説明

コーティング剤組成物

【課題】耐ガソリン性、耐薬品性等の特性に優れ、比較的低温において短時間の加熱によって、各種基材に対して良好な接着性を示す含フッ素エラストマー被膜を形成するコーティング剤組成物を提供する。
【解決手段】(A)〜(D)成分からなる含フッ素エラストマー組成物に対して、過フッ素化アルキル置換芳香族化合物と過フッ素化有機化合物からなる希釈用溶剤を配合してなるコーティング剤組成物。
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する直鎖状ポリフルオロ化合物
(B)1分子中にケイ素原子に直結した水素原子を2個以上有する含フッ素オルガノ水素シロキサン
(C)白金族金属系触媒
(D)1分子中にケイ素原子に直結した水素原子と、炭素原子又は炭素原子と酸素原子を介してケイ素原子に結合したエポキシ基及び/又はトリアルコキシシリル基とをそれぞれ1個以上有するオルガノポリシロキサン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エラストマーのコーティング被膜を形成するためのコーティング剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルケニル基とヒドロシリル基との付加反応を利用した硬化性含フッ素エラストマー組成物は公知であり、更に第3成分として、ヒドロシリル基とエポキシ基及び/又はトリアルコキシシリル基を有するオルガノポリシロキサンを添加することにより、自己接着性を付与した組成物も提案されている(特開平9−95615号公報:特許文献1)。また、当該組成物に更にカルボン酸無水物を添加してポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂に対する接着性を向上させた組成物も提案されている(特開2001−72868号公報:特許文献2)。
【0003】
これらの硬化性組成物は、短時間の加熱により硬化すると同時に各種材質に接着することができる。得られた硬化物は、耐ガソリン性、耐油性、耐薬品性、耐熱性、低温特性、低透湿性、電気特性等に優れているので、これらの特性が要求される各種工業分野のシーリング、ポッティング、コーティング用途に使用されている。
特に、コーティング用途においては、含フッ素系溶剤で希釈した溶液の形で使用されることが多く、コーティング溶液の作製に使用されるフッ素系溶剤としては、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、フロリナート(3M社製)、パーフルオロブチルメチルエーテル、パーフルオロブチルエチルエーテル等が提案されている。
【0004】
しかしながら、上記溶剤を単独で使用した場合は、均一溶液が得られなかったり、均一溶液が得られても溶剤揮発後に形成される被膜の外観や膜厚が不均一になるという問題点があった。例えば、前記硬化性組成物から上記溶剤の1種を用いて作製した溶液を電気・電子素子を搭載した基板の保護用コーティングに適用した場合、外観が斑になったり硬化被膜の膜厚が一定しないことがあった。
このため、電気・電子部品の保護コーティング用途においては、金属やプラスチック等の幅広い種類の基材に対して良好な接着性を示す含フッ素エラストマー組成物を均一に溶解させ、乾燥後に外観的に均一で平滑な硬化被膜を形成させるのに有用なコーティング剤組成物の出現が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特開平9−95615号公報
【特許文献2】特開2001−72868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、耐ガソリン性、耐薬品性、耐熱性、低温特性、低透湿性、電気特性に優れ、比較的低温において短時間の加熱によって、各種基材に対して良好な接着性を示す含フッ素エラストマー被膜を形成することができるコーティング剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、過フッ素化アルキル置換芳香族化合物60〜90%(質量基準)と、過フッ素化有機化合物40〜10%(質量基準)からなる溶剤組成物が、
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する直鎖状ポリフルオロ化合物、
(B)1分子中にケイ素原子に直結した水素原子を2個以上有する含フッ素オルガノ水素シロキサン、
(C)白金族金属系触媒
からなる付加反応型硬化性組成物に対し、
(D)1分子中にケイ素原子に直結した水素原子と、炭素原子又は炭素原子と酸素原子を介してケイ素原子に結合したエポキシ基及び/又はトリアルコキシシリル基とをそれぞれ1個以上有するオルガノポリシロキサン
を添加した含フッ素エラストマー組成物の均一溶液を与え、かつ溶剤揮散後に均一な硬化被膜を与えることを知見し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、下記コーティング剤組成物を提供する。
[I]下記(A)〜(D)成分からなる含フッ素エラストマー組成物100質量部に対して、過フッ素化アルキル置換芳香族化合物と過フッ素化有機化合物との混合比(質量基準)が60/40〜90/10の範囲の希釈用溶剤10〜1,000質量部を配合してなるコーティング剤組成物。
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する直鎖状ポリフルオロ化合物
(B)1分子中にケイ素原子に直結した水素原子を2個以上有する含フッ素オルガノ水素シロキサン
(C)白金族金属系触媒
(D)1分子中にケイ素原子に直結した水素原子と、炭素原子又は炭素原子と酸素原子を介してケイ素原子に結合したエポキシ基及び/又はトリアルコキシシリル基とをそれぞれ1個以上有するオルガノポリシロキサン。
[II]前記過フッ素化有機化合物が、パーフルオロアルカン、パーフルオロ環状エーテル、パーフルオロポリエーテルから選ばれるいずれか1種又は2種以上であることを特徴とする[I]記載のコーティング剤組成物。
[III]
前記過フッ素化アルキル置換芳香族化合物が、下記一般式(2)で示されるものであることを特徴とする[I]又は[II]記載のコーティング剤組成物。
【化1】

(式中、StはH又はCF3、Rf2は炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐鎖のパーフルオロアルキル基を示す。)
[IV]前記(A)成分が、下記一般式(1):
CH2=CH−(X)a−Rf1−(X’)a−CH=CH2 (1)
[式中、Xは−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR−CO−(Yは−CH2−又は下記構造式(Z)
【化2】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)で表される基、Rは水素原子、置換もしくは非置換の1価炭化水素基、X’は、−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR−Y’−(Y’は、−CH2−又は下記構造式(Z’)
【化3】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)で表される基であり、Rは上記と同じ基である。aは独立に0又は1である。
また、Rf1は、下記一般式(i)又は(ii)で表される2価のパーフルオロポリエーテル基である。
−Ct2t−[OCF2CF(CF3)]p−O−CF2(CF2rCF2−O−
[CF(CF3)CF2O]q−Ct2t− (i)
(式中、p及びqは1〜150の整数であって、かつ、pとqの和の平均は2〜200である。また、rは0〜6の整数、tは2又は3である。)
−Ct2t−[OCF2CF(CF3)]u−(OCF2v−OCt2t− (ii)
(式中、uは1〜200の整数、vは1〜50の整数である。また、tは上記と同じである。)]
で表される直鎖状ポリフルオロ化合物であることを特徴とする[I]乃至[III]のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
[V](B)成分の含フッ素オルガノ水素シロキサンが、1分子中に1個以上の1価のパーフルオロアルキル基、1価のパーフルオロオキシアルキル基、2価のパーフルオロアルキレン基、又は2価のパーフルオロオキシアルキレン基を有することを特徴とする[I]乃至[IV]のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
[VI](D)成分のオルガノシロキサンが、さらに炭素原子又は炭素原子と酸素原子を介してケイ素原子に結合した1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基を1個以上有することを特徴とする[I]乃至[V]のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコーティング剤組成物は、耐ガソリン性、耐油性、耐薬品性、耐熱性、低温特性、低透湿性、電気特性等に優れ、かつ比較的低温かつ短時間の加熱によって金属やプラスチック等の幅広い種類の基材に対して良好な接着性を有する硬化物被膜を形成するための含フッ素エラストマー組成物のコーティング溶液として有効で、含フッ素エラストマーの均一で平滑な被膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のコーティング剤組成物は、下記(A)〜(D)成分からなる含フッ素エラストマー組成物に、特定の希釈溶剤を配合溶解してなるものである。
以下、(A)〜(D)成分について詳述する。
【0011】
〔(A)成分〕
(A)成分である1分子中に2個以上のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する直鎖状ポリフルオロ化合物は、本発明における含フッ素エラストマー組成物のベースポリマーであり、下記一般式(1)で表されるものが好ましい。
CH2=CH−(X)a−Rf1−(X’)a−CH=CH2 (1)
[式中、Xは−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR−CO−(Yは−CH2−又は下記構造式(Z)
【0012】

【化4】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)で表される基、Rは水素原子、置換もしくは非置換の1価炭化水素基、X’は−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR−Y’−(Y’は、−CH2−又は下記構造式(Z’)
【0013】
【化5】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)で表される基であり、Rは上記と同じ基である。Rf1は2価のパーフルオロポリエーテル基であり、aは独立に0又は1である。]
【0014】
ここで、Rとしては、水素原子以外の場合、炭素数1〜12、特に1〜10の置換もしくは非置換の1価炭化水素基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基等や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素等のハロゲン原子で置換した置換1価炭化水素基等が挙げられる。
【0015】
ここで、上記一般式(1)のRf1は、2価のパーフルオロポリエーテル構造を表し、下記一般式(i)又は(ii)で表される基である。
【0016】
−Ct2t−[OCF2CF(CF3)]p−O−CF2(CF2rCF2−O−
[CF(CF3)CF2O]q−Ct2t− (i)
(式中、p及びqは1〜150の整数であって、かつ、pとqの和の平均は2〜200である。また、rは0〜6の整数、tは1,2又は3である。)
【0017】
−Ct2t−[OCF2CF(CF3)]u−(OCF2v−OCt2t− (ii)
(式中、uは1〜200の整数、vは1〜50の整数である。tは上記と同じである。)
【0018】
Rf1基の好ましい例としては、例えば、下記の3つのものが挙げられる。さらに好ましくは1番目の式の構造の2価の基である。
【0019】
【化6】

(式中、m及びnは1以上の整数、m+n(平均)=2〜200である。)
【0020】
【化7】

(式中、m及びnは1以上の整数、m+n(平均)=2〜200である。)
【0021】
【化8】

(式中、mは1〜200の整数、nは1〜50の整数である。)
【0022】
(A)成分の好ましい例として、下記一般式(3)で表される化合物が挙げられる。
【化9】

[式中、Xは−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR−CO−(Yは−CH2−又は下記構造式(Z)
【化10】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基、Rは水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基、X’は−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR−Y’−(Y’は−CH2−又は下記構造式(Z’)
【化11】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基、Rは上記と同じである。aは独立に0又は1、lは2〜6の整数、b及びcはそれぞれ0〜200の整数である。]
【0023】
一般式(1)で表される直鎖状ポリフルオロ化合物の具体例としては、下記式で表されるものが挙げられる。
【0024】
【化12】

(式中、m及びnはそれぞれ0〜200、m+n=6〜200を満足する整数を示す。)
【0025】
なお、上記一般式(1)の直鎖状ポリフルオロ化合物の粘度(23℃)は、100〜100,000mPa・s、より好ましくは500〜50,000mPa・s、更に好ましくは1,000〜20,000mPa・sの範囲内にあることが、該フッ素エラストマー組成物をシール、ポッティング、コーティング、含浸等に使用する際に、硬化後においても適当な物理的特性を有しているので望ましい。当該粘度範囲内で、用途に応じて最も適切な粘度を選択することができる。なお、上記粘度は、回転粘度計による測定値である。
【0026】
これらの直鎖状ポリフルオロ化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0027】
〔(B)成分〕
(B)成分である1分子中にケイ素原子に直結した水素原子を2個以上有する含フッ素オルガノ水素シロキサンは、上記(A)成分の架橋剤乃至鎖長延長剤として機能するものである。特に、(A)成分との相溶性、分散性、硬化後の均一性等の観点から、1分子中に1個以上の1価のパーフルオロアルキル基、1価のパーフルオロオキシアルキル基、2価のパーフルオロアルキレン基又は2価のパーフルオロオキシアルキレン基等のフッ素含有基を有するものが好ましい。
【0028】
このフッ素含有基としては、例えば、下記一般式で表されるもの等を挙げることができる。
g2g+1
(式中、gは1〜20、好ましくは2〜10の整数である。)
−Cg2g
(式中、gは1〜20、好ましくは2〜10の整数である。)
F−[CF(CF3)CF2O]f−Ch2h
(式中、fは2〜200、好ましくは2〜100の整数、hは1〜3の整数である。)
−CF(CF3)−[OCF2CF(CF3)]i−O−CF2CF2−O−[CF(CF3)CF2O]j−CF(CF3)−
(式中、i及びjは1以上の整数、i+jの平均は2〜200、好ましくは2〜100である。)
−(CF2O)r−(CF2CF2O)s−CF2
(但し、r及びsはそれぞれ1〜50の整数である。)
【0029】
また、これらパーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロアルキレン基、又はパーフルオロオキシアルキレン基とケイ素原子とをつなぐ2価の連結基としては、アルキレン基、アリーレン基及びそれらの組み合わせ、或いはこれらの基にエーテル結合酸素原子、アミド結合、カルボニル結合等を介在させたものであってもよく、例えば、
−CH2CH2
−CH2CH2CH2
−CH2CH2CH2OCH2
−CH2CH2CH2−NH−CO−
−CH2CH2CH2−N(Ph)−CO−(但し、Phはフェニル基である。)
−CH2CH2CH2−N(CH3)−CO−
−CH2CH2CH2−O−CO−
等の炭素原子数2〜12のものが挙げられる。
【0030】
このようなフッ素含有基を有する(B)成分としては、例えば下記の化合物が挙げられる。なお、これらの化合物は、1種単独でも2種以上を併用して用いてもよい。また、下記式において、Meはメチル基、Phはフェニル基を示す。
【0031】
【化13】

【0032】
【化14】

【0033】
【化15】

【0034】
【化16】

【0035】
【化17】

【0036】
【化18】

【0037】
【化19】

【0038】
【化20】

【0039】
【化21】

【0040】
【化22】

【0041】
【化23】

【0042】
【化24】

【0043】
上記(B)成分の配合量は、(A)成分を硬化する有効量であり、通常(A)成分中に含まれるビニル基、アリル基、シクロアルキル基等のアルケニル基の合計1モルに対し、(B)成分中のヒドロシリル基(即ち、Si−H基)が好ましくは0.5〜3.0モル、より好ましくは0.8〜2.0モルとなる量である。ヒドロシリル基が少なすぎると、架橋度合が不十分となる結果、硬化物が得られない場合があり、また、多すぎると硬化時に発泡してしまう場合がある。
【0044】
〔(C)成分〕
(C)成分である白金族金属系触媒(ヒドロシリル化反応触媒)は、(A)成分中のアルケニル基と(B)成分中のヒドロシリル基との付加反応を促進する触媒である。このヒドロシリル化反応触媒は、一般に貴金属の化合物であり、高価格であることから、比較的入手し易い白金又は白金化合物がよく用いられる。
【0045】
白金化合物としては、例えば、塩化白金酸又は塩化白金酸とエチレン等のオレフィンとの錯体、アルコール、ビニルシロキサンとの錯体、及びシリカ、アルミナ、カーボン等に担持された金属白金を挙げることができる。白金化合物以外の白金族金属系触媒としては、ロジウム、ルテニウム、イリジウム及びパラジウム系化合物、例えば、RhCl(PPh33、RhCl(CO)(PPh32、Ru3(CO)12、IrCl(CO)(PPh32、Pd(PPh34等を例示することができる。なお、前記式中、Phはフェニル基である。
【0046】
これらの触媒の使用にあたっては、それが固体触媒であるときには固体状で使用することも可能であるが、より均一な硬化物を得るためには塩化白金酸や錯体を適切な溶剤に溶解したものを、(A)成分の直鎖状ポリフルオロ化合物に相溶させて使用することが好ましい。
【0047】
(C)成分の使用量は、触媒量でよいが、例えば(A)及び(B)成分の合計質量に対して0.1〜500ppm(白金族金属原子換算)を配合することが好ましい。
【0048】
〔(D)成分〕
(D)成分であるオルガノポリシロキサンは、含フッ素エラストマー組成物に自己接着性を発現させるためのものである。該オルガノシロキサンは、1分子中にケイ素原子に直結した水素原子と、炭素原子又は炭素原子と酸素原子を介してケイ素原子に結合したエポキシ基及び/又はトリアルコキシ基とをそれぞれ1個以上有するオルガノシロキサンであり、好ましくは更に加えてケイ素原子に結合した炭素原子又は炭素原子と酸素原子を介してケイ素原子に結合した1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基を1個以上有するオルガノポリシロキサンである。
【0049】
本発明のオルガノシロキサンのシロキサン骨格は、環状、鎖状、分岐状などのいずれでもよく、またこれらの混合形態でもよい。本発明のオルガノシロキサンとしては、下記平均組成式で表わされるものを用いることができる。
【0050】
【化25】

(式中、R4はハロゲン置換又は非置換の1価炭化水素基であり、A、Bは下記に示す。wは0≦w≦100、xは1≦x≦100、yは1≦y≦100、zは0≦z≦100の整数を示す。)
【0051】
4のハロゲン置換又は非置換の1価炭化水素基としては、炭素数1〜10、特に1〜8のものが好ましく、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基などや、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素等のハロゲン原子で置換した置換1価炭化水素基などが挙げられ、この中で特にメチル基が好ましい。
【0052】
wは0≦w≦20が好ましく、xは1≦x≦20が好ましく、yは1≦y≦20が好ましく、zは1≦z≦20が好ましく、3≦w+x+y+z≦50が好ましい。
【0053】
Aは炭素原子又は炭素原子と酸素原子を介してケイ素原子に結合したエポキシ基及び/又はトリアルコキシシリル基を示し、具体的には、下記の基を挙げることができる。
【0054】
【化26】

[式中、R5は酸素原子が介在してもよい炭素数1〜10、特に1〜5の2価炭化水素基(アルキレン基、シクロアルキレン基等)を示す。]
【0055】
−R6−Si(OR73
[式中、R6は炭素数1〜10、特に1〜4の2価炭化水素基(アルキレン基等)を示し、R7は炭素数1〜8、特に1〜4の1価炭化水素基(アルキル基等)を示す。]
【0056】
【化27】

[式中、R8は炭素数1〜8、特に1〜4の1価炭化水素基(アルキル基等)を示し、R9は水素原子又はメチル基、kは2〜10の整数を示す。]
【0057】
Bは、炭素原子又は炭素原子と酸素原子を介してケイ素原子に結合した1価のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロオキシアルキル基を示す。1価のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロオキシアルキル基の例としては、例えば、下記一般式で表されるもの等を挙げることができる。
s2s+1
(式中、sは1〜20、好ましくは2〜10の整数である。)
F−[CF(CF3)CF2O]f−Ch2h
(式中、fは1〜200、好ましくは2〜100の整数、hは1〜3の整数である。)
【0058】
これらのオルガノシロキサンは、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子(Si−H基)を3個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンにビニル基、アリル基等の脂肪族不飽和基とエポキシ基及び/又はトリアルコキシシリル基とを含有する化合物、さらに必要により脂肪族不飽和基とパーフルオロアルキル基又はパーフルオロオキシアルキル基とを含有する化合物を、常法に従って部分付加反応させることにより得ることができる。なお、上記脂肪族不飽和基の数は、Si−H基の数より少ない必要がある。
【0059】
本発明におけるこのオルガノシロキサンの製造に際しては、反応終了後に目的物質を単離してもよいが、未反応物及び付加反応触媒を除去しただけの混合物を使用することもできる。
【0060】
(D)成分として用いられるオルガノシロキサンとしては、具体的には下記の構造式で示されるものが例示される。なお、これらの化合物は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、Meはメチル基である。
【0061】
【化28】

【0062】
【化29】

(o,q,rは正の整数、pは0以上の整数。)
【0063】
【化30】

【0064】
【化31】

(o,q,rは正の整数、pは0以上の整数。)
【0065】
【化32】

【0066】
(D)成分の使用量は、(A)成分100質量部に対し、0.05〜5.0質量部、好ましくは0.1〜3.0質量部の範囲であることが望ましい。0.05質量部未満の場合には十分な接着性が得られず、5.0質量部を超えると組成物の流動性が悪くなり、得られる硬化物の物理的強度が低下し、また硬化性を阻害することが多いので好ましくない。
【0067】
[希釈溶剤]
本発明は、上述した(A)〜(D)成分からなる含フッ素エラストマー組成物に対し、希釈用溶剤を配合してなるものであり、本発明の含フッ素エラストマー組成物の希釈用溶剤は、過フッ素化アルキル置換芳香族化合物と過フッ素化有機化合物からなるものである。
本発明の溶剤において、過フッ素化アルキル置換芳香族化合物は、下記一般式(2)で示されるものである。
【0068】
【化33】

(式中、StはH又はCF3、Rf2は炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐鎖のパーフルオロアルキル基を示す。)
【0069】
本発明の過フッ素化アルキル置換芳香族化合物は、大気圧下(101.3kPa)において50〜200℃、好ましくは60〜150℃の沸点を有する。沸点が50℃未満では揮発が速くて取り扱いが困難となる場合があり、200℃を超えると揮発が遅く、含フッ素エラストマー組成物の硬化が不十分になるおそれがある。該過フッ素化アルキル置換芳香族化合物の具体的な化合物としては、ベンゾトリフルオライド、2−フルオロベンゾトリフルオライド、3−フルオロベンゾトリフルオライド、4−フルオロベンゾトリフルオライド、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、4−(トリフルオロメチル)トルエン、パーフルオロイソプロピルベンゼン等が挙げられる。これらの中では、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンが好ましい例である。なお、上記化合物は、1種単独でも2種以上併用して用いてもよい。
【0070】
本発明の溶剤において、過フッ素化有機化合物としては、炭素原子、フッ素原子のみからなる有機化合物、更には炭素原子、酸素原子及びフッ素原子のみからなる有機化合物を意味する。本発明において使用できる過フッ素化有機化合物は、パーフルオロアルカン、パーフルオロ環状エーテル、パーフルオロポリエーテルから選択される。
【0071】
本発明におけるパーフルオロアルカン、パーフルオロ環状エーテルとしては、6〜12個の炭素原子を含む直鎖、分岐鎖又は環式化合物であり、大気圧下(101.3kPa)において50〜200℃、好ましくは60〜150℃の沸点を有する。沸点が50℃未満では揮発が速くて取り扱いが困難となる場合があり、200℃を超えると揮発が遅く、含フッ素エラストマー組成物の硬化が不十分になるおそれがある。
【0072】
パーフルオロアルカンの具体的な化合物としては、パーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン、パーフルオロノナン等が挙げられる。パーフルオロ環状エーテルの具体的な化合物としては、パーフルオロ(2−n−ブチルテトラヒドロフラン)、パーフルオロ(2−n−オクチルテトラヒドロフラン)、パーフルオロ−15−クラウン−5−エーテル等が挙げられる。かかる過フッ素化有機化合物の特定例としては、フロリナートFC−72、FC−75、FC−77、FC−84(住友3M社)として市販されているものを挙げることができる。
【0073】
本発明におけるパーフルオロポリエーテルは、本質的に炭素原子、フッ素原子及び酸素原子からなり、1分子中に少なくとも2つ、好ましくは3つ以上のC−O−Cエーテル結合を有する化合物であり、具体的には−CαO−(式中、各単位のαは独立に1〜6の整数である。)の直鎖型又は分岐型パーフルオロエーテル基の繰り返し単位からなる、一般式(CαO)β(式中、βは1〜30の整数である。)で示されるパーフルオロポリエーテル基を含むことを特徴とする化合物で、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0074】
該パーフルオロポリエーテルは大気圧下(101.3kPa)において50〜200℃、60〜150℃の沸点を有することが好ましい。また、該パーフルオロポリエーテルは400〜2,000、好ましくは550〜1,500の分子量を有する。2種以上の化合物の混合物である場合、その分子量は、GPCによるポリスチレン換算重量平均分子量である。
【0075】
本発明の組成物において使用できるパーフルオロポリエーテルは、市販品として入手できるか、あるいは公知の方法によって得ることができる。使用可能なパーフルオロポリエーテルは、例えば下記一般式(3)で示されるものである。
【0076】
CF3−[OCF(CF3)CF2b(OCF2c−O−CF3 (3)
(式中、b、cはそれぞれ独立に0を超える整数である。)
【0077】
なお、b、cの好ましい範囲はb=1〜11、c=1〜30であり、更に好ましい範囲はb=2〜8、c=1〜15である。
【0078】
一般式(3)で示されるパーフルオロポリエーテルは大気圧下(101.3kPa)において50〜200℃、好ましくは60〜150℃の沸点を有するが、重合度の異なる化合物の混合物である場合、沸点が実質的に均一な混合物を含むことが好ましい。例えば、沸騰範囲が8℃以下、好ましくは5℃以下、より好ましくは2℃以下である蒸留画分からなるパーフルオロポリエーテルの混合物である。この場合、上述した該パーフルオロポリエーテルの沸点は、該沸騰範囲の2つの上下限温度の算術平均である。
【0079】
パーフルオロポリエーテルの特定例としては、ガルデン(GALDENTM)なる名称の下でソルベイソレクシス社(SOLVAY SOLEXIS)から市販されているものが挙げられる。その具体例としては、上記一般式(3)を満足し、かつ大気圧下(101.3kPa)において90℃なる沸点を有するGALDEN SV90、110℃なる沸点を有するGALDEN SV110及び135℃なる沸点を有するGALDEN SV135を挙げることができる。
なお、これらの過フッ素化有機化合物は、1種単独でも2種以上併用して用いてもよい。
【0080】
本発明の溶剤において、過フッ素化アルキル置換芳香族化合物と過フッ素化有機化合物との混合比(質量基準)は60/40〜90/10の範囲である。好ましくは、この比が70/30〜85/15の範囲である。
【0081】
特に、コーティング用途においては、該過フッ素化アルキル置換芳香族化合物と該過フッ素化有機化合物との沸点差は30℃以下が好ましい。
【0082】
本発明の希釈用溶剤は、該過フッ素化アルキル置換芳香族化合物と該過フッ素化有機化合物を所定の混合比にて各々容器に注入した後、常温下で攪拌混合することで容易に調製できる。
本発明においては、上記希釈用溶剤は、上記含フッ素エラストマー組成物に配合、希釈して用いられるが、含フッ素エラストマー組成物と希釈用溶剤の混合割合は、該含フッ素エラストマー組成物の希釈溶液から得られる硬化被膜に対して所望される膜厚に応じて適宜選択すればよく、含フッ素エラストマー組成物100質量部に対して、希釈用溶剤10〜1,000質量部、好ましくは25〜900質量部である。希釈用溶剤が10質量部未満では硬化被膜の厚みが不均一になることがあり、1,000質量部を超えると、硬化被膜の厚みが不十分で被覆効果が得られないことがある。
【0083】
[その他の成分]
なお、本発明におけるコーティング剤組成物においては、上記含フッ素エラストマーの実用性を高めるために上記の(A)成分〜(D)成分以外にも、可塑剤、粘度調節剤、可撓性付与剤、ヒドロシリル化反応触媒の制御剤、無機質充填剤、接着促進剤、シランカップリング剤等の各種配合剤を必要に応じて添加することができる。これら添加剤の配合量は、本発明に係るコーティング剤組成物の特性及び該組成物から得られる硬化物の物性を損なわない限りにおいて任意である。
【0084】
この場合、可塑剤、粘度調節剤、可撓性付与剤としては、下記一般式(5)で表されるポリフルオロモノアルケニル化合物及び/又は下記一般式(6)、(7)で表される直鎖状ポリフルオロ化合物を併用することができる。
【0085】
Rf3−(X’)a−CH=CH2 (5)
[式中、X’、aは上記と同じ、Rf3は、下記一般式(iii)である。
F−[CF(CF3)CF2O]w−Ct2t− (iii)
(式中、wは1以上の整数、tは1〜3の整数であり、かつ上記(A)成分のRf1基に関するp+q(平均)及びrの和、並びにu及びvの和のいずれの和よりも小さい。)]
【0086】
D−O−(CF2CF2CF2O)c−D (6)
(式中、Dは式:Cs2s+1−(sは1〜3)で表される基であり、cは1〜200の整数であり、かつ、前記(A)成分のRf1基に関するp+q(平均)及びrの和、並びにu及びvの和のいずれの和よりも小さい。)
【0087】
D−O−(CF2O)d(CF2CF2O)e−D (7)
(式中、Dは上記と同じであり、d及びeはそれぞれ1〜200の整数であり、かつ、dとeの和は、前記(A)成分のRf1基に関するp+q(平均)及びrの和、並びにu及びvの和のいずれかの和以下である。)
【0088】
上記一般式(5)で表されるポリフルオロモノアルケニル化合物の具体例としては、例えば下記のものが挙げられる(なお、下記mは、上記要件を満足するものである。)
【0089】
【化34】

【0090】
上記一般式(6)、(7)で表される直鎖状ポリフルオロ化合物の具体例としては、例えば、下記のものが挙げられる(なお、下記n又はnとmの和は、上記一般式(5)、(6)の要件を満足するものである。)。
CF3O−(CF2CF2CF2O)n−CF2CF3
CF3−[(OCF2CF2n(OCF2m]−O−CF3
(m+n=2〜200、m=1〜200、n=1〜200)
【0091】
上記一般式(5)〜(7)のポリフルオロ化合物の配合量は、上記(A)成分の直鎖状ポリフルオロ化合物100質量部に対して1〜50質量部、好ましくは5〜30質量部である。また、粘度(23℃)は、5〜50,000mPa・sの範囲であることが望ましい。
【0092】
また、ヒドロシリル化反応触媒の制御剤としては、例えば1−エチニル−1−ヒドロキシシクロヘキサン、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、3−メチル−1−ペンテン−3−オール、フェニルブチノール等のアセチレン性アルコールや、上記の1価含フッ素置換基を有するクロロシランとアセチレン性アルコールとの反応物、3−メチル−3−ペンテン−1−イン、3,5−ジメチル−3−ヘキセン−1−イン、トリアリルイソシアヌレート等、あるいはポリビニルシロキサン、有機リン化合物等が挙げられ、その添加により硬化反応性と保存安定性を適度に保つことができる。
【0093】
無機質充填剤として、例えば煙霧質シリカ、沈降性シリカ、コロイドシリカ、それらの疎水化処理物、石英粉末、溶融石英粉末、珪藻土、炭酸カルシウム等の補強性又は準補強性充填剤、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、アルミン酸コバルト等の無機顔料、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、酸化セリウム、水酸化セリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸マンガン等の耐熱向上剤、アルミナ、窒化硼素、炭化珪素、金属粉末等の熱伝導性付与剤、カーボンブラック、銀粉末、導電性亜鉛華等の導電性付与剤等を添加することができる。
【0094】
また、チタン酸エステル、無水カルボン酸等の接着促進剤、エポキシ基含有シラン等のシランカップリング剤を添加することができる。
【0095】
[含フッ素エラストマー組成物の調整方法]
本発明における含フッ素エラストマー組成物は、上記希釈用溶剤に上記した(A)成分〜(D)成分とその他の任意成分とを添加し、プラネタリーミキサー、ロスミキサー、ホバートミキサー等の混合装置、必要に応じてニーダー、三本ロール等の混練装置を使用して均一に混合することによって製造することができる。
【0096】
本発明の含フッ素エラストマー組成物の製造方法は特に制限されず、上記成分を練り合わせることにより製造することができる。また、2組成物とし、使用時に混合するようにしてもよい。
【0097】
含フッ素エラストマー組成物の希釈溶液(コーティング剤組成物)から硬化被膜を得る方法としては、基材に溶液を刷毛塗り、ディッピング、スプレーコート、ロールコート、又はスピンコート等により塗布し、例えば10分間〜60分間常温で放置して十分溶剤を揮散させた後、加熱硬化させる方法が推奨される。特に各種基材に対して良好な接着性を発揮させるためには、60℃以上、好ましくは100〜200℃にて数分〜数時間程度の時間で硬化させることが好ましい。
【0098】
本発明のコーティング剤組成物は、自動車関連部品、各種電気・電子部品の保護コーティング等に使用される含フッ素エラストマー組成物の希釈又は洗浄用の溶剤として有用である。例えば、自動車の制御系に使用される各種圧力センサー、ガス濃度検知器、温度センサーなどの検知器・センサーの保護用コーティング剤として好適であり、また、各種ガス、温水、薬品などに曝されるセンサー、インクジェットプリンター部品、各種回路基板の保護用シール剤、コーティング剤として好適に用いることができる。
【実施例】
【0099】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において部は質量部を示す。
【0100】
本発明の溶剤組成物を使用して含フッ素エラストマー組成物の希釈溶液を調製するに当たり、下記の溶剤組成物A〜L及び含フッ素エラストマー組成物1〜3を作製した。
【0101】
[溶剤組成物]
過フッ素化アルキル置換芳香族化合物と過フッ素化有機化合物を用い、常温において表1及び2に示す組成で混合して溶剤組成物を調製した。その溶液状態を表1及び2に示した。
【0102】
[含フッ素エラストマー組成物a]
下記式(8)で示されるポリマー(粘度10,000mPa・s、数平均分子量17,000、ビニル基量0.012モル/100g)100部をプラネタリーミキサー内に仕込み、そこへジメチルジクロロシランで表面処理された煙霧質シリカ(BET比表面積270m2/g)10部を添加し、加熱せずに1時間混練した。引き続き混練しながら装置を加熱し、内温が150℃に達してから150〜170℃に保持しながら2時間減圧下(60Torr)で熱処理した。次に、内容物を40℃以下に冷却後、三本ロールを2回通してベースコンパウンドを得た。
【0103】
このベースコンパウンド22.0部に対して下記式(8)で示されるポリマー80.0部、白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金濃度0.5質量%)0.25部、エチニルシクロヘキサノールの50%トルエン溶液0.30部、下記式(9)で示される含フッ素オルガノ水素シロキサン1.9部、下記式(10)で示される含フッ素オルガノ水素シロキサン1.1部、下記式(11)で示される接着付与剤1.0部を順次添加し、均一になるように混合した。その後、脱泡操作を行うことにより含フッ素エラストマー組成物aを調製した。
【0104】
【化35】

【0105】
【化36】

【0106】
【化37】

【0107】
【化38】

【0108】
[含フッ素エラストマー組成物b]
含フッ素エラストマー組成物aの式(9)で示される含フッ素オルガノ水素シロキサンの代わりに下記式(12)で示される含フッ素オルガノ水素シロキサン1.7部、式(11)で示される接着付与剤の代わりに下記式(13)で示される接着付与剤4.5部を用いた以外は、実施例1と同様の方法で含フッ素エラストマー組成物bを調製した。
【0109】
【化39】

【0110】
【化40】

【0111】
[含フッ素エラストマー組成物c]
含フッ素エラストマー組成物bの式(13)で示される接着付与剤の代わりに下記式(14)で示される接着付与剤2.5部を用いた以外は、実施例1と同様の方法で含フッ素エラストマー組成物cを調製した。
【0112】
【化41】

【0113】
上記含フッ素エラストマー組成物a、b、cを用い、表1に示した溶剤組成物と混合してコーティング用溶液を調製した。得られた溶液の液層分離の有無を肉眼で観察した。その結果を表1〜2に示した。また、上記の各溶液を攪拌混合後、直ちに刷毛を使用してアルミニウム基板(100mm×25mm×1mm)上に塗布した。30分風乾した後、150℃で1時間加熱した。アルミニウム基板上に形成された被膜の状態を肉眼で観察した。被膜の状態の評価は、○;均一平滑で良好であった、△;平滑でなく部分的にムラが見られた、×;全体的にムラが見られた、で表わした。これらの結果も表1〜2に示した。
【0114】
【表1】

表中の数値は質量部を示す。
フロリナートFC77:パーフルオロオクタンとパーフルオロ(2−n−ブチルテトラヒドロフラン)との混合物(住友3M社製商品名)
GALDEN SV135(ソルベイソレクシス社(SOLVAY SOLEXIS)製商品名)
【0115】
【表2】

表中の数値は質量部を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(D)成分からなる含フッ素エラストマー組成物100質量部に対して、過フッ素化アルキル置換芳香族化合物と過フッ素化有機化合物との混合比(質量基準)が60/40〜90/10の範囲の希釈用溶剤10〜1,000質量部を配合してなるコーティング剤組成物。
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する直鎖状ポリフルオロ化合物
(B)1分子中にケイ素原子に直結した水素原子を2個以上有する含フッ素オルガノ水素シロキサン
(C)白金族金属系触媒
(D)1分子中にケイ素原子に直結した水素原子と、炭素原子又は炭素原子と酸素原子を介してケイ素原子に結合したエポキシ基及び/又はトリアルコキシシリル基とをそれぞれ1個以上有するオルガノポリシロキサン。
【請求項2】
前記過フッ素化有機化合物が、パーフルオロアルカン、パーフルオロ環状エーテル、パーフルオロポリエーテルから選ばれるいずれか1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1記載のコーティング剤組成物。
【請求項3】
前記過フッ素化アルキル置換芳香族化合物が、下記一般式(2)で示されるものであることを特徴とする請求項1又は2記載のコーティング剤組成物。
【化1】

(式中、StはH又はCF3、Rf2は炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐鎖のパーフルオロアルキル基を示す。)
【請求項4】
前記(A)成分が、下記一般式(1):
CH2=CH−(X)a−Rf1−(X’)a−CH=CH2 (1)
[式中、Xは−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR−CO−(Yは−CH2−又は下記構造式(Z)
【化2】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)で表される基、Rは水素原子、置換もしくは非置換の1価炭化水素基、X’は、−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR−Y’−(Y’は、−CH2−又は下記構造式(Z’)
【化3】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)で表される基であり、Rは上記と同じ基である。aは独立に0又は1である。
また、Rf1は、下記一般式(i)又は(ii)で表される2価のパーフルオロポリエーテル基である。
−Ct2t−[OCF2CF(CF3)]p−O−CF2(CF2rCF2−O−
[CF(CF3)CF2O]q−Ct2t− (i)
(式中、p及びqは1〜150の整数であって、かつ、pとqの和の平均は2〜200である。また、rは0〜6の整数、tは2又は3である。)
−Ct2t−[OCF2CF(CF3)]u−(OCF2v−OCt2t− (ii)
(式中、uは1〜200の整数、vは1〜50の整数である。また、tは上記と同じである。)]
で表される直鎖状ポリフルオロ化合物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
【請求項5】
(B)成分の含フッ素オルガノ水素シロキサンが、1分子中に1個以上の1価のパーフルオロアルキル基、1価のパーフルオロオキシアルキル基、2価のパーフルオロアルキレン基、又は2価のパーフルオロオキシアルキレン基を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
【請求項6】
(D)成分のオルガノシロキサンが、さらに炭素原子又は炭素原子と酸素原子を介してケイ素原子に結合した1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基を1個以上有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。

【公開番号】特開2008−115277(P2008−115277A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299771(P2006−299771)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】