッチ91がオン操作されると、刈取用クラッチモータ65を作動させて刈取クラッチ64をクラッチ入り状態に切り換え、刈取入切スイッチ91がオフ操作されると、刈取クラッチ64を切り状態に切り換えるように構成されている。
【0087】
搭乗運転部7に備えられた作物条件設定器92にて、刈取対象となる作物の種類(例えば、稲、麦、あるいは、大豆等)が設定されると、作物条件設定器92による指令情報が制御装置Hに入力され、その対象となる作物の種類の違いに応じて互いに異なる扱胴20の目標回転数が設定される。
【0088】
制御装置Hは、搭乗運転部7に備えられた脱穀入切レバー93が操作されることにより、脱穀入切スイッチ94がオン操作されると、モータ用インバータ84を制御することにより、扱胴回転センサS7にて検出される扱胴20の実回転数が、指令された作物条件に対応する目標回転数になるように、扱胴用の電動モータM2を制御するように構成されている。尚、脱穀入切スイッチ94がオフ操作されると、扱胴20の回転駆動を停止させる。
【0089】
又、制御装置Hは、脱穀入切スイッチ94がオン操作され、且つ、搭乗運転部7に備えられた穀粒排出スイッチ96がオン操作されていなければ、モータ用インバータ85を制御することにより、予め設定されている選別処理用の設定回転数にて選別部17を回転させるように、実回転数を検出する選別回転センサS8にて検出される実回転数の検出情報に基づいて選別用の電動モータM3を制御するように構成されている。
【0090】
そして、脱穀入切スイッチ94がオフ操作され、且つ、穀粒排出スイッチ96がオン操作されているときは、予め設定されている穀粒排出用の設定回転数にて穀粒排出装置37を回転させるように、選別用の電動モータM3を制御するように構成されている。穀粒排出スイッチ96がオフ操作されると、選別用の回転駆動を停止させる。
【0091】
制御装置Hは、脱穀入切スイッチ94がオン操作され、且つ、刈取入切スイッチ91がオン操作されている場合において、車速が刈取作業速度であると想定される設定速度以上の速度であり、且つ、旋回レバーセンサS3により操作レバー61の中立位置から左右いずれかへの倒し角が設定角度以上であることが検出されると、脱穀用の電動モータM2の駆動を停止させるように構成されている。
【0092】
このとき、穀粒排出スイッチ96がオン操作されていなければ、選別入切用クラッチ71を入り状態に切り換えるとともに排出入切用クラッチ73を切り状態に切り換え、穀粒排出スイッチ96がオン操作されていれば、選別入切用クラッチ71を切り状態に切り換えるとともに排出入切用クラッチ73を入り状態に切り換えるように、選別用クラッチモータ76と排出用クラッチモータ77の作動を制御するようになっている。
【0093】
次に、電力供給手段PSの作動制御について説明する。
制御装置Hは、各動力用の電動モータ(走行刈取用の電動モータM1、扱胴用の電動モータM2、及び、選別部用の電動モータM3)により必要とされる電力量の総和である必要総和電力量に応じた電力量を供給すべく電力供給手段PSの作動状態を制御するように構成されている。具体的には、必要総和電力量に応じた電力として、必要総和電力量よりも設定量大きい電力を発電する発電用設定回転数となるように出力調整器86を制御するように構成されている。
【0094】
必要総和電力量としては、作業状態に応じて必要とされる電力量を実験結果等から予め予測しておき、そのときの作業状況に応じて予め予測した必要とされる電力量が設定されており、この必要総和電力量を発電するのに必要とされるエンジン回転数よりも設定量だけ高めの回転数を発電用設定回転数として設定して、エンジン回転センサS2にて検出される実際のエンジン回転数が、発電用設定回転数になるように出力調整器86を制御するのである。
【0095】
例えば、脱穀部16や選別部17が作動しているが主変速レバー66が中立位置にあって指令された車速が零である状態(走行停止状態)、車速が零であって脱穀部16や選別部17の作動を停止させて穀粒排出装置37だけを作動させている状態(穀粒排出状態)等においては、必要とされる電力は少ないので、発電用設定回転数としてアイドリング回転数を設定する。このようにエンジン80をアイドリング運転させることで、必要総和電力量よりも設定量大きい電力を発電することができる。
【0096】
又、副変速装置54を高速状態に設定して路上走行を行う状態(路上走行状態)、副変速装置54を中速状態又は低速状態に設定し且つ脱穀入切スイッチ94を入り操作して脱穀装置4を作動させて刈取作業を行う状態(作業状態)等、種々の作業状況の違いに応じて出力調整器86を制御するようにしている。
【0097】
つまり、作業の切り換えを指令する操作(主変速レバー66の中立操作、副変速レバー56の切換、脱穀入切レバー93の入切等の操作)に基づいて、先ず、その指令操作された設定状態において必要とされる必要総和電力量よりも設定量大きい電力を発電するための発電用設定回転数になるように出力調整器86を制御する。
【0098】
具体的な算出方法は省略するが、その後の作業状況の変化に応じて必要とされる電力量が変化するのに合わせて、例えば、主変速レバー66や操作レバー61の傾倒操作状態、あるいは、それ以外の種々の作業状態の変化に応じて、必要総和電力量を逐次変更させるようにしてあり、エンジン回転数が、その必要総和電力量よりも設定量大きい電力を発電するようにエンジン回転数を適宜変更調整すべく、出力調整器86を制御するように構成されている。
【0099】
このように作業の切り換えを指令する手動操作に基づいて、必要総和電力量よりも設定量大きい電力を発電するように初期設定しておき、実際に必要とされる電力量が増大するときは、それに応じて変動する必要総和電力量よりも設定量大きい電力を発電する状態に調整することで、作業状態が変化して負荷の増大により電力不足が生じることを回避させるようにしている。
【0100】
刈取作業中においては、上述したように、扱胴20の回転数が脱穀用設定回転数に維持されるように扱胴用の電動モータM2の作動を制御し、且つ、主変速レバー66の傾し角に対応した車速で刈取作業走行するように走行用の電動モータM1の作動が制御されるが、例えば、作業状況の急激な変化により刈取作業に伴う脱穀作業用の負荷が過大になったような場合、発電機81により発電される電力では、各動力用の電動モータ(M1〜M3)にて必要とされる必要総和電力量が発電電力を越えることがあり、電力が不足するおそれがある。
【0101】
そこで、制御装置Hは、扱胴用の電動モータM2と選別用の電動モータM3とにより必要とされる電力量の和が予め設定されている設定量よりも大きいときは車速を自動的に減速し、電力量の和が設定量よりも小さいときは車速を増速するように、走行刈取用の電動モータM1の作動を制御するように構成されている。
【0102】
扱胴用の電動モータM2と選別用の電動モータM3とにより必要とされる電力量は、各電動モータにおける各相に実際に供給されている電流の検出結果に基づいて制御装置Hが算出するようになっている。そして、制御装置Hは、算出した電力量が設定量よりも大きいときは、電力量が設定量になるように車速を自動的に減速させるべく走行刈取用の電動モータM1の作動を制御する。又、制御装置Hは、算出した電力量が設定量よりも小さいときは、電力量が設定量になるように車速を増速させるべく走行刈取用の電動モータM1の作動を制御するのである。そのとき、主変速レバー66の操作により指令される車速にまで増速すると、それ以上の増速は行わない。つまり、主変速レバー66の操作により指令される車速を上限として、車速を増速復帰させることになる。
【0103】
算出した電力量の大小を判定するための上記設定量は、具体的には、下限値と上限値との間で所定の幅を有しており、走行刈取用の電動モータM1が減速操作と増速操作とを交互に繰り返すハンチング状態が生じないようにしている。
【0104】
このように構成することで、刈取作業中に脱穀作業負荷が大きくなって、必要とされる電力量が大きくなると、主変速レバー66の操作により指令される車速よりも低速状態で走行するようにして走行用の駆動負荷を軽減させ、又、脱穀作業負荷が小さくなると、主変速レバー66の操作により指令される車速を上限として車速を増速復帰させるようにして、電力不足が発生することを回避しながら、極力、車速を増大させて作業能率を向上させることができるようにしている。
【0105】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、選別部用の電動モータM3の動力が、選別部17に伝達される状態と穀粒排出装置37に伝達される状態とに切り換え自在な伝動切換手段Kが備えられる構成としたが、このような構成に代えて、扱胴用の電動モータM2の動力が、扱胴20に伝達される状態と穀粒排出装置37に伝達される状態とに切り換え自在な伝動切換手段Kが備えられる構成としてもよい。
【0106】
つまり、図8に示すように、扱胴用の電動モータM2の動力が、ベルトテンション式の扱胴入切用クラッチ97を介して扱胴に動力が伝えられるように構成され、又、扱胴用の電動モータM2の動力が、ベルトテンション式の排出入切用クラッチ98を介して、穀粒排出装置37、具体的には、排出入切用クラッチ98の従動プーリを兼用する入力プーリ46から動力が入力され、底部スクリュー38、縦スクリューコンベア39、及び、横スクリューコンベア41が回転駆動されて穀粒タンク5内の穀粒を外部に搬出することができる。尚、選別部用の電動モータM3は、選別部17の駆動だけを行う構成となっている。
【0107】
扱胴入切用クラッチ97は、扱胴用クラッチモー99タにより入り状態と切り状態とに切り換え操作自在な構成となっており、排出入切用クラッチ98は排出用クラッチモータ100により入り状態と切り状態とに切り換え操作自在な構成となっている。
【0108】
従って、この実施形態では、扱胴入切用クラッチ97、扱胴用クラッチモータ99、排出入切用クラッチ98及び排出用クラッチモータ100により、伝動切換手段Kが構成されている。
【0109】
(2)上記実施形態では、扱胴用の電動モータM2が、脱穀装置4の天板69の上部側に位置する状態で配備される構成としたが、このような構成に代えて、扱胴用の電動モータM2が、脱穀装置4の車体前部側に位置する状態で配備される構成としてもよい。
【0110】
すなわち、図9に示すように、脱穀装置4の扱室19の前壁部19Aの車体前部側に支持される状態で扱胴用の電動モータM2が備えられ、扱胴用の電動モータM2の出力軸と扱胴20の駆動軸とを直接にあるいは減速ギア機構を介して連動連結させる構成である。
【0111】
(3)上記実施形態では、各電動モータM1,M2,M3により必要とされる電力量の総和である必要総和電力量に応じた電力量を供給するために、作業の切り換えを指令する操作(主変速レバー66、副変速レバー56、脱穀入切レバー93等の操作)に基づいて、そのときの作業状況において必要とされる必要総和電力量よりも設定量大きい電力を発電するための発電用設定回転数になるように出力調整器86を制御する構成としたが、このような構成に代えて、次のように構成するものでもよい。
【0112】
すなわち、走行停止状態や穀粒排出状態においては、必要とされる電力は少ないので、発電用設定回転数としてアイドリング回転数を設定する点は同じであるが、例えば、脱穀入切スイッチ94や刈取入切スイッチ91が入り状態であって、主変速レバー66が中立位置から増速方向に揺動操作されると、その倒し角が大きいほど発電用設定回転数を増大させるように予め設定されているマップデータに基づいて、発電用設定回転数を変更させるようにしてもよい。
【0113】
又、主変速レバー66だけでなく、操作レバー61の倒し角が大きいほど設定回転数を増大させるように予め設定されているマップデータに基づいて、設定回転数を変更させるようにしてもよい。
【0114】
(4)上記実施形態では、前記電力供給手段PSが、エンジン80とそのエンジン80により駆動される発電機81にて構成したが、この構成に代えて、電力供給手段PSがバッテリーにて構成され、バッテリーからの電力供給量を変更調整自在な供給電力調整手段が備えられ、制御装置Hが、バッテリーからの電力供給量が必要総和電力量に応じた電力となるように供給電力調整手段を制御するように構成されるものでもよい。
【0115】
すなわち、図10に示すように、電力供給手段PSとして、各電動モータM1,M2,M3により必要とされる電力量を賄うことができる大容量のバッテリー98が備えられ、バッテリー98からの電力供給量が必要総和電力量に応じた電力となるようにモータ用インバータ83,84,85を制御するように構成するものでもよい。
従って、この実施形態では、前記モータ用インバータ83,84,85が供給電力調整手段Tに対応するものとなる。
【0116】
(5)上記実施形態では、制御装置Hが、各電動モータM1,M2.M3により必要とされる電力量の総和である必要総和電力量に応じた電力量を供給すべく電力供給手段PSの作動状態を制御するように構成されて、電力を蓄えるための大容量のバッテリーを搭載しない構成としたが、このような構成に代えて、電力を蓄えるための大容量のバッテリーを搭載する構成としてもよい。又、このような大容量のバッテリーを搭載する場合、大型となるバッテリーを搭乗運転部の下方側の空間を利用して配置することができる。
【0117】
(6)上記実施形態では、モータ用インバータ83,84,85が脱穀装置4の天板69の上側に位置する状態で配備される構成としたが、このような構成に代えて、脱穀装置4と穀粒タンク5との間に、発電用インバータ82に近接させた状態で配備する構成としてもよい。
【0118】
(7)上記実施形態では、エンジン80が搭乗運転部7における運転座席97の下方に位置する状態で備えられ、発電機81が縦搬送装置9における搬送終端側箇所の下方に位置する状態で備えられる構成としたが、このような構成に代えて、発電機81が搭乗運転部7における運転座席97の下方に位置する状態で且つエンジン80と機体前後方向に並ぶ状態で配備される構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、刈り取った作物を扱き処理する扱胴と、扱胴で扱き処理された脱穀処理物を穀粒と塵埃とに選別する選別部とを備えて構成されている自脱型又は普通型のコンバインに適用できる。
【符号の説明】
【0120】
1 走行装置
3 刈取処理装置
4 脱穀装置
5 穀粒タンク
16 脱穀部
17 選別部
20 扱胴
37 穀粒排出装置
69 天板
K 伝動切換手段
M2 扱胴用の電動モータ
M3 選別部用の電動モータ
PS 電力供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体を走行させる走行装置と、車体の走行に伴って作物を刈り取って後方に搬送する刈取処理装置と、回転駆動される扱胴により刈り取った作物を扱き処理する脱穀部と、前記脱穀部で扱き処理された脱穀処理物を穀粒と塵埃とに選別する選別部とを備えて構成されているコンバインであって、
前記扱胴を駆動する扱胴用の電動モータ、前記選別部を駆動する選別部用の電動モータ、前記各電動モータに電力を供給する電力供給手段、及び、前記各電動モータの作動状態と前記電力供給手段の作動状態を制御する制御手段が備えられているコンバイン。
【請求項2】
前記扱胴用の電動モータが、前記脱穀部の天板の上部側に位置する状態で配備されている請求項1記載のコンバイン。
【請求項3】
前記扱胴用の電動モータが、前記脱穀部の車体前部側に位置する状態で配備されている請求項1記載のコンバイン。
【請求項4】
前記選別部用の電動モータが、前記扱胴用の電動モータよりも小容量の電動モータにて構成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載のコンバイン。
【請求項5】
前記脱穀部と前記選別部とを備えた脱穀装置と車体横幅方向に沿って並ぶ状態で穀粒を貯留する穀粒タンクが備えられ、
前記選別部用の電動モータが、前記脱穀装置と前記穀粒タンクとの間に配備されている請求項1〜4のいずれか1項に記載のコンバイン。
【請求項6】
前記穀粒タンクに貯留される穀粒を外部に排出させる穀粒排出装置が備えられ、
前記選別部用の電動モータの動力が前記選別部に伝達される状態と前記選別部用の電動モータの動力が前記穀粒排出装置に伝達される状態とに切り換え自在な伝動切換手段が備えられている請求項5記載のコンバイン。
【請求項7】
前記穀粒タンクに貯留される穀粒を外部に排出させる穀粒排出装置が備えられ、
前記扱胴用の電動モータの動力が前記扱胴に伝達される状態と前記扱胴用の電動モータの動力が前記穀粒排出装置に伝達される状態とに切り換え自在な伝動切換手段が備えられている請求項5記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−70644(P2013−70644A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210693(P2011−210693)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】