説明

コンポジットのためのカルボン酸含有分散剤

固体充填剤および有機重合性マトリックスからなり、前記重合性マトリックスが、i)少なくとも2つの重合性基を有する重合性(メタ)アクリルモノマーと、ii)前記重合性マトリックスの全重量を基準にして1.0〜15重量%のカルボン酸基を有する重合性モノマーとを含む重合性歯科用コンポジット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い充填剤導入量を有する樹脂を基にした重合性歯科用コンポジットに関する。さらに、本発明は、カルボン酸基を有する新しい重合性化合物に関する。さらに、本発明は、重合性樹脂を基にした歯科用コンポジットの製造方法に関する。さらに、本発明は、歯の修復を調製する方法および本発明の重合性歯科用コンポジット充填材料を重合することにより得られる歯科用コンポジットに関する。
【背景技術】
【0002】
初期のポリマーを基にした(樹脂を基にした)歯科用充填材料は、本質的に未充填のポリメチルメタクリレートを含んでいた。この材料は充填材料において或る程度の改善を示しその当時まで使用されていたが、このポリマーは柔らかく、非常に高い摩耗および収縮を示した。このポリマーを基にした充填材料の性質におけるさらなる改善は、無機充填剤をこのポリマーに導入した時に得られ、これは摩耗および収縮を劇的に減少し、一般的にさらに好ましい物性をもたらした。このクラスの歯科用充填材料はコンポジットとして知られることになった。コンポジットの充填剤含有量が増加するにつれて硬化したコンポジットが表面硬度を増加し、収縮の度合いが減少することは現在よく知られている。高い表面硬度は磨損を減少する傾向があるので望ましい。硬化に際しての歯科用充填材料の収縮は、硬化時に充填材料が歯の表面から引き離されて、充填材料と歯との間に隙間を形成するという結果をもたらす。バクテリアおよび液体は充填材料と歯との間に浸透することができ、多くの場合、歯の新たな崩壊をもたらす。したがって、歯科用充填材料にとって低い収縮は、これが充填材料と歯との間に形成される隙間のサイズを減少し、したがって歯の新たな崩壊の傾向を減少するので望ましい。しかしながら、コンポジットの上限充填剤含有量は、高い充填剤水準ではコンポジット材料が堅くなり過ぎるので一般的に限定される。極端な場合には、均質なペーストを形成することが困難でありまたは不可能であり、たとえペーストが得られたとしても使用するには堅過ぎてしまう。したがって、歯科用コンポジット充填材料に伴う1つの問題は、高い充填剤導入量を有する一方で、なお容易な使用を可能にするコンシステンシーを保持するペーストを得ることである。
【0003】
ヒドロキシプロピルメタクリレートおよび琥珀酸との間の付加物は歯質への接着を促進するために使用されており(Dep.Dent.Mater.Dev.、Fukuoka Dent.Coll.、Fukuoka、814−01)、歯に対する接着促進剤として日本特許第3021603号および同第53051237号に記載されている。国際公開第97/29732号パンフレットには種々の無水物を伴う2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)の付加物が記載されており、特に、歯科用セメントまたはアイオノマーとしてヒドロキシエチルメタクリレートと無水グルタル酸および無水琥珀酸との付加物が記載されている。前者の付加物は国際公開第97/29732号パンフレットではGMAと称されている。しかしながら、国際公開第97/29732号パンフレットは、その水準が、そのような付加物を含まない通常の樹脂混合物を使用して容易に達成される、最大76.85重量%の充填剤(約5.5g/cmの金属充填剤粉末の全体の密度を使用して約55容量%の充填剤)を含む、HEMAと種々のアリール無水物との付加物を含む水含有歯科用セメントを記載している。高い容量%の充填剤導入量を得ることの可能性については触れられていない。国際公開第97/29732号パンフレットは、歯科用コンポジットとは関係なく、歯科用コンポジットの充填剤導入量を増加することの問題とも無関係である。
【0004】
充填剤の液体マトリックス中への導入を助ける分散剤の使用は知られている。例えば、米国特許第4407984号および欧州特許第0053442号においては、分散剤が充填剤をコンポジット材料中に分散させるのを助けることが望ましいと記載されている。米国特許第4407984号および欧州特許第0053442号では、リン酸エステルおよびアルキルアミンを基にした分散剤が記載されている。米国特許第6300390号は、ホスフェートエステル分散剤の使用を記載している。特に好ましい分散剤としては、重合性基を含むリン酸エステル、またはカルボキシルエステル基およびエーテル基を含むホスフェートエステルが記載されている。実施例で示されている通り、そのようなホスフェートエステルは幾つかの歯科用ガラスにとって有害である非常に低いpHを有する。しかしながら、米国特許第6300390号で達成される充填剤導入量は不十分で、重合後の高い機械的強度を実現しない。米国特許第6300390号の組成物における充填剤導入量が増加された場合は粘度が高くなり過ぎて均質なペーストを形成することができない。
【非特許文献1】Dep.Dent.Mater.Dev.、Fukuoka Dent.Coll.、Fukuoka、814−01
【特許文献1】日本特許第3021603号
【特許文献2】日本特許第53051237号
【特許文献3】国際公開第97/29732号パンフレット
【特許文献4】米国特許第4407984号
【特許文献5】欧州特許第0053442号
【特許文献6】米国特許第6300390号
【特許文献7】米国特許第4391590号
【特許文献8】米国特許第5154613号
【特許文献9】ヨーロッパ特許出願第05003049.3号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の課題は、増加した充填剤含有量を有する一方で容易な使用のためになお十分に低い粘度を有する重合性歯科用コンポジット提供することである。本発明のもう1つの課題は、重合に際して減少した収縮を示す一方で重合後の良好なまたは改善された強度を有する重合性歯科用コンポジットを提供することである。本発明の別の課題は、増加した充填剤導入量および、良好な取扱い性を有し、重合後に、良好な物理的性質を有する重合した歯科用コンポジットをもたらす重合性歯科用コンポジットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、固体充填剤および有機重合性マトリックスからなり、前記重合性マトリックスが、
(i)少なくとも2つの重合性基を有する重合性(メタ)アクリルモノマーと、
(ii)前記重合性マトリックスの全重量を基準にして、1.0〜15重量%のカルボン酸基を有する重合性モノマーと
を含む重合性樹脂を基にした歯科用コンポジットにより達成される。
本発明は、さらに、
(a)固体充填剤、
(b)(i)少なくとも2つの重合性基を有する重合性(メタ)アクリルモノマーと、
(ii)本明細書に記載の前記重合性マトリックスの全重量を基準にして1.0〜15重量%のカルボン酸基を有する重合性モノマーと
を含む重合性マトリックスと、
(c)前記重合性歯科用コンポジットの熱硬化または光硬化のためのラジカル重合開始剤系と
をブレンドする工程からなる、重合性樹脂を基にした歯科用コンポジットの製造方法を提供する。
【0007】
本発明は、さらに、前記重合性歯科用コンポジットの重量を基準にして少なくとも80重量%の固体充填剤および有機重合性マトリックスからなり、前記重合性マトリックスが、
(i)少なくとも2つの重合性基を有する重合性(メタ)アクリルモノマーと、
(ii)前記重合性マトリックスの全重量を基準にして1.0〜15重量%のカルボン酸基を有する重合性モノマーとを含み、前記カルボン酸基を有する重合性モノマーが、
炭素、酸素、および窒素から選択される6〜20個の原子の任意に置換された鎖と、
前記鎖の末端にあるカルボン酸基と、
重合性エチレン系不飽和部分と
を有する化合物である、
重合性歯科用コンポジットを提供する。
【0008】
本発明は、さらに、重合性歯科用コンポジットの全重量を基準にして少なくとも80重量%の固体充填剤および有機重合性マトリックスからなり、前記重合性マトリックスが、
(i)少なくとも2つの重合性基を有する重合性(メタ)アクリルモノマーと、
(ii)前記重合性マトリックスの全重量を基準にして1.0〜15重量%のカルボン酸基を有する重合性モノマーと
を含み、前記カルボン酸基を有する重合性モノマーが、次式:
【化1】

(式中、
およびRは独立に、H、C1〜6アルキル基またはアルキリデン基であり、破線二重線は単結合または二重結合を表し、
mは1〜5の整数であり、mが2以上である場合は、複数の基Rは同じか異なっていてよく、
XはOまたはNRであり、Rは水素またはアルキル基であり、さらに
Yは1つまたは複数の重合性エチレン系不飽和基を含む基である。
【0009】
前記アルキリデン基は、好ましくはC1〜6アルキリデン基であり、Rの前記アルキル基は、好ましくはC1〜6アルキル基である。)
を有する化合物である、
重合性歯科用コンポジットを提供する。
【0010】
本発明は、さらに、本発明による重合性歯科用コンポジットを充填されるべき歯に適用する工程と、前記歯に適用されたコンポジット充填材料を重合する工程からなる、歯の修復を調製する方法を提供する。したがって、本発明は、歯の充填材料として本発明の重合性歯科用コンポジットの使用を提供する。さらに、本発明の重合性歯科用コンポジットを重合することにより得られたまたは得られる歯科用コンポジットが提供される。
【0011】
さらに、本発明は、重合性カルボン酸が、無水グルタル酸とヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとの反応および/または無水グルタル酸とグリセロールジ(メタ)アクリレートとの反応により得ることができる重合性化合物を提供する。
【0012】
本発明の発明者等は、驚くべきことに、本発明によるカルボン酸基を有する重合性モノマーの樹脂マトリックスへの導入が、高い充填剤導入量を有し、減少した粘度を有する重合性歯科用コンポジットの調製を可能にすることを見出した。したがって、硬化時の重合性歯科用コンポジットの収縮は減少される。さらに、重合した歯科用材料の高強度および減少した摩耗が達成される。これは、この様にして製造された重合したコンポジットのその他の物性を犠牲にすることなしに達成される。表2は、カルボン酸基を有する重合性モノマーの重合性マトリックス中への導入が、米国特許第6300390号の従来のリン酸エステル基含有分散剤を含むペーストと比較して低い粘度を有するペーストを達成することを示す。したがって、さらなる充填剤を重合性マトリックス中に導入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の重合性歯科用コンポジットは少なくとも固体充填剤および有機重合性マトリックスを含む。前記重合性マトリックスは、(i)少なくとも2つの重合性基を有する少なくとも前記重合性(メタ)アクリルモノマーと、(ii)前記カルボン酸基を有する重合性モノマーとを含む。前記重合性マトリックスは、重合性基、例えば、1つの重合性基を有してもよいその他の重合性モノマー(以下を参照されたい)を含んでもよい。前記重合性モノマー(ii)を除いて、前記重合性マトリックスの重合性モノマーは好ましくは疎水性である。
【0014】
重合性歯科用コンポジットの重合性モノマーはラジカル重合ができ、少なくとも1つのエチレン系不飽和重合性基を有する。前記エチレン系不飽和重合性基は、好ましくは(メタ)アクリル基である。さらに、重合性歯科用コンポジットは、一般に、重合性歯科用コンポジットを重合するためのラジカル重合開始剤系を含み、これにより本発明の重合した歯科用コンポジットが得られる。
【0015】
カルボン酸基を有する重合性ポリマー(以下では時々「重合性モノマー(ii)」または「分散剤」と称される)は、前記固体充填剤の高い量を分散する能力を有する本発明の重合性マトリックスを与える。前記重合性モノマー(ii)は、1つの化合物であってもよく、または、カルボン酸基を有する2、3、4またはそれ以上の異なる重合性モノマーの混合物であってもよい。前記重合性マトリックスは、1.0〜15重量%の前記重合性モノマー(ii)を含む。その他の実施形態においては、前記重合性マトリックスは2.0〜12.0重量%の前記重合性モノマー(ii)を含む。さらなる実施形態においては、前記重合性マトリックスは3.0〜12.0重量%を含み、なおさらなる実施形態においては、4.0〜11.0重量%を含む。最高の結果は、前記重合性マトリックスが5〜9重量%、好ましくは6〜8重量%の前記重合性モノマー(ii)を含む場合に達成されてもよい。1.0重量%より少ない含有量では、高充填剤導入量を可能にする適切な効果が達成されない。15重量%を超える含有量では、さらなる効果は得られず、重合性歯科用コンポジットの物性が悪化する傾向にある。
【0016】
前記重合性モノマー(ii)は、1つ、2つ、3つまたはそれ以上のカルボン酸基を有してもよい。好ましくは、1つまたは2つのカルボン酸基を有する。
1つの実施形態においては、前記重合性モノマー(ii)は、
炭素、酸素、および窒素から選択される6〜20個の原子の任意に置換された鎖と、
前記鎖の末端にあるカルボン酸基と、
重合性エチレン系不飽和部分と
を有する化合物であってもよい。
【0017】
前記任意に置換された鎖の置換基は、C1〜6アルキル基、C1〜6アルキリデン基もしくはC1〜6アルケニル基、ヒドロキシ基、またはC1〜6アルコキシ基であってもよい。前記重合性モノマー(ii)は、好ましくは、炭素、酸素および窒素から選択される6〜14個の原子の任意に置換された鎖を有する。
【0018】
前記重合性エチレン系不飽和部分はオレフィン二重結合であってもよく、前記重合性モノマー(ii)は、6〜20個の炭素原子、好ましくは9〜18個の炭素原子を有する直鎖不飽和脂肪酸のような不飽和脂肪酸であってもよい。そのような不飽和脂肪酸の例は、オレイン酸、アラキドン酸、シス−4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸、シス−11−エイコサン酸、エライジン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレライジン酸、リノレン酸、ミリストレイン酸、ネルボン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、ペトロセリン酸、シス−バクセン酸である。
【0019】
1つの実施形態においては、しかしながら、前記重合性エチレン系不飽和部分は(メタ)アクリル基である。(メタ)アクリル基は、(メタ)アクリルエステル基または(メタ)アクリルアミド基であってもよい。前記重合性モノマー(ii)は、好ましくは、カルボン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルまたはカルボン酸基を有する(メタ)アクリル酸アミドである。前記カルボン酸基は、脂肪族または芳香族部分に結合してもよい。好ましくは、脂肪族部分に結合する。芳香族部分に結合したカルボン酸基を有する重合性モノマー(ii)の例は、無水フタール酸とHEMAまたは3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとの反応により得ることのできるものである。
【0020】
1つの実施形態においては、前記重合性モノマー(ii)は、次式(1):
【化2】

(式中、RおよびRは独立に、水素、アルキル基またはアルキリデン基であり、破線二重線は単結合または二重結合を表し、
mは1〜5の整数であり、mが2以上である場合は、複数の基Rは同じか異なっていてよく、
XはOまたはNRであり、Rは水素またはアルキル基であり、さらに
Yは1つまたは複数の重合性エチレン系不飽和基を含む基である)
の化合物である。
【0021】
上記式(1)において、アルキル基およびアルキリデン基は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖または分岐、置換または非置換部分であってもよい。好ましくは、アルキル基はC1〜6アルキル基であり、アルキリデン基はC1〜6アルキリデン基である。任意に置換されたC1〜6アルキル基の例は、次の任意に置換された基である:メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、およびヘキシル。任意に置換されたC1〜6アルキリデン基の例は、次の任意に置換された基である:メチリデン、エチリデン、プロピリデン、ブチリデン、ペンチリデン、およびヘキシリデン。上記式(1)における破線二重線は、RまたはRがアルキル基またはHである場合は単結合である。上記式(1)における破線二重線は、RまたはRがアルキリデン基である場合は二重結合である。Y基は上記で定義されている少なくとも1つの重合性エチレン系不飽和部分を含み、好ましくは(メタ)アクリル部分を含む。Rのアルキル基はRおよびRに対して定義された通りである。
【0022】
破線二重線は、好ましくは単結合であり、RおよびRは、独立に、水素原子または先の段落で定義された通りのアルキル基であってもよい。
前記任意に置換された部分の置換基は、C1〜6アルキル基、ヒドロキシ基、またはC1〜6アルコキシ基であってもよい。
別の実施形態においては、重合性モノマー(ii)は、次式(2):
【化3】

(式中、RはHまたはメチルであり、
Aは2〜12個の炭素原子を有する、任意に置換されたアルキレン基であり、
およびRは独立に、H、アルキル基またはアルキリデン基であり、破線二重線は単結合または二重結合を表し、
kは1〜5の整数であり、
mは1〜5の整数であり、mが2以上である場合は、複数の基Rは同じか異なっていてよく、
XはOまたはNRであり、Rは水素またはアルキル基であり、さらに
Zは酸素原子またはNRを表し、Rは上記Rと同じ意味を有する)
の化合物である。
kは1、2、3、4または5であってもよい。好ましくは、kは1、2または3である。最も好ましくは、kは1である。
アルキレン基Aは2〜12個、好ましくは2〜10個、さらに好ましくは3〜8個、最も好ましくは3〜5個の炭素原子の鎖であり置換されていてもよい。Aの可能な置換基は以下の式(3)のR、R、R、およびRである。kが2以上である場合は、kで索引される括弧内の部分はAの置換基である。
【0023】
式(2)のその他の残基は、式(1)で定義されている通りである。
さらなる実施形態においては、前記重合性モノマー(ii)は、次式(3):
【化4】

(式中、R、RおよびR、m、X、および破線二重線は上記で定義された通りであり、
およびRは独立に、H、アルキル基、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基であり、またはRおよびRは、一緒になって任意に置換されたアルキリデン基を形成してもよく、
およびRは独立に、H、アルキル基、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基であり、またはRおよびRは、一緒になって任意に置換されたアルキリデン基を形成してもよく、さらに
nは0〜10の整数であり、nが2以上である場合は、複数の基RまたはRは同じか異なっていてもよい)
の化合物である。
【0024】
式(3)のアルキル基またはアルキリデン基は、上記で定義されたものに相当する。(メタ)アクリロイルオキシアルキル基は、好ましくは(メタ)アクリロイルオキシ−C1〜6−アルキル基、最も好ましくは(メタ)アクリロイルオキシメチル基である。
【0025】
式(3)の好ましい実施形態においては、mは1または2であり、nは2〜5の整数であり、RおよびRはHであり、RおよびRの少なくとも1つはHであり、RおよびRの少なくとも1つはHである。さらに好ましくは、nは2、3、または4であり、最も好ましくは2である。Rは(メタ)アクリロイルオキシメチル基であってもよい。
【0026】
2以上の異なる重合性モノマー(ii)の混合物は、本発明の重合性マトリックスにおいて使用されてもよい。この場合、前記重合性マトリックスにおける前記重合性モノマー(ii)の混合物の含有量は上で定義された通りである。
【0027】
本発明の重合性モノマー(ii)の例は、無水グルタル酸とヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとの反応および/または無水グルタル酸とグリセロールジ(メタ)アクリレートとの反応により得ることができる。重合性モノマー(ii)の他の例は、無水グルタル酸とヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEMA)との反応により得ることができる。重合性モノマー(ii)のさらなる例は、グリセロールジ(メタ)アクリレートと無水琥珀酸または無水グルタル酸との付加物である。
【0028】
好ましくは、重合性カルボン酸は1モルの無水グルタル酸と1モルのヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとの反応または1モルの無水グルタル酸と1モルのグリセロールジ(メタ)アクリレートとの反応により得ることができる。したがって、本発明は、次式の化合物またはこの塩を提供する:
【化5】



少なくとも2つの重合性基を有する前記重合性(メタ)アクリルモノマー(以下においては時に「重合性モノマー(i)」と呼ばれる)は、少なくとも2つ(すなわち、2、3、4またはそれ以上)の重合性基を有する。そのような重合性モノマーは従来の歯科用コンポジットから当業者に知られている。例は、アルカンジオールのジ(メタ)アクリレートおよび他の多官能(メタ)アクリレート;2モルのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと1モルのジイソシアネートとの反応生成物であってもよいウレタンジ(メタ)アクリレートである。特定の例としては、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA(メタ)アクリレート、ビスフェノールAグリシジルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAグリシジルジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシプロポキシフェニル)−プロパン、7,7,9−トリメチル−4,13−ジオキサ−3,14−ジオキソ−5,12−ジアザヘキサデカン−1,1,6−ジオールジ(メタ)アクリレート(UDMA)、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。2、3またはそれ以上の異なる重合性モノマー(i)は混合物として使用されてもよい。
【0029】
3つの重合性基を有する重合性(メタ)アクリルモノマーの例は、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等である。
【0030】
さらに、本発明の重合性歯科用コンポジットの重合性マトリックスは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートおよびカプロラクトン変性2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのような1つの(メタ)アクリル部分を有する(メタ)アクリルモノマーのような他の重合性モノマーを含んでもよい。
【0031】
さらに、重合性マトリックスは(メタ)アクリル部分以外の重合性エチレン系不飽和部分を有する重合性モノマーを含んでもよい。これらは1−アルケン、例えば、1−ヘキセン、1−ヘプテン等;分岐アルケン、例えば、ビニルシクロヘキサン、3,3−ジメチル−1−プロペン、3−メチル−1−ジイソブチレン、4−メチル−1−ペンテン等;ビニルエステル、例えば、酢酸ビニル等;スチレン、側鎖においてアルキル置換基を有する置換スチレン、例えば、アルファ−メチルスチレン、環上にアルキル置換基を有する置換スチレン、例えば、ビニルトルエンおよびp−メチルスチレン等、ハロゲン化スチレン、例えば、モノクロロスチレンおよびジクロロスチレン等;または複素環式ビニル化合物、例えば、2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン、3−エチル−4−ビニルピリジン、2,3−ジメチル−5−ビニルピリジン、ビニル−ピリミジン、ビニルピペリジン、9−ビニルカルバゾール、3−ビニルカルバゾール、4−ビニルカルバゾール、1−ビニルイミダゾール、2−メチル−1−ビニルイミダゾール、N−ビニルピロリドン、2−ビニルピロリドン、N−ビニルピロリジン、3−ビニルピロリジン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルブチロラクタム、ビニルオキソラン、ビニルフラン;ビニルおよびイソプレニルエーテル;マレイン酸誘導体、例えば、無水マレイン酸、無水メチルマレイン酸、マレイミド、メチルマレイミド等;およびジエン、例えば、ジビニルベンゼン等であってもよい。追加のモノマーは混合物として使用されてもよい。追加のモノマーは、必要に応じて、重合した充填剤粒子の機械的性質を調整するために使用されてもよい。
【0032】
本発明においては、少なくとも2つの重合性基を有する重合性(メタ)アクリルモノマー(i)およびカルボン酸基を有する重合性モノマー(ii)は異なる化合物である。本発明の重合性マトリックスは、1つの実施形態においては、重合性モノマー(ii)以外のカルボン酸基を有する重合性モノマーを含まない。本発明の重合性マトリックスは、好ましくは最大20重量%、さらに好ましくは最大15重量%、さらに好ましくは最大12重量%、さらに好ましくは最大11重量%の1つまたは複数のカルボン酸基を有する重合性モノマーを含む。
【0033】
「カルボン酸基」という用語は−COOH基および脱プロトン化カルボキシレート基−COOを含む。しかしながら、重合性モノマー(ii)は、一般的に、プロトン化形体におけるカルボン酸基を伴う重合性マトリックスに含まれる。
【0034】
本発明の重合性マトリックスは、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、さらに好ましくは少なくとも70重量%の前記重合性モノマー(i)を含む。極めて好ましい実施形態においては、前記重合性マトリックスは少なくとも80重量%の前記重合性モノマー(i)を含む。
【0035】
本発明の重合性歯科用コンポジットは、本発明の重合した歯科用コンポジットに強度を与える固体充填剤を含む。固体充填剤は微細粒子材料である。本発明の前記重合性モノマー(i)の使用は、多量の前記固体充填剤を本発明の前記重合性マトリックス中に導入することを可能にする。本発明の重合性歯科用コンポジットは、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、さらに好ましくは少なくとも70重量%、最も好ましくは少なくとも80重量%の前記固体充填剤を含む。重量%として表される充填剤含有量は前記重合性マトリックスが分散できる充填剤の導入量の適切な表示ではないので、充填剤含有量は、前記固体充填剤の密度に関係のない充填剤の含有量の数値を表す容量%として表されるべきである。この定義を使用すると、本発明の重合性歯科用コンポジットは、一般に、少なくとも55容量%、好ましくは少なくとも60容量%、さらに好ましくは少なくとも64容量%、なおさらに好ましくは少なくとも66容量%、最も好ましくは少なくとも67.5容量%の前記固体充填剤を含む。明らかに、前記重合性マトリックス中に導入することのできる前記固体充填剤の正確な量は、前記固体充填剤の粒子のサイズ、すなわち、前記固体充填剤の表面積に依存する。
【0036】
本発明において使用されてもよい適当な充填剤としては有機および無機固体充填剤が挙げられ、無機充填剤が好ましい。無機充填剤の例はガラス、例えば、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、または亜鉛を含むガラス、アルミノ珪酸塩ガラス、および金属酸化物、例えば、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、シリカ、アパタイト、または樹脂の硬化混合物および粉砕された充填剤またはさもなければ粉末までサイズを減少させた充填剤である。他の例は溶融シリカ、石英、結晶性シリカ、無定形シリカ、ソーダガラスビーズ、ガラスロッド、セラミック酸化物、粒状シリケートガラス、放射線不透過性ガラス(バリウムガラスおよびストロンチウムガラス)、および合成鉱物である。また、シランカップリング剤と反応する材料が好ましいが、微細材料および粉末ヒドロキシルアパタイトを使用することも可能である。また、ポリマーで被覆されたコロイド状シリカまたはサブミクロンシリカも充填剤として利用可能である。また、適当な無機充填剤は、La、ZrO、BiPO、CaWO、BaWO、SrF、Biである。適当な有機充填剤としては、ポリテトラフルオロエチレン粒子等のポリマー粒子が挙げられる。歯の様々な陰影に組成物を一致させるために少量の顔料を含ませることもできる。
【0037】
前記固体充填剤の粒子は、100μmより下、好ましくは50μmより下、さらに好ましくは20μmより下の平均サイズを有するべきである。平均粒径の異なる2つ以上の固体充填剤が混合されてもよい。粒径分布は単一様式または多様式であってもよい。好ましくは、粒径分布は二峰性である。粒子は任意の所望の形状、例えば球状、機械的粒径サイズ減少により得られるような不規則形状、繊維、ウイスカー、小板、ダンベル形状、または円筒形状であってもよく、固体、中空、または多孔であってもよい。本発明において使用されてもよい固体充填剤は当該技術分野において知れられている。
【0038】
無機充填剤は、好ましくは、本発明における使用前に、充填剤粒子の表面をさらに疎水性にするためにシラン化される。この目的のためのシラン化剤は、当該技術分野において知られており、例えば、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランである。
【0039】
本発明の重合性歯科用コンポジットは、さらに、前記重合性歯科用コンポジットの熱硬化または光硬化のためのラジカル重合開始剤系を含む。重合開始剤は特に限定されるものではなく、光開始剤、熱開始剤または光開始剤および熱開始剤の組合せからなる群から選択されてもよい。本明細書においては光硬化が好ましい。良好な光硬化開始剤系は、ショウノウキノン(CQ)、ジメチルアミノ安息香酸(DMABE)、およびブチレート化ヒドロキシトルエン(BHT)を含む。
【0040】
本発明の重合性歯科用コンポジットが光硬化される場合は、ワンパック歯科用材料として光密充填で調製され、貯蔵され、そして歯科医師に配達される。コンポジットを歯構造に適用した後で、従来の歯科用硬化ランプを使用して硬化されてもよい。
【0041】
本発明の重合性歯科用コンポジットは本質的に水を含まない。一般に、1重量%より下、好ましくは0.5重量%より下、さらに好ましくは0.3重量%より下、最も好ましくは0.2重量%より下の水を含む。重合性マトリックスは、好ましくは、1重量%を超えるポリ(メタ)アクリル酸を含まない。さらに、重合性マトリックスは、好ましくは、1重量%を超えるブタンテトラカルボン酸ビス−(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)エステルを含まない。
【0042】
1つの実施形態においては、本発明の重合性歯科用コンポジットは、好ましくは、0.5重量%未満の水を含み、重合性マトリックスは、最大15重量%の、1つまたは複数のカルボン酸基を有する化合物を含む。
【0043】
テスト方法
硬化ペーストの物性は、できる限りポリマーを基にした歯科用充填材料のためのISO4049規格で与えられる方法を使用して特徴付けられた。ペースト(本発明の重合性歯科用コンポジット)の剛性は、コンピューレ(compule)(米国特許第4391590号を参照)として知られている小さな歯科用注射器からそれらを押出すのに必要とされる力を測定することにより評価された。ペーストはコンピューレ中に充填され、コンピューレからペーストを押出すのに必要とされる力は、28mm/分のクロスヘッド速度および23℃の温度で、Zwick万能試験機で測定された。硬化ペーストの降伏点強度は、高さ5mmおよび直径4mmの試験片を使用し、1mm/分のクロスヘッド速度および23℃の温度で、Zwick万能試験機を使用して、圧縮において測定された。試験片は、直径5mmおよび高さ4mmの内側寸法を持つ割型ステンレススチール金型にコンポジットペーストを充填し、充填した金型をガラス板の間で加圧し、600〜800mW/cmの出力を有する歯科用硬化ランプを使用してそれぞれの側からサンプルを20秒間硬化して作製した。硬化した試験片を金型から取り出し、テスト前に37℃で24時間水中で貯蔵した。降伏点強度は、応力−歪関係が非線形になった時点の力として採用した。
【0044】
取扱い性は、ペーストを歯科用パッド上に広げて、ペーストが凝集塊として残るかどうかを観察し、また、ペーストが如何に容易に形状に成形されるかを観察し、この形状が型崩れせずに保持されるかどうかを観察することにより評価された経験的性質である。取扱い性は、凝集塊ではなかった、形成が困難であった、またはその与えられた形体を保持しなかったペーストに低い数字が与えられる0〜5の尺度で評価した。逆に、凝集性であり、形成が容易であるにも拘わらずそれらの与えられた形状を保持したペーストは高い数字を与えられた。したがって、最高のペーストはこの尺度で5と評価された。1つまたは2つの性質は優れているが他は劣っている材料よりも良好な性質の全体的調和のとれた材料を有することがさらに重要であることが強調される。
【0045】
取扱い性評価の定義:
取扱い性 定義
1 乾燥斑点を示し、紙の上に広げた場合にひび割れをするもろい
ペースト。歯科医師には受入れられない。
2 紙の上に広げた場合に亀裂を示す非常に堅いペースト。歯科医師
には受入れられない。
3 紙の上に広げた場合にペーストに亀裂を与える堅いが滑らかな
ペースト。臨床的に使用可能。
4 滑らかでクリームのようなペーストだが理想よりわずかに堅い。紙
の上に広げた場合にペーストにわずかな亀裂が形成されるのみ。
歯科医師には受入れ可能。
5 滑らかでクリームのようなペーストで歯科用として理想的。紙の
上に広げた場合にペーストに亀裂の兆候はない。
【0046】
ペーストの安定性の測定
貯蔵寿命の目安としてのペーストの安定性は、歯科用カプセルの中に充填し、次いで、あらゆる変化を促進するためにこれらを60℃で貯蔵することにより測定された。毎日、3つのコンピューレを取り出して、室温に冷却し、コンピューレからペーストを押出すのに必要とされる力を、28mm/分のクロスヘッド速度で、Zwick万能試験機を使用して測定した。この速度は、歯科医師が臨床使用においてコンピューレから材料を押出す時の速度にほぼ近い。3つのコンピューレのそれぞれに対する平均押出し力を、時間単位の時間に対してプロットし、その後それは60℃で貯蔵するために回収された。グラフの勾配は、N/hでの押出し力の上昇速度を示す。
【0047】
カルボン酸アクリルモノマーの調製
合成例1:HPGM
無水グルタル酸(22.8g)、ヒドロキシプロピルメタクリレート(28.8g)、ブチレート化ヒドロキシトルエン(BHT)(0.05g)、およびベンジルトリエチルアンモニウムクロライド(TBAC、0.05g)を、均質液体が得られるまで40℃まで密閉フラスコにおいて温め、撹拌した。次いで、温度を100℃まで9時間上昇させた。この後、混合物のFTIRスペクトルは無水物による非常に小さなピークのみを有し、したがって、無水物は本質的に完全に反応したことを示した。無色透明な液体が得られ、さらなる精製なしで使用した。湿潤pH指示棒(Machery−Nagel pH−Fix 0.0〜6.0)に適用した場合、2.5のpHを示した。
【0048】
合成例2:GGDM
無水グルタル酸(22.8g)、グリセリンジメタクリレート(46.8g)、BHT(0.05g)、および濃HSO(0.3g)の混合物を40℃に2時間温め、次いで、48時間放置した。この後、無水物はFTIR分光法で示された通り残存せず、無色透明な液体が得られた。
【0049】
繰り返しの合成で、無水グルタル酸(22.8g)、グルセリンジメタクリレート(46.8g)、BHT(0.05g)、およびジメチルアミノピリジン(0.07g)の混合物を撹拌し、50℃で1時間加熱し、次いで、温度を100℃まで上げて2.5時間加熱した。痕跡の無水物のみを含む無色透明な液体が得られた。湿潤pH指示棒(Machery−Nagel pH−Fix 0.0〜6.0)に適用した場合、2.5のpHを示した。
【0050】
合成例3:無水グルタル酸とペンタエリスリトールトリアクリレートとの付加物
無水グルタル酸(22.8g)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(純度85%、61.15g)、BHT(0.05g)、および濃HSO(0.15g)を撹拌し、40℃に2.5時間加熱した。この後、FTIRは、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PTA)の全ての−OH基は消費されたが未反応の無水物が残ったことを示した。さらに25.6gのPTAおよび0.15gの濃HSOを添加し、混合物を1日放置した。さらに50℃に約4時間加熱後、粘稠な濁った液体が得られた。
【0051】
合成例4:無水グルタル酸と2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)との付加物
無水グルタル酸(22.8g)、HEMA(26.13g)、BHT(0.05g)、およびTBAC(0.05g)を密閉ガラス容器に入れて撹拌し、100℃で合計11時間加熱した。この後、無水物は反応を完了し、透明な液体が得られた。湿潤pH指示棒(Machery−Nagel pH−Fix 0.0〜6.0)に適用した場合、2.5のpHを示した。
【0052】
他の付加物の合成
無水グルタル酸またはヒドロキシプロピルメタクリレートを他の適当な無水物またはラジカル重合性アルコールに代えて、モル対モルを基準にして合成例1と同様に他の適当な付加物を作製した。
【0053】
比較例2および3の分散剤の合成
カプロラクトン−2−(メタクリロキシ)エチルエステルのホスフェート誘導体を、米国特許第6300390号の第8欄で示されている実施例の方法により合成した。生成物は米国特許第6300390号の化合物1aに相当し、米国特許第6300390号において示されている実施例の生成物は、本発明の化合物に構造的に最も近く、ほぼ同じ鎖長を有していた。透明で淡黄色の液体が記載された通りに得られた。湿潤pH指示棒(Machery−Nagel pH−Fix 0.0〜6.0)に適用した場合、0.0以下のpHを示した。したがって、このホスフェート分散剤は高い酸性である。
【0054】
実施例1〜5および比較例1
実験の最初の設定において、使用可能なペーストが常に得られ、得られたペーストの性質が測定される様に樹脂対ガラス比を変えてコンポジットペーストを作った。重合性マトリックスを次の通り調製した:樹脂混合物を、2.8部のBis−GMA、44部のUDMA(7,7,9−トリメチル−4,13−ジオキソ−3,14−ジオキサ−5,12−ジアザ−ヘキサデカン−1,16−ジオールジメタクリレート)、20部のトリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)、および33.2部のエトキシレート化ビス−GMA(EBA)から作った。HPGMまたはUDAをこの樹脂混合物に、以下で与えられる量で添加し、続いて、全樹脂混合物を基準にして0.31部のCQ、0.9部のDMABE、および0.81部のBHTを添加した。この重合性マトリックス(15部)をニーダーに入れ、約5μmの平均粒径を有するシラネート化ガラス充填剤(例えば、フルオロアルミノシリケートガラス充填剤)(60部)を添加した。次いで、この2つを均質なペーストが得られるまで一緒に混練した。次いで、さらにガラス充填剤を添加し、適当なコンシステンシーおよび約80N〜100Nの押出し力が達成されるまでペースト中に混練した。適当な均質のペーストが得られた後、これをさらに5分間、包含空気を除去するために約100mbarの真空下で混練した。重合性マトリックスの含有量および充填剤含有量は、本明細書では便宜上重量%または重量部で与えられる。しかしながら、充填剤の容量%で組成物を比較することが最も重要であり、以下の表においては、したがって、樹脂の重量%は充填剤の容量%に転換されている。この転換はガラスの密度を3.0g/cmであるとし、重合性マトリックスの密度を1.1g/cmであるとして行う。
【表1】

【0055】
「分散剤(部)」の欄は、上記の通りの樹脂混合物の100部当たりの分散剤の部(重量)を表す。「ペースト」は本発明の重合性歯科用コンポジットである。「マトリックス」は本発明の重合性マトリックスである。
【0056】
表1から、分散剤が重合性マトリックスにおいて使用されない場合は、約80Nの押出し力を得るためには、ペーストにおいて16.6重量%の重合性マトリックス(64.8容量%の充填剤)を必要とすることが分かる。しかしながら、表面硬度は良好であるが、降伏点強度はむしろ低く、収縮は大き過ぎる。分散剤として1%のウンデカン酸(UDA)を添加することは(比較例1)、15.2重量%の重合性マトリックス(67.17容量%の充填剤)だけを含む使用可能なペーストを得ることを可能にするが、収縮は2.1%に減少するが、降伏点強度はなおさらに156.8MPaにまで減少する。したがって、UDAはペーストの高い充填剤含有量の達成を可能にし、これは取りも直さず収縮を減少させるが、硬化ペーストの物性には悪影響を及ぼす。したがって、米国特許第5154613号に記載されている脂肪酸は本出願にとって適切な分散剤ではない。
【0057】
実施例2において、HPGM、本発明による重合性モノマー(ii)は、樹脂混合物において3%の量で使用された。ペーストは、68.0容量%の充填剤含有量で得ることができ、降伏点強度は、分散剤を含まない実施例1におけるよりも高く、収縮は2%まで減少した。HPGMの量を5.4部まで増加した場合(実施例3)、ペーストは68.4容量%の充填剤を含むものを作ることができた。コンピューレからこれを押出すのに必要された力はわずか75Nであったが、降伏点強度は176.5MPaまで増加し、収縮は2.0%まで減少した。樹脂において6部のHPGMを伴う実施例4は実施例3と極似の結果を示した。したがって、UDAとは逆に、HPGMは、硬化の際のペーストの収縮を減少させることになるペーストの高い充填剤含有量を得ることを可能とし、同時に降伏点強度が増加する。実施例5においては、無水グルタル酸とグリセリンジメタクリレート(GGDM)との付加物が分散剤として使用された。3部のGGDMを用いる実施例5では、ペーストは67.3容量%の充填剤を含むことができ(3部のHPGMが使用された場合の68容量%と比較して)、実施例5は実施例3よりも少ない充填剤を含むが、それにも拘わらず押出し力はより高い。したがって、実施例5の物性は好ましいものではあるが、HPGMはGGDMよりも分散剤として全体的にさらに好ましい。
【0058】
実施例6〜11および比較例2および3
実験の第2シリーズでは、ペーストの充填剤含有量を67.5容量%で一定に保持した(85重量%の充填剤および15重量%の重合性マトリックス)。この第2シリーズでは、わずかに高い押出し力であって低い収縮をもたらす異なる樹脂混合物を使用した。したがって、ウレタンジメタクリレート樹脂(UDMA=7,7,9−トリメチル−4,13−ジオキソ−3,14−ジオキサ−5,12−ジアザ−ヘキサデカン−1,16−ジオール−ジメタクリレート)、エトキシレート化ビス−GMA樹脂(EBA)、および必要な分散剤を含む重合性アクリレートモノマーの重合性マトリックスを作った。この組成物は、UDMA対EBAの比は本質的に約1:1.3で一定に保持され、分散剤の量だけを変える様に選択された。0.3部のショウノウキノン、0.9部のジメチルアミノ安息香酸、および0.6部のBHTを、それぞれに、光開始剤および重合禁止剤として添加した。
【0059】
次いで、重合性マトリックス(15部)をニーダーに入れ、約5μmの平均粒径を有するシラネート化ガラス充填剤(85部)を添加した。次いで、この2つを、均質なペーストが得られるか、またはペーストが形成できずに透明となるまで一緒に混練した。均質なペーストが得られた場合は、これをさらに5分間、包含空気を除去するために約100mbarの真空下で混練した。結果は表2で示される。
【0060】
実施例6における様にHPGMが使用されなかった場合、均質ペーストは15%の重合性マトリックスでは得ることができず、もろい乾燥混合物が得られただけであった。したがって、実施例6のペーストの物性は測定できなかった。3部のHPGMが実施例7において重合性マトリックスに含まれた場合、均質なペーストを得ることはできたが、コンピューレからペーストを押出すのに必要とされた力は220±20ニュートンであり、実際の使用には高過ぎる。実施例8において5部のHPGMが使用された場合、均質なペーストが容易に得られ、コンピューレからペーストを押出すのに必要とされた力は約130±20ニュートンの有用な範囲であったが、取扱い性は未だ最適状態には及ばなかった。上で使用されたHPGMの量を5部まで増加しても押出し力においてさらなる減少をもたらすことはないが、ペーストの表面硬度および取扱い性をさらに改善した。実施例11において9部のHPGMを使用した場合、ペーストの取扱い性は良好なままであったが、ペーストの他の性質が悪化した。
【0061】
比較例として、米国特許第6300390号において言及されているホスフェートを基にした分散剤を使用した。比較例2の化合物は、米国特許第6300390号の化合物1aの均等物であり、これは、全体の鎖長(15原子)がHPGM(13原子)の鎖長に極めて類似し、類似の性質が期待されるので比較物質として選択された。しかしながら、表2で示される通り、樹脂において3%の化合物1aが使用された場合、均質なペーストを得ることは不可能であった。重合性マトリックスにおいて7%の化合物1aが使用された場合(ペースト全体で1.05%)、得られたペーストは186Nの押出し力を有し、取扱い特性は非常に劣っていた。
【0062】
これらの配合物において、したがって、ホスフェートを基にした分散剤、米国特許第6300390号の化合物1aは本発明の分散剤よりも劣る。分散剤の代わりにメタクリル酸を使用した場合は低押出し力が得られた。しかしながら、ペーストの取扱い性に劣り、強烈で不愉快な臭いを有していた。さらに、60℃の促進熟成条件下での押出し力の上昇速度で決定された通りに貯蔵寿命は短かった。
【0063】
表2から、ペーストの性質の最善の全体的調和は、樹脂マトリックスが約6〜7部のHPGM(重合性歯科用コンポジットにおいて0.9%のHPGM)を含む場合に得られることが理解できる。これは、許容される押出し力を有し、硬化した場合に204MPaの高い降伏点強度およびわずか約1.7%の収縮を有する本質的に無臭の安定なペーストを作ることを可能とする。所望の性質のこの組合せは、本発明の分散剤(HPGM等)が使用されなかった場合には得ることができなかった。
本出願によりその優先権が主張されるヨーロッパ特許出願第05003049.3号の内容は、全体に参照として本明細書に組み込まれる。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体充填剤および有機重合性マトリックスからなる重合性歯科用コンポジットであって、該重合性マトリックスが、
(i)少なくとも2つの重合性基を有する少なくとも1つの重合性(メタ)アクリルモノマーと、
(ii)前記重合性マトリックスの全重量を基準にして1.0〜15重量%のカルボン酸基を有する少なくとも1つの重合性モノマーとからなり、該カルボン酸基を有する重合性モノマーが、
炭素、酸素、および窒素から選択される6〜20個の原子の任意に置換された鎖と、
該鎖の末端にあるカルボン酸基と、
重合性エチレン系不飽和部分と
を有する化合物である、重合性歯科用コンポジット。
【請求項2】
前記カルボン酸基を有する重合性モノマーが、次式:
【化1】

(式中、
およびRは独立に、H、C1〜6アルキル基またはC1〜6アルキリデン基であり、破線二重線は単結合または二重結合を表し、
mは1〜5の整数であり、mが2以上である場合は、複数の基Rは同じか異なっていてよく、
XはOまたはNRであり、Rは水素またはアルキル基であり、
Yは1つまたは複数の重合性エチレン系不飽和基を含む基である)
の化合物である、請求項1に記載の重合性歯科用コンポジット。
【請求項3】
前記カルボン酸基を有する重合性モノマーが、カルボン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルである、請求項1または2に記載の重合性歯科用コンポジット。
【請求項4】
固体充填剤および有機重合性マトリックスからなる重合性歯科用コンポジットであって、該重合性マトリックスが、
(i)少なくとも2つの重合性基を有する少なくとも1つの重合性(メタ)アクリルモノマーと、
(ii)前記重合性マトリックスの全重量を基準にして1.0〜15重量%のカルボン酸基を有する少なくとも1つの重合性モノマーとからなり、該カルボン酸基を有する重合性モノマーが、次式:
【化2】

(式中、
およびRは独立に、H、C1〜6アルキル基またはC1〜6アルキリデン基であり、破線二重線は単結合または二重結合であり、
mは1〜5の整数であり、mが2以上である場合は、複数の基Rは同じか異なっていてよく、
XはOまたはNRであり、Rは水素またはアルキル基であり、
Yは1つまたは複数の重合性エチレン系不飽和基を含む基である)
を有する化合物である、重合性歯科用コンポジット。
【請求項5】
前記重合性マトリックスが、2.0〜12重量%の前記カルボン酸基を有する重合性モノマーを含む、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の重合性歯科用コンポジット。
【請求項6】
前記重合性マトリックスが、3.0〜12重量%の前記カルボン酸基を有する重合性モノマーを含む、請求項5に記載の重合性歯科用コンポジット。
【請求項7】
50〜97重量%、好ましくは80〜95重量%の前記固体充填剤を含む、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の重合性歯科用コンポジット。
【請求項8】
前記カルボン酸基を有する重合性モノマーが、次式:
【化3】

(式中、RはHまたはメチルであり、
およびRは独立に、H、C1〜6アルキル基またはアルキリデン基であり、破線二重線は単結合または二重結合を表し、
Aは2〜12個の炭素原子を有する任意に置換されたアルキレン基であり、
kは1〜5の整数であり、
XはOまたはNRであり、Rは水素またはアルキル基であり、
ZはOまたはNRであり、Rは水素またはアルキル基であり、
mは1〜5の整数であり、mが2以上である場合は、複数の基Rは同じか異なっていてもよい)
の少なくとも1つの化合物である、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の重合性歯科用コンポジット。
【請求項9】
前記カルボン酸基を有する重合性モノマーが、次式:
【化4】

(式中、R、RおよびR、X、m、および破線二重線は請求項8に記載の通りであり、
およびRは独立に、H、アルキル基、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基、またはRおよびRは、一緒になって任意に置換されたアルキリデン基を形成してもよく、
およびRは独立に、H、アルキル基、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基、またはRおよびRは、一緒になって任意に置換されたアルキリデン基を形成してもよく、
nは0〜10の整数であり、nが2以上である場合は、複数の基RまたはRは同じか異なっていてもよい)
の少なくとも1つの化合物である、請求項8に記載の重合性歯科用コンポジット。
【請求項10】
mが1または2であり、nが2〜5であり、RおよびRがHであり、RおよびRの少なくとも1つがHであり、RおよびRの少なくとも1つがHである、請求項9に記載の重合性歯科用コンポジット。
【請求項11】
nが2、3、または4である、請求項9または10に記載の重合性歯科用コンポジット。
【請求項12】
が(メタ)アクリロイルオキシメチル基である、請求項10または11に記載の重合性歯科用コンポジット。
【請求項13】
前記重合性カルボン酸が、無水グルタル酸とヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとの反応および/または無水グルタル酸とグリセロールジ(メタ)アクリレートとの反応により得ることができる、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の重合性歯科用コンポジット。
【請求項14】
前記重合性カルボン酸が、無水グルタル酸とヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得ることができる、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の重合性歯科用コンポジット。
【請求項15】
前記カルボン酸基を有する重合性モノマーが不飽和脂肪酸である、請求項1に記載の重合性歯科用コンポジット。
【請求項16】
前記重合性マトリックスが、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、さらに好ましくは少なくとも70重量%の、少なくとも2つの重合性基を有する重合性(メタ)アクリルモノマーを含む、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の重合性歯科用コンポジット。
【請求項17】
前記少なくとも2つの重合性基を有する重合性アクリルモノマーがカルボン酸基を含まない、請求項1乃至16のいずれか1項に記載の重合性歯科用コンポジット。
【請求項18】
前記歯科用コンポジット充填材料の熱硬化または光硬化のためのラジカル重合開始剤系をさらに含む、請求項1乃至17のいずれか1項に記載の重合性歯科用コンポジット。
【請求項19】
前記コンポジットが1.0重量%未満の水を含む、請求項1乃至18のいずれか1項に記載の重合性歯科用コンポジット。
【請求項20】
前記重合性マトリックスが、最大20重量%の1つまたは複数のカルボン酸基を有する化合物を含む、請求項1乃至19のいずれか1項に記載の重合性歯科用コンポジット。
【請求項21】
請求項10乃至14のいずれか1項に記載の、カルボン酸基を有する重合性化合物。
【請求項22】
請求項1乃至20のいずれか1項に記載の重合性歯科用コンポジットの製造方法であって、
(a)固体充填剤と、
(b)重合性マトリックスであって、
(i)請求項1乃至20のいずれか1項に記載の少なくとも2つの重合性基を有する少なくとも1つの重合性(メタ)アクリルモノマーと、
(ii)請求項1乃至20のいずれか1項に記載の前記重合性マトリックスの全重量を基準にして1.0〜15重量%のカルボン酸基を有する少なくとも1つの重合性モノマーとを含む重合性マトリックスと、
(c)前記重合性歯科用コンポジットの熱硬化または光硬化のためのラジカル重合開始剤系と
をブレンドする工程を含む方法。
【請求項23】
請求項1乃至20のいずれか1項に記載の重合性歯科用コンポジットを歯に適用する工程および該歯に適用された前記重合性歯科用コンポジットを重合する工程を含む、歯の修復を調製する方法。
【請求項24】
請求項1乃至20のいずれか1項に記載の前記重合性歯科用コンポジットを重合することにより得られたまたは得られる歯科用コンポジット。

【公表番号】特表2008−530047(P2008−530047A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−554519(P2007−554519)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【国際出願番号】PCT/EP2006/001341
【国際公開番号】WO2006/084769
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(502289695)デンツプライ デトレイ ゲー.エム.ベー.ハー. (28)
【Fターム(参考)】