説明

コンパートメント症候群の治療における使用のための抗分泌性タンパク質

【課題】 コンパートメント症候群の治療及び/又は予防のための医薬組成物及び/又は医療用食品を製造すること。
【解決手段】 抗分泌性タンパク質、又は抗分泌性活性を有するその誘導体、相同体及び/又は断片、及び/又は医薬的に活性のあるそれらの塩を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンパートメント症候群の分野、及びそれに関連する多様な状態に関係する。より詳しくは、本発明は、場合により正常化を目的として、身体の組織、器官及び/又は規定された構造によって形成されるコンパートメント内の、一方が細胞ともう一方が細胞外空間及び血管系との間の流体、塩及び物質の転送に関する。閉ざされたコンパートメントは、身体の細胞、組織、規定された解剖学的単位から器官まで、大きさ及び程度において変動する構造を含む。病理学的に影響を受けた構造は、過剰な負荷、外傷、毒物、薬物、出血、腫瘍、細菌及び/又はウイルス等の微生物による感染によって機能不全となり、異常に上昇した間質液圧を引き起こし及び/又は他の経路で罹患する可能性がある。本発明はさらに、正常状態及び病理学的状態の下でのコンパートメント症候群の分野内の特異的抗分泌性タンパク質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
コンパートメント症候群という用語は、特定され規定された容積を通る血液及びリンパの流れの低下又は遮断さえ引き起こしている、閉ざされた容積、すなわちコンパートメント内の異常に上昇した圧力によって特徴付けられる病理学的状態を特徴付けるために、医療診察において使用される。血管にあまりにも高い圧力がかかると、静脈、毛細血管、及び細動脈及び動脈でさえ、通る血流が妨害され、細胞外環境における間質液のための作動状態が変化し、結果的に、前記空間内で細胞及び組織のための栄養分及び酸素の適切な供給が枯渇する。同様に重要な因子は、老廃物及びしばしば酸性である代謝産物の排液の欠如であり、それらの蓄積を通じて、前記コンパートメント内の細胞の機能及び代謝の障害がさらに加わる。該障害の正味の影響は、コンパートメント内の圧力が上昇し、最終的に全身動脈圧に近いレベルに達することである。従って、コンパートメントへの動脈血管系の入口における実際の血圧が、圧力が上昇し得る最大レベルを決定する重要な要素を構成する。軟骨及び椎間板等の無血管性構造において、適切な供給は、適切な細胞機能を必要とする際の拡散による、細胞内イオン及び流体ポンプシステムによる及び浸透圧勾配による、ある領域への及びある領域からの液体及び他の構成体の転送に依存する。強烈に上昇したCP(コンパートメント圧)が持続する場合、関与する細胞、組織及び器官に対する重度の損傷を引き起こすことになる。該コンパートメント中での出血並びに細胞及び組織の腫脹は、その後の虚血が起こるにつれ、さらにその損傷を増大させる可能性がある。上昇したCPの経過時間が長ければ長いほど、その損傷をますます広範囲かつ重度にし、最終的には不可逆的な壊死性の細胞死となる。機械的な歪み、転位及び剪断が、その損傷を増大させる。その後アポトーシス性細胞死が、初期傷害を加える可能性がある。CS(コンパートメント症候群)は、疼痛、圧痛、腫脹及び機能低下又は機能喪失さえも含むただならぬ臨床徴候を発し、最終的には壊死となる。損傷の重症度は、コンパートメントの位置、関与する細胞及び組織の種類、細胞外環境の特性、実際のCP、代謝障害、並びに予後及び長期的な結果にとって重要な鍵となる要因の指摘した幾つかの持続期間に依存する。
【0003】
身体のほとんどのコンパートメントは、鞘、筋膜、腱、靭帯、関節包、又は類似の非コンプライアントなコラーゲン膜、例えば心膜としてしばしば特化される密性結合組織によって範囲が定められる。さらに、甲状腺のような多くの内分泌器官、及び外分泌腺は、結合組織膜及び鞘によって囲まれ及び細分され、それゆえコンパートメントを形成している。包んでおり、閉ざされた堅固なコンパートメントに関する別の例は、四肢、頭蓋、脊椎及び顔面の骨にような骨構造である。高CPに曝露された各種類の細胞及び組織は、蔓延している代謝障害及び機械的な障害に対するそれ自体の耐性によって特徴付けられる。しかしながら、合理的な時間内にCPを通常レベルに軽減することは、損傷を緩和させる。
【0004】
抗分泌性タンパク質は、41kDaタンパク質であり、元々下痢性疾患及び腸管炎症に対する保護を提供すると云われていた(概説については、Lange and Lonnroth,2001参照)。抗分泌性タンパク質は、配列決定されており、そのcDNAはクローン化されている。抗分泌性活性は、抗分泌性タンパク質配列の位置35と50との間に位置するペプチドによって主としてもたらされているようである。免疫化学的及び免疫組織化学的研究によって、抗分泌性タンパク質が身体中のほとんどの組織及び器官に存在し、またそれらによって合成され得ることが明らかとなった。抗下痢性配列を含む合成ペプチドが、特性化されている(WO97/08202;WO05/030246)。抗分泌性因子が、コレラ毒素による処理後の腸管及び中枢神経系の脈絡叢におけるような、病原性流体輸送及び/又は炎症反応を正常化することが既に記載されている(WO97/08202)。従って、WO97/08202において、抗分泌性因子を食物及び食餌に添加することは、浮腫、下痢、脱水症状及び炎症の治療に有用であることが示唆された。WO98/21978には、抗分泌性タンパク質の形成を誘導する食物の生産のための、酵素活性を有する産物の使用が記載されている。WO00/038535にはさらに、抗分泌性タンパク質それ自体の豊富な食品が記載されている。
【0005】
抗分泌性タンパク質及びその断片が、細胞の損失及び/又は獲得と関連した状態の治療において、神経組織の修復、並びに幹細胞及び前駆細胞及びそれらに由来する細胞の増殖、アポトーシス、分化及び/又は遊走を改善することも示されている(WO05/030246)。
【0006】
現在のところ、圧力の上昇を明確に遮断し、確立されたCSで通常レベルに戻す利用可能な薬物はなく、切迫している又は継続中のCSにおいて進行しつつある損傷を予防する薬物もない。例えば尿素又はマンニトールの高張液が、高ICP(頭蓋内圧)に罹患している選択された患者に現に使用されているが、効果は、解剖学的位置及び実際の治療スケジュールに依存して、数時間しか持続せず、一過性である。副腎皮質ステロイドは同様に、上昇したICPに対抗するために利用されてきたが、重大な副作用を頻繁に生じ得る。さらなる薬物が提唱されているが、主として生じている症状を閉じ込めるためのものである。バルビツール酸麻酔と組み合わせて身体の中核温を低下させることは、有益と考えられる。しかしながら、例えば筋肉、関節及び神経において生じるCSに利用可能な信頼できる薬物療法はない。外科的介入は、頻繁に使用される治療を構成するが、それ自体がさらなる余計な傷害及び不快、並びに合併症を発症する危険性を加えるという不利に悩まされる。
【0007】
切迫した、進行している又は確立されたCSの信頼できる診断は、経験のある医師にとってでさえ困難であり得る。例えば超音波及び磁気共鳴映像法(MRI)の使用に基づいた診断の補助は、現にしばしばコンピュータ化されたプログラムと共に使用されている。本文脈において、調査しようとするコンパートメント中の間質液の圧力の測定は、導光ガラス繊維の先にある非常に小さなセンサーを用いて実際の圧力を測定することによって実施された。プローブの直径は、0.4mmであり、柔軟なガラス繊維の直径は、ちょうど0.3mmであり、測定機器による傷害が、重大なものとはならず、圧力レベルに及ぼす何れの目立った影響もほとんど加わらないことを意味する。これにより、使用される機器は、細胞外液中でも、また隣接する細胞及び/又は細胞凝集体における細胞内の特定の場合でも、コンパートメント中で優勢である圧力に関する信頼できる値を表ものすとされなければならない。
【0008】
WO97/08202において詳細に記載されている抗分泌性因子(AF)、特にタンパク質及びペプチドは、下痢のような腸における分泌過剰の状態及び疾患を取り除く上で効果的である。分泌過剰状態と関連したAFの効果に関係する他の例は、例えば、炎症性腸疾患、脳浮腫、緑内障、上昇した頭蓋内圧、メニエール病及び乳腺炎である。AFは同様に、緑内障の治療用と考えられている(WO97/08202)。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、コンパートメント症候群の治療及び/又は予防のための医薬組成物及び/又は医療用食品を製造するための、抗分泌性タンパク質、抗分泌性活性を有するその相同体、誘導体及び/又は断片、及び/又は医薬的に活性のあるそれらの塩の使用に関する。本発明は、また、細胞及び組織の腫脹、細菌及び/又はウイルスを含む微生物による感染、及び/又は例えば心臓、腎臓、精巣、卵巣、骨、関節、腺、免疫リンパ系構造、神経、脳、脊髄、皮膚、筋肉及び/又は血管壁でのタンポナーデの形成など、コンパートメント症候群と関連した多様な状態の治療及び/又は予防に関する。
【0010】
さらに、本発明は、上述のようなコンパートメント症候群の治療及び/又は予防のための方法に関するものであり、該方法は、それを必要とする哺乳動物に、抗分泌性タンパク質、抗分泌性活性を有するその誘導体、相同体及び/又は断片、及び/又は医薬的に活性のあるそれらの塩を含む医薬組成物及び/又は医療用食品の治療的有効量を投与することを含む。
【0011】
本発明は、治療の企図される目的に適した多様な投与用量及び経路並びに患者の年齢、性別、状態等にも関連付けられる。
【0012】
本発明に従った治療は、コンパートメント症候群が進行しており及び/又は罹患している、及び/又は病原性物質の取り込み及び/又は放出が進行しており及び/又は罹患している危険性のある患者に対して最も有用であるようである。さらに、このような治療は、異常な圧力を有するコンパートメントのような、閉ざされたコンパートメントからの流体及びイオンの異常な代謝回転によって特徴付けられる他の状態においても有益である。
【0013】
定義及び略語
略語
ICP:頭蓋内圧;CSF:脳脊髄液;CNS:中枢神経系、すなわち脳及び脊髄;IFP:間質液圧;HSV:単純ヘルペスウイルス;PBS:リン酸緩衝化生理食塩水;CP:コンパートメント圧;CC:閉ざされたコンパートメント;CS:コンパートメント症候群;AF:抗分泌性因子、AF−16:アミノ酸VCHSKTRSNPENNVGLから構成されるペプチド;オクタペプチドIVCHSKTR;セプタペプチドVHCHSKTR;ヘキサペプチドCHSKTR;ペンタペプチドHSKTR。
【0014】
定義
本明細書で、「コンパートメント症候群」とは、圧力抵抗構造によって範囲を定められた細胞、組織、規定された構造及び/又は器官における規定された空間内で代謝障害及び最終的には損傷を結果として生じる上昇した圧力として定義される。コンパートメント症候群という用語は、特定され規定された容積を通る、例えば血液及び/又はリンパの流れの低下又は遮断さえ引き起こす、閉ざされた容積、すなわちコンパートメント内での異常に上昇した圧力によって特徴付けられる病理学的状態を特徴付けるために、医療診察において使用される。コンパートメント症候群は、本明細書に開示されるように、ウイルス及び微生物感染、腫瘍、出血、虚血、外傷、過剰な及び/又は異常な機能又は負荷のような多様な状態を引き起こし、及びそれによって引き起こされる可能性がある。本文脈において、「閉ざされたコンパートメント」という用語は、圧力抵抗構造によって範囲を定められた細胞、組織、器官及び/又は解剖学的構造における規定された空間を指す。
【0015】
タンパク質とは、ペプチド結合によって互いに連結されるアミノ酸残基によって構成される生物学的巨大分子である。アミノ酸の線状ポリマーとしてのタンパク質は、ポリペプチドとも呼ばれる。典型的に、タンパク質は、50〜800個のアミノ酸残基を有し、それゆえ、約6,000〜約数十万Da又はそれ以上の範囲にある分子量を有する。小タン
パク質は、ペプチド又はオリゴペプチドと呼ばれる。「タンパク質」及び「ペプチド」という用語は、本文脈において交換可能に使用され得る。
【0016】
本文脈における「医薬組成物」とは、場合により担体若しくはビヒクル等の医薬的に活性のある添加剤との組み合わせで、抗分泌性タンパク質の治療活性量を含む組成物を指す。該医薬組成物は、適切な投与経路のために製剤化され、これは、患者の状態、及び年齢又は好ましい選択等の他の要因に応じて変動し得る。抗分泌性タンパク質を含む医薬組成物は、薬物送達システムとして機能する。投与した医薬組成物は、ヒト又は動物の身体に活性物質を与える。該医薬組成物は、例えば錠剤、丸剤、ロゼンジ剤、カプセル剤、便通ピル(stool pill)、ゲル剤等の形態にあり得るが、これらに限定されるわけではない。
【0017】
「医薬的に活性のある塩」という用語は、いわゆるHofmeiserシリーズをベースにした、抗分泌性タンパク質に由来する何れかの塩であり得る抗分泌性タンパク質の塩を指す。医薬的に活性のある塩に関する他の例は、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩及び塩化リジンを含むが、本発明は、これらに限定されるわけではない。
【0018】
「抗分泌性」という用語は、本文脈において、分泌、特に腸内分泌を抑制又は低下させることを指す。従って、「抗分泌性タンパク質」という用語は、身体において分泌を抑制又は低下できるタンパク質を指す。
【0019】
本文脈において、「医療用食品」とは、本発明の抗分泌性タンパク質を有する組成物と共に調製されている食品を指す。該食品は、液体又は粉末のような流体又は固形の形態にある何れかの適切な食品、又は何れかの他の適切な食材であり得る。このような物の例は、WO00/38535において見出され得る。
【0020】
本文脈において、「抗分泌性タンパク質」又はその相同体、誘導体及び/又は断片は、特許WO97/08202において規定される「抗分泌性因子」又は「抗分泌性因子タンパク質」という用語と交換可能に使用され得、抗分泌性タンパク質若しくはペプチド又は抗分泌性活性を有する相同体、誘導体及び/又は断片を指す。従って当然ながら、本文脈における「抗分泌性因子」、「抗分泌性因子タンパク質」、「抗分泌性ペプチド」、「抗分泌性断片」又は「抗分泌性タンパク質」は、それらの誘導体、相同体及び/又は断片を指すことも可能である。これらの用語は全て、本発明の脈絡において交換可能に使用され得る。さらに、本文脈において、「抗分泌性因子」という用語は、「AF」と略記され得る。本文脈における抗分泌性タンパク質は、WO97/08202及びWO00/38535において既に規定された抗分泌性特性を有するタンパク質も指す。抗分泌性因子は、例えばWO05/030246においても記載されている。また、抗分泌性因子という用語によって企図されるものは、以下にさらに開示するSE900028−2及びWO00/38535に記載されるような抗分泌性因子の豊富な卵黄である。
【0021】
本文脈において噴霧器とは、霧状の形態で投薬を気道に送達する医療用装置を指す。「噴霧器」圧縮装置は、液体薬物で満たされた医療カップ内にチューブを通し空気を送り込む。空気力により、液体は、気道内に深く吸入することが可能になうるごく小さな霧様粒子にされる。
【0022】
本文脈において吸入器とは、乾燥粉末の形態にある投薬を気道に送達する医療用装置を指す。吸入された空気により、吸入しようとする乾燥粉末が送られ、気道内に深く吸入することが可能な微粒子が分配される。治療しようとする対象(subject)が、必要とされる力を空気に付与するために吸入するか、又は圧縮された空気が使用されるかの何れかであり、あるいはそれらの組み合わせである。
【0023】
本文脈において「エアゾール」という用語は、細かな固体又は液体の粒子のガス状懸濁物を指す。
【0024】
本明細書で開示される「微生物」とは、例えば細菌、真菌、原虫及びウイルス等の、顕微鏡レベルの生物体を指す。微生物の他の例は、本明細書で付与される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明者は驚くべきことに、抗分泌性タンパク質及び/又はペプチド(AF)による生体の治療が、コンパートメント症候群(CS)において、栄養、老廃物、代謝産物、イオン、水及び/又は他の分子を回復及び正常化することを発見した。従って、驚くべきことに、抗分泌性タンパク質及びペプチドが例えば細胞から及び血管から、閉ざされたコンパートメント(CC)中に転送される水、イオン、代謝産物及び物質の転送を回復及び/又は正常化することを発見した。これにより、抗分泌性タンパク質は、損傷する影響を低下させ及び/又は損傷する影響に対抗し、同様に、細胞から入ってくる及び/又は放出されている物質の内部移行及び/又は放出を防止し得る。抗分泌性タンパク質、その相同体、誘導体、断片及び/又はペプチドは、コンパートメント症候群の初期原因が、出血、外傷、重度の負荷、循環系障害、微生物及び/又はウイルスによる感染、毒物又は該要因の何れかの組み合わせかどうかに拘わらず作用する。従って、抗分泌性タンパク質、その相同体、誘導体、断片及び/又はペプチドは、CCにおける細胞及び組織の生存を改善するのを助ける。その結果として、CSに起因して他の方法で誘発された損傷を低下させることが可能であり、又は予防さえ可能である。
【0026】
現在のところ利用可能な適切な治療法がないので、コンパートメント症候群の薬理学的治療を目的とした改善された薬物に対して長年の切実な必要性が存在する。本発明の抗分泌性タンパク質の有益な効果は、以下の本文において実証される。
【0027】
本発明者は、抗分泌性タンパク質、その相同体、誘導体、断片及び/又はペプチドが、多様な異なる箇所で種々の病因のCSの症例において有益な効果を有することを発見した。特定の科学的説明に本発明を限定することを望むものではないが、現在のところ、抗分泌性タンパク質及びペプチド(AF)が、このような有力な方法でCSの確立を取り除き、抗分泌性タンパク質及びペプチド(AF)が細胞膜中の脂質ラフト及びカベオラに及ぼすことが発見された発揮効果によって、上述の状態(condition)を正常化させることができるものと考えられている。
【0028】
脂質ラフトは、平均的な大きさがナノメーターの膜ドメインであり、コレステロール及びスフィンゴミエリンが限局的に高濃度であることによって特徴付けられる(Lodish et al.,2004;Pollard & Earnshaw,2002;Ross & Pawlina,2006参照)。脂質ラフトは、物質輸送及び細胞シグナル伝達に関与する多様な膜内在性タンパク質及び表在性膜タンパク質を含有する。このようなシグナル伝達プラットフォームは、細胞膜中に浮遊し、受容体、共役因子、Gタンパク質系、エフェクター、酵素及び化合物、及び基質としての適切な機能に必要な要素で装備され、それにより、特定のイオン、分子及びシグナルを受容及び運搬することが可能である。これらのドメインはさらに、例えば細胞骨格と相互作用しており、さらには、間質液の組成及び代謝回転並びに前記間質液の圧力に影響を及ぼす。フロティリン1とは、脂質ラフトの有病率(prevalens)のインジケーターであるタンパク質である。脂質ラフトの別のマーカーは、スフィンゴ脂質GM1である。さらに、広範な種類の哺乳動物
細胞において示すことの可能な瓶状の陥入であり、小胞輸送及びシグナル伝達並びに例えばウイルスの取り込み、内部移行及びさらなる細胞内プロセッシング等の重要な細胞機能のための部位であるカベオラと、脂質ラフトが関連している。ウイルスだけでなく微生物の放出及び内部移行ともさらに関連しているカベオラの代謝回転がある。増殖因子受容体、炎症性シグナル受容体、神経伝達物質受容体並びに神経伝達物質、イオンチャネル、アクアポリン及び他の輸送体の再取り込みのためのシステムに関する脂質ラフト及びカベオラの細胞膜においてクラスター形成がある。脂質ラフト及びカベオラは、各モーメントで、細胞及び器官の優勢な機能と関連した迅速で動的な変化を受ける。
【0029】
本発明者は最近、抗分泌性タンパク質、抗分泌性活性及び/又は等価の機能的活性及び/又は類似の活性を有するその相同体、誘導体又は断片、又は医薬的に活性のあるそれらの塩が、異常な機能、不十分な機能、機能低下及び/又は機能亢進のような細胞膜における脂質ラフト及び/又はカベオラの機能障害を治療及び/又は予防する上で有益な効果を有することを証明することができた。
【0030】
従って、抗分泌性タンパク質、等価の機能活性を有するその誘導体、相同体及び/又は断片、及び/又は医薬的に活性のあるそれらの塩は、細胞膜中の脂質ラフト及び/又はカベオラの機能障害に有利な効果を及ぼすことが示され、それゆえ、細胞膜中の脂質ラフト及び/又はカベオラの構造、分布及び複数の機能をモニターし及び/又は有益な影響を与えるために使用可能である。このような有益な影響の例は、機能低下又は機能亢進等の異常な機能に対抗すること、脂質ラフト又はカベオラを構造的及び機能的に回復及び/又は正常化すること、疾患、傷害、修復プロセス及び他の機能障害における生存及び/又は救出を改善することであり得る。さらに、該抗分泌性タンパク質は、細胞産物の細胞内輸送及び放出をモニターするために、並びに組織構成体の分布を正規化するために採用され得る。
【0031】
CSの切迫した進行に関して高い危険性のある状態の例は、出血と関連した又は関連していないの何れかである外傷、重度の負荷、腫瘍又は脚等の四肢又は胸部に対する実質的な傷害(例えば、心臓タンポナーデ)である。筋肉又は腱にかかる極度の負荷は、CSの徴候を同様に引き起こし得る。同じことは、器官、組織又は関節の感染においてもいえる。微生物毒素並びに、マイコバクテリア、シュードモナス、クラミジア、球菌、ブルセラ及びリステリア等の細菌を含む微生物並びに広範な範囲のウイルスは、原因となる媒介物である。例えば、薬物の過剰な使用並びに神経伝達物質、粘液、酵素及びウイルスの放出は、他の病原性化合物である。原発腫瘍又は転移性の腫瘍、及び出血は、CSを潜在的に生じる原因に関する例のリストに加わる。
【0032】
本文脈において、調査しようとするコンパートメント中の間質液圧の測定は、導光ガラス繊維の先にあるセンサーを用いて実際の圧力を測定することによって実施される。従って、区画において及びある症例においてはまた隣接する細胞において優勢である圧力に関する信頼できる値が得られる。
【0033】
例えば多くの固形腫瘍が、高い間質液圧を有し、腫瘍細胞と血液及びリンパの循環との間の経毛細血管輸送を妨害することは、文献から公知である。これにより、細胞毒性薬物等の治療薬の取り込みが不十分になるため、腫瘍治療に関して障壁が作られる(Heldin et al.,2004)。さらに、放射線治療でのフリーラジカルの発生が、制限された血液循環による酸素の能力の制限によって不十分になる。従って、間質液圧を低下させることによって癌治療の有効性を改善する新たな治療スケジュールに関する必要性が大きい。
【0034】
抗分泌性タンパク質及びペプチド(AF)の使用は、実施例に記載されている組織、器官及び解剖学的構造に限定されるものではなく、上昇した間質組織液圧によって、及び特定物質の取り込み及び放出によって良く特徴付けられるさらなる症状及び疾患を含む。
【0035】
本発明の医薬組成物は、一脈絡において、局所的に、原部位局所的に(in situ locally)、経口的に、鼻内で、皮下的に及び/又は全身的に、血管を介して又は気道を介して適用することによって投与することが可能である。
【0036】
抗分泌性因子とは、身体に自然に存在するタンパク質の1クラスである。ヒトの抗分泌性因子タンパク質は、41kDaタンパク質であり、脳下垂体から単離される場合、382個のアミノ酸を含む。本発明に従ったコンパートメント症候群効果に関する活性部位は、タンパク質のN末端近くの領域中に位置し、配列番号6のアミノ酸1〜163に、又はこの領域の断片に最も位置しているようである。
【0037】
本発明者は、抗分泌性因子が、全ての細胞において存在する成分、26Sプロテアソームのサブユニット、より具体的には19S/PA700キャップを構成する、Rpn10とも呼ばれるタンパク質S5aとある程度相同であることを証明した。本発明において、抗分泌性タンパク質とは、同一の機能特性を有する相同的タンパク質の1クラスとして定義される。プロテアソームは、過剰なタンパク質の分解、並びに短命の、望ましくない、変性した、ミスフォールディングの及びさもなくば異常なタンパク質の分解と関連した多数の機能を有する。さらに、抗分泌性因子/S5a/Rpn10は、細胞成分、最も明らかにはタンパク質、の分布及び輸送に関与する。
【0038】
本発明の抗分泌性タンパク質及び/又はペプチドの相同体、誘導体及び断片は全て、コンパートメント症候群の治療及び/又は予防のための薬剤を製造するために使用でき、並びにコンパートメント症候群を治療するための方法において使用できる類似の生物活性を有する。本文脈における相同体、誘導体及び断片は、天然の抗分泌性タンパク質の少なくとも4個のアミノ酸を含み、これは、コンパートメント症候群の治療及び/又は予防における抗分泌性因子の生物活性を最適化するために、1つ又はそれ以上のアミノ酸を変化させることによってさらに修飾されていてもよい。
【0039】
さらに、本発明の抗分泌性タンパク質、ペプチド、相同体、誘導体及び/又は断片のアミノ酸配列と、少なくとも72%、75%、77%、80%、82%、85%、87%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるなど、少なくとも70%同一である何れかのアミノ酸配列も、本発明の範囲内にであるとされる。本文脈において、相同性及び同一性という用語は、交換可能に使用され、すなわち別のアミノ酸配列と特定の度合の同一性を有するアミノ酸配列は、特定のアミノ酸配列との特定の度合の相同性を有する。
【0040】
本文脈において、誘導体によって企図するところは、本明細書で定義される抗分泌性活性を有し、直接的に又は修飾若しくは部分的置換によって別の物質から誘導されるタンパク質であり、1つ又はそれ以上のアミノ酸が、修飾された又は非天然アミノ酸であり得る別のアミノ酸によって置換されている。例えば、本発明の抗分泌性因子誘導体は、N末端及び/又はC末端保護基を含み得る。N末端保護基の一例には、アセチルが含まれる。C末端保護基の一例には、アミドが含まれる。
【0041】
参照アミノ酸配列と例えば少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、その相同体、ペプチド及び/又は断片によって企図することろは、例えばペプチドが、参照配列と同一であるが、例外は、前記アミノ酸配列が、参照アミノ酸配列の各100個のアミノ酸あたり5個までの点変異を含み得るということである。言い換えれば、参照アミノ酸配列と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを得るために、参照配列のアミノ酸の5%までを欠失させるか又は別のアミノ酸と置換でき、又は参照配列中のアミノ酸全体の5%までの数のアミノ酸を、参照配列中に挿入し得る。参照配列のこれらの変異は、参照アミノ酸配列のアミノ末端若しくはカルボキシ末端の位置で、又は参照配列列中のアミノ酸の中で個々に、若しくは参照配列内の1つ若しくはそれ以上の連続した基中散在するそれら末端の位置の間のどこかに存在していてもよい。
【0042】
本発明において、局所アルゴリズムプログラムは、同一性を決定するのに最も良く適している。局所アルゴリズムプログラム(Smith−Waterman等)は、1つの配列中のサブ配列を、第二の配列中のサブ配列と比較し、サブ配列の組み合わせ及びそれらのサブ配列のアラインメントを発見し、これにより最高の全体的類似スコアが得られる。許容される場合、内部ギャップは、ペナルティ化される。局所アルゴリズムは、単一ドメイン又は共通して1つだけの結合部位を有する2つのマルチドメインタンパク質を比較するのに十分機能する。
【0043】
同一性及び類似性を決定する方法は、公的に利用可能なプログラムにおいてコード化される。2つの配列間の同一性及び類似性を決定する好ましいコンピュータプログラム方法には、GCGプログラムパッケージ(Devereux,J et al(1994))BLASTP、BLASTN及びFASTA(Altschul,S.F.et al(1990))が含まれるが、それらに限定されるわけではない。BLASTXプログラムは、NCBI及び他の源(BLAST Manual,Altschul,S.F.et al,Altschul,S.F.et al(1990))から公的に利用可能である。各配列分析プログラムは、デフォルトスコア化マトリックス及びデフォルトギャップペナルティを有する。一般的に、分子生物学者により、使用されるソフトウェアプログラムによって確立されたデフォルト設定が使用されると予想される。
【0044】
抗分泌性タンパク質若しくはペプチド又は本明細書に規定される抗分泌性活性を有するそれらの相同体、誘導体若しくは断片は、5〜16個のアミノ酸、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19若しくは20個又はそれ以上のアミノ酸など、4個又はそれ以上のアミノ酸を含み得る。他の好ましい実施態様において、抗分泌性因子は、42、43、45、46、51、80、128、129又は163個のアミノ酸からなる。好ましい実施態様において、抗分泌性因子は、5、6、7、8又は16個のアミノ酸からなる。
【0045】
好ましい実施態様において、前記抗分泌性タンパク質は、前記卵黄中で少なくとも1000FIL単位/mLの濃度で提供される。本文脈において、WO00/38535及びSE9000028−2において開示されるように、1FIL単位は、抗分泌性因子の供給なしの対照と比較して腸における流体流れが50%低下することに相当する。
【0046】
別の好ましい実施態様において、本発明の抗分泌性タンパク質又はペプチド又は抗分泌性活性を有するそれらの相同体、誘導体若しくは断片は、次式
X1−V−C−X2−X3−K−X4−R−X5
に従った配列からなり、式中、X1は、Iであり、配列番号6のアミノ酸1〜35であり、又は欠失しており、X2は、H、R又はKであり、X3は、S又はLであり、X4は、T又はAであり、X5は、配列番号6のアミノ酸43〜46、43〜51、43〜80又は43〜163であり、又は欠失している。
【0047】
本発明の抗分泌性因子は、インビボ又はインビトロで、例えば組換え生産し、合成的に及び/又は化学的に合成し、及び/又はブタ脳下垂体若しくはトリの卵由来のような抗分泌性因子の天然源から単離することが可能である。生産後、抗分泌性因子は、化学的又は酵素的切断によって、より小さな抗分泌性活性断片に、又はアミノ酸の修飾によって、さらに処理することができる。精製によって純粋な形態で抗分泌性因子を得ることは今のところ可能ではない。しかしながら、WO97/08202及びWO05/030246において既に記載されているように、生物活性のある抗分泌性因子タンパク質を組換えで生産又は合成で生成することは可能である。WO97/08202には、7〜80個のアミノ酸のこのタンパク質の生物活性のある断片の生産も記載されている。
【0048】
本発明の抗分泌性因子は、N末端及び/又はC末端保護基をさらに含み得る。N末端保護基の一例には、アセチルが含まれる。C末端保護基の一例には、アミドが含まれる。
【0049】
本発明の好ましい実施態様において、抗分泌性因子は、配列番号1〜6から選択されたものであり、すなわちアミノ酸の一般的な1文字略記を使用して、VCHSKTRSNPENNVGL(配列番号1、本文脈ではAF−16とも呼ばれる)、IVCHSKTR(配列番号2)、VCHSKTR(配列番号3)、CHSKTR(配列番号4)、HSKTR(配列番号5)、又は配列番号6に従った抗分泌性タンパク質のアミノ酸配列である。配列番号1、2及び3は、例えばWO05/030246において既に記載されている。付随する配列の列挙において特定されるように、上述の特定された配列中のアミノ酸の幾つかは、他のアミノ酸によって置換され得る。本段落の以下において、特定のアミノ酸配列中の特定のアミノ酸の位置は、左から計算され、最もN末端のアミノ酸を、その特定の配列中の位置1にあるものとして示す。以下に特定したように、何れかのアミノ酸置換は、その配列中の何れかの他のアミノ酸置換とは独立して実施され得る。配列番号1において、位置2におけるCは、Sによって置換され得、位置3におけるHは、R又はKによって置換され得、位置4におけるSは、Kと置換され得、及び/又は位置6におけるTは、Aと置換され得る。配列番号2において、位置3におけるCは、Sによって置換され得、位置4におけるHは、R又はKによって置換され得、位置5におけるSは、Lによって置換され得、及び/又は位置7におけるTは、Aによって置換され得る。配列番号3において、位置2におけるCは、Sによって置換され得、位置3におけるHは、R又はKによって置換され得、位置4におけるSは、Lによって置換され得、及び/又は位置6におけるTは、Aによって置換され得る。配列番号4において、位置1におけるCは、Sによって置換され得、位置2におけるHは、R又はKによって置換され得、位置3におけるSは、Lによって置換され得、及び/又は位置5におけるTは、Aによって置換され得る。配列番号5において、位置1におけるHは、R又はKによって置換され得、位置2におけるSは、Lによって置換され得、及び/又は位置4におけるTは、Aによって置換され得る。
【0050】
また、本発明によって企図されるのは、配列番号1〜6の断片の何れかのうちの2つ又はそれ以上の組み合わせであり、また場合により抗分泌性因子の豊富な卵黄との組み合わせである。
【0051】
また、本発明によって企図されるのは、抗分泌性因子の豊富な卵黄の投与によってコンパートメント症候群を治療及び/又は予防する可能性である。SE9000028−2にはトリにおいて、抗分泌性因子の形成を、どのように刺激することができるか、次に抗分泌性因子を、卵黄の消化物からどのように回収又は濃縮するかが記載されている。WO00/38535にはさらに、このように回収され又は濃縮された抗分泌性因子を、多かれ少なかれ単離された生産物として、医薬製品中に製剤化され、動物又はヒトへ、食事又は食餌と共に、どのように投与することができるかが記載されている。それゆえ、また本願において企図されるのは、医薬組成物等の製品を調製するための、コンパートメント症候群を治療及び/若しくは予防するための、又はこのような治療方法に使用するための、抗分泌性因子の豊富な卵黄の使用である。
【0052】
本発明の一実施態様において、本発明の医薬組成物は、医薬的に許容される添加剤をさらに含む。医薬的に許容される添加剤及び本発明に従った使用のための該添加剤の最適濃度に関する選択は、実験によって当業者によって容易に決定され得る。本発明の使用のための医薬的に許容される添加剤には、溶剤、緩衝剤、保存料、キレート化剤、抗酸化剤、安定剤、乳化剤、懸濁化剤及び/又は賦形剤が含まれる。本発明の医薬組成物は、例えば、「Remington:The science and practice of pharmacy」,第21版、ISBN 0−7817−4673−6又は「Encyclopedia of pharmaceutical technology」,第2版、Swarbrick J.編、ISBN:0−8247−2152−7に記載の従来の製薬プラクティスに従って製剤化され得る。医薬的に許容される添加剤とは、組成物を投与することになる個体に対して実質的に無害である物質である。このような添加剤は通常、健康に関する国家当局によって定められた必要条件を満たす。例えば英国薬局方、米国薬局方及び欧州薬局方等の公的薬局方は、医薬的に許容される添加剤に関する基準を設定している。
【0053】
以下は、本発明の医薬組成物における最適な使用のための関連する医薬組成物の概説である。概説は、特定の投与経路に基づいている。しかしながら、医薬的に許容される添加剤が異なる剤形又は組成物において採用され得る場合において、当然ながら特定の医薬的に許容される添加剤の適用が、特定の剤形又は添加剤の特定の機能に限定されるわけではない。本発明が、以下に記載される組成物の使用に限定されるわけではないことは強調されるべきである。
【0054】
非経口的組成物:
全身的適用のため、本発明組成物は、マイクロスフェア及びリポソームを含む従来の非毒性の医薬的に許容される担体及び添加剤を含有し得る。経皮送達は、全身投与のための代替的な経路を構成する。
【0055】
本発明の使用のための組成物には、固体、半固体及び液体の組成物の全種類が含まれ得る。
【0056】
医薬的に許容される添加剤には、溶剤、緩衝化剤、保存料、キレート化剤、抗酸化剤、安定剤、乳化剤、懸濁化剤及び/又は賦形剤が含まれ得る。種々の作用剤の例は、以下に付与される。
【0057】
多様な作用剤の例:
溶剤の例には、水、アルコール、血液、血漿、髄液、腹水及びリンパ液が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0058】
緩衝剤の例には、クエン酸、酢酸、酒石酸、乳酸、リン酸水素(hydrogen phosphoric acid)、炭酸水素塩、リン酸塩、ジエチルアミン等が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0059】
キレート化剤の例には、EDTAナトリウム及びクエン酸が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0060】
抗酸化剤の例には、ブチル化ヒドロキシルアニソール(BHA)、アスコルビン酸及びその誘導体、トコフェロール及びその誘導体、システイン、並びにそれらの混合物が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0061】
賦形剤及び崩壊剤の例には、乳糖、ショ糖、エムデックス(emdex)、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、マンニトール、デンプン及び微結晶セルロースが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0062】
結合剤の例には、ショ糖、多糖、ソルビトール、アカシアゴム、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、デンプン、セルロース、キトサン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン及びポリエチレングリコールが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0063】
一脈絡において、本発明の医薬組成物は、患者への末梢静脈内注入を介して又は筋肉内注射若しくは皮下注射を介して、又は口腔(buccal)、肺、鼻、皮膚又は経口の経路を介して局所的に投与することが可能である。さらに、外科的に挿入されたシャントを通して患者の脳室中に医薬組成物を投与することも可能である。
【0064】
一実施態様において、本発明に従って使用される医薬組成物は、眼内、局所的、鼻腔内、経口、皮下及び/又は全身投与用に製剤化される。好ましい実施態様において、本発明の組成物は、スプレー、エアゾールで、吸入器若しくは噴霧器で経鼻的な及び/又は気道に吸入するための、懸濁液として、又はさらにより好ましくは、粉末として適用することによって投与される。
【0065】
抗分泌性因子を含む粉末の投与は、安定性及び投与量の点においてさらなる利点を有する。本発明に従った医薬組成物は、また、眼内で、鼻腔内で、経口で、皮下的に局所的に適用され及び/又は血管を介して全身的に適用可能である。好ましい実施態様において、医薬組成物は、静脈内、筋肉内、局所的、経口又は鼻腔内投与用に製剤化される。典型的には、眼に対して局所的適用のために使用される場合、本発明の組成物中の適用される濃度は、1回の適用あたり1μg〜1mg、好ましくは50〜1000μg、好ましくは50〜250μgなど、1回の適用あたり1μg〜10mgであり、1日あたり単回の用量として、又は1日あたり反復された数回として(複数の投与)の何れかであるが、それらに限定されるわけではない。
【0066】
血液に全身的に投与される場合、用量は、1回の適用及び体重kgあたり、0.1μg〜1mgなど、1回の適用及び体重kg及び1日あたり、0.1μg〜10mgの範囲であり、好ましくは1〜50、10〜100、100〜250又は50〜500μg/体重kgなど、1〜1000μg/体重kgであり、1日あたりの単回用量として又は1日あたりに反復される数回としての何れかである。抗分泌性因子の豊富な卵黄が、本発明に従って使用される場合、この製剤は、好ましくは経口的に投与される。
【0067】
従って、本発明は、コンパートメント症候群の治療及び/又は予防のための医薬組成物及び/又は医療用食品を製造するための、抗分泌性タンパク質、又は抗分泌性活性を有するその誘導体、相同体及び/又は断片、及び/又は医薬的に活性のあるそれらの塩の使用に関する。一実施態様において、該抗分泌性タンパク質は、次式
X1−V−C−X2−X3−K−X4−R−X5
に従った配列からなり、式中、X1は、Iであり、配列番号6のアミノ酸1〜35であり、又は欠失しており、X2は、H、R又はKであり、X3は、S又はLであり、X4は、T又はAであり、X5は、配列番号6のアミノ酸43〜46、43〜51、43〜80又は43〜163であり、又は欠失している。別の実施態様において、本発明は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む抗分泌性タンパク質の使用に関する。別の実施態様において、本発明は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む抗分泌性タンパク質の使用に関する。さらに別の実施態様において、本発明は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む抗分泌性タンパク質の使用に関する。さらに別の実施態様において、本発明は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む抗分泌性タンパク質の使用に関する。なおもさらなる実施態様において、本発明は、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む抗分泌性タンパク質の使用に関する。
【0068】
さらに、なおも別の実施態様において、本発明は、配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質である抗分泌性タンパク質又は配列番号6のアミノ酸38〜42を含むその相同体、誘導体及び/又は断片の使用に関する。
【0069】
さらに別の実施態様において、本発明は、配列番号1〜6及び配列番号6に開示されるタンパク質又は配列番号6のアミノ酸38〜42を含むその相同体、誘導体及び/又は断片、又は本明細書に記載される一般式によって開示される配列から選択される2つ又はそれ以上の抗分泌性タンパク質を含む本明細書に開示される医薬組成物の使用に関する。該配列は全て、本発明において使用するのに同等に好ましい。
【0070】
好ましい一実施態様において、前記抗分泌性タンパク質は、前記抗分泌性タンパク質の豊富な卵黄で提供され、該抗分泌性タンパク質は、好ましくは該卵黄中少なくとも1000FIL単位/mLの濃度で提供される。
【0071】
本発明の一実施態様において、前記医薬組成物は、医薬的に許容される添加剤をさらに含む。このような添加剤は、特定の目的に適しているよう選択される任意の好ましい添加剤であり得る。添加剤の例は、本明細書で開示される。
【0072】
本発明の別の実施態様において、該医薬組成物は、眼内、鼻腔内、経口、局所、皮下及び/又は全身投与用に製剤化される。選択される投与経路は、治療しようとする患者の状態並びに患者の年齢及び性別等に応じて変動することになる。
【0073】
別の実施態様において、医薬組成物は、スプレー、エアゾールとして、又は噴霧器若しくは吸入器で投与するために製剤化される。さらに別の実施態様において、本発明は、1回の適用及び体重kgあたり、0.1μg〜1mgなど、1回の適用及び体重kg及び1
日あたり、0.1μg〜10mgの用量で、好ましくは1〜50、10〜100、100
〜250又は50〜500μg/体重kgなど、1〜1000μg/体重kgで血液に対して全身投与するために製剤化される医薬組成物及び/又は医療用食品に関するものであり、1日あたりの単回用量として又は1日あたりに反復される数回としての何れかである。別の実施態様において、該用量は、1回の適用及び体重kg及び1日あたり1〜100μgである。医薬組成物を必要とする患者に分配される前記医薬組成物の量は、治療しようとする患者に応じてもちろん変動することになり、各場合に関して、医療診療者など当業者によって決定されることになる。投与は、単回用量として又は複数の毎日の適用としての何れかで実施可能である。
【0074】
一実施態様において、本発明は、コンパートメント症候群の治療及び/又は予防のための医薬組成物及び/又は医療用食品を製造するための、抗分泌性タンパク質、抗分泌性活性を有するその誘導体、相同体及び/又は断片、及び/又は医薬的に活性のあるそれらの塩の使用に関するものであり、該症候群は、細胞及び組織の異常な腫脹を引き起こす。別の実施態様において、コンパートメント症候群は、筋肉、神経、血管及び/又は腱と関連した通常でない(異常な)負荷、傷害又は疾患によって引き起こされる。筋肉、神経、血管、関節及び/又は腱にかかるこのような通常でない負荷は、例えば、外傷、伸展運動活動で又は高負荷で生じ得る。さらに、薬物は、間質組織液圧の上昇及び細胞の腫脹を引き起こす可能性がある。別の好ましい実施態様において、前記症候群は、微生物によって引き起こされる。本発明の脈絡において、該微生物は、細菌及びウイルス感染であり得、例えば、単純ヘルペスウイルス1型等のヘルペスウイルス科、パポバウイルス科、オルトミクソウイルス科、フラビウイルス科、トガウイルス科、ヘパドナウイルス科、ヒト免疫不全ウイルス又はC型肝炎ウイルス等のRNAウイルス又はDNAウイルスの何れかによるものであり、それらは全て本発明によって包含される。別の実施態様において、本発明は、ウイルス及び/又は微生物感染、及びウイルス及び/又は微生物感染と関連した症状の治療及び/又は予防のための医薬組成物及び/又は医療用食品を製造するための、抗分泌性タンパク質、抗分泌性活性を有するその誘導体、相同体及び/又は断片、及び/又は医薬的に活性のあるそれらの塩の使用に関する。本発明によって範囲に含まれる細菌感染の例は、マイコバクテリウム属、シュードモナス属、クラミジア属、ブルセラ属及びリステリア属等の病原性菌株による感染を含む。しかしながら、本発明は、これらに限定されるわけではない。本発明の一実施態様において、細菌等の前記微生物は、酵素、毒素及び/又は色素を放出し、及び/又は隣接する細胞及び組織による反応性因子の形成及び/又は放出を誘導する。さらに、本発明の脈絡において、前記微生物は、原生生物界、原生動物亜界、蠕虫又は真菌からなる群より選択することが可能である。
【0075】
別の実施態様において、前記症候群は、プリオンによって引き起こされる。プリオンは、ウイルスと類似するが核酸を欠失している感染性タンパク質粒子であるタンパク性感染粒子として定義することができ、スクレイピー及び他の神経系の変性疾患に関与する媒介物であると考えられている。プリオンは、狂牛病、スクレイピー、及び関連する状態及び疾病に対応する、ヒト型を構成する孤発性の、遺伝的及び後天性の変異体を含むクロイツフェルト・ヤコブ病等の多くの神経系障害の原因であると考えられるタンパク質の一種である。さらに別の実施態様において、前記症候群は、細胞又は組織中における生産物の異常な輸送によって引き起こされる。
【0076】
本発明のさらに別の実施態様において、前記症候群は、虚血を引き起こす。虚血は、低酸素状態として定義可能であり、これは通常、動脈血液供給の閉塞又は組織に低酸素状態をもたらす不適切な血流に起因する。さらに別の実施態様において、前記症候群は、薬物及び/又は治療上の若しくは診断上の測定によって引き起こされる。
【0077】
本発明の別の実施態様において、コンパートメント症候群は、頭蓋中及び/又は脳中及び/又は脊椎及び脊髄中での出血、及び/又は動脈、静脈若しくは心臓の壁の拡張によって形成される嚢である動脈瘤からの出血等の出血によって引き起こされる。別の実施態様において、前記症候群は、心臓、精巣、卵巣、腺、リンパ系器官及び/又は腎臓等の莢膜によって閉ざされた器官又は構造のタンポナーデによって引き起こされる。心臓タンポナーデは、心筋(心臓の筋肉)と心膜(心臓の外側を覆う嚢)との間の空間への血液又は流体の蓄積によって引き起こされる心臓の圧迫である。さらに別の実施態様において、前記症候群は、身体中のどこかに存在する良性及び悪性の腫瘍によって引き起こされ、及び/又は腫瘍及び/又は隣接する構造の治療に関連する。腫瘍は、薬物及び治療上の測定に対する腫瘍細胞の利用能を低下させ得る上昇した間質内圧によって特徴付けられる。さらに、腫瘍中で上昇した圧力は、転移性播種に至る傾向に影響を及ぼし得る。さらに、腫瘍は、サイズにおける膨張によって、隣接する正常組織及び器官において上昇した圧力を引き起こし、CSを生じさせ得る。従って、CSは、腫瘍を罹患している多くの犠牲者において頻繁かつ重度の合併症である。さらに別の好ましい実施態様において、前記症候群は、免疫応答によって引き起される。さらに、一実施態様において、前記症候群は、損傷を引き起こすか、又はそれに代わるものとして、椎間板に対する傷害又は外傷の結果となり得る。
【0078】
さらなる実施態様において、前記症候群は、関節及び/又は腱及び/又は靭帯の細胞毒性腫脹によって引き起こされる。さらに、本発明の別の側面において、前記症候群は、神経及び/又は血管壁の細胞毒性依存性腫脹によって引き起こされる。さらに別の実施態様において、前記症候群は、薬物及び/又は医薬組成物によって引き起こされる。さらに別の実施態様において、前記症候群は、X線、高エネルギー照射、局所的冷却、局所的加熱、光療法による腫瘍の治療により、及び腫瘍の治療に使用される薬物により引き起される副作用によって引き起こされる。
【0079】
別の側面において、本発明は、コンパートメント症候群の治療及び/又は予防方法を必要とする哺乳動物において、コンパートメント症候群を治療及び/又は予防するための方法に関するものであり、該方法は、抗分泌性タンパク質、又は抗分泌性活性を有するその誘導体、相同体及び/又は断片、及び/又は医薬的に活性のあるそれらの塩を含む医薬組成物の有効量を投与することを含む。一実施態様において、本発明は、前記抗分泌性タンパク質が、次式X1−V−C−X2−X3−K−X4−R−X5に従った配列からなる方法に関するものであり、式中、X1は、Iであり、配列番号6のアミノ酸1〜35であり、又は欠失しており、X2は、H、R又はKであり、X3は、S又はLであり、X4は、T又はAであり、X5は、配列番号6のアミノ酸43〜46、43〜51、43〜80又は43〜163であり、又は欠失している。別の実施態様において、本発明は、前記抗分泌性タンパク質が、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む方法に関する。さらに別の実施態様において、本発明は、前記抗分泌性タンパク質が、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む方法に関する。さらに別の実施態様において、本発明は、前記抗分泌性タンパク質が、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む方法に関する。さらに、本発明は、前記抗分泌性タンパク質が、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む方法に関する。さらに別の実施態様において、本発明は、前記抗分泌性タンパク質が、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む方法に関する。さらに別の実施態様において、本発明は、前記抗分泌性タンパク質が、配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質、又は配列番号6のアミノ酸38〜42を含むその相同体、誘導体及び/又は断片である方法に関する。一実施態様において、本発明は、前記医薬組成物が、配列番号1〜6及び配列番号6のタンパク質又は配列番号6のアミノ酸38〜42を含むその相同体、誘導体及び/又は断片、又は本明細書で一般式によって記載される配列から選択される2つ又はそれ以上の抗分泌性タンパク質を含む方法に関する。さらに、一実施態様において、本発明は、前記抗分泌性タンパク質が、該抗分泌性タンパク質の豊富な卵黄で提供され、該抗分泌性タンパク質は、好ましくは該卵黄で少なくとも1000FIL単位/mLの濃度で提供される、本明細書に開示される方法に関する。さらに別の実施態様において、本発明は、前記医薬組成物が、医薬的に許容される添加剤をさらに含む方法に関する。一実施態様において、前記医薬組成物は、眼内、鼻腔内、経口、局所、皮下及び/又は全身投与用に製剤される。さらに別の実施態様において、該医薬組成物及び/又は医療用食品は、スプレー、エアゾールとして、又は噴霧器若しくは吸入器で投与するために製剤化される。また、本発明の実施態様によって包含されるのは、医薬組成物を、1回の適用及び体重kg及び1日あたり、0.1μg〜10mgの用量で、好ましくは、1回の適用及び体重kg及び1日あたり1〜1000μgで血液に全身投与するために製剤化する、方法である。該方法の一実施態様において、投与は、単回用量として又は日に複数の適用としての何れかで実施される。本発明は、コンパートメント症候群の治療及び/又は予防方法を必要とする哺乳動物において、コンパートメント症候群を治療及び/又は予防するための方法にも関するものであり、該方法は、抗分泌性タンパク質又は、抗分泌性活性を有するその誘導体、相同体及び/又は断片、及び/又は医薬的に活性のあるそれらの塩を含む医薬組成物の有効量を投与することを含み、上記症候群は、細胞及び組織の異常な腫脹を生じる。一実施態様において、前記症候群は、筋肉、神経、血管、関節及び/又は腱と関連した通常でない負荷、傷害又は疾患によって引き起こされる。別の実施態様において、前記症候群は、微生物によって引き起こされる。さらに別の好ましい実施態様において、前記症候群は、ウイルス感染によって引き起こされる。一実施態様において、このようなウイルス感染は、ヘルペスウイルス科、単純ヘルペスウイルス1型、フラビウイルス科、パポバウイルス科、オルトミクソウイルス科、ヘパドナウイルス科、トガウイルス科、C型肝炎ウイルス及び/又はヒト免疫不全ウイルス等のDNAウイルスによって又はRNAウイルスによって引き起こされ、これらは全て本発明によって包含される。
【0080】
好ましい一実施態様において、本発明は、コンパートメント症候群の治療及び/又は予防を必要とする哺乳動物において、コンパートメント症候群を治療及び/又は予防するための方法にも関するものであり、該方法は、抗分泌性タンパク質、又は抗分泌性活性を有するその誘導体、相同体及び/又は断片、及び/又は医薬的に活性のあるそれらの塩を含む医薬組成物の有効量を投与することを含み、上記症候群は、原生生物界、原生生物亜界、蠕虫、真菌、細菌等の微生物によって引き起こされるが、それらに限定されるわけではない。一実施態様において、前記細菌は、マイコバクテリウム属、シュードモナス属、クラミジア属、球菌、ブルセラ属及びリステリア属からなる群より選択される。さらに別の実施態様において、細菌等の微生物は、酵素、毒素及び/又は色素を放出し、及び/又は隣接する細胞及び組織による反応性因子の形成及び/又は放出を誘導する。本発明の別の実施態様において、前記症候群は、プリオンによって引き起こされる。さらに別の実施態様において、前記症候群は、細胞又は組織中における生産物の異常な輸送によって引き起こされる。さらに別の実施態様において、前記症候群は、虚血を引き起こす。さらに別の実施態様において、前記症候群は、薬物及び/又は治療上の若しくは診断上の測定によって引き起こされる。さらに、本発明は、前記症候群が、脳及び脊髄の異常な機能を引き起こす実施態様も包含する。さらに別の実施態様において、前記症候群は、頭蓋中及び/脳中及び/又は脊椎及び脊髄中における出血、及び/又は動脈瘤からの出血によって引き起こされる。さらに別の実施態様において、前記症候群は、心臓、腎臓、精巣、卵巣、腺及び/又はリンパ系器官等の莢膜によって閉ざされた器官又は構造のタンポナーデによって引き起こされる。さらに別の実施態様において、前記症候群は、身体に存在する良性及び/又は悪性の腫瘍によって引き起こされ、又は腫瘍及び隣接する構造の治療に関連する。
【0081】
さらに、また本発明によって包含されるのは、前記症候群が、免疫応答によって生じる実施態様である。別の実施態様において、前記症候群は、椎間板に対する損傷を引き起こす。
【0082】
さらに、本発明の医薬組成物の有効量を必要とする哺乳動物に医薬組成物の有効量を投与することを含む方法、及び/又は抗分泌性タンパク質又は抗分泌性活性を有するその誘導体、相同体及び/又は断片及び/又は医薬的に活性のあるそれらの塩を含む医薬組成物の医学的第二用途が、コンパートメント症候群と関連すると本明細書で記載される全ての状態に向けられることは、当然であり、及び明白である。
【実施例】
【0083】
実験セクション
実施例1
単純ヘルペスウイルス1型の溶液(HSV−1;2762菌株、バッチ041028;1.7×107PFU/mL;25μL)を右の鼻孔中に注入することによって、成体ラットを感染させた。動物の1群(n=6)には、感染10分後に、右の鼻孔中にAF−16を25μL(10μg)を投与した後、実験が6日目に終了するまで、1日に2回、毎朝午前8時及び毎晩午後6時にAF−16の同一用量を注入した。HSV−1感染したさらなるラット(n=6)には、同じ時間間隔で、ビヒクルであるリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)25μLを経鼻で投与した。第6日目に、動物を麻酔し、頭部の皮膚を通して外科的に切開し、頭蓋骨を骨膜及び結合組織からはずした。直径約1mmの孔を右頭頂骨にドリルで開け、微小圧力センサーを脳中へ又は側脳室中へ3〜5mm挿入した。非常に小さな直径(約0.4mm)の光ファイバー圧力測定システム(Samba System 3200 & Samba Preclin 420センサー;Samba Sensors AB,V Frolunda,Sweden)を使用した。非感染性の正常ラットは、4〜8mmHgの範囲の頭蓋内圧(ICP)を有しており、時には12mmHgにまで達した(図2c)。ビヒクルのみで処理されたHSV−1感染ラットは、30〜45mmHGまでと同程度の高圧を有しており(図2a)、増大する重症度の神経学的機能障害の症状を反映するように、動物にかなり影響を及ぼしていると測定された。対照的に、感染時からAF−16で1日2回処置されたHSV−1感染ラットは、8〜14mmHgのほぼ正常なICPを有していた(図2b)。重要な観察は、AF−16による1日2回の鼻腔内処置が、濡れた鼻、赤眼、唾液分泌過多、呼吸困難、運動の不安定性、激越、攻撃性、嗜眠、気分の急速な変化、反復運動、痙攣、不全麻痺の徴候及び最終的には意識消失に至るなどの神経学的機能障害の発症を予防することであった。
【0084】
はっきりと明白な症状を有するさらなるHSV−1感染動物を、10又は25μgのAF−16で同様に鼻腔内処置したが、開始は5、6又は7日目であり、すなわちそれまでの日においてビヒクルを与えた後であった。このような症例では、上述した神経学的機能障害の症状は、30分以内で低下し、1時間後にもはや実証可能ではなかった。同時に、このような感染させ及びAF−16処理したラットにおけるAF−16の有益な圧力低下効果は、1時間以内で検出可能であり、数時間持続した。従って、急性にAF−16処置したラットの何れも、有害な持続的徴候を全く有さず、従って、CSは発症しなかった。
【0085】
くも膜下空間及び側脳室中にウシ血清アルブミン(EBA)で接合した色素エバンスブルーを注入することにより、正常ラットにおいて、15〜30分後にマーカーを鼻粘膜中で証明出来る結果を得た(図5b)。このことは、CSFのかなりの部分が、鼻粘膜中のリンパ管へ、さらには頸部リンパ腺を通して排液され、青(蛍光顕微鏡によって調査する場合、赤)に変ることを示した。神経学的機能障害の徴候を有するHSV−1感染したラットは、EBAを同様に注入した場合、篩状板も鼻粘膜も染色されないことを示した(図5a)。そのことは、図の右半分が赤に染色していない上述の図(図5a)において見られた。しかしながら、HSV−1感染ラットにおける10又は25μgのAF−16による鼻腔内処置は、正常な非感染性ラットと同様の図と変った。従って、AF−16の鼻腔内注入は、HSV−1感染によって誘発されるCSFの流出の遮断を逆転させた。これにより、CSFの流出は回復し、ICPは正常に戻った。
【0086】
本発明者は、齧歯類のAF−16による処置が、HSV−1脳炎の臨床症状を最小限にし、そして最も明白には、HSV−1感染したものと、ビヒクルであるPBSで処理されただけのもので測定された非常に高いICPによる有害な影響とは対照的に、普通なら高いICPを正常化したと結論付けた。脳炎を罹患する犠牲体が、急性だけでなく持続する脳損傷をも引き起こしているとき主として重要である高ICPを有することは、臨床診療から公知であった。実際、高ICPは、最終的に神経学的機能障害及び死亡の原因であるために、鍵となる重要性があると考えられている。従って、本発明者の実験1の結果は、CSに関する基準を満たす状態に罹患している身体へのAF−16の投与が、病理学的に高いICPに対して迅速に対抗し、ICPを低下させ、さらには、ICPを正常レベルにし、神経学的機能不全の発症を予防し、脳の機能不全又は持続型の全身性の機能不全が全く存在しないか又は極くわずかしか残らず生存を促進した。
【0087】
実施例2
第二の実験において、本発明者は、実施例1において示されたように、高いICPを低下させる用量で、AF−16が、HSV−1感染した成体齧歯類の生存も改善するかどうかを調査した。従って、右の鼻孔内に単純ヘルペスウイルス1型の溶液25μL(HSV−1;2762菌株、バッチ041028;1.7×107PFU/mL)を注入することによって、ラットを感染させた。動物の半分には、右の鼻孔中にAF−16の15μL(1、10又は25μg)を10分後に投与した後、実験が14日目に終了するまで、毎朝午前8時及び毎晩午後6時にAF−16の同一用量を注入した。HSV−1感染したラットの群のもう半分には、ビヒクルであるPBS25μLを同じ時刻のスケジュールで投与した。行動学的機能障害又は一般的な病気の徴候に関して、動物を毎日幾度も入念に観察した。そのような場合、動物を犠牲にした。図3は、全てHSV−1に感染している動物に関する生存率を示している。1μgのAF−16で処置したラット(n=15;上側の線)は、実験が進行している2週間の終了時に、有意に、より高い程度まで、すなわち約60%生存していた(図3)。対照的に、ビヒクルのみを与えたHSV−1感染したラット(n=15)は、大部分が死亡し、10%のみが、検査期間の終了時、すなわち第14日目になおも生存していた(図3)。ビヒクル処理された感染ラットは全て、神経学的機能障害の徴候を発症させた。10μg又は25μgのAF−16で毎日2回ずつ鼻腔内処置すると、感染した動物は全て生存し、神経学的機能障害の何れの徴候も示さなかった。ホルマリン中で固定され、組織病理学的及び免疫組織化学的調査に関する所定の手法(Zhu,Wang & Hansson 2003参照)に従って処理された検体の光学顕微鏡による観察により、感染させた後ビヒクルで処理した動物において最も明白に、海馬、小脳及び脳幹における炎症性変化、変性変化及び反応性変化が明らかであった。損傷の範囲及び重症度が、高いICPのレベル及び生存時間への曝露持続期間に依存していることは強調されるべきであった。感染し、ビヒクル処理されたラット由来の脳の免疫組織化学的調査は、例えば、脈絡叢において免疫応答性のあるフロティリン1及びアクアポリン1が、もはやほとんど実証不可能であることを示した。対照的に、明確なフロティリン1及びアクアポリン1の免疫応答性は、正常な非感染性の非処理のラットの脳と同様に、AF−16で処置された感染動物における脈絡叢において容易に実証可能であった。従って、AF−16による処置は、細胞の喪失を妨げ、血管、シナプスを含むニューロン及び神経系中の支持細胞等の秩序だった構造の発生及び分布の正常化を促進した。さらに、脈絡叢におけるフロティリン1及びアクアポリン1の免疫応答性の免疫組織化学的に実証可能な喪失は、フロティリン1染色の消失によって示される脂質ラフトの広がり、分布及び組織化の重度の障害、並びにコンパートメント間の水の障害された分布、例えばアクアポリン1の低い免疫応答性によって明らかなCSFの生成、代謝回転及び流出を強力に示す。HSV−1脳炎を有する動物のAF−16処置が、中枢神経系において必須の機能を正常化し、それによりCSをもたらす高ICPの発症を取り除いている、と結論付けられた。
【0088】
鼻孔中に1、10又は25μgのAF−16を毎日2回ずつ注入することによる処置は、脳石生成性HSV−1に感染した成体ラットの生存率を有意に増大させ、神経学的機能障害の発症を取り除いていると結論付けられた。このような効果は、実施例1において示されるように、頭蓋骨によって形成されるCCにおいて、ICPが損傷レベルまで増大するのを、AF−16による処置が予防し、ICPをほぼ正常値にし、傷害性CSの発症を予防したことによるようであった。
【0089】
実施例3
HSV−1感染した動物の改善された生存に対する代替的な説明は、脳中でウイルスが増殖する及び/蔓延するのを、AF−16による処置が予防するという可能性があった。このことは、以下の実験によって、真ではないことが示された。単純ヘルペスウイルス1型の溶液(HSV−1;2762菌株、バッチ041028;1.7×107PFU/mL)を右の鼻孔中に注入することによって、成体ラットを感染させた。動物の半分には、右の鼻孔中にAF−16の25μL(1又は10μg)を10分後に投与した後、実験が6日目に終了するまで、毎朝午前8時及び毎晩午後6時にAF−16の同一用量を注入した。HSV−1感染させたラットのその他の群には、ビヒクルであるPBS25μLを同じ時間間隔で与えた。一般的な病気の徴候並びに行動上の機能障害及び運動機能障害の徴候に関して、動物を入念に観察した。6日目に麻酔薬の過剰量によって動物を犠牲にし、頭蓋を開き、脳を摘出した。ホルマリン緩衝液中に嗅球を含む脳を少なくとも1日間浸漬することによって固定した。脳を解剖し、幾つもの検体に分割し、パラフィン包埋及び切片化した後、光学顕微鏡による調査用に処理した。所定の染色のために、及びHSV−1タンパク質の免疫組織化学的可視化のために、切片を処理した(図4)。印象的な発見は、HSV−1タンパク質を、神経細胞(図4a〜c)だけでなく、嗅脳中及び三叉神経節中を含む脳中のグリア細胞(図4d)においても証明し得ることであった。神経細胞の明確な染色に注目されたい(図4a〜c中の黒色)。しかしながら、ビヒクルのみで処理された動物と比較して、AF−16で処置された感染動物由来の脳におけるHSV−1タンパク質の蔓延及び分布に関して明確な差異がなかった。並行して、マウスをHSV−1で感染させ、AF−16又はビヒクルの何れかで、右の鼻孔中に毎日2回ずつ注入することによって処置し、6日後に犠牲にし、記載されるように、HSV抗原の提示に関して上述のとおり脳切片を処理した。ラットに関するのと同様に、処置と関連したウイルス抗原の分布又は範囲に明白な差異はなかった。
【0090】
従って、本発明者は、ヒト胎児の場合から元来単離された脳石生成性HSV−1菌株に感染した齧歯類のAF−16による処置が、ビヒクルのみで処理された齧歯類と比較して、脳中のHSV−1ウイルスタンパク質の蔓延も細胞内分布も変化させないと結論付けた。このように、AF−16による処置は、CNS中のHSV−1の分布を変化させなかった。それゆえ、実施例2において示される齧歯類の有意に改善された生存に関しての見込みのある原因は、実施例1において報告されるように、頭蓋骨によって形成されたCCにおいて、AF−16によって、ICPが損傷レベルまで上昇するのを予防したことであった。それにより、損傷するCSの発症を取り除いた。
【0091】
実施例4
実施例2において説明されるように、HSV−1感染した齧歯類の改善された生存は、AF−16が、感染した脳中のHSV−1ウイルスの増殖を遮断し又は少なくとも低下させたことに起因すると仮定できた。従って、単純ヘルペスウイルス1型の溶液(HSV−1;2762菌株、バッチ041028;1.7×107PFU/mL)を右の鼻孔中に注入することによって、成体ラットを感染させた。感染した動物の半分には、右の鼻孔中にAF−16の25μL(1又は10μg)を10分後に投与した後、実験が6日目に終了するまで、毎朝午前8時及び毎晩午後6時にAF−16の同一用量を注入した。HSV−1感染させたラットのその他の群には、ビヒクルであるPBS25μLを同じ時間間隔で与えた。一般的な病気の徴候並びに行動上の機能障害及び運動機能障害の徴候に関して、動物を入念に観察した。6日目に麻酔薬の過剰量によって動物を犠牲にした後、頭蓋を迅速に開き、脳を摘出した。その後、Clinical Virology Laboratory,Sahlgrenska University Hospital,Goteborg,Swedenで使用される所定の手法に従って、脳組織中で実証可能なHSV−1複製数の評価のためのRT−PCRによって、脳組織の試料を処理した。印象に残る発見は、ビヒクルのみを受容した齧歯類と比較して、AF−16処置した齧歯類においてHSV−1 DNA複製物の蔓延及び分布に関して有意差がないことであった(図5)。並行して、マウスにおいても上述の実験を実施し、同様の結果を達成し、複数の種におけるAF−16の有効性を確認した。従って、AF−16は、PCRデータ(図5)によって示されるように、HSV−1ウイルスの増殖に有意な効果を何ら及ぼさなかった。有益な効果は、実施例1において開示されるように、頭蓋によって形成されるCCにおけるICPの異常な上昇を取り除いた(図2)ということに起因するらしく、これは未処理であれば、感染した動物のCNSを重度に損傷する有害なCSをもたらすはずであった。
【0092】
実施例5
HSV−1脳炎を罹患する動物に及ぼすAF−16の有益な効果は、AFが、CNSにおける炎症反応を低下させることに起因すると仮定できた。その仮説を検証するため、単純ヘルペスウイルス1型の溶液(HSV−1;2762菌株、バッチ041028;1.
7×107PFU/mL)を右の鼻孔中に注入することによって、成体ラットを感染させ
た。動物の半分には、右の鼻孔中にAF−16の25μL(1又は10μg)を10分後に投与した後、実験が6日目に終了するまで、毎朝午前8時及び毎晩午後6時にAF−16の同一用量を注入した。HSV−1感染させたラットのもう半分には、ビヒクルであるリン酸緩衝塩類溶液25μLを同じ時間間隔で与えた。6日目に、Huang,Saljo and Hansson(1996)によって記載される手法に従って、AF−16処置された(n=3)又はビヒクル処理された(n=3)何れかの動物から、脳脊髄液(CSF)試料を採取した。炎症マーカーであるIL−1、IL−6及びTNF−αの濃度に関して分析すると、ビヒクルで処理された感染動物と比較して、AF−16で処置された感染動物由来のCSFにおいて何れの濃度にも有意差がないことが見出された。AF−16により処置が、炎症反応を変化させることによって、HSV−1脳炎を罹患する齧歯類の生存を改善しそうにないが、頭蓋内圧を正常化することによって改善し、それによりCC中の高いICPの蔓延を予防し、それによりCSの発症を予防すると結論付けられた。HSV−1脳炎によって生じる有害な効果は従って、AFが、CSの発達を妨害することによると考えられた。
【0093】
実施例6
脳浮腫の発症及び上昇したICPを生じることが文献から公知の手法である、くも膜下空間における非全血(antilogous whole blood)の注入によって、異なる種類の脳CSを誘発させた。麻酔した成体ラットには、後頭骨中に開けられた小孔を通じて、又は環椎後頭膜を通じて大槽中に注入することによって、くも膜下空間中に50〜350μLのヘパリン化自己血を与えた。頭蓋骨中に開けられた孔は、SuperBond(登録商標)接着剤で最終的に塞いだ。くも膜下に配置された血液を使用するこのような処理は、1日で又は1週間以内でCSの発症を誘発するICPを上昇させ、実際の時間は、医学的文献における報告と一致して、状態及び配置された血液量に依存した。本実験において、成体スプラーグ・ドーリーラットにおける大槽中の0.2〜0.3mLヘパリン化自己血の注入の結果、埋め込まれた微小圧力光誘導プローブ(Samba System 3200 & Samba Preclin 420センサー;Samba Sensors AB,Gruvgatan 6,SE 42130V.Frolunda,Sweden)を使用して評価して、1〜3日以内でICPが13〜30mmHgまで上昇した。非処理の又は代わりにリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を注入した正常成体ラットにおけるICPは、6〜9mmHgであった。25μgのAF−16で毎日2回ずつ鼻腔内処置すると、高いICPが低下し、1〜2時間でほぼ正常レベルにまで再現性良く回復した。AF処置した齧歯類は、くも膜下に血液を与えた後ビヒクルで処理された齧歯類とは対照的に、障害された脳機能の徴候も、行動機能又は運動機能の著しい明白な障害も示さなかった。AF−16による処置は、ビヒクルであるPBSを受容したのみの動物と比較して、血液のくも膜下配置によって誘発された脳損傷の範囲及び重症度を低下させたと結論付けられた。このことは、AF−16が、消滅しており、既に確立された脳CSの症例においてその重症度を低下させることを意味した。AF−16に対する迅速な反応は、AF−16によって発揮される有益な効果に関して決定的に重要であった。
【0094】
実施例7
関節は、腱、ノンコンプライアントなコラーゲン莢膜によって閉ざされ、さらに、低弾性ではあるが可塑性によって特徴付けられた。関節炎において、関節腔中の滑液の圧力は上昇し、炎症が、症状に加わる。CSは、蔓延している。AF−16による処置が、このようなCSの発症を予防し又は少なくとも低下させることが可能であるかどうかを調査するため、関節炎誘発性の黄色ブドウ球菌(SA;LS1系)の溶液の全身注入によって、成体ラットを感染させた。動物の1群(n=3)をAF−16で処置したのに対し、ラットの第二群(n=3)には、ビヒクルであるPBSを与えたのみであった。数日後、膝関節が、後にさらなる肢及び足の関節が、Samba Fibre Optic Pressureプローブ(Samba System 3200 & Samba Preclin 420センサー;Samba Sensors AB,Gruvgatan 6,SE 42130 V.Frolunda,Sweden)で測定して、関節腔において及びすぐ周辺の組織において、脆弱になり、腫脹し、上昇した圧力を受けた。正常な滑液の大関節における圧力は、0〜5mmHgであるが、感染し、炎症を生じた関節では、5倍を超えて増大する可能性があった。感染した関節からある程度離れた皮下組織における間質液圧を比較のために測定し、正常な限界内である±2mmHgのままであることが見出された。対照的に、SA感染した大関節を有し、AF−16で処置された齧歯類は、脆弱で腫脹した疼痛のある関節を有さず、関節において正常圧に近かった。ビヒクルであるPBSによる処理を受けただけの感染動物は、経時的に重症度が増大するCSを発症させた。何れかの群由来の細菌の蔓延に関して定量的に及び定性的に分析した滑液の試料は、ラットがAF−16で処置されたか否かに関わらず、黄色ブドウ球菌の数が、より大きな関節においてほぼ同一であることを明らかにした。
【0095】
本発明者は、AF−16による処置が、関節炎誘発性微生物、例えば細菌、並びにおそらくはウイルス及び免疫学的媒介物にもよる接種後に、感染した関節における圧力を低下させたと結論付けた。しかしながら、病原性細菌、例えば黄色ブドウ球菌(LS1系)の関節における増殖又は分布に差はなかった。従って、感染した関節は、抗生物質が投与されないため、SA感染により損傷を受けるようであった。しかしながら、動物は、そのために、長く生存できなかった。
【0096】
主要な知見は、AF−16による処置が、CCを構成する影響を受けた関節において、普通であれば上昇した圧力に再現可能に対抗することであった。それにより、本調査において評価して、感染した関節においてAF−16処置後CSは発症しなかった。
【0097】
実施例8
成体ラットに、骨格筋においてCC状態を誘発させ、評価した。後肢において、外部圧力負荷を適用することによって、長指伸筋(EDL)に入る大きな血管を1〜3時間閉塞した(Jennische & Hansson,1987;Jennische,Skottner & Hansson,1987参照)。その後、血流を再開させ、筋肉を閉鎖し、皮膚の切開を修復及び縫合した。この処理によって、EDL骨格筋線維の画分の壊死を生じる虚血性損傷が生じた。CSは、このような閉ざされたコンパートメントにおいて組織及び間質性組織が液体を蓄積するにつれて発症し、さらに、筋肉組織は、腫脹し、浮腫性となった。このような閉ざされたコンパートメント内での圧力は上昇し、結果的にCSの発症を引き起こした。さらなる処置がない場合、骨格筋組織の一部が壊死性となるのを防止するために、外科的介入が必要であった。しかしながら、AF−16で処置した場合、傷害された組織の反応性腫脹するにつれて閉ざされたコンパートメント症候群は発症せず、それにより、コンパートメント内での圧量は、Samba圧力センサーを使用して、ほぼ正常になると示される。EDL筋由来の試料の光学顕微鏡による観察により、AF−16による処置が、ビヒクル処置のものと比較して、組織損傷の範囲及び体積を低下させることが確認された。従って、AF−16による処置は、CSの発症を予防し、最終的には組織損傷及び喪失を低下させた。
【0098】
実施例9
心膜に影響を及ぼすCC状態に成体ラットを実験的に誘発し、ペプチドAF−16による処置の効果に関して評価した。心膜腔は、心臓の範囲を定めており、心臓の突発的かつ強力な収縮から生じる滑走運動の調節を可能にする液体の最小容積で満たされた嚢を形成した。心膜腔は、コラーゲンの豊富な壁側膜によって閉鎖された心膜腔周辺に向いていた。麻酔したラットにおいて、横隔膜及び縦隔において小さな「窓」を通じて、心膜を外科的に開いた。切開部を通じて外科的に心膜の内側を擦ることによって心膜の内側を傷つけた。これらの動物を2群に分け、1つは、AF−16で処置したのに対し、もう1つは、ビヒクルであるPBSのみを有した。AF−16で1週間処置したラットは、低圧で心膜腔中に液体のほんの少量しか蓄積しなかった。対照的に、擦った後にビヒクルで処理された動物の心膜は、圧力下において液体で満たされており、さらなる多くのフィブリン鎖及び炎症細胞を有した。さらに、壁側心膜外被は、数多くの拡張した、ところどころ新たに形成された血管によって、腫脹し、炎症を起こし、浸潤した。
【0099】
肝臓、脾臓、腎臓及び甲状腺を同様に圧迫によって機械的に傷害させ、擦過傷に曝露した。AF−16処置は、同様にそれらの症例で、ビヒクル処理で達成されたものと比較して、それぞれこれらの構造の浮腫及び腫脹を低下させることを証明できた。さらに、上昇した圧力での腹水の蔓延及び過剰な関連した種類の細胞外液を減少させた。従って、AF−16は、実質臓器及び組織におけるCSの程度と重症度を低下させた。
【0100】
心機能を重度に妨害するCC災害は従って、AF処置された動物では発達しない傾向であった。従って、AF−16は、心臓CSの発症を妨げた。AFによる同一の有益な効果は、他の調査された実質性構造及び器官に関して真であった。
【0101】
実施例10
脊椎中の椎体を分離する椎間板は、実際の負荷に従って椎間板の大きさを1日に何回も調整する。椎間板中の無血管性髄核及び線維輪における水分含有量は、流体、イオン、栄養分及び酸素の隣接する靭帯からの、及び椎骨の終板からの供給に依存する(Holm et al.2007参照)。無血管性椎間板からの多量の産物は、循環器系に到達する前に同一の障壁を通過しなければならない。従って、負荷時及び無負荷時に椎間板に及ぼす作用に関する、AFタンパク質及びAFペプチドの効果に関して、齧歯類、ウサギ及びブタで評価した。AF−16による処置が、傷害を受けた椎間板の腫脹及び炎症反応を低下させることを証明できた。さらに、光学顕微鏡によって調べると、このような椎間板から調製した染色済みの切片が、AF−16で処置した動物では髄核に対する損傷をほとんど受けておらず、もしそれがなければ線維輪及び囲まれている靭帯及び隣接する結合組織に認められると予想される顕著な反応性変化をほとんど有しないことが証明された。さらに、過最大の負荷後の及び椎間板に対する外傷後のAF及びAF−16dの効果は、椎間接続の剛性及び誘導された変形が、ビヒクル処理後に記録されるものよりも、AF−16処理後で正常に近いことを明らかにした。従って、AF化合物が、椎間板にかかる外傷又は変形及び/又は過剰な負荷での腫脹及び組織損傷を低下させる上で有益であることが明らかにされた。
【0102】
実施例11
成体ラットで、腱及び神経等の、柔らかいエンクロージャーによって囲まれる規定された構造において発症したCSを実験的に誘発させ、AF−16が、その最終結果に影響を及ぼすかどうかに関して調査した。末梢神経及び自律神経は全て、神経内膜、神経周膜及び最も外側の神経上膜によって範囲が定められている。複数の神経束が、1本の神経を形成する(Hansson et al.,1987参照)。身体の腱及び靭帯の幾つかは、柔らかいコラーゲン膜様構造である滑液鞘によって範囲が定められている。後者の内側の境界層は、腱をその滑液鞘(synovial vagina)と接続し、最小の摩擦での滑動を可能にする。後者の構造の周囲は、線維状の膜様層である線維鞘(fibrous vagina)によって囲まれている。囲まれている傍腱(paratendinium)は、幾つかの位置でしかるべき位置で保持され、腱間膜によって及びひも(vinculae)によって栄養を受け取る(Hansson et al.,1980参照)。さらに、別の潤滑装置は、包であり、流体の薄膜を有する閉鎖された線維状の嚢であり、隣接する膜構造に対する、及び該膜構造の間の、摩擦及び重度の負荷を防ぐ。過剰な負荷及び外傷による腫脹及び浮腫並びに炎症は、末梢神経、腱及び包の構造及び機能を障害する。
【0103】
麻酔したラットに対し、既に記載されているように、特別に設計された鉗子を用いて坐骨神経を挫滅した(Stemme et al.,1985;Hansson et al.,1987)。このような手法は、障害された神経の機能及び構造をもたらすだけでなく、障害された血液及びリンパ循環をももたらし、坐骨神経の腫脹、隣接し包囲している構造を含む浮腫の発症を引き起こした。影響を受けた組織中でのSamba光ファイバー圧力測定プローブの挿入によって評価して、IFPは上昇した。傷害時に開始して、高用量のAF−16で2匹につき1匹のラットを処置した。同一処理の2匹につき1匹のラットには、単にビヒクルを投与した。神経周膜における圧力を測定して、ビヒクルのみで処理されたラットでは肉眼で認められる腫脹及び局所浮腫と一致して、1日で高くなり、すなわちCSを発症させた。対照的に、AF−16で処置された坐骨神経は、ほとんどがわずかしか上昇せず又は正常神経において測定されるものに近い神経内圧を有する結果になった。傷害した坐骨神経の染色された薄い切片の光学顕微鏡により、AF−16が、炎症及び浮腫、及び組織の挫滅を低下させることが確認された。
【0104】
同様の結果は、ビヒクル投与後に観察されるものと比較して、傷害した腱をAF−16で処置する場合に達成された(Hansson H A et al.,1980)。ビヒクルで処理されたものは、AF及びAF−16で処置されたものとは対照的に、CSの徴候を発症した。
【0105】
AF−16は、例えば神経、腱又は包に対する傷害でCSの発症を妨げると結論付けられた。
【0106】
実施例12
手術中及び外傷で、動脈が傷害される場合があり、これは血管壁が腫脹して引き起こす。これらの事象は、血管壁における高IFPの発症をもたらし、炎症性反応及び再建をもたらす(Hansson,Jennische & Skottner,1987)。一群のラットに、AF−16で満たしたあらかじめ開始しているAlza浸透圧小型ポンプを皮下に埋め込み、該ポンプを、薄いシリコーンチューブで傷害部位に接続し、ペプチドAF−16の外傷を受けた組織への直接送達を可能にした。さらなる動物には、ビヒクルで満たされたポンプを比較のために埋めた。傷害された動脈を3、5、7又は14日後の何れかで調査した。ビヒクル処理された動物から回収された血管は、脆弱であり、外径が増大し、腫脹していた。対照的に、AF−16で処置された動物は、腫脹及び炎症がほとんど認められなかった。開存率は、ビヒクル曝露のものと比較して、AF−16で処置されたものが高かった。14日後に、大腿動脈を染色し及び切片化した検体を調査すると、AF−16で処置されたラット由来のものは、単にビヒクルで処理されたものと比較して、損傷がほとんどなく、顕著な炎症性反応がほとんどなく、平滑筋細胞を含む新生内膜の形成等の広範な反応の変化がほとんどないことが明らかであった。さらに、マクロファージ、泡沫細胞及びリンパ球の数は、AF−16処置によって同様に減少した。AF−16は、傷害を受けた血管の治癒に及ぼす有益な効果を有していると結論付けられた。
【0107】
実施例13
悪性及び良性の腫瘍を、齧歯類において皮下で及び筋肉内で埋め込んだ。皮下で埋め込んだAlzet浸透圧小型ポンプを用いて、10〜15mmの範囲の直径を有する腫瘍を有する2匹のうちの1匹の動物に、腫瘍のところでの又は腫瘍内へのAF−16の注射によって、全身的にAFタンパク質又はAF−16で処置した。別の実験において、細いシリコーンチューブを使用して、埋め込んだAlzet 2001ポンプから腫瘍内に及び/又は腫瘍内に直接、AF−16ペプチドを送達させた。さらなるラットには、食餌によって又は卵黄中にAFを加えることによって誘導したAFタンパク質を与えた。比較のため、等しい数のラットに、同じ処理だがビヒクルによる処理を与えた。Sambaガラス繊維圧力センサー(直径0.4mm)を用いて、保護チューブありで及びなしで、及び「ウィック(wick)」技術による間質液圧の測定を可能にする装置を使用して、腫瘍中の及びその隣接領域の間質液圧(IFP)を測定した。ビヒクル処理された動物における腫瘍中のIFPは、有意に上昇し、12mmHgを超過した。隣接する結合組織中のIFPは、0〜4mmHgの範囲にあったが、時には一の場合もあった。上述のように10〜15mmの範囲にあり、AF−16で処置されたの腫瘍では、IFPが低下し、通常12mmHg又はそれ以下まで低下した。さらに、AF−16は、固定され処理された検体から調製された染色済みの薄い切片の光学顕微鏡で評価して、炎症性反応の強度及び範囲を減少させた。
【0108】
齧歯類に関して実施された並行した実験において、ビヒクルの作用と比較して、AFタンパク質の豊富な卵黄で処置された埋め込まれた腫瘍の増殖及び拡大に及ぼす有益な効果を証明できた。
【0109】
腫瘍中のIFPを低下させることは、改善された微小循環を可能にするようであり、それにより、細胞外環境が低酸素状態ではなくなり、抗腫瘍薬の浸透が改善され、その上、該抗腫瘍薬がより効率的に分配されることになると結論付けられた。AF−16の腫瘍IFPを低下させる能力が、特定の薬物による治療の改善された効能を可能にすることになると結論付けられた。さらに、AF−16処置後の改善された微小循環が、放射線治療の放射線に曝露した組織中の酸素レベルを増大させ、それにより腫瘍の増殖を妨げる上で鍵となる重要なフリーラジカルの形成を促進し、最終的には腫瘍細胞の殺傷増強をもたらすので、放射線治療は、より効率的なようである。IFPに及ぼすAF−16のこのような効果は、腫瘍撲滅の改善に寄与し、罹患体におけるその転移の制御を可能にすると考えられる。
【0110】
実施例14
複雑な細胞壁によって囲まれており、それにより障害された膜機能に起因して高い圧力の発症を容易に原核細胞において、AFの効果をさらに調査した。哺乳動物細胞に、従って身体に対する損傷を引き起こす可能がある広範な種類の物質を合成し及び放出する細菌でそれを実施した。このような生産物の例は、色素、酵素及び毒素であり、これは細菌外膜を通って細胞外環境へと転送される。このような膜の活性の阻害は、このような病原性物質の転送及び/又は放出を低下させ又は遮断することになる。ペプチドAF−16が、細菌における合成からの細菌生産物をその環境に転送させるのに影響するかどうかを調査するために、次の実験を実施した。黄色の色素を合成する細菌黄色ブドウ球菌を、ペプチドAF−16の存在下又は非存在下で一晩又は場合により2日間培養した。1日又は2日後、細菌培養物をすすいだ後、遠心分離により濃縮した。黄色ブドウ球菌によって形成される黄色の色素を、透過しペレット化した細菌からメタノールで抽出し、光の吸光度を分光法によって測定した。AF−16の存在下で増殖した細菌培養物では、細菌数の測定値の補正後、ビヒクルのみに曝露したもので行うよりも黄色の色素が非常に多かった。これらの結果は、AF−16による処置が、細菌において形成された成分の環境への転送及び放出を取り除くことを明解に証明した。
【0111】
AF−16が、細胞内物質輸送及び生細菌からの生産物の放出に効率的に影響することを、本実験が証明していると結論付けられた。
【0112】
要約及び結論
ペプチドAF−16による処置は、閉ざされたコンパートメント中における高い圧力の発症を取り除き又は少なくとも低下させた。AFによる処置はさらに、過剰の負荷、傷害、虚血、毒物、薬物への曝露での、及び感染での、有害な臨床的徴候を減少させた。AF−16で処置した場合、閉ざされたコンパートメント中の圧力は、動物をビヒクルのみで処理した場合に明白であるような予想された傷害レベルにまで上昇しなかった。処置された病理学的状態は、AFタンパク質及びペプチドによる分泌過多状態の何れの消滅とも関連していなかった。AFペプチド及びタンパク質の投与に関する記載した効果は通常、1時間以内で現れ、数時間持続した。AFの投与に対する反応は、即時的であり、閉ざされたコンパートメント中で上昇した圧力の有害な作用をかなり低下させた。従って、AFタンパク質及びペプチドは、もしそうでなければ影響を受けた組織及び器官の機能に対して有害であったはずの閉ざされたCSの発症を取り除き、生体におけるCSの治療において効果的であった。当業者であれば、閉ざされたコンパートメント中の圧力の正常化が、高い圧力の原因及びその合併症を低下させる目的で、及び標的に対してこれらの薬剤を向かわせる目的で、他の医薬製剤の投与を容易にすることを当然のことと理解する。
【0113】
参考文献
1. Hansson H.-A., Jennische E, & Skottner A. Regenerating endothelial cells express insulin-like growth factor-I immunoreactivity after arterial injury. Cell Tissue Res., 1987; 250: 499-505, 1987.
2. Hansson H.-A., Lundborg G & Rydevik B. Restoration of superficially damaged
flexor tendons in synovial environment. An experimental ultrastructural study in rabbits. Scand J Plast Reconstr Surg.14, 109-114, 1980.
3. Hansson H.-A., Rozell B, & Skottner A. Rapid axoplasmic transport of insulin-like growth factor I in the sciatic nerve of adult rats. Cell Tissue Res. 1987; 247:, 241-247, 1987.
4. Heldin CH, Rubin k, Pietras K & Oestman A. High interstitial fluid pressure− an obstacle in cancer therapy. Nature Reviews Cancer 4, 806-13, 2004.
5. Holm S, Baranto A, Kaigle Holm A, Ekstroem L, Sward L, Hansson T & Hansson H.-A. Reactive changes in the adolescent porcine spine with disc degeneration due to endplate injury. Vet Comp Orthop Traumatol 20, 12-17, 2007.
6. Jennische E & Hansson H.-A. Regenerating skeletal muscle cells express insulin-like growth factor I. Acta Physiol Scand. Jun;130, 327-332, 1987
7. Jennische E, Skottner A & Hansson H.-A. Satellite cells express the trophic
factor IGF-I in regenerating skeletal muscle. Acta Physiol Scand. 129, 9-15, 1987
8. Kumar V, Abbas, AK & Fausto N: Robbins and Cotran Pathologic Basis of Disease, 7th ed., W.B.Saunders Co., Philadelphia, 2005.
9. Lange S, & Loennroth I. The antisecretory factor: synthesis, anatomical and
cellular distribution, and biological action in experimental and clinical studies. Intern Rev. Cytology 210, 39-75, 2001.
10. Lodish H, Berk A, Matsudaira P, Kaiser CA, Krieger M, Scott MP, Zipursky SL & Darnell J. Molecular biology of the cell. 5th edit. WH Freeman & Co., New York, 2004.
11. Pollard TD & Earnshaw WC. Cell biology, Saunders, Philadelphia, 2002.
12. Ross MH & Pawlina W. Histology, a text and atlas. 5th edit., Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore, 2006.
13. Stemme S, Hansson H.-A., Holmgren A, & Rozell B. Axoplasmic transport of thioredoxin and thioredoxin reductase in rat sciatic nerve. Brain Res. 1985; 359
:140-146.
14. WO 05/030246
15. WO 97/08202
16. WO 98/21978
17. 米国特許第6344440号
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の配列番号6に従った抗分泌性タンパク質のアミノ酸配列を示す。配列は、米国特許第6344440号からの配列番号2に相当する。
【図2−1】側脳室の領域における大脳皮質中に埋め込まれた光ファイバー導光プローブで測定されたラットにおけるICP。aは、5日目のHSV−1感染が、40mmHgを超過してICPを増大させる結果となることを示す。対照的に、bにおいて示されるように、HSV−1により感染したラットをAFで毎日2回ずつ処置すると、ICPが正常レベルにほぼ回復した。
【図2−2】図2−1の続き。 cは、正常な非処置の非感染ラットにおいて証明可能な低いICPを示す。大気の空気圧に対してプローブを較正した。
【図3】0日目に右鼻孔中にウイルス溶液を投与することによってHSV−1に感染させたラットの生存頻度。ラット(n=15)の半分を毎日2回ずつ、1μgのAF−16(上側の線)で鼻腔内で処置したのに対し、もう半分は、HSV−1感染後にビヒクルのみを与えた(下側の線)。ビヒクルのみで処理されたラットのうち、わずか10%が14日目で生存していたのに対し、AF−16で処置したラットでは、その60%が生存していた。従って、AF−16は、HSV脳炎での生存率を有意に増大させた。
【図4−1】右鼻孔中にウイルス溶液を点滴注入することによって、齧歯類にHSV感染させた後の脳切片の低倍率画像(a,b)。細胞質にHSVタンパク質を有する神経細胞は、はっきりと濃く染色されている。視床中のグリア細胞(d)は、その細胞質のHSVタンパク質が多量であることに起因してはっきりと輪郭が描かれている。神経細胞の多くが、非反応性(染色されていない)ことに注目されたい。AF−16によって処置された動物又はビヒクルのみで処理された動物との間で、HSV−1陽性脳細胞の頻度又は分布には差がなかった。
【図4−2】右鼻孔中にウイルス溶液を点滴注入することによって、齧歯類にHSV感染させた後の脳切片の高倍率画像(c,d)。細胞質にHSVタンパク質を有する神経細胞は、はっきりと濃く染色されている。視床中のグリア細胞(d)は、その細胞質のHSVタンパク質が多量であることに起因してはっきりと輪郭が描かれている。神経細胞の多くが、非反応性(染色されていない)ことに注目されたい。AF−16によって処置された動物又はビヒクルのみで処理された動物との間で、HSV−1陽性脳細胞の頻度又は分布には差がなかった。
【図5】右鼻孔中HSV−1で感染させたラット由来の脳組織において実施された定量的PCR。右鼻孔中にウイルス接種後5〜14日の間で、脳標本を得た。結果は、HSV−1 DNAの量に関して、ビヒクル処理された群とAF処置された群との間にどのような差も示さなかった。従って、AF−16処置が、ビヒクルのみで処理された個体(図2a)と比較して、生存率を有意に改善した(図2b)にもかかわらず、AF−16は、HSV−1生産に有意に影響しない。
【図6a】鼻から脳を隔て嗅覚神経がそれを通過する骨構造である篩状板を通る切片。HSV−1感染後5日目に、色素−タンパク質複合体であるエバンスブルー−アルブミン(EBA)をくも膜下空間中に注入した。動物は、中等の脳炎に罹患した。脳と鼻腔との間の通路が遮断されるので、篩状板の中においても鼻の中においても赤いEBAがないことに注目されたい。
【図6b】鼻から脳を隔て嗅覚神経がそれを通過する骨構造である篩状板を通る切片。非感染の正常ラットのくも膜下空間中にEBAを注入した。篩状板が完全に高強度で赤く染色されており、脳(上)から鼻腔(下)までCSFが通過していることが明らかであることに注目されたい。HSV−1感染した動物をAF−16で処置すると、篩状板を通してCSFのための通路が開き、従って、図bにおいて概略が示されるように、正常な非感染動物におけるものとみかけ上同一の図が結果として得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体内の良性及び/又は悪性の腫瘍の存在に関連するコンパートメント症候群の治療及び/又は予防のための医薬組成物及び/又は医療用食品を製造するための、抗分泌性タンパク質、抗分泌性活性を有するその相同体及び/又は断片、及び/又は医薬的に活性のあるそれらの塩の使用。
【請求項2】
抗分泌性因子(AF)タンパク質が、配列番号6に示されるアミノ酸配列、又は配列番号6のアミノ酸38〜42を含むその断片、及び/又は医薬的に活性のあるそれらの塩に対応する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
抗分泌性因子(AF)タンパク質又はその断片が、次式:
X1−V−C−X2−X3−K−X4−R−X5
に従った配列からなり、式中、X1が、Iであり、配列番号6のアミノ酸1〜35であり、又は欠失しており、X2が、H、R又はKであり、X3が、S又はLであり、X4が、T又はAであり、X5が、配列番号6のアミノ酸43〜46、43〜51、43〜80又は43〜163であり、又は欠失している、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
抗分泌性因子(AF)タンパク質の断片が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
腫瘍が、原発腫瘍又は転移性の腫瘍である、請求項1〜4の何れか一項に記載の使用。
【請求項6】
コンパートメント症候群が、腫瘍に及び/又は腫瘍に隣接する構造に存在する請求項1〜5の何れか一項に記載の使用。
【請求項7】
コンパートメント症候群が、腫瘍内の及び/又は腫瘍に隣接する構造の上昇した間質液圧を伴う、請求項1〜6の何れか一項に記載の使用。
【請求項8】
コンパートメント症候群が、X線、高エネルギー照射、局所的冷却、局所的加熱、光療法による治療などの腫瘍の医学的治療、及び/又は抗腫瘍薬によって引き起こされる、請求項1〜7の何れか一項に記載の使用。
【請求項9】
コンパートメント症候群の治療が、間質圧を低下させることによって、がん治療の有効性を改善する、請求項1〜8の何れか一項に記載の使用。
【請求項10】
がん治療が、抗腫瘍薬及び/又は放射線治療による治療を含む、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
コンパートメント症候群の治療が、腫瘍組織内の微小循環を改善し、体内の抗腫瘍薬の浸透/分配を促進し、体内のフリーラジカルの形成を促進し、腫瘍の増殖を妨げ、及び/又は体内の腫瘍撲滅を改善する、請求項1〜10の何れか一項に記載の使用。
【請求項12】
抗分泌性因子(AF)タンパク質、その相同体及び/又は断片が、医薬組成物及び/又は医療用食品中に存在する、請求項1〜11の何れか一項に記載の使用。
【請求項13】
医薬組成物及び/又は医療用食品が、請求項1〜4の何れか一項に記載の2つ又はそれ以上の抗分泌性タンパク質、又はその相同体及び/又は断片を含む、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
医薬組成物が、医薬的に許容される添加剤をさらに含む、請求項12または13に記載の使用。
【請求項15】
医薬組成物が、
体腔内に、眼内で、鼻腔内で、経口で、局所で、皮膚で、皮下で、筋肉内で及び/又は全身での投与のために製剤化される、請求項12〜14の何れか一項に記載の使用。
【請求項16】
医薬組成物が、吸入器により又は噴霧器により、スプレー、エアゾールとして投与するために製剤化される、請求項12〜15の何れか一項に記載の使用。
【請求項17】
医薬組成物及び/又は医療用食品が、体重kg及び1日あたり、0.1μg〜10mg、好ましくは、体重kg及び1日あたり、1〜1000μgの一回の適用の用量で、血液に全身投与するために製剤化される、請求項12〜16の何れか一項に記載の使用。
【請求項18】
投与が、単回投与として又は複数回の毎日の適用としての何れかで行われる、請求項12〜17の何れか一項に記載の使用。
【請求項19】
抗分泌性タンパク質が、このような抗分泌性タンパク質の豊富な卵黄で提供され、そしてここで抗分泌性タンパク質が、好ましくは、卵黄で提供される、請求項12〜18の何れか一項に記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2−1】
image rotate

【図2−2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4−1】
image rotate

【図4−2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6a】
image rotate

【図6b】
image rotate


【公開番号】特開2011−32284(P2011−32284A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245989(P2010−245989)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【分割の表示】特願2009−507631(P2009−507631)の分割
【原出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(508318845)ラントメネン・アーエス−ファクトール・アーベー (6)
【Fターム(参考)】