説明

コーティングされたシリケート蛍光体を製造する方法

シリケート蛍光体に対してコーティングを設ける方法である。この方法は、コーティング材料前駆体の溶液を提供するステップと、溶液内の蛍光体粒子上にコーティング材料を析出させるステップと、酸化雰囲気内で、少なくとも200℃の温度で熱処理するステップとを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載されている、シリケート蛍光体をコーティングする方法に基づく。この方法は殊に、オルトシリケートまたはニトリド−オルトシリケートに使用可能である。
【0002】
従来技術
EP1199757号から、蛍光体、殊にオルトシリケートに対するコーティングが知られている。殊にSiO2が使用されている。
【0003】
本発明の概要
本発明の課題は、オルトシリケート−蛍光体の安定性を容易に改善することができる方法を提供することである。
【0004】
上述の課題は、請求項1の特徴部分に記載されている構成によって解決される。
【0005】
特に有利な形態は、従属請求項に記載されている。
【0006】
多くの用途、殊にLCDバックライトにおいて、Luko−LEDが必要とされる。このLuko−LEDの実現には、赤色スペクトル領域における発光も緑色スペクトル領域における発光も備えている適切な変換材料が必要となる。ここでLukoとは、ルミネッセンス変換(Lumineszenz-Komversion)を意味する。半導体チップの発光波長とともに、できるだけ広い色空間が形成されるべきである。適切な蛍光体の種類は緑色発光(ニトリド−)オルトシリケートAE2−x−aREEuSiO4−xである(AE:Sr,Ca,Ba,Mg;希土類金属(RE):殊にY,La)。なぜならこれらは、適切な発光波長および良好な変換効率を有しているからである。(ニトリド−)オルトシリケート蛍光体の欠点は、酸性の環境または(大気の)湿気等の外部の化学的影響に対する安定性が不十分である、ということである。これによって、使用中にLED内で蛍光体が劣化して、緑色スペクトル領域における変換効率、ひいてはLEDの色位置に悪影響が与えられてしまう。
【0007】
現時点では、変換効率に関して、(ニトリド−)オルトシリケート蛍光体と競合可能な緑色発光蛍光体は知られていない。蛍光体の劣化はLUKOLEDにおけるこのような蛍光体種類の使用に悪影響を及ぼすので、ストイキオメトリー、殊にアルカリ土類イオンの割合を変えることによって安定性を本質的に改善することが試みられた。しかしこの試みによって、この用途に対して十分に良好な安定性は得られなかった。さらに、本質的な安定性に関するストイキオメトリーの変更は、蛍光体の発光波長に悪影響を及ぼす。
【0008】
(ニトリド−)オルトシリケート蛍光体の不十分な化学的安定性は、表面改質によって格段に改善され、これによって、本質的な安定性の悪影響が回避される。無機水酸化物層、例えばAl(OH)、Y(OH)またはMg(OH)、または無機酸化物層、例えばAl、Y、MgOまたは特に有利にはSiO、または2つの物質種類からの混合形態を、蛍光体粒子の表面に被着させることによって、蛍光体コアの完全な被覆が実現される。バリア作用が生じ、これは変換効率に対して重要な粒子への化学的な攻撃を強力に阻止し、これによってオルトシリケート蛍光体の劣化が格段に低減される。
【0009】
このような拡散バリアの被着は、コーティング前駆体の溶液から析出させることによって行われ、有利には金属アルコキシドまたは金属アルキル、有利にはテトラエトキシシラン(TEOS)の加水分解とこれに後続する凝結によって行われる。これは基本的に文献に記載されている(例えば:W.Stoeber、A.Fink、E.Bohn著「J.Colloid Interface Sci.(1968、26、62−69)」)。これに加えて、コーティング前駆体の添加速度が遅いことによって、溶液内の僅かな過飽和が保証される。従って、別の相における核形成が低減され、蛍光体粒子表面上の析出が促される。
【0010】
拡散バリアとしてのコーティングの質にとって重要なのは、0〜20時間にわたった温度150〜500℃での、有利には2〜10時間にわたった温度200〜400℃での酸化雰囲気における後続の熱処理である(図1を参照)。なぜなら、このようにして、被着された層の完全な脱水、緻密化および有機残留部分の除去が行われるからである。
【0011】
以下で、本発明を、複数の実施例に基づいてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】白色光のための光源(LED)として用いられる半導体デバイス
【図2】本発明による蛍光体を備えた照明ユニット
【図3】加熱時間と温度の関数としての、安定化に必要な加熱ステップ中の蛍光体の熱被害の低減
【図4】コーティングされた蛍光体コアの概略図
【実施例】
【0013】
GaInNチップとともに、白色LED内に組み込むために、例えば、US5998925に記載されている様な構造が使用される。白色光用のこのような光源の構造の例が、図1に示されている。この光源は、460nmのピーク発光波長を有する、InGaNタイプの半導体デバイス(チップ1)であり、第1の電気的接続端子2および第2の電気的接続端子3を有している。この半導体デバイスは、光を通す基本ケーシング8内に、陥入部9の領域に埋設されている。1つの接続端子3は、ボンディングワイヤ14を介してチップ1と接続されている。陥入部は、チップ1の青色主要ビームに対する反射体として用いられる壁部17を有している。陥入部9には、シーリングコンパウンド5が充填されている。このシーリングコンパウンドは、主要構成部分としてシリコーン樹脂(70〜95重量%)と蛍光体ピグメント6(30重量%を下回る)を含んでいる。別の僅かな成分は、殊にアエロジルである。蛍光体ピグメントは、複数のピグメントからの混合物であり、ここでは殊にオルトシリケートまたはニトリド−オルトシリケートである。
【0014】
図2には、照明ユニットとしての照明パネル20の一部が示されている。これは共通の担体21から成り、この担体上には平行六面体形状の外側ケーシング21が接着されている。外側ケーシングの上面には、共通の蓋23が設けられている。平行六面体形状のケーシングは空白部を有しており、この空白部内に個々の半導体デバイス24が収容されている。これらは、380nmのピーク放射を備えたUV放射発光ダイオードである。白色光への変換は、図1に示されているように直接的に、個々のLEDの注型樹脂内に設けられている変換層またはUVビームが届く全ての面に取り付けられている層25によって行われる。これには、内側にある、ケーシングの側面の表面、蓋の表面および底面部分の表面が挙げられる。変換層25は、3つの蛍光体から成る。これらの蛍光体は、本願発明の蛍光体を用いて、赤色、緑色および青色のスペクトル領域で発光する。択一的に、青色発光LEDアレイを使用することもできる。この場合には変換層は、本発明に従って1つまたは複数の蛍光体から成る。これは殊に、緑色および赤色のスペクトル領域で発光する蛍光体である。
【0015】
(ニトリド−)オルトシリケート蛍光体をコーティングするために、蛍光体20gが、173mlのエタノールと14.7mlの脱イオン水内に懸濁される。より良好な分散のために、5分間の超音波処理がなされた。コーティングは、22mlのEtOH中の2.2mlのTEOSを、60℃での撹拌のもとで、30分間隔で緩慢に添加することによって行われる。この添加は、TEOSの全体体積が14.8mlになるまで行われる。この懸濁液を冷却した後、コーティングされた蛍光体が反応混合物から分離され、水およびエタノールによって洗浄され、12時間、60℃で乾燥される。次に、コーティングの完全な脱水および緻密化のために、350℃で5時間、空気中で熱処理される。
【0016】
記載した方法によって、SiOから成る、密に閉じられているコーティングが、粒子表面上に形成される。無機酸化物層、有利にはSiOによってコーティングされた(ニトリド−)オルトシリケート蛍光体は、コーティングされていない蛍光体と比べて、酸性かつ湿り気の有る環境に対して格段に改善された安定性を有している。この格段に低減された酸脆弱性および加水分解脆弱性は、pH=4.75の酸性緩衝液内に、この蛍光体を懸濁させることで質的に証明される(等モルの0.1M酢酸−アセテート−緩衝液、蛍光体濃度1%)。コーティングされていない蛍光体と比べて、溶液の一定の導電性までの時間(これは蛍光体の加水分解が終了したことのインジケーターである)は、このコーティングによって、少なくとも20倍長くなる。従って、(ニトリド−)オルトシリケートの耐加水分解性は、本願発明に記載されているコーティングによって格段に改善されている。
【0017】
上述した発明では殊に、安定化が、本質的な安定化とは違って、蛍光体材料の組成を変化させずに可能であるのは有利である。本質的な安定化のための組成変更によっては常に、オルトシリケート蛍光体のルミネッセンス特性に、大概は不所望である変化が生じてしまう。殊に、LUKOLED内での使用の場合に重要な発光波長に不所望な変化が生じてしまう。これとは異なり、酸化物層の被着による、本願に記載された安定化は、ルミネッセンス特性に影響を与えない。
【0018】
むしろ、上述した安定化方法によって、(ニトリド−)オルトシリケートの組成を、ルミネッセンス特性に関して最適化して、本願に記載された方法によって安定化させることが可能である。効果的な(ニトリド−)オルトシリケート蛍光体と、被着されたコーティングと、後続の加熱プロセスとを組み合わせることによって、LED使用の場合に、緑色発光(ニトリド−)オルトシリケート蛍光体が格段に改善される。
【0019】
蛍光体としては殊に、オルトシリケートM2SiO4:Euが使用される(式中、M=Ba、Sr、Ca、Mgであり、単独またはこれらの混合である)。適切な蛍光体の別のクラスは、タイプM2SiO(4−x)Nx:EuのM−Sionである(ここでも式中、M=Ba、Sr、Ca、Mgであ、単独またはこれらの混合である。)。適切な蛍光体の別のクラスは、タイプM2−xRExSiO4−xNx:Euの蛍光体である。ここで希土類金属REは有利にはYおよび/またはLaである。この蛍光体の別の形は、M(2−x−a)EuaRExSiO(4−x)Nxである。
【0020】
図3は、200〜500℃の種々の温度での、粉末タブレットで測定された量子効率Qeをパーセントで、加熱時間の関数として示している。
【0021】
図4は、コーティングされた蛍光体コアを概略的に示している。(Sr,Ba)2Si04:Euから成るコア11は、SiO2から成る、ほぼ0.2μmの厚さの保護層で包囲されている。この保護層は、上述した方法によって被着されたものである。
【0022】
加熱のプラス作用は、殊に、表1および表2に即した以降の比較から明らかである。ここでは殊に次のことに注目されたい。すなわち、純粋なSiO2コーティングが元来はLED使用において破壊的な作用を与える様相を呈し、付加的な加熱ステップによってはじめて、コーティングの無い蛍光体と比較して著しい改善が得られることに注目されたい。表2を参照。
【0023】
本発明の本質的な特徴を番号を付けて列挙する:
1.シリケート蛍光体上にコーティングを設ける方法であって、
・前記コーティング材料の前駆体の溶液を準備するステップと、
・当該溶液内の蛍光体粒子上に前記コーティング材料を析出させるステップと、
・酸化雰囲気内で、少なくとも150℃の温度で熱処理するステップ
とを用いる、
ことを特徴とする、シリケート蛍光体上にコーティングを設ける方法。
2.前記析出を、金属アルコキシドまたは金属アルキルの加水分解および当該加水分解に続く凝結によって行う、請求項1記載の方法。
3.前記析出時に、前記コーティング材料の前駆体の添加速度が遅いことによって、溶液内の僅かな過飽和を保証し、当該添加速度は、1時間あたり金属カチオン最大で250mmol/l、有利には最大で150mmol/lである、請求項2記載の方法。
4.コーティング材料として無機水酸化物、殊に金属Al、YまたはMgの無機水酸化物を使用する、請求項1記載の方法。
5.コーティング材料として酸化物、殊に金属Al、YまたはMgの酸化物、またはSiO2を使用する、請求項1記載の方法。
6.コーティング材料として、酸化物と水酸化物を混合して使用する、請求項1記載の方法。
7.前記熱処理ステップを、200〜500℃の温度、殊に300〜400℃の温度で行う、請求項1記載の方法。
8.前記熱処理ステップを、少なくとも200℃の温度で、少なくとも1時間にわたって維持する、請求項7記載の方法。
【0024】
表1:酸性の懸濁液における、コーティングされていない/コーティングされている、オルトシリケート蛍光体の加水分解安定性
【表1】

【0025】
表2:LED使用時のオルトシリケート蛍光体の劣化
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリケート蛍光体上にコーティングを設ける方法であって、
・前記コーティング材料の前駆体の溶液を準備するステップと、
・当該溶液内の蛍光体粒子上に前記コーティング材料を析出させるステップと、
・酸化雰囲気内で、少なくとも150℃の温度で熱処理するステップ
とを用いる、
ことを特徴とする、シリケート蛍光体上にコーティングを設ける方法。
【請求項2】
前記析出を、金属アルコキシドまたは金属アルキルの加水分解および当該加水分解に続く凝結によって行う、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記析出時に、前記コーティング材料の前駆体の添加速度が遅いことによって、溶液内の僅かな過飽和を保証し、当該添加速度は、1時間あたり金属カチオン最大で250mmol/l、有利には最大で150mmol/lである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
コーティング材料として無機水酸化物、殊に金属Al、YまたはMgの無機水酸化物を使用する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
コーティング材料として酸化物、殊に金属Al、YまたはMgの酸化物、またはSiO2を使用する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
コーティング材料として、酸化物と水酸化物を混合して使用する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記熱処理を、200〜500℃の温度、殊に300〜400℃の温度で行う、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記熱処理を、少なくとも200℃の温度で、少なくとも1時間にわたって維持する、請求項7記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−507498(P2013−507498A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533572(P2012−533572)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064913
【国際公開番号】WO2011/045216
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(512288684)オスラム ゲーエムベーハー (28)
【氏名又は名称原語表記】OSRAM GmbH
【住所又は居所原語表記】Hellabrunner Str. 1, D−81543 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】