説明

コンピュータ用入力装置。

【課題】四肢の不自由な身体障害者のマンマシンインターフェイスを提供する。
【解決手段】操作者7の顔面の前面下方に位置し、顔面から遠ざかる後方に傾斜する正面板3に設けられ、操作者7の下唇7a及びその下方から顎の先端部7bの間において、ボール4の回転が操作されるトラックボール5と、
前記トラックボール5のボール4を押圧することにより作動するスイッチ15、16と、ボール4に近接してボール4の周辺における正面板3に配置され、下唇7aまたは顎の先端部7bで操作される複数のスイッチ10〜14を備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四肢の不自由な身体障害者が、コンピュータを使用するためのマンマシンインターフェイスに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータは、身体に障害を有する人が利用することにより、その真価を発揮しうるものである。
しかし、従来は、四肢に障害がある場合、操作が容易で、疲労度が少なく、どの様な環境においても簡単に使用でき、しかも安価に提供されるマンマシンインターフェイスはなかった。
【0003】
特許文献1には、身体装着型ポインテング装置が開示されている。
【0004】
特許文献2には、身体装着型の顎と口により操作するポインテングデバイス及び情報処理装置が開示されている。
【特許文献1】特開2000−250703号公報
【特許文献2】特開2001−290589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2のいずれにおいても、操作機材を身体に装着する形式で、操作者が四肢に障害があることを考慮すると、コンピュータの利用に際して、介助者を必要とし、介助者がなく一人でコンピュータの使用を開始したり、終了したりするのが困難である。
【0006】
特許文献2には、本願発明と同様に、顎や口でポインターを操作しうることが記載されているが、顎や口の動きを検出する手段は、赤外線を使用しており、どの程度安定して、かつ高分解能で顎や口の動きを検出できるのか不明瞭である。
【0007】
本発明は、操作者の身体には、何も装着することなく、簡単にポインターの操作が可能であるとともに、高分解能の光学センサを用いることにより、下唇や顎の少ない動きで、ポインターを大きく移動することが可能であるとともに、下唇や顎の細かい動きを、ポインターの動きに確実に反映させて、ポインターの画面上の動きを、最小単位で制御することを第1の目的とする。
【0008】
また、本発明は、既存の検出手段を用いて、安価に提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、上記課題は次のようにして解決される。
【0010】
(1)操作者顔面の前面下方に位置し、顔面から遠ざかる後方に傾斜する正面板に設けられ、操作者の下唇及びその下方から顎の下端部の間において、ボールの回転が操作されるトラックボールと、前記トラックボールのボールを押圧することにより作動するスイッチと、ボールに近接してボールの周辺における正面板に配置され、下唇または顎の下端部で操作される複数のスイッチを備えてなることにより。
【0011】
(2)前記1項に記載のトラックボールが、ボールの回転を機械式エンコーダで検出してなる。
【0012】
(3)前記1項に記載のトラックボールが、ボールの回転を光学式エンコーダで検出してなる。
【0013】
(4)前記1〜3項いずれかに記載のボールが、自然石でなる。
【0014】
(5)前記1〜4項いずれかに記載のボールを押圧することにより作動するスイッチが、押圧力の強弱により順次に作動する2個のスイッチである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明によると、操作者の身体には、何も装着することなく、簡単にポインターの操作が可能であるとともに、高分解能の光学センサを用いることにより、下唇や顎の少ない動きで、ポインターを大きく移動することが可能であるとともに、下唇や顎の細かい動きを、ポインターの動きに確実に反映させて、ポインターの画面上の動きを、最小単位で制御することをことができる。さらに、操作者は、自己の身体の動作で、直接にポインターを制御することにより、コンピュータを制御していることを、体感しながらコンピュータを使用し、満足感が高く、コンピュータの訓練度合いや、習熟度が高まる。また、構成部材に、既製のものが利用できるので、安価に提供できる。
【0016】
請求項2記載の発明によると、大量に供給されているエンコーダを使用することができるので、安価に提供することができる。
【0017】
請求項3記載の発明によると、高分解能の光学式エンコーダを使用することが可能となり、高感度のポインターの制御ができ、疲労度を軽減できるとともに、操作性が高まり、素速い操作を可能として、データの入力効率を高め、作業効率も高くなる。さらに、分解能を切り換えることができるので、細密な操作を要求される状況においても、疲労度を少なくしたデータ入力を可能とする。
【0018】
請求項4記載の発明によると、自然石は樹脂製のボールに比較して、重たいので、ボールを折線方向にこするように回すと、回転が容易となり、操作性が高まる。
【0019】
請求項5記載の発明によると、ボールを押して、クリック操作とクリックロックを可能とするため、ボールから下唇等の操作部所を一旦離してから、引き続いて、ドラックなどの操作を行うことを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を、添付図面を参照して説明する。
図1と図2は、本発明の一実施形態を示すものである。
【0021】
本発明は、デスクトップパソコン、ノートパソコン、モバイルパソコン、携帯情報端末、その他の電子計算機及び電子計算機を内蔵した電子機器における入力機として、特に四肢の不自由な身体障害者のマンマシンインターフェイスとして機能する。
【0022】
入力機(1)は、ケース(2)の大きさを、上端が後方に傾斜した正面板(3)を正面視して、横幅120mm、高さ80mm、奥行き68mmを標準的な大きさとしている。
【0023】
正面板(3)の左右方向の中央で、かつ上下方向の若干中央より上方に、回転用のボール(4)の直径を、略30mmとした、トラックボール式ポインテングデバイス(以下トラックボールと称する)(5)を設けてある。
【0024】
トラックボール(5)は、ボール(4)の後面に、縦横の回転方向を検出して、コンピュータにおけるGUI(グラフィカル ユーザ インターフェイス)のポインターを移動するための、機械式又は光学式のエンコーダを具備している。
【0025】
実施例においては、図2に示す光学式のエンコーダ(6)を備えている。
なお、孔の明いた回転板を回転させる機械式のエンコーダを使用することも、可能である。
しかし、現在利用可能な機械式エンコーダは、分解能が低すぎるので、本発明にはあまり好ましくはない。
【0026】
トラックボール(5)を、傾斜した正面板(3)のほぼ中央に設けた入力機(1)は、操作者(7)の顔の前方に、互いの正面を向き合わせて、ケース(2)の下面(2a)を、ベッドや車椅子、もしくはパソコンラックや机等(図示略)に連結している台(8)の上に、両面吸盤(9)により立設固定して使用する。
【0027】
入力機(1)における正面中央のトラックボール(5)のボール(4)は、操作者(7)の顔の下唇(7a)の下方から顎の先端部(7b)間の皮膚に接して、回転操作される。
【0028】
下唇(7a)の下方の部分は、上下左右にボール(4)に接して、トラックボール(5)を操作する。
【0029】
そのボール(4)の周辺には、5個の押しボタンスイッチ(10)(11)(12)(13)(14)が、正面板(3)の板面より上方に、押しボタンの操作部(10a)(11a)(12a)(13a)(14a)を、若干突出させて、設けられている。
【0030】
各押しボタンスイッチ10)(11)(12)(13)(14)は、顎の先端部(7b)における前面で、顎を突き出すようにして操作する(図2参照)。
【0031】
そのため、各押しボタンスイッチ(10)〜(14)の操作部(10a)(11a)(12a)(13a)(14a)は、比較的大きな面積をなして、顎の先端部(7b)で押し易くなっている。
【0032】
図2に示す如く、ボール(4)の背面におけるケース(1)の内部には、ボール(4)を押すと作動する2個のスイッチ(15)(16)が設けられ、その2個のスイッチ(15)(16)の一方は、弱く押して作動するスイッチ(15)と、さらに強く押すと作動するスイッチ(16)とになっている。
【0033】
正面視でボール(4)の左側のスイッチ(10)は、ボール(4)を押すと作動する前記2個のスイッチ(15)(16)の動作モードを切り換えるのに使用し、右側のスイッチ(11)は、マウスにおける右クリックの動作をさせるとき等に操作する。
【0034】
なお、ポインテング操作の説明においては、基本OSをウインドウズ(マイクロソフト社の商標)のマウス操作を基に、右クリック、左クリック、クリックロック、ドラック、ドロップ、スクロール等に、対応させて説明する。
【0035】
デフォルトに設定されている、ボール(4)の回転がポインティングモードにあるとき、前記2個のスイッチ(15)(16)のいずれか一方、例えば、弱くて先に作動するスイッチ(15)は、マウスにおける左クリックの動作をさせるときに操作する。
【0036】
すなわち、下唇もしくは顎の近辺でボール(4)を回転させながら、ポインターが所要のアイコンに重なったとき、ボール(4)を軽く押込むと、スイッチ(15)が作動(オン)し、基本OSの設定を、シングルモードにしてあると、右クリックのコマンドを実行する。
【0037】
また、右クリック対応のスイッチ(15)をオンしたままポインターを移動するドラックの場合、移動距離が長すぎてドラック操作が困難なときには、ボール(4)をさらに強く押し込むことにより、スイッチ(16)が作動(オン)して、ドラック状態をロック(クリックロック)する。
【0038】
その後、ポインターを所要の個所に移動して、ボール(4)を軽く押すと、スイッチ(15)がオンして、クリックロックを解除してドロップのコマンドを実行する。
【0039】
デフォルトのポインティングのモードにおいて、ボール(4)の左側のスイッチ入れを操作すると、ボール(4)の回転が、アプリケーションに作用するスクロールモードに切り替わる。
【0040】
このスクロールモードにおいては、ボール(4)の回転が、アクティブウインドウの表示ページや表示領域を、上下左右にスクロールする。
【0041】
このとき、ボール(4)の押下で作動する2個のスイッチ(15)(16)は、先に作動するスイッチ(15)が、ベージアップ/ダウン動作させるコマンドを出力し、この際、ボール(4)の右側のスイッチ(11)をオンすると、アップ/ダウンする方向が、交互に切り替わる。
【0042】
また、スクロールモードにあるとき、ボール(4)を強く押し込んで、操作力の強いスイッチ(16)をオンすると、アクティブウインドウの表示ページや表示領域を、ボール(4)の回転により拡大縮小するモードに切り替わる。
【0043】
ボール(4)の左右にあるスイッチ(10)(11)の作動は、トグルスイッチの動作をするように、フリップフロップ回路等で交互に切り替わるようになっている。
これにより、スクロールモードにあるとき、左側のスイッチ(10)をオンすると、通常のポインティングモードに戻る。
【0044】
この際、拡大縮小されたウインドウの表示は、それを維持している。
【0045】
上記、ボール(4)と連動する2個のスイッチ(15)(16)と、ボール(4)の左右のスイッチ(10)(11)による制御に関しては、本発明の出願人によって出願された特願2004−24975号の明細書に、詳細に記載してある。
【0046】
正面視で、下方における左右に3個並ぶスイッチ(12)(13)(14)は、それぞれが、コピー、削除、貼り付け等に、アプリケーションに依存するショートカット機能が割り付けられて使用される。
【0047】
また、ボール(4)の回転は、ポインティングやスクロールの他、数値を連続的に可変させながら、連続したデータを入力するのに使用できる。
【0048】
図2に示す如く、本発明の入力機(1)のトラックボール(5)のボール(4)は、操作者(7)の下唇(7a)から顎の先端部(7b)の間で、回転させられる。
【0049】
トラックボール(5)は、光学式のエンコーダ(6)を備えており、ボール(4)は、自然石を球形に研摩して、表面に不規則模様を際だたせたものでなる。
【0050】
ボール(4)は、可撓部(17)の下端をケース(1)に固定した揺動部材(18)に、回転自在に枢支されている。
【0051】
揺動部材(18)は、正面側にボール(4)を嵌合する筒体(19)を備え、その筒体(19)の底に、低摩擦性の座板(20)を設け、この座板(20)の正面側に設けた、テーパー面(20a)に、ボール(4)を回転自在に係合してある。
【0052】
ボール(4)の大径部は、正面板(3)の上面より若干上方にあって、その大径部の外側を、低摩擦性のボール押さえリング(21)により、外側への脱出を低摩擦にして押さえてある。
【0053】
揺動部材(18)の上端(18a)の後面には、押圧操作部を直列に連結した、2個のスイッチ(15)(16)が、ケース(1)の間に設けられている。
2個のスイッチ(15)(16)は、スイッチを作動する際、動作圧を設定するバネの力に差のあるものを、直列に連結してあり、スイッチ(15)の方が、スイッチ(16)より、動作圧が弱くて、ボール(4)を押圧したとき、必ず先に作動する。
【0054】
ボール(4)は、このスイッチ(15)(16)の直列するバネ力により、座板(20)とボール押さえリング(21)の間に挾持されている。
【0055】
ボール(4)を押すと、ボール(4)は座板(20)のテーパー面(20a)により、救心的に座板(20)の中央に収まり、がたつくことなく、下唇(7a)等により、揺動板(18)を傾けて、2個のスイッチ(15)(16)を順に作動する。
【0056】
揺動板(18)におけるボール(4)の真後ろには、光学式のエンコーダ(6)の光源(22)と、読取りセンサ(23)が、設けてあり、このエンコーダ(6)は、ボール(4)と一緒に揺動板(18)の傾動に追従して移動する。
【0057】
これにより、ボール(4)を押圧したとき、光学式エンコーダ(6)の読取りセンサ(23)とボール(4)の間にぶれを生じないため、クリック操作のときに、ポインターが不安定にぶれたりすることがない。
【0058】
その結果、光学式エンコーダ(6)の分解能を高くすることが可能となり、高感度のポインテング操作を可能とする。
【0059】
また、下唇(7a)及びその周辺は、接触に敏感であり、微妙な蝕圧を感じ取ることができるとともに、下唇(7a)の周辺には、表情筋と称される筋肉が発達しており、顎の骨自体を動かさないで、下唇(7a)周辺の筋肉を動かすことができるため、ボール(4)を微細にコントロールするが可能であり、また訓練により、微小なポインターの制御を可能とする。
【0060】
さらに、下唇(7a)周辺は、顎の骨を動かしてボール(4)を回転させることも、首を動かして、ボール(4)を回転させることも、さらに、体の上体を動かしてボール(4)を回転させることもできる、自由度の高い部所で、前述の表情筋の動作を加えると、他に類を見ない高精密のコントロールが可能となり、高感度(高分解能)の光学式エンコーダ(6)を使用できる。
【0061】
例えば、いま一般的な光学式マウスの分解能は、800DPI(ドット/インチ)であり、これと同等の光学式エンコーダを使用した場合、ボール(4)の直径を30mmとすると、その全周は、π(直径)=94mmとなり、それの半周を回転させたときに、移動するポインターのドット数は、1457ドットとなり、横1280ドット、縦1024ドットのモニター画面を、十分一挙に、左右上下に、ポインターを移動することが可能となる。
【0062】
さらに、光学式エンコーダ(6)とした場合は、分解能を切り換えることが可能となり、下段のスイッチ(12)(13)(14)のいずれかを、分解能切換スイッチとして使用することにより、ポインターの細かい制御を要する状況では、分解能を低くして、制御を容易にすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態の一例を示す正面から見た斜視図である。
【図2】図1の中央縦断左側面図である。
【符号の説明】
【0064】
(1)入力機
(2)ケース
(2a)下面
(3)正面板
(4)ボール
(5)トラックボール
(6)エンコーダ
(7)操作者
(7a)下唇
(7b)先端部
(8)台
(9)両面吸盤
(10)(11)(12)(13)(14)押しボタンスイッチ
(10a)(11a)(12a)(13a)(14a)操作部
(15)(16)スイッチ
(17)可撓部
(18)揺動部材
(19)筒体
(20)座板
(20a)テーパー面
(21)ボール押さえリング
(22)光源
(23)読取りセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作者顔面の前面下方に位置し、顔面から遠ざかる後方に傾斜する正面板に設けられ、操作者の下唇及びその下方から顎の下端部の間において、ボールの回転が操作されるトラックボールと、
前記トラックボールのボールを押圧することにより作動するスイッチと、
ボールに近接してボールの周辺における正面板に配置され、下唇または顎の下端部で操作される複数のスイッチ
を備えてなることを、特徴とするコンピュータ用入力装置。
【請求項2】
トラックボールが、ボールの回転を機械式エンコーダで検出してなる請求項1記載の入力装置。
【請求項3】
トラックボールが、ボールの回転を光学式エンコーダで検出してなる請求項1記載の入力装置。
【請求項4】
ボールが、自然石でなる請求項1〜3いずれかに記載の入力装置。
【請求項5】
ボールを押圧することにより作動するスイッチが、押圧力の強弱により順次に作動する2個のスイッチである請求項1〜4いずれかに記載の入力装置。

【図1】
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【図2】
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