説明

コンピュータ断層撮影装置並びに回転中心位置を求める方法及びプログラム

【課題】被検体のスキャンデータ自身からエラーしにくく回転中心を求めることが可能なCTスキャナの提供。
【解決手段】回転軸13をX線管1の方向に相対移動させるxシフト機構8により回転軸13をx移動したとき、透過データ上で移動する回転中心位置を回転中心予想部21により予想し、被検体4の多数の透過データを回転の間に加算した加算透過データ上で前記予想された回転中心位置を反映して回転中心位置を回転中心求出部22により求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非破壊検査に供されるコンピュータ断層撮影装置に係り、特に小型電子部品等を高分解能で検査するための高分解能型のコンピュータ断層撮影装置並びに回転中心位置を求める方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型電子部品等を高分解能で検査するための高分解能型の産業用のコンピュータ断層撮影装置(以下「CTスキャナ」と略称する)が開発されている。
【0003】
例えば特許文献1等で公知の高分解能型CTスキャナは、放射線としてX線を用い、X線管から発生して被検体を透過したX線ビームを、2次元のX線検出器で検出して被検体の透過画像を得るように構成されている。断面像を撮影する場合は、被検体を1回転させながら多数の透過画像を得る(スキャンと言う)。この多数の透過画像をデータ処理して被検体の断面像(1枚ないし多数枚)を得る。断面像の再構成は通常、フィルター補正逆投影法(FBP:Filtered Back Projection法)が用いられている。
【0004】
図12は、一般的な高分解能型CTスキャナの概念図である。この高分解能型CTスキャナは、X線幾何を自由に設定することができ、色々な対象物に対応できる特徴を持つ。被検体を載せて回転させる回転テーブル104及びX線検出器103は、X線管101(X線焦点F)に近づけたり遠ざけたりすることができ(x方向)、撮影距離FCD(Focus to rotation Center Distance)と検出距離FDD(Focus to Detector Distance)とが連続的に変更でき、被検体に応じて撮影倍率(拡大率)(=FDD/FCD)を変えられる。また、回転テーブル104は上下動でき(z方向)、被検体の撮影位置が変えられるようになっている。
【0005】
図12で、スキャン領域(断面像視野)は、回転平面上で撮影X線ビーム102に包含される回転中心Cnを中心とする円Anであり、撮影倍率が大きいほど小さな円となる。回転中心Cnは、通常、機構誤差があるため中心から若干ずれているが、このずれが大きいと(同一撮影倍率で)スキャン領域が狭くなってしまうので好ましくない。このため、回転テーブルは回転平面に沿ってX線ビームを横切る方向(y方向)に移動でき、回転中心の調整ができるように構成されている。
【0006】
かかる高分解能型CTスキャナにおいて、多数の透過画像をデータ処理して分解能のよい断面像を得るには、透過画像上で回転中心位置が1画素より細かい単位で正確に知られている必要がある。
【0007】
従来の高分解能型CTスキャナは、幾何設定を終えて被検体をスキャンする前に、ピン状ファントムに載せ替えてこれを撮影し、回転中心の較正(目盛づけ)を行なっている。較正は、回転中心に対応する検出ch位置を求めデータ処理部に記憶させることで行われる。
【0008】
特許文献1で公知であるように、回転中心は被検体のスキャンデータ自身から求めることもでき、これを採用した場合、回転中心の較正は省略することができる。この回転中心求出は「360°加算した透過データは回転中心の左右で対称である」ことを利用している。
【0009】
また、この高分解能型CTスキャナは、回転中心をずらし、被検体を片側はみ出してスキャンし大きな被検体も撮影可能にすることができる(特許文献2)。このスキャンは回転中心をずらして設定(オフセット)しているのでオフセットスキャンと呼ばれている。図12を参照して、オフセットスキャンでのスキャン領域(断面像視野)は回転平面上で回転中心Cofを中心として撮影X線ビーム102の片側に接する円Aofで、同じFCDでは通常スキャンより大きくなる。
【特許文献1】特開2000−298105号公報
【特許文献2】特開2002−62268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1で示される高分解能型CTスキャナは、360°加算(平均)した透過データを用いて、被検体のスキャンデータ自身から回転中心を求めることで、ピン状ファントムに載せ替えての回転中心較正を不要にしている。
【0011】
しかしながら、被検体によっては、回転中心求出がエラーをおこすことがあった。特に、オフセットスキャンの場合にこのエラーが多く、オフセットスキャンにこの方法を使用することができなかった。
【0012】
図13は従来の回転中心求出例を示す概念図である。図13(a)は、断面図で示されている被検体としてコンデンサ106をX線ビーム102内に設定している状況を示している。オフセットスキャンで、回転中心CをX線ビーム102の端に近く設定している。図13(b)は平均透過データ(対数変換後)を示す。これは、回転平面内の透過データを360°分平均して、等検出角度間隔で並べたものである。
【0013】
この平均透過データから左右が対称となるような回転中心mを例えば相関法などで求めるが、このとき、図でわかるように正しい回転中心m1だけでなく、例えば、点m2やm3に対しても左右が対称に見えるため、誤ってm2やm3を回転中心として求めてしまうことがおこる。
【0014】
また、オフセットスキャンはスキャン領域が広げられるの採用するのが好ましいのであるが、高分解能型CTスキャナにおいては、テーブルのxy移動が自由に設定できるようになっている利便性の反面、テーブルをオフセット位置に設定することが難しい問題が生じる。適正なX線幾何は、被検体がスキャン領域に収まるようなFCDの選択と回転中心を余裕を含めて視野の端にオフセット設定することで得られるが、被検体透過画像上では回転中心が目視できず、またFCD(やFDD)を変更すると拡大率変化により、また、機構誤差により画面上で回転中心がずれてしまうことが起こるので適正な回転中心設定は難しい作業であった。
【0015】
本発明の目的は、被検体のスキャンデータ自身からエラーしにくく回転中心を求めることが可能なCTスキャナ並びに回転中心位置を求める方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために本発明は、放射線源から放射された放射線ビームに対し被検体を相対回転させる回転手段を有し、放射線検出器によって得られる多数の前記回転の位置における前記被検体の多数の透過データから前記被検体の断面像を得るコンピュータ断層撮影装置における前記回転の中心位置を求める方法おいて、前記被検体の多数の透過データが作るサイノグラム上で、多数点での透過デー
タと、仮想回転中心を設定することで決るこの多数点とそれぞれ逆向き放射線経路をなす多数点での透過データとの相関をとるステップと、前記仮想回転中心を変更して所定条件を満たす前記相関を与える前記仮想回転中心を回転中心位置として求めるステップとを具備することを特徴とする。
【0017】
さらに、上記課題を解決するために本発明は、放射線源から放射された放射線ビームに対し被検体を相対回転させる回転手段を有し、放射線検出器によって得られる多数の前記回転の位置における前記被検体の多数の透過データから前記被検体の断面像を得るコンピュータ断層撮影装置における前記回転の中心位置を求めるプログラムおいて、前記コンピュータ断層撮影装置に、前記被検体の多数の透過データが作るサイノグラム上で、多数点での透過データと、仮想回転中心を設定することで決るこの多数点とそれぞれ逆向き放射線経路をなす多数点での透過データとの相関をとるステップと、前記仮想回転中心を変更して所定条件を満たす前記相関を与える前記仮想回転中心を回転中心位置として求めるステップとを実行させることを特徴とする。
【0018】
またさらに上記課題を達成するために本発明は、放射線源から放射された放射線ビームに対し被検体を相対回転させる回転手段を有し、放射線検出器によって得られる多数の前記回転の位置における前記被検体の多数の透過データから前記被検体の断面像を得るコンピュータ断層撮影装置において、前記被検体の多数の透過データが作るサイノグラム上で、多数点での透過データと、仮想回転中心を設定することで決るこの多数点とそれぞれ逆向き放射線経路をなす多数点での透過データとの相関をとり、前記仮想回転中心を変更して所定条件を満たす前記相関を与える前記仮想回転中心を回転中心位置として求める回転中心求出手段を具備することを特徴とする。
【0019】
このような構成の方法、プログラム又は装置によれば、回転中心求出手段によりサイノグラム上で直接相関をとって回転中心を求めるので、従来の平均透過データ上で相関をとる方式にくらべ、回転方向の加算による情報量の減少がないため、被検体によるエラーが生じにくく精度も良い。これにより、エラーが生じやすいオフセットスキャンに対しても被検体の透過データ自身から回転中心を求めることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように本発明によれば、被検体のスキャンデータ自身からエラーしにくく回転中心を求めることができ、また容易にオフセットスキャンができるCTスキャナ並びに回転中心位置を求める方法及びプログラムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(第1実施形態)
本発明に係るCTスキャナの第1実施形態を、図1〜図5を参照して説明する。
【0022】
本実施形態のCTスキャナは、放射線としてX線を用いるものであり、上方から見た図1(a)及び側面から見た図1(b)に示すように、X線管1は、発生するX線の焦点Fが数ないし十数μmのマイクロフォーカスX線管であり、またX線検出器3はX線II(イメージインテンシファイア:像増強管)とテレビカメラとを有する。
【0023】
X線管1及びX線検出器3は、被検体4を挟むように対向してxシフト機構8により支持されている。被検体4は回転テーブル5上に載置され、回転・昇降機構6でX線ビーム2内で(断面像の)撮影面14に沿って回転されるとともに撮影面14に直角に昇降(z方向)される。
【0024】
また被検体4は回転テーブル5とともにyシフト機構7でX線ビーム2を横切って(図のy方向に)移動されるとともに、xシフト機構8によりX線管1とX線検出器3の間を移動され、撮影距離FCDが変更される。X線検出器3はxシフト機構8により移動され、検出距離FDDが変更される。Cは回転中心、Dは検出中心である。
【0025】
構成要素として、他に、X線検出器3からの透過画像を処理するデータ処理部19と、処理結果等を表示する表示部20と、データ処理部19からの指令で機構部を制御する機構制御部18とX線管1の管電圧、管電流を制御するX線制御部17と高電圧発生器16、X線管1と被検体4とX線検出器3を含む部分を収納する図示しないX線遮蔽箱等がある。
【0026】
xシフト機構8およびyシフト機構7には、図示しないエンコーダが取付けられており、FCD値、FDD値、およびy値が読み取られ、それぞれ機構制御部18を通してデータ処理部19に送られる。
【0027】
データ処理部19と表示部20は、通常のコンピュータで構成され、当該コンピュータは、CPU、メモリ、ディスク、キーボード、インターフェース等よりなり、また断層撮影のシークエンスやデータから断面像を再構成するソフトウエア等を記憶している。
【0028】
操作者は、データ処理部19と表示部20を操作して、メニュー選択や条件設定、機構部手動操作、断層撮影の開始、装置のステータス読取、断面像の表示、断面像の解析、などを行なう。
【0029】
データ処理部19はソフトウエアの機能ブロックとして、xシフトしたとき拡大率変化や機構誤差によって透過画像上で移動する回転中心位置を予想する回転中心予想部21、透過画像からこの画像上の回転中心位置を求める回転中心求出部22、断層撮影のスキャン制御部23、断面像を作成する再構成部24などを持つ。
【0030】
次に、図1を参照して本実施形態のCTスキャナの作用を説明する。
【0031】
まず、操作者は被検体4を回転テーブル5に載置し、データ処理部19に指令を入力することでX線管1からX線ビーム2を放射させると共に被検体4の透過画像を表示部20にリアルタイムの動画像として表示させながら、手動又は電動により回転テーブル5を回転させて、全ての回転位置で透過像が画像の視野にちょうど収まるようにFCD(およびFDD)を変えて撮影倍率を調整する(通常スキャン)。
【0032】
オフセットスキャンの場合は、yシフトさせて回転中心を視野の端近くに移動させる。次に、被検体4を昇降させ検査位置を撮影面14に合わせる。
【0033】
この時点で、回転中心予想部21は、読み込んだFCD,FDD,y値から後述するように拡大率変化や機構誤差によって透過画像上で移動する回転中心位置を予想する。なお、この予想回転中心は再構成に使えるほどの精度はない。
【0034】
次に、データ処理部19にスキャンの指令を入力すると、データ処理部19のスキャン制御部23は回転テーブルを回転させながら検出器3の出力である透過画像を取込む。360°にわたる透過画像の撮影面14位置の透過データから、まず、回転中心求出部22で後述するように回転中心を求めるが、このとき予想した回転中心位置を反映してエラーが生じにくくする。
【0035】
次に、再構成部24で、この回転中心を用いて従来と同様にフィルター補正逆投影法などで撮影面14位置での断面像を再構成する。再構成部24は、上述のフィルター補正逆投影法による再構成以外にフェルドカンプ法を用いて撮影面14位置以外の透過データも用いて多数の断面像を再構成する。
【0036】
次に、回転中心予想部21の作用を説明する。
【0037】
図2は機構誤差δyの幾何図である。これは撮影面14上のX線焦点F、回転中心C、検出中心Dの位置関係を示している。FとDを結ぶ方向がセンターライン30すなわちx軸で、このx軸はDの移動につれて移動する。機構誤差δyはyシフトを原点0にした時の回転中心C0のセンターライン30からのずれである。なお、図2は機構誤差を強調するためy方向を引き伸ばしてある。
【0038】
回転中心予想には、あらかじめ機構誤差較正を行なっておく必要がある。
【0039】
図3は機構誤差較正説明図である。この図は、FCD、FDDの組み合せによる較正点33を示す。FCDは撮影倍率が大きな位置で較正点を増やし、精度を上げるようにしている。各較正点33でyシフトを原点0にしてピンファントム等のスキャンを行ない、透過データから、回転中心位置δm0(dc)を求め、δm0(dc)から回転中心C0のセンターライン30からのずれδyを求める。このδy(FCD,FDD)を較正テーブルとして記憶しておく。
【0040】
図2を参照して、回転中心予想は、まずFCD,FDD値から較正テーブルδy(FCD,FDD)を用いて、4点補間でずれδyを求める。次にy値を用いて、式、
Δθ・δm=atan((δy+y)/FCD) …(1)
で検出中心からの回転中心位置δmを予想する。
【0041】
ここでΔθは透過データの角度間隔である。このδmは拡大率変化と機構誤差が加味されたものである。
【0042】
以上のように、回転中心予想部21においては、あらかじめ機構誤差較正を行って、透過データから較正テーブルを作成し、該較正テーブルを用いて例えば4点補間で回転中心位置δmを予想することができる。
【0043】
次に、回転中心求出部22の作用を説明する。
【0044】
この回転中心求出は「360°加算した透過データは左右対称である」ことを利用している。これはデータの前処理のどの段階でも成り立つ。これは、特許文献1に記載されている回転中心求出であるが、ここで、略述する。
【0045】
図4は平均透過データP(m)(対数変換後)である。これは、回転平面内の透過データを等検出角度間隔(検出角は扇状X線ビーム内の配置角)に変換し、360°分平均したものである。まず、mを検出角、nを回転角として、透過データが作るサイノグラムP(m,n)をnの方向に360°分加算(平均)して平均透過データ、P(m)を求める。ここで、加算は全nでなく間引きで行なってもよい。次に、仮想回転中心m0を設定し、ここで折り返したP′(m)を求め、P(m)との差の絶対値をmについて加算して相関値を求め、m0を変えて相関値が最小になるm0を回転中心mcとする。相関値は、絶対値をとるかわりに、平均2乗誤差に相当するものを求めてもよい。また、加算するときm値がm0から離れるほど小さくなるウエイトを掛けて相関値を求めるようにすると精度をあげることができる。
【0046】
ここで、中心探索領域(m0可変範囲)35は「回転中心予想」で予想したδmを用いて検出中心D(透過データの中央)からδmの位置を中心に設定する。領域サイズは機構誤差の安定度や予想の精度を考慮して決める。なお、ここで、δmを反映して中心探索領域35を決めるかわりに、相関値に対し(m0が)δm位置から遠くなるほど大きくなるウエイトを掛けて回転中心求出を行なってもよい。また、中心探索領域35決めとウエイトを掛けの両方を行なってもよい。また、δm位置から左右に探索してゆき、最初の極小値を回転中心とするような方法もある。
【0047】
以上のように、回転中心求出部22によれば、被検体4の多数の透過データを回転の間に加算した平均透過データ上で、多数点での透過データと、仮想回転中心に対してこの多数点とそれぞれ対称点をなす多数点での透過データとの相関をとり、前記仮想回転中心を変更して最も良い前記相関を与える前記仮想回転中心を回転中心位置として求めることができる。
【0048】
本発明の第1実施形態によれば、回転中心予想部21により拡大率変化と機構誤差から予想される透過データ上の回転中心を反映して、すなわちこの予想位置に重点をおいて、回転中心求出部22により被検体の透過データ自身から回転中心を求めるので、被検体による回転中心求出のエラーが生じにくくなる。これにより、相関計算の範囲(P(m)とP′(m)の重なるm範囲)が少なくエラーが生じやすいオフセットスキャンに対しても被検体の透過データ自身から回転中心を求めることが可能となる。
【0049】
また、中心探索を全域でなく、制限できるので計算時間を短縮できる効果もある。
【0050】
第1実施形態において、予想された回転中心位置を透過画像に重ねて表示する回転中心合成手段を追加することができる。回転中心合成手段はデータ処理部19内のソフトウエアブロックである。
【0051】
図5は透過画像画面36である。操作者は被検体4を回転テーブル5に載置し、FCD,FDD,yシフト(及び、回転、昇降)を手動操作(電動)してX線幾何を設定する。
【0052】
このとき操作者は図5の透過画像画面36(リアルタイムの動画像)を観察しながら調整する。回転中心合成手段は刻々と変わるFCD,FDD,y値にあわせてリアルタイムで計算される回転中心位置をこの透過画像に重ねて回転中心37として表示する。透過画像画面36には別に撮影面38も表示される。
【0053】
オフセットスキャンの場合、例えば、操作者はまず、昇降を調整し、次に、回転させながら回転中心の左側の部分Lが最も長くなる位置で停め、次に、FCD,FDD,yシフトを動かして被検体4の左端が視野に収まり、かつ、回転中心が(余裕を含めて)視野の右端にくるように調整する。
【0054】
このように、透過画像に重ねて回転中心が表示されるので、最適なオフセットスキャンの設定が容易に可能となる。通常スキャンの場合、回転中心が視野中央にくるように調整が容易に行なえる。回転中心表示は、FCD,FDDを変えずに続けてスキャンする場合など、予想された回転中心のかわりに求出された回転中心を用いるようにしてもよい。
【0055】
この透過画像への回転中心の合成表示はまた、被検体を回転中心位置に載置するときにも使用でき、透過画像を観察して載置位置を変更することができる。この機能は、yシフト機構が無い(オフセットスキャン機能無し)装置の場合でも被検体の載置位置の調整に有効に使用できる。また、この機能は、回転テーブルの上に被検体をxy移動する電動機構を付けた装置の場合は特に有効である。
【0056】
第1実施形態において、回転中心予想はFCD,FDD,y値より予想したが、昇降の機構誤差が大きい場合、FCD,FDD,y値及び昇降値より予想するようにしてもよい。
【0057】
(第2実施形態)
第2実施形態のCTスキャナの構成は、上方から見た図6(a)及び側面から見た図6(b)に示すように、図1(a)(b)に示す第1実施形態から、回転中心予想部21を削除し、「360°加算した透過データは左右対称である」ことを利用している回転中心求出部22に代えて、回転中心求出部22′を設けた構成である。第1実施形態の回転中心求出部22は、「360°加算した透過データは左右対称である」ことを利用しているに対し、本実施形態の回転中心求出部22′は「互いに逆向きのX線経路の透過データは略同一である」ことを利用したものである。
【0058】
第2実施形態の作用は、第1実施形態の作用から「回転中心予想」を除き、回転中心求出部22に代えて回転中心求出部22′による回転中心求出が実現されることである。
【0059】
先ず、回転中心求出部22′においては、360°にわたる被検体透過画像の撮影面14位置の透過データを、横軸に検出角m(扇状X線ビーム内の配置角)、縦軸に回転角nをとって並べた、いわゆるサイノグラムP(m,n)を用いて、このサイノグラム上の回転中心位置を求める。
【0060】
この回転中心求出の基本原理は「互いに逆向きのX線経路の透過データは略同一である」ことである。この中心求出ではリバース変換を用いる。図7はリバース変換説明用X線経路図である。これは回転テーブルに固定した座標で回転軸方向から見たX線経路を示し、X線焦点Fが回転する。1つのX線経路(m,n)からその逆向き経路(mr,nr)を求めるのがリバース変換40である。リバース変換40は下式であらわされる。
【0061】
mr−m0=−(m−m0) すなわち
mr=2・m0−m …(2)
nr・Δφ=n・Δφ+180°−2・(m−m0)・Δθ すなわち
nr=n+180°/Δφ−2・(m−m0)・Δθ/Δφ …(3)
ここで、m0は回転中心(の検出角)、Δθは検出角の角度間隔、Δφは回転の角度間隔である。
【0062】
図8はサイノグラムP(m,n)である。この図で仮想回転中心m0を設定すると、任意の(m,n)からその逆向き経路(mr,nr)が計算できる。回転中心を求めるには、ある所定の領域内の(m,n)と各逆向き経路(mr,nr)とでサイノグラム値Pの相関をとる。m0が正しく回転中心に設定された場合、各経路が一致(逆向き)することでP(m,n)はP(mr,nr)に略1致し相関が良くなる。m0を変えて相関をとることで回転中心が求められる。サイノグラムP(m,n)は通常、透過データを対数変換まで行なったものであるが、対数変換前でもよく、処理のどの段階のデータでもよい。これは上述した基本原理からわかることである。(m,n)の所定の領域としては、通常m0の左右の狭い側(m0〜M,全n)と、この領域をm0を中心に折り返した領域(2・m0−M〜m0,全n)を加算した相関領域(2・m0−M〜M,全n)41を用いるが、その一部分であってもよい。
【0063】
サイノグラムP(m,n)のm,nは整数値である。
【0064】
図9は回転中心求出2のフローチャートである。図9および図8を参照して回転中心求出2を具体的に説明する。
【0065】
S1: m0(実数)の初期設定をする。
【0066】
S2: 相関値、SOKANをリセットする。
【0067】
S3: mのループ開始値、ms(整数)を求める。
【0068】
ms=INT(2・m0−M)+1 (4)
S4: m=ms〜Mのループに入る。
【0069】
S5: リバース変換でmrを求める(式(2))。ここで、mrは1般に実数となる。
【0070】
S6: n=0〜N−1のループに入る。
【0071】
S7: リバース変換でnrを求める(式(3))。ここで、nrは1般に実数となる。
【0072】
S8: mrとnrが実数なので点(mr,nr)はデータ点と異なる。そこで、周囲のデータから補間計算で、この点での値Pr(mr,nr)を求める。
【0073】
S9: 逆経路のデータ値の差の絶対値を相関値に積算する。
【0074】
SOKAN=SOKAN+ABS(Pr(mr,nr)−P(m,n)) …(5)
なお、ここで絶対値をとるかわりに2乗して、相関値として平均2乗誤差に相当するものを求めてもよいが、最終結果(回転中心)に大きな違いは生じない。
【0075】
S10: m,nのループを繰り返す。
【0076】
S11: SOKAN値が最小か判定する。
【0077】
S12: SOKAN値が最小でないと判定した場合、m0を変更してS2に戻る。
【0078】
S13: SOKAN値が最小と判定した場合、m0を回転中心として終了する。
【0079】
mc=m0 …(6)
ここで、最小のSOKAN値を見つけるためのループ形式はわかりやすくするために簡略化された記載を行なっている。実際は、例えば、m0をあるステップで変えてそれぞれSOKAN値を求め、SOKAN値の小さなm0の領域を決め、この領域を細かいステップでSOKAN値を計算し、1番小さなSOKAN値のm0を回転中心とするような計算を行なう。
【0080】
フローチャートは基本的な計算のみを記載しており、実際は、計算精度を上げるための種々の処理が加えられ得る。例えば、相関値の積算(式(5))で、ABS(Pr(mr,nr)−P(m,n))に対しm値がm0から離れるほど小さくなるウエイトを掛けると精度を上げることができる。
【0081】
また、同じ計算で、P(m,n)に依存するウエイトを掛けることもできる。この場合、吸収が強すぎ、透過X線量が少ない部分(P大)やほとんど被検体が懸らず透過X線量が多すぎる部分(P小)に対しては小さなウエイトを用いることで精度を上げることができる。
【0082】
このほか、精度に関わり無くてもさまざまな変形が可能である。例えば、SOKAN値は計算の(m,n)点の数で割って平均値として求めても良い。また計算速度を上げるため、mのルーフ範囲をm0の片側にしたり、片側のうちのm0に近い部分のみにしたり、また、nのループも飛び飛びの計算にしたりすることもできる。
【0083】
本発明の第2実施形態で用いる回転中心求出部22′による回転中心求出法は、第1実施形態の回転中心求出部22による回転中心求出法と較べて、サイノグラムから直接相関をとっているので、回転方向の加算による情報量の減少がないため、被検体によるエラーが生じにくく精度も良い。特に回転中心がサイノグラムの端に近いオフセットスキャンの場合でも、(相関領域41が小さくなるにも関わらず)良好に中心求出ができる。このため、オフセットスキャンに対しても被検体の透過データ自身から回転中心を求めることが可能となる。
【0084】
また、被検体が細長く、1方向に吸収が非常に大きくなるような場合でも、サイノグラム上で(Pが大きくなる)その領域のウエイトを落すことで良好に中心求出ができる利点がある。
【0085】
第2実施形態において、第1実施形態と同様に回転中心予想部21による作用を加えることができる。この場合、回転中心求出部22′による回転中心求出を行なう際に、前述した回転中心予想部21で求めたδmを反映させる。同様に、中心探索領域(m0可変範囲)は「回転中心予想」で予想したδmを用いて検出中心D(透過データの中央)からδmの位置を中心に設定する。領域サイズは機構誤差の安定度や予想の精度を考慮して決める。なお、ここで、δmを反映して中央探索領域を決めるかわりに、相関値に対し(m0が)δm位置から遠くなるほど大きくなるウエイトを掛けて回転中心求出を行なってもよい。また、中心探索領域決めとウエイトを掛けの両方を行なってもよい。また、δm位置から左右に探索してゆき、最初の極小値を回転中心とするような方法もある。
【0086】
この変形例によれば、回転中心予想部21により機構誤差から予想される透過データ上の回転中心を反映して、すなわちこの予想位置に重点をおいて、回転中心求出部22′により被検体のサイノグラム自身から回転中心を求めるので、さらに被検体による回転中心求出のエラーが生じにくくなる。これにより、相関計算の範囲が少なくエラーが生じやすいオフセットスキャンに対しても被検体の透過データ自身から回転中心を求めることが可能となる。
【0087】
また、中心探索を全域でなく、制限できるので計算時間を短縮できる効果もある。
【0088】
その他、第1実施形態の変形例と同様に変形し、同様の効果を得ることができる。
【0089】
本発明実施形態で、X線検出器3にはX線II(像増強管)とテレビカメラのものを用いているが、他の2次元のX線検出器、あるいは撮影面14に沿って配置された1次元のX線検出器等を用いてもよいことは容易に理解できる。
【0090】
本発明実施形態で、被検体4の撮影位置の変更は、回転テーブル5を昇降させて行なったが、回転テーブル5の上に別の昇降機構を設置して行なってもよく、X線管1とX線検出器3を1体で昇降させてもよい。また、被検体4の回転や回転テーブル5(回転軸)のxシフト、yシフトもX線管1とX線検出器3の側を1体で動かしてもよい。また、z方向を必ずしも昇降方向に取る必要はなく装置全体はどの方向に傾けてもよい。すなわち、放射線源であるX線管1とX線検出器3と被検体4と回転軸13の間の動きが相対的に同じになる他の機構方式に対しても本発明が適用される。
【0091】
機構方式の2例を例示する。図10は他の機構方式1である。これは、回転フレーム65上に配置されたX線管61とX線検出器63を被検体64のまわりを1体で回転させるものである。X線管61は回転フレーム上でxyに移動される。この方式は柔らかい生体組織など、動かせないものを検査するときに用いられる。
【0092】
図11は他の機構方式2である。これは被検体64の荷重試験中の断面像を撮影する装置で、被検体が回転するが、xy移動は被検体でなくX線管の方で行なう方式である。X線管61はxy機構66で水平面内で移動され、X線検出器63はX線焦点Fの方向にx機構80で移動される。被検体64は圧縮または引張りの荷重が加えられるとともに水平面内で回転される。被検体64はワーク固定部79a,79bで固定され、昇降フレーム72に支持されたワーク固定部79aが昇降することで荷重がかけられる。被検体64の回転は、モータ74でシャフト75が回転され、シャフト75に固定されたプーリ76a・歯付ベルト77a・プーリ78a・スプラインシャフト76を介して固定部79aが回転され、シャフト75に固定されたプーリ76b・歯付ベルト77b・プーリ78bを介して固定部79bが同期して回転されることで行なわれる。プーリ78aとスプラインシャフト76の接続は回転方向がずれなくかみ合うのに対し、回転軸方向(昇降方向)はフリーにスライドするよう接続され、これにより昇降移動時でも固定側のプーリ78aの回転を昇降側のスプラインシャフト76に伝えることができる。
【0093】
本発明の各実施形態における回転中心予想部21の作用は本発明の主旨をかえずに、色々な変更が可能である。例えば、C点とD点の移動軌跡が直線で近似できる場合は、較正で各直線の係数を求めておき、幾何計算でδyを計算することができる。また、δy−FCDの関係を直線あるいは曲線(多項式)と考え、FDDの数点に対し、その直線あるいは曲線の係数を求めておき、δyを計算する時に、FDDの値で係数を補間して用いるような方法もある。また、回転中心求出部22で求出された回転中心を較正データとして追加していき、新しい較正を重視して次の予測を行なうようにすることもできる(学習形式の較正)。
【0094】
また、本発明の回転中心予想手段は、機構誤差が無視できる装置の場合は拡大率変化のみを加味して回転中心位置を予想することになる。
【0095】
また、本発明実施形態では、FCD,FDDを変更したときδyが計算されるが、このδyを使って回転中心が常に画像の同じ位置にくるようにyを制御することが可能である。例えば、y=−δyになるように制御すれば、回転中心を常に中央に合わせておくことができる。また画面上中心からdcの位置に合わせたい場合は、
y=dc・FCD/FDD−δy …(7)
になるように制御すればよい。これにより、オフセットスキャンの調整で、透過画像上で回転中心位置をかえずに拡大率の変更ができる。
【0096】
上述した各実施形態において、データ処理部19を構成する回転中心予想部21、回転中心求出部22,22′、スキャン制御部23及び再構成部24の一又は複数は、汎用又は専用のコンピュータにより実行され得るソフトウエアとして構成とすることができ、また、当該コンピュータは、一又は複数のコンピュータ又はこれらコンピュータの一部の機能により構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の第1実施形態に係るCTスキャナを示す構成図。
【図2】同実施形態のCTスキャナにおける機構誤差δyの幾何図。
【図3】同実施形態のCTスキャナにおける機構誤差較正説明図。
【図4】同実施形態のCTスキャナにおける平均透過データP(m)を示す図。
【図5】同実施形態のCTスキャナにおける透過画像画面を示す図。
【図6】本発明の第2実施形態に係るCTスキャナを示す構成図。
【図7】同実施形態のCTスキャナにおけるリバース変換を説明するX線経路図。
【図8】同実施形態のCTスキャナにおけるサイノグラムP(m,n)を示す図。
【図9】同実施形態のCTスキャナにおける回転中心求出2のフローチャート。
【図10】同実施形態のCTスキャナにおける他の機構方式1を示す図。
【図11】同実施形態のCTスキャナにおける他の機構方式2を示す図。
【図12】一般的な高分解能型CTスキャナの概念図。
【図13】従来のCTスキャナにおける回転中心求出例を示す概念図。
【符号の説明】
【0098】
下線 :そのもの全部
1…X線管、2…X線ビーム、3…X線検出器、4…被検体、5…回転テーブル、
6…回転・昇降機構、7…yシフト機構、8…xシフト機構、
9,10…支持フレーム、13…回転軸、14…撮影面、16…高電圧発生器、
17…X線制御部、18…機構制御部、19…データ処理部、20…表示部、
21…回転中心予想部、22,22′…回転中心求出部、23…スキャン制御部、
24…再構成部、30…センターライン、35…中心検索領域、36…透過画像画面、
37…回転中心(表示)、38…撮影面(表示)、41…相関領域、61…X線管、
62…X線ビーム、63…X線検出器、64…被検体、65…回転フレーム、
66…xy機構、70…荷重試験器、71…回転部、72…昇降フレーム、
73…固定フレーム、74…モータ、75…シャフト、76…プーリ、
77…歯付ベルト、78…プーリ、79…ワーク固定部、80…x機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源から放射された放射線ビームに対し被検体を相対回転させる回転手段を有し、放射線検出器によって得られる多数の前記回転の位置における前記被検体の多数の透過データから前記被検体の断面像を得るコンピュータ断層撮影装置における前記回転の中心位置を求める方法おいて、
前記被検体の多数の透過データが作るサイノグラム上で、多数点での透過データと、仮想回転中心を設定することで決るこの多数点とそれぞれ逆向き放射線経路をなす多数点での透過データとの相関をとるステップと、
前記仮想回転中心を変更して所定条件を満たす前記相関を与える前記仮想回転中心を回転中心位置として求めるステップと
を具備することを特徴とするコンピュータ断層撮影装置における前記回転の中心位置を求める方法。
【請求項2】
放射線源から放射された放射線ビームに対し被検体を相対回転させる回転手段を有し、放射線検出器によって得られる多数の前記回転の位置における前記被検体の多数の透過データから前記被検体の断面像を得るコンピュータ断層撮影装置における前記回転の中心位置を求めるプログラムおいて、
前記コンピュータ断層撮影装置に、
前記被検体の多数の透過データが作るサイノグラム上で、多数点での透過データと、仮想回転中心を設定することで決るこの多数点とそれぞれ逆向き放射線経路をなす多数点での透過データとの相関をとるステップと、
前記仮想回転中心を変更して所定条件を満たす前記相関を与える前記仮想回転中心を回転中心位置として求めるステップと
を実行させることを特徴とするコンピュータ断層撮影装置における前記回転の中心位置を求めるプログラム。
【請求項3】
放射線源から放射された放射線ビームに対し被検体を相対回転させる回転手段を有し、放射線検出器によって得られる多数の前記回転の位置における前記被検体の多数の透過データから前記被検体の断面像を得るコンピュータ断層撮影装置において、
前記被検体の多数の透過データが作るサイノグラム上で、多数点での透過データと、仮想回転中心を設定することで決るこの多数点とそれぞれ逆向き放射線経路をなす多数点での透過データとの相関をとり、前記仮想回転中心を変更して所定条件を満たす前記相関を与える前記仮想回転中心を回転中心位置として求める回転中心求出手段
を具備することを特徴とするコンピュータ断層撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−138869(P2006−138869A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1476(P2006−1476)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【分割の表示】特願2003−3644(P2003−3644)の分割
【原出願日】平成15年1月9日(2003.1.9)
【出願人】(391017540)東芝ITコントロールシステム株式会社 (107)
【Fターム(参考)】