説明

コンベアシステム

移動するサンプルの質量を決定する方法が記載され、該方法では、サンプルを、制御された速度で質量呼掛帯域および温度呼掛帯域の中に移動させ、該温度呼掛帯域は質量呼掛帯域より上流あるいは下流であってもよい。磁気共鳴法を用いて、第1の信号を、サンプルが質量呼掛帯域を通るときに発生させ、第1の信号は、サンプルの質量およびサンプルの温度で変化する特性を有する。テラヘルツ周波数あるいは近赤外線波長の電磁放射のビームを発生させ、且つ温度呼掛帯域の中に差し向ける。サンプルが温度呼掛帯域の中を移動すると、サンプルから反射された、あるいはサンプルを透過した電磁放射が検出され、その検出された電磁放射から、サンプルの温度で変化する特性を有する第2の信号を発生させる。第1の信号の特性を、第2の信号を用いて調整して、温度補償された特性を生じさせ、該特性を、既知の質量の同様のサンプルから得られた同様の特性と比較して、サンプルの質量を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンベアシステムに関し、特に、例えば、生産ラインの機能間に、コンベアシステムで搬送されるサンプルの質量を決定する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製品、例えば、液体および/または粉末薬剤サンプルを、容器あるいはバイアルの中に小分けするためのインライン充填機械は、典型的には、容器を機能間に搬送するためのコンベアシステムを含む。充填ステーションは、コンベアシステムから空のバイアルを受け、バイアルに正確な量の1つ以上の製品を連続的に充填し、かくして充填されたバイアルをクロージャ部材、例えば、栓で閉じる。次いで、コンベアシステムは、閉じたバイアルを、検査ステーションへ搬送し、ここでバイアルが正しく充填されていたことをチェックする。排除ステーションが、不適当に充填されたバイアルを生産ラインから取り除くために、検査ステーションより下流に設けられる。密封ステーションが、また、バイアルを密封するために、排除ステーションより下流に設けられてもよい。
【0003】
出願人の国際特許出願公開第2004/104989号(その内容をここに援用する)は、NMR技術を用いて生産ライン上のバイアルの質量をチェックする検査ステーションを記載する。検査ステーションは、呼掛帯域内に配置されたバイアル内に正味予備磁化を生じさせる静磁場を呼掛帯域にわたって生じさせるための磁石と、バイアル内に収容されたサンプルのパルス励起を引き起こす交流磁場を呼掛帯域にわたって加えるためのRFコイルと、を含む。励起の後、サンプルは緩和し、サンプルの分子のラーモア周波数で電磁エネルギーを放出し、その磁気成分は、RFコイル内の電流の形態で、自由誘導減衰(FID)として知られる信号を誘起する。
【0004】
誘導電流の振幅は、サンプル中の分子の数およびサンプルの予備磁化に比例する。サンプルの予備磁化Mzは、以下の等式によって表わすことができる。
【数1】

0は加えられた磁場の大きさ、tは磁場をサンプルに加える継続時間、T1はスピン格子緩和時間である。
【0005】
現在、国際公開第99/67606号に記載されるような検査ステーションは、全ての検査されるサンプルに一定値T1を利用し、従って、誘導電流の振幅は、サンプル中の分子の数に正比例すると考えられる。誘導電流の振幅は、それから、既知の質量を有する較正サンプルによって生じた誘導電流の振幅と比較されて、分析中のサンプルの質量が決定される。
【0006】
しかしながら、T1の値およびかくしてサンプルの予備磁化は、サンプルの温度で変化する。我々は、検査ステーションのサンプルの温度に影響を及ぼす多数のパラメータを見出した。これらのパラメータは、以下を含む。
・バイアル充填中のサンプルおよびバイアルの温度
・サンプル内の温度勾配
・バイアル内のサンプルの温度の変化率
【0007】
複数の充填ステーションを、コンベアシステムに並べて用いる場合、充填ステーションの温度は、充填ステーションの相対的な位置に依存して、例えば、0.5℃変化することがある。バイアル内のサンプルの均質性の変動は、サンプル内の異なる温度勾配をもたらす。周囲温度、サンプルを横切る空気流の差異、およびサンプルとバイアルとの間の熱移動の異なる速度のような変数は、サンプル間にサンプル温度の変化率の変動をもたらす。
【0008】
サンプルの予備磁化は、T1の約5倍の予備磁化期間後、完全になると通常考えられる。多くの薬剤製品では、T1は1秒のオーダーのものであるので、完全に予備磁化した薬剤サンプルを生産するために、約5秒の予備磁化期間が要求されるであろう。しかしながら、薬剤サンプルは、しばしば高速移動コンベアシステムで搬送され、そこでは、バイアルが1分当り600バイアルまでのスピードで搬送されるので、かくして、NMR測定は不完全に予備磁化されたサンプルで通常行われる。もしサンプルの温度が均一ならばこの測定は十分正確であるが、サンプルの温度変化により、サンプル間のT1の小さな変化が、サンプルの予備磁化の著しい変化をもたらし、かくして、サンプルの計算された質量の著しい変化をもたらす。
【0009】
更に、コンベアシステムを停止することがしばしば要求される、なぜならば、例えば、上流ステーションからのバイアルの送り込みが中断されたり、栓供給システムが再び満たされなければならなかったり、エラー状態が起こったり、あるいはオペレータがシステムを停止させるからである。コンベアシステムが静止している間、充填ステーションと検査ステーションとの間に配置されたサンプルは冷却され、一般的に粉末サンプルよりも液体サンプルでより素早く冷却される。その結果、コンベアシステムが再開されたとき、これらのサンプルが検査ステーションに達するときに、これらのサンプルの温度は、前におよび続いて中断無しに充填ステーションから検査ステーションへ搬送されたサンプルの温度よりも低くなる。これらのサンプルの質量の測定で生じる間違いのために、これらのサンプルはしばしば廃棄される。
【0010】
本発明の少なくとも好ましい実施形態の目的は、これらのおよび他の問題を解決しようとすることである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の態様では、本発明は、移動するサンプルの質量を決定する方法を提供し、本方法は、サンプルを制御された速度で質量呼掛帯域および温度呼掛帯域の中を移動させるステップと、サンプルが質量呼掛帯域を通るときに第1の信号を発生させる磁気共鳴法を用いるステップと、を含み、第1の信号は、サンプルの質量およびサンプルの温度で変化する特性を有し、テラヘルツ周波数あるいは近赤外線波長の電磁放射のビームを発生させ、且つビームを温度呼掛帯域の中に差し向けるステップと、サンプルが温度呼掛帯域の中を移動するときにサンプルから反射した、あるいはサンプルを透過した電磁放射を検出するステップと、検出した電磁放射からサンプルの温度で変化する特性を有する第2の信号を発生させるステップと、第1および第2の信号を用いてサンプルの質量を決定するステップと、を含む。
【0012】
好ましくは、質量呼掛帯域よりすぐ上流に、あるいはすぐ下流にのいずれかに配置された温度呼掛帯域内のサンプルによるテラヘルツあるいは近赤外線放射の特有の吸収および/または反射により、サンプルの温度の正確な表示を提供することができる。例えば、固形薬剤サンプルおよび水のような液体は、NIRおよびテラヘルツ放射の特有の吸収を有するので、サンプルが温度呼掛帯域を通るときに、サンプルを透過した放射を監視することによってサンプル中の分子の温度の表示、かくして、サンプルの温度を提供することができる。この温度表示は、次いで第1の信号の特性を補償するために用いられる。その結果、サンプルの質量の正確な決定がなされることができる。
【0013】
テラヘルツあるいはNIR放射を用いて、サンプルの温度を分析することができる速度は、NMR装置を用いてサンプルの質量を決定することができる速度と同程度である。サンプルが呼掛帯域の間を搬送される速度が既知なので、サンプルが呼掛帯域を通るときにサンプルから生じる第1および第2の信号を、各々、個々のサンプルに割り当てることができる。従って、本方法は、サンプルが比較的速い速度、典型的には1分当り600バイアルまでで搬送される生産ライン上で搬送される各サンプルの質量を決定するときに用いるのに適する。サンプルがNMR装置の中を搬送される速度のために、サンプルの不完全な予備磁化が第1の信号の特性に著しく影響を及ぼすことがある。しかしながら、本発明によって提供される正確な温度補償で、サンプルの計算された質量へのサンプルの不完全な予備磁化の影響をほぼ除去することができる。正確な温度補償は、サンプルの温度に関わらず達成されることができるので、例えば、あらゆる理由による生産ラインの中断のために、サンプル間の温度の違いが比較的大きい場合、本発明は、相対的に冷たいサンプルの質量の正確な測定を提供し、それによって中断の場合に廃棄を要求するサンプルの数を著しく減じることができる。
【0014】
検出された放射は、既知の温度の規準サンプルから反射された、あるいは規準サンプルを透過した放射と比較される。例えば、時間ドメイン波形を、検出された放射から得ることができる。これらの時間ドメイン波形は、フーリエ変換アルゴリズムを用いて周波数ドメイン波形に変換することができ、該周波数ドメイン波形は、規準サンプルから発生した同等の規準波形と比較することができる。例えば、一連の規準波形は、規準サンプルが冷えているときに、移動あるいは静止規準サンプルから発生し、サンプルから発生した波形を、これらの規準波形と比較することができる。比較の結果から、サンプルが温度呼掛帯域を通るときのサンプルの温度を決定し、続いて、第1の信号の温度補償された特性を生じさせるために用いることができる。次いで、この特性を、既知の質量の同様のサンプルから得られた同様の特性と比較し、サンプルの質量を決定することができる。より詳細には、この比較は、「主成分分析」と呼ばれる統計学のツールを用いてなすことができる。
【0015】
容器は、いかなる適当な材料で形成されてもよいが、好ましい材料は、プラスチックおよび石英のようなガラス、すなわち電磁放射のビームを実質的に透過する材料である。
【0016】
サンプルの温度を決定する精度を改善するために、一実施形態では、質量呼掛帯域が、第1の温度呼掛帯域より下流に、且つ第2の温度呼掛帯域より上流に配置され、サンプルは、制御された速度で呼掛帯域の中を移動される。テラヘルツ周波数あるいは近赤外線波長の電磁放射の第1のビームを発生させて、第1の温度呼掛帯域の中に差し向け、且つ、電磁放射の第2の、同様のビームを発生させて、第2の温度呼掛帯域の中に差し向ける。サンプルが温度呼掛帯域の中を移動するときにサンプルから反射された、あるいはサンプルを透過した電磁放射を検出し、該電磁放射から、各々、サンプルの温度で変化する特性を有する第2および第3の信号を決定する。次いで、サンプルの質量を、第1乃至第3の信号を用いて決定することができる。例えば、第2および第3の信号から発生した波形を、各々、規準サンプルから発生した波形と比較して、サンプルが第1および第2の温度呼掛帯域をそれぞれ通るときのサンプルの温度を決定することができる。温度呼掛帯域が、質量呼掛帯域からほぼ等距離に間隔を隔てられている場合、決定された温度の平均値は、質量呼掛帯域内のサンプルの正確な温度見積もりを提供できるので、第1の信号の特性を、この平均値を用いて調整して、サンプルの質量の正確な決定をなすことができる。変形例では、温度呼掛帯域が質量呼掛帯域から等距離に間隔を隔てられていない場合、重み付けされた温度補償が、第2および第3の信号を用いて行われるのがよい。
【0017】
好ましい実施形態では、サンプル内に正味磁化を作るための第1の磁場を質量呼掛帯域内に第1の方向に加え、サンプルの正味磁化を一時的に変化させる交流磁場を質量呼掛帯域内に第2の方向に加え、サンプルの正味磁化が元の状態に戻るときにサンプルから放出されるエネルギーを監視することによって第1の信号を発生させ、それによって第1の信号の特性は放出されたエネルギーと比例する。
【0018】
第2の(および第3の)信号を用いて第1の信号の温度補償を行うのと同様に、サンプルの他の特性も信号から決定することができる。異なる材料によるテラヘルツおよびNIR放射の特有の吸収および/または反射により、以下に限定されないが以下のような物理的および/または化学的特性を決定することができる。
・サンプルの「指紋」あるいはキャラクタリゼーション
・サンプル密度
・水分濃度の位置およびサイズ
・金属粒子の存在
・サンプル温度
・懸濁の均質性
・サンプルパッケージあるいは容器内の不連続
例えば、ガラスあるいはプラスチック容器内に収容されたサンプルの密度に関する情報は、反射されたテラヘルツおよびNIR放射から得ることができる。ガラスおよびプラスチックは、テラヘルツおよびNIR放射をほぼ透過するが、容器の材料とサンプルの材料との間の屈折率の違いにより、容器とサンプルとの間の界面が、少なくとも部分的にテラヘルツ放射を反射する。サンプルが温度呼掛帯域を通るときに容器/サンプルおよびサンプル/容器の界面から反射される放射間の時間差を監視することによって、サンプルの密度およびサンプル密度の均質性の表示を得ることができる。他の例として、サンプルが温度呼掛帯域を通るときのテラヘルツあるいはNIR放射の形状および/または減衰の変化は、サンプルの材料の表示となることができる。容器、特にプラスチック容器の表面のいかなる欠陥も、ビームが界面から反射される角度から検出することができる。
【0019】
更に、放射がサンプルを通るときに、サンプル内の異なる材料あるいは構造が、放射を反射する。これらの反射は、異なる時間で、且つ反射を引き起こすサンプル内の特徴の性質に依存する異なる特性で、検出器に到達する。サンプルが温度呼掛帯域の中を移動するときに、サンプルにビームが入射する各点から受ける反射を記録することによって、サンプルの中身に関する情報を得ることができる。
【0020】
ある材料を、サンプルを通るテラヘルツ放射の周波数依存吸収、分散、および反射により、分析することができる。異なる周波数成分を有する電磁放射のパルスを発生させることによって、およびサンプルが呼掛帯域を通るときの放射の成分の振幅および/または位相の変化を監視することによって、サンプル中の異なる材料を区別することができる。例えば、水分子は、テラヘルツ放射の特有の吸収を有するので、検査技術を用いて、サンプル内の高濃度の水分子を有する塊の位置および形状を決定することができる。
【0021】
第2の態様では、本発明は、移動サンプルの質量を決定するための装置を提供し、装置は、サンプルを制御された速度で質量呼掛帯域および温度呼掛帯域の中に搬送する手段と、サンプルが質量呼掛帯域を通るときに第1の信号を発生させるための磁気共鳴装置と、を含み、第1の信号は、サンプルの質量およびサンプルの温度で変化する特性を有し、テラヘルツ周波数あるいは近赤外線波長の電磁放射のビームを発生させ、且つビームを温度呼掛帯域の中に差し向けるための手段と、サンプルが温度呼掛帯域の中を移動するときに、サンプルから反射した、あるいはサンプルを透過した電磁放射を検出するための手段と、サンプルの温度で変化する特性を有する第2の信号を、検出した電磁放射から発生させるための手段と、第1および第2の信号を用いてサンプルの質量を決定するための手段と、を含む。
【0022】
第3の態様では、本発明はコンベアシステムを提供し、該システムは、サンプルを制御された速度で質量呼掛帯域および温度呼掛帯域の中に搬送するための手段と、サンプルが質量呼掛帯域を通るときに第1の信号を発生させるための磁気共鳴装置と、を有し、第1の信号は、サンプルの質量およびサンプルの温度で変化する特性を有し、テラヘルツ周波数あるいは近赤外線波長の電磁放射のビームを発生させ、且つビームを温度呼掛帯域の中に差し向けるための手段と、サンプルが温度呼掛帯域の中を移動するときにサンプルから反射された、あるいはサンプルを透過した電磁放射を検出するための手段と、サンプルの温度で変化する特性を有する第2の信号を、検出した電磁放射から発生させるための手段と、第1および第2の信号を用いてサンプルの質量を決定するための手段と、サンプルの決定した質量に依存してサンプルを排除するための手段と、を含む。
【0023】
本発明の方法の態様に関して上述した特徴は、本発明の装置およびシステムの態様に等しく適用することができ、その逆も同様である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の好ましい特徴を、添付図面を参照して今記載する。
【0025】
図1は、コンベアシステム10の第1の実施形態を概略的に示す。ここに記載する好ましい実施形態では、コンベアシステムは、薬剤サンプルを収容する無菌薬剤ガラスあるいはプラスチックバイアル12を機能間、例えば、凍結乾燥機とキャッピングステーションの間に搬送するために用いられ、あるいは容器を充填ステーションとキャッピングステーションの間に搬送するためのインライン充填システムの一部であってもよい。
【0026】
しかしながら、コンベアシステムは、バイアル以外の容器、例えばブリスターパック、アンプル、および注射器を搬送するように構成されてもよい。
【0027】
コンベアベルト14は、バイアルを、制御された速度、典型的には一定速度で、システム10の中を搬送する。コンベアベルト14は、一般的には、モータ駆動ギアホイールによって駆動されるエンドレスチェーンを含み、ケブラー(登録商標)、テフロン(登録商標)、ポリエステル、ポリウレタン、アラミド、ガラスあるいは他の熱可塑性材料を含む群より選択された材料から構成されてもよい。アンプルおよび注射器は、非常に機械的に不安定であるので、コンベアベルト14は、システム10の中を移動されている間、そのような容器を保持するようになっているのがよい。バイアル12の列は、スターホイールシステムを用いてコンベアベルト14に搬送されるのがよいから、バイアル12は、例えば、40と80mmの間の規則的なピッチを有し、隣接したバイアル12間のクロスカップリング効果を抑制する。
【0028】
コンベアベルト14は、バイアル12内のサンプルの質量を決定するためのバイアル12を装置の質量呼掛帯域16に搬送する。図1に示すように、この質量呼掛帯域16は、好ましくは、図1で矢印17によって示すように、コンベアベルト14上のバイアル12の移動方向とほぼ直交して延び、且つ、好ましくは、方向17と垂直なバイアル12の横断面よりも大きい。質量呼掛帯域16内で、磁気共鳴装置18は、バイアルが質量呼掛帯域を通過する毎に第1の信号19を、バイアル内のサンプルの質量を決定するための制御システム20に出すNMR技術を用いる。例えば、出願人の国際特許出願公開第2004/104989号から知られるように(出願内容をここに援用する)、NMR装置18は、永久磁石およびRFコイルを含む。永久磁石は、コンベアベルト14を横切る一方向に均一の直流あるいは静磁場を作り出す。RFコイルは、サンプルのラーモア周波数で、且つ静磁場と直交する方向に向けられた、交流磁場の形態でパルスをサンプルに加える。これは、サンプルの正味磁化を回転させることによって、サンプルを励起する効果を有する。このパルスが加えられた後、サンプルは、高エネルギーの非平衡状態にあり、サンプルは、この状態からその平衡状態に緩和して戻る。サンプルが緩和すると、ラーモア周波数の電磁エネルギーが放出され、その磁気成分がRFコイルに電流を誘起する。電流のピーク振幅は、とりわけ、サンプル中の磁気モーメントの数、従って、サンプル中の分子の数、およびサンプルの温度で変化する。受信された信号は、第1の信号19として制御システム20に通される。
【0029】
パルスが加えられるときに、サンプルが静磁場によって十分に磁化されない場合、電流のピーク振幅は、サンプルの温度に強く依存する。制御システム20がサンプルの質量の正確な決定をすることができるように、第1の信号19の温度補償を行うために、この第1の実施形態では、バイアル12は引き続いて温度呼掛帯域22に搬送され、そこで各サンプルの温度が決定される。図1に示すように、温度呼掛帯域22は、コンベアベルト14上のバイアル12の運動方向に対して斜めに延び、好ましくは、図1に示す斜め方向24にバイアル12の断面よりも大きい領域である。温度呼掛帯域22は、好ましくは、できるだけ質量呼掛帯域16に近く配置され、かくして、本実施形態では、質量呼掛帯域16からすぐ下流に配置される。
【0030】
光源26が、電磁放射を有するビーム28で、温度呼掛帯域を少なくとも部分的に照らす。光源26は、700乃至2500nmの範囲内の近赤外線波長(「NIR放射」)を有するビームを放射するように構成されたレーザであってもよいし、あるいは100GHz(1011Hz)乃至30THz(3×1013Hz)の範囲内のテラヘルツ周波数(「テラヘルツ放射」)を有するビームを放射するように構成されたレーザであってもよい。光源26は、所望の波長あるいは周波数の電磁放射を光源から放射することができるように好ましくは調整可能である。図1に示すように、制御システム20は、光源26を制御するための制御信号30を発生させるのがよい。
【0031】
図1に示す例では、2つのテラヘルツあるいはNIR放射検出装置32、34が、バイアル12が温度呼掛帯域22を通るときに、バイアル12を透過した放射、およびバイアル12から反射された放射をそれぞれ検出するために備えられる。しかしながら、サンプルの材料および光源26によって発生した放射の性質に依存して、これらの2つの検出装置32、34の一方のみが要求されるかもしれない。各検出装置は、各々、これに入射のテラヘルツあるいはNIR放射を検出するための個々の検出器のアレイを含むのがよい。イメージングアレイは、いかなる適当な検出器のアレイ、例えば、テラヘルツ放射のために、微細加工アンテナ構造が高速光伝導性材料、例えば、GaAs上に付着された、ピコメトリクス社によって製造された検出器によって提供されるのがよい。アンテナ構造は、GaAs層の表面上に入射放射を集中させるのに役立ち、GaAs層は検出器内に光電流を生じさせる。それぞれ各検出装置32、34内で発生した、光電流の振幅および位相を示す第2の信号36、38が、制御システム20へ出力される。
【0032】
バイアルは、好ましくはガラスあるいはプラスチック材料で形成されるので、バイアル12が形成される材料は、テラヘルツおよびNIR放射を実質的に透過する。その結果、バイアルが温度呼掛帯域22を通るときに検出装置32、34から制御システム20へ出力された第2の信号36、38は、サンプルによるテラヘルツあるいはNIR放射の特有の吸収および/または反射により、バイアル12内に収容されたサンプルの温度に関する情報を提供することができる。
【0033】
制御システム20は、受信した第2の信号を分光分析して、サンプルの温度を決定することができる。例えば、時間ドメイン波形を、受信した信号から得ることができ、これをフーリエ変換アルゴリズムを用いて周波数ドメイン波形に変換し、該周波数ドメイン波形は、サンプルの温度に依存する。制御システム20は、受信した波形を、温度範囲にわたって規準サンプルから発生した同等の規準波形と比較して、サンプルが温度呼掛帯域22を通るときのサンプルの温度を決定するように構成されるのがよい。第2の信号36、38の完全分析を行う代わりとして、制御システム20は、サンプルから受信した信号36、38を冷却規準サンプルから受信した一連の同等の信号と簡単に比較して、受信した第2の信号36、38に最も近い同等の信号からサンプルの温度を決定するように構成されてもよい。
【0034】
温度呼掛帯域22内に、かくして決定されたサンプルの温度を用いると、制御システム20は、例えば、制御システム20に記憶されたアルゴリズムを用いて、第1の信号19の温度補償を行う。このアルゴリズムは、既知の質量の冷却静止規準サンプルから受信した一連の同等の信号から決定することができる。規準サンプルから受信した信号の温度による変化から、第1の信号のための温度依存補正因子を決定することができる。適当な補正因子を、質量呼掛帯域16の中を搬送されたそれぞれのサンプルから受信した各第1の信号に適用することによって、各第1の信号が調整されて温度補償された第1の信号を生じ、これは、既知の温度で質量呼掛帯域の中を搬送されたときにサンプルから得られるであろう第1の信号と等しい。温度補償された第1の信号の特性を、それから、既知の温度であるときに既知の質量の、他のあるいは同じ規準サンプルから得られた同様の特性と比較して、サンプルの質量を決定できる。
【0035】
かくして決定されたサンプルの質量に依存して、制御システム20は、例えば、バイアル内のサンプルの容認できない低質量のために、バイアル12を、システム10によって搬送されるバイアルの流れから排除すべきであることを決定することができる。この場合、制御システム20は、特定のバイアル12が排除されるべきであるという信号40を、温度呼掛帯域22より下流に設けられた排除ステーション42へ出力する。排除ステーション42は、排除したバイアルを排除バッファ(図示せず)へ差し向け、排除されないバイアルをコンベアシステム10のアウトフィードセクション44へ差し向けることができる。
【0036】
図1に示す第1の実施形態では、温度呼掛帯域22は、質量呼掛帯域16より下流に配置される。しかしながら、コンベアシステム10のレイアウトに依存して、温度呼掛帯域22をこの下流位置に配置することを実行できないかもしれないので、図2に示すように、温度呼掛帯域22を質量呼掛帯域16より上流に配置してもよい。図3に示す実施形態では、サンプルの温度を決定することができる精度は、質量呼掛帯域16より上流の第1の温度呼掛帯域22と質量呼掛帯域16より下流の第2の温度呼掛帯域46の両方を設けることによって改善することができる。温度呼掛帯域22、46は、好ましくは、質量呼掛帯域16からほぼ等距離に間隔を隔てられている。第1の実施形態に関して上述したように、光源26aは、テラヘルツあるいはNIR放射のビームを第2の温度呼掛帯域46の中に差し向けるために設けられ、1つ以上の検出装置32a、34aが、バイアル12が第2の温度呼掛帯域46を通るときに、第2の温度呼掛帯域46から反射したおよび/または第2の温度呼掛帯域46を透過した放射を検出するために、且つそれぞれ第3の信号36b、38bを制御システム20へ出力するために設けられる。バイアル12を温度呼掛帯域22、46間に搬送する速度を制御することによって、制御システム20は、特定のバイアル12から受信した第2および第3の信号を識別することができる。これらの信号を用いて、制御システム20は、サンプルが温度呼掛帯域22、46の間を搬送されたときのサンプルの平均温度を決定することができ、かくして、質量呼掛帯域16内のサンプルの温度を決定することができる。例えば、第2および第3の信号から発生した波形を、各々、規準サンプルから発生した一連の波形と比較して、サンプルが第1および第2の温度呼掛帯域をそれぞれ通るときのサンプルの温度を決定することができ、これらの2つの温度の平均は、質量呼掛帯域16内のサンプルの温度の表示を提供する。第1および第2の温度呼掛帯域22、46が、質量呼掛帯域16から等距離に間隔を隔てられていない場合、第1の信号の加重温度補正が、第2および第3の信号を用いて行われる。
【0037】
バイアルが温度呼掛帯域22、46の間に配置されている間にシステムが中断された場合、第1および第2の実施形態におけるように、第1の信号が制御システム20へ出力されたときに、制御システム20が、第2および第3の信号の適当な1つを用いて、サンプルの温度の表示を提供することができる。
【0038】
サンプルの温度に関する情報を提供することに加えて、第2の信号を、温度呼掛帯域を通るサンプルに関する更なる情報を提供するために用いることができる。例えば、異なる材料によるテラヘルツおよびNIR放射の特有の吸収および/または反射により、サンプルの物理的および/または化学的特性を決定することができる。テラヘルツ放射の1つ以上の広帯域のビームが第2の(あるいは第3の)呼掛帯域を通るときに、検出装置から受信された信号から、例えば、金属粒子の存在およびサイズ、および水分濃度、および懸濁の均質性に関する情報を得ることができる。単一周波数のテラヘルツビームを用いるとき、サンプル密度に関する情報を、サンプルを貫くビームの飛行時間の測定により得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】サンプルを機能間に搬送するためのコンベアシステムの第1の実施形態の平面図を概略的に示す。
【図2】サンプルを機能間に搬送するためのコンベアシステムの第2の実施形態の平面図を概略的に示す。
【図3】サンプルを機能間に搬送するためのコンベアシステムの第3の実施形態の平面図を概略的に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動するサンプルの質量を決定する方法であって、
サンプルを制御された速度で質量呼掛帯域および温度呼掛帯域の中を移動させるステップと、
サンプルが質量呼掛帯域を通るときに第1の信号を発生させる磁気共鳴法を用いるステップと、を含み、
第1の信号は、サンプルの質量およびサンプルの温度で変化する特性を有し、
テラヘルツ周波数あるいは近赤外線波長の電磁放射のビームを発生させ、且つビームを温度呼掛帯域の中に差し向けるステップと、
サンプルが温度呼掛帯域の中を移動するときにサンプルから反射した、あるいはサンプルを透過した電磁放射を検出するステップと、
検出した電磁放射からサンプルの温度で変化する特性を有する第2の信号を発生させるステップと、
第1および第2の信号を用いてサンプルの質量を決定するステップと、を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
第1の信号の特性を、第2の信号を用いて調整して、温度補償された特性を生じさせ、温度補償された特性を既知の質量の同様のサンプルから得られた同様の特性と比較して、サンプルの質量を決定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の信号を既知の温度の同様のサンプルから得られた同様の信号と比較して、サンプルの温度を決定し、第1の信号を、決定された温度を用いて調整して温度補償された特性を生じさせる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
質量呼掛帯域は、温度呼掛帯域より上流に配置される、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
質量呼掛帯域は、温度呼掛帯域より下流に配置される、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
質量呼掛帯域は、温度呼掛帯域より下流に、且つ第2の温度呼掛帯域より上流に配置され、
サンプルを制御された速度で第2の温度呼掛帯域の中を移動させるステップと、
テラヘルツ周波数あるいは近赤外線波長の電磁放射の更なるビームを発生させ、且つビームを第2の温度呼掛帯域の中に差し向けるステップと、
サンプルが第2の温度呼掛帯域の中を通るときにサンプルから反射された、あるいはサンプルを透過した電磁放射を検出するステップと、
検出した電磁放射から、サンプルの温度で変化する特性を有する第3の信号を発生させるステップと、を更に含み、
サンプルの質量を、第1、第2、および第3の信号を用いて決定する、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
第1の信号の特性を、第2および第3の信号を用いて調整して、温度補償された特性を生じさせ、温度補償された特性を、既知の質量の同様のサンプルから得られた同様の特性と比較して、サンプルの質量を決定する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
第2および第3の信号を、各々、既知の温度の同様のサンプルから得られた同様の信号と比較して、サンプルが温度呼掛帯域を通るときのサンプルの温度を決定し、第1の信号を、決定された温度を用いて調整して、温度補償された特性を生じさせる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
温度呼掛帯域は、質量呼掛帯域からほぼ等距離に間隔を隔てられ、第1の信号の特性を、決定された温度の平均値を用いて調整する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第2の温度呼掛帯域は、それを通るサンプルの移動の方向に対して斜めに延びる、請求項6乃至9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
温度呼掛帯域は、それを通るサンプルの移動の方向に対して斜めに延びる、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
サンプルの温度で変化する特性を有する信号あるいは各信号を、検出した放射から少なくとも1つの時間ドメイン波形を発生させることによって発生させる、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
サンプルの温度で変化する特性を有する信号あるいは各信号を、前記少なくとも1つの時間ドメイン波形から少なくとも1つの周波数ドメイン波形を発生させることによって発生させる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
サンプルは、電磁放射のビームを実質的に透過する容器内に配置される、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
容器は、ガラスあるいはプラスチック材料で形成される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
電磁放射の検出は、検出器のアレイによって行われる、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
電磁放射は、テラヘルツ周波数のものであり、且つ100GHz(1011Hz)乃至30THz(3×1013Hz)の範囲内の周波数を有する、請求項1乃至16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
電磁放射は、近赤外線波長を有し、且つ700乃至2500nmの範囲の波長を有する、請求項1乃至16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
第1の信号を、サンプル内に正味磁化を作るための第1の磁場を質量呼掛帯域内に第1の方向に加えることによって発生させ、
サンプルの正味磁化を一時的に変化させる交流磁場を質量呼掛帯域内に第2の方向に加え、
サンプルの正味磁化が元の状態に戻るときにサンプルから放出されるエネルギーを監視し、
それによって第1の信号の特性が放出されたエネルギーと比例する、
請求項1乃至18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
サンプルは、容器内に収容された薬剤サンプルからなる、請求項1乃至19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
容器はバイアルまたはアンプルである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
サンプルの少なくとも1つの他の物理的あるいは化学的特性が、第2の信号を用いて決定される、請求項1乃至21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
サンプルの化学組成が、第2の信号を用いて決定される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
サンプルの密度が、第2の信号を用いて決定される、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
サンプルの均質性が第2の信号を用いて決定される、請求項22乃至24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
移動するサンプルの質量を決定するための装置であって、
サンプルを制御された速度で質量呼掛帯域および温度呼掛帯域の中に搬送する手段と、
サンプルが質量呼掛帯域を通るときに第1の信号を発生させるための磁気共鳴装置と、を含み、
第1の信号は、サンプルの質量およびサンプルの温度で変化する特性を有し、
テラヘルツ周波数あるいは近赤外線波長の電磁放射のビームを発生させ、且つビームを温度呼掛帯域の中に差し向けるための手段と、
サンプルが温度呼掛帯域の中を移動するときに、サンプルから反射した、あるいはサンプルを透過した電磁放射を検出するための手段と、
サンプルの温度で変化する特性を有する第2の信号を、検出した電磁放射から発生させるための手段と、
第1および第2の信号を用いてサンプルの質量を決定するための手段と、を含む、
ことを特徴とする装置。
【請求項27】
サンプルを制御された速度で質量呼掛帯域および温度呼掛帯域の中を搬送するための手段と、
サンプルが質量呼掛帯域を通るときに第1の信号を発生させるための磁気共鳴装置と、を有し、
第1の信号は、サンプルの質量およびサンプルの温度で変化する特性を有し、
テラヘルツ周波数あるいは近赤外線波長の電磁放射のビームを発生させ、且つビームを温度呼掛帯域の中に差し向けるための手段と、
サンプルが温度呼掛帯域の中を移動するときにサンプルから反射された、あるいはサンプルを透過した電磁放射を検出するための手段と、
サンプルの温度で変化する特性を有する第2の信号を、検出した電磁放射から発生させるための手段と、
第1および第2の信号を用いてサンプルの質量を決定するための手段と、
サンプルの決定した質量に依存してサンプルを排除するための手段と、を含む、
ことを特徴とするコンベアシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−539133(P2008−539133A)
【公表日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−508282(P2008−508282)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001471
【国際公開番号】WO2006/114588
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(591004445)ザ ビーオーシー グループ ピーエルシー (59)
【Fターム(参考)】