説明

コーティング剤

【課題】 再塗装する際に艶ムラ、部分的なミストが斑点状に残ってしまうのを抑えるコーティング剤を提供する。
【解決手段】 熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を主体とする重合体と無機充填材からなる人工大理石の表面にフッ素系樹脂化合物の被膜を形成するために塗布するフッ素系樹脂をフッ素系溶媒に希釈させたコーティング剤のうちの再塗装用のコーティング剤において、80乃至150℃の範囲の一種類もしくは二種類以上の沸点の溶媒が混合されたフッ素系溶媒に溶解性溶媒を添加してこのうち該溶解性溶媒が7乃至13%となるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂からなる人工大理石の表面に防汚機能をもたせるコーティング用フッ素系化合物を塗布するためのコーティング剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、優れた物性および高級感から、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂の合成樹脂を主体とする人工大理石製の化粧板が広く壁材や台所用天板として用いられている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
人工大理石としては、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂に水酸化アルミニウムなどの無機充填材を添加した樹脂組成物がよく使用されており、この樹脂組成物を所定の厚みに形成し、用途に合わせて所定の大きさに切断した後、化粧面にあたる部分を必要に応じて研磨加工して用いられている。
【0004】
このように製造された人工大理石は、洗面カウンター、キッチンカウンター、浴槽、洗面ボールなどに商品化されて広く利用されている。
【特許文献1】特開2001−190344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、人工大理石製品がトイレ、浴室、キッチン廻りなど水廻りと呼ばれる分野で使用される場合、使用による汚れ、あるいは洗剤による汚染、食品や油、化粧品等による汚れなどが付着し易く、清掃しても汚れがとれにくい、あるいは清掃しても汚れがとれないという状況が発生していた。これらのために、汚れが付きにくく、また汚れが取れ易い、という防汚性能の高い人工大理石の出現が切望されている。
【0006】
大理石は通常、表面に適度な光沢のある石材として用いられるもので、人工大理石製の化粧板もその表面を適度な光沢のあるように、または、柄表現のために、研磨して使用していた。人工大理石の表面を研磨すると、樹脂マトリックス中に含まれている無機充填材が表面に露出する。この無機充填材は、親水性とともに親油性をも有していることが多いため、人工大理石製の化粧板の表面に種々の液状汚染物質が付着すると、樹脂と無機充填材との界面にこの液状汚染物質が浸透して落ち難い汚れとなってしまう(即ち防汚性能が低い)という問題があった。また、この無機充填材は、漂白剤などの薬品に侵されやすいという欠点もあった。
【0007】
そこで、本出願人は特願2004−216294において、フッ素系樹脂化合物をフッ素系溶媒にて希釈して生成したコーティング剤を塗布することで、表面に汚れが付着し難く、また付着した汚れを除去し易くするフッ素系樹脂化合物からなる被膜を形成するための人工大理石の表面処理方法を提供した。
【0008】
ところで、表面にフッ素系樹脂化合物の被膜をした人工大理石と形成していない人工大理石とを繋いで表面にコーティング剤を塗布したり、表面にあらかじめ塗布していたフッ素系樹脂化合物が剥がれてこの部分にコーティング剤を塗布する(これらを「再塗装する」というものとする)場合には、一部にフッ素系樹脂化合物の被膜が形成してある表面にコーティング剤を塗布することが必要となるが、このような場合には、再塗装してフッ素系樹脂化合物の被膜を形成すると艶ムラ、部分的なミストが斑点状に残ってしまうことがある。
【0009】
ところで、表面にフッ素系樹脂化合物の被膜を形成した人工大理石と被膜を形成していない人工大理石とを繋いで表面にコーティング剤を塗布したり、表面に予め形成していたフッ素系樹脂化合物の被膜が剥がれてこの部分にコーティング剤を塗布する(これらを「再塗装する」というものとする)場合には、一部にフッ素系樹脂化合物の被膜が形成してある表面にコーティング剤を塗布することが必要となるが、このような場合には、既にフッ素系樹脂化合物の被膜を形成してある部分に新たにコーティング剤を塗布してフッ素系樹脂化合物の被膜を形成すると艶ムラ、部分的なミストが斑点状に残ってしまうという問題があった。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、コーティング剤を再塗装する際に艶ムラ、部分的なミストが斑点状に残ってしまうのを抑える人工大理石の表面処理方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために請求項1に係る発明にあっては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を主体とする重合体と無機充填材からなる人工大理石の表面にフッ素系樹脂化合物の被膜を形成するために塗布するフッ素系樹脂をフッ素系溶媒に希釈させたコーティング剤のうちの再塗装用のコーティング剤において、80乃至150℃の範囲の一種類もしくは二種類以上の沸点の溶媒が混合されたフッ素系溶媒に溶解性溶媒を添加してこのうち該溶解性溶媒が7乃至13%となるようにして成ることを特徴とするものである。
【0012】
これにより、既にフッ素系樹脂化合物の被膜を形成してある部分に新たにコーティング剤を再塗装してフッ素系樹脂化合物の被膜を形成する際に艶ムラ、部分的なミストが斑点状に残ってしまうのを防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明にあっては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を主体とする重合体と無機充填材からなる人工大理石の表面に再塗装するコーティング剤において、フッ素系樹脂を希釈するフッ素系溶媒として80乃至150℃の範囲の一種類もしくは二種類以上の沸点の溶媒が混合されたフッ素系溶媒を用い、これに溶解性溶媒を添加してこのフッ素系溶媒と溶解性溶媒のうち該溶解性溶媒が7乃至13%となるようにしたことで、再塗装する際に艶ムラ、部分的なミストが斑点状に残ってしまうのを防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明における人工大理石は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂と無機粉体とで成形される。熱硬化性樹脂としては、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂から選ばれる一種以上のものが好ましく、また、無機粉体としては、例えば珪酸カルシウム、タルク、カオリン、クレー、シリカ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどが挙げられるが特に限定されないものであり、前記の中では水酸化アルミニウムが好適であり、特に水酸化アルミニウム三水和物即ちギブサイトがより好適に用いられる。無機粉体の平均粒径は、0.1〜100μmであることが好ましく、0.5〜80μmであることがより好ましい。
【0015】
人工大理石のマトリックスにおける重合体と無機粉体との比率は、重合体100質量部に対し無機粉体50〜500質量部であることが好ましい。本発明の人工大理石のマトリックスには、必要に応じて着色剤や柄材等の添加剤を加えてもよい。着色剤としては、染料、有機顔料、無機顔料等、通常、人工大理石等の無機粉体含有樹脂成型物に用いられる着色剤であればどのようなものも用いることができる。柄材としては、例えば有機樹脂からなる粒子あるいは無機質の粒子等が挙げられるが特に限定されない。有機樹脂としては、例えばメタクリル酸メチル系樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール等が挙げられるが特にこれらに限定されないものであり、無機質粒子としては、例えば大理石粒子、シリカ、雲母等が挙げられるが特にこれらに限定されない。これらの粒子の最大寸法は、10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。
【0016】
上記のようにして人工大理石が製造されるが、本発明ではこの人工大理石の表面(少なくとも一面)に防汚性を持たせるためのフッ素系化合物を塗布、浸透させて被膜を形成するものである。フッ素系化合物を塗布した後の乾燥工程は、室温で乾燥させてもよく、加熱しても良い。前記のように表面にフッ素系樹脂化合物を塗布した人工大理石からなる化粧板に、表面にフッ素系樹脂化合物を塗布していない人工大理石からなる化粧板を繋いで表面にフッ素系樹脂化合物を塗布したり、あるいは前記のように表面に予め塗布していたフッ素系樹脂化合物が一部剥がれてしまってこの部分にフッ素系樹脂化合物を塗布したり、あるいは重ね塗りしたり(これらをまとめて「再塗装する」という)する際には、沸点が80〜150℃のフッ素系溶媒単独か、沸点の違う二種類以上のフッ素溶媒を混ぜ合わせた物に溶解性溶媒を適量に添加したものでフッ素系樹脂を希釈したコーティング剤を用いる。
【0017】
フッ素系樹脂化合物としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、テトラフルオロエチレンとヘテロ環含有フッ素系モノマーの共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、フルオロアルキル(メタ)アクリレート重合体、フルオロアルキル(メタ)アクリレートとその他アルキル(メタ)アクリレート共重合体、フッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとテトラフロロエチレン共重合体、フッ化ビニリデンとパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等が挙げられる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳しく説明する。
【0019】
まず、人工大理石の樹脂組成物として、ビニルエステル樹脂(武田薬品(株)製「プロミネートP−311」)に、水酸化アルミニウム(住友化学(株)製「CW−308B」)を、ビニルエステル樹脂100質量部に対して200質量部配合し、硬化剤(日本油脂(株)製「パーキュアWO」)を適量添加し、攪拌機で混合することによって調製した。
【0020】
この樹脂組成物を2666Pa(20Torr)の減圧下で30分間減圧脱泡処理し、これを金型内に注入して金型を90℃で70分間加熱することによって樹脂組成物を硬化させ、10mm厚の平板として成形した人工大理石を得た。
【0021】
この人工大理石板を#240〜#1000番手で平均仕上げ粗さ0.2μm〜1.5μmとなる不織布研磨材(住友3M(株)製「スコッチブライト」)で表面研磨した後、フッ素系樹脂(フロロテクノロジー(株)製「フロロサーフ」)を沸点80℃〜150℃(標準を100℃とする)に調製した一種類もしくは二種類以上の沸点の溶媒が混合されたフッ素系溶剤に4%〜8%の濃度で溶解したフッ素系樹脂化合物をスプレーによるか、あるいは刷毛のようなもので塗布し、室温にて乾燥させ、被膜を表面に形成した。
【0022】
そして、前記フッ素系溶媒に溶解性溶媒を添加してこのうち該溶解性溶媒が7乃至13%となるように調製してコーティング剤を生成した。
【0023】
性能評価は、外観評価としてムラの有無、既にフッ素系樹脂化合物の被膜が形成してある部分に新たにコーティング剤を塗布した部分の外観およびその境界部分の斑点の有無で判断した。表中の○は良、△は可、×は不可を示す。
<試験条件>
いずれの実施例、比較例においても、人工大理石の表面粗さは、0.2〜1.5μmとし、コーティング剤中のフッ素系樹脂化合物の濃度は6%とする。
【0024】
実施例1〜4及び比較例1、2においては、フッ素系溶媒は沸点が130℃と150℃の溶解性の無い若しくは低い溶媒を1対1で混合した。その他の例のフッ素系溶媒の沸点は、実施例5では150℃、実施例6では80℃、比較例3では60℃、比較例4では180℃の一種類の溶解性の無い若しくは低い溶媒を用いた。
【0025】
溶解性溶媒には、実施例4のみケトン系溶媒であるメチルエチルケトン(MEK)を用い、それ以外ではハイドロフロロメタキシレン(HFMX)を用いた。
【0026】
フッ素系溶媒と溶解性溶媒の配合比率は下記表1、表2に示す通りとする。
【0027】
実施例1〜実施例6の試験条件および評価結果について表1に、比較例1〜比較例4の条件および評価結果について表2に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
<試験結果>
実施例1〜実施例6においては、いずれもムラ外観、重なり艶、境界斑点が目立つことなく、仕上がり外観が良好な結果が得られた。
【0031】
比較例1においては、溶解性溶媒が多いため溶解力が強過ぎるため、コーティング剤のヨリが発生してしまい、境界斑点や仕上がり判定は好ましくない。また比較例2においては、溶解性溶媒が少なく溶解力が小さ過ぎるため、仕上がり判定が好ましくない。
【0032】
比較例3においては、フッ素系溶媒の沸点が80℃に達しないため、溶解するまでに乾燥してしまい斑点状に残って仕上がり判定が好ましくなく、比較例4においては、混合できず判定不可であった。
【0033】
これらの結果より、再塗装用のコーティング剤を上記構成とすることで、防汚性能を確保しつつ仕上がり外観が良くなるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を主体とする重合体と無機充填材からなる人工大理石の表面にフッ素系樹脂化合物の被膜を形成するために塗布するフッ素系樹脂をフッ素系溶媒に希釈させたコーティング剤のうちの再塗装用のコーティング剤において、80乃至150℃の範囲の一種類もしくは二種類以上の沸点の溶媒が混合されたフッ素系溶媒に溶解性溶媒を添加してこのうち該溶解性溶媒が7乃至13%となるようにして成ることを特徴とするコーティング剤。